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  • 特許-ブラシカバー及び研磨ブラシ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ブラシカバー及び研磨ブラシ
(51)【国際特許分類】
   B24D 13/14 20060101AFI20230511BHJP
   B24B 29/00 20060101ALI20230511BHJP
   A46B 17/04 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B24D13/14 A
B24B29/00 H
A46B17/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2018248157
(22)【出願日】2018-12-28
(65)【公開番号】P2020104245
(43)【公開日】2020-07-09
【審査請求日】2021-11-17
(73)【特許権者】
【識別番号】594074296
【氏名又は名称】双和化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】川上 律夫
【審査官】山内 康明
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-239928(JP,A)
【文献】特開2008-012632(JP,A)
【文献】特開2017-148606(JP,A)
【文献】特開2002-233962(JP,A)
【文献】特開2012-006117(JP,A)
【文献】特開2016-049609(JP,A)
【文献】欧州特許出願公開第02522461(EP,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B24D 13/14
B24B 29/00
A46B 17/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
研磨ブラシのブラシカバーであって、
ブラシ毛材を二本以上束ねてなる毛束の外周ではなく、
前記毛束を複数、集合的に配置してなるブラシ束の外周を覆い、かつ、
紙類材料又は不織布からなると共に、砥粒を含まず、
ワークとの接触により前記ブラシ毛材の消耗とともに消耗される、ブラシカバー。
【請求項2】
前記ブラシ束の外周の少なくとも一部に接着剤によって接着される、請求項1に記載のブラシカバー。
【請求項3】
前記ブラシ束は、先端側がワークと接触可能に構成されており、
当該ブラシカバーは、前記ブラシ束の外周の少なくとも基端側部分に接着剤によって接着される、請求項2に記載のブラシカバー。
【請求項4】
前記ブラシ束は、先端側がワークと接触可能に構成され、かつ、基端側が保持部材により保持されており、
当該ブラシカバーは、前記保持部材に接着剤によって接着される、請求項1又は2に記載のブラシカバー。
【請求項5】
前記ブラシ束では、前記複数の毛束の各々の中心が、前記研磨ブラシの回転中心を中心として、環状に配置される、請求項1に記載のブラシカバー。
【請求項6】
当該ブラシカバーは、前記複数の毛束の各外周部分のうち、前記ブラシ束の外周を構成する部分に接触する、請求項5に記載のブラシカバー。
【請求項7】
当該ブラシカバーは、前記複数の毛束の各外周部分のうち、前記ブラシ束の外周を構成する部分以外の部分には対向しない、請求項5又は6に記載のブラシカバー。
【請求項8】
前記各毛束は、先端側がワークと接触可能に構成され、かつ、基端側が保持部材により保持されており、
当該ブラシカバーは、
前記保持部材と、
前記複数の毛束の各外周部分のうち、前記ブラシ束の外周の基端側を構成する部分と、
の少なくとも一方に接着剤によって接着される、請求項5から7のいずれか一項に記載のブラシカバー。
【請求項9】
当該ブラシカバーは、筒状に形成されている、請求項1から8のいずれか一項に記載のブラシカバー。
【請求項10】
前記紙類材料は、その原料となる繊維として、樹の幹、樹の皮及びセルロースナノファイバーの少なくとも一つを含む、請求項1から9のいずれか一項に記載のブラシカバー。
【請求項11】
前記紙類材料は、無機短繊維を添加されている、請求項1から10のいずれか一項に記載のブラシカバー。
【請求項12】
当該ブラシカバーの外周面には、文字、図形、記号及び絵の少なくとも一つが印刷されている、請求項1から11のいずれか一項に記載のブラシカバー。
【請求項13】
前記ブラシ束と、
前記ブラシ束の外周を覆う請求項1から12のいずれか一項に記載のブラシカバーと、を備えた、研磨ブラシ。
【請求項14】
プログラム制御された自動機械に取り付けて使用することができる、請求項13に記載の研磨ブラシ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ブラシカバー及び研磨ブラシに関する。
【背景技術】
【0002】
工業用ブラシはその目的によって、洗浄、清掃、研削、表面研磨などあらゆる産業分野で利用されている(例えば特許文献1~8参照)。従来の回転式の工業用ブラシでは、複数本のブラシ毛材を覆うブラシホルダが用いられることがある。このブラシホルダの使用目的は、主として、第1に、回転およびワークへの押しつけによってブラシ毛材が広がることを抑制することであり、第2に、折れたブラシ毛材が回転操作によって飛散することを抑制することである。
【0003】
この種のブラシホルダとして、金属製のものが知られている(例えば特許文献3参照)。ブラシ毛材の先端側をブラシホルダから露出させて使用するが、金属製の場合、ブラシ毛材の性状によっては、ブラシ毛材の広がりを抑制する際にブラシホルダから受ける接触圧によって、ブラシ毛材の耐久性が低下するおそれがある。また、ブラシホルダ自体の重量が大きくなるため、ブラシホルダをチャッキングする機械に大きな負荷がかかるおそれがある。
【0004】
ブラシホルダの代わりに、ブラシカバーを用いることも提案されている(例えば特許文献4~6参照)。しかし、特許文献4に記載される網状のブラシカバーでは、折れたブラシ毛材がブラシカバーの網の目から飛び出すおそれがあり、ブラシホルダの主目的の一つを達成できない。また、特許文献5及び6に記載される弾性材料からなるブラシカバーでは、ブラシ毛材の消耗に伴い、ブラシカバーの交換が必要となるなど、取扱い性が悪い。また、軽量化に対する要求もある。
【0005】
ブラシカバーとして、シート部材を用いたものも知られている(例えば特許文献7及び8参照)。例えば、特許文献7では、一本の棒状体の周囲をシート部材で覆うことでブラシ毛を作成する。しかし、この作成時に、同様の処理を大量の棒状体に対して行う必要があるため、製造効率が悪い。また、シート部材に砥粒が含まれているため、その分、重量が大きくなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2001-287168
【文献】特開平6-170719
【文献】特公平5-53583号
【文献】実全昭56-002833
【文献】特開昭55-163007
【文献】特開2016-163927
【文献】特開2011-239928
【文献】特開2012-006117
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、ブラシ毛材の広がりの抑制、ブラシ毛材が折れた場合のその飛散の抑制、ブラシ毛材の耐久性の維持、良好な取扱い性及び軽量化を両立することができるブラシカバー及び研磨ブラシを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様に係るブラシカバーは、紙類材料又は不織布からなると共に、砥粒を含まず、ワークとの接触により消耗され得るブラシ毛材を複数本有するブラシ束の外周を覆い、ブラシ毛材の消耗とともに消耗されるものである。
【0009】
本発明の一態様に係る研磨ブラシは、ワークとの接触により消耗され得るブラシ毛材を複数本有するブラシ束と、ブラシ束の外周を覆う上記一態様に係るブラシカバーと、を備える。
【0010】
これらの態様によれば、ブラシカバーがブラシ束の外周を覆うため、従来の金属製のブラシホルダと同様に、ブラシ毛材の広がりを抑制することができると共に、ブラシ毛材が折れた場合にそれが飛散するのを抑制することができる。また、ブラシカバーが紙類材料又は不織布からなり、しかも、砥粒を含まないため、従来の金属製のブラシホルダと比べて、ブラシカバーの軽量化を図ることができる。さらに、ブラシカバーは、ブラシ毛材の消耗とともに消耗されるため、使用に伴ってブラシカバーの交換をする必要がないなど、取扱い性も良好である。加えて、ブラシカバーが紙類材料又は不織布からなるため、ブラシ毛材の広がりを抑制する際に、従来の金属製のブラシホルダのような接触圧をブラシ毛材に与えずに済むため、ブラシ毛材の耐久性の低下を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】実施形態に係るブラシカバーを備えた研磨ブラシを回転駆動装置にチャッキングした状態の一例を示す斜視図である。
図2図1とは異なるタイプの研磨ブラシの斜視図である。
図3図2のIII-III線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
実施形態に係るブラシカバーは、紙類材料又は不織布からなると共に、砥粒を含まず、ワークとの接触により消耗され得るブラシ毛材を複数本有するブラシ束の外周を覆い、ブラシ毛材の消耗とともに消耗されるものである。ここで、ブラシ束は、一つの束であってもよい。別の態様では、ブラシ束は、ブラシ毛材を二本以上束ねてなる毛束を複数有し(なお、図1~3では毛束が5個の場合を例示している。)、かつ、当該複数の毛束を集合的に配置してなるものであってもよい。また、ブラシ束は、先端側がワークと接触可能に構成され、かつ、基端側が保持部材により保持されるものであってもよい。
【0013】
・ブラシカバーの紙類材料について
ブラシカバーは、例えば、シート状又はフィルム状の紙類材料を筒状(円筒状又は角筒状)に形成することで構成される。紙類材料は、薄くて丈夫なものであるとよい。厚すぎると、ブラシカバーの重量が増すからである。また、丈夫さ、すなわち一定の強度が求められるのは、ブラシカバーが、ブラシ毛材の広がりを抑制し、かつ、仮にブラシ毛材が折れた場合にも、折れたブラシ毛材の飛散を防止する役割を果たすためである。このような紙類材料としては、金属や合成樹脂に比べて安価かつ加工容易な材料、例えば、洋紙、和紙又はセロハンなどを選択可能であるが、この中でも和紙がよい。和紙は、紙の繊維同士の結合が疎であるため、ブラシ毛材による研磨に悪影響を与えないからである。また、紙類材料として、薄くて丈夫な特性に加えて、粘着性を有するものを用いてもよく、そのようなものとして、例えばマスキングテープを使用することができる。ブラシカバーの厚さは、紙類材料の素材によって異なるが、例えば線材束の短径の0.2倍以上1.0倍未満であれば、ブラシ毛材の広がりの抑制と折れた場合の飛散の抑制とを図る観点で有益となる。なお、ブラシカバーの厚さを調整することによって、研磨ブラシとしてのブラシの腰の強さを調整できる。
【0014】
紙類材料の原料となる繊維としては、樹の幹、樹の皮、及びセルロースナノファイバーの少なくとも一つが含まれるとよい。ブラシカバーの強度向上を図ることができるとともに、ブラシカバーの廃棄時のリサイクル性が向上し、環境への配慮を高めることができるからである。また、ブラシカバーは、タングステンカーバイドなどの砥粒を含まない。砥粒を含まないために、ブラシカバーは軽量化される。
【0015】
ブラシ使用時に研削液などが使用される場合には、重量の増加に留意した上で紙類材料の表面に樹脂等を用いて含浸、被覆処理したものを用いるとよい。こうすることで、研削液に濡れた場合の強度向上を図ることができる。被覆処理に使用する樹脂は、強度維持可能なものであればよく、特に限定されない。一方、濡れた場合の強度よりも重量の抑制を重視する場合には、被覆処理を省略するとよい。また、ブラシカバーに伸縮する機能を付与したい場合には、紙類材料に弾性材料を添加してもよい。ただし、そのような機能が必要でない場合には、材料コスト及び工数を増加させないために、弾性材料の添加を省略するとよい。
【0016】
ブラシカバーに強度及び研磨効果を付与したい場合には、紙類材料に無機短繊維を添加するとよい。紙類材料の強度特性を維持可能な範囲で無機短繊維を添加することで、強度及び研磨効果の向上と重量増加の抑制とを同時に達成することができる。無機短繊維の添加形態としては、紙類材料の特性を損なわない方法であればよく、無機短繊維自体を混入、または無機短繊維を添加した液体を接着、溶着、めっきするなどの方法をとることができる。
【0017】
ブラシカバーには、文字、図形、記号及び絵の少なくとも一つを印刷してもよい。特に、紙類材料のブラシカバーでは、金属や、プラスチック、繊維強化プラスチックなどの材料に比べ、鮮明且つ精細な印刷が可能となる。
【0018】
・ブラシカバーの他の材料について
紙類材料に代えて、不織布を用いてもよい。ただし、この場合も、重量を考慮し、薄いものが用いられるとよい。
【0019】
・ブラシ毛材について
ブラシ毛材としては、金属材料、無機長繊維又は合成樹脂繊維などからなる線材を用いることができ、軽量化を図る観点からは、砥粒を含まない軽量材質を用いるとよい。ブラシ毛材は、例えば、樹脂を含浸した後硬化させた無機長繊維からなる線材である。その一例を挙げると、アルミナ長繊維などの無機長繊維の集合糸にバインダー樹脂を含浸した後、硬化させたものである。
【0020】
・ブラシ束について
ブラシ束は、ブラシ毛材を複数本有する。このようなブラシ束は、ブラシ毛材を二本以上束ねてなる毛束を複数有し、かつ、この複数の毛束を集合的に配置してなるものであってもよい。ブラシ束又は毛束に含まれるブラシ毛材は、1種類の線材からなるものであってもよいし、複数種類の線材からなるものであってもよい。例えば、樹脂を含浸した後で硬化させた無機長繊維からなる線材と、紙類材料又は合成樹脂からなる線材とを組み合わせたものであってもよい。毛束の数は、2以上であればよく、好ましくは4以上である。複数の毛束は、研磨ブラシの回転中心を中心として環状に配置されるとよい。例えば、毛束の数が4個である場合は毛束の中心を90度ずつずらして配置し、また、毛束の数が5個である場合は毛束の中心を72度ずつずらして配置すればよい。
【0021】
・保持部材について
保持部材は、ブラシ束の基端側を保持する。ブラシ束の先端側は、自由端側であり、使用時にワークに接触される。保持部材は、例えば、金属製の円筒状又は円柱状からなる。保持部材は、例えば接着剤を利用して、ブラシ束の基端側を保持部材に固着する。ブラシ束が複数の毛束を有するものである場合、保持部材は、例えば、各毛束の基端側を個々に又はいくつかをまとめて挿入可能な複数の保持部を有するとよい。毛束は、基端側が保持部に挿入され、保持部の内壁に接着剤で固着される。このような保持部は、保持部材の端面に形成された穴状又は溝状の部位とすることができる。この穴の形状としては、毛束の形状に対応させるように、円形、楕円形、長円形、四角形、三角形、星形など、公知な形状を選択できる。溝の形状としては、直線状、曲線状、ギザギザな形状、折れ線状、広がった部分と狭くなった部分が連続する形状など、公知の形状を選択できる。溝状の保持部に複数の毛束を挿入する場合、複数の毛束を離間させて保持することも可能であるし、連続して保持することも可能であるし、この両者を組み合わせることも可能である。また、保持部材は、軸付きのもの(いわゆるエンド型)であってもよいし、軸なしのもの(いわゆるカップ型)のいずれであってもよい。なお、本明細書において、保持部材の端面とは、円柱状の保持部材においては断面が円を示す面でブラシ束の基端側を挿入する側の面をいい、保持部材の側面とは、円柱状の保持部材の断面が円を示す面を底面とした場合の側面をいう。円筒状の保持部材においても同様に定義するものとする。
【0022】
・ブラシカバーとブラシ束との関係について
ブラシカバーは、ブラシ束の外周を覆う。ブラシ束が複数の毛束を有する場合、ブラシカバーは、各毛束の外周寄りの部分を、ブラシの全周にわたって覆う。すなわち、ブラシカバーは、この複数の毛束の各外周部分のうち、ブラシ束の外周を構成する部分を覆う。ここで、ブラシ束の外周を構成する部分は、ブラシ束全体としてみたときに、その全体構成(ブラシ)としての外周側に位置するブラシ毛材によって構成される部分であり、当該ブラシ毛材は、各毛束の外周を構成するブラシ毛材の一部となる。ブラシカバーは、各毛束の中心寄りの部分には対向しない。すなわち、ブラシカバーは、複数の毛束の各外周部分のうち、ブラシ束の外周を構成する部分以外の部分には対向しない。したがって、複数の毛束中の、ブラシ束の外周寄りの部分のブラシ毛材は、その自由端をブラシカバーによって広がることを抑制される一方、ブラシカバーに対向しないブラシ束の中心寄りの部分のブラシ毛材は、外部から力を加えられた際にその自由端がブラシカバーに抑制されずに動くことが可能となる。このような構成のため、ブラシの調整が容易に可能となる。ここで、ブラシの調整とは、ブラシの腰の強さや、ブラシ毛材の動きを抑制したり、抑制しなかったりすることによってブラシ束に特徴的な挙動をもたらすことを可能とすることを含む。
【0023】
ブラシカバーは、少なくとも一部がブラシ束の外周に接してこれを覆ってもよいし、全部がブラシ束の外周に接することなくこれを覆ってもよい。これは、ブラシ束が複数の毛束を有する場合も、そうでない場合も同じである。まず、ブラシカバーがブラシ束に接することなくブラシ束の外周を覆うようにする方法としては、例えば、保持部材の側面にブラシカバーの内面を接着する方法をとることができる。一例を挙げると、保持部材が円筒状又は円柱状からなる場合、保持部材の周面にブラシカバーの基端側内周面を接着剤によって接着する。このようにして接着されたブラシカバーは、その先端側内周面からその接着領域の直前までは、ブラシ束の外周に対して隙間を存して対向することになる。すなわち、非接触となる。接着剤としては、弱粘性のものを用いることができ、また、研磨において研削液を用いない場合には、水溶性接着剤が使用可能である。水中分散性の接着剤を用いた場合には、紙再生処理時の障害を回避することができる。
【0024】
次に、ブラシカバーがブラシ束に接してブラシ束の外周を覆うようにする方法としては、保持部材と、ブラシ束の外周の少なくとも基端側部分との少なくとも一方にブラシカバーを接着する方法をとることができる。例えば、保持部材の側面にブラシカバーの内面を接着しつつも、ブラシカバーのその他の内面(先端側内周面から接着領域の直前まで)の一部または全部をブラシ束の外周に接触させることができる。あるいは、ブラシカバーを保持部材には接着させず、ブラシカバーをブラシ束の外周の基端側部分に接着させ、ブラシカバーのその他の内面の一部または全部をブラシ束の外周に接触させることができる。
【0025】
ブラシ束及び/又は保持部材に対するブラシカバーの接着に関して、その接着領域や接着強度は、目的に応じて選択することができる。例えば、ブラシ全体の強度を重視する場合には、ブラシ束への接着領域を増やす一方、ブラシ全体の強度よりもブラシ束の腰の強さの調整を重視する場合には、ブラシ束への接着領域を減らす。接着領域を最大限に増やす方法としては、ブラシ束の外面全体にブラシカバーを接着させる方法をとることができる。接着領域を最小限に減らす方法としては、ブラシ束への接着をなくすという方法であり、この場合は、ブラシカバーの基端側部分を保持部材に接着させる。また、強度と腰の強さのバランスを調整した状態とする場合には、ブラシカバーをブラシ束に部分的に接着させる方法を選択できる。ブラシカバーをブラシ束に接着剤で接着させる場合、接着剤としては、弱粘性のものを用いるとよい。こうすることで、使用時にブラシ束(複数の毛束)が接着したり離れたりするなど、ブラシカバー内で動くことが可能となるため、ブラシの腰の強さを細かく調整することが可能となる。
【0026】
続いて、添付図面を参照して、実施形態に係るブラシカバーを備えた研磨ブラシの一例を説明する。なお、各図において、同一の符号を付したものは、同一の又は同様の構成を有する。
【0027】
図1~3に示すように、研磨ブラシ10は、ブラシ本体12及びブラシカバー14を備えている。ブラシ本体12は、ワークとの接触により消耗され得るブラシ毛材20を複数本有するブラシ束22と、ブラシ束22の基端側を保持する保持部材24と、を備えている。ブラシ束22は、ブラシ毛材20を二本以上束ねてなる毛束26を5つ有し、かつ、この5つの毛束26を集合的に配置してなる。5つの毛束26のより詳細な配置は、研磨ブラシ10の回転中心を中心として5つの毛束26の各々の中心を72度ずつずらして環状に配置したものである。保持部材24は、円柱部30を有しており、この円柱部30の一方の端面に各毛束26の基端部を挿入し保持するための穴状の保持部が5つ形成されている。保持部材24をいわゆるエンド型で構成する場合、図1に示すように、円柱部30の他方の端面の中央には軸32が設けられ、この軸32が回転駆動装置100のチャック部110に連結される。一方、保持部材24をいわゆるカップ型で構成する場合、例えば図3に示すように、円柱部30の中心にシャンク挿入用の穴34が形成される。
【0028】
ブラシカバー14は、円筒状に形成されており、ブラシ束22の外周を覆う。ブラシカバー14は、紙類材料からなり、砥粒を含んでいない。ブラシカバー14は、保持部材24から突出しているブラシ束22の部分(以下「突出部分」という。)の長さと同じ長さだけ延在している。したがって、ブラシカバー14はブラシ束22の突出部分の外周をすべて覆っており、ブラシカバー14の先端とブラシ束22の先端とは同一平面上に位置している。研磨等による使用に伴って、ブラシカバー14の先端は、ブラシ毛材20の先端と一緒に消耗(摩耗)される。また、ブラシカバー14は、円筒状の内面全体に弱粘性接着剤が塗布されており、この弱粘性接着剤を介してブラシ束22の外周に接着している。より詳細には、ブラシカバー14は、5つの毛束26の各外周部分のうち、ブラシ束22の外周を構成する部分のブラシ毛材20に接着している。ブラシカバー14は、5つの毛束26の中心寄りの部分(ブラシ束22の外周を構成する部分以外の部分)には対向せず、接触していない。
【0029】
以上説明したブラシカバー14でブラシ束22の外周を覆った研磨ブラシ10を回転式工業ブラシとして用いることで、従来の金属製や合成樹脂製のブラシホルダを用いた回転式工業用ブラシと同等の研磨、研削性能を発揮することができる。のみならず、ブラシカバー14がブラシ束22の外周を覆うため、従来の金属製のブラシホルダと同様に、ブラシ毛材20の広がりを抑制することができると共に、ブラシ毛材20が折れた場合にそれが飛散するのを抑制することができる。加えて、ブラシカバー14が紙類材料からなり、しかも、砥粒を含まないため、従来の金属製のブラシホルダと比べて、ブラシカバー14の軽量化を図ることができる。さらに、紙類材料からなるブラシカバー14は、ブラシ毛材20の消耗とともに消耗されるため、使用に伴ってブラシカバー14の交換をする必要がないなど、取り扱い性が良好となる。また、ブラシカバー14が紙類材料からなるため、ブラシ毛材20の広がりを抑制する際に、従来の金属製のブラシホルダのような接触圧をブラシ毛材20に与えずに済むため、ブラシ毛材20の耐久性の低下を抑制することができる。
【0030】
続いて、実施形態に係る研磨ブラシ10と比較例に係る研磨ブラシに対して行った研磨試験について説明する。
【0031】
[実施例1]
・ブラシ本体について
繊維径15ミクロンの無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた線材を、断面が短径0.5mm、長径1mmの楕円形状となるよう集合させた後、硬化させ、ブラシ毛材用の線材束とした。線材を線材束として集合させる際に撚りを加えることもでき、実施例1では30mmに1回撚られた線材束とした。この線材束を研磨に適した長さである100mmにカットした後、束ねてブラシ束の毛束とした。束ねる本数としては、40本以上80本以下が好適であるが、実施例1では60本とした。毛束は5つ用意した。
【0032】
毛束を保持する保持部材の材質としては、アルミニウムを用いた。また、保持部材の形状としては、直径及び高さがともに25mmの円柱で円の中心に直径10mmのシャンク挿入用の穴が開いたものを用いた。保持部材の端面に形成した穴状の保持部の形状として、短径5mm、長径9mm及び深さ15mmの長円状とし、短径を径方向とした。保持部の個数は5つで、隣接する保持部同士の離間距離は2mmとした。各保持部にブラシ束の毛束をそれぞれ挿入した後、保持部内に接着剤を注入し、その後自然乾燥させてブラシ束の毛束を保持部材に固定した。使用された接着剤は、無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた後硬化させた線材、アルミニウムともに接着可能なものを用いた。
【0033】
・ブラシカバーについて
幅50mmの弱粘性接着剤が塗布された市販のマスキングテープを用いてブラシ束の外周全周を覆うように2周巻くことで、ブラシカバーを作製した。ブラシ束中、5つの毛束の外周寄りの部分をブラシカバーと接着した。ブラシカバーの厚さは0.2mmで、毛束の延在方向の重なった部分の長さは5mmであった。
【0034】
・研磨試験について
以上のようにして作成された研磨ブラシをマシニングマシンのシャンクに取り付け、ワークに対して研磨試験を行なった。研磨試験では、研削液を使用しなかった。
【0035】
[実施例2-1]
実施例1と異なる点は、ブラシカバーに接着させる毛束の数である。具体的には、本実施例では、ブラシ束中、5つの毛束のうち、1つの毛束のみ、その外周寄りの部分をブラシカバーと接着した。
【0036】
[実施例2-2]
実施例1と異なる点は、ブラシ束に含まれるブラシ毛材の材料である。具体的には、本実施例では、繊維径15ミクロンの無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた線材を、30mmに1回撚った断面が短径0.5mm、長径1mmの楕円形状とした後、硬化させた線材48本と、市販の和紙を30mmに1回撚って作成した断面が短径0.5mm、長径1mmの楕円形状の線材12本をそれぞれ集合させ、100mmにカットした後、束ねてブラシ束の毛束とした。
【0037】
[実施例2-3]
実施例2-2と異なる点は、ブラシカバーに接着させる毛束の数である。具体的には、本実施例では、ブラシ束中、5つの毛束のうち、1つの毛束のみ、その外周寄りの部分をブラシカバーと接着した。
【0038】
[実施例2-4]
実施例2-2と異なる点は、ブラシ束に含まれるブラシ毛材の本数を逆にしたことである。具体的には、本実施例では、ブラシ束の毛束に含まれる無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた線材と市販の和紙からなる線材を集合させる際の本数について、前者を12本、後者を48本とした。
【0039】
[実施例3-1]
実施例1と異なる点は、マスキングテープを巻く回数である。具体的には、本実施例では、マスキングテープを1周巻きとした。その結果、ブラシカバーの厚さは0.1mmとなった。
【0040】
[実施例3-2]
実施例1と異なる点は、マスキングテープを巻く回数である。具体的には、本実施例では、マスキングテープを4周巻きとした。その結果、ブラシカバーの厚さは0.5mmとなった。
【0041】
[実施例4]
実施例1と異なる点は、マスキングテープに縦横0.5mmの略長方形の穴を開けたことである。
【0042】
[実施例5]
実施例5では、保持部材をいわゆるエンド型として構成した。これに伴い、実施例1とはブラシ本体及びブラシカバーが異なっている。具体的には以下のとおりである。
【0043】
・ブラシ本体について
繊維径15ミクロンの無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた線材を、断面が短径0.5mm、長径1mmの楕円形状となるよう集合させた後、硬化させ、ブラシ毛材用の線材束とした。線材を線材束として集合させる際に撚りを加え、実施例5では30mmに1回撚られた線材束とした。この線材束を研磨に適した長さである30mmにカットした後、束ねてブラシ束とした。束ねる本数は20本とした。ブラシ束は1つ用意した。
【0044】
ブラシ束を保持する保持部材の材質としては、アルミニウムを用いた。また、保持部材の形状としては、直径6mm及び高さ9mmの円柱のものを用いた。保持部材の端面に形成した穴状の保持部の形状として、直径5mm及び深さ7mmの円状とした。保持部の個数は1つとした。保持部にブラシ束を挿入した後、保持部内に接着剤を注入し、その後自然乾燥させてブラシ束を保持部材に固定した。使用された接着剤は、無機長繊維に熱硬化性樹脂を含浸させた後硬化させた線材、アルミニウムともに接着可能なものを用いた。
【0045】
・ブラシカバーについて
幅20mmの弱粘性接着剤が塗布された市販のマスキングテープを用いてブラシ束の外周全周を覆うように2周巻くことで、ブラシカバーを作製した。ブラシカバーの厚さは0.2mmであった。
【0046】
[比較例1]
実施例1と異なる点は、ブラシカバーに代えて、アルミ製ブラシホルダを保持部材の側面にねじ止めして取り付け、それによりブラシホルダ付き研磨ブラシを作成した点である。
【0047】
[比較例2]
実施例1と異なる点は、ブラシカバーをつけない研磨ブラシとした点である。
【0048】
[比較例3]
実施例5と異なる点は、ブラシカバーに代えて、アルミ製ブラシホルダを使用した点である。具体的には、比較例3では、アルミ製ブラシホルダに、ブラシ束が接着固定された保持部材をかぶせて挿入後、保持部材をねじで固定し、それによりブラシホルダ付き研磨ブラシを作成した点である。
【0049】
[比較例4]
実施例5と異なる点は、ブラシカバーをつけない研磨ブラシとした点である。
【0050】
・研磨試験の評価
実施例1、2-1~2-4、3-1~3-2、4及び5並びに比較例1~4に係る研磨ブラシについて、上述の研磨試験を行った。研磨試験の結果について、以下の表1に示す。また、表1で使用した評価基準(評価項目及び評価方法)を表2に示す。
【0051】
・評価項目
評価項目は、試験後にワーク表面に発現した目立った傷跡の有無、ブラシの腰、ブラシ束又は毛束の腰、試験時に折れたブラシ毛材の飛散を防止できたか、の4項目とした。
【0052】
・評価方法
試験後にワーク表面に発現した目立った傷跡の有無については、目視にて確認した。
ブラシ束又は毛束の腰の強さ、およびブラシの腰の強さについては、それぞれブラシ束又は毛束、およびブラシの先端を平滑な鉄板状にブラシ束の延在方向に平行な方向に5Nの力を手で加えた状態のまま金属板上で5mm移動させ、その感触を確認した。
飛散防止については、マシニングマシンに研磨ブラシを取り付け、摩耗試験時の飛散の有無を記録した。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
以上の試験結果より、実施例に係る研磨ブラシによれば、金属製のブラシホルダ付き研磨ブラシ(比較例1及び3)と同等の研磨、研削性能を発揮し、ブラシ毛材の広がりと折れたブラシ毛材の飛散を防ぐことが確認された。また、実施形態に係るブラシカバーを用いることで、従来の金属製のブラシホルダーを用いた場合に比べて、ブラシの腰および線材束の腰の調整幅が広がる効果があるものと考えられる。
【0056】
本実施形態に係るブラシカバーを有するブラシを用いることで、ブラシカバーを有しないブラシに比べて、ブラシ束の広がりが抑制される。ブラシの広がりが抑制されることは、近年、研磨・研削工程で採用されている自動機械(NC旋盤やマシニングマシンなど)のプログラム制御を容易にすることにも効果がある。すなわち、本実施形態に係るブラシカバーを備えた研磨ブラシは、プログラム制御された自動機に取り付けて使用することができ、そのプログラム制御を容易化する一助ともなる。
【0057】
以上説明した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。実施形態が備える各要素並びにその配置、材料、条件、形状及びサイズ等は、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
【符号の説明】
【0058】
10…研磨ブラシ、12…ブラシ本体、14…ブラシカバー、20…ブラシ毛材、22…ブラシ束、24…保持部材、26…毛束、30…円柱部、32…軸、34…穴、100…回転駆動装置、110…チャック部
図1
図2
図3