(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】女性対象における不妊症の治療ための組成物
(51)【国際特許分類】
A61K 31/167 20060101AFI20230511BHJP
A61K 9/08 20060101ALI20230511BHJP
A61K 9/14 20060101ALI20230511BHJP
A61K 47/02 20060101ALI20230511BHJP
A61K 47/12 20060101ALI20230511BHJP
A61K 47/18 20170101ALI20230511BHJP
A61K 47/26 20060101ALI20230511BHJP
A61K 47/34 20170101ALI20230511BHJP
A61K 47/36 20060101ALI20230511BHJP
A61K 47/38 20060101ALI20230511BHJP
A61K 47/42 20170101ALI20230511BHJP
A61P 15/08 20060101ALI20230511BHJP
A61P 23/02 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61K31/167
A61K9/08
A61K9/14
A61K47/02
A61K47/12
A61K47/18
A61K47/26
A61K47/34
A61K47/36
A61K47/38
A61K47/42
A61P15/08
A61P23/02
(21)【出願番号】P 2018540366
(86)(22)【出願日】2016-10-11
(86)【国際出願番号】 SE2016000055
(87)【国際公開番号】W WO2017069672
(87)【国際公開日】2017-04-27
【審査請求日】2019-06-25
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-25
(32)【優先日】2015-10-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】518140232
【氏名又は名称】イサイファー エービー
【氏名又は名称原語表記】ISIFER AB
【住所又は居所原語表記】Svardvagen 21, SE-182 33 Danderyd, Sweden
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【氏名又は名称】野河 信太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100159385
【氏名又は名称】甲斐 伸二
(74)【代理人】
【識別番号】100163407
【氏名又は名称】金子 裕輔
(74)【代理人】
【識別番号】100166936
【氏名又は名称】稲本 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100174883
【氏名又は名称】冨田 雅己
(72)【発明者】
【氏名】スピラ,ジャック
【合議体】
【審判長】前田 佳与子
【審判官】渕野 留香
【審判官】鳥居 敬司
(56)【参考文献】
【文献】特表2000-513737(JP,A)
【文献】特開平5-186362(JP,A)
【文献】国際公開第2005/012529(WO,A1)
【文献】特開2007-174957(JP,A)
【文献】特開2010-200663(JP,A)
【文献】特開2003-535585(JP,A)
【文献】Reproductive Biomedicine Online,2002,4(3),p.233-236
【文献】Frontiers in Physiology,2014,5,Article299(doi:10.3389/fphys.2014.00299)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K31/00-31/80
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/(STN)
JMEDPlus/JST7580/JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
- アーティカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、オキセタカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリカインおよびトリメカインからなる群から選択されるアミド型局所麻酔薬;
- ヒトアルブミン;
- 遺伝子組み換え型ヒアルロン酸ならびに遺伝子組み換え型ヒアルロン酸と水溶性のセルロースエーテルからなる群から選択される粘度制御剤;
- ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、酢酸イオン、塩素イオン、硫酸イオンからなる群から選択される1以上のイオンを任意に含む水
を含む
、女性対象の不妊症を治療するための医薬組成物。
【請求項2】
クエン酸塩、グルコースおよび/またはアミノ酸をさらに含む、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記ヒトアルブミンが遺伝子組み換え起源のものである、請求項1または2に記載の組成物。
【請求項4】
前記局所麻酔薬がその医薬的に許容な塩の形態にある、請求項1~3のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
前記の医薬的に許容な塩が塩酸塩、臭化水素酸塩、硫酸塩から選択される、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
前記局所麻酔薬がリドカインまたはリドカイン塩酸塩である、請求項1~5のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項7】
前記組成物が、0.1 mg/ml~2.5 mg/m
lの局所麻酔薬を含む、請求項1~6のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項8】
前記組成物が、0.1 mg/ml~20.0 mg/mlの遺伝子組み換え型アルブミンを含む、請求項1~7のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項9】
前記組成物が、0.02 mg/ml~5.0 mg/mlの
遺伝子組み換え型ヒアルロン酸を含む、請求項1~8のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項10】
前記組成物が、0.1 mM/L~5.0 mM/Lのクエン酸塩を含む、請求項2~9のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項11】
前記組成物が
、5 mg/mlのグルコースを含む、請求項2~10のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項12】
前記セルロースエーテルが、ヒドロキシプロピル-メチル セルロース(HPMC)である、請求項1~11のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項13】
女性対象の卵管通気のための、請求項1~12のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項14】
前記女性対象が原因不明の不妊症と診断されている、請求項1~12のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項15】
前記女性対象が子宮内膜症と診断されている、請求項1~12および14のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項16】
卵管通気による投与用である、請求項1~12、14および15のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項17】
カテーテルによる腹腔内への点滴による投与用である、請求項1~12、14および15のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項18】
シリンジによる腹腔内への注射による投与用である、請求項1~12、14および15のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項19】
腹腔内の外科的沈着による投与用である、請求項1~12、14および15のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項20】
腹壁を経る経皮吸収による投与用である、請求項1~12、14および15のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項21】
- アーティカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、オキセタカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリカインおよびトリメカインからなる群から選択されるアミド型局所麻酔薬;
- ヒトアルブミン;
- 遺伝子組み換え型ヒアルロン酸ならびに遺伝子組み換え型ヒアルロン酸と水溶性のセルロースエーテルからなる群から選択される粘度制御剤;
を含み、水での再調製のための乾燥粉末の形
態にある、
女性対象の不妊症を治療するための医薬組成物。
【請求項22】
- アーティカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、オキセタカイン、プリロカイン、ロピバカイン、トリカインおよびトリメカインからなる群から選択されるアミド型局所麻酔薬;
- ヒトアルブミン;
- 遺伝子組み換え型ヒアルロン酸ならびに遺伝子組み換え型ヒアルロン酸と水溶性のセルロースエーテルからなる群から選択される粘度制御剤;
を含む組成物であって、
前記組成物が、生分解性の多孔質ポリマー微粒子または生分解性ポリマーシェルを含む微粒子中に取り込まれ
ている、女性対象の不妊症を治療するための持続放出組成物。
【請求項23】
多孔質ポリマーまたはポリマーシェルが、ポリラクチド、ポリグリコリド、ポリ[ラクチド-コ-グリコリド]から選択される生分解性ポリマーを含む、請求項22に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、子宮内膜症に関する不妊症および原因不明の不妊症のような不妊症の治療のための医薬組成物に関する。本発明はまた、その組成物の使用による治療方法およびその製造方法にも関する。
【背景技術】
【0002】
発明の背景
不妊症について多くの生物学的原因がある。例えば、不妊症は、女性における異常なホルモンレベルもしくは機能不全性排卵よって引き起こされ得るか、または男性における機能不全性精子産生からなり得る。しかしながら、非常の多くのカップルは、原因不明の不妊症を有するとして診断される。原因不明の不妊症を有するカップルに対して、最初の治療として人工授精がしばしば試みられ、その間、そのカップルはインビトロ受精(IVF)の順番待ちリストの状態にある。卵管通気法、すなわち卵管のフラッシュイング(flushing)は、原因不明の不妊症および初期の子宮内膜症と診断された患者における不妊症を有するカップルが妊娠を達成するチャンスを増加させることが示されている(Johnson et al. (2005), Cochrane Database Syst Rev, 18(2):CD003718)。
【0003】
子宮内膜症は、組織学的に子宮内膜、すなわち、哺乳動物の子宮腔の外側の子宮の内側を覆う膜と同一の組織の存在を特徴とする婦人科疾患である。子宮内膜症は、不妊症と関連があり、原因不明の不妊症を有する多くの女性において、子宮内膜症が根本原因であり得る。
【0004】
リドカイン(リグノカインとも称される)は、化学式:
【化1】
【0005】
の良く知られた局所麻酔薬である。それは、膜安定化、抗不整脈および抗炎症の性質を有することが知られている。この出願において、「リドカイン」の用語は、塩酸塩のようなその医薬的に許容な塩を含み、好ましくは、それはその形態で投与される。リドカインは、膜安定化、抗不整脈および抗炎症の性質を有する。人工授精の前の低用量のリドカインでの卵管通気(卵管フラッシュイング)は、原因不明の不妊症を有するカップルにおける妊娠率を増加させることが示されている(Edelstam, G. et al. (2008), Human Reproduction, Vol. 23, No. 4, pp. 852-856)。
【0006】
US 2002/00421132 A1は、ヒトアルブミン、発酵ヒアルロン酸およびクエン酸塩の1以上を含む、哺乳動物の生殖体および胚組織を培養するために役立つ水性の補足剤および培地を開示している。
【0007】
ヒアルロナンとしても知られているヒアルロン酸は、N-アセチルグルコサミンとD-グルクロン酸の反復2糖単位の天然に存在するポリマーである。それは体内のあらゆる場所に広く分布されており、そこで、それは細胞増殖および細胞遊走に寄与する。それはまた、グループAの連鎖球菌細胞外カプセルの成分でもある。ヒアルロン酸は、種々の医学的適用に有用であることが見出されている。
子宮内膜症に関連した不妊症のような、不妊症の効率的な治療のための医薬組成物および/または方法に対する要求がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的
本発明の目的は、受精率を高め、そして、起源不明の不妊症または子宮内膜症と診断された患者の不妊症のような不妊症の治療のために用いることができる医薬組成物を提供することである。
【0009】
本発明のさらなる目的は、それを必要とする人物に、前述の種類の組成物を投与することによる、起源不明の不妊症を治療するための方法および子宮内膜症と診断された患者の不妊症を治療するための方法を提供することである。
【0010】
本発明のさらなる目的は、本発明の以下の概要、その好ましい態様の記載および添付の特許請求の範囲から明らかになるであろう。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の概要
本発明の種々の観点は、添付の特許請求の範囲に十分に開示されている。
本発明によれば、子宮内膜症と診断された患者の不妊症のような不妊症を治療するためのおよび起源不明の女性の不妊症を治療するための組成物が開示される。本発明の組成物は、注射または腹骨盤腔に埋め込み可能であり、特に、卵管通気法としても知られている、卵管を通って子宮頸部までの皮下注射器によって注射可能である。
【0012】
1つの観点において、本発明は、水性媒体、特に水中に、または水性媒体、特に水で再調製されるための粉末の形態中に、アーティカイン、ブピバカイン、シンコカイン、エチドカイン、レボブピバカイン、リドカイン、メピバカイン、オキセタカイン(oxetacine)、プリロカイン、ロピバカイン、トリカインおよびトリメカインからなる群から選択されるアミド型局所麻酔薬またはその医薬的に許容な塩、ヒトアルブミンおよびヒアルロン酸、ならびに任意にクエン酸塩、グルコースおよび/またはアミノ酸(類)を含むか、またはからなる医薬組成物を提供する。ヒトアルブミンもしくはヒアルロン酸またはその両方が遺伝子組み換え起源のものであることが好ましい。医薬的に許容な塩は、塩酸塩、臭化水素酸塩および硫酸塩を含むが、それらに限定されない。リドカイン、特にその塩酸塩の形態が本発明の好ましい局所麻酔薬である。本発明のもう1つの好ましい局所麻酔薬はプリロカインである。
【0013】
本発明の医薬組成物は、リドカインまたはリドカイン塩酸塩ならびにリンゲル溶液のような浸透圧制御のための、塩化ナトリウムを含む無機および/または有機塩を含む、以前に知られた組成物より効率的である。本発明の医薬組成物は、前述の種類の公知のリドカイン組成物より高い受精率を提供する。
【0014】
本発明の医薬組成物中の本発明の局所麻酔薬、例えばリドカインまたはリドカイン塩酸塩の好ましい濃度は0.1 mg/ml~2.5 mg/ml、より好ましくは0.3 mg/ml~1.5 mg/ml、最も好ましくは約1.0 mg/mlである。
【0015】
本発明の組成物の製造に対して、本発明の局所麻酔薬、特にリドカインまたはリドカイン塩酸塩は、順不同でヒトアルブミンおよびヒアルロン酸、ならびに任意にクエン酸塩、グルコースおよび/またはアミノ酸(類)と乾式または湿式混合される。
【0016】
本発明のヒトアルブミンは、好ましくは遺伝子組み換え起源のものである。本発明の医薬組成物において、遺伝子組み換え型ヒトアルブミンは、天然に存在するヒト血清アルブミン(HAS)より多くの利点を提供する。血漿/血液由来のHASの代わりに遺伝子組み換え型ヒトアルブミンを使うことにより、本医薬組成物を血液由来の成分または接触感染性の微粒子で汚染することの潜在的な危険性を取り除く。さらに、遺伝子組み換え型タンパク質は、血液のような生物学的起源から単離されたタンパク質より変化が少ない。したがって、遺伝子組み換え型ヒトアルブミンを含む医薬組成物は、標準化がより容易である。遺伝子組み換え型ヒトアルブミンの製造は、当該技術分野でよく知られている。1つの態様において、遺伝子組み換え型ヒトアルブミンは、ヒトアルブミンタンパク質を発現するように設計された遺伝子組み換え酵母菌から得られる。
【0017】
本発明の医薬組成物中のヒトアルブミンの好ましい濃度は、0.1 mg/ml~20.0 mg/ml、より好ましくは0.5 mg/ml~10.0 mg/mlである。
本発明の好ましい観点によれば、本医薬組成物は粘度制御剤を含む。本発明の粘度制御剤は、治療される病態に関して、薬理学作用を欠いているものである。さらに、本発明の粘度制御剤は、好ましくは生分解性である。
【0018】
本発明の好ましい粘度制御剤はヒアルロン酸であり、その用語は、ナトリウム、カリウム、マグネシウムまたはカルシウム塩のような、その医薬的に許容な塩を含む。ヒアルロン酸のナトリウム塩が最も好ましい。ヒアルロン酸は、高分子量のムコ多糖である。
【0019】
好ましくは、本発明のヒアルロン酸は遺伝子組み換え起源のものである。遺伝子組み換え型ヒトアルブミンと同様に、遺伝子組み換え型ヒアルロン酸の使用は、医薬組成物の標準化を可能にし、医薬組成物のより大きな安全性と安定性を提供する。
【0020】
米国2002/0042132 A1は、クエン酸塩が遺伝子組み換え型ヒトアルブミンの特性を高めることを開示している。医薬組成物および/または培地中での使用に対して当該技術分野で公知のあらゆるクエン酸塩が、本発明のために用いられ得る。有用なクエン酸塩の例は、クエン酸ナトリウム、クエン酸カルシウム、クエン酸およびそれらの組合せを含む。好ましくは、クエン酸ナトリウムが用いられる。本発明の医薬組成物中の任意のクエン酸塩の好ましい濃度は、0.1 mM/L~5.0 mM/L、より好ましくは0.1 mM/L~1.0 mM/Lである。
【0021】
本発明のさらなる観点によれば、本組成物はグルコースを含む。本組成物において、グルコースは、浸透圧を制御し、エネルギー源の構成要素となる。グルコース含量は、好ましくは約5重量%までである。もし、本組成物が、血清と等浸透圧性であることが望まれるなら、グルコースの含量は、その他の成分の浸透圧への寄与を考慮に入れて、それに対応して選択される。
【0022】
本発明の方法によれば、本組成物は、全身的によりもむしろそれを必要とする組織に局所的に投与される。
本発明の組成物の製造に対して、アミド型の局所麻酔薬、特にリドカインまたはその医薬的に許容な塩、およびその他の成分は水に溶解される。
1つの態様において、本発明の医薬組成物は、非遺伝子組み換え型動物またはヒト由来の巨大分子または動物もしくはヒト起源の巨大分子を含まない。
【0023】
もう1つの態様において、本発明の医薬組成物は、組成物の粘度を調整するためのヒアルロン酸に加えて粘度制御剤を含む。より高い粘度の医薬組成物は、より低い粘度の医薬組成物と比べて、治療される組織への医薬組成物の長期曝露を提供することの利点を有する。本技術分野で公知のいかなる医薬的に許容な粘度調節剤が用いられ得る。好ましい態様において、粘度調節剤は、セルロースエーテル、特にヒドロキシプロピル-メチルセルロース(HPMC)である。
【0024】
本医薬組成物の粘度は、好ましくは40 cp (センチポアズ)~600 cp、より好ましくは100 cp~400 cpに調整される。本発明の医薬組成物中に、ヒアルロン酸が唯一の粘度調節剤として用いられるとき、ヒアルロン酸の好ましい濃度は、0.02 mg/ml~2 mg/mlもしくは3 mg/mlもしくは5 mg/ml、より好ましくは0.1 mg/ml~1 mg/mlもしくは0.2 mg/ml~0.8 mg/mlである。ヒアルロン酸が、粘度制御剤としてのセルロースエーテル、特にHPMCと組み合わせて用いられるとき、その濃度ならびにセルロースエーテルの濃度は、前述の好ましい粘度を有する組成物を提供するために適合される。
【0025】
もう1つの観点において、本発明は、本発明に従って医薬組成物を提供し、そして、人にそのある量を、特に腹骨盤腔または腹腔内に投与することを含む、
人の不妊症を治療する方法を提供する。卵管を経る腹腔内投与が好ましい。例えば、卵管を経る投与は、Edelstam, G. et al. (2008), Human Reproduction, Vol. 23, No. 4, pp. 852-856; Wickstrom, K. et al. (2012), Human Reproduction, Vol. 27, No. 3, pp. 695-701に記載されている卵管通気法によってもよい。投与される組成物の量は、約1 ml~約40 ml、より好ましくは2 ml~25 mlである。治療される人は、例えば、原因不明の不妊症または子宮内膜症と診断されていてもよい。
【0026】
腹腔内投与は、例えば、シリンジを用いての腹腔内への本発明の組成物の注射によるか、カテーテルを用いての腹腔内への点滴によるか、腹腔内の外科的沈着によるか、腹壁を経る経皮吸収によるか、または皮下沈着によってもよい。本発明の医薬組成物を含む、当該技術分野で公知の持続または遅延放出製剤は、例えば、本組成物を含むかもしくは水成分以外の本組成物を含む微粒子の形態で、腹腔中に手術により埋め込まれるか、その中に注射され得るか、またはそれらは腹部内に皮下的に沈着され得る。経皮吸収は、例えば、本発明の組成物で覆われた経皮綿パッドによって達成され得る。本発明のパッドでの使用のための粘度は、例外的に、1000もしくは2000 cpまたはさらに高くのような、600 cpより実質的に高くなり得る。
好ましくは、本組成物は、5-10 ml~20-40 ml、特に約10または20 mlの容積で腹腔に投与される。
【発明を実施するための形態】
【0027】
本発明は、その好ましい実施例を参照することにより、今ここにより詳しく記載される。
【実施例】
【0028】
本発明の詳細な説明
材料
酢酸リンゲル中のリドカイン 0.5 mg/mlの貯蔵溶液を、次のようにして作った:NaCl (8.5 g)、KCl (0.3 g)、CaCl2・H2O (0.33 g)およびリドカイン (0.5 g)を、注射グレード水 (WFI) 800 mlに溶解させた。NaOHでpHを7.0に調整し、1000 mlまで水を加えた。
酢酸リンゲル中のリドカイン 1.0 mg/mlの貯蔵溶液を、次のようにして作った:NaCl (8.6 g)、KCl (0.3 g)、CaCl2・H2O (0.33) gおよびリドカイン (1.0 g)をWFIの800 mlに溶解させた。NaOHでpHを7.0に調整し、1000 mlまで水を加えた。WFI中に40 mg/mlのヒアルロン酸を含む、ヒアルロン酸貯蔵溶液(ゲル)を調製した。
【0029】
実施例1
ガラスバイアル中で、ヒアルロン酸貯蔵溶液 0.1 mlをリドカイン 0.5 mg/mlまたはリドカイン 1.0 mg/mlの貯蔵溶液(上記)のいずれかの3.9 mlと混合することにより、ヒアルロン酸 1 mg/mlを含む水溶液を調製した。室温で非常に強力に回転させることにより、溶液を混合した。30分間回転させた後、ヒアルロン酸貯蔵溶液(ゲル)は、リドカイン溶液に完全に溶解せず、ゲルとしてまだ存在した。
【0030】
実施例2
実施例1の手順を37℃で繰り返したが、ヒアルロン酸ゲルがバイアルのガラスに付着するのが見られ、否定的な結果を伴った。同じ実験がプラスチック バイアルを用いて行われ、同様の結果を与えた。
【0031】
実施例3
2つの貯蔵溶液の3.9 mlをガラスバイアル中にピペットで移し、約40℃に加熱した。ヒアルロン酸の1 mg/ml溶液を作るために、40 mg/ mlのヒアルロン酸の0.1 mlをその溶液に加えた。ヒアルロン酸がガラスにくっつかないように注意した。バイアルを2分間激しく回転させた。バイアルの検査で、ヒアルロン酸が完全に溶解しているのが見られた。
【0032】
実施例4
リドカイン 0.5 mg/mlまたはリドカイン 1.0 mg/mlを含む貯蔵溶液を調製し、約40℃に加熱した。バイアルのそれぞれに、表1に記載されたヒアルロン酸の量を加えた。ヒアルロン酸を加えるとき、バイアルの壁に触れないように注意した。約5分間回転させた後、全てのバイアル中のゲルは溶解した。リドカイン 16 mg/mlを含む水溶液は、軟らかいゼリーのようであり、皮下注射器により押し出すことが困難なことが分かった。8 mg/mlの濃度で、その溶液は粘性であったが、取扱いおよび同じゲージの皮下注射器により押し出すことが容易であった。溶液のオスモル濃度を、Fiske Model 210 Micro Osmometerを用いて試験した。
【0033】
【0034】
実施例5
ヒアルロン酸を、粘度制御剤としてヒドロキシプロピル-メチル セルロース(HPMC)と交換した。HPMCも粘度を制御するのに使用することができるが、大容量を必要とすることが分かった。WFI中の5% HPMC貯蔵溶液を調製した。
【0035】
【0036】
実施例6
グルコースおよびアルブミンを含む卵管通気溶液(50 ml、表3)を次のようにして製造した。
無菌の条件下、ガラスビーカーで、WFI 35 ml中にNaCl (425 mg)、CaCl2・H2O (16.5 mg)、リドカイン (25 mg)およびグルコース (1.25 g)を溶解させた。その溶液を約40℃に加熱した。アルブミン (HASの50 mg/ml溶液の1 ml)を加え、その合わせた溶液を完全に混合するまで回転させた。得られる澄んだ溶液を0.4ミクロンフィルターに通すことにより滅菌した。次いで、滅菌したヒアルロン酸貯蔵溶液(ゲル)の10 mlを、それが容器の壁に付着することを防ぎながら滅菌的に加えた。その溶液を40℃で穏やかに回転させた。ヒアルロン酸貯蔵溶液(ゲル)がリドカイン溶液中に完全に溶解したとき、滅菌1 M NaOHでpHを7.0に調整し、その溶液をWWFIで50 mlに希釈した。オスモル濃度を測定し、295 mOsm/kgであると決定した。その溶液を5バイアルにそれぞれ10 mlを含むように等分した。バイアルを冷却し、4℃~8℃で冷蔵保存した。使用前に、バイアルを室温にした。
【0037】
【0038】
実施例7
外科的に誘導したネズミの異種同形の子宮内膜症モデルにおける、アルブミン欠如の対応する先行技術組成物と本発明の組成物の比較
本研究の目的は、雌性C57BL/マウスの子宮内膜の自己移植モデルにおける、本発明の組成物およびアルブミン欠如の対応する先行技術組成物(「先行技術組成物」)の受精率を改善する効力を評価することであった。表4の本発明の組成物を本研究に用いた。
【0039】
【0040】
手順:本研究は、n=5の雌性C57BLマウスの4群を含んだ。3つの群は、片側の子宮角切除および腸間膜の動脈カスケード(cascade)に隣接した子宮内膜組織の自己移植に付され、一方、1つの群は、子宮角除去だけに付され、シャム-コントロールとした。雌性動物の発情周期は、外科的処置の前と後に同時発生し、受容ポテンシャルを目視で評価した。全ての雌の受精率を、交尾成功および続く手術後6-7週に行われる1腹子数測定により評価した。交尾直前の子宮内膜自己移植群の2つに、本発明の組成物および先行技術組成物の3日連続の1日1回の反復腹腔内注射により処置を行った。本組成物を、20 ml/体重kgの注射による用量、すなわち、10 mgのリドカイン/体重kgの用量で投与した。他の2群を、同様の条件下、バッファーコントロール溶液を用いて注射し、コントロール群とした。10週までの期間、動物を臨床的に観察した。処置死亡は確認されなかった。
【0041】
結果:本発明の組成物で処置された群の雌は、他の群のそれより高い体重増加を示した。この差は、体重増加の間に、膣栓が観察されそして/または妊娠したと疑われる動物だけを考慮すると、さらに高かった。その結果を表4に示す。
【0042】
【0043】
プラセボより両方優れているが、本発明の組成物は、先行技術組成物より実質的により高い効力を有することが明らかである。本発明の組成物は、シャム-オペ コントロールにおけるプラセボと実に少なくとも同等である。したがって、本発明の組成物は、子宮内膜症の存在下で、正常レベルまで受精率を回復させることができる。