(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】耐熱粘土原料および耐熱陶磁器
(51)【国際特許分類】
C04B 33/13 20060101AFI20230511BHJP
A47J 36/04 20060101ALI20230511BHJP
A47J 27/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C04B33/13 A
A47J36/04
A47J27/00 101Z
(21)【出願番号】P 2019020125
(22)【出願日】2019-02-06
【審査請求日】2022-01-25
(31)【優先権主張番号】P 2018032535
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597006975
【氏名又は名称】有限会社内山製陶所
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【氏名又は名称】和気 操
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【氏名又は名称】寺本 諭史
(72)【発明者】
【氏名】内山 祐吉
(72)【発明者】
【氏名】内山 貴文
【審査官】今井 淳一
(56)【参考文献】
【文献】特開昭52-098715(JP,A)
【文献】特開昭49-061210(JP,A)
【文献】特開昭63-147852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 33/13
A47J 36/04
A47J 27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粘土および低膨張材を主成分とする耐熱粘土原料であって、
前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかの組み合わせで構成され、
前記主成分である前記粘土と前記低膨張材の合計の前記耐熱粘土原料全体に対する含有割合が90質量%以上であり、
前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が
40~60質量部であり、残部が前記低膨張材であり、
前記耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体は、室温から700℃における熱膨張係数が0.1~4.0×10
-6/Kであることを特徴とする耐熱粘土原料。
【請求項2】
前記耐熱粘土原料は、酸化鉄、蝋石、長石、シャモット、ドロマイト、石灰、タルク、マグネサイト、アルミナ、バリウム化合物、およびストロンチウム化合物から選ばれる少なくとも1つの添加材を、前記主成分100質量部に対して0.1~30質量部含むことを特徴とする請求項1記載の耐熱粘土原料。
【請求項3】
耐熱粘土原料の焼成体である耐熱陶磁器であって、
前記耐熱粘土原料が、請求項1
または請求項2記載の耐熱粘土原料であることを特徴とする耐熱陶磁器。
【請求項4】
食器または調理器であることを特徴とする請求項
3記載の耐熱陶磁器。
【請求項5】
耐熱粘土原料の焼成体であり、食器または調理器である耐熱陶磁器であって、
前記耐熱粘土原料が、粘土および低膨張材を主成分とし、
前記低膨張材は、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかの組み合わせで構成され、
前記主成分である前記粘土と前記低膨張材との合計100質量部において、前記粘土が10~70質量部であり、残部が前記低膨張材であることを特徴とする耐熱陶磁器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低熱膨張係数を持つ工業素材や家庭用素材などの原料として用いられる耐熱粘土原料に関するものである。特に、直火用などの食器または調理器として使用可能な耐熱陶磁器に用いられる耐熱粘土原料に関する。
【背景技術】
【0002】
コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)またはペタライトを用いた低膨張のセラミックス焼結体は、陶磁器製品や低膨張を特徴とするセラミックとして工業に利用されている。これらは、熱膨張係数が小さく、耐熱衝撃性に優れていることが知られている。
【0003】
従来の直火用の耐熱素材は、土鍋のような耐熱陶器製食器に使用されてきた。他にも瓦やレンガなどの低膨張性能を必要としている製品にも含まれている。日本国内での直火用の耐熱素材は、主流は、ペタライトとコーディエライトであった。陶磁器などが熱衝撃により割れる理由は、加熱・冷却に伴う体積変化による破壊である。ペタライトやコーディエライトは低い熱膨張の素材であり、これを粘土と混合することにより、耐熱性能を向上させることができる。
【0004】
このように、低膨張原料であるペタライトは粘土と混合した混合粘土として利用され、この混合粘土を焼結したものは耐熱陶磁器として広く普及している。例えば、特許文献1では、粘土を20~80重量%、所定メッシュサイズのペタライトを80~20重量%の割合で混練した混錬体とし、これを炭素粒子と珪酸化合物の混練体と混練した後、所定の温度で焼成することを特徴とする耐熱材の製造方法が提案されている。
【0005】
また、特許文献2では、低膨張性セラミックス製容器本体の表面に釉薬を施釉し底面に薄膜導電層を被着形成してなる電磁誘導加熱調理器用容器であって、その容器本体の素地がペタライト70%と粘土30%とからなるものが提案されている。また、特許文献3では、タルク、長石、粘土鉱物、コーディエライト、および融剤からなる直火用磁器素地が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-57517号公報
【文献】特開2004-142968号公報
【文献】特開昭63-147852号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
耐熱陶磁器は、土鍋やご飯炊きの様に一般家庭に広く普及している。主要な構成原料は粘土と低膨張材であり、これに添加材を配合することで焼成した製品に特長を持たせている。従来の良質な日本製土鍋などの陶磁器製品では、低膨張材としてペタライトが多く利用されている。これは、コーディエライトでは十分な精度が得られず、より低膨張のペタライトが好まれるためである。
【0008】
ここで、ペタライトは、原産国がブラジルとジンバブエ共和国に限定されている。ブラジルの鉱山は廃坑となっており、現状、国内ではジンバブエ共和国のみから輸入している。また、ジンバブエ共和国は、近年のクーデターと外貨の喪失、ハイパーインフレで、経済が不安定であり、荷物の滞りが起きている。このペタライトの希少性の高さと納入リスクの高さから価格も上昇しており、陶磁器製品の生産コストを増加させる要因となっている。このため、納入の安定性の向上と生産コストの低減が可能な代替原料の開発が求められている。
【0009】
その他、陶磁器の焼成には、酸化焼成と還元焼成があり、特に還元焼成では発色のよい陶磁器が得られる。しかしながら、通常、粘土はこの焼成条件の違いにより熱膨張係数が異なり、十分な低膨張性(耐熱性)が得られない場合がある。このため、焼成条件の如何(酸化・還元)に関わらず、低い熱膨張係数を実現できる耐熱粘土原料の開発も求められている。
【0010】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、従来の高価なペタライトに大きく依存することなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える耐熱陶磁器の原料となる耐熱粘土原料、および、この耐熱粘土原料の焼成体として得られる耐熱陶磁器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の耐熱粘土原料は、粘土および低膨張材を主成分とする耐熱粘土原料であって、上記低膨張材は、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかの組み合わせで構成され、上記記主成分である上記粘土と上記低膨張材との合計100質量部において、上記粘土が10~70質量部であり、残部が上記低膨張材であることを特徴とする。
【0012】
上記耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体は、室温から700℃における熱膨張係数が0.1~4.0×10-6/Kであることを特徴とする。
【0013】
なお、本発明における「熱膨張係数」は、室温(25℃)から700℃までの温度領域において、熱機械分析装置を用いて測定した平均線膨張係数であり、試料の初期長さに対する試料長さの変化量を温度差で除した値である。
【0014】
上記耐熱粘土原料は、酸化鉄、蝋石、長石、シャモット、ドロマイト、石灰、タルク、マグネサイト、アルミナ、バリウム化合物、およびストロンチウム化合物から選ばれる少なくとも1つの添加材を、上記主成分100質量部に対して0.1~30質量部含むことを特徴とする。
【0015】
本発明の耐熱陶磁器は、耐熱粘土原料の焼成体であり、上記耐熱粘土原料が本発明の耐熱粘土原料であることを特徴とする。特に、この耐熱陶磁器は、食器または調理器であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
本発明の耐熱粘土原料は、主成分として、粘土と、少なくとも溶融石英を含む低膨張材とを、所定割合で含む原料であるので、従来の高価なペタライトやコーディエライトのみに頼ることなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える耐熱陶磁器の原料として好適となる。低膨張は、具体的には、室温から700℃における熱膨張係数が4.0×10-6/K以下の低い値となる。
【0017】
耐熱粘土原料は、酸化鉄、蝋石、長石、シャモット、ドロマイト、石灰、タルク、マグネサイト、アルミナ、バリウム化合物、およびストロンチウム化合物から選ばれる少なくとも1つの添加材を、主成分100質量部に対して0.1~30質量部含むので、製品に種々の特長を付与できる。特に、蝋石や長石を配合することで、吸水率が減ると共に、焼き締まり効果で強度が増し、それらに比例して、耐熱性が向上する。
【0018】
本発明の耐熱陶磁器は、上述の本発明の耐熱粘土原料の焼成体であるので、従来の高価なペタライトに大きく依存することなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える。このため、例えば、直火用などの食器または調理器として好適に利用できる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の耐熱粘土原料は、粘土および低膨張材を主成分とし、陶磁器などの素地原料となるものである。この耐熱粘土原料では、低膨張材として少なくとも溶融石英を配合することを特徴としている。低膨張材の組み合わせは、(1)溶融石英のみ、(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライト、のいずれかである。これらの組み合わせは、従来のペタライトの全部または一部を溶融石英を含む他の低膨張材に置換するものであり、いずれの組み合わせにおいてもペタライト配合量の低減が図れる。
【0020】
主成分である粘土と低膨張材の合計の耐熱粘土原料全体に対する含有割合は、50質量%以上であり、好ましくは60質量%以上であり、より好ましくは80質量%以上であり、さらに好ましくは90質量%以上である。また、耐熱粘土原料全体に対する各成分の含有割合としては、例えば、溶融石英が20質量%以上70質量%未満、粘土が30質量%以上80質量%未満、添加材が数質量%から40質量%程度である。
【0021】
母材となる粘土としては、カオリン鉱物群を含む粘土類(蛙目粘土、木節粘土、カオリナイト、ディッカイト、ナクライト、ハロイサイト、ニュージランドカオリン、朝鮮カオリン、河東カオリンなどのカオリン)、セリサイト、ベントナイトなどが挙げられる。
【0022】
粘土は、主成分である粘土と低膨張材との合計100質量部に占める割合が10~70質量部である。好ましくは30~70質量部であり、より好ましくは40~60質量部であり、さらに好ましくは45~55質量部である。主成分における粘土が、10質量部未満であると製品形状への成形が困難となるおそれがあり、70質量部をこえると、粘土の高い熱膨張係数により十分な耐熱性が得られなくなるおそれがある。
【0023】
溶融石英は、結晶質の石英と異なり、SiO2の純度が高く、アモルファス状態の石英である。本発明で使用できる溶融石英(石英ガラス)としては、水晶、石英を酸水素炎や電気により高温で溶融したものを急冷固化し、これを粉砕した粉末や、化学気相蒸着法、ゾル-ゲル法により得られたものなどが挙げられる。
【0024】
石英は、長石原料などに含まれており、陶磁器原料として広く使用されている。しかし、陶磁器に使用される石英は多くが結晶質のものである。粘土や釉に石英を混ぜる理由としては、焼成後の陶磁器強度の向上や光沢のために添加されることが多いが、熱膨張係数が増加する。耐熱陶磁器は、焼成温度を調整(1300℃以下)することで、陶磁器中のSiO2を完全に溶融させずに焼結させることができる。これにより、ペタライトの様な低膨張の結晶の性能を維持したままの陶磁器を生産できる。溶融石英は非晶質であり、熱膨張係数の低い原料である。自然界にある石英は、ほとんどが結晶質であり、通常、耐熱陶磁器粘土にペタライトとコーディエライトを除く長石類を混ぜることはない。本発明では、ペタライトの全部または一部を溶融石英に置換した耐熱粘土原料とし、溶融石英を完全に溶融させずに焼結させることなどにより、低膨張で高い耐熱性を備えた耐熱陶磁器を実現している。
【0025】
溶融石英は、化学合成によって製造されるため、安定した入手が可能である。この結果、本発明の耐熱粘土原料と耐熱陶磁器の安定供給が可能となる。また、低膨張材として溶融石英を主に用いることで、原料調達がペタライトに大きくは依存せず、ジンバブエ共和国からの荷物の供給の不安定さや価格の高騰に悩まされることがなくなる。
【0026】
溶融石英以外の低膨張材として、上記のとおりペタライトとコーディエライトを用いる。ペタライトは、リチウム含有のケイ酸塩鉱物である。コーディエライト(2MgO・2Al2O3・5SiO2)は、マグネシウム含有のケイ酸塩鉱物である。
【0027】
低膨張材は、主成分である粘土と低膨張材との合計100質量部に占める割合が30~90質量部である。この低膨張材は、主成分における粘土を除いた残部であるので、主成分に占める割合は、上述の粘土の範囲から決定できる。
また、低膨張材の組み合わせとして、溶融石英以外を併用するケースである(2)溶融石英とペタライト、(3)溶融石英とコーディエライト、(4)溶融石英とペタライトとコーディエライトの場合は、いずれの場合も、低膨張材の全量に対して溶融石英を半量以上とすることが好ましい。低膨張材の含有割合としては、(溶融石英:それ以外)=(4:1)~(1:1)とすることが好ましい。
【0028】
本発明では、これらの低膨張材以外に、添加材として他の低膨張な原料を含有してもよい。例えば、β-スポジュメン(Li2O・Al2O3・4SiO2)、β-ユークリプタイト(Li2O・Al2O3・2SiO2)などのリチウム系鉱物、ムライト(3Al2O3・2SiO2)、ジルコン(ZrO2・SiO2)、ホウケイ酸ガラス(Na2O-B2O3-SiO2)などが挙げられる。
【0029】
耐熱粘土原料には、一般の耐熱陶磁器原料において公知の添加材を添加してもよい。添加材としては、例えば、酸化鉄、蝋石、長石、シャモット、カオリン、ドロマイト、石灰、タルク、マグネサイト、アルミナ、バリウム化合物、ストロンチウム化合物などが挙げられる。これらは単独でも2種以上を併用してもよい。これらの中でも、酸化鉄、蝋石、長石、シャモットを添加することが好ましい。酸化鉄(酸化第二鉄)は色付けなどに使用され、蝋石は滑材として使用され、長石は光沢出しなどに使用され、シャモットは焼き締まり時のクッション材などに使用される。
【0030】
添加材は、主成分100質量部に対して、例えば合計で0.1~30質量部配合できる。好ましくは0.1~10質量部であり、より好ましくは0.1~5質量部である。
【0031】
本発明の耐熱陶磁器は、本発明の耐熱粘土原料の焼成体である。耐熱陶磁器は、大きく分けて(A)耐熱粘土原料からなる陶土を成形する、(B)必要に応じて陶土の成形体の表面に施釉する、(C)焼成炉にて焼成し、その後炉冷する、の工程により製造される。
【0032】
(A)の成形工程では、耐熱粘土原料を構成する各鉱物などを所定量混合する。この混合は公知の湿式または乾式法いずれの方法であっても使用できる。湿式法で混合した場合は混合物(泥漿)を脱水、ケーキ化して成形用の陶土とする。材料は、混練後に成形される。成形方法としては、ローラーマシーン成形、プレス成形、圧力鋳込(圧搾)成形、鋳込成形、水コテ成形などを利用でき、土鍋など所定の形状に成形される。
【0033】
(B)の施釉工程は、必要に応じて実施される。この工程では、(A)の工程で成形された成形体の表面に施釉する。釉薬は、ガラス質の釉層を形成できるものであれば使用できる。施釉の方法としては、ディッピング、スプレー掛けなどを利用でき、成形体の表面に施釉される。
【0034】
(C)の焼成工程では、上記で得られた成形体をガス窯や電気窯内に入れ、これを1150~1300℃の温度、好ましくは1150~1250℃の温度で焼成する。焼成時間は8~12時間程度である。1300℃以下で焼成することで、上述のように溶融石英を完全に溶融させずに焼結できる。ここで、焼成条件として、酸化焼成と還元焼成とがあり、いずれの条件としてもよい。酸化焼成は、窯内に多量の空気(酸素)を供給し、十分に酸素が存在する条件化で焼成する方法である。還元焼成は、例えば窯内に木や石炭、ガスなどを不完全燃焼を起こす程度に投入して焼成する方法である。
【0035】
本発明の耐熱陶磁器は、直火に掛けた場合、経済産業省認定工場のための工業標準化法に基づいたJIS S 2400で規定されている温度差350℃以上の基準を満たすものである。また、粘土と溶融石英のみの調合だけではなく、添加材(溶融鉱物)として蝋石やカオリン、ドロマイト、長石などを添加することで、より焼き締り、低膨張のまま高強度が得られる。溶融石英の使用により、従来の高価なペタライトやコーディエライトを使用しない、または、使用量を低減しつつ、低膨張かつ直火に強い耐熱陶磁器が製造できる。
【0036】
陶磁器が熱衝撃により割れる理由は、加熱・冷却に伴う体積変化による破壊である。ペタライトやコーディエライトは低い熱膨張の素材であり、従来は、これを粘土と混合することにより、耐熱陶磁器用の原料の生産を行っている。溶融石英も低い熱膨張を持つ素材であり、本発明ではこれを採用することで新たな耐熱陶磁器用の粘土材料を得ている。
【0037】
このように、溶融石英は低膨張であるため、粘土など膨張係数の高い鉱物と混ぜ合わせることにより、低膨張の耐熱粘土原料が実現できると考えた。しかし、粘土とペタライトを使用する場合と比較すれば、粘土と溶融石英のみでは焼き締まりが劣る。このため、上述のように蝋石などの溶融鉱物を使用することで、焼き締まった低膨張を実現できる。
【0038】
耐熱粘土原料の酸化焼成による焼成体および還元焼成による焼成体は、室温から700℃における熱膨張係数が0.1~4.0×10-6/Kであることが好ましい。より好ましくは0.1~3.0×10-6/Kであり、さらに好ましくは0.1~2.5×10-6/Kである。熱膨張係数が4.0×10-6/Kをこえる場合、用途によっては十分な耐熱性が得られないおそれがある。
【0039】
また、還元焼成と酸化焼成の場合における同温度条件で測定した熱膨張係数の差が、-1.0~1.0×10-6/Kであることが好ましい。より好ましくは-0.8~0.8×10-6/Kであり、さらに好ましくは-0.5~0.5×10-6/Kである。熱膨張係数の差が、±1.0×10-6/K範囲内とすることで、焼成条件に関わらず、十分な低膨張性(耐熱性)が得られる。
【0040】
本発明の耐熱陶磁器は、後述の実施例に示すように、耐熱粘土原料の組成によっては、ペタライト製の直火用耐熱食器の熱膨張係数の標準値であった熱膨張係数2.0×10-6/K以下の低膨張性(耐熱性)をも実現できる。
【実施例】
【0041】
実施例1~実施例17
表1に示す組成の耐熱粘土原料を調整し、これを用いて所定の試験片を成形し、同表に示す各雰囲気において1200℃で8時間焼成して、試験片を制作した。粘土は、蛙目粘土を用いた。この試験片の熱膨張係数を、熱機械分析装置を用い、昇温速度を7℃/分として室温(25℃)から700℃まで加熱して測定した。結果を表1に示す。なお、実施例16と実施例17については、粘土分が少ないため試験片に脆さがあった。
【0042】
比較例1、比較例2
表2に示す組成の粘土原料を調整し、これを用いて所定の試験片を成形し、同表に示す各雰囲気において1200℃で8時間焼成して、試験片を制作した。粘土は、蛙目粘土を用いた。この試験片の熱膨張係数を、実施例1と同様に測定した。結果を表2に示す。
【0043】
参考例1、参考例2
低膨張材にペタライトのみを用いた場合の例として、表3に示す組成の耐熱粘土原料を調整し、これを用いて所定の試験片を成形し、同表に示す各雰囲気において1200℃で8時間焼成して、試験片を制作した。粘土は、蛙目粘土を用いた。この試験片の熱膨張係数を、実施例1と同様に測定した。結果を表3に示す。
【0044】
【0045】
【0046】
【0047】
実施例1と実施例2に示すように、溶融石英と粘土の単味の調合では、酸化焼成1.934×10-6/Kであり、還元焼成2.516×10-6/Kであり、還元焼成の焼き締まりの結果、還元雰囲気で焼成した方が30%ほど高くなった。
一方、実施例3と実施例4に示すように、溶融石英とペタライトと粘土の混合の調合では、酸化焼成2.182×10-6/Kであり、還元焼成2.178×10-6/Kであり、ほぼ変わらない結果であった。これは、ガラス化したペタライトに溶融石英が付着したためと推察される。
【0048】
実施例11は、粘土50質量部に対し、溶融石英とペタライトを25質量部ずつ2等分に割った上、土鍋などの水漏れ防止の焼結材としてNAT酸化鉄(酸化第二鉄)を3質量部混ぜてある。
この実施例11を実施例3と比較した場合、NAT酸化鉄が混ざると、それに準じて本来、熱膨張係数は悪くなる(大きくなる)が、溶融石英の焼き締まりが緩やかであるため、その分、熱膨張係数は7.9%ほど低くなった。また、実施例12に示すように、同調合で還元焼成の場合、熱膨張係数は3.8%ほど高くなった。これは、還元焼成による鉄の焼き締りが大きいためである。
なお、実施例12は、2.261×10-6/Kという結果であり、これは土鍋や耐熱食器では十分通用する値である。また、JIS S 2400陶磁器製耐熱食器の耐熱検査350℃以上に耐えうるものである。
【0049】
実施例15は、粘土50質量部に対し、溶融石英とコーディエライトを25質量部ずつ2等分に割った上、土鍋などの水漏れ防止の焼結材としてNAT酸化鉄(酸化第二鉄)を3質量部混ぜてある。
この実施例15を実施例5と比較した場合、上記のとおり、NAT酸化鉄が混ざると、それに準じて本来、熱膨張係数は悪くなる(大きくなる)ものであり、この比較でも極端に悪化していた。これは、コーディエライトが、質が悪く、石英分との結合が特に悪化していることを表している。
【0050】
次に、本発明の耐熱陶磁器の物性測定を行った。
表4に示す組成の耐熱粘土原料を調整し、これを用いて同表に示す寸法の試験片を成形し、酸化焼成雰囲気において1200℃で8時間焼成して、試験片を制作した。この試験片について、JIS A 1509-4 陶磁器タイル試験方法を準用して、曲げ強度を測定した。また、この試験片の熱膨張係数を、熱機械分析装置を用い、昇温速度を7℃/分として室温(25℃)から700℃まで加熱して測定した。これらの結果を表4に示す。
【0051】
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明の耐熱粘土原料は、高価で供給地が偏重しているペタライトに大きく依存することなく低コストで製造可能であり、かつ、焼成条件に関わらず低膨張で高い耐熱性を備える耐熱陶磁器の原料となるので、低熱膨張係数が要求される工業素材や家庭用素材などの原料として広く利用できる。特に、直火用などの食器または調理器である耐熱陶磁器として好適に利用できる。また、従来のペタライトは、自然鉱物であるため、リチウムの含有量が不安定であった。それに比較して、溶融石英は、安定性がある。また、供給が安定しており、安定生産による消費者保護に貢献できる。