(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】肌用製品の素材
(51)【国際特許分類】
A61K 8/9789 20170101AFI20230511BHJP
A61Q 19/02 20060101ALI20230511BHJP
A61K 36/535 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61K8/9789
A61Q19/02
A61K36/535
(21)【出願番号】P 2019084272
(22)【出願日】2019-04-25
【審査請求日】2021-12-20
(73)【特許権者】
【識別番号】399071421
【氏名又は名称】株式会社実正
(74)【代理人】
【識別番号】100107939
【氏名又は名称】大島 由美子
(74)【代理人】
【識別番号】100100413
【氏名又は名称】渡部 温
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 聡
【審査官】松元 麻紀子
(56)【参考文献】
【文献】韓国公開特許第10-2015-0027327(KR,A)
【文献】特開2004-196669(JP,A)
【文献】特開2001-031558(JP,A)
【文献】特開2005-179226(JP,A)
【文献】特開2011-020990(JP,A)
【文献】特表2013-527852(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 8/9789
A61Q 19/02
A61K 36/535
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/KOSMET(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エゴマ種子超臨界CO
2
抽出物であり、美白効果を有
し、かつ、細胞毒性を有しないことを特徴とする
化粧料の素材。
【請求項2】
請求項1の化粧料の素材を含有することを特徴とする
化粧料。
【請求項3】
前記化粧料の素材の添加濃度が1μg/mLより大きいことを特徴とする請求項
2に記載の
化粧料。
【請求項4】
前記化粧料が、基礎化粧品、メーキャップ化粧品、ボディーケア商品、または、薬用化粧品であることを特徴とする請求項2または3のいずれか1項に記載の化粧料。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、肌用製品の素材に関し、特に、化粧品などの肌用製品であり、美白効果を有する肌用製品の素材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年においては、特に美容の観点から、紫外線による皮膚の蓄積的なダメージが特に意識されるようになった。紫外線の照射は、皮膚の基底層と毛母に存在するメラノサイトを刺激し、メラニンを産生する。メラニンは、ヒトの肌、毛髪、目の色を決定すると共に、生体にとって有害な紫外線を遮断する役割を持つ重要な生体色素である。一方、紫外線を長年にわたって浴びることで、メラニン色素が過剰に生産され、シミやシワ、ソバカスなど、外観的に好ましくない事象が生じる。そのため、メラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することは美容上からも健康上からも非常に重要である、と考えられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、琥珀熱水抽出物がメラニン産生を抑制し、美白効果を奏することから、琥珀熱水抽出物を有効成分として含有する美白剤が開示されている。また、より効果的な琥珀由来のメラニン産生抑制剤として、特許文献2には、琥珀抽出物をカラムクロマトグラフィーにより分画する工程を含む製造方法によりメラニン産生抑制剤が得られることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-235551号公報
【文献】特許第5858562号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記問題点に鑑み、なされたものであり、その目的は、メラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することができる肌用製品の素材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の肌用製品の素材は、美白効果を有することを特徴とする。
【0007】
本発明においては、さらに、細胞毒性を有しないことが好ましい。
【0008】
本発明においては、肌用製品の素材が、エゴマ種子超臨界CO2抽出物であることが好ましい。
【0009】
本発明の肌用製品は、エゴマ種子超臨界CO2抽出物を含有することを特徴とする。
【0010】
本発明においては、エゴマ種子超臨界CO2抽出物の添加濃度が1μg/mLより大きいことが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、メラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することができる肌用製品の素材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加したB16マウスメラノーマ細胞の顕微鏡写真であり、(a)は無刺激細胞(IBMX無添加)、(b)は対照、(c)は1μg/mLのエゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加した細胞であり、(d)は10μg/mLのエゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加した細胞であり、(e)は100μg/mLのエゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加した細胞の顕微鏡写真である。
【
図2】エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量比を示すグラフである。
【
図3】エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示すグラフである。
【
図4】抽出法の異なるエゴマ種子抽出物がB16マウスメラノーマ細胞のメラニン産生に与える影響を示すグラフであり、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)、エタノール抽出物(エキス)(液相)およびエタノール抽出物(エキス)(固相)をそれぞれ添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示すグラフである。
【
図5】エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)と青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)がB16マウスメラノーマ細胞のメラニン産生に与える影響を示すグラフであり、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)および青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)をそれぞれ添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示すグラフである。
【
図6】エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)とエゴマ油がB16マウスメラノーマ細胞のメラニン産生に与える影響を示すグラフであり、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)およびエゴマ油をそれぞれ添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示すグラフである。
【
図7】エゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(液相)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示すグラフである。
【
図8】エゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(固相)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示すグラフである。
【
図9】青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示すグラフである。
【
図10】エゴマ油のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の肌用製品の素材は、美白効果を有する。本発明において、肌用製品とは、人体の皮膚等に適用される製品であり、基礎化粧品、メーキャップ化粧品、洗顔石鹸やボディー石鹸、ボディー乳液等のボディーケア商品などの化粧品類のみならず、医薬部外品に分類される薬用化粧品なども含む。
【0014】
本発明において、肌用製品の素材としては、エゴマ種子超臨界CO2抽出物、エゴマ種子エタノール抽出物(液相、固相)、エゴマ油、青ジソ種子超臨界CO2抽出物等が挙げられるが、エゴマ種子超臨界CO2抽出物が好ましい。エゴマ種子超臨界CO2抽出物は、メラニン産生抑制効果が非常に高いという利点を有する。なお、本発明においては、本発明の効果を発揮する限りにおいて、超臨界CO2抽出物は亜臨界CO2抽出物も含むものとする。また、抽出物の形状としては、液体、固体、オイル状態などが挙げられ、液相、固相、オイルなども含むものとする。本発明においては、抽出物をエキスと表記することもあるが、同等のものである。
【0015】
本発明において、美白効果は、メラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することができるか否かで評価する。エゴマ種子超臨界CO2抽出物、エゴマ種子エタノール抽出物(液相、固相)、エゴマ油、および青ジソ種子超臨界CO2抽出物は、メラノサイトのメラニン産生を抑制することができることが本発明によって見出された。
【0016】
ただし、上記抽出物の中には細胞毒性を有するものが存在し、例えば、エゴマ種子エタノール抽出物は50μg/mL以上、青ジソ種子抽出物は100μg/mL以上の添加濃度では、細胞毒性を有し、細胞生存率を低下させる。したがって、細胞生存率の低下を避けるためには、肌用製品への使用濃度の上限値が必要であり、必然的にメラニン産生抑制効果にも限界があることになる。
【0017】
一方、エゴマ種子超臨界CO2抽出物は100μg/mLという高濃度においてさえも細胞毒性を有しておらず、細胞生存率を低下させることがないという効果も併せ持つ優れた素材であり、非常に高いメラニン産生抑制効果を実現できるものである。したがって、エゴマ種子超臨界CO2抽出物を肌用製品の素材として一般的な方法で使用する場合には、使用濃度の上限値は特に限定する必要はなく、所望のメラニン産生抑制効果を考慮しつつ、肌用製品の他の有効成分の含有量やその他の要素によって適宜決定されることが好ましい。なお、美白効果を発揮させるという観点から言えば、エゴマ種子超臨界CO2抽出物の使用濃度は、1μg/mLより大きく、好ましくは2μg/mL以上であり、更に好ましくは10μg/mL以上であり、特に好ましくは100μg/mL以上である。
【0018】
本発明において、エゴマ種子超臨界CO2抽出物は、例えば、エゴマ種子を乳鉢ですり潰して粉体状にしても良いし、あるいは粉体状のものを商業的に入手しても良いが、粉体状のエゴマ種子粉を超臨界抽出システムに充填して、抽出物を得ることができる。超臨界CO2抽出システムを用いる場合には、温度、圧力、CO2の流速を所定条件に設定する必要があり、温度は25℃~80℃の範囲内であり、好ましくは30℃~80℃の範囲内であり、更に好ましくは35℃~45℃の範囲内である。また、圧力は5~40MPaの範囲内であり、好ましくは7.5~40MPaの範囲内であり、更に好ましくは15~25MPaの範囲内である。また、CO2の流速は1~40mL/minの範囲内であることが好ましい。
【実施例】
【0019】
以下に、実施例を示して本発明を具体的に説明するが、これらにより本発明は何ら制限を受けるものではなく、本発明の技術的範囲を逸脱しない範囲内で種々の応用が可能である。
【0020】
(試料の調製)
(1)エゴマ種子超臨界CO2抽出物
エゴマ種子粉(合同会社PAL 梅田町工場製(宮城県))を、商業的に入手した。このエゴマ種子粉を、日本分光株式会社製の超臨界抽出システムに適量充填し、温度40℃、圧力20MPa、CO2流速3.0mL/minの条件で抽出することにより、エゴマ種子超臨界CO2抽出物(オイル状)を得た。
【0021】
(2)エゴマ種子エタノール抽出物
エゴマ種子粉(合同会社PAL 梅田町工場製(宮城県))を、商業的に入手した。このエゴマ種子粉を容器に入れ、これに3倍重量のエタノール(富士フィルム和光純薬株式会社製)を加えて2日間撹拌した後、濾過し、上澄みを蒸発させて残渣を回収してエゴマ種子のエタノール抽出物を得た。ただし、この残渣は、液相と固相に分離しており、両者を別々に回収して試料(液相)および試料(固相)とした。
【0022】
(3)青ジソ種子超臨界CO2抽出物
青ジソ種子(日栄株式会社製(東京都))を商業的に入手し、この青ジソ種子を乳鉢ですり潰して青ジソ種子粉を作製した。この青ジソ種子粉を、日本分光株式会社製の超臨界抽出システムに適量充填し、温度40℃、圧力20MPa、CO2流速3.0mL/minの条件で抽出することにより、青ジソ種子超臨界CO2抽出物を得た。
【0023】
(4)エゴマ油
エゴマ油は、有限会社九南サービス(宮崎県)から商業的に入手した。
【0024】
(B16マウスメラノーマ細胞の培養)
メラニン産生抑制試験に汎用されるB16マウスメラノーマ細胞(メラノサイト由来の癌化細胞)を、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより商業的に入手した。B16マウスメラノーマ細胞は、5%CO2、37℃の環境下にて、10%牛胎児血清(FBS;Biological Industries, CT)を含有するEagle’s MEM(富士フィルム和光純薬株式会社製)を培地とし、25cm2フラスコ中で培養した。
【0025】
試験例1
(B16マウスメラノーマ細胞への試料の添加)
培養されたB16マウスメラノーマ細胞は、0.25%トリプシン-1mM EDTA混液(富士フィルム和光純薬株式会社製)を用いて25cm2フラスコから剥離され、6穴培養プレートに2.4×105cells/wellの密度で播種した。
【0026】
播種した翌日、メラニン産生を促進するため、10%FBSを含有する培地に、3-イソブチル-1-メチルキサンチン(IBMX;富士フィルム和光純薬株式会社製)を100μMの濃度で加えて刺激した。この培地に、エタノールに10mg/mLの割合で試料(エゴマ種子超臨界CO2抽出物)を溶解したものを、所定量(添加濃度:1μg/mL、10μg/mL、100μg/mL)を添加した。ただし、試料の添加濃度にかかわらずエタノール濃度が一定になるように、エタノールを後添して調製した。これらの培地をB16マウスメラノーマ細胞に2mL/wellで加えた(n=3)。
【0027】
対照群の細胞には、100μMのIBMXと共に、試料添加群と同じ濃度になるようエタノールを加えて調製し、B16マウスメラノーマ細胞に2mL/wellで加えた(n=3)。
【0028】
無刺激群の細胞には、IBMXを添加していない10%FBS含有培地を2mL/well供した。
【0029】
(細胞の撮影)
上記のようにして“B16マウスメラノーマ細胞への試料の添加”の操作を行ってから、3日後に、各wellの細胞を顕微鏡下にて撮影した。ただし、撮影時には、メラニンの色を識別し易いように、位相差は外した。その顕微鏡写真を
図1に示す。
【0030】
試験例2
(メラニン定量)
上記“細胞の撮影”が終了した直後、各wellの細胞を、2mLのリン酸緩衝食塩水(Phosphate Buffered Saline;PBS(富士フィルム和光純薬株式会社製))で1回洗浄し、1MのNaOHを250μL/well加えて溶解した。溶出したメラニンをピペッティングにより均一にした後、各wellから115μLを採取して96穴プレートに移した。同時に、検量線作成用として、1MのNaOHに溶解した標準メラニン(富士フィルム和光純薬株式会社製)の希釈系列を作り、同一の上記96穴プレートに移した。この96穴プレート上の各液につき、マイクロプレートリーダーで450nmの吸光度を測定した。ただし、バックグラウンドを消去するため、630nmの吸光度を差し引くように設定した。
【0031】
(タンパク定量)
上記“メラニン定量”の操作において1MのNaOHにより溶解した各wellの液から10μLを採取し、これに精製水90μLを加え、別途用意した96穴プレートに、すなわち、メラニン定量の操作において使用した96穴プレートとは別の96穴プレートに移した。同時に、検量線作成用として、BCAタンパク質定量キット(Takara BCA Protein Assay Kit、タカラバイオ株式会社製)付属のStandard Proteinの希釈系列を作り、同じ96穴プレートに移した。この96穴プレート上の各液にTakara BCA Protein Assay Kitの反応液を加え、37℃の環境下で発色させた後、マイクロプレートリーダーで545nmの吸光度を測定した。ただし、バックグラウンドを消去するため、630nmの吸光度を差し引くように設定した。
【0032】
上記“メラニン定量”の操作において測定した各wellのメラニン濃度は、上記“タンパク定量”の操作において測定した各wellのタンパク濃度で除した上で、下記式により、対照群を100%(無刺激群を0%、但し、図示せず)としたときの割合で表した。
【0033】
メラニン量の割合(%)={(試料添加細胞の個別値-無刺激群の平均値)/(対照群の平均値-無刺激群の平均値)}×100
【0034】
(統計処理)
測定データは、t-検定により、各群の数値間につき、有意差の有無を確認した。
なお、実施例においては、後続する試験例においても、全て、同様の統計処理を行った。
【0035】
エゴマ種子超臨界CO
2抽出物を添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合(%)を、
図2に示す。
【0036】
試験例3
(細胞生存率の測定)
試験例1における“B16マウスメラノーマ細胞への試料の添加”の操作と同様にして、25cm2フラスコから剥離したB16マウスメラノーマ細胞を96穴培養プレートに8×103cells/wellの密度(上記操作における6穴培養プレートに播種したときと同等の密度)で播種し、翌日、上記操作と同様にして、100μMのIBMX及び各試料(エゴマ種子超臨界CO2抽出物;添加濃度1μg/mL、10μg/mL、100μg/mL)を添加した培地と、並びに、対照群(IBMX無添加)及び無刺激群用の培地を100μL/wellでB16マウスメラノーマ細胞に加えた(n=3)。
【0037】
3日後、各wellの細胞を200μLのPBSで1回洗浄し、3-(4,5-ジメチルチアゾール-2-イル)2,5-ジフェニルテトラゾリウムブロミド(3-(4,5-dimethylthiazol-2-yl)2,5-diphenyl tetrazolium bromide:MTT、株式会社同仁化学研究所製)の0.5%PBS溶液を10%混合した培地を100μL/well加え、5%CO2、37℃の環境下にて2時間培養した。培養終了後、各wellの細胞を200μLのPBSで1回洗浄し、形成されたホルマザンを100μL/wellのジメチルスルホキシド(DMSO、富士フィルム和光純薬株式会社製)により溶解した。
【0038】
溶媒のみの測定値を他の試料の測定値から差し引くためのブランクとして、未使用のwellにDMSOを100μL入れたものを作製した。
【0039】
この96穴プレート上の各液について、マイクロプレートリーダーで545nmの吸光度を測定した(ただし、ブランクの値を差し引いた)。バックグラウンドを消去するために、630nmの吸光度を差し引くように設計した。
【0040】
各群の細胞生存率は、下記式により求め、対照群を100%としたときの割合で示した。
【0041】
細胞生存率(%)=
(試料添加細胞の個別値/対照群の平均値)×100
【0042】
エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を
図3に示す。
【0043】
図1および
図2から、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)が美白効果を有することが分かった。
図1はB16マウスメラノーマ細胞の顕微鏡写真であり、
図1の(a)は、無刺激細胞(IBMX無添加)の顕微鏡写真であり、(b)は対照群(IBMX添加)の顕微鏡写真であり、(c)はエゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加濃度1μg/mLでマウスメラノーマ細胞に添加した顕微鏡写真であり、(d)はエゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加濃度10μg/mLでマウスメラノーマ細胞に添加した顕微鏡写真であり、(e)はエゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加濃度100μg/mLでマウスメラノーマ細胞に添加した顕微鏡写真である。なお、スケールバー(Scale bar)は100μmを示す。
【0044】
図1の(a)の無刺激細胞の顕微鏡写真では透明な細胞でほぼ占められているが、(b)のIBMXを添加しエゴマ種子超臨界CO
2抽出物を添加していない対照群では黒色の細胞が多数存在することが観察された。これに対し、
図1の(d)および(e)では、すなわち、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物が添加濃度10μg/mLおよび100μg/mLの顕微鏡写真では、黒色の細胞が減少していることが観察された。
【0045】
図2は、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物を添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図2から、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物の添加濃度が10μg/mL以上ではメラニン量が有意に減少しており、特に100μg/mL添加群では3.7%にまで減っていることが分かった。すなわち、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物はメラノサイトのメラニン産生を効率的に抑制することができ、美白効果は非常に優れていることが分かった。
【0046】
図3は、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図3から、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物を添加した場合には、すなわち、添加濃度が100μg/mLであっても、B16マウスメラノーマ細胞の細胞生存率は殆ど変化がなく、対照とほぼ同じであり、細胞生存率の低下をもたらさず、細胞毒性を有しないことが分かった。したがって、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物は高い添加濃度で使用することができ、例えば添加濃度が100μg/mLで使用した場合には、メラニン産生を96%以上抑制することができ、非常に優れた美白効果を有する極めて強力な肌用製品の素材であることが分かった。
【0047】
試験例4
試験例1および試験例2において、試料をエゴマ種子エタノール抽出物(液相)またはエゴマ種子のエタノール抽出物(固相)に変更し、所定量として添加濃度が10μg/mLを採用した以外は同様にして(ただし、顕微鏡写真は撮影せず)、メラニン定量およびタンパク定量の操作を行ない、エゴマ種子のエタノール抽出物(液相)のメラニン量の割合、およびエゴマ種子のエタノール抽出物(固相)のメラニン量の割合を求めた。
【0048】
エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(添加濃度10μg/mL)のメラニン量の割合、エゴマ種子エタノール抽出物(液相)のメラニンの割合、およびエゴマ種子エタノール抽出物(固相)のメラニン量の割合を
図4に示す。
【0049】
試験例5
試験例1および試験例2において、試料を青ジソ種子超臨界CO2抽出物に変更し、所定量として添加濃度が10μg/mLを採用した以外は同様にして(ただし、顕微鏡写真は撮影せず)、メラニン定量およびタンパク定量の操作を行ない、青ジソ種子超臨界CO2抽出物のメラニン量の割合を求めた。
【0050】
エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(添加濃度10μg/mL)のメラニン量の割合、および青ジソ種子超臨界CO
2抽出物のメラニン量の割合を
図5に示す。
【0051】
試験例6
試験例1および試験例2において、試料をエゴマ油に変更し、所定量として添加濃度が100μg/mLを採用した以外は同様にして(ただし、顕微鏡写真は撮影せず)、メラニン定量およびタンパク定量の操作を行ない、エゴマ油のメラニン量の割合を求めた。
【0052】
エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)(添加濃度100μg/mL)のメラニン量の割合、およびエゴマ油のメラニン量の割合を
図6に示す。
【0053】
試験例7
試験例3において、試料をエゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(液相)(添加濃度:10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL、100μg/mL)に変更した以外は同様にして、細胞生存率を求めた。
エゴマ種子エタノール抽出物(液相)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を
図7に示す。
【0054】
試験例8
試験例3において、試料をエゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(固相)(添加濃度;10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL、100μg/mL)に変更した以外は同様にして、細胞生存率を求めた。
エゴマ種子エタノール抽出物(固相)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を
図8に示す。
【0055】
試験例9
試験例3において、試料を青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)(添加濃度:10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL、100μg/mL)に変更した以外は同様にして、細胞生存率を求めた。
青ジソ種子超臨界CO
2抽出物のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を
図9に示す。
【0056】
試験例10
試験例3において、試料をエゴマ油(添加濃度:10μg/mL、20μg/mL、50μg/mL、100μg/mL)に変更した以外は同様にして、細胞生存率を求めた。
エゴマ油のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を
図10に示す。
【0057】
図4から、抽出法の異なるエゴマ種子抽出物を添加したB16マウスメラノーマ細胞のメラニン産生に与える影響が分かる。
図4は、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)、エゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(液相)、およびエゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(固相)を添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図4から、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物、エゴマ種子エタノール抽出物(液相)、およびエゴマ種子エタノール抽出物(固相)は、いずれも対照に対してメラニン量が有意に減少していることが分かった。なお、エゴマ種子エタノール抽出物(固相)を細胞に添加したメラニン量の割合が他に比べて小さい値を示したが、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物、エゴマ種子エタノール抽出物(液相)、およびエゴマ種子エタノール抽出物(固相)の3者間に有意差はなかった。
【0058】
図5は、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)と青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)を添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図5から、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物、および青ジソ種子超臨界CO
2抽出物は、いずれも対照に対してメラニン量が有意に減少していることが分かった。なお、青ジソ種子超臨界CO
2抽出物を細胞に添加したメラニン量比の方が他に比べて小さい値を示したが、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物および青ジソ種子超臨界CO
2抽出物の両者間に有意差はなかった。
【0059】
図6は、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)とエゴマ油を添加したB16マウスメラノーマ細胞のタンパク量当たりのメラニン量の割合を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図6から、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物、およびエゴマ油は、いずれも対照に対してメラニン量が有意に減少していることが分かった。すなわち、エゴマ油は食用としての効果が一般的に知られていることであるが、肌への美白効果も有することが本発明によって初めて見出された。
【0060】
しかしながら、
図6から明らかなように、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物とエゴマ油との間には群間の有意差(p<0.05)が存在し、超臨界CO
2抽出物はエゴマ油に対して非常に有意であり、美白効果という観点からは、超臨界CO
2抽出物はエゴマ油と比較して、非常に優れた美白作用があることが分かった。
【0061】
図7は、エゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(液相)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図7から、エゴマ種子エタノール抽出物(液相)のB16マウスメラノーマ細胞生存率は、添加濃度が50μg/mLおよび100μ/mLで、対照と比較して有意差(p<0.01)があることが分かった。すなわち、エゴマ種子エタノール抽出物(液相)は50μg/mL以上添加すると細胞生存率が低下し、細胞毒性を有することが分かった。
【0062】
図8は、エゴマ種子エタノール抽出物(エキス)(固相)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図8から、エゴマ種子エタノール抽出物(固相)のB16マウスメラノーマ細胞生存率は、添加濃度が50μg/mLでは対照と比較して有意差(p<0.05)があり、また、添加濃度が100μ/mLでは対照と比較して有意差(p<0.01)があることが分かった。すなわち、エゴマ種子エタノール抽出物(固相)は添加濃度50μg/mL以上で添加すると細胞生存率が低下し、細胞毒性を有することが分かった。
【0063】
図9は、青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図9から、青ジソ種子超臨界CO
2抽出物のB16マウスメラノーマ細胞生存率は、添加濃度が100μ/mLでは対照と比較して有意差(p<0.01)があることが分かった。すなわち、青ジソ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)は添加濃度が100μg/mL以上では細胞生存率が低下し、細胞毒性を有することが分かった。
【0064】
図10は、エゴマ油のB16マウスメラノーマ細胞への細胞生存率を示したグラフである。ここでは、対照が100%として示されている。
図10から、エゴマ油を添加した場合には、すなわち、添加濃度が100μg/mLであっても、B16マウスメラノーマ細胞の細胞生存率は殆ど変化がなく、対照とほぼ同じであり、細胞生存率の低下をもたらさないことが分かった。しかしながら、上記したように、エゴマ種子超臨界CO
2抽出物(エキス)と比較すると、美白効果の点で劣ったものであることも分かっている。
【0065】
以上の結果から、エゴマ種子超臨界CO2抽出物、エゴマ種子エタノール抽出物、エゴマ油、青ジソ種子超臨界CO2抽出物は美白効果を有していることが分かった。ただし、エゴマ種子エタノール抽出物、青ジソ種子超臨界CO2抽出物は細胞毒性を有しており、高いメラニン産生抑制効果は実現できないものであることも分かった。一方、エゴマ種子超臨界CO2抽出物は特に優れた美白効果を有しており、エゴマ油の美白効果よりも非常に優れた美白効果を有するものであることも分かった。すなわち、エゴマ種子超臨界CO2抽出物は高い添加濃度でも使用することができ、メラニン産生を96%以上抑制するということを実現することができ、非常に優れた美白効果を有する極めて強力な肌用製品の素材であることが分かった。