(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】血流評価装置。
(51)【国際特許分類】
A61B 5/026 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
A61B5/026 140
(21)【出願番号】P 2019135288
(22)【出願日】2019-07-23
【審査請求日】2022-07-14
(73)【特許権者】
【識別番号】800000068
【氏名又は名称】学校法人東京電機大学
(74)【代理人】
【識別番号】110002343
【氏名又は名称】弁理士法人 東和国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】荒船 龍彦
(72)【発明者】
【氏名】矢野 智之
【審査官】藤原 伸二
(56)【参考文献】
【文献】特表2003-505133(JP,A)
【文献】特表2018-504946(JP,A)
【文献】特開2014-073303(JP,A)
【文献】特開2017-000773(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0143655(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/00-5/03
A61B 5/1455
A61B 10/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
足首に装着され、駆血及び開放するための加圧手段と、
該加圧手段から足指側に延在する足先部を有彩色で撮像する撮像手段と、
該撮像手段が取得した画像を時系列で記録するとともに、取得した該画像を
RGB色空間に正規化する画像処理を行う解析手段と、
前記画像処理結果を用いて前記足の血流状態を推定する推定手段と、を備え、
該推定手段は、
前記加圧手段を開放した後の前記画像の特定の表色として前記
RGB色空間のRに係る色度座標値の時間的変化を表示するとともに、時間的変化量を算出し、
該時間的変化量が負となったときに、
足先部の表面の色が、白っぽい状態から、赤味を増し、平常の表面色に戻る回復状態に推移したと推定し、
前記開放から前記回復状態までの
時間を回復時間
として計測し、
前記時間的変化量が正であって、予め設定された所定時間区分での増分が減少したときの前記開放からの時間を計測し、該時間を前記回復時間から減じて、血管拡張性反応時間を算出する、ことを特徴とする血流評価装置。
【請求項2】
前記推定手段が、前記開放から前記回復状態までの間で、前記時間的変化量が予め設定された所定値以下であるとき、信号を発生させる、ことを特徴とする請求項
1に記載の血流評価装置。
【請求項3】
前記足先部が前記足の甲を含む、ことを特徴とする請求項1
または2に記載の血流評価装置。
【請求項4】
前記足先部が前記足の裏を含む、ことを特徴とする請求項1から
3のいずれか1項に記載の血流評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の抹消動脈の状態を測定する血流評価装置に係り、詳しくは抹消動脈疾患の診断に対して、より具体的に中枢血管系の疾患の予測を可能とする血流評価装置に関する。
【背景技術】
【0002】
通称PAD(Peripheral Arterial Disease)と呼ばれる抹消動脈疾患は、心臓の冠動脈疾患と同様、血管内に脂質による沈着物が形成されて動脈が狭まり、血流が制限されることによって起こる病気である。PADの多くは下肢で発症し、治療せずにPADを放置すると歩行が困難になり、さらに重度の段階まで進むと足先に壊疽が生じて下肢切断に至る場合がある。また、PAD患者は、体内の他の部位でも動脈が狭まっている場合が多い。このため、PAD患者は、「心筋梗塞」あるいは「脳梗塞」を起こすリスクが高い状態にあると考えられる。
【0003】
PADの一般的な診断方法として足関節上腕血圧比(ABI:Ankle Brachial Pressure Index)の検査がある。ABI検査は、足関節と上腕部の血圧を測定し、それぞれの血圧測定値を比較して血流に問題があるか確認する。そこで、足関節の血圧が上腕部血圧より低い場合は心臓から足までの動脈に問題ありと疑われる。特に足の血流が悪くなると足の血圧が上腕部の血圧より極端に低くなり、抹消動脈疾患が疑われ、さらに超音波や血管造影などの精密検査が行われる。しかし、この検査では、抹消血管が壊死し、切断して治療すべき部位がどの箇所なのかが分かりにくいと言う問題があった。そのため、やむを得ず切断部位を必要以上に大きく画定する場合があった。
【0004】
一方、生体の末梢循環状態を客観的に知る技術として、指、手首、腕等を圧迫して末梢部分を虚血状態にした後に、開放を行い、そのときの末梢部分表面を光学的に計測して、末梢循環の程度を客観的に測定する方法が開示されている(特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平11-089808
【文献】特表2016-087326
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、特許文献1にて開示された技術は、圧迫する部位と計測する部位とを同じとすることで、指先等の末梢部分の循環状態を評価することに特化しており、PADの診断に対して客観的な測定結果を提供するものではなかった。また、特許文献2にて開示された技術は、複数の部位、例えば、右手の指先と左手の指先、それぞれの圧迫から開放されたときの血液再充填時間を比較することで循環器系の評価を行うものであり、PADの診断に対して客観的な測定結果を提供するものではなかった。さらに、特許文献1,2にて開示された技術を装置化する場合は、構成が複雑となり、コスト的にも大きいものとなっていた。
【0007】
本発明は、前記背景におけるこれらの実情に鑑みてなされたものであり、PADの診断に対して、解剖学的な前頸骨系、後頸骨系、腓骨動脈系の支配領域についても守備範囲に含めて、より具体的に中枢血管系の疾患の予測を可能とするとともに構成が簡単で安価な構成も可能な血流評価装置を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、前記目的を達成するためのより具体的に中枢血管系の疾患の予測を可能とする血流評価装置である。本発明の一態様は、足首に装着され、駆血及び開放するための加圧手段と、該加圧手段から足指側に延在する足先部を有彩色で撮像する撮像手段と、該撮像手段が取得した画像を時系列で記録するとともに、取得した該画像を色空間に正規化する画像処理を行う解析手段と、前記画像処理結果を用いて前記足の血流状態を推定する推定手段と、を備えている。そして、該推定手段は、前記加圧手段を開放した後の前記画像の特定の表色に係る色度座標値の時間的変化を表示するとともに、時間的変化量を算出し、該時間的変化量が負となったときに回復状態に推移したと推定し、前記開放から前記回復状態までの回復時間を計測するものである。
【0009】
本構成は、末梢動脈疾患が顕在しやすい足先部を対象としている。患者の足首に駆血帯等の加圧手段を装着し、駆血・開放を行うことにより足先部の血流を変化させる。この血流の変化は、足先部の表面の色変化として表出することから、ビデオカメラ等の撮像手段にて足先部を有彩色で撮像する。撮像した動画像は、画像データをディジタル化するため色空間に正規化処理が行われる。色空間の正規化とは、例えば、色差の最大となる白と黒の距離をMAXとして、その間の色を0~1で数値化することを意味する。なお、撮像する画像の条件を安定させるために、撮像手段には発行素子、受光素子が含まれる構成としてもよい。
【0010】
数値化された色座標値を、例えば、特定の表色に係る閾値を設けて2値化し、閾値以上の座標を含む領域の面積を算出したり、撮像領域全体にわたる座標値の総計を算出したり、することによって、足先部の表面色変化の時間的変化量がディジタル化して算出される。駆血をして、その後開放したとき、足先部の表面の色は、通常白っぽい状態から、急に赤味を増し、平常の表面色に戻ることから、推定手段は、例えば赤味について時間的変化量の傾きが負になる(前述した面積の減少や、座標値総計の減少等を意味する)時点を回復状態と推定する。
【0011】
本発明によれば、加圧手段を使って足首に巻きつけることにより血流を変化させ、撮像手段で記録し、解析手段で画像処理を行い、そして駆血から解除の過程から、血流の滞る部分を可視化することができる。このように、血流が可視化されるため、切断箇所の確認、選定行為を支援することで、医師の熟練度に関わらず誤差が少なく、かつ患者の負担を軽減する手術に至る診断を可能にする。また、簡単な構成であり、精度等に応じて安価な構成、例えばスマートフォンに専用のアプリケーションを搭載することで、健常者が日々の健康管理に利用することもできる。
【0012】
前記構成において、前記時間的変化量が正であって、予め設定された所定時間区分での増分が減少したときの前記開放からの時間を計測し、該時間を前記回復時間から減じて、血管拡張性反応時間を算出することができる。
【0013】
発明者等は、ABI検査において、駆血の開放から回復に至る過程で、まず血管が急激に広がり、続いて広がりの速度は落ちるもののさらに広がり、その後通常の血管へと回復することを発見した。このように末梢動脈の血流の流量増加は、おおよそ2段階で推移すると考えられる。仮に、解放後の急激な広がりをフェーズ1、その後の広がりをフェーズ2とすると、発明者等の知見から、フェーズ2の持続時間が生体の血流動態の活性状態を示すと推定されている。すなわち、フェーズ2の持続時間が短ければ、健康状態であると判断しても良く、逆にフェーズ2の持続時間が長ければ、血流が滞る状態であって、末梢血管が壊死している可能性も想定することができる。
【0014】
前記構成によれば、血流状態の可視化を可能にして、PADの診断支援をすることができるともに抹消欠陥の健康状態の診断支援をすることができる。さらには、切断箇所の指示支援によって、従来と比べて、より患者の負担を軽減させる手術を行うことを可能とする。
【0015】
戦記構成において、前記推定手段が、前記開放から前記回復状態までの間で、前記時間的変化量が予め設定された所定値以下であるとき、信号を発生させることができる。
【0016】
前記したように、血流の流量増加は、解放後の急激な広がり(フェーズ1)、その後の広がり(フェーズ2)に伴い2段階で推移する。フェーズ1からフェーズ2への移行のタイミングは、時間的変化量が予め設定された所定値以下となったときであると推定される。前記構成によれば、この移行のタイミングを記録することができ、ディジタルな時間として血流評価を判断する上での支援を可能としている。
【0017】
前記構成において、前記足先部が前記足の甲もしくは裏またはその両方を含むようにすることができる。
【0018】
血流の変化は、足先部の表面となる足の裏もしくは表となる甲にて観察できる。足裏と甲とを比べると、血流は、足裏の方が多いが、より正確な判断する上での支援をするには、足裏と甲の両方を観察することが必要となる。しかしながら、両方同時に観察する場合には撮像装置が複数必要となること、また足裏の観察には、足を置くこと、さらには固定する台等を必要となること等から、装置のサイズが大きくなる、もしくはコストが高くなる等の課題が生ずる。しかし、足裏もしくは足の甲であっても、両方同時と比べて評価精度が落ちるとしても、血流評価支援となる観察は可能となる。そのため、前記構成によれば、足先部の表面となる足の裏もしくは表となる甲またはその両方を含む箇所を観察するものとしている。
【0019】
前記構成において、前記色空間は、RGB色空間であり、前記特定の表色はRとすることができる。
【0020】
前記構成によれば、色空間の一例としてRGB色空間を適用することができる。RGB色空間による処理は、例えば 1)R値のみの輝度値変化から最大値、最小値を得て正規化、反転処理を行う、 2)そして、R値/(G値+B値) の処理を行い、相対的な(ヒトが認識する)「赤っぽさ(赤味)」の取得値での正規化反転処理を行う、等の処理が該当する。RGB色空間は、原色をR(赤、700nm)、G(緑、546.1nm)、B(青、435.8nm)とする表色系であり、色を座標で数値化することができる。前記したように、特定の表色に係る閾値を設けて2値化し、閾値以上の座標を含む領域の面積を算出したり、撮像領域全体にわたる座標値の総計を算出したり、することによって、足先部の表面の色変化の時間的変化量がディジタル化して算出することができる。なお、RGB色空間に限らず、カラープロファイルとして記録可能な色空間(RGBA,YCbCr,CMYK,Lab color等)であれば、色空間として適用することができることは言うまでもない。
【0021】
前記構成において、前記色空間は、HSV色空間であり、前記特定の表色はSとすることができる。
【0022】
HSV色空間は、色相(Hue)、彩度(Saturation・Chroma)、明度(Value・Lightness・Brightness)の三つの成分からなる色空間であり、ここで彩度(S)は色の鮮やかさを示す。前記構成によれば、HSV色空間において、彩度(S)を用いて、画像を二値化することで、画像を評価領域と背景領域とに画定することができる。このため、評価領域以外の色や光による外乱の影響を受けることなく、RGB色空間等によって評価領域の解析を行うことができる。なお、彩度(S)を用いた背景領域の画定は、観察の初期段階に行えばよく、その後は画定された評価領域に基づいてRGB等の色空間に基づき解析を行えば良い。
【発明の効果】
【0023】
本発明は、PADの診断に対して、解剖学的な前頸骨系、後頸骨系、腓骨動脈系の支配領域についても守備範囲に含めて、より具体的に中枢血管系の疾患の予測を可能とする血流評価装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本発明の一実施形態に係る全体構成図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るブロック構成図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係る血流評価の一例(健康状態)である。
【
図4】本発明の一実施形態に係る血流評価の一例(PAM)である。
【
図5】本発明の一実施形態に係る計測の状況を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、
図1~
図3を参照して、本発明の一実施形態について説明する。
図1は、本発明の一実施形態に係る全体構成図である。
図2は、本発明の一実施形態に係るブロック構成図である。
図3は、本発明の一実施形態に係る血流評価の一例(健康状態)である。以下の説明において、異なる図面においても同じ符号を付した構成は同様のものであるとして、その説明を省略する場合がある。
【0026】
本発明に係る血流評価装置は、足首に装着され、駆血及び開放するための加圧手段と、該加圧手段から足指側に延在する足先部を有彩色で撮像する撮像手段と、該撮像手段が取得した画像を時系列で記録するとともに、取得した該画像を色空間に正規化する画像処理を行う解析手段と、前記画像処理結果を用いて前記足の血流状態を推定する推定手段と、を備え、該推定手段は、前記加圧手段を開放した後の前記画像の特定の表色に係る色度座標値の時間的変化を表示するとともに、時間的変化量を算出し、該時間的変化量が負となったときに回復状態に推移したと推定し、前記開放から前記回復状態までの回復時間を計測する構成であれば、その具体的態様はいかなるものであっても構わない。
【0027】
<装置の説明>
図1、2を参照すると、本発明の一実施形態に係る血流評価装置100は、足首10に装着され、駆血及び開放するための加圧手段110と、この加圧手段110から足指22側に延在する足先部20を有彩色で撮像する撮像手段120,125と、撮像手段120,125が取得した画像を時系列で記録するとともに、取得した画像を色空間に正規化する画像処理を行う解析手段130と、画像処理結果を用いて足の血流状態を推定する推定手段150を備えている。さらに推定手段150が推定した結果を表示する表示部160、結果に応じて音や光等の信号を発生する報知部170を備えるものでもよい。
【0028】
加圧手段110は、腕用の駆血帯と同様なゴム製袋状のカフ、マンシェットと呼ばれる圧迫帯を足首10に巻回して、図示しないポンプ等によって空気を送り込み、昇圧させて、足先部20を駆血するものである。昇圧する圧力は、足先部20の色合い・脈等、被験者の状況を見て設定する。
【0029】
撮像手段120,125は、足先部20の足指22方向の足甲24を有彩色で撮像する撮像手段120と足裏26を有彩色で撮像する撮像手段125を備えている。これらは一方だけを備える、もしくは両方を備える、いずれの構成でも良い。撮像手段120,125は、加圧手段110の昇圧から加圧手段110の解放さらには血流の回復までを連続的に撮像し、撮像した画像データを解析手段130へ送出する。
【0030】
撮像手段120,125には、有彩色で撮像できる機器・デバイスであるビデオカメラやCCDイメージセンサ等の撮像素子を適用することができる。撮像手段120,125が検出する光線は、色空間の分析を行うための可視光となる。しかし、赤外光など、撮像する状況に応じて選択してもよい。例えば、赤外光、特に近赤外光を適用すれば、外部からの光源が少ない場面であっても、照準を定めるための画像を取得することができる。なお、撮像する画像の条件を安定させるために、撮像手段には撮像のための受光素子122,127とともに対象を照射するライト等の発光素子121,126が含まれる構成としてもよい。
【0031】
解析手段130および推定手段150は、それぞれマイクロコンピュータで構成されており、演算を行うプロセッサCPU、制御プログラムおよび各種データのリスト、テーブル、マップ等の演算・記録に必要なものを格納するROM、およびCPUによる演算結果などを一時記憶するRAMを有する。解析手段130および推定手段150は、不揮発性のメモリを備えており、必要なデータなどをこの不揮発性メモリに保存する。不揮発性メモリは、書き換え可能なROMであるEEPROM、または電源がオフにされていても保持電流が供給されて記憶を保持するバックアップ機能付きのRAMで構成することができる。以下では、解析手段130および推定手段150を個別の手段として説明するが、一つのマイクロコンピュータとして両方の機能を備える構成としても良い。
【0032】
解析手段130は、撮像手段120,125(受光素子122,127)が取得した画像を時系列で記録するとともに、取得した画像を色空間に正規化する画像処理を行う。正規化する画像処理とは、撮像した画像データをディジタル化するため、例えば、色差の最大となる白と黒の距離をMAXとして、その間の色を0~1で数値化するものである。正規化することで、画像データを一定のルールに基づいて変形・比較・演算等、利用しやすくすることができる。
【0033】
解析手段130は、例えば、受光素子122,127から送出されたデータを所定の領域に画定する色空間変換部132と、画定された画像を元に評価する画像を生成する評価画像生成部138を備える構成してもよい。
【0034】
色空間変換部132は、例えば、HSV色空間の彩度(S)を用いて、画像を二値化することで、画像を血流評価する足先部20の評価領域と足先部20を置いている周囲の状況が映り込んだ背景領域とに画定する背景領域画定部134を含む構成とすることができる。このような画定をすることで、評価領域以外の色や光による外乱の影響を受けることなく、その後の足先部20表面における色空間による解析を行うことができる。なお、彩度(S)を用いた背景領域の画定は、観察の初期段階に行えばよく、その後は画定された評価領域に基づいてRGB等の色空間に基づき解析を行えば良い。また、評価に対して外乱や光の散乱等の影響が少ない場合については、背景領域画定部134を備えない構成としてもよい。
【0035】
色空間変換部132は、例えば、背景領域画定部134によって背景が除かれた画像をRGB色空間に正規化する評価領域画定部136が含まれる構成とすることができる。RGB色空間による処理は、血流の「赤味」が表出されることからR値に注目し、R値のみの時系列な輝度値の変化を取得し、その最大値、および最小値より、その間の色を0~1もしくは8bitの階調で表現する場合には0~255で数値化する(正規化)。輝度最大の赤色は、0~1とした場合、(1,0,0)と表され、0~255とした場合、(255,0,0)と表すことができる。なお、前記したように、RGB色空間に限らず、カラープロファイルとして記録可能な色空間(RGBA,YCbCr,CMYK,Lab color等)であれば、色空間として適用することができることは言うまでもない。さらにそれぞれの色空間を組み合わせ、演算することで、評価部位をより顕在化させることもできる。
【0036】
また、RGB色空間による処理において、血流の状態を顕出させることができれば、赤(R値)のみではなく、他の色である緑、青、もしくは黒、白等の色要素を適宜選択することもできる。
【0037】
評価画像生成部138は、例えば、R値に対して、適当な閾値を設けて2値化し、さらに反転処理を行うことで、評価する範囲を明確にすることができる。また、「赤味」とその他の色との境界が明確にならない場合は、画像のドット単位等でそれぞれの値を総計して、全体的な「赤味」の変化を示すように評価画像生成部138を構成してもよい。評価画像生成部138が処理した画像データは次に推定手段150に送出される。
【0038】
推定手段150を説明する前に、
図3を参照して、健康状態における血流評価の一例を説明する。
図3の縦軸は評価画像生成部138が処理した画像データのR値を、横軸は時間を表している。R値は、時間経過に伴い段階的な変化をしており、それぞれのフェーズ(段階)を経時的に説明する。
【0039】
「常態」フェーズは、足首10に加圧手段110を装着する前の足先部20の画像データR値であり、同じ値で推移している。そして、「駆血開始」のイベントにて、足首10に加圧手段110が装着され「駆血」フェーズに移行する。「駆血」フェーズでは、足先部20に血液が流れないことから、「赤味」が漸減するに伴いR値が減少している。
【0040】
「駆血開放」のイベントで足首10の加圧手段110が解除され、足先部20の血流が復活し、「駆血開放」に伴い、足先部20の「赤味」が増加して、R値の急激な上昇がみられる。前記したように、発明者は、ABI検査において、駆血の開放から回復に至る過程で、まず血管が急激に広がり、続いて広がりの速度は落ちるもののさらに広がり、その後通常の血管へと回復することを発見した。このように末梢動脈の血流の流量増加は、おおよそ2段階で推移すると考えられ、R値の急激な上昇は、血管の急激な広がりを表す「フェーズ1」が観察される。
【0041】
次にR値の時間的な上昇は、多少緩和される、すなわち通常の血管へと回復する「フェーズ2」が観察される。前記したように、発明者等の知見から、フェーズ2の持続時間が生体の血流動態の活性状態を示すと推定されている。すなわち、フェーズ2の持続時間が短ければ、健康状態であると判断しても良く、逆にフェーズ2の持続時間が長ければ、血流が滞る状態であって、末梢血管が壊死している可能性も想定することができる。
【0042】
「フェーズ2」が終了すると、「常態」への回復過程に入り、R値は下降して、血流評価は終了する。
【0043】
推定手段150は、「駆血開放」のイベント後の「フェーズ2」から「回復」への移行、すなわち、R値(「赤味」)について時間的変化量の傾きが負になる(前述した面積の減少や、座標値総計の減少等を意味する)時点を回復状態と推定して、回復時間T2Nを算出する。さらに、推定手段150は、「駆血開放」のイベント後の「フェーズ1」から「フェーズ2」への移行、R値の時間的変化量が正であって、予め設定された所定時間区分での増分が減少したときの「駆血開放」のイベントからの時間を計測し、この時間を回復時間T2Nから減じて、血管拡張性反応時間T1Nを算出する。なお、予め設定された所定時間区分を設けているのは、例えば、健康状態において想定される血管拡張性反応時間T1Nと比べて、あまりにも短い時間が推定された場合は、周囲の光・色環境や色空間の設定等に問題が存在し、スパイク状の外乱等によって生じた可能性があるためである。
【0044】
表示部160は、一般的なディスプレイ・モニターであり、解析手段130が解析した
図3に示すような時系列的なR値の推移、および推定手段150が推定した、回復時間T2N、血管拡張正反応時間T1Nを表示する。
【0045】
報知部170は、
図3に示すそれぞれのイベントやフェーズを音声や画像によって報知するものであり、被検者は検査の経過を確認することができる。また、推定手段150によって得られた推定結果に基づき、PAD診断評価の支援として、予め回復時間T2N、血管拡張正反応時間T1Nの閾値を定めて、これらを超える場合に報知する構成とすることもできる。
【0046】
<血流評価例>
以下、
図3~
図5を参照して、本発明の一実施形態に係る血流評価の例について説明する。
図4は、本発明の一実施形態に係る血流評価の一例(PAM)である。
図5は、本発明の一実施形態に係る計測の状況を表す図である。なお、
図3における健康状態での血流評価の例のイベントおよびフェーズについての説明は前記したとおりであるため、重複した説明は省略する。
【0047】
まず
図5を参照すると、足首10に加圧手段110にて駆血中および駆血開放をそれぞれ上下に並べている。左側の画像は一般的な可視光で計測した画像であり、右側の画像はR値に注目したRGB色空間による処理、すなわちR値のみの時系列な輝度値の変化を取得し、その最大値、および最小値より、その間の色を0~1もしくは8bitの階調で表現する場合には0~255で数値化し(正規化)、これをさらに反転処理したものである。なお、この例では、画像を血流評価する足先部20の評価領域と足先部20を置いている周囲の状況が映り込んだ背景領域とに画定する背景領域画定部134は備えていない。
【0048】
図5に示すように、駆血中の計測画像を見ると足先部20の足甲24の表面は幾分白みがかった表色になっている。この計測画像をR値に対して正規化して、さらに所定の閾値により2値化、反転処理を行ったものが計測画像(反転処理)となる。この計測画像を見ると、ほぼ「赤味」のないことを示す暗い表色となる。
【0049】
次に同じ
図5の駆血開放の計測画像について同様な画像処理を行った評価画像(反転処理)を見ると、「赤味」の部分の面積が多くなっていることが示される。このように、足先部20の色味変化の状況が顕出される。
【0050】
図5に示す実施形態にて、健康状態およびPAMの血流評価結果が、それぞれ
図3、4に示される。
図3と
図4とを比較すると、回復時間T2N、血管拡張正反応時間T1Nと比べて、回復時間T2P、血管拡張正反応時間T1Pが長くなっている。
【0051】
回復時間T2Pから血管拡張正反応時間T1Pを減じたものがフェーズ2の持続時間となる。そして、フェーズ2の持続時間が長ければ、血管内に脂質による沈着物が形成されて動脈が狭まり、血流が制限される状態であると推定され、末梢血管が壊死している可能性も想定することができる。
【0052】
このように、この血流評価例では、抹消血管が壊死し、切断して治療すべき部位がどの箇所なのかを判断する支援となり、切断部位を必要以上に大きく画定することを防止することができる。
【0053】
従来技術では、爪甲での変化をみており、あくまでも末梢中の末梢の変化をみるにすぎない。一方、本発明によれば、より中枢となる足首10に加圧手段110で駆血するため、より広範囲の足背、足底という部位をみることができ、解剖学的な前脛骨系、後脛骨系、腓骨動脈系の支配領域についての評価を支援することが可能になる。すなわち、より具体的に中枢血管系のトラブルの予測が可能となる。
【0054】
実際の臨床においても、下腿ではこの3つの系統(前脛骨系、後脛骨系、腓骨動脈系)のどれが問題かといった点が治療のポイントにもなっており、また、足では前脛骨系、後脛骨系、腓骨動脈系の支配領域が解剖学的に決まっている。そこで、これらのポイントを本発明に係る血流評価装置でチェックすることで、より詳細な評価が可能となる。一方、従来技術で開示された爪甲では、前脛骨系、後脛骨系、腓骨動脈系のいずれかの末梢もしくはいくつかがまざった形の情報となるので、かなり曖昧とした情報になるおそれがある。
【0055】
以上説明したように、本発明は、PADの診断に対して、解剖学的な前頸骨系、後頸骨系、腓骨動脈系の支配領域についても守備範囲に含めて、より具体的に中枢血管系の疾患の予測を可能とする血流評価装置を提供することができる。また、多少の精度を落とした簡単な構成、例えばスマートフォンのアプリケーションにすることで、健常者の健康管理として利用することもできる。
【符号の説明】
【0056】
10・・・足首
20・・・足先部
22・・・足指
24・・・足甲
26・・・足裏
100・・・血流評価装置
110・・・加圧手段
120,125・・・撮像手段
121,126・・・発光素子
122,127・・・受光素子
130・・・解析手段
132・・・色空間変換部
134・・・背景領域画定部
136・・・評価領域画定部
138・・・評価画像生成部
150・・・推定手段
160・・・表示部
170・・・報知部