(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】整形外科用衝撃を付与する電気モータ駆動式器具
(51)【国際特許分類】
A61B 17/88 20060101AFI20230511BHJP
A61B 17/16 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61B17/88
A61B17/16
(21)【出願番号】P 2019192002
(22)【出願日】2019-10-21
(62)【分割の表示】P 2017195035の分割
【原出願日】2013-03-08
【審査請求日】2019-11-14
【審判番号】
【審判請求日】2021-10-19
(32)【優先日】2012-08-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-03-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2012-12-07
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2013-02-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】518281993
【氏名又は名称】メディカル エンタープライゼス ディストリビューション、 エルエルシー
(74)【代理人】
【識別番号】100120662
【氏名又は名称】川上 桂子
(72)【発明者】
【氏名】クリストファー、ペディチニ
【合議体】
【審判長】村上 聡
【審判官】栗山 卓也
【審判官】倉橋 紀夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-20183(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B17/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外科用衝撃付与器具であって、
駆動機構と、
モータと、
前記モータ及び前記駆動機構に動作可能に結合され、前記モータを制御することにより、前記駆動機構を移動させるように構成される制御回路と、
対象物を打撃するように構成される手術用具を受け入れるように構成されたアダプタと、
前記駆動機構の移動に応答して、反復可能な制御された衝撃力を前記アダプタに与えるように構成された打撃体と、
前記アダプタと前記打撃体との間に接続されたアンビルと、
作動ピンと、
前記作動ピンに接続されたレバーアームと、を含み、
前記アンビルは、近位側に第1衝撃面を有し、遠位側に第2衝撃面を有し、
前記駆動機構が前記近位側から前記遠位側へ向かう第1の方向に移動したとき、前記打撃体が、前記アンビルの前記第1衝撃面に衝撃を付与することにより、前記アダプタを前記第1の方向に移動させ、
前記駆動機構が前記第1の方向とは反対の第2の方向に移動したとき、前記打撃体が、前記アンビルの前記第1衝撃面から離れ、
前記アダプタに受け入れられた前記手術用具が前記対象物に刺さった状態で当該対象物から引き離されたときに、前記第2衝撃面
が前記レバーアームを回転させ、当該レバーアームの回転により前記作動ピンが前記第1衝撃面を超えて前記第2の方向に突出し、前記打撃体が、前記作動ピンおよび前記レバーアームを介して前記第2衝撃面に衝撃を付与することにより、前記打撃体が前記アダプタを前記第2の方向に移動させる、外科用衝撃付与器具。
【請求項2】
前記アダプタの前記第1の方向への移動は、前記対象物に対して前記第1の方向に前記手術用具を移動させるように構成され、
前記アダプタの第2の方向への移動は、前記対象物に対して前記第2の方向に前記手術用具を移動させるように構成される、請求項1に記載の外科用衝撃付与器具。
【請求項3】
前記外科用衝撃付与器具は、前記打撃体を近位
側位置に保持するように構成された戻り止めをさらに含み、
前記駆動機構の移動は、前記打撃体が、前記戻り止めから解放されるように構成される、請求項1に記載の外科用衝撃付与器具。
【請求項4】
前記駆動機構は、直線運動変換器を含み、
前記外科用衝撃付与器具は、前記制御回路が前記駆動機構の前記直線運動変換器の移動を制御するように、前記制御回路に動作可能に結合されて前記直線運動変換器の位置を検出するよう構成された位置センサをさらに含む、請求項1に記載の外科用衝撃付与器具。
【請求項5】
前記手術用具が、ブローチ、チゼル、又はリーマーを含む、請求項1に記載の外科用衝撃付与器具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
[関連出願の相互参照]
本願は、2013年2月5日に出願された、係属中の特許文献1の継続出願であり、米国特許法第120条に基づく優先権を主張するものであり、この出願の開示は参照により援用される。この特許文献1は、2010年12月29日に出願された、係属中の特許文献2、及び、2012年5月8日に出願された特許文献3の一部継続出願であり、米国特許法第120条に基づく優先権を主張するものであり、また、2012年2月26日に出願された、特許文献4の一部継続出願であり、米国特許法第119条に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の開示は参照により援用される。本願はまた、2010年12月29日に出願された、係属中の特許文献5、及び、2012年5月8日に出願された特許文献6の一部継続出願であり、米国特許法第120条に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の開示は参照により援用される。さらに、本願は、2012年12月7日に出願された、係属中の特許文献7、及び、2012年8月14日に出願された特許文献8に対する、米国特許法第119条に基づく優先権を主張するものであり、これらの出願の開示は参照により援用される。
【0002】
本開示は、整形外科用途において衝撃を付与する電動器具、より詳細には、ブローチまたは他の手先効果器に制御された衝撃を付与することが可能な、整形外科用の衝撃を付与するための、電気モータ駆動式の器具に関する。
【背景技術】
【0003】
整形外科の分野では、人工関節等の補綴具が多くの場合に、患者の骨の空洞に補綴具を着座させることによって患者の身体内に埋め込まれるかまたは着座される。通常、空洞は、補綴材を着座させるかまたは埋め込む前に作らなければならず、従来から、医師は、骨を除去し、及び/または締め固めてこの空洞を形成する。補綴材は通常、空洞内に挿入される補綴材の特定の部分として働く軸部または他の突起を含む。
【0004】
そのような空洞を作るために、医師はブローチを用いることができ、このブローチは、補綴材の軸部の形状に一致する。当該技術分野において既知の解決策は、ハンドルにブローチを設けることを含み、そのハンドルを、医師がブローチを埋め込み領域に打ち込む間に把持することができる。残念ながら、この手法は手際が悪く、特定の医師の技量に左右されるため予測不可能である。この手法はほとんど常に必ず、空洞の位置及び形態が不正確となる。さらに、医師は、この手法では、持続的な打ち込みに起因して疲労する。最後に、この手法には、医師が意図しない領域の骨構造に損傷を与えるという危険性を伴う。
【0005】
補綴材用の空洞を作る別の技法は、ブローチを空気圧によって、すなわち圧縮空気によって駆動することである。この手法は、例えば、空気を器具から滅菌術野に排出する連結空気管路の存在によって衝撃付与器具の可搬性が妨げられ、また、器具を操作する医師が疲労するという点で不都合である。さらに、この手法は、特許文献9に例示されているように、衝撃力または頻度の正確な制御を可能とせず、むしろ、作動されたときに削岩機に非常によく似た機能を果たす。この場合も同様に、このように正確な制御のいかなる措置もないことにより、空洞を正確にブローチングすることがより難しくなる。
【0006】
第3の技法は、空洞を作るためにコンピュータ制御されるロボットアームに依拠するものである。この手法は疲労及び正確性の問題を克服するが、資本費用が非常に高くなり、外科医が手動の手法から得ることができる触覚フィードバックを更に排除する。
【0007】
第4の技法は、出願人自身の以前の開示に依拠するものであり、リニア圧縮機を使用して一回の行程毎に空気を圧縮し、次に、十分な圧力が形成された後で、空気を、弁を通して打撃体に対して放出する。これによって次に、打撃体を、案内管を強制的に移動させ、ブローチ及び/または他の手術器具を保持するアンビルに衝撃を付与する。この発明は非常に良好に作用するが、それを試験する過程において、ブローチが軟組織内で動かなくなった場合に、ブローチを元に戻す簡単な方法を可能としない。さらに、空気の圧力によって、歯車列及び直線運動変換器の構成要素において大きな力が生じ、この大きな力は、構成要素の尚早の摩耗につながる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許出願第13/759,813号
【文献】米国特許出願第12/980,329号
【文献】米国特許出願第13/466,870号
【文献】米国仮特許出願第61/603,320号
【文献】米国特許出願第12/980,329号
【文献】米国特許出願第13/466,870号
【文献】米国仮特許出願第61/734,539号
【文献】米国仮特許出願第61/682,915号
【文献】米国特許第5,057,112号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
その結果、従来技術の種々の不都合点を克服する、衝撃を付与する器具が必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
従来技術の前述の不都合点を考慮して、従来技術の全ての利点を含むとともに、従来技術に固有の欠点を克服するように構成されている、電気モータ駆動式の整形外科用の衝撃を付与する器具が提供される。器具は、整形外科医が、臀部、膝、肩等において整形外科用の衝撃を付与するために用いることができる。器具は、ブローチ、ノミまたは他の手先効果器を保持し、ブローチ、ノミまたは他の手先効果器を、制御された打撃衝撃によって空洞内に優しく打ち付けることが可能であり、その結果、補綴材または移植片がより良く嵌まる。さらに、そのような電気的に操作されるブローチ、ノミまたは他の手先効果器によって可能となる制御は、患者の特定の骨の種類または他の外形に従って衝撃設定を調整することを可能にする。器具は、補綴材または移植片の、埋め込み空洞内へのまたは埋め込み空洞からの適切な着座または取り出しを更に可能にし、有利には、その用具を案内する上で現在の外科医の技量を向上させる。
【0011】
一実施形態では、電気モータ駆動式の整形外科用の衝撃を付与する器具は、(電池等の)電源、モータ、制御手段、ハウジング、モータの回転運動を直線運動に変換する方法(以下、直線運動変換器と称される)、少なくとも1つの減速装置、打撃体、戻り止め、及び、圧縮空気または真空のいずれかを含むことができるエネルギ貯蔵手段を備える。器具は、LED、器具を快適に把持するための少なくとも1つの取っ手を有するハンドル部分、手術器具を受け入れるように構成されているアダプタ、電池、及び少なくとも1つのセンサを更に含むことができる。種々の構成要素の少なくとも幾つかは、好ましくはハウジング内に収容される。器具は、ブローチ、ノミ若しくは他の手先効果器、または移植片に周期的な衝撃力を印加するとともに、衝撃力を複数のレベルに微調整することが可能である。
【0012】
更なる実施形態では、ハンドルは、直列形の器具を呈するように位置決め可能であるかまたは器具に折り曲げ可能であるものとすることができ、この場合、外科医は、器具を、ブローチの方向と同一直線上に押し引きする。これは、外科医が操作中に器具に加え得るトルクの量を制限するという利点を有する。取っ手の更なる改良形態では、手術用具を案内するとともに衝撃を付与する動作中に安定性を高めるために、付加的な取っ手があるものとすることができる。
【0013】
更なる実施形態では、ブローチ、ノミまたは他の手先効果器を、依然として軸方向に位置合わせしたままで複数の位置に回転させることができる。これは、手術中に種々の解剖学的対象に対してブローチを使用することを容易にする。
【0014】
更なる実施形態では、エネルギ貯蔵手段は、衝撃周期の一部の間に少なくとも部分真空下にある室を含む。
【0015】
更なる実施形態では、直線運動変換器は、スライダクランク、連結機構、カム、スクリュ、ラックアンドピニオン、摩擦駆動装置、またはベルト及び滑車のうちの1つを用いる。
【0016】
一実施形態では、直線運動変換器及び回転モータの代わりに、リニアモータ、ソレノイドまたはボイスコイルモータを用いることができる。
【0017】
一実施形態では、器具は制御手段を更に備え、この制御手段はエネルギ調整要素を含み、このエネルギ調整要素は、器具の衝撃力を制御し、制御されない衝撃によって生じる損傷を低減または回避することができる。エネルギは、電子的または機械的に調節することができる。さらに、エネルギ調整要素はアナログであるかまたは一定の設定を有することができる。この制御手段は、ブローチの機械加工作業の正確な制御を可能にする。
【0018】
一実施形態では、器具のアンビルが、2つの衝撃点のうちの少なくとも一方、及び、打撃体が実質的に軸方向に移動するように抑制する案内部を含む。操作時に、案内部に沿う打撃体の移動は前方方向に続く。逆進機構を用いて、打撃体の衝撃点、及び手術器具に対する結果として生じる力を変化させることができる。そのような逆進機構を用いる結果として、前方または後方への力がアンビル及び/またはブローチ若しくは他の手術用取付具に加わる。この文脈において用いられる場合、「前方方向」とは、ブローチ、ノミまたは患者に向かう打撃体の移動を含意し、「後方方向」とは、ブローチ、ノミまたは患者から離れる打撃体の移動を含意する。衝撃を双方向に付与するかまたは一方向に付与するかを選択することは、物質を除去するかまたは物質を締め固めるかという選択が多くの場合に外科的処置において重要な決定であるという点で、物質を切削するかまたは埋め込み空洞内で圧縮する上で外科医に自由度を与える。さらに、出願人の以前の開示の使用において、器具が多くの場合に処置中に突き刺さること、及び、その器具において逆進させる方法が手術用具を取り出すのに不十分であることが発見されている。この新たな実施形態はこれらの制約を克服する。一実施形態では、前方への力または後方への力を伝える衝撃点は、少なくとも2つの別個の異なる点である。
【0019】
一実施形態では、アンビル及びアダプタは単一の要素を含むか、または一方が他方に対して一体的であるものとすることができる。
【0020】
一実施形態では、器具は、打撃体の衝撃を付与する移動の頻度を調節することが更に可能である。打撃体の頻度を調節することによって、器具は、例えば、同じ衝撃の大きさを維持しながらも、より大きい総時間加重の打撃衝撃を与えることができる。このことは、外科医がブローチまたはノミの切削速度を制御することを可能にする。例えば、外科医は、ブローチまたはノミの移動の大部分の間に、より速い速度(高い頻度の衝撃付与)で切削することを選択し、次に、ブローチまたはノミが所望の深さに近づくと切削速度を遅くすることができる。取り壊し作業において用いられるような、米国特許第6,938,705号に示されているような典型的な打撃器具では、速度を変化させることによって衝撃力が変化し、可変速度の作業において一定の(±20%として規定される)衝撃エネルギを維持することが不可能となる。
【0021】
一実施形態では、衝撃を付与する方向は、使用者が器具に加える付勢力によって制御される。例えば、器具を前方方向に付勢することによって前方への衝撃が付与され、器具を後方方向に付勢することによって後方への衝撃が付与される。
【0022】
一実施形態では、器具は照明要素を有し、作業領域を照明するとともに、ブローチ、ノミまたは他の手先効果器を補綴材または移植片の所望の位置に正確に位置決めすることができる。
【0023】
一実施形態では、器具は、特定の大きさを上回る曲げまたはずれた向きがブローチ、ノミ若しくは他の手先効果器または移植片の界面において検出されると、使用者に警告するフィードバックシステムも含むことができる。
【0024】
一実施形態では、器具は、打撃体を保持する戻り止めも含むことができ、打撃体は、器具から外科用手先効果器への衝撃毎にエネルギが増すように、機械的または電気的な手段によって起動することができる。一実施形態では、この戻り止めの特徴は、打撃体の移動の30%以内で、戻り止めが打撃体に加える保持力が50%低下するようなものである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】モータ、直線運動変換器、及びエネルギ貯蔵手段としての真空が用いられる、本開示の例示的な実施形態による、整形外科用の衝撃を付与する器具の斜視図
【
図2】真空が形成されたピストンの例示的な位置を示す説明図
【
図3】打撃体が解放され、打撃体が前方方向に移動してアンビルに衝撃を付与するところを示す説明図
【
図4】アンビルが逆方向に衝撃を受けるように、打撃体が解放されて打撃体が移動するところを示す説明図
【
図5】第1の位置に向かって移動して戻り、打撃体をリセットする真空ピストンを示す説明図
【
図6】圧縮室を用いて衝撃を付与する力を形成する、器具の例示的な実施形態を示す説明図
【
図7】打撃体の衝撃エネルギを調整するのに弁が用いられる、器具の例示的な実施形態を示す説明図
【
図8】打撃体がアンビルに対して後方への力を与える面を与える、器具の例示的な実施形態を示す説明図
【
図9】打撃体がアンビルに対して前方に作用する力を与える、器具の例示的な実施形態を示す説明図
【
図10】本開示の例示的な実施形態による、弾性機構を用いた、鋭い衝撃と変更された衝撃との力対時間の曲線の比較のグラフ
【発明を実施するための形態】
【0026】
これらは、本開示の他の態様と一緒に、本開示を特徴付ける新規性の種々の特徴とともに、添付の特許請求の範囲において具体的に指摘され、本開示の一部を形成する。本開示、その動作上の利点、及びその使用によって得られる特定の目的のより良い理解のために、添付の図面、及び本開示の例示的な実施形態が例示され記載される。
【0027】
本発明の利点及び特徴は、添付の図面と併せて読まれる以下の詳細な説明及び特許請求の範囲を参照してより良く理解され、添付の図面において、同様の要素は同様の符号を用いて特定される。
【0028】
本開示を実施するための最良の形態を、本明細書では添付の図面に示されるその好ましい実施形態に関して提示する。本明細書において例示のために詳細に記載される好ましい実施形態は、多くの変形形態が可能である。状況により示唆されるかまたは好都合になり得るため均等物の種々の省略及び置換が意図されるが、本開示の主旨または範囲から逸脱することなくその適用または実施態様を包含する。
【0029】
「1つの(a及びan)」という言葉は、本明細書では、数量の限定を示すものではなく、むしろ、言及される要素のうちの少なくとも1つの存在を示すものである。
【0030】
本開示は、制御された打撃衝撃を用いる、電気モータ駆動式の整形外科用の衝撃を付与する器具を提供する。器具は、一回及び複数回の衝撃を加えることができること、並びに、可変の及び変化する方向、力及び頻度の衝撃を付与することを含む。一実施形態では、衝撃力は調整可能である。別の実施形態では、戻り止めを設けることができ、この戻り止めは、より高いエネルギ衝撃の生成を容易にする。また別の実施形態では、衝撃は、器具に接続されているブローチ、ノミまたは他の手先効果器に伝達される。
【0031】
器具はハウジングを更に含むことができる。ハウジングは器具の少なくとも1つの構成要素を確実に覆って保持することができる。一実施形態では、ハウジングは、モータ、少なくとも1つの減速装置、直線運動変換器、ガス室、打撃体、力調整部、制御手段、アンビル、前方衝撃面、及び異なる後方衝撃面を収容する。
【0032】
器具は、使用中に器具を快適かつ確実に保持するための少なくとも1つの取っ手を有するハンドル部分、並びに、アダプタ、電池、位置センサ、方向センサ、及びねじれセンサを更に含むことができる。器具は、外科医が器具を使用する作業領域において明かりを提供するためにLED等の照明要素を更に含むことができる。アンビルは、アダプタの使用によってブローチ、ノミまたは他の手先効果器に連結することができ、このアダプタは、異なるブローチの大きさの迅速な変更を容易にするために迅速接続機構を有することができる。アンビルは、ブローチが、外科医の手の中で器具の向きを変えることなく異なる解剖学的形態に呈されるとともに異なる解剖学的形態において構成されることを可能にするように、固定用回転特徴部を更に含むことができる。
【0033】
ここで
図1~5を参照すると、一実施形態では、直線運動変換器12はスライダクランク機構を含み、このスライダクランクはモータ8及び減速装置7に動作可能に連結される。器具は、ピストン24を受け入れる真空室23を更に含み、ピストン24は直線運動変換器12によって作動することができる。ピストン24を2つ以上の方向に作動することができることが明らかであろう。真空は、打撃体25から離れるピストン24の移動によって真空室23内に形成される。真空室23内に形成される真空は、動作周期の少なくとも一部にわたる9psia未満の圧力として規定される。
【0034】
一実施形態では、器具のモータ8は直線運動変換器12を移動させ、直線運動変換器12は、
図2に示されているように、打撃体25の面に真空引きし、真空室23内に少なくとも部分的な真空を形成する。ピストン24は、打撃体25の前方部分(すなわち、打撃体の、手先効果器または患者に近接する部分)に当たるまで移動し続け、真空室23の大きさを増大させ、これによって、打撃体25がその戻り止め10から取り外され、打撃体25が、器具の、手先効果器または患者に近接する端部に向かって迅速に加速することを可能にする。一実施形態では、戻り止めは、機械的、電気的またはそれらの組み合わせであるものとすることができ、好ましい戻り止めは図面には磁石として示されている。戻り止め10の特徴は、戻り止め10が一旦解放または克服されると、打撃体25に対する戻り止め10の保持力が、打撃体25の最初の30%の移動内で少なくとも50%低下することである。アンビル14に対する打撃体25の衝撃は、アダプタ1、及びブローチ、ノミまたは他の整形外科用具に力を伝える。
【0035】
一実施形態では、アンビルに対する力の方向は、器具及び行程制限部13への(外科医等の)使用者の力によって制御される。従来技術の器具は空洞内に時折突き刺さる可能性があり、上述した段落における打撃体の衝撃では器具を取り出すのに不十分である可能性があることが分かっている。この実施形態では、器具が空洞から引き離されるときに、打撃体25はアンビル14に衝撃を付与しないが、別の面に衝撃を付与し、それによってアンビル14に対して後方への力を伝える。この衝撃面は、例示的な実施形態では作動ピン27として示されている。作動ピン27はレバーアーム17に力を伝え、レバーアーム17はアンビル14に、具体的にはアンビルの後退衝撃面26に後方への力を伝える。この実施形態は、精密に制御される衝撃に関して既存の器具の全ての利点を保ちながら、外科的な空洞内で動かなくなっている器具及び用具を容易に取り出すという予期しない利点を有する。したがって、この器具の更なる利点は、外科医が器具に加えることができる付勢によって衝撃を付与する方向を制御することができ、その際に、ブローチ、ノミまたは他の手先効果器が患者または外科的な空洞に突き刺さる可能性を低減することができるとみなされるものとして発見されている。
【0036】
更なる実施形態では、電磁石を戻り止め10として組み込み、動作周期の適切な時点で解放し、打撃体25がアンビル14に衝撃を付与することを可能にすることができる。打撃体25が戻り止め10から解放されると、打撃体25の後面に対する空気圧によって打撃体25を前方に推進してアンビル14または他の打撃面に衝撃を付与する。結果として生じる力は、アンビル14の、アンビルの前方衝撃面16に近接する端部を通して、任意選択的には、移植片または補綴材を着座させるかまたは除去するブローチ、ノミまたは他の手先効果器を取り付けることができるアダプタ1を通して伝えることができる。
【0037】
打撃体案内部11は、打撃体25の正面の空気が逃げることでアンビル14に対する打撃体25の衝撃力を高めることを可能にする打撃体案内部の通気孔20も有することができる。打撃体案内部の通気孔20は、器具本体の空洞内で通気することができ、したがって、空気が器具から逃げることを防止するとともに器具のより良い封止を可能にする、自己完結型の空気周期を形成する。打撃体案内部の通気孔20の位置及び大きさを用いて衝撃力を調整することもできる。さらに、打撃体案内部の通気孔20を加えることによって、アンビル14に対する打撃体25の衝撃力が増すことが予期せず分かった。
【0038】
一実施形態では、ピストン24は、その行程を継続すると、後方方向に向かって移動し、この移動によってピストン24は打撃体25の後方打撃体面28に接触し、打撃体25を器具の後方に向かって移動させる。これによって、戻り止め10が打撃体25を次の衝撃に備えて適所に固定または保持することが可能になる。ピストン24は、その後方への行程を完了し、好ましくは、ピストン24を真空室23の下死点においてまたは下死点付近で静止させるようにモータ8を停止するよう信号伝達するセンサ22を起動する。真空室23は好ましくは、一実施形態ではピストン24の一部である逃がし弁若しくは逆止弁9または他の小さい開口を有する。弁9は真空室23の他の地点に位置付けることもでき、各周期中に真空室23内に蓄積している場合がある幾らかの空気を真空室23から押し出すことを可能にする。更なる実施形態では、この弁の効果は、Oリングシールの代わりにカップシールを用いて達成することができる。これによって、ほぼ大気圧が動作周期の開始時点において真空室23内に存在することを確実にし、したがって、少なくとも、複数回の衝撃の状況において実質的に一定の力及び衝撃速度を保証するという理由から整形外科用の衝撃を付与することにおいて重要であるように、各衝撃が同じ量のエネルギを使用することを確実にする。したがって、1つの完全な周期で、前方または後方への衝撃を付与する力を、ブローチ、ノミ若しくは他の手先効果器、または移植片若しくは補綴材に印加することができる。
【0039】
更なる実施形態では、器具のモータ8は、ピストン24の前方部分が打撃体の一部に衝撃を付与し、打撃体を後方位置に保持する戻り止め10を克服するようにピストン24が十分な距離を移動するまで、直線運動変換器12にピストンを移動させる。打撃体が戻り止め10から解放されると、真空室23内の真空が打撃体に力を加え、これによって打撃体を加速させ、打撃体を、器具のハウジングの内部の空洞を軸方向に摺動させ、アンビルの前方衝撃面16を打撃させる。
図3では、アンビルの前方衝撃面16がアンビル14及び/または器具保持体を前方移動させ、
図4では、アンビルの後退衝撃面26がアンビル14及び/または器具保持体を後方移動させる。結果として生じる力は、アンビル14の、アンビルの前方衝撃面16に近接する端部を通して、任意選択的には、移植片または補綴材を着座させるかまたは除去するブローチ、ノミまたは他の手先効果器を取り付けることができるアダプタ1を通して伝わる。
【0040】
別の実施形態では、衝撃力は、
図6~9に示されているように、ピストン6及び打撃体4と併せて圧縮空気室5を用いて発生させることができる。この実施形態では、器具のモータ8は、ピストン6の遠位端と打撃体4の近位端との間に配置される圧縮空気室5内に十分な圧力が形成され、そうでなければ打撃体4を後方位置に保持している戻り止め10、及び/または、打撃体4をその後方位置に保持する慣性及び摩擦力を克服するまで、直線運動変換器12にピストン6を移動させる。この十分な圧力に達すると、空気通路19が開き、空気圧が打撃体4を加速させ、この打撃体4は空洞を軸方向に摺動してアンビル14を打撃する。空気通路19は、戻り止め10からの必要とされる保持力の量を低下させるように、打撃体4の断面積の好ましくは50%未満の断面積を有する。結果として生じる力は、アンビル14の、アンビルの前方衝撃面16に近接する端部を通して、任意選択的には、移植片または補綴材を着座させるかまたは除去するブローチ、ノミまたは他の装置を取り付けることができるアダプタ1を通して伝わる。
【0041】
ピストン6は、その行程を継続すると、後方方向に向かって移動し、圧縮空気室5に僅かに真空引きする。この真空は、空気通路19を通して打撃体4の後面に連通することができ、打撃体4に対して戻る力を形成し、この戻る力は、打撃体4を後方方向、すなわちアンビルの前方衝撃面16に対する打撃体4の衝撃点から離れる方向に移動させる。アダプタ1がアンビル14に取り付けられている場合、力は、移植片または補綴材を着座させるかまたは除去するブローチ、ノミまたは他の手先効果器が取り付けられるアダプタ1を通して伝えることができる。
【0042】
さらに、器具が空洞から引き離されるときに、打撃体4はアンビル14に衝撃を付与しないが、その代わりに別の面に衝撃を付与し、それによってアンビル14に対して後方への力を伝えることができる。この衝撃面は、例示的な実施形態では作動ピン27として示されている。作動ピン27はレバーアーム17に力を伝え、レバーアーム17はアンビル14に、具体的にはアンビルの後退衝撃面26に後方への力を伝える。
【0043】
器具は、連続的に制御して衝撃を付与することを更に容易にすることができ、このように衝撃を付与することは、開始スイッチの位置に依存する(この開始スイッチは例えば電源またはモータに動作可能に連結することができる)。そのように連続的に衝撃を付与する場合、開始スイッチを起動した後で、また開始スイッチの位置に応じて、器具は、例えば開始スイッチの位置に比例する速度で完全な周期を行うことができる。したがって、一回の衝撃または連続的に衝撃を付与する動作モードによって、手術領域を形成するかまたは形作ることが外科医によって容易に制御される。
【0044】
制御手段21に動作可能に連結されているセンサ22を設け、直線運動変換器12の好ましい周期的動作を調節することを補助することができる。例えば、センサ22は少なくとも1つの位置を制御手段21に通信することができ、直線運動変換器12が、全出力行程の少なくとも75%が次の周期に利用可能である位置においてまたはその位置付近で停止することを可能にする。この位置は静止位置と称される。このことは、器具が周期毎に同じ量のエネルギで衝撃を付与することを使用者が確実にすることを可能にするという点で、既存の器具に対して有利であることが分かっている。このレベルの制御がなければ、単一の周期で衝撃を付与することの再現性が制限され、器具に対する外科医の信頼性が低下する。
【0045】
器具は、例えばエネルギ制御要素18によって周期毎に衝撃エネルギの量を調整することが更に可能である。衝撃エネルギを制御することによって、器具は、制御されない衝撃または過度のエネルギの衝撃によって生じる損傷を回避することができる。例えば、外科医は、骨粗鬆症を患っている高齢の患者の場合には衝撃の設定を下げることができるか、またはより回復力に富む若しくは無傷の強健な骨構造に対しては衝撃設定を高めることができる。
【0046】
一実施形態では、エネルギ制御要素18は好ましくは、打撃体25を保持する戻り止め10に対する選択可能な解放設定を含む。打撃体25を戻り止め10から取り外すのに必要な圧力が増大する場合には、打撃体25はアンビル14により高いエネルギで衝撃を付与することが明らかであろう。別の実施形態では、戻り止め10は電気的に制御される要素を含むことができる。電気的に制御される要素は、周期の様々な時点で解放することができ、したがって打撃体25に作用する真空室23の大きさを制限する。一実施形態では、電気的に制御される要素は電磁石である。
【0047】
別の実施形態では、真空室23または圧縮空気室5は、調整可能な弁等の調整可能な漏出部の形態をとるエネルギ制御要素18を含むことができる。漏出部は、打撃体4または25を加速させるエネルギの量を減らし、したがってアンビル14に対する衝撃エネルギを低下させる。調整可能な漏出部の場合、漏出部を最大に調整することは、打撃体4または25から最も低い衝撃エネルギを与えることができ、漏出部を遮断する(漏出ゼロ)ように調整することは、打撃体4または25から最も高い衝撃エネルギを与えることができる。
【0048】
器具は、打撃体4または25と外科用の手先効果器との間に挿入される弾性手段を更に含むことができ、この目的は、より長時間にわたって衝撃力を拡散し、したがって、衝撃毎に同じ総エネルギを、但し低下した力で達成することである。これは、
図10に示されているような用具に対する2つのロードセル試験の結果としてはっきりと分かる。この種類の弾性手段は、衝撃中のピークの力を制限し、そのようなピークによって患者の骨に骨折が生じないようにする。更なる実施形態では、この弾性手段は調整可能であるものとすることができ、また更なる実施形態では、弾性手段は打撃体4または25とアンビル14または手術器具との間に挿入することができる。このように及び別様に、器具は、一貫性のある軸方向のブローチ及び移植片の着座を容易にする。好ましくは、弾性手段は、打撃体からの衝撃時間を少なくとも4ミリ秒、また好ましくは10ミリ秒に延ばす。これは、打撃体4または25及びアンビル14(例えばともに鋼である)の比較的高い強度に起因して非常に高い力が生成される衝撃とは対照をなす。好ましくは、弾性手段は、衝撃から良好に回復し、総エネルギに最小限の減衰を与える、ウレタン、ゴムまたは他の弾性材料等の弾力性のある材料を含む。
【0049】
更なる実施形態では、アダプタ1は連結構成または他の調整手段を含むことができるため、ブローチ、ノミまたは他の手先効果器の位置を、外科医が器具を回転させる必要なく変更することができる。一実施形態では、アダプタ1は、オフセット機構を通じて、または器具と患者との間の回転連結若しくは枢動連結によって、前方または後方の関節置換のためにブローチを受け入れることができる。アダプタ1はそれによって、ブローチまたは外科用の手先効果器を、器具の本体及び打撃体25に平行であるかまたは同一直線上にある向きに維持することができる。アダプタ1は、器具の操作中にブローチ、ノミまたは他の手先効果器を確実に保持することができる挟持装置、万力、または任意の他の締結具も含むことができる。
【0050】
使用時に、外科医は、ハンドル把持部(単数または複数)によって器具をしっかりと保持し、LEDが発する光を用いて作業領域を照明し、器具に取り付けられているブローチ、ノミまたは他の手先効果器を、補綴材または移植片の所望の位置に正確に位置決めする。器具がブローチ、ノミまたは他の手先効果器に与える往復運動によって、空洞を形作ること、及び補綴材を着座させることまたは取り出すことを可能にする。
【0051】
本明細書において開示される器具は、従来技術に勝る種々の利点を提供する。器具は、手術部位において衝撃を制御して付与することを容易にし、これによって、患者の身体に対する不必要な損傷が最小限に抑えられ、また、移植片または補綴材の座部を正確に形作ることが可能となる。器具は、外科医が衝撃の方向、力及び頻度を変えることも可能にし、これによって、外科医の器具を操作する能力が改善される。衝撃設定の力制御調整部及び弾性制御調整部は、外科医が、特定の骨の種類または患者の他の外形に従って衝撃力を設定することを可能にする。改善された効率及び低下した直線運動変換器の荷重は、より小さい電池及びより低い費用の構成要素の使用を可能にする。器具はそれによって、補綴材または移植片を埋め込み空洞内にまたは埋め込み空洞から適切に着座させることまたは取り出すことを可能にする。
【0052】
本開示の特定の実施形態の上記の記載は、例示及び説明のために提示されている。それらの説明は、網羅的であることも、本開示を、開示の正確な形態に限定することも意図せず、明らかに、上記教示を踏まえて多くの変更形態及び変形形態が可能である。例示的な実施形態は、本開示の原理及びその実際的な適用を最も良く説明し、それによって、当業者が本開示及び種々の変更形態を含む種々の実施形態を意図される特定の用途に適したものとして最も良く使用することを可能にするために選択され記載されている。