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特許7276860可変の回折効率を有する回折格子及び画像を表示するための方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】可変の回折効率を有する回折格子及び画像を表示するための方法
(51)【国際特許分類】
   G02B 5/18 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
G02B5/18
【請求項の数】 19
(21)【出願番号】P 2019561160
(86)(22)【出願日】2018-05-08
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-06-25
(86)【国際出願番号】 FI2018050340
(87)【国際公開番号】W WO2018206847
(87)【国際公開日】2018-11-15
【審査請求日】2021-04-19
(31)【優先権主張番号】20175412
(32)【優先日】2017-05-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FI
(73)【特許権者】
【識別番号】517319167
【氏名又は名称】ディスペリックス オーワイ
【氏名又は名称原語表記】Dispelix Oy
【住所又は居所原語表記】Metsanneidonkuja 10 02130 Espoo, Finland
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100202751
【弁理士】
【氏名又は名称】岩堀 明代
(74)【代理人】
【識別番号】100191086
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 香元
(72)【発明者】
【氏名】ヴァルティアイネン,イスモ
(72)【発明者】
【氏名】オルッコネン,ユーソ
(72)【発明者】
【氏名】ラホマキ,ユッシ
【審査官】池田 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/111709(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/039820(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2017/0102543(US,A1)
【文献】特開2016-054314(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2006/0050391(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02B 5/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
格子構造をそれぞれ有する第1のゾーン及び第2のゾーンを備える回折光学格子であって、前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンの格子構造が、二次元に周期的であり、且つ各格子での単位セルサイズを画定し、
- 第1の方向の単位セルの第1の周期(d)が、前記第1の波長に沿って可視光の選択された波長の回折を可能にするように選択され、
- 第2の方向の前記単位セルの第2の周期(d)が前記第1の方向とは異なり、前記第2の方向が、前記第2の方向に沿って前記選択された波長の回折を防ぐのに十分に短いサブ波長周期を有する
ことを特徴とする、格子であり、
前記第1の周期(d)が光学回折閾値よりも長く、前記第2の周期(d)が前記光学回折閾値よりも短く、
前記第1のゾーンでの格子構造及び前記第2のゾーンでの格子構造が、前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンについて異なる回折効率を生み出すために、前記第2の方向に異なるサブ波長変調特徴を有し、
前記変調特徴が、フィルファクタ変調又は高さ変調に、従って前記回折効率に影響を与える格子の任意の幾何学的特性である、格子。
【請求項2】
前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンが、前記第2の方向に異なるフィルファクタ変調特徴を有する、請求項1に記載の格子。
【請求項3】
前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンが、前記第2の方向に異なる高さ変調特徴を有する、請求項1又は2に記載の格子。
【請求項4】
前記高さ変調が、前記第2の方向に前記第1のゾーンと前記第2のゾーンとの間のフィルファクタにおけるサブ波長変調に置き換えられる、請求項2に記載の格子。
【請求項5】
前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンが、前記第1の方向及び/又は前記第2の方向に異なる周期を有する、請求項1~4のいずれか一項に記載の格子。
【請求項6】
前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンが、前記第1の方向及び/又は前記第2の方向に同じ周期を有する、請求項1~5のいずれか一項に記載の格子。
【請求項7】
前記格子構造が、1.7よりも高い屈折率を有する材料で少なくとも部分的に作製される、請求項1~6のいずれか一項に記載の格子。
【請求項8】
前記第1のゾーン及び前記第2のゾーンの格子構造がピラーを備える、請求項1~7のいずれか一項に記載の格子。
【請求項9】
前記ピラーが平坦な又は傾斜した頂部を有する、請求項8に記載の格子。
【請求項10】
前記光学回折閾値が100~700nmの範囲内にある、請求項1~9のいずれか一項に記載の格子。
【請求項11】
前記格子が、それらの隣接するゾーン又はすべての他のゾーンと比較して前記第2の方向に異なる変調特徴を有する少なくとも3つのゾーンを備える、請求項1~10のいずれか一項に記載の格子。
【請求項12】
前記ゾーンが規則的なグリッドに配置される、請求項1~11のいずれか一項に記載の格子。
【請求項13】
前記第1の方向及び前記第2の方向が互いに直交する、請求項1~12のいずれか一項に記載の格子。
【請求項14】
光導波路として作用するための本質的に平坦な基板と、前記基板内に又は前記基板上に配置され、且つ、前記基板へ、前記基板内へ、又は前記基板外へ光を結合するための少なくとも1つの回折格子とを備える回折ウェーブガイドであって、前記回折格子が請求項1~13のいずれか一項に記載の格子である、回折ウェーブガイド。
【請求項15】
画像を提示することができる画像ソースと、前記画像ソースにより提示された画像を再現するように構成された入力結合格子、出力結合格子、及び/又は射出瞳拡大素子格子を備える回折ウェーブガイドとを備える回折ディスプレイ装置であって、前記入力結合格子、前記出力結合格子、及び/又は前記射出瞳拡大素子格子が請求項1~13のいずれか一項に記載の格子を備える、回折ディスプレイ装置。
【請求項16】
前記画像ソースが、或る出力波長又は波長範囲を有し、前記格子の第2の周期(d)が、前記第2の方向の回折を防ぐために前記画像ソースの出力波長又は波長範囲のサブ波長領域内にある、請求項15に記載の回折ディスプレイ装置。
【請求項17】
請求項1~13のいずれか一項に記載の格子を備える回折ディスプレイ上に画像を表示するための方法であって、前記方法が、
- 第1の回折効率を生成するために、前記格子の第1のゾーン内の格子構造との光学干渉を生じさせるために前記第1のゾーンに光を誘導することと、
- 第2の回折効率を生成するために、前記格子の第2のゾーン内の格子構造との光学干渉を生じさせるために前記第2のゾーンに光を誘導することと、
を含む、方法。
【請求項18】
第1の周期(d)を有する第1の回折方向を有する、請求項1~13のいずれか一項に記載の格子のサブ波長周期パターニングの使用であって、サブ波長周期(d)が、前記格子の回折効率を調節するために前記第1の回折方向と非平行な第2の方向に配置される、使用。
【請求項19】
前記第2の方向に前記格子のフィルファクタ変調と組み合わされる、請求項18に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回折格子に関し、特に、ディスプレイ技術でのそれらの使用に関する。具体的には、本発明は、回折効率の変調格子、このような格子を用いるオプティカルデバイス、及び回折ディスプレイ上に画像を表示するための方法、並びに新規な使用に関する。
【背景技術】
【0002】
目に近接したディスプレイ(Near-to-eye display(NED))及びヘッドアップディスプレイ(HUD)は、通常、見ることができる画像を生成するために回折格子を含む。画像ソースからの画像をウェーブガイドに結合する入力結合(in-coupling)格子としての格子、ユーザのための最終的な見ることができる画像を生成する出力結合(out-coupling)格子としての格子、及びディスプレイの射出瞳のサイズを増加させる射出瞳拡大素子(EPE)としての格子が必要とされる。
【0003】
格子の品質及び特徴が、結果的に得られる画像の品質を決める。明確な一貫した格子線を有することに加えて、高度な用途では、格子の回折効率を局所的に制御できることが望ましい。これは、格子線の高さ又は格子内のフィルファクタを変化させること、すなわち、高さ変調又はフィルファクタ変調を用いることにより達成することができる。最大の可能な効率調節範囲を達成するためには、高さとフィルファクタとの両方が変調されるべきである。
【0004】
高さ変調された要素の製作は、一般に、1つの高さが1サイクル内で画定される製作サイクルを繰り返すことにより行われる。特に、同一基板上の種々の高さのマイクロ及びナノ構造体の製作は、加工が難しい無機材料の場合には特に難しい。これは一般に、位置合わせを伴ういくつかの製作サイクルを必要とし、そこで、各要素の高さは1サイクルの間に個別に画定される。これはまた、高度に最適化された、しばしば複雑な、材料の加工を必要とする。材料の垂直な側壁を得るために、現在利用可能な方法では高異方性エッチングが必要とされる。1つの公知の加工方法は、C. David, “Fabrication of stair-case profiles with high aspect ratios for blazed diffractive optical elements”, Microelectronic Engineering, 53 (2000)で説明される。方法の複雑さのために、このプロセスの歩留まりは低い。さらに、オーバーレイ露光は、ナノメートルレベルの横方向の位置精度を必要とし、最適からのどのような逸脱も光学性能の損失を引き起こす。通常、オーバーレイ露光は、約10nmの精度を有し、これは最適な光学性能に対する顕著な逸脱を引き起こす。正確な高さ変調はそれ自体が難しく、最大の効率調節範囲を達成するために高さ変調とフィルファクタ変調との両方が望まれるときに特定の困難に直面する。
【0005】
高さ変調の必要性は、しかしながら、特に酸化物などの高屈折率材料の場合に製作の複雑さを増加させる。大量生産に適した利用可能な方法はほとんど無い。
【0006】
したがって、回折効率の調節を改良する必要性がある。
【発明の概要】
【0007】
本発明の目的は、上記の問題のうちの少なくともいくつかを解決すること、及び、格子の回折効率を変調する新規な手段を提供することである。具体的な目標は、光学系の光学性能を最適化するのに適したさらなる設計パラメータを提供することである。
【0008】
1つの具体的な目的は、高さ変調の難しさに取り組むこと、回折効率に影響を与えるべく高さ変調と置き換わる又は共に用いられるさらなる設計パラメータを提供すること、並びに、設計パラメータを利用する新規な装置及び方法を提供することである。
【0009】
一態様によれば、本発明は、回折格子に二次元格子周期を提供することに基づいており、2つの垂直格子周期のうちの1つは回折を生じるのに十分に大きく、一方、他の格子周期はサブ波長であり、効率変調のために適用することができる。特に、この方向の隣接する構造体間の間隔、すなわちフィルファクタ変調を、回折効率を変調するのに用いることができる。
【0010】
より詳細には、本発明の回折光学格子は、それぞれ二次元に周期的な格子構造を有する第1のゾーン及び第2のゾーンを備える。ゾーンのそれぞれは、可視光の選択された波長の第1の方向に沿った回折を可能にするように選択される、第1の方向の第1の周期と、前記選択された波長の第2の方向に沿った回折を防ぐのに十分なだけ短い、第1の方向とは異なる第2の方向の第2の周期とを備える。本発明によれば、第1のゾーンでの格子構造と第2のゾーンでの格子構造は、第2の方向に異なる変調特徴を有する。この種のサブ波長変調は、第1の方向に回折する光に関して第1のゾーンと第2のゾーンで異なる回折効率を生じる。
【0011】
本発明の回折ウェーブガイドは、光導波路、すなわちライトガイドとして作用することができる本質的に平坦な基板と、基板内に又は基板上に配置され、基板へ、基板内へ、又は基板外へ光を結合することができる前述の種類の少なくとも1つの回折格子とを備える。
【0012】
本発明の回折ディスプレイ装置は、画像を提示することができる画像ソースと、画像ソースにより提示された画像を再現するように構成された前述の種類の入力結合格子、出力結合格子、及び/又は射出瞳拡大素子格子を備える回折ウェーブガイドとを備える。特に、画像ソースは、或る出力波長又は波長範囲を有し、格子の第2の周期は、第2の方向の回折を防ぐために画像ソースのサブ波長領域内にある。
【0013】
本発明の前述の種類の回折格子を備える回折ディスプレイ上に画像を表示するための方法は、第1の回折効率を有する光学干渉を生じさせるために格子の第1のゾーンに光を誘導することと、第1のゾーンと第2のゾーンの異なるサブ波長変調特徴に少なくとも部分的に起因して第1の回折効率とは異なる第2の回折効率を有する光学干渉を生じさせるために格子の第2のゾーンに光を誘導することを含む。
【0014】
本発明はまた、格子の回折効率を調節するために第1の方向に対して非平行である第2の方向の、回折が起こる第1の方向を有する格子のサブ波長周期パターニングの使用に関する。特に、サブ波長周期パターニングは、二次方向の格子のフィルファクタ変調と組み合わせることができる。
【0015】
特に、本発明は、独立請求項に記載の事項によって特徴付けられる。
【0016】
本発明は顕著な利点を与える。第1に、本発明は、一般に非常に困難とされる構造体の高さ変調の必要なしに、回折効率の大きい変調能力を可能にする。特に、本発明は、高さ変調なしであっても、一次回折方向の同時のフィルファクタ変調及び高さ変調を用いて以前に達成されたものと同様の回折効率調節範囲を達成することを可能にする。したがって、本発明は、退屈な格子高さ調節の必要性をなくし、これを例えば一次格子方向の格子の垂直方向のフィルファクタのサブ波長変調に置き換えるために用いることができる。
【0017】
回折効率への影響を有する全く新しい設計オプションを提供することにより、本発明は、回折効率を自由に調節することができる回折格子の設計パラメータの要望に対処する。新しい設計パラメータであるサブ波長変調は、特にディスプレイ用途での回折効率の局所的調節を支援する。例えば、回折NED又はHUDの入力結合格子、射出瞳拡大素子格子、及び/又は出力結合格子に適用すると、結果的に得られる画像のカラーバランス、画像均一性、及び/又は効率(輝度)を最適化することができる。
【0018】
光学サブ波長分解能を有する構造体の生産に容易に適合するそれ自体が利用可能な製造技術が存在するので、本発明は大量生産に適用可能である。製造能力に関しては、特に有利な実施形態は、少なくとも第2の方向の変調が、純粋なフィルファクタ変調である、すなわち、高さ変調なしのものである。
【0019】
本発明は、格子の第2の横次元を、第1の横次元の回折効率の変調に役立つように利用する。これらの両方の方向に周期性があるにもかかわらず、格子は、選択された波長又は波長範囲に関して依然として一次元格子のままである。第2の方向の変調特徴の変化の影響が、後で一例として例解される。基本的に、ゼロから最大までの回折効率の調整範囲(第1の方向の選択された格子パラメータで)が達成可能である。
【0020】
従属請求項は、本発明の選択された実施形態に向けられる。
【0021】
いくつかの実施形態では、第1のゾーンと第2のゾーンは、前記第2の方向に異なるフィルファクタ変調特徴を有する。いくつかの実施形態では、これは第2の方向に用いられる唯一の変調方法であり、高さの局所的修正が必要とされないため、製造プロセスをより簡単にする。しかしながら、第1のゾーンと第2のゾーンが、フィルファクタ変調に加えて又はその代わりに、第2の方向に異なる高さ変調特徴を有することは除外されない。
【0022】
いくつかの実施形態では、第1のゾーンと第2のゾーンは、第1の方向及び/又は第2の方向に同じ周期を有する、すなわち、これらの方向の一方又は両方に周期変調は存在しない。しかしながら、第1のゾーンと第2のゾーンが第1の方向及び/又は前記第2の方向に異なる周期を有することは除外されない。
【0023】
いくつかの実施形態では、格子構造は、2.0よりも高いなどの、1.7よりも高い屈折率を有する材料で少なくとも部分的に作製され、材料は、好ましくは、金属酸化物などの酸化物材料又は窒化物材料、例えば、TiO、SiO、Si、又はHfOである。これらの材料は、高屈折率基板上の高品質の格子の生産を可能にする。
【0024】
いくつかの実施形態では、第1及び第2のゾーンの格子構造は、格子の横平面内で矩形、楕円形、又は卵形の断面形状を有するピラーなどのピラーを備える。いくつかの実施形態では、ピラーは、平坦な又は傾斜した頂部を有する。
【0025】
いくつかの実施形態では、第1の周期は光学回折閾値よりも長く、第2の周期は前記光学回折閾値よりも短く、前記光学回折閾値は、例えば100~700nmの範囲から選択される。
【0026】
いくつかの実施形態では、第1及び第2のゾーンは、それぞれ、0.01mm乃至100mmなどの、少なくとも0.001mmの側面積を有する。
【0027】
少なくとも隣接するゾーン又はさらにはすべての他のゾーンと比較して、第2の方向に異なる変調特徴を有するゾーンの数は、単一の格子において、3~1000など、例えば2~1000、例えば10~100とすることができる。
【0028】
次に、本発明の実施形態及びその利点を、添付の図面を参照しながらより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
図1】本発明のいくつかの実施形態に係る効率変調のために用いられる格子の幾何学的形状の図式的表現を示す。
図2A】y方向の1のフィルファクタを有する二次元格子として表される、従来の一次元ブレーズド格子を示す。
図2B】本発明の一実施形態に係る各2D格子セルでの格子面積のサイズを減少させることにより回折効率が修正されているブレーズド格子を示す。単位セル内部の残りの構造は円形の平面内形状を有する。
図3】ピクセル化された入力結合(G)格子、射出瞳拡大(G)格子、及び出力結合(G)格子を有する回折NEDライトガイドを例解する。
図4A】バイナリ1D格子の第1の透過次数の回折効率が格子高さの関数としてどのように変化するかの一例を示す。
図4B】1D格子の第1の透過次数の回折効率が格子フィルファクタの関数としてどのように変化するかの一例を示す。
図5】y方向のサブ波長周期を有する二次元格子として表される1Dバイナリ格子の第1の透過次数の回折効率がy方向のフィルファクタの関数としてどのように変化するかを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
定義
「第1の方向」及び「一次方向」は、関係する特定のゾーンにおいて実際の回折が起こる格子の方向、すなわち、格子パターンの周期性が光学回折範囲内にある方向を指す。
【0031】
「第2の方向」及び「二次方向」は、回折効率の変調のために用いられる格子パターンのサブ波長周期性の方向を指す。
【0032】
「横」及び「平面内」は、第1の方向と第2の方向により画定される平面を指す。通常、これは、その上に格子が製造される平坦な基板の平面に対応する。「法線」方向は、横平面に垂直な方向を指す。
【0033】
「ゾーン」(「第1のゾーン」及び「第2のゾーン」など)という用語は、横平面内の格子の領域を指し、該領域は、各ケースにおいて言及される特徴、特に、サブ波長変調特徴を有する。通常、ゾーンは離散的であり、変調特徴は各領域内で一定であり、領域の境界で段階的に変化する。しかしながら、例えば、連続変調格子も本発明の範囲内である。
【0034】
「フィルファクタ」という用語は、格子周期内の格子構造材料と周囲材料(例えば、異なる屈折率を有する空気又は他の固体材料)との比率を指す。典型的な矩形の格子線のケースでは、これは線幅と周期幅との比率に等しい。その結果、「フィルファクタ変調」は、格子の横次元、すなわち、周期構造の周期間でのフィルファクタの変化を指す。
【0035】
同様に、「高さ変調」は、格子の法線方向の格子の構築ブロックの高さの変化を指す。例えば、ピラーのアレイのケースでは、要素の高さは、線の頂部(ピラー頂部)と隣接するピット(谷底)との間の法線方向の距離である。
【0036】
「変調特徴」は、一般に、フィルファクタ変調又は高さ変調に、従って回折効率に影響を与える格子の任意の幾何学的特性を指す。
【0037】
「サブ波長」周期構造は、回折次数、特に、すべての可視光波長などの、特定の用途に用いられる波長の、第1の透過次数などの第1の回折次数を回折が伝搬するのを防ぐのに十分なだけ短い基本次元を有する構造を指す。対応して、サブ波長変調は、サブ波長周期構造の変調を指す。
【0038】
選択された実施形態の説明
図1は、直交する幾何学的形状のサブ波長変調格子を例解する。格子は、その横平面内に、x方向の行及びy方向の列に配列された、複数の単位セル(点線境界)を備える。格子は、垂直方向に2つの周期d及びdを有し、該周期が単位セルのサイズを定義する。第1の方向の周期(このケースではx方向の周期d)は、この方向に回折が起こるように選択される。第2の方向の周期(y方向のd)は、該方向に伝搬する回折次数が存在しないほど小さくなるように選択される。
【0039】
各単位セルは、それぞれx方向及びy方向にl及びlの横サイズを有する構築ブロック、すなわち、格子特徴11A、11B、12A、12Bを備える。x方向のフィルファクタはf=l/dであり、y方向ではf=l/dである。フィルファクタfは、本発明の原理によれば、効率変調のために用いることができる。
【0040】
=1の選択は、結果的に従来の一次元格子、すなわち、y方向に連続する格子線を有する格子をもたらすことに注目されたい。格子のいくつかのゾーンは、実際にf=1を有してよく、一方、少なくともいくつかの他のゾーン、通常は複数の他のゾーンは、f<1を有する。
【0041】
格子の構築ブロック、すなわち、格子特徴11A、11B、12A、12Bは、任意の所望の幾何学的形状を有してよい。図1の右手側に示すように、構築ブロックは、例えば、以下であってよい:
- 例示的な単位セル1Aに示される、一定の高さを有する矩形ピラー(バイナリピラー)、
- 単位セル1Bに示されるように、随意的に異なる幅及び/又は高さを有するいくつかの矩形バイナリピラー、
- 単位セル1Cに示されるように、異なる高さhを有するいくつかのピラー又は接続された区域(個別の高さのピラー)、
- 単位セル1Dに示されるように、高さ勾配(連続的に変化する高さ)を有する1つ以上の区域、又は
- これらの任意の可能な組み合わせ。
【0042】
また、ピラー又は任意のサブピラーの横方向の形状は、矩形の形状から逸脱することができる。他の典型的な形状は、円形、楕円形、及び三角形の形状を含むが、形状は、ほぼ任意とすることができる。
【0043】
前述の原理に続いて、任意の一次元格子(例えば、バイナリ格子、ブレーズド格子、傾斜型格子、多層格子)の回折効率は、格子単位セル内部の格子構造の平面内形状面積を変化させることにより変調することができる。第2の方向の単位セルサイズは、第2の方向に回折次数が存在しないほど小さくされる必要がある。これにより、効率変調の調節範囲が広がる。
【0044】
注目に値するのは、第2の方向の単位セルサイズよりも長い波長に関して、格子が一次元格子として現れる、すなわち、第2の方向に回折結合が存在しないことである。
【0045】
第1の方向と第2の方向が90度逸脱する、直交する幾何学的形状の代わりに、それに沿ってサブ波長変調が行われる第2の方向は、第1の方向に対して任意の他の傾斜した角度をなすことができることに注目されたい。
【0046】
図2A及び図2Bは、従来のブレーズド格子(図2A)の回折効率が単位セル内部の格子構造のサイズを減少させることにより修正されている一例を示す(図2B)。単位セル内部の残りの構造は、円形の平面内形状を有する。図2Aでは、格子線は、第2の方向に沿って連続する線(フィルファクタ=1)であるが、例解目的のために想像上の単位セルがそこに示されている。図2Bの格子は、単位セルの第2の次元により決まる周期よりも高い波長に関して依然として一次元格子であるが、その回折効率は、各単位セルでの格子面積のサイズを減少させることにより修正されることに注目されたい。
【0047】
格子構造の材料は、有機又は無機透明材料であり得る。一実施形態によれば、有機材料、特に、金属酸化物又は金属窒化物などの金属化合物が用いられる。特に、最終的な材料は、その屈折率が2.2以上などの2.0以上の材料を含み得る。材料は、例えば、TiO、SiO、Si、又はHfOとすることができる。
【0048】
その上に格子構造が製造される基板は、好ましくは、ガラス基板又はポリマー基板などの光学的に透明なものである。透明とは、本明細書では、50%よりも高い、特に95%よりも高い透過率を意味する。ディスプレイ用途に関して、基板は、平坦であって、可視光学波長のためのウェーブガイドとして作用することができる、すなわち、それらが内部全反射により基板内で伝搬できるようにすることが好ましい。
【0049】
典型的な実施形態では、格子構造材料は、基板材料よりも高い屈折率を有する。これは、基板内を内部全反射により移動する光が、格子の位置で基板を出ること及び回折が起こることを可能にする。例えば、基板の屈折率は2.0よりも小さくすることができ、格子材料の屈折率は2.0よりも大きくすることができる。
【0050】
格子の周期は、第1の方向に、通常10μm以下、特に、200~800nmなどの1μm以下であり、一方、第2の方向にはそれよりも短い。一定周期の格子に加えて、本発明は、その周期がいずれかの方向に変調される格子と組み合わせて用いることができることに注目されたい。すなわち、周期は、格子の横次元において一定である必要がある。
【0051】
必要であれば、格子は、光学構造体に組み込む、すなわち、1つ以上の付加的な層で覆う又は被覆することができる。
【0052】
本発明は、ウェアラブルディスプレイ用途、例えば、バーチャルリアリティ又は拡張現実眼鏡などのディスプレイ用途のための格子を製造するのに用いることができる。回折格子は、例えば、目に近接したディスプレイ(NED)又はヘッドアップディスプレイ(HUD)の出力結合格子、入力結合格子、又は射出瞳拡大素子(EPE)格子であり得る。
【0053】
特にディスプレイ用途では、製造される格子パターンの面積は、2~500cmなど、通常は少なくとも1cmである。現在議論している方法を用いて達成される異なる回折効率を有するゾーンの数は、例えば、2~100などの、2~1000とすることができるが、より多くすることもできる。ゾーンは離散的ではないが、格子のサブ波長変調は、第2の方向に沿って連続的に変化させることも可能である。
【0054】
本発明は、単一のデバイス内の横方向の一方又は両方のいずれかにおける格子位置の関数として、各格子の効率を局所的に変調するのに用いることができることにも注目されたい。例えば、図3は、その上面上に3つの格子領域G、G、G:入力カプラG、水平方向の射出瞳拡大素子G、及び出力カプラGを有する、ライトガイド30を示す。この種の設計は、例えばNEDに適する。これらの格子領域のそれぞれは、通常は、20μmなどの数十マイクロメートルから10mmなどの数ミリメートルの横次元を有する複数の矩形ゾーン32、すなわち、「ピクセル」へ分割される。ピクセルは、他の形状、例えば三角形又は多角形を有することもできる。ピクセルサイズは、局所的に変えることができる。各格子領域G、G、Gは、独自の基本格子形状を有するが、格子単位セル内部の面積サイズは、ピクセルごとに変化する。局所面積フィルファクタ及び平面内フィル形状は、十分なカラーバランス、画像均一性、及びアイボックスを上回る効率を有するNEDディスプレイを得るべく各ピクセルで最適化される。当然、本発明のサブ波長変調ゾーン技術により格子領域G、G、Gのうちの1つのみ又は2つを提供することも可能である。
【0055】
図4A及び図4Bは、高さ変調及びフィルファクタ変調を用いて誘電体バイナリ格子の第1の透過次数の回折効率をどのように変調することができるかを示す。数値結果は、フーリエモード法(厳密結合波解析としても知られている)で得られた。バイナリ格子は、空気と2.0の屈折率を有するガラス基板との境界面上にあり、格子周期は500nmであり、フィルファクタは0.5であり、格子は基板と同じ材料で作製される。格子は、垂直入射で450nmの自由空間波長を有する平面波を照射される。結果は、横方向の電気分極(TE)と横方向の磁気分極(TM)との両方に関して示される。図4Aでの格子フィルファクタは0.5であり、図4Bでの格子高さは250nmである。図5は、x方向(一次方向)の格子高さ及びフィルファクタがそれぞれ150nm及び0.5に固定されるときの、y方向(二次、すなわち、サブ波長方向)のフィルファクタ変調により回折効率をどのように変調することができるかの比較を示す。y方向の格子周期は200nmである。
【0056】
図4A及び図4Bは、高さ変調及びフィルファクタ変調が、一般に、回折効率に対して大きな影響を有することを示す。一方、図5は、所与の格子パラメータに関して、本発明のサブ波長変調方式が、所与のパラメータを用いて達成可能なゼロから最大効率までの広い範囲内で回折効率を調整する能力を与えることを示す。サブ波長変調の1つの利点は、例えば一次方向の同時のフィルファクタ変調と高さ変調を用いる調整と比較して、サブ波長フィルファクタの関数としての、回折効率のかなり線形の挙動である。
【0057】
先行技術文献
非特許文献
C. David, “Fabrication of stair-case profiles with high aspect ratios for blazed diffractive optical elements”, Microelectronic Engineering, 53 (2000)
図1
図2A
図2B
図3
図4A
図4B
図5