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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】足浴用容器
(51)【国際特許分類】
   A61H 35/00 20060101AFI20230511BHJP
   A61H 33/00 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61H35/00 F
A61H33/00 310C
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2020207991
(22)【出願日】2020-12-15
(65)【公開番号】P2022094864
(43)【公開日】2022-06-27
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】511036439
【氏名又は名称】公立大学法人三重県立看護大学
(74)【代理人】
【識別番号】100174090
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 光
(74)【代理人】
【識別番号】100205383
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 諭史
(74)【代理人】
【識別番号】100100251
【弁理士】
【氏名又は名称】和気 操
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 真
(72)【発明者】
【氏名】長谷川 智之
【審査官】齊藤 公志郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-130633(JP,A)
【文献】特開2010-172680(JP,A)
【文献】特開平11-253518(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61H 33/00-35/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部に湯水を溜める容器本体と、被術者の膝または大腿部に前記容器本体を固定する固定部材とを備えてなる足浴用容器であって、
前記容器本体は、軟質のシート材からなり、術者の手を挿入できる、該容器本体の上方向に開口した2以上の独立した開口部を有し、
前記開口部のうち少なくとも一つが、前記被術者の足を挿入する足用開口部であり、
前記固定部材は、前記容器本体の前記足用開口部側に設けられ
前記足用開口部は、前記被術者の足とともに前記術者の手を挿入する開口部であることを特徴とする足浴用容器。
【請求項2】
内部に湯水を溜める容器本体と、被術者の膝または大腿部に前記容器本体を固定する固定部材とを備えてなる足浴用容器であって、
前記容器本体は、軟質のシート材からなり、術者の手を挿入できる、該容器本体の上方向に開口した2以上の独立した開口部を有し、
前記開口部のうち少なくとも一つが、前記被術者の足を挿入する足用開口部であり、
前記固定部材は、前記容器本体の前記足用開口部側に設けられ、前記容器本体の前記足用開口部側から前記被術者の膝または大腿部に向けて延出し、前記被術者の膝または大腿部の上に掛けられた後に、前記被術者の足の荷重がかかる前記容器本体の下に通される部材であることを特徴とする足浴用容器。
【請求項3】
前記足用開口部は、他の開口部よりも高い位置に設けられ、
前記容器本体は、前記足用開口部と、前記他の開口部の少なくとも1つとを隔てるシート材からなる段差部を有することを特徴とする請求項1または請求項2記載の足浴用容器。
【請求項4】
前記容器本体は、前記足用開口部を上部に有する上方筒部を備え、
前記上方筒部は、前記段差部と前記容器本体の左右両側の側面部とからなり、
前記上方筒部のうち前記段差部に対向する部分の傾斜角度が、90°~160°であることを特徴とする請求項3記載の足浴用容器。
【請求項5】
前記容器本体の底面部は、マチ折り形状であることを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか1項記載の足浴用容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、入院中の患者や寝たきり状態の人の足の洗浄に用いる足浴用容器に関する。
【背景技術】
【0002】
入院中の患者や、寝たきり状態の人(以下、「患者など」という。)は、環境的、身体的に入浴が困難な場合がある。その場合、患者などの身体を清潔に保つため、看護者や、介護者により患者などの身体を濡れタオルで拭く作業が行われている。特に、身体の中でも汚れの溜まりやすい手足に対しては、濡れタオルで拭く作業だけでなく、部分浴による洗浄が行われる場合がある。ここで、部分浴とは、容器に溜めた湯水の中に身体の中の一部分である手足を浸漬することで、手足を温めたり、洗浄したりすることをいう。手を浸漬する場合は手浴といい、足を浸漬する場合は足浴という。足浴は、血行促進のほか、白癬菌の対策にも有効である。
【0003】
従来、このような部分浴に用いられる部分浴用容器として、ベースンや、洗面器、バケツ、または部分浴に適した形状や素材で構成された部分浴専用容器などが利用されている。
【0004】
このほかにも、例えば、特許文献1には、手足を包み込むことができる水受け袋を有するベッド用手足専用洗い袋が提案されている。本特許文献には、寝たきりの人の手足をベッドサイドで容易に洗浄できる旨が記載されている。
【0005】
また、特許文献2には、患者などの手足を挿入する挿入口が、看護者などの手を挿入する挿入口とは独立して設けられた部分浴用容器が提案されている。本特許文献には、洗浄を行う術者用の開口部と、洗浄を行われる被術者用の開口部のそれぞれの大きさと位置が、所定の大きさ、所定の位置となるように設けられているので、容器内の湯水がこぼれにくく、作業性に優れる旨が記載されている。また、それにより、手浴や足浴などの部分浴を実施するに際して、被術者や、術者の負担が軽減され得る旨が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2010-172680号公報
【文献】特開2020-130633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記ベースンや、洗面器を用いてベッドの上で患者などに部分浴を行う場合、一般的に、患者などが上を向いて寝た状態(以下、「仰臥位」という。)で行う。仰臥位での部分浴では、手足それぞれの構造的な違いから、手足が容器に挿入される角度や、手足の可動範囲、容器への荷重の掛かり方が異なる。特に、足浴の場合、膝を立て、屈曲させた状態で行う必要があるが、容器に挿入される膝下部が容器の縁と干渉し、作業性が低い場合がある。また、足浴用専用容器は患者などの足と干渉しにくい形状であるが、価格が高く、患者毎の専用の容器として用いることが困難である。そのため、患者間で共用することとなり、衛生状態の維持に負担がかかる場合がある。
【0008】
特許文献1記載のベッド用手足専用洗い袋の場合、一つの大きい開口部から術者が両手を挿入して足などを洗浄するため、湯水がこぼれやすく、作業性が低下するおそれがあると考えられる。
【0009】
特許文献2記載の部分浴用容器の場合、上述の通り作業性に優れるとともに、手浴、足浴問わずに用いることができ汎用性に優れる。看護や介護の業界においては、汎用性に優れる部分浴用容器のニーズがある一方、各洗浄部位に特化した部分浴用容器の開発も望まれている。例えば、足浴では、術者は被術者の踵を持ち、膝下部の重みを支えながら被術者の足を容器内に挿入したり、足を洗浄したりする。そのため、足浴用容器には、術者が、被術者の足の洗浄だけでなく、足の重みを支えやすく、足の挿入もしやすい容器形状であることが好ましい。
【0010】
本発明はこのような背景に鑑みてなされたものであり、患者などに対して足浴を施術する際に容器から湯水がこぼれにくく、低コストで、優れた作業性を有する足浴用容器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の足浴用容器は、内部に湯水を溜める容器本体と、被術者の膝または大腿部に容器本体を固定する固定部材とを備えてなり、上記容器本体は、軟質のシート材からなり、術者の手を挿入できる、該容器本体の上方向に開口した2以上の独立した開口部を有し、上記開口部のうち少なくとも一つが、被術者の足を挿入する足用開口部であり、上記固定部材は、上記容器本体の上記足用開口部側に設けられることを特徴とする。
【0012】
上記足用開口部は、上記被術者の足とともに上記術者の手を挿入する上記足用開口部であることを特徴とする。
【0013】
上記足用開口部は、他の開口部よりも高い位置に設けられ、上記容器本体は、上記足用開口部と、他の開口部の少なくとも1つとを隔てるシート材からなる段差部を有することを特徴とする。
【0014】
上記容器本体は、上記足用開口部を上部に有する上方筒部を備え、上記上方筒部は、上記段差部と上記容器本体の左右両側の側面部とからなり、上記上方筒部のうち上記段差部に対向する部分の傾斜角度が、90°~160°であることを特徴とする。
【0015】
上記容器本体の上記底面部は、マチ折り形状であることを特徴とする。
【0016】
上記固定部材は、上記容器本体の上記足用開口部側から被術者の膝または大腿部に向けて延出し、被術者の膝または大腿部の上に掛けられた後に、被術者の足の荷重がかかる前記容器本体の下に通される部材であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
本発明の足浴用容器は、容器本体が軟質のシート材からなり、術者の手を挿入できる、該容器本体の上方向に開口した2以上の独立した開口部を有し、開口部のうち少なくとも一つが、被術者の足を挿入する足用開口部であるので、容器本体と足との干渉が起こりにくく、作業性に優れる。また、固定部材は、容器本体の足用開口部側に設けられるので、被術者の膝または大腿部に容易に固定でき、足浴を施術する際に容器本体から湯水がこぼれにくい。さらに、容器本体が軟質のシート材からなるので、足浴用容器を低コストで製造でき、使い捨てでの使用や、患者毎の使い分けなどが可能となり、衛生状態維持のための負担が軽減する。
【0018】
足用開口部が、被術者の足とともに術者の手を挿入する足用開口部であるので、被術者の足と術者の手が近接でき、より作業性に優れる。
【0019】
足用開口部が、他の開口部よりも高い位置に設けられ、容器本体が、足用開口部と、他の開口部の少なくとも1つとを隔てるシート材からなる段差部を有するので、容器本体から湯水がよりこぼれにくく、作業性に優れる。
【0020】
容器本体が、足用開口部を上部に有する上方筒部を備え、上方筒部が、段差部と容器本体の左右両側の側面部とからなり、上方筒部のうち段差部に対向する部分の傾斜角度が、90°~160°であるので、足用開口部から挿入された術者の一方の手と、他の開口部から挿入された術者の他方の手とが容器本体内の湯水の中で交わることができる。それにより、被術者の足をより洗浄しやすく、作業性に優れる。
【0021】
容器本体の底面部が、マチ折り形状であるので、当該底面部の幅を自由に調整できる。それにより、本体容器内の湯水の量が患者に適した量となるように調整できるため、より作業性に優れる。
【0022】
固定部材が、容器本体の足用開口部側から被術者の膝または大腿部に向けて延出し、被術者の膝または大腿部の上に掛けられた後に、被術者の足の荷重がかかる容器本体の下に通される部材であるので、固定部材を結ぶことなく、足浴用容器を被術者の足に固定できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】第1実施形態の斜視図である。
図2】第1実施形態の側面図である。
図3】第1実施形態の使用時の側面図である。
図4】第1実施形態の非使用時の側面図である。
図5】第2実施形態の使用時の斜視図である。
図6】第2実施形態の使用時の模式図である。
図7】第2実施形態の異なる固定方法の模式図である。
図8】第2実施形態の使用時の写真である。
図9】第3実施形態および第4実施形態の非使用時の側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
本発明に係る足浴用容器の第1実施形態を図1図4に基づいて説明する。
図1は、仰臥状態の被術者が足浴をする際に用いることができる足浴用容器の斜視図である。図2は、足浴用容器の側面図である。なお、「前」、「後」、「左」、「右」、「上」、「下」は、足浴用容器の使用時に被術者側から足浴用容器を見た場合の方向を示す(図1参照)。
図1および図2に示すように、足浴用容器1は、内部に湯水を溜める容器本体2と、被術者の膝または大腿部に容器本体2を固定する固定部材3を備えている(図2では、固定部材の図示省略)。本発明において「湯水」とは、湯や水、および、必要に応じてこれに洗浄剤を含むものである。
【0025】
容器本体2は、2つのシート材から構成されている。1つは湯水を溜める袋を構成する袋用シート材であり、もう一つは、容器本体2の上部の対向する縁同士を繋げる段差部用シート材である。袋用シート材および段差部用シート材は、それぞれ独立した一枚のシート材で、例えば、厚み0.05mmの半透明なポリエチレン製のシート材である。
【0026】
容器本体2は、術者の手を挿入できる、容器本体2の上方向に開口した2つの独立した開口部4を有する。開口部4のうち1つは、被術者の足を挿入する足用開口部4aである。足用開口部4aは、他の開口部4a’よりも、例えば約10cm高い位置に設けられている。また、足用開口部4aおよび他の開口部4a’の内径は、例えば、それぞれ約25cmである。足用開口部には、被術者の足とともに術者の手を挿入してもよい。また、足用開口部には、被術者の足のみを挿入し、他の開口部には術者の手のみを挿入してもよい。
【0027】
容器本体2は、足用開口部4aと、他の開口部4a’とを隔てる段差部5を有する。段差部5には、容器本体2と同種のシート材が用いられている。段差部5は、容器本体2の上部の対向する左右の縁と熱圧着され、左右両側の側面部6を繋ぐように固定されている。これにより、一つの大きな開口部が、足用開口部4aと、他の開口部4a’の2つの開口部4となる。各シート材同士を熱圧着で繋げることは、容器本体からの水漏れが起こりにくくなるため、好ましい。なお、各シート材同士の接続には、熱圧着に限らず接着剤などを用いてもよい。
【0028】
他の開口部4a’の縁、および他の開口部側の段差部5の縁はともに、シート材が外側に例えば約5mm折り畳まれ、熱圧着されることで2層構造となっている。これにより、縁の強度が増すので、容器本体の形状が維持されやすくなり、湯水がこぼれにくい。なお、この開口部や段差部の縁における折り畳みは、必須ではない。シート材の厚みが、例えば0.1mmよりも厚く、シート材一枚で必要な強度が確保できる場合、縁の折り畳みを行わなくてもよい。一方、シート材の厚みが、例えば0.1mmよりも薄く、シート材一枚では必要な強度の確保が困難な場合、シート材の縁を折り畳んで、縁を多層構造とすることが好ましい。縁を折り畳む場合の折り畳み部の幅は、強度確保と、製造工程の簡素化、およびシート材の効率的利用の観点から、2mm~3cmであることが好ましい。
【0029】
容器本体2の上方の筒部である上方筒部7は、上部に足用開口部4aを有する。上方筒部7は、段差部5と、容器本体2の左右両側の側面部6とが部分的に線状に熱圧着されてなる筒状の部分である。図2に示す例では、上方筒部7における段差部5に対向する部分である傾斜部8と、容器本体の底面部9のなす角度θ(以下、「傾斜角度」という。)は、約120°である。傾斜角度θは、90°~160°の範囲内であることが好ましい。それにより、被術者の足のふくらはぎと傾斜部8との干渉、および容器本体の変形が起こりにくくなるので、湯水が容器本体からこぼれにくくなる。また、足用開口部から術者の手を挿入した場合、挿入された術者の一方の手と、他の開口部から挿入された術者の他方の手とが容器本体内の湯水の中で交わることができ、作業性により優れる。
【0030】
固定部材3は、例えば、幅約3cm、長さ約70cmの紐状の部材である。図1に示すように、固定部材3は、足用開口部4aの縁の外側に設けられている。図1に示す例では、固定部材3は、容器本体2および段差部5と同種のシート材で、容器本体2の左右両側の側面部6の外側にそれぞれ1つずつ熱圧着されている。左右の固定部材3は、被術者の膝関節の上で結ばれることにより、足浴用容器が被術者の足に固定される。足浴用容器が簡易な構造で構成され、すべての部材が同種の素材からなるので、低コストで製造できるとともに、廃棄処理が容易である。これにより、使い捨てでの使用に好適であり、衛生状態維持のための負担を軽減できる。
【0031】
固定部材の幅および長さは自由に設定できる。固定部材の幅および長さとしては、例えば、左右の固定部材を被術者の膝関節の上で結ぶ場合、固定部材の扱いやすさの観点から、幅は2cm~3cm、長さは30cm~80cmであることが好ましい。また、後述する、膝関節の上から大腿下部を一周し、被術者の足に巻き付けて膝関節の上で結ぶ場合、固定部材の長さは、80cm~150cmであることが好ましい。
【0032】
固定部材の被術者の足への固定の方法としては、固定部材同士を結ぶ方法のほか、例えば、いずれか一方の固定部材にアジャスターとしてバックルなどを設け、固定部材の長さを調整してもよい。固定部材は、傾斜部および固定部材それぞれの長軸方向が同じ方向となるように容器本体に設けることが好ましい。これにより、固定部材が容器本体に接続する部分である接続部に無理な負荷がかからず、足浴用容器の耐久性が向上する。また、固定部材は、1本の固定部材の両端を容器本体の左右両側の側面部に設けるなどしてもよい。固定部材を容器本体に設けるための接続の方法は、上記熱圧着に限られず、容器本体に空けたスリットへ固定部材を通すなどの方法でもよい。また、固定部材には、容器本体とは異なる部材を用いてもよい。例えば、耐久性の観点から、ナイロンベルトなどを用いてもよい。
【0033】
第1実施形態の足浴用容器を用いた足浴の施術について、図3を用いて説明する。図3は、仰臥状態の被術者が、湯水を溜めた足浴用容器の中で足を洗浄している状態の側面図である(湯水は図示省略)。足浴の施術においては、まず、被術者の足を足浴用容器1に挿入する。その際、術者は手で被術者の踵を支えながら、足用開口部4aから被術者の足とともに術者の手を足浴用容器1の中に挿入する。被術者の足と術者の手が一つの開口部から挿入できるため、足と手が近接でき、術者は被術者の足の重みを支えやすく、作業性に優れる。
【0034】
被術者の足を容器本体2の中へ挿入した後、足浴用容器1の中に、やかんなどを使い、約2.5Lの湯水を入れる。被術者の足を足浴用容器1の中に挿入した後、被術者の膝に固定部材3を固定する。具体的には、足用開口部4aの左右両側の縁から延出する固定部材3を被術者の膝関節の上で結び付けることにより、足用開口部が下に落ちないように固定する。固定部材は、容器本体の足用開口部側に設けられるので、被術者の膝または大腿部に容易に固定でき、足浴を施術する際に容器本体から湯水がこぼれにくい。
【0035】
被術者の足を洗浄する際は、術者は一方の手を足用開口部4aから容器本体2の中へ挿入し、もう一方の手を他の開口部4a’から容器本体2の中へ挿入し、被術者の足を洗浄する。足用開口部4aは、他の開口部4a’よりも高い位置に設けられ、容器本体2は、足用開口部4aと、他の開口部4a’のうちの少なくとも1つとを隔てるシート材からなる段差部5を有するので、容器本体2の上方筒部7が被術者の膝下部を全体的に覆い、容器本体2から湯水がこぼれにくい。また、他の開口部4a’は、足用開口部4aよりも低い位置に設けられるので、足先の洗浄のために他の開口部側の手を動かしやすく、作業性に優れる。なお、後述するように、足のつま先を洗浄する場合や、被術者の膝下部が大きい場合、両足を同時に洗浄する場合などは、足用開口部には被術者の足のみを挿入した状態で、術者は両手を他の開口部から容器本体の中へ挿入して足を洗浄してもよい。
【0036】
容器本体は軟質のシート材であるため、足浴用容器は適度に変形し、開口部が上方を向いた状態が維持される。また、段差部が容器本体の左右両側の側面部を繋げているため、開口部が所定の大きさ以上に拡がり過ぎることを制限し、容器内部の湯水がこぼれにくい。さらに、容器本体を透明なシート材(例えば、後述のポリエチレン製のシート材)とすることで、容器本体の中の足の状態を確認しながら洗浄でき、作業性に優れる。
【0037】
第1実施形態の非使用時の足浴用容器を図4に示す。図4は、右側の側面部と、左側の側面部とを重ねて畳んだ状態を右側から見た側面図である。
【0038】
袋用シート材は、容器本体2の側面部6および底面部9を構成する。袋用シート材は、中央部をマチ折りし、マチ折り部91が袋の底面部9となるように、非マチ折り部同士を重ね合わせた状態で、開口部となる両端部を除いた部分同士が熱圧着されている。マチ折り部91は、シート材が3つ折りされているので、足浴用容器1を立体化した際に底面部9の幅を自由に調整できる。これにより、被術者の足の大きさや、挿入する足の数に応じて適切な大きさの容器とし、本体容器内の湯水の量が被術者に適した量となるように調整できる。1回目と2回目の折り畳み幅と2回目と3回目の折り畳み幅は同じ幅である。折り畳み幅は、約10cmである。なお、製造工程の簡素化の観点から、底面部はマチ折りせず、1回折りとしてもよい。また、底面部には、強度確保の観点から、側面部よりも厚いシート材を用いるなどしてもよい。これにより、足浴用容器の破損による水漏れのおそれを低減できる。また、足浴用容器は、折り畳めばコンパクトになり、軽いので、非使用時は容易に持ち運ぶことができる。
【0039】
袋用シート材と段差部は、それぞれ別個のシート材を熱圧着する方法以外に、大判シートから袋用シートを切り出す際に、袋用シートと段差部が繋がった一枚のシートとして切り出し、該一枚のシートから足浴用容器を製造することもできる。これにより、部材の数が減るため、容器本体の製造工程がさらに簡素化され、さらに低コストで製造できる。
【0040】
容器本体および、固定部材を構成するシート材としては、湯水を浸透しない透明、または半透明の樹脂製シートを用いることができる。樹脂製シートとしては、軟質であるとともに、足浴中に破れない程度の所定の強度を有するシートであれば自由に選択できる。例えば、ポリエチレン製シートや、ナイロン製シートなどを選択できる。価格の観点からは、ポリエチレン製シートが安価であるため好ましい。
【0041】
本発明の第2実施形態の足浴用容器を、図5図9に基づいて説明する。なお、図1図4を用いて説明した第1実施形態と同一の構成の部分については詳細な説明を省略する。
【0042】
第2実施形態の足浴用容器では被術者の両足を同時に足浴できる。図5に、両足を足浴用容器の中へ挿入した状態の斜視図を示す。また、図6に、右側から見た場合の模式図(図6(a))、および正面側から見た場合の模式図(図6(b))を示す。なお、図6(b)において、左足側の足用開口部4bの縁から延出する固定部材については、説明上の便宜のために省略している。
【0043】
図5および図6に示すように、術者は、上述の第1実施形態の場合と同様の方法で被術者の足とともに術者の手を足用開口部4bに挿入して、被術者の両足を足用開口部4bから容器本体2bの中へ収める。その後、足の洗浄時には、術者はその他の開口部4b’から両手を挿入し、被術者の足を洗浄する。なお、容器本体2bの中に被術者の足を収めた後は、足用開口部4bの隙間を小さくして湯水のこぼれを抑制するために、紐などで上方筒部の口を縛るなどして、足用開口部を閉口してもよい。また、この場合でも、足用開口部を少し広げて、第1実施形態と同様に、足用開口部4bから術者の手を挿入して被術者の足を洗浄してもよい。
【0044】
第2実施形態の足浴用容器1bは、被術者の両足をまとめて足浴ができるため、作業性に優れる。足浴用容器1bは、2つの開口部4の縁に例えば約2cm幅の折り畳み部を備えているので、強度に優れ、足の動きによる変形がしにくく、形状保持性に優れる。なお、開口部の縁は、折り畳んだシート材とすることに限らず、所定の幅のシート材を熱圧着などにより、複数枚重ねて設けてもよい。
【0045】
固定部材3bは、足用開口部4bの左右両側の縁に端部が熱圧着され、該左右両側の縁から一本ずつ延出している。固定部材3bの長さは、例えば、それぞれ約150cmである。図6に示すように、固定部材3bは、左足側の足用開口部4bの縁から延出した場合、両足の膝関節の上に掛かりながら超えて右足側へ周り、容器本体2bの下(被術者の足の下)を通って再度左足側へ出る。これにより、被術者の足の荷重が固定部材3bにかかり、上方筒部には上方向への牽引力が作用し、被術者の足に容器本体2bが固定される。これにより、足浴用容器の形状が保持される。左足側の足用開口部の縁から延出した他方の固定部材も同様に固定することで、強固に足浴用容器を被術者の足に固定でき、足浴時の湯水のこぼれを抑制できる。なお、固定部材は、上述のように被術者の足の重みで固定するほか、被術者の膝関節の上で結んで固定してもよい。種々の固定法を状況に応じて選択できるよう、固定部材の長さは、例えば50cm~200cmであることが好ましい。また、固定部材は、容器本体の足用開口部側であれば、足用開口部の縁以外の場所から延出してもよい。
【0046】
足用開口部4bの左右両側の縁には、固定部材3bが上下方向に貫通できるスリット10が1つずつ設けられ、固定部材3bはスリット10を通って被術者の足を固定している。固定部材3bがスリット10を通って被術者の足を巻いて固定することにより、被術者が動いた場合でも固定部材3bがずれにくくなり、足浴用容器2bの形状がより保持されやすくなるため好ましい。
【0047】
図7を用いて、第2実施形態の容器本体と、一本の固定部材を用いて被術者の足に足浴用容器を固定する方法について説明する。図7(a)は、図6に示した足浴用容器から固定部材を除いた容器本体のみの側面図である。図7(b)は、図7(a)に示した容器本体と、容器本体に熱圧着されていない独立した一本の固定部材により、被術者の足を固定した状態を正面から見た模式図である。
【0048】
一本の固定部材3b’は、両端が自由端であり、長さが例えば約200cmである。固定部材3b’は、容器本体2bの2つのスリット10を通って被術者の足を巻き、両端を被術者の両足の下に通すことで被術者の足へ足浴用容器2bを固定できる。具体的には、固定部材3b’の一方の端部の上に両足を置き、固定部材3b’が右足側へ延出した場合、固定部材3b’を両足の膝関節の上を超えて、左足側のスリット10へ通し、再度両足の膝関節の上を超えて右足側のスリット10へ通し、さらにもう一度膝関節の上を超えて左足側を通り、両足の下を通すことにより、被術者の足へ足浴用容器を固定できる。
【0049】
このように、固定部材3b’は、容器本体2bの足用開口部4aの縁のスリット10へ固定部材3b’を通すことにより、足用開口部の縁に設けられる。固定部材3b’は、容器本体2bへの熱圧着が不要なため製造工程が簡素化され、低コストで製造できる。また、足への固定の際には、上述のように固定部材を結ぶ必要が無いので取扱いが簡易である。なお、固定の方法は上記に限られず、固定部材を結んで固定するなどしてもよい。
【0050】
図8に、第2実施形態の足浴用容器を用いて両足の足浴を行っている写真を示す。図8(a)は被術者の足を左前方から斜視した場合の写真で、図8(b)は被術者の足を前方から斜視した場合の写真である。足浴用容器1bの中には、被術者の足の甲の半分が浸る程度の湯水が溜められている。被術者の膝の下には足の状態を楽に維持できるようクッションが設けられ、足は安定した状態となっている。これにより、長時間の足浴でも足浴用容器から湯水がこぼれにくい。
【0051】
図9を用いて、第3実施形態および第4実施形態について説明する。図9(a)と図9(b)はそれぞれ、足浴用容器を折り畳んだ、非使用時の側面図である。図9(a)に示す第3実施形態の足浴用容器1cは、段差部5cの他の開口部4c’の側の一部が、他の開口部4c’に掛かって固定された補強部11を有する。補強部11は、段差部5cの他の開口部4c’の側の一部が、他の開口部4c’の縁のうち、足用開口部4cの側の縁と、熱圧着などで固定された部位である。これにより、段差部の他の開口部側の端部が他の開口部の縁から、より剥離しにくくなり、足浴用容器の耐久性が向上する。足浴用容器の耐久性が向上することにより、足浴時の足の挿入や、洗浄などの際に足浴用容器に力が掛かっても破損しにくくなるため、作業性が向上する。また、足浴用容器の耐久性の向上は、より長期間使用できる事にも繋がる。一つの足浴用容器を長期間使用できることは、足浴に要する費用の低コスト化に繋がり、患者毎に専用の足浴用容器を使用することもできる。
【0052】
また、図9(b)に示す第4実施形態の足浴用容器1dは、足用開口部4dと他の開口部4d’の高さが同じ高さとなっている。これにより、第1実施形態~第3実施形態に示したような各開口部の間の段差が無くなり、側面視した場合にシート材の縁が谷状に凹んだ箇所が無くなる。谷状に凹んだ箇所は、足浴用容器の使用時に力が集中しやすい箇所であるため、当該箇所を無くすことにより、足浴用容器の耐久性が向上する。
【0053】
その他、本発明の足浴用容器は、使用後の湯水を排出できるよう底面部にドレーンを設けてもよい。これにより、使用後の容器本体の洗浄が容易となり、繰り返し使用する場合でも衛生状態を維持しやすく、長期間に渡り使用できる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明の足浴用容器は、患者などに対して足浴を施術する際に容器から湯水がこぼれにくく、低コストで、優れた作業性を有するので、ベッド上での体勢変更が困難な患者などに、好適に用いることができ、看護や介護の現場で広く使用できる。
【符号の説明】
【0055】
1、1b、1c、1d 足浴用容器
2、2b 容器本体
3、3b、3b’ 固定部材
4 開口部
4a、4b、4c、4d 足用開口部
4a’、4b’、4c’、4d’ 他の開口部
5、5b、5c 段差部
6 側面部
7 上方筒部
8 傾斜部
9 底面部
91 マチ折り部
10 スリット
11 補強部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9