(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】管理装置、蓄電システム
(51)【国際特許分類】
H02J 7/00 20060101AFI20230511BHJP
H02J 7/02 20160101ALI20230511BHJP
H01M 10/48 20060101ALI20230511BHJP
H01M 10/44 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H02J7/00 Y
H02J7/02 H
H01M10/48 P
H01M10/44 P
(21)【出願番号】P 2020519508
(86)(22)【出願日】2019-04-05
(86)【国際出願番号】 JP2019015094
(87)【国際公開番号】W WO2019220804
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-03-18
(31)【優先権主張番号】P 2018093226
(32)【優先日】2018-05-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001889
【氏名又は名称】三洋電機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100123102
【氏名又は名称】宗田 悟志
(72)【発明者】
【氏名】中山 正人
(72)【発明者】
【氏名】迎 秀嗣
(72)【発明者】
【氏名】中川 陽介
(72)【発明者】
【氏名】伊東 将徳
【審査官】清水 祐樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-175705(JP,A)
【文献】特開2008-178186(JP,A)
【文献】特開2014-171379(JP,A)
【文献】特開2009-17657(JP,A)
【文献】特開2016-197115(JP,A)
【文献】特開2006-20382(JP,A)
【文献】特開2008-118777(JP,A)
【文献】特開2010-228523(JP,A)
【文献】国際公開第2015/011801(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/061153(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02J 7/00 - 7/12
H02J 7/34 - 7/36
H01M 10/42 - 10/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
直列接続された複数のセルのそれぞれの電圧を測定する電圧測定部と、
前記複数のセルのそれぞれに並列に接続される複数の放電回路と、
前記電圧測定部により測定された各セルの電圧が正常な範囲にあるか否か判定する異常判定回路と、
前記電圧測定部により測定された前記複数のセルの電圧をもとに、前記複数の放電回路を制御することにより、前記複数のセル間の均等化処理を実行する制御部と、を備え、
前記制御部は、前記複数のセル間の均等化処理の実行中、当該均等化処理の影響を受けずに前記複数のセルの電圧を測定するための第1放電停止期間を第1周期ごとに設けるとともに、前記第1周期より長い第2周期ごとに、前記異常判定回路によ
り前記複数のセルの電圧の少なくとも1つが正常な範囲を超えていると判定される状態が、ハードウェア停止処理を実行するために必要な時間以上、継続しているか否かを確定させるための第2放電停止期間を設けることを特徴とする管理装置。
【請求項2】
前記第2放電停止期間は、前記第1放電停止期間より長い期間が設定されることを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項3】
前記電圧測定部は、
第1電圧測定回路と第2電圧測定回路を含み、
前記第1電圧測定回路は、測定した前記複数のセルの電圧を前記制御部と前記異常判定回路に供給し、
前記第2電圧測定回路は、前記放電回路が接続されるととともに、測定した前記複数のセルの電圧を前記制御部に供給することを特徴とする請求項1に記載の管理装置。
【請求項4】
前記制御部はマイクロコンピュータを含み、
前記マイクロコンピュータは、前記電圧測定部から通信により取得した複数のセルの電圧の少なくとも1つが正常な範囲を超えているとき、上位の制御装置に異常検知信号を通知し、
前記異常判定回路は、前記複数のセルの電圧の少なくとも1つが正常な範囲を超えているとき、前記マイクロコンピュータによる停止処理に必要な時間以上の遅延時間が経過した後、
前記ハードウェア停止処理を実行することを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の管理装置。
【請求項5】
直列接続された複数のセルと、
前記複数のセルを管理する請求項1から4いずれか1項に記載の管理装置と、
を備えることを特徴とする蓄電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、直列接続された複数のセルの状態を管理する管理装置、蓄電システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ハイブリッド車(HV)、プラグインハイブリッド車(PHV)、電気自動車(EV)が普及してきている。これらの車両にはキーデバイスとして二次電池が搭載される。車載用の二次電池としてはリチウムイオン電池が主流となってきている。
【0003】
通常、リチウムイオン電池では安全性担保の観点から、直列接続された複数のセルの各電圧は電圧測定回路により常時監視される。電圧測定回路の各入力端子と複数のセルの各ノード(両端を含む)間がそれぞれ配線で接続され、電圧測定回路は、隣接する2本の配線間の電圧を測定して各セルの電圧を測定する。電圧測定回路で測定された各セルの電圧はマイクロコンピュータに送信され、各種の制御に使用されるとともに、各セルの電圧が正常な範囲にあるか否か監視される。
【0004】
またリチウムイオン電池では、電池の能力を最大限に発揮させるため、直列接続された複数のセル間において容量を均等化する均等化処理が実行される。複数のセル間の均等化処理はパッシブバランス方式が主流である。パッシブバランス方式では、直列接続された複数のセルの内、最も容量が少ないセルの容量に、他のセルの容量を合わせるように他のセルを放電する。
【0005】
均等化用の放電回路は、上記電圧測定用の複数の配線において、隣接する2本の配線間にそれぞれ接続される構成が一般的である(例えば、特許文献1参照)。この構成では均等化放電中のセルの電圧が電圧測定回路から、配線抵抗による電圧降下分、低下して見える。配線抵抗による電圧降下は、配線(主に、ワイヤーハーネス)が長いほど、及び/又は均等化電流が大きいほど、大きくなる。
【0006】
車載用途では、電圧測定回路で測定された各セルの電圧は、冗長構成で監視される場合が多い。具体的には電圧測定回路で測定された各セルの電圧が、マイクロコンピュータによるソフトウェア制御で監視されるとともに、専用の異常検出回路によりハードウェア制御で監視される。当該異常検出回路は、測定されたセル電圧が所定時間継続して異常値を示すとエラーと判定する。当該異常検出回路も、均等化放電中のセルの電圧を配線抵抗による電圧降下分、低く検出するため、均等化放電中のセルの電圧を誤判定する可能性がある。例えば、上限閾値より高い電圧を、正常な電圧と誤判定する可能性がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
均等化処理中において電圧測定回路からマイクロコンピュータ及び異常判定回路に正確なセル電圧を供給するために、均等化処理中に放電を定期的に停止させ、その停止期間にセルの電圧を測定することが考えられる。
【0009】
セル電圧は短時間に細かく変動するため、マイクロコンピュータは制御用に短い周期でセル電圧を電圧測定回路から取得している。上述のように均等化処理中に放電を定期的に停止させる場合、短い周期で放電停止期間を設ける必要がある。
【0010】
各周期の放電停止期間の長さを長く設定すると、均等化のための放電時間が短くなり、均等化が完了するまでの時間が長くなる。一方、放電停止期間の長さを短く設定すると、異常検出回路がエラーを確定するために必要な時間を確保できなくなる。
【0011】
本発明はこうした状況に鑑みなされたものであり、その目的は、複数のセル間の均等化処理の効率低下を抑えつつ、安全性を向上させる技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明のある態様の管理装置は、直列接続された複数のセルのそれぞれの電圧を測定する電圧測定部と、前記複数のセルのそれぞれに並列に接続される複数の放電回路と、前記電圧測定部により測定された各セルの電圧が正常な範囲にあるか否か判定する異常判定回路と、前記電圧測定部により測定された前記複数のセルの電圧をもとに、前記複数の放電回路を制御することにより、前記複数のセル間の均等化処理を実行する制御部と、を備える。前記制御部は、前記複数のセル間の均等化処理の実行中、当該均等化処理の影響を受けずに前記複数のセルの電圧を測定するための第1放電停止期間を第1周期ごとに設けるとともに、前記第1周期より長い第2周期ごとに、前記異常判定回路による判定結果を確定させるための前記第2放電停止期間を設ける。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、複数のセル間の均等化処理の効率低下を抑えつつ、安全性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施の形態に係る蓄電システムを説明するための図である。
【
図2】
図1に示した蓄電システムの実施例を示す図である。
【
図3】
図3(a)-(b)は、比較例に係る、複数のセルに対する均等化放電動作と、複数のセルの測定電圧の一例を示す図である。
【
図4】
図4(a)-(b)は、実施例に係る、複数のセルに対する均等化放電動作と、複数のセルの測定電圧の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の実施の形態に係る蓄電システム1を説明するための図である。蓄電システム1は、車両の駆動用電池として車両に搭載されて使用される。蓄電システム1は、蓄電モジュール10及び管理装置20を備える。蓄電モジュール10は、直列接続された複数のセルV1-V3を含む。セルには、リチウムイオン電池セル、ニッケル水素電池セル、鉛電池セル、電気二重層キャパシタセル、リチウムイオンキャパシタセル等を用いることができる。以下、本明細書ではリチウムイオン電池セル(公称電圧:3.6-3.7V)を使用する例を想定する。
【0016】
図1では単純化のため、3つのセルV1-V3が直列接続された蓄電モジュール10を描いているが、実際の構成は、蓄電システム1に要求される電圧仕様に応じて、より多くのセルが直列接続される。また複数のセルが直並列接続されて容量が増強されることもある。
【0017】
蓄電モジュール10は、複数のワイヤーハーネスH0-H3を接続するための第1コネクタCN1を備える。第1コネクタCN1の複数の内部側端子と、直列接続された複数のセルV1-V3の複数のノード間が複数の内部配線でそれぞれ接続される。複数のセルV1-V3のノードは、複数のセルV1-V3の両端と、隣接する2つのセルの間に設定される。従って、複数のセルのノード数は、セル数をm(mは2以上の整数)とすると、(m+1)になる。蓄電モジュール10内の内部配線数、及びワイヤーハーネスの本数も同様に(m+1)になる。
図1に示す例ではセル数が3であるため、ノード数、内部配線数、及びワイヤーハーネスの本数はそれぞれ4になる。
【0018】
蓄電モジュール10内の複数の内部配線のそれぞれにヒューズF0-F4が挿入される。ヒューズF0-F4は定格値以上の電流が流れると溶断し、セル及びワイヤーハーネスを過電流から保護する。なおヒューズF0-F4の挿入は必須ではなく、省略可能である。
【0019】
管理装置20は、電圧測定部30及び制御部40を備える。電圧測定部30は、放電回路31及び電圧測定回路32を含む。放電回路31及び電圧測定回路32は同一基板上に設置される。
【0020】
電圧測定部30は、複数のワイヤーハーネスH0-H3を接続するための第2コネクタCN2を備える。複数のワイヤーハーネスH0-H3は、蓄電モジュール10の第1コネクタCN1の複数の外部側端子と、電圧測定部30の第2コネクタCN2の複数の外部側端子間にそれぞれ接続される。第2コネクタCN2の複数の内部側端子と、電圧測定回路32の複数のアナログ入力端子間が複数の内部配線でそれぞれ接続される。当該内部配線の本数も(m+1)である。
【0021】
電圧測定回路32は当該複数の内部配線の内、隣接する2本の配線間の電圧をそれぞれ測定することにより、複数のセルV1-V3の各電圧を測定する。電圧測定回路32は例えば、マルチプレクサ及びA/D変換器を含む。マルチプレクサは、隣接する2本の配線間の電圧を上から順番にA/D変換器に出力する。A/D変換器は、マルチプレクサから入力されるアナログ電圧をデジタル値に変換する。
【0022】
電圧測定回路32は、測定した複数のセルV1-V3の各電圧を制御部40に送信する。通常、電圧測定部30が設置される基板のグランド電位と、制御部40が設置される基板のグランド電位は異なるため(前者の方が高圧)、電圧測定部30と制御部40間では絶縁通信により、情報が伝達される。
【0023】
放電回路31は、電圧測定部30内の複数の内部配線の隣接する2本の配線間に、直列接続された放電抵抗Ra-Rcと放電スイッチSa-Scをそれぞれ含む。放電スイッチSa-Scは例えば、MOSFET(Metal-Oxide-Semiconductor Field-Effect Transistor)等の半導体スイッチで構成される。第1放電スイッチSaがオン状態になると、第1放電スイッチSa及び第1放電抵抗Raと並列接続された第1セルV1の両端が導通し、第1セルV1が放電される。他のセルも同様に、並列接続された放電スイッチがオン状態になると放電される。
【0024】
制御部40は、電圧測定部30、電流測定部(不図示)及びセル温度測定部(不図示)により測定された複数のセルV1-V3の電圧、電流、及び温度をもとに蓄電モジュール10を管理する。制御部40はマイクロコンピュータ41及び不揮発メモリ42(例えば、EEPROM、フラッシュメモリ)により構成することができる。
【0025】
制御部40は、複数のセルV1-V3の電圧、電流、及び温度をもとに、複数のセルV1-V3のSOC(State Of Charge)、SOH(State Of Health)を推定する。SOCは例えば、OCV(Open Circuit Voltage)法または電流積算法により推定できる。OCV法は、電圧測定回路32により測定されたセルのOCVと、予め保持されるSOC-OCVカーブの特性データをもとにSOCを推定する方法である。電流積算法は、電圧測定回路32により測定されたセルの充放電開始時のOCVと、測定された電流の積算値をもとにSOCを推定する方法である。
【0026】
SOHは、初期の満充電容量に対する現在の満充電容量の比率で規定され、数値が低いほど(0%に近いほど)劣化が進行していることを示す。二次電池の劣化は、保存劣化とサイクル劣化の和で近似できる。
【0027】
保存劣化は、充放電中であるか否かに関わらず、二次電池の各時点における温度、各時点におけるSOCに応じて経時的に進行する劣化である。各時点におけるSOCが高いほど(100%に近いほど)、又は各時点における温度が高いほど、保存劣化速度が増加する。
【0028】
サイクル劣化は、充放電の回数が増えるにつれ進行する劣化である。サイクル劣化は、使用SOC範囲、温度、電流レートに依存する。使用SOC範囲が広いほど、温度が高いほど、又は電流レートが高いほど、サイクル劣化速度が増加する。このように二次電池の劣化は使用環境に大きく依存し、使用期間が長くなるにつれ、複数のセルV1-V3間の容量のばらつきが大きくなっていく。
【0029】
制御部40は、電圧測定部30から受信した複数のセルV1-V3の電圧をもとに、複数のセルV1-V3間の均等化処理を実行する。一般的なパッシブセルバランス方式では、複数のセルV1-V3の内、最も容量が少ないセルの容量(以下、目標値という)まで、他のセルを放電する。なお目標値は、実容量、SOC、OCVのいずれで規定されてもよい。OCVで規定される場合、最もOCVが低いセルのOCVが目標値となる。なお目標値は放電可能量または充電可能量で規定されてもよい。
【0030】
制御部40は、複数のセルV1-V3の内、最も容量が少ないセルの測定値を目標値とし、当該目標値と他の複数のセルの測定値との差分をそれぞれ算出する。制御部40は、算出したそれぞれの差分をもとに当該他の複数のセルの放電量をそれぞれ算出し、算出したそれぞれの放電量をもとに当該他の複数のセルの放電時間をそれぞれ算出する。制御部40は、複数のセルの放電時間を含む均等化処理の制御信号を生成し、電圧測定部30に送信する。電圧測定部30内のスイッチ制御回路(不図示)は、制御部40から受信した制御信号をもとに、複数の放電スイッチSa-Scをそれぞれ指定された時間、オン状態に制御する。
【0031】
以上の回路構成において、放電回路31によるセルバランス動作中は、配線抵抗の影響により、電圧測定回路32により測定されるセルの電圧が、実際の電圧に対して低下または上昇する。例えば、第2セルV2の均等化放電中、第2セルV2の正極から第1ワイヤーハーネスH1、第2放電抵抗Rb、第2放電スイッチSb、第2ワイヤーハーネスH2を介して第2セルV2の負極に電流が流れる。この電流ループにおいて、電圧測定部30内の抵抗成分の他に、蓄電モジュール10内の第1内部配線の配線抵抗、第1ヒューズF1の抵抗、第1コネクタCN1の接触抵抗、第1ワイヤーハーネスH1の配線抵抗Rw1、第2コネクタCN2の接触抵抗(×2)、第2ワイヤーハーネスH2の配線抵抗Rw2、第1コネクタCN1の接触抵抗、蓄電モジュール10内の第2内部配線の配線抵抗、及び第2ヒューズF2の抵抗に基づく抵抗成分が存在する。
【0032】
以下、蓄電モジュール10内の第0内部配線の配線抵抗、第0ヒューズF0の抵抗、第1コネクタCN1の接触抵抗、第0ワイヤーハーネスH0の配線抵抗Rw0、及び第2コネクタCN2の接触抵抗を総称して第0配線抵抗R0という。なお、これらの抵抗の中では第0ワイヤーハーネスH0の配線抵抗Rw0が最も大きな値である。
【0033】
同様に蓄電モジュール10内の第1内部配線の配線抵抗、第1ヒューズF1の抵抗、第1コネクタCN1の接触抵抗、第1ワイヤーハーネスH1の配線抵抗Rw1、及び第2コネクタCN2の接触抵抗を総称して第1配線抵抗R1という。第2配線抵抗R2及び第3配線抵抗R3についても同様である。
【0034】
例えば第2セルV2の均等化放電により、第2セルV2の正極から電圧測定部30の第1入力端子までの配線経路(以下、第1外部配線という)に均等化電流Ibが流れ、電圧測定部30の第2入力端子から第2セルV2の負極までの配線経路(以下、第2外部配線という)に均等化電流Ibが流れる。なお、第1セルV1及び第3セルV3は均等化放電していない状態を想定する。即ち、第0外部配線と第3外部配線には電流が流れていないことを想定する。
【0035】
第1外部配線では、Vf1=(R1×Ib)の電圧降下が発生する。また第2外部配線では、Vf2=(R2×Ib)の電圧降下が発生する。これにより、電圧測定回路32の第1入力端子の電位がVf1低下し、電圧測定回路32の第2入力端子の電位がVf2上昇する。これにより、電圧測定回路32により測定される第2セルV2のセル電圧は、実際の電圧よりVf1+Vf2、低く測定される。第2セルV2に隣接する第1セルV1のセル電圧は、実際の電圧よりVf1、高く測定される。第2セルV2に隣接する第3セルV3のセル電圧は、実際の電圧よりVf2、高く測定される。
【0036】
なお、放電回路31によるセルバランス動作中でない場合は、第0外部配線-第3外部配線に殆ど電流が流れず、電圧測定回路32により測定されるセルの電圧と、実際の電圧はほぼ一致する。これに対して、放電回路31によるセルバランス動作中は、第0ワイヤーハーネスH0-第3ワイヤーハーネスH3の配線長が長いほど、及び/又は均等化電流が大きいほど、電圧測定回路32により測定されるセルの電圧と、実際の電圧との差分が大きくなる。
【0037】
図2は、
図1に示した蓄電システム1の実施例を示す図である。車載用途では、電圧測定回路32が冗長化される構成が採用されることが多い。本実施例では、電圧測定部30は、第1電圧測定回路32a、放電回路31、第2電圧測定回路32b及び異常判定回路33を含む。電圧測定部30は例えば、ASIC(Application Specific Integrated Circuit)により構成することができる。なお放電回路31と第2電圧測定回路32bはワンチップ内に実装されてもよい。
【0038】
第0ワイヤーハーネスH0-第3ワイヤーハーネスH3は途中で分岐され、一方は第1電圧測定回路32aに接続され、他方は放電回路31を介して第2電圧測定回路32bに接続される。第1電圧測定回路32aの入力段、及び放電回路31の入力段にそれぞれ、ローパスフィルタが接続される。当該ローパスフィルタは、抵抗RfとコンデンサCfにより構成されるRCフィルタであり、エイリアシングを抑制する。
【0039】
第1電圧測定回路32aは、複数のセルV1-V3の各電圧を測定し、測定した各電圧を、制御部40と異常判定回路33に供給する。上述のように電圧測定部30と制御部40間は絶縁された通信線で接続され、第1電圧測定回路32aは測定した複数のセルV1-V3の各電圧を所定の通信フォーマットに準拠して制御部40に送信する。電圧測定部30内において、第1電圧測定回路32aは、測定した複数のセルV1-V3の各電圧を異常判定回路33に出力する。
【0040】
第2電圧測定回路32bは、複数のセルV1-V3の各電圧を、第1電圧測定回路32aと並行して測定し、測定した各電圧を制御部40に供給する。第1電圧測定回路32aと同様に第2電圧測定回路32bも、測定した複数のセルV1-V3の各電圧を所定の通信フォーマットに準拠して制御部40に送信する。
【0041】
第2電圧測定回路32bは複数のセルV1-V3の各電圧を、異常判定回路33には供給しない。セル電圧の測定に関して、第1電圧測定回路32aが主測定回路であり、第2電圧測定回路32bは副測定回路である。第2電圧測定回路32bには均等化用の放電回路31が接続されている。放電スイッチがオン状態のチャンネルでは、第2電圧測定回路32bの測定電圧が略ゼロになるため、第2電圧測定回路32bでは均等化放電中のチャンネルの電圧を測定することができない。一方、第1電圧測定回路32aには均等化用の放電回路31が接続されない。従って、第1電圧測定回路32aでは均等化放電中のチャンネルの電圧も、上記配線抵抗による電圧降下の影響は受けるが、基本的に測定することができる。第1電圧測定回路32aは、複数の放電スイッチSa-Scのオン/オフ状態に関わらず、全てのチャンネルの測定電圧を、制御部40と異常判定回路33に供給し続ける。
【0042】
異常判定回路33は、第1電圧測定回路32aにより測定された各セルの電圧が正常な範囲にあるか否か判定する専用のハードウェア回路である。異常判定回路33は例えば、デジタルコンパレータを含み、各セルの電圧が正常な範囲より高いオーバーボルテージ(OV)状態であるか否か、及び各セルの電圧が正常な範囲より低いアンダーボルテージ(UV)状態であるか否か判定する。
【0043】
同様にマイクロコンピュータ41は、第1電圧測定回路32aにより測定された各セルの電圧が正常な範囲にあるか否か判定する。またマイクロコンピュータ41は、第2電圧測定回路32bにより測定された各セルの電圧が正常な範囲にあるか否か判定する。マイクロコンピュータ41は、第1電圧測定回路32aまたは第2電圧測定回路32bにより測定されたいずれかのセルの電圧に異常が発生した場合、蓄電システム1と負荷(不図示)との間の電力線に挿入されるコンタクタリレーを遮断する。またマイクロコンピュータ41は、車両内のECU(Electronic Control Unit)2に、車載ネットワーク3(例えば、CAN(Controller Area Network))を介して、セルの電圧異常を通知する。このように制御部40は、ソフトウェア制御によりセルの電圧異常を検知して、ECU2に通知する。なお上記コンタクタリレーはECU2により遮断される構成でもよい。
【0044】
一方、異常判定回路33は、第1電圧測定回路32aにより測定されたいずれかのセルの電圧に異常が発生した場合、異常検知信号ALMを遅延回路50に出力する。遅延回路50は、異常検知信号を所定期間(例えば、500ms)以上、継続して検出すると、ハードウェア停止信号を出力する。
【0045】
図2に示す例では遅延回路50はハードウェア停止制御として、車載ネットワーク3による制御部40とECU2間の通信を停止させる。ECU2は、制御部40との通信信号の途絶を検知すると、蓄電システム1の異常を認識する。なおハードウェア停止制御として、車載ネットワーク3による通信を停止させる制御は一例であり、例えば、上記コンタクタリレーを直接遮断する制御であってもよい。
【0046】
異常判定回路33及び遅延回路50は、マイクロコンピュータ41を用いたソフトウェア制御を使用せずに、ハードウェア制御によりセルの電圧異常を検知して、蓄電システム1を保護する。従って、制御部40を介したソフトウェア制御による保護機能より、堅牢性の高い保護機能を構築することができる。また一般的に、ハードウェア制御の方がソフトウェア制御より応答時間が短くなる。
【0047】
ただし、異常判定回路33及び遅延回路50を使用した電圧異常検知時のハードウェア制御は、冗長の緊急停止制御であり、本来的には制御部40によるソフトウェア制御による正規の手順で蓄電システム1が保護されるべきである。そこで制御部40によるソフトウェア制御が正常に機能している場合において、異常判定回路33及び遅延回路50によるハードウェア制御より先に制御部40によるソフトウェア制御により蓄電システム1が保護されるように、遅延回路50に所定の遅延時間(例えば、500msec)を設定している。当該遅延時間は、第1電圧測定回路32aによりいずれかのセルに、異常な電圧が測定されてから、制御部40によるソフトウェア制御により蓄電システム1の保護が完了するまでにかかる時間より長い時間に設定される。
【0048】
上述したように放電回路31によるセルバランス動作中は、第1電圧測定回路32aにより測定されるセルの電圧が、上記外部配線の配線抵抗による電圧降下の影響を大きく受ける。そこで第1電圧測定回路32a及び第2電圧測定回路32bにより複数のセルV1-V3の電圧を測定するタイミングで、定期的にセルバランス動作を停止する制御が考えられる。
【0049】
図3(a)-(b)は、比較例に係る、複数のセルV1-V3に対する均等化放電動作と、複数のセルV1-V3の測定電圧の一例を示す図である。複数のセルV1-V3の電圧は短時間で細かく変動するため、制御部40を用いたソフトウェア制御による電圧測定は短い周期で行われる必要がある。
図3(a)では、制御部40が100msec周期で複数のセルV1-V3の電圧を取得する例を示している。単位周期の100msec期間の内、80msec期間が均等化放電がオンの期間であり、20msec期間が均等化放電がオフの期間である。制御部40は、20msecの均等化放電がオフの期間に測定された複数のセルV1-V3の各電圧を取得する。
【0050】
図3(a)に示す閾値電圧は、オーバーボルテージを検出するための閾値電圧であり、当該閾値電圧より高い電圧が検知されるとオーバーボルテージと判定される。対象チャンネルのセルの均等化放電がオフの場合でも、隣接する別チャンネルのセルの均等化放電がオンの場合、対象チャンネルのセルの測定電圧が、配線抵抗の影響を受ける。例えば、
図1に示す例では第1セルV1の均等化放電がオフの場合でも、第2セルV2の均等化放電がオンの場合、第1セルV1の測定電圧は、実際の電圧より高くなる。これにより、第1セルV1の実際の電圧が正常な範囲内であるにも関わらず、オーバーボルテージと誤判定されることがある。従って制御部40は、対象セルの均等化放電がオフであり、かつ対象セルの両隣のセルの均等化放電がオフである期間に取得した対象セルの電圧を、有効な測定電圧として取得する。
【0051】
図3(b)は、
図2(a)に、異常判定回路33から出力される異常検知信号ALMと、遅延回路50から出力されるハードウェア停止信号を追加した図である。異常判定回路33は、第1電圧測定回路32aにより測定された電圧が上記閾値電圧より高くなると、異常検知信号ALMをオンする。遅延回路50は、異常検知信号ALMが所定時間(
図3(b)に示す例では500msec)以上継続してオン状態になると、ハードウェア停止信号をオンする。
図3(b)に示す例では、異常検知信号ALMの最大継続オン時間は120msecであるため、ハードウェア停止信号がオンすることはない。従って、
図3(a)-(b)に示す例では異常判定回路33及び遅延回路50によるハードウェア制御が有効に機能しない。
【0052】
この対策案として、上記外部配線の配線抵抗による電圧降下値を許容値内に収めるように、システムを設計することが考えられる。しかしながら、ワイヤーハーネスの制約や、コネクタの経時的な劣化などを考慮すると、当該電圧降下値を許容値内に収め続けることは難しい。
【0053】
次にセルの電圧異常を確定するための所定時間を調整することが考えられる。例えば、500msecの所定時間を120msec以下に変更することが考えられる。しかしながら、隣接チャンネルのセルの均等化放電がオンの期間に誤判定する可能性がある。
【0054】
そこで均等化放電のオフ期間を500msec以上に設定することが考えられる。しかしながら、均等化放電のオフ期間を長くすると均等化放電のオン期間が短くなり、均等化処理が遅滞する。上記の100msec周期で電圧を測定する例では均等化放電する時間を設けることができなくなってしまう。
【0055】
そこで本実施例では制御部40は、複数のセルV1-V3間の均等化処理の実行中、当該均等化処理の影響を受けずに複数のセルV1-V3の電圧を測定するための第1均等化放電オフ期間を第1周期ごとに設けるとともに、第1周期より長い第2周期ごとに、異常判定回路33による判定結果を確定させるための第2均等化放電オフ期間を設ける。第2均等化放電オフ期間は、第1均等化放電オフ期間より長い期間に設定される。
【0056】
図4(a)-(b)は、実施例に係る、複数のセルV1-V3に対する均等化放電動作と、複数のセルV1-V3の測定電圧の一例を示す図である。以下、制御部40を用いたソフトウェア制御による、所定周期ごとに複数のセルV1-V3の電圧を測定する制御を、間欠均等化制御と呼ぶ。
図3(a)-(b)に示した例では、80msecの均等化放電オン期間と20msecの均等化放電オフ期間を交互に繰り返す間欠均等化制御が実行されている。
【0057】
実施例では間欠均等化制御をオフする期間を定期的に設ける。間欠均等化制御の各オフ期間には、遅延回路50によりセルの電圧異常を確定するために必要な所定時間より長い時間が設定される。
図4(a)-(b)に示す例では20sec周期で間欠均等化制御のオフ期間が設定されている。単位周期の20sec期間の内、16sec期間が間欠均等化制御がオンの期間であり、4sec期間が間欠均等化制御がオフの期間である。遅延回路50は、4secの間欠均等化制御がオフの期間に、異常検知信号ALMが500msec以上継続してオン状態になっているか否か検知する。
【0058】
以上に示した例では、セルのオーバーボルテージの許容遅滞時間が20sec以上にできる場合を前提とする。許容遅滞時間が20sec未満の場合、間欠均等化制御の単位周期を、当該許容遅滞時間以内に設定する必要がある。
【0059】
なお
図4(a)-(b)に示す例では、
図3(a)-(b)に示した例と比較して、均等化処理の効率が20%低下するが、均等化放電電流を20%増加させることにより、相殺できる。なお均等化放電電流を増加させると、配線抵抗による電圧降下値が増加するが、本実施例では均等化放電のオフ期間にセルの電圧を測定するため、当該電圧降下の影響を受けない。
【0060】
以上説明したよう本実施の形態によれば、ソフトウェア制御による電圧測定のための短周期の均等化放電オフ期間と別に、ハードウェア制御により電圧異常を検知するための、長周期の均等化放電オフ期間を設ける。これにより、均等化処理中に、ハードウェア制御による電圧異常検知を有効に機能させることができ、ソフトウェア制御とハードウェア制御の冗長化により安全性を担保することができる。また均等化放電オン期間をできるだけ長い時間、確保することができる。従って、均等化処理の効率低下を抑えつつ、安全性を向上させることができる。また短周期の均等化放電オフ期間にセルの電圧を測定することにより、配線抵抗による電圧降下の影響を受けない、高精度な電圧を測定することができる。
【0061】
以上、本発明を実施の形態をもとに説明した。実施の形態は例示であり、それらの各構成要素や各処理プロセスの組み合わせにいろいろな変形例が可能なこと、またそうした変形例も本発明の範囲にあることは当業者に理解されるところである。
【0062】
上述の実施の形態では車載用途の蓄電システム1において上述の均等化処理を使用する例を説明したが、定置型蓄電用途の蓄電システム1においても、上述の均等化処理を使用することができる。またノート型PCやスマートフォンなどの電子機器用途の蓄電システム1においても、上述の均等化処理を使用することができる。
【0063】
例えば、定置型蓄電用途では、制御部40によりセル電圧の異常が検知された場合、異常検知信号が、クラウド上の監視サーバやHEMS(Home Energy Management System)
コントローラ等の上位装置に通知される。
【0064】
なお、実施の形態は、以下の項目によって特定されてもよい。
【0065】
[項目1]
直列接続された複数のセル(V1-V3)のそれぞれの電圧を測定する電圧測定部(30)と、
前記複数のセル(V1-V3)のそれぞれに並列に接続される複数の放電回路(31)と、
前記電圧測定部(30)により測定された各セル(V1-V3)の電圧が正常な範囲にあるか否か判定する異常判定回路(33)と、
前記電圧測定部(30)により測定された前記複数のセル(V1-V3)の電圧をもとに、前記複数の放電回路(31)を制御することにより、前記複数のセル(V1-V3)間の均等化処理を実行する制御部(40)と、を備え、
前記制御部(40)は、前記複数のセル(V1-V3)間の均等化処理の実行中、当該均等化処理の影響を受けずに前記複数のセル(V1-V3)の電圧を測定するための第1放電停止期間を第1周期ごとに設けるとともに、前記第1周期より長い第2周期ごとに、前記異常判定回路(33)による判定結果を確定させるための第2放電停止期間を設けることを特徴とする管理装置(20)。
これによれば、複数のセル(V1-V3)間の均等化処理の効率低下を抑えつつ、安全性を向上させることができる。
[項目2]
前記第2放電停止期間は、前記第1放電停止期間より長い期間が設定されることを特徴とする項目1に記載の管理装置(20)。
これによれば、異常判定回路(33)を有効に動作させることができる。
[項目3]
前記電圧測定部(30)は、
第1電圧測定回路(32a)と第2電圧測定回路(32b)を含み、
前記第1電圧測定回路(32a)は、測定した前記複数のセル(V1-V3)の電圧を前記制御部(40)と前記異常判定回路(33)に供給し、
前記第2電圧測定回路(32b)は、前記放電回路(31)が接続されるととともに、測定した前記複数のセル(V1-V3)の電圧を前記制御部(40)に供給することを特徴とする項目1に記載の管理装置(20)。
これによれば、電圧測定回路を冗長化することにより、安全性を向上させることができる。
[項目4]
前記制御部(40)はマイクロコンピュータ(41)を含み、
前記マイクロコンピュータ(41)は、前記電圧測定部(30)から通信により取得した複数のセル(V1-V3)の電圧の少なくとも1つが正常な範囲を超えているとき、上位の制御装置(2)に異常検知信号を通知し、
前記異常判定回路(33)は、前記複数のセルの電圧の少なくとも1つが正常な範囲を超えているとき、前記マイクロコンピュータ(41)による停止処理に必要な時間以上の遅延時間が経過した後、ハードウェア停止処理を実行することを特徴とする項目1から3のいずれか1項に記載の管理装置(20)。
これによれば、マイクロコンピュータ(41)によるソフトウェア制御と、異常判定回路(33)によるハードウェア制御が両方とも有効な状態では、ソフトウェア制御により停止させることができる。
[項目5]
直列接続された複数のセル(V1-V3)と、
前記複数のセル(V1-V3)を管理する項目1から4いずれか1項に記載の管理装置(20)と、
を備えることを特徴とする蓄電システム(1)。
これによれば、複数のセル(V1-V3)間の均等化処理の効率低下を抑えつつ、安全性が向上された蓄電システム(1)を構築することができる。
【符号の説明】
【0066】
1 蓄電システム、 10 蓄電モジュール、 V1-V3 セル、 F0-F3 ヒューズ、 CN1 第1コネクタ、 H0-H3 ワイヤーハーネス、 R0-R3 配線抵抗、 Rw0-Rw3 ハーネス抵抗、 Ra-Rc 放電抵抗、 Sa-Sc 放電スイッチ、 Rf フィルタ抵抗、 Rc フィルタ容量、 20 管理装置、 CN2 第2コネクタ、 30 電圧測定部、 31 放電回路、 32 電圧測定回路、 32a 第1電圧測定回路、 32b 第2電圧測定回路、 33 異常判定回路、 40 制御部、 41 マイクロコンピュータ、 42 不揮発メモリ、 50 遅延回路、 2 ECU、 3 車載ネットワーク。