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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】遺伝子発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
   C07K 7/06 20060101AFI20230511BHJP
   C07K 7/08 20060101ALI20230511BHJP
   C07K 7/64 20060101ALI20230511BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 31/12 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20230511BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230511BHJP
   A61K 38/12 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 31/04 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 33/00 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 31/10 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 31/20 20060101ALI20230511BHJP
   A61P 31/22 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C07K7/06 ZNA
C07K7/08
C07K7/64
C07K14/00
A61P31/12
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
A61K38/12
A61P31/04
A61P33/00
A61P31/10
A61P31/20
A61P31/22
【請求項の数】 25
(21)【出願番号】P 2020537870
(86)(22)【出願日】2018-09-24
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-17
(86)【国際出願番号】 EP2018075817
(87)【国際公開番号】W WO2019057973
(87)【国際公開日】2019-03-28
【審査請求日】2021-08-18
(31)【優先権主張番号】A60096/2017
(32)【優先日】2017-09-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(31)【優先権主張番号】A50613/2018
(32)【優先日】2018-07-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】AT
(73)【特許権者】
【識別番号】520102750
【氏名又は名称】ピヴァリス バイオサイエンス ゲーエムベーハー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】ハラン ハンナ
【審査官】福澤 洋光
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/047261(WO,A1)
【文献】Journal of Virology,2004年,Vol.78, No.5,pp.2637-2641
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00-15/90
C07K 1/00-19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
CLAFYACFWC(配列番号2)、CLAFYACLWC(配列番号3)、CLAFYACFAC(配列番号4)、CLVFYACFC(配列番号5)、CLAFYACFC(配列番号6)、CLLYFCFC(配列番号7)、CAAFYACFC(配列番号8)、SLAFYACFAC(配列番号9)、CLAFYARFC(配列番号10)、CLAFYCFAC(配列番号11)、CLAFYCFC(配列番号12)、およびCLAYFCFC(配列番号13)からなる群から選択されるアミノ酸配列を備える、又は該アミノ酸配列からなるペプチド。
【請求項2】
前記ペプチドが、直鎖又は環状ペプチドである、
請求項1に記載のペプチド。
【請求項3】
請求項1又は2に記載のペプチドと同一のペプチドを2つ又はそれ以上を備える、ペプチド系化合物。
【請求項4】
前記化合物が、請求項1又は2に記載のペプチドと同一のペプチドを、3個又は4個備える、
請求項3に記載の化合物。
【請求項5】
前記化合物が細胞透過性を示すように修飾される、
請求項3又は4に記載の化合物。
【請求項6】
前記化合物又は少なくとも1つのペプチドが、少なくとも1つの細胞透過性ペプチドに、C末端および/又はN末端で融合される、
請求項3から5のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項7】
前記細胞透過性ペプチドが、TATペプチドおよびポリカチオン性タグを含む群から選択される、
請求項6に記載の化合物。
【請求項8】
前記細胞透過性ペプチドが、
配列番号14、GRKKRRQRRRPPQ(配列番号15)、YGRKKRRQRRR(配列番号16)、CYGRKKRRQRRR(配列番号17)、YGRKKRRQRRRGGG(配列番号18)、又はCGRKKRRQRRR(配列番号19)のうち、37から72個のアミノ酸残基、より好ましくは37から60個のアミノ酸残基、より好ましくは48から60個のアミノ酸残基を備えるHIV TATタンパク質の群から選択されるアミノ酸配列を備える、又は前記選択されるアミノ酸配列からなるか、
好ましくはRRRRRRR(配列番号22)、RRRRRRRC(配列番号23)、RRRRRRRR(配列番号24)、又はRRRRRRRRR(配列番号25)のポリアルギニンタグを備える、又は前記ポリアルギニンタグからなるか、
TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK(配列番号26)のブフォリン由来であるか、
GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号27)のトランスポータン由来であるか、
WEAKLAKALAKALAKHLAKALAKALKACEA(配列番号28)の配列を備えるKALAペプチド由来であるか、
KLALKLALKALKAALKLA(配列番号29)の配列を備えるMAPであるか、
KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号30)の配列を備えるPep-1由来であるか、
LGTYTQDFNKFHTFPQTAIGVGAP(配列番号31)の配列を備えるhCT(9‐32)であるか、
LLIILRRRIRKQAHAHSK(配列番号32)の配列を備えるpVECであるか、
RVIRVWFQNKRCKDKK(配列番号33)の配列を備えるpISLであるか、
RQGAARVTSWLGRQLRIAGKRLEGRSK(配列番号34)の配列を備えるErnsであるか、
KLIKGRTPIKFGK(配列番号35)の配列を備えるレストリクトシンL3であるか、
GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKV(配列番号36)又はGALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKV‐システアミドの配列を備えるMPGであるか、
PKKKRKVEDPYC(配列番号37)又はCGGGPKKKRKVED(配列番号38)の配列を備えるSV40ラージT抗原の核内局在化シグナル(NLS)由来であるか、
YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG(配列番号39)の配列を備える狂犬病ウイルスの糖タンパク質(RVG)であるか、或いは、
好ましくはRQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号21)であるアンテナペディアのタンパク質ホモドメインに由来するペプチドである、
請求項6又は7に記載の化合物。
【請求項9】
少なくとも1つのペプチドが標識に融合又は複合される、
請求項3から8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項10】
前記標識が、染料、好ましくは蛍光染料、より好ましくは蛍光タンパク質、蛍光ストレプトアビジン、蛍光ビオチン、又は染料結合ペプチドを含む群から選択される、
請求項9に記載の化合物。
【請求項11】
哺乳類又はヒト個体の細胞における異種核酸分子の転写および/又は翻訳に関連する障害又は疾患の治療に使用するための、
請求項1又は2に記載のペプチド、又は請求項3から8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項12】
前記細胞における異種核酸分子の転写および/又は翻訳に関連する障害又は疾患が、ウイルス性感染症を含む群から選択される、
請求項11に記載の使用のためのペプチド又は化合物。
【請求項13】
哺乳類又はヒト個体における、ウイルス性、細菌性、寄生虫又は真菌性の感染症の治療に使用するための、
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項14】
前記治療は、細菌性細胞が、前記細菌性細胞に抗生物質耐性を与えることが可能な遺伝子又はその機能的断片を獲得することを防止することを特徴とする、
請求項13に記載の使用のためのペプチド又は化合物。
【請求項15】
DNAウイルスであって、好ましくはポックスウイルス科のウイルス、より好ましくはアデノウイルス科のウイルス、最も優先的にはヘルペスウイルス科のウイルス、具体的には単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、および水痘帯状疱疹ウイルスである、2本鎖DNAウイルスなどのDNAウイルスによる感染症の治療に使用するための、
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から8のいずれか1項に記載の化合物。
【請求項16】
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から10のいずれか1項に記載の化合物をコードする核酸分子。
【請求項17】
インビトロにおいて、細胞内における異種核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制するための、請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項18】
前記異種核酸分子がウイルス、細菌、寄生虫又は真菌由来である、
請求項17に記載の使用。
【請求項19】
前記異種核酸分子が抗生物質耐性遺伝子又はその機能的断片をコードする核酸の並びを含む、
請求項17又は18に記載の使用。
【請求項20】
インビトロにおいて、細菌性細胞が、前記細菌性細胞に抗生物質耐性を与えることが可能な遺伝子又はその機能的断片を獲得することを防止するための、
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項21】
具体的には、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、又はヘルペスウイルス科に属するウイルスなどの2本鎖DNAウイルス、或いは、2本鎖DNAウイルス群に属する別のウイルスなどの、DNAウイルスを含む生ワクチンなどを含む、弱毒性生ワクチン用の添加剤の製造における
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項22】
細胞培養液におけるウイルスの拡散を抑制又は防止するための、
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項23】
インビトロにおいて、細菌のファージ感染を抑制するための、
請求項1又は2に記載のペプチド又は請求項3から10のいずれか1項に記載の化合物の使用。
【請求項24】
インビトロにおいて、真核細胞内で異種核酸分子の転写および/又は翻訳を局在化するための、
請求項9又は10に記載の化合物の使用。
【請求項25】
前記異種核酸分子が、ウイルス、細菌、寄生虫又は真菌由来である、
請求項24に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
[発明の分野]
本発明は、生物内、細胞内、又は組織内の核酸分子の転写および翻訳に影響を与えるペプチドおよび化合物に関する。
【0002】
[発明の背景]
真核細胞のゲノムDNAは核に局在し、染色体に密に内包されている。DNAからRNAへの転写は核内で行われ、その後、RNAは細胞質基質へ輸送され、リボソームにてタンパク質が合成される。一方で、染色体外DNA、外来生DNA、又は異種DNAとも呼ばれる「外来」DNAは、非自己DNAと定義され、通常は標的細胞内に存在せず、細胞外から細胞内へ侵入できる。「外来」DNA分子は、例えば、プラスミドDNA、PCR産物、合成DNA、ウイルスDNA又はファージDNA、細菌DNA、或いは他のあらゆる人工DNAであり得る。RNAもまた、例えばRNAウイルスがもたらす「外来」核酸であり得る。
【0003】
例えば、ウイルスからの、又は細菌間における「外来」DNA分子等の非自己DNAの転移は、真核標的細胞又は原核標的細胞内で発生し得る。真核標的細胞又は原核標的細胞内では、DNA分子が細胞に進入して宿主ゲノムに組み込まれ得る、或いは、非自己DNA自身の複製、転写、および「外来」DNAをコードするタンパク質の翻訳に、宿主細胞機構が利用される。「外来」DNAは、エンドサイトーシス又は、ウイルスによる内包等の他の手段によって細胞内に取り込まれ、裸の状態で、又はウイルスに内包された状態で細胞質基質を通過し、標的細胞の核に進入することができる。ウイルスDNAは、核内移行の際に細胞質基質内でウイルスから解放され得る。
【0004】
真核生物には、例えば、Toll様受容体および他の核酸感知分子等のパターン認識受容体を含む、「外来」核酸を認識するための宿主細胞防御機構が備えられている。こうした機構は、ウイルス又は細菌感染に対する初期反応、および、初期反応に続く感染の排除に向けた一連のカスケードの活性化を誘因する、自然免疫系を代表するものである。
【0005】
ウイルス性感染症の予防又は治療は、依然として大きな障害である。ワクチン接種によるウイルス性感染症の予防が特定のウイルスに限られる一方で、すでに定着しているウイルス性感染症に対する根治的な治療は、多くの場合不可能である。また、ウイルスは変異しやすいため、すでに確立された予防的又は根治的治療をすり抜けることがあり得る。さらに、感染した個体においてウイルスを減少させる、又は排除することすら可能な薬品は、いくつかのウイルス性感染症用にしか用意されていない。ウイルスは自らの複製のために、宿主細胞を必要とする。
【0006】
例えば、ヘルペスウイルス感染症の抑制方法は、ヌクレオシド類似体であるアシクロビル又はガンシクロビル、ホスカルネット等のDNAポリメラーゼ阻害剤、或いは、プリテリビル等のプライマーゼ/ヘリカーゼ阻害剤等、異なるタイプの阻害剤を使用することである。この他の抗ウイルス剤には、アマンタジン又はエンフビルチド等の侵入阻害剤、或いは、インフルエンザ又はHIVの治療用のプロテアーゼ阻害剤がある。しかしながら、ゲノムDNAと「外来」DNAとを識別できる阻害剤はない。したがって、ウイルス特異的遺伝子発現に対処することが、宿主生物における早期のウイルス遺伝子発現および、それに続くウイルス複製を抑制するための、有望な介入方法の1つとなることが考えられる。
【0007】
[発明の概要]
本発明の目的は、生物における、遺伝子を含む外来核酸分子(つまり、異種又は外生核酸分子)の転写および/又は翻訳を抑制(遺伝子発現の抑制を含む)することができる化合物を提供することである。
【0008】
本目的は、化学式I X‐X‐X‐X‐X‐(A)‐X‐X‐(X‐C (I)に基づくアミノ酸配列(配列番号1)を備える、又は化学式Iに基づくアミノ酸配列からなるペプチドによって達成され、ここで、XはC又はSであり、XはL又はAであり、XはA、V又はLであり、XはF又はYであり、XはY又はFであり、XはC又はRであり、XはF又はLであり、XはW又はAであり、そして、mおよびnは、それぞれ0又は1である。
【0009】
また、本発明は、化学式I X‐X‐X‐X‐X‐(A)‐X‐X‐(X‐C (I)を備える、又は化学式Iからなる少なくとも1つのペプチド(配列番号1)を有するペプチド系化合物にも関し、ここで、XはC又はSであり、XはL又はAであり、XはA、V又はLであり、XはF又はYであり、XはY又はFであり、XはC又はRであり、XはF又はLであり、XはW又はAであり、そして、mおよびnは、それぞれ0又は1である。
【0010】
驚くべきことに、本発明のペプチドおよびペプチド系化合物は、細胞内で自然に生じる細胞遺伝子の発現に影響を与えることなく、当該細胞内における外来/異種/外来性核酸分子の転写および/又は翻訳、並びに/或いは、外来DNA分子からの遺伝子発現を抑制できることが分かった。したがって、この抑制は細胞毒性がない、又は、実質的に細胞毒性がない。
【0011】
本発明のペプチドおよび化合物の、生物(つまり、生細胞)内の異種核酸分子の翻訳および/又は転写を顕著に抑制又は減少させる能力は、外来核酸分子の翻訳および/又は転写と関連する疾患の治療および/又は予防を可能にする。
【0012】
したがって、本発明の別の局面は、哺乳類又はヒト個体における、ウイルス性、細菌性、寄生虫又は真菌性の感染症の治療に用いる、本発明によるペプチドおよび/又は化合物に関する。
【0013】
本発明の更なる局面は、本発明によるペプチド又は化合物をコードする核酸分子に関する。
本発明の別の局面は、細胞内における異種核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制するための、本発明によるペプチドおよび/又は化合物に関する。
【0014】
本発明の更なる局面は、細菌性細胞が、当該細菌性細胞に抗生物質耐性を与え得る遺伝子又はその機能的断片を獲得することを防止するための、本発明によるペプチドおよび/又は化合物の使用に関する。
【0015】
本発明の別の局面は、本発明によるペプチドおよび/又は化合物の、弱毒性生ワクチン用添加物としての使用に関する。
本発明の更なる局面は、細胞培養液におけるウイルスの拡散を抑制又は防止するための、本発明によるペプチドおよび/又は化合物の使用に関する。
【0016】
本発明のさらに別の局面は、細菌のファージ感染を抑制するための、本発明によるペプチドおよび/又は化合物の使用に関する。
本発明の更なる局面は、異種核酸分子の転写および/又は翻訳を真核細胞内に局在させるための、本発明によるペプチドおよび/又は化合物の使用に関する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1A図1は、ルシフェラーゼおよびSEAPをコードするプラスミドベクターをトランスフェクションした細胞における、ルシフェラーゼレベル(a)およびSEAP分泌(b)の産生量における、I24ペプチドの影響を示す。p65M2をコードするプラスミドをトランスフェクションしたときの、P65突然変異体M2の発現におけるI24ペプチドの影響を示す(図1c)。GFPをコードするプラスミドをトランスフェクションしたときの、GFPの発現および、GFP陽性細胞の数におけるペプチドの影響を示す(図1d,e)。
図1B図1は、ルシフェラーゼおよびSEAPをコードするプラスミドベクターをトランスフェクションした細胞における、ルシフェラーゼレベル(a)およびSEAP分泌(b)の産生量における、I24ペプチドの影響を示す。p65M2をコードするプラスミドをトランスフェクションしたときの、P65突然変異体M2の発現におけるI24ペプチドの影響を示す(図1c)。GFPをコードするプラスミドをトランスフェクションしたときの、GFPの発現および、GFP陽性細胞の数におけるペプチドの影響を示す(図1d,e)。
図2】切断されたIL‐8プロモータの制御下でルシフェラーゼを駆動するプラスミドをトランスフェクションした場合(a)、および、IL‐8の分泌を抑制しない場合(b)の、I24ペプチドによるルシフェラーゼの発現抑制を示す。
図3】I24ペプチドでプラスミドをトランスフェクションした後、図示された時間後に分析された、ルシフェラーゼタンパク質(a)および、mRNA(b)のレベルを示す。
図4】ルシフェラーゼ遺伝子およびネオマイシン耐性遺伝子の両方を同一プラスミドに搭載してトランスフェクションしたとき、SV40初期プロモータの制御下のネオマイシン耐性遺伝子のmRNAレベルと比較して、CMVプロモータの制御下のルシフェラーゼのmRNAレベルを、I24ペプチドがより効果的に抑制することを示す。
図5】異なる細胞株における、I24ペプチドが抑制するプラスミドにコードされたルシフェラーゼレベルを示す。
図6】ルシフェラーゼをコードするプラスミドの一過性トランスフェクション後のルシフェラーゼタンパク質レベル、並びに、I24ペプチド、TATペプチド、TAT‐I24ペプチド、およびI24二量体ペプチドの異なる濃度を示す(より解像度を上げるために、両軸ともlogスケールで示す)。
図7】(a)TAT‐I24融合ペプチドで処理されたHEK293細胞における、バキュロウイルスを形質導入したルシフェラーゼの遺伝子発現の抑制を示す(より解像度を上げるために、両軸ともlogスケールで示す)。(b)溶媒対照群としてのDMSO、TAT‐I24融合ペプチド、又はTAT単独による処理に加えて、バキュロウイルス発現ルシフェラーゼ、およびTNF‐αによる刺激によって処理した細胞内の、ルシフェラーゼおよびIL‐8のmRNAレベルを示す(b)。
図8A図8は、ルシフェラーゼおよびGFPをコードしたアデノウイルス粒子を感染させたHEK293細胞におけるルシフェラーゼの発現を、TAT‐I24が抑制することを示す(a)。ルシフェラーゼ、GFP、およびアデノウイルスをコードしたヘキソン遺伝子のmRNAレベルを、TAT‐I24が抑制することを示す(b)。感染細胞によるアデノウイルス粒子の上清中での形成および分泌を、TAT‐I24が抑制すること示す(c)。アデノウイルス感染から96時間後の細胞分離を、TAT‐I24が抑制することを示す(d)。
図8B図8は、ルシフェラーゼおよびGFPをコードしたアデノウイルス粒子を感染させたHEK293細胞におけるルシフェラーゼの発現を、TAT‐I24が抑制することを示す(a)。ルシフェラーゼ、GFP、およびアデノウイルスをコードしたヘキソン遺伝子のmRNAレベルを、TAT‐I24が抑制することを示す(b)。感染細胞によるアデノウイルス粒子の上清中での形成および分泌を、TAT‐I24が抑制すること示す(c)。アデノウイルス感染から96時間後の細胞分離を、TAT‐I24が抑制することを示す(d)。
図9】HEK293細胞における、ワクシニアウイルスのウイルス遺伝子の発現(a)および複製(b,c)を、TAT‐I24が抑制することを示す。
図10】レンチウイルスによるルシフェラーゼ遺伝子の発現を、TAT‐I24が抑制することを示す。
図11】プラスミドとI24とで同時に形質転換した大腸菌細胞において、コロニーの形成が抑制されることを示す。
図12】I24ペプチドの存在下でプラスミドDNAを形質転換してから4時間、および6時間後の、大腸菌細胞におけるプラスミドのコピー数(a)およびβ‐ラクタマーゼ(bla)mRNAレベルの分析を示す。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明は、化学式I X‐X‐X‐X‐X‐(A)‐X‐X‐(X‐C (I)に基づくアミノ酸配列(配列番号1)を備える、又は化学式Iに基づくアミノ酸配列からなるペプチドに関し、ここで、XはC又はSであり、XはL又はAであり、XはA、V又はLであり、XはF又はYであり、XはY又はFであり、XはC又はRであり、XはF又はLであり、XはW又はAであり、そして、mおよびnは、それぞれ0又は1であり、或いはそのバリアントである。
【0019】
上述したように、本発明のペプチドは、細胞内で自然に生じる細胞遺伝子の発現に影響を与えることなく、当該細胞内における外来/異種/外来性核酸分子の転写および/又は翻訳、並びに/或いは、外来DNA分子からの遺伝子発現を抑制することができる。
【0020】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明は、細胞ゲノムがコードするタンパク質の遺伝子発現に影響を与えることなく、「外来」DNAからの遺伝子発現を抑制できるペプチドを提供する。I24ペプチドが、インターロイキン8プロモータの制御下で、ルシフェラーゼをコードしたプラスミドと共にトランスフェクションされ、さらに腫瘍壊死因子‐α(TNF‐α)によって刺激されると、インターロイキン8プロモータの制御下でルシフェラーゼの発現を抑制できる一方で、TNF‐α誘導性インターロイキン8の内在レベルは影響を受けない。
【0021】
本明細書における「外来核酸分子」(つまり、異種又は外来性核酸分子)とは、生物又は細胞内で自然に産生されず、通常は細胞融合、ウイルス感染、および他の一般的な周知の方法(例えば、電気穿孔法)など、本技術分野において周知の方法で生物又は細胞内に導入される核酸分子のことを指す。
【0022】
「外来」DNAの導入は、リポソーム型、非リポソーム型、電気穿孔法、又は本技術分野において周知の他のトランスフェクション手段を利用した、真核細胞のトランスフェクションによって行われ得るが、ウイルス感染、ファージ感染、或いは、細菌間又は他の生物間におけるDNAの導入など、自然な導入メカニズムによっても行われ得る。また、「外来」DNAは、本技術分野において周知の形質転換手段や、遺伝子水平伝播などの自然な転移によって、原核細胞に導入されることもあり得る。
【0023】
「外来」核酸、染色体外、異種、又は外来性核酸は、通常は標的細胞内に存在せず、プラスミド、PCR産物や、他のあらゆる合成DNA又はRNA、或いは、ウイルス又はファージに内包された核酸や、細菌、原生動物、又は真菌などの生物に由来する核酸であり得、また、標的細胞にとって「外来」である。DNAを潜在させたDNA分子、生物又はウイルスは、化学的又は生物学的手段、エンドサイトーシス、感染、或いは侵入によって標的細胞に転移され得る。標的細胞は、真核細胞、哺乳類細胞、脊椎動物細胞又は無脊椎動物細胞、植物細胞、真性細菌又は古細菌に属するバクテリア、真菌、或いは原生動物であり得る。
【0024】
本発明の好ましい実施形態によると、「外来」核酸は、優先的にはDNA分子を意味し、最も優先的には2本鎖DNA分子を意味するが、RNA分子又はRNAに関連するDNA分子でもあり得る。「外来」DNAは、超らせんDNA又は線状DNAでもあり得、プラスミドDNA、PCR産物、又はオリゴヌクレオチドでもあり得る。「外来」核酸は、細菌、ファージ、ウイルス、真菌、又は原生動物や寄生蠕虫などの寄生生物に由来する、感染性病原体又は染色体外DNAのゲノムの一部であり得る。
【0025】
真核細胞のトランスフェクションに利用される発現プラスミドDNAは、RNAポリメラーゼIIによってコードされた遺伝子の発現を駆動する真核性プロモータ(CMV又はSV40プロモータなど)などの、特定の要素を含み得る。さらに、ポリアデニル化部位、リボソームプライミング部位、および、任意で、真核性の複製起点などの要素を含む。また、T7ポリメラーゼによるシークエンシング又はインビトロ発現に用いるT7プロモータも含み得る。細菌内におけるプラスミド伝播に関しては、発現プラスミドは、細菌性の複製起源、選択用の抗生物質耐性遺伝子および、抗生物質耐性遺伝子の発現を駆動する原核性プロモータも含み得る。
【0026】
「外来」DNAは、自然発生DNAウイルス又は遺伝子導入用の人工ウイルスなどの、ウイルスによって提供され得る。2本鎖DNAウイルスは、2本鎖DNAとして表されるウイルスゲノムを有する。2本鎖DNAウイルスは、アデノウイルス科、ヘルペスウイルス科、ポリオーマウイルス科、パピローマウイルス科、カウドウイルス目、リガメンウイルス目、バキュロウイルス科などのバキュロ様ウイルス、および、ポックスウイルス科に属する巨大核質DNAウイルスの群に属する。円形で部分的な2本鎖DNAを有する別のウイルス群は、環状DNAが核に輸送されて転写された後合成されたプレゲノムRNAが逆転写される、B型肝炎ウイルスに代表されるヘパドナウイルス科に属する。その他のウイルス群として、1本鎖DNAウイルス、および1本鎖又は2本鎖RNAを含むRNAウイルスが存在する。「外来」DNAは、ファージDNAでもあり得る。2本鎖DNAゲノムを有するファージは、ミオウイルス科、シホウイルス科、ポドウイルス科、テクティウイルス科、コルチコウイルス科、プラズマウイルス科、リポスリクスウイルス科、ルディウイルス科、フセロウイルス科、サルテルプロウイルス属、又はグッタウイルス科の群に属する。生体分子研究又は生体分子技術で用いられる、遺伝子の形質導入用ウイルスベクターの例として、ワクシニアウイルス、アデノウイルス、単純ヘルペスウイルス、バキュロウイルス、レンチウイルス、又はアデノ随伴ウイルスが挙げられる。
【0027】
したがって、本発明のペプチドおよび化合物の応用の1つとして、ウイルス複製の低減又は抑制につながる、ウイルスDNAからの早期遺伝子発現の防止が考えられる。
「外来」DNAの転移および遺伝子発現の防止とは対照的に、本発明のペプチドおよび化合物は、遺伝子導入などによる、遺伝子治療中の意図的な遺伝子発現の状況においても有用である可能性がある。本抑制剤は、抑制剤で処理されたほかの細胞種における遺伝子発現を除外することによる、特定の標的細胞種における導入遺伝子からの選択的遺伝子発現に対し有用となることが考えられる。
【0028】
本発明のペプチドおよび化合物の標的細胞は、初代細胞又は組織内の細胞などの真核細胞であり得るし、不死化腫瘍由来細胞株又は人工細胞株のいずれか、或いは、ウイルスなど他の方法で不死化した細胞株でもあり得る。標的細胞は、ヒト由来のものを含む哺乳類の細胞でもあり得るし、脊椎動物由来又は、昆虫細胞などの無脊椎動物由来の細胞でもあり得る。また、標的細胞は、細菌などの原核性細胞、又は古細菌などの古細菌細胞でもあり得る。
【0029】
例示のように、また、本発明の好ましい実施形態によれば、本発明のペプチド、具体的にはI24ペプチドは、ルシフェラーゼ発現プラスミドとペプチドとで同時にトランスフェクションされた細胞のルシフェラーゼmRNAレベルの低減によって例示したとおり、発現プラスミドとペプチドとで同時にトランスフェクションされた細胞からのmRNAレベルを抑制する。mRNAレベルの低減およびタンパク質レベルの低減における時間依存性および用量依存性は、同等である。トランスフェクションされた細胞におけるmRNAレベルの抑制は、ペプチドとDNA分子との直接的な接触によって行われ、その後のRNA転写を防止するものでもよいし、DNA依存性RNAポリメラーゼの活性を抑制することで行うものでもよいし、又は、宿主因子と転写促進に関わるDNA分子との結合又は相互作用を抑制することで行うものでもよく、転写促進に関わるDNA分子とは、例えば、転写因子、転写因子に関連する因子、又は、例えばTATAボックス結合タンパク質又はその関係因子などの一般的な転写活性化に関わる因子などである。DNAとの相互作用は、DNA分子が核に侵入する以前に、細胞膜や細胞質で既に発生していることもある。可能性は低いが、抑制剤は転写後の段階で作用してmRNAの安定性に影響を与えることもある。
【0030】
例示のとおり、本発明のペプチド、具体的にはI24ペプチドは、発現プラスミドにトランスフェクションされた真核細胞のタンパク質レベルを、発現プラスミドの一定の要素とは無関係に抑制する。この抑制は、細菌性又は真核性の抗生物質耐性遺伝子の種類とは無関係に行われる。真核細胞におけるペプチドによるタンパク質産生の抑制は、発現プラスミドに存在する真核性プロモータの種類に一部依存する。プロモータは、例えば、サイトメガロウイルス(CMV)プロモータ、インターロイキン8(CXCL‐8)プロモータなどの真核性の天然プロモータ、又は、転写を駆動するNF‐KB結合部位などの要素を有する最小プロモータなどの合成プロモータでもあり得る。CMVプロモータの制御下にあるルシフェラーゼと比較すると、SV40初期プロモータの制御下にある遺伝子は、I24ペプチドによって強力に抑制されない。
【0031】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明のペプチドのN末端はアミンで、C末端はアミド又は酸でもよい。
本発明のペプチドおよび化合物は、古典的なペプチド合成によって産生され得、ジメチルスルホキシド(DMSO)に可溶であるが、水溶液、アルコール、有機溶剤、又は乳剤などの他の溶剤にも可溶であってもよい。
【0032】
本発明のペプチドは、外来核酸分子の転写および/又は翻訳を「抑制」又は防止さえするため、「抑制剤」と考えることもできる。
本発明の別の局面は、化学式I X‐X‐X‐X‐X‐(A)‐X‐X‐(X‐C (I)(配列番号1)を備える、又は化学式I(配列番号1)からなる、少なくとも1つのペプチドを備えるペプチド系化合物に関し、ここで、XはC又はSであり、XはL又はAであり、XはA、V又はLであり、XはF又はYであり、XはY又はFであり、XはC又はRであり、XはF又はLであり、XはW又はAであり、そして、mおよびnは、それぞれ0又は1であり、或いはそのバリアントである。
【0033】
本明細書における「ペプチド系化合物」とは、アミノ酸残基の鎖を形成するペプチド結合(つまり、アミノ結合)によって繋がり合うアミノ酸残基を有する化合物を指す。本発明における「ペプチド系化合物」は、化学式Iを備える又は化学式Iからなる、少なくとも1つのペプチドを備える。ペプチド系化合物は、本発明の当該少なくとも1つのペプチドに隣接して別の化学部分を備えることもある。別の化学部分とは、タンパク質、多糖類、パルミチン酸や脂質などの脂肪酸、これらの組み合わせであるリポタンパク質や糖脂質など、核酸(例えば、DNA、siRNA、shRNA、アンチセンスオリゴヌクレオチド)、小分子薬物(例えば、ヌクレオシド類似体、ヘリカーゼ抑制剤)、およびイメージング剤(例えば、フルオロフォア、量子ドット、放射性トレーサー、金属キレート)などである。
【0034】
本明細書における「化合物」とは、ポリペプチド、ペプチド、又は
化学式(I)を備える又は化学式(I)からなる少なくとも1つのペプチドと複合又は結合した、他のあらゆる化学物質でもあり得る。したがって、本発明の「ペプチド系化合物」は、融合ポリペプチド、ペプチド、タンパク質、或いはこれらの複合体又は結合体のいずれかでもあり得る。
【0035】
化学式Iを備える又は化学式Iからなる少なくとも1つのペプチドの「バリアント」とは、少なくとも1つ、好ましくは少なくとも2つ、より好ましくは少なくとも3つから、最大で5つまで、好ましくは最大で4つまで、より好ましくは最大で3つまで、より好ましくは最大で2つまで、具体的には1つの、保存的アミノ酸置換を備えてもよい。保存的置換の例として、F、V、L又はAを互いに置換するような、1つの疎水性残基の別の疎水性残基への置換、或いは、K,R間、E,D間、又はQ,N間の置換のような、1つの極性残基の別の極性残基への置換が挙げられる。他のこのような保存的置換、例えば、同様の疎水性特性を有する全領域の置換などがよく知られている(KyteおよびDoolittle著、1982、J.Mol.Biol.157(1):105‐132)。代表的なアミノ酸置換を次の表に示す。
【0036】
【表1】
【0037】
本発明の好ましい実施形態によると、ペプチドの力価は、例えばペプチドの化学合成によって、ペプチドのアミノ酸残基を変更又は欠失すること、或いは、ペプチドにアミノ酸残基を挿入又は付加することによって修飾され得る。ペプチドの特定の部位におけるアミノ酸残基の保守的交換は、活性に影響を与えることなく許容される。アミノ酸の挿入もまた、可能である。ペプチドの活動の向上又は障害は、特定のアミノ酸置換によって生じ得る。細胞トランスフェクション分析における活性では、下記のアミノ酸変化が生じ得る。I24ペプチドのF8,C9間におけるW又はAが挿入され得、F8はLになり得、A3はV又はLになり得、F4はYになり得、Y5はFになり得、A6は欠失し得、C1はSになり得、C7はRになり得る。本発明のペプチドのコアモチーフは、好ましくはC1‐X‐X‐X‐X‐(A)‐C2‐X‐(WA)‐C3(配列番号59)であり、ここでXはL又はAであり、Xは脂肪族残基A、V又はLであり、XおよびXは芳香族アミノ酸残基F又はYである。位置C2は、別のアミノ酸残基によって交換できる。本発明の特に好ましい実施形態では、このモチーフは、「外来」DNAからの遺伝子発現に対する抑制効果およびRNAポリメラーゼ活性の抑制を引き起こす、最小モチーフを示す。
【0038】
化学式(I)における「A」はアラニンの略であり、「C」はシステインの略であり、「S」はセリンの略であり、「L」はロイシンの略であり、「V」はバリンの略であり、「F」はフェニルアラニンの略であり、「Y」はチロシンの略であり、「R」はアルギニンの略であり、「W」はトリプトファンの略である。化学式(I)における「‐」は、ペプチド、ポリペプチド、およびタンパク質で生じる、2つのアミノ酸残基間のペプチド結合を示す。
【0039】
本発明の特に好ましい実施形態では、化学式(I)のXはCである。
本発明のさらに好ましい実施形態では、XはCであり、XはLであり、XはCである。
【0040】
本発明の別の好ましい実施形態では、mは1である。
本発明の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、アミノ酸配列X‐X‐X‐X‐X‐(A)‐C‐X‐(X‐C(配列番号60)を備える、又は当該アミノ酸配列からなり、ここで、XはC又はSであり、XはL又はAであり、XはA、V又はLであり、XはF又はYであり、XはY又はFであり、XはF又はLであり、XはW又はAであり、そして、mおよびnは、それぞれ0又は1であり、或いはそのバリアントである。
【0041】
本発明の別の好ましい実施形態では、本発明のペプチドは、アミノ酸配列C‐L‐X‐X‐X‐(A)‐C‐X‐(X‐C(配列番号61)を備える、又は当該アミノ酸配列からなり、ここで、XはA、V又はLであり、XはF又はYであり、XはY又はFであり、XはF又はLであり、XはW又はAであり、そして、mおよびnは、それぞれ0又は1であり、或いはそのバリアントである。
【0042】
生物/細胞内における外来核酸分子の翻訳および/又は転写を抑制又は防止するために、本発明の化合物の能力を増大させるため、当該化合物は、化学式(I)および本発明によるペプチドを1つ以上備えてもよい。したがって、本発明の化合物は1個から4個、好ましくは1個から3個、より好ましくは1個から2個の、化学式Iを備える又は化学式Iからなるペプチドを備えても、又は当該ペプチドからなってもよい。
【0043】
本発明のペプチド系化合物は、化学式(I)によるペプチドを1つ以上備えてもよく、各ペプチドは、同一のアミノ酸配列又は異なるアミノ酸配列からなってもよい。本発明の特に好ましい実施形態では、化合物は、化学式(I)および本発明による同一のアミノ酸配列からなるペプチドを2つ以上備える。結果として得られる多量体(例えば、二量体および三量体)は、本発明のペプチドの転写/翻訳抑制効果が著しく向上し得るという利点を有する。
【0044】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明のペプチドは、8から40個、好ましくは8から30個、より好ましくは8から20個、より好ましくは8から15個、より好ましくは8から12個、より好ましくは8から10個のアミノ酸残基からなる。
【0045】
本発明のペプチドは、直鎖又は環状ペプチドでもよい。環状化合物、特に環状ペプチドを産生する方法は、本技術分野において周知のものである。化学式(I)および本発明によるペプチドのC末端、場合によってはN末端における、システイン残基の存在によって、環状ペプチドの産生が促進される。言うまでもなく、環状ペプチドは、本発明のペプチドのN末端とC末端との間でアミド結合を行うことによっても合成し得る。
【0046】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明のペプチドのアミノ酸配列は、CLAFYACFWC(配列番号2)、CLAFYACLWC(配列番号3)、CLAFYACFAC(配列番号4)、CLVFYACFC(配列番号5)、CLAFYACFC(配列番号6)、CLLYFCFC(配列番号7)、CAAFYACFC(配列番号8)、SLAFYACFAC(配列番号9)、CLAFYARFC(配列番号10)、CLAFYCFAC(配列番号11)、CLAFYCFC(配列番号12)、およびCLAYFCFC(配列番号13)からなる群から選択される。
【0047】
本発明の特に好ましいペプチドは、CLAFYACFWC(配列番号2)、CLAFYACLWC(配列番号3)、CLAFYACFAC(配列番号4)、CLVFYACFC(配列番号5)、CLAFYACFC(配列番号6)およびCLLYFCFC(配列番号7)からなる群から選択され、特に、CLAFYACFWC(配列番号2)又はCLAFYACLWC(配列番号3)から選択される、アミノ酸配列を備え、又は当該アミノ酸配列からなる。
【0048】
本発明の化合物およびペプチドの、細胞内への転位、又は細胞コンパートメント間での転位を促進するため、本発明の化合物又は本発明による少なくとも1つのペプチドは、細胞透過性を示すように修飾される。本発明のペプチド系化合物内における細胞透過部分の存在は、当該化合物の細胞内への転位、又は細胞コンパートメント間での転位をより効率的に制御することを可能にする。本発明の化合物およびペプチドは、翻訳および/又は転写が抑制又は低減される細胞又は生物内に配置され得るため、細胞又は生物内における外来核酸分子の翻訳および/又は転写を、より一層の抑止又は防止に繋がる可能性がある。
【0049】
本発明の好ましい実施形態によると、少なくとも1つのペプチド又はペプチド系化合物は、少なくとも1つの細胞透過性ペプチドに、C末端および/又はN末端で直接、或いはリンカーを介して融合される。
【0050】
本明細書における「細胞透過性ペプチド」という用語は、異なる種類の分子を原形質膜を横断して輸送することができ、したがって様々な分子量の分子(ナノ粒子から小化学分子、高分子、およびDNAの大型断片まで)の細胞取り込みを促進することができる(短鎖)ペプチドを指す。輸送される分子は、共有結合を介した化学結合(例えば、複合、融合)或いは、Pep-1等による非共有結合性相互作用のいずれかにより、細胞透過性ペプチドに会合される。通常、細胞透過性ペプチドは、リジンやアルギニンなどの正電荷を持つアミノ酸を高い相対存在量で含むか、又は、極性/荷電アミノ酸、および、非極性、疎水性アミノ酸の交互パターンを含む配列を有するかのいずれかであるアミノ酸組成を有する。これら2つのタイプの構造は、それぞれ、ポリカチオン性、および両親媒性と言われる。細胞透過性ペプチドは、異なるサイズ、アミノ酸配列、および電荷を有するが、当該ペプチドは全て、原形質膜を転位し、細胞質又は細胞小器官への様々な分子の送達を促進する能力、という共通の特性を持つ。
【0051】
本発明のペプチド又はペプチド系化合物は、少なくとも1つの細胞透過性ペプチドに、C末端および/又はN末端で直接、或いはリンカーを介して融合されてもよい。リンカーは、本発明によるペプチドおよび/又は化合物と細胞透過性ペプチドとの間に距離を設けるという利点を有する。さらなる利点は、本発明によるペプチドおよび/又は化合物と細胞透過性ペプチドとの間に1つ以上の切断部位を組み込み、例えばプロテアーゼに細胞透過性ペプチドの除去を許容することである。
【0052】
本発明の別の好ましい実施形態によると、細胞透過性ペプチドは、TATペプチドおよびポリカチオン性タグを含む群から選択される。
上述のとおり、細胞透過性ペプチドは、ポリカチオン性構造を有し得る。したがって、本発明によるペプチドおよび/又は化合物にポリカチオン性ペプチド(つまり、ポリカチオン性タグ)を添加することが特に好ましい。他の細胞透過性ペプチドは、細胞膜を介した他の分子の転位を支持することが知られている、自然発生タンパク質に由来し得る。例えば、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)から得られるTATペプチドは、周知の細胞透過性ペプチドである。
【0053】
本発明の好ましい実施形態によると、細胞透過性ペプチドは、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)のTATタンパク質に由来し、配列番号14(MEPVDPRLEPWKHPGSQPKTACTTCYCKKCCFHCQVCFTTKALGISYGRK‐KRRQRRRPPQGSQTHQVSLSKQPTSQPRGDPTGPKE)の37から72個のアミノ酸残基、より好ましくは37から60個のアミノ酸残基、より好ましくは48から60個のアミノ酸残基を備えても、又は当該アミノ酸残基からなってもよく、具体的には、アミノ酸配列GRKKRRQRRRPPQ(配列番号15)、YGRKKRRQRRR(配列番号16)、CYGRKKRRQRRR(配列番号17)、YGRKKRRQRRRGGG(配列番号18)又は、CGRKKRRQRRR(配列番号19)のアミノ酸配列を備えても、又は当該アミノ酸配列からなってもよく、GRK‐KRRQRRRPPQ(配列番号15)が最も好ましく使われる。
【0054】
上述のとおり、本発明の別の局面は、I24ペプチド或いは、細胞浸透性又は細胞透過性を向上可能な分子に融合された本発明の他のあらゆるペプチドに関する。このようなタグは、例えば、TATペプチド又は、ポリアルギニンタグなどのポリカチオン性タグでもよい。実験によると、例えば、TATタグ(TAT‐I24:GRKKRRQRRRPPQCLAFYACFC;配列番号20)は、TATペプチド単独では不活性であるところ、プラスミドDNA(IC50=0.06μM)と共にトランスフェクションされた場合に、プラスミドでコードされたルシフェラーゼレベルの抑制におけるペプチドの力価を増大させる。
【0055】
また、本発明で使用される細胞透過性ペプチドは、RQIKIWFQNRRMKWKK(配列番号21)の配列を備えるショウジョウバエアンテナペディアのタンパク質ホメオドメイン由来でも、RRRRRRR(配列番号22)つまり(Arg)7、又はRRRRRRRC(配列番号23)つまり(Arg)7‐C、又はRRRRRRRR(配列番号24)つまり(Arg)8、又はRRRRRRRRR(配列番号25)つまり(Arg)9を備えるポリアルギニンの伸長物でも、TRSSRAGLQFPVGRVHRLLRK(配列番号26)の配列を備えるブフォリンに由来しても、GWTLNSAGYLLGKINLKALAALAKKIL(配列番号27)の配列を有するトランスポータンに由来しても、WEAKLAKALAKALAKHLAKALAKALKACEA(配列番号28)の配列を備えるKALAペプチド又はKLALKLALKALKAALKLA(配列番号29)の配列を備えるMAPから選択されても、KETWWETWWTEWSQPKKKRKV(配列番号30)の配列を備えるPep-1、LGTYTQDFNKFHTFPQTAIGVGAP(配列番号31)の配列を備えるhCT(9‐32)から選択されても、LLIILRRRIRKQAHAHSK(配列番号32)の配列を備えるpVECであっても、RVIRVWFQNKRCKDKK(配列番号33)の配列を備えるpISLであっても、RQGAARVTSWLGRQLRIAGKRLEGRSK(配列番号34)の配列を備えるErnsであっても、KLIKGRTPIKFGK(配列番号35)の配列を備えるレストリクトシンL3であっても、GALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKV(配列番号36)又はGALFLGFLGAAGSTMGAWSQPKSKRKV‐システアミドの配列を備えるMPGであっても、PKKKRKVEDPYC(配列番号37)又はCGGGPKKKRKVED(配列番号38)の配列を備えるSV40ラージT抗原の核内局在化シグナル(NLS)に由来しても、或いは、YTIWMPENPRPGTPCDIFTNSRGKRASNG(配列番号39)の配列を備える狂犬病ウイルスの糖タンパク質(RVG)に由来してもよい。
【0056】
ルシフェラーゼ発現の抑制において、タグなしI24ペプチドが僅かな活性しかない一方で、バキュロウイルスなどの感染性ウイルスからの遺伝子発現は、細胞浸透性タグに融合されたペプチドによって低減され得る。これは、N末端TATタグに融合したI24(TAT‐I24:GRKKRRQRRRPPQCLAFYACFC;配列番号20)を用いた、CMVプロモータの制御下のルシフェラーゼ遺伝子をコードするバキュロウイルスにおけるルシフェラーゼ発現の低減によって例示したとおりである。TAT‐I24によるバキュロウイルス仲介ルシフェラーゼ発現抑制のIC50は、0.15μMである。一局面では、本発明はペプチドとタグの融合に関するものであり、ペプチドとタグとの融合はペプチド又はタグ単体より優れている。別の局面では、本発明は、細胞遺伝子の発現を抑制することなく、遺伝子をコードするバキュロウイルスのmRNAレベルを低減することもできる、ペプチドとタグとの融合に関するものであり、インターロイキン8mRNAが影響を受けずに発現することで実証された。
【0057】
本発明の別の局面は、TATタグの付いたI24ペプチドに関する。TATタグペプチドは、本発明の全てのペプチドおよび化合物と同様に、2本鎖DNAウイルスであるアデノウイルスによる遺伝子発現を抑制することができるが、抑制は、高濃度(IC50=6μM)で生じる。レポーター遺伝子発現の抑制に加えて、ウイルスのヘキソン遺伝子の発現も、これに相当する方法で抑制される。
【0058】
本発明の好ましい実施形態によると、TATタグ付きI24ペプチドは、標的細胞内でのウイルス複製を抑制することができ、これはアデノウイルス感染後に溶媒処理された細胞と比較して、上清に放出されたアデノウイルス粒子および細胞分離が低減し、標的細胞におけるウイルス産生の抑制が示されたことで実証された。
【0059】
本発明の別の局面は、TATタグ付きI24ペプチドに関する。TATタグペプチドは、本発明の全てのペプチドおよび化合物と同様に、ポックスウイルス科の巨大核質DNAウイルスに属するDNAウイルスであるワクシニアウイルスの遺伝子発現および複製を抑制することができる。HEK293細胞がワクシニアウイルスに感染し、TAT‐I24で処理された場合、TAT‐I24の濃度20μMで、ウイルス遺伝子発現は95%より高い確率で抑制され、ウイルス複製は90%より高い確率で抑制された。
【0060】
本発明の別の局面は、TATタグ付きI24ペプチドに関する。TATタグペプチドは、本発明の全てのペプチドおよび化合物と同様に、2本鎖DNAウイルスであるヘルペスウイルスの遺伝子発現および複製を抑制することができ、これは単純ヘルペスウイルスの複製の抑制で実証された。ヘルペスウイルス科には、ほかにもサイトメガロウイルス又は水痘帯状疱ウイルスがあり、エプスタイン・バーウイルスなどもその1つである。
【0061】
本発明の別の局面は、TATタグ付きI24ペプチドに関する。TATタグペプチドは、本発明の全てのペプチドおよび化合物と同様に、RNAウイルスの遺伝子発現を抑制できる。部分的な遺伝子発現の抑制は1本鎖RNAウイルスに見られ、CMVプロモータの制御下にルシフェラーゼを含有するレトロウイルスであるレンチウイルスLucで実証された。HEK293細胞をTAT‐I24ペプチドで処理し、CMVプロモータの制御下にルシフェラーゼをコードするレンチウイルスに感染させた場合、最高濃度(20μM)において、75%のルシフェラーゼレベルの低減が観察された。
【0062】
I24ペプチドに代表される本発明の抑制剤/ペプチドは、以下の配列(アミノ(N)末端からカルボキシ(C)末端)、Cys‐Leu‐Ala‐Phe‐Tyr‐Ala‐Cys‐Phe‐Cys(配列番号6)の、9つのアミノ酸残基からなる。当該ペプチドは、恐らくは標的細胞の細胞膜で又は細胞質基質内で、任意の方法によって標的細胞に導入されるときに、DNA分子に接触してもよい。当該ペプチドは、細胞に進入する前にDNA分子に接触していてもよいし、細胞透過性のペプチドを介して細胞内でDNA分子に接触してもよい。
【0063】
I24ペプチドの配列は、シグナルペプチドのペプチドバインダーを特定するための、翻訳中のリボソームに対するファージスクリーニングによって最初に特定された、国際公開第2011/086116号に記載されているペプチド(LAFYACF(国際公開第2011/086116号に記載の配列番号39))に由来する。しかしながら、本明細書に記載の、発明を実施するための形態は、最初のシグナルペプチドスクリーニングターゲットとは無関係である。様々な細胞系で実施するペプチドの試験は、最初のシグナルペプチドターゲットとは無関係な効果を示した。驚くことに、ペプチドは、標的細胞に持ち込まれた「外来」DNAからの遺伝子発現を、細胞の、ゲノムによってコードされた遺伝子発現に影響を与えることなく抑制した。本技術分野において、シグナルペプチドと「外来」DNAからの遺伝子発現の規則との間に周知の関係はないため、上記の結果の新規性はサポートされる。
【0064】
本発明の特に好ましい実施形態によれば、本発明のペプチド系化合物および/又は少なくとも1つのペプチドは、標識に融合又は複合される。
本発明のペプチドおよび/又は化合物は、融合又は複合産物の標識として働く別の分子と複合又は融合してもよい。標識の存在によって、本発明によるペプチドおよび/又は化合物の、例えば細胞又は生物における、直接的又は非直接的な検出と局在化とが許容される。
【0065】
本発明内で使用される標識は、ポリペプチド、タンパク質、および他の化学構造を含む、様々な構造を有してもよい。好ましくは、標識は、染料、好ましくは蛍光染料、より好ましくは蛍光タンパク質、蛍光ストレプトアビジン、蛍光ビオチン、又は染料結合ペプチドを含む群から選択される。
【0066】
また、本発明のペプチドは、優先的にはN末端を介して、染料やビオチンなどの他のペプチド又は化学物質などの、局在化および活性研究に有用であろう他の成分に融合され得る。本発明の化合物、好ましくはI24ペプチドを備える化合物は、多量体、好ましくは二量体でもあり得る。例示した二量体は、単量体(IC50=0.09μM)と比較して力価が増大した。
【0067】
本発明の更なる局面は、哺乳類又はヒト個体の細胞における異種核酸分子の転写および/又は翻訳に関連する障害又は疾患の治療に用いるための、本発明によるペプチド又は化合物に関する。
【0068】
本発明のペプチドおよび化合物は、哺乳類およびヒト被験体の細胞における異種核酸分子の翻訳および/又は転写によって生じる疾患又は障害の治療に利用できる。このような疾患および障害には、とりわけ、口唇ヘルペスおよび陰部ヘルペスを発生させる単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、水痘および成人の帯状疱疹を発生させる水痘帯状疱疹ウイルス、疣贅又はある種の癌を発生させるパピローマウイルス、又はアデノウイルスによる感染症などの、ウイルス性感染症が含まれる。
【0069】
「細胞における異種核酸分子の転写および/又は翻訳に関連する障害又は疾患」は、健康とされる細胞には通常存在しない核酸分子の翻訳又は転写によって発生する障害および疾患を含む。
【0070】
本発明の別の局面は、哺乳類又はヒト個体における、ウイルス性、細菌性、寄生虫又は真菌性の感染症の治療に用いる、本発明のペプチド又はペプチド化合物に関する。本発明のペプチド又はペプチド化合物は、好ましくはポックスウイルス科のウイルス、より好ましくはアデノウイルス科のウイルス、最も優先的にはヘルペスウイルス科のウイルス、具体的には、単純ヘルペスウイルス、サイトメガロウイルス、および水痘帯状疱疹ウイルスである、2本鎖DNAウイルスなどのDNAウイルスによる感染症の治療に利用できる。
【0071】
本発明のペプチドおよびペプチド系化合物は、細胞又は(多細胞)生物に存在する異種(「外来」)核酸分子の転写および/又は翻訳の比率を顕著に抑制又は低減することが示されている。この特徴を有する本発明のペプチドおよび、ひいては化合物は、哺乳類又はヒト個体における、ウイルス性、細菌性、寄生虫又は真菌性の感染症の治療を達成させる。ウイルスは通常、その複製に他の生物又は細胞を必要とするため、特にウイルスによって発生する感染症は、本発明のペプチドおよび化合物を利用して治療され得る。
【0072】
本発明のペプチドおよび化合物は、哺乳類又はヒト被験体に、経口投与、静脈内投与、皮下投与、局所投与、膣内投与、眼内投与、吸入投与、又は経鼻投与によって投与され得る。
【0073】
本明細書に記載の本発明のペプチドおよび化合物は、経口投与、静脈内投与、皮下投与、局所投与、膣内投与、眼内投与、吸入投与、経鼻投与によって、(例えば、精製ペプチド又は化合物として)又は本明細書に記載のとおり、組成物又は薬剤の成分として、被験体のみに投与され得る。当該組成物は、医薬組成物を調合するために、生理学的に許容可能な担体又は賦形剤と共に製剤化される。製剤は、例えば静脈内又は皮下投与などの、投与方法に適したものであるべきである。組成物を製剤化する方法は、本技術分野において周知のものである(例えば、Remington’s Pharmaceuticals Sciences、第17版、Mack Publishing Co.、(Alfonso R.Gennaro編集)(1989)参照)。
【0074】
薬学的に許容可能な適切な担体には、水、塩類溶液(例えば、NaCl)、生理食塩水、緩衝生理食塩水、アルコール、グリセロール、エタノール、アラビアゴム、植物油、ベンジルアルコール、ポリエチレン・グリコール、ゼラチン、ラクトース、アミロース、又は澱粉などの炭水化物、マンニトール、スクロース、デキストロース又はその他の糖類、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ケイ酸、リポソーム、粘性パラフィン、香油、脂肪酸エステル、ヒドロキシメチルセルロース、ポリビニルピロリドンなど、およびこれらの組み合わせが含まれる。製剤は、本発明のペプチドおよび化合物と有害な反応をしない、又は本発明のペプチドおよび化合物の活性を干渉しない補助剤(例えば、潤滑剤、防腐剤、安定剤、湿潤剤、乳化剤、浸透圧に影響を与えるための塩類、緩衝剤、着色および/又は芳香物質など)と混合され得る。好ましい実施形態では、静脈内投与に適した水溶性の担体が利用される。
【0075】
本明細書に記載のペプチドおよび化合物を備える本発明の製剤は、湿潤剤又は乳化剤、或いはpH緩衝剤も含み得る。組成物は、液体溶液、懸濁液、乳剤、徐放性製剤、又は粉末であり得る。また、組成物は、トリグリセリドなどの従来の結合剤および担体を有する坐薬としても製剤化され得る。
【0076】
本発明の好ましい実施形態では、静脈内投与用の組成物は、概して、滅菌等張性水性緩衝液である。必要な場合、組成物は、注射部位の痛みを和らげるために、可溶化剤および局所麻酔剤を含んでもよい。通常、原料は、例えば、活性薬剤の量を表示したアンプル又は小袋などの気密容器に入った凍結乾燥粉末又は無水濃縮物として、個別に提供されるか、又は単位剤形中に混ぜて提供される。組成物が点滴投与される場合、滅菌製薬等級水、生理食塩水、又はブドウ糖液を含む点滴ボトルで投薬されてよい。組成物が注射で投与される場合、投与前に原料を混ぜることができるように、注射用の滅菌水又は生理食塩水のアンプルが提供され得る。
【0077】
本発明のペプチドおよび化合物は、中性又は塩形態として製剤化され得る。薬学的に許容可能な塩類として、塩酸、リン酸、酢酸、シュウ酸、酒石酸などに由来する遊離アミノ基と共に形成されるもの、および、ナトリウム、カリウム、アンモニウム、カルシウム、水酸化第二鉄、イソプロピルアミン、トリエチルアミン、2‐エチルアミノエタノール、ヒスチジン、プロカインなどに由来する遊離カルボシキル基と共に形成されるものなどが挙げられる。
【0078】
本発明のペプチドおよびペプチド系化合物は、任意の適切なルートで、好ましくは、局所投与、経鼻投与、皮下投与、静脈内投与、吸入投与、非経口投与、皮内投与、経皮投与、直腸投与、膣内投与、眼内投与、又は経粘膜投与によって投与され得る。所望であれば、同時に1つ以上のルートを利用することもできる。
【0079】
本発明による具体的な用量又は投与量は、例えば、所望する結果の性質および/又は程度、投与ルートおよび/又は投与タイミングの詳細、並びに/或いは1つ又はそれ以上の特性(例えば、体重、年齢、生育歴、遺伝的特徴、ライフスタイル要因など、又はこれらの組み合わせ)によって変わってもよい。この用量又は投与量は、当業者によって決定できる。適切な用量又は投与量が、標準的な臨床技術によって求められる実施形態もある。例えば、いくつかの実施形態では、適切な用量又は投与量は、疾患重症度指標スコアを1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100%、又はそれ以上減らすのに十分な用量又は投与量である。例えば、いくつかの実施形態では、適切な用量又は投与量は、疾患重症度指標スコアを1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、85、90、95、100%減らすのに十分な用量又は投与量である。上記に代わって、又は上記に加えて、所望の又は最適な用量範囲又は投与量の特定を促進するために、1つ又はそれ以上のインビトロ又はインビボアッセイを利用して、適切な用量又は投与量を決定する実施形態もある。
【0080】
本発明のペプチドおよび化合物は、好ましくは、治療上有効な量で投与される。本明細書における「治療上有効な量」は、主として、本発明の医薬組成物に含まれる治療薬の総量に基づいて決定される。一般的に、治療上有効な量は、哺乳類又はヒト個体に有意義な利益(例えば、根本にある疾患又は障害の治療、調整、治癒、防止および/又は改善)をもたらすに足りる量をいう。適切な用量又は投与量は、インビトロ又は動物モデル試験システムから導き出された用量反応曲線から推定されてもよい。
【0081】
本発明のペプチドおよび化合物の、塩類を含む治療上有効な投与用量は約10‐1000mgの範囲(例えば、約20mg‐1,000mg、30mg‐1,000mg、40mg‐1,000mg、50mg‐1,000mg、60mg‐1,000mg、70mg‐1,000mg、80mg‐1,000mg、90mg‐1,000mg、約10‐900mg、10‐800mg、10‐700mg、10‐600mg、10‐500mg、100‐1000mg、100‐900mg、100‐800mg、100‐700mg、100‐600mg、100‐500mg、100‐400mg、100‐300mg、200‐1000mg、200‐900mg、200‐800mg、200‐700mg、200‐600mg、200‐500mg、200‐400mg、300‐1000mg、300‐900mg、300‐800mg、300‐700mg、300‐600mg、300‐500mg、400mg‐1,000mg、500mg‐1,000mg、100mg‐900mg、200mg‐800mg、300mg‐700mg、400mg‐700mg、および500mg‐600mg)であってもよい。本発明の好ましい実施形態によると、本発明のペプチドおよび化合物は、約10mg、50mg、100mg、150mg、200mg、250mg、300mg、350mg、400mg、450mg、500mg、550mg、600mg、650mg、700mg、750mg、800mgに等しいか又はそれより多い、および/或いは、約1000mg、950mg、900mg、850mg、800mg、750mg、700mg、650mg、600mg、550mg、500mg、450mg、400mg、350mg、300mg、250mg、200mg、150mg、又は100mgより少ない量で投与される。
【0082】
本発明のペプチドおよび化合物は、1用量又はそれ以上の用量で投与されてもよい。本発明によるペプチドおよび/又は化合物の治療上有効な量は、1日又はそれ以上の日数で、最も好ましくは1日で投与されてもよい。
【0083】
治療上有効な投与用量は、例えば、約0.001mg/kg体重から500mg/kg体重であってもよく、例えば、約0.001mg/kg体重から400mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から300mg/kg体重、/kg体重約0.001mg/kg体重から200mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から100mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から90mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から80mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から70mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から60mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から50mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から40mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から30mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から25mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から20mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から15mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から10mg/kg体重であってもよい。本明細書における治療上有効な量は、1日あたり1錠で提供されてもよい。
【0084】
治療上有効な投与用量は、例えば、約0.001mg/kg体重から約1mg/kg体重であってもよく、例えば、約0.001mg/kg体重から約0.9mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から約0.7mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から約0.6mg/kg体重、約0.001mg/kg体重から約0.5mg/kg体重、約0.01mg/kg体重から約1mg/kg体重、約0.01mg/kg体重から約0.9mg/kg体重、約0.01mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.01mg/kg体重から約0.7mg/kg体重、約0.01mg/kg体重から約0.6mg/kg体重、約0.01mg/kg体重から約0.5mg/kg体重、約0.02mg/kg体重から約1mg/kg体重、約0.02mg/kg体重から約0.9mg/kg体重、約0.02mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.02mg/kg体重から約0.7mg/kg体重、約0.02mg/kg体重から約0.6mg/kg体重、約0.02mg/kg体重から約0.5mg/kg体重、約0.03mg/kg体重から約1mg/kg体重、約0.03mg/kg体重から約0.9mg/kg体重、約0.03mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.03mg/kg体重から約0.7mg/kg体重、約0.03mg/kg体重から約0.6mg/kg体重、約0.03mg/kg体重から約0.5mg/kg体重、約0.04mg/kg体重から約1mg/kg体重、約0.04mg/kg体重から約0.9mg/kg体重、約0.04mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.04mg/kg体重から約0.7mg/kg体重、約0.04mg/kg体重から約0.6mg/kg体重、約0.04mg/kg体重から約0.5mg/kg体重、約0.05mg/kg体重から約1mg/kg体重、約0.05mg/kg体重から約0.9mg/kg体重、約0.05mg/kg体重から約0.8mg/kg体重、約0.05mg/kg体重から約0.7mg/kg体重、約0.05mg/kg体重から約0.6mg/kg体重、約0.05mg/kg体重から約0.5mg/kg体重であってもよい。
【0085】
治療上有効な投与用量は、例えば、約0.0001mg/kg体重から0.1mg/kg体重であってよく、例えば、約0.0001mg/kg体重から0.09mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.08mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.07mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.06mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.05mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から約0.04mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.03mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.02mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.019mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.018mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.017mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.016mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.015mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.014mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.013mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.012mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.011mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.01mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.009mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.008mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.007mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.006mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.005mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.004mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.003mg/kg体重、約0.0001mg/kg体重から0.002mg/kg体重であってもよい。いくつかの実施形態では、治療上有効な用量は、0.0001mg/kg体重、0.0002mg/kg体重、0.0003mg/kg体重、0.0004mg/kg体重、0.0005mg/kg体重、0.0006mg/kg体重、0.0007mg/kg体重、0.0008mg/kg体重、0.0009mg/kg体重、0.001mg/kg体重、0.002mg/kg体重、0.003mg/kg体重、0.004mg/kg体重、0.005mg/kg体重、0.006mg/kg体重、0.007mg/kg体重、0.008mg/kg体重、0.009mg/kg体重、0.01mg/kg体重、0.02mg/kg体重、0.03mg/kg体重、0.04mg/kg体重、0.05mg/kg体重、0.06mg/kg体重、0.07mg/kg体重、0.08mg/kg体重、0.09mg/kg体重、又は0.1mg/kg体重でもよい。特定の対象における有効な用量は、当該対象(つまり、哺乳類又はヒト個体)のニーズに応じて時間と共に変化(例えば、増大又は低減)し得る。
【0086】
本発明のペプチドおよび化合物は、約1‐1,000μg/kg体重/日の範囲の有効な用量で投与されてもよい(例えば、約1‐900μg/kg体重/日、1‐800μg/kg体重/日、1‐700μg/kg体重/日、1‐600μg/kg体重/日、1‐500μg/kg体重/日、1‐400μg/kg体重/日、1‐300μg/kg体重/日、1‐200μg/kg体重/日、1‐100μg/kg体重/日、1‐90μg/kg体重/日、1‐80μg/kg体重/日、1‐70μg/kg体重/日、1‐60μg/kg体重/日、1‐50μg/kg体重/日、1‐40μg/kg体重/日、1‐30μg/kg体重/日、1‐20μg/kg体重/日、1‐10μg/kg体重/日の範囲)。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドおよび化合物は、約1‐500μg/kg体重/日の範囲の有効な用量で投与される。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドおよび化合物は、約1‐100μg/kg体重/日の範囲の有効な用量で投与される。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドおよび化合物は、約1‐60μg/kg体重/日の範囲の有効な用量で投与される。いくつかの実施形態では、本発明のペプチドおよび化合物は、約1、2、4、6、8、10、15、20、25、30、35、40、45、50、75、100、150、200、250、300、350、400、450、500、550、600、650、700、750、800、850、900、950、又は1,000μg/kg体重/日から選択される有効な用量で投与される。
【0087】
本発明のペプチドおよび化合物は、継続的な点滴、好ましくは継続的な静脈内点滴によって投与されてもよい。本発明のペプチドおよび化合物は、隔月、毎月、月2回、3週間毎、隔週、毎週、週2回、週3回、毎日、1日2回、又は臨床的に望ましい他の投与スケジュールで投与されてもよい。単一の対象用の投与計画は、固定間隔おきである必要はなく、当該対象のニーズに応じて時間と共に変化し得る。
【0088】
本発明の別の局面は、本発明によるペプチド又は化合物をコードする核酸分子に関する。
本発明の核酸分子は、DNA又はRNA分子である。当該核酸分子はベクターの一部、好ましくはクローニングベクター又は発現ベクターの一部であり得、これらベクターは本技術分野において周知のものである。
【0089】
本発明の別の局面は、細胞内、好ましくは真核細胞、より好ましくは哺乳類又はヒトの細胞、或いは生物(例えば、哺乳類又はヒト被験体)における、異種核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制するための、本発明によるペプチド又は化合物の使用に関する。
【0090】
本発明の好ましい実施形態によると、異種核酸分子は、ウイルス、細菌、寄生虫又は真菌由来である。
本発明のさらなる実施形態によると、異種核酸分子は、抗生物質耐性遺伝子又はその機能的断片をコードする核酸の並びを含む。
【0091】
また、本発明のペプチドおよび化合物は、抗生物質耐性遺伝子をコードする核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制することもでき、延いては、細菌のような微生物の抗生物質耐性を防ぐ、又は顕著に低減することもできる。これは、本発明のペプチドおよび化合物が、抗生物質耐性の原因となるタンパク質を産生できるにもかかわらず、細菌を抗生物質への感受性を高めるため、特に有利である。したがって、本発明のペプチドおよび化合物は、抗生物質耐性細菌との戦いに利用できる。
【0092】
プラスミドDNA、例えば抗生物質抵抗性遺伝子を含むDNA(例えば、R‐プラスミド)は、遺伝子水平伝播によって細菌間で転移され得る。プラスミドは、細菌ゲノムの外で複製され得るか、又は細菌ゲノム内に統合され得る。このようなDNAを取り込むと、細菌は抗生物質に対する耐性を得ることができる。さらに、毒性遺伝子も細菌間で転移され得る。細菌の抗生物質耐性の世界的な進行および、適切な薬剤候補の欠如により、細菌感染の管理は将来の大きな課題となるであろう。細菌間の遺伝子転移の抑制剤は、例えば、病院のように抵抗性の形成が発生する場所における医療又は衛生対策において、影響を及ぼす可能性があると考えられる。したがって、「外来」DNA分子転移の抑制および、抑制剤分子によるタンパク質産生の抑制は、感染性疾患に対する治療的介入、又は抗生物質耐性細菌の拡散および形成の防止に有用であると考えられる。
【0093】
よって、本発明の別の局面は、細菌性細胞が、当該細菌性細胞に抗生物質耐性を与えることが可能な遺伝子又はその機能的断片を獲得することを防止するための、本発明によるペプチド又は化合物の使用に関する。
【0094】
本発明の好ましい実施形態によると、本発明のペプチドおよび化合物、具体的にはI24ペプチドは、抗生物質耐性遺伝子を含有するプラスミドとI24ペプチドとを同時に形質転換された大腸菌が、抗生物質含有寒天平板上にコロニーを形成するのを抑制する。ペプチドは、形質転換が完了した後に塗布された場合は不活性である。アンピシリン又はカナマイシン耐性遺伝子を含有するプラスミドを形質転換された大腸菌のコロニー形成の減少、およびアンピシリン又はカラマイシン含有寒天平版上における成長の減少によって実証されるように、ペプチドによる抑制は、使用される抗生物質耐性遺伝子とは無関係である。
【0095】
さらに、抗生物質耐性を含有するプラスミドとペプチドとを同時に形質転換された大腸菌における、β‐ラクタマーゼmRNAの発現の減少によって実証されるように、本発明のペプチドおよび化合物、具体的にはI24ペプチドは、抗生物質抵抗性遺伝子におけるプラスミドの複製およびRNAの産出を抑制することが分かった。
【0096】
本発明のペプチドおよび化合物は、ウイルス核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制、或いは、顕著に低減することができる。したがって、これらペプチドおよび化合物は、生ワクチンの安全性を高めるため、又は生ワクチンを非直接的に弱毒化するために、弱毒化ウイルスを含有するワクチンへの添加剤として利用され得るか、或いは、弱毒化ウイルスと共に投与され得る。
【0097】
そのため、本発明の別の局面は、弱毒性生ワクチン用の添加剤としての本発明によるペプチド又は化合物の使用に関する。本発明の代替の局面では、本発明によるペプチドおよび/又は化合物は、生ワクチンと共に併用投与されてもよい。
【0098】
本発明のペプチドおよび化合物は、生物中(例えば、哺乳類およびヒト個体)のウイルス価を低減させるために、細胞内のウイルス核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制するのに使用され得る。この特性は、細胞培養液におけるウイルスの拡散を抑制又は防止するのにも利用され得る。
【0099】
したがって、本発明の別の局面は、細胞培養液におけるウイルスの拡散を抑制又は防止するための本発明によるペプチド又は化合物の使用に関する。
本発明の別の局面は、細菌のファージ感染を抑制するための本発明による化合物の使用に関する。
【0100】
本発明の化合物/抑制剤の別の潜在用途は、細菌内でファージ感染を防止することである。細菌培養物のファージ感染は、特に、大規模な発酵を含む生物工学的応用において問題となり得る。生物/細胞内で外来核酸分子の翻訳および/又は転写を抑制する本発明の化合物の能力により、細菌内におけるファージの複製は抑制、又は防止さえされ得る。つまり、本発明の化合物又は当該化合物を備える組成物は、細菌性細胞の培養中に培地に添加される。
【0101】
そのため、当該抑制剤の別の潜在用途は、細菌内ファージ感染の防止である。細菌培養物のファージ感染は、特に、大規模な発酵を含む生物工学的応用において問題となり得る。また、動物細胞培養におけるウイルス感染の防止も、生物工学的および生物薬剤学的に関連する別の用途であってよい。抑制剤は、標的細胞の細胞内に発現してもよく、また、ウイルス感染又はファージ感染の防止などの生物工学的用途において、又は、遺伝子発現の制御において有用であると考えられる。
【0102】
本発明の化合物は、その検出および/又は視覚化を許容するために、他の物質で標識化されてもよい。これは、本発明の化合物が異種/外来核酸分子の転写および/又は翻訳を抑制する細胞、組織、および生物における、当該化合物の局在化に有用である可能性がある。したがって、本発明の別の局面は、真核細胞内において異種核酸分子の転写および/又は翻訳を局在化するための本発明による化合物の使用に関する。
【0103】
本発明の好ましい実施形態によると、局在化される異種/外来核酸分子は、ウイルス、細菌、寄生虫又は真菌由来である。
一局面において、本発明は、発現プラスミドのトランスフェクション中に発現プラスミドに接触すると、プラスミドでコードされたタンパク質の真核細胞内における発現を低減させる、本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドに関する。プラスミドDNAのトランスフェクションは、例えばリポソーム型試薬、カチオンポリアミドアミンポリマー、電気穿孔法、リン酸カルシウム、又はDEAE‐デキストランを使用して実行し得る。
【0104】
ルシフェラーゼをコードした発現プラスミドとペプチドとを同時にトランスフェクションされた細胞の、ルシフェラーゼレベルの低減によって実証されるように、本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドは、細胞可溶化物中の細胞質タンパク質レベルを低減することができる。
【0105】
分泌型アルカリホスファターゼでコードした発現プラスミドとペプチドとを同時にトランスフェクションされた細胞の、分泌型アルカリホスファターゼのレベルの低減によって実証されるように、本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドは、細胞上清中の分泌性タンパク質のレベルを低減することができる。
【0106】
別の局面では、NF‐κBp65M2発現プラスミドとテストペプチドとを同時にトランスフェクションされた場合の、切断型NF‐κBp65(NF‐κBp65M2)のレベルの抑制によって実証されるように、本発明は、細胞可溶化物中の核タンパク質レベルを低減することができる本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドを提供する。
【0107】
ウエスタンブロット手法に定められているように、真核細胞がGFP発現プラスミドとペプチドとを同時にトランスフェクションされた場合、本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドは、細胞可溶化物中の緑色蛍光タンパク質(GFP)レベルを低減することができる。本発明のペプチドおよび化合物が、GFPプラスミドとペプチドとを同時にトランスフェクションされた細胞中のGFP陽性細胞の総数を低減することが分かった。
【0108】
本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドによる、発現プラスミドをトランスフェクションされた真核細胞中のタンパク質産生の抑制は、DNAの状態(例えば、環状、超らせん又は弛緩DNA、線状DNA、環状プラスミドDNA、直鎖状プラスミドDNA、PCR産物および2本鎖オリゴヌクレオチド)とは無関係である。ペプチドは、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)によって得られる直鎖状プラスミド又は2本鎖DNA断片のような、直鎖状2本鎖DNAをトランスフェクションされると、真核細胞中のタンパク質産生を抑制する。
【0109】
別の局面では、本発明は、発現プラスミドでトランスフェクションされた真核細胞のタンパク質産生を、0.1から2μMの間、好ましくは0.3から0.7μMの間のIC50(最大抑制濃度の半分)で用量依存的に抑制する、本発明のペプチドおよび化合物、好ましくはI24ペプチドを提供する。本発明のペプチドおよび化合物は、真核細胞のトランスフェクション中にDNAに接触すると活性型であるが、トランスフェクション工程が完了した後にペプチドが添加された場合は非活性型である。
【0110】
本発明の別の局面は、細胞型に依存しないペプチドの効果に関する。HEK293、CV‐1、COS‐7、MCF‐7、又はHT‐29細胞の使用で実証されたように、I24ペプチドは、種々の細胞株においてプラスミドと共にトランスフェクションされると、プラスミドでコードされたタンパク質の産生を抑制する。
【0111】
本発明を、以下の例によってさらに詳しく説明するが、以下の例は本発明を限定するものではない。
[例]
例1:I24ペプチドの配列
I24は、9つのアミノ酸残基、Cys‐Leu‐Ala‐Phe‐Tyr‐Ala‐Cys‐Phe‐Cys(CLAFYACFC、配列番号6)からなるペプチドである。ペプチドは、システイン残基およびジスルフィド結合を介した直鎖状又は環状であり得る。
【0112】
例2:I24は、一過性にトランスフェクションされた哺乳類細胞内における発現ベクターにコードされたタンパク質の産生を抑制する。
溶媒対照群としてのDMSO、又は異なる用量のI24ペプチドの存在下においてSuperfect(キアゲン製)を使用して、HEK293細胞(ヒト胎児腎臓細胞)をルシフェラーゼコンストラクト(CMVプロモータの制御下の真核性発現プラスミドに、ルシフェラーゼコード領域がクローニングされている)でトランスフェクションした。24時間後、ルシフェラーゼ基質を使用して、細胞可溶化物からルシフェラーゼレベルを解析した。溶媒対照群と比較して、ペプチドは、ルシフェラーゼ産出を用量依存的に抑制した(図1a)。DMSO又は異なる用量のI24ペプチドの存在下において、CMVプロモータの制御下の真核性の発現ベクターにクローニングされた分泌型アルカリホスファターゼ(SEAP)を、HEK293細胞にトランスフェクションした。24時間後、上清に分泌されたSEAPを比色分析によって分析した。溶媒対照群と比較して、I24は、トランスフェクションされたHEK293細胞内におけるSEAP産生を用量依存的に低減させた(図1b)。J9ペプチド(I24_M23;CPSALAFYC(配列番号53)の環状型)およびI21ペプチド(CSLTGPIAC(配列番号56))は、不活性対照とした。切断型のNF‐KBp65(p65M2)をコードした発現プラスミドを、HEK293細胞に24時間トランスフェクションした。p65の産生を、トランスフェクションされた細胞の溶解物を用いて、ウエスタンブロット法によって分析した(図1c)。p65M2およびI24ペプチド(20μM)でトランスフェクションされた細胞では、ウエスタンブロット法でp65M2は検出できなかった。I24ペプチド(2μM)の存在下および非存在下において、緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードした発現プラスミドをHEK293細胞にトランスフェクションした。ウエスタンブロット法による分析では、I24ペプチドによってGFP産生およびGFP陽性細胞の数が低減したことが示された(図1d、e)。
【0113】
例3:I24ペプチドは、一過性にトランスフェクションされた細胞における内在性インターロイキン8の発現を抑制することなく、切断されたインターロイキン8プロモータの制御下におけるプラスミドベクターにコードされた遺伝子発現を抑制する。
【0114】
HEK293細胞に、切断されたインターロイキン8(IL‐8)プロモータの制御下のルシフェラーゼコード領域を含有したコンストラクトおよびI24ペプチドを一過性にトランスフェクションし、トランスフェクションの6時間後に腫瘍壊死因子(TNF)‐αで刺激し、トランスフェクションの24時間後に細胞可溶化物中のルシフェラーゼの発現および上清中のIL‐8の放出をELISA法によって分析した。ペプチドはTNF‐α誘導ルシフェラーゼ発現を低減させたが、IL‐8の放出に影響を与えなかった(図2)。
【0115】
例4:I24ペプチドを発現プラスミドと共に細胞内にトランスフェクションすると、タンパク質およびメッセンジャーRNAのレベルが下方制御される。
アフリカミドリザル腎臓細胞COS‐7に、CMVプロモータの制御下でルシフェラーゼを駆動する発現プラスミドをトランスフェクションし、細胞可溶化物中のルシフェラーゼを測定した。ルシフェラーゼmRNAの発現分析のため、全RNAを分離してDNAseIで処理し、ランダムヘキサマーを用いて逆転写した。リアルタイムPCRは、ルシフェラーゼを検出する加水分解プローブを用いて行われ、18SrRNAの転写レベルを標準化した。ルシフェラーゼタンパク質およびmRNAレベルは、異なる培養時間後に、いずれも下方制御された(図3)。
【0116】
例5:プラスミドベクターにコードされた遺伝子発現の抑制は、一過性にトランスフェクションされたHEK293細胞内のプロモータに、部分的に依存する。
濃度を上昇させたI24ペプチドの存在下において、CMVプロモータの制御下にルシフェラーゼを含有する発現プラスミド、およびSV40初期プロモータ制御下のネオマイシン耐性遺伝子を、HEK293細胞に一過性にトランスフェクションした。24時間後、全RNAを細胞から分離し、プラスミドDNAを除去するためにDNAseIで消化し、逆転写した。ルシフェラーゼおよびネオマイシンmRNAの定量リアルタイムPCR分析は、加水分解プローブを用いて行われ、GAPDH転写物に対して標準化された。濃度を上昇させたI24ペプチドの存在下において、ルシフェラーゼ転写物が87%低減された一方で、ネオマイシンmRNAレベルは約50%しか低減されなかった(図4)。
【0117】
例6:プラスミドベクターにコードされた遺伝子発現の抑制は、使用する細胞株に依存しない。
アフリカミドリザル腎臓細胞の細胞株CV‐1およびCOS‐7、並びに、ヒト乳がん細胞株MCF‐7およびヒト結腸がん細胞株HT‐29に、CMVプロモータ制御下にルシフェラーゼを含有するプラスミド、および異なる濃度のI24ペプチドを一過性にトランスフェクションした。レポーター遺伝子ルシフェラーゼの抑制は、使用した細胞株全てにおいて観察された(図5)。
【0118】
例7:アミノ末端基TATタグの付加又は二量化による細胞透過性I24は、I24ペプチドの力価を高める。
N末端TATタグの付加による細胞透過性I24は、3つのグリシン残基によって分離された2つの単量体を有するI24の二量体として生成された。ペプチドおよびルシフェラーゼをコードする発現プラスミドによる一過性トランスフェクションは、TAT‐I24によるルシフェラーゼ発現をより強力に抑制した。また、I24二量体は、I24ペプチドと比較してより強力であるが、TAT‐I24ほど強力ではない。TATタグ単体(TAT)を表すペプチドは、ルシフェラーゼの抑制において不活性であった(図6)。
【0119】
例8:アミノ末端基TATタグに融合された細胞浸透性のI24ペプチドを用いた、HEK293細胞におけるバキュロウイルス仲介遺伝子発現の抑制。
CMVプロモータの制御下におけるルシフェラーゼコード領域をバキュロウイルスのウイルスゲノムに組み込んで、バキュロウイルスを産生した。DMSO又は濃度を上昇させたI24ペプチド、TAT、およびTAT‐I24融合ペプチドで10分間前処理を施したHEK293細胞に、当該バキュロウイルスを加えた。細胞浸透性TAT‐I24融合ペプチドで処理された細胞において、ルシフェラーゼ発現は用量依存的に低減される(図7a)。DMSO、TAT‐I24、又はTATで培養されたバキュロウイルス感染細胞をTNF‐αで刺激し、全RNAを細胞から分離した。RNAをDNAseIで処理した後、逆転写を実施した。ルシフェラーゼおよびIL‐8mRNAをリアルタイムPCRで分析した。ルシフェラーゼmRNAがTAT‐I24によって下方制御される一方、IL‐8のmRNAレベルは処理による影響を受けなかった(図7b)。
【0120】
例9:細胞浸透性I24ペプチドは、アデノウイルスによる遺伝子発現およびHEK293細胞におけるウイルス複製を抑制する。
HEK293細胞を、濃度を上昇させたI24ペプチド、TAT‐I24、又はTAT単体で処理し、アデノウイルスをコードするルシフェラーゼおよび緑色蛍光タンパク質(GFP)で、CMVプロモータの制御下に培養した。ルシフェラーゼタンパク質レベルは、TAT‐I24で下方制御され、IC50が6μMであった(図8a)。HEK293細胞を、溶媒対照、I24ペプチド、TAT‐I24、又はTAT単体(20μM)、並びに、ルシフェラーゼおよびGFPをコードするアデノウイルス粒子で処理した。72時間後に、RNAを分離して、ルシフェラーゼ、GFP、およびアデノウイルスのヘキソン転写レベルをリアルタイムPCRによって分析し、GAPDHを標準化した。TAT‐I24は、アデノウイルスでコードされた3つの遺伝子全てを抑制した(図8b)。上清からDNAを分離し、リアルタイムPCRを用いてアデノウイルスヘキソンDNAを定量化した(図8c)。TAT‐I24は、感染から96時間後に固定およびクリスタルバイオレット染色によってウイルス感染が確定されたHEK293細胞の細胞分離を抑制させる(図8d)。
【0121】
例10:細胞浸透性ペプチドTAT‐I24は、HEK293細胞内におけるワクシニアウイルスの遺伝子発現および複製を抑制する。
HEK293T細胞を、ワクシニアウイルスに感染させる4時間前に、DMSO、TAT‐I24、又はTATで処理した。感染から24時間後に、全RNAを分離し、cDNA合成前にDNAseIで処理した。DNA依存性RNAポリメラーゼサブユニットrpo22の転写産物である、ワクシニアウイルスでコードされた遺伝子の発現は、SYBR Greenを使用したリアルタイムPCRによって分析され、GAPDHmRNAレベルを標準化した。TAT‐I24がrpo22mRNAレベルを用量依存的に抑制した一方で、TAT単体による抑制は見られなかった(a)。感染から24時間後に、上清からウイルスDNAを抽出し、リアルタイムPCRにかけた。上清は、BSC‐40細胞を使ったプラークアッセイにかけた。TAT‐I24は、濃度20μMでウイルスDNAの量を低減し(b)、上清中のプラーク形成単位(PFU)の数を90%を超えて低減させた(c)。
【0122】
例11:細胞浸透性I24ペプチドは、HEK293細胞におけるレンチウイルスの遺伝子発現を抑制する。
CMVプロモータの制御下にルシフェラーゼを含有するレンチウイルスを添加したHEK293細胞を、I24ペプチド、TATタグI24ペプチド(TAT‐I24)、又はTATと共に48時間培養した。ルシフェラーゼは、20μMのTAT‐I24の存在下において75%下方制御された(図9)。
【0123】
例12:I24ペプチドのバリアントによるレポーター遺伝子発現の抑制
合計29個のペプチドを合成した。合成したペプチドを、ルシフェラーゼをコードするプラスミドと共にトランスフェクション反応に用いて、HEK293細胞にトランスフェクションした。全てのペプチドを最終濃度である2μMで試験し、トランスフェクションの24時間後にルシフェラーゼレベルの分析を行った。表1に、DMSO対照群と比較した、レポーター遺伝子発現の抑制を示す。
【0124】
【表2】
【0125】
例13:抗生物質耐性遺伝子を含有するプラスミドDNAとI24ペプチドとを同時に形質転換された細菌におけるコロニー形成の抑制
大腸菌コンピテント細胞に、アンピシリン耐性遺伝子又はカラマイシン耐性遺伝子を含有するプラスミドと、溶媒対照群としてのDMSO又はI24のいずれか一方とを形質転換した。その翌日、I24ペプチドの存在下では、溶媒対照群と比較してコロニー数が減少した(図11)。
【0126】
例14:プラスミドとI24ペプチドとを形質転換された大腸菌細胞におけるプラスミドの複製およびベータラクタマーゼmRNAの発現の抑制
大腸菌コンピテント細胞に、アンピシリン耐性遺伝子を含有するプラスミドとI24ペプチドとを形質転換した。指定時間後に、総プラスミド数およびβ‐ラクタマーゼmRNAレベルをリアルタイムPCRで計測し、大腸菌の単一コピー遺伝子を標準化した。プラスミドのコピー数およびβ‐ラクタマーゼmRNAレベルは、いずれもI24ペプチドの存在下で下方制御された(図12)。
【0127】
例15:比較データ
Dengらによる出版物(2004)には、ヒトパピローマウイルス11型E2タンパク質のDNA結合、転写活性化因子、およびDNAの複製を抑制できるペプチドが記載されている。このペプチドは、E2タンパク質に対するファージスクリーニングによって同定された。第1群のスクリーニングの結果、バイオパニングで得られた配列SVFYACFACF、とりわけFYACFのモチーフが、I24ペプチドとの類似性を有する。Dengらによる出版物に記載の別のペプチドは、配列WSEQCFTCWW(表1の配列28)を有する。いずれの配列も、複数ラウンドのバイオパニング中に一度しか得られず、これらのペプチドに関する生物活性についてのデータは、出版物中に何ら記載されていない。配列SVFYACFACFに基づいて、I24バリアントにおいて特定のアミノ酸残基が変更又は含有された(表1のI24_M8)。別の変異としては、F8とC9との間へのW又はAの挿入、或いはF8のLへの変更がなされたが、I24ペプチドの活性を阻害することはなかった。SでC1を置換したことが力価に多少の悪影響を及ぼした一方で、I24の位置A3をVに変更したことは、力価に悪影響を及ぼさなかった。細胞トランスフェクションアッセイにおいて、I24がレポーター遺伝子発現を約90%抑制する濃度である2μMでテストした場合、SVFYACFACペプチドおよびWSEQCFTCWWペプチドは抑制効果を発揮しなかった。しかしながら、Dengらは、これら2つのペプチドに関して何のデータも提示しておらず、パピローマウイルス11E2の転写促進および複製機能に対して抑制効果を示す第1群の3つ目の配列(EDGGSFMCLWCGEVHG;配列番号57)に注目している。これらのペプチドとI24ペプチドとの間に共通の作用機序が存在する可能性はあるが、I24によって得られた結果の新規性を強力に支持する、「外来」DNAからの遺伝子発現の抑制に関する効果を支持するデータがない。Dengら(2004)は、細胞内に核内局在化シグナルを有して発現するEDGGSFMCLWCGEVHGペプチド(配列番号57)による、E2依存性レポーター遺伝子の発現の抑制を示しているが、これらの効果をE2タンパク質との相互作用に結び付けて記載している。生細胞における他の効果も、細胞透過性ペプチドの使用も、この調査(Dengら2004)には明示されていない。対照的に、I24ペプチド又はTAT‐I24ペプチドは、核内局在化シグナルなしでは「外来」DNA分子に対してのみ活性を有するが、細胞タンパク質の発現に対して活性を有さず、これらの効果を、Dengら(2004)による出版物又は本技術分野において周知の他のどの出版物にも示されていない、細胞への直接適用で発揮する。
【0128】
比較データには、国際公開第2011/086116号に記載の別の配列(PSALAFY(国際公開第2011/086116号における配列番号58))も含まれた。I24と同様にLAFYCのモチーフを有する、CPSALAFYC(配列番号53)の配列を有するペプチドM23は、I24がレポーター遺伝子発現を90%抑制する20μMまでの濃度で実施された細胞トランスフェクションアッセイにおいて、不活性であった。
【0129】
例16:細胞浸透性I24ペプチドは、単純ヘルペスウイルスの複製を抑制する。
細胞を単純ヘルペスウイルスに感染させ、ウイルスの複製をプラーク形成アッセイで測定した(上記例を参照)。単純ヘルペスウイルスの複製は、TAT‐I24によって用量依存的に抑制された。
図1A
図1B
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8A
図8B
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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