(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】切削工具
(51)【国際特許分類】
B23B 27/20 20060101AFI20230511BHJP
B23B 27/14 20060101ALI20230511BHJP
C04B 35/5831 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
B23B27/20
B23B27/14 B
C04B35/5831
(21)【出願番号】P 2022578847
(86)(22)【出願日】2022-07-21
(86)【国際出願番号】 JP2022028382
【審査請求日】2022-12-20
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503212652
【氏名又は名称】住友電工ハードメタル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001195
【氏名又は名称】弁理士法人深見特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 研人
(72)【発明者】
【氏名】諸口 浩也
(72)【発明者】
【氏名】松田 裕介
(72)【発明者】
【氏名】久木野 暁
【審査官】中川 康文
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/065397(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/260778(WO,A1)
【文献】特開平10-217006(JP,A)
【文献】国際公開第2018/116524(WO,A1)
【文献】実開平01-101704(JP,U)
【文献】特開2008-272863(JP,A)
【文献】国際公開第2006/059551(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23B 27/00-29/34
B23B 51/00
B23C 5/16
C04B 35/56-35/599
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備え、
前記刃先部は、逃げ面と、前記逃げ面に連なるすくい面と、前記逃げ面および前記すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有し、
前記逃げ面の算術平均高さSaは、0.5μm以上3.0μm以下であり、
前記Saは、ISO25178-2:2012に準拠して測定され、
前記逃げ面の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である、切削工具。
【請求項2】
前記逃げ面のスキューネスSskは、-1.0以上1.0以下であり、
前記Sskは、ISO25178-3:2012に準拠して測定される、請求項1に記載の切削工具。
【請求項3】
前記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を30体積%以上95体積%以下と、結合材とを含み、
前記結合材は、アルミニウム化合物を有し、
前記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、10質量%未満である、請求項1または請求項2に記載の切削工具。
【請求項4】
前記すくい面の前記算術平均高さSaは、0.5μm以下である、請求項1
または請求項
2に記載の切削工具。
【請求項5】
前記すくい面の前記算術平均高さSaは、0.5μm以下である、請求項3に記載の切削工具。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、切削工具に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、逃げ面と、該逃げ面に連なるすくい面と、該逃げ面および該すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有する切削工具が、切削加工に用いられている(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【0004】
本開示の切削工具は、立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備え、
該刃先部は、逃げ面と、該逃げ面に連なるすくい面と、該逃げ面および該すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有し、
該逃げ面の算術平均高さSaは、0.5μm以上3.0μm以下であり、
該Saは、ISO25178-2:2012に準拠して測定され、
該逃げ面の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である。
【図面の簡単な説明】
【0005】
【
図6】
図6は、面の凹凸とスキューネスとの関係を説明する図である。
【
図7】
図7は、面の凹凸とスキューネスとの他の関係を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0006】
[本開示が解決しようとする課題]
近年、高能率加工への要求が急速に高まっている。特に、鋳鉄の切削加工では、切削工具の逃げ面が、被削材(鋳鉄)表面に存在する硬質粒子によって引っ掻かれることで、該切削工具の機械的摩耗が進展しやすい場合があった。また、特に、該切削工具が立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備える場合において、該被削材(鋳鉄)の成分と、立方晶窒化硼素焼結体の成分との親和性が高い為、該切削工具の溶着摩耗が進展しやすい場合があった。その為、特に鋳鉄の高能率加工においても、耐摩耗性を向上し、工具寿命を延長することが求められている。
【0007】
[本開示の効果]
本開示によれば、特に鋳鉄の高能率加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0008】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。
(1)本開示の切削工具は、立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備え、
前記刃先部は、逃げ面と、前記逃げ面に連なるすくい面と、前記逃げ面および前記すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有し、
前記逃げ面の算術平均高さSaは、0.5μm以上3.0μm以下であり、
前記Saは、ISO25178-2:2012に準拠して測定され、
前記逃げ面の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である。
【0009】
本開示によれば、特に鋳鉄の高能率加工においても、長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0010】
(2)前記逃げ面のスキューネスSskは、-1.0以上1.0以下であり、
前記Sskは、ISO25178-3:2012に準拠して測定されることが好ましい。これによって、特に鋳鉄の高能率加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0011】
(3)前記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を30体積%以上95体積%以下と、結合材とを含み、
前記結合材は、アルミニウム化合物を有し、
前記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、10質量%未満であることが好ましい。これによって、特に鋳鉄の高能率加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0012】
(4)前記すくい面の前記算術平均高さSaは、0.5μm以下であることが好ましい。これによって、特に鋳鉄の高能率加工においても、より長い工具寿命を有する切削工具を提供することが可能となる。
【0013】
[本開示の実施形態の詳細]
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)の切削工具の具体例を、以下に図面を参照しつつ説明する。本開示の図面において、同一の参照符号は、同一部分または相当部分を表すものである。また、長さ、幅、厚さ、深さなどの寸法関係は図面の明瞭化と簡略化のために適宜変更されており、必ずしも実際の寸法関係を表すものではない。
【0014】
本明細書において「A~B」という形式の表記は、範囲の上限下限(すなわちA以上B以下)を意味し、Aにおいて単位の記載がなく、Bにおいてのみ単位が記載されている場合、Aの単位とBの単位とは同じである。
【0015】
本明細書において化合物などを化学式で表す場合、原子比を特に限定しないときは従来公知のあらゆる原子比を含むものとし、必ずしも化学量論的範囲のもののみに限定されるべきではない。たとえば「AlN」と記載されている場合、AlNを構成する原子数の比には、従来公知のあらゆる原子比が含まれる。
【0016】
[実施形態1:切削工具]
本開示の一実施形態に係る切削工具について、
図1~
図7を用いて説明する。
本開示の一実施形態(以下、「本実施形態」とも記す。)は、立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部20を備え、
該刃先部20は、逃げ面22と、該逃げ面22に連なるすくい面21と、該逃げ面22および該すくい面21の稜線に位置する切れ刃23と、を有し、
該逃げ面22の算術平均高さSaは、0.5μm以上3.0μm以下であり、
該Saは、ISO25178-2:2012に準拠して測定され、
該逃げ面22の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である。
【0017】
本開示によれば、特に鋳鉄の高能率加工においても、長い工具寿命を有する切削工具100を提供することが可能となる。その理由は、以下の通りと推察される。
【0018】
(a)上記逃げ面22の算術平均高さSaは、0.5μm以上である。これによって、切削工具100の逃げ面22に凹凸が生じることに起因して、鋳鉄の切削加工において、被削材(鋳鉄)由来のアルミニウムが切削工具100の逃げ面22にトラップされ易くなる。その結果として、切削工具の逃げ面22の表面上に、該アルミニウムを構成元素とする酸化アルミニウム(Al2O3)のベラーグが形成され易くなる。その為、鋳鉄の切削加工において、該ベラーグにより、切削工具100の耐摩耗性が向上する。
【0019】
(b)上述の通り、上記逃げ面22の算術平均高さSaは、0.5μm以上であることによって、切削工具100の逃げ面22の表面上に、ベラーグが形成され易くなる為、切削工具100の耐摩耗性が向上する。しかしながら、上記逃げ面22の算術平均高さSaが大きすぎると、凸部に局所的に摩耗が進み、耐摩耗性が低下し易くなる。本開示の切削工具100においては、上記逃げ面22の算術平均高さSaは、3.0μm以下である。これによって、切削工具100の逃げ面22における切削抵抗が過度に大きくなることを防ぐことができる為、切削工具100において、耐摩耗性が向上する。
【0020】
(c)また、上記逃げ面22の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である。これによって、切削工具100の逃げ面22にトラップされるアルミニウムは酸化され易くなる為、酸化アルミニウム(Al2O3)のベラーグが形成され易くなる。その為、鋳鉄の切削加工において、切削工具100の逃げ面の表面上に生じるベラーグにより、切削工具100の耐摩耗性が向上する。
【0021】
すなわち、本開示によれば、特に鋳鉄の高能率加工においても、切削工具100の耐摩耗性を向上することができる為、長い工具寿命を有する切削工具100を提供することが可能となる。
【0022】
(実施形態に係る切削工具の構成)
以下に、実施形態に係る切削工具(以下においては、「切削工具100」とする)の構成を説明する。
【0023】
図1は、切削工具100の平面図である。
図2は、
図1の領域IIにおける拡大図である。
図3は、切削工具100の斜視図である。
図1、
図2及び
図3に示されるように、切削工具100は、本体部10と、刃先部20とを有している。ここで、「切削工具は、本体部と、刃先部とを有している」とは、本体部(超硬合金)に刃先部(cBN焼結体)がロウ付けされている場合だけでなく、切削工具の全体が立方晶窒化硼素焼結体により構成されている場合(ソリッドタイプ)をも包含する概念である。
【0024】
本体部10は、例えば、超硬合金により形成されている。
図4は、本体部10の斜視図である。
図4に示されるように、本体部10は、底面11と、頂面12と、側面13とを有している。頂面12は、底面11の反対面である。側面13は、底面11及び頂面12に連なっている。底面11、頂面12及び側面13は、それぞれ、切削工具100の底面、切削工具100の頂面及び切削工具100の側面になっている。
【0025】
本体部10は、平面視において(頂面12に直交する方向から見て)、菱形形状を有している(
図1参照)。ここでいう「菱形形状」には、本体部10の平面視における角部が丸まっている場合も含まれる。
【0026】
なお、本体部10の平面視における形状は、菱形形状に限られるものではない。本体部10の平面視における形状は、四角形形状であってもよく、三角形形状であってもよい。ここでいう「四角形形状」及び「三角形形状」には、本体部10の平面視における角部が丸まっている場合も含まれる。
【0027】
頂面12は、座面14と、支持面15とを含んでいる。座面14は、平面視における本体部10の角部に位置している。座面14と底面11との距離は、座面14以外にある頂面12と底面11との距離よりも小さくなっている。すなわち、座面14と座面14以外にある頂面12との間には、段差が形成されている。支持面15は、底面11から頂面12に向かう方向に沿って延在しており、座面14と座面14以外の頂面12とに連なっている。
【0028】
≪刃先部≫
<刃先部の構造>
図3に示される様に、上記刃先部20は、逃げ面22と、該逃げ面22に連なるすくい面21と、該逃げ面22および該すくい面21の稜線に位置する切れ刃23と、を有する。刃先部20は、さらに、底面24と、被支持面25とを有している(
図5参照)。逃げ面22は、すくい面21とは反対側において、側面13に連なっている。逃げ面22は、すくい面21と底面24とに連なっている。
【0029】
逃げ面22は、第1逃げ面22aと、第2逃げ面22bと、第3逃げ面22cとを有している。第1逃げ面22a及び第2逃げ面22bは、平面により構成されている。第3逃げ面22cは、曲面により構成されている。第3逃げ面22cは、第1逃げ面22a及び第2逃げ面22bの間にあり、第1逃げ面22a及び第2逃げ面22bの双方に連なっている。
【0030】
切れ刃23は、すくい面21と逃げ面22との稜線に形成されている。切れ刃23は、例えば、丸ホーニングされている。切れ刃23は、第1切れ刃23aと、第2切れ刃23bと、第3切れ刃23cとを有している。第1切れ刃23aは、すくい面21と第1逃げ面22aとの稜線に形成されており、第2切れ刃23bは、すくい面21と第2逃げ面22bとの稜線に形成されている。第3切れ刃23cは、すくい面21と第3逃げ面22cとの稜線に形成されている。
【0031】
第1切れ刃23a及び第2切れ刃23bは、平面視において直線状に延在している。第3切れ刃23cは、一方端において第1切れ刃23aに連なっており、他方端において第2切れ刃23bに連なっている。第3切れ刃23cは、平面視において切削工具100の外側に向かって凸の曲線状に延在している。すなわち、第3切れ刃23cの一方端と第3切れ刃23cの他方端とを結んだ仮想直線は、すくい面21上を通過している。
【0032】
なお、上記刃先部は、逃げ面の算術平均高さSa、逃げ面のスキューネスSsk、及び逃げ面の酸素濃度をそれぞれ所望の範囲内とするという観点から、逃げ面22の表面上において、被膜を有しないことが好ましい。
【0033】
(逃げ面の構造)
上記逃げ面22の算術平均高さSaは、0.5μm以上3.0μm以下である。なお、ここで、該Saは、ISO25178-2:2012に準拠して測定される。また、ここで「算術平均高さSa」とは、算術平均粗さRa(線の算術平均高さ)を面に拡張したパラメータであり、表面の平均面に対して、各点の高さの差の絶対値の平均を表す。これによって、特に鋳鉄の高能率加工においても、切削工具100の耐摩耗性を向上することができる。上記逃げ面22の算術平均高さSaの下限は、0.8μm以上であることが好ましく、1.0μm以上であることがより好ましく、1.2μm以上であることが更に好ましい。上記逃げ面22の算術平均高さSaの上限は、2.8μm以下であることが好ましく、2.6μm以下であることがより好ましく、2.4μm以下であることが更に好ましい。上記逃げ面22の算術平均高さSaは、0.8μm以上2.8μm以下であることが好ましく、1.0μm以上2.6μm以下であることがより好ましく、1.2μm以上2.4μm以下であることが更に好ましい。
【0034】
上記逃げ面22のスキューネスSskは、-1.0以上1.0以下であることが好ましい。なお、ここで、該Sskは、ISO25178-3:2012に準拠して測定される。また、ここで「スキューネスSsk」とは、粗さ曲線のスキューネスを意味し、面の山部と谷部との歪度を示すパラメータである。言い換えれば、「スキューネス」とは、
図6および
図7で示す様に、平均線L1を中心としたときの山部と谷部との対称性を表す指標である。上記面が平均線L1に対して下側に偏っている場合、「スキューネス」は正の値となる(
図6)。また、上記面が平均線L1に対して上側に偏っている場合、「スキューネス」は負の値となる(
図7)。また、
図6および
図7で示す確率密度の分布曲線が正規分布となる場合、スキューネスは「0」となる。上記逃げ面22のスキューネスSskは、-1.0以上1.0以下であることによって、切削加工において、鋳鉄由来のアルミニウムが切削工具の逃げ面22の表面上に均一にトラップされ易い。その為、切削加工において、該アルミニウムを構成元素とする酸化アルミニウム(Al
2O
3)のベラーグが、切削工具100の逃げ面22の表面上に均一に形成され易い。その結果として、切削工具100の耐摩耗性が更に向上する。上記逃げ面22のスキューネスSskは、-0.9以上0.9以下であることが好ましく、-0.8以上0.8以下であることがより好ましく、-0.7以上0.7以下であることが更に好ましい。
【0035】
上記算術平均高さSaおよび上記スキューネスSskは、切削工具100の表面のうち、逃げ面22に対し、レーザ顕微鏡(Lasertech社製「OPTELICS HYBRID」(商標))を用い、ISO25178-2:2012及びISO25178-3:2012に準拠して測定される。具体的には、先ず切削工具100の表面のうち、逃げ面22の切削に関与する部分(言い換えれば、刃先稜線(すなわち、逃げ面22およびすくい面21の稜線)からの距離が1mm以内の領域)を測定視野として、200μm×200μm矩形の視野を任意に5箇所設定する。次いで、5箇所の測定視野のそれぞれについて、算術平均高さと、スキューネスとの測定を行う。次いで、得られた算術平均高さの平均値と、得られたスキューネスの平均値とを算出することにより、上記算術平均高さSaおよび上記スキューネスSskが求められる。後述するすくい面21の算術平均高さSaも、切削工具100の表面のうち、すくい面21に対し測定を実行することを除いては同様の方法で求められる。
【0036】
(すくい面の構造)
上記すくい面21の上記算術平均高さSaは、0.5μm以下であることが好ましい。これによって、切削加工において、被削材成分と立方晶窒化硼素焼結体成分の親和性が高いことに起因する溶着の発生を防止し易くなる為、切削工具100のすくい面21の溶着摩耗に対する耐性を向上することができる。そして、すくい面の溶着が防止されると、該溶着に起因するすくい角の変化による切れ味の鈍化を防ぐことができる為、逃げ面の摩耗に対する耐性を向上することができる。よって、切削工具100の耐摩耗性を更に向上することができる。上記すくい面21の上記算術平均高さSaの下限は、0.05μm以上であることが好ましく、0.08μm以上であることがより好ましく、0.10μm以上であることが更に好ましい。上記すくい面21の上記算術平均高さSaの上限は、0.28μm以下であることが好ましく、0.26μm以下であることがより好ましく、0.24μm以下であることが更に好ましい。上記すくい面21の上記算術平均高さSaは、0.05μm以上0.5μm以下であることが好ましく、0.08μm以上0.28μm以下であることがより好ましく、0.10μm以上0.26μm以下であることが更に好ましい。また、上記すくい面21の上記算術平均高さSaは、0.1μm以上0.5μm以下であることも好ましい。
【0037】
<刃先部の組成>
刃先部20は、立方晶窒化硼素(cBN:Cubic Boron Nitride)焼結体からなる。ここで、「立方晶窒化硼素焼結体からなる」とは、立方晶窒化硼素焼結体のみからなる態様に限られず、本開示の効果が奏される限りにおいて、立方晶窒化硼素焼結体とともに、立方晶窒化硼素焼結体以外の成分(例えば、不可避不純物)を含む態様をも包含する概念である。上記不可避不純物としては、例えば炭素(C)、アルミニウム(Al)、珪素(Si)、リチウム(Li)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)が挙げられる。刃先部20中の不可避不純物の含有率は、例えば、質量基準で、0%以上1%以下とすることができる。なお、刃先部20中の不可避不純物の含有率は、ICP(Inductively Coupled Plasma)発光分析(測定装置:島津製作所「ICPS-8100」(商標))により測定される。
【0038】
(立方晶窒化硼素焼結体)
上記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を30体積%以上95体積%以下含むことが好ましい。これによって、該立方晶窒化硼素焼結体はより高い硬度を有することができる為、本実施形態に係る切削工具は、より優れた耐摩耗性を有することができる。上記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を40体積%以上含むことが好ましく、50体積%以上含むことがより好ましく、60体積%以上含むことが更に好ましい。上記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を93体積%以下含むことが好ましく、90体積%以下含むことがより好ましく、88体積%以下含むことが更に好ましい。上記立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素粒子を40体積%以上93体積%以下含むことが好ましく、50体積%以上90体積%以下含むことがより好ましく、60体積%以上88体積%以下含むことが更に好ましい。なお、ここで「立方晶窒化硼素粒子」とは、立方晶窒化硼素(cBN)からなる粒子を意味する。立方晶窒化硼素粒子は、本開示の効果を奏する限り、不可避不純物を含むことができる。
【0039】
上記立方晶窒化硼素焼結体は、結合材を含むことが好ましい。上記立方晶窒化硼素焼結体は、結合材を5体積%以上含むことが好ましく、7体積%以上含むことがより好ましく、10体積%以上含むことが更に好ましい。上記立方晶窒化硼素焼結体は、結合材を70体積%以下含むことが好ましく、60体積%以下含むことがより好ましく、50体積%以下含むことが更に好ましい。上記立方晶窒化硼素焼結体は、結合材を5体積%以上70体積%以下含むことが好ましく、7体積%以上60体積%以下含むことがより好ましく、10体積%以上50体積%以下含むことが更に好ましい。なお、上記立方晶窒化硼素焼結体は、上記立方晶窒化硼素焼結粒子と、上記結合材とに加えて、不可避不純物を含み得る。また、上記立方晶窒化硼素焼結体は、上記立方晶窒化硼素焼結粒子と、上記結合材とからなり得、また、上記立方晶窒化硼素焼結体は、上記立方晶窒化硼素焼結粒子と、上記結合材と、不可避不純物とからなり得る。
【0040】
上記立方晶窒化硼素焼結体において、立方晶窒化硼素粒子の含有率と結合材の含有率とは、走査電子顕微鏡(SEM)(日本電子社製の「JSM-7800F」(商品名))付帯のエネルギー分散型X線分析装置(EDX)(Octane Elect(オクタンエレクト) EDS システム)(以下「SEM-EDX」とも記す。)を用いて、cBN焼結体に対し、組織観察、元素分析等を実施することによって確認することができる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
【0041】
(A1)まず、cBN焼結体の任意の位置を切断し、cBN焼結体の断面を含む試料を作製する。断面の作製には、集束イオンビーム装置、クロスセクションポリッシャ装置等を用いることができる。次に、上記断面をSEMにて1000倍で観察して、反射電子像を得る。反射電子像においては、cBN粒子が存在する領域が黒色領域となり、結合材が存在する領域が灰色領域及び/又は白色領域となる。
【0042】
(B1)次に、上記反射電子像に対して画像解析ソフト(三谷商事(株)の「WinROOF」)を用いて二値化処理を行う。二値化処理後の画像では、cBN粒子が存在する領域(反射電子像における黒色領域)が暗視野となり、結合材が存在する領域(反射電子像における灰色領域及び/又は白色領域)は明視野となる。二値化処理後の画像中に、測定領域(70μm×100μm)を設定する。該測定視野の全面積に占める暗視野に由来する画素(cBN粒子に由来する画素、反射電子像における黒色領域に由来する画素)の面積比率を算出する。算出された面積比率を体積%とみなすことにより、cBN粒子の含有率(体積%)を求めることができる。
【0043】
(C1)二値化処理後の画像から、測定視野の全面積に占める明視野に由来する画素(結合材に由来する画素、反射電子像における灰色領域及び白色領域に由来する画素の合計)の面積比率を算出することにより、結合材の含有率(体積%)を求めることができる。
【0044】
なお、同一の刃先部において上記の方法で測定する限り、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0045】
(結合材)
上記結合材は、アルミニウム化合物を有することが好ましい。これによって、切削時に切削工具表面に酸化アルミニウム(Al2O3)のベラーグが形成され易くなる。その為、鋳鉄の切削加工において、切削工具100の表面上に生じるベラーグにより、切削工具100の耐摩耗性が向上する為、本実施形態に係る切削工具は、より優れた耐摩耗性を有することができる。「結合材が、アルミニウム化合物を有すること」は、XRD(X線回折測定、X-ray Diffraction)により特定することができる。すなわち、「結合材が、アルミニウム化合物を有する」とは、結合材中においてアルミニウム化合物がXRDにより検出される程度に存在していることを意味する。
【0046】
上記アルミニウム化合物として、例えば窒化アルミニウム(AlN)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸窒化アルミニウム(AlON)、硼化アルミニウム(AlB2)が挙げられる。立方晶窒化ホウ素との結合力を強化するという観点で、該アルミニウム化合物は、特に窒化アルミニウム(AlN)を含むことが好ましい。
【0047】
結合材中のアルミニウム化合物の含有率は、5体積%以上70体積%以下であることが好ましい。これによって、切削時に切削工具表面に酸化アルミニウム(Al2O3)のベラーグが形成され易くなる。その為、鋳鉄の切削加工において、切削工具100の表面上に生じるベラーグにより、切削工具100の耐摩耗性が向上する為、本実施形態に係る切削工具は、より優れた耐摩耗性を有することができる。結合材中のアルミニウム化合物の含有率の下限値は、7体積%以上であることが好ましく、10体積%以上であることがより好ましく、12体積%以上であることが更に好ましい。結合材中のアルミニウム化合物の含有率の上限値は、60体積%以下であることが好ましく、50体積%以下であることがより好ましく、40体積%以下であることが更に好ましい。結合材中のアルミニウム化合物の含有率は、7体積%以上60体積%以下であることが好ましく、10体積%以上50体積%以下であることがより好ましく、12体積%以上40体積%以下であることが更に好ましい。結合材中のアルミニウム化合物の含有率は、XRDによるRIR法(Reference Intensity Ratio)により特定することができる。
【0048】
上記結合材は、上記アルミニウム化合物とともに、上記アルミニウム化合物以外の成分を含むことができる。アルミニウム化合物以外の成分としては、第4族元素、第5族元素、第6元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択される1種の元素の単体が挙げられる。また、アルミニウム化合物以外の成分としては、第4族元素、第5族元素、第6元素、アルミニウム、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択される2種以上の元素の合金が挙げられる。また、アルミニウム化合物以外の成分としては、第4族元素、第5族元素、第6元素、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択される2種以上の元素の金属間化合物が挙げられる。また、アルミニウム化合物以外の成分としては、第4族元素、第5族元素、第6元素、珪素、鉄、コバルト及びニッケルからなる群より選択される1種の元素と、窒素、炭素、硼素及び酸素からなる群より選択される少なくとも1種の元素とからなる化合物が挙げられる。アルミニウム化合物以外の成分として、例えば、窒化チタン(TiN)、炭化タングステン(WC)、コバルト(Co)、硼化チタン(TiB2)、炭化チタン(TiC)、窒化クロム(CrN)、窒化珪素(Si3N4)、鉄(Fe)、ニッケル(Ni)が挙げられる。上記立方晶窒化硼素焼結体中の結合材において、アルミニウム化合物以外の化合物の種類は、XRD(X線回折測定、X-ray Diffraction)により特定することができる。
【0049】
(酸素濃度)
上記逃げ面の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である。これによって、切削加工において、切削工具の逃げ面にトラップされるアルミニウムは酸化され易くなる為、酸化アルミニウム(Al2O3)のベラーグが形成され易くなる。その為、鋳鉄の切削加工において、切削工具の逃げ面の表面上にベラーグが形成されることにより、切削工具の耐摩耗性を向上することができる。上記逃げ面の酸素濃度の下限は、15質量%以上であることが好ましく、20質量%以上であることがより好ましく、25質量%以上であることが更に好ましい。上記逃げ面の酸素濃度の上限は、45質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましく、35質量%以下であることが更に好ましい。上記逃げ面の酸素濃度は、15質量%以上45質量%以下であることが好ましく、20質量%以上40質量%以下であることがより好ましく、25質量%以上35質量%以下であることが更に好ましい。
【0050】
上記逃げ面の酸素濃度は、SEM-EDXを用いて、上記逃げ面に対し、元素分析を実施することによって確認することができる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
【0051】
(A2)まず、上記逃げ面の切削に関与する部分(言い換えれば、刃先稜線(すなわち、逃げ面22およびすくい面21の稜線)からの距離が1mm以内の領域)をSEMにて5000倍で観察して、反射電子像を得る。
【0052】
(B2)次に、上記反射電子像の任意の一箇所の測定領域(15μm×20μm)に対し、エネルギー分散型X線分光法により酸素(O)元素の質量%を導出することにより、該任意の一箇所における酸素濃度(質量%)を得る。他の4箇所の測定領域(15μm×20μm)に対し、同様の分析を実行する。
【0053】
(C2)計5箇所における酸素濃度の平均値を算出することにより、上記逃げ面の酸素濃度(質量%)を求める。
【0054】
なお、同一の刃先部において上記の方法で測定する限り、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0055】
上記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、10質量%未満であることが好ましい。上述の通り、逃げ面の酸素濃度が10質量%以上50質量%以下であることによって、鋳鉄の切削加工において、切削工具の逃げ面の表面上にベラーグが形成されることにより、切削工具の耐摩耗性が向上する。しかしながら、立方晶窒化硼素焼結体中において、酸素は主に結合相に存在するところ、該結合相中の酸素濃度が高すぎると立方晶窒化硼素焼結体自体が脆くなる為、切削工具が脆くなり易くなる。その為、立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、10質量%未満であることによって、立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度が高すぎることに起因する切削工具の脆性の向上を抑制できる。上記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、9.9質量%以下であることがより好ましく、9.8質量%以下であることが更に好ましく、9.5質量%以下であることが更に好ましく、8質量%未満であることが更により好ましく、6質量%未満であることが特に好ましい。上記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、製法上の観点で、0.5質量%以上、1質量%以上、1.5質量%以上とすることができる。
【0056】
上記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度は、SEM-EDXを用いて、元素分析を実施することによって確認することができる。具体的な測定方法は、下記の通りである。
【0057】
(A3)まず、上記立方晶窒化硼素焼結体の任意の表面(逃げ面の表面およびすくい面の表面の一方又は両方)を100μm研磨することにより生じる平面を、SEMにて5000倍で観察して、反射電子像を得る。
【0058】
(B3)次に、上記B2~C2と同様の方法で、上記立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度を求めることができる。
【0059】
なお、同一の立方晶窒化硼素焼結体において上記の方法で測定する限り、測定箇所を任意に変更しても測定結果にばらつきがないことが確認されている。
【0060】
[実施形態2:切削工具の製造方法]
本実施形態の切削工具は、立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備える切削工具前駆体を準備する第1工程と、該刃先部における逃げ面に対し、表面処理加工を行なう第2工程と、をこの順で行うことにより製造することができる。以下、各工程について説明する。
【0061】
≪第1工程≫
本工程は、立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備える切削工具前駆体を準備する工程である。立方晶窒化硼素焼結体は、従来公知の方法により得られる。例えば、cBN粒子(原料)と結合相を構成する原料粉末とを、エタノールとともに超硬製容器に入れ、ボールミル混合法により20時間、混合および粉砕を実行することにより混合粉末を得る。続いて上記混合粉末をTa(タンタル)製の容器に充填して真空シールする。真空シールされた混合粉末を、ベルト型超高圧高温発生装置を用いて、3~9GPa、1100~1900℃の条件下で5~30分間保持して焼結させる。これにより、立方晶窒化硼素焼結体を得ることができる。切削工具の全体が立方晶窒化硼素焼結体により構成されている場合(ソリッドタイプ)においては、これによって得られる立方晶窒化硼素焼結体が、切削工具前駆体である。
【0062】
また、本体部に刃先部が接合されている場合においては、次いで、かかる立方晶窒化硼素焼結体を、接合材料を介して上記本体部に接合することにより、切削工具前駆体を形成する。該接合材料としては、例えば銀ロウが挙げられる。
【0063】
次に、接合加工した立方晶窒化硼素焼結体と本体部とを冷却することにより溶解した接合材料を固化させる。そして、立方晶窒化硼素焼結体と本体部との接合面を研磨処理することにより、立方晶窒化硼素焼結体と工具母材の接合面を滑らかにして、切削工具前駆体を作製する。
【0064】
≪第2工程≫
本工程は、該切削工具前駆体に対し放電加工を実行する工程である。これによって、該切削工具前駆体を切削工具の形状に仕上げることができる(すなわち、刃先部を備え、該刃先部は、逃げ面と、該逃げ面に連なるすくい面と、該逃げ面および該すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有する切削工具が得られる)とともに、該切削工具の刃先部における逃げ面の算術平均高さSa、および該逃げ面のスキューネスSskを所望の範囲に調整することができる。また、例えば研磨加工が実行される場合に比べて、該切削工具の刃先部における逃げ面に酸素を取り込み易くなる為、「逃げ面の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である」が充足され得る。上記の放電加工は、例えば以下のやり方で実行され得る。
【0065】
(1)放電加工
上記切削工具前駆体を放電加工機にセットし、無負荷電圧を50V以上200V未満の条件下で処理する。ワイヤーの形状は、加工面に合わせて、曲げた形状、あるいは、針状であることが好ましい。
【0066】
上記放電加工を実行することにより、上記刃先部における逃げ面の算術平均高さSaを0.5μm以上3.0μm以下とし、且つ逃げ面の酸素濃度を10質量%以上50質量%以下とすることができる。従来、放電加工を施された切削工具は、工具表面に脆性層が形成されることにより、切削時の高い応力に耐えられない場合がある為忌避されていた。本発明者らは、上記の無負荷電圧の条件で放電加工、放電加工を施された切削工具であっても、逃げ面の算術平均高さSaを0.5μm以上3.0μm以下とし、且つ逃げ面の酸素濃度を10質量%以上50質量%以下とする場合には、鋳鉄の高能率加工においても高い耐摩耗性を発揮できることを新たに知見した。
【0067】
なお、上記放電加工を実行した後、更に逃げ面に対し、イオンエッチングが実行され得る。これによって、逃げ面の算術平均高さSaと、逃げ面の酸素濃度とを更に調整することができる。該イオンエッチングは、例えば以下の条件により実行され得る。
(イオンエッチングの条件)
・投入ガス:Ar又はO2
・加速電圧:0.1kV以上10kV以下
・酸素分圧:0.001Pa以上1.000Pa以下
・時間 :5分以上120分以下
【0068】
≪その他の工程≫
本開示の切削工具の製造方法は、更にすくい面に対し、上記研磨加工を実行する工程を含み得る。これによって、すくい面の算術平均高さSaを、0.5μm以下とすることができる。なお、ここで研磨加工は#400番以上の砥石で実行される。
【実施例】
【0069】
本実施の形態を実施例によりさらに具体的に説明する。ただし、これらの実施例により本実施の形態が限定されるものではない。
【0070】
≪切削工具の作製≫
<第1工程>
試料A~Iに係る立方晶窒化硼素焼結体を作製するため、cBN粒子(原料)と結合材の原料粉末とを、表1に記載された体積基準の比率で均一に混合した後、Mo(モリブデン)製カプセルに充填して所定の形状に成形し、成形体を得た。次に得られた成形体を表1に記載の温度(℃)、圧力(GPa)、および時間(分)の条件で焼結することにより、試料A~Iに係る立方晶窒化硼素焼結体を得た。得られた立方晶窒化硼素焼結体を超硬合金製の本体部にロウ付けすることにより、試料1~16、18~25に係る切削工具前駆体を準備した。
【0071】
<第2工程>
試料1~16、18~25に係る切削工具を得る為に、上記切削工具前駆体に対し、表2に記載された条件で放電加工、放電加工およびイオンエッチングの両方、又は研磨加工を実行した。例えば、試料1では、切削工具前駆体を放電加工機にセットし、無負荷電圧を150Vの条件下で放電加工を実行した。また、例えば、試料5では、切削工具前駆体を該放電加工機にセットし、無負荷電圧を150Vの条件下で放電加工を実行し、逃げ面に対し以下の条件でイオンエッチングを実行した。
(イオンエッチングの条件)
・投入ガス:Ar
・加速電圧:1kV
・酸素分圧:0.20Pa
・時間 :15分
これによって、試料1~16、18~25に係る切削工具前駆体を、所定の形状(ISO規格:SNGN120408)に成型した。該所定の形状は、刃先部を備え、該刃先部は、逃げ面と、該逃げ面に連なるすくい面と、該逃げ面および該すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有する形状である。
【0072】
<その他の工程>
試料1~16、18~25に係る切削工具を得る為に、刃先部におけるすくい面に対し、表2に記載された条件で放電加工または研磨加工を実行した。
【0073】
【0074】
【0075】
以上の工程を実行することにより、表2に示した構成を有する試料1~16、18~25の切削工具を作製した。
【0076】
≪評価≫
各試料の切削工具について、立方晶窒化硼素焼結体の組成(立方晶窒化硼素粒子の含有率、結合材の含有率)、結合材の組成、立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度、逃げ面の算術平均高さSa、逃げ面の酸素濃度、逃げ面のスキューネスSsk、及びすくい面の算術平均高さSaを測定した。
【0077】
<立方晶窒化硼素焼結体の組成(立方晶窒化硼素粒子の含有率、結合材の含有率)の特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、立方晶窒化硼素粒子の含有率を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「cBN粒子含有率[体積%]」の項に記す。また、試料No.1~16、18~25の切削工具について、結合材の含有率を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「結合材含有率[体積%]」の項に記す。
【0078】
<結合材の組成の特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、結合材の組成(言い換えれば、結合材を構成する化合物の種類)を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「結合材の組成」の項に記す。
【0079】
試料No.1~16、18~25の切削工具について、結合材中のアルミニウム化合物の含有率を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「結合材中Al化合物含有率[体積%]」の項に記す。
【0080】
<立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度の特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、立方晶窒化硼素焼結体中の酸素濃度を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「焼結体中酸素濃度[質量%]」の項に記す。
【0081】
<逃げ面の算術平均高さSaの特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、逃げ面の算術平均高さSaを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「逃げ面」の項における「Sa[μm]」の項に記す。
【0082】
<逃げ面の酸素濃度の特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、逃げ面の酸素濃度を実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「逃げ面」の項における「酸素濃度[質量%]」の項に記す。
【0083】
<逃げ面のスキューネスSskの特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、逃げ面のスキューネスSskを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「逃げ面」の項における「Ssk」の項に記す。
【0084】
<すくい面の算術平均高さSaの特定>
試料No.1~16、18~25の切削工具について、すくい面の算術平均高さSaを実施形態1に記載の方法により求めた。得られた結果をそれぞれ表2の「すくい面」の項における「Sa[μm]」の項に記す。
【0085】
<切削試験>
試料No.1~16、18~25の切削工具を用いて、以下の切削条件により、20分間切削を行った後の逃げ面における摩耗量[μm]を測定した。得られた結果をそれぞれ表2の「摩耗量[μm]」の項に記す。該摩耗量[μm]が小さいほど、切削工具の耐摩耗性が優れていることを意味し、切削工具が長い工具寿命を有することを意味する。
(切削条件)
被削材:FC250(ねずみ鋳鉄)
切削速度:Vc=500m/min
送り:f=0.2mm/刃
切込み:ap=1mm
湿式/乾式:乾式
当該切削条件は、鋳鉄の高能率加工に該当する。
【0086】
<結果>
試料1~11、18~25の切削工具は、実施例に該当する。一方、試料12~16は、比較例に該当する。試料1~11、18~25の切削工具(実施例)は、試料12~16の切削工具(比較例)に比して、鋳鉄の高能率加工においても耐摩耗性に優れ、長い工具寿命を有することが確認された。
【0087】
よって、試料1~11、18~25の切削工具は、鋳鉄の高能率加工においても、長い工具寿命を有することが分かった。
【0088】
以上のように本開示の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の各実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせたり、様々に変形することも当初から予定している。
【0089】
今回開示された実施の形態および実施例はすべての点で例示であって、制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した実施の形態および実施例ではなく請求の範囲によって示され、請求の範囲と均等の意味、および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0090】
10 本体部、11 底面、12 頂面、13 側面、14 座面、15 支持面、20 刃先部、21 すくい面、22 逃げ面、22a 第1逃げ面、22b 第2逃げ面、22c 第3逃げ面、23 切れ刃、23a 第1切れ刃、23b 第2切れ刃、23c 第3切れ刃、24 底面、25 被支持面、100 切削工具、L1 平均線。
【要約】
切削工具は、立方晶窒化硼素焼結体からなる刃先部を備え、前記刃先部は、逃げ面と、前記逃げ面に連なるすくい面と、前記逃げ面および前記すくい面の稜線に位置する切れ刃と、を有し、前記逃げ面の算術平均高さSaは、0.5μm以上3.0μm以下であり、前記Saは、ISO25178-2:2012に準拠して測定され、前記逃げ面の酸素濃度は、10質量%以上50質量%以下である、切削工具。