(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】乗客コンベアおよび異常検知方法
(51)【国際特許分類】
B66B 29/00 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
B66B29/00 D
(21)【出願番号】P 2021140822
(22)【出願日】2021-08-31
【審査請求日】2021-08-31
(73)【特許権者】
【識別番号】390025265
【氏名又は名称】東芝エレベータ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】石川 佳延
(72)【発明者】
【氏名】吉田 幹
【審査官】中田 誠二郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-091521(JP,A)
【文献】特開2019-043754(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B66B 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
一対の踏段チェーンで巡回移動し、一対の踏段レールに両端を案内支持される複数の踏段と、
トラス内に配設され、前記複数の踏段を支持する少なくとも一対の車輪の走行を案内する一対の案内レールと、
前記一対の案内レールのうち一方の案内レールの前記一対の車輪のうち一方の車輪の走行面に設けられ、前記一方の車輪の一部を支持して前記一方の車輪ががたつき状態である場合に前記一方の車輪を傾斜させる第1の部材と、
前記第1の部材における前記一方の車輪の傾斜に基づいて、前記一方の車輪のがたつき状態を検出する異常検出部と、を備え、
前記異常検出部は、
前記一対の車輪の走行経路上に2つの光軸を形成する光軸形成部と、
前記光軸形成部によって形成された前記2つの光軸の間を前記車輪が通過した時間を計測する計測部と、
前記計測部によって測定された通過時間に基づいて、前記車輪のがたつき状態を検出する検知部と、を備え、
前記光軸形成部は、
前記一対の案内レールの一方に設けられ、光を投光する第1の投光部と、
前記一対の案内レールの他方に設けられ、前記第1の投光部によって投光された光を受光する第1の受光部と、
前記一対の案内レールの他方に設けられ、光を投光する第2の投光部と、
前記一対の案内レールの一方に設けられ、前記第2の投光部によって投光された光を受光する第2の受光部と、を備え、
前記計測部は、前記第1の投光部から前記第1の受光部に向かう光による光軸が、前記一対の案内レールを走行する前記車輪の通過により遮蔽されるタイミングと、前記第2の投光部から前記第2の受光部に向かう光による光軸が、前記一対の案内レールを走行する前記車輪の通過により遮蔽されるタイミングと、に基づいて、前記2つの光軸の間を前記車輪が通過した時間を計測する、
乗客コンベア。
【請求項2】
前記一対の案内レールのうち前記一方の案内レールに対する他方の案内レールの前記一対の車輪のうち前記一方の車輪に対する他方の車輪の走行面であって、前記第1の部材と対向する位置に設けられ、前記他方の車輪を浮かせた状態にさせる第2の部材と、
を備える請求項1に記載の乗客コンベア。
【請求項3】
前記第1の部材は、さらに、前記他方の案内レールの前記他方の車輪の走行面に設けられ、前記他方の車輪の一部を支持して前記他方の車輪ががたつき状態である場合に前記他方の車輪を傾斜させ、
前記第2の部材は、さらに、前記一方の案内レールの前記一方の車輪の走行面であって、前記第1の部材と対向する位置に設けられ、前記一方の車輪を浮かせた状態にさせる、
をさらに備える請求項2に記載の乗客コンベア。
【請求項4】
前記第1の部材は、前記案内レールの前記車輪の走行面の中央付近から前記一対の案内レールの内側に斜め下方に屈曲した第1の傾斜部を有する、
請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項5】
前記第2の部材は、前記案内レールの前記車輪の走行面の外方側端部の近傍から斜め下方に屈曲した第2の傾斜部を有する、
請求項3または4に記載の乗客コンベア。
【請求項6】
前記第1の部材は、前記案内レールの前記車輪の走行面の中央付近から、前記車輪を前記一対の案内レールの外方に向けて傾斜させる、
請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項7】
前記第1の部材は、前記案内レールの前記車輪の走行面の中央付近から開口する開口部を有する、
請求項3に記載の乗客コンベア。
【請求項8】
一対の踏段チェーンで巡回移動し、一対の踏段レールに両端を案内支持される複数の踏段と、トラス内に配設され、前記複数の踏段を支持する少なくとも一対の車輪の走行を案内する一対の案内レールと、を備える乗客コンベアにおける前記踏段の車輪のがたつき状態を検知する異常検知方法であって、
前記乗客コンベアは、
前記一対の案内レールのうち一方の案内レールの前記一対の車輪のうち一方の車輪の走行面に設けられ、前記一方の車輪の一部を支持して前記一方の車輪ががたつき状態である場合に前記一方の車輪を傾斜させる第1の部材と、
前記一対の案内レールの一方に設けられ、光を投光する第1の投光部と、
前記一対の案内レールの他方に設けられ、前記第1の投光部によって投光された光を受光する第1の受光部と、
前記一対の案内レールの他方に設けられ、光を投光する第2の投光部と、
前記一対の案内レールの一方に設けられ、前記第2の投光部によって投光された光を受光する第2の受光部と、を備え、
前記一対の車輪の走行経路上に2つの光軸を形成しており、
前記第1の部材における前記一方の車輪の傾斜に基づいて、前記一方の車輪のがたつき状態を検出する異常検出ステップ、を含み、
前記異常検出ステップは、
形成された前記2つの光軸の間を前記車輪が通過した時間を計測する計測ステップと、
前記計測ステップによって測定された通過時間に基づいて、前記車輪のがたつき状態を検出する検知ステップと、を含み、
前記計測ステップは、前記第1の投光部から前記第1の受光部に向かう光による光軸が、前記一対の案内レールを走行する前記車輪の通過により遮蔽されるタイミングと、前記第2の投光部から前記第2の受光部に向かう光による光軸が、前記一対の案内レールを走行する前記車輪の通過により遮蔽されるタイミングと、に基づいて、前記2つの光軸の間を前記車輪が通過した時間を計測する、
異常検知方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の実施形態は、乗客コンベアおよび異常検知方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エスカレータや動く歩道などの乗車コンベアは、チェーンにより無端状に連結された多数の踏段(ステップ)を備える。これらの踏段をトラス内部に配設された案内レールに沿ってモータ駆動により循環移動させることで、踏段に搭乗した乗客を一方の乗降口から他方の乗降口へと搬送する。
【0003】
踏段の左右両側には、チェーンに軸支された前輪と、踏段の蹴上げ面(ライザ)の下方に取り付けられた後輪が設けられている。これらの車輪のがたつき状態等の異常を、透過型光電センサを用いて検出する技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2004-224560号公報
【文献】特開2013-203484号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
このような従来技術において、車輪にセンサから光の光軸があたるように高精度に出射する必要があり、また、センサの位置調整等に時間を要する場合がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
実施形態の乗客コンベアは、一対の踏段チェーンで巡回移動し、一対の踏段レールに両端を案内支持される複数の踏段と、トラス内に配設され、前記複数の踏段を支持する少なくとも一対の車輪の走行を案内する一対の案内レールと、前記一対の案内レールのうち一方の案内レールの前記一対の車輪のうち一方の車輪の走行面に設けられ、前記一方の車輪の一部を支持して前記一方の車輪ががたつき状態である場合に前記一方の車輪を傾斜させる第1の部材と、前記第1の部材における前記一方の車輪の傾斜に基づいて、前記一方の車輪のがたつき状態を検出する異常検出部と、を備え、前記異常検出部は、前記一対の車輪の走行経路上に2つの光軸を形成する光軸形成部と、前記光軸形成部によって形成された前記2つの光軸の間を前記車輪が通過した時間を計測する計測部と、前記計測部によって測定された通過時間に基づいて、前記車輪のがたつき状態を検出する検知部と、を備え、前記光軸形成部は、前記一対の案内レールの一方に設けられ、光を投光する第1の投光部と、前記一対の案内レールの他方に設けられ、前記第1の投光部によって投光された光を受光する第1の受光部と、前記一対の案内レールの他方に設けられ、光を投光する第2の投光部と、前記一対の案内レールの一方に設けられ、前記第2の投光部によって投光された光を受光する第2の受光部と、を備え、前記計測部は、前記第1の投光部から前記第1の受光部に向かう光による光軸が、前記一対の案内レールを走行する前記車輪の通過により遮蔽されるタイミングと、前記第2の投光部から前記第2の受光部に向かう光による光軸が、前記一対の案内レールを走行する前記車輪の通過により遮蔽されるタイミングと、に基づいて、前記2つの光軸の間を前記車輪が通過した時間を計測する。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は本実施形態におけるエスカレータの全体の概略構成を示す図である。
【
図2】
図2は本実施形態におけるエスカレータの踏段の構成を示す斜視図である。
【
図3】
図3は、本実施形態の案内レールおよび案内レールに沿って移動する複数の踏段の構成を示す斜視図である。
【
図4】
図4は、本実施形態の案内レールおよび案内レールに沿って移動する複数の踏段の構成を示す模式図である。
【
図5】
図5は、
図3の右側方からみた案内レール、後輪付近の部分拡大図である。
【
図6】
図6は、本実施形態において案内レールの第1の傾斜部、第2の傾斜部の部分の斜視図である。
【
図7】
図7は、本実施形態において、踏段の後輪が案内レールの第1の傾斜部、第2の傾斜部を走行する際の状態を案内レールの上方からみた場合の模式図である。
【
図8】
図8は、本実施形態において、踏段の後輪が案内レールの第1の傾斜部、第2の傾斜部を走行する際の状態を案内レールの側方からみた場合の模式図である。
【
図9】
図9は、本実施形態の制御装置の機能的構成を示すブロック図である。
【
図10】
図10は、本実施形態における後輪の異常検知処理を説明するための模式図である。
【
図11】
図11は、変形例1の案内レールの構成を示す斜視図である。
【
図12】
図12は、変形例2の案内レールの構成を示す模式図である。
【
図13】
図13は,変形例3の案内レールの構造を示す図である。
【
図14】
図14は、変形例4の案内レール431aの構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図面を参照して実施形態を説明する。
【0009】
(実施形態)
図1は、本実施形態にかかる乗客コンベアの一例を示す側面図である。本実施形態の乗客コンベア1は、例えば、建物の上下階に跨って傾斜して設置されたエスカレータである。この乗客コンベア1は、
図1に示すように、多数の踏段2を上階側の乗降口8と下階側の乗降口9との間で循環移動させることで、踏段2の上面である踏み面2aに搭乗した乗客を上階と下階とにわたって搬送するものである。本実施形態では、踏段2が下階側の乗降口9から上階側の乗降口8に上昇して巡回する乗客コンベア1を例として説明する。
【0010】
多数の踏段2は、無端状の踏段チェーン3によって連結されており、建物の床下に設置されたトラスと呼ばれる主枠4内に配置されている。
【0011】
主枠4の内部の上階側にはスプロケット5と駆動モータ及び減速機を備えた駆動装置6と制御装置30とが配置され、主枠4の内部の下階側にはスプロケット7が配置されている。
【0012】
上階側のスプロケット5と下階側のスプロケット7との間には、踏段チェーン3が架け渡されており、駆動装置6がスプロケット5を回転駆動させることに伴って、踏段チェーン3がスプロケット5及びスプロケット7の間を循環移動する。複数の踏段2も踏段チェーン3と一体になって、案内レール31a、31bにガイドされながら循環移動する。
【0013】
制御装置30は、駆動装置6を制御する他、踏段2の車輪(後輪)のがたつき状態などの異常状態を検知する。
【0014】
踏段2の両側部には左右一対の欄干10が設けられ、これら欄干10の外周部に、駆動装置6によって踏段2と同期して循環移動する手摺ベルト12が装着されている。欄干10の下部には、踏段2の側面との間に隙間をあけてスカートガードパネル14が取り付けられており、踏段2がスカートガードパネル14の長手方向に沿って移動する。スカートガードパネル14は、分割された複数枚の例えば鋼板製のパネルを欄干10の長手方向に沿ってつなぎ合わせることで構成されている。
【0015】
図2は、本実施形態の乗客コンベア1の踏段2の構成を示す斜視図である。
図3は、本実施形態の案内レール31a、31bおよび案内レール31a、31bに沿って移動する複数の踏段2の構成を示す斜視図である。踏段2は、
図2に示すように、略扇形の側面形状を有するブラケット21と、ブラケット21の上部に設けられた踏み面2aと、ブラケット21の弧形状に沿って配置されたライザ23とを備える。
【0016】
ブラケット21の先端部にはシャフト取付け部24が形成されており、そこに踏段連結シャフト25が回転自在に取り付けられる。踏段連結シャフト25は、踏段2の移動方向に沿って所定の間隔で水平方向に配設されている。この踏段連結シャフト25は、左右の踏段チェーン3に係合しており、その両端部に左右一対の車輪(前輪)26が設けられている。また、ブラケット21のライザ23の下端部の両側には左右一対の車輪(後輪)27が設けられている。左右一対の車輪(後輪)27は、一方の車輪、他方の車輪に相当する。ここで、左右の後輪のそれぞれを、後輪27a、27bと称するが、左右を区別しない場合には、後輪27と称する。
【0017】
図3に示すように、踏段2の左右両側には車輪26,27の走行経路に沿って案内レール31a、31bが配設され、主枠(トラス)4内にボルト等で固定されている。案内レール31a、31bは、複数の踏段2の姿勢を支持するものである。より具体的には、案内レール31bは踏段2の前側に設けられた車輪26を支持し、案内レール31aは踏段2の後側に設けられた車輪27を支持している。踏段2の左右の前輪26に対応して一対の案内レール31bが設けられている。踏段2の左右一対の後輪27に対応して一対の案内レール31aが設けられている。一対の案内レール31aは、一方の案内レール、他方の案内レールに相当する。ここで、左右の後輪27a、27bのそれぞれに対応する案内レールを、案内レール31a1、31a2と称するが、左右を区別しない場合には、案内レール31aと称する。
【0018】
図4は、本実施形態の案内レール31a、31bおよび案内レール31a、31bに沿って移動する複数の踏段2の構成を示す模式図である。後輪27をガイドする案内レール31aには、
図3、
図4に示すよう2組の透過型光電センサ35が設けられている。透過型光電センサ35は、投光部35aと受光部35bとから構成され、第1組の透過型光電センサ35を投光部35a1、受光部35b1と称し、第1組の透過型光電センサ35を投光部35a2、受光部35b2と称する。なお、第1組、第2組を区別しない場合には、投光部35a、受光部35bと称する。透過型光電センサは、投光部35aから投稿された光を受光部35bで受光することによりオン/オフする。二組の透過型光電センサのそれぞれの投光部35aから受光部35bへの光の光軸55はが交差するように投光部35aと受光部35bが案内レール31aに設けられている。
【0019】
すなわち、
図3、
図4に示すように、第1組の透過型光電センサの投光部35a1は後輪27aの走行経路である案内レール31a1に設けられ、受光部35b1は、後輪27bの走行経路である案内レール31a2に設けられている。投光面と受光面を互いに対面するように内側に向けている。また、第2組の透過型光電センサの投光部35a2は後輪27bの走行経路である案内レール31a2に設けられ、受光部35b2は、後輪27aの走行経路である案内レール31a1に設けられている。投光面と受光面を互いに対面するように内側に向けている。これにより、第1組の透過型光電センサの光軸55aと第2組の透過型光電センサの光軸55bは交差する。光軸55a、55bを第1組の透過型光電センサ、第2組の透過型光電センサと区別しない場合には、光軸55と称する。
【0020】
また、
図4に示すように、本実施形態では、後輪27の案内レール31aに、第1の傾斜部41aと第2の傾斜部41bとが設けられている。より、具体的には、一方の案内レール31a1には、
図4の内側から順に、第1の傾斜部41a1、第2の傾斜部41b1が設けられている。また、他方の案内レール31a2には、
図4の内側から順に、第2の傾斜部41b2、第1の傾斜部41a2が設けられている。ここで、第1の傾斜部41aは第1の部材に相当し、第2の傾斜部41bは第2の部材に相当する。
【0021】
図4に示すように、一方の案内レール31a1の第1の傾斜部41a1と他方の案内レール31a2の第2の傾斜部41b2とは、踏段2の後輪27a、27bの走行位置に対応して、互いに対向して設けられている。すなわち、踏段2の左右一対の後輪27のうち一方の後輪27aが一方の案内レール31a1の第1の傾斜部41a1を通過するときに、他方の後輪27bが他方の案内レール31a2の第2の傾斜部41b2を通過するように、第1の傾斜部41a1、第2の傾斜部41b2が配置されている。また、踏段2の左右一対の後輪27のうち一方の後輪27aが一方の案内レール31a1の第2の傾斜部41b1を通過するときに、他方の後輪27bが他方の案内レール31a2の第1の傾斜部41a2を通過するように、第2の傾斜部41b1、第1の傾斜部41a2が配置されている。
【0022】
図5は、
図3の右側方からみた案内レール31a、後輪27付近の部分拡大図である。
図5では、第1の傾斜部41aの部分を示している。
図6は、本実施形態において案内レール31aの第1の傾斜部41a、第2の傾斜部41bの部分の斜視図である。
【0023】
図5、
図6に示すように、案内レール31aは、垂直方向に立上がる側板43と、側板43の下端部から内方(踏段2側)に向けて屈曲し水平に延在する底板42とから構成される。そして、側板43の下端部から底板42の中央部までの範囲で後輪27の一部が支持される。第1の傾斜部41aは、この底板42の中央付近から斜め下方に屈曲し傾斜面を形成している。一方、第2の傾斜部41bは、この底板42の側板43の下端部付近から直ちに斜め下方に屈曲し傾斜面を形成している。このため、側板43の下端部から第1の傾斜部41aまでの底板42の側板43の下端部から第2の傾斜部41bまでの底板42の幅より大きい。ここで、第1の傾斜部41a、第2の傾斜部41bの底板42から屈曲する角度θは、本実施形態では15°としているが、これに限定されるものではない。第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bを上方からみると、
図6に示されるように、略台形状をなしている。
【0024】
ここで、本実施形態では、第1の傾斜部41aおよび第2の傾斜部41bは、乗客コンベア1の工場出荷後において、案内レール31aをプレス成形することにより形成することが好ましい。これは、既設の乗客コンベア1では、火花が発生できない現場が多いため、切断や溶接等の火花加工が行わないためである。
【0025】
図7は、本実施形態において、踏段2の後輪27が案内レール31aの第1の傾斜部41a、第2の傾斜部41bを走行する際の状態を案内レール31aの上方からみた場合の模式図である。なお、
図7の左から右へ踏段2が走行するものとする。
図8は、本実施形態において、踏段2の後輪27が案内レール31aの第1の傾斜部41a、第2の傾斜部41bを走行する際の状態を案内レール31aの側方からみた場合の模式図である。
図8(a),(b)は、後輪27にがたつき等がなく正常な場合を示し、
図8(c
)は、後輪27にがたつき等が
あり異常な場合を示す。
【0026】
図7に示すように、踏段2の一方の後輪27aが案内レール31a1の第1の傾斜部41a1上を走行するとき、他方の後輪27bは案内レール31a2の第2の傾斜部41b2を走行する。このとき、一方の後輪27aが正常な状態であれば、一方の後輪27aは、
図7、8(a)に示すように、その一部が第1の傾斜部41a1の底板42に支持された状態となる。このとき、他方の後輪27bは、
図7、8(b)に示すように、第2の傾斜部41b2から浮いた状態となる。このため、踏段2は、正常な場合には、二つの前輪26と一つの後輪27aの3輪で第1の傾斜部41a1、第2の傾斜部41b2の上を走行することになる。このとき、第1の傾斜部41a1の後輪27aにより透過型光電センサの投光部35a2からに受光部35b2に向かう光(光軸55)が遮られることなく、透過型光電センサの出力はオフを維持する。
【0027】
これに対して、一方の後輪27aにがたつき等があり異常な状態であれば、一方の後輪27aは、その一部が第1の傾斜部41a1の底板42に支持されるが、モーメントが後輪27aに加わって後輪27aは内側に傾斜した状態となる。このとき、他方の後輪27bは、図8(c)に示すように、第2の傾斜部41b2上で傾斜した状態となる。このとき、第1の傾斜部41a1で傾斜した後輪27aにより透過型光電センサの投光部35a2からに受光部35b2に向かう光(光軸55)が遮られて透過型光電センサの出力はオンとなる。言い換えれば、この透過型光電センサの出力がオンとなるタイミングを検出することにより、制御装置30は後輪27aのがたつき状態等の異常を検知することができる。
【0028】
次に、踏段2が進み、一方の後輪27aが案内レール31a1の第2の傾斜部41b1上を走行するとき、他方の後輪27bは案内レール31a2の第1の傾斜部41a2を走行する。この場合には、上述した手法と同様に、後輪27bの正常、異常を判断することができる。
【0029】
次に、制御装置30について説明する。
図9は、本実施形態の制御装置30の機能的構成を示すブロック図である。 透過型光電センサの投光部35aおよび受光部35bは、図示せぬケーブルを介して制御装置30に接続されている。制御装置30は、CPU,ROM,RAM等がバスで接続された汎用のコンピュータ(マイコン)からなる。制御装置30は、乗客コンベア1の上部機械室などに設置され、透過型光電センサに必要な電力を投光部35aおよび受光部35bに供給すると共に、透過型光電センサのオンオフ信号をセンサ反応時間に近い1ms程度以下の遅れで検知している。
【0030】
ここで、制御装置30には、
図9に示すように、計測部1001、検知部1002を備えている。計測部1001は、投光部35a、受光部35bで形成された2つの光軸55a、55bの間を踏段2の後輪27が通過した時間を計測する。検知部1002は、計測部1001によって測定された通過時間に基づいて、後輪27の案内レール31a上でのがたつき状態等の異常状態を検出する。
【0031】
制御装置30は、検知部1002によって踏段2の後輪27の異常が検出された場合にその旨を警告し、乗客コンベア1の運転を止めるなどの処理を行う。警告方法としては、例えば乗客コンベア1に設置された図示せぬ警告ランプを点灯する方法や、ブザー音を鳴らす、あるいは、図示せぬ通信ネットワークを介してビルの監視室やメンテナンスの監視センタなどに発報する方法などがある。
【0032】
また、制御装置30には、記憶装置1003および表示装置1004が接続される。記憶装置1003は、検知部1002によって検出された後輪27の状態を記憶する。表示装置1004は、例えば乗客コンベア1に何らかの異常が検出された場合にその旨のメッセージなどを表示する。
【0033】
次に、本実施形態における後輪27の異常検知処理について説明する。
図10は、本実施形態における後輪27の異常検知処理を説明するための模式図である。ここで、踏段2の後輪27は、
図10の左から右に案内レール31aに沿って移動するものとする。
【0034】
光軸55の光が遮断されていない場合には、受光部35bから制御装置30に出力される出力信号はオフであり、踏段2の後輪27が走行して光軸55を遮断すると、受光部35bからの出力信号はオンとなる。ここで、受光部35b2からの出力を出力信号aと称し、受光部35b1からの出力を出力信号bと称する。
【0035】
制御装置30の計測部1001は、受光部351b2からの出力信号aを入力し、受光部351b1からの出力信号bを入力する。計測部1001は、出力信号a、出力信号bのそれぞれが1回目にオンとなった時刻、2回目にオンとなった時刻を計測する。そして、計測部1001は、出力信号aが1回目にオンとなった時刻t1から出力信号bが2回目にオンとなった時刻t4までの通過時間を計測する。また、計測部1001は、出力信号bが1回目にオンとなった時刻t3から出力信号aが2回目にオンとなった時刻t3までの時間を計測する。
【0036】
図10のタイムチャートに示すように、計測部1001は、後輪27aが案内レール31a1を走行して光軸55aが1回目に遮断されて出力信号aがオンとなった時刻t1を計測し、また、光軸55bが2回目に遮断されて出力信号bがオンになった時刻t4を計測する。そして、計測部1001は、時刻t1から時刻t4までの通過時間を計測する。
【0037】
踏段2の走行速度、2つの光軸55a,55bの位置関係が一定であれば、検知部1002は、時刻t1と時刻t4の間の通過時間により、後段27aにがたつき等の異常の有無を判断することができる。すなわち、後輪27aにがたつき等の異常がある場合には、
図8(c)に示すように、第1の傾斜部41a1において後輪27aにモーメントが作用して、後輪27aが傾いた状態となる。この傾きによって光軸55bが遮断されるため、
図10のタイミングチャートに示すように、2回目の出力信号bのオンのタイミングの時刻t4は正常時よりも早くなる。このため、通過時間は異常時の方が正常時より短くなる。このため、検知部1002は、通過時間が正常時より短いことを検出した場合に、後輪27aにがたつき等の異常があったものと検知する。
【0038】
他方の後輪27bの異常の検知処理については、出力信号bが1回目にオンとなった時刻t2から出力信号aが2回目にオンとなった時刻t3までの通過時間から同様に行われる。
【0039】
このように本実施形態では、乗客コンベア1の案内レール31aに、一方の後輪27の走行面に設けられ、一方の後輪27の一部を支持して一方の後輪27が異常状態である場合に一方の後輪を傾斜させる第1の傾斜部41aと、他方の後輪27の走行面であって、第1の傾斜部と対向する位置に設けられ、他方の後輪27を浮かせた状態にさせる第2の傾斜部41bと、を備えている。このため、本実施形態では、後輪27にがたつき等の異常がある場合には、後輪27がモーメントにより傾くことになり、これにより透過型光電センサ35の光軸55を通過する時間に変化が生じるため、この通過時間より、後輪27のがたつき状態等の異常を簡易かつ高精度で検出することが可能となる。
【0040】
(変形例)
上記実施形態には種々の変形例が考えられる。
図11は、変形例1の案内レール131aの構成を示す斜視図である。変形例1の案内レール131aでは、第1の傾斜部41aに変えて、開口部141aが設けられ、第2の傾斜部41bに変えて、開口部141bが設けられている。ここで、開口部141aより開口部141bの方が大きく、開口部141aの底板42の幅は開口部141bの底板42の幅より広い。このため、後輪27は、正常な状態で、開口部141aを通過する場合には、底板42によりその一部が支持され、開口部141bを通過する場合には、開口部141b上で浮いた状態となる。なお、開口部141a、141bを、穴の形状としてもよい。
【0041】
ここで、本変形例では、開口部141a,141bは、乗客コンベア1の工場出荷後において、切断加工により形成することができる。なお、開口部141a,141bは、案内レールを製造する際に、予め切断加工により形成するように構成してもよい。
【0042】
この変形例1においても、実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0043】
図12は、変形例2の案内レール31aの構成を示す模式図である。本変形例では、案内レール31aの上方に集音部としてのマイクロフォン90を設けている。このマイクロフォン90は、制御装置30に接続されている。後輪27にがたつきがあり、傾いた場合には、この
傾きにより発生する異音をマイクロフォン90で集音し、検知部1002が異音を検知した場合に後輪27にがたつき等の異常があると判断することができる。
【0044】
また、
図12に示すように、案内レール31aの底板42aの下面に、振動検知部としての歪みセンサ92を設置してもよい。この歪みセンサ92を制御装置30に接続されている。後輪27にがたつきがあり、後輪27にモーメントが作用して傾いた場合には、この傾きにより発生する歪みを歪みセンサ92で検知して、検知部1002が後輪27にがたつき等の異常があると判断することができる。
【0045】
また、符号92は、歪みセンサに代えて、加速度センサであってもよい。後輪27にがたつきがあり、後輪27にモーメントが作用して傾いた場合には、この傾きにより発生する後輪27の加速度を加速度センサ92で検知して、検知部1002が後輪27にがたつき等の異常があると判断することができる。
【0046】
このような変形例2によれば、透過型光電センサは不要となるので,光軸の調整が不要となり、より簡易でかつ高精度に後輪27の異常を検知することができる。
【0047】
上記実施形態および変形例2では、第1の傾斜部41aは斜め下方に傾斜していたが、これに限定されるものではない。
図13は,変形例3の案内レール231aの構造を示す図である。変形例3の案内レール231aでは、第1の傾斜部241aは、底板42の中央付近から上方に屈曲して傾斜している。このため、がたつき等異常のある後輪27は、外方(
図13の右側)に傾くことになる。このため、光軸55を遮断する時刻は正常時より遅くなり、このため通過時間が正常時より長くなる。検知部1002はこの通過時間が正常時より長くなったことを検知した場合に、後輪27にがたつき等の異常があると検知する。
【0048】
本変形例においても、第1の傾斜部241aは、乗客コンベア1の工場出荷後において、案内レール231aをプレス加工により形成することが好ましい。
【0049】
この変形例3によっても、実施形態と同様の作用効果を奏する。
【0050】
図14は、変形例4の案内レール431aの構造を示す図である。本変形例では、変形例3の上方向に傾斜した第1の傾斜部に変えて突起部433を設けている。この突起部433により、がたつき等異常のある後輪27は、変形例3と同様に、外方(
図14の右側)に傾くことになる。このため、光軸55を遮断する時刻は正常時より遅くなり、このため通過時間が正常時より長くなる。検知部1002はこの通過時間が正常時より長くなったことを検知した場合に、後輪27にがたつき等の異常があると検知する。
【0051】
なお、上述した実施形態、変形例の第1の傾斜部、第2の傾斜部は、案内レール31aをプレス成形していたが、案内レールを製造する際に、予め傾斜させて形成するように構成してもよい。
【0052】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これらの実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるとともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0053】
1…乗客コンベア、2…踏段、2a…踏み面、10…欄干、12…手摺ベルト、14…スカートガードパネル、30…制御装置、21…ブラケット、23…ライザ、24…シャフト取付け部、25…踏段連結シャフト、26…前輪、27,27a,27b…後輪(車輪)、31a,31a1,31a2,31b,131a,231a,431a…案内レール、35…透過型光電センサ、35a,35a1,35a2…投光部、35b,35b1,35b2…受光部、41a,41a1,41a2…第1の傾斜部(第1の部材)、41b,41b1,41b2…第2の傾斜部(第2の部材)、42,42a,42b…底板、43…側板、55,55a,55b…光軸、90…マイクロフォン(集音部)、92…歪みセンサまたは加速度センサ(振動検知部)、141a,141b…開口部、433…突起部、1001…計測部、1002…検知部、1003…記憶装置、1004…表示装置