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特許7277097自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物
(51)【国際特許分類】
   C09K 3/10 20060101AFI20230511BHJP
   C09K 3/12 20060101ALI20230511BHJP
   C08L 33/12 20060101ALI20230511BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20230511BHJP
   F01P 11/14 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C09K3/10 E
C09K3/12
C09K3/10 N
C08L33/12
C08K7/02
F01P11/14 D
【請求項の数】 12
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2018177342
(22)【出願日】2018-09-21
(65)【公開番号】P2019059928
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2021-09-16
(31)【優先権主張番号】1715370.1
(32)【優先日】2017-09-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】518000408
【氏名又は名称】ホルト・ロイド・インターナショナル・リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【弁理士】
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【弁理士】
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100120754
【弁理士】
【氏名又は名称】松田 豊治
(74)【代理人】
【識別番号】100196597
【弁理士】
【氏名又は名称】横田 晃一
(72)【発明者】
【氏名】ブルース・エリス
(72)【発明者】
【氏名】リチャード・ヒッチマン
(72)【発明者】
【氏名】マイケル・ナッシュ
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-253762(JP,A)
【文献】特開平01-113484(JP,A)
【文献】特開昭58-000173(JP,A)
【文献】特許第3967735(JP,B2)
【文献】特開2014-70221(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/056691(US,A1)
【文献】特開2008-88203(JP,A)
【文献】国際公開第2019/188527(WO,A1)
【文献】特開2005-277195(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K 3/00- 13/08
C08L 1/00-101/14
C09K 3/10- 3/12
F01P 1/00- 11/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物であって、ポリマー樹脂及び粒子パッケージを含み、前記粒子パッケージは、第1の繊維長を有する第1の繊維、及びより多い量の第2の繊維長を有する第2の繊維を含前記ポリマー樹脂がメチルメタクリレートコポリマーを含み、前記ポリマー樹脂が、200000~300000ダルトンの間のMz平均分子量及び30℃~80℃の間のガラス転移温度を有する、前記自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項2】
前記第1の繊維と前記第2の繊維との重量比が1:2~1:12であり、前記第2の繊維は前記第1の繊維よりも長尺である、請求項1に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項3】
前記第1の繊維長が50μm~500μmの範囲であり、前記第2の繊維長が1~25μmの範囲である、請求項1に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項4】
重量平均の第1の繊維長が100μm~300μmであり、重量平均の第2の繊維長が10μm~20μmである、請求項3に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項5】
前記第1の繊維が木粉であり、少なくとも90%が100μmのスクリーンによって保持されるが、1%未満が600μmのスクリーンによって保持されるような粒径分布を有する、請求項1に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項6】
前記第1の繊維及び前記第2の繊維が天然繊維であり、前記天然繊維が油糧種子粕及び木粉である、請求項1~5のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項7】
前記油糧種子粕が圧搾亜麻仁粕である、請求項6に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項8】
前記第1の繊維と前記第2の繊維との重量比が1:4~1:8の間である、請求項3~5のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項9】
前記ポリマー樹脂が、メチルメタクリレート-エチルアクリレートコポリマー又はメチルメタクリレート-ブチルアクリレートコポリマーの1つを含む、請求項に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項10】
前記ポリマー樹脂と前記第1及び第2の繊維の合計との重量比が1:0.5~1:1.5の間である、請求項1~のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
【請求項11】
請求項1~10のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を用い、前記配合物を自動車エンジン冷却システム中に導入してエンジンを運転することによってクーラントの漏れを補修する方法。
【請求項12】
前記自動車エンジン冷却システムがモノエチレングリコール系の冷却液を有する、請求項11に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジン冷却システムにおける漏れを補修するための自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物に関し、通常のクーラント凍結防止剤(coolant antifreeze)のタイプと適合性であり、クーラントを排出して再充填した後に補修を維持することができる。
【背景技術】
【0002】
自動車におけるもののような冷却システムは、位置を見つけるのが困難で、或いは補修するのが困難な場合がある小さな漏れを発生させる場合があり、例えばこれらはエンジンシステムをかなり分解しないと到達できない場合がある。大きな漏れはホース又はガスケットを交換する必要がある場合があるが、小さな漏れは時にはクーラントに加える配合物を用いて補修することができる。
【0003】
小さな漏れを補修するための既存の製品は2つの別個のカテゴリーに分類される。1つはケイ酸ナトリウムの化学的性質に基づくものであり、これらは永久的な補修とみなされるが、モノエチレングリコール系のクーラント凍結防止剤とは適合しない。これは、かかる組成物は多くのモノエチレングリコール系凍結防止剤の系中で架橋ゲルを生成し、これらによって冷却システムの閉塞がもたらされる可能性があるからである。他のカテゴリーは、一定範囲の化学物質をベースとする所謂注入作用型(pour and go)シーラントであり、これはシステム内における閉塞を起こさずにモノエチレングリコール系のクーラント凍結防止剤と混合する。2つのカテゴリーの後者に分類されるこれらの漏れ止め配合物は、最初にエンジンクーラントを排出及び洗い流さずに用いることができ、これは時間、費用を節約し、ユーザーが自動車修理の技術を訓練する必要がないという別の有利性を有する。しかしながら、これらの製品によって形成される補修は通常は永久的ではなく、クーラントを交換すると通常は封止が再溶解するか又は洗い流されてしまう。同様に、これらの製品は、通常は冷却システム内における特に小さいクラック又はピンホールの漏れの補修のためにしか好適ではない。
【0004】
注入作用型シーラントはクーラントに加えられて漏れを塞ぐように作用するが、冷却システム内に存在する狭小な流路を閉塞してはならない。米国試験材料協会は、エンジンクーラントのための漏れ止め添加剤の有効性を試験するための標準的な方法を与えている(ASTM-D3147-06)。EMEA地域(ヨーロッパ、中東、及びアフリカ)において販売されている大部分の既存の配合物は、ASTM-D3147-06標準規格の要件を満足することができず、この試験はこれらの製品を評価することができる業界標準を与える。
【0005】
したがって、自動車の所有者、自動車製造業者、及び修理業者の要求を満足し、既存の標準規格、特にASTM-D3147-06を満足する、エンジン冷却システム内における漏れを補修することができる新規な配合物に対する必要性が存在する。具体的には、エンジンクーラント凍結防止剤、特にモノエチレングリコールと適合性であり、永久的な補修、好ましくはマイナーリーグカテゴリー(minor-league category)の非常に大きな開口であっても永久的な補修を形成することができる注入作用型配合物に対する必要性が存在する。
【0006】
永久的な補修とみなすことができるような形態で漏れを補修することができる配合物に対する必要性が存在する。本明細書の目的のためには、永久的とは、3回のクーラントの交換によって規定される。現在のエンジンクーラントは保護性能が異なるが、通常は冷却システムに対して5年又は240,000キロメートルまでの保護を与える。自動車の平均使用年数は国によって異なるが、ヨーロッパ、中東、アフリカ、アジア、及び北米の各地の先進国においてはどこでも10年未満である。3回のクーラント交換は15年又は720,000キロメートルに相当し、したがって大部分の自動車の耐用年数を表す。
【0007】
米国特許US-4524158においては、アルコール系の凍結防止剤組成物中の開繊繊維の懸濁液を含む漏れ止め組成物が開示されている。英国特許明細書GB-1218485においては、(A)組成物を用いる条件下において容器の内側及び成分Bに対して実質的に不活性の液体、並びに(B)成分A中に分散されている、A中に不溶のポリマー材料の実質的に球状の粒子を含み、成分Bのポリマー材料は、液体A中に可溶の1つの部分、及び液体A中には不溶であるが、それから成分Bのポリマー材料を生成させるモノマー中には可溶の他の部分を有する複合ポリマー分子から構成されるポリマー分散液安定剤を含む、液体を保持するように設計されている熱交換器又は他の容器内における漏れ止め剤として用いるのに好適な液体組成物が開示されている。US-2003/0056691においては、アルミニウムラジエーター用の液体アルミニウム漏れ止め配合物が開示されている。この配合物は、セルロース及びポリエステルを、アルミニウムフレーク及び高pHシリケートバインダーと共に含むが、樹脂バインダーは含まない。WO-2007/081831においては、有機及び無機繊維並びに高pHシリケートバインダーを含む、エンジンにおける漏れを被覆(ceiling)するための組成物が開示されている。JP-201253798においては、ポリアミド樹脂を繊維状強化剤と共に含む、パイプ及びハウジングのようなエンジン冷却水システム部品において用いるための、低い吸水性を有するポリイミド樹脂が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】米国特許US-4524158
【文献】英国特許明細書GB-1218485
【文献】US-2003/0056691
【文献】WO-2007/081831
【文献】JP-201253798
【発明の概要】
【0009】
添付の特許請求の範囲において、本発明をその種々の形態で示す。
【0010】
具体的には、自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物はポリマー樹脂及び粒子パッケージを含み、粒子パッケージは、第1の繊維長を有する第1の好ましくは天然の繊維、及びより多い量の第2の繊維長を有する第2の好ましくは天然の繊維を含む。
【0011】
本発明は、ポリマー樹脂及び粒子パッケージを含み、粒子パッケージは油糧種子粕及び木粉を含む自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を提供する。
【0012】
本発明は、クーラントを排出して再充填した後に補修を維持することができる自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を提供する。
【0013】
本発明は、好ましくは、その液体成分がモノエチレングリコール-水混合物と混和性である自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を提供する。
【0014】
本発明は、好ましくは、その固体成分がモノエチレングリコール-水混合物中の懸濁状態を保持する自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0015】
ポリマー樹脂:
本発明に関するポリマー樹脂は、被覆又は未被覆の金属表面と結合するように選択される。ポリマー樹脂は、好ましくはアクリレート、より好ましくはメチルメタクリレート-エチルアクリレートコポリマー、又はメチルメタクリレート-ブチルアクリレートコポリマーである。理論に縛られることは望まないが、小さな懸垂基を存在させることによって立体障害が最小になり、高い電荷(charge)によって金属に接着するための強い親和力が可能になる。ポリマー樹脂は、最も好ましくはメチルメタクリレートとブチルアクリレートのコポリマーである。コポリマーは、Mz基準を用いて200000~300000ダルトンの間の平均分子量を有していてよい。より好ましくは、コポリマーは、Mz基準を用いて100000~400000ダルトンの間の平均分子量を有する。この材料の分子量を求めるために好適な手段は、Andrzej, R., Piotr, M., Aginieszka, K., "Determination of absolute molar mass distribution", Annals of Warsaw University of Life Sciences-SGGW, Forestry and Wood Technology 2010, No.72, pp.206-2120において見ることができる。
【0016】
好ましくは、コポリマーはトルエンのような溶媒中の配合物に加え、これによりポリマー樹脂を配合物の他の成分と容易に混合することが可能になる。
【0017】
本発明においては、ポリマー樹脂は、好ましくは30℃~80℃の間、より好ましくは40℃~60℃の間、最も好ましくは45℃~55℃の間のガラス転移温度を有する。
【0018】
本発明に関連する冷却システムは、約88℃の公称温度で運転する。したがって、本発明の組成物が封止を実施するのに有効であるのは、この温度及びその付近において、特に80~100℃の温度範囲においてである。しかしながら、本発明の組成物は、10℃のような低い温度において、懸濁状態を保持して固形分を沈澱させないという点で更に有利である。現在の冷却システムは通常は加圧下に保持され、運転温度においてシステムを開放して漏れ防止成分を加えることが危険な可能性があるので、これは重要である。明らかに、漏れを生じている冷却システムは加圧下ではない可能性があり、圧力の残留度合いは通常は明らかでない。したがって本発明の更なる目的は、10~100℃の温度範囲内で水-モノエチレングリコール組成物と混和性の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を提供することである。
【0019】
分子量とガラス転移温度の組合せは、本発明を実施するのに好適なコポリマー中のモノマーのモル比を規定するように働く。
【0020】
粒子パッケージ:
本発明の粒子パッケージは2種類以上の繊維を含む。これらは、本発明においては第1及び第2の繊維と呼ぶ。繊維は好ましくは有機繊維、より好ましくは天然繊維、最も好ましくはセルロース又はセルロースベースの繊維である。有機繊維は、好ましくは木粉及び油糧種子粕繊維である。有機繊維は、好ましくは(光学顕微鏡法によって測定して)異なる平均長のものであり、二峰性繊維長分布を形成する。他の繊維タイプは、例えばポリエチレンテレフタレート及びナイロンのような合成有機繊維である。金属繊維は、ガルバニック腐食を生起させる可能性があるので好ましくない。繊維は、好ましくは標準のエンジン運転温度(ここでは150℃とみなす)より高いガラス転移温度を有し、したがってセルロースが好ましい。
【0021】
木粉は好ましくは軟材繊維である。かかる材料は、トウヒ及びマツのような軟材を粉砕及び篩別することによって製造され、配合物中の微粒子を与える。好ましくは、木粉は15%未満の湿分含量、及びスクリーニングによって求めて100μm~600μmの粒径を有する。言い換えれば、粒子の1%未満は600μmのスクリーンによって保持され、少なくとも90%は100μmのスクリーンによって保持される。繊維の40%未満は300μmのスクリーンによって保持される。
【0022】
第1の繊維長は50μm~500μmの範囲であり、第2の繊維長は1~25μmの範囲である。第1の繊維は、好ましくは上述の木粉である。第2の繊維は、好ましくは上述の油糧種子粕繊維である。この測定値は、光学顕微鏡を用いて200の繊維の輪郭を測定して導かれる。
【0023】
第1の繊維長は、好ましくは100μm~300μmの重量平均の第1の繊維長(weight average first fibre length)を有し、重量平均の第2の繊維長(weight average second fibre length)は10μm~20μmである。この測定値は、光学顕微鏡を用いて200の繊維の輪郭を測定し、最長の長さが円筒の長さを規定し、その長さに対して垂直方向の幅が直径を表すと仮定して、粒子が中実の円筒形として表されると仮定することによって平均に対する重量の寄与を計算して導かれる。小さな繊維の測定は問題が多く、この測定法は測定に対するそれらの影響を減少させるので、この測定法は好ましい。
【0024】
油糧種子粕は菜種粕又は亜麻仁粕であってよく、好ましくは、種子から油を圧搾する亜麻仁油製造の副生成物である圧搾亜麻仁粕である。油糧種子は、油糧種子圧搾プロセスからの残留量のリノール酸及びα-リノレン脂肪酸(約2:1)を含み、これらはエンジン運転温度においておそらくはin situ重合によってある程度の接着力を与えるので特に好ましい。この理由のために、亜麻仁粕がより好ましい。本発明の組成物は、新しいクーラントを導入した際に溶解除去されない長持ちする漏れの補修を与える。第2の繊維を表す際の重量の値は、繊維と残留油の合計に関するものである。残留油は、全体重量の5~50%、好ましくはその重量の20~25%の範囲であってよい。油に対する繊維の重量は、秤量し、アセトンで抽出し、乾燥して秤量することによって求めることができる。特に亜麻仁油の油成分は機能的効果を有すると考えられ、それを含まない場合よりも良好な封止を与える。具体的には、クーラントの再充填に耐える能力が向上する。
【0025】
本発明の配合物において、より短い繊維とより長い繊維との重量比は、好ましくは1:2~1:12の間、好ましくは1:4~1:8の間、最も好ましくは1:5.6である。
【0026】
本発明の配合物において、粒子パッケージの木粉と油糧種子粕とは、好ましくは1:2~1:12の間、好ましくは1:4~1:8の間、最も好ましくは1:5.6の重量比である。
【0027】
ポリマー樹脂と(第1及び第2の繊維の)粒子パッケージの相互作用:
ポリマー樹脂、木粉、及び油糧種子粕の本発明の配合物が一緒に相互作用して、ASTM-D3147-06を用いて求められるように、モノエチレングリコール-水混合物と混合したクーラントの漏れに関して封止を与えることが見出された。これは冷却システムの閉塞を伴わない。理論に縛られることは望まないが、粒子状材料に関する封止能力は、これらの材料が漏れの部位においてどのように挙動するかということと関連していると考えられる。その寸法のために、微細な木粉はスロットを封止するのに十分に大きな塊まで凝集させることができない。その代わりに、不規則な形状の油糧種子粕の片(又は複数の片)を漏れの部位に移動させる。樹脂によって更なる塊及び粘着が与えられて、短時間の内に油糧種子粕の片がそれを通して押出される前に漏れの部位に保持されて、木粉及び樹脂が油糧種子粕の間の空間を満たす。この配合物がそれ自体の上に積層して、最終的に封止が与えられる。選択された樹脂と二峰性粒径分布を有する2つのタイプの繊維状材料の組合せによって、短時間で驚くほど良好な封止が与えられる。これは、木質繊維と油糧種子粕の重合による可能性がある。樹脂が硬化したら、クーラントが樹脂のガラス転移温度に達した後に材料が結合して永久的な封止が形成される。
【0028】
ポリマー樹脂:粒子パッケージの重量比は、1:0.1~1:2の間であってよく、1:0.5~1:1.5の間、最適には1:1.05がより有効であることが分かった。
【0029】
添加剤:
本発明の幾つかの態様には性能を維持するための添加剤を含ませることができ、消泡剤製品を配合物に加えて発泡を制限することができる。他の態様においては、抗菌剤製品を加えて、冷却システム内における閉塞をもたらす可能性がある微生物の成長を抑止することができる。更に他の態様においては、pHを調節するための緩衝添加剤を配合物中に含ませる。好ましい緩衝範囲はpH6~9、より好ましくはpH6.5~8.0であり、好ましい緩衝剤はクエン酸三ナトリウムである。シリケートバインダーが存在しないので組成物を緩衝することが可能であり、シリケートバインダーは特に高いpHを与え、高温のクーラント液と混合すると、特に腐食性で、使用するのに危険で、特に皮膚又は眼と接触すると危険である。したがって、本組成物ははるかにより安全である。
本発明の具体的態様は以下のとおりである。
[態様1]
自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物であって、ポリマー樹脂及び粒子パッケージを含み、前記粒子パッケージは、第1の繊維長を有する第1の繊維、及びより多い量の第2の繊維長を有する第2の繊維を含む、前記自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様2]
前記第1の繊維と前記第2の繊維との比が1:2~1:12であり、前記第2の繊維は前記第1の繊維よりも長尺である、態様1に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様3]
前記第1の繊維長が50μm~500μmの範囲であり、前記第2の繊維長が1~25μmの範囲である、態様1又は態様2に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様4]
重量平均の第1の繊維長が100μm~300μmであり、重量平均の第2の繊維長が10μm~20μmである、態様3に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様5]
前記第1の繊維が木粉であり、少なくとも90%が100μmのスクリーンによって保持されるが、1%未満が600μmのスクリーンによって保持されるような粒径分布を有する、態様1に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様6]
天然繊維が油糧種子粕及び木粉である、態様1~5のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様7]
前記油糧種子粕が圧搾亜麻仁粕である、態様6に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様8]
前記第1の繊維と前記第2の繊維との重量比が1:4~1:8の間である、態様3~5のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様9]
前記ポリマー樹脂がメチルメタクリレートコポリマーを含む、態様1~8のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様10]
前記ポリマー樹脂が、メチルメタクリレート-エチルアクリレートコポリマー又はメチルメタクリレート-ブチルアクリレートコポリマーの1つを含む、態様9に記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様11]
前記ポリマー樹脂が200000~300000ダルトンの間のMz平均分子量を有する、態様1~10のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様12]
前記ポリマー樹脂が30℃~80℃の間のガラス転移温度を有する、態様1~11のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様13]
前記ポリマー樹脂と前記第1及び第2の繊維の合計との重量比が1:0.5~1:1.5の間である、態様1~12のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物。
[態様14]
態様1~13のいずれかに記載の自動車エンジン冷却システム漏れ止め配合物を用い、前記配合物を自動車エンジン冷却システム中に導入してエンジンを運転することによってクーラントの漏れを補修する方法。
[態様15]
前記自動車エンジン冷却システムがモノエチレングリコール系の冷却液を有する、態様14に記載の方法。
【実施例
【0030】
以下の処方にしたがって漏れ止め配合物15MN002をブレンドした。
【0031】
【表1】
粒子パッケージに関して1:5.6の木粉:圧搾亜麻仁粕の比、及び1:1.05のアクリル樹脂コポリマーと粒子パッケージとの比を用いて、漏れ止め配合物を水中にブレンドした。
【0032】
この態様において用いる熱可塑性樹脂は、ブロックコポリマーの組合せ、溶解度パラメーター、入手可能な形態及び溶媒系、ガラス転移温度、分子量、密度などの複数の異なる基準に基づいて選択した。
【0033】
これらの試験においては、トルエン中45%の固形分のポリマーを含む、Mz=250,000及びTg=50℃のメチルメタクリレート-ブチルアクリレートコポリマーである配合No.884-000174-0612-NAR-EN-CDPと規定される樹脂を与えた。クーラント容器を冷却するにつれて、樹脂はそのガラス状態に戻り、封止は特に低分子量のポリマーにおいて次第に脆くなったが、充填は封止を維持するのに十分に規則的であった。過度に脆い樹脂は、容器に圧力を加えると破断する可能性がある。
【0034】
以下の比較配合物も試験した。
【0035】
【表2】
Tg=109℃のポリアクリル酸は、規定した樹脂と同等の分子量及び同じ溶液濃度のものであった。本発明においては、ガラス転移温度は、ASTM-E1356-08(2014):示差走査熱量測定によってガラス転移温度を付与するための標準試験法を用いて求めることができる。
【0036】
次にこの配合物を、自動車クーラントシステムにおける条件をシミュレートする試験にかけた。
【0037】
試験法:
米国規格材料協会からの漏れ止め添加剤性能試験法:ASTM-D3147-06を用いて、開発した配合物を一連の競合製品と一緒に評価した。
【0038】
ASTM-D3147-06法は、140kPaまでの圧力を収容するように設計された長方形のステンレススチール製の12~13.5リットルの容器を準備することを含む。所定範囲の温度及び圧力にわたる試験を可能にするために、ヒーター及びポンプを装備した。中実の真鍮で構成される試験プレートは、ガスケットを用いて貯留器に取り付け可能であった。試験プレートには、長さ12.7mmで種々の幅のスリットを与えることができる。試験プレートは、それぞれ同じ寸法の3つの孔、又は種々の寸法の9つの孔を与えることができる。試験は、84℃~92℃の間の温度及び88kPa~118kPaの圧力における運転のように自動車エンジンの運転条件をシミュレートして、クーラントに漏れ止め製品を加えた後に孔を通過する漏れを測定するように規定した。
【0039】
本発明を評価するために用いた封止試験は、ASTM-D3147-06標準規格に基づいて6つの工程に分けられた。ステンレススチール製の容器、循環ポンプ、及びヒーターを準備して加圧装置に接続した。容器の隣接する面に沿って、孔又はスロットを有する交換可能な真鍮プレートをその中に挿入することができる空間を配した。最終試験のために、0.762mm(0.030インチ)の寸法の孔、及び0.254mm(0.010インチ)のスロットを有するプレートを選択した。これらは漏れ止め製品によって自動車の冷却システムに対して不都合を引き起こす可能性なしに封止しなければならないASTMにしたがって望ましい最も大きな穴であるので、これらの寸法の孔及びスロットを有するプレートを選択した。幾つかの製品はこれらの寸法において試験に合格することができなかったので、これらはまた、0.508mm(0.020インチ)のより小さい孔の寸法を用いて試験した。
【0040】
工程1は、クーラント、及び12Lのクーラントに対して214mLの漏れ止め配合物(体積基準で50/50のモノエチレングリコール及び水)を容器に加え、次に約88℃に加熱することを含んでいた。ポンプを用いてクーラント及び配合混合物を循環させた。
【0041】
工程2は、2時間の間、温度及び循環を維持しながら試験試料を103±15kPa(15±2psi)に加圧することを含んでいた。
【0042】
工程3は、一晩の条件をシミュレートするために、12~20時間の間、103±15kPa(15±2psi)の試験圧力に維持しながら、試料を循環させずに冷却することを含んでいた。
【0043】
工程4は、圧力を解放し、次に循環ポンプを作動させて試料を再加熱し、温度が88℃に達したら容器を103±15kPa(15±2psi)に再び加圧することを含んでいた。
【0044】
工程5は、システムを室温に冷却することを含んでいた。
【0045】
工程6は、システムを再び加圧して、システムを更に1時間運転することを含んでいた。
【0046】
流体損失を、ASTM-D3147-06によって記載されている流体損失体積並びに周囲温度及び溶液温度などの種々の他のパラメーター、及び一般的な形式で記録される観察結果と一緒に記録することによって封止性能を評価した。「合格」するためには、配合物は試験時間全体にわたって4.5リットルの最小作動体積を維持しなければならない。
【0047】
更に、ASTM標準規格において用いられる2つの形態を含む無害試験を行った。第1の形態は篩試験であり、試料クーラント及び配合混合物を、試験の前後の両方において850μmの篩を通して篩別し、ラジエーターチューブのようなエンジン部品を閉塞する可能性があるガム化粒子、ゲル化粒子、又は視認できる粒子の兆候は不合格とみなした。
【0048】
第2の形態は閉塞試験であり、性能試験において用いたプレートを、クーラントの流路又はラジエーターの寸法を表すより大きなものに代えることによって行った。これらのスロットは、幅0.635mmで長さ12.7mmであった。この試験に合格するためには、スリット又は孔の上に封止が形成されず、冷却液をシステムから自由に排出できなければならない。したがって、これは冷却システム内のいずれの流路も閉塞しない配合物を表している。
【0049】
試験結果:
本発明は、市販されている現在の製品のいずれよりも高いレベルまで機能した。この新規な配合物は、ASTM-D3147-06封止試験について100%の合格率を示し、その後の3回の排出及び再充填操作の後に有効な封止を維持した。
【0050】
下表において、試験配合物の15MN002、及び試験の時点で市場で入手できた複数の製品の結果を比較する。
【0051】
【表3】
表1は、既存の販売品はいずれも、0.762mm(0.030インチ)の寸法の孔、及び0.254mm(0.010インチ)のスロットを有するプレートを用いたASTM-D3147-06試験を信頼性を持って合格することができなかったことを示す。更に、このデータは、好ましいポリマータイプと組み合わせて用いた2種類の天然繊維の組み合わせは、個々に用いた場合の繊維よりも良好であったことを示す。
【0052】
配合物15MN002は、常にこの試験に合格した。この配合物はまた、新しいクーラントで試験容器を4回再充填した後にも同じ試験に合格し、これは、この規格において規定されている永久的補修に関する要件より上回っていることを示している。
【0053】
この配合物はまた、冷却システム漏れ止め製品を用いた際に冷却システム内の小さなボア孔が閉塞されない状態で維持されることを確保するようにデザインされている重要な無害試験も合格した。この試験においては、配合物はクーラントの自由な排出を可能にしなければならない。新規な配合物は、層流を伴う良好な形態において「合格」を与えた。
【0054】
競合製品は、ASTM-D3147-06封止試験に信頼性を持って合格することができなかった。
【0055】
本発明は、エンジン冷却システム内における孔を封止する改良された漏れ止め製品を与える。
【0056】
本発明は、実施上は、優れたエンジン冷却システム漏れ補修剤として機能するように働く新規な製品の形態で適用することができる。
【0057】
試験結果は、この新規な配合物は試験した全ての点で優れていることを示す。更に、封止は、本明細書内の規定に基づいて永久的であるとみなすことができる。永久的とは、本出願においては、補修後にシステム内のクーラントを3回交換した後においても封止効果が持続することを意味するように解釈される。