(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】ミシン
(51)【国際特許分類】
D05B 19/16 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
D05B19/16
(21)【出願番号】P 2019032248
(22)【出願日】2019-02-26
【審査請求日】2022-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003399
【氏名又は名称】JUKI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100090033
【氏名又は名称】荒船 博司
(74)【代理人】
【識別番号】100093045
【氏名又は名称】荒船 良男
(72)【発明者】
【氏名】田中 弘幸
【審査官】▲桑▼原 恭雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-155579(JP,A)
【文献】特開平11-047471(JP,A)
【文献】特開平09-299637(JP,A)
【文献】特開2015-066380(JP,A)
【文献】特開2008-220670(JP,A)
【文献】特開平07-255968(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D05B 19/16
D05C 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の針落ち位置を定めた縫製パターンデータに基づいて、縫い針と
着脱可能な治具を介して被縫製物を保持する保持枠とを相対的に位置決めして、縫製パターンに従う縫製を行うミシンにおいて、
前記保持枠
及び当該保持枠にセットされた前記治具を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって撮像された撮像画像から撮像対象の中に記された基準位置を示す指標部の位置を検出する位置検出部と、
前記指標部について予め定められた正規の位置に対する前記位置検出部により検出された前記指標部の検出位置の偏差に基づいて前記縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置を補正する補正部とを備え
、
前記位置検出部は、前記撮像画像から前記治具に付された前記指標部の位置を検出することを特徴とするミシン。
【請求項2】
前記位置検出部は、前記撮像画像から複数の前記指標部の位置を検出し、
前記補正部は、前記複数の指標部の検出位置の偏差に基づいて前記縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置を補正することを特徴とする請求項1に記載のミシン。
【請求項3】
前記補正部は、前記複数の指標部の検出位置の偏差に基づいて前記縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置の位置補正及び角度補正を行うことを特徴とする請求項2に記載のミシン。
【請求項4】
前記位置検出部は、前記撮像画像から前記治具に付された前記指標部の位置を検出することを特徴とする
請求項1から3のいずれか一項に記載のミシン。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、予め設定された針落ち位置に順番に針落ちを行うミシンに関する。
【背景技術】
【0002】
予め設定された針落ち位置に順番に針落ちを行うミシンとして、電子サイクル縫いミシンが知られている。電子サイクル縫いミシンは、生地に対する複数の針落ち位置とその順番が定められた縫製パターンデータに基づいて、一針ごとに生地を移動させて所定の縫製パターン通りの縫製を行っていた(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記電子サイクル縫いミシンにおいては、縫製パターンに応じた開口部が形成された治具に生地を挟み、生地を保持するための布保持枠に治具をセットして縫製を行う場合がある。このような治具を複数用意し、予め全ての治具に生地をセットしておくことで、直接的に布保持枠に生地をセットする場合に比べて効率的に縫製を行うことが可能であった。
しかしながら、この治具を布保持枠にセットする際に、取り付け位置や向きにズレが生じる場合があり、適正に縫製パターンに従った縫製が行われなくなる場合や、個々の生地ごとに縫い品質にバラつきが生じるおそれがあった。
【0005】
また、治具を使用しない場合であっても、生地に対して縫製パターンの位置や向きが予め決められている場合には、生地を布保持枠にセットする際に生地の向きや位置にズレが生じていると、同様の問題が生じるおそれがあった。
【0006】
本発明は、適正な針落ち位置に縫製を行うことをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
請求項1記載の発明は、ミシンにおいて、
複数の針落ち位置を定めた縫製パターンデータに基づいて、縫い針と着脱可能な治具を介して被縫製物を保持する保持枠とを相対的に位置決めして、縫製パターンに従う縫製を行うミシンにおいて、
前記保持枠及び当該保持枠にセットされた前記治具を撮像する撮像部と、
前記撮像部によって撮像された撮像画像から撮像対象の中に記された基準位置を示す指標部の位置を検出する位置検出部と、
前記指標部について予め定められた正規の位置に対する前記位置検出部により検出された前記指標部の検出位置の偏差に基づいて前記縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置を補正する補正部とを備え、
前記位置検出部は、前記撮像画像から前記治具に付された前記指標部の位置を検出することを特徴とする。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1に記載のミシンにおいて、
前記位置検出部は、前記撮像画像から複数の前記指標部の位置を検出し、
前記補正部は、前記複数の指標部の検出位置の偏差に基づいて前記縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置を補正することを特徴とする。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項2に記載のミシンにおいて、
前記補正部は、前記複数の指標部の検出位置の偏差に基づいて前記縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置の位置補正及び角度補正を行うことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の発明は、請求項1から3のいずれか一項に記載のミシンにおいて、
前記位置検出部は、前記撮像画像から前記治具に付された前記指標部の位置を検出することを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、治具や被縫製物の取り付け位置や向きにズレが生じた場合であっても、被縫製物に対して適正に縫製パターンに従った縫製を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の実施形態であるミシンの概略構成図である。
【
図5】
図5(A)は治具の斜視図、
図5(B)は拡大斜視図である。
【
図6】縫製パターンデータの補正処理の全体的なフローチャートである。
【
図7】
図7(A)~
図7(D)は縫製パターンデータの補正処理を順番に示した説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
[発明の実施形態の概略構成]
以下、
図1乃至
図7に基づいて本発明の実施の形態を詳細に説明する。
図1は本実施形態たるミシン10の概略構成図、
図2はミシン10の針板周辺の斜視図、
図3は制御系のブロック図である。
ミシン10は、いわゆる電子サイクル縫いミシンであって、ミシンフレーム20と、縫い針11を保持する針棒12を上下動させる針上下動機構30と、ミシンフレーム20のミシンベッド部21の針落ち位置に設けられた針板16と、針板16の下側で縫い針11の上糸を下糸に絡める釜機構50と、被縫製物である布地Kを縫い針11に対してX-Y平面に沿って任意に移動させる移動機構としての送り機構60と、上記各構成の動作制御を行う制御装置120とを備えている。
なお、糸切り装置、糸調子装置、天秤及び中押さえ機構等についてはミシンに搭載されている周知の機構であるため図示及び詳細な説明は省略する。
以下、上記各構成について順番に説明する。
【0016】
[ミシンフレーム]
ミシンフレーム20は、
図1に示すように、下部に位置するミシンベッド部21と、ミシンベッド部21の一端部から上方に立ち上げられたミシン立胴部22と、ミシン立胴部22の上部からミシンベッド部21に沿うように延設されたミシンアーム部23とからなる。
ここで、ミシン10の構成を説明するにあたって、後述する針棒12の上下動方向をZ軸方向とし、これと直交する方向であってミシンベッド部21及びミシンアーム部23の長手方向に平行な方向をY軸方向とし、Z軸方向及びY軸方向の双方に直交する方向をX軸方向とする。
【0017】
なお、ミシン10を水平面上に設置した場合に、Z軸方向は鉛直上下方向となり、X軸方向及びY軸方向は水平方向となる。
また、Y軸方向の一方であってミシンフレーム20の面部側を「前」、その逆側を「後」とし、X軸方向の一方であって面部に正対した状態で左手側を「左」、右手側を「右」とし、Z軸方向の一方の鉛直上方を「上」、その逆側を「下」とする。
【0018】
ミシンベッド部21の前端上部には、水平な作業台14が設けられており、その針落ち位置には針穴161が形成された針板16が面一で設けられている。
ミシンアーム部23の前端部内側では、その長手方向(Y軸方向)に平行に向けられた上軸32(主軸)が回転可能に支持されている。
また、ミシンベッド部21の内側では、その長手方向(Y軸方向)に平行に向けられた下軸51が回動可能に支持されている。
【0019】
[針上下動機構]
針上下動機構30は、
図1に示すように、ミシン立胴部22の上部に設けられたサーボモーターからなるミシンモーター31と、このミシンモーター31の出力軸に接続されて回転を行う上軸32と、当該上軸32のミシン面部側の端部に固定装備された針棒クランク34と、針棒クランク34において上軸32による回転中心から偏心した位置に一端部が連結されたクランクロッド35と、針棒抱き36を介してクランクロッド35の他端部に連結された針棒12とを備えている。
針棒12は、その下端部に縫い針11を保持すると共に、Z軸方向に沿った往復上下動が可能となるようにミシンアーム部23に支持されている。
ミシンモーター31はサーボモーターであり、エンコーダー37を備えている(
図3参照)。そして、制御装置120がエンコーダー37からミシンモーター31の回転速度、上軸角度等の検出を行い、ミシンモーター31に対する動作制御を実施するようになっている。
なお、針棒クランク34、クランクロッド35、針棒抱き36等の構成は、周知のものと同じであるため詳細な説明は省略する。
【0020】
[送り機構]
送り機構60は、
図1~
図3に示すように、水平な針板16の上面に沿って布地Kを移動させて、縫い針11に対して任意に移動位置決めを行う。
このため、送り機構60は、ミシンベッド部21の上面において、X軸方向及びY軸方向に沿って移動可能に支持された下板61及び土台62と、土台62により昇降可能に支持され、下板61の上から布地K又は後述する治具40の保持を行う布押さえ63と、布押さえ63を昇降させる昇降用モーター64と、土台62を介して布押さえ63をX軸方向に沿って移動させるための駆動源となるX軸モーター65と、土台62を介して布押さえ63をY軸方向に沿って移動させるための駆動源となるY軸モーター66とを備えている。
なお、上記下板61及び布押さえ63は、保持枠として機能する。
【0021】
下板61はX-Y平面に沿って設けられた長尺な平板であり、その前端部は矩形の枠状を呈しており、中央部が広く開口している。
土台62は下板61の上面後端側に立設されており、土台62と下板61は、布押さえ63と共にX-Y平面に沿って移動を行う。
そして、下板61の前端部の上側には、土台62に支持された布押さえ63が配置されている。この布押さえ63も矩形の枠状であって、土台62の前端部に形成された長穴に沿って昇降可能に支持されている。そして、下板61と布押さえ63は、互いの開口部がほぼ一致するように重ね合わせることができ、当該開口部の内側で縫製が行われる。土台62には、昇降用モーター64により先端部が上下に揺動を行う図示しない昇降レバーが装備されており、布押さえ63は、昇降レバーの先端部に係合して昇降動作が付与される。
【0022】
X軸モーター65及びY軸モーター66は、いずれも、制御装置120によりその動作量が制御されるステッピングモーターである。ミシンベッド部21には、X軸モーター65及びY軸モーター66のトルクをそれぞれX軸方向及びY軸方向の直動動作に変換する周知の伝達機構が内蔵されており、X軸モーター65及びY軸モーター66から土台62及び下板61にX軸方向及びY軸方向の直動動作が伝達される。
【0023】
[治具]
図4は治具40の分解斜視図、
図5(A)は治具40の斜視図、
図5(B)は拡大斜視図である。
治具40は、布地Kを保持し、送り機構60の下板61と布押さえ63の間で着脱可能とする布地Kの取付用の治具である。この治具40は、複数用意され、予めそれぞれの治具40に布地Kをセットしておくことで、複数の布地Kに対する連続的な縫製を効率良く行うためのものである。
【0024】
治具40は、第一平板41と、第一平板41の上に重ねて配置される第二平板42とを備えており、第二平板42はヒンジ43(
図4では図示略)を介してその一端部が第一平板41に対して起伏回動可能に支持されている。
第一平板41と第二平板42には、いずれにも、重ねられたときに同位置となるように、縫製パターンデータ127に定められた縫製パターンを形取った開口部が形成されており、縫製時にはこれらの開口部の内側で縫製パターンを形成するように針落ちが行われる。これにより、下板61及び布押さえ63で直接的に布地Kを保持する場合に比べて、針落ち位置に近い位置で布地Kを保持することができ、針落ちによる布地Kの暴れを押さえ、良品質の縫製を行うことができる。
【0025】
第一平板41の上面には、複数の位置決め突起44が凸設されており、第二平板42には、各位置決め突起44に対応する位置に位置決め穴45が貫通形成されている。なお、位置決め穴45は、貫通形成に限らず、凹設されてもよい。
そして、布地Kにも位置決め突起44を通す複数の貫通穴が形成されており、第一平板41の各位置決め突起44に対して位置決めしてセットすることができる。
布地Kを間に挟んだ状態で第一平板41及び第二平板42は、下板61と布押さえ63に挟持させることで、送り機構60に装着し、この状態で縫製を行うことができる。
【0026】
また、第一平板41の上面には、治具40の基準位置を示す指標部としての第一基準マーク46及び第二基準マーク47が対角線上の離れた位置に設けられている。そして、第二平板42には、第一基準マーク46及び第二基準マーク47が上方から遮蔽されないように貫通孔48,49が形成されている。
【0027】
[釜機構]
釜機構50は、半回転釜を有し、大釜54の内側で針棒12の上下動と同期して往復回動を行う図示しない中釜と、中釜の内側に収納された図示しないボビン及びボビンケースと、中釜に往復回動を付与するドライバ55と、上軸32に形成されたクランク部33に一端部が連結されたクランクロッド53と、クランクロッド53の他端部に連結されたアーム部521を有する往復回動軸52と、往復回動軸52により増速されて往復回動を行う下軸51とを備え、当該下軸51はドライバ55を介して中釜を往復回動させるようになっている。また、前述したミシンモーター31は針棒12の上下動と釜機構50の回動動作の駆動源となり、中釜は上軸32と同周期で往復回動を行い、縫い針11の上下動と釜機構50の回動により上糸を下糸に絡める。なお、半回転釜の構造・構成は周知であるため、詳細な説明は省略する。
【0028】
[ミシンの制御系]
図3に示すように、制御装置120は、制御用の各種プログラムが記憶、格納されたプログラムメモリ122と、これらの各種プログラムに従って各種演算処理を行うCPU121と、各種処理におけるワークメモリとして使用されるRAM123と、各種の縫製データ及び設定データを格納したデータメモリ124とで概略構成されている。
そして、制御装置120には、図示しないシステムバス、インターフェイス及び駆動回路等を介して、針上下動機構30のミシンモーター31、エンコーダー37、送り機構60のX軸モーター65、エンコーダー651、Y軸モーター66、エンコーダー661、昇降用モーター64等が接続されている。
上記エンコーダー37は、ミシンモーター31の出力軸の軸角度を検出し、エンコーダー651は、X軸モーター65の出力軸の軸角度を検出し、エンコーダー661は、Y軸モーター66の出力軸の軸角度を検出する。
【0029】
また、制御装置120には、縫製に関する各種の設定を入力するための操作入力部125と縫製の実行等の信号入力手段としてのペダル126とが接続されている。
操作入力部125では、例えば、縫製パターンデータ127中の針数、針落ち位置等の各種のコマンドの設定を行う。
ペダル126は、踏み込みにより縫製の開始を指示入力する。
【0030】
また、
図2に示すように、ミシンアーム部23の前側の面部には、光軸を下方に向けた撮像部としてのカメラ13が設けられている。このカメラ13は、針板16の周辺の布押さえ63全体又は布押さえ63に保持された治具40の全体を撮像することができる。
また、カメラ13の撮像画像データは、画像処理装置15に入力される。この画像処理装置15も上記制御装置120に接続されている。
【0031】
[縫製における基本的な縫製動作制御]
制御装置120は、基本的な縫製動作制御として、ミシンモーター31の駆動開始と共に、エンコーダー37の出力に基づいて、毎針の規定の上軸角度で縫製パターンデータ127から針落ち位置の読み込みを実行し、X軸モーター65及びY軸モーター66を制御して、縫製パターンデータ127から読み込まれた針落ち位置に針落ちが行われるように下板61及び布押さえ63を位置決めする。そして、縫製パターンデータ127で定められた全ての針数について順番に針落ちを行って縫製パターンデータ127の定める縫製パターンに従って、縫製を実行する。
【0032】
[縫製パターンデータの補正処理]
制御装置120は、下板61と布押さえ63に治具40を用いて布地Kをセットし、縫製を開始するまでの間に、治具40の取り付け誤差に基づいて縫製パターンデータ127に定められた縫製パターンを形成するための全ての針落ち位置を示す位置座標データの補正処理を行う。
即ち、制御装置120のCPU121は、プログラムメモリ122内の位置検出部128として機能させるプログラムを実行することにより、画像処理装置15と協働して、カメラ13によって撮像された撮像画像から撮像対象の中に記された基準位置を示す第一基準マーク46及び第二基準マーク47の位置を検出する。
また、CPU121は、プログラムメモリ122内の補正部129として機能させるプログラムを実行することにより、第一基準マーク46及び第二基準マーク47について予め定められた正規の位置に対する位置検出部128としての処理により検出された第一基準マーク46及び第二基準マーク47の検出位置の偏差に基づいて縫製パターンデータ127に定められた複数の針落ち位置を補正する。
【0033】
図6は縫製パターンデータの補正処理の全体的なフローチャート、
図7(A)~
図7(D)は処理を順番に示した説明図である。
下板61と布押さえ63に治具40を用いて布地Kがセットされると、CPU121は、カメラ13により撮像を実行する(ステップS1)。なお、このとき、下板61と布押さえ63は、規定の原点位置となるようにX軸モーター65及びY軸モーター66が制御される。
【0034】
図7(A)は第一基準マーク46及び第二基準マーク47を含む治具40の撮像画像である。
図7(A)~
図7(D)において、Pは縫製パターンデータ127の補正が行われない場合の縫製パターンの形成位置を示し、二点鎖線で示した符号46a、47a、40a、Paは、制御装置120に定められたミシン10のX-Y座標系における第一基準マーク46、第二基準マーク47、治具40、縫製パターンPの正規の位置(治具40に位置ズレが生じていない場合の適正な位置)を示している。なお、第一基準マーク46、第二基準マーク47の正規の位置は、位置座標データとして、縫製パターンデータ127に記録されている。
図7(A)に示すように、治具40は、適正な位置から位置ズレを生じた状態で下板61及び布押さえ63により付けられた状態であることが分かる。
【0035】
カメラ13の撮像画像データに基づいて、画像処理装置15は、第一基準マーク46、第二基準マーク47の位置検出を行う(ステップS3)。まず、撮像画像内で第一基準マーク46、第二基準マーク47の探索を行う。探索は、パターンマッチング等の周知の手法で行うことができる。
【0036】
第一基準マーク46と第二基準マーク47の位置が検出されると、CPU121は、第一基準マーク46及び第二基準マーク47の正規の位置46a,47aに対する検出位置の差分から第一基準マーク46と第二基準マーク47の偏差を個別に算出する(ステップS5)。
【0037】
次いで、CPU121は、
図7(B)に示すように、第一基準マーク46の偏差に基づいて、第一基準マーク46が正規の位置46aとなるように、第一基準マーク46及び第二基準マーク47の検出位置をX軸方向及びY軸方向のそれぞれについて平行に位置補正する(ステップS7)。
【0038】
次いで、CPU121は、
図7(C)に示すように、位置補正後の第一基準マーク46及び第二基準マーク47を結ぶ線分と第一基準マーク46及び第二基準マーク47の正規の位置46a,47aを結ぶ線分の角度差を算出する。
さらに、CPU121は、求められた角度差に基づいて、位置補正後の第二基準マーク47が第二基準マーク47の正規の位置47aとなるように、第一基準マーク46の正規の位置46aを中心として回転移動させる角度補正を行う(ステップS9)。
【0039】
ステップS7の位置補正とステップS9の角度補正とにより、治具40の位置誤差及び角度誤差が求まるので、CPU121は、これらの誤差量に基づいて、縫製パターンデータ127中に定められた各針落ち位置の位置座標データを治具40の位置誤差及び角度誤差に対応する位置に補正して、補正縫製パターンデータを作成する(ステップS11)。
この補正縫製パターンデータに従って縫製を行うことにより、位置誤差及び角度誤差が生じた治具40に保持された布地Kに対して、適正な位置に縫製パターンに基づく縫製を行うことができる。
【0040】
[発明の実施形態の技術的効果]
上記ミシン10では、制御装置120のCPU121が、カメラ13によって撮像された撮像画像から撮像対象の中に記された基準位置を示す第一基準マーク46及び第二基準マーク47の位置を検出する位置検出部128と、第一基準マーク46及び第二基準マーク47について予め定められた正規の位置46a,47aに対する撮像により検出された第一基準マーク46及び第二基準マーク47の検出位置の偏差に基づいて縫製パターンデータ127に定められた複数の針落ち位置を補正する補正部として機能する。
このため、治具40の取り付け位置にズレが生じた場合であっても、布地Kに対して適正に縫製パターンに従った縫製を行うことが可能となる。
【0041】
また、制御装置120のCPU121は、位置検出部として、撮像画像から第一基準マーク46及び第二基準マーク47の二箇所の位置を検出し、補正部として、第一基準マーク46及び第二基準マーク47の二箇所の検出位置のそれぞれの偏差に基づいて縫製パターンデータに定められた複数の針落ち位置を補正するので、治具40の取り付け位置だけでなく、角度誤差も容易に求めることができる。
これに伴い、制御装置120のCPU121は、補正部129として、第一基準マーク46及び第二基準マーク47の検出位置の偏差に基づいて縫製パターンデータ127に定められた複数の針落ち位置の位置補正及び角度補正をより精度良く行うことができ、より良好な縫製を行うことが可能となる。
【0042】
また、ミシン10は、布地Kを保持する治具40を備え、下板61と布押さえ63は、治具40を介して布地Kを保持するので、予め、治具40に布地Kをセットしておけば、迅速に縫製を開始することが可能となる。このため、複数の布地Kに縫製を行う場合に、複数の治具40に布地Kを予めセットしておけば、より効率的に複数の布地Kに縫製を行うことが可能となる。
【0043】
また、制御装置120のCPU121は、位置検出部として、撮像画像から治具40に付された第一基準マーク46及び第二基準マーク47の位置を検出するので、布地Kにマークを付する必要がなく、作業負担の軽減を図ることが可能となる。また、治具40の位置ズレや角度ズレを効果的に求めることが可能となる。
【0044】
[その他]
なお、指標部としては、二つの第一基準マーク46及び第二基準マーク47を例示したが、マークを一つ又は三つ以上としてもよい、
また、指標部としてのマークは布地Kに設けてもよい。この場合、外形に対して決まった位置に縫製を行う必要がある場合に、適正な位置に縫製を行うことが可能となる。
また、治具40を使用しないで、下板61と布押さえ63に布地Kを直接的に保持させる場合には、布押さえ63に指標部としてのマークを付してもよい。
【0045】
また、上記縫製パターンデータの補正処理は、下板61と布押さえ63に治具40を用いて布地Kをセットする度に補正量を求める場合を例示したが、これに限定されない。
例えば、構造上、或いは歪みなどにより、治具40そのものに取り付け誤差が生じる原因がある場合、その誤差量は毎回、概ね同程度となる。従って、縫製パターンデータの補正処理で補正量を算出した場合に、これを補正データとしてデータメモリ124に記憶し、その後は、毎回の補正は、データメモリ124に記憶された補正量に基づいて行う構成としても良い。
また、複数ある治具40ごとに個別に取り付け誤差が生じる場合には、治具40ごとに識別番号を定めて、個々の治具40ごとに過去に求められた補正量をデータメモリ124に記憶し、識別番号の入力によって過去に求められた補正量に基づいて補正を行ってもよい。この場合、識別番号の入力に替えて、センサーやリーダーで読み取り可能な識別番号のコードの表示を治具40に付して、取り付けの際にコードを読み取って、識別番号に応じて補正量に基づいて補正を行ってもよい。
【0046】
また、上記縫製パターンデータの補正処理は、制御装置120のCPU121がソフトウェア処理によって実現する構成を例示しているが、例えば、制御装置120に接続された外部の処理ボードや回路が、位置検出部128や補正部129として機能する構成としても良い。
【符号の説明】
【0047】
10 ミシン
11 縫い針
13 カメラ(撮像部)
15 画像処理装置(位置検出部)
40 治具
46a,47a 正規の位置
47 第二基準マーク(指標部)
120 制御装置
121 CPU(位置検出部、補正部)
122 プログラムメモリ
124 データメモリ
127 縫製パターンデータ
128 位置検出部
129 補正部
K 布地(被縫製物)
P 縫製パターン