(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】画像処理装置、画像処理方法、及びプログラム
(51)【国際特許分類】
B41J 2/01 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
B41J2/01 207
B41J2/01 205
B41J2/01 209
B41J2/01 451
(21)【出願番号】P 2019035649
(22)【出願日】2019-02-28
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001007
【氏名又は名称】キヤノン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】弁理士法人谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】布施 浩二
(72)【発明者】
【氏名】石川 尚
【審査官】小野 郁磨
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-194969(JP,A)
【文献】特開2009-021955(JP,A)
【文献】国際公開第2003/082587(WO,A1)
【文献】特開2006-240148(JP,A)
【文献】特開2015-145088(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01-2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
画像記録装置が有する記録素子の位置を検出する装置であって、
前記記録素子の位置を検出するためのマーカーの形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかを、前記画像記録装置が有する複数の記録素子のうち異常が発生している記録素子の位置に基づいて、変更する変更手段と、
マーカーの形状情報と配置情報に基づいて、均一パッチの周囲に前記マーカーを配置したテスト画像を生成する生成手段と、
前記テスト画像を前記画像記録装置で出力したものを光学的に読み取ったスキャン画像における前記マーカーの
重心位置を検出する検出手段と、
を備え、
前記変更手段は、前記異常が発生している記録素子を用いて前記マーカーを記録媒体上に形成しても、当該マーカーの重心位置が変化しないように、前記形状情報を変更し、
前記変更手段にて前記形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかの変更が行われた場合、前記生成手段は、当該変更後の情報を用いて前記マーカーを配置したテスト画像を生成する、
ことを特徴とする装置。
【請求項2】
前記変更手段は、前記マーカーの中央の位置を軸として、前記異常が発生している記録素子によって形成されるはずのドット位置の対称な位置のドットが形成されないように、前記形状情報を変更することを特徴とする請求項
1に記載の装置。
【請求項3】
前記マーカーは、縦線と横線とが直交する十字形マーカーであり、
前記異常が発生している記録素子によって前記縦線が欠ける場合、前記変更手段は、代替の縦線が形成されるように、前記形状情報を変更する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の装置。
【請求項4】
前記マーカーは、縦線と横線とが直交する十字形マーカーであり、
前記異常が発生している記録素子によって前記縦線が欠ける場合、前記変更手段は、異常が発生していない記録素子によって前記縦線が形成されるように、前記形状情報を変更する、
ことを特徴とする請求項
1に記載の装置。
【請求項5】
前記変更手段は、前記異常が発生している記録素子を用いずに前記マーカーを記録媒体上に形成できるように、前記配置情報を変更することを特徴とする請求項1に記載の装置。
【請求項6】
画像記録装置が有する記録素子の位置を検出する装置であって、
前記記録素子の位置を検出するためのマーカーの形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかを、前記画像記録装置が有する複数の記録素子のうち異常が発生している記録素子の位置に基づいて、変更する変更手段と、
マーカーの形状情報と配置情報に基づいて、均一パッチの周囲に前記マーカーを配置したテスト画像を生成する生成手段と、
前記テスト画像を前記画像記録装置で出力したものを光学的に読み取ったスキャン画像における前記マーカーの位置を検出する検出手段と、
を備え、
前記変更手段は、
前記異常が発生している記録素子を用いずに前記マーカーを記録媒体上に形成できるよう、前記異常が発生している記録素子によって形成されるはずのマーカーを除去し、新たなマーカーを異なる位置に複数配置して、マーカー同士の間隔が均等になるように、前記配置情報を変更する
、
ことを特徴とする装置。
【請求項7】
前記配置情報と、前記検出手段が出力する前記マーカーの
重心位置とに基づいて、前記画像記録装置における記録位置調整処理で用いるパラメータを生成するパラメータ生成手段をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項8】
前記配置情報と、前記検出手段が出力する前記マーカーの位置とに基づいて、前記画像記録装置における記録位置調整処理で用いるパラメータを生成するパラメータ生成手段をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項9】
前記検出手段が出力する前記マーカーの
重心位置に基づいて、前記記録素子それぞれが記録する経路を、前記スキャン画像の座標系で設定する設定手段と、
設定された前記経路に沿って、前記スキャン画像の画素値を積分し、前記記録素子毎の階調再現関数を導出する導出手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の装置。
【請求項10】
前記検出手段が出力する前記マーカーの検出位置に基づいて、前記記録素子それぞれが記録する経路を、前記スキャン画像の座標系で設定する設定手段と、
設定された前記経路に沿って、前記スキャン画像の画素値を積分し、前記記録素子毎の階調再現関数を導出する導出手段と、
をさらに備えたことを特徴とする請求項6に記載の装置。
【請求項11】
画像記録装置が
有する記録素子の位置を検出する方法であって、
前記記録素子の位置を検出するためのマーカーの形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかを、前記画像記録装置が有する複数の記録素子のうち異常が発生している記録素子の位置に基づいて、変更する変更ステップと、
前記変更後の形状情報及び配置情報に基づいて、均一パッチの周囲に前記マーカーを配置したテスト画像を生成する生成ステップと、
前記テスト画像を前記画像記録装置で出力したものを光学的に読み取ったスキャン画像における前記マーカーの
重心位置を検出する検出ステップと、
を含
み、
前記変更ステップでは、前記異常が発生している記録素子を用いて前記マーカーを記録媒体上に形成しても、当該マーカーの重心位置が変化しないように、前記形状情報を変更し、
前記変更ステップにて前記形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかの変更が行われた場合、前記生成ステップでは、当該変更後の情報を用いて前記マーカーを配置したテスト画像を生成する、
ことを特徴とする方法。
【請求項12】
画像記録装置が有する記録素子の位置を検出する方法であって、
前記記録素子の位置を検出するためのマーカーの形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかを、前記画像記録装置が有する複数の記録素子のうち異常が発生している記録素子の位置に基づいて、変更する変更ステップと、
マーカーの形状情報と配置情報に基づいて、均一パッチの周囲に前記マーカーを配置したテスト画像を生成する生成ステップと、
前記テスト画像を前記画像記録装置で出力したものを光学的に読み取ったスキャン画像における前記マーカーの位置を検出する検出ステップと、
を含み、
前記変更ステップでは、前記異常が発生している記録素子を用いずに前記マーカーを記録媒体上に形成できるよう、前記異常が発生している記録素子によって形成されるはずのマーカーを除去し、新たなマーカーを異なる位置に複数配置して、マーカー同士の間隔が均等になるように、前記配置情報を変更する、
ことを特徴とする方法。
【請求項13】
コンピュータを、請求項1乃至
10のいずれか一項に記載の装置として機能させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インクジェットプリンタ等の画像記録装置によるプリント物上の画像のスジムラを低減するための技術に関し、特に、紙面上に形成したマーカーを用いて、画像記録装置が有する記録素子の位置を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、記録媒体上に画像記録を行う装置として、個々のノズルからインクを吐出することにより、紙面上に画像形成を行うインクジェットプリンタがある。このインクジェットプリンタでは、記録ヘッドを構成するノズル列の取付誤差やノズル毎のインク吐出特性のばらつきにより、出力結果であるプリント物上の画像にスジムラ(濃度不均一)が生じることがあり、印刷品質上の問題となっている。この点、記録位置の調整やノズル毎のインク吐出特性の導出において、所定のマーカーを配置したテスト画像を紙面上に出力し、そのスキャン画像からマーカー位置を検出することでノズルの位置を特定する方法が知られている。そして、特許文献1には、ノズル列方向の重心が互いに一致する複数の領域を組み合わせて成る検知マークを紙面上に出力し、そのスキャン画像から各々の領域の重心位置を求め、その平均値を検知マークの位置として検出する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1の技術によれば、検知マークを形成するノズル群の中にインクを正常に吐出できない不良ノズルがあっても、その影響が軽減される。しかしながら、領域単位でみた場合、不良ノズルがあると、その領域の重心位置の算出においては少なからず影響する。そのため、各領域の重心位置を平均化して得られた検知マークの位置には、不良ノズルによるズレを含んでしまう。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る装置は、画像記録装置が有する記録素子の位置を検出する装置であって、前記記録素子の位置を検出するためのマーカーの形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかを、前記画像記録装置が有する複数の記録素子のうち異常が発生している記録素子の位置に基づいて、変更する変更手段と、マーカーの形状情報と配置情報に基づいて、均一パッチの周囲に前記マーカーを配置したテスト画像を生成する生成手段と、前記テスト画像を前記画像記録装置で出力したものを光学的に読み取ったスキャン画像における前記マーカーの位置を検出する検出手段と、を備え、前記変更手段にて前記形状情報と配置情報のうち少なくともいずれかの変更が行われた場合、前記生成手段は、当該変更後の情報を用いて前記マーカーを配置したテスト画像を生成する、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、マーカーを形成する記録素子群の中に不良記録素子が存在しても、それによる影響を抑え、検出したマーカー位置にズレが含まれないようにすることができる。これにより、画像記録装置が有する記録素子の位置を正しく検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図2】画像形成システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図
【
図3】プリント処理回路の内部構成を示す機能ブロック図
【
図5】(a)~(c)は、実施形態の概要を説明する図
【
図6】マーカー形状の変更用テーブルの一例を示す図
【
図7】実施形態1に係る、ホストPCの機能ブロック図
【
図8】実施形態1に係る、変形補正パラメータの生成処理の流れを示すフローチャート
【
図9】実施形態1に係る、テスト画像の一例を示す図
【
図10】(a)及び(b)は、マーカー形状の変更の一例を示す図
【
図11】マーカー形状の変更用テーブルの一例を示す図
【
図12】マーカー形状の変更用テーブルの一例を示す図
【
図13】ノズル毎の一次元ルックアップテーブルの一例を示す図
【
図14】実施形態2に係る、ホストPCの機能ブロック図
【
図15】実施形態2に係る、ノズル毎の階調再現関数の導出処理の流れを示すフローチャート
【
図16】実施形態2に係る、テスト画像の一例を示す図
【
図17】(a)及び(b)は、輝度変換後のスキャン画像の一例を示す図
【
図18】(a)及び(b)は、局所領域設定の説明図
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して説明する。なお、以下の各実施形態は、本発明を限定するものではなく、各実施形態で説明されている特徴の組み合わせの全てが本発明の解決手段に必須のものとは限らない。その他、本発明の要旨を逸脱しない範囲の様々な形態も本発明に含まれ、また、以下の各実施形態の一部を適宜組み合わせることもできる。
【0009】
[実施形態1]
(プリンタの構成)
図1は、本実施形態において想定する画像記録装置としての、インクジェットプリンタの模式図である。プリンタ10は、その筐体内に記録ヘッド100を備える。記録ヘッド100は、所謂フルラインタイプの記録ヘッドであり、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローの各インク色に対応した4つのヘッドセットを有する。ヘッドセット101~104はそれぞれ、ブラック、シアン、マゼンタ、イエローのインクを吐出する3つのノズル列(ブラックの場合、101a、101b、101c)が互いにオーバーラップするように連結されている。各ノズル列にはインクを吐出するノズルが一定の間隔でX方向に配列されており、例えば、長さが5インチで600dpiのノズル列であれば、約3000個のノズルが並んでいることになる。
【0010】
記録媒体としての用紙106は、搬送ローラ105(および他の不図示のローラ)がモータ(不図示)の駆動力によって回転することにより、Y方向に搬送される。そして、用紙106が搬送される間に、ヘッドセット101~104内のノズル列それぞれの各ノズルが記録用データに応じてインクを吐出することで紙面上に画像が形成される。以下の説明において、用紙搬送方向の記録解像度は600dpiとする。
【0011】
また、記録ヘッド100よりも下流の位置には、インラインセンサ107が備えられている。インラインセンサ107は、X方向に一定の間隔で配列した光学読取素子によって、プリント物上の画像の色を光学的に読み取り、色をRGB色空間で表現したスキャン画像を出力する。以下の説明において、用紙搬送方向の読取解像度は600dpiとする。
【0012】
なお、本実施形態を適用可能な画像記録装置は、フルラインタイプのインクジェットプリンタに限られない。例えば、記録ヘッドを用紙の搬送方向と交差する方向に走査して画像を形成する所謂シリアルタイプのインクジェットプリンタでもよい。また、各ノズル列におけるノズルの間隔および用紙搬送方向の記録解像度は600dpiに限定されない。同様に、インラインセンサ107の光学読取素子の間隔および、用紙搬送方向の読取解像度も600dpiに限定されない。また、画像記録を行う方式もインクジェット方式に限定されるものではなく、記録素子としてLEDや発熱体を使用するプリンタにも適用可能である。具体的には、露光のための光源としてLEDアレイを用いた電子写真プリンタや、固形インクを気化させるための熱源として微小な発熱体が並んだサーマルヘッドを用いた昇華型プリンタにも適用可能である。
【0013】
(画像形成システムの構成)
図2は、本実施形態に係る、上述のプリンタ10を含む画像形成システムのハードウェア構成の一例を示すブロック図である。この画像形成システムは、
図1に示したプリンタ10と、そのホスト装置としてのパーソナルコンピュータ(PC)20を有する。
ホストPC20は、CPU201、RAM202、HDD203、データ転送I/F204、キーボード・マウスI/F205、ディスプレイI/F206を有する。CPU201は、RAM202やHDD203に保持されているプログラムに従って所定の処理を実行する。RAM202は、揮発性の記憶装置であり、プログラムやデータを一時的に保持する。HDD203は、不揮発性の記憶装置であり、同じくプログラムやデータを保持する。データ転送I/F204は、プリンタ10との間におけるデータの送受信を制御するインタフェースである。このデータ送受信の接続方式としては、USBやLANが用いられる。キーボード・マウスI/F205は、キーボードやマウス等のHID(Human Interface Device)を制御する。ディスプレイI/F206は、液晶モニタなどのディスプレイ(不図示)の表示を制御するインタフェースである。
【0014】
プリンタ10は、CPU211、RAM212、ROM213、データ転送I/F214、ヘッドコントローラ215、プリント処理回路216、センサコントローラ217を有する。CPU211は、RAM212やROM213に保持されているプログラムに従って所定の処理を実行する。RAM212は、揮発性の記憶装置であり、プログラムやデータを一時的に保持する。ROM213は、不揮発性の記憶装置であり、同じくプログラムやデータを保持する。データ転送I/F214は、ホストPC20との間におけるデータの送受信を制御するインタフェースである。ヘッドコントローラ215は、RAM212に格納された例えば二値に量子化されたハーフトーン画像に基づいて、記録ヘッド100の各ノズル列におけるインク吐出動作を制御する。プリント処理回路216は、画像処理に特化したデジタル回路で、シェーディング補正、記録位置調整、量子化といったプリント関連の画像処理を実行する。センサコントローラ217は、インラインセンサ107の個々の光学読取素子を制御する。
【0015】
なお、本実施形態で説明する変形補正パラメータの生成処理や、実施形態2で説明する記録素子毎(ノズル毎)の階調再現関数の導出処理は、ホストPC20にて行うものとする。一方、変形補正パラメータを用いた記録位置調整処理や、ノズル毎の階調再現関数を用いたシェーディング補正などは、プリンタ10のプリント処理回路216にて行うものとする。すなわち、プリント時の処理で用いる各種パラメータを生成する処理はホストPC20側で行い、色変換処理や量子化処理を含むプリント時に実行する処理はプリンタ10側で行なう。ただし、プリント関連の画像処理の全部又は一部を、ホストPC20側で行なってもよいし、或いはプリンタ10のCPU211で実行しても構わない。
【0016】
(プリント処理回路の構成)
図3は、プリンタ10が有するプリント処理回路216の内部構成を示すブロック図である。プリント処理回路216は、色変換部301、色分解部302、ヘッドシェーディング部303、記録位置調整部304、ガンマ補正部305、量子化部306を有する。以下、各部について説明する。
【0017】
色変換部301は、ホストPC20から入力された印刷対象のRGB色空間で表現された画像(入力RGB画像)を、三次元ルックアップテーブル(3D-LUT)を用いて、プリンタ10の色再現域に対応したRGB画像に変換し、色分解部302に出力する。なお、プリント処理回路216で扱われる画像の解像度は全て、プリンタ10に搭載されている記録ヘッド100のノズル解像度と同じ600dpiである。また、入力RGB画像や色変換後のRGB画像を含め、以降、プリント処理回路216で扱われる画像の各色成分のビット深度は、量子化部305が出力するハーフトーン画像を除き、全て16ビットであるものとする。
【0018】
色分解部302は、色変換後のRGB画像を、3DLUTを用いて、プリンタ10で使用される各インク色に対応したインク値画像に変換し、ヘッドシェーディング部303に出力する。プリンタ10が、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4色のインクを使用する場合、色分解部302に入力されたRGB画像は、シアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの4チャンネルから成るインク値画像に変換される。
【0019】
ヘッドシェーディング部303は、色分解部302が出力する色版毎のインク値画像に対して、各ノズルの吐出特性に応じた補正(以下、「シェーディング補正」と呼ぶ。)を行い、シェーディング補生後のインク値画像を記録位置補正部304に出力する。シェーディング補正処理については、実施形態2で詳しく説明する。
【0020】
記録位置調整部304は、ヘッドシェーディング部303が出力するインク値画像に対して、各ヘッドセットを構成するノズル列それぞれの記録位置を調整する処理を行ない、ガンマ補正部305に出力する。記録位置調整処理の詳細は、後述する。
【0021】
ガンマ補正部305は、記録位置調整部304が出力する記録位置調整後のインク値画像に対し、色版毎に、一次元ルックアップテーブル(1D-LUT)を用いて、紙面上に形成されることになるドットの数を調整する。具体的には、各ノズルが吐出するインク滴によって形成されるドットの数と、当該数のドットによって実現される明度との関係が略線形になるように、シェーディング補正後のインク値画像の画素値を変更する。ガンマ補正後のインク値画像は量子化部306に出力される。
【0022】
量子化部306は、ガンマ補正部305が出力するガンマ補正後のインク値画像に対し、色版毎に、ディザ法や誤差拡散法といった公知の量子化処理を適用して、ドットのオン又はオフを二値で表したハーフトーン画像を生成する。生成されたハーフトーン画像のデータはRAM212に一旦格納された後、ヘッドコントローラ215によって読み出される。なお、各ノズルが吐出するインク滴のサイズ(ドットサイズ)を制御可能なプリンタの場合は、ドットサイズの種類に対応した階調数(ビット深度)に量子化する処理を行ってハーフトーン画像を生成すればよい。この場合、ヘッドコントローラ215は、4値や16値といった多値のハーフトーン画像に基づいて各ノズルのインク吐出動作を制御することになる。
【0023】
(本実施形態の概要)
ここで、本実施形態の概要を、その背景を含めて説明する。複数のノズル列が互いにオーバーラップするように連結したフルラインタイプのヘッドセット(前述の
図1を参照)は、それぞれのノズル列が交換できるよう脱着可能な設計になっている。そのため、ノズル列の取付誤差が発生しやすい。
図4にその一例を示す。
図4の上段は記録ヘッド100を構成する4つのヘッドセット101~104の模式図であり、ヘッドセット101~104それぞれにおいて各ノズル列の取付位置に誤差が生じている状態を示している。
図4の下段は、このような取付誤差のある状態のノズル列を用いてテスト画像を印刷出力したものを光学的に読み取ったスキャン画像(輝度変換後)であり、これについては後述する。
図4の上段に示すように各ノズル列が傾くなどし、x方向に直線的に並んでいない状態のままでは、紙面上に画像を正しく形成することができない。
図5(a)は、ブラックのヘッドセット101を構成するノズル列101a~101cが所定の取付位置に誤差なく取り付けられた理想状態が示されている。さらに
図5(a)には、当該理想状態の各ノズル列101a~101cによって記録された、ヘッドセット101の幅と略一致する横長の矩形オブジェクト501が示されている。ヘッドセット101を構成する各ノズル列101a~101cが、所定の取付位置に対して誤差なく取り付けられている場合、それぞれのノズル列が担当する記録領域511~513は歪んだりズレたりすることなく形成される。その結果、所期の横長の長方形が紙面上に再現される。一方、
図5(b)は、ノズル列101a~101cが傾くなどし、所定の取付位置に対して誤差のある状態を示している。この場合、それぞれのノズル列が担当する記録領域511’~513’が歪んで形成される結果、記録領域同士の境界に段差が生じるなどし、矩形オブジェクト501は、歪な横長の矩形オブジェクト501’のようになってしまう。これでは、印刷対象の画像が正しく再現できないことになり、品質上の大きな問題となる。
【0024】
そこで、記録位置調整部304において、ヘッドセットを構成するそれぞれのノズル列が担当する記録領域毎に、アフィン変換を用いた変形補正処理を行って、各ノズル列の記録位置を調整する。例えば、上述の
図5(b)に示したように歪んでしまう場合は、
図5(a)に示す横長の矩形オブジェクト501を、
図5(c)に示すように、
図5(b)の歪みを相殺する方向に歪みを与えた横長の矩形オブジェクト501”に補正する。いま、ノズル列101aに対応する長方形の記録領域511は右下がりの平行四辺形に変形し、記録領域511’のようになっている。この場合は、右上がりの平行四辺形の記録領域511”に補正する。また、ノズル列101cに対応する記録領域513は、変形に加え、左方向にズレて記録領域512に近づき、記録領域512’と記録領域513’とのオーバーラップ量が大きくなりすぎている。この場合は、記録領域513”を右方向(離す方向)に位置を補正して、適切なオーバーラップ量となるようにする。このような補正後の矩形オブジェクト501”の画像データを用いて印刷出力することで、プリント物上で変形のない画像が得られる。記録位置調整部304は、このような変形補正処理を、シェーディング補生後のインク値画像の各色版に対して行う。
【0025】
そして、本実施形態は、上記変形補正処理で使用する、アフィン変換のパラメータ(以下、「変形補正パラメータ」と呼ぶ)を生成する方法に関する。本実施形態では、複数のマーカーを所定位置に配置したテスト画像を印刷出力し、得られたプリント物を光学的に読取って各マーカーの位置を検出することにより、変形補正パラメータを求める。テスト画像に配置された各マーカーは、ノズル列に並んだ複数のノズル(ノズル群)から吐出されるインク滴によって紙面上に形成されるが、ノズル群の中に吐出不良のノズル(以下、「不良ノズル」と呼ぶ)があると、出来上がったプリント物でマーカーの一部が欠けるなどし、不完全なマーカーが形成されることになる。そのような不完全なマーカーに基づくマーカーの検出位置には意図しない誤差が含まれてしまう。ここで、十字形のマーカーを用いた場合の具体例を示す。このような十字形マーカーをテスト画像の所定位置に複数配置し、そのプリント物のスキャン画像から当該十字形マーカーに対応する領域内の画素値の重心位置を求めることでその位置を検出する。なお、「不良ノズル」には、インクを全く吐出できないノズルに加え、インク吐出状態が悪いために企図するドットを形成できないようなノズルも含まれる。
【0026】
本実施形態では
図6に示すようなテーブルを予め保持しておき、不良ノズルの位置に応じて、マーカーの形状を変更する。
図6に示すテーブルにおいて、1行目は元のマーカー形状を示し、2行目は不吐を含む吐出不良が発生したときのマーカー形状を示し、3行目は変更後のマーカー形状を示す。元のマーカーは1画素幅の縦線と横線が直交する十字形で、サイズは11画素四方であり、横方向はノズル列方向、縦方向は用紙搬送方向である。元のマーカーのノズル列方向のサイズが11画素の場合、吐出不良によるマーカー形状の変化の組み合わせは11通り存在することになる。よって、
図6のテーブルでは、11画素幅の十字形マーカーの中央を基準位置“0”として、-5~+5の範囲でノズル列方向の不良ノズルの位置を特定している。そして、11通りの不良ノズルの位置に応じた、変更後のマーカー形状が用意されている。テーブル2行目における下向き矢印は、不良ノズルの位置を表し、テーブル3行目における下向き矢印は、除去ドットの位置を表している。つまり、本実施形態では、吐出不良が起きたドット位置の、マーカー中央の位置(“0”の位置)を軸として対称な位置のドットを敢えて形成しないことで、元のマーカーと重心位置を一致させる。不良ノズルの位置が“0”の場合は、重心位置が変化しないため、マーカー形状は変更しない。例えば、不良ノズルの位置が“-2”であった場合、左から4つ目のドットが正しく形成されない不完全な十字形マーカーとなってしまう結果、画素値の重心位置が右方向にズレてしまう。このように、不完全なマーカーが形成されてしまうと、それに基づき生成される変形補正パラメータに意図しない誤差を含むことになり、記録位置調整部304において正確な変形補正処理ができなくなってしまう。
【0027】
そこで、本実施形態では、不良ノズルにより不完全なマーカーが形成される場合は、
図6のテーブル3行目に示すように、元のマーカー形状(テーブル1行目参照)と重心位置が一致するように、マーカーの形状を変更する。これにより、不良ノズルによるマーカー検出位置のズレを回避する。以下、本実施形態における処理を詳細に説明する。
【0028】
(変形補正パラメータの生成処理)
図7は、本実施形態に係る、変形補正パラメータの生成処理を実現する、ホストPC20の機能ブロック図である。そして、
図8は、本実施形態に係る、変形補正パラメータの生成処理の流れを示すフローチャートである。なお、以下の説明において「S」はステップを意味する。
【0029】
S801では、形状変更部702が、上述したマーカー形状の変更を行う。従来であれば、テスト画像パラメータ記憶部701に記憶されているテスト画像パラメータとしてのマーカーの配置情報と形状情報をそのまま用いてテスト画像は生成される。しかし、本実施形態の場合、マーカーの形状情報については、形状変更部702にて変更されたものを用いる。形状変更部702は、テスト画像パラメータ記憶部701に保持されているマーカーの形状情報を取得し、当該形状情報で特定されるマーカー形状を、別途入力される不良ノズルの位置情報と前述の
図6に示すテーブルに基づいて変化させる。ここで、不良ノズルの位置情報は、予め生成したものをHDD203等に格納しておけばよい。不良ノズルは、例えば階段状パターンを配置したテスト画像を用紙に出力し、それを光学センサで読み取ることでその位置を把握することができる。あるいは、記録ヘッド100に搭載したセンサによって不良ノズルの位置を検出してもよい。
【0030】
S802では、テスト画像生成部703が、テスト画像パラメータ記憶部701に記憶されているマーカーの配置情報と、S801で形状変更がなされたマーカーの形状情報とに基づいて、テスト画像を生成する。
図9に、本実施形態で使用するテスト画像の一例を示す。
図9においては、所定位置に配置された各マーカーと各ノズル列との位置関係が分かるよう、テスト画像901に加え、ヘッドセット101~104がそれぞれ有する3つのノズル列の模式図を示している。
図9において、2本の破線で挟まれた領域902は左側のノズル列における左端領域、同領域905は右側のノズル列における右端領域、同領域903と904は中央のノズル列が左右のノズル列それぞれとオーバーラップする領域を示す。
図9の例では、各ノズル列がマーカーを3個ずつ形成するように配置している。例えば、ブラックのヘッドセット101の左側のノズル列101aは、破線の三角形910の各頂点に相当する3箇所911、912、913にマーカーを形成する。テスト画像901の各画素列は常に同じノズルで記録されるため、テスト画像901の座標が分かれば、当該座標の位置にてインクを吐出するノズルを特定できる。なお、本明細書において、上述の
図9を含むテスト画像に関する図では、説明の便宜上、実際のテスト画像と寸法や要素の数を変えていることに留意されたい。
【0031】
テスト画像が用意できると、次に、シェーディング補正と変形補正をOFFにした条件下で、ブラックのヘッドセット101のみを用いて、テスト画像が印刷出力される。そして、得られたプリント物上の画像をインラインセンサ107で読み取り、読み取った画像のRGB値の重み和を画素毎に求める輝度変換処理を行なって、テスト画像の出力結果における輝度を示すスキャン画像(前述の
図4の下段を参照)を得る。この輝度変換後のスキャン画像は、グレイ成分を例えば16ビットで表した画像である。以下の説明では、テスト画像901の座標系と、スキャン画像401の座標系とが異なることを明示するために、前者を大文字で表記し、後者を小文字で表記するものとする。すなわち、テスト画像901におけるノズル列方向の座標を“X”、用紙搬送方向の座標を“Y”と表記し、スキャン画像401におけるノズル列方向の座標を“x”、用紙搬送方向の座標を“y”と表記する。
図4においても、前述の
図9と同様、スキャン画像401上の各マーカーと各ノズル列との位置関係が分かるよう、ヘッドセット101~104のノズル列の模式図が示されている。
図8のフローチャートの説明に戻る。
【0032】
S803では、マーカー検出部704が、マーカーを検出するための枠を、輝度変換後のスキャン画像上に設定する。この検出枠は、十字形のマーカーを使用する本実施形態の場合、前述の
図4で破線で示すとおり、各マーカーを囲むような枠420を設定する。検出枠の設定には、マーカーの配置情報と形状情報を用い、スキャン画像上の固定された位置を検出枠として設定する。具体的には、まず、検出枠の中心となる位置をマーカーの配置情報に基づいて設定し、次に、検出枠のサイズをマーカーの形状情報に基づいて設定する。この場合において、検出枠のサイズには、ノズル列の取付位置の公差を考慮し、マーカーの記録位置がバラついても、検出対象のマーカーの全体が囲まれるようマージンを持たせる。
【0033】
S804では、マーカー検出部704が、スキャン画像上に存在するすべてのマーカーを検出する。具体的には、S803で設定した各検出枠について、その領域内における画素値の重心位置を求める。例えば、前述の
図4において、マーカー411の中心位置は、検出枠420の領域内における画素値の重心位置とする。なお、
図4に示す輝度変換後のスキャン画像401では、暗い領域ほど画素値が小さくなる。そこで、重心位置を求める際は、画素値を反転した画像を用いるのが望ましい。なお、マーカーの中心位置は、公知のテンプレートマッチング手法を用いて検出しても構わない。具体的には、例えば、マーカー411を検出する場合は、検出枠の領域420内の画素毎に、マーカーの元画像との類似度を求め、求めた類似度が最大となる画素位置を、マーカー411の中心位置として特定する。類似度の尺度としては、例えばZNCC(Zero Means Normalized Cross Correlation)などを適用すればよい。このようにテンプレートマッチングを用いる場合であっても、形状変更部702において、理想的なマーカーと重心位置が一致するようにマーカー形状を変更することで、不良ノズルに起因するマーカー検出位置の誤差を抑制できる。
【0034】
S805では、変形補正パラメータ生成部705が、マーカーの配置情報と、S804で得られたマーカー検出位置に基づいて、プリンタ10の記録位置調整部304で用いる変形補正パラメータを生成する。前述の通り、着脱可能に設計されたノズル列は取付時に誤差が発生しやすく、ヘッドセット101~104内の各ノズル列はx方向に直線的に並ばないのが通常である。そのため、例えばテスト画像901の3つのマーカー911、912、913は、スキャン画像401においてはそれぞれマーカー411、412、413として現れる。すなわち、ノズル列の取付誤差に起因する記録位置のズレにより、テスト画像901上の三角形910が変形し、スキャン画像401上では右下がりに傾いた三角形410のようになる。なお、
図4における符号402~405は、
図9における符号902~905に相当する。このような変形が生じることを踏まえ、記録位置調整部304にて印刷対象の画像に対して変形補正処理が実行される。ここで、二次元空間におけるアフィン変換のパラメータは6個であり、一般的に、三角形の変形の度合いから求められることが知られている。二次元空間における三角形の頂点の位置は2個のパラメータで規定されるため、3つの頂点から構成される三角形は6個のパラメータで規定できる。6個のパラメータで規定される三角形に関し、アフィン変換前後の座標が分かれば、6本の一次方程式から構成される連立方程式を解くことにより、二次元空間におけるアフィン変換のパラメータを求めることができる。本実施形態では、ノズル列毎に三角形の頂点の座標の対応関係を求め、アフィン変換のパラメータを生成する。すなわち、マーカーの配置情報に基づきアフィン変換前の三角形を、S804で得られたマーカー検出位置に基づきアフィン変換後の三角形をそれぞれ求める。そして、これらの対応関係に基づいて連立方程式を解き、対象とするノズル列についての変形補正パラメータを生成する。例えば、ノズル列101aについては、テスト画像901上の3つのマーカー(911、912、913)と、スキャン画像401上の3つのマーカー(411、412、413)との対応関係に基づいて連立方程式を解くことにより、変形補正パラメータが得られる。
【0035】
以上が、本実施形態に係る、変形補正パラメータの生成処理の内容である。こうして生成された変形補正パラメータは、プリンタ10データ転送I/F204を介してプリンタ10に送られる。そして、プリント処理回路216の記録位置調整部304において、ホストPC20から提供された変形補正パラメータを用いて、各ノズル列で記録する画像領域に対する変形補正処理がなされることになる。
【0036】
<変形例>
マーカーとして1画素幅の十字形マーカーを用いる場合、“0”の位置のノズルが不良ノズルとなった場合、中央の縦線が抜けた不完全マーカーとなる(
図6のテーブルの2行目を参照)。このように中央の縦線が抜けたマーカーは、用紙に付着した汚れやインラインセンサ107のノイズなどにより、重心位置がバラつきやすい。そこで、十字形マーカーの中央の縦線が欠けてしまう場合は、
図10(a)に示すように、代替の縦線が形成されるようにドットを追加してもよい。これにより、元のマーカーと重心位置が一致しやすくなる。その結果、縦線のないマーカーを使用するのに比べて、用紙に付着した汚れやインラインセンサ107のノイズなどに起因する重心位置のバラつきを抑制できる。
【0037】
また、同様の効果を得る方法として、
図11のテーブルに示すように、縦線の幅が横線の幅に比べて広い十字形マーカーを用いてもよい。
図11の例では、縦線の幅を横線の3倍(3画素幅)としている。この場合、“0”の位置のノズルが不良ノズルとなっても、上述の
図10(a)と同じ形状になる。なお、
図11のテーブルにおいて、不良ノズルの位置が“-1”と“+1”の場合は、3画素幅の縦線が1画素幅に変化し、汚れやノイズの影響を受けやすくなる。そのため、この場合は、
図10(b)に示すように縦線に相当するドットを追加してもよい。これにより、元のマーカーと重心位置が一致しやすくなる。
【0038】
なお、マーカーの形状は十字形に限定されず、矩形や菱形であっても構わない。
図12は
図6に相当する、元のマーカーとして5×6のサイズの矩形マーカーを使用する場合のテーブルである。なお、
図12のテーブルにおいて、2行目の下向き矢印は不良ノズルの位置を示し、3行目の下向き矢印は追加ドットの位置を示す。
【0039】
また、本実施形態では、ノズル列の取付位置の誤差に起因する画像変形を補正するために、プリンタ10が備える記録位置調整部304にて印刷対象の画像データを補正したが、このようなソフト的な処理に代えてハード的な処理を行ってもよい。例えば、プリンタ10が備える機械的な手段によって、ノズル列の取付位置の誤差を直接的に修正しても構わない。
【0040】
以上のとおり、本実施形態によれば、記録素子の不良によるマーカー検出位置のズレを回避できる。これにより、記録位置調整のためのアフィン変換用のパラメータを高精度に取得できる。その結果、インクジェットプリンタの場合であれば、ノズル列の取付位置の誤差に起因する画像の変形を好適に補正でき、画質が向上する。
【0041】
[実施形態2]
実施形態1では、記録位置調整部304で用いる変形補正パラメータを生成するためのテスト画像上に形成するマーカーの形状を、不良ノズルの位置に応じて変更する態様を説明した。次に、ヘッドシェーディング部303で用いるノズル毎の階調再現関数を導出するためのテスト画像上に形成するマーカーの配置を、不良ノズルの位置に応じて変更する態様を、実施形態2として説明する。なお、画像形成システムの基本構成といった実施形態1と共通の内容については説明を省略し、以下では本実施形態の特徴であるノズル毎の再現階調関数を導出する処理を中心に説明を行うものとする。
【0042】
(本実施形態の概要)
ここで、本実施形態の概要を、その背景を含めて説明する。所謂フルラインタイプのヘッドセットを搭載したインクジェットプリンタ(前述の
図1を参照)は、紙面上に画像をシングルパスで記録するため、各ノズルのインク吐出特性のばらつきによるスジムラ(濃度不均一)が生じやすい。そこで、入力階調値とプリント物上の画像濃度との関係を示す階調再現関数を予めノズル毎に用意しておき、この逆関数を用いることで、意図する濃度を正確に再現可能な入力階調値を求めるシェーディング補正処理を、印刷時に行う。
【0043】
本実施形態は、ヘッドシェーディング部303で使用する、ノズル毎の階調再現関数を好適に導出する方法に関する。ノズル毎の階調再現関数を取得する際には、まず、複数種類の同一階調の均一パッチの周囲に複数のマーカーが配置されたテスト画像を、シェーディング補正をOFFにした条件下で、例えばブラックのヘッドセットのみを用いて用紙上に出力する。そして、出力結果(プリント物上の画像)をインラインセンサ107で読取り、色をRGB色空間で表現した光学読取画像(スキャン画像)をホストPC20に転送する。ホストPC20は、受け取ったスキャン画像に対し、その画素値(RGB値)の重み和を画素毎に求める輝度変換処理を行ない、輝度変換後のスキャン画像を生成する。次に、輝度変換後のスキャン画像から各マーカーを検出し、その検出位置に基づいてスキャン画像を複数の局所領域に分割する。そして、テスト画像とスキャン画像との座標の対応関係を示す座標変換パラメータを局所領域毎に求め、この座標変換パラメータを用いて、対象とするノズルが紙面上にドットを記録する経路を、スキャン画像の座標系で求める。最後に、求めた経路に沿ってスキャン画像の画素値を積分することで、対象とするノズルの階調再現関数を得る。上述のように、座標変換パラメータを局所領域毎に求めることで、用紙の伸縮やインラインセンサの光学収差などによりスキャン画像が局所的に歪んでいても、当該スキャン画像における画素値を、対象とするノズルの位置に正確に対応付けることができる。これによりシェーディング補正によるスジムラ低減効果を高めることができる。
【0044】
上述のようにテスト画像を用いてノズル毎の階調再現関数を導出する場合において、マーカーを形成するノズルに不良ノズルがあると、実施形態1の場合と同様、検出したマーカー位置に意図しない誤差が含まれてしまう。そうなると、画素値を積分する経路として、誤った経路が設定されてしまい、正確なノズル毎の階調再現関数を導出できなくなる。これでは、シェーディング補正によって誤った補正がなされ、かえってスジムラを悪化させかねない。
【0045】
上記問題の解決策の1つとして、実施形態1で説明した方法が挙げられる。すなわち、不良ノズルの位置に応じてマーカー形状を変更する手法は、ノズル毎の階調再現関数を導出する場合にも有効である。本実施形態では、別の解決策として、テスト画像におけるマーカーの配置を変更して、異常が発生していない正常なノズルのみでマーカーを形成する方法について説明する。
【0046】
なお、実施形態1では、変形補正パラメータを高精度に生成するために、ノズル列内の左右端に近い所にあるノズルの位置を検出する必要があった。そのため、マーカーの配置そのものを変更する方法は馴染まない。しかし、ノズル毎の階調再現関数を導出する場合は、検出対象のノズルが、ノズル列内の左右端に近いところのノズルである必要がなく、複数のノズル列から成るヘッドセットにおいて略均等な間隔でノズル位置を検出できればよい。そのため、不良ノズルを避けるようにマーカーの配置を変更しても、全体のマーカー数が変化しなければ、ノズル毎の階調再現関数の導出精度はほとんど悪化しない。
【0047】
そこで、本実施形態では、マーカーを形成するノズルの一部に不良ノズルがあり不完全なマーカーになる場合は、当該不良ノズルが担当する列のマーカーを除去し、これに代わる新たなマーカーの列を追加する。そして、追加されたマーカー位置を考慮して局所領域の設定を行う。
【0048】
(シェーディング補正)
まず、ヘッドシェーディング部303におけるシェーディング補正について詳しく説明する。このシェーディング補正は、色版毎のインク値画像それぞれに対して同様に適用される。以下では、ブラックのインク値画像に適用する場合を例に説明を行い、他の色版については省略するものとする。
【0049】
ここで、ノズル列方向の座標をx、ノズル列方向に直交する用紙搬送方向の座標をyで表すこととする。このとき、シェーディング補正前のインク値画像における座標(x,y)で表される位置の階調値をDpre_K(x,y)、シェーディング補正後のインク値画像における座標(x,y)で表される位置の階調値をDaft_K(x,y)のように表すこととする。この補正後の階調値Daft_K(x,y)は、補正前の階調値Dpre_K(x,y)に対し、ノズル位置毎(すなわちxの値毎)に、異なる1D-LUTを適用することで生成する。xの値が同じ場合、y方向の各画素には、同一の1D-LUTが適用されることになる。1D-LUTを用いるシェーディング補正は、前述の特許文献1にも記載されている公知の手法である。ここで、あるノズル位置x(以下、単に「位置x」と表記)における一次元ルックアップテーブルを、1D-LUT_K_xとしたとき、シェーディング補正後の階調値Daft_K(x,y)は、以下の式(1)によって表される。
Daft_K(x,y)=1D-LUT_K_x(Dpre_K(x,y))・・・式(1)
【0050】
図13(a)は、位置x=513のノズルに適用する1D-LUT_K_513の一例、同(b)は位置x=517のノズルに適用する1D-LUT_K_517の一例である。
図13(a)及び(b)に示すグラフの横軸は、シェーディング補正を行う前後の階調値を示しており、グラフの縦軸は、プリント物上の画像を光学的に読み取って得られた輝度値を示している。なお、グラフの縦軸は、輝度値に代えて濃度値であっても構わない。グラフの横軸における「紙白」はインク量が最小となるときの階調値である。また、グラフの横軸における「ベタ」はインク量が最大となるときの階調値である。
【0051】
図13(a)及び(b)のグラフにおいて共通の直線1301は、入力階調値に対応する目標輝度値を示す関数(以下、「目標輝度関数」と表記)I_T(d)を示している。この場合おいて、dは階調値を表す。いま、I_T(d)は、「紙白」の輝度値と「ベタ」の輝度値を直線で結んだ一次関数であるが、プリンタの階調再現特性を決める設計パラメータとして任意の関数を設定できる。なお、この目標輝度関数I_T(d)は、全てのノズルで同じものを用いる。そして、
図13(a)のグラフにおける曲線1302及び
図13(b)のグラフにおける曲線1303は、それぞれ異なるノズル位置xに対応するノズルの階調再現関数I_x(d)を表している。いま、曲線1302は位置x=513のノズルの階調再現関数であり、曲線1303は位置x=517のノズルの階調再現関数である。このノズル毎の階調再現関数I_x(d)は、位置xのノズルで階調値dの画像を、シェーディング補正をOFFにして記録したときの、紙面上において対応する位置の輝度値を示す関数である。なお、シェーディング補正をOFFにして記録を行う際は、色分解部302から出力されるインク値画像を、ヘッドシェーディング303部を通さずに、記録位置調整部304に入力すればよい。
【0052】
例えば、位置x=513における、シェーディング補正後の階調値Daft_K(x,y)を求める場合は、以下のような手順となる。まず、目標輝度関数I_T(d)により、シェーディング補正前の階調値Dpre_K(513,y)に対応する目標輝度値I_T(Dpre_K(513、y))を求める。そして、位置x=513のノズルに対応する紙面上の位置において目標輝度値I_T(Dpre_K(513,y))を正確に再現するための、シェーディング補正後の階調値Daft_K(513,y)=I_513(I_T(Dpre_K(513,y)))-1 を求める。すなわち、位置x=513における1D-LUT_K_513は、階調再現関数I_513(d)の逆関数I_513-1と、目標輝度関数I_T(d)を合成した関数により実現される。他の位置xのノズルの1D-LUTについても同様である。なお、こうして作成された1D-LUTに存在しない値が引数として入力された場合は、公知の補間処理により出力値を算出すればよい。また、シェーディング補正で用いるノズル毎の1D-LUT_K_xは、階調再現関数の逆関数I_x-1と、目標輝度関数I_T(d)とを組み合わせて実現する。もしくは、階調再現関数の逆関数I_x-1と、目標輝度関数I_T(d)とを用いて事前に算出しておいた値を、単独のテーブルとして保持することにより実現する。
【0053】
図13(a)のグラフにおいて、曲線1302が示す階調再現関数I_513(d)は、直線1301が示す目標輝度関数I_T(d)を常に下回っている。これは、シェーディング補正がOFFの場合、位置x=513のノズルに対応する紙面上の位置に黒スジが発生していることを示している。しかし、シェーディング補正をONにすると、補正前の階調値Dpre_K(513,y)はDaft_K(513,y)へと補正され、紙面上に吐出されるインク量が少なくなるため、黒スジが低減することになる。一方、
図13(b)のグラフにおいて、曲線1303の階調再現関数I_517(d)は、直線1301が示す目標輝度関数I_T(d)を常に上回っている。これは、シェーディング補正がOFFの場合、位置x=517のノズルに対応する紙面上の位置に白スジが発生していることを示している。しかし、シェーディング補正をONにすると、補正前の階調値Dpre_K(517、y)はDaft_K(517、y)へと補正され、紙面上に吐出されるインク量が多くなるため、白スジが低減することになる。
【0054】
(ノズル毎の階調再現関数の導出処理)
図14は、本実施形態に係る、ノズル毎の階調再現関数I_x(d)の導出処理を実現する、ホストPC20の機能ブロック図である。そして、
図15は、本実施形態に係る、ノズル毎の階調再現関数I_x(d)の導出処理の流れを示すフローチャートである。前述のとおり、ノズル毎の階調再現関数I_x(d)の導出は、各ノズル列で共通なので、以下では、ブラックのノズル列101を例として説明するものとする。なお、以下の説明において「S」はステップを意味する。
【0055】
S1501では、配置変更部1402が、上述したマーカー配置の変更を行う。従来であれば、テスト画像パラメータ記憶部1401に記憶されているテスト画像パラメータとしてのマーカーの配置情報と形状情報をそのまま用いて、生成過程のテスト画像上にマーカーが描画される。しかし、本実施形態の場合、マーカーの配置情報については、配置変更部1402にて変更されたものを用いる。配置変更部1402は、テスト画像パラメータ記憶部1401に保持されているマーカーの配置情報を取得し、当該配置情報で特定されるマーカーの配置を、別途入力される不良ノズルの位置情報に基づいて、マーカーの配置を変更する。具体的には、まず、マーカーの形状情報からマーカーのサイズを取得し、当該サイズとマーカーの配置情報とに基づいて、各マーカーが描画される領域を特定する。そして、不良ノズルの位置情報と、各マーカーが描画される範囲とを比較し、各マーカーが不良ノズルによって不完全なマーカーとなるか否かを判定する。そして、不完全マーカーになると判定されたマーカーが存在した場合は、正常ノズルのみで全てのマーカーを形成できるように、マーカーのノズル列方向の位置を変更する。なお、不良ノズルの位置情報は、実施形態1と同様、予め生成したものをHDD203等に格納しておけばよい。
【0056】
S1502では、テスト画像生成部1403が、テスト画像パラメータ記憶部701に記憶されているテスト画像パラメータとしてのマーカーの配置情報と形状情報及び均一パッチの配置情報に基づいて、テスト画像を生成する。この際、マーカーの配置情報については、S1501で配置変更がなされている場合は、当該変更後の配置情報が用いられる。ここで、テスト画像パラメータについて確認しておく。マーカーの配置情報は、各マーカーの位置を、テスト画像の座標系で設定した数値データである。本実施形態では、配置変更部1402にてマーカー位置を変更する前の状態では、マーカーを均等間隔で配置し、マーカーを均等間隔で、X方向には85個、Y方向には18個を配置する。配置を開始する位置はX=42、Y=742とし、X方向の配置間隔は79画素、Y方向の配置間隔は504画素とする。マーカーの形状情報は、マーカーの形状を示す画像データである。本実施形態では、11画素四方の白背景の上に1画素幅の黒の縦線と横線が直交する十字が描かれた画像データを用いる。均一パッチの配置情報は、各均一パッチの位置を、テスト画像の座標系で設定した数値データである。本実施形態では、均一パッチをY方向に均等間隔で17個配置する。配置を開始するX位置は47画素目、Y位置は787画素目とし、Y方向の配置間隔は504画素とする。均一パッチの配置情報には、均一パッチのサイズ情報も含んでおり、いま、X方向のサイズは6637画素、Y方向のサイズは425画素とする。また、均一パッチの配置情報には、各均一パッチの階調情報も含まれる。本実施形態では、濃度の高い順に以下の17種類(全17階調)の均一パッチを描画する。すなわち、階調値dが上から順に、65535、61440、57344、53248、49152、45056、40960、36864、32768、28672、24576、20480、16384、12288、8192、4096、0の17通りである。なお、マーカー及び均一パッチは、不等間隔で配置しても構わない。また、配置する個数は、上記のものに限定されない。
【0057】
図16の(a)及び(b)に、本実施形態で使用するテスト画像の一例を示す。
図16(a)のテスト画像1601は配置変更を行わなかった場合のテスト画像を示し、各マーカーが均等間隔で格子点状に配置されている。
図16(b)のテスト画像1601’は、均一パッチ1602の上に配置されたマーカー1604が不完全マーカーになると判定されて配置変更が行われた場合のテスト画像を示す。
図16(b)のテスト画像1601’を見ると、マーカー1604の列の全マーカーが除去され、その代わりに、マーカー1606及び1607の2列分のマーカーが新たに追加されている。マーカー1606と1607の位置は、マーカー1603と1605との間を3等分する位置となっている。すなわち、新たにマーカーを追加した後も、マーカー同士の間隔が均等になるようにしている。なお、マーカーと均一パッチは、不等間隔で配置しても構わない。また、配置する個数は、上記のものに限定されない。また、マーカーの形状は十字に限定されず、矩形や菱形などであっても構わない。
【0058】
テスト画像が用意できると、次に、シェーディング補正をOFFにした条件下で、ブラックのノズル列101のみを用いて、テスト画像が印刷出力される。そして、得られたプリント物上の画像をインラインセンサ107で読み取り、読み取った画像(スキャン画像)のRGB値の重み和を画素毎に求める輝度変換処理を行なう。
図17(a)及び(b)に、輝度変換後のスキャン画像の一例を示す。
図17(a)のスキャン画像1701は配置変更を行わなかったテスト画像1601のスキャン画像を示し、
図17(b)のスキャン画像1701は配置変更が行われたテスト画像1601’のスキャン画像を示す。いま、スキャン画像1701及び1701’のノズル列方向のサイズは6967画素、用紙搬送方向のサイズは10328画素である。画像解像度は、光学読取素子の解像度および、用紙搬送方向の記録解像度と同じ600dpiである。両スキャン画像において、斜めの矩形の枠1702及び1702’は、テスト画像1601及び1601’にそれぞれ対応する領域を示している。この対応領域は、用紙搬送の位置の誤差、用紙の伸縮、インラインセンサの光学収差などにより、通常の場合はテスト画像1601及び1601’と一致しない。そのため、一般的には、ノズル列方向の各位置をどのノズルが画像記録を行うのかをスキャン画像911の座標から特定することは困難である。以降に示す図では、この事実を示すために、領域1702及び1702’に傾きを与えている。
【0059】
なお、以下の説明では、テスト画像1601及び1601’の座標系と、スキャン画像1701及び1701’の座標系とが異なる座標系であることを明示するために、前者を大文字で表記し、後者を小文字で表記するものとする。すなわち、テスト画像1601及び1601’におけるノズル列方向の座標を“X”、用紙搬送方向の座標を“Y”と表記し、スキャン画像1701及び1701’におけるノズル列方向の座標を“x”、用紙搬送方向の座標を“y”と表記する。
【0060】
S1503では、マーカー検出部1404が、実施形態1のS803と同様、マーカーを検出するための枠をスキャン画像上に設定する。このとき、S1501にてマーカーの配置情報が変更されている場合は、変更後のマーカー配置情報に基づいて、検出枠が設定される。なお、検出枠を設定する際は、用紙の傾きを考慮しても構わない。用紙の傾きは、インラインセンサ107を用いて用紙の各頂点を検出することにより求めればよい。前述の
図17(a)及び(b)において、各マーカーを囲む破線の枠が、設定された検出枠を示している。
【0061】
S1504では、マーカー検出部1404が、実施形態1のS804と同様、スキャン画像上に存在するすべてのマーカーを検出する。具体的には、S1503で設定した各検出枠について、その領域内における画素値の重心位置を求める。
【0062】
S1505では、17種類(すなわち、17階調)の均一パッチそれぞれに対して以下のS1506~S1513の処理を適用するべく、注目する均一パッチが決定される。そして、S1506では、ブラックのノズル列101が有する全てのノズルそれぞれに対して以下のS1507~S1512の処理を適用するべく、注目するノズルが決定される。本実施形態では、均一パッチのX方向のサイズを6637画素とした。そのため、S1507~S1512の処理が、6637個のノズルに対して順に適用されることになる。
【0063】
S1507では、経路設定部1405が、S1504で検出したマーカーの位置に基づいて、スキャン画像1701又は1701’の画素値を積分する経路を設定する。この経路は、各ノズルの記録経路でもある。積分によって得られた累積加算後の画素値を要素数で割った値は、各ノズルの記録経路における平均的な輝度値である。この輝度値を各ノズルに対応付けることにより、ノズル毎の階調再現関数が得られる。ここで、
図18(a)及び(b)と
図19(a)~(d)を参照して、どのようにして経路設定を行うのかを具体的に説明する。
図18(a)は前述の
図17(a)に対応し、
図18(b)は前述の
図17(b)に対応する。
【0064】
いま、
図18(a)及び(b)における領域1702及び1702’は、「+」で示すマーカーの検出位置の間を結ぶ点線により、複数の領域(以下、「局所領域」と呼ぶ)に分割されている。局所領域内の下向きの矢印は、ある同一ノズルの記録経路上に位置し、画素値を積分する経路を示す。なお、均一パッチの上端と下端は、紙白との境界に近く、画素値の信頼度が低いため、積分の対象とはしない。以下、マーカーの配置情報を変更しなかった
図18(a)のケースを例に、スキャン画像1701の画素値を積分する経路の求め方を説明する。
【0065】
図19(a)はテスト画像1601における座標を示しており、
図19(b)はスキャン画像1701における対応する座標を示している。そして、
図19(b)における9つの黒丸1818~1826は、検出した各メインマーカーの位置であり、
図18(a)における同一番号の「+」マークの位置を示している。なお、
図19(b)では説明のために、スキャン画像1701に極端な歪みが発生した状態としていることに留意されたい。
図19(b)における実線の矢印1802は、
図18(a)における矢印1802に相当し、
図18(a)における上から2つ目の均一パッチ1801の画素値を積分する経路を示している。また、
図19(b)における×印1912は、矢印1802で示す経路上の任意の点を示す。
図19(a)における9つの黒丸1901~1909は、テスト画像1601において、
図19(b)の黒丸1818~1826に対応する位置を示す。
図19(a)の実線の矢印1910は、
図19(b)において矢印1802で示す経路を、テスト画像1601の座標系で示したもので、各ノズルのインク吐出方向である用紙搬送方向(Y方向)と向きが同じである。
図19(a)において、×印1911は、
図19(b)において矢印1802で示す経路上の任意の点1912を、テスト画像1601の座標系で示すものであり、矢印1910で示す経路上に位置している。
【0066】
経路設定部1405は、まず、
図19(a)の矢印1910に示すような経路を、テスト画像1601の座標系で、ノズル毎に設定する。そして、×印1911で示すような経路上の点毎に、スキャン画像1701において対応する点を求める。例えば、点1911に対応するスキャン画像1701上の点は、
図19(b)における点1912である。このとき、点1912の座標は、以下の方法で求めることができる。
【0067】
まず、座標変換前の点(ここでは、点1911)を含む局所領域を求める。これは、座標変換前の点1911の座標と、マーカーの配置情報とを比較することで求められる。点1911を含む局所領域は、4つの黒丸(1905、1906、1908、1909)で囲まれる矩形領域である。そして、座標変換前の点を含む局所領域内において、座標変換前の点の位置を、X方向とY方向のそれぞれについて0~1の比率で表現する。
図19(a)において、α
Xとα
Yは、点1911を含む局所領域内において、点1911の位置をそれぞれ0~1の比率で表現した値である。
【0068】
次に、点1911を含む局所領域に含まれる点の座標変換に用いる、座標変換パラメータを設定する。いま、
図19(a)において4つの黒丸(1905、1906、1908、1909)で囲まれる局所領域は、スキャン画像1701においては、同じく4つの黒丸(1822、1823、1825、1826)で囲まれる領域に対応する。このような、スキャン画像1701において対応する局所領域は、S1504で検出した各マーカーの位置に基づいて設定する。そして、4つの黒丸(1905、1906、1908、1909)で囲まれる局所領域に含まれる点の座標変換に用いる座標変換パラメータとして、
図19(b)に示すベクトルv
a~v
dを設定する。そして、点1911に対応する位置である、点1912の位置を特定するベクトルv
outを、以下の式(2)により求める。これにより、テスト画像1601の座標を、スキャン画像1701の座標に変換することができる。
v
out=v
a+α
Xv
b+α
Yv
c+α
Xα
Yv
d ・・・式(2)
【0069】
なお、座標変換前の点が、異なる局所領域に含まれる場合は、α
Xとα
Y、および座標変換パラメータは別途設定する。例えば、座標変換前の点が、
図19(c)の点1913の場合、当該点は、4つの黒丸(1901、1902、1904、1905)で囲まれる局所領域に含まれる。そのため、まず、この局所領域内において、座標変換前の点の位置を、X方向とY方向のそれぞれについて0~1の比率で表現する。すなわち、
図19(c)に示すようにα
Xとα
Yの値を設定する。また、この局所領域に対応する領域は、
図19(d)において、4つの黒丸(1818、1819、1821、1822)で囲まれる領域である。そのため、座標変換パラメータとして、
図19(d)に示すベクトルv
a~v
dを設定する。そして、点1913に対応する点1914の位置を、前述の式(2)により求める。
【0070】
このようにして経路設定部1405は、テスト画像1601の座標系でノズル毎に設定した経路上の全ての点(画素位置)に対して、上述の、局所領域毎に異なる座標変換パラメータを用いた座標変換処理を適用する。これにより、スキャン画像1701の画素値を積分する各ノズルに対応した経路を求める。
図15のフローチャートの説明に戻る。
【0071】
S1508では、画素値取得部1406が、S1507で設定された経路上の全ての点に対しS1509とS1510の処理を順次適用するべく、経路上の点のうち注目する点を決定する。そして、続くS1509にて、S1508で決定した注目点における画素値を取得する。この場合において、S1507で設定された経路上の注目点の座標値は、一般的に、整数値にはならず、小数を含む値となる。そのため、経路上において注目点として決定された各点の画素値(サブピクセル位置の画素値)を、例えばバイリニア補間といった補間処理によって取得する。そして、S1510では、補間処理で取得した画素値を、S1507で設定された経路に沿って積分(累積加算)する。
【0072】
S1511では、経路上の全ての点に対して画素値の取得処理が完了したか否かが判定される。未処理の点があればS1508に戻って、次の点が注目点に決定されて処理が続行される。一方、経路上の全てについて画素値の取得処理が完了していれば、S1512に進む。
【0073】
S1512では、平均化部1407が、累積加算後の画素値(積分値)に対して平均化処理、具体的には、積分値を累積加算に用いた要素の数で割る処理を行う。これにより、各ノズルの記録経路における平均的な輝度値が求まる。こうして求めた値を、注目ノズルの階調再現関数の値として決定する。
【0074】
S1513では、ノズル列内の全てのノズルに対してS1512までの処理が完了したか否かが判定される。未処理のノズルがあればS1506に戻って、次のノズルが注目ノズルに決定されて処理が続行される。一方、ノズル列内の全てのノズルが処理されていれば、S1514に進む。
【0075】
S1514では、17種類の均一パッチの全てに対してS1513までの処理が完了したか否かが判定される。未処理の均一パッチがあればS1505に戻って、次の均一パッチが注目パッチに決定されて処理が続行される。一方、17種類の全ての均一パッチが処理されていれば、本処理を終える。
【0076】
以上が、本実施形態に係る、ノズル毎の階調再現関数I_x(d)の導出処理の内容である。なお、マーカーの配置情報を変更した
図18(b)のケースでは、局所領域の数が増えることになる。そのため、処理負荷も増えるが、スキャン画像における画素値を積分する経路がより正確に設定されるため、ノズル毎の階調再現関数の導出精度は向上する。なお、
図16(b)に示すテスト画像1601’において新たに配置したマーカー1606と1607が、不完全マーカーとなる場合は、例えばその旨をユーザに通知して本処理を終了するなどすればよい。もしくは、実施形態1で示したように、マーカーの形状を変更し、重心位置のズレが発生しないようにしてもよい。
【0077】
以上のとおり本実施形態によれば、不吐によるマーカー検出位置のズレを回避できるため、シェーディング補正で使用するノズル毎の階調再現関数を高精度に取得できる。その結果、各ノズルのインク吐出特性のばらつきに起因するスジムラ(濃度不均一)を好適に低減できる。
【0078】
なお、実施形態1においても、本実施形態と同様に、不良ノズルを避けるようにマーカー位置を変更しても構わない。また、不良ノズルが発生した場合において、実施形態1で示したマーカーの形状変更と、本実施形態で示したマーカーの配置変更とを組み合わせてよい。例えば、不良ノズルによってマーカーの一部が欠けてしまう位置に応じて、マーカーの形状変更を行うか、配置変更を行うかを選択的に切り替えるようにする。例えば、
図11のテーブルに従ってマーカー形状を変更する場合において、不良ノズルの位置がノイズなどにより重心位置がバラつきやすくなる位置(-1、0、+1)のときは、マーカー形状を変更せず、マーカー位置を変更するといった具合である。
【0079】
また、実施形態1及び2で説明した、不良ノズルの位置情報に基づいてマーカーの形状情報又は配置情報を変更する手法は、変形補正パラメータの生成やノズル毎の階調再現関数の導出だけでなく、ノズル位置を検出する処理全般に対して幅広く適用可能である。
【0080】
[その他の実施形態]
また、本発明は、上述の実施形態の1以上の機能を実現するプログラムを、ネットワーク又は記憶媒体を介してシステム又は装置に供給し、そのシステム又は装置のコンピュータにおける1つ以上のプロセッサがプログラムを読出し実行する処理でも実現可能である。また、1以上の機能を実現する回路(例えば、ASIC)によっても実現可能である。