(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】通信システム、及び工程管理システム
(51)【国際特許分類】
G06Q 10/06 20230101AFI20230511BHJP
G05B 19/418 20060101ALI20230511BHJP
G06Q 50/04 20120101ALI20230511BHJP
【FI】
G06Q10/06
G05B19/418 Z
G06Q50/04
(21)【出願番号】P 2019063352
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-05-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000002107
【氏名又は名称】住友重機械工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】503218067
【氏名又は名称】住友重機械マリンエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100113435
【氏名又は名称】黒木 義樹
(74)【代理人】
【識別番号】100162640
【氏名又は名称】柳 康樹
(72)【発明者】
【氏名】松井 倫太郎
(72)【発明者】
【氏名】牧野 有紀
【審査官】田上 隆一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/168110(WO,A1)
【文献】特開2019-004209(JP,A)
【文献】特開2008-137796(JP,A)
【文献】特開2014-218801(JP,A)
【文献】特開2009-265878(JP,A)
【文献】特開2007-170865(JP,A)
【文献】特開2018-067165(JP,A)
【文献】特開平10-266629(JP,A)
【文献】特開2010-159564(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06Q 10/00-99/00
G05B 19/418
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電波遮材料で閉鎖された空間内の作業現場に配置される通信部を備え、
前記通信部は、前記作業現場と前記電波遮材料で閉鎖された空間の外部との間で、前記電波遮材料に設けられた作業口を介して電波を通信
し、
前記通信部は、430MHz以下の低周波数帯の電波を通信する、通信システム。
【請求項2】
前記作業口は、作業者の出入り用のマンホールと、前記電波を通過させる開口とを兼用している、
請求項1に記載の通信システム。
【請求項3】
前記外部には、前記通信部からの前記電波を受信する受信部が配置され、
前記通信部は、所定の情報を符号化した符号化情報を前記受信部へ送信し、
前記受信部は、予め設定されたデータテーブルと前記符号化情報とを照会することで、前記所定の情報を取得する、
請求項1又は2に記載の通信システム。
【請求項4】
前記作業現場に配置され、所定の情報を入力するための入力部を更に備え、
前記入力部は、
ICカードを読み取るRFIDリーダーと、
前記RFIDリーダーで前記ICカードを読み取り可能な状態で保持する保持部と、を備える、
請求項1~3の何れか一項に記載の通信システム。
【請求項5】
単一のワークに対して行われる連続した単一の作業について、当該単一の作業の工程進捗状況の管理を行う工程管理システムであって、
請求項1~4の何れか一項に記載の通信システム、及び表示部を備え、
前記通信システムは、
前記作業現場に配置され、当該作業の工程進捗状況を示す工程進捗情報を入力するための入力部と、
前記入力部で入力された前記工程進捗情報を前記電波によって送信する前記通信部と、
前記外部に配置され、前記通信部から送信された前記工程進捗情報を受信する受信部と、を備え、
前記表示部は、前記受信部で受信された前記工程進捗情報を表示する、工程管理システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システム、及び工程管理システムに関する。
【背景技術】
【0002】
電波遮材料で閉鎖された空間内を作業現場として作業が行われる場合がある。例えば、特許文献1では、船舶の構造物に対して溶接作業を行うことが記載されている。このような溶接作業は、船体内の部材を固定するために、直線状に延びるように溶接を行うような作業である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1に示す溶接作業のように、電波遮材料で閉鎖された空間内で作業が行われる場合に、例えば、作業の進捗状況を報告するなど、所定の情報を外部へ伝達する必要が生じる場合がある。しかしながら、電波遮材料で閉鎖された空間内の作業現場は、電波遮蔽体である金属壁に囲まれた場所であるため、例えばWi-Fi等を用いて外部へ連絡することができない。従って、作業者が実際に電波遮材料で閉鎖された空間の外部まで報告のために移動したり、有線で通信を行うために外部までケーブルを引き出すなどの作業を行わなくてはならない。しかし、このような方法では、作業者にとっての作業負担が増加する可能性がある。
【0005】
本発明は、このような課題を解決するためになされたものであり、電波遮材料で閉鎖された空間の外部へ容易に情報を伝達することができる通信システム、及び工程管理システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る通信システムは、電波遮材料で閉鎖された空間内の作業現場に配置される通信部を備え、通信部は、作業現場と外部との間で、電波遮材料に設けられた作業口を介して電波を通信する。
【0007】
このような通信システムでは、電波遮材料で閉鎖された空間内の作業現場に通信部が配置される。そして、通信部は、作業現場と外部との間で、電波遮材料に設けられた作業口を介して電波を通信する。このように、通信部が、作業口を通過できる電波を用いることにより、無線で外部との通信が可能となる。以上により、電波遮材料で閉鎖された空間の外部へ容易に情報を伝達することができる。
【0008】
ここで、本発明者らは、金属構造物の内部の作業現場から作業口を介して通信する場合に、低周波数帯の電波に着目した。このような低周波数帯の電波は、極端に通信速度が遅いため、他の通信の分野では用いられておらず、且つ、注目もされていない周波数帯である。これに対し、本願発明者らは、鋭意研究の結果、金属構造物の内部の作業現場という極めて特殊な環境下においては、低周波数帯の電波が有効であることを見出し、更に研究を進めることで、430MHz以下の低周波数帯の電波が好適であることを見出すに至った。従って、通信部は、430MHz以下の低周波数帯の電波を通信してよい。この場合、通信部は、作業口を用いて良好に情報を外部に伝達することができる。
【0009】
作業口は、作業者の出入り用のマンホールと、電波を通過させる開口とを兼用してよい。この場合、電波遮材料に形成される孔の数を抑制できる。
【0010】
外部には、通信部からの電波を受信する受信部が配置され、通信部は、所定の情報を符号化した符号化情報を受信部へ送信し、受信部は、予め設定されたデータテーブルと符号化情報とを照会することで、所定の情報を取得してよい。作業口を介して電波を通信するために、通信速度が遅い電波を用いる場合がある。通信部及び受信部が符号化情報を用いて情報量を減らすことで、通信速度の遅い電波を用いて、良好な通信を可能とすることができる。
【0011】
作業現場に配置され、所定の情報を入力するための入力部を更に備え、入力部は、ICカードを読み取るRFIDリーダーと、RFIDリーダーでICカードを読み取り可能な状態で保持する保持部と、を備えてよい。保持部が、RFIDリーダーでICカードを読み取り可能な状態で保持することで、RFIDリーダーは、保持されたICカードを繰り返し読み込むことができる。従って、RFIDリーダーによる読み込みエラー、及び送信部による送信エラーが起きた場合などに、RFIDリーダーが再度ICカードを読み込み、送信部が再度工程進捗情報を送信することができる。
【0012】
本発明に係る工程管理システムは、単一のワークに対して行われる連続した単一の作業について、当該単一の作業の工程進捗状況の管理を行う工程管理システムであって、上述の通信システム、及び表示部を備え、通信システムは、作業現場に配置され、当該作業の工程進捗状況を示す工程進捗情報を入力するための入力部と、入力部で入力された工程進捗情報を電波によって送信する通信部と、外部に配置され、通信部から送信された工程進捗情報を受信する受信部と、を備え、表示部は、受信部で受信された工程進捗情報を表示する。
【0013】
このような工程管理システムは、作業現場に配置され、当該作業の工程進捗状況を示す工程進捗情報を入力する入力部を備えている。従って、作業者は、工程進捗情報を作業現場でその場で入力することができる。すなわち、作業者は、工程進捗情報を報告するために長時間作業を中断する必要がなくなる。このように入力された工程進捗情報は、通信部によって送信されて受信部にて受信される。そして、表示部は、受信部で受信された工程進捗情報を表示することができる。従って、管理者は、各作業現場で入力された工程進捗情報を表示部を介して速やかに把握することができる。また、工程進捗情報をデータとしてやり取りすることが可能となることで、管理者は、現場以外の表示部でも、工程進捗状況を確認することができる。以上より、単一のワークに対して連続した単一の作業について、容易に工程進捗状況を把握することができる。
【発明の効果】
【0014】
このように本発明によれば、電波遮材料で閉鎖された空間の外部へ容易に情報を伝達することができる通信システム、及び工程管理システムを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施形態に係る通信システム及び工程管理システムの構成を示す概略システム図である。
【
図2】作業現場である鋼構造物内での作業者の作業の様子を示す概略図である。
【
図4】工程進捗状況の管理手順を説明するための概念図である。
【
図6】工程進捗情報を符号化した符号化情報の一例を示す図である。
【
図9】比較例に係る通信システムを示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して種々の実施形態について詳細に説明する。なお、各図面において同一又は相当の部分に対しては同一の符号を付し、重複する説明を省略する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る通信システム200及び工程管理システム100の構成を示す概略システム図である。工程管理システム100は、
図1に示すように、工程管理システム100は、作業建屋B1に配置される入力装置1及び管理装置2Aを備える通信システム200と、監督建屋B2や事務建屋B3などに配置される管理装置2Bと、を備える。入力装置1は、作業建屋B1の各作業現場(鋼構造物50内)において作業者が作業の工程進捗状況を入力するための装置である。管理装置2Aは、作業建屋B1において、各入力装置1で入力された工程進捗情報を集約すると共に、作業の工程進捗状況を出力するための装置である。管理装置2Bは、管理装置2Aから情報を受信し、作業の進捗状況を出力するための装置である。管理装置2A,2Bは、各種情報処理を行う情報処理部3と、工程進捗状況を表示する表示部4と、を備える。
【0018】
工程管理システム100は、単一のワークに対して行われる連続した単一の作業について、当該単一の作業の工程進捗状況の管理を行うシステムである。このような作業は、非常に大きな同一のワークに対して同じ動作を長時間行うような作業である。例えば、小さい製品の製造ラインでは、一人の作業者が単一の作業を長時間繰り返すが、作業対象となるワークは、短時間ですぐに切り替わる。すなわち、このような作業の工程進捗状況の管理は、「複数のワークに対して、ワーク毎に断続的に行われる単一の作業」の工程進捗状況を管理するものであり、本実施形態に係る工程管理システム100とは異なる。また、一箇所の作業現場で一人または数人の作業者が一つの製品を製造するとき、一つのワークに対する作業が行われるが、作業内容自体は短時間ですぐに切り替わる。すなわち、このような作業の工程進捗状況の管理は、「単一のワークに対して行われる複数の作業」の工程進捗状況を管理するものであり、本実施形態に係る工程管理システム100とは異なる。工程管理システム100は、複数の作業建屋B1の複数の場所で行われる作業について、各々の作業の工程進捗状況を把握及び管理することができるシステムである。
【0019】
まず、
図2及び
図3を参照して、工程管理システム100の管理対象となる作業について説明する。
図2は、鋼構造物50の内部の作業現場55での作業者の作業の様子を示す概略図である。
図3は、鋼構造物50の一部を示す斜視図である。なお、
図3では、内部構成を示すために天井側の鋼板が省略されている。本実施形態では、このような作業として、鋼構造物50の内部(電波遮材料で閉鎖された空間内)で行われる溶接作業を例示する。鋼構造物50として、船舶の船体の一部を構成する造船ブロックなどが例示される。
図2及び
図3に示すように、鋼構造物50は、鋼板で構成される箱状の構造物であり、四方及び上下を外壁51で囲まれると共に、内部空間も内壁52でマス目状に仕切られている。外壁51及び内壁52には、作業者が通過するための開口部である作業口53が形成されている(
図3参照)。また、各部屋内には、補強部材などが存在している。
【0020】
各作業者は、各部屋内で、壁部同士や補強部材を溶接する。小型の部品を溶接するような作業とは異なり、鋼構造物50では、一箇所当たりの溶接作業に長時間を要する。例えば一部屋の一辺あたりの内壁52を単一のワークと見なした場合、長さL1(
図2参照)にわたって、連続した単一の溶接作業を行う必要がある。このように、鋼構造物50では、単一のワークに対する連続した単一の作業に長時間を要するため、各作業箇所での進捗状況の管理が重要となる。作業者は、作業場所の近くに溶接送給機7及び入力装置1を設置した状態で、溶接作業を行う。溶接送給機7及び入力装置1は、少なくとも作業者が作業を行っている部屋内に配置される。作業者が溶接作業の進行に伴って移動したら、溶接送給機7及び入力装置1は、当該作業者の移動に伴って移動する。鋼構造物50の外側には、管理装置2Aが配置される。管理装置2Aは、鋼構造物50内のそれぞれの作業者が入力装置1に入力した工程進捗情報を受信して、当該情報を集約する。
【0021】
なお、
図1では、作業建屋B1内に一つの管理装置2Aが存在し、当該管理装置2Aが複数の鋼構造物50内の入力装置1からの工程進捗情報を受信している。これに代えて、一つの鋼構造物50に対して一つの管理装置2Aを設けてもよい。このとき、複数の管理装置2Aが、他の建屋B2,B3の管理装置2Bに工程進捗情報を送信してよい。また、作業建屋B1の中に複数の管理装置2Aの工程進捗情報を集約する管理装置2Bを設け、当該管理装置2Bが、他の建屋B2,B3の管理装置2Bへ集約した工程進捗情報を送信してよい。
【0022】
ここで、工程管理システム100において、どのように工程進捗状況の管理が行われるかについて、
図4を参照して説明する。まず、一日の作業の開始時間までに、各作業者の作業計画が予め決められる。このとき、作業量と完成時間とを紐付けた作業ロットが設定される。
図4(a)では、例えば、9時、10時及び11時までに完成させておくべき溶接量が作業ロットとして設定されている。なお、ワークには、各時刻に対する作業ロットに対応する位置に、ラベルなどが貼られてもよい。実際の作業が開始されると、作業者は、9時の作業ロット分の溶接作業が完了したら、9時の作業ロットが完了したことを入力する。当該入力が行われた時間は、9時の作業ロットの完了時間として取得される。例えば、作業者Aは、9時10分に9時の作業ロットを完了している。これにより、
図4(b)に示すように、表示部4は、作業者、作業ロットの内容、及び完了時間を紐付けた状態で表示する。なお、
図4(b)に示す情報から、管理者は、作業者Aは全体的に作業が遅れ、作業者Bは作業が早く、作業者Cは概ね時間通りに作業を行うことを把握することができる。
【0023】
次に、
図5を参照して、工程管理システム100のブロック構成について説明する。
図5は、工程管理システム100のブロック構成図である。
図5では、一台の入力装置1及び一台の管理装置2Aだけが示されている。
図5に示すように、入力装置1は、情報処理部11と、入力部20と、を備える。管理装置2Aは、情報処理部3と、表示部4と、を備える。
【0024】
入力装置1の入力部20は、作業が行われる作業現場55に配置され、当該作業の工程進捗状況を示す工程進捗情報を入力するための部分である。すなわち、作業者によってなされる情報入力のための操作を受け付ける部分である。入力部20は、RFIDリーダー10を備えている。入力部20は、RFIDリーダー10で作業者のICカードを読み取ることによって、工程進捗情報を取得する。なお、ICカードには、行われている工程名、作業者の名前、ロット名が少なくとも予め登録されている。入力部20は、入力された工程進捗情報を情報処理部11へ送信する。なお、入力部20の具体的な構成については、後述する。
【0025】
管理装置2Aの表示部4は、入力装置1から受信した工程進捗情報を表示する装置である。表示部4は、設置型のモニタなどによって構成されてよい。または、表示部4が情報処理部3と無線で通信可能である場合、表示部4は、スマートフォンやタブレット端末のモニタなど、携帯側のモニタによって構成されてもよい。
【0026】
情報処理部3,11は、プロセッサ、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを備え、一般的なコンピュータとして構成されている。プロセッサは、CPU(Central Processing Unit)などの演算器である。メモリは、ROM(Read Only Memory)やRAM(Random Access Memory)などの記憶媒体である。ストレージは、HDD(Hard Disk Drive)などの記憶媒体である。通信インターフェースは、データ通信を実現する通信機器である。ユーザインターフェースは、液晶やスピーカなどの出力器、及び、キーボードやタッチパネルやマイクなどの入力器である。プロセッサは、メモリ、ストレージ、通信インターフェース及びユーザインターフェースを統括し、後述する情報処理部3,11の機能を実現する。情報処理部3,11では、例えば、ROMに記憶されているプログラムをRAMにロードし、RAMにロードされたプログラムをCPUで実行することにより各種の機能を実現する。情報処理部3,11は、複数のコンピュータから構成されていてもよい。
【0027】
入力装置1の情報処理部11は、入力装置1の各種情報処理を行う部分である。また、情報処理部11は、入力部20で入力された工程進捗情報を管理装置2Aへ送信する送信部としても機能する。情報処理部11は、符号化部12と、通信部13と、を備える。
【0028】
管理装置2Aの情報処理部3は、管理装置2Aの各種情報処理を行う部分である。また、情報処理部3は、情報処理部11から送信された工程進捗情報を受信する受信部としても機能する。情報処理部3は、複合部16と、通信部17と、記憶部18と、を備える。
【0029】
通信部13,17は、外部と電波のやりとりを行うことで、情報の送受信を行う部分である。本実施形態では、通信部13が通信部17へ向けて工程進捗情報を送信する。通信部13と通信部17とは、電波を用いて無線で通信を行うことができる。従って、情報処理部11は、無線で工程進捗情報を情報処理部3へ送信することができる。なお、管理装置2Aの通信部17は、他の管理装置2B(
図1参照)へ工程進捗情報を送信することができる。
【0030】
ここで、入力装置1と管理装置2Aとの間の無線通信手段について詳細に説明する。入力装置1が配置されているのは、鋼構造物50の内部である(
図2参照)。すなわち、入力装置1は、周囲が電波遮蔽体である鋼板に囲まれている。このように、入力装置1は、電波伝播障害が起こりやすい場所に配置されている。また、入力装置1の近くでは溶接機による溶接が行われ得るため、電波に対するノイズが発生している。このように、通常の工場のラインなどとは異なり、溶接作業は特殊な環境下にて行われるため、Wi-Fi等の通常用いられる無線通信手段を用いることができない。
【0031】
従って、通信部13,17は、作業現場55と外部との間で、鋼構造物50に設けられた作業口53を介して電波を通信する。具体的に、通信部13,17は、低い周波数帯の電波を用いた無線通信手段を用いる。低い周波数帯の電波は、回折及び反射の特性が強くなる。また、この無線通信手段の周波数は、作業口53の径と周波数の限界等を考慮した上で設定される。このとき、作業口53は、作業者の出入り用のマンホールと、電波を通過させる開口とを兼用している。更に、無線通信手段は、溶接機からのノイズを受けないように、ノイズに強い変調方式を採用している。例えば、通信部13,17は、429MHz以上、430MHz以下、好ましくは429.250MHz以上、429.7375MHz以下の低周波数帯の電波を通信してよい。また、ノイズに強い変調方式としてLoRa変調方式を採用してよい。勿論、変調方式はこれに限定されるものではない。
図3に示すように、鋼構造物50内部の部屋R1に入力装置1を配置する。入力装置1は、低い周波数帯の電波MWを用いているため、鋼構造物50内で反射・回折を行うことができる。従って、外壁51の作業口53から、広い角度で電波MWが拡散してゆく。また、部屋R1と隣合う部屋R2内でも電波MWが反射・回折を繰り返すため、当該部屋R2の作業口からも、広い角度で電波MWが拡散してゆく。なお、高い周波数の電波MWを用いた場合、部屋R1,R2内での反射・回折があまり行われないため、部屋R1,R2内での電波の強度も低く、作業口53から出るときも拡散することなく、真っ直ぐな方向付近でしか通信が行えない。
【0032】
低い周波数帯の電波は、上述のように鋼構造物50内から通信を行うのに適している。しかし、このような電波は、周波数が低いことに起因し、極端に通信速度が遅いという問題がある。従って、入力装置1は、工程進捗情報を符号化した符号化情報を管理装置2Aへ送信する。また、管理装置2Aは、予め設定されたデータテーブルと符号化情報とを照会することで、工程進捗情報を取得する。具体的には、符号化部12は、工程進捗情報を符号化する。そして、通信部13は、工程進捗情報を符号化情報として通信部17へ送信する。複合部16は、通信部17から符号化情報を受信して、当該符号化情報を複合化することで、工程進捗情報を取得する。複合部16は、記憶部18に記憶されたデータテーブルと符号化情報とを照会することで、工程進捗情報を取得する。
【0033】
図6は、工程進捗情報を符号化した符号化情報の一例を示す図である。符号化状情報は、アルファベットと数字のシンプルな組み合わせによって符号化されたものである。
図6に示す例では、符号化情報は、「工程名」、「作業者」、「ロット名」、及び「読み取り時刻」という四つの項目によって構成されている。「工程名」は、工程進捗情報の入力を行った作業者が、どの工程を行っているかの種別を示している。工程名に対応したアルファベットが予め設定されている。「作業者」は、工程進捗情報の入力を行った作業者の名前を示している。作業者の名前に対応したアルファベットが予め設定されている。「ロット名」は、作業者が入力を行ったロット名を示している。ロット名に対応した数字が予め設定されている。「読み取り時刻」は、作業者が工程進捗情報の入力を行ったときの時刻を示している。なお、「工程名」、「作業者」及び「ロット名」は、RFIDリーダー10が読み取るICカードに登録された情報であり、予め符号化部12によって「工程名」、「作業者」及び「ロット名」のそれぞれの項目に対して、対応するアルファベットや数字を割り振り、符号化されてラベルに記載される。「読み取り時刻」は、RFIDリーダー10がICカードを読み取った時に自動的に登録される情報である。符号化部12は、符号化した情報に対して、登録された時刻を紐付ける。
【0034】
複合部16は、符号化情報を取得する。そして、複合部16は、記憶部18に記憶されたデータテーブルに複合化情報を照らし合わせる。データテーブルには、各項目とアルファベットまたは数字との対応関係が予め設定されている。よって、複合部16は、「A A 01 1020」という符号化情報を取得したら、データテーブルの中から「工程名」という項目を検索する。そして、複合部16は、「工程名」の中から「A」を検索し、当該「A」が「溶接」に対応していることを取得する。複合部16は、同様の手順で他の項目についてもデータテーブルと照らし合わせて取得する。また、複合部16は、「1020」という数字から、時刻を把握する。以上により、複合部16は、符号化情報を複合化することで、もとの工程進捗情報へ復元することができる。複合部16は、複合化した工程進捗情報を表示部4へ送信する。
【0035】
次に、
図7及び
図8を参照して、入力部20の構成及び動作について詳細に説明する。
図7は、入力部20の構成を示す図である。
図8は、入力部20の動作を示す概念図である。
図7(a)に示すように、入力部20は、ICカード30を読み取るRFIDリーダー10と、RFIDリーダー10でICカード30を読み取り可能な状態でICカード30を保持する保持部25と、を備える。保持部25は、ICカード30を収容可能な箱型の形状を有している。また、保持部25は、収容したICカード30をRFIDリーダー10が読み取り可能な位置に収容できる。保持部25は、複数枚のICカード30を同時に保持することができる。保持部25は、溶接送給機7に取り付けられている。保持部25は、溶接送給機7に接合される後壁部26と、後壁部26と対向する前壁部21と、後壁部26と前壁部21とを両端側で接続する側壁部22,22と、底部23と、を備える。RFIDリーダー10は、後壁部26に設けられている。従って、後壁部26と前壁部21との間に配置されたICカード30は、RFIDリーダー10によって読み込まれる。ICカード30は、保持部25に収容された後は、RFIDリーダー10と対向する位置にて保持されるため、RFIDリーダー10によって繰り返し読み込まれる。なお、保持部25は、複数枚のICカード30を重ね合わせた状態で保持することができる。例えば、一日の作業で8枚のICカード30が用いられる場合、保持部25は、8枚分のICカード30を全て保持することができる。
【0036】
図8に示すように、作業者は、所定の時間の作業ロットが完了したら、入力部20に対応するICカードを挿入する。そして、次の作業ロットが完了したら、作業者は、入力部20に対応するICカード30を更に挿入する。このように、入力部20に保持されるICカード30は、作業の進行と共に増えてゆく。入力部20は、挿入されたICカード30の情報を繰り返し読み込み、情報処理部11は工程進捗情報として繰り返し送信する。入力部20は、挿入された全てのICカード30の情報を読み込むことができる。
【0037】
入力部20のICカード30の読み込み態様について具体的に説明する。作業者は、予め定められた作業ロットに対応する複数のICカード30を持っている。まず、作業者が9時のロットに対応する作業を終えたら、9時の作業ロットに対応するICカード30を入力部20に挿入する。このとき、入力部20は、ICカード30の情報を読み込むと共に、1回目に読み込んだときの時刻を作業ロットの完了時刻として設定する(
図8では、9時5分)。なお、入力部20がICカード30の読み込みに失敗したときでも、入力部20は繰り返し読み込みを行うため、いずれかのタイミングでICカード30の情報を取得可能である。入力部20は、入力された情報と設定した時刻を工程進捗情報として取得し、情報処理部11は管理装置2Bへ送信する。ここでは、入力部20は、1回目の送信で管理装置2Bへの送信に成功している。なお、成功した以降も、入力部20は、同じ工程進捗情報を繰り返し読み込み、情報処理部11は繰り返し送信し続ける。
図8では省略しているが、入力部20は、他の作業ロットに対応するICカード30が挿入された後も、9時の作業ロットに対応するICカード30を保持している限り、当該9時のロットの工程進捗情報を読み込み続ける。
【0038】
次に、10時の作業ロットが完了したら、作業者は、10時の作業ロットに対応するICカード30を入力部20に挿入する。入力部20は、ICカード30の読み込みと完了時刻の設定を行う(
図8では10時5分)ことで工程進捗情報として取得し、情報処理部11が管理装置2Bへ送信する。しかし、当該時刻における入力装置1の位置が電波状態の悪い位置であり、情報処理部11は、管理装置2Bへの送信に失敗する。しかし、入力部20は、工程進捗情報を繰り返し読み込むと共に、情報処理部11は繰り返し送信する。従って、溶接作業の進行に伴って入力装置1が電波状態の良い位置に達した時に、情報処理部11は、管理装置2Bへの工程進捗情報の送信に成功する。なお、入力部20は、新たな作業ロットのICカード30を読み込んだ時は、初回に読み込みに成功したときの時刻を設定する。入力部20は、当該作業ロットのICカード30を繰り返し読み込むが、二回目以降に読み込んだ時に時刻を更新するわけではなく、初回に設定した時刻を維持する。従って、情報処理部11は、工程進捗情報の送信に成功したときの時刻を送信するのではなく、初回に10時の作業ロットのICカードを読み込んだときの時刻(10時5分)を送信する。これにより、情報処理部11は、作業者が10時の作業ロットを完了したときの時刻を正しく送信することができる。
【0039】
次に、11時の作業ロットが完了したら、作業者は、11時の作業ロットに対応するICカード30を入力部20に挿入する。入力部20は、ICカード30の読み込みと完了時刻の設定を行う(
図8では11時5分)ことで工程進捗情報を取得し、情報処理部11が管理装置2Bへ送信する。ここでは、情報処理部11は、11時の作業ロットの工程進捗情報の送信に繰り返し失敗し、入力部20に次の12時の作業ロットに対応するICカード30の挿入が行われている。このとき、入力部20は、保持しているICカード30の工程進捗情報の全てについて、繰り返し読み込みを行い、情報処理部11が繰り返し送信しているため、次に送信に成功したとき、管理装置2Bは、11時の作業ロットの工程進捗情報と12時の作業ロットの工程進捗情報を同時に受信できる。入力部20及び情報処理部11は、以降の作業ロットのICカード30に対しても、同様の処理を行う。
【0040】
次に、本実施形態に係る工程管理システム100の作用・効果について説明する。
【0041】
まず、比較例に係る工程管理方法について説明する。比較例に係る工程管理方法では、作業者が特定時刻における作業ロットの作業を完了させると、当該作業ロットのペースカードを掲示板まで持って行う。掲示板は、鋼構造物50の外部の、作業建屋B1の所定位置に設置されている。これにより、管理者は、掲示板を参照することで、工程進捗状況を把握することができる。しかしながら、このような工程管理方法では、作業者がペースカードを掲示板まで貼りに行かなくてはならず、多大な手間がかかっていた。また、その間は溶接作業も中断しなくてはならない。また、管理者も、現場に設けられた掲示板まで行かなくては工程進捗状況を把握することができず、情報の把握に手間がかかっていた。また、ペースカードの貼付けに手間がかかるため、貼付け頻度を増やすことができず、管理者は、工程進捗状況を細かく把握することが難しい。
【0042】
また、
図9に示すように、比較例に係る通信システム300では、鋼構造物50内の入力装置1と管理装置2Aとは、ケーブル40を用いて有線で接続されている。この場合、作業現場55の入力装置1から外部の管理装置2Aまでケーブル40を引き出す作業を行わなくてはならず、作業負担が増加する。このとき、狭くて数の少ない作業口53からケーブル40を引き出さなくてはならず、更に作業負担が大きくなる。また、作業の進行に伴って溶接送給機7及び入力装置1を移動させるとき、ケーブル40が邪魔になるため、作業中の負担も大きくなる。
【0043】
これに対し、通信システム200では、鋼構造物50の内部の作業現場55に通信部13を有する入力装置1が配置される。そして、通信部13は、作業現場55と外部との間で、鋼構造物50に設けられた作業口53を介して電波を通信する。このように、通信部13が、作業口53を通過できる電波を用いることにより、無線で外部との通信が可能となる。以上により、鋼構造物50の外部へ容易に情報を伝達することができる。
【0044】
また、通信システム200では、鋼構造物50の内部の作業現場55の情報処理部11から、鋼構造物50の外部に存在する情報処理部3へケーブルを延ばす必要がなくなる。無線による通信を採用すれば、
図9の有線の通信システム300のような手間がかからない。
【0045】
通信部13は、430MHz以下の低周波数帯の電波を通信する。この場合、通信部13は、作業口53を用いて良好に情報を外部に伝達することができる。
【0046】
作業口53は、作業者の出入り用のマンホールと、電波を通過させる開口とを兼用している。この場合、鋼構造物50に形成される孔の数を抑制できる。
【0047】
外部には、通信部13からの電波を受信する情報処理部11が配置され、情報処理部11は、符号化部12で工程進捗情報を符号化した符号化情報を情報処理部3へ送信し、情報処理部3は、複合部16にて、予め設定されたデータテーブルと符号化情報とを照会することで、工程進捗情報を取得する。鋼構造物50内は、情報処理部11が通信を行い難い場所であるため、情報処理部3へ工程進捗情報を送信するために、情報処理部11が低周波数帯で通信を行う。情報処理部11,3が符号化情報を用いて情報量を減らすことで、通信速度の遅い低周波数帯においても、良好な通信を可能とすることができる。
【0048】
作業現場55に配置され、所定の情報を入力するための入力部20を更に備え、入力部20は、ICカード30を読み取るRFIDリーダー10と、RFIDリーダー10でICカード30を読み取り可能な状態でICカード30を保持する保持部25と、を備える。保持部25が、RFIDリーダー10でICカード30を読み取り可能な状態で保持することで、RFIDリーダー10は、保持されたICカード30を繰り返し読み込むことができる。従って、RFIDリーダー10による読み込みエラー、及び情報処理部11による送信エラーが起きた場合などに、RFIDリーダー10が再度ICカードを読み込むことができ、情報処理部11が再度工程進捗情報を送信することができる。
【0049】
工程管理システム100は、単一のワークに対して行われる連続した単一の作業について、当該単一の作業の工程進捗状況の管理を行う工程管理システム100であって、上述の通信システム200、及び表示部4を備え、通信システム200は、作業現場に配置され、当該作業の工程進捗状況を示す工程進捗情報を入力するための入力部20と、入力部20で入力された工程進捗情報を電波によって送信する情報処理部11と、外部に配置され、情報処理部11から送信された工程進捗情報を受信する情報処理部3と、を備え、表示部4は、情報処理部3で受信された工程進捗情報を表示する。
【0050】
このような工程管理システム100は、作業現場55に配置され、当該作業の工程進捗状況を示す工程進捗情報を入力する入力部20を備えている。従って、作業者は、工程進捗情報を作業現場でその場で入力することができる。すなわち、作業者は、工程進捗情報を報告するために掲示板まで行く必要がなく、長時間作業を中断する必要がなくなる。このように入力された工程進捗情報は、情報処理部11によって送信されて情報処理部3にて受信される。そして、表示部4は、情報処理部3で受信された工程進捗情報を表示することができる。従って、管理者は、各作業現場で入力された工程進捗情報を表示部4を介して速やかに把握することができる。また、工程進捗情報をデータとしてやり取りすることが可能となることで、管理者は、現場以外の表示部4でも、工程進捗状況を確認することができる。例えば、監督建屋B2や事務建屋B3の表示部4でも工程進捗情報を確認することができ、管理者が有しているスマートフォンなどでも工程進捗情報を確認することができる。以上より、単一のワークに対して行われる連続した単一の作業について、容易に工程進捗状況を把握することができる。
【0051】
本発明は、上述の実施形態に限定されるものではない。
【0052】
例えば、上述の実施形態では、単一のワークに対して連続した単一の作業を行う例として船舶の構造部品に対する溶接作業を例示した。これに代えて、艤装工程、電装工程、仮留工程などの作業の管理がなされてもよい。また、鋼構造物50内での作業のみならず、ドックや船内等の作業現場での作業に対して工程管理システム100が適用されてもよい。本発明に係る通信システムは、電波遮材料で閉鎖された空間内で行われる作業であれば、幅広い作業に適用可能である。
【符号の説明】
【0053】
1…入力装置、3…情報処理部(受信部)、4…表示部、10…RFIDリーダー、13…通信部、20…入力部、25…保持部、30…ICカード、50…鋼構造物、53…作業口、55…作業現場、100…工程管理システム、200…通信システム。