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特許7277255インビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】インビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/02 20060101AFI20230511BHJP
   C12N 5/0783 20100101ALI20230511BHJP
   G01N 33/53 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C12Q1/02
C12N5/0783
G01N33/53 Y
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019097732
(22)【出願日】2019-05-24
(65)【公開番号】P2019208501
(43)【公開日】2019-12-12
【審査請求日】2022-04-12
(31)【優先権主張番号】P 2018104322
(32)【優先日】2018-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】521013219
【氏名又は名称】大矢 佳寛
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大矢 佳寛
(72)【発明者】
【氏名】松村 竜太郎
【審査官】田中 晴絵
(56)【参考文献】
【文献】特表2017-537972(JP,A)
【文献】国際公開第2018/024894(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/126940(WO,A1)
【文献】Anya Schneider et al,The Effector T Cells of Diabetic Subjects Are Resistant to Regulation via CD4+FOXP3+ Regulatory T Cells,Journal of Immunology,2008年,181(10),7350-7355
【文献】Shuang Wei et al,Plasmacytoid Dendritic Cells Induce CD8+ Regulatory T Cells In Human Ovarian Carcinoma,Cancer Research,2005年,65(12),5020-5026
【文献】Uri Sela et al,Dendritic cells induce antigen-specific regulatory T cells that prevent graft versus host disease and persist in mice,Journal of Experimental Medicine,208(12),2011年,2489-2496
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00-3/00
C12N 5/0783
G01N 33/53
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第一の制御性細胞、第一の被抑制細胞第二の被抑制細胞、及び、第三以上の被抑制細胞の中から少なくとも二つ選択される被抑制細胞と、を準備する準備工程と、
第一の抗原を前記第一の制御性T細胞に提示して、前記第一の抗原により前記第一の制御性T細胞を活性化させる抗原提示工程と、
前記第一の制御性T細胞と、前記第一の被抑制細胞前記第二の被抑制細胞及び、第三以上の被抑制細胞の中から少なくとも二つ選択される被抑制細胞と、を共培養し、前記第二の被抑制細胞,、ならびに第三以上の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、前記第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、前記第一の制御性T細胞は前記第一の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定する判定工程を有することを特徴とする、インビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法。
【請求項2】
第一の抗原及び第二の抗原を前記第一の制御性T細胞に提示して、前記第一の抗原により前記第一の制御性T細胞を活性化させる抗原提示工程を有することを特徴とする請求項1に記載のインビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法。
【請求項3】
第一の制御性T細胞、第二の制御性T細胞、第一の被抑制細胞、及び、第二の被抑制細胞、を準備する準備工程と、
第一の抗原及び第二の抗原を前記第一の制御性T細胞に提示して、前記第一の抗原により前記第一の制御性T細胞を活性化させ、更に、第一の抗原及び第二の抗原を前記第二の制御性T細胞に提示して、前記第二の抗原により前記第二の制御性T細胞を活性化させる抗原提示工程と、
前記第一の制御性T細胞と、前記第一の被抑制細胞及び前記第二の被抑制細胞と、を共培養し、前記第二の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、前記第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、前記第一の制御性T細胞は前記第一の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定し、
前記第二の制御性T細胞と、前記第一の被抑制細胞及び前記第二の被抑制細胞と、を共培養し、前記第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、前記第二の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、前記第二の制御性T細胞は前記第二の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定する判定工程と、
を有することを特徴とする、インビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法。
【請求項4】
前記制御性T細胞は、Foxp3陽性の制御性T細胞又はIL-10産生性の制御性T細胞であることを特徴とする請求項1乃至3の何れか1項に記載のインビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法に関する。
【背景技術】
【0002】
生体内には、リンパ球の恒常性を維持するため、サイトカイン、細胞表面分子等様々な制御機構が存在する。リンパ球分画のなかにも免疫抑制作用のあるリンパ球分画が複数報告されている。なかでも制御性T細胞(以下、Tregと略することがある。)はCD4+CD25+を表面マーカーにもつ抑制性リンパ球として発見された(非特許文献1)。その後、Foxp3がTregの制御性T細胞のマスター転写因子であることが明らかにされ(非特許文献2)、自己免疫疾患、感染症、移植免疫、悪性腫瘍(非特許文献8)など様々な病態の発症において免疫応答を抑制していることが知られている。
【0003】
制御性T細胞は細胞表面にT細胞レセプター(TCR)を発現しており、特異的な抗原に応答したときのみ活性化し、抑制作用を発揮する。即ち制御性T細胞は目的の抗原に対する免疫応答を抑制できる手法と考えられており、抗原特異性を用いた移植医療への応用例等が次々と報告されている(非特許文献5、6、7)。そのためしばしば、制御性T細胞は「抗原特異的な抑制作用を有する」と表現される。しかし被抑制細胞に焦点を当てて考えた場合、制御性T細胞が抑制作用を発揮する際、周囲に存在する被抑制細胞をあまねく非特異的に抑制してしまうのか、それともその抗原に応答する細胞だけを特異的に抑制するのかについては未だ明らかでない。それは非特異的であるとの報告もあるものの(非特許文献4)、その評価手法については検討の余地が残されている。従って厳密には、制御性T細胞は「抗原特異的に抑制力が起動されるが、その結果、被抑制細胞が抗原特異的に抑制されるか否かは未だ明らかでない」と表現するのが現状の理解である。
【0004】
即ち、制御性T細胞の抗原特異性を考える際、まず、制御性T細胞自体が活性化され、抑制力が発揮されるまでの条件が抗原特異的であるか否かという観点(活性化特異性(I)、とここで呼ぶことにする)と、制御性T細胞が活性化された後、被抑制細胞を抑制する際に、意図する特異的な被抑制細胞だけが抑制されるのか、それとも制御性T細胞の近傍に存在する被抑制細胞があまねく非特異的に抑制されるのかという観点(被抑制細胞の特異性(II)、とここで呼ぶことにする)の2点に分けて考えることができる。前者の観点は既に特異的であるという報告が複数あり、公知であるが(特許文献1)、後者の観点については未だ評価方法が定まっておらず未知である。
【0005】
制御性T細胞の免疫抑制力の定量評価をインビトロで行う方法は数多く知られており、そのひとつに、制御性T細胞と被抑制細胞との共培養にて行う手法が知られている。この手法においては、共培養した被抑制細胞の増殖の強度を測定する。この増殖が減弱される程度を測定することで、制御性T細胞の抑制力が評価される。増殖の強度は、培養前に細胞を色素染色しその色素の減衰をフローサイトメトリーで測定する方法や、放射性同位体の3H-サイミジンの取り込み量を測定する手法等が用いられる(非特許文献5,6及び7)。
【0006】
この手法を用いることで、特異的な抗原に刺激された制御性T細胞だけが抑制作用を発揮し、被抑制細胞を抑制することが判明している。即ち、制御性T細胞が活性化特異性(I)を有することは、これらの解析方法から得られた公知の知見である。しかし、これらの手法では、被抑制細胞の特異性(II)は明らかにできない。即ち、従来の制御性T細胞の抑制力評価法は、制御性T細胞の抑制力の強さだけを評価する方法であり、すべての被抑制細胞が一様に抑制されたのか、意図した細胞だけが抑制され、残りは抑制されていないのか、を区別することは不可能である。
【0007】
意図する特異的な被抑制細胞だけが抑制されるのか、という問題は免疫抑制療法において実は極めて重要な関心事である。現在臨床で使われているほとんどの免疫抑制剤の作用は、生体内のリンパ球クローンに非特異的に作用するため、生存にとって必須なクローンも同時にあまねく抑制してしまう。そのため、感染症、発癌のリスクを増加させてしまうという大きな問題を抱えている。もし抗原特異的な被抑制細胞だけを抑制できるという特徴を有する免疫抑制療法が存在すればそれは従来の免疫抑制剤の問題点を克服できる可能性を示している。制御性T細胞はその可能性が示唆されているが、生体投与前にその抗原特異性を評価する方法が確立されておらず、制御性T細胞を安全に応用することができない。そのため、インビトロにおける制御性T細胞の抗原特異性の評価方法の開発が切に望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2004-208548号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】Immunologic self-tolerance maintained by activated T cells expressing IL-2 receptor α-chains (CD25). Breakdown of a single mechanism of self-tolerance causes various autoimmune diseases. Sakaguchi, S., Sakaguchi, N., Asano, M. et al. J. Immunol., 155, 1151-1164 ,1995
【文献】Foxp3 programs the development and function of CD4+CD25+ regulatory T cells. Fontenot, J. D., Gavin, M. A. & Rudensky, A. Y. Nat. Immunol., 4, 330-336 ,2003
【文献】CD4+CD25+Foxp3+ T cells and CD4+CD25-Foxp3+ T cells in aged mice. Nishioka, T., Shimizu, J, Iida, R., Yamazaki, S., and Sakaguchi, S. J. Immunol. 176:6586-6593, 2006.
【文献】Suppressor Effector Function of CD4+CD25+ Immunoregulatory T Cells IsAntigen Nonspecificm, Angela M. Thornton, J. Immunol. 2000;164;183-190
【文献】Dendritic cells expand antigenspecific Foxp3+CD25+CD4+ regulatory T cells including suppressors of alloreactivity, Sayuri Yamazaki, Immunological Reviews 2006,Vol. 212: 314-329
【文献】Dendritic cells induce antigen-specific regulatory T cells that prevent graft versus host disease and persist in mice, Uri Sela, The Rockefeller University Press, November 14, 2011
【文献】Effective expansion of alloantigen-specific Foxp3 CD25+CD4+regulatory T cells by dendritic cells during the mixed leukocyte reaction Sayuri Yamazaki, 2758-2763 PNAS February 21, 2006 vol.103 no.8
【文献】Regulatory T cells in cancer immunotherapy. Nishikawa H, Sakaguchi S. Curr Opin Immunol. 2014 Apr;27:1-7
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、制御性T細胞の抑制特異性をインビトロの系を用いて正確に評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明にかかるインビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法は、第一の制御性T細胞、第一の被抑制細胞、及び、第二の被抑制細胞、を準備する準備工程と、第一の抗原を前記第一の制御性T細胞に提示して、前記第一の抗原により前記第一の制御性T細胞を活性化させる抗原提示工程と、前記第一の制御性T細胞と、前記第一の被抑制細胞及び前記第二の被抑制細胞と、を共培養し、前記第二の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、前記第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、前記第一の制御性T細胞は前記第一の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定する判定工程と、を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、制御性T細胞の抑制作用の抗原特異性をインビトロの系を用いて正確に評価することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】OTII制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞、OVAペプチドをパルスした抗原提示細胞、SMペプチド抗原をパルスした抗原提示細胞の混合細胞と養子移入した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答が抑制され、SMナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった。一方、SM制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを養子移入した場合、SMナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答が抑制され、OTIIナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(a)。OTII-制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを共培養した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答の抑制が認められ、SMナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(b)。一方、SM-制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを共培養した場合、OTII-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答の抑制が認められ、OTIIナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(c)。
図2】OTII制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞、OVA,SMペプチドを同時パルスした抗原提示細胞の混合細胞と養子移入した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答が抑制され、SMナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった。一方、SM制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを養子移入した場合、SMナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答が抑制され、OTIIナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(a)。OTII-制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを共培養した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答の抑制が認められ、SMナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(b)。一方、SM-制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを共培養した場合、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答の抑制が認められ、OTIIナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(c)。
図3】(a):外来性ペプチド抗原と細胞表面発現蛋白質であるアロ抗原とを別々の抗原提示細胞により抗原提示を行い、H-2d特異的制御性T細胞と同時養子移入した場合は、外来性ペプチド抗原を認識するSM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、アロ抗原を認識するC57BL/6 ナイーブCD4細胞の細胞分裂は極めてわずかであることを示す図である。(b):外来性ペプチド抗原と細胞表面発現蛋白質であるアロ抗原とを別々の抗原提示細胞により抗原提示を行い、H-2d特異的制御性T細胞と試験管内培養すると制御性T細胞の用量に関わらずSM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めたものの、アロ抗原を認識するC57BL/6 ナイーブCD4細胞の細胞分裂は制御性T細胞の添加により抑制されたことを示す図である。
図4】外来性ペプチド抗原OVAと細胞表面発現蛋白質であるアロ抗原H-2bm12とを同一の抗原提示細胞により抗原提示を行い、OTII-制御性T細胞と同時養子移入した場合、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は抑制されたことを示すCFSE減衰ヒストグラム(a)、ならびに細胞分裂細胞数(b)である。OVAとアロ抗原H-2bm12とを同一の抗原提示細胞により抗原提示を行い、OTII-制御性T細胞とC57BL/6 ナイーブCD4T、OTII-ナイーブCD4T細胞と共培養した場合、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は抑制された(c)。
図5】2種類の細胞表面発現蛋白質であるアロ抗原を提示し、抗H-2bm12-制御性T細胞と同時に培養した場合、抗H-2d応答性被抑制細胞は良好な細胞分裂を認め、抗H-2bm12応答性被抑制細胞は顕著に増殖抑制がみられた。一方、H-2d-制御性T細胞と同時に培養した場合は、抗H-2bm12応答性被抑制細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、抗H-2d応答性被抑制細胞のみに増殖抑制がみられたことを示す図である。
図6】非特異化因子の共存によりOTII-制御性T細胞の有する抗原特異性を低下させることを示す図である。図4(b)と同様に、外来性ペプチド抗原OVAと細胞表面発現蛋白質であるアロ抗原H-2bm12とを同一の抗原提示細胞により抗原提示を行い、OTII-制御性T細胞とC57BL/6 ナイーブCD4T、OTII-ナイーブCD4T細胞と共培養した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞の細胞分裂は抑制されたが、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めた(a左)。しかし制御性T細胞の共存による抑制は、非特異化因子の用量依存性にOTII-ナイーブCD4T細胞が抑制されるのみならず、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞も同様に抑制され、OTII-制御性T細胞による抑制の抗原特異性が低下した。
図7】胸腺由来OTII制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞、OVA,SMペプチドを同時パルスした抗原提示細胞の混合細胞と養子移入した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答が抑制され、SMナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった。一方、胸腺由来SM制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを養子移入した場合、SMナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答が抑制され、OTIIナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(a)。胸腺由来OTII-制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを共培養した場合、OTII-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答の抑制が認められ、SMナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(b)。一方、胸腺由来SM-制御性T細胞をOTIIナイーブT細胞、SMナイーブT細胞の混合細胞と上記抗原提示細胞とを共培養した場合、胸腺由来SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞のみに対する免疫応答の抑制が認められ、OTIIナイーブT細胞に対する抑制が認められなかった(c)
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付の図面を参照して本発明の実施形態について具体的に説明するが、当該実施形態は本発明の原理の理解を容易にするためのものであり、本発明の範囲は、下記の実施形態に限られるものではなく、当業者が以下の実施形態の構成を適宜置換した他の実施形態も、本発明の範囲に含まれる。
【0015】
本実施形態にかかるインビトロでの制御性T細胞の特異性評価方法は、
第一の制御性T細胞、第一の被抑制細胞、及び、第二の被抑制細胞、及び、必要に応じ第三番目以上の被抑制細胞、を準備する準備工程と、第一の抗原を第一の制御性T細胞に提示して、第一の抗原により第一の制御性T細胞を活性化させる抗原提示工程と、第一の制御性T細胞と、第一の被抑制細胞及び第二の被抑制細胞と、及び、必要に応じ第三番目以上の被抑制細胞、を共培養し、第二、及び、必要に応じ第三番目以上の被抑制細胞、の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、第一の制御性T細胞は第一の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定する判定工程と、を有する。
【0016】
抗原提示工程では第一の抗原及び第二の抗原を第一の制御性T細胞に提示して、第一の抗原により第一の制御性T細胞を活性化させることが好ましい。
【0017】
また、第一の制御性T細胞、第二の制御性T細胞、第一の被抑制細胞、及び、第二の被抑制細胞、及び、必要に応じ第三番目以上の被抑制細胞を準備する準備工程と、第一の抗原及び第二の抗原を第一の制御性T細胞に提示して、第一の抗原により第一の制御性T細胞を活性化させ、更に、第一の抗原及び第二の抗原を前記第二の制御性T細胞に提示して、第二の抗原により第二の制御性T細胞を活性化させる抗原提示工程と、第一の制御性T細胞と、第一の被抑制細胞及び第二の被抑制細胞と、及び、必要に応じ第三番目以上の被抑制細胞を共培養し、第二の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、第一の制御性T細胞は第一の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定し、第二の制御性T細胞と、第一の被抑制細胞及び第二の被抑制細胞と、及び、必要に応じ第三番目以上の被抑制細胞を共培養し、第一の被抑制細胞の細胞分裂は低下されていないが、第二の被抑制細胞の細胞分裂は低下されている場合、第二の制御性T細胞は第二の被抑制細胞のみに対して特異的であると判定する判定工程と、を有する。
【0018】
なお、上記の原理を用いることで、被抑制細胞は無数の種類の特異性を有する細胞の集団であってもよく、共培養の前後において細胞集団の差異や、増殖の程度の差異を測定することにより、抑制された細胞集団を特定する方法を用いることもできる。同様に、上記の原理を用いることで、制御性T細胞も複数の種類の細胞を同時に共培養することで目的の制御性T細胞または被抑制細胞をスクリーニングする目的で用いることもできる。
【0019】
免疫系において抗原特異的という表現はT細胞におけるT細胞レセプターの発見、もしくはB細胞に発現、産生される抗体と抗原の特異性反応の発見に遡る。ここでT細胞レセプターを例にとれば、細胞ひとつひとつが発現するT細胞レセプター分子はそれぞれ異なる分子構造を有しており、生体内全体として眺めれば多様性を有している。その結果、ひとつの細胞は、それぞれある特定の抗原分子としか反応しない、という特徴を有する。即ち、「反応が特異的である」という表現は、着目したひとつのT細胞レセプターは極めて限られた標的(抗原等の分子)に反応し、その他の分子には結合性を示さず無反応である、という特性を意味する。当業者においては、抗原分子、その抗原に応答性を有するT細胞レセプターを発現する動物のペアが複数公知であり、広く生物実験に応用されている。例えば、抗原A、とそれに応答するA´細胞を用いて、A´細胞有り&抗原A無し、A´細胞有り&抗原A有りの2条件において、後者で病態が確認されれば、喘息は抗原特異的な免疫応答により誘発される、と結論される。もしくは、A´細胞無し&抗原A有り、A´細胞有り&抗原A有りの2条件において、後者で病態が確認された場合でも、喘息は抗原特異的な免疫応答により誘発される、と結論されている。
【0020】
さて抗原特異性という概念を免疫抑制の研究において適応した場合、上記とはやや異なる状況に置かれていることに留意すべきである。即ち、抗原Aに応答するA´細胞(被抑制細胞A)の応答が制御性T細胞Aの添加により抑制され、抗原Bに応答するB´細胞(被抑制細胞B)の応答が制御性T細胞Aの添加により抑制されないことは公知であるが(非特許文献6)、これは制御性T細胞Aは抗原特異的に抑制能を発揮したと結論できるか否かを以下に考察する。
【0021】
従来の実験環境では、A´細胞(被抑制細胞A)、抗原Aを提示した抗原提示細胞と制御性T細胞Aの混合培養により、A´細胞(被抑制細胞A)の抗原Aに対する免疫応答を制御性T細胞Aが抑制できるかを判断する。一方、B´細胞(被抑制細胞B)、抗原Bを提示した抗原提示細胞と制御性T細胞Aの混合培養により制御性T細胞AがB´細胞(被抑制細胞B)の抗原Bに対する免疫応答を抑制できるかを判断する。この2組の実験において前者では抑制力が発揮され、後者では抑制力が発揮されないことから制御性T細胞は抗原特異的に作用すると結論されてきた。しかし、前者の制御性T細胞AによるA´細胞(被抑制細胞A)の応答低下時には、制御性T細胞Aは抗原Aと共存しており、持続的に抗原刺激を受け続け活性化した状態となっている一方で、後者の制御性T細胞AによるB´細胞(被抑制細胞B)の応答時には、制御性T細胞Aは抗原Bと共存しており、制御性T細胞Aを刺激する抗原Aが存在していないのである。従って、制御性T細胞Aは、それを刺激する抗原のある環境(前者)と、それを刺激する抗原のない環境(後者)という同一条件とは言えない2条件において比較されているにもかかわらず、あたかも、前者においてのみ抑制作用が発揮され、後者では発揮できなかったという結論に誤って導かれている。即ち、前者側では、制御性T細胞Aは抗原刺激Aを受け覚醒した状態にあるが、後者側においては抗原刺激Aが受けられず、いわゆる眠った状態に置かれており、それがゆえに抗原B、とそれに応答するB´細胞(被抑制細胞B)に対して抑制作用を発揮できなかっただけではないのか、という批判に耐えていない。
【0022】
以上より制御性T細胞自体はその特異的抗原により活性化されれば、抑制力は発揮できる、つまり(活性化特異性(I))は特異的であると表現できる。しかし、制御性T細胞が活性化された後、被抑制細胞を抑制する際に、意図する特異的な被抑制細胞だけが抑制されるのか、それとも制御性T細胞の近傍に存在する被抑制細胞があまねく非特異的に抑制されるのかという観点(被抑制細胞の特異性(II))は明らかになっていない。
【0023】
本発明者らが、真の意味で抗原特異的であるか否かを明らかにしたいのは、真の抗原特異性すなわち被抑制細胞の特異性(II)である。制御性T細胞Aが2実験のいずれにおいても抗原Aにおいて特異的に刺激され、覚醒された状態を準備し、その上で、抗原Aに刺激されるA´細胞(被抑制細胞A)、抗原Bに刺激されるB´細胞(被抑制細胞B)の応答を比較して、抗原Bに刺激されるB´細胞(被抑制細胞B)へは抑制力を与えず、抗原Aに刺激されるA´細胞(被抑制細胞A)のみに抑制力を作用した結果を以って初めて、制御性T細胞Aは、A´細胞(被抑制細胞A)のみに特異的に抑制力を発揮した、と表現する。これが本発明者が提案する真の抗原特異性もしくは被抑制細胞の特異性(II)である。
【0024】
そこで本発明者は、A´細胞(被抑制細胞A)とB´細胞(被抑制細胞B)の共存させた状態において、そこに抗原A及び制御性T細胞Aを添加しその影響を比較する手法を提案する。
【0025】
好ましくは、A´細胞(被抑制細胞A)とB´細胞(被抑制細胞B)の共存させた状態において、そこに抗原A及び抗原B並びに制御性T細胞Aを添加しその影響を比較する手法を提案する。
【0026】
次に制御性T細胞Bを作成することも可能であるならば、A´細胞(被抑制細胞A)とB´細胞(被抑制細胞B)の共存状態を作成し、そこに抗原A及び抗原B並びに制御性T細胞Bを添加しその影響を比較すれば、さらに実験の信頼性を向上させる結果をもたらす。
【0027】
本発明により確認される特異性は生体内において極めて重要な関心事である。なぜならば、仮に治療目的で制御性T細胞が投与されたとき、その制御性T細胞が目的とする疾患因子となるリンパ球を抑制することについては想定内であったにせよ、予期しない生体に重要なリンパ球の作用をも抑制することがないようにする必要があるからである。抑制能を発揮する制御性T細胞の近傍の被抑制細胞が非特異的に抑制されてしまうのであれば、結局、制御性T細胞の従来の免疫抑制療法に対する優越性は確実ではない。即ち、制御性T細胞が最終的に被抑制細胞を特異的に抑制するためには、活性化特異性(I)のみならず、被抑制細胞の特異性(II)も同時に抗原特異的である必要があるのである。
【0028】
本発明によれば、被抑制細胞の特異性(II)を明らかにした制御性T細胞を作成し、意図した抑制させたい細胞だけを抑制できることをインビトロで立証できる。これにより免疫抑制療法の医療において極めて大きな価値が得られる。すなわち、治療用細胞の評価を実際の治療投与に先立ち、インビトロでその安全性、効率を評価することができる。
【0029】
また、免疫応答に関わる因子の解析においても、インビボにおける解析は生体からアッセイ産物を採取する過程で、実験動物の死亡ならびに相応の負荷がかかるため、多くの場合、アッセイ開始前、開始後の2点の情報しか得られない。しかし、インビトロによる解析は培養過程の任意のタイミングでサンプルを採取し解析を行うことが可能であり、解析条件を増やすことも容易である。さらに構成要素の細胞、それ以外の細胞や試薬の添加、または除去を行うことも容易に行い得る。このように、インビトロによる解析方法は、インビボで解析を行う場合に比べ、解析の自由度が増し、新薬の開発、生体成分の解析に大きな効率化をもたらす。
【0030】
本発明を用いることで従来の解析法で評価不可能であった微小な抑制能を検出できる。
【0031】
本発明の原理は、いままで検出に至らなかった微小な抑制作用を発見する方法としても利用可能である。
すなわち、従来の公知の検査法において、目的とする制御性T細胞の抑制能を評価する際、ポリクローナルな被抑制細胞をインビトロアッセイに投入する手法が広く知られている(非特許文献2、3,5、6,7)。
【0032】
この手法において、抑制能は、
G: 制御性T細胞の有り条件における被抑制細胞の増殖細胞数
H: 制御性T細胞の無し条件における被抑制細胞の増殖細胞数
とおいた場合、抑制能= 1 - (G/H)の計算式により算出される。この算出法において前提とされてきたのは、被抑制細胞は、いずれの細胞も均等に抑制を受ける、という前提である。しかし本発明者らが明らかにしたことは、このような検査手法において、投入された被抑制細胞がポリクローナルな集団である場合は、抑制作用を受けるのは、投入された被抑制細胞のすべての細胞ではなく、あくまで、被抑制細胞のうち、そのアッセイに投入された制御性T細胞と同一の抗原を認識する被抑制細胞だけである、という点である。さらには、投入された被抑制細胞のうち、アッセイに投入された制御性T細胞と同一の抗原を認識しない細胞集団は、そもそも抑制されない、という観点である。
【0033】
従って、従来法における算出法では、インビトロアッセイ系に投入した被抑制細胞全体の増殖細胞の挙動を解析し、制御性T細胞 有り条件 / 無し条件 で比をとる計算法が作られていたが、その場合、そもそも抑制されないはずである細胞が計算に含まれてしまっている、ということである。もし、そのような抑制されないはずである細胞が、投入した被抑制細胞の多数を占めていた場合には、本来の制御性T細胞の抑制能が過小評価され、検出されるべき抑制能が検出されにくい状況が作り出されている可能性がある。
【0034】
本発明による技術は、上述の評価法において、本来評価すべき細胞は、被抑制細胞のうち、アッセイに利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識する被抑制細胞だけに限定して解析することを提案している。従って、あらかじめ解析対象を、それらの細胞に限定したうえで、その限定された被抑制細胞だけの挙動を、制御性T細胞 有り条件 / 無し条件 で解析することで 抑制能を算出することを提案する。
【0035】
この方法により、それまで過小評価され、検出されにくかった状況においても、高い感度で抑制能を検出することができるようになる。
【0036】
本発明における抑制能の算出法
J: 利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識する被抑制細胞の増殖細胞数
制御性T細胞の有り条件
K: 利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識しない被抑制細胞の増殖細胞数
制御性T細胞の有り条件
L: 利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識する被抑制細胞の増殖細胞数
制御性T細胞の無し条件
M: 利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識しない被抑制細胞の増殖細胞数
制御性T細胞の無し条件
とおいた場合、
G = J + K
H = L + M であり、
本発明における抑制能 = 1 - (J/L)
と計算される。
【0037】
例えば、利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識する被抑制細胞の増殖細胞数が、被抑制細胞全体のほんの一部であるような以下の場合、
すなわち
G = J + K = 1 + 95 = 96
H = L + M = 5 + 95 = 100
である場合を仮定すると、
従来法によれば、
抑制能(従来法) = 1 - (G / H) = 1 -( 96 / 100) = 0.04 = 4 %
と過小評価され、抑制能があまり無いと判断されてしまうが、
本発明による計算法を用いることにより、
抑制能(本法) = 1 - (J / L) = 1 -(1 / 5) = 0.8 = 80 %
と強い抑制能を持つことが計算され、その抑制能を明瞭に示すことが可能になるのである。
【0038】
すなわち、従来法の計算方法は、利用された制御性T細胞と同一の抗原を認識しない被抑制細胞の無応答性が、その制御性T細胞が発揮した本来の抑制作用をマスクしてしまい、抑制能を過小評価させてしまうことがあるリスクを有しているのである。
【0039】
このように本発明の原理は、いままで検出に至らなかった微小な抑制作用を発見する方法としても利用可能である。
【0040】
このことは、制御性T細胞のこれまでの開発において、実際には成功していた成果を誤って不成功と結論付けられていた事案が存在する可能性があることを示唆しており、これまで棄却されていた手法を、本発明の計算手法により再評価、再検討する意義を見出させる。
【0041】
請求項に記載した
第一の制御性細胞、第二の制御性細胞、
第一の被抑制細胞、第二の被抑制細胞
の表現を用いて本発明を、数式を以って記述する。
【0042】
P = 第一の被抑制細胞の増殖細胞数:(いずれの制御性T細胞も無い条件)
Q = 第二の被抑制細胞の増殖細胞数:(いずれの制御性T細胞も無い条件)
R = 第一の被抑制細胞の増殖細胞数:(第一の制御性細胞の存在下)
S = 第二の被抑制細胞の増殖細胞数:(第一の制御性細胞の存在下)
T = 第一の被抑制細胞の増殖細胞数:(第二の制御性細胞の存在下)
U = 第二の被抑制細胞の増殖細胞数:(第二の制御性細胞の存在下)
において、従来法による抑制能は、
第一の制御性細胞 の 抑制能(従来法) = 1 - ((R+S)/(P+Q))
第二の制御性細胞 の 抑制能(従来法) = 1 - ((T+U)/(P+Q))
で記述されるが、本発明による抑制能は、
第一の制御性細胞 の 抑制能(本法) = 1 - ((R)/(P))
第二の制御性細胞 の 抑制能(本法) = 1 - ((U)/(Q))
と記述される。
【0043】
従って、仮に、Qに比してPが著しく少ない場合、
例えば、
P = 100
Q = 1000
R = 5
S = 990
T = 95
U = 200
であった場合、
従来法による抑制能は、
PとQを識別せず、PとQの総和を求め、
RとSを識別せず、RとSの総和を求め、
TとUを識別せず、TとUの総和を求めてから抑制能を計算するので、
第一の制御性細胞 の 抑制能(従来法) = 1 - ((R + S) / (P + Q))
= 1 - ((5 + 990) / (100 + 1000))
= 1 - (995 / 1100)
= 0.09545
= 9.545 %
第二の制御性細胞 の 抑制能(従来法) = 1 - ((T + U) / (P + Q))
= 1 - ((95 + 200) / (100 + 1000))
= 1 - (295 / 1100)
= 0.731
= 73.2 %
と計算されるが、
本発明による抑制能は、
PとQを識別し、まずPとQの個々の値を求め、
RとSを識別し、まずRとSの個々の値を求め、
TとUを識別し、まずTとUの個々の値を求めてから抑制能を計算するので、
第一の制御性細胞 の 抑制能(本法) = 1 - ((R) / (P))
= 1 - ( 5 / 100 )
= 0.95
= 95 %
第二の制御性細胞 の 抑制能(本法) = 1 - ((U) / (Q))
= 1 - (200 / 1000 )
= 0.80
= 80 %
と計算される。
【0044】
特に、第一の制御性細胞 の 抑制能は、従来法では 9.545 % と過小評価されてしまっていたことがわかる。このような状況における本発明の優位性は高く、従来法では検出されにくい状況における微小な制御性T細胞の抑制能を、95 %と明瞭に検出することが可能である。
【0045】
準備工程において、第一の制御性T細胞、第二の制御性T細胞、第一の被抑制細胞、及び、第二の被抑制細胞は、動物細胞であれば特に種類が制限されるものではなく、ヒト、マウス、ラット、ウサギ等の非ヒト動物細胞を挙げることができる。
【0046】
動物細胞の由来は健康なヒト、動物であっても、または所与の疾患を患うヒト、動物、または遺伝子操作、遺伝子欠損、遺伝子強制発現操作を施した動物、所与の疾患モデル動物であってもよい。
【0047】
本明細書において使用する「抗原」という用語は、T細胞応答を誘起することのできるペプチド、タンパク質、ウイルス、核酸関連物質、プリオン、リポソーム、または動物、植物の組織、アロ抗原または微生物の細胞の調製物、もしくは同様の作用物質である。
【0048】
抗原は、自然発症の遺伝子変異、組換えDNA技術によって、他の細胞と異なる組織もしくは細胞源からの精製によって得ることができるタンパク質でもよい。このようなタンパク質は、天然タンパク質に限定されず、例えば選択されたアミノ酸配列を変化させることによって、または異なるタンパク質の部分を融合することによって得られる改変タンパク質またはキメラ構築物も含む。一方、目的とする抗原が細胞に発現した状態でT細胞刺激能を有する場合、細胞から抽出せずに細胞のまま、もしくは細胞集塊のまま、もしくは組織断片のまま使用することもできる。本明細書において使用する制御性T細胞は、同時に添加されてもよく、時間差をもって0.5日前から、1日前から、4日前から、7日以上前から前もって、または0.5日後から、1日後から、4日後から、7日以上後から添加されてもよい。
【0049】
本明細書において使用する制御性T細胞は、Foxp3陽性制御性T細胞を用いることが好ましいが、Foxp3陽転化後発現が低下、または陰性化した活性化細胞、もしくはFoxp3が陰性である活性化細胞を用いることもできる。
【0050】
具体的には制御性T細胞は、IL-10産生性のT細胞、TGFbeta産生細胞、LAG3(CD223)発現細胞、CD39発現細胞、CD54発現細胞、CD73発現細胞、CD103発現細胞、CD134発現細胞、CD154発現細胞、CXCR4発現細胞、CXCR5発現細胞、CXCR6発現細胞、GITR発現細胞、GRP83発現細胞、GranzymeB発現細胞、Perforin発現細胞、Nrp-1発現細胞、IL-9産生細胞、IL-35産生細胞、PD-1発現細胞、PD-L1発現細胞、BTLA発現細胞、CTLA-4高発現のT細胞、より好ましくはFoxp3陽性の制御性T細胞である。
【0051】
本明細書において使用する制御性T細胞は、モノクローナル細胞で構成される制御性T細胞を用いることも可能であり、また、ポリクローナル細胞で構成される制御性T細胞を用いることもできる。
【0052】
本明細書において使用する制御性細胞は、抗原を認識するレセプターを発現していることが望ましく、特定の抗原を認識するレセプターとしては、T細胞レセプター(TCR) がそのひとつであるが、このほか、目的の抗原、分子を認識する性質をもつ表面発現レセプター、抗原認識部位を人工的に変化させた分子、抗原認識レセプターを発現させた細胞、細胞外領域が抗原認識部位を人工的に変化させた分子で細胞内領域がT細胞レセプターのキメラ構造を有するレセプターを発現させた細胞、目的の抗原を認識するB細胞レセプター、免疫グロブリンを発現する細胞でもよい。またはそれ自身の抑制作用が明らかでない細胞においても、他のリンパ球と共存することにより協調して抑制性作用を来し、特定の抗原に対するレセプターを有する細胞を用いることもできる。
【0053】
本明細書において使用する制御性T細胞は、Foxp3を内在性に発現していなくても、抑制作用を発揮するよう核内の転写因子の発現を調節した細胞を用いることもできる。
【0054】
抗原提示工程における抗原提示の方法は、T細胞レセプターを刺激しうる抗体を用いる方法、またはMHCを発現する細胞を用いてMHC分子に提示させることもできる。被抑制細胞が発現する主要組織適合抗原(MHC)クラスIまたはIIを用いて提示させてもよい。好ましくは、抗原を抗原提示細胞に提示させる方法がよい。またはMHC分子を介さず抗原認識レセプター(TCRなど)を認識し刺激させる方法であってもよい。
【0055】
本発明で抗原提示の方法として、抗原提示細胞を用いる場合は、抗原提示細胞は被抑制細胞(エフェクター細胞)と異なる個体、もしくは同一個体から採取することができる。
【0056】
本発明で抗原提示細胞を使用する場合、抗原認識において、T細胞レセプターにより抗原認識を行う場合、用いる細胞は、好ましくはMHC分子を発現する細胞である。MHCクラスIまたはMHCクラスIIを発現し、好ましくは樹状細胞を用いるが、MHCIIを発現する他の細胞、例えばB細胞、ランゲルハンス(Langerhans)細胞、マクロファージ、単球系細胞、クッパー細胞(Kupffer cell)を用いることもできる。さらには、MHC分子を発現している細胞であれば、上記に限るものではない。
しかしMHCに依存しない抗原認識を用いる場合は、MHC分子を介さずTCR(T細胞レセプター)を認識し刺激することができるため、この場合は、目的の抗原を発現する任意の細胞を用いることが可能である。
【0057】
本発明で抗原提示細胞を用いる場合、抗原提示細胞は例えば、未成熟樹状細胞、成熟樹状細胞、その他の抗原提示細胞、人工抗原提示細胞及びそれらの混合物のいずれを用いてもよい。また、人工抗原提示細胞とは、人為的に作製した抗原提示細胞であって、例えば、少なくとも主要組織適合抗原(MHC)クラスII、及び補助刺激分子(例えば、CD80、CD86等)を発現させるよう遺伝子工学的に作製した細胞が挙げられる。さらに(MHC)クラスIを発現させてもよい。さらに、人工抗原提示細胞は、自己免疫疾患の被障害臓器や、腫瘍由来の細胞株を上述のようにMHCクラスI,クラスII、及び補助刺激分子を発現するよう改変したものであってもよい。
【0058】
本発明において抗原提示をする場合、ひとつ、もしくは複数の抗原を使用することができる。複数の抗原を用いる場合、別々の抗原提示細胞によりそれぞれを提示させることもでき、また、同一の抗原提示細胞に複数の抗原を提示させることも可能である。これは抗原提示細胞を使わず、人為的に作成した細胞を用いて提示させる場合も含まれる。また抗原はアッセイ開始時に同時に添加されてもよく、時間差をもって前もって、または後から添加されてもよい。
【0059】
本発明で使用できる抗原、複数の抗原は、MHC拘束性に提示される外来性のペプチド抗原でもよく、また細胞表面発現蛋白質、例えばT細胞にアロ認識されるアロ抗原(アロMHC分子)等でもよい。それらは外来性抗原同士の組み合わせでもよく、外来性抗原同士とアロ抗原の組み合わせでもよく、アロ抗原同士の組み合わせであっても可能である。
【0060】
本発明で被抑制細胞(エフェクター細胞)として使用する細胞は、一般に白血球と呼ばれる免疫担当細胞である。顆粒球、単球、リンパ球、自然免疫系細胞、獲得免疫系細胞が含まれ、好ましくはリンパ球である。好ましくはT細胞レセプター(TCR:T cell receptor)を発現するリンパ球である。好ましくはCD4リンパ球であるが、例えばCD8陽性リンパ球、NKT細胞を用いることもできる。
【0061】
本発明で被抑制細胞(エフェクター細胞)として使用する細胞は、未活性状態の細胞もしくは、活性化後の細胞を用いることもできる。またスクリーニング目的の試験物添加後の細胞を用いることもできる。または、アッセイの途中、または終了後に試験物を作用させることもできる。
【0062】
本発明で被抑制細胞(エフェクター細胞)として使用する細胞は、制御性T細胞、と同一個体から、または異なる個体から採取することができる。本発明で被抑制細胞(エフェクター細胞)として使用する細胞は、抗原提示細胞と同一個体から、または異なる個体から採取することができる。
【0063】
本発明で被抑制細胞(エフェクター細胞)として使用する細胞は、ひとつの特異性、または複数の特異性をもつ細胞集団を同時に使用することもできる。
【0064】
被抑制細胞(エフェクター細胞)、ならびに抗原提示細胞の単離は、細胞表面抗原を用いて、CD4もしくはCD8,CD11c,CD19,T細胞レセプター(TCR),TCRVbeta鎖特異抗体、NK1.1、CD90、CD56, CD16, CD56, CD25, CD44, CD45, MHCII, MHCI, CD4をマーカーとしてセルソーティングまたは、MACS磁気分離法を用いて単離することができる。もしくは、表面マーカーを用いず、フローサイトメータのFSC,SSC測定値を用いて分離することもできる。
【0065】
本明細書において使用することができる要素は、細胞成分として、制御性T細胞、被抑制細胞(エフェクター細胞)、抗原提示細胞のほか、スクリーニング目的とする関心のある 細胞破砕成分、破砕後組織片、臓器、組織切片、破砕済み組織片、細胞集団、特異的表面マーカーにより分離した細胞集団、関心のある動物、植物、微生物の細胞、組織、または同様の作用物質を複数含めることができる。さらに培養液中には、スクリーニング目的とする関心のある免疫抑制剤、免疫調整薬、サイトカイン類、抗体、成長因子、ホルモン、培養上清抽出液、細胞内液性成分、細胞由来有機物質、リポソーム、核酸成分、プリオン、もしくは同様の作用物質を複数含めることができる。
【0066】
インビトロアッセイの培養過程において、培養過程の最初から、もしくは1日後から、もしくは2日後から、もしくは3日後から、これらの細胞成分または液性成分と共存させることができる。反応開始時に、検体を遠心分離し、古い上清部分を洗浄、除去することもできる。
【0067】
本発明の別の態様において、抗原は、当業者には公知の種々の生化学的手順(例えば固定、溶解、細胞下分画、密度勾配分離)によって得られる粗または部分精製された組織または細胞の調製物である。または、ペプチド配列情報に基づいて化学的に合成された合成ペプチドを用いる。または、細胞に発現している分子を抗原として用いる。
【0068】
本発明の一実施形態に係る自己免疫疾患自然発症に対する促進物質又は抑制物質のスクリ-ニング方法により得られる制御性T細胞の抗原特異性を変化させうる特異性調整物質は、インビボにおける抗原特異的免疫抑制のメカニズムの解明に有用であり、特異性を高める物質は投与される制御性T細胞の目的外の免疫抑制による副作用軽減、目的作用の増強のために使用できる可能性がある。すなわち非特異的抑制作用の関与する寛容機序が病原微生物の宿主内における生存に有利に働いているような病態において、その寛容を破綻させ、病原微生物を駆除する目的で使用しうる。同様に、非特異的抑制作用が関与する他の感染症、悪性腫瘍において、寛容を破綻させる目的で使用しうる。移植後免疫抑制療法、自己免疫疾患の予防・改善効果が期待できる上記物質を医薬品として用いる場合は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張剤等の各種調剤用配合成分を添加することができる。またこれら医薬品を用いる予防若しくは治療方法においては、患者の性別・体重・症状に見合った適切な投与量を、経口的又は非経口的に投与することができる。即ち通常用いられる投与形態、例えば粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型で経口的に投与することができ、あるいは、例えば溶液、乳剤、懸濁液等の剤型にしたものを注射の型で非経口投与することができる他、スプレ-剤の型で鼻孔内投与することもできる。
【0069】
アッセイに用いる制御性T細胞の培養期間は、目的に応じ、数時間、1日、2日以上、好ましくは3日以上の培養を行う。培養期間は30日以内、より好ましくは、14日以内、7日以内である。
【0070】
本発明を実施するのに適した培地は、免疫担当細胞の増殖、生存および分化に適した任意の培養培地である。典型的には、それは、ヒトまたは他の起源の血清および/または増殖因子および/または抗生物質を補充することのできる、栄養分(炭素源、アミノ酸)、pH緩衝液および塩を含む基礎培地からなる。典型的には、基礎培地は、RPMI 1640、DMEM培地であり得、その全てが市販されている標準培地である。
【0071】
インビトロアッセイに用いる移入細胞の識別は、自己蛍光色素(GFP、YFP,RFP、ルシフェラーゼ等)、トランスジェニックマーカ(hCD2等)、Thy1.1, CD90.1マーカー、Thy1.2, CD90.2マーカー、CD45.1マーカー、CD45.2マーカー、等細胞単位で識別可能な手法であれば、いずれの方法を用いてもよいが、これらの手法に限定されるものではない。さらにこれらのマーカーの組み合わせにより、例えばGFP+ Thy1.1, GFP- Thy1.1, YFP+ GFP+, YFP+ RFP+ CD45.1+等、複数のマーカーの組み合わせにより識別可能細胞種類を増加させることができる。また、未識別状態で被抑制細胞を用意し、インビトロアッセイを実施し、アッセイ後に、目的の抗原を用いて抗原認識レセプターを標識することにより、目的の抗原に対するレセプターを有する細胞を識別化することもできる。具体的には抗原-MHC複合体に蛍光色素を結合させた試薬がその一例であり市販されているが、この手法に限定するものではない。
【0072】
アッセイで用いる細胞分裂評価方法は、BrdU法(ブロモデオキシウリジン法)、サイミジン(3H-チミジン)取り込み法、細胞色素染色法等があるが、いずれかの手法に限定されるものではない。細胞色素染色法としては、例えば、Carboxyfluorescein diacetate succinimidyl ester(CFSE), PKH26(Sigma Aldrich)、CellVue(Sigma Aldrich), Cell Trace Violet(ThermoFisher Scientific)等が各社より販売されている。
【実施例
【0073】
(実施例1)2種類のペプチド抗原を用いた免疫抑制の抗原特異性解析アッセイ
[マウス]
C57BL/6およびBalb/cマウスは、CLEA Japan(東京、日本)から購入した。RAG-2欠損OTII TCRトランスジェニックマウス(以下OTII-マウス)、LCMV特異的マウス(以下SM-マウス)は動物施設で飼育した。全マウスは6ないし8週齢で使用し、施設の動物保護ガイドラインに従い、病原体の無い特別な条件で維持した。マウスB6 CD45.1 (Jax mice Stock No:002014)、B6.PL-Thy1(a)/CyJ (Jax406)はオリエンタル酵母工業株式会社より購入した。OTII-マウス、SM-マウスは、RAG2欠損マウスならびにJax002014, Jax406と交配し、各系統においてCD45.1,Thy1.1陽性のマウスを用意した。
【0074】
[抗体、試薬および培地]
次の試薬を、BD PharMingen(サンディエゴ、CA)から購入した。CD3ε(145-2C11)、CD28(37.51), CD16/32, APC-Cy7 Mouse Anti-Rat CD90/Mouse CD90.1(Clone OX-7),PerCP Mouse Anti-Rat CD90/Mouse CD90.1(Clone OX-7), Qdot605-CD4(RM4-5), PE-TCR Vb8.3(1B3.3)
以下をBiolegendより購入した。CD45.2-BV785 Brilliant Violet 785(TM) anti-mouse CD45.2 Antibody Clone 104, CD45.1 (A20)-PECy7,PerCP anti-mouse CD25 Antibody (Clone PC61 ), APC anti-mouse TCR Vβ5.1, 5.2 Antibody (clone MR9-4), Brilliant Violet 785(TM) anti-mouse CD45.2 Antibody Clone 104,
次の試薬を、Lonzaより購入した。RPMI 1640
次の試薬を、Peprotechより購入した。hIL-2 Recombinant Human IL-2,
Recombinant Human TGF-β1
被抑制細胞として、CD90.1(+)SM-ナイーブCD4 T細胞、CD45.1(+) OTII-ナイーブCD4 T細胞を用いた。
【0075】
[制御性T細胞の作成と純化]
C57BL/6 CD45.1(+) CD45.2(+) OTII RAGKOマウス、ならびにC57BL/6 CD45.1(+)CD45.2(+) SM RAGKOマウスより、脾臓を取り出した。セルストレイナーを用いて脾組織を破砕し単細胞状態として浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、必要量を取り出し、CD4をマーカーとしてCD4T細胞をセルソーティングまたは、MACS磁気分離法を用いて単離した。単離したCD4T細胞を、TGFbeta,IL2と共にCD3e/CD28 コーティング培養器内にて、TFGβ、IL-2を添加し5日間培養しFoxp3陽性制御性T細胞を作成した。培養液にはこれらのほか、ATRA (all-trans-Retinoic Acid)を添加した。培養後の細胞は、細胞分裂検出用の色素Cell Trace Violet(ThermoFisher Scientific)で染色した。
【0076】
[被抑制細胞(エフェクター細胞)の単離]
被抑制細胞(エフェクター細胞)として、CD45.1(+) OTII-マウス、CD90.1(+) SM-マウスより、脾臓を取り出し、セルストレイナーを用いて浮遊細胞を分離した。浮遊細胞の一部は、必要量をCD4マーカーを用いて、CD4陽性T細胞をMACS磁気分離法を用いて処理し、単離した。その後、細胞分裂検出用の色素(Cell Trace Violet(ThermoFisher Scientific))で染色した。
【0077】
[抗原提示細胞の分離]
野生型C57BL/6マウスより、脾臓を採取し、セルストレイナーを用いて浮遊細胞を分離した。浮遊細胞の一部は、CD11cマーカーを用いて、CD11c陽性T細胞をMACS磁気分離法を用いて処理し、抗原提示細胞として単離した。
【0078】
抗原として、I-Ab拘束性のOVA(323-339)、I-Ab拘束性のLymphocytic Choriomeningitis Virus由来ペプチド:LCMV GP(61-80)を用いた。それぞれのペプチドは、CD45.2(+)由来C57BL/6細胞から分離した樹状細胞と別々の試験管内で培養し、MHCに提示させた。抗原提示後、それぞれ300g, 5分間の遠心を4回繰り返し、上清を破棄して細胞を洗浄した。
【0079】
制御性T細胞は、CD45.1(+) CD45.2(+) SM-ナイーブCD4 T細胞、CD45.1(+) CD45.2(+) OTII-ナイーブCD4 T細胞から作成し、それぞれの名称をSM-制御性T細胞、OTII-制御性T細胞とした。これらSM-制御性T細胞、OTII-制御性T細胞のFoxp3(+)の発現レベルを解析し、いずれも95%以上であることを確認した。
【0080】
上記細胞成分を、制御性T細胞無し、有りの組み合わせに混和調整した後、29G シリンジを用いて、野生型C57BL/6マウスの尾静脈に経静脈的に細胞移入した。3日後に、脾細胞を採取し、セルストレイナーを用いて脾組織を破砕し浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、1匹当たり、2x106細胞の脾細胞をフローサイトメーターを用いて解析した。結果、被抑制細胞であるSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞だけを養子移入した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めたが、OTII-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4 T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制は生体内においてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された。
【0081】
次に、SM-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、SM-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、SM-制御性T細胞による免疫抑制は、生体内においてSM-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図1a)。
【0082】
インビトロにおいて、上記細胞成分の培養を行った。基礎培地は、RPMI 1640, 500mLを用い、さらに以下の組成で調整した培地を作成しそれを用いた。
50ml FBS (frozen at -20℃)
stock FBS are already HI(heat inactivated 56℃,30min)
5ml L-glutamine stock (200mM, 100x) (frozen at -20℃)
5ml NEAA stock (100x) in refrigerator
5ml sodium pyruvate stock (100mM, 100x) at refrigerator
5ml HEPES stock (1M, 100x) at room temperature
5ml streptomycine/ penicillin stock (100x) at -20℃
0.5ml 2-mercaptoethanol (1000x working stock;
37 ul 2ME in 10ml of PBS in refrigerator(4℃))
500ml RPMI-1640 with phenol red in cold room
Sterilize by filteration (0.2um)
結果、インビボで観察されたように、被抑制細胞であるSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。
【0083】
OTII-制御性T細胞と同時に培養した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制はインビトロにおいてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図1b)。
【0084】
次に、SM-制御性T細胞と同時に培養した場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、SM-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-ナイーブCD4 T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、SM-制御性T細胞による免疫抑制は、インビトロにおいてSM-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図1c)。
【0085】
以上の結果より、本発明により実施されたインビトロ培養系は、インビボにおいて示された、免疫抑制の特異性解析と同一の結果が得られることが示された。
【0086】
なお、制御性T細胞の混合割合を被抑制細胞に対して30%、60%、100%と増加させた培養も同時に実施したが、いずれの制御性T細胞の割合においても被抑制側(OTII-制御性T細胞との場合は、SM-ナイーブCD4T細胞の増殖の割合、SM-制御性T細胞の場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞の増殖の割合)は良好に増殖が認められ、分裂低下所見は認められず、特異的抑制が維持されており、安定した特異性解析性能を発揮することが示された。
【0087】
(実施例2)2種類のペプチド抗原を用いた抗原特異的免疫抑制アッセイ
実施例1においては、2種類のペプチド抗原はそれぞれ別々の抗原提示細胞により提示されたが、実施例2においては、2種類のペプチド抗原を、同一の抗原提示細胞により提示させた場合で行った。
【0088】
被抑制細胞として、CD90.1(+)SM-ナイーブCD4T細胞、CD45.1(+) OTII-ナイーブCD4T細胞を用いた。
【0089】
実施例1と同様に、制御性T細胞の作成と純化、被抑制細胞(エフェクター細胞)を単離、抗原提示細胞の単離を行った。
【0090】
抗原として、I-Ab拘束性のOVA(323-339)、I-Ab拘束性のLymphocytic Choriomeningitis Virus由来ペプチド:LCMV GP(61-80)を用いた。両方のペプチドは、CD45.2(+)由来C57BL/6細胞から分離した樹状細胞と同一容器内で混合培養し、MHCに提示させた。抗原提示後、それぞれ300g, 5分間の遠心を4回繰り返し、上清を破棄して細胞を洗浄した。
【0091】
制御性T細胞は、CD45.1(+) CD45.2(+) SM-ナイーブCD4 T細胞、CD45.1(+) CD45.2(+) OTII-ナイーブCD4 T細胞から作成した。上記細胞成分を、制御性T細胞無し、有りの組み合わせに混和調整した後、29G シリンジを用いて、野生型C57BL/6マウスの尾静脈に経静脈的に細胞移入した。
【0092】
3日後に、脾細胞を採取し、セルストレイナーを用いて脾組織を破砕し浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、1匹当たり、2x106細胞の脾細胞をフローサイトメーターを用いて解析した。
【0093】
結果、被抑制細胞であるSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞だけを養子移入した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めたが、OTII-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制は生体内においてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された。
【0094】
次に、SM-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、SM-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、SM-制御性T細胞による免疫抑制は、生体内においてSM-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図2a)。
【0095】
インビトロにおいて、上記細胞成分の培養を行った。基礎培地は、実施例1と同一であった。結果、インビボで観察されたように、被抑制細胞であるSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。OTII-制御性T細胞と同時に培養した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制はインビトロにおいてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図2b)。
【0096】
次に、SM-制御性T細胞と同時に培養した場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、SM-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、SM-制御性T細胞による免疫抑制は、インビトロにおいてSM-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図2c)。
【0097】
以上の結果より、免疫抑制の抗原特異性は、複数の抗原が同一抗原提示細胞に提示された場合であっても、本発明により実施するインビトロ培養系を用いることにより、インビボにおいて示された、同質の免疫抑制の特異性解析と同一の結果を得られることが示された。なお、実施例1と同様、制御性T細胞の混合割合を被抑制細胞に対して30%、60%、100%と増加させた培養も同時に実施したが、いずれの制御性T細胞の割合においても被抑制側(OTII-制御性T細胞との場合は、SM-ナイーブCD4T細胞の増殖の割合、SM-制御性T細胞の場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞の増殖の割合)は良好に増殖が認められ、分裂低下所見は認められず、特異的抑制が維持されており、安定した特異性解析性能を発揮することが示された。
【0098】
(実施例3)2種類の抗原が異質の物質の組み合わせの場合
実施例1,2では、2種類の外来性抗原ペプチド同士の共存状態における抗原特異性の解析を行った。即ち、実施例1,2では、2種類の抗原ともペプチド抗原であり、いずれもがMHC拘束性に提示されていた場合において実施例を示した。実施例3では、一方が外来性抗原ペプチドであるが、他方が細胞表面発現蛋白質の場合について解析した。細胞表面発現蛋白質として抗原性を有する場合として典型的なアロ抗原の場合について、例えば、H-2d MHCクラスII分子を取り上げ、免疫抑制が抗原特異的であるか検討を行った。
【0099】
CD90.1(+)C57BL/6 ナイーブCD4T細胞をH-2d陽性発現細胞と共培養することで、H-2d特異的制御性T細胞を作成した。実施例1,2と異なり、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞はTCRに遺伝子多様性を有したポリクローナル細胞集団であることから、ここで作成された制御性T細胞はポリクローナル細胞集団である。実施例1、2と同様に、被抑制細胞(エフェクター細胞)を単離、抗原提示細胞の単離を行った。実施例3においては、被抑制細胞として、CD90.1(+)C57BL/6 ナイーブCD4T細胞、CD45.1(+) SM-ナイーブCD4T細胞を用いた。
【0100】
抗原として、H-2d陽性発現細胞上に発現されるMHC H-2dと、I-Ab拘束性のLymphocytic Choriomeningitis Virus由来ペプチド:LCMV GP(61-80)を用いた。ペプチドは、CD45.2(+)由来C57BL/6細胞から分離した樹状細胞と混合培養し、MHCに提示させた。抗原提示後、それぞれ300g, 5分間の遠心を4回繰り返し、上清を破棄して細胞を洗浄した。
【0101】
上記細胞成分を、制御性T細胞無し、有りの組み合わせに混和調整した後、29G シリンジを用いて、野生型C57BL/6マウスの足底に細胞移入した。3日後に、膝窩リンパ節を採取し、セルストレイナーを用いてリンパ節組織を破砕し浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、1匹当たり、2x106細胞の脾細胞をフローサイトメーターを用いて解析した。
【0102】
結果、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4T細胞とSM-ナイーブCD4T細胞だけを養子移入した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めたが、H-2d特異的制御性T細胞と同時養子移入した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、C57BL/6 ナイーブCD4細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、H-2d特異的制御性T細胞により、C57BL/6 ナイーブCD4細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、H-2d特異的制御性T細胞による免疫抑制は生体内においてC57BL/6 ナイーブCD4細胞だけに対して特異的に作用していることが示された。(図3a)。
【0103】
インビトロにおいて、上記細胞成分の培養を行った。基礎培地は、実施例1と同一である。結果、インビボで観察されたように、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4細胞とSM-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。H-2d特異的制御性T細胞と同時に培養した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、C57BL/6 ナイーブCD4細胞で認められる細胞分裂は制御性T細胞の用量依存性に低下していき、H-2d特異的制御性T細胞により、C57BL/6 ナイーブCD4細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制は制御性T細胞の用量を増やしてもほとんど認められなかったことから、H-2d特異的制御性T細胞による免疫抑制はインビトロにおいてもC57BL/6 ナイーブCD4細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図3b)。
【0104】
以上の結果より、免疫抑制の抗原特異性は、一方が外来性抗原ペプチドであり、他方が細胞表面発現蛋白質の場合についてもインビボと同様の結果を示せるインビトロのアッセイ手法が構築可能であることを示している。
【0105】
なお、制御性T細胞のクローナリティの観点から実施例3を考察すると、実施例1,2のようなモノクローナル細胞集団からなる制御性T細胞だけでなく、T細胞レセプターのポリクローナルなリンパ球集団から構成される制御性T細胞を用いた場合においても、本発明で実施されるインビトロのアッセイ系は安定して特異性解析能を有していることをも示している。
【0106】
(実施例4)
実施例3では、一方が外来性抗原ペプチドであるが、他方が細胞表面発現蛋白質の場合において、それぞれの抗原が別々の細胞に提示された場合について検証したが、実施例4では外来性抗原ペプチドとT細胞に応答性を有する細胞表面発現蛋白質(アロ抗原)が同一細胞に提示されている場合について検証した。
【0107】
CD45.1(+) CD45.2(+) OTIIマウスより脾細胞を用意し、ACK溶解処理ののちセルストレイナーを通過した細胞の一部をMACS磁気分離法を用いてナイーブCD4T細胞として単離した。単離したCD4T細胞を、CD3e/CD28 コーティング培養器内にて、TFGβ、IL-2を添加し5日間培養しFoxp3陽性制御性T細胞を作成した。培養液にはこれらのほか、ATRA (all-trans-Retinoic Acid)を添加した。培養後の細胞は、細胞分裂検出用の色素Cell Trace Violet(ThermoFisher Scientific)で染色した。
【0108】
被抑制細胞(エフェクター細胞)を単離、抗原提示細胞の単離を行った。実施例4においては、被抑制細胞として、CD90.1(+)C57BL/6 ナイーブCD4T細胞、CD45.1(+) OTII-ナイーブCD4T細胞を用いた。
【0109】
抗原として、I-Ab拘束性のOVA(323-339)ペプチドを用いた。アロ抗原としては、H-2bm12xbマウス由来の樹状細胞を用い、OVAペプチドを樹状細胞と混合培養し、MHCに提示させた。抗原提示後、それぞれ300g, 5分間の遠心を4回繰り返し、上清を破棄して細胞を洗浄した。
【0110】
上記細胞成分を、制御性T細胞無し、有りの組み合わせに混和調整した後、29G シリンジを用いて、野生型C57BL/6マウスの尾静脈に静注により養子移入した。3日後に、脾臓を採取し、セルストレイナーを用いて組織を破砕し浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、1匹当たり、2x106細胞の脾細胞をフローサイトメーターを用いて解析した。結果、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4T細胞とOTII-ナイーブCD4T細胞だけを養子移入した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めたが、OTII-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。C57BL/6 ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制は生体内においてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された。(図4a,4b)。
【0111】
インビトロにおいて、上記細胞成分の培養を行った。基礎培地は、実施例1と同一である。結果、インビボで観察されたように、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4T細胞とOTII-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。OTII-制御性T細胞と同時に培養した場合は、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は制御性T細胞の用量依存性に低下していき、OTII-制御性T細胞により、OTII- ナイーブCD4細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。C57BL/6 ナイーブCD4T細胞に対する抑制は制御性T細胞の用量を増やしてもほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制はインビトロにおいてもOTII- ナイーブCD4細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図.4c)。
【0112】
以上の結果より、免疫抑制の抗原特異性は、一方が外来性抗原ペプチドであり、他方が細胞表面発現蛋白質の場合についても、かつ提示細胞が1種類であっても、インビボと同様の結果を示せるインビトロのアッセイ手法が構築可能であることを示している。
【0113】
(実施例5)2種類の細胞表面発現蛋白質を用いた抗原特異的免疫抑制アッセイ
実施例3,4では、外来性ペプチド抗原、細胞表面発現蛋白質(アロ抗原)を用いた異なる二種類の抗原の共存環境における制御性T細胞による抗原特異的免疫抑制作用について検証を行ったが、実施例5では、2種類とも細胞表面発現蛋白質(アロ抗原)である場合について検証を行った。
【0114】
CD45.1(+) CD90.1(+) C57BL/6マウスより脾細胞を用意し、ACK溶解処理ののちセルストレイナーを通過した細胞の一部をMACS磁気分離法を用いてナイーブCD4T細胞として単離した。単離したCD4T細胞を、H-2bm12マウスより採取した樹状細胞ならびにH-2dマウスより採取した樹状細胞と共培養し、H-2bm12特異的制御性T細胞ならびに、H-2d特異的制御性T細胞を作成した。
【0115】
被抑制細胞(エフェクター細胞)と、抗原提示細胞の単離を行った。実施例5においては、抗H-2bm12応答性被抑制細胞として、CD45.2(+)CD45.1(+) H-2b/dマウスより採取したナイーブCD4T細胞、抗H-2d 応答性被抑制細胞として、CD45.2(+) CD90.1(+) H-2b/bm12マウスより採取したナイーブCD4T細胞を用いた。
【0116】
抗原として、H-2bm12 マウスと、H-2dマウスより採取した樹状細胞を混合して用いた。上記細胞成分をインビトロにおいて培養を行った。基礎培地は、実施例1と同一である。
【0117】
結果、抗H-2bm12応答性被抑制細胞と、抗H-2d応答性被抑制細胞は、制御性T細胞無し条件下において良好な増殖を認めた。H-2bm12-制御性T細胞と同時に培養した場合は、抗H-2d応答性被抑制細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、抗H-2bm12応答性被抑制細胞は顕著に増殖抑制がみられ、H-2bm12-制御性T細胞は、H-2bm12-ナイーブT細胞だけに対して抗原特異的に免疫抑制作用を有していることが示された。それは制御性T細胞の用量依存的に抑制が認められた(図5a)。
【0118】
H-2d-制御性T細胞と同時に培養した場合は、抗H-2bm12応答性被抑制細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、抗H-2d応答性被抑制細胞のみに増殖抑制がみられ、H-2d-制御性T細胞は、H-2d-制御性T細胞だけに対して抗原特異的に免疫抑制作用を有していることが示された。なおかつ、その抑制には制御性T細胞の用量依存性が認められた(図5b)。
【0119】
以上の結果より細胞表面発現蛋白質(アロ抗原)同士の共存環境においても、抗原特異的免疫抑制反応が本発明のインビトロアッセイにより示せることが実証された。
【0120】
(実施例6)抗原特異性調節因子のスクリーニング
本発明を用いることで抗原特異性調節因子のスクリーニングを行うことができる。
【0121】
CD45.1(+) CD45.2(+) OTIIマウスより脾細胞を用意し、ACK溶解処理ののちセルストレイナーを通過した細胞の一部をMACS磁気分離法を用いてナイーブCD4T細胞として単離した。単離したCD4T細胞を、CD3e/CD28 コーティング培養器内にて、TFGβ、IL-2を添加し5日間培養しFoxp3陽性制御性T細胞を作成した。培養後の細胞は、細胞分裂検出用の色素Cell Trace Violet(ThermoFisher Scientific)で染色した。
【0122】
被抑制細胞(エフェクター細胞)を単離、抗原提示細胞の単離を行った。実施例4においては、被抑制細胞として、CD90.1(+)C57BL/6 ナイーブCD4T細胞、CD45.1(+) OTII-ナイーブCD4T細胞を用いた。
【0123】
抗原として、I-Ab拘束性のOVA(323-339)ペプチドを用いた。アロ抗原としては、H-2bm12xbマウス由来の樹状細胞を用い、OVAペプチドを樹状細胞と混合培養し、MHCに提示させた。抗原提示後、それぞれ300g, 5分間の遠心を4回繰り返し、上清を破棄して細胞を洗浄した。
【0124】
上記細胞成分を、制御性T細胞無し、有りの組み合わせに混和調整した後、29G シリンジを用いて、野生型C57BL/6マウスの尾静脈に静注により養子移入した。3日後に、脾臓を採取し、セルストレイナーを用いて組織を破砕し浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、1匹当たり、2x106細胞の脾細胞をフローサイトメーターを用いて解析した。結果、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4T細胞とOTII-ナイーブCD4T細胞だけを養子移入した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めたが、OTII-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。C57BL/6 ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制は生体内においてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された。(図4a,4b)。
【0125】
インビトロにおいて、上記細胞成分の培養を行った。基礎培地は、実施例1と同一である。結果、インビボで観察されたように、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4T細胞とOTII-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。OTII-制御性T細胞と同時に培養した場合は、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は制御性T細胞の共存下で低下を認め、OTII-制御性T細胞により、OTII- ナイーブCD4細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。C57BL/6 ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制はインビトロにおいてもOTII- ナイーブCD4細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図6)。
【0126】
次に非特異化因子を50単位または100単位共存させた条件でインビトロアッセイを行った。50単位条件では顕著な変化は認めなかった。しかし、100単位条件下においては、OTII-制御性T細胞の共培養によりC57BL/6 ナイーブCD4 T細胞も有為な細胞分裂の低下を認めた。
【0127】
100単位条件下においては、被抑制細胞であるC57BL/6 ナイーブCD4T細胞とOTII-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。OTII-制御性T細胞と同時に培養した場合は、OTII-ナイーブCD4 T細胞で認められる細胞分裂は低下を認め、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞も有為な細胞分裂の低下を認めた。このことから、非特異化因子の共存は、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4細胞のみならず、C57BL/6 ナイーブCD4T細胞に対しても抑制を生じさせることを示しており、OTII-制御性T細胞の有する抗原特異性を低下させていることを示唆している。
【0128】
以上の結果より本発明を用いることで抗原特異性調節因子のスクリーニングを行った1例を提示した。
【0129】
(実施例7) 胸腺由来制御性T細胞を用いた免疫抑制の抗原特異性解析アッセイ
[制御性T細胞の作成と純化]
C57BL/6 CD45.1(+) CD45.2(+) OTII RAG-WTマウス、ならびにC57BL/6 CD45.1(+)CD45.2(+) SM RAG-WTマウスより、脾臓を取り出した。セルストレイナーを用いて脾組織を破砕し単細胞状態として浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、必要量を取り出し、CD25を標識し、MACS磁気分離法を用いてCD25+細胞を単離した。得られた細胞を、CD4,Foxp3GFPをマーカーとしてCD4T+Foxp3+細胞をセルソーティング法を用いて単離した。単離したCD4T+CD25+Foxp3+細胞を、CD3e/CD28 コーティング培養器内にて、IL-2を添加し5日間培養しFoxp3陽性制御性T細胞を作成した。培養されたリンパ球を、再びCD4,Foxp3GFPをマーカーとしてセルソーティング法を用いてCD4T+Foxp3+細胞を単離した。以上により得られた胸腺由来制御性T細胞を用いてアッセイを行った。
実施例7においては、2種類のペプチド抗原を、同一の抗原提示細胞により提示させアッセイを実施した。
【0130】
被抑制細胞として、CD90.1(+)SM-ナイーブCD4T細胞、CD45.2(+) OTII-ナイーブCD4T細胞を用いた。C57BL/6 CD90.1(+) SM RAG-KOマウス、ならびにC57BL/6 CD45.2(+) OTII RAG-KOマウスより、脾臓を取り出した。セルストレイナーを用いて脾組織を破砕し単細胞状態として浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、必要量を取り出し、CD4を標識し、MACS磁気分離法を用いてCD90.1(+)SM-ナイーブCD4T細胞、CD45.2(+) OTII-ナイーブCD4T細胞を単離した。得られた細胞を、細胞分裂検出用の色素Cell Trace Violet(ThermoFisher Scientific)を用いて定法に従い染色した。これら細胞を被抑制細胞として、アッセイを実施した。
【0131】
抗原として、I-Ab拘束性のOVA(323-339)、I-Ab拘束性のLymphocytic Choriomeningitis Virus由来ペプチド:LCMV GP(61-80)を用いた。両方のペプチドは、CD45.1(+)由来C57BL/6細胞から分離した樹状細胞と同一容器内で混合培養し、MHCに提示させた。抗原提示後、それぞれ300g, 5分間の遠心を4回繰り返し、上清中の可溶性ペプチドを洗浄して抗原提示させた樹状細胞を得た。
【0132】
上述の処理により作成したOTIIならびにSM制御性T細胞は、制御性T細胞無し、有りの組み合わせに混和調整した後、29G シリンジを用いて、野生型C57BL/6マウスの尾静脈に経静脈的に細胞移入した。
【0133】
3日後に、脾細胞を採取し、セルストレイナーを用いて脾組織を破砕し浮遊細胞を分離した。細胞数を計算し、1匹当たり、2x106細胞の脾細胞をフローサイトメーターを用いて解析した。
【0134】
結果、被抑制細胞であるSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞だけを養子移入した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めたが、OTII-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞において認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-制御性T細胞によるSM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制は生体内においてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された。
【0135】
次に、SM-制御性T細胞と同時養子移入した場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、SM-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、SM-制御性T細胞による免疫抑制は、生体内においてSM-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図7a)。
【0136】
インビトロにおいて、上記細胞成分の培養を行った。基礎培地は、実施例1と同一で実施した。すなわち、応答細胞(エフェクター細胞)がSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞の混合細胞だけで構成された培養条件、ならびに、これら応答細胞にエフェクター細胞数に対して50%、または100%すなわち同数のOTII-制御性T細胞を添加させて構成した培養条件でインビトロアッセイを実施した。さらに比較として、応答細胞(エフェクター細胞)がSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞の混合細胞だけで構成された培養条件、ならびに、これら応答細胞にエフェクター細胞数に対して50%、または100%すなわち同数のSM-制御性T細胞を添加させて構成した培養条件でインビトロアッセイを実施した。
【0137】
結果、インビボで観察されたように、被抑制細胞であるSM-ナイーブCD4T細胞と、OTII-ナイーブCD4T細胞だけで培養した場合、それらはいずれも良好な細胞分裂を認めた。OTII-制御性T細胞と同時に培養した場合は、SM-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、OTII-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、OTII-制御性T細胞により、OTII-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。SM-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、OTII-制御性T細胞による免疫抑制はインビトロにおいてOTII-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図7b左)。
【0138】
次に、SM-制御性T細胞と同時に培養した場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞は良好な細胞分裂を認めるものの、SM-ナイーブCD4T細胞で認められる細胞分裂は極めてわずかであり、SM-制御性T細胞により、SM-ナイーブCD4T細胞に対する免疫応答の抑制が認められた。OTII-ナイーブCD4T細胞に対する抑制はほとんど認められなかったことから、SM-制御性T細胞による免疫抑制は、インビトロにおいてSM-ナイーブCD4T細胞だけに対して特異的に作用していることが示された(図7b右)。
【0139】
以上の結果より、免疫抑制の抗原特異性は、制御性T細胞を胸腺由来制御性T細胞を用いた場合であっても、本発明により実施するインビトロ培養系を用いることにより、インビボにおいて示される免疫抑制の特異性解析と同一の結果を得られることが示された。なお、制御性T細胞の混合割合を被抑制細胞に対して50%、100%と増加させても制御性T細胞の対応抗原と対応しない抗原系側の被抑制細胞、すなわちOTII-制御性T細胞との場合は、SM-ナイーブCD4T細胞の増殖の割合、SM-制御性T細胞との場合は、OTII-ナイーブCD4T細胞の増殖の割合は良好に増殖が認められ、分裂低下所見は認められないことより、抗原特異的抑制が維持されており、安定した特異性解析性能を発揮することが示された。
【産業上の利用可能性】
【0140】
自己免疫疾患抑制剤の開発に利用できる。新規がん治療免疫調節剤の開発に利用できる。移植免疫応答抑制剤の開発に利用できる。
図1
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図5
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図7