(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】抵抗体ペーストならびに抵抗体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
H01C 7/00 20060101AFI20230511BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
H01C7/00 320
H01B1/22 C
(21)【出願番号】P 2019238264
(22)【出願日】2019-12-27
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2019013265
(32)【優先日】2019-01-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006068
【氏名又は名称】三ツ星ベルト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100142594
【氏名又は名称】阪中 浩
(74)【代理人】
【識別番号】100090686
【氏名又は名称】鍬田 充生
(72)【発明者】
【氏名】川口 暁広
(72)【発明者】
【氏名】小林 広治
(72)【発明者】
【氏名】林 耀広
【審査官】清水 稔
(56)【参考文献】
【文献】特開平03-177001(JP,A)
【文献】特開昭55-029199(JP,A)
【文献】国際公開第2018/062373(WO,A1)
【文献】英国特許出願公告第1282023(GB,A)
【文献】米国特許第4512917(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01C 7/00
H01B 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
6ホウ化ランタン粒子と、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む導電補助粒子と、ガラス粒子と、有機ビヒクルとを含む抵抗体ペーストであって、
前記ガラス粒子の割合が、前記有機ビヒクルを除いたペースト中15~85質量%であり、かつ前記導電補助粒子の質量割合が、前記6ホウ化ランタン粒子の質量割合よりも小さい抵抗体ペースト。
【請求項2】
導電補助粒子の割合が、6ホウ化ランタン粒子100質量部に対して1~50質量部である請求項1記載の抵抗体ペースト。
【請求項3】
導電補助粒子の割合が、有機ビヒクルを除いたペースト中1~20質量%である請求項1または2記載の抵抗体ペースト。
【請求項4】
6ホウ化ランタン粒子の中心粒径が0.3~20μmである請求項1~3のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
【請求項5】
導電補助粒子の中心粒径が0.05~20μmである請求項1~
4のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
【請求項6】
導電補助粒子が、金属単体粒子、合金粒子、金属酸化物粒子および金属塩粒子からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1~
5のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
【請求項7】
導電補助粒子が、Al粒子、Cu-Ni合金粒子およびCu
2O粒子からなる群より選択された少なくとも1種である請求項1~
6のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
【請求項8】
ガラス粒子が、ホウケイ酸ガラス粒子、アルミノケイ酸ガラス粒子およびアルミノホウケイ酸ガラス粒子から選択された少なくとも1種である請求項1~
7のいずれかに記載の抵抗体ペースト。
【請求項9】
不活性ガス雰囲気中または還元雰囲気中において請求項1~
8のいずれかに記載の抵抗体ペーストを焼成する抵抗体の製造方法。
【請求項10】
請求項
9記載の製造方法により得られる抵抗体。
【請求項11】
25μmの厚みを有するシートの抵抗値が10Ω/□以下である請求項
10記載の抵抗体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電子回路基板、電子部品、半導体パッケージの基板などに利用できる抵抗体ペーストならびにこのペーストで形成された抵抗体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミナ基板などのセラミック基板を用いた電子回路基板や電子部品にはその表面や内部に電極や回路、抵抗体などが形成されている。抵抗体の形成には酸化ルテニウムを含有する抵抗体ペーストが広く用いられている。しかし、貴金属のルテニウムは高価であるため、安価な金属種を原料とするペーストが要求される。
【0003】
ルテニウムに代替できる金属種を含む抵抗体として、特開昭60-59701号公報(特許文献1)には、金属6ホウ化物を用いた抵抗体組成物が開示されている。この文献では、前記金属6ホウ化物の中でも、6ホウ化ランタン(LaB6)は特に有用であると記載されており、全ての実施例の組成物に含まれている。
【0004】
しかし、この文献の組成物の作製においては経済上・実効上の困難を伴い、抵抗範囲の面からみても、特に低抵抗側の範囲拡張が必要であった。LaB6粒子は、抵抗体中で導電性粒子として機能するが、融点(約2530℃)が非常に高い。そのため、抵抗体中のLaB6粒子は、抵抗体の焼成温度(約800℃~950℃)では互いに焼結することはできずに、ペースト中に別途添加されているガラス粉末が溶融した絶縁層の中に点在する構造を形成している。このような構造を有する抵抗体を低抵抗化するためには、LaB6粒子を互いに接触させて導電経路を形成する機会を増やす必要性がある。そのため、この文献の組成物では、ガラス中の酸化タンタルと反応するために表面積を増やす必要もあり、LaB6の粒子径をできるだけ小さくしないと抵抗値のバラツキを抑えた安定した抵抗は得られ難い。そこで、この文献では、LaB6の粒子径は約0.2μmが最も好ましいと記載されている(実施例の粒径は不明)。しかし、このような小さなサイズのLaB6粒子は、市場に見当たらず、容易に入手できない。そのため、この文献では、小さなLaB6粒子を得るために、ボールミルなどの粉砕機によってLaB6粒子を粉砕している。しかし、LaB6(ビッカース硬さ2770)は非常に硬い材料であり、粉砕機のボールや内壁に用いられるアルミナ(ビッカース硬さ1600)やジルコニア(ビッカース硬さ1300)よりも硬いため、粉砕に非常に時間がかかって経済的でない上に、粉砕時にボールや内壁が削れてコンタミナントとしてLaB6粒子中に混入してしまう。また、混入物のない非常に小さなLaB6粒子を用いたとしても、形成される抵抗体の抵抗値は例えば5Ω/□以下には下がらず、更なる低抵抗化の要求に応えることができなかった。すなわち、従来の方法では、簡便な方法で幅広い範囲の抵抗値を有する抵抗体を得ることができなかった。このように、LaB6粒子を含む抵抗体ペーストには多くの課題があった。
【0005】
なお、特許第6393012号公報(特許文献2)には、レーザートリミング性の向上、すなわち加工性に優れた材料として、Cu、Niおよびホウ化ランタンを含有し、これらの合計含有量が40質量%以上であって、銅の粒子径が2.5μm以上である抵抗体が開示されている。この文献では、トリミング性を向上させるために、粒子径2.5μm以上の銅粒子を必要としている。さらに、焼成によって前記銅粒子を形成させるべく、金属粉末同士の焼結機会を増やす必要があり、Cu粉末およびNi粉末を多く含有させなければならない。そのため、CuおよびNiと、ホウ化ランタンとの質量比は、前者:後者=60~75:25~40と記載されており、実施例でもCuおよびNiの合計量はLaB6粒子の量よりも多い。
【0006】
すなわち、この文献では、加工性の向上を目的としており、抵抗特性の向上については記載されていない。さらに、この文献では、CuとNiとの質量比を調整することにより抵抗体の硬さを調整できることが記載されており、Niの役割についても、加工性との関連が開示されているにすぎない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭60-59701号公報(請求項1、第4頁右下欄12~第5頁右上欄7行、実施例)
【文献】特許第6393012号公報(請求項1、段落[0014][0018]、実施例)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従って、本発明の目的は、6ホウ化ランタン(LaB6)粒子を用いて、抵抗体の抵抗値を広範囲に調整でき、かつ各抵抗体の抵抗値のバラツキも低減できる抵抗体ペーストならびにこのペーストで形成された抵抗体およびその製造方法を提供することにある。
【0009】
本発明の他の目的は、LaB6粒子を用いて、簡便な方法で、抵抗温度係数TCRが低く、抵抗値のバラツキも少ない抵抗体を形成できる抵抗体ペーストならびにこのペーストで形成された抵抗体およびその製造方法を提供することにある。
【0010】
本発明のさらに他の目的は、LaB6粒子を用いて、低抵抗であり、かつ抵抗値のバラツキも少ない抵抗体を形成できる抵抗体ペーストならびにこのペーストで形成された抵抗体およびその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を達成するため鋭意検討した結果、特許文献1のような粒径の小さいLaB6粒子を用いることなく、汎用のLaB6粒子、ガラス粒子および有機ビヒクルを含む抵抗体ペーストに、特定の金属元素を含む導電補助粒子を特定の割合で配合すると、抵抗体の抵抗値を広範囲に調整でき、かつ各抵抗体の抵抗値のバラツキも低減できることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
すなわち、本発明の抵抗体ペーストは、LaB6粒子と、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む導電補助粒子(第2の粒子)と、ガラス粒子と、有機ビヒクルとを含む抵抗体ペーストであって、前記導電補助粒子の質量割合が、前記6ホウ化ランタン粒子の質量割合よりも小さい。前記導電補助粒子の割合は、LaB6粒子100質量部に対して1~50質量部程度であり、有機ビヒクルを除いたペースト中1~20質量%程度である。前記LaB6粒子の中心粒径は0.3~20μm程度である。前記ガラス粒子の割合は、有機ビヒクルを除いたペースト中10~90質量%程度である。前記導電補助粒子の中心粒径は0.05~20μm程度である。前記導電補助粒子は、金属単体粒子、合金粒子、金属酸化物粒子および金属塩粒子からなる群より選択された少なくとも1種(特に、Al粒子、Cu-Ni合金粒子およびCu2O粒子からなる群より選択された少なくとも1種)であってもよい。前記ガラス粒子は、ホウケイ酸ガラス粒子、アルミノケイ酸ガラス粒子およびアルミノホウケイ酸ガラス粒子から選択された少なくとも1種であってもよい。
【0013】
本発明には、不活性ガス雰囲気中または還元雰囲気中において前記抵抗体ペーストを焼成する抵抗体の製造方法も含まれる。また、本発明には、前記製造方法により得られる抵抗体も含まれる。この抵抗体は、25μmの厚みを有するシートの抵抗値が10Ω/□以下であってもよい。
【0014】
なお、本明細書および特許請求の範囲において「導電補助粒子」とは、その粒子自身が必ずしも導電性を持つ必要はなく、ペーストの焼成中に抵抗体膜の導電性を高める効果を持つ粒子を意味する。すなわち、導電補助粒子自身は導電性を持たない金属酸化物粒子や金属塩粒子であっても抵抗体膜の導電性を高める効果を持てばその粒子を導電補助粒子と称する。
【発明の効果】
【0015】
本発明では、LaB6粒子、ガラス粒子および有機ビヒクルを含む抵抗体ペーストに、特定の金属元素を含む導電補助粒子が特定の割合で配合されているため、抵抗体の抵抗値を広範囲に調整でき、かつ各抵抗体の抵抗値のバラツキも低減できる。また、6ホウ化ランタン(LaB6)粒子を用いて、簡便な方法で、抵抗体の抵抗温度係数TCRを低減でき、抵抗体における抵抗値のバラツキも抑制できる。さらに、粒径の大きいLaB6粒子を用いて、低抵抗であり、かつ抵抗値のバラツキも少ない抵抗体を形成できる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
[抵抗体ペースト]
本発明の抵抗体ペーストは、6ホウ化ランタン(LaB6)粒子と、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む導電補助粒子と、ガラス粒子と、有機ビヒクルとを含む。さらに、前記導電補助粒子の質量割合が、前記6ホウ化ランタン粒子の質量割合よりも小さく調整されているため、抵抗体の抵抗値を低くしても、抵抗値のバラツキを抑制でき、前記ガラス粒子の割合を調整することにより、抵抗値のバラツキを抑制しつつ、幅広い抵抗値を有する抵抗体を調製できる。また、粒径の小さいLaB6粒子を用いることなく、抵抗値のバラツキを抑制できるため、簡便な方法で抵抗体を製造できる。
【0017】
本発明において、このような効果が発現するメカニズムは明確ではないが、以下のように推定できる。すなわち、前述したように、LaB6粒子は、焼成において互いに焼結することができず、抵抗体中においてガラス粒子が溶融したガラス絶縁層の中に点在する構造を形成する。そのため、導通経路の形成にはLaB6粒子が互いに接触する構造を形成する必要があるが、このような接触構造のみでは導通経路に乏しく、低抵抗化が困難である。また、ガラス層中でのLaB6粒子の分布状態による影響を大きく受けるために抵抗値もバラツキ易い。そこで、ガラス層の中にも導通経路を形成する必要があるが、本発明では導電補助粒子がその役割を担う。
【0018】
本発明では、導電補助粒子を構成する金属元素(Al、Ni、Cu、Ag)は、抵抗体ペーストの焼成時にイオン化してガラス中に容易に拡散する。拡散した金属イオンは、不活性ガス雰囲気(無酸素~低酸素雰囲気)での焼成において生じるペースト中の樹脂が分解した還元性のガス、または還元雰囲気での焼成によって還元されてガラス中に微析出される。絶縁ガラス中に微析出した金属粒子は非常に微細な導通経路を形成しガラス層の絶縁性を低下させる。すなわち、ガラス層が導電性を帯びることになるため、抵抗体膜の抵抗を下げることができる。また、LaB6粒子の分布状態による影響を緩和できるため、抵抗値のバラツキも抑制できる。
【0019】
(LaB6粒子)
LaB6粒子の形状としては、例えば、球状(真球状または略球状)、楕円体(楕円球)状、多角体状(多角錘状、正方体状や直方体状など多角方形状など)、板状(扁平状、鱗片状、薄片状など)、ロッド状または棒状、繊維状、樹針状、不定形状などが挙げられる。LaB6粒子の形状は、通常、球状、楕円体状、多角体状、不定形状などである。
【0020】
本発明では、粒径の小さいLaB6粒子を用いることなく、低抵抗化でき、かつ抵抗値のバラツキも抑制できるため、LaB6粒子の粒径は、比較的大きい粒径であってもよい。LaB6粒子の中心粒径(D50)は、例えば0.3~20μm、好ましくは0.5~15μm、さらに好ましくは0.7~10μm(特に1~8μm)程度である。高度に低抵抗化でき、かつ抵抗値のバラツキも抑制できる点から、LaB6粒子の中心粒径(D50)は、例えば0.3~10μm、好ましくは0.5~5μm、さらに好ましくは0.7~3μm(特に0.8~2μm)程度である。LaB6粒子の粒径が小さすぎると、生産性などが低下する虞があり、逆に大きすぎると、抵抗値のバラツキが大きくなる虞がある。
【0021】
なお、本明細書および特許請求の範囲では、粒子(後述する導電補助粒子およびガラス粒子も含む)の中心粒径は、レーザー回折散乱式粒度分布測定装置を用いて測定された平均粒径(体積基準)を意味する。
【0022】
LaB6粒子の割合は、有機ビヒクルを除いたペースト(固形分)中5~90質量%程度の範囲から選択でき、例えば10~85質量%、好ましくは30~80質量%(例えば50~75質量%)、さらに好ましくは60~70質量%(特に62~66質量%)程度である。LaB6粒子の割合が少なすぎると、低抵抗化が困難となったり、抵抗値のバラツキが大きくなったりする虞がある。逆に多すぎると、抵抗体膜が焼結できずに脆くなる虞がある。
【0023】
(導電補助粒子)
導電補助粒子は、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含んでいればよいが、通常、金属単体粒子、合金粒子、金属酸化物粒子、金属塩粒子のいずれかの形態の粒子である。また、これらの粒子の表面を、金属単体、合金、金属酸化物または金属塩でコーティングしたコート粒子(複合粒子)であってもよい。これらの形態の粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。導電補助粒子が金属単体粒子または合金粒子である場合、ガラス中への拡散機構について、ペーストに含まれるガラス中の酸素と作用することによってイオン化してガラス中に拡散すると推定できる。一方、導電補助粒子が金属酸化物粒子または金属塩粒子である場合、金属元素は始めからイオン化しているため、ガラス中への拡散は容易であると推定できる。
【0024】
金属単体粒子であるAl粒子、Ni粒子、Cu粒子、Ag粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらのうち、抵抗値のバラツキの小さい抵抗体を製造し易い点から、Al粒子、Cu粒子が好ましく、Al粒子が特に好ましい。
【0025】
合金粒子は、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種の金属元素を含む合金であればよく、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも2種の合金であってもよく、Al、Ni、CuおよびAgからなる群より選択された少なくとも1種と他の金属元素との合金であってもよい。
【0026】
合金粒子を形成する合金としては、例えば、Al-Cu合金、Mn-Al合金、Mn-Cu合金、Mn-Cu-Al合金、Mn-Cu-Ni合金、Co-Ni合金、Ni-Cr合金、Ni-Fe合金、Ni-Cu-Fe合金、Cu-Sn合金、Cu-Sn-P合金、Cu-Zn合金、Cu-Ni合金、Cu-Ni-Zn合金、Ag-Cu合金などが挙げられる。これらの合金粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの合金粒子のうち、抵抗温度係数TCRが小さい抵抗体を製造し易い点から、CuおよびNiを含む合金、Cu-Ni合金、Mn-Cu-Ni合金が好ましく、Cu-Ni合金が特に好ましい。
【0027】
金属酸化物粒子を形成する金属酸化物は、複合酸化物であってもよいが、通常、酸化ニッケル(NiO)、酸化銅(Cu2O、CuO)、酸化銀(Ag2O)である。これらの金属酸化物粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属酸化物粒子のうち、低抵抗化され、かつ抵抗値のバラツキおよび抵抗温度係数TCRの小さい抵抗体を製造し易い点から、Cu2O粒子などの酸化銅粒子が好ましい。
【0028】
金属塩粒子を形成する金属塩としては、例えば、無機酸塩(塩化物、塩酸塩、硫酸塩、硝酸塩、炭酸塩、リン酸塩、ホウ酸塩など)、有機酸塩(ギ酸塩、酢酸塩、シュウ酸塩など)などが挙げられる。これらの金属塩粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの金属塩粒子のうち、ガラス中のアルカリ金属やアルカリ土類金属とイオン交換しやすくガラス中へ取り込まれやすいという点から、硝酸銀が好ましい。
【0029】
これらの導電補助粒子のうち、低抵抗化が可能であり、抵抗温度係数TCRが低く、かつ抵抗値のバラツキも少ない点から、Al粒子、Cu-Ni合金粒子およびCu2O粒子からなる群より選択された少なくとも1種が特に好ましい。
【0030】
導電補助粒子の形状は、好ましい態様も含めて、前記LaB6粒子と同一である。
【0031】
導電補助粒子の中心粒径(D50)は、例えば0.05~20μm、好ましくは0.1~15μm、さらに好ましくは0.3~10μm(特に0.5~5μm)程度である。粒径が小さすぎると、経済性が低下するとともに、ペースト中での分散性も低下する虞がある。逆に粒径が大きすぎると、ガラス中へ拡散できる割合が減って効率が低下する虞があり、またメッシュスクリーンで印刷する場合には、メッシュ目詰まりの原因となる虞もある。
【0032】
導電補助粒子の中心粒径は、LaB6粒子の中心粒径に対して0.1~3倍程度であってもよく、好ましくは0.2~1倍、さらに好ましくは0.3~0.8倍(特に0.4~0.6倍)程度である。
【0033】
導電補助粒子の質量割合は、LaB6粒子の質量割合よりも小さければよく、例えば、LaB6粒子100質量部に対して0.1~80質量部(例えば0.5~60質量部)程度の範囲から選択でき、抵抗温度係数TCRの小さい抵抗体を製造し易い点から、例えば1~50質量部(例えば3~35質量部)、好ましくは4~30質量部(例えば5~20質量部)、さらに好ましくは7~18質量部(特に10~15質量部)程度である。
【0034】
導電補助粒子の割合は、有機ビヒクルを除いたペースト中0.1~30質量%程度の範囲から選択でき、抵抗温度係数TCRの小さい抵抗体を製造し易い点から、例えば1~20質量%、好ましくは3~17質量%、さらに好ましくは5~15質量%(特に5~10質量%)程度である。
【0035】
ペースト中に含まれる導電補助粒子の質量割合はLaB6粒子の質量割合を超えない範囲で適宜調整できるが、導電補助粒子の割合が小さすぎると、目的の効果が得られない虞がある。逆に大きすぎると、抵抗体の抵抗温度係数TCRも大きくなる虞がある。抵抗器などの電子部品で実用的なTCRの大きさは用途や要求にもよるが、実用的な観点からは、TCRが大きすぎる抵抗体は好ましくない。さらに、導電補助粒子の割合を増加した場合、増加量にしたがって低下してきた抵抗が急に大きくなって抵抗変化の仕方が連続的でなくなる。この傾向は、LaB6粒子の割合を超える場合に顕著になる。導電補助粒子の増加に伴う抵抗変化が連続的でないことの弊害は抵抗体ペーストの用いられ方に関係する。一般に、抵抗体ペーストを用いて所望の抵抗を得るためには、低抵抗のペーストと高抵抗のペーストとを任意の比率でブレンドする。抵抗変化が単調でなく不連続変化の場合、ブレンドによって間の抵抗を狙うことができない。このような点から、導電補助粒子の割合は、LaB6粒子の割合を超えない範囲に調整する必要がある。
【0036】
(ガラス粒子)
ガラス粒子(ガラス粉末)は、バインダーとしての機能を有し、かつ抵抗体の導電性を調整できればよく、抵抗体に利用される慣用のガラス粒子を利用できる。
【0037】
ガラス粒子を構成するガラスの組成は、特に限定されないが、非還元性の酸化物を主体とし、焼成中にLaB6のホウ素によって容易に還元され難い組成が好ましい。ガラスが還元される場合、その軟化流動性や物理的強度、電気的特性が著しく変化する虞がある。
【0038】
非還元性のガラス組成を有するガラスとしては、例えば、組成式SiO2-B2O3-MO(式中、Mは、Si、B以外の元素を示す)で表されるホウケイ酸ガラス、組成式Al2O3-SiO2-MO(式中、Mは前記に同じ)で表されるアルミノケイ酸ガラス、組成式Al2O3-SiO2-B2O3-MO(式中、Mは前記に同じ)で表されるアルミノホウケイ酸ガラスなどが挙げられる。ガラス粒子は、金属元素のガラス中への拡散を促進できる点から、アルカリ金属および/またはアルカリ土類金属を含むのが好ましく、前記組成式のMが、K、Naなどのアルカリ金属、Ba、Caなどのアルカリ土類金属であるガラス粒子が特に好ましい。これらのガラス組成を有するガラス粒子は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0039】
ガラス粒子の軟化点(または融点)は、抵抗体ペーストの焼成温度よりも低い温度であるのが好ましい。ガラス粒子の軟化点は、例えば400~800℃、好ましくは420~780℃、さらに好ましくは450~750℃程度である。軟化点が低すぎると、抵抗体の強度が低下する虞があり、逆に高すぎると、溶融流動性が低下するため、バインダーとしての機能が低下する虞がある。
【0040】
ガラス粒子の形状は、好ましい態様も含めて、前記LaB6粒子と同一である。
【0041】
ガラス粒子の中心粒径(D50)は、例えば0.1~20μm、好ましくは0.5~10μm、さらに好ましくは1~5μm程度である。粒径が小さすぎると、経済性が低下するとともに、ペースト中での分散性も低下する虞がある。逆に粒径が大きすぎると、印刷性や焼成膜の均一性が低下するとともに、メッシュスクリーンで印刷する場合には、メッシュ目詰まりの原因となる虞もある。
【0042】
ガラス粒子の割合は、目的の抵抗値に応じて適宜選択でき、特に限定されず、有機ビヒクルを除いたペースト中5~95質量%程度の範囲から選択でき、例えば10~90質量%、好ましくは15~85質量%、さらに好ましくは20~75質量%程度である。低抵抗の抵抗体を製造する場合は、有機ビヒクルを除いたペースト中5~60質量%(例えば10~60質量%)、好ましくは10~50質量%(例えば15~50質量%)、さらに好ましくは20~40質量%(特に25~35質量%)程度である。ガラス粒子の割合が少なすぎると、焼成後に抵抗体を固めることができず形状を保持し難くなる虞がある。逆にガラス粒子の割合が多すぎると、導通経路が乏しくなりすぎて抵抗ばらつきが大きくなりすぎる虞がある。
【0043】
(有機ビヒクル)
有機ビヒクルは、抵抗体ペーストの有機ビヒクルとして利用される慣用の有機ビヒクル、例えば、有機バインダーおよび/または有機溶剤であってもよい。有機ビヒクルは、有機バインダーおよび有機溶剤のいずれか一方であってもよいが、通常、有機バインダーと有機溶剤との組み合わせ(有機バインダーの有機溶剤による溶解物)である。
【0044】
有機バインダーとしては、特に限定されず、例えば、熱可塑性樹脂(オレフィン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、スチレン系樹脂、ポリエーテル系樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリアミド系樹脂、セルロース誘導体など)、熱硬化性樹脂(熱硬化性アクリル系樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、不飽和ポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂など)などが挙げられる。これらの有機バインダーは、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機バインダーのうち、焼成過程で容易に焼失し、かつ灰分の少ない樹脂、例えば、アクリル系樹脂(ポリメチルメタクリレート、ポリブチルメタクリレートなど)、セルロース誘導体(ニトロセルロース、エチルセルロース、ブチルセルロース、酢酸セルロースなど)、ポリエーテル類(ポリオキシメチレンなど)、ゴム類(ポリブタジエン、ポリイソプレンなど)などが汎用され、熱分解性などの点から、ポリ(メタ)アクリル酸メチルやポリ(メタ)アクリル酸ブチルなどのポリ(メタ)アクリル酸C1-10アルキルエステルが好ましい。
【0045】
有機溶剤としては、特に限定されず、ペーストに適度な粘性を付与し、かつペーストを基板に塗布した後に乾燥処理によって容易に揮発できる有機化合物であればよく、高沸点の有機溶剤であってもよい。このような有機溶剤としては、例えば、芳香族炭化水素(パラキシレンなど)、エステル類(乳酸エチルなど)、ケトン類(イソホロンなど)、アミド類(ジメチルホルムアミドなど)、脂肪族アルコール(オクタノール、デカノール、ジアセトンアルコールなど)、セロソルブ類(メチルセロソルブ、エチルセロソルブなど)、セロソルブアセテート類(エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテートなど)、カルビトール類(カルビトール、メチルカルビトール、エチルカルビトールなど)、カルビトールアセテート類(エチルカルビトールアセテート、ブチルカルビトールアセテート)、脂肪族多価アルコール類(エチレングリコール、ジエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ブタンジオール、トリエチレングリコール、グリセリンなど)、脂環族アルコール類[例えば、シクロヘキサノールなどのシクロアルカノール類;テルピネオール、ジヒドロテルピネオールなどのテルペンアルコール類(モノテルペンアルコールなど)など]、芳香族アルコール類(メタクレゾールなど)、芳香族カルボン酸エステル類(ジブチルフタレート、ジオクチルフタレートなど)、窒素含有複素環化合物(ジメチルイミダゾール、ジメチルイミダゾリジノンなど)などが挙げられる。これらの有機溶剤は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。これらの有機溶剤のうち、ペーストの流動性などの点から、テルピネオールなどの脂環族アルコール、ブチルカルビトールアセテートなどのC1-4アルキルセロソルブアセテート類が好ましい。
【0046】
有機バインダーと有機溶剤とを組み合わせる場合、有機バインダーの割合は、有機溶剤100質量部に対して、例えば1~200質量部、好ましくは10~100質量部、さらに好ましくは30~80質量部程度であり、有機ビヒクル全体に対して5~80質量%、好ましくは10~50質量%、さらに好ましくは15~40質量%程度である。
【0047】
有機ビヒクルの体積割合は、抵抗体ペーストの体積全体に対して、例えば10~80%、好ましくは20~75%、さらに好ましくは30~70%程度である。有機ビヒクルの質量割合は、LaB6粒子、導電補助粒子およびガラス粒子の合計100質量部に対して、例えば1~200質量部、好ましくは5~150質量部、さらに好ましくは10~100質量部程度である。
【0048】
(他の成分)
抵抗体ペーストは、本発明の効果を損なわない範囲で、慣用の添加剤をさらに含んでいてもよい。慣用の添加剤としては、例えば、硬化剤(アクリル系樹脂の硬化剤など)、着色剤(染顔料など)、色相改良剤、染料定着剤、光沢付与剤、金属腐食防止剤、安定剤(酸化防止剤、紫外線吸収剤など)、界面活性剤または分散剤(アニオン性界面活性剤、カチオン性界面活性剤、ノニオン性界面活性剤、両性界面活性剤など)、分散安定化剤、粘度調整剤またはレオロジー調整剤、保湿剤、チクソトロピー性賦与剤、レベリング剤、消泡剤、殺菌剤、充填剤、TCR調整剤などが挙げられる。これらの他の成分は、単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。他の成分の割合は、成分の種類に応じて選択でき、通常、抵抗体ペースト全体に対して10質量%以下(例えば0.01~10質量%)程度である。
【0049】
[抵抗体およびその製造方法]
本発明の抵抗体は、不活性ガス雰囲気中あるいは還元雰囲気中において前記抵抗体ペーストを焼成することにより得られ、通常、セラミックス基板の上に、抵抗体ペーストを塗布した後、焼成することにより得られる。
【0050】
セラミックス基板の材質としては、例えば、金属酸化物(アルミナまたは酸化アルミニウム、ジルコニア、サファイア、フェライト、酸化亜鉛、酸化ニオブ、ムライト、ベリリアなど)、酸化ケイ素(石英、二酸化ケイ素など)、金属窒化物(窒化アルミニウム、窒化チタンなど)、窒化ケイ素、窒化ホウ素、窒化炭素、金属炭化物(炭化チタン、炭化タングステンなど)、炭化ケイ素、炭化ホウ素、金属複酸化物[チタン酸金属塩(チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸鉛、チタン酸ニオブ、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウムなど)、ジルコン酸金属塩(ジルコン酸バリウム、ジルコン酸カルシウム、ジルコン酸鉛など)など]などが挙げられる。これらのセラミックスは単独でまたは二種以上組み合わせて使用できる。
【0051】
これらのセラミックス基板のうち、電気電子分野で信頼性が高い点から、アルミナ基板、アルミナ-ジルコニア基板、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板、炭化珪素基板が好ましく、アルミナ基板、窒化アルミニウム基板、窒化珪素基板が特に好ましい。
【0052】
セラミックス基板の厚みは、用途に応じて適宜選択すればよく、例えば0.001~10mm、好ましくは0.01~5mm、さらに好ましくは0.05~3mm(特に0.1~1mm)程度であってもよい。
【0053】
抵抗体ペーストの塗布としては、例えば、フローコーティング法、スピンコーティング法、スプレーコーティング法、スクリーン印刷法、フレキソ印刷法、キャスト法、バーコーティング法、カーテンコーティング法、ロールコーティング法、グラビアコーティング法、スリット法、フォトリソグラフィ法、インクジェット法などを挙げることができる。これらのうち、スクリーン印刷法が好ましい。
【0054】
焼成における雰囲気の不活性ガスとしては、例えば、窒素ガス、ヘリウムガス、アルゴンガスなどが挙げられる。これらのうち、取り扱い性などの点から、窒素ガスが汎用される。還元雰囲気としては、水素ガスを含む雰囲気であればよく、窒素ガスと水素ガスの混合ガス雰囲気であってもよい。
【0055】
焼成温度は、抵抗体ペースト中のガラス粒子の軟化点を超えていればよく、例えば600~1100℃、好ましくは700~1000℃、さらに好ましくは800~950℃程度である。焼成時間は、例えば1分~3時間、好ましくは10分~2時間、さらに好ましくは30分~1.5時間程度である。
【0056】
焼成(特に窒素雰囲気中での焼成)は、バッチ炉又はベルト搬送式のトンネル炉を用いて行ってもよい。
【0057】
得られた抵抗体は、抵抗値のバラツキが小さく、抵抗バラツキCVは7.5%未満であってもよく、好ましくは6%以下、さらに好ましくは5%以下である。
【0058】
また、抵抗体は、抵抗温度係数TCRも低く、TCRは600ppm/℃未満であってもよく、好ましくは300ppm/℃以下、さらに好ましくは200ppm/℃以下である。
【0059】
さらに、抵抗体は、幅広い抵抗値に調整できるが、低抵抗化も可能であり、25μmの厚みを有するシートの抵抗値は10Ω/□以下であってもよく、好ましくは8Ω/□以下、さらに好ましくは5Ω/□以下であってもよい。
【実施例】
【0060】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されるものではない。以下の例において、実施例で使用した材料および評価用基板のパターン、得られた電子基板の評価方法を以下に示す。
【0061】
[使用した材料]
(6ホウ化ランタン粒子)
LaB6粒子A:中心粒径5μmの6ホウ化ランタン粒子
LaB6粒子B:中心粒径1μmの6ホウ化ランタン粒子
(導電補助粒子)
CuNi粒子:中心粒径2μmのCu-Ni合金粒子
Al粒子:中心粒径3μmのAl粒子
Ni粒子:中心粒径0.6μmのNi粒子
Ag粒子:中心粒径1μmのAg粒子
Cu粒子:中心粒径3μmのCu粒子
Cu2O粒子:中心粒径3μmのCu2O粒子
NiO粒子:中心粒径2μmのNiO粒子
AgNO3粒子:中心粒径10μmのAgNO3粒子
Mo粒子:中心粒径2μmのMo粒子
Fe粒子:中心粒径4μmのFe粒子
Zn粒子:中心粒径7μmのZn粒子
(ガラス粒子)
ガラス粒子:中心粒径3μm、組成Al2O3-SiO2-B2O3-BaOのガラス粉末
(有機ビヒクル)
有機バインダー:ポリブチルメタクリレート
有機溶剤:テルピネオール
【0062】
[評価用基板のパターン]
76.2mm×76.2mmのアルミナ基板の表面に、1mm×1mmサイズの抵抗体パターンを配置したサンプルを評価基板とした。なお、抵抗体パターンは予め銅ペーストを焼き付けることによって形成した四端子抵抗測定用の配線電極パターンに接続した。
【0063】
[評価用基板の作製]
表1に示す組成にてペーストを調製した。なお、表1では有機ビヒクル量を省略しているが有機ビヒクル量はスクリーン印刷がし易いペースト粘度となるよう適宜調整した。作製したペーストをスクリーン印刷で前記評価パターンに印刷した後、窒素ガス雰囲気下でトンネル炉を用いて焼成した。焼成は最高温度850℃にて行い、この温度を10分間保持し、昇温および降温を含めた炉への投入から回収までの時間は約60分間とした。焼成を終えた抵抗体の膜厚は概ね25μm前後であった。この基板を評価用基板とした。
【0064】
[基板の評価]
(シート抵抗)
シート抵抗は四端子法にて25℃において測定した抵抗値を次式によって25μm膜厚時の抵抗に換算した値とした。
【0065】
シート抵抗(Ω/□)=測定抵抗値(Ω/□)×25(μm)/膜厚(μm)
【0066】
実施例および比較例で得られた評価用基板について、それぞれ16点の測定を行って、それらの平均値をシート抵抗とした。
【0067】
(抵抗低減率)
前記シート抵抗を用い、各実施例(または比較例)に対応した比較例のシート抵抗を基準シート抵抗として次式によって抵抗低減率を算出した。
【0068】
抵抗低減率(%)=100×(基準シート抵抗-各実施例のシート抵抗)/基準シート抵抗
【0069】
得られた抵抗低減率を下記基準で判定した。抵抗低減率が大きいほど低抵抗化の効果が大きいことを示す。
【0070】
×:10%未満(もしくはマイナス)
○:10%以上50%未満
◎:50%以上
【0071】
なお、対応する比較例とは、各実施例(または比較例)において、導電補助粒子を除いた組成が一致する組成の比較例のことであり、それらの対応関係を表1に示す。
【0072】
【0073】
(抵抗ばらつきCV)
前記シート抵抗の評価における16点のシート抵抗結果を用いて、次式のように、標準偏差を平均値で除して百分率をとった値をシート抵抗のばらつきCVとした。
【0074】
抵抗ばらつきCV(%)=100×測定抵抗の標準偏差/測定抵抗の平均値
【0075】
得られたばらつきCVについて、下記基準で判定した。
【0076】
×:7.5%以上
○:5%以上7.5%未満
◎:5%未満
【0077】
(抵抗温度係数TCR)
前記シート抵抗の測定において使用した基板を用いて、125℃における抵抗値を同様に測定した。125℃と25℃における抵抗差から抵抗温度係数TCR(H)は次式によって求めた。
【0078】
TCR(ppm/℃)=106×(125℃の抵抗値(Ω)-25℃の抵抗値(Ω))/(25℃の抵抗値(Ω)×100(℃))
【0079】
得られた抵抗温度係数TCRについて、下記基準で判定した。
【0080】
×:-600ppm/℃未満+600ppm/℃超
○:±200ppm/℃から±600ppm/℃
◎:±200ppm/℃以内
【0081】
(総合判定)
前記シート抵抗、抵抗ばらつきCVおよび抵抗温度係数TCRの総合評価について、下記基準で判定した。
【0082】
×:1つでも×がある
○:1つも×がなく、◎が1つ以下
◎:1つも×がなく、◎が2つ以上ある
【0083】
実施例1~4、6~9および比較例2~3
表2および4に示すように、金属粒子としてCuNi合金粒子を、量を変えて添加し(比較例1は添加せず)、前述のように評価基板を製造した。
【0084】
実施例5、10~12および比較例1、4~6
表2および4に示すように、ガラス粉末の割合を低減または増加させ(実施例5、10~12は実施例6に対して金属粒子はCuNi粒子としたまま、ガラス粉末の割合を低減または増加させ)、前述のように評価基板を製造した。
【0085】
実施例13~19および比較例7~9
表3および4に示すように、添加する金属粒子の種類を変更し、前述のように評価基板を製造した。
【0086】
実施例20および比較例10
表3および4に示すように、LaB6粒子を1μmサイズの粒子に変更し、金属粒子はCuNi粒子とし、前述のように評価基板を製造した。なお、ガラス粉末の割合は、実施例1~9および13~19に対して増やしているが、これは低いTCRとするためである。
【0087】
実施例および比較例で得られた評価基板の評価結果も表2~4に示す。
【0088】
【0089】
【0090】
【0091】
表2および4の結果から明らかなように、導電補助粒子であるCuNi粒子の割合を変更した実施例1~4、6~9および比較例2の結果を見ると、CuNi粒子を含有しない比較例2に対して、CuNi粒子の割合が増加するにつれてシート抵抗は低下した。しかし、CuNi粒子の割合を増やしてLaB6粒子の割合よりも多くした比較例3ではシート抵抗が大きく上昇し、抵抗変化の不連続性が見られた。また、実施例1~4、6~9においては抵抗バラツキが小さくなり、TCRは上昇するものの使用できる範囲内であった。なお、実施例9は、CuNi粒子の割合がLaB6粒子100質量部に対して57質量部であり、50質量部である実施例8と比べて、抵抗変化の不連続性により抵抗低減効果が相対的に小さかった。
【0092】
ガラス粉末の割合を変更した実施例5および10~12では、広い抵抗範囲で安定した抵抗値を示した。また、このような高い抵抗範囲においても、導電補助粒子により抵抗値を低減でき、安定性の向上効果が見られた。
【0093】
導電補助粒子の種類を変更した実施例13~19と比較例2とを比較すると、いずれの金属種においても本発明の効果が確認された。Ni、Cu、Agを単体金属で添加した場合や酸化ニッケル(NiO)、硝酸銀(AgNO3)を添加した場合は、抵抗を下げる効果やTCRの上昇を抑制する効果などはCuNi合金を添加する場合に比べて若干劣ってはいたものの、一定の効果を有していた。また、Cu2O粒子、Al粒子は、CuNi粒子と同等の低抵抗化効果を発揮し、TCRの上昇も抑えられていた。
【0094】
一方でMoやFe、Zn(比較例7~9)を添加した場合には低抵抗化の効果は見られず、逆に若干上昇してしまう結果であった。このような添加金属種の違いによって抵抗変化の仕方が変わる理由は金属の融点に多少の関連があると推定される。すなわち金属のガラスへの拡散作用を生じさせる温度域はガラスの軟化温度から焼成のピーク温度までの温度域であるが、Mo(融点2610℃)やFe(融点1540℃)は焼成ピーク温度に対して高すぎ、Zn(融点420℃)ではガラスの軟化温度に対して低すぎるため効果が見られなかったと考えられる。Al(融点660℃)やCu(融点1083℃)、Ni(融点1450℃)、Ag(融点960℃)はそれらに対して融点が作用温度に近いため拡散し易かったと推定される。
【0095】
実施例20と比較例10との比較から明らかなように、LaB6粒子が小さい場合においても導電補助粒子の効果が確認された。
【産業上の利用可能性】
【0096】
本発明の抵抗体ペーストは、回路基板、電子部品、半導体パッケージの基板などに利用でき、電子基板の抵抗体を形成するためのペーストとして特に有効に利用できる。