IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティの特許一覧

特許7277382プラズモンアンテナおよび反応性触媒表面からなる多成分プラズモン光触媒:アンテナ-リアクタ効果
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】プラズモンアンテナおよび反応性触媒表面からなる多成分プラズモン光触媒:アンテナ-リアクタ効果
(51)【国際特許分類】
   B01J 35/02 20060101AFI20230511BHJP
   B01J 19/12 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 23/44 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 23/72 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 23/89 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 37/03 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 37/04 20060101ALI20230511BHJP
   B01J 37/16 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 3/04 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 3/40 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 4/00 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 21/02 20060101ALI20230511BHJP
   C01B 32/40 20170101ALI20230511BHJP
【FI】
B01J35/02 J
B01J19/12 C
B01J23/44 M
B01J23/72 M
B01J23/89 M
B01J37/03 B
B01J37/04 101
B01J37/16
C01B3/04 B
C01B3/40
C01B4/00 D
C01B21/02 A
C01B32/40
【請求項の数】 16
(21)【出願番号】P 2019562257
(86)(22)【出願日】2018-05-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-07-02
(86)【国際出願番号】 US2018032375
(87)【国際公開番号】W WO2018231398
(87)【国際公開日】2018-12-20
【審査請求日】2020-01-14
【審判番号】
【審判請求日】2022-04-21
(31)【優先権主張番号】62/505,496
(32)【優先日】2017-05-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】510166102
【氏名又は名称】ウィリアム マーシュ ライス ユニバーシティ
【氏名又は名称原語表記】WILLIAM MARSH RICE UNIVERSITY
【住所又は居所原語表記】6100 Main Street,Houston,TX 77005, United States of America
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】ハラス, ナンシー, ジーン
(72)【発明者】
【氏名】ノルドランダー, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ロバチャジ, ホセイン
(72)【発明者】
【氏名】スウェラー, ダイン, フランシス
(72)【発明者】
【氏名】ヂャン, チャオ
(72)【発明者】
【氏名】ヂャオ, ハンチー
(72)【発明者】
【氏名】ヂョウ, リーナン
【合議体】
【審判長】宮澤 尚之
【審判官】金 公彦
【審判官】伊藤 真明
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/030753(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00-38/74
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
溶解した支持体材料の前駆体、溶解したプラズモン材料の前駆体および反応性成分の前駆体を含む溶解した前駆体溶液から沈殿を誘導して共沈殿粒子を形成することと、
上記共沈殿粒子を回収することと、
上記共沈殿粒子をアニールして、プラズモン材料と光学的、熱的、または電子的にカップリングした反応性成分を含む合金多成分光触媒を形成することと
を含み、
プラズモン材料は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、および上記元素を含む合金らなる群から選択される少なくとも1種であり、
反応性成分は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、インジウム(In)、およびこれらの合金らなる群から選択される少なくとも1種であ
上記合金多成分光触媒は、上記プラズモン材料の表面で合金化された反応性成分を有し、
上記プラズモン材料は、プラズモン共鳴を有する、
合金多成分光触媒を作製する方法。
【請求項2】
プラズモン材料の前駆体および反応性成分の前駆体を溶液に溶解させて上記前駆体溶液を形成することをさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
上記前駆体溶液を塩基性溶液に接触させることで沈殿が誘導される、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
上記塩基性溶液は、水溶液に溶解したアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、およびアルカリ金属水酸化物のうちの少なくとも1種を含む、請求項に記載の方法。
【請求項5】
上記プラズモン材料の前駆体および上記反応性成分の前駆体は遷移金属塩である、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
上記反応性成分の前駆体中の金属に対する上記プラズモン材料の前駆体中の金属のモル比は、1000:1~10:1である、請求項1に記載の方法。
【請求項7】
上記共沈殿粒子は99.9重量%~20重量%の支持体材料を含む、請求項に記載の方法。
【請求項8】
上記アニールは、少なくとも部分的に還元性雰囲気中で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
上記アニールは200℃~1000℃の温度で行われる、請求項1に記載の方法。
【請求項10】
溶解した支持体材料の前駆体、溶解したプラズモン材料の前駆体、および反応性成分の前駆体を含む溶解した前駆体溶液から沈殿を誘導して、合金多成分光触媒前駆体の共沈殿粒子を形成することと、上記合金多成分光触媒前駆体を回収することとを含む方法により合金多成分光触媒前駆体を形成することと;
上記合金多成分光触媒前駆体を高温反応チャンバーに充填することと;
充填した合金多成分光触媒前駆体をアニールして、プラズモン材料と光学的、熱的、または電子的にカップリングした反応性成分を含む合金多成分光触媒を形成することと;
上記反応チャンバーに反応物を供給することと;
上記反応チャンバー内の上記合金多成分光触媒を、上記プラズモン材料のプラズモン共鳴と重なる波長を有する光源で照射することと
を含み、
プラズモン材料は、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、および上記元素を含む合金らなる群から選択される少なくとも1種であり、
反応性成分は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、インジウム(In)、およびこれらの合金らなる群から選択される少なくとも1種であ
上記合金多成分光触媒は、上記プラズモン材料の表面で合金化された反応性成分を有し、
上記合金多成分光触媒は、表面プラズモン共鳴を有する、
反応を触媒する方法。
【請求項11】
上記合金多成分光触媒前駆体は、上記高温反応チャンバーに充填する前にペレットまたはフィルムに加工される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
上記プラズモン材料の前駆体および上記反応性成分の前駆体は遷移金属塩である、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
上記反応性成分の前駆体中の金属に対する上記プラズモン材料の前駆体中の金属のモル比は、1000:1~10:1である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
上記アニールは、少なくとも部分的に還元性雰囲気中で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
上記アニールは200℃~1000℃の温度で行われる、請求項10に記載の方法。
【請求項16】
上記反応は、メタンスチームリフォーミング、メタンドライリフォーミング、アンモニア分解、亜酸化窒素分解、逆水性ガスシフト、水性ガスシフト、アセチレンの還元、アンモニア合成、およびフィッシャー・トロプシュ合成のうちの1つである、請求項10に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(連邦政府による資金提供を受けた研究または開発に関する陳述)
本発明は、空軍科学研究局により提供された助成金番号FA9550-15-1-0022および全米科学財団により提供された助成金番号DGE1450681に基づき、政府の支援によりなされた。政府は本発明において特定の権利を有する。
【背景技術】
【0002】
化学製品製造および環境汚染物質の軽減のための工業的プロセスは、不均一系触媒に大いに依存している。これらのプロセスは、触媒活性表面積を最大にするとともに、パラジウム、白金、ルテニウム、またはロジウムなどの高価な触媒を費用効率が最も高くなるように使用するために、表面積の大きい支持体材料に分散させた金属ナノ粒子に依存していることが多い。しかしながら、遷移金属ナノ粒子を利用した触媒プロセスは、多くの場合、エネルギーを大量に消費し、触媒活性の最大化のために高温高圧に依存している。
【0003】
光駆動型化学変換は、従来の高温触媒反応に代わる魅力的で究極的に持続可能な代替手段を提供し得る。金属プラズモンナノ構造は、光活性不均一系触媒に対して有用であり得る。プラズモンナノ粒子は、電子密度と電磁放射とをユニークにカップリングさせて、入射光の周波数と共鳴した伝導電子の集団振動を引き起こすが、これは局在表面プラズモン共鳴(LSPR)として知られている。これらの共鳴により、ナノ粒子の物理的断面よりもはるかに大きい面積において光吸収が高まり、このような光学アンテナ効果の結果、ナノ粒子表面付近で電磁場が増強される。LSPRは、光子の放射性再放出、またはエネルギーの高い「ホット」キャリア(金属のフェルミエネルギーより高い電子および/またはフェルミエネルギーよりも低い正孔)の生成を伴う非放射性ランダウ減衰により減衰する。
【0004】
この文脈で、「ホット」とは、周囲温度では熱的に生成されないであろうプラズモンエネルギーの実質的部分であるエネルギーのキャリアを指す。Au、Ag、Cu、および近年ではAlナノ粒子における光子駆動または電荷キャリア駆動の機構によって、プラズモン金属ナノ粒子はその表面で直接化学変換を誘導することが示されている。これらの「良好な」プラズモン金属は、プラズモン誘導光触媒化学にとって初めは有望視されるものの、一般に、普遍的に良好な触媒材料ではないと示されている。
【0005】
これと比較して、貨幣金属以外の遷移金属は、優れた触媒として歴史的に先行しているが、一般にはプラズモン金属としては劣ると見なされている。これは、これらの遷移金属が大きな非放射性減衰を起こしてしまい、その結果、スペクトルの可視領域にわたってスペクトル特性が広くなり、吸収が弱まるためである。多くの触媒遷移金属ナノ粒子(Pt、Pd、Rh、Ruなど)は、UVでLSPRを有するが、これは光触媒反応に対して不利である。というのは、従来のレーザー源あるいは太陽光スペクトルとの重なりが不十分であるからである。遷移金属ナノ粒子の吸収特性を高める1つの選択肢は、遷移金属ナノ粒子の大きさを大きくすることであり、これにより、光吸収が赤方偏移することになるが、同時にコストの上昇と表面積の低下、したがって触媒活性の低下を引き起こす。
【0006】
本発明は、以下のWelch Foundation助成金C-1220およびC-1222からの支援によりなされた。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0007】
本概要は、以下の詳細な説明でさらに説明される選び抜かれた概念を紹介するために提供される。本概要は、主張される主題の主要なまたは必須の特徴を特定することは意図しておらず、主張される主題の範囲を限定しやすくするものとして用いられることも意図していない。
【0008】
一態様では、本明細書で開示される実施形態は、プラズモン材料の前駆体および反応性成分の前駆体を含む前駆体溶液から沈殿を誘導して共沈殿粒子を形成することと、上記共沈殿粒子を回収することと、上記共沈殿粒子をアニールして、プラズモン材料と光学的、電子的、または熱的にカップリングした反応性成分を含む多成分光触媒を形成することとを含む、多成分光触媒を作製する方法に関する。
【0009】
他の態様では、本明細書で開示される実施形態は、支持体材料の前駆体、プラズモン材料の前駆体、および反応性成分の前駆体を含む前駆体溶液から沈殿を誘導して、多成分光触媒前駆体の共沈殿粒子を形成することと、上記多成分光触媒前駆体を回収することとを含む方法により多成分光触媒前駆体を形成することと;上記多成分光触媒前駆体を高温反応チャンバーに充填することと;充填した多成分光触媒をアニールして、プラズモン材料と光学的、電子的、または熱的にカップリングした反応性成分を含む多成分光触媒を形成することと;上記反応チャンバーに反応物を供給することと;上記反応チャンバー内の上記多成分光触媒を、上記プラズモン材料のプラズモン共鳴と重なる波長を有する光で照射することとを含む、反応を触媒する方法に関する。
【0010】
主張される主題の他の態様および利点は、以下の説明および添付の特許請求の範囲から明らかとなろう。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、Pd-Al NC系およびPd-Al NC系の両方について図解モデルおよび算出された近接場増強を示す。
図2図2は、化学的に合成されたPd-Al NCを示す高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)画像を示す。
図3図3は、Pd被覆率を増加させて化学的に合成したPd-Al NCの光学特性(理論で予測されたもの(右)および実験で得られたもの(左))を示す。
図4図4は、Pd-Al NCおよび未処理Al NCを用いた水素・重水素交換反応での光触媒活性を示す。
図5図5は、Pd-Al NCの双極子LSPRでのHの定量的消費を示す。
図6図6は、双極子プラズモン共鳴およびAlバンド間遷移にそれぞれ対応する492nmおよび800nmで測定されたPd-Al NC多成分光触媒を用いた水素・重水素交換反応の励起レーザー出力依存性を示す。
図7図7は、外部照射せずにPd-Al NCを用いた300K~400Kの温度での水素・重水素交換反応の温度依存性反応活性測定値を示す。
図8図8は、温度またはレーザー出力密度の関数としてPd-Al NCを用いたアセチレン還元の選択性のプロットを示す。
図9図9は、Pd-Al NC多成分光触媒を用いたアセチレンの光水素化(A)およびアセチレンの熱水素化(B)の両方についてエチレンの代表的なガスクロマトグラム収率を示す。
図10図10は、化学合成により形成されたAl@CuO粒子のTEM画像を示す。
図11図11は、Al NC、Al@CuO、およびCuOの光学特性決定の結果を示すプロットを示す。
図12図12は、(a)逆水性ガスシフト反応(rWGS)による光触媒CO水素化実験のガスクロマトグラム結果、および(b)照射に用いた光源のスペクトルを示す。
図13図13は、Al@CuO多成分光触媒および未処理Alを用いたrWGS反応について光触媒活性に対する熱駆動活性のプロットを示す。
図14図14は、(a)周囲条件下での可視光強度の関数としてのCO形成率、および(b)Al@CuO多成分光触媒または未処理Alを用いた場合の光子束の関数としての外部量子効率(EQE)を示す。
図15図15は、Al@CuOおよび未処理Alで測定されたEQEに対する照射波長のプロットを示す。
図16図16は、様々な触媒について光触媒反応(9.6W/cmの白色光照射)時および熱触媒反応(482℃)時のH生成速度のプロットを示す。
図17図17は、外部加熱せずに9.6W/cmの白色光照射下でMgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒を用いて光触媒反応速度を数時間にわたって測定した際の反応速度を示すプロットを示す。
図18図18は、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒を用いた光触媒反応速度および熱触媒反応速度を比較したプロットを示す。
図19図19は、本願の一実施形態に係る単一のCu-Ru表面合金粒子の高解像度透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
図20図20は、本願の一実施形態に係るMgO-Al支持体に担持された還元Cu-Ru表面合金(コントラストの明るい領域)の高角度環状暗視野(HAADF)画像を示す。
図21図21は、実施例3の還元Cu-Ru表面合金の粒径分布のプロットを示す。
図22図22は、本願の一実施形態に係るMgO-Al支持体に担持された還元Cuナノ粒子(コントラストの明るい領域)のHAADF画像を示す。
図23図23は、実施例3の還元Cuナノ粒子の粒径分布のプロットを示す。
図24図24は、本願の一実施形態に係るMgO-Al支持体に担持された還元Ruナノ粒子(コントラストの明るい領域)のHAADF画像を示す。
図25図25は、実施例3の還元Ruナノ粒子の粒径分布のプロットを示す。
図26図26は、Cu-Ru表面合金(実線)、Cuナノ粒子(破線)、およびRuナノ粒子(短破線)の紫外・可視拡散反射スペクトルを示す。
図27図27は、MgO-Al支持体上のCu-Ru表面合金の粉末X線回折(PXRD)と、国際回折データセンター(ICDD)のカードから得たCu、Ru、MgO、およびAlのXRDデータを示す。
図28図28は、MgO-Alに担持されたCu-Ru表面合金およびMgO-Alに担持されたRuナノ粒子のX線光電子分光法(XPS)の結果を示す。
図29図29は、光強度の関数として白色光照射下でのMgO-Alに担持されたCu-Ru表面合金の試料ペレットの最高表面温度および平均表面温度のプロットを示す。
図30図30は、3.2W/cmという一定の強度下および暗所(波長が示されていない傾向線)での異なる波長について(上のプロット)、並びに550nmおよび暗所(波長が示されていない傾向線)での異なる光強度について(下のプロット)、2つの見かけの活性化障壁のアレニウスプロットを示す。
図31図31は、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cuでの光触媒反応速度の波長依存性を示す。
図32図32は、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cuについて様々な照射条件下での見かけの活性化障壁(eV)を示す。
図33図33は、誘導結合プラズマ(ICP)分光法で測定した共沈殿前駆体(すなわち、活性化工程前)中の元素濃度を示す表である。
図34図34は、19W/cmの白色光照射下で光触媒ドライメタンリフォーミング反応を行った際の反応速度および長期安定性を示す。
図35図35は、19W/cmの白色光照射下で光触媒ドライメタンリフォーミング反応を行った際の選択性および長期安定性を示す。
図36図36は、Cu19.8Ru0.2触媒を用いた場合の19W/cmの白色光照射下での光触媒反応および反応器温度1000Kの熱触媒反応の長期安定性(ベタの丸)および選択性(白抜きの丸)を示す。
図37図37は、Cu19.8Ru0.2触媒を用いた光触媒反応速度および選択性の強度依存性のプロットを示す。
図38図38は、Cu19.8Ru0.2触媒を用いた光触媒反応速度および選択性の波長依存性のプロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0012】
概して、本明細書で開示される実施形態は、多成分プラズモン光触媒に関する。より具体的には、本明細書で開示される実施形態は、反応性成分として作用する別個の異なる成分の触媒活性を変化および向上させる光アンテナとして作用できるプラズモン材料を含む光触媒に関する。本明細書で開示される多成分プラズモン光触媒は、別個の反応性成分の触媒活性を向上させるために、太陽光スペクトルにまでわたる波長を有する光を効果的に吸収するプラズモン材料を含むように設計することができる。
【0013】
さらに述べるように、プラズモン材料と反応性成分との無数の組み合わせが考えられるため、本明細書で開示される実施形態は、光触媒材料の設計および最適化に前例のないモジュール性を導入する。それにより、プラズモン成分および反応性成分の個々の選択およびその後の組み合わせによって、より穏やかな条件で作動できるとともに、効率および選択性が向上した反応性プロファイルも有するユニークな光触媒が得られる。
【0014】
特定の理論に縛られるものではないが、作動中、多成分光触媒のプラズモン成分が光アンテナとして作用し、光とプラズモン材料とのユニークな相互作用によってその幾何学的断面積よりもはるかに大きい物理的面積から光を吸収することができると考えられる。光とプラズモン材料とのユニークな相互作用によって、プラズモン材料内での電子の集団振動の結果、プラズモン材料表面およびその付近に強い電場を生成できる。この振動はプラズモンとして知られており、ここで説明する多成分光触媒の概念においては、プラズモン材料からの強い電場は、反応性成分と光学的にカップリングして、反応性成分内で分極、すなわち「強制プラズモン」を誘導する。プラズモン材料と反応性成分との光学的カップリング、すなわち、プラズモン材料上のプラズモンの結果として起こる反応性成分での強制プラズモンの生成は、プラズモン材料と反応性成分との離間距離が最大で約30nmであっても生じる。
【0015】
反応性成分において誘導された強制プラズモンは、反応性成分において急速に減衰してエネルギーの高いホットキャリアとなり、このホットキャリアによって、触媒反応時に従来用いられる条件よりも穏やかな条件下、反応性成分表面の吸着質分子間で反応を起こすことができる。通常、最適な反応性成分は、プラズモン成分ほどは光を吸収するのに有効ではなく、したがって、プラズモン成分と反応性成分との組み合わせによって、それぞれの成分の最も有用な機能(例えば、吸収性または反応性)を相乗作用させて、各成分単独よりもより効率的に光触媒として作動することができるモジュラー型多成分光触媒とすることができる。
【0016】
1つ以上の実施形態では、反応性成分は、プラズモン材料と電子的にカップリングしていてもよい。具体的には、ホットキャリアは、プラズモン減衰によりプラズモン材料において生成され、反応性成分へ移動して、プラズモン材料と反応性成分との間で電子伝導性である触媒の化学反応をさらに引き起こすことができる。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、プラズモン材料と熱的にカップリングしていてもよい。具体的には、プラズモン材料は、光を強く吸収し、光エネルギーの一部を熱に変換することにより、それと密接に結合した反応性成分上で反応を熱的に引き起こすことができる。局所温度の上昇は、他の光吸収材料に比べてプラズモン材料の利点である。
【0017】
1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、自由キャリアを有する任意の材料であってもよい。特に、プラズモン材料は、自由正孔、自由電子、または伝導帯の電子を含んでいてもよい自由キャリアを有する。例えば、プラズモン材料は、金属、半導体、または分子であってもよい。1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、絶縁体または単原子種であってもよい。1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、通常、元素周期表の任意の金属または半金属元素、および上記元素を含む合金であってもよい。より具体的な実施形態では、プラズモン材料は、これらに限定されないが、金(Au)、銀(Ag)、銅(Cu)、アルミニウム(Al)、および上記元素を含む合金であってもよい。本開示において、「合金」とは、金属の考えられるあらゆる組み合わせを含むことを意図する。例えば、合金は、AuAg、AuPd、AgPd、AuCu、AgCuなどの二成分合金であってもよく、あるいは三成分合金または四成分合金であってもよい。1つ以上の実施形態では、合金は、均一または不均一合金であってもよい。
【0018】
1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、BiTe、Mg、ZrN、Bi、グラフェン、MoS、WO、ZnO、Pd、Ru、Rh、Pt、In、Ga、Co、Fe、GaN、Cu2-xS、Cu2-xTe、Cu2-xSe、Li、K、Rb、Cs、TiN、またはドープされた半導体(酸化インジウムスズ(ITO)、フッ素ドープ酸化スズ(FTO)、またはドープされたケイ素など)から選択されてもよい。1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、単一の単層材料、ナノシート、ナノプレート、または薄膜などの二次元材料であってもよい。通常、二次元材料は、それぞれ独立して、一方の寸法が他方の寸法の大きさの少なくとも10倍、少なくとも25倍、少なくとも50倍、または少なくとも100倍である2つの寸法(例えば、長さ、幅、および高さ)を有する材料として定義できる。
【0019】
1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、その表面の少なくとも一部がスペーサー材料で被覆されていてもよい。スペーサー材料は、プラズモン成分を反応性成分から物理的に分離または離間してもよい。1つ以上の実施形態では、スペーサー材料は、炭素質材料、窒化物、リン化物、ケイ化物、ヒ化物、セレン化物、テルル化合物、水素化物、硫化物、炭化物、金属有機構造体、共有結合性有機構造体、高分子材料、または酸化物であってもよい。1つ以上の実施形態では、スペーサー材料は、結晶性材料、非晶質材料、または結晶質と非晶質の混合物である材料であってもよい。
【0020】
1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、スペーサー材料として酸化物シェルを有していてもよく、このシェルは、上掲した金属または合金の1種のプラズモン材料コアを囲んでいる。1つ以上の実施形態では、酸化物シェルは、空気または水に暴露した後に金属または合金上に形成される自然/天然の酸化物シェルであってもよい。例えば、銅プラズモン材料は、銅コアを囲む酸化銅(例えば、CuOまたはCuO)シェルを有していてもよく、あるいはアルミニウムプラズモン材料は、アルミニウムコアを囲む酸化アルミニウムシェルを有していてもよい。実施形態によっては、酸化物シェルは、適切な化学的方法により自然/天然の酸化物シェルの厚みを人工的に増加させたり、あるいは予め形成されたプラズモン材料の周囲に酸化物材料を化学的に合成または他の方法で堆積させたりするなど、少なくとも部分的に人工的に作製してもよい。1つ以上の実施形態では、スペーサー材料は、最大で約30nm、最大で約25nm、または最大で約15nmの厚みを有していてもよい。1つ以上の実施形態では、スペーサー材料は、単一原子の厚み、すなわち、少なくとも約0.5nm、少なくとも1nm、または少なくとも1.5nmの厚みを有していてもよい。より具体的な実施形態では、スペーサー材料は、約1nm~5nmの厚みを有していてもよい。
【0021】
1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、電磁スペクトルの紫外から赤外領域でプラズモン共鳴、すなわち光吸収極大を有していてもよい。例えば、1つ以上の実施形態では、プラズモン材料は、約180nm~10ミクロンの波長にプラズモン共鳴を示す。1つ以上の実施形態では、プラズモン共鳴は、少なくとも、約180nm~380nmの任意の値である。1つ以上の実施形態では、プラズモン共鳴は、最大で、760nm~10ミクロンの任意の値であってもよい。より具体的には、プラズモン材料は、電磁スペクトルの可視領域(例えば、約380nm~760nmの波長)でプラズモン共鳴、すなわち光吸収極大を有していてもよい。当業者には自明であるが、材料の元素組成に加えて、プラズモン材料の大きさおよび形状や、プラズモン材料が置かれた環境/媒質は、そのLSPRに影響を及ぼし得る。したがって、本出願は、実質的に空気または水である環境にある場合に電磁スペクトルの紫外から赤外領域でプラズモン共鳴、すなわち光吸収極大を達成できる大きさおよび/または形状を有する任意の材料を含むことを意図する。
【0022】
上述のように、材料の元素組成、大きさ、および形状は、いずれもそのLSPRに影響を及ぼし得る。本明細書で記載するプラズモン材料は様々な形状を取ることができ、例えば、シート(例えば二次元)、ワイヤ(例えば一次元)、棒、立方体、球、または回転楕円体(すなわち、略球状)などの形状が挙げられるが、これらに限定されない。プラズモン材料の大きさは、最長辺長、すなわち球状および回転楕円状のプラズモン粒子の外接球の直径に等しい寸法であってもよい。1つ以上の実施形態では、通常、プラズモン材料は、約1nm~300nm、または約5nm~200nmの大きさを有する少なくとも1つの寸法を有していてもよい。より具体的には、特定の金属の場合、プラズモン材料は以下の大きさを有する少なくとも1つの寸法を有していてもよい:Ag:可視LSPRでは5nm~150nm、Au:可視およびIR LSPRでは5nm~200nm、Cu:可視LSPRでは1nm~200nm、Al:UV LSPRでは10nm~50nm、および可視LSPRでは50nm~200nm。
【0023】
通常、反応性成分は、反応を触媒することができる任意の化合物であってもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、金属、半導体、絶縁体、単原子種、イオン性種、有機分子、金属複合体、または2~3×10個の原子を有する原子クラスター種であってもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、遷移金属、ランタニド、アクチニド、酸化物、硫化物、水素化物、窒化物、炭化物、ケイ化物、リン化物、ヒ化物、セレン化物、テルル化合物、有機および無機官能基を含む固定化リガンド、金属有機構造体、または共有結合性有機構造体から選択されてもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、元素周期表の任意の金属または半金属元素、並びに上記元素を含む合金、酸化物、リン化物、および窒化物であってもよい。さらに、反応性成分は任意の酸化物であってもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分は遷移金属または遷移金属酸化物である。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、プラズモン材料の表面で合金化されて表面合金粒子を形成する遷移金属である。この場合、該粒子の大部分はプラズモン材料であり、実質的にすべての反応性成分が該粒子の表面に存在する。
【0024】
より具体的には、実施形態によっては、反応性成分は、パラジウム(Pd)、白金(Pt)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、ニッケル(Ni)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、イリジウム(Ir)、オスミウム(Os)、チタン(Ti)、バナジウム(V)、インジウム(In)、これらの合金、これらの酸化物、これらのリン化物、およびこれらの窒化物のうちの少なくとも1種を含む金属ナノ粒子から選択されてもよい。さらに、1つ以上の実施形態では、反応性成分は、元素周期表の金属および半金属元素を含む金属間ナノ粒子、コア-シェルナノ粒子、および半導体ナノ粒子(例えばCuO)であってもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、プラズモン成分上に位置する単一金属、二金属、もしくは多金属ナノ粒子アイランド、シェル、または別個の原子部位であってもよい。当業者には自明であるが、反応性成分の元素組成に加えて、反応性成分の大きさおよび形状は、その基材吸着特性、化学反応性、および反応選択性に影響を及ぼし得る。
【0025】
1つ以上の実施形態では、反応性成分は、少なくとも金属またはイオンの原子径の大きさを有する少なくとも1つの寸法を有していてもよい。例えば、反応性成分は、少なくとも30~300ピコメートルの大きさを有する少なくとも1つの寸法を有していてもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、最大で100nm、最大で75nm、最大で50nm、最大で25nm、または最大で15nmの大きさを有する少なくとも1つの寸法を有していてもよい。
【0026】
1つ以上の実施形態では、反応性成分は、プラズモン成分の表面に物理的または化学的に結合していてもよく、他の実施形態では、反応性成分は、プラズモン成分から所定の距離だけ分離していてもよい。分離は、空間(すなわち、明らかな物理的分離)によるもの、あるいは上述したスペーサー材料によるもののいずれであってもよい。例えば、リソグラフィー法によって作製されて明らかな物理的分離を有する場合、多成分光触媒のプラズモン成分と反応性成分とはわずかな距離だけ分離していてもよい。1つ以上の実施形態では、わずかな分離は、最大で約30nm、最大で約25nm、または最大で約15nmの距離であってもよい。1つ以上の実施形態では、わずかな分離は、少なくとも約0.1nm、少なくとも2nm、少なくとも5nm、または少なくとも10nmであってもよい。1つ以上の実施形態では、複数の反応性成分が、単一のプラズモン成分の表面に物理的に結合していてもよく、これにより、反応に利用できる表面積を増加させることができる。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、プラズモン成分の表面を完全にまたは実質的に(例えば50%超)囲むシェルを形成していてもよい。
【0027】
通常、反応性成分を用いて、プラズモン成分と光学的にカップリングさせずに行うことが可能な任意の反応を行うことができる。1つ以上の実施形態では、反応性成分は、酸化還元化学反応、水または空気汚染改善反応、NOおよびNOの分解、水素化反応(例えばアセチレン水素化)の触媒、逆水性ガスシフト反応(水素化と組み合わせて、フィッシャー・トロプシュ合成を用いて炭化水素を生成できる)による二酸化炭素の一酸化炭素への変換、および窒素活性化化学反応(アンモニア合成を含む)が可能なものであってもよい。本明細書で記載する多成分光触媒中の反応性成分により効率的に行うことができる他の特定の反応としては、メタンスチーム/ドライリフォーミング、アンモニア分解、亜酸化窒素分解、逆水性ガスシフト、水性ガスシフト、およびアセチレンの選択的還元が挙げられる。特定の反応を上に示したが、プラズモン成分を組み込み、本明細書で記載する多成分光触媒を形成することによって、単一の反応性成分を用いて現在行われているあらゆる触媒反応を増強できることを理解すべきである。
【0028】
1つ以上の実施形態では、多成分光触媒は、表面が反応性成分で合金化されているプラズモン材料であってもよい。すなわち、プラズモン材料の大部分、すなわちコアは合金化されておらず、プラズモン材料のみを含むが、表面(すなわち、プラズモン材料の少なくとも最初の層および最初の3層まで)では、反応性成分がプラズモン材料で合金化されている。この種の多成分光触媒は、表面合金または不均一合金ともいう。表面合金では、プラズモン材料および表面合金化された反応性成分の電子構造が、個別に各成分(すなわち、非合金状態のもの)に対して予測される電子構造と実質的に同様であり、その結果、プラズモン材料は強いLSPRを維持し、反応性成分は基材分子との高い相互作用および高い触媒活性を維持する。また、表面合金化された多成分光触媒は、原子利用率を著しく向上させ、それにより、コストが高いことが多い反応性成分を触媒反応に必要とされる表面に特異的に偏折してコストを削減することができる。したがって、触媒反応に実際には利用できない内部部位にかなりの量の反応性成分を含む従来の触媒に比べて、反応性成分の必要量を著しく低減できる。
【0029】
プラズモン活性材料と、該プラズモン活性材料の表面層に原子的に分散させた触媒活性反応性成分とを組み合わせた表面合金を構成してもよい。原子的分散とは、反応性成分が表面合金粒子の表面部位にランダムかつ原子的に分布していることを意味すると解される。したがって、表面合金は、単一の構造または個々の粒子において2種以上の機能成分(例えば、プラズモン性と反応性)を相乗効果が得られるように組み合わせたものである。1つ以上の実施形態では、表面合金多成分光触媒は、Al、Ag、Au、およびCuから選択されるプラズモン材料と、遷移金属から選択される反応性成分とを含んでいてもよく、この場合、反応性成分はプラズモン材料の表面で合金化されている。1つ以上の実施形態では、遷移金属は、Pd、Ru、Rh、Pt、およびNiから選択されてもよい。1つ以上の実施形態では、表面合金中の反応性成分に対するプラズモン材料のモル比は、1000:1~10:1、または400:1~20:1であってもよい。反応性成分の量が少なすぎると、多成分光触媒の反応性が低すぎることがある。しかしながら、反応性成分の量が多すぎると、表面合金の代わりに、反応性成分のシェルまたは複数の層がプラズモン成分上に形成される恐れがある。より具体的な実施形態では、プラズモン材料はCuであってもよく、反応性成分は遷移金属から選択されてもよい。
【0030】
通常、多成分光触媒を作製する方法が特に限定されることは意図していない。1つ以上の実施形態では、多成分光触媒は、少なくとも1種の反応性成分が物理的または化学的に結合したプラズモン材料、あるいはプラズモン材料から所定の距離だけ分離された反応性成分が得られる任意の方法を用いて作製されてもよい。例えば、多成分光触媒をコロイド法により作製してもよく、この場合、まず、プラズモン前駆体化合物(例えば、アルミニウムプラズモン材料では、水素化アルミニウムまたは有機アルミニウム化合物)を分解または還元することでプラズモン材料が作製される。次いで、遷移金属塩、遷移金属カルボニル錯体などの反応性成分前駆体を、プラズモン材料(または前駆体化合物)を含む溶液に加え、その後または同時に還元することで、プラズモン材料上またはその周囲に金属、金属酸化物、または半導体反応性成分アイランド/粒子またはシェルを形成してもよい。このように形成した多成分光触媒は、遠心分離など、溶液から多成分光触媒を分離できる任意の方法によって単離されてもよい。
【0031】
1つ以上の実施形態では、上記表面合金は共沈殿プロセスにより形成されてもよい。共沈殿プロセスにより、プラズモン材料の前駆体と反応性成分の前駆体とが液体に溶解されて、前駆体溶液が形成された後、沈殿が誘導されて、密接に混合された共沈殿粒子が形成される。1つ以上の実施形態では、沈殿は、前駆体を含む溶液を塩基性溶液に添加するか、あるいはその逆にして添加することで誘導してもよい。例えば、沈殿を誘導するために、前駆体溶液および塩基性溶液を共に同時または順次加えてもよい。1つ以上の実施形態では、前駆体溶液および塩基性溶液を共に滴下してもよい。1つ以上の実施形態では、前駆体溶液、塩基性溶液、および/または前駆体溶液と塩基性溶液との混合中および混合後に形成された溶液は、約40℃~150℃の温度で保持してもよい。1つ以上の実施形態では、沈殿から得られたスラリーは、沈殿後1~24時間、約40℃~150℃の温度で保持してもよい。1つ以上の実施形態では、水溶液に溶解したアルカリ金属炭酸塩、アルカリ金属重炭酸塩、およびアルカリ金属水酸化物のうちの少なくとも1種から塩基性溶液を調製してもよい。1つ以上の実施形態では、支持体材料の前駆体も、最初の前駆体溶液に溶解させ、プラズモン材料の前駆体および反応性成分の前駆体と一緒に共沈殿させてもよい。1つ以上の実施形態では、プラズモン材料、反応性成分、および支持体材料の前駆体は遷移金属塩であってもよく、水溶液に溶解させてもよい。
【0032】
1つ以上の実施形態では、所望の沈殿化合物のモル比と適合させるように金属塩を前駆体溶液に溶解させる。例えば、Mg-Alハイドロタルサイト(MgAlCO(OH)16(HO)支持体を形成しようとする場合、Mg:Alのモル比が3:1になるように前駆体溶液を構成する。また、2価の金属陽イオンと3価の金属陽イオンとの組み合わせを有する他のハイドロタルサイトも支持体材料として使用できる。さらに、目的の表面合金中の金属モル比と適合するように、反応性成分前駆体に対するプラズモン材料前駆体の比を調節してもよい。1つ以上の実施形態では、反応性成分中の金属に対するプラズモン材料中の金属のモル比は、1000:1~10:1、または400:1~20:1であってもよい。最後に、支持体材料が沈殿物の99.9重量%~20重量%、95重量%~40重量%、または90重量%~60重量%になるように、使用する前駆体の量を調節してもよい。
【0033】
次いで、(例えば、遠心分離、重力沈降などにより)共沈殿粒子を溶液から回収し、昇温してアニールすることにより、表面合金粒子を形成してもよい。共沈殿粒子が一緒に沈殿させた支持体材料を含む場合、アニールの結果、担持された表面合金粒子が得られる。1つ以上の実施形態では、回収した共沈殿粒子を、水に分散させるサイクルを繰り返して洗浄した後、遠心分離で回収してから、アニールを行ってもよい。1つ以上の実施形態では、アニールは、少なくとも部分的に還元性雰囲気中で行ってもよい。1つ以上の実施形態では、アニールは、最初に不活性雰囲気中で行った後に還元性雰囲気中で行う。1つ以上の実施形態では、用いる雰囲気に関わらず、アニールは、200℃~1000℃、または400℃~700℃の温度で行ってもよい。通常、アニール工程時の温度が高い程、形成される多成分プラズモン光触媒粒子は大きくなる。
【0034】
1つ以上の実施形態では、還元性雰囲気は、アニールされた粒子の表面の反応性成分の偏析および富化を誘導して表面合金を形成する成分を含んでいてもよい。そのような成分は富化剤ともいう。例えば、COが還元ガス流に含まれていてもよい。というのは、COはプラズモン材料よりも反応性成分に優先的に結合し、その優先的な結合により、表面での反応性成分の偏析および富化が誘導されて、アニール時に表面合金粒子が形成されるからである。1つ以上の実施形態では、アニール時のガス流にH、NH、および炭化水素を含めることによって、アニール粒子の表面で反応性成分を偏析/富化させて表面合金を形成させることもできる。1つ以上の実施形態では、アニール工程は、触媒反応前に反応チャンバーで行ってもよい。すなわち、表面合金多成分光触媒は、触媒反応前に反応チャンバーでアニールを行う活性化工程により形成されてもよい。
【0035】
また、リソグラフィー工程などの堆積工程を用いて多成分光触媒を形成してもよい。例えば、コロイドリソグラフィーを用いて、プラズモン材料および反応性成分を不活性基材上に堆積させてもよい。堆積パラメータ(例えば、堆積角度およびレジスト厚)を変化させることで、プラズモン材料と反応性成分との間隔、したがって多成分光触媒の反応性を操作することができる。さらに、リソグラフィー工程を用いて多成分光触媒アレイを作製することができる。多成分光触媒を形成するのに用いることができるリソグラフィー工程および堆積工程としては、電子線リソグラフィー、フォトリソグラフィー、原子層堆積、化学気相蒸着、熱蒸発、ナノインプリントリソグラフィー、テンプレート成長、およびスパッタリングが挙げられるが、これらに限定されない。
【0036】
本明細書で記載する多成分光触媒の使用は特に限定されることは意図していないが、通常、多成分光触媒を既存の光触媒系に組み込み、任意の公知の光触媒と同様に用いてもよい。例えば、本明細書で記載する多成分光触媒を充填床反応器系で用いてもよく、溶媒に分散させてもよく、気相に分散させてもよく、あるいは表面に照射してもよい。1つ以上の実施形態では、高温反応チャンバーに充填する前に、多成分光触媒または多成分光触媒前駆体をペレットまたはフィルム/薄層に加工する。このような処理は、公知の方法によって達成できる。実施形態によっては、多成分光触媒を支持体材料上に分散させた後、反応チャンバーに充填し、具体的に目標とされた反応の分子反応物に暴露してもよい。通常、支持体材料としては、可視光スペクトルに最小の光吸収を示す絶縁材料および半導体材料が挙げられる。1つ以上の実施形態では、支持体材料としては、酸化アルミニウム、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化タングステン、酸化鉄、酸化カルシウムなどが挙げられる。1つ以上の実施形態では、支持体材料は、炭化物、窒化物、硫化物、炭素材料、および二次元遷移金属ジカルコゲナイドから選択される1種であってもよい。1つ以上の実施形態では、炭素材料は、活性炭、木炭、グラファイト、グラフェン、およびグラフェン酸化物から選択されてもよい。1つ以上の実施形態では、支持体材料はエアロゲルであってもよい。1つ以上の実施形態では、約0.1~30重量パーセント、または約0.1~5重量パーセントで多成分光触媒を支持体材料上に分散させてもよい。他の実施形態では、支持体材料に担持されていなくても、多成分光触媒を触媒として用いることができる。
【0037】
通常、多成分光触媒により得られるプラズモン誘導反応性を利用するために、反応チャンバーは、多成分光触媒を光源で照射できるように設計される。1つ以上の実施形態では、LSPRと共鳴する波長になるように照射を調節することで、光吸収を高めることができる。また、波長の調節を行って、特定の反応物または中間体分子と共鳴する特定の波長を用いることもでき、これにより、反応選択性を制御しやすくなる。プラズモン共鳴から表面上の中間体に正味エネルギーを移動させることによって、化学反応における選択性を制御する分子および中間体の非熱的脱着を誘導することができる。
【0038】
1つ以上の実施形態では、照射は、高い光強度、すなわち太陽の平均的な照射(>100mW/cm)よりも高い光強度を用いることで、より多くの光子エネルギーを系に供給できる。1つ以上の実施形態では、反応媒質(すなわち、反応物および触媒を取り囲む環境)は、反応チャンバーの中身を照射することで誘導される光熱加熱によってのみ加熱される。すなわち、実施形態によっては、反応を熱的に引き起こすために反応媒質に供給される外部加熱は行わない。しかしながら、1つ以上の実施形態では、反応媒質を外部熱源によって加熱してもよい。例えば、反応媒質を外部から加熱するために、加熱したガスを反応チャンバーに流してもよい。反応媒質が液体である実施形態であれば、該液体を外部から加熱してもよい。通常、加熱によって触媒表面の反応障壁を引き下げることができ、より低いエネルギー光子を任意の反応を起こすのに用いることができる。1つ以上の実施形態では、反応チャンバー内の全体温度は、反応中に約250℃未満、約200℃未満、または約180℃未満の温度を維持してもよい。全体温度が上記条件を満たしていてもよいが、触媒自体は光熱加熱によって上記よりも高い温度に局所的に加熱されてもよいことを理解すべきである。また、1つ以上の実施形態では、特定のレベルを超えて温度が上昇するのを制御するために、反応媒質を外部から冷却してもよい。さらに、実施形態によっては、反応チャンバー内の温度は1000℃まで高くしてもよく、照射は熱触媒反応の効率をさらに高めるのに役立つ。
【実施例
【0039】
アルミニウムナノ結晶(Al NC)の合成
【0040】
2nm~4nmの自己制御酸化物表面層を有する平均直径が100nmのAl NCを化学的に合成した。手短に言うと、40℃のAr雰囲気下で5mLの無水テトラヒドロフラン(THF)および15mLの無水1,4-ジオキサン(Sigma-Aldrich)を100mLの乾燥シュレンクフラスコ内で混合した。撹拌しながら、6.5mLのN,N-ジメチルエチルアミンアラン(トルエン中0.5M、Sigma-Aldrich)を反応容器に注入した後、2wt%のTi(OPr)のトルエン溶液0.5mLを素早く注入した。数秒以内に溶液の色が褐色に変わり、1時間以内に黒色/灰色に変わり、Al NCが形成されたことが示された。反応を40℃で2時間進行させた後、熱源から外した。1mLのオレイン酸を混合物に注入して反応を停止した。合成直後のナノ粒子を、超音波処理、および乾燥トルエン中での2000相対遠心力(rcf)の遠心分離により単離した後、洗浄および2-プロパノール(IPA)中での遠心分離を3サイクル行った。最後に、Al NCをIPAに分散させ、この溶液をArでパージし、今後の使用に備えて室温で貯蔵した。
【0041】
実施例1:Pd担持Al NCの合成および試験
【0042】
17.7mgのPdCl(無水、99.999%、Sigma-Aldrich)を24時間かけて10mLの無水アセトニトリル(Sigma-Aldrich)に溶解させて、PdCl(MeCN)の0.01M溶液を調製した。10mLの2-プロパノールおよび5mLの予め分散させたAl NCを、還流冷却器を取り付けた50mLの一首丸底フラスコに投入した。この溶液を還流した後、3mLのPdCl(MeCN)を注入した。反応混合物を10~60分間還流してPd担持Al NCを得た。ナノ粒子を1000rcfで遠心分離し、アセトニトリルで3回洗浄して単離し、最終的に2-プロパノール中に分散させた。あるいは、同体積の試薬を室温で調製して、Pd被覆率を低減することもできる。
【0043】
図1の上部の2つのパネルは、Pd-Al NC(反応性成分-プラズモン成分)多成分光触媒の簡略化されたモデル(左)と、モデル多成分光触媒のPdアイランドで算出された近接場増強(右)を示している。図1の下部の2つのパネルは、同程度の大きさのPd-Al NC系の同等モデルを示している。Alモデルと比べて、Al NCモデルの場合では、Al NC表面でのプラズモン誘導近接場のためにPdアイランドにおける近接場増強が1桁以上大きいことが示されている。
【0044】
図2は、化学的に合成されたPd-Al NCを示す高解像度透過型電子顕微鏡(HRTEM)画像を示している。Al NCが薄いAlシェルを有し、その上に堆積したPdがシェルから分離しているのがはっきりと示されている。図3は、Pd被覆率を増加させて化学的に合成したPd-Al NCの光学特性(理論で予測されたもの(右)および実験で得られたもの(左))を示している。上から下へ、465nmに双極子プラズモン共鳴を示す未処理Al NC、PdClと共に10分間還流したもの、PdClと共に30分間還流したもの、PdClと共に60分間還流したものである。Pd被覆率を増加させると、Pd誘電率の実部のために双極子LSPRが赤方偏移し、Pd誘電率の虚部のために300nmでの四極子モードの減衰が増加することが示されている。さらに、図3の中央には光学的に調べた各試料の粒子を示すTEM画像が同じ順序で示されている(スケールバー:50nm)。
【0045】
水素・重水素交換法:還流IPA中で調製して支持体としてのγ-Al上に0.5wt%充填したPd担持Al NCを使用し、特注のステンレス製気相高温反応チャンバー(Harrick Scientific Product,Inc.)を用いて充填床反応器条件を模倣した。研究純度のHガスおよびD(Matheson TRIGAS;99.9999%)ガスを組み合わせて、それぞれ15標準立方センチメートル/分(sccm)で反応チャンバーに流した。リアルタイムでHD(m/z=3)生成を継続して監視するために、四極子質量分析計(Hiden Analytical Inc.)を用いてHD生成を監視した。波長および出力依存性測定では、第二高調波発生器(Angewandte Physik und Elektronik GmbH、出力波長:350~530nm)を備えた調節可能なTi:サファイアレーザー(Coherent、Chameleon Ultra II、150fs、80MHz、680~1080nm、バンド幅:約10nm)を単色光源として用いた。波長依存性測定は、最小値が50mWの波長で行った。出力依存性測定は、紫外・可視分光法を用いて測定した双極子プラズモン共鳴およびAlバンド間遷移にそれぞれ対応する492nmおよび800nmで行った。Harrick ATC-024-3温度制御装置で加熱したことを除き、同様に熱活性を定量した。
【0046】
図4は、水素・重水素交換反応の光触媒活性を示している。より具体的には、図4は、Pd-Al NC(データ点を結ぶ実線)および未処理Al NC(データ点を結ぶ破線)上のH脱着の波長依存性、並びにPd-Al NCの算出された吸収断面を示している。すべての波長で出力密度を5W/cmとして試料を照射した。図4に示されるように、Pd-Al NC複合体(データ点を結ぶ実線)では、HD生成の波長依存性は算出された吸収断面に密接に従っており、ホットキャリア機構を裏付けている。未処理Al NC(データ点を結ぶ破線)と定性的に比較すると、HD生成の波長依存性は、未処理Al NCでは最大のHD生成が光励起波長800nm(Alのバンド間遷移に対応)で起こるのとは大幅に異なる。
【0047】
図5は、Pd-Al NCの双極子LSPRでのHの定量的消費を示している。Pd-Al NC多成分光触媒の反応性は、未処理Al NCよりも2桁近く大きいことが示されている。より具体的には、図5には、質量分析によって監視されたHのベースラインレベルが示されている。110mWの492nm(双極子共鳴)光を0.5wt%のPd-Al NC試料に照射すると、H信号は3.76×10c/sから2.97×10c/sまで低下するが、これは、0.79×10c/sのHが水素・重水素交換反応で消費されたことを意味する。したがって、(0.79/3.76)×100%=21.0%のHが消費される。系へのHの総流量は15sccm(標準立方センチメートル/分)であったので、Hの総消費量は(15mL/分×0.2101)/60s=0.053mL/sである。実験条件(25℃;1atm)下では、Hのモル体積は22.4L/molとなるので、HDに変換されたHの総モル数は2.34×10-6モル/sであり、これは1.41×1018個のHが反応したことを意味する。
【0048】
図6は、492nmおよび800nm(それぞれ双極子プラズモン共鳴およびAlバンド間遷移に対応)で測定したPd-Al NC多成分光触媒を用いた反応の励起レーザー出力依存性を示している。図6のプロットは、両波長で超線形応答を示している。光学出力密度が増加するこのような超線形応答は、ナノ粒子表面のホットキャリア駆動化学反応の特徴として示唆されている。
【0049】
図7は、外部照射せずにPd-Al NCを用いた300K~400Kの温度依存性反応活性測定値を示している。これらの測定値は、温度が上昇するにつれてHD生成が増加することを示しているが、ナノ粒子表面で予測される算出された波長依存性極大温度増加は、励起レーザー出力密度の実験範囲内でAl表面およびPd表面ではそれぞれ2K~16Kにすぎない。照射下でのそのような局所温度の小さな増加は、Pd格子の光熱加熱がH脱着にわずかに寄与し得るものの、主要な原因は、多成分光触媒中の光励起されたホットキャリアの励起によるものである可能性があることを示唆している。
【0050】
アセチレンの還元:室温で調製して支持体としてのγ-Al上に0.5wt%充填したPd担持Al NCを使用して、特注のステンレス製気相高温度反応チャンバー(Harrick Scientific Product,Inc.)を用いて充填床反応器条件を模倣した。N(Matheson TRIGAS;99.9999%)、H(Matheson TRIGAS;99.9999%)、およびC(Praxair;He中5.02%)をそれぞれ10.5、0.5、および4sccmで反応チャンバーに流した。反応チャンバーからの排気ガスと直接連結した島津GC-2014ガスクロマトグラフを用いてアセチレンの還元を監視した。Harrick ATC-024-3温度制御装置で加熱したことを除き、同様に熱活性を定量した。
【0051】
Pd-Al NC多成分光触媒の光触媒特性は、水素化などの他の化学反応に翻訳可能である。重要な工業関連反応の1つはアセチレンの選択的還元である。エチレンは、商業的に広く用いられているポリエチレン系材料の製造で用いられる汎用化学製品前駆体であるが、従来の熱的条件下では、アセチレンの水素化中にエタンも副反応で生成される。図8に示されるように、従来の熱還元(約360Kで選択性が衰える下側エラーバーのデータ点)に比べて、Pd-Al NC多成分光触媒を用いると、白色光照射下でアセチレンのエチレンへの選択的還元が大幅に増加すること(4.8W/cm以上でより高い選択性のデータ点)が分かった。また、レーザー出力密度が増加すると選択性が大きく増加することも示されている。光水素化の場合、エチレン:エタン生成物比が約7から約37に増加することが観察される。これに対して、Pd-Al NC複合体の従来の熱加熱では、エチレン:エタン選択性が、低下を示す前は最大で約10:1で横ばいだったのが、360Kでは約6:1になる(黒色)ことが示されている。
【0052】
図9は、Pd-Al NC多成分光触媒を用いた光水素化(A)および熱水素化(B)の両方について代表的なガスクロマトグラム収率を示している。光水素化収率(A)は、レーザー出力と共に増加するが、収率は全体的に限定されることが示されており、これは、おそらく高い出力では表面の解離Hが欠乏するためだと思われる。熱水素化収率(B)は、360Kで非常に高い収率を示しているが、同温度はエチレン選択性の低下を伴う(図8を参照)。
【0053】
この選択性増強は光水素化で観察されるが、従来の熱水素化では観察されない。これは、おそらく解離Hの利用可能性によるものと思われる。光水素化および熱水素化のいずれの場合も、アセチレンは表面に吸着し、第一および第二の水素化を受けてエチレンを生成する。この時点で、2つの順反応経路、すなわちエチレン脱着、またはその後のエチレンの水素化によるエタンの生成が可能である。Pd(111)からのエチレンの脱着および水素化はいずれも、前のDFT計算の誤差の範囲内で同様の活性化障壁を有することが知られている。したがって、解離Hの利用可能性は、これら2つの反応経路の分岐比に影響を及ぼす。
【0054】
光触媒水素化では、プラズモン誘導ホットキャリアによって、Hの急速脱着が起こり、平衡が脱着に傾くため、エチレンのさらなる水素化に対して表面の水素の利用可能性が制限される。ホットキャリア誘導H欠乏表面が選択性の増加につながるという仮説は、光触媒水素化の場合にエチレンの収率が低下することによっても裏付けられている(図9のプロット(A)を参照)。照射を行うと、表面活性化されたHが少なくなり、エチレンの生成に必要なアセチレンの第一および第二の水素化の尤度も低下する。熱水素化では、エチレン収率は、選択性の低下という犠牲を払って高くなっている(T>360K)が、これは、おそらく、解離Hの表面被覆率の変化が最小であることや、系の運動エネルギーが、活性化エネルギーを乗り越え、その後のエチレンの水素化に有利になるほどの十分なものであることによるものと思われる。アセチレンの光水素化で観察された選択性の増加は、より選択的なホットキャリア駆動化学反応を開発する道を開くであろう。
【0055】
実施例2:Al@CuOの合成および試験
【0056】
Al@CuOの合成では、2.5mLの合成されたAl NC(IPA中1mg/mL)をオーブン乾燥したシュレンクフラスコに移し、IPAを用いて溶液の総体積を10mLに調整した。反応液を室温で約1時間脱気し、次いでAr雰囲気下でフラスコを加熱して還流した。還流下、0.01Mの新鮮な酢酸銅(II)(99.999%の微量金属基準、Sigma-Aldrich)の乾燥アセトニトリル溶液1mLを一定に撹拌しつつ反応液に素早く注いだ。還流を2時間継続して、Al@CuOナノ粒子を得た。合成直後のナノ粒子を2000rcfで遠心分離器により単離し、IPAで3回洗浄し、最終的にIPAに分散させた。
【0057】
図10は、化学合成により形成されたAl@CuO粒子のTEM画像を示している。(a)には、合成直後のAl NCのTEM画像が、(b)には、Alコアの周囲にCuOシェルを成長させた後のTEM画像が示されている。(a)および(b)のいずれも、スケールバーは50nmである。(c)には、Al@CuOを示すHRTEM画像が示されており、Alコア、薄い非晶質Al酸化物層、および周囲のCuOシェルがよりはっきりと示されている。
【0058】
図11は、Al NC、Al@CuO、およびCuOの光学特性の結果を示している。より具体的には、図11は、IPA中のAl NC、Al@CuO、およびCuOの実験(左)および理論(右)による紫外・可視消光スペクトルを示している。未処理Al NCは、460nm辺りで双極子LSPRを示すが、CuOシェル(その典型的な厚みは約15~20nm)の成長後にはCuO誘電率の実部により550nm辺りに赤方偏移する。
【0059】
本研究で用いられる光触媒は、表面積が大きいγ-Al支持体上に5wt%で分散させたプラズモン粒子の均一な分散体から作製された。この試料混合物約20mgを、連続流動充填床反応器条件を模倣する照射可能な石英窓が付いた特注のステンレス製チャンバー(Harrick Scientific Product Inc.)に充填して、光触媒測定を行った。総圧力が1atm、総流量が10標準立方センチメートル/分(sccm)で高純度HおよびCOをチャンバーに連続して流した。チャンバー出口をガスクロマトグラフ(株式会社島津製作所)と連結した。スーパーコンティニウムファイバーレーザー(Fianium、450~850nm、4ps、40MHz)および調節可能なTi:サファイアレーザー(Coherent、Chameleon Ultra II、150fs、80MHz、バンド幅:約10nm)を光源として用いた。
【0060】
図12は、可視光照射下で総流量10sccmの1:1の比のCOおよびH中、また別にHe(10sccm)雰囲気中で行った逆水性ガスシフト反応(rWGS)による光触媒CO水素化実験のガスクロマトグラム結果(a)を示している。照射に用いた光源のスペクトルを(b)に示す。COおよびHが両方存在する場合、Al@CuO多成分光触媒/γ-Al混合物の照射を行うとCO形成が検出された。不活性He雰囲気で光触媒を照射すると、測定できるような生成物は何も生成されなかったが、これにより、CO形成はオレイン酸キャッピング剤の分解によるものではないことが確認された。また、多成分光触媒の非存在下で純粋なγ-Alにおいて測定できるような生成物は存在しなかったが、これにより、Al@CuOプラズモン光触媒が活性成分であることが確認された。
【0061】
図13は、Al@CuOを用いたrWGS反応について光触媒活性に対する熱駆動活性特性のプロットを示している。(a)には、光誘導された(7W/cmを照射)rWGS中および純粋に熱駆動された(350℃まで加熱)rWGS中に反応チャンバーから出力された反応生成物のガスクロマトグラムが示されている。照射を用いた反応前、多成分光触媒およびステンレス製ステージは室温と熱的平衡である。7W/cmの可視光を照射すると、純粋な酸化物支持体の温度は55℃まで達するが、プラズモンナノ粒子を酸化物支持体に充填した後では、同じ光強度下で温度は150℃をわずかに超える温度まで上昇する。
【0062】
(a)に示された結果から、光触媒プロセスで観察された選択性が高いCO形成とは対照的に、熱駆動rWGS反応(外部照射せずに光触媒を用いた場合)の結果、CHとCOの両方が形成されることが分かる。(b)には、熱駆動rWGS(すなわち、照射なし)時のAl@CuOについて、温度の関数としてCH形成に対するCO形成の選択性が示されている。200℃では、Al@CuOにおいて約40~55%の非常に低い選択性が得られた。温度が上昇すると、CH形成は発熱反応であることから、CHに対するCOの選択性が高まる。400℃では、CO/CH形成の選択性は97%にまで達する。しかしながら、このような高温でも、熱的プロセスでのCO形成選択性は、より低い作動条件でのプラズモン誘導プロセスから得られた100%の選択性(図13(a)の結果を参照)よりも低いままである。(c)には、純粋に熱的なプロセス(照射なし)における適用温度の関数としてAl/γ-AlおよびAl@CuO/γ-Al上の生成物の総形成率が示されている。また、(c)には、Al/γ-AlおよびAl@CuO/γ-Al上の光誘導プロセス(10W/cmを用いた照射)時の反応速度が、対応する記録温度が約160~170℃の楕円で囲まれた2つのデータ点として示されている。
【0063】
(c)の結果から、光熱効果はCO形成に主要な役割を果たさないことが分かる。というのは、示されているように、純粋に熱的なプロセスでの生成物形成の開始温度が約200℃であるからである。実際、照射強度が10W/cmの総反応収率は、温度が400℃の熱的プロセスに匹敵する。したがって、(c)の結果から、プラズモン誘導化学変換がより穏やかな反応条件下でより効率的かつ選択的に行われるというさらなる証拠が提供される。
【0064】
図14は、(a)周囲条件下での可視光強度の関数としてのCO形成率、および(b)光子束の関数としての外部量子効率(EQE)を示している。Al@CuOによって触媒されたCO形成率は、特に照射強度が高い場合、反応性CuOシェルを持たない未処理Alよりも著しく高い。同様に、Al@CuOのヘテロ構造はより高いEQEを示す。両方の系で観察される入射光子束に対するEQEの正の依存性は、プラズモン誘導電荷キャリア駆動光触媒反応の明らかな特徴である。これに対して、照射強度を高めても、半導体表面のEQEが向上しないことが知られている。従来の半導体光触媒反応では、反応速度は強度に比例し、n<1であるが、ホットキャリアによるプラズモン誘導光触媒反応では、n>1である。「n」は、実験での出力依存性測定から算出される記述子であり、光子入力と反応速度との関係を記述するものである。高い「n」は、光子ごとの効率が高いことを意味する。例えば、(b)では、nは、AlおよびAl@CuOのそれぞれに対して約2.65および約3.78であると算出された。
【0065】
図15は、Al@CuOおよび未処理Alで測定されたEQEに対する照射波長のプロットを示している。AlをCuOシェルで被覆すると、EQEがかなり増強することが分かった。この触媒的増強は、約570nmでのAl@CuOの双極子プラズモン共鳴の辺りで特に顕著であるため、rWGSを引き起こすためのプラズモン増強キャリア生成機構を裏付けている。
【0066】
実施例3:担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒の合成および試験
【0067】
MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu(19.5at%のCu&0.5at%のRu):0.707g(2.925mmol)のCu(NO・3HO(Sigma-Aldrich(登録商標)、#61194)、0.0190g(約0.075mmol)のRuCl・xHO(Acros organics、#A0324917)、2.308g(9mmol)のMg(NO・6HO(Sigma-Aldrich(登録商標)、#63084)、および1.125g(3mmol)のAl(NO・9HO(Sigma-Aldrich(登録商標)、#237973)を15mLのDI水(Milli-Q(登録商標)Advantage A10)に溶解させて金属前駆体溶液を調製した。2.544g(24mmol)の無水NaCO(J.T.Baker(登録商標)、#3602-01)を20mLのDI水に溶解させて第二の塩基性溶液を調製した。
【0068】
10mLのDI水を100mLの5首丸底フラスコに加え、80℃まで加熱した。金属前駆体溶液およびNaCO溶液を予め加熱した水に同時に滴下した。pHをpH計(Accumet(登録商標)ポータブル型、AP63)で監視し、両溶液の添加速度を変えてpH=約8に保った。添加は15分かけて行った。得られた固体スラリーを80℃で24時間撹拌してから、室温まで冷却した。スラリーを約100gで遠心分離して触媒前駆体を単離し、次いでDI水で4回洗浄し、空気中、120℃で一晩乾燥させた。
【0069】
任意の測定の前に触媒を活性化するために、乾燥前駆体を内径2mmのステンレス製試料リング内で高温反応チャンバー(Harrick Scientific Products Inc.、#HVC-VUV-5、石英窓)に充填して、厚い円筒形試料ペレットを得た。チャンバーを200sccm(標準立方センチメートル/分、70°Fおよび1Bar)のHeで10分間パージして過剰な空気を追い出した後、前駆体を500℃、ランプ速度10℃/分でアニールし、20sccmのHe(Airgas、超高純度、99.999%)中に1時間保持した。次いで、このガスを10sccmのH(Airgas、研究純度、99.9999%)に切り替えて、試料を500℃で1時間還元した。図19は、上述した還元プロセスから得られた単一のCu-Ru表面合金粒子の高解像度透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示している。図20は、MgO-Al支持体に担持された還元Cu-Ru表面合金(コントラストの明るい領域)の高角度環状暗視野(HAADF)画像を示している。図21は、還元Cu-Ru表面合金の粒径分布のプロットを示している。熱触媒反応実験では、試料リングを用いずに前駆体をチャンバーに充填して、試料全体の温度が均一になるように薄い試料ペレットを得た。
【0070】
MgO-Alに担持されたCuナノ粒子(20at%のCu):調製および処理手順は上記Cu-Ru表面合金と同じであるが、0.725g(3mmol)のCu(NO・3HO、2.308g(9mmol)のMg(NO・6HO、および1.125g(3mmol)のAl(NO・9HOを15mLのDI水に溶解させて金属前駆体溶液を調製した。図22は、MgO-Al支持体に担持された還元Cuナノ粒子(コントラストの明るい領域)のHAADF画像を示している。図23は、還元Cuナノ粒子の粒径分布のプロットを示している。
【0071】
MgO-Alに担持されたRuナノ粒子(0.5at%のRu):0.0190g(0.075mmol)のRuCl・xHO、2.870g(11.19mmol)のMg(NO・6HO、および1.399g(3.73mmol)のAl(NO・9HOを15mLのDI水に溶解させて金属イオン混合溶液を調製した。調製および処理手順はCu-Ru表面合金試料と同じであった。図24は、MgO-Al支持体に担持された還元Ruナノ粒子(コントラストの明るい領域)のHAADF画像を示している。図25は、還元Ruナノ粒子の粒径分布のプロットを示している。
【0072】
図33は、誘導結合プラズマ(ICP)分光法で測定した共沈殿前駆体(すなわち、活性化工程前)中の元素濃度を示す表である。
【0073】
図26は、Cu-Ru表面合金(実線)、Cuナノ粒子(破線)、およびRuナノ粒子(短破線)の紫外・可視拡散反射スペクトルを示している。縦軸はクベルカ-ムンク関数である。
【0074】
図27は、MgO-Al支持体上のCu-Ru表面合金の粉末X線回折(PXRD)と、国際回折データセンター(ICDD)のカードから得たCu、Ru、MgO、およびAlのXRDデータを示している。回折パターンは、金属銅に対応する5つのピークと、MgOの(111)、(200)、(220)に適合する3つのピーク/肩(*で標識)を示している。結晶性Alに対応するピークは見られなかったが、これは、それが非晶質構造であることを示している。Ruの充填量が少なかったため、Ruに対応するピークもない。
【0075】
図28は、MgO-Alに担持されたCu-Ru表面合金およびMgO-Alに担持されたRuナノ粒子のX線光電子分光法(XPS)の結果を示している。Cu-Ru表面合金中のルテニウムの表面原子率(百分率)が高いということは、表面がRuに富むことを示して、表面合金構造を裏付けている。
【0076】
図29は、光強度の関数として白色光照射下でのMgO-Alに担持されたCu-Ru表面合金の試料ペレットの最高表面温度および平均表面温度のプロットを示している。図29に示すデータについて、反応器温度は室温に保った。
【0077】
触媒反応実験:アンモニアの分解(2NH→N+3H
【0078】
光触媒反応を固定床連続流反応器(Harrick Scientific Products,Inc.、#HVC-VUV-5)で行った。焦点距離が100mmのアクロマチックレンズ(Thorlab、AC254-100-A-ML)によってスーパーコンティニウムレーザー(Fianium、WL-SC-400-8、400~900nm、4ps、80MHz)からの白色光を集めることにより、触媒表面に直径約2mmのビームプロファイルが得られた。特に断りがなければ、チャンバーの温度を27℃に維持した。供給ガスは純粋なNH(Airgas、無水純度、99.99%)であった。ガス流量を質量流量制御装置(Alicat Scientific)で制御した。以下の2つの基準に基づいて、各種実験での流量を最適化した:(i)流量依存性実験における微分反応器条件を達成するように変換率を2%未満にするのに十分な流量、(ii)高い信号対ノイズ比を維持しつつできる限り少ない流量。すべての触媒反応を大気圧下で行った。リアルタイムでm/e=2(H)、28(N)、および17(NH)のオンライン四極子質量分析計(MS)(Hiden Analytical Inc.、QIC-20)を用いて、またはパルス放電ヘリウムイオン化検出器(PDHID)および分子篩13X(MS-13X)充填カラムを備えたオンラインガスクロマトグラフィー(GC)(Shidmazu-2014)により、流出物組成を監視した。MSは反応物(NH)と生成物(N&H)の両方を検出できるが、GCは我々が用いたカラムでは生成物しか検出できない。しかし、GCでは、より良好な信号対ノイズ比が得られる。
【0079】
MSおよびGCのいずれの場合も、純粋なHおよびNの線形較正曲線に基づいて反応速度を定量した。変換率が2%未満に制御されるので、反応化学量論(2NHが3Hおよび1Nに変換される)による総体積流量の増加は無視できる。反応速度は以下の式により算出した。
【0080】
【数1】
【0081】
式中、Δpは、流れ中の反応物または生成物の変化率(百分率)であり、fは、供給するNHの流量である。
【0082】
以下のように特定の反応速度を前駆体の質量に基づいて算出する。
【0083】
【数2】
【0084】
以下の式に基づいてターンオーバー周波数(TOF)を算出する。
【0085】
【数3】
【0086】
式中、nRuは、ICP-MS測定から得られた触媒中のルテニウムのモル数である。
【0087】
図16は、様々な触媒について光触媒反応(9.6W/cmの白色光照射)時および熱触媒反応(482℃)時のH生成速度のプロットを示している。各触媒の左の棒は光触媒反応の結果を表しており、右の棒には熱触媒反応の結果が示されている。MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒での光触媒反応速度は、単一金属のCuまたはRuナノ粒子に比べてそれぞれ約20倍、約177倍高かった。外部加熱せずに9.6W/cmで照射した場合、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cuの光触媒反応速度は、1.2mmol H/g/sにまで達する。光を消すと、反応速度はゼロまで低下した。Ru充填に基づくターンオーバー周波数(TOF)は、>15s-1であり、以下によりエネルギー効率(反応は、ΔH°rxnが46kJ/モルの吸熱反応である)を算出したところ、約18%であった。
【0088】
【数4】
【0089】
図17は、外部加熱せずに9.6W/cmの白色光照射下でMgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒を用いて光触媒反応速度を数時間にわたって測定した際の反応速度を示すプロットを示している。NH、N、およびHの測定量に基づく光触媒反応速度の比は、反応の化学量論と一貫性があるため、意図しない副反応がないことが確認された。
【0090】
図18は、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒を用いた光触媒反応速度および熱触媒反応速度の比較を示している。横軸は、上の測定値のセット(光触媒反応)では光熱加熱、下の測定値のセット(熱触媒反応)では外部加熱による触媒の表面温度に対応している。連続したデータ点間の光強度の差は0.8W/cmである。図18では、照射しないが、照射下で達成される温度と同等な温度で外部加熱して、アンモニア分解を行った場合、H生成の熱触媒反応速度が、観察された光触媒反応速度よりも1~2桁低くなったことが示されている。
【0091】
図30は、3.2W/cmという一定の強度下および暗所(波長が示されていない傾向線)での異なる波長について(上のプロット)、並びに550nmおよび暗所(波長が示されていない傾向線)での異なる光強度について(下のプロット)、2つの見かけの活性化障壁のアレニウスプロットを示している。
【0092】
図31は、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cuでの光触媒反応速度の波長依存性を示している。NHの供給速度は5sccmであり、1.5mgの光触媒を用いた。
【0093】
図32は、MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cuについて様々な照射条件下での見かけの活性化障壁(eV)を示している。
【0094】
アンモニアのプラズモン光触媒分解では、見かけの活性化障壁は、入射波長と光強度の両方に強く依存する。この依存性は、同時に反応中間体の被覆率を低減することで、見かけの活性化障壁を著しく低下させるNのホットキャリア誘導会合脱着によって説明することができる。光依存性活性化障壁の知見を用いて、所与の反応条件(例えば、照射および外部加熱)について光触媒反応速度を定量的に予測することができる。ここで示された予測手法および定量的手法によって、エネルギー効率の高い用途のためのプラズモン光触媒反応の最適化への道が開かれる。
【0095】
触媒反応実験:メタンドライリフォーミング(CH+CO→2CO+2H
【0096】
MgO-Al担持Cu-Ru表面合金@Cu触媒およびMgO-Al担持Cu触媒を上述したように共沈殿法により作製した。光触媒は、CuRu(xおよびyは、それぞれ触媒の全金属元素(Cu、Ru、Mg、およびAl)中のCu元素およびRu元素の原子百分率を指す。)として示された。作製したすべての表面合金光触媒試料は、類似した粒径分布を示し、Cu-Ru表面合金粒子の平均直径は約5nmであった。XPSから、Ruの3pの結合エネルギーが金属Ruに比べて高い値に変わることが観察でき、これはRuからCuへの電子の移動を示している。また、Ru/Cuの表面原子比は、ICP-MSで測定されたバルク原子比よりも高く、これは表面でのRuの富化を示唆している。Ruを用いずに合成したCu20ナノ粒子では、NO化学吸着により測定した表面Cu濃度は94.8μmol/gであったが、表面合金ナノ粒子では、表面Cu濃度は、合成においてRuの添加量を増やすとともに減少しており、これは、Ru-Cu表面合金の形成が実現したことを裏付けている。また、Ruを0.2at%未満充填した試料は、NO化学吸着によるRu表面被覆率が<20%であり、最密表面での原子分散体の最大許容表面被覆率よりも低い。紫外・可視拡散反射スペクトルには、約560nmに共鳴ピーク(図26に示されるものと同様)が示されており、このピークは、すべての試料についてCuナノ粒子の双極子局在表面プラズモン共鳴に起因するものであり、Cuナノ粒子プラズモンに対するRu吸着原子の減衰効果のため、わずかしか広がっていない。
【0097】
図34は、19W/cmの白色光照射下で光触媒ドライメタンリフォーミング反応を行った際の反応速度および長期安定性を示している。図34の矢印は、記載された触媒についてCH反応速度により相対的な順序を付けたものである。図35は、19W/cmの白色光照射下で光触媒ドライメタンリフォーミング反応を行った際の選択性および長期安定性を示している。図35の矢印は、それぞれのプロットに対するラベルを指している。Cu19.8Ru0.2試料およびCu19.9Ru0.1試料のプロットは、最も高い選択性で重なっている。実験中、反応器温度を室温に保ち、選択性をCOに対するHの形成速度の比として定義した。
【0098】
純粋な銅ナノ粒子(Cu20)では、19W/cmの白色光照射下で約50μmol CH/g/sの初期反応速度が検出された。しかし、活性は、5時間の反応後にわずか約4μmol/g/sまで急速に減衰した。ナノ粒子表面でのコーク堆積は、光触媒の失活と強く相関していた。光励起後すぐに光触媒ペレットの表面に黒色物質が形成されたが、これはラマン分光法により非晶質炭素と同定された。光誘導加熱による触媒ペレットの最も熱い箇所の表面温度を測定したところ、現在の実験条件下では約750℃であったが、ナノ粒子のオストヴァルト熟成は著しいものではない。というのは、光触媒反応後のナノ粒子の粒径分布を測定してもほとんど変化がなかったからである。
【0099】
とりわけ、非常に低い比率のRu(Cu19.95Ru0.05)では、初期光触媒反応速度が約2.5倍まで(128μmol/g/s)高まり、それにより安定性が向上し、連続5時間の実験後に約90%の活性が維持されることが観察された。さらに、Cu19.9Ru0.1触媒およびCu19.8Ru0.2触媒の両方では、これまでにない安定性が達成され、20時間の光触媒反応にわたって100%の効率が維持された。Cu19.9Ru0.1試料では、50時間後でも減衰がまったく観察されなかった。使用済み触媒のラマンスペクトルに炭素質種は現れておらず、炭素含有量の増加は元素分析から無視できる程度であった。反応性部位の原子分散体は、表面炭素中間体を単離することでC-C結合の形成および付随するコーキングを抑制するというDFT計算によって予測されるように、Ru部位は、純粋な銅表面よりもメタン解離に対する反応性が高い。Cu19.95Ru0.05試料では、Ruの表面被覆率が低すぎて、反応の実質的な部分は露出した銅表面により触媒されたが、この銅表面はコーキングに対して弱い。さらに、Ru充填を増加させると(Cu19.5Ru0.5)、予測通りより高い初期光触媒反応速度が得られたが、安定性は犠牲になり、16時間の反応後に光触媒活性の13%が失われた。これは、おそらくRu濃度が高くなったことによるものと思われる。というのは、Ru原子はこの被覆率で表面アイランドを形成し始めるが、この場合、炭素中間体が重合してコークを形成し得るからである。
【0100】
図36は、Cu19.8Ru0.2触媒を用いた場合の19W/cmの白色光照射下での光触媒反応および反応器温度1000Kの熱触媒反応の長期安定性(ベタの丸)および選択性(白抜きの丸)を示している。暗所での727℃のCu19.8Ru0.2の熱触媒反応の初期反応速度は約60μmol CH/g/sに過ぎなかったが、これは、19W/cmの白色光照射を行うが、加熱は行わない場合の光触媒反応速度(約275μmol CH/g/s)の25%未満である。最も熱い箇所での同等の表面温度(約750℃)と、光照射で加熱される体積における温度の勾配分布とを考慮すると、我々は、ホットキャリア媒介性化学反応がこの光触媒反応プロセスの主要な機構であることを提案する。観察された熱触媒反応速度は、光触媒反応速度よりも安定性が低く、8時間後に約4μmol CH/g/sまで減衰した。TEM、ラマン分光法、および元素分析から、単一原子合金表面にも関わらず、熱触媒反応における不安定性の原因は、おそらく、焼結ではなく、コーク堆積だと思われると結論づけられた。これにより、ホットキャリアがコーク耐性に重要であることが明らかになった。熱触媒反応の低い選択性は、表面に吸着したHがCOと反応して酸素中間体の表面存在量を減少させる傾向があり、これにより、酸化ガス化(C(a)+O(a)→CO(g))による表面からの吸着炭素の除去が抑制されることを示している。換言すれば、表面炭素の形成速度とガス化速度の速度不一致の結果、コーク堆積が蓄積する。
【0101】
一方、光触媒反応では、観察された高い選択性に反映されているように、ホットキャリアはHの会合脱着を増強し、その結果、表面炭素の除去に対しては酸素中間体の表面存在量を維持することができる。また、ホットキャリアは、おそらく、基底状態の反応障壁が比較的高く、光子励起ではほとんど実行不可能である逆ブードア反応(C+CO→2CO)によりCOとRu部位に吸着されたCとの直接反応を増強できると思われる。
【0102】
図37は、Cu19.8Ru0.2触媒を用いた光触媒反応速度および選択性の強度依存性のプロットを示している。エラーバーは、3つの異なる試料バッチの測定値の標準偏差を表す。図38は、Cu19.8Ru0.2触媒を用いた光触媒反応速度および選択性の波長依存性のプロットを示している。すべての波長で3.5W/cmの光強度を用いた。エラーバーは、同じ試料バッチの同じ箇所でのガスクロマトグラフによる測定値の標準偏差を表す。図34図38に示すすべての光触媒反応実験について、1.5mgの触媒を用い、2mmの光点を試料ペレットの表面に照射した。反応器温度を室温に保った。図36の熱触媒反応実験では、5~10mgの触媒を用い、実験は暗所で行った。
【0103】
Cu19.8Ru0.2光触媒上でのメタンドライリフォーミングの見かけの活性化障壁(Eapp)を測定したところ、各種温度での熱触媒反応速度のアレニウスフィッティングから0.85eVであった。選択性はV字形の温度依存性を示し、約800K(527℃)に遷移温度を有する。最初に、選択性は、650~800Kの温度領域で温度が上昇するにつれて、最大値の約0.3H/COから低下する。これは、おそらく、RWGS副反応の反応速度がメタンドライリフォーミング反応と比べてより速く温度と共に上昇するからである。しかしながら、RWGS副反応のギブス自由エネルギーは、より高い温度(T>800K)ではより小さい負の値となり、その反応速度を制限する。熱力学によって予測される選択性の理論的な下限は、熱力学制御領域(T>800K)での実験値を非常によく再現する。これに反して、光触媒反応の選択性(図37)は、光強度と共に単調に増加して、約10W/cmを超える強度では約100%に達する。熱触媒反応と光触媒反応との絶対値および選択性の傾向の大きな対比から、光触媒反応プロセスにおけるホットキャリア媒介性機構の支配的な役割が確認された。
【0104】
図38に示される波長依存性プロットから、試料を波長550nm(ナノ粒子のプラズモン共鳴波長)の光で照射した場合に最も高い反応速度および選択性が観察されたことが分かる。波長が550nmより長いと、生成されるホットキャリアが少なくなり得るため、反応速度と選択性の両方が減少した。波長が短いと(λ<550nm)、吸収は高いままであるが、反応速度と選択性は同様に減少した。Cuのバンド間遷移に起因する吸収は、この波長領域において実質的であり、波長が低下するにつれて増加するが、バンド間遷移から生成されたホットキャリアは表面プラズモン由来ホットキャリアに比べてエネルギーが低い。反応性は450nmで再び高くなるが、これは、光熱加熱および表面プラズモン由来ホットキャリアの相乗効果によるものと我々は考える。プラズモン減衰に由来する有効なホットキャリアの数は475nm~450nmの波長領域で減少するが、表面温度は全体吸収が高まるため増加する。すなわち、これにより、上記波長でホットキャリア活性化およびその後の化学反応性が著しく増強されるだろう。しかしながら、この効果は、Hの会合脱着ではあまり実質的ではない。というのは、選択性は波長が短くなると単調に減少するからである。これは、おそらく、温度は、活性化障壁が低い素過程の反応速度に小さな効果しか示さないためである。波長依存性は、表面プラズモン減衰に由来するホットキャリアが主にホットキャリア媒介性機構に関与しており、バンド間遷移領域などで表面プラズモン由来ホットキャリアが希薄な場合に温度の効果がより明らかになることを示唆している。
【0105】
プラズモン材料と反応性粒子とを直接カップリングさせて単一の多成分プラズモン複合体にすることで、光吸収の弱い反応性成分での吸収増強および/または該反応性成分へのホットキャリア移動が可能になる。本明細書で記載する多成分プラズモン光触媒を用いると、ホットキャリア生成および光熱加熱を触媒活性表面付近で大きく増加させることができる。この概念はモジュール性が高いものであり、例えば、プラズモン材料の組成または大きさを調節することで、電磁スペクトルの特定の波長で光誘導光触媒反応が可能になるため、特定の化学反応および反応経路に対してそのような多成分プラズモン複合体を最適化することができる。同様に、反応性成分を異なる金属、合金、半導体、または絶縁体に変えることで、表面化学反応および光触媒活性を高度に調節することができる。多成分プラズモン光触媒によってホットキャリア生成を高めることができ、それにより、結合した反応性成分での新たな光駆動反応経路が可能になる。反応特異性の制御が非常に望ましい特定のホットキャリア駆動光触媒プロセスに有利になるように多成分プラズモン概念を開発することによって、光を用いた触媒化学反応の正確で究極的に予測可能な制御法の開発の新たな扉が開かれる。
【0106】
有利には、本開示の多成分プラズモン光触媒は、プラズモン材料と、より反応性のある表面または部位を有する他の触媒粒子または原子とを組み合わせることで、従来の単一成分触媒およびセンサーに比べて反応性および選択性が高まることによって、プラズモン材料がほとんどの化学反応および基材結合に対して比較的不活性な表面を持っているという問題を軽減する。プラズモン材料と反応性粒子とを直接カップリングさせて単一の多成分プラズモン複合体にすることで、光吸収の弱い反応性成分での吸収増強が可能になる。本明細書で記載する多成分プラズモン光触媒を用いると、ホットキャリア生成および光熱加熱を触媒活性表面付近で大きく増加させることができる。この概念はモジュール性が高いものであり、例えば、プラズモン材料の組成または大きさを調節することで、電磁スペクトルの特定の波長で光誘導光触媒反応が可能になるため、特定の化学反応および反応経路に対してそのような多成分プラズモン複合体を最適化することができる。同様に、反応性成分を異なる金属、合金、半導体、または絶縁体に変えることで、表面化学反応および光触媒活性を高度に調節することができる。多成分プラズモン光触媒によってホットキャリア生成を高めることができ、それにより、結合した反応性成分での新たな光駆動反応経路が可能になる。反応特異性の制御が非常に望ましい特定のホットキャリア駆動光触媒プロセスに有利になるように多成分プラズモン概念を開発することによって、光を用いた触媒化学反応の正確で究極的に予測可能な制御法の開発の新たな扉が開かれる。触媒活性遷移金属ナノ粒子の極端な高温条件から低温活性化への移行によって、広範な影響が及ぼされて、不均一系触媒反応の現在のエネルギー需要が大きく減少するであろう。
【0107】
以上、いくつかの例示的な実施形態のみを詳細に記載したが、当業者であればすぐに理解できるように、本発明から実質的に逸脱することなく例示的な実施形態に多くの変更が可能である。したがって、そのようなすべての変更は、以下の特許請求の範囲で規定される本開示の範囲内に含まれることを意図している。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23
図24
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31
図32
図33
図34
図35
図36
図37
図38