(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】印刷可能な分子インク
(51)【国際特許分類】
C09D 11/52 20140101AFI20230511BHJP
C09D 11/08 20060101ALI20230511BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230511BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230511BHJP
H01B 5/14 20060101ALI20230511BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20230511BHJP
C09D 11/033 20140101ALI20230511BHJP
【FI】
C09D11/52
C09D11/08
H01B1/22 A
H01B13/00 503D
H01B5/14 B
H05K1/09 A
C09D11/033
(21)【出願番号】P 2019563708
(86)(22)【出願日】2018-02-08
(86)【国際出願番号】 IB2018050788
(87)【国際公開番号】W WO2018146616
(87)【国際公開日】2018-08-16
【審査請求日】2021-02-02
(32)【優先日】2017-02-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】500276482
【氏名又は名称】ナショナル リサーチ カウンシル オブ カナダ
(74)【代理人】
【識別番号】110000855
【氏名又は名称】弁理士法人浅村特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】リュー、シャンヤン
(72)【発明者】
【氏名】パケ、シャンタル
(72)【発明者】
【氏名】ケル、アーノルド ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】マレファン、パトリック ロラン ルシアン
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104263082(CN,A)
【文献】中国特許出願公開第105504998(CN,A)
【文献】特表2013-527877(JP,A)
【文献】特表2005-537386(JP,A)
【文献】特表2014-529875(JP,A)
【文献】国際公開第2007/126012(WO,A1)
【文献】特開2008-176951(JP,A)
【文献】特表2002-522341(JP,A)
【文献】特表2010-505230(JP,A)
【文献】特表2009-527076(JP,A)
【文献】特開2002-329419(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00- 13/00
H01B 1/00- 1/24
H05K 1/09
H05K 1/19
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボン酸銀、有機アミン化合物、有機ポリマー結合剤、表面張力調整剤、および溶媒を含む分子インクであって、
前記カルボン酸銀が、シュウ酸銀を含
み、
前記有機アミン化合物が、アミノ-2-プロパノール、又はアミノ-2-プロパノールおよび2-アミノ-1-ブタノールの混合物を含む、上記分子インク。
【請求項2】
前記カルボン酸銀が、前記インクの総重量を基準として約10重量%~約60重量%の量で存在する、請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記有機アミン化合物が、前記インクの総重量を基準として10重量%~75重量%の量で存在する、請求項1または2に記載のインク。
【請求項4】
前記有機ポリマー結合剤が、前記インクの総重量を基準として0.1重量%~5重量%の量で存在するヒドロキシエチルセルロースを含む、請求項1~3のいずれか一項に記載のインク。
【請求項5】
前記表面張力調整剤が、グリコール酸または乳酸を含み、かつ、インクの総重量を基準として0.5重量%~4重量%の量で存在する、請求項1~4のいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
前記溶媒が、前記インクの残りの重量を提供する量のジプロピレングリコールメチルエーテルを含むみ、
該残りの重量が、前記インクの総重量から他の全成分の重量を減じて計算される、請求項1~5のいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
消泡剤をさらに含む、請求項1~6のいずれか一項に記載のインク。
【請求項8】
前記消泡剤が、前記インクの総重量を基準として0.0001重量%~1重量%の量ポリプロピレン系ポリエーテルを含む、請求項7に記載のインク。
【請求項9】
チキソトロピー調整剤をさらに含む、請求項1~8のいずれか一項に記載のインク。
【請求項10】
前記チキソトロピー調整剤が、前記インクの総重量を基準として0.1重量%~0.5重量%の量のポリヒドロキシカルボン酸アミドを含む、請求項9に記載のインク。
【請求項11】
基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に定義のインクを基板上に堆積させて、前記基板上に前記インクの非導電性トレースを形成するステップと、前記基板上の前記インクの前記非導電性トレースを焼結して、前記導電性銀トレースを形成するステップとを含む方法。
【請求項12】
成形基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、
成形可能な基板上に、請求項1~10のいずれか一項に定義の分子インクを堆積させるステップと、
前記成形可能な基板上の前記インクを乾燥させて、前記成形可能な基板上にカルボン酸銀を含有する非導電性トレースを形成するステップと、
前記非導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置するように、前記成形可能な基板をある形状に形成して前記成形基板を製造するステップと、
前記成形基板を焼結して前記カルボン酸銀を金属銀に分解し、それによって前記成形基板の少なくとも前記成形部分上に導電性銀トレースを製造するステップと
を含む方法。
【請求項13】
成形基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、
成形可能な基板上に請求項1~10のいずれか一項に定義の分子インクを堆積させるステップと、
前記成形可能な基板上の前記インクを乾燥および焼結して、銀金属を含有する導電性トレースを形成するステップと、
前記導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置し、それによって前記成形基板の少なくとも前記成形部分上に導電性銀トレースを製造するように、前記成形可能な基板をある形状に形成して前記成形基板を製造するステップと
を含む方法。
【請求項14】
前記成形が、熱成形を含む、請求項12または13に記載の方法。
【請求項15】
前記基板が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、非晶質ポリエチレンテレフタラート(APET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)、ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン(TPU)またはシリコーン膜を含む、請求項11~14のいずれか一項に記載の方法。
【請求項16】
前記成形可能な基板が、伸縮性基板であり、前記伸縮性基板上の前記導電性銀トレースが、0.1~少なくとも1.2の歪みまで延伸された場合に歪みがない場合の抵抗の150倍以下の抵抗を有する、請求項12または13に記載の方法。
【請求項17】
前記焼結が、80℃~140℃の範囲内の温度への加熱、フォトニック焼結、マイクロ波または近赤外(NIR)法によって行われる、請求項11~16のいずれか一項に記載の方法。
【請求項18】
請求項1~10のいずれか一項に定義のインクから製造された導電性銀トレースを備える基板。
【請求項19】
導電性銀スレッド/ヤーンを製造する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に定義のインクにスレッドまたはヤーンを浸漬するステップと、コーティングされたスレッドまたはヤーンから余分なインクを除去するステップと、前記コーティングされたスレッドまたはヤーンを熱焼結して、前記導電性スレッド/ヤーンを形成するステップとを含む方法。
【請求項20】
導電性銀スレッドまたはヤーンを製造する方法であって、請求項1~10のいずれか一項に定義のインクをヤーンまたはスレッドの上に堆積させて、非導電性コーティングヤーンまたはスレッドを形成するステップと、前記非導電性ヤーン/スレッドを焼結して、前記導電性銀スレッド/ヤーンを形成するステップとを含む方法。
【請求項21】
請求項1~10のいずれか一項に定義のインクから製造された導電性銀コートまたは層を備えるヤーンまたはスレッド。
【請求項22】
請求項18に定義の基板、又は請求項21に定義のヤーンまたはスレッドを備える電子デバイス。
【請求項23】
請求項18に定義の基板、又は請求項21に定義のヤーンまたはスレッドを備える衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、インク、特に比較的低温で焼結することができ、および/または成形可能な基板、例えば伸縮性基板上への導電性トレースの製造を可能にすることができるインクに関する。
【背景技術】
【0002】
スクリーン印刷は、フレキシブル基板上に導電性構造を製造するために最も一般的に使用されている技術であり、印刷エレクトロニクス業界で採用されている最も一般的なインクは、金属フレークベースのインクである。フレークベースのインクは太いトレース(>10μm)を生成し、その結果得られるトレースの線幅は典型的には>100μmである。導電性トレースを製造するのに必要な温度は、通常120℃を超えるが、最近、2つの市販の銀フレークベースのインクが開発されており、これらは、60℃程度の低い温度でそれぞれ20~25および50~60mΩ/□/ミルのシート抵抗値で焼結され得る。熱成形または延伸することができ、導電性を維持することができるインクを開発することへの関心も高まっている。しかしながら、熱成形フレークベースの導電性インクは、トレース抵抗の増加(最大10倍)につながるか、またはひび割れした非導電性トレースにつながる可能性がある。伸縮性導電性インクに関しては、直線状のトレースは、典型的には破断せずに20%を超えて延伸することができず、さらに延伸が必要な場合は、曲折パターンで印刷されなければならない。これまでに説明されたインクは全て、導電性成分として銀フレークを利用しているが、銀前駆体インク(すなわち銀分子インク)は、非常に薄く、狭くそして機械的に頑強なトレースの開発を可能にし得るため、印刷技術においてそれらを使用することへの関心が高まっている。
【0003】
ギ酸銀-アルキルアミン錯体は、25~80℃程度の低い温度で銀トレースに変換され得ることが知られている。そのような塩を含むインクジェットおよびスプレーベースの配合物は、100μm以下のトレースを生成する能力を示したが、ギ酸銀は特定濃度のアミン(すなわちアンモニア、アルキルアミン等)と混合した場合にのみ安定であり、アミンが存在しないと室温で分解する。このように、ギ酸銀塩から誘導されたインクはスクリーン、グラビア印刷およびフレキソ印刷にはあまり適合せず、インクは広い表面積にわたって広がり、水および揮発性アミンの蒸発を生じやすく、その結果スクリーンまたはアニロックス/転写ローラー上で銀への変換が生じる。さらに、アンモニアの存在は、開放型の製造環境における印刷とは相容れないものにする。スクリーン、グラビア印刷およびフレキソ印刷等のより工業的に関連した方法によってインクを印刷することができるように、室温で安定であり、またアンモニアおよび揮発性溶媒等の有害ガスを含有しないインクを開発することが有益であろう。
【0004】
1つの選択肢は、アルキルアミンと混合したシュウ酸銀塩の使用であり、その理由は、1つにはシュウ酸銀は室温ではるかに安定であり、100℃を超える温度まで熱分解し始めないためである。しかしながら、シュウ酸銀およびアルキルアミンの混合物は、120~130℃での焼結後に導電性の低い浸漬コーティングフィルムを生成することが示されている。得られるフィルムは、フォトニック焼結後に著しく導電性となり得る。他の例では、インクジェット印刷シュウ酸銀塩/アルキルアミン混合物が、130℃で5分間焼結した後に約350μΩ・cmの体積抵抗値を有するトレースを生成することができ、長時間(30~60分)焼結すると値が25~50μΩ・cmに減少し得ることが示されている。さらに、焼結温度を170℃に上昇させることも、体積抵抗率(8~9μΩ・cm)を低減するのに役立つ。しかしながら、140℃を超える温度は、ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリカーボナート(PC)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)、熱可塑性ポリウレタン(TPU)および多くの布地等の低温基板とは相容れない。
【0005】
そのような低温基板と適合性のあるインクの開発は、典型的には低いガラス転移温度を有する基板上で行われる熱成形および伸縮性導体用途をもたらし得る。いくつかのフレークベースの銀インクは、熱成形/延伸に耐え、導電性を維持するように特別に配合されているが、そのようなインクは、10~20%を超える伸びで亀裂形成を生じやすく、特に幅500μm未満のトレースでは著しく抵抗が増加する。
【0006】
最近、スクリーン印刷用に配合することができる分子銀インクプラットフォームが開発された(2015年12月23日に公開された国際特許公開WO2015/192248)。このスクリーン印刷可能な分子インクは優れた印刷適性を有し、熱またはパルス光のいずれかで処理されて、高い導電性、頑強な機械的特性、および36μm離れた76μmという狭い線幅を有するトレースを生成し得る。そのような分子インクの価値ある特徴は、非導電性分子前駆体を導電性金属トレースに変換するために、それらを印刷し、乾燥させ、続いて(熱またはパルス光のいずれかを用いて)焼結することができることである。
【0007】
しかしながら、比較的低温で、特に低温熱成形性、伸縮性および布地ベースの基板およびスレッド/ヤーン上に導電性トレースを形成する印刷可能インクを開発することが依然として必要性とされている。熱成形用途における分子インクの使用は特に有益であり、スクリーン印刷、乾燥、熱成形、および続いてそれらを導電性にするための形成されたトレースのフォトニック焼結の選択を可能にする。
【発明の概要】
【0008】
一態様において、カルボン酸銀、有機アミン化合物、有機ポリマー結合剤、表面張力調整剤、および溶媒を含む分子インクが提供される。
【0009】
別の態様において、基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、分子インクを基板上に堆積させて、基板上にインクの非導電性トレースを形成するステップと、基板上のインクの前記非導電性トレースを焼結して、導電性銀トレースを形成するステップとを含む方法が提供される。
【0010】
別の態様において、成形基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、成形可能な基板上に分子インクを堆積させるステップと、成形可能な基板上のインクを乾燥させて、成形可能な基板上にカルボン酸銀を含有する非導電性トレースを形成するステップと、非導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置するように、成形可能な基板をある形状に形成して成形基板を製造するステップと、成形基板を焼結(例えば光焼結)してカルボン酸銀を金属銀に分解し、それによって成形基板の少なくとも前記成形部分上に導電性銀トレースを製造するステップとを含む方法が提供される。
【0011】
別の態様において、成形基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、成形可能な基板上に分子インクを堆積させるステップと、成形可能な基板上のインクを乾燥および焼結して、銀金属を含有する導電性トレースを形成するステップと、導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置し、それによって成形基板の少なくとも成形部分上に導電性銀トレースを製造するように、成形可能な基板をある形状に形成して成形基板を製造するステップとを含む方法が提供される。
【0012】
別の態様において、伸縮性基板上に導電性銀トレースを製造するための方法であって、分子インクを伸縮性基板上に堆積させるステップと、伸縮性基板上のインクを乾燥および焼結して、銀金属を含有する導電性トレースを形成するステップとを含む方法が提供される。
【0013】
別の態様において、導電性銀スレッド/ヤーンを製造する方法であって、スレッド/ヤーンを分子インクに浸漬するステップと、過剰のインクを除去するステップと、コーティングされたスレッド/ヤーンを熱焼結して、導電性スレッド/ヤーンを形成するステップとを含む方法が提供される。
【0014】
別の態様において、上述のような方法によって製造された導電性銀トレースを備える基板が提供される。
【0015】
別の態様において、導電性銀ヤーンまたはスレッドを製造する方法であって、分子インクをヤーンまたはスレッドの上に堆積させて、非導電性ヤーンまたはスレッドを形成するステップと、非導電性ヤーン/スレッドを焼結して、導電性銀スレッド/ヤーンを形成するステップとを含む方法が提供される。
【0016】
別の態様において、上述のような方法によって製造された導電性銀トレースを有する基板を備える電子デバイスが提供される。
【0017】
別の態様において、上述のような方法によって製造された導電性銀コーティングまたは層でコーティングされたスレッド/ヤーンを備える電子デバイスまたは衣服が提供される。
【0018】
さらなる特徴は、以下の詳細な説明の過程で説明される、または明らかになるであろう。本明細書に記載の各特徴は、記載された他の特徴のうちの1つまたは複数との任意の組み合わせで利用され得ること、また各特徴は、当業者に明らかな場合を除いて別の特徴の存在に必ずしも依存しないことを理解されたい。
なお、下記[1]から[38]は、いずれも本発明の一形態又は一態様である。
[1]
カルボン酸銀、有機アミン化合物、有機ポリマー結合剤、表面張力調整剤、および溶媒を含む分子インク。
[2]
前記カルボン酸銀が、シュウ酸銀を含む、[1]に記載のインク。
[3]
前記カルボン酸銀が、前記インクの総重量を基準として約10重量%~約60重量%の量で存在する、[1]または[2]に記載のインク。
[4]
前記有機アミン化合物が、アミノ-2-プロパノールを含む、[1]~[3]のいずれか一項に記載のインク。
[5]
前記有機アミン化合物が、アミノ-2-プロパノールおよび2-アミノ-1-ブタノールの混合物を含む、[1]~[4]のいずれか一項に記載のインク。
[6]
前記有機アミン化合物が、前記インクの総重量を基準として約10重量%~約75重量%の量で存在する、[1]~[5]のいずれか一項に記載のインク。
[7]
前記カルボン酸銀および有機アミン化合物が、前記インク中で錯体を形成する、または相互作用する、[1]~[6]のいずれか一項に記載のインク。
[8]
前記有機ポリマー結合剤が、前記有機アミン化合物と相溶性であり、それによって前記有機ポリマー結合剤中の前記有機アミン化合物の混合物が著しい相分離をもたらさない、[1]~[7]のいずれか一項に記載のインク。
[9]
前記有機ポリマー結合剤が、ヒドロキシエチルセルロースを含む、[1]~[8]のいずれか一項に記載のインク。
[10]
前記有機ポリマー結合剤が、前記インクの総重量を基準として約0.1重量%~約5重量%の量で存在する、[1]~[9]のいずれか一項に記載のインク。
[11]
前記表面張力調整剤が、グリコール酸または乳酸を含む、[1]~[10]のいずれか一項に記載のインク。
[12]
前記表面張力調整剤が、前記インクの総重量を基準として約0.5重量%~約4重量%の量で存在する、[1]~[11]のいずれか一項に記載のインク。
[13]
前記有機アミン化合物および有機ポリマー結合剤が、前記溶媒に分散可能である、[1]~[12]のいずれか一項に記載のインク。
[14]
前記溶媒が、ジプロピレングリコールメチルエーテルを含む、[1]~[13]のいずれか一項に記載のインク。
[15]
前記溶媒が、前記インクの重量バランスを提供する量で存在する、[1]~[14]のいずれか一項に記載のインク。
[16]
消泡剤をさらに含む、[1]~[15]のいずれか一項に記載のインク。
[17]
前記消泡剤が、グリセロールを含む、[16]に記載のインク。
[18]
前記消泡剤が、前記インクの総重量を基準として約0.5重量%~約8重量%の量で存在する、[16]または[17]に記載のインク。
[19]
チキソトロピー調整剤をさらに含む、[1]~[18]のいずれか一項に記載のインク。
[20]
前記チキソトロピー調整剤が、ポリヒドロキシカルボン酸アミドを含む、[19]に記載のインク。
[21]
前記チキソトロピー調整剤が、前記インクの総重量を基準として約0.1重量%~約0.5重量%の量で存在する、[19]または[20]に記載のインク。
[22]
基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、[1]~[21]のいずれか一項に定義のインクを基板上に堆積させて、前記基板上に前記インクの非導電性トレースを形成するステップと、前記基板上の前記インクの前記非導電性トレースを焼結して、前記導電性銀トレースを形成するステップとを含む方法。
[23]
成形基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、
成形可能な基板上に、[1]~[21]のいずれか一項に定義の分子インクを堆積させるステップと、
前記成形可能な基板上の前記インクを乾燥させて、前記成形可能な基板上にカルボン酸銀を含有する非導電性トレースを形成するステップと、
前記非導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置するように、前記成形可能な基板をある形状に形成して前記成形基板を製造するステップと、
前記成形基板を焼結して前記カルボン酸銀を金属銀に分解し、それによって前記成形基板の少なくとも前記成形部分上に導電性銀トレースを製造するステップと
を含む方法。
[24]
成形基板上に導電性銀トレースを製造する方法であって、
成形可能な基板上に[1]~[21]のいずれか一項に定義の分子インクを堆積させるステップと、
前記成形可能な基板上の前記インクを乾燥および焼結して、銀金属を含有する導電性トレースを形成するステップと、
前記導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置し、それによって前記成形基板の少なくとも前記成形部分上に導電性銀トレースを製造するように、前記成形可能な基板をある形状に形成して前記成形基板を製造するステップと
を含む方法。
[25]
前記成形が、熱成形を含む、[23]または[24]に記載の方法。
[26]
前記基板が、ポリエチレンテレフタラート(PET)、非晶質ポリエチレンテレフタラート(APET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)、ポリオレフィン、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリイミド、熱可塑性ポリウレタン(TPU)またはシリコーン膜を含む、[22]~[25]のいずれか一項に記載の方法。
[27]
前記成形可能な基板が、伸縮性基板であり、前記伸縮性基板上の前記導電性銀トレースが、約0.1~少なくとも約1.2の歪みまで延伸された場合に導電性を維持する、[23]または[24]に記載の方法。
[28]
前記焼結が、フォトニック焼結によって行われる、[22]~[27]のいずれか一項に記載の方法。
[29]
前記焼結が、マイクロ波または近赤外(NIR)法によって行われる、[22~[27のいずれか一項に記載の方法。
[30]
前記焼結が、約80℃~約140℃の範囲内の温度で行われる、[22]~[27]のいずれか一項に記載の方法。
[31]
前記焼結が、約1分~30分の範囲内の時間にわたって行われる、[22]~[30]のいずれか一項に記載の方法。
[32]
前記堆積が、スクリーン印刷を含む、[22]~[31]のいずれか一項に記載の方法。
[33]
[1]~[21]のいずれか一項に定義のインクから製造された導電性銀トレースを備える基板。
[34]
[33]に定義の基板を備える電子デバイス。
[35]
導電性銀スレッド/ヤーンを製造する方法であって、[1]~[21]のいずれか一項に定義のインクにスレッド/ヤーンを浸漬するステップと、コーティングされたスレッド/ヤーンから余分なインクを除去するステップと、前記コーティングされたスレッド/ヤーンを熱焼結して、前記導電性スレッド/ヤーンを形成するステップとを含む方法。
[36]
導電性銀スレッド/ヤーンを製造する方法であって、[1]~[21]のいずれか一項に定義のインクをヤーンまたはスレッドの上に堆積させて、非導電性コーティングヤーンまたはスレッドを形成するステップと、前記非導電性ヤーン/スレッドを焼結して、前記導電性銀スレッド/ヤーンを形成するステップとを含む方法。
[37]
[1]~[21]のいずれか一項に定義のインクから製造された導電性銀コートまたは層を備えるヤーンまたはスレッド。
[38]
[37]に定義のヤーンまたはスレッドを備える電子デバイスまたは衣服。
【0019】
より明確に理解するために、添付の図面を参照しながら、好ましい実施形態を例として詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1A】本発明の低温分子インク(NRC-848A3a)から製造された、印刷および焼結されたトレースの三次元表面形状測定器画像、ならびにインクを用いて達成され得る線幅および線間隔(L/S)を強調する得られた断面を示す図である。
【
図1B】低温分子インク(NRC-848A3a)から製造された、印刷および焼結されたトレースの三次元表面形状測定器画像、ならびにインクを用いて達成され得る線幅および線間隔(L/S)をさらに強調する得られた断面を示す図である。
【
図2A】異なる温度で処理された本発明の別のインク(NRC-849A1)から製造された約512μmの線幅を有する導電性銀トレースについてのシート抵抗率(mΩ/□/ミル)対温度(℃)のグラフを示す図である。
【
図2B】異なる温度で処理された本発明の別のインク(NRC-850A)から製造された約444μmの線幅を有する導電性銀トレースについてのシート抵抗率(mΩ/□/ミル)対温度(℃)のグラフを示す図である。
【
図3】チキソトロープ剤がインクに含まれず、インクが高(>50%)湿度で印刷された場合のトレース形状に対する効果を示している、120℃で5分間熱焼結されたインクNRC-849A1から製造されたスクリーン印刷トレースを示す図である。
【
図4】チキソトロープ剤がインクに含まれ、インクが高(>50%)湿度で印刷された場合のトレース形状に対する効果を示している、120℃で5分間熱焼結されたインクNRC-850A1から製造されたスクリーン印刷トレースを示す図である。
【
図5】グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)基板上に印刷され、75℃で乾燥され、台形形状の上に熱成形され、インクを銀トレースに変換するために15J/cm
2のエネルギーで光焼結されたインクNRC-850A2のトレースの上面図である。
【
図6】グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)基板上に印刷され、75℃で乾燥され、インクを銀トレースに変換するために120℃で焼結され、続いてドームおよび半円筒形状の上に熱成形されたインクNRC-850A3のトレースの上面図である。
【
図7A】印加された歪みの関数としてのインクNRC-850AおよびDupontのPE873インクから印刷された銀線の正規化された抵抗を示す図であり、線はオゾン処理ポリエステルポリウレタン(American Polyfilm VLM-4001)上に印刷されている図である。
【
図7B】印加された歪みの関数としてのインクNRC-850AおよびDupontのPE873インクから印刷された銀線の正規化された抵抗を示す図であり、線はポリウレタンソフトシームテープ(Bemis ST604)上に印刷されている図である。
【
図8A】インクNRC-850Aをポリウレタン上に印刷するために使用された蛇行パターンを示す図である。
【
図8B】インクNRC-850Aを使用して印刷された銀線の印加された歪みの関数としての正規化された抵抗を示す図であり、線はオゾン処理ポリエステルポリウレタン(American Polyfilm VLM-4001)上に印刷されている図である。「予め歪められた」試料については、インクが基板上に堆積されたときにポリウレタン基板を線の方向に10%延伸した。
【
図9A】本出願に記載されている分子インクを用いて調製された導電性スレッドによって電力供給されている機能的LEDの写真を示す図である。
【
図9B】プラットフォーム上の電極およびLED上の正(+)電極を通して縫合された導電性スレッドを使用してウェアラブルプラットフォームに配線されている単一のLEDの近接写真を示す図である。負(-)電極からのスレッドが、布の裏側にあるウェアラブルデバイスの接地に向かっていることに留意されたい。
【発明を実施するための形態】
【0021】
カルボン酸銀は、好ましくは、銀イオンとカルボン酸部分を含む有機基とを含む有機銀塩である。カルボン酸塩は、好ましくは1~20個の炭素原子を含む。カルボン酸塩は、好ましくはC1-20アルカノアートである。カルボン酸銀は、好ましくはC1-20アルカン酸の銀塩である。カルボン酸銀のいくつかの非限定的な例は、ギ酸銀、酢酸銀、シュウ酸銀、プロピオン酸銀、ブタン酸銀、エチルヘキサン酸銀、ネオデカン酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀、クエン酸銀、グリコール酸銀、乳酸銀、安息香酸銀、安息香酸銀誘導体、トリフルオロ酢酸銀、フェニル酢酸銀、フェニル酢酸銀誘導体、ヘキサフルオロ-アセチルアセトナート銀、イソブチリル酢酸銀、ベンゾイル酢酸銀、プロピオニル酢酸銀、アセト酢酸銀、アルファ-メチルアセト酢酸銀、アルファ-エチルアセト酢酸銀およびそれらの混合物である。シュウ酸銀が特に好ましい。1種または複数種のカルボン酸銀がインク中に存在してもよい。カルボン酸銀は、好ましくはインク中に分散している。好ましくは、インクは、銀含有材料のフレークを含有しない。
【0022】
カルボン酸銀は、インクの総重量を基準として、任意の適切な量、好ましくは約5重量%~約75重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約5重量%~約60重量%、または約5重量%~約50重量%、または約10重量%~約75重量%、または約10重量%~約60重量%、または約10重量%~約45重量%、または約25重量%~約40重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約30重量%~約35重量%の範囲である。銀含有量に関して、銀自体は、好ましくは、インクの総重量を基準として約3重量%~約30重量%の範囲で存在する。より好ましくは、その量は、約6重量%~約30重量%、または約15重量%~約25重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約18重量%~約24重量%の範囲である。
【0023】
有機アミン化合物は、脂肪族および/または芳香族アミン、例えばC1-20アルキルアミンおよび/またはC6-20アリールアミンであり得る。有機アミン化合物は、1つ以上の他の官能基、好ましくは極性官能基で置換されていてもよい。他の官能基のいくつかの非限定的な例は、-OH、-SH、=O、-CHO、-COOHおよびハロゲン(例えば、F、Cl、Br)を含む。好ましくは、他の官能基は、-OHである。有機アミン化合物の特に好ましいクラスは、アミノアルコール、特にヒドロキシアルキルアミンである。ヒドロキシアルキルアミンは、好ましくは2~8個の炭素原子を含む。ヒドロキシアルキルアミンのいくつかの非限定的な例は、1,2-エタノールアミン、アミノ-2-プロパノール、1,3-プロパノールアミン、1,4-ブタノールアミン、2-(ブチルアミノ)エタノール、2-アミノ-1-ブタノール等である。アミノ-2-プロパノールが特に好ましい。1種または複数種の有機アミン化合物がインク中に存在してもよい。
【0024】
有機アミンは、インクの総重量を基準として、任意の適切な量、好ましくは約10重量%~約75重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約20重量%~約60重量%、または約25重量%~約55重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約40重量%~約50重量%の範囲である。
【0025】
カルボン酸銀および有機アミン化合物は、インク中で錯体を形成してもよい。錯体は、1:1~1:4、例えば1:1または1:2または1:3または1:4のカルボン酸銀対有機アミン化合物のモル比を含み得る。カルボン酸銀と有機アミンとの錯体およびそれらの間の相互作用は、分子インクとして他の成分と共に配合することができる銀金属前駆体を提供することができる。
【0026】
有機ポリマー結合剤は、任意の適切なポリマー、好ましくは熱可塑性ポリマーまたはエラストマーポリマーであってもよい。有機ポリマー結合剤は、好ましくは、有機アミン化合物と相溶性であり、それによって有機ポリマー結合剤中の有機アミン化合物の混合物は著しい相分離をもたらさない。いくつかの非限定的な例は、セルロース系ポリマー、ポリアクリラート、ポリスチレン、ポリオレフィン、ポリビニルアセタール、ポリエステル、ポリイミド、ポリオール、ポリウレタン、フルオロポリマー、フルオロエラストマーおよびそれらの混合物である。有機ポリマー結合剤は、ホモポリマーまたはコポリマーであってもよい。セルロース系ポリマーは、例えばメチルセルロース、エチルセルロース、エチルメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシエチルメチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、エチルヒドロキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロースまたはそれらの混合物が特に好ましい。ヒドロキシエチルセルロースが特に好ましい。
【0027】
有機ポリマー結合剤は、任意の適切な量で、好ましくはインクの総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約0.1重量%~約5重量%、または約0.2重量%~約2重量%、または約0.2重量%~約1重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約0.3重量%から約0.95重量%の範囲である。
【0028】
表面張力調整剤は、インクの流動性およびレベリング性を改善する任意の適切な添加剤であってもよい。いくつかの非限定的な例は、界面活性剤(例えばカチオン性、非イオン性またはアニオン性界面活性剤)、アルコール(例えばプロパノール)、グリコール酸、乳酸およびそれらの混合物である。乳酸が特に好ましい。表面張力調整剤がないと、インクから生成されたトレースの形状保持性は、特に湿気の多い環境では低く、その結果不均一なフィーチャ(feature)が生じる。
【0029】
表面張力調整剤は、任意の適切な量で、好ましくはインクの総重量を基準として約0.1重量%~約5重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約0.5重量%~約4重量%、または約0.8重量%~約3重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約1重量%から約2.7重量%の範囲である。
【0030】
溶媒は、水性溶媒または有機溶媒であってもよい。有機溶媒または有機溶媒の混合物が好ましい。場合によっては、1種または複数種の有機溶媒と水性溶媒との混合物を利用することができる。溶媒は、好ましくは、有機アミン化合物または有機ポリマー結合剤の一方または両方と相溶性である。溶媒は、好ましくは、有機アミン化合物および有機ポリマー結合剤の両方と相溶性である。有機アミン化合物および/または有機ポリマー結合剤は、好ましくは溶媒中に分散性、例えば可溶性である。有機溶媒は、芳香族溶媒、非芳香族溶媒または芳香族および非芳香族溶媒の混合物であってもよい。芳香族溶媒は、例えば、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、キシレン、クロロベンゼン、ベンジルエーテル、アニソール、ベンゾニトリル、ピリジン、ジエチルベンゼン、プロピルベンゼン、クメン、イソブチルベンゼン、p-シメン、テトラリン、トリメチルベンゼン(例えばメシチレン)、ジュレン、p-クメンまたはそれらの任意の混合物を含む。非芳香族溶媒は、例えば、テルペン、グリコールエーテル(例えばジプロピレングリコールメチルエーテル、メチルカルビトール、エチルカルビトール、ブチルカルビトール、トリエチレングリコールおよびそれらの誘導体)、アルコール(例えばメチルシクロヘキサノール、オクタノール、ヘプタノール、イソプロパノール)またはそれらの任意の混合物を含む。ジプロピレングリコールメチルエーテルが好ましい。
【0031】
溶媒は、インクの総重量を基準として、任意の適切な量、好ましくは約1重量%~約50重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約2重量%から約35重量%、または約5重量%から約25重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約10重量%から約20重量%の範囲である。溶媒は、一般に、インクの残りを構成する。
【0032】
インクはまた、消泡剤を含んでもよい。消泡剤は、任意の適切な消泡添加剤であってもよい。いくつかの非限定的な例は、フルオロシリコーン、鉱油、植物油、ポリシロキサン、エステルワックス、脂肪アルコール、グリセロール、ステアラート、シリコーン、ポリプロピレン系ポリエーテルおよびそれらの混合物である。グリセロールおよびポリプロピレン系ポリエーテルが特に好ましい。消泡剤が存在しない場合、いくつかの印刷されたトレースは、印刷後に気泡を保持する傾向があり、その結果トレースが不均一になることがある。
【0033】
消泡剤は、任意の適切な量、好ましくはインクの総重量を基準として約0.0001重量%~約1重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約0.001重量%~約0.1重量%、または約0.002重量%~約0.05重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約0.005重量%から約0.01重量%の範囲である。
【0034】
インクはまた、チキソトロピー調整剤を含んでもよい。チキソトロピー調整剤は、任意の適切なチキソトロピー調整添加剤であってもよい。いくつかの非限定的な例は、ポリヒドロキシカルボン酸アミド、ポリウレタン、アクリルポリマー、ラテックス、ポリビニルアルコール、スチレン/ブタジエン、粘土、粘土誘導体、スルホナート、グアー、キサンタン、セルロース、ローカストガム、アラビアゴム、サッカリド、サッカリド誘導体、カセイン、コラーゲン、変性ヒマシ油、有機シリコーンおよびそれらの混合物である。
【0035】
チキソトロピー調整剤は、任意の適切な量、好ましくはインクの総重量を基準として約0.05重量%~約1重量%の範囲でインク中に存在してもよい。より好ましくは、その量は、約0.1重量%から約0.8重量%の範囲である。特に好ましい一実施形態において、その量は、約0.2重量%~約0.5重量%の範囲である。
【0036】
インクの様々な成分の相対量および/または特定の組成は、インクの性能を最適化するのに重要な役割を果たし得る。成分の量および組成の好ましい実施形態は、インクから形成された導電性トレースの高い導電性を維持しながら、インクの焼結温度を調整して高温に対する頑強性が低い成形可能な基板に適応させる。
【0037】
インクは、基板上にインクの非導電性トレースを形成するための任意の適切な方法によって基板上に堆積させることができる。インクは、印刷、例えばスクリーン印刷、インクジェット印刷、フレキソ印刷、グラビア印刷、オフセット印刷、エアブラシ、エアロゾル印刷、植字、スタンプまたは他の任意の方法に特に適している。スクリーン印刷が特に好ましい。
【0038】
基板上に堆積した後、非導電性トレース内の銀塩を乾燥および分解することによって導電性トレースが形成される。乾燥および分解は、任意の適切な技術によって達成することができ、その技術および条件は、その上にトレースが堆積される基板の種類およびインク中の銀塩の種類によって導かれる。例えば、インクの乾燥および銀塩の分解は、強いパルスUV光を用いた加熱および/またはフォトニック焼結によって達成することができる。
【0039】
一技術では、基板を加熱することによりトレースを乾燥および焼結させて、導電性トレースを形成する。焼結は、銀塩を分解して、銀の導電性粒子(例えばナノ粒子)を形成する。比較的薄く高導電性の銀トレースを生成しながら、約80~140℃、特に約85~140℃、さらに特に約90~130℃の比較的低い温度範囲で加熱を行うことができることが有利である。より低い温度で焼結する能力はインクの利点であるが、必要に応じてより高い温度で、例えば150℃以上の温度または約250℃までの温度で加熱を行ってもよい。
【0040】
加熱は、好ましくは約1時間以内、より好ましくは約30分以内の時間、例えば約1~30分、または約2~20分、特に約5~20分の範囲内の時間行われる。加熱は、導電性トレースを形成するために基板上のトレースを焼結させるのに十分な温度と時間のバランスで行われる。例えば、幅が狭くて導電性の高いトレースは、120℃でわずか5分程度、または90℃で20~40分間焼結することによって形成することができる。加熱装置の種類も、焼結に必要な温度および時間に影響する。焼結は、酸化性雰囲気(例えば空気)または不活性雰囲気(例えば窒素および/もしくはアルゴンガス)下で基板を用いて行うことができるが、周囲雰囲気が好ましい。
【0041】
別の技術では、フォトニック焼結システムは、広帯域スペクトルの光を送達する高輝度ランプ(例えばパルスキセノンランプ)を特徴とし得る。ランプは、トレースに約5~20J/cm2のエネルギーを送達することができる。パルス幅は、好ましくは約0.58~1.5msの範囲内である。フォトニック焼結は、周囲条件下で(例えば空気中で)行うことができる。フォトニック焼結は、ポリエチレンテレフタラート、ポリカーボナートおよびポリイミド基板に特に適している。
【0042】
さらに他の技術では、焼結は、マイクロ波または近赤外(NIR)法を使用して行われてもよい。
【0043】
インクを基板上で乾燥および焼結することによって形成された導電性トレースは、任意の所望の厚さおよび幅のものであってもよい。比較的高い導電率(すなわち比較的低い抵抗率)を維持しながら、インクを乾燥および焼結して、比較的薄いおよび/または狭い導電性トレースを形成することができることが有利である。いくつかの実施形態において、導電性トレースは、約4ミクロン以下、またはさらには約1.5ミクロン以下、またはさらには約1ミクロン以下、例えば約0.3~1.5ミクロンまたは約0.4~1ミクロンの平均厚さを有することができる。いくつかの実施形態において、導電性トレースは、約30ミル以下、またはさらには約20ミル以下、例えば約2~20ミルの公称線幅を有することができる。シート抵抗値は、約30mΩ/□/ミル未満、またはさらには約20mΩ/□/ミル以下、例えば約5~20mΩ/□/ミルであってもよい。さらに、インクは、基板上に比較的低い線幅対間隔(L/S)値を有する導電性トレースを提供することができ、有利には電子回路の小型化に役立つ。例えば、L/S値は、約100/70μm未満、さらには約42/38μm程度まで低くてもよい。
【0044】
基板は、任意の適切な表面、特に印刷可能な表面であってもよい。表面は、中でも例えばポリエチレンテレフタラート(PET)(例えばMelinex(商標))、非晶質ポリエチレンテレフタラート(APET)、グリコール変性ポリエチレンテレフタラート(PET-G)、ポリエチレンナフタラート、ポリオレフィン(例えばシリカ充填ポリオレフィン(Teslin(商標))、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、ポリスチレン、ポリカーボナート、ポリイミド(例えばKapton(商標))、熱可塑性ポリウレタン(TPU)、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン、ポリスチレン、シリコーン膜、ウール、シルク、綿、亜麻、ジュート、モーダル、竹、ナイロン、ポリエステル、アクリル、アラミド、スパンデックス、ポリラクチド、ラテックス、布地(例えばセルロース系布地およびスレッド/ヤーン)、紙、ガラス、金属、誘電コーティング等を含み得る。
【0045】
ヤーンまたはスレッドは、任意の適切な材料から作製され得る。いくつかの非限定的な例は、中でも未処理の綿、ナイロン、ポリエステル、ラテックス、シルク、ウール、フリース、リネン、レーヨン、アクリル、竹、スパンデックスである。
【0046】
成形可能な基板が好ましい。インクを100℃未満の温度で乾燥および焼結して導電性トレースを形成することができるため、インクは現在市販されている成形可能な基板の範囲と適合する。成形可能な基板は、特定の成形条件下で可撓性(例えば屈曲可能、伸縮可能、ねじれ可能等)であり得る。いくつかの例では、成形可能な基板は、成形後に成形された形態を保持し得るが、他の例では、成形された基板を成形された形態で保持するために外力が必要となり得る。成形可能な基板は、任意の適切な手法、例えば熱成形、冷間成形、押出成形、ブロー成形等で成形基板に形成することができる。
【0047】
成形可能な基板が伸縮性である場合、導電性銀トレースは、導電性を維持しながら少なくとも約1.2、または少なくとも約0.8の歪みまで延伸され得る。例えば、導電性銀トレースは、導電性を維持しながら、約0.1から少なくとも約1.2の歪みまで延伸され得る。導電性を維持しながら導電性銀トレースを延伸させることができる歪み限界は、少なくとも部分的に基板に依存する。
【0048】
インクは、有利には、成形基板上に導電性銀トレースを製造するための独自の方法を提供する。インクを成形可能な基板上に堆積させ、次いで乾燥させて成形可能な基板上にカルボン酸銀を含有する非導電性トレースを形成することができる。次いで、非導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置するように、成形可能な基板を所望の形状に形成して成形基板を製造することができる。次いで、成形基板を焼結してカルボン酸銀を金属銀に分解することにより、成形基板の少なくとも成形部分上に導電性銀トレースが生成される。この方法において、基板が成形される際、トレースは非導電性であり、また有機ポリマー結合剤マトリックス中に分散されたカルボン酸銀またはカルボン酸銀/有機アミン錯体を含有する。例えば熱成形によって基板を所望の形状に形成すると、トレースに亀裂を生じることなく、カルボン酸銀またはカルボン酸銀/有機アミン錯体が有機ポリマー結合剤マトリックスと共に変形する。基板を成形した後にトレースを焼結させると、結果として生じる導電性銀ネットワークは、亀裂のないまたは亀裂が少ない状態で形成され、それによって高い導電性を維持する。
【0049】
対照的に、成形基板上に導電性銀トレースを製造する従来の方法は、基板上に銀系インクを印刷し、インクを硬化させて基板上のインクを乾燥および焼結し、それによって基板上に導電性銀トレースを製造し、続いて基板を所望の形状にすることを含む。インクが硬化すると、基板が成形される前に導電性ネットワークがすでに確立されている。したがって、成形プロセスが行われるにつれて、トレース中の銀粒子(例えばフレークまたはナノ粒子)が分離し(例えば基板の形状の変化によって引き離され)、トレース内に亀裂が形成され、それによって導電性が低下する。これは、基板を所望の形状に形成することに伴う、トレースの厚さの変化に起因し得る。延伸されたトレースはより長く、狭くそして細くなる。フレークベースのトレースは、典型的には、機械的にたわみおよび折り目に対して頑強になり、厚さが10μm未満になると導電性が低下する。対照的に、本発明の分子インクは、それらが非常に薄い(例えば1μm未満)という事実にもかかわらず、たわみおよび折り目を付けた後も機械的に頑強であり、高導電性を維持する。
【0050】
成形可能な基板上にインクを堆積させ、インクを乾燥させ、次いで、例えば熱を用いることによってインクを導電性銀トレースに変換することも可能である。次に、導電性トレースの少なくとも一部が成形基板の成形部分上に位置するように、成形可能基板を所望の形状に形成して成形基板を製造することができる。基板が成形される際、銀トレースは導電性を維持する。
【0051】
基板上に堆積された導電性トレースは、電子デバイス、例えば電気回路、導電性バスバー(例えば太陽電池用)、センサ(例えばタッチセンサ、ウェアラブルセンサ)、アンテナ(例えばRFIDアンテナ)、薄膜トランジスタ、ダイオード、スマートパッケージング(例えばスマートドラッグパッケージング)、機器および/または車両における適合性インサート、ならびに高温に耐えることができる適合性表面上のローパスフィルタ、周波数選択表面、トランジスタおよびアンテナを含む多層回路およびMIMデバイスに組み込むことができる。インクは、そのような電子デバイスの小型化を可能にする。
【0052】
例
例1:分子インク配合
低温で処理することができる分子インクを、表1~6に示す組成に従って配合した。改善されたより信頼性のある印刷適性(すなわち、濡れ性および線均一性の改善)を伴う、低温で処理することができる分子インクを、表4に示す組成に従って配合した。
【0053】
インクは配合後すぐに使用するのが好ましいが、顕著な分解なしに約-4℃~約4℃の範囲内の温度で長期間貯蔵することができる。さらに、インクをスクリーンから回収することができ、またそれが上述の温度範囲内で貯蔵される場合、さらなる印刷のために再使用することができる。
【0054】
表1.スクリーン印刷可能分子インクNRC-848A3aの組成
【表1】
【0055】
表2.スクリーン印刷可能分子インクNRC-849A1の組成
【表2】
【0056】
表3.スクリーン印刷可能分子インクNRC-850Aの組成
【表3】
【0057】
表4.スクリーン印刷可能分子インクNRC-850A1の組成
【表4】
【0058】
表5.スクリーン印刷可能分子インクNRC-850A2の組成
【表5】
【0059】
表6.スクリーン印刷可能分子インクNRC-850A3の組成
【表6】
【0060】
表7.スクリーン印刷可能分子インクNRC-850A4の組成
【表7】
【0061】
例2:低温インクをスクリーン印刷して100μm以下のトレースを製造
1枚のMelinex(商標)ST505上に、インクNRC-848A3aをスクリーン印刷し(ステンレス鋼、メッシュカウント/インチ=400、エマルジョン厚=22.5μm)、75℃で6分間および120℃で20分間熱処理して、
図1Aに示すように基板上に約42μmの線幅および約38μmの線間隔を有する、ならびに
図1Bに示すように約85μmの線幅および約60μmの線間隔を有する4本の平行な導電性銀トレースのいくつかのシリーズを製造した。線幅および線間隔(L/S)として定義されるピッチは、それぞれ42/38および85/65μmであると測定された。光学的表面形状測定によって測定されたトレースおよび対応する断面の三次元表面形状測定器画像を、
図1Aおよび
図1Bに提供する。
【0062】
例3:低ガラス転移温度基板と適合する温度で処理された低温インクの電気特性
2つのインク(NRC-849A1およびNRC-850A)を、例2に記載の様式で、Melinex(登録商標)ST505基板の5つの別々の試料にスクリーン印刷した。各基板上のトレースを5つの異なる温度(91℃、102℃、111℃、121℃および131℃)で20分間熱処理して、各基板上に導電性銀トレースを形成した。NRC-849A1およびNRC-850Aから製造された導電性銀トレースのシート抵抗値を計算し、結果をそれぞれ
図2Aおよび
図2Bに示す。結果は、約90℃という低い熱処理温度で、約40mΩ/□/ミル未満のシート抵抗値を得ることができることを示している。良好から優秀な電気特性を維持しながら約90℃という低い温度でインクを熱処理することができることは、インクを使用して熱成形可能な基板上に導電性銀トレースを製造するのに役立つ。導電性トレースは81°Cという低い温度でも製造され得るが、シート抵抗値は非常に高い(約650mΩ/□/ミル)。
【0063】
表8に見られるように、インク(NRC-850A)をスクリーン印刷し、120℃で熱処理して、約20mΩ/□/ミル未満のシート抵抗率を維持しながら、2.8ミル(71μm)程度の細い測定線幅および約0.9μm以下の線厚を有する導電性銀トレースを製造することができる。特に、測定された5.5ミル(141μm)~18.9ミル(408μm)のトレースは、約10mΩ/□/ミルのシート抵抗値を有する。
【0064】
表8.Melinex(登録商標)ST505上にNRC-850Aから印刷され、75℃で5分間、続いて120℃で20分間焼結された長さ10cmの線に対して測定された線幅、トレース厚および得られたシート抵抗率。
【表8】
【0065】
例4:高湿度環境におけるインクの印刷適性
インクNRC-849A1およびNRC-850A1を、例2に記載の様式で、高湿度環境(湿度>50%)でMelinex(商標)ST505基板上にスクリーン印刷した。各基板上のトレースを121℃で20分間熱処理し、導電性銀トレースを形成した(それぞれ
図3および
図4)。チキソトロープ剤が存在しない場合(NRC-849A1、
図3)、インクは表面から著しく流れ落ち、不均一で途切れたトレースを生じる。対照的に、チキソトロープ剤(NRC-850A1、
図4)を添加すると、トレースは基板表面から流れ落ちずに均一に保たれる。
【0066】
例5:インクの固化を伴わない冷蔵
アミノ-2-プロパノールおよび2-アミノ-1-ブタノールの両方を含有する配合物(NRC-850A4)は、アミノ-2-プロパノールのみを含有するNRC-850A2およびNRC-850A3と同様の電気特性を維持しながら、インクを固化させることなく-10~-4℃での貯蔵を可能にする。NRC-850A2およびNRC-850A3は冷蔵中に固化するが、室温に温めると時間の経過とともにインクの液体状態が再生されることに留意されたい。
【0067】
例6:PET-G基板上での熱成形-形成、次いで焼結
スクリーン印刷により、インクNRC-850A2をポリエチレンテレフタラートグリコール変性(PET-G)(508μm、厚さ20ミル)のシート上にスクリーン印刷して、約100μm~約590μmの範囲の線幅を有する長さ10cmの様々なトレースを製造した。印刷後、非導電性トレースを乾燥させ、台形、半円筒形および半球形のフィーチャを含む様々な形状の周りに熱成形した。続いて、熱成形トレースをフォトニック焼結して(Xenon Sinteron 2000システム)、導電性トレースを製造することができる。熱成形トレースの代表的な写真を
図5に提供し、導電性フィーチャについてトレースを横切って測定された対応する抵抗を表9に提供するが、熱成形中であるが焼結の前に非導電性インクが変形した場所で亀裂を生じずに銀金属の連続トレースが形成されることを実証している。表9は、対照トレース(すなわち熱成形されていないもの)を横切って測定された抵抗が、熱成形されたものとほぼ同一であることを強調しており、トレースの電気特性は熱成形プロセスによって影響されないことを示唆している。場合によっては、熱成形トレースを横切って測定された抵抗は、実際には対照トレースの抵抗よりも低い。これは、熱成形されたトレースの一部が対照試料よりも高く、それによってそれらの部分がランプにより近くなり、より強いパルス光に曝露されることに起因し得る。
【0068】
表9.印刷され、乾燥され、熱成形され、続いて15および20J/cm
2のエネルギーを有するパルス光を用いて導電性トレースに変換される、NRC-850A2から製造された20ミルのトレースの熱成形に伴う抵抗の変化。いずれの場合も、対照線は、熱成形せずに同じ工程に曝露された。
【表9】
【0069】
例7:PET-G基板上での熱成形-焼結、次いで形成
インクNRC-850A3をPET-Gのシート上にスクリーン印刷して、約100μm~約550μmの範囲の測定線幅を有する長さ10cmの様々なトレースを製造した。印刷後、トレースを75℃で6分間および125℃で15分間熱焼結して、一連の導電性トレースを製造した。その後、トレースを半円筒形およびドームを含む様々な形状の周りに熱成形した。代表的な熱成形トレースを
図6に提供し、対照トレースと比較した熱成形トレースの対応する抵抗を表10に提供する。トレースの抵抗は熱成形後に増加するが(伸びの量に応じて1.6~4.5倍の間)、分子インクから製造された熱成形トレースは導電性を維持する。
【0070】
表10.NRC-850A3からPET-G上に印刷し、125℃で15分間熱焼結した分子インクトレースへの、半円筒形およびドーム形状の熱成形に伴う抵抗の変化。それぞれの場合において、トレースが受ける平均延伸もまた含まれている。
【表10】
【0071】
例8:分子インクから誘導された直線状導電性トレースの延伸
インクNRC-850Aおよび市販のインクDupont PE873(伸縮性エレクトロニクス用に配合)を2枚の熱可塑性ポリウレタン基板(BemisソフトシームテープST604、およびAmerican Polyfilm、Inc VLM-4001)上にスクリーン印刷した。印刷前に、VLM-4001ポリウレタン基板を反応性オゾンで処理した。印刷されたトレースは直線状であり、150℃で15分間熱焼結され、幅20ミル、長さ4cmであった。試料に歪みを印加し、歪みの下で抵抗の変化を測定した。
図7Aは、American Polyfilm VLM-4001上の2つのインクに対する印加歪みの関数としての正規化抵抗(R/R
0、式中R
0は歪みゼロ下での試料の抵抗を表す)を示す。
図7Bは、BemisソフトシームテープST604上の2つのインクに対する印加歪みの関数としての正規化抵抗を示す。両方の基板上で、インクNRC-850Aは、Dupont PE873よりも低い、印加歪みの関数としての正規化抵抗を示す。さらに、NRC-850AはDupont PE873インクより高い歪み下でも導電性を維持する。
【0072】
例9:分子インクから誘導された曲折導電性トレースの延伸
別の例において、ポリウレタン基板American Polyfilm VLM-4001をオゾン処理した。インクNRC-850Aを2つの条件下でポリウレタン基板上に印刷した。一方の場合では、基板は歪みを受けていなかった。第2の場合では、基板は、一方向に10%予め歪められていた(すなわち、印刷時に基板は10%延伸された)。印刷パターンは、電気接点パッド間に幅20ミル、長さ4cmの直線状および蛇行状のトレースを含んでいた。
図8Aは、270°の円の繰り返し単位で構成される蛇行線を示す。
図8Bに示すように、直線状および蛇行状のトレースの正規化された抵抗を、印加された歪みの関数として測定した。予め歪められたポリウレタン上に印刷された銀の蛇行トレースは、120%を超える歪みが印加されるまで導電性を維持し、120%歪みにおける抵抗は、歪みがない場合の抵抗の150倍であった。表11は、40%の印加歪みにおける4つの条件(蛇行状トレース、直線状トレース、予め歪められた、および予め歪められていない)全てについての正規化抵抗を比較している。
【0073】
表11.印刷時に予め歪められていない、および10%の歪み下で調製された蛇行線および直線の正規化抵抗。正規化抵抗は、40%の印加歪みで測定される。
【表11】
【0074】
例10:導電性スレッドの開発
スレッドに電気特性を付与するために、未処理の綿、ナイロンおよびポリエステルのスレッドをインク(NRC-850A3)に1~60分間浸漬した。余分なインクは、親指と指との間で絞って上方に引っ張ることで、スレッドから除去される。得られたシュウ酸銀分子インク浸漬スレッドを、続いて金属フレームに留められたクリップに固定し、炉に入れ、120~150℃で20分間加熱する。導電性スレッドを製造する際のコーティングの進行の有効性は、スレッドの抵抗を測定することによって監視した(表12)。実用的な用途では、スレッドを使用して(Adafruit Gemmaウェアラブル電子プラットフォームによって駆動される)LEDを帯状の布に組み込むことができる。
図9Aおよび
図9Bに示されるように、各LEDについて、ナイロンのスレッドによってLEDの+ve側に電力が供給される。綿のスレッドを使用してアース端子を左上のLEDの-ve端子に取り付け、ポリエステルのスレッドを使用してアース端子を右下のLEDの-ve端子に取り付けた。これは、改質された導電性スレッドが頑強であり、布を通して引っ張られ、LEDとGemmaウェアラブルプラットフォームのアイレットの周りに縫い付けられているにもかかわらず機能を維持していることを示している(
図9AおよびB)。
【0075】
表12.1分間のシュウ酸銀分子インクへの浸漬および20分間の150℃での加熱の3サイクル後のポリエステル、綿およびナイロン、ならびにポリエステルスレッドの測定抵抗。
【表12】
【0076】
新規な特徴は、説明を検討すれば当業者に明らかとなるであろう。しかしながら、特許請求の範囲は実施形態によって限定されるべきではなく、特許請求の範囲の文言および明細書全体と一致する最も広い解釈が与えられるべきであることを理解されたい。