(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】地質構造の温度及び間隙率の計算方法
(51)【国際特許分類】
G01V 1/48 20060101AFI20230511BHJP
【FI】
G01V1/48
(21)【出願番号】P 2019565881
(86)(22)【出願日】2018-06-01
(86)【国際出願番号】 NO2018050145
(87)【国際公開番号】W WO2018222054
(87)【国際公開日】2018-12-06
【審査請求日】2021-05-10
(32)【優先日】2017-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】515339653
【氏名又は名称】エクイノール・エナジー・アーエス
【氏名又は名称原語表記】EQUINOR ENERGY AS
【住所又は居所原語表記】Torusbeen 50,4035 Stavanger,Norway
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100221729
【氏名又は名称】中尾 圭介
(72)【発明者】
【氏名】ホクスタド、ケティル
【審査官】森口 正治
(56)【参考文献】
【文献】特表2010-530976(JP,A)
【文献】国際公開第2017/074884(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01V 1/00-99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地質構造の温度及び/又は間隙率を計算する方法であって、前記地質構造の少なくとも2つのジオフィジカルパラメータが提供され、前記方法が、
前記地質構造の前記温度及び/又は前記間隙率を推定するために、前記少なくとも2つのジオフィジカルパラメータのインバーティングを行うことと、
地熱井の掘削に関する意思決定プロセスにおいて、計算された前記温度及び/又は計算された前記間隙率を使用することと、
を含み、
前記インバーティングが、前記少なくとも2つのジオフィジカルパラメータ間の統計的独立性、並びに各それぞれのジオフィジカルパラメータと前記地質構造の前記温度及び/又は前記間隙率との間の統計的依存性が存在する1つ又は複数のモデルを使用することを含
み、
前記少なくとも2つのジオフィジカルパラメータは、磁化率および残留磁気の少なくとも1つを含む、
方法。
【請求項2】
前記地熱井の前記掘削に関する前記意思決定プロセスにおいて、計算された前記温度及び計算された前記間隙率の両方を使用することを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記少なくとも2つのジオフィジカルパラメータが、密度、地震速度
、電気伝導率、
又は電気抵抗率
のいずれかの前記温度及び/又は前記間隙率に依存す
るジオフィジカルパラメータ
を含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記少なくとも2つのジオフィジカルパラメータが、電気伝導率を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記インバーティングが、各それぞれのジオフィジカルパラメータのそれぞれの順モデルを使用することを含み、前記それぞれの順モデルの各々が、前記それぞれのジオフィジカルパラメータと前記地質構造の前記温度及び/又は前記間隙率との間の関係を定義する、請求項1~4のいずれか一項に記載の方法。
【請求項6】
前記それぞれの順モデルの各々における唯一の変数が、前記地質構造の前記温度及び/又は前記間隙率である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記少なくとも2つのジオフィジカルパラメータの各々の少なくとも1つの測定と、前記地質構造の前記温度及び/又は前記間隙率とを含む較正データが提供され、並びに前記方法が、前記較正データに基づいて、前記それぞれの順モデルを最適化することを含む、請求項5又は6に記載の方法。
【請求項8】
前記地質構造の少なくとも2種類のジオフィジカルデータが提供され、前記方法が、前記少なくとも2つのそれぞれのジオフィジカルパラメータを計算するために、前記少なくとも2種類のジオフィジカルデータの前記インバーティングをそれぞれ行うことを含む、請求項1~7のいずれか一項に記載の方法。
【請求項9】
前記ジオフィジカルデータを取得することを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記方法が、前記地質構造の前記温度を計算するためのものであり、及び前記間隙率が、前記インバーティングにおけるパラメータとして含められる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項11】
前記方法が、前記地質構造の前記間隙率を計算するためのものであり、及び前記温度が、前記インバーティングにおけるパラメータとして含められる、請求項1~9のいずれか一項に記載の方法。
【請求項12】
地質構造の温度及び/又は間隙率の空間的に依存する関数を計算する方法であって、前記地質構造上の複数の点に関して、前記複数の点の各々で、前記温度及び/又は前記間隙率を計算するために、請求項1~11のいずれか一項に記載の方法を点毎に行うことと、前記温度及び/又は前記間隙率の空間的に依存する関数を構築することとを含む、方法。
【請求項13】
前記温度及び/又は前記間隙率が、3次元で求められる、請求項1~12のいずれか一項に記載の方法。
【請求項14】
前記地熱井を掘削することをさらに含む、請求項1~13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
掘削中又は掘削後に新しいジオフィジカルデータを獲得することと、
前記新しいジオフィジカルデータのインバーティングを行うことによって、対応する前記新しいジオフィジカルパラメータを求めることと、
前記新しいジオフィジカルパラメータのインバーティングを行うことによって、前記温度及び/又は前記間隙率の更新された推定を提供することと、
を含む、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
請求項1~15のいずれか一項に記載の方法と、前記地熱井から地熱エネルギーを生成することとを含む、地熱エネルギーを利用する方法。
【請求項17】
コンピュータ上で実行されると、プロセッサに請求項1~16のいずれか一項に記載の方法を行わせるように構成されたコンピュータ可読命令を含む、コンピュータプログラムを記録したコンピュータ読み取り可能な記録媒体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、地質構造の温度及び/又は間隙率の計算方法と、地熱エネルギーの探査方法と、地熱エネルギーの利用方法とを提供する。
【背景技術】
【0002】
地球内部の温度及び間隙率の予測又は知識は、地熱エネルギー産業にとって非常に重要である。地熱エネルギーを利用するための坑井の掘削は、費用がかかり、且つ時間がかかるものであり、従って、掘削に先立って、掘削するのに最良の場所がどこであるか、どの方向が掘削するのに最良であるか、及びどの深さまで掘削するのかを推定することが重要である。温度及び間隙率の知識は、どこで坑井を掘削すべきかを決める際に有用となり得る。
【0003】
先行技術では、地質層の温度又は間隙率は、1つのジオフィジカルパラメータの単一ドメインインバージョンを用いて求められてきた。しかし、これらの単一ドメインインバージョンは、地表下の温度又は間隙率の量的推定を提供しない。従って、地質構造における温度又は間隙率を推定する改良方法のニーズが存在する。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Mavko,G.,Mukerji,T.,and Dvorkin,J.,2009.The Rock Physics Handbook,2nd Edition,Cambridge Univ. Press
【文献】Usher,G.,Harvey,C.,Johnstone,R.,and Anderson,E.,2000. Understanding the Resistivities Observed in Geothermal Systems:In:Proceedings of the World Geothermal Congress,Kyushu-Tohoku,Japan,May 28-June10
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ある態様では、本発明は、地質構造の温度及び/又は間隙率の計算方法であって、地質構造の少なくとも2つのジオフィジカルパラメータが提供され、地質構造の温度及び/又は間隙率を推定するために少なくとも2つのジオフィジカルパラメータのインバーティングを行うことと、地熱井の掘削の意思決定プロセスにおいて、計算された温度及び/又は間隙率を使用することとを含む方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、地質構造の温度及び/又は間隙率が、電気抵抗率(若しくは伝導率)、密度、地震波速度(地震p波及び/若しくはs波速度でもよい)、又は磁化率などの地質構造の少なくとも2つのジオフィジカルパラメータのインバーティングを行うことによって求められることを発見した。この方法は、地質構造全体にわたる温度及び/又は間隙率を求めるために、地質構造の詳細なサンプリングを必要としないので、有利である。より正確に言えば、ジオフィジカルパラメータ値は、地質構造全体にわたり、表面測定及び表面観測によって取得することができるので、本発明の方法は、表面測定及び表面観測を用いて温度及び/又は間隙率が計算されることを可能にする。
【0007】
インバーティング、又はインバージョンは、当該分野において、よく知られている用語である。これは、少なくとも1つの観測/測定されたパラメータから、パラメータの原因(又はパラメータの複数の原因の少なくとも1つ)を計算するプロセスを表す。従って、この場合、物理的に言えば、温度及び/又は間隙率が、ジオフィジカルパラメータに影響を与える。しかし、測定されるのはジオフィジカルパラメータであり、温度及び/又は間隙率ではない。従って、ジオフィジカルパラメータから温度及び/又は間隙率を計算することは、インバーティングと呼ばれ得る。インバージョンは、後述される順モデルなどの2つ以上のモデル(岩石物理学モデルなど)を使用する計算と見なされ得る。2つ以上のモデルはそれぞれ、2つ以上のジオフィジカルパラメータを温度及び/又は間隙率に直接関連付けることにより、2つ以上のジオフィジカルパラメータから直接温度及び/又は間隙率値を計算する。
【0008】
本方法は、地熱井の掘削に関する意思決定プロセスにおいて、計算された温度及び計算された間隙率の両方を使用することを含み得る。
【0009】
本方法では、温度及び/又は間隙率は、ジオフィジカルパラメータのインバージョンから直接出力され得る。これは、インバージョン計算が、後に温度及び/又は間隙率がそれから求められ得る中間パラメータ(放射起源熱産生、基礎熱流量、又は温度及び/若しくは間隙率を除くその他のパラメータなど)を出力しないことを意味し得る。これは、本方法で使用される各順モデルが、それぞれのジオフィジカルパラメータを温度及び/又は間隙率に直接関連付けることを意味し得る。
【0010】
本明細書全体を通して、「計算すること」及び「推定すること」などの用語が使用される。これらは、限定的であることを目的とするものではなく、より正確に言えば、これらは、温度及び/又は間隙率などの実際の物理値(又は物理値の少なくとも(近い)近似若しくは推定)の値を決定すること、又は取得することを意味することが意図されたものに過ぎない。
【0011】
ジオフィジカルパラメータは、地質構造のどのような特性でもよい。特に、ジオフィジカルパラメータは、地質構造の各特性を表す値でもよい。特に、ジオフィジカルパラメータは、地質構造の温度及び/又は間隙率によって影響を受けるどのような特性も表し得る。
【0012】
少なくとも2つのジオフィジカルパラメータは、密度、磁化率、地震速度(地震p波速度及び/若しくはs波速度など)、電気伝導率、電気抵抗率、又は残留磁気の内の2つ以上でもよい。磁化率、電気伝導率、電気抵抗率、残留磁気、密度、地震速度、地震p波速度、又は地震s波速度(又は温度及び/若しくは間隙率が依存するその他のジオフィジカルパラメータ)のどの組み合わせが使用されてもよい。一例では、電気伝導率(又は抵抗率)及び密度が使用され得る。
【0013】
温度(及び/又は場合によっては間隙率)を計算する際に、電気伝導率(又は抵抗率)は、温度の変化に対して最も直接的に変動するジオフィジカルパラメータが電気伝導率(又は抵抗率)である可能性があるので、インバージョンに含められる最も重要なパラメータとなり得る。もちろん、それが含められる必要はないが、含められることがより望ましい。従って、インバージョン(下記を参照)によって、電気伝導率(又は抵抗率)をそれから求めることができる電磁データ(マグネトテルリックデータなど)が、獲得していることが最も重要なジオフィジカルデータとなり得る。
【0014】
インバーティングのステップは、少なくとも2つのジオフィジカルパラメータと、地質構造の温度及び/又は間隙率との間のそれぞれの関係を定義する各順モデルを選択することを含み得る。少なくとも2つのジオフィジカルパラメータと温度との間の関係を定義する各順モデルが存在し得る。少なくとも2つのジオフィジカルパラメータと間隙率との間の関係を定義する各順モデルが存在し得る。
【0015】
各ジオフィジカルパラメータと温度との間の関係を定義する各順モデルは、各ジオフィジカルパラメータと間隙率との間の関係を定義する各順モデルと異なっていてもよい。代替的に、各ジオフィジカルパラメータと温度との間の関係を定義する各順モデルは、各ジオフィジカルパラメータと間隙率との間の関係を定義する各順モデルと同じであってもよい。
【0016】
インバージョン計算において、順モデルは、既知の/測定されたパラメータ(この場合、ジオフィジカルパラメータ)と未知の量(この場合、温度及び/又は間隙率)との間の関係である。
【0017】
各順モデルは、問題のジオフィジカルパラメータを温度及び/又は間隙率に関連付ける予想傾向に基づいて選択され得る。例えば、ジオフィジカルパラメータは、一般に、温度及び/又は間隙率が高くなるにつれて、増加又は減少(ジオフィジカルパラメータに応じて)し得る。
【0018】
ジオフィジカルパラメータが密度又は電気抵抗率である場合には、ジオフィジカルパラメータは、温度及び/又は間隙率が高くなるにつれて、減少し得る。ジオフィジカルパラメータが磁化率である場合には、ジオフィジカルパラメータは、キュリー温度未満で温度が高くなるにつれて増加し、及びキュリー温度を超えて温度が高くなるにつれて減少し得る(キュリー・ワイスの法則による)。ジオフィジカルパラメータが磁化率である場合には、ジオフィジカルパラメータは、間隙率が高くなるにつれて増加し得る。
【0019】
使用された特定の順モデルは、本発明にとって必須のものではなく、このような順モデルの幾つかが、当該分野において知られており、且つ当業者は、どのモデルが使用され得るかを分かっているだろう。実際、順モデルが、各ジオフィジカルパラメータと温度及び/又は間隙率との間の一般的傾向をモデル化することができる限り、異なる順モデルを使用して同様の結果を達成してもよい。
【0020】
ジオフィジカルパラメータが温度及び/又は間隙率が高くなるにつれて減少する場合には、モデルは、減衰関数、例えば、アレニウスの式(これは、例えば乾燥玄武岩の電気伝導率及び/又は抵抗率を表すために使用され得る)などの減衰指数関数でもよい。ジオフィジカルパラメータが温度及び/又は間隙率が高くなるにつれて増加する場合には、モデルは、シグモイド関数(例えば、誘導磁化若しくはキュリー温度未満の磁化率)、又は指数関数、又は線形関数でもよい。
【0021】
従って、上記から理解できるように、的確な順モデルが、岩石物理学関係性の知識に基づいて当業者によって選択され得る。
【0022】
ある可能な例として、温度を玄武岩質岩の伝導率に関連付ける順モデルは、例えば、アレニウスの式の場合のように、伝導率の対数対逆温度(例えば、ln(σ)∝1/T)でもよい。
【0023】
伝導率は、例えばWaxman-Smits式を使用してモデル化され得る(非特許文献1)。
【0024】
好ましくは、温度と各ジオフィジカルパラメータとの間の各モデル関係は、その他のジオフィジカルパラメータなどのその他の変数に依存しない。好ましくは、間隙率と各ジオフィジカルパラメータとの間の各モデル関係は、その他のジオフィジカルパラメータなどのその他の変数に依存しない。好ましくは、温度及び間隙率と、各ジオフィジカルパラメータとの間の各モデル関係は、その他のジオフィジカルパラメータなどのその他の変数に依存しない。もちろん、他の定係数が存在し得るが、好ましくは、1つのみの変数が存在する。後述されるように、定係数は、データを用いた較正によって求められ得る。
【0025】
これらのモデルは、システムの完全な複雑さを示さない場合があること、すなわち、ジオフィジカルパラメータが温度及び/又は間隙率のみに依存するように各モデルが意図的に簡略化され得ることが理解されるものとする。実際には、ジオフィジカルパラメータは、一般に多くの変数に依存する。しかし、本方法で使用されるモデルでは、ジオフィジカルパラメータは、興味のある変数(この場合、それは、温度及び/又は間隙率である)のみに依存し得る。
【0026】
少なくとも2つのジオフィジカルパラメータの各々の少なくとも1つの測定と、地質構造の温度及び/又は間隙率とを含む較正データが提供され得る。このデータは、例えば、地質構造のサンプルから得られ得る。この方法は、較正データを取得することをさらに含み得る。較正データは、好ましくは、少なくとも2つのジオフィジカルパラメータのそれぞれの複数の測定と、地質構造の温度及び/又は間隙率とを包含し得る。
【0027】
この方法は、較正データに基づいて、順モデルを最適化することを含み得る。この最適化は、較正データを使用して、順モデルにおける定係数の最適値を求めることを含み得る。典型的には、較正データの量が多いほど、最適化が良くなる。
【0028】
各順モデルを最適化するために、各順モデル(所与の温度及び/又は間隙率からジオフィジカルパラメータを計算する)が、提供されたジオフィジカルパラメータに対して、ある誤差分布を有する(すなわち、提供/観測されたジオフィジカルパラメータと、各順モデルによって計算されたジオフィジカルパラメータとの間の差が、誤差分布をもたらす)と仮定され得る。好ましくは、誤差分布は、好ましくはゼロ平均を有するガウス誤差分布であると仮定される。各順モデルは、可能な限りゼロに近くなる誤差分布の平均を有すること、及び可能な限り小さな誤差分布の分散を有することなどによって、誤差分布が可能な限り小さくなるように誤差分布を減少させることによって最適化され得る。最適化は、順モデルを最適化する順モデルにおける定係数の値を求めることによって達成され得る。
【0029】
次いで、最適化された順モデルをインバージョンにおいて使用して、より正確なインバージョンを生じさせることができる。
【0030】
順モデルをインバージョンにおいて使用することによって、温度及び/又は間隙率のある特定の値を所与として、ジオフィジカルパラメータの確率分布(及び/又は平均値及び/又は分散値(直接的に))を計算することができる(温度の場合、下記の式(12)を参照)。この確率分布関数を使用して、ジオフィジカルパラメータの特定の値を所与として、温度及び/又は間隙率の確率分布(及び/又は平均値及び/又は分散値(直接的に))を計算することができる(温度の場合、下記の式(5)~(7)を参照)。
【0031】
上述の通り、少なくとも2つのジオフィジカルパラメータを使用することは、温度及び/又は間隙率へのジオフィジカルパラメータのインバージョンを大きく制約し得る。たった1つのジオフィジカルパラメータを使用して温度及び/又は間隙率を推定することは、計算された温度及び/又は間隙率に大きな誤差及び不確実性を残し得る。しかし、本発明者らは、同じ温度及び/又は間隙率を計算するために同じインバージョンにおいて他のジオフィジカルパラメータが使用される場合に、不確実性が劇的に減少し得ることを発見した。実際、より多くのジオフィジカルパラメータが使用されるほど、計算された温度及び/又は間隙率がより正確になり得る。従って、少なくとも3つ、4つ、又は5つのジオフィジカルパラメータが、インバージョンにおいて使用され得る。使用されるジオフィジカルパラメータは、1つのみ、2つ、3つ、4つ、又は5つでもよい。
【0032】
温度を計算する際に、インバーティングのステップは、少なくとも2つ(又は3つ、4つ、5つなど)のジオフィジカルパラメータ間の統計的(条件付き)独立性、及び各それぞれのジオフィジカルパラメータと地質構造の温度との間の統計的依存性が存在するモデルを使用することを含み得る。
【0033】
間隙率を計算する際に、インバーティングのステップは、少なくとも2つ(又は3つ、4つ、5つなど)のジオフィジカルパラメータ間の統計的(条件付き)独立性、及び各それぞれのジオフィジカルパラメータと地質構造の間隙率との間の統計的依存性が存在するモデルを使用することを含み得る。
【0034】
温度及び間隙率を計算する際に、インバーティングのステップは、少なくとも2つ(又は3つ、4つ、5つなど)のジオフィジカルパラメータ間の統計的(条件付き)独立性、並びに各それぞれのジオフィジカルパラメータと地質構造の温度及び間隙率との間の統計的依存性が存在するモデルを使用することを含み得る。
【0035】
本明細書における「モデル」とは、単に、それぞれのジオフィジカルパラメータを温度及び/又は間隙率に関連付ける順モデルなどのインバージョンにおいて使用される数学的関係を意味し得る。
【0036】
異なるジオフィジカルパラメータに対する温度及び/又は間隙率の統計的依存性と、互いに対する異なるジオフィジカルパラメータの統計的(条件付き)独立性とは、本発明者らが発見した重要な概念である。インバージョン問題をこのようにモデル化することによって、ジオフィジカルパラメータと、温度及び/又は間隙率とが、複数のジオフィジカルパラメータの使用が温度及び/又は間隙率に関して求められる値を制約し、その結果、温度及び/又は間隙率における誤差/不確実性を減少させるネットワークと見なされることが可能となる。
【0037】
この仮定を使用して、且つこのようなモデルを使用して、ジオフィジカルパラメータと、温度及び/又は間隙率との間の関係は、
図1などの有向非巡回グラフ(DAG)に示され得るベイジアンネットワークで表すことができる。従って、このインバージョンは、インバージョン問題のベイズの定式化でもよい。インバージョンは、ベイズの統計環境で行われ得る。ジオフィジカルパラメータから温度及び/又は間隙率へのインバージョンは、単一ドメインインバージョンでなくてもよい。
【0038】
別の表現をすれば、インバージョンにおいて使用される数学的関係は、温度及び/又は間隙率の確率が各それぞれのジオフィジカルパラメータを個別に条件とし、且つジオフィジカルパラメータ間に条件付き確率が存在しないという仮定に基づいて選択され得る。
【0039】
上述のようにベイズ環境でインバージョンを行うことによって、計算された温度及び/又は間隙率値における不確実性の正確な推定を求めることが可能となる。従って、本方法は、計算された温度及び/又は間隙率における不確実性を求めることを含み得る。
【0040】
インバーティングのステップは、各それぞれのジオフィジカルパラメータの順モデルを選択することを含み得る。順モデルは、それぞれのジオフィジカルパラメータと地質構造の温度との間のそれぞれの関係を定義し得る。順モデルは、それぞれのジオフィジカルパラメータと地質構造の間隙率との間のそれぞれの関係を定義し得る。順モデルは、それぞれのジオフィジカルパラメータと地質構造の間隙率及び温度との間のそれぞれの関係を定義し得る。
【0041】
各ジオフィジカルパラメータに対して、各ジオフィジカルパラメータを温度に関連付けた異なる順モデルが使用され得る。各ジオフィジカルパラメータに対して、各ジオフィジカルパラメータを間隙率に関連付けた異なる順モデルが使用され得る。各ジオフィジカルパラメータに対して、各ジオフィジカルパラメータを温度及び間隙率に関連付けた異なる順モデルが使用され得る。
【0042】
地質構造の少なくとも2種類のジオフィジカルデータが提供されてもよく、本方法は、少なくとも2つのそれぞれのジオフィジカルパラメータを計算するために、少なくとも2種類のジオフィジカルデータのインバージョンを行うことを含む。
【0043】
ジオフィジカルパラメータが、密度、地震速度(地震p波若しくはs波速度など)、磁化率、電気伝導率(若しくは電気抵抗率)、又は残留磁気である場合には、ジオフィジカルデータの種類は、それぞれ、重力データ、地震データ、電磁データ(マグネトテルリックデータなど)、又は磁気データでもよい。
【0044】
データは、地震データ獲得、マグネトテルリック獲得などの既知の技術を用いて収集され得る。本方法は、ジオフィジカルデータを収集/取得することを含み得る。
【0045】
データは、掘削に先立って獲得されていてもよく、この場合、ジオフィジカルデータは、掘削前ジオフィジカルデータと見なされ得る。このデータを使用して、温度及び/又は間隙率の掘削前推定を提供することができる。追加的又は代替的に、ジオフィジカルデータは、坑井の掘削中(又は後)に収集されていてもよい。これを使用して、温度及び/又は間隙率の掘削中又は掘削後推定(これは、既存の推定に対する更新と見なされ得る)を提供することができる。
【0046】
本方法は、掘削に先立って、ジオフィジカルデータを獲得することを含み得る。追加的又は代替的に、本方法は、掘削中にジオフィジカルデータを獲得することを含み得る(部分的に掘削された坑井における1つ又は複数の坑井ログを使用してなど)。追加的又は代替的に、本方法は、坑井の掘削後にジオフィジカルデータを獲得することを含み得る(坑井における1つ又は複数の坑井ログを使用してなど)。掘削中又は掘削後に獲得されたデータは、温度データ(すなわち、温度の直接的測定)でもよく、又は温度データを含んでもよく、これを用いて、インバージョン問題にさらなる制約を与えることによって、以前の温度推定(例えば、掘削前推定、又は以前の掘削中推定)を更新することが可能である。
【0047】
本方法は、掘削作業に先立って、温度及び/又は間隙率を計算することを含み得る。
【0048】
追加的又は代替的に、本方法は、掘削作業中に、温度及び/又は間隙率を計算することを含み得る。これは、掘削前の温度及び/又は間隙率の計算に対する更新と見なされ得る。
【0049】
追加的又は代替的に、本方法は、坑井が掘削された後に、温度及び/又は間隙率を計算することを含み得る。これは、掘削前及び/又は掘削中の温度及び/又は間隙率の計算に対する更新と見なされ得る。
【0050】
各ジオフィジカルパラメータを計算するためのジオフィジカルデータのインバーティングは、各それぞれのジオフィジカルパラメータに関するそれぞれのジオフィジカルデータの種類の単一ドメインインバージョン又は結合インバージョンなどの既知の技術を用いて行われ得る。このインバージョンは、2D又は3Dインバージョンでもよい。例えば、重力データ及び磁気データが、密度及び磁化率へとインバージョンが行われる場合、Geosoft社のソフトウェアによって提供されるような、標準Gravmagインバージョン技術が使用され得る。当業者は、ジオフィジカルパラメータへのジオフィジカルデータのインバージョンを行うための多数のインバージョン方法を知っており、及びこれらは、本出願では述べる必要がない。それぞれのジオフィジカルパラメータへのジオフィジカルデータのインバージョンにおいて使用されるそれぞれの順モデルは、既知であるか、又は電磁データの種類の場合はマクスウェル方程式、重力データの場合はニュートンの重力の法則、及び地震データの場合は弾性波方程式などの物理的原理から導出されてもよい。
【0051】
上述の通り、少なくとも1つのジオフィジカルパラメータは、温度及び/又は間隙率に依存するどのようなジオフィジカルパラメータでもよいが、好ましくは、密度、地震速度(例えば、地震p波若しくはs波速度)、磁化率、電気伝導率、電気抵抗率、又は残留磁気などの他のジオフィジカルパラメータから独立している、又はそれらから条件付きで独立しているとしてモデル化され得る。パラメータとして表現されることが可能であり、且つ温度及び/又は間隙率に依存する(並びに、好ましくは、その他のジオフィジカルパラメータ/変数とは独立しながら温度及び/又は間隙率に依存するとして表現され得る)地質構造のその他の特性が使用され得る。任意の数のこのようなパラメータの任意の組み合わせが使用され得る。
【0052】
入手可能であれば、温度及び/又は間隙率のインバージョン計算を制約するために、坑井ログデータが使用され得る。これは、坑井の掘削中又は掘削後に獲得され得る。坑井ログデータは、重力データ、地震データ、電磁データ(マグネトテルリックデータなど)、及び/又は磁気データを含んでもよく、並びにこれは、温度及び/又は間隙率の測定も含み得る。
【0053】
本方法が、地質構造の温度(のみ)を計算するためのものである場合には、間隙率データは、インバージョンにおけるパラメータとして含められてもよい。ジオフィジカルパラメータから温度へのインバージョン計算は、間隙率データを使用して制約され得る。間隙率データは、間隙率対深さ傾向であってもよい。
【0054】
同様に、本方法が、地質構造の間隙率(のみ)を計算するためのものである場合には、温度データは、インバージョンにおけるパラメータとして含められてもよい。ジオフィジカルパラメータから間隙率へのインバージョン計算は、温度データを使用して制約され得る。温度データは、温度対深さ傾向であってもよい。
【0055】
上記の方法は、地質構造のある特定の点/位置/体積/空間の温度及び/又は間隙率を計算することができ、前記点/位置/体積/空間は、インバージョンステップで使用されるジオフィジカルパラメータの点/位置/体積/空間に対応する(これらの方法で使用されるジオフィジカルパラメータは、地質構造における所与の点/位置/体積/空間におけるそのパラメータの値でもよい)ことを認識されたい。従って、空間的に依存する温度及び/又は間隙率関数A(x,y,z)を取得するために、上記のインバージョン方法が、地質構造における複数の異なる点/位置/体積/空間に対して点毎に行われ得る。認識され得るように、ジオフィジカルパラメータは、地質構造の空間全体にわたり変動する場合があるとともに、これは、空間的に変動する温度及び/又は間隙率に対応し得る。
【0056】
従って、本方法は、空間的に依存する温度及び/又は間隙率関数A(x,y,z)を構築することを含み得る。この関数は、地質構造における異なる点/位置/体積/空間(好ましくは、地質構造における全ての点/位置/体積/空間)の温度及び/又は間隙率を計算することによって構築され得る。温度及び/又は間隙率は、地質構造の実質的に全体にわたり、又はある特定のエリア(x,y)及び深さ(z)にわたり計算され得る。(当該分野では標準であるように、x軸及びy軸は、互いに垂直な水平方向であり、且つz軸は、鉛直方向である。)
【0057】
温度及び/又は間隙率は、3次元で求められ得る。
【0058】
温度及び/又は間隙率は、関数深さとして、及び場合によっては水平位置としても求められ得る。これは、掘削の考えられるターゲットの深さ、及び場合によっては水平位置の推定をユーザに提供し得る。このようなターゲットは、超臨界水貯留層でもよい。
【0059】
第2の態様では、本発明は、第1の態様の方法のいずれかを含む地質構造の温度及び/又は間隙率モデルを生成する方法を提供する。
【0060】
認識され得るように、地熱エネルギーを探査する際に、例えば、地熱井掘削作業を計画及び実行する際に、上記の方法が使用され得る。
【0061】
第3の態様では、本発明は、第1又は第2の態様のいずれかの方法のいずれかを行うことと、地熱井の掘削に関する意思決定プロセスにおいて計算された温度及び/又は間隙率を使用することとを含む、地熱エネルギーを探査する方法を提供する。
【0062】
坑井の掘削に先立って、例えば、どこで坑井を掘削すべきか、及び/又はどの程度深く坑井を掘削すべきかを決める際に、計算された温度及び/又は間隙率が使用され得る。温度及び/又は間隙率の計算は、温度及び/又は間隙率対深さ推定を本方法のユーザに提供することができ、これを使用して、どこで掘削すべきかを決めることができる。
【0063】
追加的又は代替的に、坑井の掘削中又は掘削後に、例えば、どの方向に、又はどの深さまで掘削を継続するかを決める際に、計算された温度及び/又は間隙率が使用され得る。これは特に、後述されるように、坑井の掘削中又は掘削後にジオフィジカルデータが収集されるケースの可能性がある。
【0064】
本方法は、掘削に先立って、温度及び/又は間隙率の計算を行うことを含み得る。これは、掘削前計算と呼ばれ得る。掘削前計算を用いて、どこで掘削を開始するべきかを決めることができる。
【0065】
本方法は、地熱井を掘削することを含み得る。
【0066】
本方法は、掘削中に新しいジオフィジカルデータを獲得することを含み得る。この新しいデータは、掘削前計算で使用されたものと同じジオフィジカルパラメータに関するものでもよい。しかし、追加的又は代替的に、この新しいデータは、掘削前計算で使用されたものとは異なるジオフィジカルパラメータに関するものでもよい。例えば、新しいデータは、追加的又は代替的に、坑井内からの温度及び/又は間隙率の直接的測定を含み得る。少なくとも1つ、又は好ましくは少なくとも2つのジオフィジカルパラメータに関する新しいデータが存在してもよい。これらのジオフィジカルパラメータは、第1の態様に関連して上述した条件付き独立型のものでもよい。新しいジオフィジカルデータは、掘削中に1つ又は複数の坑井ログを取ることなどによって、部分的に掘削された坑井から収集され得る。
【0067】
本方法は、対応する新しいジオフィジカルパラメータを求めるために、前記新しいジオフィジカルデータのインバージョンを行うことを含み得る。これは、第1の態様に関連して上述したようなジオフィジカルデータからジオフィジカルパラメータへのインバージョンでもよい。直接的な温度及び/又は間隙率データが坑井から獲得されている場合には、このデータを用いて、インバージョン計算を制約することができる。
【0068】
本方法は、温度及び/又は間隙率の更新された推定を提供するために、前記新しいジオフィジカルパラメータのインバージョンを行うことを含み得る。掘削中に求められた2つ以上の新しいジオフィジカルパラメータが存在する場合には、これらは、インバージョンで使用される唯一のジオフィジカルパラメータであってもよい。しかし、掘削前計算で使用されたジオフィジカルパラメータの1つ又は複数を用いて、新しいジオフィジカルパラメータのインバージョンを行うこともできる。このインバージョンステップは、第1又は第2の態様に関連して述べた温度及び/又は間隙率を推定するためのジオフィジカルパラメータのインバージョンに関連して述べた特徴のいずれかを含み得る。
【0069】
新しいジオフィジカルデータを獲得するステップと、それのインバージョンを行うことによって、温度及び/又は間隙率の更新された推定を求めるステップとは、掘削プロセスの間中、繰り返され得る。
【0070】
温度及び/又は間隙率の更新された推定は、どの方向に掘削すべきか、どの程度深く掘削すべきか、及び掘削を停止するべきか否かなどを決める掘削意思決定プロセスにおいて、掘削プロセス中に使用され得る。従って、本方法を使用して、より知識に基づいた掘削プロセスを実施することができる。
【0071】
第4の態様では、本発明は、地熱エネルギーを利用する方法を提供する。この方法は、第1、第2、又は第3の態様のいずれかの方法のいずれかを行うことを含み得る。本方法は、地熱井から地熱エネルギーを利用することを含み得る。地熱井からの地熱エネルギーの利用は、坑井中を循環する流体の加熱、及び/又は発電などの任意の既知の技術を用いて行われ得る。
【0072】
第5の態様では、本発明は、コンピュータ上で実行されると、プロセッサに上記の方法のいずれかを行わせるように構成されたコンピュータ可読命令を含むコンピュータプログラムプロダクトを提供する。
【図面の簡単な説明】
【0073】
図1は、温度Aと、ジオフィジカルパラメータ{σ,χ,ρ,v
p,v
s}との間のモデル関係を表すベイジアンネットワーク(DAG)を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0074】
これより、本発明の好適な実施形態を添付の図面を参照して、単なる例として説明する。
【0075】
図1は、温度Aと、ジオフィジカルパラメータ{σ,χ,ρ,v
p,v
s}との間のモデル関係を表すベイジアンネットワーク(DAG)を示す。そして、ジオフィジカルパラメータは、
図1に示すように、拡張ベイジアンネットワークに含められ得るジオフィジカルデータ(マグネトテルリックデータ(MT)、磁気データ(mag)、重力データ(grav)、及び地震データ(Seismic)など)に依存する。
【0076】
以下の例示的方法に示されるように、地表下温度の推定は、少なくとも2つのジオフィジカルパラメータのインバージョンを使用して対処される。この方法の一般的なワークフローとして、まず、ジオフィジカルパラメータが、それぞれのジオフィジカルデータの種類の単一ドメインインバージョンによって取得される。これは、2D又は3Dインバージョンでもよい。例えば、ジオフィジカルデータの種類は、マグネトテルリックデータ(MT)、磁気データ(mag)、重力データ(grav)、及び地震データ(Seismic)の内の2つ以上であってもよい。これらのデータのインバージョンが行われると、それらは、以下のそれぞれのパラメータを求めることができる:マグネトテルリックデータ(MT)から電気抵抗率(又は伝導率)(σ);磁気データ(mag)から磁気共鳴(χ);重力データ(grav)から密度(ρ);地震データ(Seismic)からp波速度(vp);及び地震データ(Seismic)からs波速度(vs)。
【0077】
次に、ジオフィジカルパラメータの2つ以上のインバージョンを行うことによって、岩石物理学順モデルを使用して温度を取得する。順モデルは、温度(A)をジオフィジカルパラメータとつなぎ、及びそれぞれのジオフィジカルパラメータをそれぞれのジオフィジカルデータの種類とつなぐ矢印と共に、
図1に模式的に示される。地震ケースの場合、インバージョンという用語は、トモグラフィ又は全波形インバージョンのいずれかと理解されるものである。磁気データ及び重力データの場合、インバージョンは、ジオメトリに対して制約されるGravmagインバージョンである。
【0078】
以下の例示的方法では、温度は、3つのジオフィジカルパラメータ(磁気共鳴(χ),密度(ρ),及びp波速度(vp))のジオフィジカルインバージョンから算出される。もちろん、上述のように、他のパラメータ又は組み合わせを使用することも可能である。間隙率対深さ傾向も、インバージョンを制約するために使用することが可能である。
【0079】
本方法では、ジオフィジカルデータと温度又は間隙率との間の関係が、
図1に示すベイジアンネットワーク又は有向非巡回グラフ(DAG)でモデル化され得ると仮定される。
【0080】
ベイジアンネットワークの同時確率分布は、親ノードの周辺分布と、子の条件付き分布とによって定義される。変数(x
i,…,x
n)の同時分布は、
【数1】
によって与えられる。以上の式(1)中、
【数2】
は、親ノードを示す。ネットワークの最上位ノードは、親を持たない。一般的ベイズの因数分解ルールである式(1)を
図1のDAGに適用すると、温度及びジオフィジカルパラメータの同時確率は、
【数3】
と記述することができる。以上の式中、モデルパラメータm={χ,ρ,v
p,v
s,σ}であり、χは、磁化率であり、ρは、質量密度であり、v
pは、P波速度であり、v
sは、S波速度であり、σは、導電率(抵抗率の逆数)であり、Aは、温度である。事前分布p(A;λ)は、後述するハイパーパラメータλに依存する。パラメータm
iの条件付き独立性を用いて、式(3)の同時分布は、
【数4】
と記述することもでき、式(3)及び(4)から、温度の事後分布を取得することができ、
【数5】
及びm
iに実際のパラメータを代入することにより、以下の式(6)が得られる。
【数6】
【0081】
Aの事後分布が分かれば、事後期待値及び事後分散は、
【数7】
によって与えられる。
【0082】
所与のジオフィジカルパラメータに関する可能性が高い温度を計算するために最も有用なのは式(5)~(7)である。しかし、式(5)及び(6)から明らかであるように、それを行うためには、ジオフィジカルパラメータmiのそれぞれの尤度関数p(mi|A)を知る必要がある。さらに、事前分布p(A;λ)を知ることが必要である。これらを計算する方法は、下記の通りである。
【0083】
事前分布p(A;λ)に関して、本方法では、ガウス分布であると仮定され、
【数8】
式(8)中、μ
A及び
【数9】
は、それぞれ、事前期待値及び事前分散である。事前分布は、例えば、温度が通常比較的狭い範囲にあるという温度に関するユーザの事前知識を組み込む。ハイパーパラメータλは、地質学的環境に関するユーザの事前知識を反映する。ユーザの事前知識がわずかであれば、事前分散
【数10】
は、相応に大きくなるべきである。
【0084】
従って、事前分布は、好ましくは、統計的分布でもよい(好ましくは、ガウス分布)。好ましくは、事前分布の平均及び分散は、問題の地質構造のユーザの事前知識(例えば、温度の典型的な分散の知識)に基づいて、ユーザによって選択される。
【0085】
式(5)及び(6)の右側の尤度関数p(m
i|A)に関して、これらは、順モデルF
i(A)を使用して計算される。順モデルは、所与の温度Aに関する関連のジオフィジカルパラメータm
iを算出する数学的関係である。本方法に関して、順モデルF
i(A)のそれぞれは、それぞれの測定/観測されたジオフィジカルパラメータと比較して、ゼロ平均を有するそれぞれのガウス誤差分布を有し、すなわち、
【数11】
であると仮定される。
【0086】
本方法では、これらの順モデルは、較正データを使用して最適化され得る。
【0087】
一旦最適な順モデルが求められる(適切な順モデルを選択すること、及びそれらを較正することによって)と、最大尤度関数(すなわち、温度の値を所与としたジオフィジカルパラメータの最大尤度、式(5)及び(6)におけるp(m
i|A))は、
【数12】
によって明示的に与えられる。
【0088】
これらの最大尤度関数は、測定/取得されたジオフィジカルパラメータを所与として温度の事後分布
【数13】
、事後期待値、及び事後分散を計算するために、上述の事前分布と共に式(5)~(7)において使用される。このようにして温度が計算され、すなわち、これらの量は、温度の有用な値を与える。間隙率データが入手可能であれば、それも使用してインバージョン計算を制約することができる。
【0089】
インバージョン問題のベイズの定式化を使用して、本方法は、岩石物理学モデル(順モデル)が観測(較正データ)を完全には記述しないという事実を受け入れることを認識されたい。この不完全さは、式(12)で与えられる尤度分布における誤差分散σ
eiによって説明される。そして、これは、インバージョンによって取得された温度の事後分散
【数14】
の量的推定を提供する。従って、式(4)は、事実上、事後平均及び事後分散が式(7)によって与えられた、Aの一変量分布である。
【0090】
上記のステップは、単に、ジオフィジカル構造におけるある特定の点に関して温度Aを計算する可能性があることも認識されたい。この点は、温度を計算するために使用されるそれぞれのジオフィジカルパラメータの値の位置に対応する位置である。従って、好ましくは、上記のステップで使用される全てのジオフィジカルパラメータは、地質構造における同じ位置、又は少なくとも類似した位置から採取されたものである。
【0091】
地質構造のある領域又は全体にわたる温度像を構築するために、Aを計算するための上記のステップは、地質構造の異なる位置に対して実施される。しかし、順モデルの較正は、一回だけ実施されればよく、すなわち、異なる位置ごとに実施される必要はない。状況によっては、較正は、位置ごとに実施されてもよい。
【0092】
従って、上述の岩石物理学インバージョンが、このようにして点毎に適用されることにより、空間的に変動する温度A(x,y,z)が取得される。
【0093】
一旦温度が計算されると、地熱井を掘削するための意思決定プロセスにおいて、それを使用することができる。温度は、掘削に先立って計算することができ、並びにどこで坑井を掘削すべきか、及びどの程度深く坑井を掘削すべきかを決定するために使用することができる。更新温度は、部分的に掘削された坑井で測定された新しいジオフィジカルデータ(坑井ログなど)を使用して、掘削中に計算することもできる。更新温度を使用して、どの方向に、及びどの深さまで掘削すべきか、又は掘削の継続は価値があるか否か、又は別の坑井が掘削されるべきか否かを決めることができる。
【0094】
図1に示す上記の方法は、温度のみを計算する観点から述べられたものである。しかし、同様の方法であるが、異なる順モデルを使用して、間隙率を求めることも可能である。
【0095】
これより、上記の方法の使用の実例を提示する。
【0096】
Reykjanesの「IDDP-2」(「Iceland Deep Drilling Project 2」)の坑井のターゲットは、超臨界温度における地熱資源である。掘削地点は、電磁調査及び重量測定調査によってマッピングされ、並びにIDDP-2掘削地点における地表下温度は、以下に記載するように、マルチジオフィジカルインバージョンによって予測されている。
【0097】
一般に地熱探査の場合、可能性がある貯留層ターゲットの深さ及び温度を予測することが有用である。特にIDDP-2坑井の場合、プロジェクトの主要目的である超臨界条件に達することを実現するために必要とされる掘削深さの推定を取得することが重要である。構造的枠組みを確立するためにそのエリアで入手可能な反射-地震データは存在しない。また、回収されたコア材料の量は限られていた。そのため、地表下情報は、坑井内の岩石ユニットを特徴付けるための坑井データ及び掘削データを含む他の種類のジオフィジカルデータ及び地質データから評価される必要がある。
【0098】
要約すれば、マルチジオフィジカルインバージョン方法は、地表下温度を予測するために使用した。MT(マグネトテルリック)インバージョンからの電気抵抗率、及び重力インバージョンからの密度を使用して、IDDP-2掘削ターゲットの地層温度の掘削前推定を算出した。掘削中に獲得された抵抗率及びコアサンプルを使用して、温度推定を更新するとともに、地質モデルを確立した。この情報は、後に、熱水系のシミュレーションを行うために、貯留層のエンジニアに伝えられた。
【0099】
温度に対するジオフィジカルモデルパラメータの依存性と、次に、ジオフィジカルモデルパラメータに対するジオフィジカルデータの依存性とに関する統計的モデルを構築した。これは、Aが温度である
図1に示すベイジアンネットワークによって表すことができる。第1の依存性セットは、様々な岩石物理学関係性によって与えられたものである。第2の依存性セットは、電磁気学のマクスウェル方程式、ニュートンの重力の法則、及び弾性波方程式などの異なる方程式によって与えられたものである。
【0100】
上記の通り、ベイジアンネットワークの上から下へ進むことは、前進モデリング(forward modeling)、すなわち、地表下温度分布を所与として合成ジオフィジカルモデル及びデータを算出するということである。下から上へ進むことは、ベイジアンインバージョンを行うということである。インバージョンによって、ジオフィジカルモデルパラメータ及び地表下温度は、観測されたジオフィジカルデータから算出することができる。様々なジオフィジカルインバージョン方法を用いて取得され、並びに地球物理学者及びサービスプロバイダの異なるグループによって算出されたジオフィジカルモデルを利用して、実際的なアプローチを取った。よって、ベイジアンインバージョンは、インバージョンの第2の段階である、3Dジオフィジカルモデルから地表下温度を算出することに焦点を当てたものであった。これは、事実上、岩石物理学インバージョンであった。
【0101】
ベイジアンネットワーク(
図1)を所与として、且つ矢印によってつながれないノード間の条件付き独立性を仮定して、温度の事後確率分布は、
【数15】
と記述することが可能であり、式(15)中、Tは、温度であり、m
iは、興味のあるジオフィジカルモデルパラメータであり、Cは、正規化定数であり、及びφは、間隙率である。上記の通り、間隙率は、確率変数として扱うことができる(温度Tと同様に)。しかし、このケースでは、間隙率は、所与の決定論的値を有するハイパーパラメータであると仮定された。温度の事前分布は、p(T)と示される。
【0102】
1つ又は複数のジオフィジカルパラメータを使用して、事後分布を算出することができる。例えば、電気伝導率(又は抵抗率)のみが使用されてもよい。しかし、式(15)から明白であるように、2つ(又はそれより多い)尤度関数の積は、事後分布を狭くする。これは、より良い事後平均及びより小さな分散を暗示する。従って、本発明によれば、2つ以上の物理的パラメータを使用して、事後分布の算出を行った。
【0103】
ガウス誤差を仮定すると、各ジオフィジカルパラメータの尤度分布は、
【数16】
と記述することができ、式(16)中、F
i(T;φ)は、温度に対するモデルパラメータm
iの依存性に関する岩石物理学関係性であり、及びΣ
eiは、対応する誤差共分散である。このようにして、岩石物理学モデルが地表下特性の完全な表現ではないという事実が説明され得る。式(16)は、順モデルF
i(T;φ)がTの線形関数である場合に限り、モデルパラメータm
iのガウス分布である。これは、一般的には当てはまらない。原則として、電磁データ、ポテンシャル場データ、及び地震データが、利用され得る。しかし、この場合、電気伝導率m
1=σ(又はその逆数;抵抗率)及び密度m
2=ρのみが使用されている。対応する岩石物理学関係性は、F
1(T;φ)=σ(T;φ)及びF
2(T;φ)=ρ(T;φ)と示される。
【0104】
電気伝導率(又は抵抗率)は、温度変動に対して最も直接的に応答するジオフィジカルパラメータである。伝導率σ(T;φ)に関する岩石物理学モデルは、(1)無孔(乾燥)玄武岩質岩、(2)熱水変質に由来する粘土鉱物、及び(3)水(塩水)で満たされた割れ目の端数重み付け並列結合(fraction-weighted parallel coupling)として設計した。玄武岩質岩の温度依存性は、実験データを使用して、伝導率対逆温度1/Tの対数線形回帰によって取得した。コア測定は、乾燥玄武岩の伝導率の温度依存性σ
B(T)が、2つのボルツマン分布(アレニウスの式)の和によって近似的に与えられることを示唆し、
【数17】
式(17)中、k
Bは、ボルツマン定数であり、並びにσ
j及びE
j(j=1,2の場合)は、較正パラメータである。E
jは、2つの温度依存性伝導機構に対する活性化エネルギーの役割を果たす。
【0105】
粘土の伝導率は、よく知られたWaxman-Smits式を用いてモデル化を行った。特に重要なのは、比較的浅い深さで、且つ220℃未満の比較的低い温度で、スメクタイトにおける陽イオン交換の影響を説明することであった。玄武岩の間隙率は、割れ目によって主に占められていると仮定した。割れ目の伝導率は、温度依存性水伝導率を用いて、Braceら(Brace,W. F.,Orange,A.S.,and Madden,T.R.,1965. The effect of pressure on the electrical resistivity of water-saturated crystalline rocks:J. Geophys. Res.,70,5669-5678)によって発表された関係性によって近似を行った。
【0106】
密度ρ(T;φ)に関する岩石物理学モデルは、Hackerら(Hacker,B.R,Abers,G.A.,and Peacock,S.M.,2003. Subduction factory 1. Theoretical mineralogy,densities,seismic wave speeds and H2O contents: J. Geophys. Res.,108 (B1),2029)によって提示された関係性と、割れ目における温度依存性水密度とを用いて、同様に構築した。
【0107】
IDDP-2坑井のために選択された掘削地点は、受信器を約5×5km2のグリッド上に分布させた3DのMT調査によってマッピングを行った。3DのMTインバージョンは、Siripunvarapornら(Siripunvaraporn,W.,G. Egbert,Y. Lenbury,and M. Uyeshima,2005,Three-dimensional magnetotelluric inversion:Data-space method:Physics of the Earth and Planetary Interiors,150,3-15)の最小ノルム(データ空間ヘッシアン)の3DのMTインバージョンを用いて行った。過渡電磁(TEM)データのインバージョンを使用して、浅部抵抗率の独立推定を取得し、及び表面近くのガルバニ電流によって生じるスタティックシフトに関してMTデータを補正した。MT及びTEMインバージョンの詳細は、Karlsdottirら(Karlsdottir,R.,Arnason,K.,and Vilhjalmsson,A.M.,2012. Reykjanes Geothermal Area,Southwest Iceland. 3D Inversion of MT and TEM Data: Iceland Geosurvey ISOR-2012/059)によって記載されている。
【0108】
1.5km未満の深さの浅部低抵抗率ゾーンが、スメクタイトの高陽イオン交換容量により生じた。220℃~260℃の温度では、より高い抵抗率を持つ緑泥石が、優勢な変質鉱物となる。3kmを超える深さでは、シート状岩脈及び輝緑岩に関連すると考えられる高抵抗率ゾーンが観測された。IDDP-2坑井のターゲットは、3~5kmの深さの高抵抗ゾーン内の抵抗率低下ゾーンであった。
【0109】
低速度撮影重量測定による拡大海嶺の沈下をモニタリングする目的で、重力調査をReykjanes半島で行った。IDDP-2掘削地点における温度予測のために、2014年からの最新の重力調査を利用した。このローカル重力データは、地形補正を含めた完全なブーゲー補正によって処理した。次いで、このローカルデータは、3Dインバージョンのための十分な開口部(15×15km2)を取得するために、地域ブーゲーアノマリーマップとマージした。
【0110】
重力インバージョンは、一般的に不良設定であり、及び公式化される必要がある。従って、Reykjanes地熱エリアの坑井のボアホールデータを使用して、約2500mに至るまでの上部ゾーンの密度モデルを確立した。興味のあるより深いゾーンと関連する重力アノマリーを分離するために、上部ゾーンの重力応答のモデル化及び減算を行った。次いで、2500m~7000mのより深いゾーンの密度に関して、残りのインバージョンを行った。Matlabに実装されたMarquardt-Levenbergタイプの3Dインバージョンスキームを使用して、重力インバージョンを行った(Hokstad,K.,Alasonati Tasarova,Z.,Clark,S.A.,Kyrkjebo,R.,Duffaut,K.,and Fichler,C.,2017,Heat production and heat flow from geophysical data:Submitted to Norwegian Journal of Geology)。
【0111】
また、岩石物理学インバージョンには、間隙率対深さ傾向が必要とされる。Reykjanes地熱エリアの間隙率に関する確かな情報は、殆ど公表されていない。間隙率に関するデータは、上部約2000mに関してのみ分かっていた。指数関数的傾向を仮定して、古い坑井の中性子捕獲ログを使用して、間隙率傾向を推定した。2010年のメンテナンスのための停止中の測定地層温度を所与として、岩石物理学モデルが、RN-15坑井の温度補正(Arpの公式)抵抗率ログを近似的に再現するように、間隙率傾向の較正を行った。温度補正抵抗率ログは、3DのMTインバージョンからの抵抗率傾向と十分に一致していた。また、合成密度ログを算出するとともに、それを使用して、3D重力インバージョンからの密度立方体の絶対レベルの較正を行った。このようにして、2.5kmの深さに至るまでの岩石物理学モデルと合致する地表下パラメータσ、ρ、及びφのセットを取得した。
【0112】
MTインバージョンからの抵抗率モデル、重力インバージョンからの密度モデル、及び間隙率対深さ傾向は、ベイジアンインバージョンスキームに入力した。2.5kmの深さに至るまで沸騰曲線に近く、及びその後80℃/kmで増加する温度対深さの事前モデルを選んだ。インバージョンは、かなりロバストであることが判明し、及び事前温度の値は、重要ではなかった。そのため、400℃の分散を有する比較的曖昧な事前温度が使用され得る。
【0113】
マルチジオフィジカルインバージョンから、坑井は、約4kmの深さで超臨界条件(T>400℃)に達すると予測された。坑井の計画総深さの掘削前推定は、5kmの垂直深さで513±62℃であった。Reykjanesは、活発な海底拡大ゾーン内にあり、且つマグニチュード2以下の地震が定期的に生じる。地震は、約600℃から始まる延性ゾーンで減少すると予想される。これは、掘削前温度予測とかなり一致していた。全地震の推定震源位置(掘削に先立つ)は、インバージョンからの500℃等温線より上であった。
【0114】
IDDP-2坑井の掘削は、2016年8月に開始した。掘削期間中、坑井内の温度を定期的に測定した。また、2900m及び3450mの実測深さ(MD)で作動して、抵抗率、中性子捕獲、及びガンマ線のワイヤラインロギングを行った。掘削流体として冷水を使用した。注入水の冷却効果により、抵抗率ログは、真の地層抵抗率を記録しない。測定温度、中性子ログ、及び重複する間隔のRN-15ログとのつながりを使用して、地層抵抗率傾向を近似的に表すように抵抗率ログを調節した。経験的リスケーリング、及び円筒座標における熱伝導方程式に対する解析解に基づいた補正を含めた異なる補正方法が使用された。温度補正抵抗率ログを使用して、計画坑井経路に沿った温度のインバージョンを再実行した。これらの結果は、ログ補正に関与する不確実性により不確かであった。しかし、掘削中更新は、地層温度が掘削前予測よりも50~100℃高かったことを示した。
【0115】
掘削岩のサンプルを集めるために、多くのコアランを行った。これらのコアを使用して、変質鉱物を識別し、及び最大温度に対する大まかな制約を取得した。しかし、コアランは、掘削坑井セクションの非常に小さな部分のみをカバーしていた。
【0116】
上記の坑井セクション及びコアの記述をマルチジオフィジカルインバージョンからの温度推定と共に使用して、IDDP-2ボアホールの地質モデルの構築及び継続的な更新を行った。
【0117】
地質モデルの複合データは、マルチジオフィジカルインバージョンによって示唆される温度予測を裏付けていた。岩石パラメータにおける幾つかの変化は、大きな温度変化(中でも、400℃及び500℃の到達)中に生じると記述されており、Reykjanes地熱エリアに関して行われた温度予測をさらに裏付ける。
【0118】
坑井の掘削は、2016年12月下旬に完了した。2017年の1月初旬に、水の注入が2日間減らされ、且つ新しい温度ログが実行され、4626mMDで427℃を測定した。測定温度曲線におけるキンクは、高透過性低下ゾーンに関連していた。
【0119】
要約すると、インバージョン方法により推定された温度は、最新の温度ログ(2017年1月3日に獲得)と、変質鉱物からの地球化学的指示と、岩石パラメータの変化と十分に一致していた。この方法は、ジオフィジカルデータのインバージョンに基づき、その後に、直接的温度推定のためのベイジアン岩石物理学インバージョンが続く。地層温度の変化に最も直接的に応答するジオフィジカルパラメータは、電気伝導率(又は抵抗率)である。MTデータは、ソースフィールド(すなわち、太陽と地球の磁場との間の相互作用)における広周波数範囲により、良く適している。ソースフィールドの低周波部分は、5~6kmの深さに至るまでのターゲットを画像化するために必要とされる。しかし、電磁表皮効果により、低解像度画像のみを取得することができる。
【0120】
重力インバージョンからの密度は、本方法の事後不確実性を減少させるのに役立つ。また、間隙率対深さ傾向は、岩石物理学インバージョンへの重要な入力である。電気抵抗率及び密度の相対的減少は、間隙率の増加又は温度の増加によって引き起こされ得る。そのため、インバージョンには、本来備わっている曖昧さが存在する。磁化率及び地震P波及びS波速度も利用することができるが、これは、本ケースでは行わなかった。本方法は、中央海嶺玄武岩(MORB)に対して較正及び実演を行った。本方法は、ベイジアンインバージョンで使用される岩石物理学モデルの再較正に続いて他の地質構造及び地質学的環境に適用されてもよい。