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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-18
(54)【発明の名称】物標追跡装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 13/87 20060101AFI20230511BHJP
   G08G 1/16 20060101ALI20230511BHJP
   G01S 13/66 20060101ALI20230511BHJP
   G01S 17/66 20060101ALI20230511BHJP
   G01S 15/66 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
G01S13/87
G08G1/16 A
G01S13/66
G01S17/66
G01S15/66
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020071227
(22)【出願日】2020-04-10
(65)【公開番号】P2021167770
(43)【公開日】2021-10-21
【審査請求日】2022-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000004695
【氏名又は名称】株式会社SOKEN
(73)【特許権者】
【識別番号】000004260
【氏名又は名称】株式会社デンソー
(74)【代理人】
【識別番号】110000578
【氏名又は名称】名古屋国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】亢 健
(72)【発明者】
【氏名】夏目 充啓
(72)【発明者】
【氏名】神田 規史
(72)【発明者】
【氏名】田村 亮
(72)【発明者】
【氏名】関谷 洋平
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 領
(72)【発明者】
【氏名】郭 暁琳
【審査官】貞光 大樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-93543(JP,A)
【文献】特開2006-349603(JP,A)
【文献】特開2018-54405(JP,A)
【文献】特開2007-41788(JP,A)
【文献】特開2011-123535(JP,A)
【文献】特開2007-24590(JP,A)
【文献】特開2019-78554(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 1/72 - 1/82
G01S 3/80 - 3/86
G01S 5/18 - 7/64
G01S 13/00 - 17/95
G08G 1/00 - 1/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のセンサから、前記センサの位置情報及び前記センサの検知エリアを含むセンサ情報、並びに検出した物標の位置を含む物標情報を取得するように構成された情報取得部(5:S110)と、
処理サイクル毎に推定される前記物標の位置を推定値とし、前回の処理サイクルでの前記推定値から予測される前記物標の位置を予測値とし、前記情報取得部で取得された前記物標情報に示された物標の位置を観測値として、前記予測値及び前記観測値の信頼度をそれぞれ設定するように構成された信頼度設定部(5:S140)と、
同一物標を表す前記予測値及び前記観測値である対応値ペア、及び該対応値ペアについて前記信頼度設定部にて設定された前記信頼度を用いて、前記対応値ペアに対応づけられる前記物標の前記推定値を更新するように構成された推定値更新部(5:S190)と、
前記センサ情報に示された前記検知エリアの境界の一部を少なくとも含み、前記検知エリアにおける他のエリアより検知精度が低下するつなぎエリアを設定するように構成されたエリア設定部(5:S130)と、
前記観測値が前記つなぎエリアにある場合、該観測値と前記対応値ペアを形成する前記予測値の信頼度を、該信頼度が高くなるように調整するように構成された信頼度調整部(5:S180)と、
を備える物標追跡装置。
【請求項2】
請求項1に記載の物標追跡装置であって、
前記信頼度調整部は、前記対応値ペアを形成する前記観測値が存在しない前記予測値の信頼度を、該信頼度が高くなるように調整するように構成された
物標追跡装置。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の物標追跡装置であって、
前記信頼度設定部は、前記つなぎエリア内での前記観測値の位置、前記観測値と前記予測値との一致度、前記予測値に対応づけられる前記物標の種類及び速度、該物標が最初に検出されてからの経過時間、前記観測値の生成元となった前記センサの種類及びスペック、前記観測値が取得されたときの外部環境のうち、少なくとも一つを用いて前記信頼度を設定するように構成された
物標追跡装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載の物標追跡装置であって、
前記エリア設定部は、隣接する二つの前記センサの前記検知エリアの間に、前記つなぎエリアを設定するように構成された、
物標追跡装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、複数のセンサから得られる物標の位置情報を用いて、物標を追跡する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
物標を検知する複数種類のセンサによる検知結果をインテリジェントに組み合わせることで、検知された物標の情報を利用するシステムの性能向上、及び機能実現を図ることが行われている。このようなシステムでは、物標を追跡する際、センサにて検知された物標位置の瞬時値の時系列観測情報を利用して、物標位置の推定精度を向上させている。但し、センサの検知エリアの限界近傍では、観測誤差及び誤検知が増大することにより物標の追跡精度が低下することが知られている。
【0003】
特許文献1には、このような追跡精度の低下を抑制するために、複数センサを、互いの検知エリアの一部が重複するように配置することで、センサの検知エリアの境界付近に観測の冗長性を持たせる技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特表2019-519051号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、発明者の詳細な検討の結果、上記従来技術では、以下の課題があることが見出された。すなわち、システムを構成する複数のセンサの中に、車載センサ等、検知エリアが移動するセンサが含まれている場合、検知エリアの境界付近に必ずしも冗長性を持たせることができず、観測誤差の抑制効果を十分に得られないという課題があった。
【0006】
本開示の1つの局面では、センサの検知エリアの限界近傍での物標の追跡精度を向上させる技術を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の一態様は、物標追跡装置であって、情報取得部(5:S110)と、信頼度設定部(5:S140)と、推定値更新部(5:S190)と、エリア設定部(5:S130)と、信頼度調整部(5:S180)と、を備える。
【0008】
情報取得部は、複数のセンサから、センサの位置情報及びセンサの検知エリアを含むセンサ情報、並びに検出した物標の位置を含む物標情報を取得する。信頼度設定部は、処理サイクル毎に推定される物標の位置を推定値とし、前回の処理サイクルでの推定値から予測される物標の位置を予測値とし、情報取得部で取得された物標情報に示された物標の位置を観測値として、予測値及び観測値の信頼度をそれぞれ設定する。推定値更新部は、同一物標を表す予測値及び観測値である対応値ペア、及び対応値ペアについて信頼度設定部にて設定された信頼度を用いて、対応値ペアに対応づけられる物標の推定値を更新する。エリア設定部は、センサ情報に示された検知エリアの境界の一部を少なくとも含み、検知エリアにおける他のエリアより検知精度が低下するつなぎエリアを設定する。信頼度調整部は、観測値がつなぎエリアにある場合、観測値と対応値ペアを形成する予測値の信頼度を、信頼度が高くなるように調整する。
【0009】
このような構成によれば、センサの検出誤差、すなわち観測値の誤差が増大することによる、物標位置の推定精度、ひいては物標の追跡精度が低下することを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】交通管制システムの構成を示すブロック図である。
図2】車載端末の構成を示すブロック図である。
図3】インフラセンサの構成を示すブロック図である。
図4】サーバの構成を示すブロック図である。
図5】サーバが実行する追跡処理のフローチャートである。
図6】つなぎエリアの設定に関する説明図である。
図7】つなぎエリアでの観測値、予測値、推定値の関係を示す説明図である。
図8】つなぎエリアがある場合とない場合とで推定値をシミュレーションによって算出した結果を示すグラフである。
図9】つなぎエリアの他の設定方法を示す説明図である。
図10】つなぎエリアの簡易的な設定方法を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら、本開示の実施形態を説明する。
[1.全体構成]
図1に示す交通管制システム1は、交通環境下に存在する複数のセンサから取得した観測情報を統合して物標位置・運動等を推定し、交通環境にある各端末に推定結果を通知することで、自動運転及び運転支援の精度を向上させる。
【0012】
交通管制システム1は、車載端末2と、インフラセンサ3と、サーバ5とを備える。サーバ5が物標追跡装置に相当する。
[1-1.車載端末]
車載端末2は、車両に搭載される。図2に示すように、車載端末2は、車内通信器21と、車外通信器22と、処理部23とを備える。車内通信器21は、当該車載端末2を搭載する車両(以下、自車両)の車載ネットワークを介して、種々の情報を取得する。車外通信器22は、無線通信によって、サーバ5との通信を実行する。処理部23は、CPUと、ROM及びRAM等のメモリと、を有するマイクロコンピュータを備え、種々の機能を実現するための処理を実行する。
【0013】
車載端末2は、処理部23が実行する処理によって実現される機能を表す機能ブロックとして、情報収集部231と、統合情報提供部232とを備える。
情報収集部231は、車内通信器21を介して、物標情報、センサ情報、及び車両状態情報を繰り返し収集し、車外通信器22を介してサーバ5に送信する。
【0014】
物標情報は、車両に搭載された周辺監視センサ群100にて検知される物標に関する観測情報である。周辺監視センサ群100には、ミリ波レーダ101、ライダー102、超音波センサ103、及びカメラ104等が含まれてもよい。以下では、周辺監視センサ群100に属するこれらの構成を、単にセンサ101~104ともいう。物標情報は、情報生成源となるセンサ101~104によって含まれる情報が異なるが、いずれの場合も、検知した物標の位置が少なくとも含まれる。物標情報には、物標の位置の他、物標までの距離、物標の移動速度及び移動方向、物標の大きさ、及び物標の種類等が含まれてもよい。なお、物標の位置、物標までの距離、物標の移動速度及び移動方向は、車載端末2を基準とした相対値によって表されてもよい。
【0015】
センサ情報には、個々のセンサ101~104の性能に関する性能情報、及び自車両に対する取付状態を表す取付情報が含まれる。取付情報には、路面からの高さ、車両の直進方向及び水平方向に対する取付角度が含まれる。性能情報には、センサ種別、検知距離範囲、及び検知角度範囲が含まれる。検知距離範囲は、一定の条件下で、物標の検知を許容精度で行うことができる距離の範囲である。検知角度範囲は、一定の条件下で、物標の検知を許容精度で行うことができる角度の範囲である。一定条件には、例えば、照度値や反射率等を用いてもよい。また、許容精度は、検知確率が一定値(例えば、95%)以上であることを用いてもよい。ここでは、検知距離範囲及び検知角度範囲によって決まる検知エリアAの中心方向をセンサ正面方向として、取付角度は、センサ正面方向の向きを表す。また、検知角度範囲は、センサ正面方向を基準(すなわち、0°)として表す。
【0016】
車両状態情報には、車両に搭載された位置センサ110にて検出される車両の位置及び進行方向が少なくとも含まれる。位置センサ110は、GNSS(すなわち、全地球航法衛星システム)を利用して情報を得る装置であってもよい。つまり、車両状態情報とセンサ情報に含まれる取付情報とを組み合わせることで、グローバル座標系におけるセンサ位置及びセンサ正面方向の向きを特定することが可能となる。
【0017】
統合情報提供部232は、サーバ5から自車両の周辺に存在する物標等に関する統合情報を、車外通信器22を介して受信し、受信した統合情報を、車内通信器21を介して、自動運転及び運転支援に関わる車両制御を実行する各ECUに提供する。
【0018】
[1-2.インフラセンサ]
インフラセンサ3は、道路標識、信号機等の交通インフラの他、道路脇の建造物等に設置される。図3に示すように、インフラセンサ3は、センサ本体31と、通信器32と、処理部33と、を備える。
【0019】
センサ本体31は、例えば、カメラ311及びレーダ312等を備える。センサ本体31は、カメラ311及びレーダ312におけるセンサ正面方向の向き(すなわち、センサ本体31の姿勢)を処理部33からの指示によって変化可能に構成される。以下では、カメラ311及びレーダ312を、単にセンサ311,312ともいう。
【0020】
通信器32は、有線通信網又は無線通信網を介したサーバ5との通信を実行する。
処理部33は、CPUと、ROM及びRAM等のメモリと、を有するマイクロコンピュータを備え、種々の機能を実現するための処理を実行する。インフラセンサ3は、処理部33が実行する処理によって実現される機能を表す機能ブロックとして、情報収集部331と、姿勢制御部332とを備える。
【0021】
情報収集部331は、センサ本体31から物標情報を繰り返し収集し、収集した物標情報を、センサ情報及び姿勢情報と共に、通信器32を介してサーバ5に送信する。
物標情報及びセンサ情報は、基本的には、車載端末2の情報収集部231で収集される物標情報及びセンサ情報と同様である。但し、センサ情報に含まれる取付情報は、センサが予め設定された基準姿勢にあるときのセンサ正面方向の向き(以下、基準正面方向)が含まれる。姿勢情報は、姿勢制御部332によって決まるセンサ本体31の姿勢、すなわち、基準正面方向に対するセンサ正面方向の向きが含まれる。つまり、センサ情報に含まれる取付情報と、姿勢情報とを組み合わせることで、グローバル座標系におけるセンサ位置及びセンサ正面方向の向きを特定することが可能となる。
【0022】
なお、インフラセンサ3が、センサ本体31の姿勢を変更できないように構成されている場合は、姿勢制御部332及び姿勢情報は省略されてもよい。
ここでは、インフラセンサ3において物標情報を生成してサーバ5に提供する場合について説明したが、物標情報の代わりに、センサ本体31から得られる生データをサーバ5に提供するように構成されてもよい。この場合、サーバ5は、インフラセンサ3から取得する生データから物標情報を生成する機能を必要とする。
【0023】
以下では、周辺監視センサ群100に属するセンサ101~104、及びセンサ本体31に属するセンサ311,312を一括してフィールドセンサSと呼び、個々のフィールドセンサSを識別する必要がある場合はSiで示す。iは正整数である。図1では、車両に搭載された周辺監視センサ群100に属するセンサ101~104のいずれかをS1,S2とし、インフラセンサ3が有するセンサ本体31に属するセンサ311,312のいずれかをS3とする。また、各フィールドセンサS1~S3の検知エリアをA1~A3で表す。
【0024】
[1-3.サーバ]
サーバ5は、交通環境下に存在する複数のフィールドセンサSiから情報を取得し、取得した情報を統合することで、単一センサの検知に比べ高精度かつロバストな検出を実現する。その検出結果である統合情報を、車載端末2に提供する。
【0025】
図4に示すように、サーバ5は、通信器51と、処理部52と、記憶部53とを備える。
通信器51は、車載端末2、インフラセンサ3との通信を実行する。
【0026】
処理部52は、CPUと、ROM及びRAM等のメモリと、を有するマイクロコンピュータを備え、種々の機能を実現するための処理を実行する。
サーバ5は、処理部52が実行する処理によって実現される機能を表す機能ブロックとして、情報生成部521と、情報配信部522とを備える。
【0027】
情報生成部521は、通信器51を介して複数のフィールドセンサSから取得されるセンサ情報及び物標情報を用いて、対象エリアに存在する物標の情報を統合した統合情報を生成する。対象エリアは、サーバ5での処理の対象となるエリアであり、あらかじめサーバ5に割り当てられる。統合情報には、少なくとも物標の位置情報が含まれる。物標を追跡して位置情報を逐次更新する追跡処理の詳細については後述する。
【0028】
情報配信部522は、情報生成部521で生成された統合情報を、対象エリアに存在する車載端末2に、通信器51を介して配信する。
記憶部53には、対象エリアの地図、及び対象エリア内で過去一定期間内に検出された物標の位置の時系列情報が少なくとも記憶される。
【0029】
[2.追跡処理]
次に、サーバ5が情報生成部521としての機能の一部を実現するために実行する追跡処理を、図5のフローチャートを用いて説明する。
【0030】
本処理は、サーバ5が起動している間、一定周期で繰り返し実行される。
S110では、サーバ5は、前回の処理サイクルから今回の処理サイクルまでの間に通信器51を介して受信された、物標情報及びセンサ情報を取得する。
【0031】
続くS120では、サーバ5は、S110にて取得したセンサ情報に基づき、対象エリアを示す地図上に、フィールドセンサSの位置及び検知エリアを示したセンサマップを生成する。
【0032】
続くS130では、サーバ5は、センサマップに示されたフィールドセンサSの検知エリアAに基づき、フィールドセンサSの検知性能が低下するつなぎエリアCXを設定する。例えば、図6に示すように、検知エリアの境界を基準として内側X[m]から外側Y[m]の範囲をつなぎエリアCXとしてもよい。また、つなぎエリアCXのうち、他のフィールドセンサSの検知エリアの非つなぎエリアと重複する場合、その重複部分は非つなぎエリアとする。ここでの非つなぎエリアは、検知エリアAからつなぎエリアCXを除いた範囲をいう。
【0033】
続くS140では、サーバ5は、前回の処理サイクルまでに検出されている物標(以下、追跡物標)についての予測値と、S110で取得した物標情報に示された物標(以下、観測物標)の位置である観測値のそれぞれについて、信頼度を設定する。信頼度は、位置の検出に用いられたセンサの種類、スペック、外部環境(すなわち、対象エリアの環境)、追跡物標の種類及び速度などうち、少なくとも1つの要素に基づいて設定される。
【0034】
例えば、観測値の生成元となったフィールドセンサSが、天気の影響を受け易いライダー102である場合、観測値の信頼度を、晴れの場合は高く、雨や雪の場合は低く設定してもよい。また、予測値との一致度が高いほど観測値の信頼度を高く設定してもよい。また、予測値の場合、例えば、予測値に対応づけられる追跡物標が物標として最初に認識されてからの経過時間が長いほど信頼度を高く設定してもよい。また、予測値に対応づけられる追跡物標の種類が、走行中の車両など、位置を予測し易い物標である場合、予測値の信頼度を高く設定してもよい。
【0035】
続くS150では、サーバ5は、追跡物標のうち、後述するS160~S190の処理が未だ実施されていない、いずれか一つを、対象物標として選択する。
続くS160では、サーバ5は、対象物標と履歴接続を有する観測物標が存在するか否かを判定し、存在すれば処理をS170に移行し、存在しなければ処理をS180に移行する。なお、履歴接続の有無は、例えば、対象物標と観測物標との距離で判定することが考えられるが、これに限定されるものではなく、履歴接続の有無を判定する公知の手法を用いることができる。以下では、履歴接続があると判定された予測値と観測値との組み合わせを対応値ペアという。
【0036】
S170では、サーバ5は、対象物標の予測値と対応値ペアを構成する観測値に基づき、観測値がつなぎエリアCX内にあるか否かを判定し、つなぎエリアCX内にあればS180に移行し、つなぎエリアCX内になければ処理をS190に移行する。
【0037】
S180では、サーバ5は、対象物標の予測値の信頼度が高くなるように、該信頼度を調整して処理をS190に進める。
S190では、サーバ5は、対応値ペアと、対応値ペアについてS140にて設定された信頼度、又はS180にて調整された信頼度と、に従って、対象物標の位置(すなわち、推定値)を更新する。具体的には、例えば、信頼度を重みとする対応値ペアの重みづけ加算によって推定値を算出してもよい。また、対応値ペアのうち、いずれか信頼度の高い方の値をそのまま推定値としてもよい。対象物標の予測値と対応値ペアを構成する観測値が抽出されなかった場合、予測値をそのまま推定値としてもよい。なお、あらかじめ設定された上限回連続して履歴接続のある観測物標が抽出されなかった対象物標は、ロストしたものとして追跡物標から削除してもよい。
【0038】
続く、S200では、サーバ5は、すべての追跡物標が先のS150で対象物標として選択されたか否かを判定する。サーバ5は、未選択の追跡物標が存在すると判定した場合は、処理をS150に戻し、全ての追跡物標が選択済みであると判定した場合は、処理をS210へ移行する。
【0039】
S210では、サーバ5は、追跡物標の更新を行って処理を終了する。具体的には、既に登録されている追跡物標については、S190で更新された推定値を用いて、次回の処理サイクルで使用する予測値を算出する。いずれの追跡物標とも履歴接続が確認されなかった観測物標は、あらたな追跡物標として登録すると共に、観測値に基づいて次回の処理サイクルで使用する予測値を算出する。
【0040】
なお、追跡処理において、S110が情報取得部に相当し、S130がエリア設定部に相当し、S140が信頼度設定部に相当し、S180が信頼度調整部に相当し、S190が推定値更新部に相当する。
【0041】
[3.動作例]
図7は、フィールドセンサS1,S2の検知エリアA1,A2にエリアの重複がない場合を示す。物標が、検知エリアA1から検知エリアA2に移動する場合、検知エリアA1,A2の境界付近及び検知エリアA1,A2のいずれにも属さない範囲では、観測値の精度が低下する。このようなエリアがつなぎエリアCXとなる。図7では、便宜上、つなぎエリアCXを長方形で示す。
【0042】
つなぎエリアCXでは、図7中の黒四角印で示された対象物標の観測値より、図7中の白抜き三角印で示された追跡物標の予測値の方が、図7中の黒四角印で示された対象物標の観測値より、信頼度が高く設定される。このため、つなぎエリアCXでは、位置精度が低下した観測値より、予測値を重視して推定値が算出される。
【0043】
図8に示すように、つなぎエリアCXが設定されない場合、物標が検知エリアA1,A2を跨いで移動する際に、検知エリアの境界付近での観測値の検出誤差が増大するため、このような観測値を用いて算出される推定値は、実際の位置から大きく外れたものとなる。その結果、物標が検知エリアA1,A2を跨いだときに、フィールドセンサS1で最後に検出される観測値と、フィールドセンサS2で際初に検出される観測値とは、大きく異なったものとなる場合がある。その結果、両検知エリアA1,A2で検出された物標は同一であるにも関わらず、別の物標として認識されてしまう。これに対して つなぎエリアCXが設定される場合、つなぎエリアCXでは、予測値が重視されるように信頼度が調整される。このため、物標の移動の仕方が大きく変化をしない限り、推定値が真値から大きく外れることがなく、物標の追跡精度が維持される。
【0044】
[4.効果]
以上詳述した実施形態によれば、以下の効果を奏する。
(4a)本実施形態では、観測値の精度が低下するエリアであるつなぎエリアCXを設定し、つなぎエリアCXでは、予測値の信頼度が高くなるように調整する。従って、つなぎエリアCXにおいて、センサの検出誤差が増大することによる物標位置の推定精度、ひいては、物標の追跡精度が低下することを抑制できる。更には、つなぎエリアCXにて物標の誤検知及び未検知が発生すること抑制できる。
【0045】
[5.他の実施形態]
以上、本開示の実施形態について説明したが、本開示は上述の実施形態に限定されることなく、種々変形して実施することができる。
【0046】
(5a)上記実施形態では、フィールドセンサSの検知エリアAの境界付近の所定範囲がつなぎエリアCXとして設定されているが、本開示は、これに限定されるものではない。例えば、図9に示すように、上記実施形態で設定された検知エリアAの非つなぎエリア以外のすべてがつなぎエリアCXとして設定されてもよい。
【0047】
(5b)上記実施形態では、検知エリアA毎に個別につなぎエリアCXが設定されているが、本開示は、これに限定されるものではない。例えば、図10に示すように、2つのフィールドセンサS1,S2をつなぐ直線上につなぎエリアCXを設定してもよい。この場合、つなぎエリアCXとして、上記直線上にエリア中心を有し、ベクトルV12と平行で辺長がE1の辺と、ベクトルABと直交し辺長がE2の辺とで形成される矩形状のエリアを設定してもよい。なお、つなぎエリアCXのエリア中心がフィールドセンサS1から距離D1だけ離れているとした場合、距離D1は、(1)式を満たすように設定されてもよい。但し、DはフィールドセンサS1,S2間の距離、R1はフィールドセンサS1の検知距離、R2はフィールドセンサS2の検知距離である。
【0048】
D1/D=R1/(R1+R2) (1)
(5c)上記実施形態では、追跡物標の状態に関わらずつなぎエリアCXが設定されるが、本開示は、これに限定されるものではない。例えば、隣接する二つのフィールドセンサS1,S2の検知エリアA1,A2を跨いで移動する可能性がある追跡物標が存在する場合に、それら二つのフィールドセンサS1,S2の間にだけつなぎエリアCXを設定してもよい。例えば、追跡物標の移動方向を示すベクトルを移動ベクトルと、フィールドセンサS1からフィールドセンサS2を見た方向を示す位置ベクトルとが、一定の平行度を有する場合に、追跡物標は検知エリアA1,A2を跨いで移動する可能性があると判定してもよい。なお、移動ベクトルと位置ベクトルの平行度は、例えば、正規化された二つのベクトルの内積が一定値以上であるか否かによって判定してもよい。
【0049】
(5d)本開示に記載の処理部23,33,52及びその手法は、コンピュータプログラムにより具体化された一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。あるいは、本開示に記載の処理部23,33,52及びその手法は、一つ以上の専用ハードウェア論理回路によってプロセッサを構成することによって提供された専用コンピュータにより、実現されてもよい。もしくは、本開示に記載の処理部23,33,52及びその手法は、一つ乃至は複数の機能を実行するようにプログラムされたプロセッサ及びメモリと一つ以上のハードウェア論理回路によって構成されたプロセッサとの組み合わせにより構成された一つ以上の専用コンピュータにより、実現されてもよい。また、コンピュータプログラムは、コンピュータにより実行されるインストラクションとして、コンピュータ読み取り可能な非遷移有形記録媒体に記憶されてもよい。処理部23,33,52に含まれる各部の機能を実現する手法には、必ずしもソフトウェアが含まれている必要はなく、その全部の機能が、一つあるいは複数のハードウェアを用いて実現されてもよい。
【0050】
(5e)上記実施形態における1つの構成要素が有する複数の機能を、複数の構成要素によって実現したり、1つの構成要素が有する1つの機能を、複数の構成要素によって実現したりしてもよい。また、複数の構成要素が有する複数の機能を、1つの構成要素によって実現したり、複数の構成要素によって実現される1つの機能を、1つの構成要素によって実現したりしてもよい。また、上記実施形態の構成の一部を省略してもよい。また、上記実施形態の構成の少なくとも一部を、他の上記実施形態の構成に対して付加又は置換してもよい。
【0051】
(5f)上述した物標追跡装置としてのサーバ5の他、当該物標追跡装置を構成要素とするシステム、当該物標追跡装置としてコンピュータを機能させるためのプログラム、このプログラムを記録した半導体メモリ等の非遷移的実体的記録媒体、位置推定方法など、種々の形態で本開示を実現することもできる。
【符号の説明】
【0052】
1…交通管制システム、2…車載端末、3…インフラセンサ、5…サーバ、51…通信器、52…処理部、53…記憶部、521…情報生成部、522…情報配信部、A…検知エリア、CX…つなぎエリア、S…フィールドセンサ。
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