(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】酸化鉄粒子含有粉末、および金属空気電池用負極材
(51)【国際特許分類】
C01G 49/06 20060101AFI20230511BHJP
H01M 12/08 20060101ALI20230511BHJP
H01M 4/48 20100101ALI20230511BHJP
H01M 4/13 20100101ALI20230511BHJP
H01M 4/36 20060101ALI20230511BHJP
C01G 49/08 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C01G49/06 A
H01M12/08 K
H01M4/48
H01M4/13
H01M4/36 B
C01G49/08 B
(21)【出願番号】P 2020118022
(22)【出願日】2020-07-08
【審査請求日】2022-02-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504145342
【氏名又は名称】国立大学法人九州大学
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100165696
【氏名又は名称】川原 敬祐
(74)【代理人】
【氏名又は名称】杉原 あずさ
(72)【発明者】
【氏名】友澤 方成
(72)【発明者】
【氏名】山田 克美
(72)【発明者】
【氏名】石原 達己
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-216109(JP,A)
【文献】国際公開第2012/164834(WO,A1)
【文献】特開2012-094509(JP,A)
【文献】特開昭57-092592(JP,A)
【文献】特表2008-503428(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 49/00-49/10
H01M 12/08
H01M 4/00-4/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
Fe
2O
3およびFe
3O
4の少なくとも一方からなる酸化鉄を含む酸化鉄粒子を80mass%以上、ならびに、該酸化鉄がFe
3O
4を含む場合にはFe
3O
4、該酸化鉄がFe
3O
4を含まない場合にはFe
2O
3の200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーよりも該温度域における標準生成自由エネルギーが小さい酸化物を含む酸化物粒子を3mass%以上含
み、厚さが0.01μm以上1μm以下であり、かつアスペクト比が2.0以上である板状粒子を、10vol%以上含有する、酸化鉄粒子含有粉末。
【請求項2】
前記酸化物粒子は、酸化クロム、酸化シリコン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ニオブ、酸化チタン、および酸化バナジウムからなる群から選ばれる1つまたは2つ以上を含有する、請求項1に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【請求項3】
前記板状粒子は、前記酸化鉄粒子および前記酸化物粒子を含む複合粒子である、請求項1または2に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【請求項4】
前記
酸化物は、前記酸化鉄との密度の差が±1.0g/cm
3
以内である、請求項1から3
のいずれか1項に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項に記載の酸化鉄粒子含有粉末を含む、金属空気電池用負極材。
【請求項6】
Fe
2
O
3
およびFe
3
O
4
の少なくとも一方からなる酸化鉄と、該酸化鉄がFe
3
O
4
を含む場合にはFe
3
O
4
、該酸化鉄がFe
3
O
4
を含まない場合にはFe
2
O
3
の200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーよりも該温度域における標準生成自由エネルギーが小さい酸化物とを、前記酸化鉄を80mass%以上、前記酸化物を3mass%以上の配合比で配合して配合物を得る配合工程と、
前記配合物を粉砕し、酸化鉄粒子と酸化物粒子とを含む酸化鉄粒子含有粉末を得る粉砕工程と
を含む、酸化鉄粒子含有粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は繰返しの酸化還元反応に対する反応活性の低下が小さい酸化鉄粒子含有粉末、ならびに該酸化鉄粒子含有粉末を用いた金属空気電池用負極材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄は安価で安定的に供給できる金属であるため、下記に示す鉄の酸化還元反応を利用した金属空気電池の開発が行われている。ここで、Mは金属鉄、MOは酸化鉄である。
M + H2O → MO + H2 (放電)
MO + H2 → M + H2O (充電)
【0003】
上記の酸化還元反応を活性化するために、粒子径が数10~数100nmの微粒子状の鉄粒子が通常使用されている。鉄が酸化すると反応熱が発生するが、鉄粒子の比表面積が大きい場合、400~600℃程度の比較的低温であっても鉄粒子の焼結反応が起きて、鉄粒子が粗大化する。この結果、鉄粒子の比表面積が減少するため、繰返し使用により酸化還元反応の反応効率が大幅に低下するという問題がある。
【0004】
上記問題を解決するため、特許文献1では、鉄または酸化鉄に、白金族の金属、あるいは前記白金族の金属とともに、第2の添加金属としてTi,Zr,V,Nb,Cr,Mo,Al,Ga,Mg,Mg,Mg,Sc,NiおよびCuのうちの少なくともいずれか一つを複合添加する反応媒体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、特許文献1では、第2の添加金属のみでは反応効率が不十分であるため、高価な白金族と併用する必要がある。また鉄粒子に添加金属を合金化させる方法として、共沈法等の薬液処理を用いるため、製造コストがかかることも課題である。
【0007】
本発明は、かかる事情に鑑みてなされたもので、より安価で、且つ酸化還元反応を繰り返しても反応効率を維持することができる酸化鉄粒子含有粉末を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題解決のために、発明者らはより安価で、且つ酸化還元処理を繰り返しても反応効率を維持することができる材料について鋭意検討した。その結果、大気圧下の200℃以上600℃以下の温度域において、酸化鉄よりも安定な酸化物を焼結抑制剤として所定量添加した酸化鉄粒子含有粉末が有効であることを知見し、本発明を完成するに至った。本発明の要旨とするところは以下である。
【0009】
[1] Fe2O3およびFe3O4の少なくとも一方からなる酸化鉄を含む酸化鉄粒子を80mass%以上、ならびに、該酸化鉄がFe3O4を含む場合にはFe3O4、該酸化鉄がFe3O4を含まない場合にはFe2O3の200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーよりも該温度域における標準生成自由エネルギーが小さい酸化物を含む酸化物粒子を3mass%以上含む、酸化鉄粒子含有粉末。
【0010】
[2] 前記酸化物粒子は、酸化クロム、酸化シリコン、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化カルシウム、酸化ニオブ、酸化チタン、および酸化バナジウムからなる群から選ばれる1つまたは2つ以上を含有する、前記[1]に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【0011】
[3] 厚さが0.01μm以上1μm以下であり、かつアスペクト比が2.0以上である板状粒子を、10vol%以上含有する、前記[1]または[2]に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【0012】
[4] 前記板状粒子は、前記酸化鉄粒子および前記酸化物粒子を含む複合粒子である、前記[3]に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【0013】
[5] 前記酸化物は、前記酸化鉄との密度の差が±1.0g/m3以内である、前記[1]~[4]のいずれか1項に記載の酸化鉄粒子含有粉末。
【0014】
[6] 前記[1]~[5]のいずれか1項に記載の酸化鉄粒子含有粉末を含む、金属空気電池用負極材。
【0015】
[7] Fe2O3およびFe3O4の少なくとも一方からなる酸化鉄と、該酸化鉄がFe3O4を含む場合にはFe3O4、該酸化鉄がFe3O4を含まない場合にはFe2O3の200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーよりも該温度域における標準生成自由エネルギーが小さい酸化物とを、前記酸化鉄を80mass%以上、前記酸化物を3mass%以上の配合比で配合して配合物を得る配合工程と、
前記配合物を粉砕し、酸化鉄粒子と酸化物粒子とを含む酸化鉄粒子含有粉末を得る粉砕工程と
を含む、酸化鉄粒子含有粉末の製造方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、より安価で、且つ酸化還元反応を繰り返しても反応効率を維持することができる酸化鉄粒子含有粉末を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】板状粒子の形態について説明するための図である。
【
図2】金属空気電池について説明するための図である。
【
図3】実施例において負極材の性能を評価するために用いたセルについて説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の好適な実施形態について説明する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。また、本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。
【0019】
本実施形態に係る酸化鉄粒子含有粉末は、Fe2O3およびFe3O4の少なくとも一方からなる酸化鉄を含む酸化鉄粒子を80mass%以上、ならびに、該酸化鉄がFe3O4を含む場合にはFe3O4、該酸化鉄がFe3O4を含まない場合にはFe2O3の200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーよりも該温度域における標準生成自由エネルギーが小さい酸化物を含む酸化物粒子を3mass%以上含む。
【0020】
[酸化鉄粒子]
酸化鉄粒子含有粉末の基材となる酸化鉄粒子は、鉄の酸化反応で安定に生成するFe2O3(ヘマタイト)およびFe3O4(マグネタイト)の少なくとも一方を含む。酸化鉄粒子の含有量は、酸化鉄粒子含有粉末全体に対して80mass%以上とする。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化鉄粒子の含有量が80mass%未満の場合、酸化還元反応に寄与する酸化鉄の量が少なくなるため、該酸化鉄粒子含有粉末を用いた酸化還元反応により回収できる電荷量が少なくなる。したがって酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化鉄粒子の含有量を80mass%以上とする。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化鉄粒子の含有量は、85mass%以上が好ましく、90mass%以上がより好ましい。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化鉄粒子の含有量の上限は、焼結抑制剤の含有量との関係から、97mass%以下とする。
【0021】
酸化鉄粒子に含まれるFe2O3およびFe3O4の含有量の比は特に限定されない。すなわち、酸化鉄粒子はFe2O3のみを酸化鉄として含んでいてもよく、Fe3O4のみを酸化鉄として含んでいてもよい。
【0022】
酸化鉄粒子の形状は、特に限定されず、球状、多面体形状、および板状のいずれであってもよい。粒子形状が球状または多面体形状の場合、反応効率の観点から、粒子径(一次粒子径)は0.01μm以上であることが好ましく、また1μm以下であることが好ましい。
【0023】
また、酸化鉄粒子は、単独粒子であってもよく、後述するように酸化物粒子とともに複合粒子を構成していてもよい。なお、本実施形態においては、酸化鉄粒子は酸化鉄および不可避的不純物からなる。しかしながら、酸化鉄粒子は酸化鉄および不可避的不純物に加えて、微量の添加元素を含んでいてもよい。
【0024】
[焼結抑制剤]
焼結抑制剤は、上述の酸化鉄粒子同士の焼結を抑制する作用を有する。この作用を有効に発揮させるために、焼結抑制剤としては、鉄の酸化還元を生じさせる雰囲気温度を200℃以上600℃以下の温度域として、大気圧下における酸化物生成の標準生成自由エネルギーΔG0が、同温度域における前記酸化鉄の標準生成自由エネルギーΔG0(Fe2O3:-450~―400kJ/mol,Fe3O4:-470~-425kJ/mol)よりも小さい、すなわち鉄の酸化還元が生ずる雰囲気温度において安定な酸化物を選択する。上述した通り、酸化鉄はFe2O3およびFe3O4の少なくとも一方からなるが、酸化鉄に含まれるFe2O3およびFe3O4のうち、上記温度域における標準生成自由エネルギーΔG0が小さい方よりも、酸化物の上記温度域における標準生成自由エネルギーΔG0が小さければよい。すなわち、酸化鉄がFe3O4を含む場合には酸化物の上記温度域における標準生成自由エネルギーΔG0がFe3O4よりも小さければよい。また、酸化鉄がFe3O4を含まない場合には、200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーがFe2O3よりも小さければよい。なお、標準生成自由エネルギーに関しては、例えば、参考文献1のエリンガム図より、各酸化物の200℃および600℃のΔG0の値を用いる。
【0025】
雰囲気温度が200℃よりも低い場合には鉄の酸化還元反応が進行せず、一方で600℃よりも高い場合には焼結が顕著になる。このため、本実施形態に係る酸化物粒子含有粉末を用いて酸化還元反応を生じさせる雰囲気温度は200℃以上600℃以下とすることが好ましい。焼結抑制剤としては、200℃以上600℃以下において安定な酸化物として、表1に示すように酸化クロム(Cr2O3)、酸化シリコン(SiO2)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化マンガン(MnO)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化カルシウム(CaO)、酸化ニオブ(Nb2O3)、酸化チタン(TiO2、TiO)、および酸化バナジウム(V2O3)からなる群から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上の酸化物を焼結抑制剤として選択することが好ましい。
【0026】
焼結抑制剤としては、酸化鉄との密度(真密度)の差が±1.0g/cm
3
以内である酸化物が好ましい。酸化鉄粒子との密度の差が±1.0g/cm
3
以内の酸化物は、酸化鉄粒子含有粉末中に均一に分散させることが容易だからである。このような酸化物として、酸化クロム、酸化ジルコニウム、酸化マンガン、酸化亜鉛、酸化ニオブ、酸化チタン、および酸化バナジウムからなる群から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上を選択することが好ましい。酸化物の安定性と均一分散性という観点から、酸化物は、酸化クロム、酸化ジルコニウム、および酸化マンガンからなる群から選ばれるいずれか1つまたは2つ以上とすることがより好ましい。
【0027】
酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化物(焼結抑制剤)の含有量は、3mass%以上とする。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化物が3mass%未満の場合、焼結抑制効果が不十分である。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する焼結抑制剤の含有量は、5%超であってもよく、6%以上であってもよい。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する酸化物の含有量の上限は、酸化鉄粒子の含有量との関係から、20mass%以下とする。
【0028】
焼結抑制剤の粒子形状は特に制限されず、球状、多面体形状、板状のいずれであってもよい。焼結抑制剤は、酸化鉄粒子の表面に吸着する、あるいは酸化鉄粒子の隙間に分散して、酸化鉄粒子の焼結抑制効果を発揮することができる。このような効果を得るためには、酸化物粒子が球状または多面体形状の粒子の場合、一次粒子径を5nm以上とすることが好ましく、また30nm以下とすることが好ましい。
【0029】
なお、本実施形態においては、酸化物粒子は酸化物および不可避的不純物からなる。しかしながら、酸化物粒子は酸化物および不可避的不純物に加えて、微量の添加元素を含んでいてもよい。
【0030】
酸化鉄粒子含有粉末は、厚さ0.01μm以上1μm以下、かつ短片に対する長片のアスペクト比が2.0以上である板状粒子を含有することが好ましい。この板状粒子は、
図1に示すように、酸化鉄粒子と酸化物粒子とを含む複合粒子であり、数nm~数100nm径の酸化物および酸化鉄の一次粒子が凝集した凝集体である。このような板状凝集体構造とすることにより、同じ体積の球状または多面体形状の凝集粒子(二次粒子)と比べて表面積を大きくすることができ、さらに焼結抑制材が微細且つ均一に分散することで焼結抑制効果を高めることができる。その結果、繰返しの酸化還元によっても酸化鉄粒子同士の焼結が起こりにくくなるため、酸化鉄粒子含有粉末を鉄空気電池の負極材として用いた際に特に優れた特性を発揮すると考えられる。上記効果を得るために、酸化鉄粒子粉末全体に占める板状粒子の含有量は10vol%以上とすることが好ましい。酸化鉄粒子含有粉末全体に占める板状粒子の含有量は21vol%以上とすることがより好ましい。酸化鉄粒子含有粉末全体に占める板状粒子の含有量の上限は特に限定されず、100vol%であってもよい。また、板状粒子の一次粒子径(球相当径)は5nm以上とすることが好ましく、また30nm以下とすることが好ましい。酸化鉄粒子、酸化物粒子、およびこれらが複合して形成される板状粒子の粒子径は、実施例に示す方法によって測定する。
【0031】
本実施形態に係る酸化鉄粒子含有粉末は、酸化還元処理を繰り返した際の酸化鉄粒子同士の焼結を抑制し、反応効率を維持することができる。よって、本実施形態に係る酸化鉄粒子含有粉末は、金属空気電池の負極材の活物質として好適である。酸化鉄粒子含有粉末を金属空気電池の負極材の活物質とする場合、上述したように、酸化還元反応を生じさせる雰囲気温度は200~600℃とすることが好ましい。
【0032】
図2を用いて、本実施形態に係る酸化鉄粒子含有粉末を負極の活物質として含む金属空気電池(鉄空気電池)について説明する。
図2に示すように、金属空気電池7においては、放電時には、図中の矢印の方向に電流が流れる。まず、空気電極5において、O
2が電子と結びついてO
2-が生ずる。次いで、負極の酸化鉄粒子含有粉末1において、鉄の酸化反応が起こり、水素が発生する。該水素がO
2-と結びついて水が発生し、負極側から電子が流出する。逆に、充電時には図中矢印の方向に電流が流れる。負極の酸化鉄粒子含有粉末1において、流入した電子によって鉄の還元反応が起こる。該還元反応によって、水素とO
2-とが発生する。発生したO
2-は空気電極5において電子を放出してO
2となり、外部へと放出される。
【0033】
次に酸化鉄粒子含有粉末の製造方法について述べる。
本実施形態に係る酸化鉄粒子含有粉末の製造方法は、Fe2O3およびFe3O4の少なくとも一方からなる酸化鉄と、該酸化鉄がFe3O4を含む場合にはFe3O4、該酸化鉄がFe3O4を含まない場合にはFe2O3の200℃以上600℃以下の温度域における標準生成自由エネルギーよりも該温度域における標準生成自由エネルギーが小さい酸化物とを、前記酸化鉄を80mass%以上、前記酸化物を3mass%以上の配合比で配合して配合物を得る配合工程と、前記配合物を粉砕し、酸化鉄粒子と酸化物粒子とを含む酸化鉄粒子含有粉末を得る粉砕工程とを含む。
【0034】
主要原料である酸化鉄としては、顔料、フェライト原料等の工業用材料として入手可能な酸化鉄(Fe2O3およびFe3O4の少なくとも一方)を用いることができる。あるいは、硫酸第一鉄または塩化第一鉄から、湿式法または乾式法など一般的な製法で上記の粒子径の酸化鉄粒子を作製することもできる。原料となる酸化鉄の粒子径は特に限定されず、入手容易な数10nm~数μm程度でよい。焼結抑制剤についても、試薬のほか工業用材料として入手可能な酸化物粒子粉末を用いることができる。原料となる焼結抑制剤の粒子径は特に限定されず、数10nm~数μm程度でよい。
【0035】
上記の酸化鉄と焼結抑制剤とを、酸化鉄を80mass%以上、酸化物を3mass%以上の配合比にて配合して配合物を得た後、粉砕機に移し、混合を兼ねて酸化鉄粒子および酸化物粒子の一次粒子径が所定サイズになるまで配合物を粉砕する。酸化鉄粒子および酸化物粒子の一次粒子径については上述した通りである。粉砕機は、粒子をnmレベルまで微粉砕できる能力を有する設備であればよく、例えばジェットミル粉砕機、ボールミル粉砕機などが好ましい。
【0036】
上述した板状粒子は、例えば高エネルギーボールミルにて前記配合物を粉砕混合することで得られる。また、酸化鉄粒子含有粉末全体に対する板状粒子の含有量は、酸化鉄粉と焼結抑制剤とを粉砕混合する際の高エネルギーボールミルの回転数によって調整することができる。酸化鉄粒子含有粉末全体に対する板状粒子の含有量は、粉砕混合後に得られた酸化鉄粒子含有粉末全体から板状粒子を抽出することによって調整することもできる。
【実施例】
【0037】
酸化鉄および酸化物を、表2に示す配合比で配合して原料粉とした。ポットに原料粉を入れ、原料粉10gに対してエタノール50mlを投入し、高エネルギーボールミル(フリッチュ社製:pulverisette 7)を用いて、表3に示す回転速度および時間にて粉砕し、酸化鉄粒子含有粉末を作製した。なお、No.21については、粉砕後の酸化鉄粒子含有粉末試料を溶媒中に分散させ、穴径3μmのフィルターによりろ過して、板状粒子を抽出した。次いで、ポットから酸化鉄粒子含有粉末を取出し、酸化鉄粒子、および酸化物粒子の粒子径を求めた。また、板状粒子の粒子径、体積分率、および酸化還元特性を求めた。
【0038】
(粒子径の測定)
酸化鉄および酸化物粒子の粒子径に関しては、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)と特性X線分析(Energy dispersive X-ray spectroscopy:EDX)により2万倍のマッピング像を3視野取得し、各粒子を各々任意に20粒子選び、その粒子径を測長した。
得られた酸化鉄粒子含有粉末中に含まれる板状粒子の形態および体積分率は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)および走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope:STEM)を用いて、次のようにして求めた。2000倍のSEM像の中で、線状に見える長さ10μm程度の粒子を数個選び、200万倍のSTEM観察によりこの粒子の厚さを測定し、いずれも厚さが0.01~1μmの板状粒子であることを確認した。次いで、2000倍のSEM像中に存在する板状粒子を任意に20粒子選び、その短辺および長辺を測長し、その平均値からアスペクト比を求めた。板状粒子を構成する一次粒子の径および組成は、200万倍のSTEMと特性X線分析(Energy dispersive X-ray spectroscopy:EDX)とによって確認した。酸化鉄粉末中に存在する板状粒子の割合は、STEM-EDXにより2万倍のマッピング像を3視野取得し、画像処理により板状粒子とそれ以外の粒子とを分離し、板状粒子の割合を体積率として求めた。
【0039】
(酸化還元特性)
酸化鉄粒子含有粉末の酸化還元特性を測定するため、ガス導入と加熱とが可能な熱天秤に
図3に示すセル6を配置した装置を用いた。20ccのセル6内に50mgの酸化鉄粒子含有粉末1を導入した。セル6を400℃に保持し、100ml/minで60minの水素ガス導入による酸化鉄の還元処理と、2.8vol%の水蒸気導入を180min行うことによる鉄の酸化処理とを繰返し行なった。還元処理により酸化鉄粒子がFeとなり、酸化処理によりFeが酸化されてすべてFe
3O
4となる。そのため、酸化還元により酸化鉄粒子含有粉末1の重量が変化する。各還元処理後および酸化処理後の酸化鉄粒子含有粉末1の重量変化ΔMを測定した。
【0040】
初回の還元処理ですべてFeとなった時点からスタートし、1回の酸化、還元処理を1サイクルとし、繰返し重量変化として、10サイクル目の酸化、還元による重量変化ΔM10を測定した。10サイクル目の重量変化ΔM10が、1サイクル目の重量変化ΔM1の90%以上であれば◎、90%未満、70%以上であれば〇、70%未満、50%以上であれば△、50%未満であれば×とした。結果を表3に示した。
【0041】
また変化量として、酸化還元処理による理論的な重量変化ΔMRを100%とした場合に、10サイクル目の酸化還元による重量変化ΔM10が90%以上であれば◎、90%未満、70%以上であれば〇、70%未満、50%以上であれば△、50%未満であれば×とした。結果を表3に示した。
【0042】
【0043】
【0044】
【0045】
<参考文献1>鉄鋼便覧第3版I,日本鉄鋼協会(丸善) 1981, p4.
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明は、酸化還元時の焼結を抑制した酸化鉄粒子含有粉末である。本発明に係る酸化鉄粒子含有粉末を用いることで、低コスト且つ長寿命の鉄空気電池の負極材を製造することができるため、本発明は将来の水素エネルギー社会の構築に有用である。
【符号の説明】
【0047】
1 酸化鉄粒子含有粉末
2 酸化鉄粒子
3 酸化物粒子
4 板状粒子
5 空気電極
6 セル
7 金属空気電池