(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】超高強度冷延鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230511BHJP
C22C 38/38 20060101ALI20230511BHJP
C21D 9/46 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C22C38/00 301S
C22C38/38
C21D9/46 G
(21)【出願番号】P 2020531478
(86)(22)【出願日】2018-12-20
(86)【国際出願番号】 KR2018016371
(87)【国際公開番号】W WO2019125018
(87)【国際公開日】2019-06-27
【審査請求日】2020-06-08
(31)【優先権主張番号】10-2017-0178957
(32)【優先日】2017-12-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【氏名又は名称】原 裕子
(74)【代理人】
【識別番号】100195257
【氏名又は名称】大渕 一志
(72)【発明者】
【氏名】ク、 ミン-ソ
(72)【発明者】
【氏名】ソ、 イン-シク
【審査官】川村 裕二
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/182596(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/129213(WO,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2014-0037180(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0063198(KR,A)
【文献】韓国公開特許第10-2012-0074798(KR,A)
【文献】国際公開第2013/082188(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 1/00-11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.25~0.4%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:3.0~4.0%、P:0.03%以下(0を除く)、S:0.015%以下(0を除く)、Al:0.1%以下(0を除く)、Cr:1%以下(0を除く)、Ti:48/14*[N]~0.1%以下、Nb:0.1%以下(0を除く)、B:0.005%以下(0を除く)、N:0.01%以下(0を除く)、残りのFe及びその他の不純物からなり、
微細組織は、面積%で、90%以上(100%を含む)のマルテンサイト、10%以下(0%を含む)のフェライト及びベイナイトのうち1種又は2種を含み、
1700MPa以上の引張強度を有し、
鋼板の幅方向について裁断や矯正することなく、前記鋼板を長さ方向に1000mmのサイズに切断した後、鋼板の幅方向のエッジ(edge)部において3mm以下の波高(ΔH)を有する、超高強度冷延鋼板。
【請求項2】
請求項1に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法であって、
重量%で、C:0.25~0.4%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:3.0~4.0%、P:0.03%以下(0を除く)、S:0.015%以下(0を除く)、Al:0.1%以下(0を除く)、Cr:1%以下(0を除く)、Ti:48/14*[N]~0.1%以下、Nb:0.1%以下(0を除く)、B:0.005%以下(0を除く)、N:0.01%以下(0を除く)、残りのFe及びその他の不純物からなる鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱する段階と、
前記加熱された鋼スラブをAr
3以上の仕上げ熱間圧延温度の条件で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、
前記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻取る段階と、
前記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、
前記冷延鋼板を780~880℃の温度範囲で焼鈍熱処理する段階と、
前記のように焼鈍熱処理された冷延鋼板を700~650℃の1次冷却終了温度まで5℃/sec以下の冷却速度で1次冷却する段階と、
前記のように1次冷却された冷延鋼板を320℃以上の2次冷却終了温度(RCS)(℃)まで5℃/sec以上の冷却速度で2次冷却する段階と、
前記2次冷却された冷延鋼板を2次冷却終了温度(RCS)(℃)の範囲で過時効熱処理する段階と、を含み、
前記C、Mn及びCrと2次冷却終了温度(RCS)は下記関係式1を満たす、超高強度冷延鋼板の製造方法。
[関係式1]
1200[C]+498.1[Mn]+204.8[Cr]-0.91[RCS]>1560
(ここで、C、Mn及びCrは各成分の含有量を重量%で表したものであり、RCSは2次冷却終了温度を示す)
【請求項3】
前記仕上げ熱間圧延温度が850~1000℃である請求項2に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記冷間圧延時における圧下率が40~70%である請求項2に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【請求項5】
前記2次冷却時の冷却速度は5~20℃/secである請求項2に記載の超高強度冷延鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の衝突及び構造部材などに用いられる高強度冷延鋼板に関し、より詳細には、形状品質に優れた引張強度超高強度冷延鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
地球環境の保全のための自動車鋼板の軽量化及び乗客安全のための衝突安全性の確保という相反した目標を満足させるべく、DP(Dual Phase)鋼、TRIP(Transformation Induced Plasticity)鋼、CP(Complex Phase)鋼などの様々な自動車鋼板が開発されている。しかし、かかるAHSS鋼(Advanced high strength steel)で実現可能な引張強度は約1200Mpa級が限界である。また、衝突安全性を確保するための構造部材への適用においては、高温で成形後に水冷するダイ(Die)との直接接触による急冷によって、最終強度を確保する熱間プレス成形(Hot Press Forming)鋼が脚光を浴びているが、設備投資、熱処理及び工程コストが高いため、適用範囲が広くない。
【0003】
一般プレス成形及び熱間プレス成形(Hot press forming)に比べて生産性が高いロール成形工法は、多段ロール成形を介して複雑な形状を作製する方法であり、通常、伸び率が低い超高強度材料の成形への適用が拡大しつつある。主に、水冷却設備を備えた連続焼鈍炉で製造され、微細組織は、マルテンサイトを焼戻しした焼戻しマルテンサイト組織を示す。しかし、水冷却における幅方向及び長さ方向の温度偏差により、形状品質が劣化し、ロール成形適用の際に作業性の低下及び位置別の材質偏差などを示すという短所がある。そこで、水冷を介した急冷方法の代案を考える必要性が高まっている。
【0004】
形状に優れた超高強度鋼の製造技術として、特許文献1の、1GPa以上の強度を有するとともに形状品質を向上させた超高強度冷延鋼板の製造方法が挙げられる。特許文献1では、急冷の際に焼鈍炉内において△T及び合金成分を制限して形状品質を確保する。また、特許文献2の場合には、焼戻しマルテンサイトを活用して、高強度及び高延性をともに得ており、連続焼鈍後の板形状にも優れた冷延鋼板の製造方法を提供するが、多量のSiの含有による炉内でのデント誘発の可能性があるという問題がある。
【0005】
尚、特許文献3の場合には、水冷方法を用いて1700MPa級の引張強度を実現する製造方法を提供するが、厚さが1mm以下に限定され、従来の水冷方法のマルテンサイト鋼の短所である形状品質の劣化及び位置別の材質偏差などの問題を依然として有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】韓国公開特許第2012-0063198号公報
【文献】特開2010-090432号公報
【文献】韓国公開特許第2017-7001783号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の好ましい一側面は、形状品質に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法を提供することである。
【0008】
本発明の好ましい他の一側面は、形状品質に優れた超高強度冷延鋼板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の好ましい一側面によると、重量%で、C:0.25~0.4%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:3.0~4.0%、P:0.03%以下(0を除く)、S:0.015%以下(0を除く)、Al:0.1%以下(0を除く)、Cr:1%以下(0を除く)、Ti:48/14*[N]~0.1%以下、Nb:0.1%以下(0を除く)、B:0.005%以下(0を除く)、N:0.01%以下(0を除く)、残りのFe及びその他の不純物を含み、微細組織は、90%以上(100%を含む)のマルテンサイト、10%以下(0%を含む)のフェライト及びベイナイトのうち1種又は2種を含む超高強度冷延鋼板が提供される。
【0010】
本発明の好ましい他の一側面によると、重量%で、C:0.25~0.4%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:3.0~4.0%、P:0.03%以下(0を除く)、S:0.015%以下(0を除く)、Al:0.1%以下(0を除く)、Cr:1%以下(0を除く)、Ti:48/14*[N]~0.1%以下、Nb:0.1%以下(0を除く)、B:0.005%以下(0を除く)、N:0.01%以下(0を除く)、残りのFe及びその他の不純物を含む鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブをAr3以上の仕上げ熱間圧延温度の条件で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻取る段階と、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、上記冷延鋼板を780~880℃の温度範囲で焼鈍熱処理を行う段階と、上記のように焼鈍熱処理された冷延鋼板を700~650℃の1次冷却終了温度まで5℃/sec以下の冷却速度で1次冷却する段階と、上記のように1次冷却された冷延鋼板を320℃以上の2次冷却終了温度(RCS)まで5℃/sec以上の冷却速度で2次冷却する段階と、を含み、上記C、Mn及びCrと2次冷却終了温度(RCS)は、下記関係式1を満たす超高強度冷延鋼板の製造方法が提供される。
[関係式1]
1200[C]+498.1[Mn]+204.8[Cr]-0.91[RCS]>1560
(ここで、C、Mn及びCrは各成分の含有量を重量%で表したものであり、RCSは2次冷却終了温度を示す)
【発明の効果】
【0011】
本発明の好ましい側面によると、徐冷却区間が存在する通常の連続焼鈍炉を活用して、引張強度1700MPa以上の超高強度を有することができるだけでなく、水冷却を活用して生産したマルテンサイト鋼に比べて優れた形状品質を有する冷延鋼板を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明に対応する鋼板の一例を示す発明例1の走査電子顕微鏡の組織写真である。
【
図2】本発明の範囲を外れる鋼板を示す比較例10の走査電子顕微鏡の組織写真である。
【
図3】本発明の形状品質を測定するために用いた波高(wave height)の概念を図式的に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一側面は、従来の水冷設備を活用して急冷することによってもたらされる幅方向及び長さ方向の波(wave)の発生がない、形状品質に優れた超高強度冷延鋼板及びその製造方法を提供するものである。
【0014】
以下、本発明の好ましい一側面による超高強度冷延鋼板について説明する。
【0015】
本発明の好ましい一側面による超高強度冷延鋼板は、重量%で、C:0.25~0.4%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:3.0~4.0%、P:0.03%以下(0を除く)、S:0.015%以下(0を除く)、Al:0.1%以下(0を除く)、Cr:1%以下(0を除く)、Ti:48/14*[N]~0.1%以下、Nb:0.1%以下(0を除く)、B:0.005%以下(0を除く)、N:0.01%以下(0を除く)、残りのFe及びその他の不純物を含む。
【0016】
炭素(C):0.25~0.4重量%(以下、%ともいう)
炭素(C)は、マルテンサイトの強度を確保するために必要な成分であって、0.25%以上添加する必要がある。しかし、その含有量が0.4%を超えると、溶接性が低下するようになるため、その上限を0.4%に制限する。したがって、上記Cの含有量は、0.25~0.4%であることが好ましく、0.25~0.3%であることがより好ましい。
【0017】
シリコン(Si):0.5%以下(0を除く)
シリコン(Si)は、フェライト安定化元素であって、徐冷却区間が存在する通常の連続焼鈍炉で焼鈍した後、徐冷の際にフェライトの生成を促進することによって強度を弱くするという欠点があり、本発明のように相変態抑制のために多量のMnを添加する場合には焼鈍の際にSiによる表面濃化及び酸化によるデント欠陥を誘発するおそれがあるため、その含有量は0.5%以下(0を除く)に制限することが好ましい。上記Siの含有量は、0.2%以下であることがより好ましい。
【0018】
マンガン(Mn):3.0~4.0%
鋼中のマンガン(Mn)は、フェライトの形成を抑制し、オーステナイトの形成を簡単にする元素である。Mnの含有量が3%未満の場合には、徐冷却におけるフェライトの生成が簡単になり、Mnの含有量が4%を超えると、偏析によるバンドの形成及び転炉の操業の際に合金投入量の過多による合金鉄コストを増加させるため、その含有量は3.0~4.0%に制限することが好ましい。上記Mnの含有量は、3.0~3.6%であることがより好ましい。
【0019】
リン(P):0.03%以下(0を除く)
鋼中のリン(P)は、不純物元素であって、その含有量が0.03%を超えると、溶接性が低下して鋼の脆性が発生する可能性が大きくなり、デント欠陥を誘発するおそれが高くなるため、その上限は0.03%に限定することが好ましい。上記Pの含有量は、0.02%以下であることがより好ましい。
【0020】
硫黄(S):0.015%以下(0を除く)
硫黄(S)は、Pと同様に、鋼中不純物元素であって、鋼板の延性及び溶接性を阻害する元素である。その含有量が0.015%を超えると、鋼板の延性及び溶接性を阻害する可能性が高いため、その上限は0.015%に限定することが好ましい。上記Sの含有量は、0.01%以下であることがより好ましい。
【0021】
アルミニウム(Al):0.1%以下(0を除く)
アルミニウム(Al)は、フェライト域を拡大する合金元素であって、本発明のように徐冷却が存在する連続焼鈍工程を活用する場合には、フェライトの形成を促進し、AlNの形成による高温熱間圧延性が低下する可能性があるため、アルミニウム(Al)の含有量は、0.1%以下(0を除く)に限定することが好ましい。上記Alの含有量は、0.05%以下であることがより好ましい。
【0022】
クロム(Cr):1%以下(0を除く)
クロム(Cr)は、フェライト変態を抑制することにより低温変態組織の確保を簡単にする合金元素であって、本発明のように徐冷却が存在する連続焼鈍工程を活用する場合には、フェライトの形成を抑制するという利点があるが、1%を超えると、合金投入量の過多による合金鉄コストが増加するため、その含有量は1%以下(0を除く)に制限することが好ましい。
【0023】
チタン(Ti):48/14*[N]~0.1%
チタン(Ti)は、窒化物形成元素であって、鋼中のNをTiNとして析出させて掃気(scavenging)をする。このために、化学当量的に48/14*[N]以上を添加する必要がある。Tiが添加されない場合には、AlNの形成が原因となって連続鋳造におけるクラックの発生が懸念されるため、添加する必要がある。但し、0.1%を超えると、固溶Nの除去に加えて、追加の炭化物が析出されてマルテンサイトの強度が減少するため、チタン(Ti)の含有量は、48/14*[N]~0.1%に制限することが好ましい。
【0024】
ニオブ(Nb):0.1%以下(0を除く)
ニオブ(Nb)は、オーステナイト粒界に偏析されて焼鈍熱処理におけるオーステナイト結晶粒の粗大化を抑制する元素であるため、添加する必要がある。しかし、0.1%を超えると、合金投入量の過多による合金鉄コストが増加するため、ニオブ(Nb)の含有量は、0.1%以下(0を除く)に制限することが好ましい。上記Nbの含有量は、0.05%以下であることがより好ましい。
【0025】
ボロン(B):0.005%以下(0を除く)
ボロン(B)は、フェライトの形成を抑制する成分であって、焼鈍後の冷却においてフェライトの形成を抑制するという利点がある。しかし、上記Bの含有量が0.005%を超えると、逆にFe23(C,B)6の析出によってフェライト形成が促進される可能性があるため、ボロン(B)の含有量は、0.005%以下(0を除く)に制限することが好ましい。上記Bの含有量は、0.003%以下であることがより好ましい。
【0026】
窒素(N):0.01%以下(0を除く)
窒素(N)は、0.01%を超えると、AlNの形成などを介した連続鋳造の際にクラックが発生するおそれが大幅に増加するため、その上限は0.01%に限定することが好ましい。
【0027】
残りはFe及び不可避不純物からなる。
【0028】
本発明の好ましい一側面による超高強度冷延鋼板は、微細組織として、90%以上(100%を含む)のマルテンサイト、10%以下(0%を含む)のフェライト及びベイナイトのうち1種又は2種を含む。
【0029】
上記マルテンサイトは、強度を高める組織であって、その分率は90%以上が好ましい。一例として、100%のマルテンサイト組織を有してもよい。
【0030】
上記フェライト及びベイナイトは、引張強度の側面から不利な組織であり、急冷方法によるマルテンサイト鋼の製造工程ではなく、Mn、Cなどの硬化能元素を活用して変態を遅延させることでマルテンサイト鋼を製造する方法では、連続焼鈍工程においてフェライトあるいはベイナイト相が混入される可能性が大きい。そこで、本発明では、フェライト及びベイナイトのうち1種又は2種の分率を10%以下に制限する。一例として、上記フェライト及びベイナイトは含まれなくてもよい。
【0031】
本発明の好ましい一側面による超高強度冷延鋼板は、幅方向及び長さ方向の波(wave)の発生がない形状品質に優れ、1700MPa以上の引張強度を有することができる。
【0032】
上記冷延鋼板は、鋼板を長さ方向に1000mmのサイズに切断した後で現れるエッジ(edge)部の波高(ΔH)が3mm以下であることができる。
【0033】
以下、本発明の好ましい他の一側面による超高強度冷延鋼板の製造方法について説明する。
【0034】
本発明の好ましい他の一側面による超高強度冷延鋼板の製造方法は、重量%で、C:0.25~0.4%、Si:0.5%以下(0を除く)、Mn:3.0~4.0%、P:0.03%以下(0を除く)、S:0.015%以下(0を除く)、Al:0.1%以下(0を除く)、Cr:1%以下(0を除く)、Ti:48/14*[N]~0.1%以下、Nb:0.1%以下(0を除く)、B:0.005%以下(0を除く)、N:0.01%以下(0を除く)、残りのFe及びその他の不純物を含む鋼スラブを1100~1300℃の温度に加熱する段階と、上記加熱された鋼スラブを、Ar3以上の仕上げ熱間圧延温度の条件で熱間圧延して熱延鋼板を得る段階と、上記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻取る段階と、上記熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る段階と、上記冷延鋼板を780~880℃の温度範囲で焼鈍熱処理を行う段階と、上記のように焼鈍熱処理された冷延鋼板を700~650℃の1次冷却終了温度まで5℃/sec以下の冷却速度で1次冷却する段階と、上記のように1次冷却された冷延鋼板を320℃以上の2次冷却終了温度(RCS)まで5℃/sec以上の冷却速度で2次冷却する段階と、を含み、上記C、Mn及びCrと2次冷却終了温度(RCS)は、下記関係式1を満たす。
[関係式1]
1200[C]+498.1[Mn]+204.8[Cr]-0.91[RCS]>1560
(ここで、C、Mn及びCrは各成分の含有量を重量%で表したものであり、RCSは2次冷却終了温度を示す)
【0035】
スラブ加熱段階
先ず、上記組成を満たすスラブを1100~1300℃の温度範囲で加熱する。上記加熱温度が1100℃未満の場合には、熱間圧延荷重が急激に増加するという問題が発生し、1300℃を超えると、表面スケール量が増加し、材料の損失(loss)につながる可能性がある。したがって、スラブ加熱温度は1100~1300℃に制限することが好ましい。
【0036】
熱延鋼板を得る段階
上記加熱された鋼スラブを、Ar3以上の仕上げ熱間圧延温度の条件で熱間圧延して熱延鋼板を得る。ここで、Ar3は、オーステナイトを冷却する際にフェライトが出現し始める温度を意味する。
上記仕上げ熱間圧延温度がAr3未満の場合には、フェライト+オーステナイトの2相域あるいはフェライト域の圧延が行われて混粒組織が生成され、熱間圧延荷重の変動に起因する誤動作が懸念されるため、上記仕上げ熱間圧延温度はAr3以上に制限することが好ましい。好ましい仕上げ熱間圧延温度は850~1000℃である。
【0037】
巻取段階
上記熱延鋼板を720℃以下の温度で巻取りする。
巻取温度が720℃を超えると、鋼板表面の酸化膜が過多に生成されて欠陥の原因となる可能性があるため、720℃以下に制限する。巻取温度が低くなるほど熱延鋼板の強度が高くなって、後工程である冷間圧延の圧延荷重が高くなるという欠点があるが、実際の生産を不可能にする要因ではないため下限を制限しない。上記巻取温度は600℃以下であることがより好ましい。
【0038】
冷延鋼板を得る段階
上記のように製造された熱延鋼板を冷間圧延して冷延鋼板を得る。
上記冷間圧延における圧下率は、40~70%が好ましい。
上記冷間圧延の前に、酸洗処理を行うことができる。
【0039】
焼鈍熱処理段階
上記のように製造された冷延鋼板を780~880℃の温度範囲で焼鈍熱処理する。
上記焼鈍熱処理は、連続焼鈍方法で行うことができる。
上記焼鈍温度が780℃未満の場合には、フェライトの多量形成による強度の低下、及び800℃以上で焼鈍する他の鋼種との連続作業の際に発明コイルのトップ(Top)部、エンド(End)部の温度勾配の発生による材質偏差が懸念される。これに対し、焼鈍温度が880℃を超えると、連続焼鈍炉の耐久性低下によって生産が難しくなりうる。
したがって、上記焼鈍温度は、780~880℃に制限することが好ましい。
【0040】
1次冷却(徐冷区間冷却)段階
上記のように焼鈍熱処理された冷延鋼板を700~650℃の1次冷却終了温度まで5℃/sec以下の冷却速度で1次冷却する。
一般に、徐冷却区間が含まれる連続焼鈍炉の場合には、焼鈍後に100~200mの徐冷却区間があり、焼鈍後の高温における徐冷却が原因となってフェライトのような軟質相(Phase)が変態することによって超高強度鋼の製造を難しくするという欠点がある。例えば、上記連続焼鈍炉で160mの徐冷却区間が存在する場合、薄鋼板の通板速度が毎分160mであると、徐冷却区間で維持される時間が60秒(sec)を意味することとなる。また、例えば、焼鈍温度が830℃、徐冷却区間の最後の温度が650℃の場合には、徐冷却区間における冷却速度は秒(sec)毎に3℃と非常に低いため、フェライトのような軟質相が生成される可能性が非常に高くなる。焼鈍後の徐冷却速度を5℃/secよりも高く確保するためには、追加の冷却装置を導入する必要があるため、冷却速度を5℃/sec以下に限定することが好ましい。
【0041】
2次冷却(急冷区間冷却)段階
上記のように1次冷却された冷延鋼板を320℃以上の2次冷却終了温度(RCS)まで5℃/sec以上の冷却速度で2次冷却する。
上記2次冷却終了温度(RCS)が320℃未満の場合には、過時効処理中にマルテンサイト量の過度な増加が原因となって降伏強度及び引張強度がともに増加し、延性が非常に低下する。特に急冷による形状劣化が発生してロール成形加工における作業性の低下などの問題があるため、320℃以上に限定することが好ましい。
より好ましい2次冷却終了温度(RCS)は、320~460℃である。
上記2次冷却における冷却速度は5℃/sec以下であってもよいが、生産性の向上のために、冷却速度を5℃/sec以上に制限することが好ましい。
より好ましい2次冷却速度は、5~20℃/secである。
【0042】
上記C、Mn及びCrと2次冷却終了温度(RCS)は、下記関係式1を満たす必要がある。
[関係式1]
1200[C]+498.1[Mn]+204.8[Cr]-0.91[RCS]>1560
(ここで、C、Mn及びCrは各成分の含有量を重量%で表したものであり、RCSは2次冷却終了温度を示す)
【0043】
但し、上記徐冷却区間よりも低い温度である2次冷却終了温度(RCS)によって高温変態相であるベイナイト(bainite)などが生成され、焼鈍時に生成されたオーステナイトがマルテンサイトに変態されずに、引張強度及び降伏強度が急激に低下するという問題が発生する。
【0044】
そこで、上記徐冷却区間が存在する一般的な連続焼鈍炉でフェライトの生成を低減し、且つ冷却の際に高温変態相であるベイナイト(bainite)などの生成を抑制して1700MPa以上の引張強度を獲得するために、上記C、Mn及びCrと2次冷却終了温度(RCS)は、上記関係式1を満たす必要がある。
【0045】
本発明の好ましい他の一側面による超高強度冷延鋼板の製造方法によると、幅方向及び長さ方向の波(wave)の発生がない形状品質に優れ、1700MPa以上の引張強度を有する超高強度冷延鋼板を製造することができる。
【0046】
上記冷延鋼板は、鋼板を長さ方向に1000mmのサイズに切断した後で現れるエッジ(edge)部の波高(ΔH)が3mm以下であることができる。
【実施例】
【0047】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明する。本発明は、下記実施例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例)
下記表1の組成を有する鋼を34kgのインゴットで真空溶解した後、サイジング圧延を介して熱延スラブを製造した。これを活用して1200℃の温度で1時間維持した後、900℃で仕上げ圧延し、予め加熱された炉に装入して680℃で1時間維持した後、炉冷することによって熱延巻取りを模した。これを酸洗した後、50%の圧下率で冷間圧延し、800℃で焼鈍熱処理した後、3℃/秒(sec)の冷却速度で650℃まで徐冷させた。その後、これを通常の冷却速度である20℃/秒(sec)で下記表2のRSC温度(2次冷却終了温度)まで冷却し、過時効熱処理を行うことで鋼板を製造した。
【0049】
上記鋼板に対して、機械的特性及び形状品質を測定し、その結果を下記表2に示した。
【0050】
ここで、形状品質は、
図3に示すように、鋼板を長さ方向に1000mmのサイズに切断した後で現われるエッジ(edge)部の波高(ΔH)を測定して示したものである。
【0051】
下記表2において、RCSは2次冷却終了温度、Mはマルテンサイト、TMは焼戻しマルテンサイト、Bはベイナイト、Fはフェライト、TSは引張強度、YSは降伏強度、Elは伸び率を示す。
【0052】
一方、発明例1及び比較例10に対して微細組織を観察し、発明例1は
図1、比較例10は
図2に示した。
【0053】
【0054】
【0055】
上記表1及び表2に示すように、比較例2、比較例5、比較例10は、Mnの含有量が本発明の範囲を外れた鋼種であって、引張強度が1700MPa以下と低く、特にMn量が非常に低い比較鋼10は、引張強度が1200MPaにも満たない非常に低い強度を示していることが分かる。特に、比較例10の場合には、
図2にも示すように、フェライト及びベイナイトの分率が高いことが分かる。
【0056】
これに対し、比較例7は、本発明の成分、及び成分範囲は満たしているものの、2次冷却終了温度が460℃であり、関係式1(1200[C]+498.1[Mn]+204.8[Cr]-0.91[RCS]>1560)を満たさない鋼種であって、上記表2から分かるように、引張強度1700MPa以下を示している。一方、発明例7の場合には、2次冷却終了温度が320℃と関係式1を満たしており、引張強度1700MPa以上を示している。
【0057】
発明例(1、3、4、6、7、8、9)の場合には、上記表2に示すように、関係式1(1200[C]+498.1[Mn]+204.8[Cr]-0.91[RCS]>1560)を満たし、徐冷却を含む連続焼鈍作業の条件でも1700MPa以上の引張強度を示すだけでなく、波高も3mm以下と低く、形状品質にも優れることが分かる。
【0058】
図1に示すように、発明例1の場合、主相はマルテンサイトであり、少量(10%未満)のフェライト及びベイナイトを含有している。かかる第2相は、通常の連続焼鈍炉に必須に含まれる徐冷却及び過時効時に変態出現するものと考えられる。