(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】疾病の薬理シャペロン治療に対する応答性を予測する方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/02 20060101AFI20230511BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20230511BHJP
C12Q 1/6869 20180101ALI20230511BHJP
A61K 31/445 20060101ALI20230511BHJP
A61P 3/00 20060101ALI20230511BHJP
C12N 9/38 20060101ALN20230511BHJP
【FI】
C12Q1/02 ZNA
C12Q1/34
C12Q1/6869 Z
A61K31/445
A61P3/00
C12N9/38
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2021019383
(22)【出願日】2021-02-09
(62)【分割の表示】P 2018245609の分割
【原出願日】2009-02-12
【審査請求日】2021-03-09
(32)【優先日】2008-02-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2008-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2008-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2008-11-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】507170099
【氏名又は名称】アミカス セラピューティックス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】エルフリダ・ベンジャミン
(72)【発明者】
【氏名】ブイ・ハング・ド
(72)【発明者】
【氏名】ウ・シャオヤン
(72)【発明者】
【氏名】ジョン・フラナガン
(72)【発明者】
【氏名】ブランドン・ウストマン
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2007/137072(WO,A2)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 9/00- 9/99
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
254del1、401ins/T401S、A121T、A135V、A156T、A257P、A288P、A309P、A37V、A73V、A97P、C56F、C56Y、D244H、D264Y、D313G、D33Y、D55V、D55V/Q57L、E338K、E358G、E398K、E66G、E66K、F169S、G183A、G271S、G325S、G35R、G360D、G360S、G411D、G85D、G85M、I219N、I239T I242N、I253T、I270T、I303N、I317T、I359T、I354K、L191Q、L243F、L243W L300F、L310F、L36F、L54P、M187V、M187T、M42L、M42T、M42R、M51I、N215D、N224S、N298S、N320I、N34K、P205L、P205S、P259L、P265L、P293T、P362L、P409S、P409T、P60L、Q250P、Q280H、Q280K、Q321L、Q321R、Q327E、R118C、R301G、R301P、S201Y、S238N、S247C、S276N、S345P、T410A、T410I、V199M、V269A、V269M、V339E、W162G、Y152C、Y184C、Y216C、及びY216Dからなる群から選択されるα-ガラクトシダーゼA変異を有する患者におけるファブリー病の治療における使用のための、1-デオキシガラクトノジリマイシン又はその塩を含む薬学的組成物。
【請求項2】
患者が男性である、請求項
1に記載の薬学的組成物。
【請求項3】
患者が女性である、請求項
1に記載の薬学的組成物。
【請求項4】
1-デオキシガラクトノジリマイシンが、薬学的に許容される塩の形態である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項5】
薬学的に許容される塩
の形態が、1-デオキシガラクトノジリマイシン塩酸塩である、請求項
4に記載の薬学的組成物。
【請求項6】
α-ガラクトシダーゼ
A変異が、配列番号2の核酸配列によりコードされるヒトα-ガラクトシダーゼAに関連する、請求項1~
5のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項7】
α-ガラクトシダーゼA変異が、(i)HEK-293細胞試験管内検定を実施したこと、及び/又は(ii)患者のGLA遺伝子を配列決定したこと、により同定されている、請求項1~
6のいずれか1項に記載の薬学的組成物。
【請求項8】
α-ガラクトシダーゼA変異が、HEK-293細胞試験管内検定を実施したことにより同定されている、請求項
7に記載の薬学的組成物。
【請求項9】
α-ガラクトシダーゼA変異が、患者のGLA遺伝子を配列決定したことにより同定されている、請求項
7に記載の薬学的組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本出願は、その開示が全体として参照により本明細書に援用されている、2008年2月12日出願の米国仮特許出願第61/028,141号明細書、2008年3月11日出願の米国仮特許出願第61/035,684号明細書、2008年9月2日出願の米国仮特許出願第61/093,631号明細書および2008年11月11日出願の米国仮特許出願第61/113,496号明細書の利益を主張する。
【0002】
本発明は、リソソーム貯蔵障害患者が特異的薬理シャペロンでの治療の恩恵を受けるか否かを判定する方法を提供する。本発明は同様に、酵素の変異形態を発現する細胞系内での薬理シャペロン(例えば1-デオキシガラクトノジリマイシン、1-デオキシノジリマイシンまたはイソファゴミン)に対する酵素(例えばα-ガラクトシダーゼA、α-グルコシダーゼまたはグルコセレブロシダーゼ)の応答性を判定するための試験管内方法も提供している。本発明は同様に、リソソーム貯蔵障害の疑いのある患者においてリソソーム貯蔵障害(例えばファブリー病、ポンペ病またはゴーシェ病)を診断し、その診断に基づいて適正な治療を実施する(例えば患者に対して投与するための特定の治療薬を選択する)ための方法も提供する。
【背景技術】
【0003】
人体内では細胞機能のほぼすべての面にタンパク質が関与している。タンパク質は、適切に機能するために折畳まれ特異的3次元形状へと捩じられるアミノ酸の線形文字列である。一部のヒト疾患は、タンパク質の安定性を低下させ適切に折畳まれるのを妨げ得るアミノ酸配列の変化を引き起こす変異の結果としてもたらされる。安定性がさらに低いかまたは誤って折畳まれたタンパク質の生産を導く遺伝的変異の大部分は、ミスセンス変異と呼ばれる。これらの変異によって、タンパク質内の単一のアミノ酸と別のアミノ酸の置換が起きる。この誤りのため、ミスセンス変異により生物活性レベルの低いタンパク質が得られることが多い。ミスセンス変異に加えて、生物活性の低いタンパク質が得られる可能性のあるその他のタイプの変異も存在する。
【0004】
タンパク質は一般に、小胞体またはERとして公知の特定の細胞領域内で折畳まれる。細胞は、タンパク質輸送と一般に呼ばれているプロセスであるERから細胞内の適切な目的地までの移動の前にタンパク質がその正しい3次元形状へと確実に折畳まれるようにする品質管理機序を有している。誤って折畳まれたタンパク質は多くの場合、当初ER内に保持された後品質管理機序によって除去される。場合によっては、誤って折畳まれたタンパク質は除去されるまでにER内に蓄積し得る。
【0005】
誤って折畳まれたタンパク質のER内保持はその適切な輸送を中断し、結果としての生物活性の削減によって細胞機能障害そして最終的には疾病が導かれ得る。さらに、誤って折畳まれたタンパク質のER内蓄積は、細胞に対しさまざまなタイプのストレスを導くかもしれず、これも同様に細胞機能不全および疾病に寄与する可能性がある。
【0006】
リソソーム蓄積症(LSD)は、リソソーム酵素をコードする遺伝子内の変異に起因するリソソーム酵素の欠損を特徴とする。その結果、脂質、炭水化物および多糖類を含むこれらの酵素の基質が病的に蓄積される。これまでに知られているLSDは約50あり、これにはゴーシェ病、ファブリー病、ポンペ病、テイ・サックス病およびムコ多糖症(MPS)が含まれる。大部分のLSDは常染色体劣性形質として受け継がれるが、ファブリー病およびMPSIIを有する男性は、疾病遺伝子がX染色体上でコードされることから、半接合体である。大部分のLSDについて、対症的管理の域を超えて利用できる治療は全く存在しない。ゴーシェ、ファブリー、ポンペおよびMPSIおよびVIを含めたいくつかのLSDについて、組換え型酵素を用いた酵素補充療法(ERT)が利用可能である。ゴーシェ病については、限定的な状況下で基質還元療法(SRT)も利用可能である。SRTでは、グルコシルセラミド(GD基質)の合成に必要とされる酵素の小分子阻害物質が利用される。SRTの最終目的は、基質の生産を削減し病的蓄積を削減することにある。
【0007】
各LSDに関連して数多くの異なる変異体遺伝子型が存在するが、最も一般的な変異のいくつかを含めた変異の一部は、比較的安定性の低い酵素の生産を導く可能性のあるミスセンス変異である。これらの比較的安定性の低い酵素は時としてER関連分解経路によって早期に分解される。その結果、リソソーム内の酵素が欠損し、基質が病的に蓄積する。かかる変異酵素は、時として関係する技術分野で「折畳み変異体」または「立体構造変異体」と呼ばれる。
【0008】
ファブリー病の診断
ファブリー病は稀な病であり、多臓器が関与し、広い発病年齢範囲を有しかつ不均一であることから、適正な診断が課題である。医療の専門家の間でも認識が低く、誤診の頻度は高い。最終的にファブリー病の診断を受けた患者において真剣に検討された診断例には、増幅弁逸脱、糸球体腎炎、特発性タンパク尿、全身性紅斑性狼瘡、ウィップル病、急性腹症、潰瘍性大腸炎、急性間欠性ポルフィリン症および潜在性悪性腫瘍が含まれる。こうして、古典型に罹患した男性についてさえ、診断には典型的に約5年~7年さらにはそれ以上の年月を要する。ファブリー病を長く患えば患うほど、罹患した臓器および組織内に損傷が発生する確率が高くなり、その患者の身体条件の重症度は高くなるかもしれないことから、以上のことは懸念事である。ファブリー病の診断は、最も多くの場合、変異分析と組合せて、患者がひとたび症状を示した時点で血漿または末梢白血球(WBC)中のα-Gal A活性の低下に基づいて確認される。女性においては、キャリアの一部の細胞中のX染色体不活性化が無作為であることに起因して、キャリア女性の酵素的同定の信頼性が低いために、さらに一層診断が困難である。例えば、一部の偏性キャリア(obligate carrier)(古典型に罹患した男性の娘)は、正常から超低活性までの範囲のα-Gal A酵素活性を有する。キャリアは白血球中に正常なα-Gal A酵素活性を有し得ることから、遺伝子試験によるα-Gal A変異の同定によってのみ、精確なキャリア同定および/または診断が提供される。
【0009】
ファブリー病の治療
ファブリー病を治療するための1つの承認された療法は、酵素補充療法であり、これには典型的に、対応する野生型タンパク質(Fabrazyme(登録商標)、Genzyme Corp.)の精製形態の静脈内輸液が関与する。タンパク質補充療法に伴う主要な難題の1つは、輸液されたタンパク質が急速に分解するために、タンパク質の治療上有効な量を達し維持することにある。この問題を克服するための現行のアプローチは、高コストの高用量輸液を多数実施するというものである。
【0010】
タンパク質補充療法は、例えば適切に折畳まれたタンパク質の大規模生成、精製および貯蔵のむずかしさ;グリコシル化された天然タンパク質の獲得;抗タンパク質免疫応答の発生;そしてタンパク質が中枢神経系病変を軽減するために血液脳関門を横断できないこと(すなわち低い生物学的利用能)などさらにいくつかの問題点を有している。さらに補充酵素は、ファブリー病変において顕著である、腎臓有足細胞または心筋細胞内の基質の蓄積を削減するのに充分な量で心臓または腎臓に浸透できない。
【0011】
機能タンパク質をコードする核酸配列を含む組換え型ベクターを使用するかまたは機能タンパク質を発現する遺伝子組換えされたヒトの細胞を使用する遺伝子療法もまた、タンパク質補充の恩恵を受けるタンパク質欠損症およびその他の障害を治療するために開発されつつある。
【0012】
一部の酵素欠損症を治療するための第3の比較的最近のアプローチには、欠損した酵素タンパク質の天然の基質の産生を削減して病変を改善するための小分子阻害物質の使用が関与する。この「基質削減」アプローチは、スフィンゴ糖脂質貯蔵障害を含めたリソソーム貯蔵障害と呼ばれる約40種類の関連酵素障害について具体的に記述されてきた。療法として使用するために提案された小分子阻害物質は、糖脂質合成に関与する酵素を阻害して、欠損した酵素が破壊する必要のある細胞糖脂質の量を削減するために特異的なものである。
【0013】
LSDと関連する酵素の小分子阻害物質の結合が変異酵素および対応する野生型酵素の両方の安定性を増大させ得る、ということが以前に示された(全て参照により本明細書に援用されている特許文献1、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5および特許文献6を参照のこと)。特に、いくつかの標的リソソーム酵素のための特異的な選択性競合阻害物質であるグルコースおよびガラクトースの小分子誘導体の投与は、試験管内で細胞内の酵素の安定性を効果的に増大させて、リソソームへの酵素の輸送を増大させることが発見された。したがって、リソソーム内の酵素量を増大させることにより、酵素基質の加水分解が増大するものと予想される。この戦略の背後にある原初の理論は次のようなものであった。すなわち、変異酵素タンパク質はER内で不安定であることから(非特許文献1)、酵素タンパク質は正常な輸送経路(ER→ゴルジ体→エンドソーム→リソソーム)内で遅延され、早期に分解される。したがって、変異酵素に結合しその安定性を増大させる化合物は、酵素のための「シャペロン」として役立ち、ERから退出してリソソームまで移動できる量を増大させ得る。さらに、一部の野生型タンパク質の折畳みおよび輸送は不完全であり、一部の野生型タンパク質の最高70%が場合によってはその最終的細胞部位に到着する前に分解されていることから、野生型酵素を安定化させかつERを退出しリソソームまで輸送され得る酵素の量を増大させるためにシャペロンを使用することが可能である。この戦略は、試験管内および生体内で、その欠損がそれぞれゴーシェ病およびポンペ病と関係づけされるβ-グルコセレブロシダーゼおよびα-グルコシダーゼを含めた複数のリソソーム酵素を増加させるものであることが示されてきた。
【0014】
しかしながら、前述の通り、SPC療法の成功が期待される候補は、安定化されかつERから外への輸送を可能にする立体配座へと折畳まれる潜在性を有する酵素を産生する結果となる変異を有していなければならない。ナンセンス変異などの酵素を激しく切断する変異、またはシャペロンの結合を妨げる触媒ドメイン内の変異は、SPC療法を用いて「救済可能」または「増強可能」となる程度、すなわちSPC療法に応答するほどには確率が高くない。触媒部位の外でのミスセンス変異はSPCを用いて救済可能となる確率がより高いものの、保証は全く無く、応答性ある変異をスクリーニングすることが必要である。このことはすなわち、WBC内のα-Gal A活性欠損の検出によりファブリー病が診断される場合でも、本発明の利点なしでは、特定のファブリー病患者がSPCでの治療に応答するか否かを予測ことは、不可能とは言わないまでも非常にむずかしいということを意味する。その上、WBCは、培養内(試験管内)で短時間しか生存できないことから、α-Gal AのSPC増強についてスクリーニングすることは困難であり、患者にとって最適なことではない。
【0015】
SPC療法を効果的に適用するためには治療の開始に先立ち、SPC療法に対する応答性について患者をスクリーニングするための広く適用可能で高速かつ効率のよい方法を採用する必要がある。このとき、スクリーニングの結果に基づいて治療を実施することができる。したがって、当該技術分野においては、患者にコスト面および情緒面の両方のメリットをもたらすため、治療の決定を下す前に、潜在的療法での酵素の増強を迅速に査定するための相対的に非観血的な方法に対するニーズがなおも存在している。
【0016】
【文献】米国特許第6,274,597号明細書
【文献】米国特許第6,583,158号明細書
【文献】米国特許第6,589,964号明細書
【文献】米国特許第6,599,919号明細書
【文献】米国特許第6,916,829号明細書
【文献】米国特許第7,141,582号明細書
【0017】
【文献】Ishii et al.、Biochem. Biophys. Res. Comm. 1996; 220: 812-815)
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
本発明の一実施形態は、一患者がSPC療法の候補となるか否かを判定するための方法を提供する。具体的には、本発明は、SPCの存在下または不在下でタンパク質活性を評価するための試験管内検定であって、試験管内検定でタンパク質の活性を増大させるSPCがSPC療法のために使用可能なSPCである検定を提供する。一実施形態において、試験管内検定は、宿主細胞内で変異タンパク質を発現させるステップと、候補SPCと変異タンパク質を接触させるステップと、SPCと接触させられた変異タンパク質が候補SPCと接触させられていない宿主細胞内で発現された変異タンパク質と比べて増大した活性レベル(好ましくは統計学的に有意な増加)を示すか否かを判定するステップとを含む。候補SPCが本発明の検定にしたがった変異タンパク質の活性を増大させる場合、試験管内検定で試験された同じ変異タンパク質を発現する患者を治療するためのSPC療法用に、このような候補SPCを使用することができる。
【0019】
一実施形態において、タンパク質は酵素である。別の実施形態において、タンパク質はリソソーム酵素である。さらに別の実施形態において、タンパク質はα-ガラクトシダーゼA(α-Gal;α-Gal A)である。その他の実施形態において、タンパク質はアルファ-グルコシダーゼ(酸性α-グルコシダーゼ;α-グルコシダーゼ;GAA)である。その他の実施形態において、タンパク質はグルコセレブロシダーゼ(β-グルコシダーゼ;Gba;GCase)である。
【0020】
本発明は同様に、任意の数のその他のタンパク質異常および/または酵素欠損症および/またはタンパク質折畳み障害向けの1つの治療選択肢としてSPCを評価するための基礎も含んでいる。
【0021】
本発明はさらに、タンパク質変異およびSPC療法に対する各変異の応答性を列挙する文書記録(例えば「治療基準表」)を提供する。このようなリストは、一患者用の治療の選択肢を判定し、これにより患者または患者の担当医または医師が患者のタンパク質変異を同定しその変異をリストと相互参照してSPCが患者の特定の変異酵素の活性を増大させるか否かを同定することによって適正な治療アプローチ例えば治療用SPCを選択できるようにする上で使用可能である。
【0022】
別の実施形態において、「治療基準表」はリソソーム酵素についての変異を列挙しており、リソソーム貯蔵障害を治療するための最良の治療方法を判定するために治療基準表が用いられる。本発明のさらなる実施形態において、タンパク質はα-Gal Aであり、疾病はファブリー病である。本発明のその他の実施形態において、タンパク質はGAAであり、疾病はポンペ病である。本発明のその他の実施形態において、タンパク質はGbaであり、疾病はゴーシェ病である。
【0023】
一実施形態において、治療基準表は、リソソーム酵素(例えばα-Gal A、GcaseおよびGAA)などの酵素の変異形態を記述し、リソソーム貯蔵障害(例えばファブリー病、ゴーシェ病およびポンペ病)についての治療選択肢が確認されている。
【0024】
一実施形態において、本発明は同様に任意のタンパク質折畳み障害またはSPCで治療可能な障害向けであり得る治療基準表を作成するための方法も提供している。この種類の疾病には、なかでもその他のリソソーム貯蔵障害、嚢胞性繊維症(CFTR)(呼吸器または汗腺上皮細胞)、家族性高コレステロール血症(LDL受容体;LPL-含脂肪細胞または血管内皮細胞)、癌(p53;PTEN-腫瘍細胞)およびアミロイド沈着症(トランスサイレチン)が含まれている。
【0025】
別の実施形態において、本発明は或る種の変異タンパク質(例えばα-Gal Aなどのリソソーム酵素)を発現するものとして診断された患者を治療する方法において、宿主細胞内で発現された場合の変異タンパク質(例えばα-Gal A)の活性をそのタンパク質向けのSPC(例えば変異α-Gal A向けのSPCとしての1-デオキシガラクトノジリマイシン、DGJ)の投与時点で増大されることのできる方法を提供している。
【0026】
本発明は同様に、検定を実施するのに必要とされる構成要素を含む診断キットも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1A】部位特異的変異誘発により生成されたファブリー変異のリストを示す。テキストは、列挙された変異の各々を発現するHEK293細胞が過渡的トランスフェクション検定においてDGJ処置に応答するか否かを示す:イタリック体=未試験;ボールド体および下線付き=DGJに対する応答無し;プレーンテキスト(イタリック体、ボールド体または下線付きでないもの)=DGJに対する応答あり。
【
図1B】部位特異的変異誘発により生成されたファブリー変異のリストを示す。テキストは、列挙された変異の各々を発現するHEK293細胞が過渡的トランスフェクション検定においてDGJ処置に応答するか否かを示す:イタリック体=未試験;ボールド体および下線付き=DGJに対する応答無し;プレーンテキスト(イタリック体、ボールド体または下線付きでないもの)=DGJに対する応答あり。
【
図1C】部位特異的変異誘発により生成されたファブリー変異のリストを示す。テキストは、列挙された変異の各々を発現するHEK293細胞が過渡的トランスフェクション検定においてDGJ処置に応答するか否かを示す:イタリック体=未試験;ボールド体および下線付き=DGJに対する応答無し;プレーンテキスト(イタリック体、ボールド体または下線付きでないもの)=DGJに対する応答あり。
【
図2A】DGJ処置に対する異なるα-Gal A変異の応答性を示す。DGJ処置後のα-Gal A活性レベルの増大の規模およびEC50値が、DGJ処置に応答した
図1A~D内の全ての試験対象変異について列挙されている。酵素活性の増大は、野生型α-Gal A活性の百分率として示されている。
【
図2B】DGJ処置に対する異なるα-Gal A変異の応答性を示す。DGJ処置後のα-Gal A活性レベルの増大の規模およびEC50値が、DGJ処置に応答した
図1A~D内の全ての試験対象変異について列挙されている。酵素活性の増大は、野生型α-Gal A活性の百分率として示されている。
【
図2C】DGJ処置に対する異なるα-Gal A変異の応答性を示す。DGJ処置後のα-Gal A活性レベルの増大の規模およびEC50値が、DGJ処置に応答した
図1A~D内の全ての試験対象変異について列挙されている。酵素活性の増大は、野生型α-Gal A活性の百分率として示されている。
【
図3】DGJ処置に対する野生型および変異α-Gal Aの応答の代表例を示す。α-Gal A活性(1時間にタンパク質1mgあたりに放出された4-MUのnmol数(nmol/mg protein/h of 4-MU released)として表現された)は、漸増濃度のDGJと共にインキュベートされたトランスフェクションを受けたHEK293細胞から調製した溶解物中で測定された、典型的な濃度依存性応答がL300Pについて示され、R227QについてはDGJに対する典型的な負の応答が示されている。野生型は、高いベースライン活性を示し、したがってこの検定中でDGJに応答しない。
【
図4】HEK293細胞中の変異応答が、生体内の患者由来のT細胞、リンパ芽球、または白血球に匹敵することを示している。野生型の百分率として報告された3回の異なる検定で測定されたα-Gal Aレベルが、検査対象の各々の変異について比較される。変異α-Gal Aを発現するT-細胞、リンパ芽球、白血球およびHEK293中のα-Gal AレベルがDGJに対する曝露の前後に測定された。白棒は、(DGJ処置無しの)基礎レベルを表わし、黒棒は、DGJ処置後の上昇したレベルを表わす。
【
図5】DGJ応答性α-Gal A変異がα-Gal-Aタンパク質配列上で広く分布していること示す。試験対象のファブリー変異が、α-Gal A二次構造上に示されている。変異のタンパク質配列上の場所と応答の間に有意な相関関係は一切観察されず、応答性ならびに非応答性の変異がタンパク質全体にわたり広く分布していることを示唆している。テキストの色はDGJ応答を表わす。すなわち、緑色=応答あり;赤色=応答なし;褐色は、その同じ部位上の多数の変異のうち一部はDGJ処置に応答したが、他は応答しなかったことを表わす。
【
図6】部位特異的変異誘発を通してα-Gal A遺伝子内で点変異を生成するのに用いられるオリゴヌクレオチドプライマ対を示す。
【
図7】部位特異的変異誘発を通して変異させられたα-Gal A cDNA配列を示す。
【
図8】グルコセレブロシダーゼ(Gba;GCase)酵素に異なる変異を伴うゴーシェ病患者から単離された患者由来のマクロファージおよびリンパ芽球に対する酒石酸イソファゴミンの効果を示す。
【
図9】毎日またはそれより低頻度(4日間ON/3日間OFF)で飲料水中に体重1kgあたり300mgのDGJを入れて4週間処置した8週令の雄のhR301Qα-Gal A Tg/KOマウスのGL-3レベルに対する効果を示す。
【
図10】部位特異的変異誘発により生成されたポンペ変異のリストを示す。テキストは、列挙された変異の各々を発現するCOS-7細胞が過渡的トランスフェクション検定においてDNJ処置に応答するか否かを表示している。
【
図11】ヒトリソソームアルファ-グルコシダーゼ(GAA)(GenBank登録番号Y00839)の核酸配列を示す。
【
図12】0μM、20μM、50μMおよび100μMの濃度でのDNJ処置に対する4つの異なるGAA変異の応答性を示す。酵素活性の増加は、比活性度(nmol/mgタンパク質/時)として示されている。
図12は同様に、DNJが、95/76/70kDa形態へのGAAのプロセッシングを促進したことも示している。
【
図13】DNJ処置に対するポンペ病患者由来の繊維芽細胞の応答性を示す。繊維芽細胞は、P545LまたはR854XのGAA変異のいずれについてもホモ接合性であった。
【
図14】P545LのGAA変異で過渡的にトランスフェクトされたHEK-293細胞内でのDNJにより誘発されたGAA活性についてのEC
50を示す。
【
図15】DNJ処置に対するポンペ病患者由来のリンパ球の応答性を示す。リンパ球は、(IVS1AS、T>G、-13)GAAスプライシング不良およびGAAフレームシフト変異についてヘテロ接合であった。
【
図16】ヒトリソソームアルファ-グルコシダーゼ(GAA)核酸(GenBank登録番号Y00839)によりコードされたアミノ酸配列を示す。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明は、SPCが変異タンパク質の活性を増強するか否かの正確な判定を下すための試験管内検定を提供する。
【0029】
一実施形態において、タンパク質はリソソーム酵素であり、ここでこのリソソーム酵素は変異を受けた時点でリソソーム貯蔵障害を引き起こす。しかしながら本発明の概念は、例えば部位特異的変異誘発などによって試験管内で生成され得る1つ以上の特異的変異を有するSPC療法に適した変異タンパク質を特徴とするあらゆる疾病または身体条件に対し包括的に適用可能である。
【0030】
1つの具体的実施形態において、本発明は、変異α-Gal A酵素の酵素活性をSPCが増強させ、したがって同じα-Gal A変異を発現するファブリー病患者向けの有効な療法的治療としてこれを使用できるか否かを判定するための方法を提供する。
【0031】
別の具体的実施形態において、本発明は、SPCが変異GAA酵素の酵素活性を増強させ、したがって、同じGAA変異を発現するポンペ病患者向けの有効な療法的治療としてこれを使用できるか否かを判定するための方法を提供する。
【0032】
別の具体的実施形態において、本発明は、変異Gba酵素の酵素活性をSPCが増強させ、したがって同じGba変異を発現するゴーシェ病患者向けの有効な療法的治療としてこれを使用できるか否かを判定するための方法を提供する。
【0033】
本発明の方法によると、変異リソソーム酵素を発現する患者がSPC治療の候補となるか否かの判定を可能にする検定が提供される。新しい試験管内検定は極めて感度が高く、変異リソソーム酵素をコードする核酸構成体がトランスフェクトされた宿主細胞について実施可能である。このとき、候補SPCが宿主細胞により発現された変異酵素の活性を増加させることができるか否かを判定するために、具体的候補SPCを検定することができる。したがって、リソソーム貯蔵障害患者に由来する細胞を利用する検定とは異なり、本発明の検定は、患者からの標本の収集、この標本からの細胞の精製、および試験管内での標本からの細胞の培養などの時間のかかるステップを回避する。
【0034】
本発明は同様に、変異タンパク質(例えばリソソーム酵素)を発現する患者がSPC療法の候補となるか否かを判定する方法において、例えば患者の担当医または医師などが治療基準表内で変異タンパク質(例えばリソソーム酵素変異)を調べて、その患者の変異がSPC療法に応答するか否かを判定することのできる方法も提供している。基準表は、変異タンパク質をコードする核酸ベクターで形質転換された細胞系内のSPC応答を試験管内分析した結果から作成される。
【0035】
さらに、本発明は同様に、特定のSPCが特異的リソソーム酵素変異の活性を増強させるための成功する療法となるか否かを説明する情報を提供する「治療基準表」も提供している。本発明によると、この治療基準表は、候補SPCが宿主細胞により発現される変異リソソーム酵素の活性を増大できるか否かを示す情報を提供している。異なるSPC療法に対する異なる変異の応答に基づいて、本発明は患者の特異的変異に合わせたSPC療法を提供することができる。
【0036】
1つの非限定的実施形態において、変異タンパク質は、変異リソソーム酵素例えば変異α-Gal A、GAAまたはGbaであり、細胞系は変異リソソーム酵素をコードする核酸ベクターでトランスフェクトされる。
【0037】
別の非限定的実施形態において、本発明は、治療上有効な用量の1-デオキシガラクトノジリマイシン(DGJ)をファブリー病患者に投与するステップを含む、ファブリー病患者を治療する方法を提供しており、ここで患者は、SPC(例えばDGJ)と接触させられた時点で宿主細胞内で発現された場合のその活性が増大し得る変異α-Gal Aを発現する。この方法にしたがって治療可能なこのようなα-Gal A変異としては、A121T、A156V、A20P、A288D、A288P、A292P A348P、A73V、C52R、C94Y、D234E、D244H、D244N、D264Y、E338K、E341D、E358K、E398K、E48K、E59K、E66Q、F113L、G144V、G183D、G260A、G271S、G325D、G328A、G35R、G373D、G373S、H225R、I219N、I242N、I270T、I289F、I303N、I317T、I354K、I91T、L14P、L166V、L243F、L300F、L310F、L32P、L45R、M267I、M284T、M296I、M296V、M72V、M76R、N224S、N263S、N298K、N298S、N320I、N320Y、N34K、P205R、P259L、P265L、P265R、P293A、P293S、P409S、P40L、P40S、Q279E、Q279H、Q279R、Q280H、Q280K、Q312H、Q321E、Q321R、Q327E、R301P、R342Q、R363C、R363H、R49G、R49L、R49S、S201Y、S276N、S297C、S345P、T194I、V269M、V316E、W340R、W47LおよびW95S変異が含まれるが、これらに限定されない。
【0038】
一実施形態において、治療上有効な用量のDGJでファブリー病患者を治療する方法から、以下のα-Gal A変異は除外される:D244N、E358K、E59K、E66Q、G183D、G325D、I289F、I91T、L45R、M296V、N263S、N320Y、P205R、P40S、Q279E、R342Q、R363C、R49L、V316E。
【0039】
本発明により記述された検定の1つの利点は、ファブリー病などのX連鎖性リソソーム貯蔵障害を患う女性患者に対してそれを適用できるということある。X染色体の不活性化のため、女性患者から採取された標本は、正常かつ健常な細胞と酵素欠損変異体細胞の両方を含む。このような標本に対するSPCの効果についての検定は、たとえ変異酵素を伴う異常細胞がSPCに対し応答性をもたないかもしれなくても、健常細胞の正常な野生型酵素発現に起因する酵素活性の増強を示すことになる。本発明は、変異タンパク質をコードするベクターでトランスフェクトされた細胞系がタンパク質の変異形態のみを発現し、したがって、患者由来の細胞を用いた検定で見られるこのような擬似増強を引き起こす細胞系により発現される野生型タンパク質が全く存在しないことから、この障害を克服する。
【0040】
別の限定的でない実施形態において、本発明は、治療上有効な用量の1-デオキシノジリマイシン(DNJ)をポンペ病患者に投与するステップを含む、ポンペ病患者を治療する方法を提供しており、ここで患者は、SPC(例えばDNJ)と接触させられた時点で宿主細胞内で発現された場合のその活性が増大し得る変異GAAを発現する。この方法にしたがって治療可能なこのようなGAA変異としては、E262K、P266S、P285R、P285S、L291F、L291H、L291P、M318K、G377R、A445P、Y455C、Y455F、P457L、G483R、G483V、M519V、S529V、P545L、G549R、L552P、Y575S、E579K、A610V、H612Q、A644PおよびΔN470変異が含まれるが、これらに限定されない。
【0041】
別の非限定的実施形態において、本発明は、治療上有効な用量のイソファゴミン(IFG)によりゴーシェ病患者を治療する方法を提供しており、ここで患者は、SPC(例えばIFG)と接触させられた時点で宿主細胞内で発現された場合のその活性が増大し得る変異Gbaを発現する。
【0042】
定義
本明細書で使用される用語は、一般に、本発明の文脈内において、かつ各用語が使用される特定の文脈内で、当該技術分野におけるその通常の意味を有する。一部の用語については、本発明の組成物および方法そしてそれらの使用方法を記述する上で医師に付加的な指針を提供するために、以下で、または本明細書の他の場所で論述される。
【0043】
「ファブリー病」という用語は、リソソームα-ガラクトシダーゼA活性欠損に起因するスフィンゴ糖脂質異化のX連鎖先天異常を意味する。この欠陥は、グロボトリアオシルセラミド(セラミドトリヘキソシド)および関連スフィンゴ糖脂質の心臓、腎臓、皮膚およびその他の組織の血管内皮リソソーム内の蓄積を引き起こす。
【0044】
「非定型ファブリー病」は、α-Gal A欠損症の主として心臓兆候、すなわち心臓特に左心室の著しい肥大を導く心筋細胞内の漸進的グロボトリアオシルセラミド(GL-3)蓄積を有する患者を意味する。
【0045】
「キャリア」とは、欠陥あるα-Gal A遺伝子を伴う1つのX染色体および正常な遺伝子を伴う1つのX染色体を有しかつ体内で正常な対立遺伝子のX染色体不活性化が1つ以上の細胞型の中に存在している女性である。キャリアは多くの場合ファブリー病の診断を受ける。
【0046】
「ポンペ病」とは、リソソームグリコーゲン代謝を損う欠損酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)活性を特徴とする常染色体劣性のLSDを意味する。酵素欠損はリソソームグリコーゲン蓄積を導き、疾病の後期において、漸進的な骨格筋衰弱、心機能の低下、呼吸不全および/またはCNS機能障害を結果としてもたらす。GAA遺伝子内の遺伝的変異は、発現低下をもたらすかまたは、安定性が改変されたおよび/または究極的に疾病に導く生物活性を有する酵素の変異形態を産生する(一般にHirschhorn R, 1995, Glycogen Storage Disease Type II: Acid α-Glucosidase (Acid Maltase) Deficiency, The Metabolic and Molecular Bases of Inherited Disease, Scriver et al., eds., McGraw-Hill, New York, 7th ed., pages 2443-2464を参照のこと)。ポンペ病の3つの認識された臨床形態(小児型、若年性および成人型)は、残留α-グルコシダーゼ活性レベルと相関される(Reuser A J et al.,1995,Glycogenosis Type II (Acid Maltase Deficiency)Muscle & Nerve Supplement 3, S61-S69)。ASSC(他では「薬理シャペロン」とも呼ぶ)は、リソソーム貯蔵障害(例えばポンペ病)などの遺伝病の治療のための見込みのある新しい治療アプローチである。
【0047】
小児型ポンペ病(I型またはA型)は、生後2年以内の発育障害、全身性低血圧症、心臓肥大、および心肺不全を特徴とする最も一般的でかつ最も重症なものである。若年性ポンペ病(II型またはB型)は、重症度が中度であり、心臓肥大の無い筋肉症候の優勢を特徴とする。若年性ポンペ病の個体は、通常、呼吸不全のため20才に達する前に死亡する。成人型ポンペ病(III型またはC型)は多くの場合、10代かまたは60代という遅い年齢に緩徐進行性ミオパシーとして出現する(Felice K J et al., 1995, Clinical Variability in Adult-Onset Acid Maltase Deficiency: Report of Affected Sibs and Review of the Literature, Medicine 74, 131-135)。
【0048】
ポンペ病では、グリコシル化反応、リン酸化反応、およびタンパク質分解過程によりα-グルコシダーゼが翻訳後に広範に修飾されることが示されてきた。リソソーム内のタンパク質分解による110キロダルトン(kDa)の前駆体から76および70kDaの成熟形態への転換が、最適なグリコーゲン触媒作用には必要とされる。
【0049】
本明細書で使用されている「ポンペ病」という用語は、全てのタイプのポンペ病を意味する。本出願で開示されている調合および投薬計画は、例えばI型、II型またはIII型のポンペ病を治療するために使用されてよい。
【0050】
「ゴーシェ病」という用語は、脂肪グルコセレブロシドを分解するリソソーム酵素β-グルコセレブロシダーゼ(Gba)の欠損症を意味する。このとき脂肪は、大部分は肝臓、脾臓および骨髄の中に蓄積する。ゴーシェ病は、疼痛、疲労、黄疸、骨損傷、貧血症、さらには死に至る結果となり得る。ゴーシェ病には3つの臨床的表現型が存在する。I型患者は、年少期または青年期のいずれかに発現し、あざを発生しやすく、貧血、血小板低下、肝臓および脾臓の肥大、骨格の衰弱に起因する疲労に悩まされ、一部の症例では、肺および腎臓の機能障害を有する。脳が関与している兆候は全く存在しない。早発型のII型においては、肝臓および脾臓の肥大が生後3ヶ月までに発生し、広範な脳の関与が存在する。2歳までの死亡率は高い。III型は、肝臓および脾臓の肥大および脳発作を特徴とする。β-グルコセレブロシダーゼ遺伝子は、ヒト1q21染色体上に位置する。そのタンパク質前駆体は536個のアミノ酸を含み、その成熟タンパク質はアミノ酸497個の長さを有する。
【0051】
「患者」とは、特定の疾病の診断を受けたまたはその疑いのある対象を意味する。患者はヒトまたは動物であってよい。
【0052】
「ファブリー病患者」は、ファブリー病の診断を受けたまたはその疑いのあった、そして以下でさらに定義される通りの変異α-Gal Aを有する個体を意味する。ファブリー病の特徴的マーカーは、男性の半接合体および女性のキャリアにおいて同じ有病率で発生し得るが、女性の方が典型的に重症度が低い。
【0053】
「ポンペ病患者」は、ポンペ病の診断を受けたかまたはその疑いのあった、そして以下でさらに定義づけされる通りの変異GAAを有する個体を意味する。
【0054】
「ゴーシェ病患者」は、ゴーシェ病の診断を受けたかまたはその疑いのあった、そして以下でさらに定義づけされる通り変異Gbaを有する個体を意味する。
【0055】
ヒトα-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)は、ヒトGLA遺伝子によりコードされる酵素を意味する。ヒトα-Gal A酵素は、429個のアミノ酸から成り、GenBank登録番号U78027にある。
【0056】
1つの限定的意味のない実施形態において、ヒトリソソームアルファ-グルコシダーゼ(酸性α-グルコシダーゼ;GAA)は、グリコーゲン、マルトースおよびイソマルトースの中に存在するアルファ-1,4-およびアルファ-1,6-連鎖-D-グルコースポリマーを加水分解するリソソーム酵素である。代替的名称は、以下の通りである:グルコアミラーゼ;1,4-α-D-グルカングルコヒドロラーゼ;アミログルコシダーゼ;ガンマ-アミラーゼ;およびエキソ-1,4-α-グルコシダーゼ。ヒトGAA遺伝子は染色体17q25.2-25.3に位置しており、GenBank登録番号Y00839中に表示されているヌクレオチドおよびアミノ酸配列を有する。
【0057】
「ヒトGba遺伝子」という用語は、同様にグルコセレブロシダーゼまたはGbaとも呼ばれる酸性β-グルコシダーゼをコードする遺伝子を意味する。Gba遺伝子は、染色体1q21上にあり、11のエクソンが関与する(GenBank登録番号J03059)。Gba遺伝子から約16kb下流側にあるGbaの相同な偽遺伝子も存在する(GenBank登録番号M16328)。
【0058】
「ヒトGba」タンパク質は、野生型ヒトGbaタンパク質を意味する。Gbaタンパク質は、536個のアミノ酸からなり、GenBank受入れ番号J03059にある。
【0059】
「変異タンパク質」という用語は、タンパク質がER内に通常存在する条件下で安定した立体配座を達成できないという結果をもたらすタンパク質をコードする遺伝子内に変異を有するタンパク質を含む。安定した立体配座が達成できないことで、相当量の酵素が、リソソームに輸送されずにむしろ分解される結果となる。このような変異は時として「立体配座変異体」と呼ばれる。このような変異には、ミスセンス変異およびインフレーム小欠失および挿入が含まれるが、これらに限定されない。
【0060】
一実施形態において本明細書で使用される「変異α-Gal A」という用語は、ER内に通常存在する条件下で酵素が安定した立体配座を達成できないという結果をもたらす変異をα-Gal Aをコードする遺伝子内に有するα-Gal Aを含む。安定した立体配座が達成できないことで、相当量の酵素が、リソソームに輸送されずにむしろ分解される結果となる。
【0061】
不安定なα-Gal Aを結果としてもたらすファブリー病に関連する限定的でない例示的α-Gal A変異には、L32P;N34S;T41I;M51K;E59K;E66Q;I91T;A97V;R100K;R112C;R112H;F113L;T141L;A143T;G144V;S148N;A156V;L166V;D170V;C172Y;G183D;P205T;Y207C;Y207S;N215S;A228P;S235C;D244N;P259R;N263S;N264A;G272S;S276G;Q279E;Q279K;Q279H;M284T;W287C;I289F;M296I;M296V;L300P;R301Q;V316E;N320Y;G325D;G328A;R342Q;E358A;E358K;R363C;R363H;G370S;およびP409Aが含まれる。
【0062】
一実施形態において本明細書で使用される「変異GAA」という用語は、ER内に通常存在する条件下で酵素が安定した立体配座を達成できないという結果をもたらす変異をGAAをコードする遺伝子内に有するGAAを含む。安定した立体配座が達成できないことで、相当量の酵素が、リソソームに輸送されずにむしろ分解される結果となる。
【0063】
一実施形態において本明細書で使用される「変異Gba」という用語は、ER内で通常存在する条件下で酵素が安定した立体配座を達成できないという結果をもたらす変異をGbaをコードする遺伝子内に有するGbaを含む。安定した立体配座が達成できないことで、相当量の酵素が、リソソームに輸送されずにむしろ分解される結果となる。
【0064】
本明細書中で使用される「特異的薬理シャペロン」(「SPC」)または「薬理シャペロン」という用語は、1つのタンパク質に対し特異的に結合し、(i)そのタンパク質の安定した分子立体配座の形成を増強する;(ii)ERから別の細胞部位、好ましくは未変性細胞部位へのタンパク質の輸送を誘発する、すなわちタンパク質のER関連分解を妨げる;(iii)異常な折り畳み構造のタンパク質の凝集を妨げる;および/または(iv)タンパク質に対する少なくとも部分的な野生型機能および/または活性を回復または増強させるといった効果のうちの1つ以上を有する小分子、タンパク質、ペプチド、核酸、炭水化物などを含むあらゆる分子を意味する。例えばα-Gal A、GAAまたはGbaに特異的に結合する化合物とは、それが、関係するまたは無関係の酵素の包括的一群ではなく、その酵素に結合しその酵素に対しシャペロン効果を及ぼすことを意味する。より具体的には、この用語は、BiPなどの内因性シャペロン、またはグリセロール、DMSOまたは重水など、さまざまなタンパク質に対する非特異的シャペロン活性を示した非特異的作用物質、すなわち化学的シャペロンを意味しない(Welch et al., Cell Stress and Chaperones 1996;1(2):109-115;Welch et al., Journal of Bioenergetics and Biomembranes 1997;29(5):491-502;米国特許第5,900,360号明細書;米国特許第6,270,954号明細書;および米国特許第6,541,195号明細書を参照のこと)。本発明においては、SPCは可逆的競合的阻害物質であってよい。
【0065】
酵素の「競合的阻害物質」とは、基質とほぼ同じ場所で酵素を結合させるため酵素基質の化学構造および分子幾何形状と構造的に類似する化合物を意味し得る。したがって、阻害物質は、基質分子と同じ活性部位を獲得するために競合してKmを増大させる。競合阻害は通常、阻害物質を変位させるために充分な基質分子が利用できる場合、すなわち競合的阻害物質か可逆的に結合できる場合、可逆的である。したがって酵素阻害の量は、阻害物質の濃度、基質濃度、および活性部位に対する阻害物質および基質の相対的親和力に左右される。
【0066】
以下に記すのは、本発明により企図されている一部の特異的薬理シャペロン(SPC)についての記述である。
【0067】
1つの特定の非限定的実施形態において、SPCは、
【化1】
という構造を有する化合物を意味する1-デオキシガラクトノジリマイシン、または1-デオキシガラクトノジリマイシンの薬学的に許容される塩、エステルまたはプロドラッグである。DGJの塩酸塩は、塩酸ミグルスタットとして公知である。
【0068】
α-Gal Aのためのさらにその他のSPCは、Fanらに対する米国特許第6,274,597号明細書、6,774,135号明細書および6,599,919号明細書の中で記述されており、α-3,4-ジ-エピ-ホモノジリマイシン、4-エピ-ファゴミン、α-アロ-ホモノジリマイシン、N-メチル-デオキシガラクトノジリマイシン、β-1-C-ブチル-デオキシガラクトノジリマイシン、α-ガラクト-ホモノジリマイシン、カリステギンA3、カリステギンB2、カリステギンB3、N-メチル-カリステギンA3、N-メチル-カリステギンB2およびN-メチル-カリステギンB3を含む。
【0069】
1つの特定の非限定的実施形態において、SPCは、
【化2】
という構造式により表わされるイソファゴミン(IFG;(3R,4R,5R)-5-(ヒドロキシメチル)-3,4-ピペリジンジオール))または、イソファゴミンの薬学的に許容される塩、エステルまたはプロドラッグ、例えば酒石酸IFGである(例えば、米国特許出願公開第20070281975号明細書を参照のこと)。IFGはC
6H
13NO3という分子式および147.17という分子量を有する。この化合物は、Sierksらに対する米国特許第5,844,102号明細書およびLundgrenらに対する米国特許第5,863,903号明細書中にさらに記載されている。
【0070】
Gbaのためのさらにその他のSPCは、Fanらに対する米国特許第6,916,829号明細書の中で記述されており、C-ベンジルイソファゴミンおよび誘導体、N-アルキル(C9-12)-DNJ、グルコイミダゾール(および誘導体)、C-アルキル-IFG(および誘導体)、N-アルキル-β-バレイナミン類、フルフェノジン、N-ドデシル-DNJ、カリステギンA3、B1、B2およびC1を含む。
【0071】
1つの特定の非限定的実施形態において、SPCは
【化3】
という構造式により表わされる1-デオキシノジリマイシン(1-DNJ)、または1-デオキシノジリマイシンの薬学的に許容される塩、エステルまたはプロドラッグである。一実施形態において、塩は塩酸塩(すなわち1-デオキシノジリマイシン-HCl)である。
【0072】
GAAのためのさらにその他のSPCは、Fanらに対する米国特許第6,274,597号明細書;6,583,158号明細書;6,599,919号明細書および6,916,829号明細書および米国特許出願公開第2006/0264467号明細書中に記載されており、N-メチル-DNJ、N-エチル-DNJ、N-プロピル-DNJ、N-ブチル-DNJ、N-ペンチル-DNJ、N-ヘキシル-DNJ、N-ヘプチル-DNJ、N-オクチル-DNJ、N-ノニル-DNJ、N-メチルシクロプロピル-DNJ、N-メチルシクロペンチル-DNJ、N-2-ヒドロキシエチル-DNJ、5-N-カルボキシペンチルDNJ、α-ホモノジリマイシン、およびカスタノスペルミンを含む。
【0073】
本明細書で使用されている通り、「特異的に結合する」という用語は、α-Gal A、GbaまたはGAAなどのタンパク質と薬理シャペロンの相互作用、具体的には、薬理シャペロンに接触するのに直接参与するタンパク質のアミノ酸残基との相互作用である。薬理シャペロンが具体的に標的タンパク質例えばα-Gal A、GbaまたはGAAを結合させて、関係あるまたは無関係のタンパク質の包括的基ではなく、そのタンパク質に対してシャペロン効果を及ぼす。任意の所与の薬理シャペロンと相互作用するタンパク質のアミノ酸残基は、そのタンパク質の「活性部位」の内部にあってもなくてもよい。特異的結合は、日常的な結合検定を通してかまたは構造研究、例えば共結晶化、NMRなどを通して評価され得る。α-Gal A、GbaまたはGAAの活性部位は、基質結合部位である。
【0074】
「α-Gal A活性欠損」というのは、ファブリー病またはその他のあらゆる疾病(特に血液疾患)を有していないまたはその疑いのない正常な個体における活性に(同じ方法を用いて)比較して正常範囲より低い患者由来の細胞内のα-Gal A活性を意味する。
【0075】
「Gba活性欠損」というのは、ゴーシェ病またはその他のあらゆる疾病を有していないまたはその疑いのない正常な個体における活性に(同じ方法を用いて)比較して正常範囲より低い患者由来の細胞内のGba活性を意味する。
【0076】
「GAA活性欠損」というのは、ポンペ病またはその他のあらゆる疾病を有していないまたはその疑いのない正常な個体における活性に(同じ方法を用いて)比較して正常範囲より低い患者由来の細胞内のGAA活性を意味する。
【0077】
本明細書で使用されている「α-Gal A活性を増強する」、「Gla活性を増強する」および「GAA活性を増強する」または「α-Gal A活性を増大させる」、「Gba活性を増大させる」および「GAA活性を増大させる」という用語は、α-Gal A、GbaまたはGAAに特異的な薬理シャペロンと接触していない(好ましくは例えばより早期の同じ細胞または同じ細胞型の細胞)の量に比べて、α-Gal A、GbaまたはGAAに特異的な薬理シャペロンと接触させられた細胞内で安定した立体配座をとるそれぞれα-Gal A、GbaまたはGAAの量を増大させることを意味する。この用語は同様に、α-Gal A、GbaまたはGAAに特異的な薬理シャペロンと接触させられた細胞中のリソソームへのα-Gal A、GbaまたはGAAの輸送を、そのタンパク質に特異的な薬理シャペロンと接触させられていないα-Gal A、GbaまたはGAAの輸送に比べて増大させることも意味している。これらの用語は、野生型および変異α-Gal A、GbaまたはGAAの両方に言及するものである。一実施形態において、細胞内のα-Gal A、GbaまたはGAAの量の増加は、SPCで処理された細胞由来の溶解物中の人工的基質の加水分解を測定することによって測定される。加水分解の増加は、α-Gal A、GbaまたはGAA活性の増大を標示する。
【0078】
「α-Gal A活性」という用語は、1つの細胞中の野生型α-Gal Aの正常な生理学的機能を意味する。例えば、α-Gal A活性には、GL-3の加水分解が含まれる。
【0079】
「Gba活性」という用語は、1つの細胞中の野生型αGbaの正常な生理学的機能を意味する。例えばGba活性には、脂肪性グルコセレブロシダーゼの代謝が含まれる。
【0080】
「GAA活性」という用語は、1つの細胞中の野生型Gaaの正常な生理学的機能を意味する。例えばGAA活性には、リソソームグリコーゲン代謝が含まれる。
【0081】
「応答者」というのは、例えばファブリー病、ポンペ病またはゴーシェ病など(ただしこれらに限定されない)のリソソーム貯蔵障害を有するという診断を受けたかまたはその疑いがあり、その細胞がSPCとの接触に応答して、それぞれに充分なα-Gal A、GAAまたはGba活性の増加および/または症候の改善または代理マーカーの改善を示す個体である。ファブリー病およびポンペ病のための代理マーカーにおける改良の限定的意味のない例は、それぞれ米国特許出願第60/909,185号明細書および61/035,869号明細書の中で開示されている。
【0082】
米国特許出願第60/909,185号明細書の中で開示されているファブリー病の代理マーカーの改善の限定的でない例としては、細胞(例えば線維芽細胞)および組織内のα-Gal Aレベルまたは活性の増大;GL-3蓄積の減少;ホモシステインおよび血管細胞接着分子-1(VCAM-1)の血漿濃度の減少;心筋細胞および弁膜線維芽細胞内のGL-3蓄積の減少;(特に左心室の)心臓肥大の削減、弁膜不全および不整脈の改善;タンパク尿の改善;CTH、ラクトシルセラミド、セラミドなどの脂質の尿中濃度の低下およびグルコシルセラミドおよびスフィンゴミエリンの尿中濃度の上昇(Fuller et al., Clinical Chemistry. 2005;51: 688-694);糸球体上皮細胞中の積層封入体(ゼブラ小体)の不在;腎機能の改善;発汗低下の緩和;角化血管腫の不在および、高周波感音難聴、進行性難聴、突発性難聴または耳鳴りなどの聴覚異常の改善が含まれる。神経学的症候の改善としては、一過性脳虚血発作(TIA)または卒中の予防;および肢端感覚異常(末端部のほてりまたはうずき)として現われる神経因性疼痛の改善が含まれる。
【0083】
上述の応答の1つ以上を達成する用量は「治療上有効な用量」である。
【0084】
「薬学的に許容できる」という語句は、生理学的に許容可能であり、ヒトに投与された場合に典型的には、望ましくない反応を生成しない分子的実体および組成物を意味する。好ましくは、本明細書で使用されている薬学的に許容できるという用語は、連邦または州政府の規制機関により承認されていることまたは、動物、より詳細にはヒトにおける使用のために米国薬局方またはその他の一般的に認知された薬局方の中に列挙されていることを意味する。「担体」という用語は、化合物を投与する場合に用いられる希釈剤、アジュバント、賦形剤またはビヒクルを意味する。かかる薬学的担体は、水および油などの無菌の液体であり得る。特に注射用溶液用の担体として、好ましくは、水または水溶液食塩溶液およびデキストロースおよびグリセロール水溶液が利用される。適切な薬学的担体は、"Remington's Pharmaceutical Sciences" by E.W. Martin, 18th Editionの中に記載されている。
【0085】
本明細書で使用される「単離される」という用語は、基準となる材料を、それが通常発見される環境から取り出すことを意味する。したがって、単離された生物材料は細胞構成要素、すなわちその材料が中で発見または産生される細胞の構成要素を含まない状態であり得る。核酸分子の場合、単離された核酸には、PCR産物、ゲル上のmRNAバンド、cDNAまたは制限フラグメントが含まれる。別の実施形態において、単離された核酸は好ましくは、それが発見され得る染色体から切除され、非調節、非コーティング領域または染色体中に発見された時点で単離核酸分子が含んでいた遺伝子の上流側または下流側に位置するその他の遺伝子にもはや接合されていないことがより好ましい。さらに別の実施形態において、単離核酸には1つ以上のイントロンが欠如している。単離核酸は、プラスミド、コスミド、人工染色体などに挿入された配列を含む。したがって、具体的実施形態において、組換え型核酸は単離核酸である。単離タンパク質は、それが細胞内で会合しているその他のタンパク質または核酸またはその両方と、あるいはそれが膜結合タンパク質である場合には細胞膜と会合していてよい。単離された細胞小器官、細胞、または組織は、生体内でそれが見出される解剖学的部位から取り出される。単離された材料を精製してもよいが、必ずしも精製する必要はない。
【0086】
「約」および「およそ」という用語は、一般に、測定の性質または精度から許容可能な程度の測定数量についての誤差を意味する。典型的には、例示的な誤差の程度は所与の値または値範囲の20パーセント(%)以内、好ましくは10%以内、そしてより好ましくは5%以内である。或いは、特に生体系において、「約」および「およそ」という用語は、所与の値の好ましくは10倍または5倍そしてより好ましくは2倍という範囲内にある平均値であり得る。本明細書中で示されている数値的数量は、特に明記しないかぎり近似であり、これは、明示的に記載されていない場合に「約」または「およそ」という用語が暗示され得る、ということを意味している。
【0087】
治療選択肢の決定方法
SPC療法が、例えばファブリー病、ポンペ病またはゴーシェ病患者などそしてファブリー病などのX連鎖リソソーム貯蔵障害の女性キャリアを含めた患者にとって実行可能な治療であるか否かを容易に決定するため、タンパク質の変異形態を発現する細胞系の中のタンパク質活性の単純で非観血的なSPCレスキュー検定が開発された。
【0088】
試験管内検定
一実施形態において、本発明の診断方法には、例えばα-Gal A、GAAまたはGbaなどの変異リソソーム酵素をコードする核酸ベクターで細胞系を形質転換するステップが関与する。細胞系は次に、α-Gal A、GAAまたはGba活性の増強(すなわち増大)を実証するのに充分な時間、例えばDGJ、DNJまたはIFGなどのSPCを用いて、またはこれを用いずに処置される。形質転換された細胞は次に溶解させられ、溶解物は、酵素活性を判定するため検定内で使用される。未処理の細胞からの溶解物内の活性と対比したSPCで処理された細胞からの溶解物中のα-Gal A、GAAまたはGba内の充分な増加は、細胞系と同じ変異を伴うα-Gal A、GAAまたはGbaを発現する患者からSPC療法に応答する(すなわち患者が「応答者」である)確率が高いことを標示する。
【0089】
細胞系の過渡的トランスフェクションおよび変異リソソーム酵素の発現
一実施形態では、SPC応答性変異を同定するため、例えばミスセンス変異およびインフレーム小欠失および挿入などの全ての公知のリソソーム酵素(例えばα-Gal A、GAAまたはGba)変異を当該技術分野で公知の技術にしたがって、例えば部位特異的変異により、生成することができる。このとき変異酵素構成体を、例えば哺乳動物COS-7、HEK-293またはGripTite293MSR(Invitrogen Corp.,Carlsbad、CA、U.S.A)細胞などの細胞系の中で過渡的に発現させることができる。形質転換された細胞を次に、漸増濃度のSPCと共にインキュベートすることができ、細胞溶解物中で酵素活性を測定できる。
【0090】
変異誘発:変異タンパク質(例えば変異α-Gal A、GAAまたはGba)をコードする核酸ベクターは、当業者の技能範囲内に入る従来の分子生物学、微生物学および組換え型DNA技術により生成可能である。(例えばSambrook, Fritsch & Maniatis, 2001, Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Third Edition, Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor, New York;Glover, ed., 1985, DNA Cloning: A Practical Approach, Volumes I and II, Second Edition;Gait, M.J., ed., 1984, Oligonucleotide Synthesis: A practical approach;Hames, B.D. & Higgins, S.J. eds., 1985, Nucleic Acid Hybridization;Hames, B.D. & Higgins, S.J., eds., 1984, Transcription And Translation;Freshney, R.I., 2000, Culture of Animal Cells: A Manual of Basic Technique;Woodward, J., 1986, Immobilized Cells And Enzymes: A practical approach, IRL Press;Perbal, B.E., 1984, A Practical Guide To Molecular Cloning)を参照のこと)。例えば、野生型酵素をコードする核酸の部位特異的変異誘発を通して野生型α-Gal A、GAAまたはGba遺伝子をコードする核酸内に、単一のα-Gal A、GAAまたはGba変異を導入できる。
【0091】
過渡的トランスフェクションおよび発現:例えば変異α-Gal A、GAAまたはGbaなどの送達すべき遺伝子のコーディング配列は、例えばその遺伝子の発現を導くプロモータなどの発現制御配列に作動的に連結されている。本明細書で使用する「作動的に連結される」という表現は、プロモータ、エンハンサ、転写および翻訳停止部位およびその他のシグナル配列などのヌクレオチドの調節およびエフェクタ配列とのポリヌクレオチド/遺伝子の機能的関係を意味する。例えば、プロモータに対する核酸の作動的連結は、そのプロモータを特異的に認識しこれに結合するRNAポリメラーゼによってプロモータからDNAの転写が開始されるような形でのポリヌクレオチドとプロモータ間の物理的および機能的関係を意味する。プロモータは、ポリヌクレオチドからのRNAの転写を導く。変異タンパク質(例えば変異α-Gal A、GAAまたはGba)の発現は、当該技術分野において公知の任意のプロモータ/エンハンサ要素により制御されてよいが、これらの調節要素は、発現のために選択された宿主の中で機能的でなくてはならない。
【0092】
具体的な一実施形態では、ゲノム内の所望の部位における相同的組換えを促進する領域によりコーディング配列および任意のその他の配列がフランキングされ、こうしてゲノム内に組込まれた核酸分子からの構成体の発現を提供しているベクターが使用される(Koller and Smithies, 1989, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 86:8932-8935;Zijlstra et al., 1989, Nature 342:435-438;Zarlingらに対する米国特許第6,244,113号明細書;およびPatiらに対する米国特許第6,200,812号明細書を参照のこと)。
【0093】
「宿主細胞」という用語は、例えば遺伝子、DNAまたはRNA配列、タンパク質または酵素の細胞による発現などの細胞による1つの物質の産出を目的として、選択され、修飾され、形質転換され、成長させられまたは使用され、あるいは任意の方法で操作される任意の生物体の任意の細胞を意味する。一実施形態において、変異α-Gal A、GAAまたはGbaをコードするベクターでトランスフェクトされる宿主細胞を使用して、例えばDGJ、DNJまたはIFGなどの候補SPCをスクリーニングし、その候補SPCが宿主細胞により発現される変異α-Gal A、GAAまたはGbaの活性を増大させるために有効な化合物であるか否かを判定することができる。
【0094】
「発現系」という用語は、例えばベクターにより担持され宿主細胞に導入された外来性DNAによりコードされるタンパク質の発現のための適切な条件下の宿主細胞および適合性のあるベクターを意味する。発現系には、哺乳動物の宿主細胞とベクターが含まれる。適切な細胞には、PC12細胞、CHO細胞、HeLa細胞、GripTite293MSR細胞(Invitrogen Corp.,Carlsbad、CA、USA)、HEK-293(293細胞としても知られている)および293T細胞(ヒト胚腎臓細胞に由来)、COS細胞(例えばCOS-7細胞)、マウス一次筋芽細胞、NIH3T3細胞が含まれる。
【0095】
適切なベクターとしては、ウィルス例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウィルス(AAV)、ワクシニア、ヘルペスウィルス、バキュロウィルスおよびレトロウィルス、パルボウィルス、レンチウィルス、バクテリオファージ、コスミド、プラスミド、真菌ベクター、裸のDNA、DNA脂質複合体および、さまざまな真核生物および原核生物宿主における発現のために記述され、遺伝子療法ならびに単純なタンパク質発現に使用されてよい当該技術分野において典型的に使用されているその他の組換えビヒクルが含まれる。
【0096】
1つの非限定的実施例では、試薬FugeneHD(Roche)を用いてGripTite293MSR細胞(Invitrogen Corp.,Carlsbad、CA、USA)内で過渡的トランスフェクションを実施することができる。96ウェル平板(Costar)などの適切な検定容器内で、例えば7.5~10k細胞/ウェルの密度で細胞を播種し、トランスフェクションの前24時間にわたり例えば37℃で5%CO2などの適切な条件下でインキュベートすることができる。特異的α-Gal A変異体を含む発現構成体を用いたトランスフェクションの後、例えば37℃、5%CO2中で1時間細胞を再度インキュベートした後、50nM~1mMでDGJを添加することができる。次に、分解および検定の前に4~5日間細胞をインキュベートすることができる。
【0097】
酵素活性/増強検定:典型的には、SPC(例えばDGJ、DNJまたはIFG)でのインキュベーションの後、溶解緩衝液(または脱イオン水)の添加および室温でまたは氷上での物理的破壊(ピペット操作、ボルテックス処理および/または撹拌および/または音波処理)により宿主細胞を溶解させ、その後溶解物を氷上にプールし、次にプールされた溶解物を少量のアリコートに分割し凍結させる。
【0098】
検定の直前に溶解物を解凍することができ、これをボルテックスミキサーを用いて懸濁させ音波処理してから、例えばマイクロ平板内で適切なウェルに添加すべきである。ファブリー病に関しては、その後各ウェルにN-アセチルガラクトサミン(GalNAc)を添加し(α-ガラクトシダーゼBを阻害するため)、その後短時間インキュベートする。次に、4-メチルウンベリフェリル-α-D-ガラクトピラノシド(4-MU Gal)またはその他の適切な標識されたDGJ基質を添加し、平板を穏やかに短時間混合し、カバーし、通常約1時間である基質加水分解に充分な時間、37℃でインキュベートする。反応を停止させるためには、各ウェルに対しpH10.7のNaOH-グリシン緩衝液を添加し、平板は蛍光平板読取り装置(例えばWallac 1420 Victor3TMまたは類似の計器)で読取られる。励起および発光波長は、習慣的にそれぞれ355nmおよび460nmに設定された。酵素活性の1単位は1時間当たり1nmoleの4-メチルウンベリフェロンの加水分解の触媒として作用する酵素の量として定義される。各々の患者の標本について、少なくとも3つの正常な標本を同時に試験してよい。
【0099】
当業者であれば、この検定のさまざまな修正を容易に究明することができる。α-Gal A活性を検出するために使用できる人工的基質の例としては、p-ニトロフェニル-α-D-ガラクトピラノシドおよび4-MUGALが含まれるが、これらに限定されるわけではない。明らかに、ヒトα-Gal Aにより分割可能な基質のみが使用に適している。蛍光発生基質の使用が好まれる一方で、発色性基質または免疫定量化技術の使用を含め、酵素活性を決定するその他の方法が、この方法での使用に企図されている。
【0100】
1つの具体的実施例では、SPC例えばDGJとのインキュベーションの後、宿主細胞をPBSで2回洗浄し、次に2時間5%CO2で37℃の新鮮な培地200μL中でインキュベートし、その後さらに2回PBSで洗浄することができる。その後、細胞を60μLの溶解緩衝液(27mMのクエン酸ナトリウム/46mMの第2リン酸ナトリウム、0.5%のトリトン-X-100、pH4.6)中に溶解させることができる。このとき、10μLの溶解物を50μLの検定緩衝液(トリトンX-100を含まず、6mMの4-MU-α-D-ガラクトピラノシド(4-MUG)および117mMのN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNac)を含む溶解緩衝液)に添加し、1時間37℃でインキュベートすることができる。次に70μLの停止溶液(0.4Mのグリシン、pH10.8)を添加し、355nmの励起および460nmの発光でVictor平板読取り装置(Perkin Elmer)上で蛍光を読取ることができる。基質溶液のみからの計数により定義されるように、生の蛍光計数をバックグラウンド除去することができる。40μLの細胞溶解物からタンパク質濃度を決定するために、メーカーの指示事項にしたがってMicroBCA Protein Assay Kit(Pierce)を使用した。nmoles/タンパク質mg/時として表現される絶対α-Gal A活性の計算のため、30μM~1.3nMの範囲の4-メチルウンベリフェロン(4-MU)標準曲線を平行に作成するか、または未処理の野生型酵素活性の%に対しさらに正規化した。
【0101】
治療基準表
別の実施形態では、以上で記述した方法を用いて、「治療基準表」または「治療療法表」を生成することができ、ここで治療基準表はタンパク質変異のリストを含み、さらにこの表は例えばDGJ、DNJまたはIFGなどのSPCに対する各変異の応答性を標示している。治療基準表は次に、例えばDGJ、DNJまたはIFGなどの特定のSPCが、それぞれ特定のα-Gal A、GAAまたはGba変異を有する患者を治療するのに有効なSPCであると思われるか否かを判定するために使用可能である。
【0102】
本明細書で使用されるように、「治療療法表」または「治療基準表」は、特定の変異がSPC療法に応答するか否かを伝えるあらゆる文書記録を意味し、必ずしも表の形態で提示される文書記録には限定されない。
【0103】
一実施形態において、治療基準表は、それぞれ特異的変異α-Gal A、GAAまたはGbaを発現する例えばファブリー病、ポンペ病またはゴーシェ病患者の治療用のSPCを選択するために治療担当医または臨床専門家により使用され得、ここでSPCは、宿主細胞内で変異α-Gal A、GAAまたはGbaが発現された場合に患者の変異α-Gal A、GAAまたはGbaの活性を増大させることのできる化合物として治療基準表がそれを同定することを理由として選択される。
【0104】
治療可能な障害
本出願を主としてファブリー病、ポンペ病およびゴーシェ病そしてそれぞれDGJ、DNJおよびIFGというSPCに関連して論述してきたが、それがあらゆるSPCおよび疾病に対しても適用可能であることを理解すべきである。一つの非限定的実施形態では、任意の候補SPCおよび任意のリソソーム酵素について、またはタンパク質の誤った折り畳みが関与するあらゆる障害について治療基準表を生成することができる。これらの疾病としては、その他のリソソーム貯蔵障害、例えばなかでも嚢胞性線維症(CFTR)(呼吸器または汗腺上皮細胞)、家族性高コレステロール血症(LDL受容体;LPL含脂肪細胞または血管内皮細胞)、癌(p53;PTEN-腫瘍細胞)、アルツハイマー病(α-セクレターゼ)、パーキンソン病(グルコセレブロシダーゼ)、肥満症(MC4R)およびアミロイドーシス(トランスサイレチン)が含まれる。
【0105】
適格性判定基準
SPC療法に対する適格性を判定するための基準は、患者が発現する変異GLA、GAAまたはGbaのタイプによって左右される。一実施形態において、ファブリー病、ポンペ病またはゴーシェ病を有する患者は、DGJ、DNJまたはIFGなどのSPCの存在下で患者と同じ変異を発現する宿主細胞内のそれぞれα-Gal A、GAAまたはGba活性が、野生型α-Gal A、GAAまたはGbaを発現する宿主細胞の活性の少なくとも1.5倍~20倍(2%~100%)である場合に、SPC療法に適格であるとして分類され得ると思われる。
【0106】
この発見は、特にファブリー病、ポンペ病およびゴーシェ病そしてリソソーム貯蔵障害全般の診断を改善しかつこれらの疾病のための臨床治療決定を容易にするための方法を提供する。その上、この方法は、該当する細胞型における遺伝的に定義された広範囲の疾病に拡大することができる。この種類の疾病には、その他のリソソーム貯蔵障害、なかでも嚢胞性線維症(CFTR)(呼吸器または汗腺上皮細胞)、家族性高コレステロール血症(LDL受容体;LPL含脂肪細胞または血管内皮細胞)、癌(p53;PTEN-腫瘍細胞)、アルツハイマー病(α-セクレターゼ)、パーキンソン病(グルコセレブロシダーゼ)、肥満症(MC4R)およびアミロイドーシス(トランスサイレチン)が含まれる。
【0107】
キット
本発明は同様に、療法的治療の決定を行うための市販の診断用テストキットも提供する。このキットは、任意には使用説明書および分析指針を含む1つの便利なパッケージ内に各検定を準備し実行するための上述のそしてより詳細には以下の実施例中に論述されている全ての材料を提供するものである。
【0108】
1つの限定的でない実施例としては、α-Gal A活性を評価するためのキットは最低限、次のものを含んでいてよい:
a.各々変異α-Gal Aを発現する宿主細胞のパネルあるいは、宿主細胞、変異α-Gal Aをコードするベクターおよび宿主細胞が変異α-Gal Aを発現するように宿主細胞をトランスフェクトする手段;
b.特異的薬理シャペロン;
c.(適切な標準を含む)酵素検定用の発色性または蛍光発生基質;および
d.GaINAc。
【0109】
キットは同様に、タンパク質増強検定を最適な形で実施するための使用説明書も含んでいてよい。別の実施形態において、キットは適切な試験管、緩衝液(例えば溶解緩衝液)およびマイクロ平板を含んでいる。
【0110】
一実施形態において、SPCは、乾燥形態で供給され、添加の前に再構成される。
【0111】
本発明の検定において候補SPCでの酵素増強についての試験で陽性となった変異α-Gal A、GAAまたはGbaを発現する患者は、このときその候補SPC作用物質で治療可能であり、一方候補SPCで酵素増強を示さない変異α-Gal A、GAAまたはGbaを発現する患者は、治療を回避でき、こうして費用を節減し、一つの治療法に応答しないという感情的な痛手を予防することになる。
【実施例】
【0112】
本発明は、以下で提示される実施例を用いてさらに記述される。このような実施例の使用は単に例示を目的としているにすぎず、本発明およびいずれかの例示された用語の範囲および意味をいかなる形であれ限定するものではない。同様にして、本発明は、本明細書中に記載された任意の特定の好ましい実施形態に限定されない。実際、本発明の多くの修正および変形形態が、本明細書の読了時点で当業者に明らかとなる。したがって、本発明は、クレームが資格を有する等価物の全範囲と合わせて、添付クレームの文言によってのみ限定されるべきものである。
【0113】
実施例1:薬理シャペロンDGJに対する応答性を有するファブリー病を引き起こす変異の同定
この実施例1は、特異的薬理シャペロンに対するファブリー病患者の応答性を判定するための試験管内診断検定を提供する。
【0114】
序
ファブリー病は、α-ガラクトシダーゼA(α-Gal A)をコードする遺伝子内の変異によって引き起こされるリソソーム貯蔵障害である。600超のファブリー変異が報告されており、約60%がミスセンスである。イミノ糖DGJは、現在、ファブリー病の治療のための薬理シャペロンとして第二相臨床試験において研究中である。以前に、DGJが多くのファブリー病患者由来のリンパ球様細胞系におけるα-Gal Aレベルの選択的かつ用量依存性増加を媒介するということが示された。付加的なDGJ応答性変異を同定するために、GripTite293MSR、(Invitrogen Corp., Carlsbad、CA、USA)細胞が、全ての公知のα-Gal Aミスセンス変異そして部位特異的変異誘発によって生成された複数のインフレーム小欠失および挿入を含む発現ベクターで、過渡的にトランスフェクトされた。変異α-Gal A構成体が、HEK-293細胞内で過渡的に発現された。細胞は、漸増濃度のDGJと共にインキュベートされ、細胞溶解物内のα-Gal A活性が測定された。35超のミスセンス変異について検定の検証が実施され、HEK-293細胞内で得られた結果は、ファブリー病患者由来のリンパ球様細胞および初代T細胞培養の両方から得たもの(米国特許出願第11/749,512号明細書参照)、ならびに第二相臨床試験においてDGJの経口投与後のファブリー病患者の白血球細胞内で見られたα-Gal A酵素応答と類似していた。
【0115】
方法と材料
変異誘発:全ての変異は、標準的分子生物学プロトコルにしたがって部位特異的変異誘発により生成された。点変異を生成するためには、インフレームでヒトα-Gal A cDNAを含む発現ベクターpcDNA3.1(Invitrogen)に対して部位特異的変異誘発が用いられた。所望の変異を含む特異的プライマ対が設計された(
図6)。変異誘発は、サーモサイクラー内でPfuUltraハイファイDNAポリメラーゼ(Stratagene)を用いてポリメラーゼ連鎖反応を通して実施された。各々の反応混合物は、以下のものを合計体積50μl含んでいた:dH
2O41.6μl、10倍PfuUltraHF反応緩衝液5.0μl、順方向-5’-プライマ(50μM)0.5μl、逆方向-3’-プライマ0.5μl、(各25mMずつのdA、dT、dC、dGを含む)dNTPミックス1.0μl)、pcDNA3中のヒトGLA0.9μl(DNA2ng/μl)、PfuUltraHD DNAポリメラーゼ0.5μl。使用されたサーモサイクラーパラメータは以下の通りであった:i)30秒間94℃、ii)30秒間94℃、30秒間50~60℃、6分間68℃、iii)ii)を16回反復する。その後、0.5μlのDpnI(New England Biolabs)を各反応に加え、2時間37℃でインキュベートした。各々の変異誘発反応について7.5μlの体積を用いて、DH5α細胞(New England Biolabs)を形質転換した。その後、75μg/mlのアンピシリンでLB寒天平板上に細胞を平板固定し、一晩37℃でインキュベートした。細菌コロニーを採取し、一晩、振とうしながら37℃でアンピシリンと共に液体LB中で成長させ、QuickLyse Miniprep Kit(Qiagen)を用いてプラスミドDNAを抽出した。全長ヒトGLA遺伝子を配列決定することにより、変異体を確認した。一部の変異体について、ヒトGLAc DNAがベクタープラスミドpCXN内に含まれていた。NEB融合タンパク質ポリメラーゼを用いてこのベクター内で変異誘発を実施した。配列決定を通して変異を確認した後、プラスミドをEcoRIで消化させ、発現ベクターpcDNA3.1内にサブクローニングした。Xho Iでの消化により正しい配向を確認した。
【0116】
過渡的トランスフェクションおよび発現:試薬FugeneHD(Roche)を用いて、GripTite293MSR細胞(Invitrogen Corp.,Carlsbad、CA、USA)内で過渡的トランスフェクションを実施した。簡単に言うと、細胞を7.5~10k細胞/ウェルの密度で96ウェル平板(Costar)内に播種し、トランスフェクションに先立ち24時間37℃、5%CO2でインキュベートした。1ウェルあたり0.35μLのFugeneHD試薬および0.1μgのDNAで細胞をトランスフェクトした(DNA:試薬比2:7)。特異的α-Gal A変異体を含む発現構成体でのトランスフェクションの後、細胞を再び37℃、5%CO2内で1時間インキュベートした後、20nM~1mMでDGJを添加した。その後、溶解および検定の前に4~5日間インキュベートした。
【0117】
α-Gal A活性測定:細胞をPBSで2回洗浄し、次に2時間5%CO2で37℃の新鮮な培地200μL中でインキュベートし、その後さらに2回PBSで洗浄した。その後、細胞を60μLの溶解緩衝液(27mMのクエン酸ナトリウム/46mMの第2リン酸ナトリウム、0.5%のトリトン-X-100、pH4.6)中に溶解させた。このとき、10μLの溶解物を50μLの検定緩衝液(トリトンX-100を含まず、6mMの4-MU-α-D-ガラクトピラノシド(4-MUG)および117mMのN-アセチル-D-ガラクトサミン(GalNac)を含む溶解緩衝液)に添加し、1時間37℃でインキュベートした。次に70μLの停止溶液(0.4Mのグリシン、pH10.8)を添加し、355nmの励起および460nmの発光でVictor平板読取り装置(Perkin Elmer)上で蛍光を読取った。基質溶液のみからの計数により定義されるように、生の蛍光計数をバックグラウンド除去した。40μLの細胞溶解物からタンパク質濃度を決定するために、メーカーの指示事項にしたがってMicroBCA Protein Assay Kit(Pierce)を使用した。nmoles/タンパク質mg/時として表現される絶対α-Gal A活性の計算のため、30μM~1.3nMの範囲の4-メチルウンベリフェロン(4-MU)標準曲線を平行に作成するか、または未処理の野生型酵素活性の%に対しさらに正規化した。
【0118】
過渡的トランスフェクションおよびα-Gal A活性測定をカドリプリケートで実施し、各変異について少なくとも3回反復して、各DGJ濃度での平均α-Gal A活性を計算した。DGJに対する有意な応答を、両側で対応のあるスチューデントT検定により判定した(p<0.05)。
【0119】
結果
列挙されたファブリー変異は全て部位特異的変異誘発によって生成された(
図1)。イタリック体テキストで識別された変異は試験されておらず、一方プレーンテキストで識別された変異は、過渡的トランスフェクション検定においてDGJ治療に対する応答性を有していたα-Gal A変異体であり、ボールド体テキストおよび下線付きテキストで識別された変異は、過渡的トランスフェクション検定においてDGJ処置に対する応答性を有していなかった。DGJ処置後のα-Gal Aレベルの増加の規模およびEC50値は、DGJ処置に応答した全ての試験対象変異について列挙されている。(
図2)。
【0120】
α-Gal A活性(1時間にタンパク質1mgあたりに放出された4-MUのnmol数(nmol/mg protein/h of 4-MU released)として表現された)を、漸増濃度のDGJと共にインキュベートしたトランスフェクション済みGripTite293細胞から調製された溶解物の中で測定した。L300Pについて、典型的な濃度依存性応答が示され、R227QについてはDGJに対する典型的な負の応答が示されている。野生型は、高いベースライン活性を示し、この検定においてDGJに応答していない(
図3)。
【0121】
α-Gal Aレベルを、3つの異なる検定において測定し、野生型の百分率として報告し、並置してプロットすることにより各変異について比較した。3つの異なる検定では、ファブリー病患者から単離されたT細胞およびリンパ芽球(例えば米国特許出願第11/749,512号明細書)ならびにDGJ第二相研究由来の白血球(WBC)の中のα-Gal Aレベルを検査した。
【0122】
白棒は基礎レベル(DGJ処置無し)を表わし、黒棒はDGJ治療後の上昇レベルを表わす(
図4)。
【0123】
試験されたファブリー変異を、α-Gal A二次構造上で示した(
図5)。変異のタンパク質配列上の場所と応答の間には有意な相関関係が一切観察されず、これはタンパク質全体にわたり応答性変異と非応答性変異が広く分布していることを示唆していた。テキストの色はDGJ応答を表わす。すなわち、緑色=応答あり;赤色=応答なし;褐色は、その同一部位上の多数の変異のうち一部はDGJ治療に応答したが、他は応答しなかったことを表わす。
【0124】
結論
記述されたこれらの結果は、ファブリー病患者由来のリンパ球様細胞またはT細胞から得た結果、ならびに第二相臨床試験でDGJを経口投与した後にファブリー病患者の白血球中に観察されたα-Gal A酵素応答に匹敵するものである。
【0125】
したがって、GripTite293MSR過渡的トランスフェクション検定は、DGJ応答性変異を同定しこの応答の規模および効力を特徴づけするための信頼性の高い方法である。
【0126】
同定された応答性変異の間で、DGJ治療によるα-Gal Aレベルの増大は1.3倍~40倍(野生型の2%~100%)の範囲内にあり、EC50値は200nMと100mM超の間であった。
【0127】
DGJ応答性および非応答性変異形態は、α-Gal Aタンパク質構造上の特定の領域またはドメインに位置するようには思われなかった。
【0128】
実施例2:グルコセレブロシダーゼ活性に対するSPCの効果を評価するための生体外方法-予言的実施例
ゴーシェ病(GD)は、リソソームグルコセレブロシダーゼ(GCase)の欠損によって引き起こされる。GCase活性の欠損は、グルコシルセラミド(GlcCer)の蓄積および貧血症、血小板減少症、肝脾腫大症、骨壊死、梗塞症および骨粗鬆症そして一部のケースでは神経痛などの症候の発生を導く。特異的薬理シャペロン酒石酸イソファゴミン(IFG)は、ER内で変異(N370S/N370S)GCaseと結合し、リソソームへのその輸送を増大させる。
【0129】
異なるGCase多様体(variant)に対するIFGの効果を評価するためにIFG応答性変異を確認する目的でCos7細胞を用いて生体外診断検定を準備する。
【0130】
実施例1および4で記述した技術を用いて、部位特異的変異誘発によりミスセンス変異および複数のインフレーム小欠失および挿入を発現するCOS-7細胞系を調製する。
図8のX軸に列挙された変異全てのために検定を準備する。IFG活性応答を、当該技術分野において公知の方法にしたがって、各検定について確認する(例えば、参照により本明細書に援用されている米国特許第6,916,829号明細書を参照のこと)。
【0131】
患者由来の細胞に対するCOS-7細胞内で測定されたIFG応答の相関関係を判定するために、患者由来のマクロファージおよびリンパ芽球の中でもIFG活性応答も測定した。63人の患者のうち46人からマクロファージを首尾よく誘導し、5日間のIFG(3、10、30または100μM)でのインキュベーションにより、46人の患者のうちの42人に由来するマクロファージ内でGCaseレベルが増大した(平均=2.3倍;範囲:1.1~6.5倍)。残留活性レベルおよびIFGに対する応答は、異なる患者間でマクロファージ生存能力が変動したため、マクロファージに比べリンパ芽球内で測定した場合に同じ遺伝子型についてより一貫性あるものであった。結果は表8に示されている。
【0132】
患者由来の細胞についてのIFGに対する応答を、Cos7細胞系内で得られた結果と比較する。
【0133】
実施例3:皮膚、心臓、腎臓および血漿中のα-Gal A活性に対するSPCの生体内効果
変異α-Gal Aレベルの増大が原位置α-Gal A活性の増大という形で表われるか否かを決定するために、hR301Qα-Gal A Tg/KOマウス内で組織GL-3レベルに対するDGJ投与の効果を生体内調査した。
【0134】
8週令の雄のhR301Q α-Gal A Tg/KOマウスを、体重1kgあたり300mgのDGJを飲料水中に入れて毎日またはそれより低頻度(4日間ON/3日間OFF)で4週間処置した。投薬の後、溶解緩衝液中に約50mgの組織を均質化することにより皮膚、心臓、腎臓および血漿由来の溶解物を調製した(以上参照)。20μLの溶解物を50μLの基質と混合した(以上で詳述した通り)。反応混合物を1時間37℃でインキュベートした。その後、70μLの停止溶液を添加し、上述の通りVictor平板読取り装置上で蛍光を読取った。溶解物中の酵素活性をバックグラウンド除去し、タンパク質濃度について正規化した。蛍光データをnmol/mgタンパク質/時として表現した絶対α-Gal A活性に変換するために、4-MU標準曲線を作成した。
【0135】
組織標本を血液が無くなるように洗浄し、秤量し、FastPrep(登録商標)システム内で溶媒系を用いて均質化した。その後C18カートリッジ上での固相抽出を用いてホモジネートを抽出した。溶離材を蒸発させ、LC-MS/MSシステム上に注入する前に再構成した。12のGL-3イソ型を、正のESI-MS/MSを用いて測定した。00829a ZorbaxC18カラム上でLC分離を達成した。
【0136】
毎日およびさらに低頻度でのDGJ投薬により、皮膚、心臓、腎臓および血漿中で有意なGL-3レベル低下が見られた(
図9)。GL-3レベルのさらに大幅の削減傾向が、より低頻度のDGJ投薬で多数の組織および血漿中で見られた。集合的にこれらの結果は、DGJが、ファブリー病患者の治療のためにさらに評価する価値のあるものであることを示している。
【0137】
実施例4:薬理シャペロンDNJに対する応答性を有するポンペ病を引き起こす変異の同定
ポンペ病は、リソソームグリコーゲン代謝を損なう酸性アルファグルコシダーゼ(GAA)活性の欠損によって引き起こされる。酵素の欠損は、リソソームグリコーゲン蓄積を導き、進行性骨格筋脱力、心機能低下、呼吸器不全および疾病後期におけるCNS機能障害を結果としてもたらす。GAA遺伝子内の遺伝的変異は、より低い発現を結果としてもたらすかまたは、安定性がおよび/または生物活性が改変された酵素の変異形態を生成し、最終的に疾病を導く。薬理シャペロンは、遺伝病の治療のための見込みある新しい治療アプローチである。
【0138】
異なるGAA多様体に対するDNJ効果を評価するために、DNJ応答性変異を確認する目的でCOS-7およびHEK-293細胞を用いて試験管内診断検定を準備した(
図10、12および14)。
【0139】
野生型ヒト酸性α-グルコシダーゼ(GAA)をコードする相補的DNA(CDNA)内に特異的変異を導入するために、部位特異的変異誘発アプローチを利用した。cDNAクローン5739991(Invitrogen)からpcDNA6/V5-HisA哺乳動物発現ベクター(Invitrogen)へとGAAコーティング領域をサブクローニングすることにより、初期野生型GAADNA構成体を生成した。結果として得たDNA構成体(野生型GAAcDNAと呼ぶ)を、後続する変異誘発のためのDNA鋳型として使用した。これらのミスセンス、小挿入または欠失変異は、エラスムスデータベース内で引用されており、ポンペ病としても知られている2型グリコーゲン蓄積障害(GSDII)と関連づけされることが公知である。簡単に言うと、野生型GAAcDNAを、所望の変異を有するプラスミドDNAを得るべく変異誘発プライマを用いてPCR増幅した。これらの変異は、細胞内でのタンパク質発現に先立ち、DNA配列を決定することにより確認された。
【0140】
COS-7細胞(ミドリザル胚腎臓細胞に由来するもの)を、10%(v/v)のウシ胎児血清を含む3mlのダルベッコ修正基礎培地(DMEM)中に1ウェルあたり細胞約1.4×105個の細胞密度で、12ウェルの組織培養平板内に無菌で播種し、加湿した5%のCO2雰囲気中で37℃で一晩成長させた。翌日、メーカーの使用説明書にしたがって、FUGENE HD(Roche)などの脂質トランスフェクション試薬を介して0.75μgの個々のDNA構成体を用いて細胞(典型的には60~80%の集密)をトランスフェクトした。1つのウェルをDNJ(典型的には0μM、20μM、50μMまたは100μm)でインキュベートし、一方等体積のPBSをもう一方のウェルに添加するような形で、2つのウェルを各々のDNA構成体でトランスフェクトした。さらに2つのウェルを空のベクター(GAAcDNA無し)でトランスフェクトしDNJを伴ってまたは伴わずにインキュベートして、内固性サルGAA発現のためのバックグラウンド対照として用いた。類似の要領で、2つの追加のウェルを野生型ヒトGAAcDNAでトランスフェクトし、DNJを伴ってまたは伴わずにインキュベートして、陽性対照として用いた。全ての標本を、加湿した5%CO2雰囲気内で37℃で約48時間インキュベートした。
【0141】
48時間のインキュベーション期間の後、消費した培地を除去し、細胞をPBSで洗浄し、その後新鮮な1~2mlのDMEM培地を用いて3時間、加湿した5%のCO2雰囲気中で37℃でインキュベートした。その後培地を除去し、細胞を直ちにPBSで洗浄し、プロテアーゼ阻害物質のカクテルを含む200μlの溶解緩衝液(25mMのBis-Tris(pH6.5)、150mMのNaCl、1%(v/v)のトリトンX-100)で溶解させた。その後、細胞を完全に溶解させるため室温で10分間回転軌道振とう機上で、細胞培養平板を穏やかに旋回させた。結果として得られた細胞溶解物を清浄な1.5ml入りの微小遠心管に移し、10分間20,000xgで転回させて細胞残屑をペレット化した。各々の上清標本約175μlを次に1.5ml入りの新しい微小遠心管に移した。この細胞溶解物を、GAA酵素活性、合計タンパク質濃度判定およびウェスタンブロット法を含めた後続する全ての検定のために使用した。
【0142】
蛍光性4-メチルウンベリフェリル-α-グルコピラノシド(4-MU-α-グルコース)基質(Sigma)を用いて、各々の過渡的に発現されたGAAについて残留GAA酵素活性を判定した。簡単に言うと、3mMa4-MU-α-グルコースおよび50mMのKOAc(pH4.0)を用いた96ウェルの透明な底面黒色平板内の100μlの反応中で10μlの各々の細胞溶解物を検定した(トリプリケードで)。過渡的に発現させた野生型GAA標本を溶解緩衝液で20倍に希釈し、酵素反応が計器の線形範囲内に確実に維持されるようにした。酵素反応を1時間37℃で実施し、500mMのNa2CO3(pH10.5)を50μl加えることによって終結させた。その後検定を蛍光平板読取り装置(355nmの励起/460nmの発光を使用)内で読取って、解放されたGAA依存性4-MU蛍光の量を定量した。その後バックグラウンド蛍光(すなわち空ベクター対照)を除去した後、GAA酵素活性を遊離4-MU標準曲線から外挿した。
【0143】
各々の細胞溶解物25マイクロリットルを並行検定において使用し、メーカーのプロトコルにしたがってビシンコニン酸(BCA)タンパク質検定(Pierce)を用いて合計細胞タンパク質濃度を決定した。ウシ血清アルブミン(BSA)標準曲線から合計細胞タンパク質濃度を外挿した。
【0144】
各標本についてのGAA酵素活性を合計細胞タンパク質濃度に正規化し、1時間の合計タンパク質1mgあたりの放出4-MU nmoles数として表現して、GAA比活性度を定義した。DNJ処置後の結果として得たGAA比活性度を、対応する未処置の標本のGAA酵素活性と比較して、特異的GAA変異体がDNJに応答するか否かを判定した。
【0145】
GAA変異、トランスフェクトされた単一のHEK-293細胞系P545Lについては、DNJEC
50も同様に判定した(
図14)。
【0146】
患者由来の細胞に対するCOS-7細胞内で測定したDNJ応答の相関関係を判定するため、同様に患者由来のマクロファージおよびリンパ芽球の中で体外でDNJ-活性応答を測定した。
【0147】
ポンペ患者に由来する線維芽細胞およびリンパ球細胞系も同様に、先に記述した通りに生成した(米国特許出願第11/794,512号明細書を参照のこと)。線維芽細胞系は、P545LまたはR854X GAA変異についてホモ接合性の患者に由来していた(
図13)。リンパ球細胞系は、(IVS1AS、T>G、-13)GAA スプライシング不良およびGAAフレームシフト変異についてヘテロ接合性の患者に由来していた(
図15)。
【0148】
0μM、30μM、100μM、または300μMのDNJ内でのインキュベーションの後リンパ球細胞系内でGAA活性を測定した(
図15)。DNJインキュベーションの後、線維芽細胞系内でGAA活性も測定した(
図13)。
【0149】
この研究において、薬理シャペロン1-デオキシガラクトノジリマイシン-HCl(DNJ)は、変異GAAと結合し、その活性を増大させることが示されている。ポンペ病患者由来の線維芽細胞(
図13)およびリンパ球(
図15)において、ならびに一部のGAAミスセンス変異を発現する過渡的にトランスフェクトされたCOS-7(
図10および12)またはHEK-293(
図14)細胞においては、DNJはGAAレベルを有意に増大させる。
【0150】
DNJは、試験された131の変異体(データ示さず)のうち26の変異についてGAA活性を増大させた(
図10)。これらの変異GAAの活性を増大させることに加えて、DNJは、95/76/70KDa形態へのGAAのプロセッシングも同様に促進した。
【0151】
さらに、GAA活性の用量依存性増加が、1つの対立遺伝子内に共通のIVS1AS、T>G、-13スプライシングをそして第2の対立遺伝子内にフレームシフト変異を含む患者由来のリンパ球において観察された。
【0152】
本発明は、本明細書中に記載された具体的実施形態によってその範囲が限定されるものではない。実際、以上の記述および添付図面から当業者には、本明細書に記載されているものに加えて本発明のさまざまな修正が明らかになる。かかる修正は、添付の特許請求の範囲内に包含されるものである。
【0153】
本出願全体を通して特許、特許出願、公報、製品関連文書、GenBank登録番号およびプロトコルが引用されているが、その開示は、あらゆる目的のために全体が参照により本明細書に援用されている。
<本発明の更なる実施態様>
[実施態様1]
タンパク質の変異形態を発現する患者が、そのタンパク質のための特異的薬理シャペロンでの治療に応答するか否かを判定する方法であって、
a. 第1の宿主細胞をタンパク質に特異的な薬理シャペロンと接触させるステップであって、第1の宿主細胞がタンパク質の変異形態を発現するステップと;
b. 特異的薬理シャペロンと接触させられていない第2の宿主細胞内のタンパク質活性を、特異的薬理シャペロンと接触させられた第1の宿主細胞内のタンパク質活性と比較するステップと、
を含み、特異的薬理シャペロンと接触させられていない第2の宿主細胞により発現されたタンパク質の活性に比較した、特異的薬理シャペロンと接触させられた第1の宿主細胞内のタンパク質活性の増加は、その患者が特異的薬理シャペロンでの治療に応答することを表わしている、方法。
[実施態様2]
タンパク質の変異形態がタンパク質をコードする遺伝子内のミスセンス変異によって引き起こされる、実施態様1に記載の方法。
[実施態様3]
タンパク質が酵素である、実施態様1または2のいずれか一に記載の方法。
[実施態様4]
酵素がリソソーム酵素である、実施態様3に記載の方法。
[実施態様5]
患者がリソソーム貯蔵障害の診断を受けている、実施態様4に記載の方法。
[実施態様6]
リソソーム酵素がα―ガラクトシダーゼAであり、リソソーム貯蔵障害がファブリー病である、実施態様5に記載の方法。
[実施態様7]
α―ガラクトシダーゼAが、α-ガラクトシダーゼA変異A121T、A156V、A20P、A288D、A288P、A292P A348P、A73V、C52R、C94Y、D234E、D244H、D244N、D264Y、E338K、E341D、E358K、E398K、E48K、E59K、E66Q、F113L、G144V、G183D、G260A、G271S、G325D、G328A、G35R、G373D、G373S、H225R、I219N、I242N、I270T、I289F、I303N、I317T、I354K、I91T、L14P、L166V、L243F、L300F、L310F、L32P、L45R、M267I、M284T、M296I、M296V、M72V、M76R、N224S、N263S、N298K、N298S、N320I、N320Y、N34K、P205R、P259L、P265L、P265R、P293A、P293S、P409S、P40L、P40S、Q279E、Q279H、Q279R、Q280H、Q280K、Q312H、Q321E、Q321R、Q327E、R301P、R342Q、R363C、R363H、R49G、R49L、R49S、S201Y、S276N、S297C、S345P、T194I、V269M、V316E、W340R、W47LおよびW95Sからなる群から選択される変異体α-ガラクトシダーゼAである、実施態様6に記載の方法。
[実施態様8]
変異体α-ガラクトシダーゼAが、α-ガラクトシダーゼA変異G144V、H225R、S276G、R301PおよびN320Iからなる群から選択される、実施態様7に記載の方法。
[実施態様9]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシガラクトノジリマイシンである、実施態様1~8のいずれか一に記載の方法。
[実施態様10]
リソソーム酵素がα-グルコシダーゼであり、リソソーム貯蔵障害がポンペ病である、実施態様5に記載の方法。
[実施態様11]
α-グルコシダーゼが、α-グルコシダーゼ変異E262K、P266S、P285R、P285S、L291F、L291H、L291P、M318K、G377R、A445P、Y455C、Y455F、P457L、G483R、G483V、M519V、S529V、P545L、G549R、L552P、Y575S、E579K、A610V、H612Q、A644PおよびΔN470からなる群から選択される変異体α-グルコシダーゼである、実施態様10に記載の方法。
[実施態様12]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシノジリマイシンである、実施態様10または11に記載の方法。
[実施態様13]
リソソーム酵素がグルコセレブロシダーゼであり、リソソーム貯蔵障害がゴーシェ病である、実施態様5に記載の方法。
[実施態様14]
特異的薬理シャペロンがイソファゴミンである、実施態様13に記載の方法。
[実施態様15]
宿主細胞が、CHO細胞、HeLa細胞、HEK-293細胞、GripTite293MSR細胞、293T細胞、COS細胞、COS-7細胞、マウス一次筋芽細胞およびNIH3T3細胞からなる群から選択される、実施態様1に記載の方法。
[実施態様16]
宿主細胞がHEK-293細胞である、実施態様15に記載の方法。
[実施態様17]
宿主細胞がCOS-7細胞である、実施態様15に記載の方法。
[実施態様18]
タンパク質活性が、宿主細胞由来の溶解物中の基質の加水分解を定量化する蛍光検定を用いて決定される、実施態様15に記載の方法。
[実施態様19]
特異的薬理シャペロンが変異体タンパク質の活性を増大させるための有効な化合物であるか否かを示す治療療法表を作成する方法であって、
a. 第1の宿主細胞を、タンパク質に特異的な薬理シャペロンと接触させるステップであって、第1の宿主細胞が変異体タンパク質を発現するステップと;
b. 特異的薬理シャペロンと接触させられた第1の宿主細胞内のタンパク質活性を、第2の宿主細胞内のタンパク質活性と比較するステップであって、第2の宿主細胞が変異体タンパク質を発現し、特異的薬理シャペロンと接触させられていないステップと;
c. 治療療法表中にステップ(b)の結果を記録するステップと、
を含み、第2の細胞内の変異体タンパク質の活性に比べて第1の宿主細胞内の変異体タンパク質の活性を増大させる治療療法表中に記録された特異的薬理シャペロンが、変異タンパク質を発現する患者向けの療法として使用できる特異的薬理シャペロンである、方法。
[実施態様20]
タンパク質がα-ガラクトシダーゼA酵素である、実施態様19に記載の方法。
[実施態様21]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシガラクトノジリマイシンである、実施態様20に記載の方法。
[実施態様22]
タンパク質がα-グルコシダーゼ酵素である、実施態様19に記載の方法。
[実施態様23]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシノジリマイシンである、実施態様22に記載の方法。
[実施態様24]
タンパク質がグルコセレブロシダーゼ酵素である、実施態様19に記載の方法。
[実施態様25]
特異的薬理シャペロンがイソファゴミンである、実施態様24に記載の方法。
[実施態様26]
タンパク質の変異形態を発現する患者を治療するための特異的薬理シャペロンを選択する方法であって、
- 特異的薬理シャペロンが、タンパク質内の変異のリストおよびたんぱく質変異の活性に対する特異的薬理シャペロンの効果を含む治療基準表から選択されており;かつ
- 患者を治療するために選択された特異的薬理シャペロンが患者により発現された変異タンパク質の活性を増大させる、
方法。
[実施態様27]
患者がリソソーム貯蔵障害の診断を受けている、実施態様26に記載の方法。
[実施態様28]
タンパク質が、α-ガラクトシダーゼA酵素である、実施態様26または27のいずれか一に記載の方法。
[実施態様29]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシガラクトノジリマイシンである、実施態様28に記載の方法。
[実施態様30]
タンパク質がα-グルコシダーゼ酵素である、実施態様26または27のいずれか一に記載の方法。
[実施態様31]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシノジリマイシンである、実施態様30に記載の方法。
[実施態様32]
タンパク質がグルコセレブロシダーゼ酵素である、実施態様26または27のいずれか一に記載の方法。
[実施態様33]
特異的薬理シャペロンがイソファゴミンである、実施態様32に記載の方法。
[実施態様34]
1-デオキシガラクトノジリマイシンを治療上有効な用量だけ患者に投与するステップを含む、ファブリー病の診断を受けた患者の治療方法であって、患者がα-ガラクトシダーゼA変異A121T、A156V、A20P、A288D、A288P、A292P A348P、A73V、C52R、C94Y、D234E、D244H、D264Y、E338K、E341D、E398K、E48K、F113L、G144V、G260A、G271S、G328A、G35R、G373D、G373S、H225R、I219N、I242N、I270T、I303N、I317T、I354K、L14P、L166V、L243F、L300F、L310F、L32P、M267I、M284T、M296I、M72V、M76R、N224S、N298K、N298S、N320I、N34K、P259L、P265L、P265R、P293A、P293S、P409S、P40L、Q279H、Q279R、Q280H、Q280K、Q312H、Q321E、Q321R、Q327E、R301P、R363H、R49G、R49S、S201Y、S276N、S297C、S345P、T194I、V269M、W340R、W47LおよびW95Sからなる群から選択される変異体α-ガラクトシダーゼAを発現する、方法。
[実施態様35]
1-デオキシノジリマイシンを治療上有効な用量だけ患者に投与するステップを含む、ポンペ病の診断を受けた患者の治療方法であって、患者がα-グルコシダーゼ変異E262K、P266S、P285R、P285S、L291F、L291H、L291P、M318K、G377R、A445P、Y455C、Y455F、P457L、G483R、G483V、M519V、S529V、P545L、G549R、L552P、Y575S、E579K、A610V、H612Q、A644PおよびΔN470からなる群から選択される変異体α-グルコシダーゼを発現する、方法。
[実施態様36]
変異タンパク質を発現する患者の治療方法であって、変異タンパク質を同定するステップ、治療療法表を用いて患者が特異的薬理シャペロンに応答するか否かを判定するステップ、および患者が前記特異的薬理シャペロンに応答すると判定された場合には、前記特異的薬理シャペロンを患者に投与するステップを含む方法。
[実施態様37]
変異タンパク質が変異体リソソーム酵素であり、患者がリソソーム貯蔵障害の診断を受けている、実施態様36に記載の方法。
[実施態様38]
リソソーム酵素がα-ガラクトシダーゼAであり、リソソーム貯蔵障害がファブリー病である、実施態様36または37に記載の方法。
[実施態様39]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシガラクトノジリマイシンである、実施態様37に記載の方法。
[実施態様40]
リソソーム酵素がα-グルコシダーゼであり、リソソーム貯蔵障害がポンペ病である、実施態様36または37に記載の方法。
[実施態様41]
特異的薬理シャペロンが1-デオキシノジリマイシンである、実施態様40に記載の方法。
[実施態様42]
リソソーム酵素がグルコセレブロシダーゼであり、リソソーム貯蔵障害がゴーシェ病である、実施態様36または37に記載の方法。
[実施態様43]
特異的薬理シャペロンがイソファゴミンである、実施態様42に記載の方法。
[実施態様44]
治療療法表が実施態様19~25のいずれか一に記載の方法にしたがって作成される、実施態様34に記載の方法。
【配列表】