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特許7277565水平方向に回転する基板ガイドを備えたコーティングシステムにおいて、均一性の高いコーティングを行うための装置及び方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】水平方向に回転する基板ガイドを備えたコーティングシステムにおいて、均一性の高いコーティングを行うための装置及び方法
(51)【国際特許分類】
   C23C 14/04 20060101AFI20230511BHJP
   C23C 14/08 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C23C14/04
C23C14/08
【請求項の数】 21
(21)【出願番号】P 2021507037
(86)(22)【出願日】2019-08-09
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2021-12-09
(86)【国際出願番号】 EP2019071460
(87)【国際公開番号】W WO2020030794
(87)【国際公開日】2020-02-13
【審査請求日】2021-04-08
(31)【優先権主張番号】102018213534.7
(32)【優先日】2018-08-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】515230084
【氏名又は名称】フラウンホーファー-ゲゼルシャフト ツゥア フェアデルング デア アンゲヴァンドテン フォァシュング エー.ファウ.
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】ヴェルゴール ミヒャエル
(72)【発明者】
【氏名】プルーク アンドレアス
(72)【発明者】
【氏名】ブルンス ステファン
(72)【発明者】
【氏名】ジッケンロット トビアス
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-024230(JP,A)
【文献】特表2014-520966(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2017/0342547(US,A1)
【文献】MICHAEL VERGOHL,Progress on optical coatings deposition with rotatable magnetrons in a sputter up system,Surface & Coatings Technology,vol.241,p.38-44
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/04
C23C 14/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネトロンスパッタリングにより回転する基板上に均一な層を成膜する装置であって
a) 真空チャンバー、
b) スパッタガスの少なくとも1つの入口、
c) 少なくとも1つの基板ホルダーを備えるターンテーブル、及び
d) 線状に延びた二重マグネトロンソースからなる少なくとも1つのコーティングソースを備え、前記二重マグネトロンソースは2つの線状マグネトロン電極からなり、
前記コーティングソースは不均一なプラズマ密度を有することで、不均一な除去レートを可能にするものであり、
前記不均一な除去レートは、前記ターンテーブルの中心から前記ターンテーブルの端に向かって増加する、
装置。
【請求項2】
前記マグネトロン電極が不均一な磁場を有する、さらに/又は
前記マグネトロン電極が実質的に非対称に分極された磁石構成を有する、さらに/又は
前記コーティングソースがパルス形状及び/又はパルス周波数を調整可能なジェネレーターからなる、
請求項1に記載の装置。
【請求項3】
前記不均一な除去レートは、前記ターンテーブルの中心から前記ターンテーブルの端に向かって直線的に増加し、前記ターンテーブルの中心からの距離に比例する、
請求項1又は2に記載の装置。
【請求項4】
少なくとも1つのプラズマソースを備えており、前記基板の表面の前処理並びに/又は層の構造及び/若しくはストイキオメトリーの変更を行う、
請求項1~3のいずれかに記載の装置。
【請求項5】
少なくとも1つの二重マグネトロンソースが、円筒形又は平面形のソース材料で作られたマグネトロン電極と、このソース材料と関連するターゲット用のホルダーからなる、
請求項1~4のいずれかに記載の装置。
【請求項6】
前記少なくとも1つのマグネトロン電極は、以下からなるターゲット材料で構成されている、
a) セラミック材料若しくはセラミック材料の混合物;
b) 熱溶射された材料若しくは熱溶射された材料の混合物;
c) 結晶性の材料;
d) 金属材料若しくは金属材料の混合物;及び/又は
e) 酸化物を含む材料、又は
f) これらの混合物。
請求項1~5のいずれかに記載の装置。
【請求項7】
前記基板から前記少なくとも1つのマグネトロン電極までの距離が、5~30cmである、
請求項1~6のいずれかに記載の装置。
【請求項8】
ターンテーブルとマグネトロンスパッタリング装置の境界壁との間の距離が0.1~5mmである、
請求項1~7のいずれかに記載の装置。
【請求項9】
中周波領域のパルス又はパルス直流(DCパルス)を発生させる、
請求項1~8のいずれかに記載の装置。
【請求項10】
光度計、エリプソメトリーフランジ、及び/又は偏光効果を発揮する部品を備える、
請求項1~9のいずれかに記載の装置。
【請求項11】
前記マグネトロンスパッタリングの装置内の分圧を制御及び/又は安定させるための制御システムを備える、
請求項1~10のいずれかに記載の装置。
【請求項12】
前記マグネトロン電極内の磁石の組を傾斜及び/又は回転させるユニットを備える、
請求項1~11のいずれかに記載の装置。
【請求項13】
少なくとも1つの補正開口を備える、
請求項1~12のいずれかに記載の装置。
【請求項14】
マグネトロンスパッタリングを用いて、回転する基板上に均一な層を形成する方法であって、
a) 真空チャンバー内で、少なくとも1枚の基板をターンテーブル上に置くことで、基板を回転させながらコーティングを行わせ、
b) 直線的に延びる二重マグネトロンソースからなる少なくとも1つのコーティングソースを用いて少なくとも1つの基板上に少なくとも1つの層を成膜し、またスパッタガスを用いてマグネトロン電極のソース材料から層を形成し、
コーティングソースが不均一なプラズマ密度を有するためソース材料の除去レートが不均一であり、
前記不均一な除去レートは、前記ターンテーブルの中心から前記ターンテーブルの端に向かって直線的に増加する、
方法。
【請求項15】
前記マグネトロン電極が不均一な磁場を有する、さらに/又は
前記マグネトロン電極が実質的に非対称に分極された磁気構成を有する、さらに/又は
前記コーティングソースがパルス形状及び/又はパルス周波数を調整可能なジェネレーターからなる、
請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記不均一な除去レートは、前記ターンテーブルの中心から前記ターンテーブルの端に向かって直線的に増加し、前記ターンテーブルの中心からの距離に比例する、
請求項14又は15に記載の方法。
【請求項17】
少なくとも1つのプラズマソースが使用され、前記少なくとも1つのプラズマソースは、プラズマ作用によって前記基板の表面を前処理し、さらに/又は前記少なくとも1つのプラズマソースは、プラズマ作用によって前記層の構造及び/又はストイキオメトリーを変更する、
請求項14~16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
スパッタガスとして希ガス、特にアルゴンを用いる、
請求項14~17のいずれかに記載の方法。
【請求項19】
スパッタガスに加えて、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、フォーミングガス(Formiergas)、フッ化水素、アセチレン、テトラフルオロメタン、オクタフルオロシクロブタン及びこれらの混合物からなる群から特に選択される、少なくとも1つの反応性ガスを使用する、
請求項14~18のいずれかに記載の方法。
【請求項20】
プロセス制御のために、基板上の層の厚さをa)からe)の少なくとも1つの手段によって制御する、
a) 時間制御;
b) 光伝送のモニタリング;
c) 光反射モニタリング;
d) 光吸収モニタリング;
e) 単波長エリプソメトリー又はスペクトルエリプソメトリー;及び/又は
f) 水晶振動子による測定、
請求項14~19のいずれかに記載の方法。
【請求項21】
請求項1~13のいずれかに記載の装置を使用する、
請求項14~20のいずれかに記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水平方向に回転する基板ガイドを備えたコーティングシステムにおいて、非常に優れた均一性を有する層を製造するための装置及び方法に関する。また特定の層の厚みのグラディエントを調整することもできる。また、粒子のロード(Partikelbelastung)も大幅に低減されている。他のプロセスと比較して寿命が大幅に向上する。寄生性コーティングの発生を抑えることができる。コーティングレート(Beschichtungsrate)も増加する。
【背景技術】
【0002】
現在の光学コーティングは、低屈折率層と高屈折率層の連続で構成されていることが多く、特定の材料を重ねることで実現している。層の厚さは、機能や波長域に応じて数nmから数μmの範囲にとられる。材料としては、例えばSiO2、Ta2O5、Nb2O5、HfO2、ZrO2、TiO2などが挙げられる。また水素を含む非晶質のSi材料(a-Si:H)も用いられる。
【0003】
連続する層を適切に重ねることで、所望の機能層(Schichtfunktion)を得られる。これは例えばバンドパスフィルターやエッジフィルターとすることができる。また反射光や透過光の位相位置を制御するためのコーティングも可能である。
【0004】
エッジ又はバンドパスのスペクトル上の位置は、コーティングの機能にとって非常に重要である。そのため、コーティング材料上に均一な層を得ることに大きな関心が寄せられている。他の用途では、特定のコーティングプロファイルが必要な層もコーティングが必要となる。これは、中心波長が位置によって異なるバンドパスフィルター(グラディエントフィルター)の場合である。例えばこのようなグラディエントフィルターは、画像処理の感光センサーに使用される。これらは、数十mmのサイズを有し、約190~1100nmの範囲の感度を有するものが多い。したがって対応する中心波長を有するバンドパスフィルターは、長さ30mmのセンサーでは、1100nmの光に比べて、190nmの光に対して約1/6の層の厚さしか必要としない。センサーの面積が小さくなると、層の厚さのグラディエントがさらに大きくなるため、より急なグラディエントとする必要がある。
【0005】
レンズなどの三次元部品では、特定の層の厚さの分布が必要になることもよくある。そのため、特定の形状を有する横方向のグラディエントを必要とし得る。
【0006】
原則として、層の上に層を重ねることで複数の層を得る。これにより層数(Schichtzahl)4μm未満、100μm超、しばしば厚さ1μm未満、10μm超の、あるいは数十μmのフィルターコーティングが得られる。
【0007】
さらに、塗膜の欠陥をできるだけ少なくすることも求められる。これらは、例えば、コーティングの領域内に位置するチャンバーの壁又は要素の剥離によって引き起こされ得る。
【0008】
このような「寄生」コーティングが形成されるのは、コーティングソース(Beschichtungsquelle)が、ダスト化したコーティング材料をチャンバー内に比較的広く散らばらせるためである。したがって、コーティングの大部分は基板上ではなくチャンバーの壁に付着したり、あるいはレート補正のために基板のすぐ前に配置された部品に付着したりする。この部分のコーティングが厚過ぎる場合、あるいは熱の負荷が生じる場合、粒子がこれらのコーティングから放出され、あるいは寄生コーティング全体から放出される。粒子は、スパッタリングソース(Sputterquellen)上でも直接生成され得る。
【0009】
粒子のロードを低減するために多くの試みがなされてきた。以下に説明する。
【0010】
同時に、非常に均一な層を作製するための製造プロセスの試みがなされてきた。また、層の厚さの範囲でグラディエントをつけた層も作製できる。
【0011】
粒子の少ない光学コーティングを行うことは、US 9,803,276 B2に知られているようなマグネトロンスパッタリング装置を用いて行うことができる。この文書では粒子の少ないコーティングが示されており、コーティングを清浄にするために、円筒状の原材料(回転可能なマグネトロン)が使用され、必要に応じて反応性ガス成分と共に使用され、マグネトロンスパッタリングによって基板に塗布される、コーティングは、いわゆる「スパッタアップ(Sputter-up)」の工程で重力に抗して行われる。基板のサブローテーション(衛星運動)が行われないため、回転の中心までの半径に反比例して増加する基板上の膜厚のプロファイルが得られる。例えば、基板の中心が回転の中心から600mmの位置にあり、基板の直径が200mmの場合、内側のレート(Rate)に比べて外側のコーティングレート(Schichtrate)は約70%にしかならない。
【0012】
そこで層の均一性を調整するために局所的にコーティングの流れを制限するマスクを使用する。マスクがソースと基板の間、通常は基板の近くに配置されることで、層内の分布を可能な限り正確に調整できる。このように、マスクはコーティング領域内に直接配置される。動く基板とは異なり、マスクは通常、取り付けられた状態で静止しているため大量の材料を受け取る。基板の中心が回転の中心から600mm離れている上記のような位置関係において、補正開口(Korrekturblende)は基板自体の約5~10倍のレート(Rate)で受け取る。したがって、10μmの層材料を基板上に堆積させる場合、開口(Blende)ではすでに100μmを受け取る。特に円筒形のスパッタリングソース(Sputterquellen)では、材料の供給が非常に多いため、原理的には寿命を数ヶ月とすることができる。これらのターゲットの寿命が例えば8,000時間だとすると、5kWの電力で70日(1日24時間、1週7日間)の寿命になる。これにより、ターゲットを交換する前に、基板上に480μmの厚さの層が堆積することになる。第2の材料を付加する場合、堆積した層の厚さは均一開口(Uniformitatsblenden)において10mmに達する。しかしながら、均一開口(Uniformitatsblenden)約1mm程度の一定の厚さを超えないことが好ましい。
【0013】
開口(Blende)プレートの厚みが大きすぎると剥離やパーティクルの発生があるため、通常は事前にシステムを洗浄することで開口(Blenden)を清浄に保つか交換する。このため、洗浄後のシステムの耐用年数も制限される。
【0014】
これは特に、円筒形スパッタリングソース(Sputterquellen)を使用して動作する現在のシステムにおいては特に不利な点であり、スパッタリングソース(Sputterquellen)自体の寿命が従来のリニアマグネトロンの数倍あるためであることによる。均一開口(Uniformitatsblenden)に寄生したコーティングを減らすことができれば、中間洗浄を省略することで稼働時間(製造時間,Produktionszeit)を大幅に延ばせる。
【0015】
高品質の光学コーティングを行う別の方法は、米国特許第8,956,511号B2に記載されている。ここでは、基板がプレート上で回転し、各通路に数0.1nmの非常に薄い部分層が堆積するターンテーブルの配置が示される。マグネトロンの位置に酸素を添加することで、まず低い水準のストイキオメトリーの層が堆積する。この層は、後続のプラズマソース(Plasmaquelle)を用いて酸化される。層の厚さの分布は、いわゆる「補正マスク」によって調整され、外側領域よりも内側領域の方が大きなコーティング部分が除去される。マグネトロンが基板直径に比べて著しく長いとは言えない場合、開口(Blenden)は骨のような形にさえなるが、マグネトロンの層プロファイルが端に向かって大きく変化する。
【0016】
また、基板のサテライト回転(Satellitenrotation)を利用する方法もよく使われる。基板は回転板の上に置かれ、その周りを回転する。ここでは環状のスパッタリングソース(Sputterquellen)を使用している。
【0017】
米国特許第8.574,409号には開示される方法では、環状のマグネトロンで一組の磁石を回転させ、電力を特定の周波数で周期的に変調させることで層分布の均一性を高める。
【0018】
米国特許第5,609,772号に開示されるところによれば、環状に閉じた対象のための装置が記載されており、励磁電流によって付加された磁界でターゲット上の磁力線を変位させることができる。これにより、対象の侵食の態様を変化させることができ、例えばそのレート(Rate)の分布に影響を与えられる。
【0019】
マスクを使用しないスパッタリング装置は、米国特許公開2011/253529号に記載されている。その中で、特定の直径を有する環状のマグネトロンソース(Magnetronquelle)の特定の寸法を導入することで、均一性を高めている。マグネトロンカソード(Magnetronkathode)の中心は、回転する基板の中心に合わせられる。しかしながら、ここでは2つの回転が重なり合うようにプラネタリードライブ(Planetenantrieb)が設けられている。
【0020】
スパッタリング装置には種々のマグネトロンソース(Magnetronquelle)が用いられる。
【0021】
いわゆるドラム形状が、米国特許第4,851,095号に記載されている。ここでソースは通常、チャンバーの側壁に線状のソースとして配置される。基板は回転ドラム上の内側に配置される。
【0022】
ある例では、ターゲットの軸に沿ってターゲットの表面からの個々の磁石の距離を変えることで、基板上の層の分布に影響を与えられる。ここでは、個々のマグネットをリセットする。この方法は「ユニチューン(UniTune)」と呼ばれ、シェーパー(Shaper)なしでも+/-1%の範囲に分布させることができる。したがって、非常に狭い範囲(数%)での調整が可能である。
【0023】
この方法は、開示されたターンテーブルの配置には適しておらず、その理由は磁界の減衰が非常に大きくなるためであり、その結果、インピーダンス、さらにプロセスの電圧が大幅に増加するためである。さらに、この方法では約30%の非常に高いレート(Rate)変化が必要である。
【0024】
同様の方法が米国特許公開第2003/0042130号に提案されている。ここでは、ターゲットに追加の磁場をかけて「電子トラップ」を導入し、プラズマ密度とそれによるスパッタリング収率に対してターゲットに沿って変化を与えられる。
【0025】
米国特許公開第2013/0032475号には、磁石の幾何学的形状を変化させることで層分布を制御することが、円筒形マグネトロンソース(Magnetronquellen)について記載されている。ターゲットと基板との間の距離又は磁石の全組の回転角度(「スイングカソード(Swing-Kathoden)」)を変えることができる。
【0026】
円筒形マグネトロン用の特殊な磁石システムが米国特許第9,349,576号に記載されている。そこにある磁石は特殊な形状をしており、このマグネトロンは平面型マグネトロンに後付けして使用できる。
【0027】
R.D. Arnell et al., “Recent advances in magnetron sputtering”, Surf. Coat. Technol. 112 (1999), p. 170には、「閉磁界非平衡マグネトロンスパッタリング」の手法が記述されている。その中で二重マグネトロン配置の磁気構成について報告されている。
【0028】
マグネトロンの配置には、アンバランス型とバランス型がある。アンバランスな配置では、例えば、外側のマグネットリングの方が内側のリングよりも電界強度が高い。その結果、一部の電子はターゲットに向かって保持されなくなり磁力線に沿って基板に向かう。プラズマは基板に向かってさらに拡大し、例えば、層のさらなる緻密化がなされる可能となる。しかしながら、より多くの粒子が層内に導入されるという欠点もある。一方、バランス型の配置では、プラズマはよりターゲットに向かって保持される。
【0029】
また、Arnellらは、二重マグネトロンを用いて、隣接するマグネトロンの極性を逆にした閉磁界配置(Dual-co-planar closed field arrangement)を提案している。この配置の利点は、プラズマ密度が向上し、より良い材料を製造できることである。そこでは「閉磁界(closed field)」という配置で作業することが提案されている。そのこのためには、チャンバー上に複数のマグネトロンソースが必要である。磁石の極性はすべてのソースで同じではなく、隣のカソードとは逆になっている。つまり、一方のカソードがN-S-Nの極性を有するのに対し、隣のカソードはS-N-Sの極性を有する。その結果、プラズマが一つの陰極から次の陰極へとより多く導かれ、より閉じた状態になる(「閉磁界(closed field)」)。しかしながら、そこではターゲット軸に沿った層の横方向の分布は考慮されていない。閉磁界配置は、より良い特性を有する高密度の層を作るためのものである。
【0030】
マグネトロンには、線形ソース、円形ソース、又は円筒形ソースがある。これらは、直流(DC)又は中周波(10~20kHz)の交流(AC)で動作する。また、絶縁性のスパッタリング材料には、無線周波数(RF、通常は13.56MHz)が使用される。ソースは、単極性スパッタリングソースがカソード、各陽極が個別のアノード)又は双極性である。
【0031】
米国特許公開第2016/0254127号A1には、2つのマグネトロンによって層の厚さの分布に影響を与える手法が記載されている。この手法は、磁石を回転させることで、磁場の(脱)結合を引き起こすことに基づいている。ターンテーブルを配置する場合は、分布の傾きを調整できる。しかし、この方法は分布のわずかな変化にしか対応できず、マスクの使用に依存している。
【0032】
米国特許第8,574,409号には、一組の磁石の回転に応じて環状状のマグネトロンに電力変調を加えるシステムが記載されている。
【0033】
米国特許第2005/0061666号A1によれば、平面磁石の動作中に移動させる(「スイーピング」)ことで、ターゲットの利用率を高める磁石が知られている。
【0034】
マグネトロンの磁場に影響を与えるために、いわゆるシャントがよく使われる(特許第号)。シャントとは、磁石の列の間にある、ターゲットの下に置かれた強磁性体の板のことである。そのため、レーストラック(Racetracks)間の磁力線は、ターゲットではより平坦に導かれる。一方、双極性のプロセスの欠点は、ターゲット間の電子によって磁気的な障壁が構築されることである。このため、通常はインピーダンスが上昇し、その結果、発電機の放電電圧が上昇する。これは、高電圧が粒子形成を増加させる可能性があるため、好ましくない。
【0035】
マグネトロン放電では3D効果がよく発生する。よく知られているのは、例えば、対角線上に対称な不均一性を有する「クロスコーナー」効果(Siemers, M.et al., Proc. 51st SVC Tech. Conf., 2008, 43-48)である。円筒形マグネトロンでもこのような効果がある。非対称磁石システムは、米国特許公開第2011/0127157号に記載されており、円筒形の単一又は二重マグネトロンに使用できる。プラズマは、非対称設計のために、カソード間により多く引き込まれ、電子がそれぞれのアノードに到達しやすくなり、低いインピーダンスが得られる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0036】
以上より、本発明の課題は、寄生性コーティングの沈着を防止しながら、層の均一性を高く、より安定的に確保できる装置を提供することで、当該装置の稼働時間(製造時間,Produktionszeit)を長くすることである。また同様に、目標とする不均一性を有する層をより正確に、また、より急な層厚グラディエントを伴って提供することも本発明の目的である。
【課題を解決するための手段】
【0037】
この課題は、請求項1の特徴を有する装置と請求項11の特徴を有する方法によって解決される。他の従属請求項は、有利な他の実施形態を示している。
【0038】
本発明によれば、マグネトロンスパッタリングにおいて回転する基板上に均一な層を成膜する装置であって、以下の構成要素を含む装置が提供される。
【0039】
a) 真空チャンバー
b) スパッタガスの少なくとも1つの入口;
c) 少なくとも1つの基板ホルダーを備えたターンテーブル;及び
d) 線状に延びた二重マグネトロンソースからなる少なくとも1つのコーティングソースであって、二重マグネトロンソースが2つの線状マグネトロン電極からなり、コーティングソースが不均一なプラズマ密度を有し、不均一な除去レート(Abtragerate)を可能にするもの。
【0040】
本発明の本質は、不均一な、すなわち局所的に異なるプラズマ密度がコーティングソースに存在し、それによって不均一な除去レート(Abtragerate)が達成されるという事実に基づいている。
【0041】
局所的に異なるプラズマ密度は、マグネトロンのカソードにおける電子密度分布が適切に空間的に分布していることによって生じる。この分布は、マグネトロンのターゲット軸に沿った長手方向と、ターゲット面から基板面に至る垂直方向の両方で制御されている。
【0042】
これにより、基板上に均一性の高い安定した層を形成できる。
【0043】
磁石の配置を逆にすることで、プラズマ密度のグラディエントを逆転させることができる。これにより、プラズマの密度は外側ではなく内側に向かって高まる。これにより、除去レート(Abtragerate)の不均一さが高まり、狙った不均一な層をより正確に作ることができるようになる。そのため、より急な層厚グラディエントを発生させられる。
【0044】
本発明によれば、マグネトロン電極が不均一な磁場を有していること、及び/又はマグネトロン電極が実質的に非対称にポーリングされた磁気構成を有していること、及び/又はコーティングソースがパルス形状及び/又はパルス周波数を調整可能なジェネレーターで構成されていることが好ましい。
【0045】
本発明は、互いに非対称に配置された線状マグネトロン電極用の磁石の新しい構成に関するもので、これにより、回転コーティングされる基板(ターンテーブル配置)に対して非常に高く安定した均一性を有するコーティングを施すことができる。この非対称性は、隣接するマグネトロン電極の磁石構成が異なるように設計されるか、又は/及び分極されることで達成される。
【0046】
本発明の1つの変形例では、スパッタリング装置内の磁石が対称的に分極しているのではなく、非対称的に分極している。このように、あるマグネトロンはN-S-Nという極性を持ち、隣のマグネトロンはS-N-Sという極性を有する。
【0047】
分極の異なるマグネトロン電極の配置を入れ替えることで(右マグネトロンを左、左マグネトロンを右)、逆方向にグラディエントを設計することができ、層のグラディエントを増幅できる。
【0048】
先行技術で知られている方法(例えば、ドイツ特許公開10 2013 207 771 A1)とは対照的に、本発明による場合には、マグネトロン間の結合が増加するだけでなく、基板上の層の厚さの分布も変化する。ドイツ特許公開 10 2013 207 771 A1では、分布の直線的な傾斜のみが可能であったが、本発明では、層厚分布の1/r依存性が実現されるが、ここでrは回転中心から基板上の測定点までの距離である。
【0049】
また、ここで開示される構成は、放電のインピーダンスを再び下げることができるという利点がある。これは、シリコンのような高インピーダンスの素材や、導電性の低い素材に有利である。しかし、タンタルやニオブなどの他の材料でも、金属ターゲットや金属成分を含むターゲットからの放電では、アーク放電の起こりやすさを抑えるために低い放電電圧が好ましい。これらにより通常、粒子が生成される。これはまた、メタモードプロセスのように、スパッタリングソースの領域で反応性ガスを使用しないプロセスでは、特に有利である。反応性ガスはしばしば放電電圧を低下させる。これは、ドイツ特許公開 10 2013 221 029 A1で提案されているようなプロセスにも好都合であり、その中ではセラミック部分を有するスパッタリングターゲットが提案されているが、スパッタリング領域では酸素なしで行われる。
【0050】
さらに、この構成は、プラズマをよりターゲットに近づけることができるという利点がある。このように、プラズマと基板の相互作用を低減しつつ、ターゲットと基板の距離をあまり大きくしないことで、非常に高密度で高品質な層を形成できる。プラズマと基板との間の相互作用は、例えば、粒子の混入(Partikelbelastung)の増加や、層の厚さの不均一性(額縁効果)などで顕著になる。
【0051】
局所的に変化するプラズマ密度とその均一性は、特殊なパルスパターンやパルス周波数、あるいはガス圧によっても影響を受ける。ガス圧の調整には、少なくとも1つのガス流量コントローラーを使用することが好ましい。
【0052】
不均一な除去レート(Abtragerate)は、ターンテーブルの中心部から端部に向かって、好ましくは直線的に、特に好ましくはターンテーブルの中心部からの距離に比例して増加するものであることが好ましい。これにより、補正マスクを追加で使用しなくても、基板上にほぼ均質なコーティングが行われる。
【0053】
好ましくは、装置は少なくとも1つのプラズマソースを備えている。このプラズマソースは、基板表面の前処理及び/又は層の構造及び/又はストイキオメトリーの変更に使用されることが好ましい。
【0054】
この方法では、装置のターンテーブルは、1~500rpm、好ましくは150~300rpmの速度で回転してもよい。高い処理能力と精度を得るためには、150~300rpmの範囲でターンテーブルを高速回転させることが有利である。回転速度が速いため、約500μ秒から数ミリ秒の時定数(Zeitkonstante)とすることができる。
【0055】
好ましくは、少なくとも1つの二重マグネトロンソースが、円筒状又は平面状のソース材料で作られたマグネトロン電極と、この材料と関連するターゲットのためのホルダーとで構成される。この点に関して、少なくとも2つのマグネトロン電極は、バイポーラパルスによって電気的に駆動されてもよい。パルスは正弦波や矩形波が使用でき、周波数も変化させることができる。スパッタリング周波数は、数kHzから数百kHzの範囲で変化させることができる。好ましくは10~100kHz、特に好ましくは20~60kHzの周波数を使用する。
【0056】
マグネトロンスパッタリングソースは、スパッタダウン方式とスパッタアップ方式がある。
【0057】
好ましくは、少なくとも1つのマグネトロン電極は、以下のうちの少なくとも1つからなるか、又はこれらからなるターゲットを有する。
a) セラミック材料若しくはセラミック材料の混合物、
b) 熱溶射された材料若しくは熱溶射された材料の混合物、
c) 焼結材料若しくは焼結材料の混合物、
d) 結晶性の材料、
e) 金属材料若しくは金属材料の混合物、及び/又は
f) 酸化物を含む材料、又は
g) これらの混合物。
【0058】
好ましくは、マグネトロン電極は、金属/半導体からなるターゲット、又はセラミック材料からなるターゲットから構成される。
【0059】
高品質の光学コーティングでは、圧縮歪みがしばしば見られる。これらは、光学部品の曲がりや、コーティングの剥離、さらには基板の破壊につながる可能性があるため、非常に重要である。本発明によれば、プラズマの放電電圧を低下させることができ、これにより層応力の低減を図れる。
【0060】
マグネトロン電極にはターゲットが含まれていてもよい。これは金属やシリコンで作製されていてもよく、酸化物を含む材料を含んでいてもいいし、酸化物を含む材料で構成されていてもいい。酸化物を含む材料は、酸素源を提供するという利点を有する。スパッタリングエリアに余分な酸素が必要な場合があり、例えば、プラズマソースの酸素では酸化が不十分な場合や、より高い堆積レート(Beschichtungsraten)を実現するためである。この場合、ターゲットつまりマグネトロン電極から直接酸素を取り出すことが便利であり、これは金属と反応性ガスとしての酸素とから生成されたターゲットに比べて安定性が高いためである。これは、通常、反応性ガスを用いて金属(又はシリコン)ターゲットから反応性コーティングを行うと酸素分圧を正確に一定に保たないとレートが不安定になる(Rateninstabilitat)ためであり、その理由は金属ターゲットのレート(Rate)が対応する酸化物のレート(Rate)とかなり異なる可能性があることによる。反応性ガス(酸素、窒素)がターゲットに含まれていれば、レート(Rate)は酸化膜の有無に依拠しない。
【0061】
好ましい酸化物含有材料は、TiOx、TaOx、NbOx、ZrOx、ZrOx:Y、CeOx、ScOx、HfOx、AlOx、SiOx、ZnOx、InSnOx及び/又はSnOxであり、特に好ましくは、ターゲットがちょうど導電性を有するように、同時にxがストイキオメトリーに近くなるようにxが選択される。
【0062】
また、本発明は、部分的に水素を含むSiベースの層の製造にも用いても有効である。これにより近赤外域のバンドパスフィルターを作製できる。ここでは非常に薄い基板が使われることが多く、強く曲がってしまう。また、本発明によれば、層電圧を低減できる。
【0063】
少なくとも1枚の基板と少なくとも1個のマグネトロン電極の間の距離は、好ましくは5~30cm、好ましくは5~20cm、より好ましくは6~15cm、最も好ましくは6~12cmである。距離が小さい方が、高密度の層を作製できるため好ましい。しかし、距離が非常に小さいと、より多くの粒子が発生する可能性があるので好ましくない。これらはプラズマ中で電気的に捕捉され、通過する基板がダストトラップの役割を果たす。
【0064】
また、本発明によれば、層の特性を損なうことなく、電極とマグネトロンの距離を大幅に伸ばすことが可能である。意図した用途には、非常に緻密で滑らかな、吸収のない層が必要であり、そのためには一般的に高い粒子エネルギーが必要である。また、スパッタリングされた粒子がターゲットから基板に到達する間に、粒子同士が衝突しないように、プロセス圧力をできるだけ低くする必要がある。これは、スパッタリングチャンバー内のプロセス圧力を1×10-3mbar未満の値に下げることで達成できる。これが可能なのは、本発明による方法では、電極の領域におけるプラズマ密度が著しく高いためである。一般的に、マグネトロンは10-3mbar(3×10-3mbar~6×10-3mbar)程度の圧力で動作する。圧力の変化は、高品質な光学コーティングの表面粗さのような効果がある。これはAFM(原子間力顕微鏡)で測定できる。また、プラズマソースの粗さは、圧力によって調整できる。
【0065】
例えば、マグネトロンでの圧力を6x10-6mbarにして製造した場合、2μmのSiO2層は基板に対して0.9nmより大きな粗さを有する。圧力を3×10-3mbar未満に下げると、ソースと基板の間の距離が約7cmの場合、基板に対する追加粗さは0.1nm未満に減少する。しかし、先行技術の方法では、圧力が下がると目標電圧が高くなり、アークが発生しやすくなるという問題があった。
【0066】
また、五酸化タンタル層についても同様の結果が得られている。厚さ2μmのTa2O5層の粗さの増加は、圧力を下げると0.2nm以上になるのに対し、ここでは0.1nmにまで減少している。
【0067】
本発明で可能となったように1×10-3mbarの圧力では、基板に対する層の粗さを増やすことなく、その距離を3倍にできる。
【0068】
1×10-3mbar未満の低いプロセス圧力を使用することで、この距離を15cm、又は20cm以上と大幅に伸ばすことができる。あるいは、距離を短くして圧力を3×10-3mbarにすると、ターゲットの電位が下がり、その結果、アーク放電傾向が弱くなる。本発明の利点は、プラズマをターゲットのごく近くに引き寄せることができるため、比較的小さな距離でも粒子の自由度を高められることである。圧力を下げれば、層の密度を小さくすることなく、さらに距離を伸ばすことも可能である。
【0069】
調整はジオメトリを介して行うことができる。スパッタレート(Sputterrate)の低下は半径の逆数に比例するため、二重マグネトロン全体のスパッタレート(Sputterrate)に一定のグラディエントがあれば、適切な形状を介して基板上のグラディエントを調整できる。基板の移動半径を大きくすると、外側に向かうレート(Rate)の相対的な低下が小さくなり、またその逆も起こる。
【0070】
この距離の利点は、高密度かつ高精度な小型部品における均質なコーティングが可能なことである。マグネトロン電極から基板までの距離が長くなると、コーティングプロセスの精度が低下する。ターンテーブルとマグネトロンスパッタリング装置の壁との間の距離は、好ましくは0.1~5mmである。この距離は、マグネトロンスパッタリング装置の気密性を高める上で特に好ましいことが分かっており、つまり装置内のガス空間を効果的に分離できる。
【0071】
本発明による二重マグネトロン配置は、単一マグネトロン配置と比較して、基板がマグネトロンスパッタリング装置内に置かれる時間当たり、より多くのソース材料を堆積させることができるという利点がある。その結果、スパッタリングプロセスの効率が格段に向上する。さらに、バイポーラ励起を行う二重マグネトロンアレイを使用することで、「非消失(nichtverschwindenden)アノード」とより高いプラズマ密度の組み合わせにより、より高密度な(ただし、より歪みのある)層を実現し、より優れた長期安定性を確保できる。
【0072】
本発明によれば、放電電圧が低いほど、あるいは距離が長いほど、放電の温度を下げることができるので、高分子からなる基板をより良好に被覆できる。
【0073】
本発明によれば、放電電圧が下がるとコーティングにおける温度も下がるので、ポリマーコーティングも。
【0074】
その結果、この装置の好ましい態様において中周波放電を発生させるための装置を備えてもよい。
【0075】
さらに好ましい実施形態では、装置は好ましくは2つ、必要に応じて3つのマグネトロンスパッタリング装置から構成される。このような実施形態における利点は、特に多層コーティングの場合、すなわち、複数の異なる層で基板をコーティングする場合に得られる。この場合、マグネトロンスパッタリング装置が2台ある場合には、材料(ソース材)が異なる2種類の層の積層体を生成することができる。その結果、3台のマグネトロンスパッタリング装置を使用した場合、それぞれ材質の異なる3種類の層を基板上に積層してスパッタリングすることができる。さらに、それぞれの原材料の混合物を製造することもでき、混合層を成膜することもできる。特に、100を超える独立した層を有するような非常に複雑な光学多層フィルターの分野においては、層の特性を最適化するために2台のマグネトロンスパッタリング装置を使用することは特に非常に有利である。必要性(特殊な設計など)によるが、3台以上のマグネトロンスパッタリング装置を使用することも有利と考えらえる。
【0076】
さらに、パルス形状として矩形又は正弦波のパルスを用いることが好ましく、特に好ましくは周波数が40kHzのものである。これにより、ターゲット軸に沿ったプラズマの不均一性が強くなる。このように、パルスの形状や周波数を調整することで、さらに分布に影響を与えることができる。その結果、補正開口(Korrekturblende)(シェーパー開口(Shaper-Blende))が不要となる。また、補正開口が受けるコーティング材料の量がかなり少なくなる可能性もある。標準的な設計では、ターンテーブルの中心から基板の中心までの距離が60cm、基板の直径が200mmの場合、コーティングの厚さのグラディエントは約30%になる。そのため、基板の内周部では外周部に比べて30%多くコーティングを開口(Blende)によって排除する必要がある。このときの膜厚の補正量は30%を超える。同時に、基板への到達の約8倍のレート(Rate)で開口(Blende)が受け取る。本発明の利点は、基板上にすでにほぼ均一なコーティングが施されているため、開口(Blende)を数%しか補正しなくてもよいことである。その結果、標準的な構成に比べて開口へのコーティングが大幅に減少し、より長く使用できる。同時に、層の分布の数%を修正するだけで済むため、分布をより正確に調整することができる。また、開口(Blende)にコーティングされる量も非常に少ないため、コーティングの過程での分布のドリフトも小さくなる。
【0077】
これにより、分布をより正確に設定することもできる。通常の形状では、コーティングレート(Schichtrate)は1/rの依存関係に従って外側から内側に向かって増加するが、本発明ではその増加を大幅に抑えることができる。また、システムの耐用年数(クリーニングが必要になる時間)を大幅に延ばせる。この点では、最も好ましいケースでは、プラズマインピーダンスも低減できる。これは、アーク放電が発生しやすくなり、その結果、粒子の形成が減少するため、一般的にコーティングの清浄性に有利である。
【0078】
本発明では、より大きなグラディエントを作れる。この場合、マスク上で非常にシャープな構造やエッジを必要とせず、既に存在する層の厚さのグラディエントを開口(Blende)によってさらに増すことができる。
【0079】
磁石の設計によって、プラズマが届く空間の範囲を変更できる。したがって基板がプラズマの中にあっても外にあっても、その移行(Ubergang)は流れ(flieBend)となる。粒子のロードが少ないという点では、粒子は電界の近くに置かれることが多いため、基板がプラズマの外にあることが好ましい。一方で、ターゲットと基板の距離が小さい方が、積層性が良くなるので望ましい。本発明による磁石の設計では、ターゲットの近くにプラズマを設置できる。
【0080】
これは、進行する基板上の層の厚さを進行方向に良好に分布させるためのさらなる利点である。基板がプラズマ中を通過する際にプラズマ密度の変動が生じると、進行方向に沿った均一性からのずれが生じる。これは、電子が金属面(ターンテーブルの表面)と絶縁面(基板の表面)のどちらかを見たときに発生する。電子が導電性の表面から引き離されてしまうので、そこで生成されるプラズマが少なくなり、そこのプラズマ密度が低下する。これは、特定の時間にプラズマ中に存在する電子が少なくなるため、スパッタレート(Sputterrate)にも影響する。この効果は、いわゆる「ピクチャーフレーム」効果(US 2007/0227882 A1に記載)に似ている。インラインシステムでは、反応性ガスの圧力サージにより、ガラス板の始端と終端でレート(Rate)が変化し、ガラス板の端で層厚が異なる場合がある。しかし、この2つの効果は、その原因が異なる。
【0081】
マグネトロンスパッタリング装置では、真空内での(複数の)ガスの有効なガス空間分離(Gasraumtrennung)を1:25、好ましくは1:100とすることができる。コーティングステーション間の有効なガス空間分離(Gasraumtrennung)を1:100にすることで、明瞭に区画されたコスパッタリングができる。これは、マグネトロンスパッタリング装置の希ガスや反応性ガスが、同一装置内の他のマグネトロンスパッタリング装置に入るのを防ぐためである。さらに、有効なガス空間分離(Gasraumtrennung)によって、希ガス及び/又は反応性ガスの量を、ある定義された値に、より正確に調整したり、一定に維持したりできる。
【0082】
マグネトロン放電によるプラズマは、通常99%以上が非イオン化粒子で構成されている。これらは高いエネルギーを有する場合があり、層のストレスに強く関与する。例えば、磁場の設計を変えたり、別のスパッタガスを使用したりすることで、間接的に影響を与えられる。本発明によれば、スパッタガスは、希ガスで構成されていてもよいし、希ガスで構成されていてもよい。アルゴン、ネオン、キセノン、クリプトンなどの希ガスが好ましい。また、希ガスの混合でもよい。本発明によれば、反応性ガスは、酸化性ガスで構成されていてもよい。好ましい反応性ガスは、酸素、窒素、テトラフルオロメタン、オクタフルオロシクロブタン、二酸化炭素、フッ化水素である。また、これらのガスの混合物を使用することもできる。また、水素を使用することもできる。
【0083】
この装置は、好ましくは光度計を含む。これにより、スパッタリングプロセスにおいて、基板上の層の厚さを測光により制御できる。この目的のために、透過又は反射の高速広帯域測定(例えば、200~2000nm)を行うことができる。理論的に予想されるスペクトルと比較することで層の厚さを決定し制御できる。場合によっては発振水晶を使用でき、例えば、キャビティフィルター(Kavitatenfiltern)の場合は、特定の層でわずかな信号の透過率の変化しか期待できない。
【0084】
本装置の別の好ましい実施形態では、基板ホルダーは、ポリエーテルエーテルケトンから成るか、又はポリエーテルエーテルケトンから成る。ポリエーテルエーテルケトンを使用することで、粒子の形成を抑えられる利点がある。
【0085】
さらに、マグネトロンスパッタリング装置内の反応性ガスを制御及び/又は安定させるための制御システムを備えていることが好ましい。
【0086】
この配置の利点は、本発明によるプロセスでは、ターゲットから誘電体層が除去されないが、ターゲットはいつでも誘電体層で覆われていないことである。これは例えば、金属ターゲットをいわゆる「トランジション・モード」で動作させることで実現できる。ここで、円筒状のソース材料(ターゲット)は、発生装置の適切な制御により、永久的に金属的で酸化物のない状態にあり、一方、成長層の酸化のために十分な酸素がプロセスチャンバー内に存在する。上述の制御変数は、通常、酸素分圧や発電機やターゲットの電圧で実現される。このように、このプロセスでは、高い蒸着レート(Abscheiderate)でのストイキオメトリーを満たす層の蒸着を実現することができる一方で、粒子の妨害的な影響は最小限に抑えられ、すなわち粒子数を非常に低く抑えられる。
【0087】
本発明によれば、マグネトロンスパッタリングを用いて、回転する基板上に均一な層を堆積させる以下の方法が提供される、
【0088】
a) 真空チャンバー内で、少なくとも1枚の基板をターンテーブル上に配置し、基板の回転運動中にコーティングを行い、
【0089】
b) 直線的に延びる二重マグネトロンソースからなる少なくとも1つのコーティングソースを用いて、少なくとも1つの基板上に少なくとも1つの層を成膜し、スパッタガスを用いてマグネトロン電極のソース材料から層を形成する。
【0090】
これにより、本発明によるコーティングソースが不均一なプラズマ密度を持つようになるため、ソース材料の除去レート(Abtragerate)を不均一なものとすることができる。
【0091】
本発明によれば、マグネトロン電極が不均一な磁場を有していること、及び/又はマグネトロン電極が実質的に非対称に分極された磁気構成を有していること、及び/又はコーティングソースがパルス形状及び/又はパルス周波数を調整可能なジェネレーターで構成されていることが好ましい。
【0092】
不均一な除去レート(Abtragerate)とは、ターンテーブルの中心から端に向かって、好ましくは直線的に、特に好ましくはターンテーブルの中心からの距離に比例して増加することが好ましい。これにより補正マスクを追加で使用しなくても基板上にほぼ均質なコーティングが行われる。
【0093】
そのため、本発明による方法では、少なくとも1つのプラズマソースを使用することが好ましく、少なくとも1つのプラズマソースは、プラズマ作用によって基板の表面を前処理することが好ましく、及び/又は、少なくとも1つのプラズマソースは、プラズマ作用によって層の構造及び/又はストイキオメトリーを変更することが好ましい。
【0094】
スパッタガスには希ガス、特にアルゴンを用いるのが好ましい。
【0095】
スパッタガスに加えて、酸素、窒素、水素、二酸化炭素、フッ化水素、テトラフルオロメタン、オクタフルオロシクロブタン、及びこれらの混合物からなる群から選択される少なくとも1種の反応性ガスを好ましく使用することができる。
【0096】
好ましい実施形態では、基板上の層の厚さは、プロセス制御のためにa)からe)の少なくとも1つによって制御される、
a) 光伝送のモニタリング;
b) 光反射のモニタリング;
c) 光吸収のモニタリング;
d) 単波長エリプリメトリー若しくはスペクトルエリプソメトリー;及び/又は
e) 水晶振動子による測定(Schwingquarzmessung)。
【0097】
好ましくは、本方法を実施するために、本発明による装置を使用する。
【0098】
以下の図及び例を参照して、本発明による主題をより詳細に説明するが、ここに示す特定の実施形態に限定することを望むものではない。
【図面の簡単な説明】
【0099】
図1】本発明によるターンテーブルのない装置の平面図。
図2】ターンテーブルを備えた本発明による装置の平面図。
図3】本発明による装置の断面図。
図4】対称的な極性を有する現行の装置を示す図。
図5】非対称の極性を有する本発明による装置を示す図。
図6】40kHzの正弦波で励起した場合のターゲット間の電圧差の時間依存性。
図7】円筒形ターゲットの平均イオン流密度を可視化した模式図。
図8】「偶(Even)」構成の場合に、時間とターゲット領域で平均化したイオン流量密度を示す図。
図9】「奇(Odd)」構成の場合に、時間とターゲット領域で平均化されたイオン流量密度を示す図。
図10】本発明による方法と先行技術による方法おけるアルゴンイオンの発光プロフィールの比較を示す図。
図11】本発明による別個の均一開口(Uniformitatsblende)のない基板上で得られるコーティングレート(Beschichtungsrate)と、先行技術によるコーティングレート(Beschichtungsrate)の比較を示している。
【発明を実施するための形態】
【0100】
図1は、本発明による好ましい装置のうち、ターンテーブルのないものを平面図でこの装置は、3つのマグネトロンスパッタリング装置2,3及び4を有しており、そのうち1つは単一マグネトロン配置2で構成され、2つは二重マグネトロン配置3,4で構成されている。マグネトロンスパッタリング装置2は、マグネトロン電極5、スパッタガス11、必要に応じて反応性ガス8を含み、真空1中に配置されている。マグネトロンスパッタリング装置3,4は、それぞれ2つのマグネトロン電極6,7、スパッタガス11、必要に応じて反応性ガス8を含み、真空1中に配置されている。マグネトロンスパッタリング装置2,3,4の近傍には、プラズマソース12と、光度計16及び/又はエリプソメトリーフランジ(Ellipsometrieflansche)17がある。
【0101】
図2は、本発明のターンテーブルの好ましい実施形態を示す概略的な平面図である。ターンテーブル10は装置内にあり、この例では10個の同一の基板ホルダー9を有している。
【0102】
図3は、ターンテーブル10を備えた装置の好ましい設計の概略的な側面図である。マグネトロンスパッタリング装置の断面が見えているが、この装置には2つの円筒形のソース材料6,7が含まれている(二重マグネトロン配置)。マグネトロンスパッタリング装置は、側面では境界壁14、15によって、上部ではターンテーブル10によって、他の部分と気密分離されており、スパッタガス11、必要に応じて反応性ガス8を含み、真空1の下にある。ターンテーブル10の2つの基板ホルダー9は、断面に示されているか、又は見えている。ターンテーブル10の上には蓋13があり、ターンテーブル10の側方に位置する境界壁で装置を気密密閉している。
【0103】
図4は、対称的な極性を有する円筒形の二重マグネトロンを配置した先行技術のスパッタリング装置を示している。
【0104】
発電機は、正弦波や矩形波などのパルスパターンを有する双極性のパルス電圧をソースに供給する。
【0105】
図5は、本発明によるスパッタリング装置を示しており、非対称の極性を有する円筒形の二重マグネトロン配列からなる。この例では、発電機がソースに双極性のパルス電圧を供給しているが、そのパルスは正弦波である。ここでは補正用の開口(Korrekturblende)がコーティング領域から大きく取り除かれている。
【0106】
図5に示した円筒形の二重マグネトロンの配置を、セル内粒子(Particle-in-Cell)プラズマ・シミュレーションを用いて検討した。
【0107】
シミュレーションのパラメータを以下にまとめた:
モデル寸法: 800x600x400 mm2
セル数(Zell-Anzahl): 100x150x100
時間ステップ: 5e-11 秒
時間間隔: 250 μ秒
円筒形のターゲットの長さ: 513 mm
ターゲットの直径: 138 mm
励起周波数: 40 kHz
モデル電力(Modellierte Leistung): 1 W(時間平均)
最大電位差: 1000 V
二次電子収量: 12 %
ターゲットでの電子捕獲: 100 %
磁気の残留(Remanenz) 1.4 T
磁化率: 1.05
ヨーク感受性(Suszeptibilitat): 1000
磁気傾斜: 内側に±6°
【0108】
給電は2つの円筒形ターゲットに対して双極で行われる。ターゲット間の電圧差を指定すると、正負の電荷の記録に基づいて、グランド(=チャンバーの壁)との電位差がシミュレーション中に自動的に発生する仕組みになっている。ターゲットの極性は正弦波信号の形で周期的に反転し、励磁周波数は40kHzである。
【0109】
磁石については、まず円筒形ターゲット用の市販の磁石の組のモデルを想定した。モデルでは、両方の磁石の組が中心に向かって10°傾いている。標準的な構成では、両方の磁石の組が同じ極性を有する。つまり、外側のマグネットリングの上部がN極、内側のマグネットの上部がS極になる。以下、この構成を「偶(Even)」と呼ぶ。本発明による例では、2組目の磁石(図5では右側)の極性が逆になっているが、この構成を以下では「奇(Odd)」と呼ぶ。
【0110】
シミュレーション中、散逸したプラズマパワーは連続的に記録され(時間ステップの前後の荷電粒子の運動エネルギーに基づく)、それぞれのケースで0.1μ秒にわたって蓄積される。目標電力と実際の電力を比較して、ターゲット間の電圧差を比例制御器で制御する。得られた電圧と電力の時間依存曲線が図6に示されている。一般に、準定常的な状態から放電状態になるまでに50μ秒以上かかると言われている。さらに、本発明による「奇(Odd)」の構成では、平衡状態でより小さな電圧差が発生すること、すなわちより低いインピーダンスで放電が行われることに留意すべきである。そのため、スパッタ浸食-分布(Sputtererosions-Verteilung)を決定するためのターゲット上のイオン流のプロファイルを、最後の12個の半波にわたって、すなわち102.5μ秒から250μ秒までの時間間隔を2.5μ秒刻みで平均化したものとする。三次元的なイオン流を図7に示す。このイオン流から蓄積されたターゲットのイオン流密度は、偶の配置では対角線に対して対称に分布し(図8)、奇の配置では片側に分布した(図9)。
【0111】
さらに、流れの密度の絶対値は「奇(Odd)」配置の方が高いことが分かるが、これは先に述べたプラズマインピーダンスの低下と関係している。プラズマインピーダンスが低いと、一般的に不要な放電(アーク)の傾向が減少するため、電圧がスパッタリング効果に十分である限り有益である。また図9のイオン流密度が高いほど高いレート(Rate)が得られるというメリットもある。
【0112】
図10は、第2の配置におけるターゲットでの累積イオン流密度を示したものである。ここでは、イオン流密度のグラディエントが逆になり、外側に向かって除去レート(Abtragerate)が低くなる。さらに分布マスク(Vertrilungsmaske)を使用することで、より強い層の厚みのグラディエントを生成することができる。
【0113】
コーティング中はターゲットが回転し、ターンテーブル上の基板は両方のターゲットの上を回転するため、ターゲット領域で平均化されたイオン流プロファイルは、ターゲット上のエロージョンプロファイルと層の厚さ分布の両方を決定するものとなる。ターゲット上のAr+イオンのエネルギー分布がほぼ一定であれば、イオン流プロファイルはスパッタレート(Sputterrate)に比例する。図11では、100~250μ秒の時間間隔平均すなわち正弦波励起の12半サイクルにわたってこの現象が示されている。
【0114】
「偶(Even)」の配置の場合は、基板上のある領域にコーティングレート(Beschichtungsrate)の集中が発生していることがわかる。この領域は、半径方向に270~470mmとなる範囲に含まれる(基板の直径は200mm)。マスクを用いる場合はレート(Rate)を内側に調整して最小値の70(相対レート(Rate))にする必要がある。
【0115】
一方「奇(Odd)」の場合は、均一マスク(Uniformitatsmaske)がなくても、基板上にほぼ平滑で均一な層厚プロファイルが形成される。磁極を適切に配置することで、「奇(Odd)」の構成は、ターンテーブルの半径にわたるコーティングの厚さの減少をほぼ補うことができる。そのため、コーティングの流れのごく一部を基板に流すだけでよく、また同じスパッタリングの強さでも高いコーティングレート(Beschichtungsrate)が得られる。
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