(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】高温強度に優れた中高温用鋼板及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230511BHJP
C21D 8/02 20060101ALI20230511BHJP
C22C 38/44 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
C22C38/00 301B
C21D8/02 B
C22C38/44
(21)【出願番号】P 2021530166
(86)(22)【出願日】2019-11-29
(86)【国際出願番号】 KR2019016700
(87)【国際公開番号】W WO2020111859
(87)【国際公開日】2020-06-04
【審査請求日】2021-07-15
(31)【優先権主張番号】10-2018-0150818
(32)【優先日】2018-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】522492576
【氏名又は名称】ポスコ カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000051
【氏名又は名称】弁理士法人共生国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ホン,スン-テク
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特開2001-164332(JP,A)
【文献】特開2006-077330(JP,A)
【文献】特開2007-217783(JP,A)
【文献】特開2014-095130(JP,A)
【文献】特開2001-234276(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第101713051(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00-38/60
C21D 8/00- 8/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重量%で、C:0.05~0.25%、Mn:0.1~1.0%、Si:0.1~0.8%、Cr:1~3%、Cu:0.05~0.3%、Mo:0.5~1.5%、Ni:0.05~0.5%、Al:0.005~0.1%を含み、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からな
り、
面積%で、焼戻しマルテンサイト50%以上及び残部の焼戻しベイナイトからなる鋼板の微細組織を有し、前記微細組織の結晶粒の内部には、1μm以下の微細なIrO
2
またはRh
2
O
3
酸化物が存在し、そして、
前記鋼板は、650~740℃で100時間、溶接部を熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)した後にも、500℃での高温引張強度が400MPa以上であることを特徴とする、溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板。
【請求項2】
前記酸化物は、その面積分率が0.015%以上であることを特徴とする、請求項
1に記載の溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板。
【請求項3】
重量%で、C:0.05~0.25%、Mn:0.1~1.0%、Si:0.1~0.8%、Cr:1~3%、Cu:0.05~0.3%、Mo:0.5~1.5%、Ni:0.05~0.5%、Al:0.005~0.1%を含み、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを1000~1250℃の温度範囲で再加熱した後、熱間圧延する工程と、
前記熱間圧延された鋼板を900~1000℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する熱処理する工程と、
前記熱処理された鋼板を0.2~30℃/secの冷却速度で冷却する工程と、
前記冷却された鋼板を700~750℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する焼戻し熱処理工程と、を含
み、
前記焼戻し熱処理工程により製造された鋼板は、面積%で、焼戻しマルテンサイト50%以上及び残部の焼戻しベイナイトからなる微細組織を有し、前記微細組織の結晶粒の内部には、1μm以下の微細なIrO
2
またはRh
2
O
3
酸化物が存在し、そして、
前記焼戻し熱処理工程により製造された鋼板は、650~740℃で100時間、溶接部を熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)した後にも、500℃での高温引張強度が400MPa以上であることを特徴とする、溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物は、その面積分率が0.015%以上であることを特徴とする、請求項
3に記載の溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、発電所のボイラー、圧力容器など、400~600℃程度の中高温用鋼及びその製造に係り、より詳細には、500℃での高温強度に優れた鋼板及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油の品薄現象及び石油価格高騰の時代を迎え、劣悪な環境の油田を積極的に開発する傾向にある。これに伴い、原油の精製及び貯蔵用の鋼材が厚物化している。
【0003】
上述の鋼材の厚物化以外にも、鋼材を溶接した場合、溶接後の構造物の変形を防止し、形状及び寸法を安定させる目的で、溶接時に発生した応力を除去するために溶接後熱処理(PWHT、Post Weld Heat Treatment)が行われている。しかしながら、長時間のPWHT工程を行った鋼板には、その組織の粗大化により、鋼板の高温強度が低下するという問題がある。
【0004】
すなわち、長時間のPWHT後には、基地組織(Matrix)及び結晶粒界の軟化、結晶粒の成長、炭化物の粗大化などにより、強度及び靭性が同時に低下する現象がもたらされるようになる。
【0005】
このような長時間のPWHTによる物性低下を防止するための手段として、特開1997-256037号には、重量%で、C:0.05~0.20%、Si:0.02~0.5%、Mn:0.2~2.0%、Al:0.005~0.1%、必要に応じてCu、Ni、Cr、Mo、V、Nb、Ti、B、Ca、希土類元素のうち1種または2種以上を含有し、残部が鉄及び不可避不純物からなるスラブを加熱、及び熱間圧延を行った後、室温まで空冷し、Ac1~Ac3変態点で加熱して徐冷する工程により、PWHT保証時間を16時間まで可能とする技術が提示されている。
【0006】
しかし、上記技術で提示されたPWHT保証時間は、厚物化及び溶接部条件が過酷な場合には非常に不足し、それ以上の長時間のPWHTの適用は不可能であるという問題を有している。
【0007】
したがって、鋼材の厚物化及び溶接部条件の過酷化に伴い、長時間のPWHT後にも、500℃で優れた高温強度を有する鋼材が求められている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、本発明は、上記のような問題を解決するためのものであって、長時間の溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)後にも、500℃での高温強度が低下することのない、溶接後熱処理(PWHT)抵抗性に優れた中高温用鋼板、及びその製造方法を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の一側面は、重量%で、C:0.05~0.25%、Mn:0.1~1.0%、Si:0.1~0.8%、Cr:1~3%、Cu:0.05~0.3%、Mo:0.5~1.5%、Ni:0.05~0.5%、Al:0.005~0.1%を含み、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなる、溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板に関する。
【0010】
前記中高温用鋼板は、面積%で、焼戻しマルテンサイト(tempered martensite)50%以上及び残部の焼戻しベイナイト(tempered bainite)からなる微細組織を有し、前記微細組織の結晶粒の内部には、1μm以下の微細なIrO2またはRh2O3酸化物が存在することが好ましい。
【0011】
前記中高温用鋼板は、100時間溶接後熱処理(Post Weld Heat Treatment、PWHT)後にも、500℃での高温引張強度が400MPa以上であることができる。
【0012】
また、本発明の他の側面は、重量%で、C:0.05~0.25%、Mn:0.1~1.0%、Si:0.1~0.8%、Cr:1~3%、Cu:0.05~0.3%、Mo:0.5~1.5%、Ni:0.05~0.5%、Al:0.005~0.1%を含み、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなる鋼スラブを1000~1250℃の温度範囲で再加熱した後、熱間圧延する工程と、
前記熱間圧延された鋼板を900~1000℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する熱処理する工程と、
前記熱処理された鋼板を0.2~30℃/secの冷却速度で冷却する工程と、
前記冷却された鋼板を700~750℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する焼戻し(tempering)熱処理工程と、を含む、溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板の製造方法に関する。
【0013】
前記焼戻し熱処理工程により製造された鋼板は、面積%で、焼戻しマルテンサイト50%以上及び残部の焼戻しベイナイトからなる微細組織を有し、上記微細組織の結晶粒の内部には、1μm以下の微細なIrO2またはRh2O3酸化物が存在することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によると、100時間に達するPWHT後にも、500℃での高温引張強度が400MPa以上である、中高温用鋼板及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について説明する。
【0016】
本発明の溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板は、重量%で、C:0.05~0.25%、Mn:0.1~1.0%、Si:0.1~0.8%、Cr:1~3%、Cu:0.05~0.3%、Mo:0.5~1.5%、Ni:0.05~0.5%、Al:0.005~0.1%を含み、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上、残部はFe及び不可避不純物からなる。
【0017】
先ず、本発明の鋼材の成分系及び組成範囲について詳細に説明する(以下、各成分の含量は重量%を意味する。)。
【0018】
・炭素(C)
本発明において、炭素(C)は強度を向上させる元素であり、その含量を0.05~0.25%の範囲に制御することが好ましい。その含量が0.05%未満である場合には、基地自体の強度が低下し、0.25%を超える場合には、過度な強度増大により靭性が低下するという問題があり得る。
【0019】
本発明において、炭素の含量の下限は、好ましくは0.06%、より好ましくは0.08%に制限し、炭素の含量の上限は、好ましくは0.24%、より好ましくは0.22%にする。
【0020】
・シリコン(Si)
本発明において、シリコン(Si)は、脱酸及び固溶強化に効果的な元素であり、衝撃遷移温度の上昇を伴う元素である。したがって、目標強度を達成するためには0.1%以上添加する必要があるが、0.8%を超えて添加する場合には、溶接性及び衝撃靭性が低下するという問題があり得る。これを考慮して、本発明では、シリコン(Si)の含量を0.1~0.8%に制限することが好ましい。
【0021】
本発明において、シリコンの含量の下限は、好ましくは0.12%、より好ましくは0.15%に制限し、シリコン含量の上限は、好ましくは0.75%、より好ましくは0.70%に制限する。
【0022】
・マンガン(Mn)
本発明において、マンガン(Mn)は、Sとともに非金属介在物であるMnSを形成し、常温伸び及び低温靭性を低下させるため、1%以下に管理することが好ましい。しかし、Mnを0.1%未満の添加の場合には、適切な強度を確保することが困難であるため、本発明では、マンガン(Mn)の含量を0.1~1%の範囲に制限する。
【0023】
本発明において、マンガンの含量の下限は、好ましくは0.15%、より好ましくは0.2%に制限し、マンガン含量の上限は、好ましくは0.95%、より好ましくは0.90%に制限する。
【0024】
・アルミニウム(Al)
アルミニウム(Al)は、Siとともに製鋼工程で用いられる強力な脱酸剤の1つである。本発明では、かかるアルミニウム(Al)の含量を0.005~0.1%の範囲に制限することが好ましい。Alの含量が0.005%未満である場合には、脱酸効果が微少であり、0.1%を超えて添加する場合には、脱酸効果が飽和され、製造原価が上昇するという問題があるためである。
【0025】
本発明において、アルミニウムの含量の下限は、好ましくは0.01%、より好ましくは0.02%に制限し、アルミニウムの含量の上限は、好ましくは0.09%、より好ましくは0.08%に制限する。
【0026】
・クロム(Cr)
本発明において、クロム(Cr)は、高温強度を増加させる元素であり、強度増加の効果を得るためには、1.0%以上添加する必要があるが、3.0%を超えて添加する場合には、製造コストが上昇するという問題がある。これを考慮して、本発明では、クロム(Cr)の含量を1.0~3.0%の範囲に制限する。
【0027】
本発明において、クロムの含量の下限は、好ましくは1.1%、より好ましくは1.2%に制限し、クロムの含量の上限は、好ましくは2.8%、より好ましくは2.5%に制限する。
【0028】
・モリブデン(Mo)
本発明において、Moは、Crと同様に、高温強度の増大において有効な元素であるだけでなく、硫化物による割れの発生を防止する元素である。効果を得るためには、0.5%以上添加する必要があるが、1.5%を超えて添加する場合には、製造コストが上昇するという問題があるため、1.5%以下にすることが好ましい。すなわち、本発明では、モリブデン(Mo)の含量を0.5~1.5%の範囲に制限する。
【0029】
本発明において、モリブデンの含量の下限は、好ましくは0.51%、より好ましくは0.53%に制限し、モリブデンの含量の上限は、好ましくは1.4%、より好ましくは1.2%に制限する。
【0030】
・銅(Cu)
本発明において、銅(Cu)は強度増大に効果的な元素であり、0.005%以上添加した際に強度増大の効果が得られるが、高価であるため、0.3%以下にすることが好ましい。これを考慮して、本発明では、銅(Cu)の含量を0.005~0.3%の範囲にする。
【0031】
本発明において、銅の含量の下限は、好ましくは0.007%、より好ましくは0.01%に制限し、銅の含量の上限は、好ましくは0.28%、より好ましくは0.25%に制限する。
【0032】
・ニッケル(Ni)
本発明において、ニッケル(Ni)は、低温靭性を向上させる最も効果的な元素であり、0.05%以上添加した際に効果が得られるが、高価の元素であるため、0.5%を超えて添加する場合には、製造コストが上昇する。したがって、本発明では、ニッケル(Ni)の含量を0.05~0.5%に制限する。
【0033】
本発明において、ニッケルの含量の下限は、好ましくは0.07%、より好ましくは0.1%に制限し、ニッケル含量の上限は、好ましくは0.48%、より好ましくは0.45%に制限する。
【0034】
・IrとRhのうち1種以上
本発明は、上記組成に、Ir:0.005~0.10%とRh:0.005~0.10%のうち1種以上を含むことができる。
【0035】
イリジウム(Ir)は、微細な酸化物を形成し、基地組織の軟化を防止するのに効果的な元素であり、0.005%以上添加した際にその効果が十分に得られるが、高価であるため、0.1%以下添加することが好ましい。
【0036】
ロジウム(Rh)もIrと同様に、微細な酸化物を形成しやすい元素であり、0.005%以上添加した際にその効果が十分に得られるが、高価であるため、0.1%以下添加することが好ましい。
【0037】
より好ましくは、IrとRhをそれぞれ0.01~0.08%及び0.05~0.09%の範囲で添加する。
【0038】
本発明では、イリジウム(Ir)及びロジウム(Rh)を添加することで、1μm以下の微細なIrO2またはRh2O3酸化物を形成する重要な役割を果たす元素である。
【0039】
これらの元素の添加により、その面積分率が0.015%以上になるように酸化物が形成されることが好ましい。酸化物は、長時間のPWHT時にも大きく成長しないため、長時間のPWHT後にも高温強度の低下を防止する、重要な役割を果たすようになる。面積分率が0.015%未満である場合には、高温強度が低下する恐れがある。
【0040】
上記のような組成成分を有する本発明の鋼板は、その微細組織が焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの混合組織からなることができ、組織中に、焼戻しマルテンサイトが少なくとも50面積%含まれることができる。
【0041】
また、熱処理が完了された鋼板の内部組織、すなわち、結晶粒の内部には、1μm以下の微細なIrO2またはRh2O3酸化物が形成されることを特徴とする。組織を上述の形態に制御する理由は、本発明において対象とするPWHT抵抗性に優れ、適切な強度と靭性を有するようにするためである。
【0042】
次に、本発明の一実施形態による鋼板の製造方法について詳細に説明する。
【0043】
溶接後熱処理抵抗性に優れた中高温用鋼板の製造方法は、上記のような組成成分を有する鋼スラブを1000~1250℃の温度範囲で再加熱した後、熱間圧延する工程と、熱間圧延された鋼板を900~1000℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する熱処理する工程と、熱処理された鋼板を0.2~30℃/secの冷却速度で冷却する工程と、冷却された鋼板を700~750℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する焼戻し熱処理工程と、を含む。
【0044】
先ず、本発明では、組成範囲を満たす鋼スラブを1000~1250℃の温度範囲で再加熱する。再加熱温度が1000℃より低い場合には、溶質原子の固溶が困難であり、1250℃を超える場合には、オーステナイト結晶粒のサイズが過度に粗大化し、鋼板の性質を損なうためである。そして、本発明では、再加熱された鋼スラブを通常の条件で熱間圧延処理した後、冷却させる。
【0045】
次いで、本発明では、熱延鋼板を900~1000℃の温度範囲で、2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)の条件で保持する熱処理を行う。
【0046】
熱処理の温度が900℃未満である場合には、固溶溶質元素の再固溶が困難であって強度を確保しにくくなるのに対し、熱処理温度が1000℃を超える場合には、結晶粒の成長が起こり、低温靭性を損なう恐れがある。
【0047】
また、熱処理の保持時間を制限する理由は、保持時間が2.5×t+10分(tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)より短い場合には、組織の均質化が困難であり、2.5×t+30分(tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)を超える場合には、生産性を損なう恐れがあるためである。
【0048】
そして、本発明では、熱処理された鋼板を、中心部の冷却速度を基準として0.2~30℃/secの冷却速度で冷却する。冷却速度が0.2℃/sec未満である場合には、冷却中に粗大なフェライト結晶粒が生じる恐れがあるのに対し、30℃/secを超える場合には、過度な冷却設備が必要となる。
【0049】
その後、本発明では、冷却された鋼板を、700~750℃の温度範囲で2.5×t+(10~30分)(但し、tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)時間保持する焼戻し熱処理を行う。
【0050】
焼戻し熱処理の温度が700℃未満である場合には、微細析出物の析出が困難であって強度を確保しにくくなるのに対し、熱処理の温度が750℃を超える場合には、析出物の成長が起こり、強度及び低温靭性を損なうようになる。
【0051】
また、焼戻し熱処理の保持時間を制限する理由は、2.5×t+10分(tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)より短い場合には、組織の均質化が困難であり、2.5×t+30分(tは鋼材の厚さ(mm)を意味する)を超える場合には、生産性を損なうためである。
【0052】
このような焼戻し熱処理により得られた本発明の鋼板は、その微細組織が、焼戻しマルテンサイト及び焼戻しベイナイトの混合組織からなることができ、組織中に、焼戻しマルテンサイトが少なくとも50面積%含まれることができる。
【0053】
また、熱処理が完了された鋼板の内部組織、すなわち、結晶粒の内部には、1μm以下の微細なIrO2またはRh2O3酸化物が形成されている。
【0054】
焼戻し熱処理工程を経て製造された本発明の鋼板は、圧力容器などの製作時に加えられる溶接工程により、残留応力の除去などのためにPWHTが必要である。一般に、長時間のPWHT後には強度及び靭性の劣化が発生するが、本発明により製造された鋼板は、通常のPWHT温度条件である650~740℃で長時間(~100時間)PWHTを行っても、強度及び靭性が大きく低下することなく溶接施工が可能であるという利点がある。特に、本発明の鋼板は、100時間のPWHT後にも、500℃での高温引張強度が400MPa以上であって、優れた強度を有している。
【0055】
以下、実施例を挙げて本発明を詳細に説明する。
【0056】
(実施例)
下記表1のような鋼組成成分を有する鋼スラブをそれぞれ用意した。その後、各鋼スラブを下記表2の条件で再加熱処理した後、熱間圧延することで、下記表2のような厚さを有する熱延板を製造した。そして、かかるそれぞれの熱延板に対して、下記表2の条件で熱処理、冷却、及び焼戻し熱処理を行って最終鋼板を製造した。
【0057】
上記のような条件で製造されたそれぞれの鋼板に対して、下記表2のような条件でPWHTを行った後、500℃で降伏強度、引張強度を調べ、その結果を下記表2に示した。
【0058】
【0059】
【0060】
上記表1及び表2から分かるように、本発明の組成及び製造条件を満たす発明例1~12は、PWHT時間が50時間以上、100時間に達した際にも、強度と靭性が低下しなかったのに対し、比較例1~6は、本発明の鋼組成成分及び製造条件を外れた場合であって、発明例1~12と比較すると、PWHT時間が小さい場合には強度と靭性が発明鋼とほぼ同等水準を示すが、PWHT時間が50時間以上に長くなるにつれて、発明例に比べて強度と靭性が著しく劣化することが確認できる。これは、本発明例の鋼板にIr、Rhを添加することで1μm以下の微細なIrO2またはRh2O3酸化物が生成されることが、大きい影響を与えたと判断される。このような酸化物は長時間のPWHT時にも大きく成長しないため、酸化物の形成により、長時間のPWHT後にも強度と靭性の低下を防止する効果がある。
【0061】
一方、比較例7~9は、鋼組成成分は本発明の範囲内であるが、鋼の製造条件が本発明の範囲を外れた場合であって、発明鋼の製造条件を充足する場合に比べて高温強度値が著しく低いことが分かる。
【0062】
また、比較例10~12は、鋼の製造条件は本発明の範囲を満たすが、鋼組成成分が本発明の範囲を外れた場合であって、発明鋼の組成成分を充足する場合に比べて高温強度値が著しく低いことが分かる。
【0063】
以上で説明したように、本発明の詳細な説明で本発明の好ましい実施形態について説明したが、本発明が属する技術分野において通常の知識を有する者であれば、本発明の範疇を逸脱しない範囲で様々な変形が可能であることはいうまでもない。したがって、本発明の権利範囲は上述の実施形態に限って決定されてはならず、添付の特許請求の範囲だけでなく、これと均等のものなどによって決定されるべきである。