IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 旭化成メディカル株式会社の特許一覧

特許7277598血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法
<>
  • 特許-血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法 図1
  • 特許-血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法 図2
  • 特許-血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法 図3
  • 特許-血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法 図4
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-10
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法
(51)【国際特許分類】
   A61M 1/02 20060101AFI20230511BHJP
   A61M 5/165 20060101ALI20230511BHJP
   B01D 29/01 20060101ALI20230511BHJP
   B01D 39/16 20060101ALI20230511BHJP
【FI】
A61M1/02 107
A61M5/165 500X
B01D29/04 510B
B01D29/04 510F
B01D29/04 530A
B01D39/16 A
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2021551715
(86)(22)【出願日】2020-10-09
(86)【国際出願番号】 JP2020038276
(87)【国際公開番号】W WO2021070928
(87)【国際公開日】2021-04-15
【審査請求日】2022-03-23
(31)【優先権主張番号】P 2019187513
(32)【優先日】2019-10-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】507365204
【氏名又は名称】旭化成メディカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079108
【弁理士】
【氏名又は名称】稲葉 良幸
(74)【代理人】
【識別番号】100109346
【弁理士】
【氏名又は名称】大貫 敏史
(74)【代理人】
【識別番号】100117189
【弁理士】
【氏名又は名称】江口 昭彦
(74)【代理人】
【識別番号】100134120
【弁理士】
【氏名又は名称】内藤 和彦
(72)【発明者】
【氏名】島田 信量
【審査官】木村 立人
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-507011(JP,A)
【文献】国際公開第01/32236(WO,A1)
【文献】特開2004-44010(JP,A)
【文献】特開平7-24066(JP,A)
【文献】国際公開第03/106518(WO,A1)
【文献】特開2006-280469(JP,A)
【文献】特表2013-540458(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 1/02
A61M 5/165
B01D 29/04
B01D 39/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステル繊維を含む濾材を含む血液処理フィルターであって、
前記濾材の表面積が6.0m2以上であり、
前記血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度が0.03以下である、
前記血液処理フィルター。
【請求項2】
前記血液処理フィルターの通気圧力損失が、100~2000Paである、請求項1に記載の血液処理フィルター。
【請求項3】
前記血液処理フィルターの通気圧力損失が、400~1600Paである、請求項1又は2に記載の血液処理フィルター。
【請求項4】
5000個/μLの白血球濃度を有する、白血球を含有する液体400mLを濾過した場合に、下記式:
白血球除去性能=-log[(濾過後の白血球を含有する液体中の白血球濃度)/(濾過前の白血球を含有する液体中の白血球濃度)]
で表される白血球除去性能が3.3以上である、請求項1~3のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
【請求項5】
5000個/μLの白血球濃度を有する、白血球を含有する液体400mLを濾過した場合に、残存白血球数を106個未満にする、請求項1~3のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
【請求項6】
前記濾材の表面積が10.0m2以下である、請求項1~5のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
【請求項7】
前記濾材の表面積が8.5m2以下である、請求項1~6のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
【請求項8】
前記最大吸光度が、前記濾材の単位質量(g)あたり、0.003g-1以下である、請求項1~7のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
【請求項9】
前記ポリエステル繊維がコート層を有し、
前記コート層の質量が、前記ポリエステル繊維と前記コート層との合計質量(g)あたり、15mg/g以下である、請求項1~8のいずれか一項に記載の血液処理フィルター。
【請求項10】
請求項1~9のいずれか一項に記載の血液処理フィルターに、白血球を含有する液体を通過させる工程を含む、白血球除去方法(ただし、血液の体外循環による白血球除去療法を除く)
【請求項11】
前記通過によって、下記式:
白血球残存率=(濾過後の白血球を含有する液体中の白血球濃度)/(濾過前の白血球を含有する液体中の白血球濃度)
で表される白血球残存率を10-3以下にする、請求項10に記載の白血球除去方法。
【請求項12】
前記通過によって、白血球を含有する液体400mL中の残存白血球数を106個未満にする、請求項10に記載の白血球除去方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液処理フィルター及びその製造方法並びに白血球除去方法に関する。本発明は、好ましくは、血液、すなわち、全血や血液製剤(全血から調製して得られた液体、及び、これに各種添加剤が添加された液体)等の血液成分を含む液体から凝集物や白血球等の好ましくない成分を除去するための血液処理フィルター及びその製造方法、並びに前記血液処理フィルターを用いた白血球除去方法に関する。
【背景技術】
【0002】
輸血の分野においては、供血者から採血した血液に抗凝固剤を添加した全血製剤を輸血する、いわゆる全血輸血に加えて、全血製剤から受血者が必要とする血液成分を分離し、その血液成分を輸注する、いわゆる成分輸血が一般的に行われるようになっている。成分輸血には、受血者が必要とする血液成分の種類により、赤血球輸血、血小板輸血、血漿輸血などがあり、これらの輸血に用いられる血液製剤には、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などがある。
【0003】
また、最近では、血液製剤中に含まれている白血球を除去してから血液製剤を輸血する、いわゆる白血球除去輸血が普及してきている。これは、輸血に伴う頭痛、吐き気、悪寒、非溶血性発熱反応などの比較的軽微な副作用、及び、受血者に深刻な影響を及ぼすアロ抗原感作、ウィルス感染、輸血後GVHDなどの重篤な副作用が、主として輸血に用いられた血液製剤中に混入している白血球が原因で引き起こされることが明らかになったためである。頭痛、吐き気、悪寒、発熱などの比較的軽微な副作用を防止するためには、血液製剤中の白血球を、残存率が10-1~10-2以下になるまで除去すればよいと言われている。HLA抗体産生や輸血後GVHDなどの副作用を防止するためには、血液製剤中の白血球を、残存率が10-3以下になるまで除去すればよいと言われている。また、重篤な副作用であるアロ抗原感作やウィルス感染を防止するためには、白血球を残存率が10-4~10-6以下になるまで除去する必要があると言われている。
また、近年ではリウマチ、潰瘍性大腸炎等の疾患の治療に、血液の体外循環による白血球除去療法が行なわれるようになってきており、高い臨床効果が得られている。
【0004】
現在、血液製剤から白血球を除去する方法には、大きく分けて、遠心分離機を用いて血液成分の比重差を利用して白血球を分離除去する遠心分離法と、不織布等の繊維集合体又は連続気孔を有する多孔構造体などからなるフィルター要素を用いて白血球を除去するフィルター法の2種類がある。白血球を粘着又は吸着により除去するフィルター法は、操作が簡便であること、及びコストが安いことなどの利点を有するため現在最も普及している。
【0005】
上記フィルター法に使用されるフィルター要素の設計・改良が進み、安価で白血球への吸着性能の高いフィルターが各メーカーから多く販売されている。一方で、近年、ISO(国際標準化機構)のガイドラインに基づく白血球除去フィルターへの安全性の要求が厳しくなっている。
旧来、ISO10993で規定される白血球除去フィルターの生物学的安全性試験は薬事申請などの行政手続きにおいても必須であるが、その他にもISO1135-4(Transfusion equipment for medical use)で規定される白血球除去フィルターを含む単回使用輸血セットの化学的安全性、ISO3826-3で規定される各国薬局方に基づくフィルター構成部材の化学的安全性などが、各国の医療機関からフィルターメーカーに適合性を求められるようになってきている。
また、ISO規格とは別に、例えば中国では単回使用白血球除去フィルターの独自規格としてYY0329を設け、濾過性能のほかに化学的、生物学的安全性を厳しく規定している。
【0006】
白血球除去フィルターに係る化学的溶出性に着目した文献としては、特許文献1がある。特許文献1は、白血球除去フィルターに搭載されるフィルター基材を洗浄処理することでオリゴマー含有量を低減させ、白血球除去性能を向上させることを開示している。
そのほかに、血液フィルター用繊維の表面の性状に着目した発明として、特許文献2に開示された発明がある。これは繊維中に含まれる末端カルボキシル基量の適正化により性能向上を図るものである。ここで、末端カルボキシル基は繊維由来のオリゴマーに含まれる官能基であるため、末端カルボキシル基の適正化は繊維中のオリゴマーの制御を示唆するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許4565762号明細書
【文献】国際公開第2018/034213号
【文献】特開第2006/077136号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ここで、発明者らが各国で流通している、繊維を濾過材料とする白血球除去フィルターを用いて上記のISO規格に基づく安全性確認を行ったところ、驚くべきことに全てのフィルターでISO1135-4に基づく化学的安全性に不適合となった。具体的には、ISO1135-4の「6.4 Residue on evaporation」で規定される水抽出液中の蒸発残渣量(5mg以下)と、「6.5 UV absorption of extract solution」で規定される水抽出液の吸光度(0.1以下)のいずれかで不合格となった。
【0009】
前記結果は、各種フィルターに充填される繊維が少なくとも表面部分に水に可溶な成分を含んでいる、あるいは不溶であっても、水が繊維に接触することで剥離、脱落する、物理的に不安定な物質を含んでいることを示している。
なお、ISO1135-4は既に述べた通り、単回使用輸血セットに求められる基準であり、例えば病院などの医療施設で患者にベッドサイド輸血を行う際の輸血セットに適用されるものである。従って、現在先進国で主流となっている、インライン用途の白血球除去フィルター入りバッグセットは適用外である。ISO1135-4不適合とはいえ、現時点の用途に照らして違反しているわけではない。
各種フィルターはISO10993の白血球除去フィルターとしての生物学的安全性には必然的に適合していることから、ISO1135-4試験の結果が直ちにフィルターの有害性、毒性を示唆するものではないものの、長期的観点で例えば頻回輸血患者の健康状態への影響を考慮すると、看過できるものではない。
【0010】
注記すべきは、ISO1135-4適合のため繊維材料由来の溶出成分を低減するためには、一義的にはフィルターに使用する繊維材料の量を低減させるか、繊維材料を構成する繊維の平均繊維直径を太くすることが好ましいところ、繊維材料の量を低減させるか繊維材料の直径を太くすると白血球除去機能が損なわれてしまう点である。白血球除去機能が低下すれば、白血球による輸血副作用のリスクが高まってしまい、安全上許容できるものではない。
【0011】
実際に溶出成分の低減に着目した例として、上記特許文献3では、白血球除去フィルター材に塗布するコートポリマーを精製して、低分子成分を除去することで、220~350nmの波長領域での最大吸光度を0.003程度まで低減できることを報告している。
しかしながら、特許文献3の実施例4に開示される白血球除去率は80.5%と大変低く、輸血用製剤として使用できる性能ではない。特許文献3の不織布の白血球除去機能を向上させるためには、使用する不織布の量を多くするか、不織布を構成する繊維の平均繊維直径を細くする必要がある。いずれの手段も前述の通り、繊維材料由来の溶出成分が大幅に上昇する方向にリスクが高まるため、実用化は難しい。
【0012】
本発明者は、不織布の比表面積と不織布抽出液中の最大吸光度との間に相対関係があることを確認した。具体的には、ポリブチレンテレフタレート不織布を用いた場合に、その平均繊維直径が太くなるに従い、比表面積が低下し、その結果、接液面積が低下するため、吸光度が低下することを確認した。
特筆すべきは、比表面積と吸光度がほぼ原点を通る比例関係にあるということである。一般に白血球除去機能はフィルター中の繊維材料の表面積に依存することが知られているが、同時に吸光度も表面積と正の比例関係にあるため、吸光度と白血球除去機能は正比例の関係にあり、単純な繊維材料の量や繊維直径の制御では吸光度低下と白血球除去機能の向上は両立しえないことがわかる。
とはいうものの、今後白血球除去フィルター市場の拡大が予想される中、安価なだけでなく、輸血副作用の低減、溶出物の低減の両観点から、従来より輸血製剤の安全性を向上させ、安心に使用されるフィルターの実現が望まれる。
【0013】
したがって、本発明は、有効性(白血球除去性能)と安全性(溶出物の量の抑制)とに優れた血液処理フィルターを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
改めて、本発明者は、ISO1135-4で不適合となったフィルターの水抽出液をLC/MS法で定性分析を行った結果、テレフタル酸骨格を有するモノマー成分及びオリゴマー成分が複数同定された。モノマー成分及びオリゴマー成分としては、例えば、以下の成分を挙げることができる。
【化1】

例えば、ポリブチレンテレフタレートを主成分とする繊維を有するフィルターの場合は、抽出液中にはテレフタル酸やテレフタル酸ブチルなどが検出された。これらの発生機序は不明であるが、おそらくは重縮合系ポリマーの重合時の未反応成分として残存した、又は繊維の紡糸時の熱分解、若しくは製品の滅菌処理時の加水分解により後発的に発生したものと推定される。
【0015】
本発明者は、鋭意検討した結果、種々の方法(具体的には、洗浄、低温紡糸、又は真空ベント処理)を採用することによって、血液処理フィルターに含まれるモノマー成分及びオリゴマー成分の量を低減できることを見出した。また、本発明者は、血液処理フィルターに含まれるモノマー成分及びオリゴマー成分の量は極めて微量であるために、その定量化が困難であるものの、モノマー成分及びオリゴマー成分が水溶液中で240~245nmに強い吸収を有することに着目し(例えば図4)、本波長域での吸光度を測定することで、代替的にモノマー成分及びオリゴマー成分を定量化できること(つまり、モノマー成分及びオリゴマー成分の量を、240~245nm領域での吸光度で表現できること)も見出した。
【0016】
特許文献3ではコートポリマー材の精製によりポリマーの水溶出成分を低減させる技術を開示しているため、本発明者は、一般的な繊維材料であるポリエチレンテレフタレート不織布由来の成分と、一般的な親水化ポリマーである2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート/ジメチルアミノエチルメタアクリレートの97:3共重合体が、それぞれUV波長域でどのような吸光度スペクトルを示すのかを確認したところ、250~320nmの領域の吸光度は繊維材料由来のオリゴマー成分が支配的であるのに対し、親水化ポリマー由来の成分による吸光は、より低波長域にシフトしていることを確認した。そのため、親水性ポリマーの設計や塗布量の調整をしても、繊維材料由来の不純物量を低減することはできない。
【0017】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
[1]
ポリエステル繊維を含む濾材を含む血液処理フィルターであって、
前記濾材の表面積が6.0m以上であり、
前記血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度が0.03以下である、
前記血液処理フィルター。
[2]
前記血液処理フィルターの通気圧力損失が、100~2000Paである、[1]に記載の血液処理フィルター。
[3]
前記血液処理フィルターの通気圧力損失が、400~1600Paである、[1]又は[2]に記載の血液処理フィルター。
[4]
5000個/μLの白血球濃度を有する、白血球を含有する液体400mLを濾過した場合に、下記式:
白血球除去性能=-log[(濾過後の白血球を含有する液体中の白血球濃度)/(濾過前の白血球を含有する液体中の白血球濃度)]
で表される白血球除去性能が3.3以上である、[1]~[3]のいずれかに記載の血液処理フィルター。
[5]
5000個/μLの白血球濃度を有する、白血球を含有する液体400mLを濾過した場合に、残存白血球数を10個未満にする、[1]~[3]のいずれかに記載の血液処理フィルター。
[6]
前記濾材の表面積が10.0m以下である、[1]~[5]のいずれかに記載の血液処理フィルター。
[7]
前記濾材の表面積が8.5m以下である、[1]~[6]のいずれかに記載の血液処理フィルター。
[8]
前記最大吸光度が、前記濾材の単位質量(g)あたり、0.003g-1以下である、[1]~[7]のいずれかに記載の血液処理フィルター。
[9]
前記ポリエステル繊維がコート層を有し、
前記コート層の質量が、前記ポリエステル繊維と前記コート層との合計質量(g)あたり、15mg/g以下である、[1]~[8]のいずれかに記載の血液処理フィルター。
[10]
[1]~[9]のいずれかに記載の血液処理フィルターに、白血球を含有する液体を通過させる工程を含む、白血球除去方法。
[11]
前記通過によって、下記式:
白血球残存率=(濾過後の白血球を含有する液体中の白血球濃度)/(濾過前の白血球を含有する液体中の白血球濃度)
で表される白血球残存率を10-3以下にする、[10]に記載の白血球除去方法。
[12]
前記通過によって、白血球を含有する液体400mL中の残存白血球数を10個未満にする、[10]に記載の白血球除去方法。
[13]
ポリエステル繊維を含む濾材を含む血液処理フィルターの製造方法であって、
前記ポリエステル繊維をエタノール水溶液で洗浄する工程を含み、
前記エタノール水溶液の濃度が12%(v/v)以上であり、
前記エタノール水溶液の温度が20℃以上である、前記製造方法。
[14]
ポリエステル繊維を含む濾材を含む血液処理フィルターの製造方法であって、
前記ポリエステル繊維を、260℃以下で紡糸する工程を含む、前記製造方法。
[15]
ポリエステル繊維を含む濾材を含む血液処理フィルターの製造方法であって、
前記ポリエステル繊維のポリエステル原料を真空ベント処理する工程を含む、前記製造方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、有効性(白血球除去性能)と安全性(溶出物の量の抑制)とに優れた血液処理フィルターを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態である血液処理フィルターの模式図である。
図2図1の血液処理フィルターの断面図である。
図3】血液処理フィルターの水抽出液を調製するための装置を示す。
図4】モノマー成分及びオリゴマー成分が240~245nmの領域で高い吸光度を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「本実施形態」という。)について、詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
以下、特に明記しない限り、「血液」の用語には、血液及び血液成分含有液体が含まれるものとする。血液成分含有液体としては、例えば、血液製剤が挙げられる。血液製剤としては、例えば、全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤等が挙げられる。
【0022】
<血液処理フィルター>
本実施形態の1つは、ポリエステル繊維を含む濾材を含む血液処理フィルターであって、
前記濾材の表面積が6.0m以上であり、
前記血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度が0.03以下である、前記血液処理フィルターに関する。
濾材の表面積を一定以上に維持しながら、血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度を0.03以下とする(モノマー成分及びオリゴマー成分の量を低減する)ことによって、有効性(白血球除去性能)と、安全性(溶出物の量の抑制)とを両立することができる。
【0023】
本実施形態の血液処理フィルターは、例えば、血液の入口部及び出口部を有する容器と、前記容器内の、前記入口部と前記出口部との間に配置された濾材とを含む。
【0024】
本実施形態の血液処理フィルターは、例えば、濾材と、該濾材を挟んで配置された入口部側容器材及び出口部側容器材とを含み、前記入口部側容器材及び前記出口部側容器材が、前記濾材の外縁部を挟み付けて把持するための把持部を有している構成とすることができる。
【0025】
図1はこのような血液処理フィルター(白血球除去フィルター)の一実施形態の模式図であり、図2図1のII-II線断面図である。
図1及び図2に示すように、血液処理フィルター10は、扁平型の容器1と、その内部に収容され実質的に乾燥状態である濾材5とを有している。濾材5を収容する容器1は、入口部3を有する入口部側容器材と、出口部4を有する出口部側容器材の2つの要素からなる。濾材5によって、扁平型の容器1内の空間は入口部側の空間7と出口部側の空間8とに仕切られている。
この血液処理フィルター10においては、入口部側容器材と出口部側容器材が濾材5を挟んで配置されており、2つの容器材が、各々の一部に設けられた把持部で濾材5の外縁部9を挟みつけて把持する構造をとる。
【0026】
また、一実施形態においては、濾材と容器とを溶着等により接合し、これにより濾材を容器に把持させた構造としてもよい。
【0027】
[容器]
容器の材質としては、例えば、硬質性樹脂、可撓性樹脂等が挙げられる。
硬質性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ホルムアルデヒド樹脂、尿素樹脂、ケイ素樹脂、ABS樹脂、ナイロン、ポリウレタン、ポリカーボネート、塩化ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、スチレン-ブタジエン共重合体などが挙げられ、好ましくは、熱的安定性や成形性が良好なポリカ―ボネートである。
可撓性樹脂は、濾材と熱的及び電気的に性質が類似したものが好ましい。可撓性樹脂としては、例えば、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリエチレン及びポリプロピレンのようなポリオレフィン、スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体の水添物、スチレン-イソプレン-スチレン共重合体またはその水添物等の熱可塑性エラストマー、及び、熱可塑性エラストマーとポリオレフィン、エチレン-エチルアクリレート等の軟化剤との混合物等が挙げられる。好ましくは、軟質ポリ塩化ビニル、ポリウレタン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリオレフィン、及び、これらを主成分とする熱可塑性エラストマーであり、より好ましくは軟質ポリ塩化ビニル、ポリオレフィンであり、更に好ましくは、軟質ポリ塩化ビニルである。軟質ポリ塩化ビニルは近年合成に使用される可塑剤の改良が進み、より安全性の高い可塑剤を使用した材料が市場に流通しているため、血液処理フィルターの容器として好適である。
【0028】
容器の形状は、例えば、濾材が平板状の場合には、その形状に合わせて四角形、六角形などの多角形や、円形、楕円形などの扁平形状とすることができる(例えば図1及び図2)。また、濾材が円筒状の場合には、容器も同様に円筒状であることが好ましい。
【0029】
[濾材]
濾材は、繊維を含むことが好ましい。繊維は不織布の形態であることが好ましい。不織布は1以上のフィルター層を形成していることが好ましい。濾材が複数のフィルター層を含む場合、複数のフィルター層はそれぞれ、同一であってもよいし、異なっていてもよい。
【0030】
濾材に含まれる繊維は、ポリエステル繊維であることが好ましい。特に限定されないが、ポリエステルは、テレフタル酸骨格を有するオリゴマーを含有することが好ましい。具体的には、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンテレフタレート(PET)などのポリエステル樹脂が好ましい。ポリエステル繊維は、一種の材料のみから形成されていてもよいし、複数種の材料から形成されていてもよい。
【0031】
例えば、図1及び2に示すように、濾材を、硬質性容器を構成する出口部側容器材及び入口部側容器材の2つのパートで挟んで把持することでフィルターを作製する場合であって、濾材が複数種の繊維を含む場合には、出口部側容器材に最も近い位置に配置されている繊維として結晶化度が高いものを用いると、蒸気加熱処理後の出口部側容器材の把持部による濾材の挟みつけをより強くすることができる。これにより、血液が濾材を貫通せずに把持部と濾材との間をすり抜けて入口部空間から出口部空間に直接流れ込む現象(サイドリーク現象)を抑制でき、白血球等除去能を向上させることができる。
【0032】
[コート層]
濾材に含まれる繊維は、その表面にコート層を有していてもよい。なお、本明細書において、コート層を有しない繊維を「繊維基材」とも称する。
【0033】
コート層は、例えば、非イオン性親水基を有するモノマー単位と塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位とを有するコポリマーを含むことが好ましい。塩基性含窒素官能基を有するコポリマーを用いることで、コート処理により繊維表面に陽性荷電を付与することができ、また、白血球との親和性を向上させることができる。
【0034】
非イオン性親水基を有するモノマー単位としては、例えば、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ビニルアルコール、(メタ)アクリルアミド、N-ビニルピロリドンなどに由来するモノマー単位が挙げられる。入手のしやすさ、重合時の扱いやすさ、血液を流した時の性能などの観点から、非イオン性親水基を有するモノマー単位は、好ましくは2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレートに由来するモノマー単位である。ビニルアルコールに由来するモノマー単位は、通常、酢酸ビニルの重合後、加水分解により生成する。
【0035】
塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位としては、例えば、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、3-ジメチルアミノ-2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸の誘導体;p-ジメチルアミノメチルスチレン、p-ジエチルアミノエチルスチレン等のスチレン誘導体;2-ビニルピリジン、4-ビニルピリジン、4-ビニルイミダゾール等の含窒素芳香族化合物のビニル誘導体;および上記のビニル化合物をハロゲン化アルキル等によって4級アンモニウム塩とした誘導体などに由来するモノマー単位が挙げられる。入手のしやすさ、重合時の扱いやすさ、血液を流した時の性能などの観点から、塩基性含窒素官能基を有するモノマー単位は、好ましくはジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、及びジメチルアミノエチル(メタ)アクリレートに由来するモノマー単位である。
【0036】
繊維基材にコート層を形成させる方法は特に限定されず、例えば、繊維基材をモノマー及び/又はポリマー(コポリマー)や必要に応じて溶剤等を含むコート液に浸漬し、その後適宜コート液を除去する方法(ディップ法)、コート液を浸漬させたロールに繊維基材を接触させることで塗布する方法(転写法)などが挙げられる。
【0037】
繊維は、その周囲表面部分に塩基性含窒素官能基を有することが好ましい。繊維の周囲表面部分とは、外界に露出している繊維の全ての部分を意味する。すなわち、繊維がコート層を有する場合には、周囲表面部分は、コート層の表面部分である。繊維がコート層を有しない場合には、周囲表面部分は、繊維基材の表面部分を意味する。繊維の周囲表面部分に塩基性含窒素官能基が存在すると、塩基性含窒素官能基が血液中で正電荷を有するため、繊維と血液中の白血球との親和性が高まり、白血球除去能を向上させることができる。
【0038】
繊維は、その周囲表面部分に非イオン性親水基を有していてもよい。繊維の周囲表面部分に非イオン性親水基が存在すると、繊維表面の血液への濡れ性が高まり、繊維の有効濾過面積(実際に濾過に使用される面積)が向上し、結果として濾過時間の低下と白血球等除去能の向上の両方の効果が得られる。
【0039】
繊維の周囲表面部分に非イオン性親水基や塩基性含窒素官能基を存在させる方法としては、例えば、コート層を有する繊維の場合には、非イオン性親水基や塩基性含窒素官能基を含むモノマー及び/又はポリマーを含むコート材を用いて繊維をコーティングする方法が挙げられ、コート層を有しない繊維の場合には、非イオン性親水基や塩基性含窒素官能基を含むモノマー及び/又はポリマーを含む繊維材料を用いて紡糸する方法等が挙げられる。
【0040】
繊維の周囲表面部分中の非イオン性親水基と塩基性含窒素官能基の物質量の合計に対する塩基性含窒素官能基の物質量の割合は、好ましくは0.2~50.0モルパーセント、より好ましくは0.25~10モルパーセント、さらに好ましくは1~5モルパーセント、最も好ましくは2~4モルパーセントである。塩基性含窒素官能基及び非イオン性親水基の含量は、NMR、IR、TOF-SIMS等による解析によって測定することができる。このように塩基性含窒素官能基と非イオン性親水基の割合を規定することで、血液に対する安定した濡れ性を確保すると共に、血小板などの血液成分による不要な目詰まりを抑制しながら、白血球等の除去を効率よく行うことが可能になる。
【0041】
繊維が、その周囲表面部分にコート層を含む場合、コート層を形成する塩基性含窒素官能基や非イオン性親水基などを含む成分は、ISO1135-4に規定される吸光度を高める原因物質となり得る。従って、吸光度を一定基準以下にするためには、繊維基材とコート層との合計1gあたりのコート層の質量を、好ましくは15mg以下、より好ましくは10mg/g以下、更に好ましくは5mg/g以下にする。
【0042】
コート層の質量は、例えば以下の手順により算出することができる。コート材を担持させる前の繊維基材を60℃に設定した乾燥機中で1時間乾燥させた後、デシケーター内に1時間放置した後に質量(Ag)を測定する。コート材を担持させた繊維基材を同様に60℃の乾燥機中で1時間乾燥させた後、デシケーター内に1時間置した後に質量(Bg)を測定する。コート層の質量は以下の算出式により算出される。
繊維基材とコート層との合計1gに対するコート層の質量(mg/g)=
(B-A)×1000/B
【0043】
[比表面積]
濾材に含まれる繊維基材又はコート層含有繊維の比表面積は、好ましくは0.6~2.5m/gであり、より好ましくは0.8~2.0m/gであり、更に好ましくは1.0~1.5m/gである。比表面積の測定方法は実施例に記載のとおりである。
【0044】
[濾材表面積]
濾材の表面積(繊維基材又はコート層含有繊維の総表面積)は、白血球除去性能を向上させる観点から、好ましくは6.0mであり、より好ましくは7.0m以上であり、さらに好ましくは8.0m以上である。血液処理フィルターが複数の濾材を含む場合、前記表面積は、複数の濾材の表面積の合計である。濾材の表面積が大きすぎる場合には、白血球除去性能が頭打ちになり、血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度(モノマー成分及びオリゴマー成分の量)だけが高くなってしまうため、濾材の表面積は、例えば、10.0m以下、9.0m以下、8.5m以下等とすることが好ましい。濾材の表面積の測定方法は実施例に記載のとおりである。
【0045】
[最大吸光度]
血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度は、好ましくは0.03以下であり、より好ましくは0.02以下であり、更に好ましくは0.01以下である。前記最大吸光度が0.03以下であることは、血液処理フィルターに含まれるモノマー成分及びオリゴマー成分の量が十分に少ないことを意味する。最大吸光度の測定方法は実施例に記載のとおりである。なお、実施例では3つの血液処理フィルターを使用して最大吸光度を測定しているが、上記数値は1つの血液処理フィルターに関するものである。
【0046】
白血球除去性能を維持したまま、溶出物の量を抑制する観点から、前記最大吸光度は、濾材の単位質量(g)(繊維基材又はコート層含有繊維の単位質量(g))あたり、好ましくは0.003g-1以下、より好ましくは0.002g-1以下、更に好ましくは0.001g-1以下である。
【0047】
[蒸発残留物]
血液処理フィルターの水抽出液に含まれる蒸発残留物の量は、当該フィルターからの溶出物の量を抑制する観点から、好ましくは1.7mg以下であり、より好ましくは0.8mg以下であり、更に好ましくは0.5mg以下である。蒸発残留物の測定方法は実施例に記載のとおりである。なお、実施例では3つの血液処理フィルターを使用して蒸発残留物を測定しているが、上記数値は1つの血液処理フィルターに関するものである。
【0048】
[平均繊維径]
濾材の平均繊維径は、好ましくは0.1~1.6μmであり、より好ましくは0.5~1.5μmであり、更に好ましくは0.9~1.4μmである。平均繊維径を1.6μm以下とすることにより白血球除去性能をより向上させることができる。
【0049】
平均繊維径は、以下の方法に従って求められる値をいう。すなわち、濾材を構成する1枚または複数枚の繊維状構造体から実質的に均一と認められる部分をサンプリングし、走査電子顕微鏡などを用いて、写真に撮る。サンプリングに際しては、繊維状構造体の有効濾過断面積部分を、1辺が0.5cmの正方形に区分し、その中から6ケ所をランダムサンプリングする。ランダムサンプリングするには、例えば上記各部分に番地を指定した後、乱数表を使うなどの方法で、必要ケ所の区分を選べば良い。またサンプリングした各区分について、3ケ所以上好ましくは5ケ所以上を拡大倍率2500倍で写真に撮る。サンプリングした各区分について中央部分及びその近傍の箇所の写真を撮っていき、その写真に撮られた繊維の合計本数が100本を超えるまで写真を撮る。測定した全ての繊維の直径の和を、繊維の数で割った値を平均繊維径とする。ここで直径とは、繊維軸に対して直角方向の繊維の幅をいう。但し、複数の繊維が重なり合っており、他の繊維の陰になってその幅が測定できない場合、また複数の繊維が溶融するなどして、太い繊維になっている場合、更に著しく直径の異なる繊維が混在している場合、等々の場合には、これらのデータは削除する。
【0050】
[通気圧力損失]
血液処理フィルターの通気圧力損失は、好ましくは100~2000Paであり、より好ましくは200~1800Pa又は300~2000Paであり、更に好ましくは400~1600Paである。通気圧力損失は、フィルターが持つ空気の流れに対する抵抗値を表す指標であり、これに基づき白血球除去能等の濾過性能を評価することができる。具体的には、通気圧力損失が高いと、白血球除去能が高くなる。通気圧力損失は、例えば濾材の繊維径を細くすることによって、高くすることができる。
【0051】
通気圧力損失は、フィルターに一定流量(3.0ml/分)の乾燥空気を流したときにフィルター中で発生する、空気の圧力損失(Pa)を測定することにより求めることができる。圧力損失は、例えば、コスモ社DPゲージ(型式:DP-320B)等を用いて測定することができる。
【0052】
[白血球除去能]
血液処理フィルターは、5000個/μLの白血球濃度を有する、白血球を含有する液体400mLを濾過した場合に、下記式で表される白血球除去性能が、好ましくは5.3以上、より好ましくは4.3以上、更に好ましくは3.3以上である。
白血球除去性能=-log[(濾過後の白血球を含有する液体中の白血球濃度)/(濾過前の白血球を含有する液体中の白血球濃度)]
【0053】
血液処理フィルターは、5000個/μLの白血球濃度を有する、白血球を含有する液体400mLを濾過した場合に、残存白血球数を、好ましくは10個(6Log)未満、より好ましくは105.8個(5.8Log)未満、更に好ましくは105.5個(5.5Log)未満、特に好ましくは105.3個(5.3Log)未満にすることができる。
【0054】
<血液処理フィルターの製造方法>
本実施形態の1つは、前記血液処理フィルターの製造方法に関する。濾材に含まれる繊維基材は、湿式法、乾式法のいずれによっても製造することができる。特に限定するものではないが、メルトブロー法を使用することが好ましい。
メルトブロー法においては、押出機内で溶融された溶融ポリマー流は、適当なフィルターによって濾過された後、メルトブローダイの溶融ポリマー導入部へ導かれ、その後オリフィス状ノズルから吐出される。それと同時に加熱エア導入部に導入された加熱気体を、メルトブローダイとリップにより形成された加熱エア噴出スリットへ導き、ここから噴出させて、前記の吐出された溶融ポリマーを細化して極細繊維を形成し、形成された極細繊維を積層させることにより繊維を得る。更に、熱サクションドラムや熱板、熱水、熱風ヒーターなどを用いて繊維を加熱処理することで、繊維の熱安定性を高める効果がある。これにより、繊維を用いた白血球除去フィルターを使用前に高温高圧蒸気により滅菌処理する場合に、フィルター内の繊維の収縮性を抑えて、フィルター自体の歪みや変形を抑制することができる。
【0055】
本実施形態に係る血液処理フィルターの製造方法において、血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度を0.03以下にするための工程(モノマー成分及びオリゴマー成分の量を低減するための工程)としては、例えば、以下の工程を挙げることができる。これらの工程は、単独で使用してもよいし、組み合わせて使用してもよい。
(1)洗浄工程
(2)低温条件下での紡糸工程
(3)真空ベント処理工程
【0056】
[洗浄工程]
洗浄工程は、濾材に含まれる繊維を洗浄することによって、血液処理フィルターから溶出しうる物質(モノマー成分及びオリゴマー成分)を予め除去する工程である。洗浄液としては、例えば、水、エタノール、これらの混合溶媒等を挙げることができ、繊維表面を親水化させる観点から、好ましくはエタノールと水との混合溶液(以下、「エタノール水溶液」という。)である。洗浄方法は特に限定されず、例えば、繊維を洗浄液に浸漬させること等が挙げられる。エタノールは可燃物質であるため、引火爆発抑制の観点から極力低いエタノール濃度で使用することが好ましい。
【0057】
エタノール水溶液の濃度は、洗浄効率の観点から、好ましくは12%(v/v)以上、より好ましくは20%(v/v)以上、更に好ましくは30%(v/v)以上、最も好ましくは40%(v/v)以上である。安全性を考慮すると、エタノール水溶液の濃度の上限は、例えば、75%(v/v)、65%(v/v)等としてもよい。
【0058】
エタノール水溶液の温度は、洗浄効率の観点から、好ましくは20℃以上、より好ましくは30℃以上、更に好ましくは40℃以上である。エタノール水溶液の温度の上限は、例えば、70℃、60℃等としてもよい。
【0059】
本発明者は、45%(v/v)エタノール水溶液を40℃に熱し、ここにPBT繊維を60分浸漬させることで、240~245nm領域での最大吸光度が約90%も低下することを見出している。一般にエタノール水溶液の濃度及び温度が高い方が吸光度の低下が大きくなること、及びエタノール水溶液の温度が、その濃度と比較して、吸光度の低下により寄与していることも見出している。これは、繊維に含まれるモノマー成分及びオリゴマー成分は温度依存的に溶解度が上昇することを示唆している。
【0060】
[低温条件紡糸工程]
低温条件紡糸工程とは、繊維原料(樹脂)の溶融温度を通常よりも下げた条件下で紡糸する工程である。溶融温度とは、樹脂を溶融紡糸する際に紡口から押し出す際の温度を指す。通常PBT樹脂であれば260~310℃程度となるが、この温度を低下させることで、樹脂の熱分解を抑制し、血液処理フィルターから溶出しうる物質(モノマー成分及びオリゴマー成分)の発生量を低減させることができる。なお、単に溶融温度を低下させると、樹脂の溶融粘度が低下するため、繊維の平均繊維直径が大きくなり表面積が低下する場合がある。その場合には、他のパラメータである加熱エアの圧力を上昇させることで細径化することができる。
【0061】
具体的には、低温条件紡糸工程は以下のように行うことができる。
繊維を溶融紡糸する際の通常のダイ温度を20~30℃低下させる。ここで、樹脂が固化することでショット(樹脂粒)が繊維に混入しやすくなるため、ショットが発生する手前で温度を止める。
必要に応じて、加熱エアの圧力を上昇させて、繊維の平均繊維直径を細くする。繊維径を測定しながら、通常紡糸した繊維と同等の平均繊維直径になるまで、加熱エアの圧力を上昇させる。
本発明者は、融点220℃のPBT樹脂を用い、280℃の溶融温度及び0.30MPaの加熱エア圧力の条件、並びに260℃の溶融温度及び0.40MPaの加熱エア圧力の条件、の2つの条件で同じ平均繊維直径の不織布を作製した。この場合に、溶融温度280℃の場合に比べて、溶融温度260℃の場合において、240~245nm領域での最大吸光度が約5%低下することが判明した。なお、本比較は、260℃条件及び280℃条件において、繊維自体の比表面積を同等とした上で行っている。
【0062】
溶融温度は、使用する樹脂の種類に応じて適宜調節されるが、好ましくは樹脂融点+20℃~樹脂融点+90℃、より好ましくは樹脂融点+30℃~樹脂融点+80℃、更に好ましくは樹脂融点+40℃~樹脂融点+70℃である。
【0063】
加熱エア圧力は、使用する樹脂の種類に応じて適宜調節されるが、好ましくは0.20~0.50MPa、より好ましくは0.22~0.45MPa、更に好ましくは0.25~0.40MPaである。
【0064】
[真空ベント処理工程]
真空ベント処理工程とは、紡糸に使用する直前の結晶化処理後の樹脂を押し出し機に通して融解しつつ、真空条件下で融解中の樹脂から放出される揮発成分を吸引、除去する工程である。設定温度は樹脂により最適化が必要であるが、温度はできるだけ高く設定することが好ましい。この工程により、血液処理フィルターから溶出しうる物質(モノマー成分及びオリゴマー成分)は気化するため、樹脂内の濃度が低下し、結果として繊維中のモノマー成分及びオリゴマー成分が低下し、240~245nm領域での最大吸光度を低下させることができる。
【0065】
具体的には、真空ベント処理工程は以下のように行うことができる。
乾燥後の樹脂をギアポンプにより押し出し機に投入する。この際の溶融温度は樹脂の融点+10℃以上で行う。
押し出し機内では、樹脂の融点以上に温度を設定し、樹脂を溶融させた状態で熱処理を行い、滞留中に機内の空気の抜気を行う。滞留時間は、押し出し機の構造と不織布の吐出量で一義的に決定されるが、30秒~5分間で設定することが好ましい。
【0066】
抜気の際は、揮発成分の吸引除去を効果的に行うために、真空度を高めることが望ましいが、少なくとも-0.01MPa以上の真空度で行う。好ましくは-0.03~-0.10MPa、より好ましくは-0.05~-0.10MPa、更に好ましくは-0.07~-0.10MPaである。
【0067】
溶融温度が低すぎると揮発成分の蒸気圧が低くなり、除去効果が低い。但し、溶融温度が高すぎると樹脂が焦げてしまい不織布に黒点が発生するため、好ましくない。そのため、溶融温度は、好ましくは樹脂融点+20℃~樹脂融点+90℃、より好ましくは樹脂融点+30℃~樹脂融点+80℃、更に好ましくは樹脂融点+40℃~樹脂融点+70℃である。
【0068】
本発明者が融点220℃のPBT樹脂を用い、255℃の処理温度、-0.05MPaの真空度、2分間の滞留時間で真空ベント処理を行い、不織布を作製した場合、真空度がない(機内の空気の吸引を行わない)場合に比べて、240~245nm領域での最大吸光度が約30%低下することが確認された。
【0069】
<白血球除去方法>
本実施形態の1つは、前記血液処理フィルターに白血球含有液を通過させ、白血球含有液から白血球を除去する工程を含む、白血球除去方法に関する。前記通過によって、白血球残存率を、好ましくは10-3以下、より好ましくは10-4以下、更に好ましくは10-5以下、特に好ましくは10-6以下にする。あるいは、前記通過によって、白血球含有液400mL中の残存白血球数を、好ましくは10個(6Log)未満、より好ましくは105.8個(5.8Log)未満、更に好ましくは105.5個(5.5Log)未満、特に好ましくは105.3個(5.3Log)未満にする。
【0070】
本明細書において、白血球含有液とは、白血球を含む体液や合成血液を総称するものであり、具体的には、全血、濃厚赤血球溶液、洗浄赤血球浮遊液、解凍赤血球濃厚液、合成血、乏血小板血漿(PPP)、多血小板血漿(PRP)、血漿、凍結血漿、血小板濃厚液およびバフィーコート(BC)などの、全血及び全血から調製して得られる単一もしくは複数種類の血液成分からなる液体、またはそれらの液体に抗凝固剤や保存液などが添加された溶液、もしくは全血製剤、赤血球製剤、血小板製剤、血漿製剤などのことである。
また、上記の液体を本実施形態の方法によって処理して得られる液体を白血球が除去された液体と称する。
【0071】
以下、白血球除去方法により白血球を除去し各血液製剤を調製する方法の一形態について説明する。
【0072】
(白血球除去全血製剤の調製)
採血された全血にCitrate Phosphate Dextrose(CPD)、Citrate Phosphate Dextrose Adenine-1(CPDA-1)、Citrate Phosphate-2-Dextrose(CP2D)、Acid Citrate Dextrose Formula-A(ACD-A)、Acid Citrate Dextrose Formula-B(ACD-B)、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤等を添加した全血製剤を用意し、その後、本実施形態の血液処理フィルターを用いてこの全血製剤から白血球を除去することにより白血球除去全血製剤を得ることができる。
【0073】
白血球除去全血製剤の調製においては、保存前白血球除去の場合、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された全血を採血後72時間以内、更に好ましくは24時間以内、特に好ましくは12時間以内、最も好ましくは8時間以内に室温下または冷蔵下にて血液処理フィルターを用いて白血球除去を行うことにより白血球除去全血製剤を得ることができる。保存後白血球除去の場合、室温下、冷蔵下または冷凍下にて保存された全血を、好ましくは使用前24時間以内に血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去全血製剤を得ることができる。
【0074】
(白血球除去赤血球製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA-1、CP2D、ACD-A、ACD-B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加する。各血液成分の分離方法は、全血から白血球を除去した後に遠心分離を行う場合と、全血を遠心分離した後に赤血球もしくは赤血球とBCから白血球を除去する場合がある。
【0075】
全血から白血球を除去した後に遠心分離を行う場合、白血球除去全血を遠心分離することにより白血球除去赤血球製剤を得ることができる。
【0076】
白血球除去前に全血を遠心分離する場合、遠心条件は、赤血球、PRPに分離される弱遠心条件と、赤血球、BC、PPPに分離される強遠心条件の2種類がある。必要に応じて全血から分離された赤血球、もしくはBCを含んだ赤血球に、SAGM、AS-1、AS-3、AS-5、MAPなどの保存液を添加後、白血球除去フィルターを用いて赤血球から白血球を除去することにより白血球除去赤血球製剤を得ることができる。
【0077】
白血球除去赤血球製剤調製においては、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された全血を採血後72時間以内、更に好ましくは48時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に遠心分離を行うことができる。
【0078】
保存前白血球除去の場合、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された赤血球製剤から採血後120時間以内、更に好ましくは72時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に室温下または冷蔵下にて血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去赤血球製剤を得ることができる。保存後白血球除去の場合、好ましくは室温下、冷蔵下または冷凍下にて保存された赤血球製剤から使用前24時間以内に血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去赤血球製剤を得ることができる。
【0079】
(白血球除去血小板製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA-1、CP2D、ACD-A、ACD-B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加する。
【0080】
各血液成分の分離方法は、全血から白血球を除去した後に遠心分離を行う場合と、全血を遠心分離した後にPRPもしくは血小板から白血球を除去する場合がある。
【0081】
全血から白血球を除去した後に遠心分離を行う場合、白血球除去全血を遠心分離することにより白血球除去血小板製剤を得ることができる。
【0082】
白血球除去前に全血を遠心分離する場合、遠心条件は、赤血球、PRPに分離される弱遠心条件と、赤血球、BC、PPPに分離される強遠心条件の2種類がある。弱遠心条件の場合、全血から分離されたPRPから血液処理フィルターにて白血球を除去した後に遠心分離により白血球除去血小板製剤を得るか、もしくはPRPを遠心分離して血小板とPPPを得た後、血液処理フィルターにて白血球を除去し白血球除去血小板製剤を得ることができる。強遠心条件の場合、全血から分離されたBCを一単位もしくは数~十数単位プールしたものに必要に応じて保存液、血漿などを添加して遠心分離を行うことにより血小板を得て、得られた血小板を血液処理フィルターにて白血球を除去することにより白血球除去血小板製剤とすることができる。
【0083】
白血球除去血小板製剤調製において、好ましくは室温下にて保存された全血を採血後24時間以内、更に好ましくは12時間以内、特に好ましくは8時間以内に遠心分離を行う。保存前白血球除去の場合、好ましくは室温下にて保存された血小板製剤を採血後120時間以内、更に好ましくは72時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に室温下にて血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去血小板製剤を得ることができる。保存後白血球除去の場合、好ましくは室温下、冷蔵下または冷凍下にて保存された血小板製剤から使用前24時間以内に血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去血小板製剤を得ることができる。
【0084】
(白血球除去血漿製剤の調製)
採血された全血にCPD、CPDA-1、CP2D、ACD-A、ACD-B、ヘパリンなどの保存液、抗凝固剤を添加する。
【0085】
各血液成分の分離方法は、全血から白血球を除去した後に遠心分離を行う場合と、全血を遠心分離した後にPPPもしくはPRPから白血球を除去する場合がある。
【0086】
全血を白血球除去した後に遠心分離を行う場合、白血球除去全血を遠心分離することにより白血球除去血漿製剤を得ることができる。
【0087】
白血球除去前に全血を遠心分離する場合、遠心条件は、赤血球、PRPに分離される弱遠心条件と、赤血球、BC、PPPに分離される強遠心条件の2種類がある。弱遠心条件の場合、PRPを血液処理フィルターにて白血球を除去した後に遠心分離により白血球除去血漿製剤を得るか、またはPRPからPPPと血小板に遠心分離した後に血液処理フィルターにて白血球を除去することにより白血球除去血漿製剤を得ることができる。強遠心条件の場合、PPPを血液処理フィルターにて白血球を除去することにより白血球除去血漿製剤を得ることができる。
【0088】
白血球除去血漿製剤調製においては、好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された全血を採血後72時間以内、更に好ましくは48時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に遠心分離を行うことができる。好ましくは室温下または冷蔵下にて保存された血漿製剤から採血後120時間以内、更に好ましくは72時間以内、特に好ましくは24時間以内、最も好ましくは12時間以内に室温下または冷蔵下にて血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去血漿製剤を得ることができる。保存後白血球除去の場合、好ましくは室温下または冷蔵下または冷凍下にて保存された血漿製剤から使用前24時間以内に血液処理フィルターを用いて白血球を除去することにより白血球除去血漿製剤を得ることができる。
【0089】
採血から白血球除去血液製剤を調製するまでの形態として、全血用容器に接続された採血針にて採血し、全血または遠心分離後の血液成分が入った容器と血液処理フィルターを接続して白血球除去を行う、もしくは少なくとも採血針と血液容器、血液処理フィルターが無菌的に接続された回路にて採血し、遠心分離前または遠心分離後に白血球除去を行う、もしくは自動採血装置により得られた血液成分の入った容器に血液処理フィルターを接続もしくはあらかじめ接続された血液処理フィルターにより白血球除去を行う、などいずれの形態で行われてもよいが、本実施形態はこれらの形態に限定されるものではない。また、自動成分採血装置にて全血を各成分に遠心分離し、必要に応じて保存液を添加した後、すぐに血液処理フィルターへ赤血球、BCを含んだ赤血球、BC、血小板、PRP、PPPのいずれかを通し、白血球を除去することにより白血球除去赤血球製剤もしくは白血球除去血小板製剤もしくは白血球除去血漿製剤を得てもよい。
【0090】
本実施形態において、白血球除去は、血液処理フィルターよりも高い位置に設置された白血球含有液の入った容器から、落差によって白血球含有血液がチューブを経由して血液処理フィルターに流れることによって行われてもよいし、また、ポンプなどの手段を用いて白血球含有血液を血液処理フィルターの入口側から加圧および/または血液処理フィルターの出口側から減圧して流すことによって行ってもよい。
【実施例
【0091】
以下、本発明を実施例に基づいて説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。血液処理フィルターの性能は、以下の方法によって測定した。
【0092】
<比表面積>
本明細書における比表面積とは、繊維基材又はコート層含有繊維1gあたりの表面積であり、吸着ガスをクリプトンとするBET吸着法で測定される値であり、島津製作所社製トライスターII3020装置を用い測定することが可能である。
具体的には、比表面積は下記の手順で測定される。
1)繊維を3.5cm幅で一定長さ切り出し、2枚重ねとする。繊維片2枚の質量が0.64~0.70gになるように長さを調整する。
2)繊維を巻いてセルの中に入れ、60℃で40分間乾燥処理を行い、その後窒素ガスを30秒間流してガス置換を行う。その後セル全体の質量を測定し、セル風袋の質量を差し引いて処理後繊維の質量を測定する。
3)空セルを用いたから運転後に、繊維を入れたセルを装置に取り付け、クリプトンガスを流して測定を行い、比表面積を算出する。
同じ質量の繊維を含む濾材を用いて血液を処理する場合、繊維の比表面積が大きいほど、細胞及び血漿蛋白等を吸着し得る面積が大きくなる。
【0093】
<濾材表面積>
濾材の表面積は、繊維基材又はコート層含有繊維の比表面積(m/g)×有効濾過部に使用される繊維の質量によって計算される。
具体的には、例えば、比表面積が1.5m/gであり、単位面積あたりの質量が40g/mである繊維を10枚重ねて、各繊維の有効濾過面積が45cmとなる大きさに裁断して濾材を作製した場合、濾材の表面積は以下のようになる。
繊維の比表面積1.5(m/g)×単位面積あたりの質量40(g/m)×10枚×有効濾過面積45cm/10000=2.7m
【0094】
<通気圧力損失>
通気圧力損失は、約3.0リットル/分の流速の空気を20~30秒、20~25℃の室温下で血液処理フィルターに通気した時の圧力損失をDPゲージを用いて測定した。
【0095】
<吸光度>
[ISO1135-4(2015)準拠溶出試験]
評価に用いる純水として、超純水精製システムMilli-Q(ミリポア社)を用いて作製したISO3696のGrade2に相当するElix水を250mL使用した。
ISO1135-4は輸血セット基準に求められる規格であるため、滅菌処理を想定して蒸気加熱処理を行った、可撓性容器で作製された血液処理フィルターを3つ準備した。図3に示すように、フィルターの入口部と出口部を直列に内径2.9mm、外径4.2mmの塩化ビニル製のチューブ10cmで接続し、さらに1つ目のフィルターの入口部を50cmのチューブで接続し、Elix水が循環するように電動式のポンプにチューブを通した後に、チューブの先をElix水250mLが入った三角フラスコの底に設置した。一方、3つ目のフィルターの出口部を同じく50cmのチューブで接続し、三角フラスコの入り口に固定した。最後に、三角フラスコを37℃の恒温槽に漬けて温度維持した。
電動式ポンプの流量を1L/hrに設定して循環を開始し、2時間経過した時点で入口側チューブを三角フラスコから取り出し、ポンプで回路中の液を三角フラスコに回収し、濾紙で濾過して水抽出液を得た。回収後の水抽出液を軽く振盪し、試験液として使用した。また、空試験液として、フィルターを接続せずチューブのみを連結させた回路で同じく2時間循環した後の液を回収して、濾紙で濾過して使用した。
なお、中国の国家規格(YY)では、ISO法と異なり350mLで循環抽出を行うほかは、抽出方法はISO1135-4と同じである。
【0096】
[UV測定]
UV測定は同じくISO1135-4のB.6章に記載の条件で行った。但し、測定範囲は低波長領域を測定するために、190-320nmに設定した。その他の測定条件は下記のとおりである。測定器は、紫外可視近赤外分光光度計(日本分光製、V-770 Spectrophotometer)を使用した。最初に空試験液のみでベースラインを作製し、その後の試験液のUV吸収値から差し引くことで試験液のUV吸収値を算出した。
【0097】
(測定条件)
・測定範囲 :190-320nm
・データ取り込み間隔 :1nm
・UV/Visバンド幅 :5.0nm
・NIRバンド幅 :20.0nm
・UV/Visレスポンス:0.06sec
・NIRレスポンス :0.06sec
・走査速度 :20nm/min
【0098】
(合否判定基準)
ISOの規定によれば、250~320nm領域で最大吸光度が0.1以下であることが必要であり(ISO1135-4の6.5及びB.6)、フィルター毎のバラつきを考慮すると、0.05以下であることが好ましい。なお、上記測定では、3つの血液処理フィルターを使用しているため、各フィルターあたりの最大吸光度は上記数値の1/3となる。
本発明において対象とするモノマー成分及びオリゴマー成分との関係では、240~245nm領域での最大吸光度を測定し、各フィルターあたりの最大吸光度が0.03以下であることが好ましい。
【0099】
<蒸発残留物>
蒸発残留物の測定は、以下の条件で行った。ISO1135-4の6.4に明記されている条件はそのまま参照した。
最初に容量74mL以上のガラス製秤量皿を105℃、1時間乾燥器で乾燥させ、1時間常温のデシケーターで冷却して、その後速やかに電子天秤(メトラー・トレド製)で質量を測定した。次に、上記<吸光度>の項目で得た濾過後の水抽出液をメスシリンダーで50mLを量り取り、質量測定後の秤量皿に入れて、沸騰したウォーターバスに入れて蒸発乾固するまで熱し、蒸発後にガラス製秤量皿を105℃、1時間乾燥器で乾燥させ、1時間常温のデシケーターで冷却して、その後速やかに電子天秤(メトラー・トレド製)で質量を測定した。ガラス製秤量皿の処理前後の質量差を測定した。同様に空試験液を用いて処理前後の質量差を測定した。試験液の質量差から空試験液での質量差を差し引いた値を、試験液の蒸発残留物量とした。
【0100】
(合否判定基準)
ISOの規定によれば、蒸発残留物は5mg以下である必要があり(ISO1135-4の6.4)、フィルター毎のバラつきを考慮すると、好ましくは2.5mg以下である。なお、中国の国家規格(YY)では、合否基準が2.0mg以下であることを考慮すると、蒸発残留物は1.5mg以下であることが更に好ましい。なお、上記測定では、3つの血液処理フィルターを使用しているため、各フィルターあたりの蒸発残留物は上記数値の1/3となる。
【0101】
<白血球除去能評価・濾過時間評価>
評価に用いる血液として、採血直後の血液400mLに対して抗凝固剤であるCPD溶液を56mL加えて混和し7時間静置した全血を用いた。以後、この血液評価用に調製された血液を濾過前血という。
但し、血液は輸血市場において、室温保存血と冷蔵保存血を用いる場合があるので、今回はより残存白血球数が高くなる室温保存血条件をワーストケースとして評価を行った。
【0102】
濾過前血が充填された血液バッグと蒸気加熱処理後の血液処理フィルターの入口部とを内径3mm、外径4.2mmの塩化ビニル製のチューブ40cmで接続した。さらに、血液処理フィルターの出口部と回収用血液バッグとを同じく内径3mm、外径4.2mmの塩化ビニル製チューブ85cmで接続した。その後、濾過前血を充填した血液バッグの上部から落差140cmにて濾過前血を血液処理フィルター内に流し、回収用血液バッグに流入する血液量が1.0g/分になるまでの濾過時間を計測した。
【0103】
さらに回収用血液バッグから血液(以後、濾過後血という)3mLを回収した。白血球除去能は、残存白血球数を求めることにより評価した。残存白血球数は、フローサイトメトリー法(装置:BECTON DICKINSON社製 FACSCanto)を用いて濾過後血の白血球数を測定し、下記の式に従い計算した。白血球数の測定は、各血液100μLをサンプリングし、ビーズ入りLeucocountキット(日本ベクトン・ディッキンソン社)を用いて行った。
残存白血球数=log[白血球濃度(個/μL)(濾過後血)]×血液量(mL)
【0104】
室温保存血条件において、残存白血球数が1×10個(6Log)未満あれば、実用上望ましい白血球除去フィルターといえる。残存白血球数がバッグ当たり1×10未満(6Log/Bag未満)となると重篤な副作用を防止することが可能となる。好ましくは5.8Log/Bag以下、より好ましくは5.5Log/Bag以下、更に好ましくは5.3Log/Bag以下である。血液は個体差が大きいため、残存白血球数(対数)は同一フィルター種でも正規分布を示すことがわかっており、凡そ標準偏差は0.20Log程度となっている。すなわち、5.8Log以下であれば1σ分のバラつき(65%)を考慮してより安全な血液製剤を作製でき、5.5Log以下であれば2σ、5.3Log以下であれば3σ分のバラつきを考慮できる。言い換えれば、5.3Logであれば、99.7%の高い血液適合率を考慮した製剤作製が可能で、残存白血球数に起因する輸血副作用のリスクを飛躍的に抑制することが可能となる。
【0105】
<血小板回収能評価>
白血球除去機能に加えて、有用な血液成分である血小板を回収することが求められる場合がある。この場合、濾過に供された血液製剤中の80%以上の血小板を回収できることが一般に要件とされる。そこで、下記の実施例、比較例では残存白血球数に加えて、血小板の回収率を参考情報として測定する。
血小板回収率=(濾過後血小板濃度×濾過後血液量)÷(濾過前血小板濃度×濾過前血液量)×100(%)
【0106】
[実施例1]
(フィルター層の調製)
ポリブチレンテレフタレート(PBT)をメルトブロー法で紡糸して繊維(繊維基材)を形成した。ここで、PBT樹脂の固有粘度は0.82(dL/g)、単孔吐出量は0.21(g/分)、吐出時の加熱エアの圧力は0.30(MPa)、紡糸時のダイ温度は280℃であった。
【0107】
紡糸後の繊維を40℃に加熱した45%(v/v)エタノール水溶液に60分間浸漬して、ゴムロールに挟んで0.2MPaの圧力で絞った。更にもう一度同じ処理を行い、繊維を60℃で16時間乾燥させた。
【0108】
2-ヒドロキシエチル メタアクリレート(以下「HEMA」と略称する)とジエチルアミノエチル メタアクリレート(以下「DEAEMA」と略称する)のコポリマーを通常の溶液ラジカル重合によって合成した。エタノール中のモノマー濃度1モル/Lで、開始剤としてアゾイソブチロニトリル(AIBN)1/200モルの存在下、60℃で8時間、重合反応を行なった。生成した親水性ポリマーを100%エタノール溶液に溶解させ、0.13%(wt/v)濃度のコート液を作製した。ここへ繊維を浸漬させ、ゴムロールで押ししぼって、吸収された余分なポリマー溶液を除去し、常温のドラフト内で乾燥させ、繊維の周囲表面部分をコートした繊維を作製した。
得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は2.0mg/g(繊維基材+コート層)であった。繊維の単位面積当たりの重量は92g/mとなり、比表面積は1.25m/gとなった。
【0109】
(血液処理フィルターの作製)
コート層含有繊維16枚を有効濾過面積45cmの軟質性容器に充填し、超音波溶着して血液処理フィルターを作製した。この血液処理フィルターを、115℃で59分間蒸気加熱処理した後、40℃で16時間真空乾燥させた。この場合に、濾材の表面積は92(g/m)×45(cm)/10000×16(枚)×1.25(m/g)=8.3mとなった。
【0110】
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.01となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.03、蒸発残留物量は0.6mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足した。
【0111】
更に、前記の方法で全血を用いた血液濾過試験を行った結果、残存白血球数は5.2Log/Bagとなり、良好な白血球除去能を示した。なお、参考までに血小板回収率は1%であった。
【0112】
[実施例2]
PBT繊維の紡糸時のダイ温度を280℃から260℃に低下させ、代わりにエア圧力を0.4MPaに上昇させ、エタノールによる洗浄処理を全く行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は1.6mg/g(繊維基材+コート層)であった。なお、繊維の重量は91g/mとなり、比表面積は1.23m/gとなった。濾材の表面積は8.2mとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.03となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.09、蒸発残留物量は1.2mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足した。一方、残存白血球数は5.2Log/Bagとなり、良好な白血球除去能を示した。なお、参考までに血小板回収率は1%であった。
【0113】
[実施例3]
PBT繊維の紡糸時に、押し出し機の内部に真空引きのベント設備を設置して吸引を行ったことと、エタノールによる洗浄処理を全く行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は1.9mg/g(繊維基材+コート層)であった。なお、繊維の重量は92g/mとなり、比表面積は1.2m/gとなった。濾材の表面積は8.0mとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.03となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.1、蒸発残留物量は1.2mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足した。一方、残存白血球数は5.3Log/Bagとなった。なお、参考までに血小板回収率は1%であった。
【0114】
[実施例4]
親水性ポリマーによるコート処理を行わなかったこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。繊維の単位面積当たりの重量は91.8g/mとなり、比表面積は1.26m/gとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.005となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.01、蒸発残留物量は0.2mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足した。一方、残存白血球数は5.8Log/Bagとなった。なお、参考までに血小板回収率は0.1%であった。
【0115】
[実施例5]
親水性ポリマーの濃度が1.50%(wt/v)であるコート液を作製したこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は16.0mg/g(繊維基材+コート層)であった。繊維の単位面積当たりの重量は93.3g/mとなり、比表面積は1.20m/gとなった。コート層の質量が多いため、コート材が繊維間に微細な膜を張ることで、繊維の表面積がわずかに低下したとみられる。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.03となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.08、蒸発残留物量は4.8mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足した。一方、残存白血球数は4.7Log/Bagとなった。なお、特筆すべきところとして、本フィルターは血小板回収率は89%となり、白血球除去と血小板回収の両立を達成していた。
【0116】
[比較例1]
10%(v/v)エタノール水溶液で洗浄処理を行ったこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は2.4mg/g(繊維基材+コート層)であった。繊維の単位面積当たりの重量は92g/mとなり、比表面積は1.25m/gとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.07となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.15、蒸発残留物量は0.8mgとなり、UV値がISO1135-4規格を満足しなかった。一方、残存白血球数は5.3Log/Bagとなった。なお、参考までに血小板回収率は1%であった。
【0117】
[比較例2]
PBT繊維のエタノールによる洗浄処理を全く行わなかったことと、繊維14枚を用いてフィルターを作製したこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。濾材の表面積は6.5mとなった。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は1.5mg/g(繊維基材+コート層)であった。繊維の単位面積当たりの重量は83g/mとなり、比表面積は1.25m/gとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.04となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.11、蒸発残留物量は1.8mgとなり、UV値がISO1135-4規格を満足しなかった。一方、残存白血球数は5.9Log/Bagとなった。なお、参考までに血小板回収率は1%であった。
【0118】
[比較例3]
繊維10枚を用いてフィルターを作製したこと以外は、実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。濾材の表面積は5.2mとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.007となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.02、蒸発残留物量は0.4mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足した。一方、残存白血球数は6.3Log/Bagと基準を満たさなかった。なお、参考までに血小板回収率は2%であった。
【0119】
[比較例4]
特許4565762号の実施例2に記載の繊維を作製した。なお、本願に記載の洗浄工程、低温条件紡糸工程、及び真空ベント処理工程は実施しなかった。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は155.0mg/g(繊維基材+コート層)であった。繊維の重量は40g/mであるため、実施例1のフィルターと繊維重量を揃えるため、37枚の繊維を用いて実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。繊維の比表面積は2.01m/gであるため、濾材の表面積は、13.4mとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.7となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は1.5、蒸発残留物量は80mgとなり、いずれもISO1135-4規格を大幅に逸脱し、満足しなかった。一方、残存白血球数は4.8Log/Bagと基準を満たした。なお、参考までに血小板回収率は91%であった。
ISO規格を満たさなかった理由は、濾材の表面積が高く、繊維由来成分が多く溶出し吸光度上昇したためと考える。また、コート層含有繊維1g中のコート層の質量が高いため、コート層のポリマーが多く溶出し、蒸発残留物量が上昇したと考えられる。
【0120】
[比較例5]
国際公開第2018/034213号の実施例1に記載の繊維を作製した。なお、本願に記載の洗浄工程、低温条件紡糸工程、及び真空ベント処理工程は実施しなかった。得られたコート層含有繊維1g中のコート層の質量は9.0mg/g(繊維基材+コート層)であった。繊維の重量は22g/mであるため、実施例1のフィルターと繊維重量を揃えるため、67枚の繊維を用いて実施例1と同じ方法でフィルターを作製した。繊維の比表面積は1.65m/gであるため、濾材の表面積は、10.9mとなった。
このフィルター3つを用いてISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.55となった。
また、250~320nmでの最大吸光度は1.2、蒸発残留物量は8mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足しなかった。一方、残存白血球数は5.1Log/Bagと基準を満たした。なお、参考までに血小板回収率は1%であった。
【0121】
[比較例6]
旭化成メディカル社の血小板製剤用のPLX-5B-SCDフィルターを使用して、ISO1135-4試験を行ったところ、試験液の単位フィルターあたりでの240~245nmの最大吸光度は0.05となった。未使用のフィルターを解体して測定したところ、フィルター内のコート層含有繊維1g中のコート層の質量は17.0mg/g(繊維基材+コート層)であった。濾材の質量は1.26g、表面積は1.6mとなった。
また、250~320nmでの最大吸光度は0.12、蒸発残留物量は28mgとなり、いずれもISO1135-4規格を満足しなかった。一方、残存白血球数は7.1Log/Bagと基準を満たさなかった。但し、血小板回収率は93%と高い回収率を示した。なお、残存白血球数が不合格となった理由は、PLX-5B-SCDが本来血小板製剤用途の製品であるところ、製剤の異なる全血を濾過したためと考えられる。
【0122】
【表1】

【表2】
【0123】
以上の結果から、血液処理フィルターの水抽出液の240~245nm領域での最大吸光度が0.03以下であり、且つフィルターの表面積を6.0m以上に調節することで、良好な白血球除去性能を満たしつつ、ISO1135-4の基準に適合することが分かった。
また、コート層は、白血球除去能を向上させる手段として好適であるが、親水性ポリマー自身が溶出物となり得るため、一定以下に制御することで蒸発残留物量をより低く制御できることも明らかになった。
加えて、比較例4及び6に示すように、コート量を多くする手段は血小板回収率を上昇させるために有効な手段であったが、比較例4及び6では蒸発残留物量も吸光度も高くなった。これは、コート量を多くすることで血液の親水性が向上し、血小板の繊維への吸着性が抑制されたためとみられる。一方で、ISO試験の際には繊維基材の水抽出液への浸漬性が向上し、繊維基材のモノマー成分及びオリゴマー成分の溶出を助長し、吸光度が高くなったと考えられる。ここで、実施例5では同じくコート量を上昇させて血小板回収率を上昇させているものの、不織布の洗浄処理を事前に行うことで、繊維基材からの溶出モノマー量及び溶出オリゴマー量を低減させ、吸光度を抑制せしめることも達成している。
【産業上の利用可能性】
【0124】
本実施形態に係る血液処理フィルターは、ISO規格の安全性に適合しつつ残存白血球数も低減できる効果を有する。これは輸血市場において血液の品質を向上させるメリットを生むことから、産業上の利用可能性を有すると考える。
【符号の説明】
【0125】
1…容器、3…入口部、4…出口部、5…濾材、7…入口部側空間、8…出口部側空間、9…濾材の外縁部、10…血液処理フィルター
図1
図2
図3
図4