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7277709マグネシアカーボン質耐火組成物およびマグネシアカーボン質れんがの製造方法。
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  • -マグネシアカーボン質耐火組成物およびマグネシアカーボン質れんがの製造方法。 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】マグネシアカーボン質耐火組成物およびマグネシアカーボン質れんがの製造方法。
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/04 20060101AFI20230512BHJP
   F27D 1/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C04B35/04
F27D1/00 N
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019015478
(22)【出願日】2019-01-31
(65)【公開番号】P2020121907
(43)【公開日】2020-08-13
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【弁理士】
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】平山 堅太郎
(72)【発明者】
【氏名】井上 一浩
(72)【発明者】
【氏名】村上 晃陽
(72)【発明者】
【氏名】冨谷 尚士
【審査官】山本 吾一
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-328378(JP,A)
【文献】特開平10-212155(JP,A)
【文献】特開2007-076980(JP,A)
【文献】特開2017-081810(JP,A)
【文献】特開2007-182337(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア原料とカーボン原料を含むマグネシアカーボン質耐火組成物であって、
前記マグネシア原料は5-3mm、3―1mm、1mm-および微粉を含み、
前記マグネシア原料の3-1mmは前記マグネシア原料とカーボン原料の混合物100質量%に対し17質量%以上36質量%以下であり、
前記マグネシア原料の微粉として、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布において粒子径10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90質量%以上であるマグネシア微粉のみを、前記マグネシア原料とカーボン原料の混合物100質量%の1~20質量%含み、
固定炭素分25質量%未満の還元澱粉糖化物または廃糖蜜を外掛け1~5質量%添加したマグネシアカーボン質耐火組成物。
【請求項2】
請求項1のマグネシアカーボン質耐火組成物を成形後熱処理して得られるマグネシアカーボン質不焼成れんがの製造方法。
【請求項3】
請求項1のマグネシアカーボン質耐火組成物を成形後熱処理し、さらに還元焼成して得られるマグネシアカーボン質焼成れんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マグネシアカーボン質耐火組成物およびマグネシアカーボン質れんがの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシアカーボン質耐火物は耐熱スポーリング性に優れており、鉄鋼精錬、例えば転炉や、溶鋼鍋スラグライン、真空脱ガス炉などの内張り材として広く使用されている。しかしその原料であるカーボンは熱伝導率が高いので、溶融金属の温度降下の原因となる。またカーボンは溶鋼汚染の原因ともなるため、近年はカーボン量を低減したマグネシアカーボン質耐火物が使用されるようになっている。
【0003】
特許文献1は、「MgO-Cれんが耐火物の低カーボン化は、れんが耐火物の耐スポーリング性を低下させる。」と指摘し、「粒径1μm以下の微細粒子同士の合成反応により、酸化物系ウィスカーを生成させたカーボン含有焼成れんが耐火物」を開示している。
【0004】
また、マグネシアカーボン質耐火物を成形してれんがに仕上げる工程で、加熱を必要とする。このバインダーとしてフェノール樹脂を用いると、前記の加熱工程で異臭が発生するところから、当該異臭を抑制する試みもなされている。すなわち、特許文献2は「異臭の分解ガスの発生が少ない炭素含有耐火物を提供」することを目的として、「澱粉糖化物及び/又は還元澱粉糖化物を使用した炭素含有耐火物」を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2017-81810号公報
【文献】特開平9-221370号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1は熱衝撃破壊を低減させることを目的としたものである。しかし実際には緩やかな温度変化であっても迫割れによる破壊が問題となることが多い。これはマグネシアカーボン質耐火物のカーボン含有量を低減すると熱膨張率の大きいマグネシア原料が相対的に増加するため、熱膨張に伴う内部応力を吸収できないためと考えられる。
【0007】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、クリープ特性を付与して迫割れを抑制したマグネシアカーボン耐火物とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、マグネシア原料とカーボン原料を含むマグネシアカーボン質耐火組成物である。前記マグネシア原料は5-3mm、3―1mm、1mm-および微粉を含み、前記マグネシア原料の3-1mmは前記マグネシア原料とカーボン原料の混合物100質量%に対し17質量%以上36質量%以下である。
前記マグネシア原料の微粉として、レーザー回折・散乱法により測定した粒度分布において粒子径10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90質量%以上であるマグネシア微粉のみを、前記マグネシア原料とカーボン原料の混合物100質量%の1~20質量%含む。
また、固定炭素分25質量%未満の有機バインダーを外掛け1~5質量%添加したしたものである。
【0009】
また、前記固定炭素分25質量%未満の有機バインダーは、還元澱粉糖化物または廃糖蜜を使用する。
前記のマグネシアカーボン質耐火組成物は、成形後熱処理することによって得られる不焼成れんがとすることができ、また、前記成形熱処理の後、更に還元焼成することによって得られる還元焼成れんがとすることができる。
【発明の効果】
【0010】
上記したように、本発明は、マグネシア原料とカーボン原料の混合物に、特定の粒径のマグネシア微粉を特定量含むようにし、更に、特定の有機バインダーを併用しているので、マグネシアカーボン質耐火物にクリープ性が付与され、迫割れ等の機械的スポーリングが低減する。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】マグネシア微粉の粒度分布の一例を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<原則>
一般にクリープ性の低い材料ほど変形性に乏しいので、周囲に拘束された状態では熱膨張に伴う内部応力の発生により迫割れ等による損傷が発生しやすい。マグネシアカーボン質耐火物は、高温でクリープ変形しにくいが、これにクリープ性が付与されれば、迫割れ等による損傷が低減できることになる。
【0013】
以下に実施例を以って説明するように、マグネシアカーボン質耐火組成物にクリープ性を付与するためには、マグネシア原料とカーボン原料の混合物に特定の粒径のマグネシア微粉を特定量含み、加えてバインダーとして特定の有機バインダーを併用することにより実現できることが確認された。
【0014】
<組成>
[マグネシア微粉]
上記マグネシア微粉は、レーザー回折・散乱法による粒度分布測定結果において、10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90%以上のものとする。10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90%未満であるとクリープ性が得られない。
【0015】
本発明に使用できるマグネシア微粉の粒度分布の一例を図1に示す。図1において、横軸は粒子径(対数目盛)で縦軸は相対粒子量(体積基準)である。前記マグネシア微粉は、マグネシア原料とカーボン原料の混合物100質量%のうち、1~20質量%含有することができる。前記マグネシア微粉が1質量%未満ではクリープ性が得られず、20質量%を超えると成形性が悪くなるため好ましくない。より好ましくは3~10質量%の範囲である。
【0016】
尚、当該粒度分布の測定は島津製作所製レーザ回折式粒子径分布測定装置SALD-2200("SALD"は登録商標)を使用した。
【0017】
[有機バインダー]
前記マグネシア微粉を含むマグネシア原料、カーボン原料を主原料とする耐火物原料をれんがに成型するときに、バインダーを必要とする。当該バインダーとして、固定炭素分25質量%未満の有機バインダーを前記マグネシア原料とカーボン原料の混合物に対して外掛け1~5質量%添加する。
【0018】
当該有機バインダーの固定炭素分が25質量%以上であるとクリープ性が得られず好ましくない。また、当該有機バインダーの添加量が前記混合物に対して、外掛けで1質量%未満であると、バインダーとしての機能を果たせない。また、5質量%を超えると成形時に金型に付着し成形性が悪化するため好ましくない。
【0019】
固定炭素分が25質量%未満の有機バインダーとして、還元澱粉糖化物(還元水あめ)および/または廃糖蜜を使用することができる。還元澱粉糖化物(還元水あめ)は、水あめを水素添加することで製造される糖アルコールの一種である。また、廃糖蜜は、砂糖を精製する時に発生する、糖分以外の成分も含んだ粘状で黒褐色の液体である。いずれもマグネシアカーボン質耐火物の結合剤として機能する。
【0020】
当該バインダーとして固定炭素分が25質量%未満のフェノール樹脂も使用できるが、還元澱粉糖化物または廃糖蜜は一般的なフェノール樹脂よりも固定炭素分が低いので好適に使用できるとともに、フェノール樹脂は加熱処理時に異臭を放つ欠点がある。
【0021】
なお本発明で規定する固定炭素分は、JIS K2425:2006(クレオソート油,加工タール及びタールピッチ試験方法)を準用して測定したものとする。
【0022】
[マグネシア原料]
本発明に使用するマグネシア原料の種類は特に限定されない。例えば、供給源による分類では天然マグネシア、海水マグネシアがあり、処理方法として焼結マグネシアクリンカー、電融マグネシアクリンカーがあるが、それらのいずれも使用することができる。なお、極めて高い耐用性が要求される場合は、結晶粒径の大きい、高純度の電融マグネシアを使用することが好ましい。
【0023】
[カーボン原料]
カーボン原料は、例えば、鱗状黒鉛、土状黒鉛、カーボンブラック、無煙炭、人造黒鉛などが使用可能であり、これらを単独、あるいは2種以上を組み合わせて使用できる。マグネシア原料とカーボン原料の比率は、マグネシアカーボン耐火物の用途によって適宜選択できるが、通常はマグネシア原料とカーボン原料の合計に対し、カーボン原料が1~20質量%が好ましい。カーボン原料が1質量%未満では耐スポーリング性が低下し、20質量%を超えると耐食性が低下する。
【0024】
[酸化防止剤]
酸化防止材として、金属Al、金属Siなどの金属粉、Al-Mg、Fe-Siなどの合金粉、B4CやBN、SiCのような非金属粉の1種または2種以上を配合することもできる。酸化防止材の配合量(合量)は、外掛けで5質量%以下、好ましくは4質量%以下の範囲内である。酸化防止材の配合量が5質量%を超えると、加熱後の弾性率が高くなり、耐スポーリング性が著しく低下するために好ましくない。
【0025】
[成形・熱処理]
上記の耐火組成物を原料としたマグネシアカーボン質れんがの製造方法は、特に限定されるものではなく、例えば、配合された原料を一括あるいは分割して、混合機もしくは混練機により混合及び混練する。
【0026】
混合もしくは混練時間は、原料の種類、配合量、結合材の種類、温度、混合機もしくは混練機の種類や大きさによって異なるが、通常数分から数時間である。
【0027】
前記混練物は、プレス成形機等によって成形することができる。プレス成形機による成形圧力や締め回数は、成形されるれんがの大きさ、原料の種類、配合量、結合材の種類、温度、成形機の種類や大きさによって異なるが、成形圧力は通常20~300MPaであり、締め回数は1回から十数回である。
【0028】
上記のようにマグネシアカーボン質耐火組成物を、成形後に熱処理することでれんがとしての強度を得ることができる。熱処理条件はれんがのサイズによって適宜選択できるが、一般的には200~500℃で12~36時間程度である。
【0029】
上記のように熱処理したマグネシアカーボン質れんがは、本発明の特性を損なわない範囲で、必要に応じ1000℃前後の還元雰囲気下で焼成し、さらにピッチ等の有機物を含浸処理することもできる。還元焼成、ピッチ等の有機物含浸の方法は、特に限定されるものではなく、常用される方法を採用することができる
【実施例
【0030】
以下に本発明の実施例・比較例について説明する。
【0031】
表1、2、3に配合比率を示す。実施例1~8はレーザー回折・散乱法による粒度分布測定結果において、10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90%以上であるマグネシア微粉を1~20質量%使用するとともに、固定炭素分14質量%の還元水あめを2質量%使用したものである。
【0032】
また実施例9~12はレーザー回折・散乱法による粒度分布測定結果において、10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90%以上であるマグネシア微粉を7質量%使用するとともに、固定炭素分14質量%の還元水あめを1~5質量%使用したものである。
【0033】
さらに実施例13~17はレーザー回折・散乱法による粒度分布測定結果において、10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90%以上であるマグネシア微粉を7質量%使用するとともに、固定炭素分14質量%の廃糖蜜を1~5質量%使用したものである。
【0034】
比較例1、2は10μm以下の相対粒子量(体積基準)が90%以上であるマグネシア微粉の量が本発明の範囲を外れる例、比較例3、4は固定炭素分14質量%の還元水あめの量が本発明の範囲を外れる例、比較例5、6は固定炭素分14質量%の廃糖蜜の量が本発明の範囲を外れる例、比較例7は固定炭素分25質量%のフェノールレジンを使用し本発明の範囲を外れる例である。
【0035】
これらの配合比率に従って原料を調合し、高速ミキサーで混練、真空プレスを用いて長さ150mm、高さ75mm、幅60mmの直方体形状に成形した。成形後乾燥器を使用し、18時間で230℃まで昇温し、その後6h保持し試験片を得た。
【0036】
クリープ性は、JIS R2658(耐火物の圧縮クリープの試験方法)に準じて評価した。但し昇温時には載荷せず、1500℃に達した時点で2.0MPaの荷重を載荷し、3h保持後の変形率で評価した。変形率が1.5%以上であれば◎、0.7%以上1.5%未満であれば〇、0.7%より小さい場合は×と表示した。成形性は、問題なく成形できたものを〇、脱枠時にれんが表面がはがれたものを△、脱枠時稜線や角が崩れたものを×と評価した。
【0037】
【表1】
【0038】
【表2】
【0039】
【表3】
【0040】
以上の結果、実施例はいずれも比較例に対し総合評価で優れていることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0041】
本発明は上記のように、マグネシアカーボンれんがにクリープ性を持たせたので、迫割れ等の機械的スポーリングを低減することができることになる。
図1