(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】マグネシア・スピネル質耐火れんが
(51)【国際特許分類】
C04B 35/043 20060101AFI20230512BHJP
F27D 1/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C04B35/043 500
F27D1/00 N
(21)【出願番号】P 2019026247
(22)【出願日】2019-02-18
【審査請求日】2021-11-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000001971
【氏名又は名称】品川リフラクトリーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083172
【氏名又は名称】福井 豊明
(72)【発明者】
【氏名】伊賀棒 公一
(72)【発明者】
【氏名】竹村 一成
(72)【発明者】
【氏名】宮田 雄斗
【審査官】神▲崎▼ 賢一
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-171527(JP,A)
【文献】特開2017-137205(JP,A)
【文献】特開2000-281429(JP,A)
【文献】特開2015-67457(JP,A)
【文献】特開2007-145684(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/043
F27D 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシア・スピネル質焼成れんがであって、
主要鉱物相がペリクレースとアルミン酸マグネシウムスピネルであり、
化学組成がAl
2O
3;5~22質量%、CaO;2.5質量%未満(ゼロを含まず)、SiO
2;3.1~5質量%で、
残部にMgOと不可避不純物を含み、
CaOとSiO
2の質量比(CaO/SiO
2)が0.6未満、
であることを特徴とするマグネシア・スピネル質焼成れんが。
【請求項2】
請求項1に記載の組成を1400℃~2000℃で焼成することを特徴とするマグネシア・スピネル質焼成れんがの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鋼用精錬炉やセメントロータリーキルン、石灰キルン等各種窯炉に用いられるマグネシア・スピネル質耐火れんがに関する。
【背景技術】
【0002】
マグネシア・スピネル質耐火れんがは耐スポール性、容積安定性に優れており、セメントロータリーキルン等の各種窯炉に使用されている(特許文献1参照)。特許文献1のマグネシア・スピネル質耐火れんがは、高温での耐食性を低下させることなく熱間強度を高め、耐スポーリング性を向上することができる。しかし時として予想外に損耗が増大する場合があるが、その原因は明らかになっていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
予想外に損耗が増大したマグネシア・スピネル質耐火れんがを回収し詳細に検証した。その結果、浸潤したスラグ成分と耐火物中のCaOとSiO2が反応して生成したCa2SiO4が、相変態に伴って体積変化を生じることで粉化崩壊する、いわゆるダスティングを起こしたことが原因であると結論付けた。
【0005】
浸潤したスラグ成分と耐火物中のCaOやSiO2は焼結中にあるいは使用中にいくつかの鉱物を形成する。その中でもCa2SiO4は温度変化にともなってα相、β相、γ相などの多くの状態を呈し、高温からの冷却時に発生するβ相からγ相への転移は急激な体積膨張を伴う。このβ相からγ相への転移を抑制するには急冷することが有効であるが、耐火物を含む窯炉を急冷すると耐火物にスポールによる損傷が発生するので現実的な対応ではない。
【0006】
本発明は上記従来の事情に鑑みて提案されたものであって、れんがの組成を適正化することによってCa2SiO4の析出を阻害し、ダスティングを抑制し、損耗を低減したマグネシア・スピネル質耐火れんがを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、マグネシア・スピネル質焼成れんがであって、主要鉱物相がペリクレースとアルミン酸マグネシウムスピネルであり、化学組成がAl2O3;5~22質量%、CaO;2.5質量%未満(ゼロを含まず)、SiO2;1~5質量%残部にMgOと不可避不純物を含み、CaOとSiO2の質量比(CaO/SiO2)が0.44以上0.6未満である。
あるいは、本発明は、マグネシア・スピネル質焼成れんがであって、主要鉱物相がペリクレースとアルミン酸マグネシウムスピネルであり、化学組成がAl
2
O
3
;5~22質量%、CaO;1.0以上2.5質量%未満、SiO
2
;1~5質量%で、残部にMgOと不可避不純物を含み、CaOとSiO
2
の質量比(CaO/SiO
2
)が0.6未満とすることもできる。
更に、本発明は、マグネシア・スピネル質焼成れんがであって、主要鉱物相がペリクレースとアルミン酸マグネシウムスピネルであり、化学組成がAl
2
O
3
;5~22質量%、CaO;2.5質量%未満(ゼロを含まず)、SiO
2
;3.1~5質量%で、残部にMgOと不可避不純物を含み、CaOとSiO
2
の質量比(CaO/SiO
2
)が0.6未満とすることもできる。
【0008】
上記組成よりなる耐火原料を1400℃~2000℃で焼成することによって、マグネシア・スピネル質焼成れんがとすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、マグネシア・スピネル質れんが中に浸潤した液相成分からのCa2SiO4の析出を阻害し、ダスティングを抑制することによってマグネシア・スピネル質耐火れんがの損耗を低減することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<原理>
マグネシア・スピネル質耐火れんがに浸潤したスラグによってれんが成分が溶解するとスラグ成分は浸潤してきた時点から変化する。当該浸潤によるスラグ成分と耐火物成分の反応によるCa2SiO4の析出を阻害するためには浸潤したスラグ成分の組成をCa2SiO4の生成領域から変化させればよい。
【0011】
すなわち、マグネシア・スピネル質耐火れんが中のSiO2がスラグに溶解すると浸潤スラグのCaO/SiO2比率が低下して、Ca2SiO4生成領域から外れ、Ca2SiO4の析出を阻害する。
【0012】
具体的には、れんがの組成を特定の範囲に制御するとともに、れんが中のCaO/SiO2比率を質量比で0.6未満とすることで、れんがからのSiO2の溶出によって浸潤したスラグの組成がCa2SiO4の生成領域から外れ、ダスティングが大幅に抑制できることになる。
【0013】
[マグネシア原料]
前記マグネシア原料は市販されている天然マグネシア、焼結マグネシア、電融マグネシア等のマグネシアを主体としたものでMgO含有量が90質量%以上であればいずれを使用してもかまわない。その中でも、特に純度95質量%以上のものを使用することが好ましい。
【0014】
[スピネル原料]
前記スピネル原料はMgOとAl2O3の合量が90質量%以上、かつAl2O3を40質量%以上含んでいれば焼結品、電融品共に使用可能である。MgOとAl2O3の合量が98質量%以上、かつAl2O3が40質量%以上がより好ましい。
【0015】
マグネシア・スピネルれんが中のAl2O3の含有量は5質量%~22質量%で好ましくは7~17質量%の範囲内である。Al2O3の含有量が5質量%未満では耐熱スポーリング性が低下するAl2O3の含有量が22質量%より多くなると耐食性が低下する。
【0016】
マグネシア・スピネルれんが中のAl2O3はスピネル原料から供給されるが、それ以外のAl2O3を含有する原料からも供給されてもかまわない。スピネル原料の他、アルミナ原料やSiO2の供給源にもなる合成ムライトや耐火粘土なども用いることができる。
【0017】
[CaO]
マグネシア・スピネルれんが中のCaOは上記原料中に不純物や化合物として含まれる場合や焼結助剤として供給される添加物中に含まれる場合を含む。CaOの含有量は2.5質量%未満(ゼロを含まず)であることが好ましい。より好ましくは2質量%以下である。2.5質量%以上では焼結が進行してしまい、耐熱スポーリング性の低下が起きるため好ましくない。
【0018】
[SiO2]
マグネシア・スピネルれんが中のSiO2は既に示した原料中の不純物や化合物に加え珪砂、珪石、シリカフラワー等を使用して調整できる。SiO2の含有量は1~5質量%未満で好ましくは1~4質量%未満である。5質量%以上では耐食性が低下する。また1質量%未満ではスラグ中に溶出するSiO2量が不足しダスティング抑制の効果が得られない。
【0019】
[CaO/SiO2]
マグネシア・スピネルれんが中のCaOとSiO2は質量比(CaO/SiO2)は0.6未満、好ましくは0.5未満である。0.6以上ではSiO2と同時に溶出するCaOが多くなるため、浸潤スラグのCaO/SiO2比が十分に低下せず、ダスティング抑制の効果が得られない。
【0020】
[バインダー]
本発明のバインダーには有機バインダー又は無機バインダーを配合できる。有機バインダーとしては、ピッチやフェノール樹脂、糖蜜、パルプ廃液、デキストリン、メチルセルロース類、ポリビニルアルコール等種々のバインダーを使用できる。
【0021】
[混練]
製造方法については、上述化学成分の含有量となるように配合された原料配合物を一括あるいは分割して、更に、必要に応じて水を添加して混合機又は混練機により混合及び混練する。混合もしくは混練時間は原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度(室温、原料やバインダー)、混合機もしくは混練機の種類や大きさによって異なるが、通常数分から数時間である。
【0022】
[成形]
混練物はプレス成形機等でれんがに成形される。プレス成形機による成形圧力や締め回数は成形されるれんがの大きさ原料の種類、配合量、バインダーの種類、温度(室温、原料やバインダー)、成形機の種類や大きさによって異なる。
【0023】
[焼成]
SiO2をれんが全体に拡散させるために焼成は1400℃以上2000℃以下が望ましく、より好ましくは1500℃以上1900℃未満である。1400℃以下ではSiO2が均一に拡散しないためダスティング抑制の効果が低下し。2000℃より高い温度で焼成すると焼成中にれんがの変形が起こるなどの問題が発生するため好ましくない。
【0024】
上記のように焼成は1400℃以上で行われる必要があるが、焼結装置、方式は温度が十分に調節可能で均質加熱ができる加熱炉であればどのような形式でも使用できる。
【実施例】
【0025】
<試験片の作成>
以下に実施例、比較例を示し、本発明の効果を詳細に説明する。表1は実施例、表2は比較例、表3は使用した原料の化学組成を示したものである。
【0026】
表1、表2に示す所定の配合割合に従い、各種原料を配合した。フェノール樹脂を合計原料重量の外掛で3質量%添加して練土を得た。フェノール樹脂は、樹脂分60%のノボラック型フェノール樹脂溶液である。練土は油圧プレスにて118MPa、打回数20回の条件で115mm×65mm×80mmの試料を成形した。試料はいずれも200℃で24h乾燥後、電気加熱式の箱型電気炉を用いて所定温度まで5℃/minで昇温、所定温度に到達後10h保持、その後5℃/minで500℃まで冷却した後自然放冷した。
【0027】
<粉化と耐食性試験>
粉化と耐食性試験は、酸素-プロパン加熱による回転ドラム侵食試験にて評価した。侵食剤として市販のワラストナイトと炭酸カルシウムを用いてCaOとSiO2が質量比で2:1となるように調整し、箱型電気炉にて1000℃で3h仮焼したものを用いた。試験温度は1700℃、試験時間は5hで侵食剤は1h毎に入れ替えた。試験後の試料は外観で粉化の判断を行い、粉化しなかったものを〇、一部粉化していたものを△、著しく粉化したものを×で表記した。未粉化の試料については長手方向に中央で切断し、侵食量を測定し実施例1を100とした溶損指数で表した。値が小さいほど耐食性が高いことを意味している。
【0028】
<耐熱スポーリング性>
耐熱スポーリング性は一辺が50mmの立方体に切り出した試料を箱型電気炉にて1300℃で15min加熱後、電気炉から取り出し常温で15min冷却する工程を繰り返し、亀裂が入るまでの回数で評価した。試験回数は最大20回繰り返し、20回でも亀裂が入らない試料の評価は20回以上として評価した。
【0029】
<評価結果>
実施例はいずれも試験後試料に粉化は見られず、耐食性も耐熱スポーリング性も良好である。
【0030】
比較例1、2はCaO/SiO2質量比が本発明範囲を超えるものであり、粉化が見られた。比較例3はれんが中のAl2O3の量が本発明範囲を下回るものであり、耐スポーリング性が低下した。比較例4はれんが中のAl2O3の量が本発明範囲を超えるものであり、耐食性が低下した。
【0031】
比較例5はれんが中のCaOの量が本発明範囲を超えるものであり、耐スポーリング性が低下した。比較例6はれんが中のSiO2の量が本発明範囲を下回るものであり、粉化が見られた。比較例7はれんが中のSiO2の量が本発明範囲を超えるものであり、耐食性が低下した。比較例8は焼成温度が本発明の範囲を下回るものであり、若干粉化がみられた。
【0032】
【0033】
【0034】