(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】酸化物超電導バルク導体、及び、その製造方法
(51)【国際特許分類】
C01G 1/00 20060101AFI20230512BHJP
C01G 3/00 20060101ALI20230512BHJP
H01B 12/04 20060101ALI20230512BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C01G1/00 S
C01G3/00
H01B12/04
H01B13/00 565D
(21)【出願番号】P 2019063419
(22)【出願日】2019-03-28
【審査請求日】2021-11-04
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】手嶋 英一
【審査官】廣野 知子
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-127381(JP,A)
【文献】特開2018-035015(JP,A)
【文献】特開平07-082049(JP,A)
【文献】特開2002-289049(JP,A)
【文献】特開平05-279028(JP,A)
【文献】特開平06-040775(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 1/00-23/08
H01B 12/04、13/00
C04B 37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
組成式がRE
1Ba
2Cu
3O
y(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.1を満足する。)で表され、結晶方位の揃ったRE
1Ba
2Cu
3O
y相中に、組成式がRE
2BaCuO
5で表されるRE
2BaCuO
5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体を用いて構成される酸化物超電導バルク導体であって、
前記酸化物超電導バルク導体は、複数のバルク本体部と、
隣り合う前記バルク本体部の間に配置され、前記バルク本体部に含有される銀の濃度より高い銀濃度を有する銀濃縮部と、を備え、
前記銀濃縮部の両側から測定される電気抵抗率が、温度77Kにおいて2.5×10
-9Ωm以下であることを特徴とする、酸化物超電導バルク導体。
但し、前記電気抵抗率が0Ωmであるものを除く。
【請求項2】
前記銀濃縮部を挟んで隣り合う前記バルク本体部の互いの結晶方位のずれが、結晶のab軸方向及びc軸方向の両方において、15°以内であることを特徴とする、請求項1に記載の酸化物超電導バルク導体。
【請求項3】
前記バルク本体部における銀濃度が、金属銀換算で7質量%未満であることを特徴とする、請求項1又は2に記載の酸化物超電導バルク導体。
【請求項4】
前記銀濃縮部の両側から測定される電気抵抗率が、温度77Kにおいて2.5×10
-12Ωm以下であることを特徴とする、請求項1~3のいずれか1項に記載の酸化物超電導バルク導体。
【請求項5】
棒状又は板状の形状を有する、請求項1~4のいずれか1項に記載の酸化物超電導バルク導体。
【請求項6】
組成式がRE
1Ba
2Cu
3O
y(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.1を満足する。)で表され、結晶方位の揃ったRE
1Ba
2Cu
3O
y相中に、組成式がRE
2BaCuO
5で表されるRE
2BaCuO
5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体の複数を、少なくとも一つの接合面で互いに接触させて配置する接触工程と、
前記接触工程後の複数の酸化物超電導バルク体を1233K以上かつ前記酸化物超電導バルク体の溶融温度より低い温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の複数の酸化物超電導バルク体を徐冷して、前記複数の酸化物超電導バルク体を接合する接合工程と、
前記接合工程で接合された酸化物超電導バルク体を酸素雰囲気中でアニールする工程、
を有し、
前記接触工程において、接触する前の隣り合う前記酸化物超電導バルク体の少なくともどちらか一方の接合面に、銀が成膜されていることを特徴とする、酸化物超電導バルク導体の製造方法。
【請求項7】
前記接触工程において、隣り合う前記酸化物超電導バルク体の互いの結晶方位のずれが15°以内となるように、前記酸化物超電導バルク体を接触させる、請求項6に記載の酸化物超電導バルク導体の製造方法。
【請求項8】
銀が成膜される前の前記酸化物超電導バルク体の銀含有量が、金属銀換算で7質量%未満であることを特徴とする、請求項6又は7に記載の酸化物超電導バルク導体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導バルク導体、及び、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気を通す導電体(電気伝導体又は単に導体)として、現在、銅が最も多く使用されている。これは、室温での電気抵抗率(体積抵抗率)が銀とほぼ同程度で他の物質に比べ最も低く、かつ比較的安価であることによる。導体の電気抵抗率を下げる方法には、導体を冷却する方法がある。銅の場合、液体窒素温度(77K)に冷却すると、電気抵抗率は、室温での電気抵抗率に対して約1/7の約2.5×10-9Ωmとなる。銅の導体としての形態は、線状あるいはテープ状の線材と、板状あるいは棒状のブスバー(導体棒)がある。銅製線材は、ケーブルや電磁石のコイル、同期モータの界磁巻線等に用いられる。一方、銅製ブスバーは、配電盤や制御盤の分岐導体、誘導モータの導体等に用いられる。大容量の電流用の導体としては、銅線よりも銅ブスバーの方が効率的な場合が多い。
【0003】
超電導材料は、臨界温度Tc以下に冷却する必要はあるものの、電気抵抗がほぼゼロであり、理想的な導体である。金属系超電導材料は、臨界温度Tcが低く、極低温への冷却の必要性から広く普及するに至っていない。そのため、臨界温度Tcが液体窒素温度以上と高く、冷却の負担が比較的小さい酸化物超電導材料が実用化されると、酸化物超電導材料が広く普及することが期待される。酸化物超電導体の材料形態としては、線材と塊状のバルク体がある。酸化物超電導線材は、銅製線材が用いられている応用分野に適用することができる。一方、酸化物超電導バルク体から板状あるいは棒状の導体を切り出せば、銅製ブスバーが用いられている応用分野に適用することができる。
【0004】
導体応用に用いる酸化物超電導バルク体としては、臨界温度Tcが高く、大電流を流せる超電導バルク体、すなわち臨界電流密度Jcが高い超電導バルク体が望ましい。RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体(REは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素である。)の臨界温度Tcは、90K程度と高い。しかしながら、酸化物(セラミックス)の一般的な製法である焼結法で作製されるRE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体は、多数の結晶粒からなる多結晶状の超電導バルク体であり、酸化物超電導バルク体が多結晶である場合には、内部に存在する多数の結晶粒界が超電導電流を阻害するため、臨界電流密度Jcは77Kで1.0×103A/cm2以下であり、低い値となる。
【0005】
臨界電流密度Jcを改善するために、例えば、以下の特許文献1で開示されているような、溶融結晶成長プロセスが開発されている。このような溶融結晶成長プロセスを適用することにより、結晶方位の揃ったRE1Ba2Cu3Oy(式中のyは、6.8≦y≦7.1を満足する。)中にRE2BaCuO5が分散した組織を有する、円柱状の酸化物超電導バルク体を得ることができる。内部に分散したRE2BaCuO5相は磁力線をピン止めする機能を有する。かかる酸化物超電導バルク体は、温度が77Kである1Tの磁場中において臨界電流密度Jcが1.0×104A/cm2以上という、磁場中でも高い特性を示す。ここで、「結晶方位の揃った」とは、内部に大傾角粒界を含まない単結晶状であることと同義である。
【0006】
銅製のブスバー代替等の導体とするためには、円柱状の酸化物超電導のバルク体から、棒状や板状の酸化物超電導バルク体に切り出し加工する必要があるが、上記のような単結晶状の酸化物超電導バルク体は、大型化するのが難しく、最大でも直径150mm程度の円柱状のものしか製造することができず、そこから切り出された導体も、大型化、長尺化することが難しいという問題があった。このような超電導バルク体を用いた導体の大型化、長尺化の問題を解決するために、ある程度の大きさや長さを有する超電導バルク体同士を接合することが考えられる。しかし、例えば、接着剤などで2つ以上の超電導バルク体を接合しても、外見上は接合しているように見えるが、超電導的に接合している訳ではない。超電導バルク体間にある接着剤の層には超電導電流が流れないため、外見上は接合しているように見えても、超電導電流が接合面を横切って流れることはできない。
【0007】
このような超電導接合体の問題を解決するための方法が、例えば特許文献2や3で開示されている。具体的には、結晶方位の揃った複数の超電導体からなる接合本体が、その接合面で接合本体よりも溶融温度(包晶温度)が低く、かつ接合本体と同じ結晶方位を有する超電導体からなる接合層を介して接合されていることを特徴とする超電導バルク接合体が開示されている。また、接合本体となる超電導バルク体同士をお互いの結晶方位を揃えて配置し、接合層を挟んだ状態で、接合本体の溶融温度よりは低く、かつ、接合層の溶融温度よりは高い温度まで加熱し、その後、接合層の溶融温度前後の温度領域にて徐冷することによって、溶融状態にある接合層部が両端の接合本体を種結晶として結晶成長することになり、最終的に両端の接合本体と接合層の全ての結晶方位が揃った状態で接合できることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平2-153803号公報
【文献】特開平6-40775号公報
【文献】特開平5-279028号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述したように、酸化物超電導バルク体から板状、棒状あるいは矩形状の導体を切り出せば、銅製ブスバーのような導体に用いることは可能である。しかしながら、結晶方位の揃った超電導バルク体は、溶融結晶成長プロセスで製造されるため、製造可能なサイズには実質的に限界があったため、従来は比較的長尺な導体応用に超電導バルク体を適用することは難しいという問題があった。
【0010】
接着剤などで2つ以上の超電導バルク体を接合すれば、比較的容易に長尺の導体を製造することは可能だが、超電導バルク体同士を接着剤を介して接合した導体では接合面を横切って超電導電流が流れないため、一般的な導体である銅に比べて、その電気抵抗率が著しく高くなっていた。
【0011】
一方、特許文献2や特許文献3の接合方法では、液体窒素温度(77K)での電気抵抗率は銅よりも小さくできるかもしれないが、接合本体よりも溶融温度が低い超電導体からなる接合層を接合本体とは別に予め製作して準備しておく必要があった。すなわち、第1の酸化物超電導体からなる接合本体と第2の酸化物超電導体からなる接合層をそれぞれ別々に製作する必要がありプロセスが煩雑であった。その上、超電導バルク接合体を製造するための熱処理工程のために電気炉内にて接合層を接合本体間に接触させて配置するが、熱処理工程中に接合層が接合本体からずれたり、落下したりすることがないようにする必要があることなども、製造するためのプロセスを煩雑にしていた。
【0012】
そこで、本発明では、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、製造プロセスが容易で、長尺な導体応用にも適用な可能な、液体窒素温度(77K)での電気抵抗率が銅よりも小さい、RE-Ba-Cu-O(REは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素)の組成を含む希土類系酸化物超電導バルク体を用いた酸化物超電導バルク導体とその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明の酸化物超電導バルク導体及びその製造方法は、以下のとおりである。
(1) 組成式がRE1Ba2Cu3Oy(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.1を満足する。)で表され、結晶方位の揃ったRE1Ba2Cu3Oy相中に、組成式がRE2BaCuO5で表されるRE2BaCuO5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体を用いて構成される酸化物超電導バルク導体であって、
前記酸化物超電導バルク導体は、
複数のバルク本体部と、
隣り合う前記バルク本体部の間に配置され、前記バルク本体部に含有される銀の濃度より高い銀濃度を有する銀濃縮部と、を備え、
前記銀濃縮部の両側から測定される電気抵抗率が、温度77Kにおいて2.5×10-9Ωm以下であることを特徴とする、酸化物超電導バルク導体。
但し、前記電気抵抗率が0Ωmであるものを除く。
(2) 前記銀濃縮部を挟んで隣り合う前記バルク本体部の互いの結晶方位のずれが、結晶のab軸方向及びc軸方向の両方において、15°以内であることを特徴とする、
(1)に記載の酸化物超電導バルク導体。
(3) 前記バルク本体部における銀濃度が、金属銀換算で7質量%未満であることを特徴とする、(1)又は(2)に記載の酸化物超電導バルク導体。
(4) 前記銀濃縮部の両側から測定される電気抵抗率が、温度77Kにおいて2.5×
10-12Ωm以下であることを特徴とする、(1)~(3)のいずれか1項に記載の酸化物超電導バルク導体。
(5) 棒状又は板状の形状を有する、(1)~(4)のいずれか1項に記載の酸化物超電導バルク導体。
(6) 組成式がRE1Ba2Cu3Oy(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素であり、yは、6.8≦y≦7.1を満足する。)で表され、結晶方位の揃ったRE1Ba2Cu3Oy相中に、組成式がRE2BaCuO5で表されるRE2BaCuO5相が分散した組織を有する酸化物超電導バルク体の複数を、少なくとも一つの接合面で互いに接触させて配置する接触工程と、
前記接触工程後の複数の酸化物超電導バルク体を1233K以上かつ前記酸化物超電導バルク体の溶融温度より低い温度で加熱する加熱工程と、
前記加熱工程後の複数の酸化物超電導バルク体を徐冷して、前記複数の酸化物超電導バルク体を接合する接合工程と、
前記接合工程で接合された酸化物超電導バルク体を酸素雰囲気中でアニールする工程、
を有し、
前記接触工程において、隣り合う前記酸化物超電導バルク体の少なくともどちらか一方の接合面に、銀が成膜されていることを特徴とする、酸化物超電導バルク導体の製造方法。
(7) 前記接触工程において、隣り合う前記酸化物超電導バルク体の互いの結晶方位のずれが15°以内となるように、前記酸化物超電導バルク体を接触させることを特徴とする、(6)に記載の酸化物超電導バルク導体の製造方法。
(8) 銀が成膜される前の前記酸化物超電導バルク体の銀含有量が、金属銀換算で7質量%未満であることを特徴とする、(6)又は(7)に記載の酸化物超電導バルク導体の製造方法。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、製造プロセスが容易で、長尺な導体応用にも適用な可能な、液体窒素温度(77K)での電気抵抗率が銅よりも小さい、RE-Ba-Cu-Oの組成を含む希土類系酸化物超電導バルク体を用いた酸化物超電導バルク導体とその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の一例を示す概念図である
【
図2】本発明の一実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の別の例を示す概念図である。
【
図3】酸化物超電導バルク体内に含有される銀の濃度分布の例及び銀濃縮部の幅を示す概念図である。
【
図4】酸化物超電導バルク導体の電気抵抗率の測定方法を示す概念図である。
【
図5】本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の製造方法を示す概念図である。
【
図6】本発明の実施例1における酸化物超電導バルク導体の態様を示す概念図である。
【
図7】通電用試験片の切り出し方法を示す概念図である。
【
図8】本発明の実施例2における酸化物超電導バルク導体の態様を示す概念図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、図中の各構成要素の比率、寸法は、実際の各構成要素の比率、寸法を表すものではない。また、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素を、同一の符号の後に異なるアルファベットを付して区別する場合もある。ただし、実質的に同一の機能構成を有する複数の構成要素の各々を特に区別する必要がない場合、同一符号のみを付する。また、図中の各構成要素の比率、寸法は、実際の各構成要素の比率、寸法を表すものではない。
【0017】
<酸化物超電導バルク体について>
まず、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の詳細な説明に先立ち、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体に用いられる酸化物超電導バルク体について説明する。本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体で用いる結晶方位の揃った酸化物超電導バルク体(以下、「超電導バルク体」ともいう。)は、RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導体である。より詳細には、本実施形態で用いる結晶方位の揃った酸化物超電導バルク体は、単結晶状のRE1Ba2Cu3O7-x相(123相)中に、RE2BaCuO5相(211相)等に代表される非超電導相が分散した組織を有するものである(以下、「QMG材料」ともいう。)。特に、本実施形態に係る酸化物超電導バルク体は、直径20μm以下の非超電導相が微細分散した組織を有するものであることが望ましい。ここで、「結晶方位の揃った」とは、超電導電流が大幅に低下する粒界である大傾角粒界を内部に含まない単結晶状であることを意味する。また、「単結晶状」とは、完全な単結晶のみを指すのではなく、単結晶中に小傾角粒界等のような実用に差し支えない欠陥が存在するものも包含するものとする。大傾角粒界とは、例えば、粒界を挟んで隣り合う領域の結晶方位の角度が15°よりも大きい粒界をいう。また、小傾角粒界とは、例えば、粒界を挟んで隣り合う領域の結晶方位の角度が15°以下である粒界をいう。123相及び211相における構成元素REは、Y及び希土類元素からなる群より選択される少なくとも1種以上から選択される。ただし、希土類元素としてCe、Pr、Pm及びTbを含有する場合には、超電導体とはならないため、Ce、Pr、Pm及びTbは、上記REからは除外される。すなわち、123相及び211相における構成元素REは、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luからなる希土類元素、Y及びこれら元素の組み合わせから選択される。ただし、La、Nd、Sm、Eu、又はGdの少なくともいずれかを含む123相は、1:2:3の化学量論組成から外れ、REのサイトにBaが一部置換した状態になることもある。また、非超電導相である211相においても、La、Ndは、Y、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb、Luとは幾分異なり、金属元素の比が非化学量論的組成であったり、結晶構造が異なったりすることが知られている。
【0018】
前述のBa元素の置換は、臨界温度を低下させる傾向がある。また、より酸素分圧の小さい環境においては、Ba元素の置換が抑制される傾向にある。
【0019】
このような単結晶状の酸化物超電導バルク体は、セラミックスの一般的な製法である焼結法ではなく、以下で詳述するような、焼結温度よりも高い溶融温度以上に成形体を昇温して半溶融状態にした後、徐冷中に結晶成長させるという、溶融結晶成長法で製造される。
【0020】
123相は、以下に示すような、211相と、BaとCuとの複合酸化物からなる液相との包晶反応により生成する。
211相+液相(BaとCuの複合酸化物)→123相
【0021】
そして、この包晶反応により、123相が生成する温度(Tf:123相生成温度)は、ほぼRE元素のイオン半径に関連し、RE元素のイオン半径の減少に伴いTfも低くなる。また、低酸素雰囲気及びAg含有に伴い、Tfは低下する傾向にある。
【0022】
単結晶状の123相中に211相が微細分散した材料は、123相が結晶成長する際、未反応の211粒が123相中に取り残されるためにできる。即ち、上記バルク材は、以下に示す反応により生成する。
211相+液相(BaとCuの複合酸化物)→123相+211相
【0023】
QMG材料中の211相の微細分散は、臨界電流密度Jc向上の観点から、極めて重要である。QMG材料中には、上記のような構成元素に加えて、Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量に含有することも可能である。Pt、Rh又はCeの少なくとも一つを微量に含有することで、半溶融状態(すなわち、211相と液相とからなる状態)での211相の粒成長が抑制され、結果的に、QMG材料中の211相の粒径を約1μm程度に微細化することができる。これらの元素の含有量は、微細化効果が現れる量が含有されることが好ましい。また、材料コストの観点から、これらの元素の含有量は、例えば、それぞれ、Pt:0.2~2.0質量%、Rh:0.01~0.5質量%、Ce:0.5~2.0質量%であることが好ましい。QMG材料が含有するPt、Rh及びCeは、123相中に一部固溶する。また、QMG材料が含有するPt、Rh及びCeのうち、固溶できなかった残分は、BaやCuとの複合酸化物を形成し、材料中に点在することになる。QMG材料は、バルク体全体として、4回回転対称性の結晶構造を有している。
【0024】
ここで、123相中の211相の割合は、臨界電流密度Jcの特性及び機械強度の観点から、例えば、5~35体積%であることが望ましい。更に好ましくは、15体積%以上30体積%以下である。また、超電導バルク体中には、50~500μm程度のボイド(気泡)が5~20体積%程度存在することが一般的である。更に、超電導バルク体中に、上記のような元素に加えてAgを更に含有することも可能である。Agを更に含有した場合、超電導バルク体は、Agの含有量に応じて、粒径が1~500μm程度のAg又はAg化合物を0体積%超25体積%以下含むようになる。
【0025】
また、結晶成長後のバルク体は、酸素欠損量(x)が0.5~0.8程度となることで、半導体的あるいは絶縁材料的な抵抗率の温度変化を示す。このような結晶成長後のバルク体を、各RE系に応じて623K~873Kの温度で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールすることにより、酸素がバルク体中に取り込まれ、酸素欠損量(x)は、0.2以下、すなわち酸素量y(=7-x)は、6.8以上となり、良好な超電導特性を示す。このようなアニールが行われることにより、結晶成長後のバルク体は、酸化物超電導バルク体となる。このとき、超電導相中には、双晶構造が生成する。しかしながら、このような双晶構造も含め、本明細書においては、「単結晶状」と称することとする。
【0026】
また、結晶成長後のバルク体を、導体として利用するには、結晶成長後の酸化物超電導バルク体を、棒状又は板状といった所定の形状に加工した上で、上記のような酸化物超電導バルク体とするための酸素アニールを行うことが求められる。ここまで、酸化物超電導バルク体について説明した。
【0027】
<本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体及びその製造方法の詳細な説明>
以下では、本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク導体及びその製造方法について、図に沿って説明する。
【0028】
図1は、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の一例を示す概念図である。本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体1は、酸化物超電導バルク体100を用いて構成されており、以下の2つの部位を備える。すなわち、複数のバルク本体部10と、隣り合うバルク本体部10の間に配置され、前記バルク本体部10に含有される銀の濃度より高い銀濃度を有する銀濃縮部11とを備える。酸化物超電導バルク体100は、組成式がRE
1Ba
2Cu
3O
y(式中のREは、Y、La、Nd、Sm、Eu、Gd、Dy、Ho、Er、Tm、Yb及びLuからなる群から選択される1種又は2種以上の元素、6.8≦y≦7.2)で表され、結晶方位の揃ったRE
1Ba
2Cu
3O
y相中に、組成式がRE
2BaCuO
5で表されるRE
2BaCuO
5相が分散した組織を有する。本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体1は、内部に銀の含有量の高い部分(以下、銀濃縮部11)を有し、この銀濃縮部11は、酸化物超電導バルク導体1の長手方向に1箇所又は2箇所以上存在する。
図2は本実施形態の別の例で、銀濃縮部11が複数個所存在する場合である。銀濃縮部11は酸化物超電導バルク体100を用いて構成されているが、銀濃縮部11の中央付近には面状の銀の薄い層が存在することもある。酸化物超電導バルク導体1の銀濃縮部11以外をバルク本体部10と称する。すなわち、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体1は、バルク本体部10と銀濃縮部11を備える。バルク本体部10と銀濃縮部11とは、ほぼ同じような組成であるが、銀の濃度が異なる。酸化物超電導バルク導体1の長手方向の銀濃度は、銀濃縮部11で高い一方、バルク本体部10では低く、ほぼ一定である。銀濃縮部11内での銀濃度は長手方向の中央付近が高く、両側のバルク本体部10に向かって銀濃度が低下する。銀濃縮部11における銀濃度の最大値は、酸化物超電導バルク導体1全体の平均的な銀濃度の1.5倍以上であることが好ましい。銀濃度は銀濃縮部11からバルク本体部10にかけて変化しており、その境界は明確ではないが、本実施形態では、銀濃縮部11の長手方向の長さ(銀濃縮部11の幅)は、次段落で述べる銀濃度のピーク値の半値幅で定義する。
【0029】
図3は、酸化物超電導バルク導体1内に含有される銀の濃度分布の例を示したものである。酸化物超電導バルク導体1内に含有される銀の濃度については、例えば、電子線マイクロアナライザー分析(EPMA分析)等の元素分析手法を活用すれば容易に測定することができる。EPMA分析では、電子線を対象物に照射する事により発生する特性X線の波長と強度から構成元素を分析するが、
図3に示す試料上の測定対象ラインlにわたって電子線を走査させることで、試料上の測定対象ラインl上での銀の濃度に対応した特性X線の強度分布を測定することによって、銀の濃度分布を調べることができる。すなわち、銀濃縮部11を含む測定試料を切り出し、酸化物超電導バルク導体1の長手方向に沿って銀の濃度分布を調べれば、銀濃縮部11の幅を見積もることができる。ここで銀濃縮部11の幅とは、酸化物超電導バルク導体1の長手方向の長さのことで、銀濃度のピーク高さの半値幅dとして定義する。ただし、銀濃度のピーク高さとは、銀濃度の絶対値ではなく、銀濃度の最大値と、銀濃縮部11の長手方向の中心部(銀濃度のピーク位置)から5mm以上離れた位置での銀濃度との差のことを言う。酸化物超電導バルク体100に含有された銀は、一部は酸化物超電導バルク体100の結晶内に固溶するが、固溶できなかった銀は酸化物超電導バルク体100内に1~100μm程度の粒子として分散する。銀の固溶量や銀粒子の分散状況を反映して、銀濃度の測定信号の大きさにばらつきが生じるが、平均的な値で考えればよい。銀濃縮部11の長手方向の中心部から5mm以上離れた位置での銀濃度も、
図3中の拡大図のようにばらつきがあるが、銀濃縮部11の幅を決めるためのベースとなる銀濃度なので、銀濃縮部11の長手方向の中心部から5mm以上離れた位置での銀濃度については1mm程度以上の長い距離にわたっての平均値をとることが望ましい。
【0030】
また、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体1では、銀濃縮部11を間に挟んだ箇所で液体窒素温度(77K)での電気抵抗率が、銅の電気抵抗率の値以下、すなわち2.5×10
-9Ωm以下である。言い換えると、銀濃縮部11の両側から測定される電気抵抗率が、温度77Kにおいて2.5×10
-9Ωm以下である。ここで、銀濃縮部11を間に挟んだ箇所の電気抵抗率は、
図4のように、いわゆる四端子法で測定できる。ここで、銀濃縮部11を間に挟んだ電圧測定箇所間の距離をL、銀濃縮部11の断面積をS、通電電流をI、測定電圧をVとすると、距離L間の平均化した電気抵抗率ρは、ρ=(V/I)×(S/L)で求めることができる。電気抵抗率ρの測定における電圧測定箇所間の距離Lは、銀濃縮部11の影響を避けるため、少なくとも5mm以上、できれば10mm程度設けることが好ましい。
【0031】
さらに、酸化物超電導バルク導体1において、銀濃縮部11を挟んで隣り合うバルク本体部10のお互いの結晶方位のずれが、結晶のab軸方向及びc軸方向の両方において、15°以内であり、又は、銀濃縮部11を挟んで隣り合うバルク本体部10の銀含有量が金属銀換算で7質量%未満であれば、銀濃縮部11を挟んで隣り合うバルク本体部10が超電導的に接合されることになり、電気抵抗率がさらに小さくなり、その上、導体としての電流容量も大きくなるためより好ましい。
【0032】
酸化物超電導バルク導体1の形状は、特段制限されないが、例えば、棒状又は板状であってもよい。酸化物超電導バルク導体1の形状を棒状又は板状とすることで、銅製ブスバーが用いられている応用分野に適用することができる。
【0033】
酸化物超電導バルク導体1は、次のようなプロセスで製造することができる。
図5のように、複数の酸化物超電導バルク体100の一面に、例えば、真空蒸着法やスパッタリング法等で銀を成膜し、銀が成膜した銀製膜面s同士をお互いに接触させて電気炉内に配置し、大気中で1233K以上で、かつ酸化物超電導バルク体100の溶融温度よりは低い温度に加熱して、その後、徐冷することによって、複数の酸化物超電導バルク体100を接合でき、一体化することができる。大気中で1223K以上に加熱することにより、成膜した銀が溶融し、溶融した銀の一部は酸化物超電導バルク体100の結晶内に固溶し、酸化物超電導バルク体100の銀が固溶した箇所も溶融する。その後、徐冷する過程で、溶融した銀や酸化物超電導バルク体100の溶融箇所が固化することで両側の酸化物超電導バルク体100が強固に接合する。なお、加熱時に酸化物超電導バルク体100の結晶内に固溶できなかった銀は、酸化物超電導バルク体100内に1~100μm程度の粒子として分散する。最終的に複数の酸化物超電導バルク体100が一体化した酸化物超電導バルク導体1では、最初に銀を成膜した箇所付近が銀濃縮部11に対応し、それ以外の箇所がバルク本体部10に対応する。
【0034】
ここで、「一体化」とは、複数の酸化物超電導バルク体100を何らかの処理を施して1つの導体にすることをいう。接着剤や半田等を用いても複数の酸化物超電導バルク体100を一体化することは可能であるが、上述したプロセスで製造すると、通常の半田付け等による接合層よりも非常に薄い銀成膜を介して一体化できるので、接着剤や半田等による一体化に比べて、77Kでの電気抵抗率の小さい導体を製造することができる。隣り合う酸化物超電導バルク体100同士を接触させる際、特に、接触させながら加熱する際に、両者に押し付け圧力を作用するようにすることは、より薄い銀成膜を介して一体化することになり、77Kでの電気抵抗率がより小さくなるので好ましい。さらに、隣り合う酸化物超電導バルク体100同士のお互いの結晶方位のずれを15°以内、又は、銀含有量を金属銀換算で7質量%未満にすると、徐冷する過程で隣り合う酸化物超電導バルク体100同士が超電導的に接合された状態で一体化することになり、77Kでの電気抵抗率が格段に小さくなるので好ましい。
【0035】
接合処理前に酸化物超電導バルク体100に成膜する銀の厚さは、0.1μm未満だと両側の酸化物超電導バルク体100同士の固着力が弱くなる場合がある。酸化物超電導バルク体100に成膜する銀の厚さが0.1μm以上だと十分な固着力が得られるので、0.1μm以上が好ましい。一方、銀の厚さが20μmより大きくなると、銀の成膜にかかる時間が増大する上、熱処理過程において酸化物超電導バルク体100の接合面から溶融した銀が溢れ出すおそれがある。酸化物超電導バルク体100に成膜する銀の厚さが20μm以下である場合、銀の製膜時間が短縮される上、接合面からの銀の溢れ出しが防止されるので、20μm以下が好ましい。より好ましくは、接合処理前に酸化物超電導バルク体100に成膜する銀の平均的な厚さが1μm以上、10μm以下である。銀の成膜厚さの平均値は、例えば、成膜前後の質量の差(成膜した銀の質量)、成膜面積、銀の比重から算出できる。
【0036】
図5では、隣り合う酸化物超電導バルク体100の接合する面の両方に銀を成膜する例を示したが、片側の酸化物超電導バルク体100の接合する面にだけ銀を成膜しても同様の効果を得ることができる。しかし、
図5のように、酸化物超電導バルク体100の接合する面の両方に銀を成膜した方が、銀濃縮部11を挟んで銀の濃度分布が対称的になり易いのでより好ましい。
【0037】
上述したように、複数の酸化物超電導バルク体100の接合する面に銀を成膜することによって、熱処理過程において、成膜した銀が溶融し、溶融した銀の一部が酸化物超電導バルク体100の結晶内に固溶し、結晶内に固溶できなかった銀は酸化物超電導バルク体100に銀粒子として分散するが、最終的に一体化されて形成された酸化物超電導バルク導体1には、銀の成膜面に対応した箇所に面状の銀濃縮部11が形成される。銀濃縮部11の幅は、事前の成膜銀の厚さや熱処理条件によって異なるが、成膜銀の厚さが20μm以下であれば、最終的な銀濃縮部11の幅はほぼ2mm以下になる。また、銀は一般的な導体材料である銅と同程度の電気抵抗率を有し、さらに銀は酸化物超電導バルク体100内に固溶しても超電導特性に悪影響を与えない。
【0038】
従って、銀濃縮部11を間に挟んだ箇所で、液体窒素温度(77K)での電気抵抗率が銅の電気抵抗率の値以下、すなわち2.5×10-9Ωm以下になる。77Kでは酸化物超電導バルク体100の電気抵抗は実質的にゼロなので、銀濃縮部11を間に挟んだ箇所での電気抵抗は銀濃縮部11の電気抵抗に相当する。銀濃縮部11の大部分も、銀が固溶しているものの、酸化物超電導バルク体100と同じ超電導性を示し、77Kでの電気抵抗は実質的にゼロなので、平均化した電気抵抗率は2.5×10-9Ωm以下になる。さらに、次々の段落で述べるように、隣り合う酸化物超電導バルク体100同士を超電導的に接合できれば、77Kでの電気抵抗率を、1/1000の値、すなわち2.5×10-12Ωm以下にすることもできる。
【0039】
酸化物超電導バルク体100の接合される面の両方ともに銀を成膜しない状態で同様の熱処理を施しても、Ba-Cu-O相等の液相を介して両側の酸化物超電導バルク体100が接合されるかもしれないが、最終的に得られる一体化された酸化物超電導バルク体にはBa-Cu-O相等の液相が固化した電気絶縁的な性質を有する面状の層を内部に含むので、電気抵抗率が著しく高くなる。酸化物超電導バルク体100の接合する面に銀を成膜することは、Ba-Cu-O相等の液相を介する接合を防ぐことができる効果も有する。
【0040】
更に好ましくは、上述した酸化物超電導バルク導体1の製造方法において、接合する前の隣り合う酸化物超電導バルク体100同士のお互いの結晶方位のずれが15°以内であり、かつ、銀成膜面を挟んで隣り合う酸化物超電導バルク体100の銀含有量が金属銀換算で7質量%未満とすることである。その後の熱処理で酸化物超電導バルク体100に銀が固溶しても超電導特性に悪影響を及ぼさないが、酸化物超電導バルク体100の銀含有量が金属銀換算で7質量%までは、銀の含有量の増大に伴って、酸化物超電導バルク体100の溶融温度が低下する傾向にある。従って、接合する前の酸化物超電導バルク体100の銀含有量が金属銀換算で7質量%未満である場合には、熱処理過程において加熱する際に、銀が溶融し、酸化物超電導バルク体100に銀が固溶すれば、銀が固溶した箇所での銀の含有量が増大し、その箇所の溶融温度が低下することになり、その結果、酸化物超電導バルク体100の銀が固溶した箇所が溶融する。その後、熱処理過程において徐冷する際に、酸化物超電導バルク体100の溶融した箇所が再結晶化する。再結晶化させるためには、徐冷速度が2K/時間以下であることが好ましい。このとき、接合する前の隣り合う酸化物超電導バルク体100同士のお互いの結晶方位のずれが15°以内になるよう、結晶方位を揃えて配置してあれば、再結晶化する箇所の結晶方位も揃うことになり、一体化された酸化物超電導バルク導体1全体の結晶方位が揃うことになる。言い換えると、複数の酸化物超電導バルク体100が超電導的に接合されたことになる。その結果、銀濃縮部11を間に挟んだ箇所で液体窒素温度(77K)での平均化した電気抵抗率は実質ゼロであり、一般的な導体材料である銅の電気抵抗率の1/1000の値、すなわち2.5×10-12Ωm以下も可能になる。また、接合部において、一部に銀成膜が残っていたとしても、複数の酸化物超電導バルク体100同士が部分的にでも超電導的に接合されていれば、超電導的に接合された箇所に優先的に電流が流れるので、電気抵抗率は実質的にゼロになる。なお、接合する前の酸化物超電導バルク体100の銀含有量は、0質量%でも構わないが、接合後に形成されたバルク本体部10においては、銀濃縮部11に近い側は、銀が熱処理により拡散してくるため、0質量%を超えて存在することになる。
【0041】
さらに、銀濃縮部11の両側の酸化物超電導バルク体100の結晶方位がずれていると、銀濃縮部11を含む接合面が大傾角粒界のように超電導電流の阻害要因となるが、銀濃縮層の両側の酸化物超電導バルク体100の結晶方位が揃っていることによって、接合面を横切る臨界電流密度(Jc)の低下も小さい。すなわち、導体としての通電容量が大きくなるという効果もある。
【0042】
なお、RE-Ba-Cu-O系酸化物超電導バルク体では、結晶成長後に良好な超電導特性を発現させるために、各RE系に応じて623K~873Kの温度で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールするが、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体1においては、複数の酸化物超電導バルク体100を熱処理して最終的に一体化した酸化物超電導バルク体100に対して623K~873Kの温度で100時間程度、酸素雰囲気中においてアニールすることになる。酸化物超電導バルク体100の酸素アニール処理については、接合処理の前後のぞれぞれで行ってもよいが、接合処理時に1233K以上に加熱することになり、その温度では酸素アニールで導入した酸素は抜けてしまうので、プロセスを簡略化する点では接合前の酸素アニール処理はなくてもよい。
【0043】
以上、本発明の実施形態に係る酸化物超電導バルク導体及びその製造方法の種々の例について説明した。
【0044】
なお、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体は、
図1又は
図2に示した例に限定されない。すなわち、酸化物超電導バルク導体であって、酸化物超電導バルク導体が銀濃縮部を含み、その銀濃縮部を間に挟んだ箇所の77Kでの平均化した電気抵抗率の値が、銅の電気抵抗率の値、すなわち、2.5×10
-9Ωm以下であれば、酸化物超電導バルク導体の態様は特に限定されない。
【0045】
また、例えば、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の棒状又は板状の形状も、直方体状に限らず、円柱状や多角柱状でも構わない。更にまた、長手方向(通電方向)の長さが、その垂直方向の長さよりも小さくても構わない。
【0046】
本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体は、長尺な導体に適用可能であり、例えば、ブスバーとして適用可能である。
【実施例】
【0047】
以下に、実施例を示しながら、本発明の一実施形態について、具体的に説明する。なお、以下に示す実施例は、本発明のあくまでも一例であって、本発明が、下記の例に限定されるものではない。
【0048】
(実施例1)
本実施例では、
図6を用いて、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の有効性について説明する。
図6(a)は、2つの酸化物超電導バルク体を接合する面に銀を成膜して一体化する場合の例で、ここで試料Aと呼ぶ。
図6(b)は、2つの酸化物超電導バルク体の接合する面に銀を成膜しないで一体化する場合の例で、ここで試料Bと呼ぶ。
図6(c)は、2つの酸化物超電導バルク体の接合する面にエポキシ系接着剤(アラルダイト(登録商標))を塗布して一体化する場合の例で、ここで試料Cと呼ぶ。
【0049】
まず、試料A~試料Cを構成する直方体状の酸化物超電導バルク体を切り出す母材である酸化物超電導バルク体の製造方法について述べる。市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに酸化セリウムを1質量%及び酸化銀を銀換算で6質量%加えた。この秤量粉を2時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。次に、金型を用いてこの仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1280K~1254Kの温度領域を100時間かけて徐冷して結晶成長させ、直径50mm、高さ15mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。そして、この直径50mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体から、4mm(W1)×10mm(L1)×5mm(T1)の直方体状試料を2個、結晶のc軸が5mm長の辺と平行になるように切り出した。製造された酸化物超電導バルク体の溶融温度は、1281Kであった。
【0050】
試料Aについては、4mm×5mmの面にスパッタリングで厚さ5μm程度の銀を成膜し、電気炉内に銀成膜面を接触させた状態で配置した。試料Bについては、銀成膜なしで電気炉内に4mm×5mmの面を接触させた状態で配置した。次に、試料Aと試料Bを1253Kまで加熱し、1223Kまで5K/時間で徐冷、その後は室温まで炉内で冷却して、一体化された試料Aと試料Bを得た。試料AについてEPMA分析によって銀濃縮部の幅を調べたところ、0.5mm程度であった。また、導体全体の平均化した銀濃度は6.1質量%で、銀濃縮部のピーク値は10質量%であった。最後に、一体化された試料Aと試料Bを酸素気流中において673Kで100時間熱処理した。一方、試料Cについては、直方体状試料の状態で酸素気流中において673Kで100時間熱処理した後に、接着剤で10mm×5mmの面を接触させて、一体化された試料Cを得た。
【0051】
各試料の電気抵抗率を調べるため、試料A~Cのそれぞれを、
図7のように接合面を挟んで、長さ(L)20mm、幅(W)2mm、厚さ(T)1mmの試験片を切り出した。各試料の接合面を挟んで、10mm離して電圧測定用リード線を半田付けで取り付けた状態で、液体窒素中に各試料を浸漬して、四端子法で電気抵抗率を測定した。試料Aの77Kでの電気抵抗率は、5×10
-11Ωmであり、銅の電気抵抗率よりも小さかった。一方、試料Bの77Kでの電気抵抗率は、5×10
-2Ωmであり、著しく電気抵抗率が増大した。さらに、試料Cでは、通電できなかったことから、電気抵抗率は絶縁体レベルの1×10
10Ωm以上と推定された。
【0052】
従って、本結果から、本発明の構成にすることにより、製造プロセスが容易で、長尺な導体応用にも適用な可能な、液体窒素温度(77K)での電気抵抗率が銅よりも小さい、RE-Ba-Cu-Oの組成を含む希土類系酸化物超電導バルク体を用いた酸化物超電導バルク導体を提供することができる。
【0053】
(実施例2)
本実施例では、
図8を用いて、本実施形態に係る酸化物超電導バルク導体の有効性について説明する。
図8(a)と
図8(b)は、どちらも2つの酸化物超電導バルク体の接合する面に銀を成膜して一体化する場合の例である。
図8(a)では、
図8(c)に示すように、2つの酸化物超電導バルク体の結晶方位を揃えた例で、ここで試料Dと呼ぶ。一方、
図8(b)は、
図8(d)に示すように、2つの酸化物超電導バルク体の結晶方位を45°ずらした例で、ここで試料Eと呼ぶ。
【0054】
まず、試料Dと試料Eを構成する直方体状の酸化物超電導バルク体を切り出す母材である酸化物超電導バルク体の製造方法について述べる。市販されている純度99.9質量%のガドリニウム(Gd)、バリウム(Ba)、銅(Cu)のそれぞれの酸化物の粉末を、Gd:Ba:Cu=1.6:2.3:3.3のモル比で秤量し、それに酸化セリウムを1質量%加えた。バルク本体の出発原料の銀濃度は0質量%である。この秤量粉を2時間かけて十分混練してから、大気中にて1173Kで8時間仮焼した。次に、金型を用いて仮焼粉を円板形状に成形した。この成形体を1423Kまで加熱して溶融状態にし、30分間保持した後、降温途中で種付けを行い、1280K~1254Kの温度領域を100時間かけて徐冷して結晶成長させ、直径50mm、高さ15mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体を得た。そして、この直径50mmの単結晶状の酸化物超電導バルク体から、
図8(c)や
図8(d)のように、4mm(W
1)×10mm(L
1)×5mm(T
1)の矩形状試料を2個、結晶のc軸が5mm長の辺(T
1)と平行になるように切り出した。試料Dについては、
図8(c)のように、2個とも10mm長の辺が結晶の<110>方位になるように切り出した。試料Eについては、
図8(d)のように、1個は10mm長の辺が結晶の<110>方位になるように、もう1個は10mm長の辺が結晶の<100>方位になるように切り出した。なお、製造された酸化物超電導バルク体の溶融温度は、1313Kであった。
【0055】
試料Dと試料Eについては、4mm×5mmの面にスパッタリングで厚さ3μm程度の銀を成膜し、電気炉内に銀成膜面を接触させた状態で配置した。次に、試料Dと試料Eを1283Kまで加熱し、1時間保持した後、1253Kまで1K/時間で徐冷、その後は室温まで炉冷して、一体化された試料Dと試料Eを得た。試料Dと試料EについてEPMA分析によって銀濃縮部の幅を調べたところ、どちらも1mm程度であった。また、導体全体の平均化した銀濃度は0.03質量%で、銀濃縮部のピーク値は3質量%であった。最後に、一体化された試料Dと試料Eを酸素気流中において673Kで100時間熱処理した。
【0056】
各試料の電気抵抗率を調べるため、
図7のように接合面を挟んで、長さ(L)20mm、幅(W)2mm、厚さ(T)1mmの試験を切り出した。各試料の接合面を挟んで、10mm離して電圧測定用リード線を半田付けで取り付けた状態で、液体窒素中に各試料を浸漬して、四端子法で電気抵抗率を測定した。試料Dと試料Eのどちらも77Kでの電気抵抗率は1×10
-13Ωm以下であり、銅の電気抵抗率よりも著しく小さく、実質的にほぼゼロであった。さらに、77Kでの臨界電流を調べたところ、試料Dでは600A、試料Eでは100Aで6倍ほど試料Dの方が大きかった。
【0057】
従って、本結果から、本発明の構成にすることにより、製造プロセスが容易で、長尺な導体応用にも適用な可能な、液体窒素温度(77K)での電気抵抗率が銅よりも小さい、RE-Ba-Cu-Oの組成を含む希土類系酸化物超電導バルク体を利用した酸化物超電導バルク導体を提供することができる。さらに、銀濃縮部の両側の酸化物超電導バルク体の結晶方位を揃えることによって、導体としての通電容量が大きくなる効果があることも確認できた。
【0058】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例又は修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0059】
1、1A 酸化物超電導バルク導体
10 バルク本体部
11 銀濃縮部
100 酸化物超電導バルク体