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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】電気伝導率セル
(51)【国際特許分類】
   G01N 27/07 20060101AFI20230512BHJP
   G01R 27/22 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N27/07
G01R27/22
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2019065136
(22)【出願日】2019-03-28
(65)【公開番号】P2020165742
(43)【公開日】2020-10-08
【審査請求日】2022-03-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000219451
【氏名又は名称】東亜ディーケーケー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100169155
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 健太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100075638
【弁理士】
【氏名又は名称】倉橋 暎
(72)【発明者】
【氏名】橋本 わかな
(72)【発明者】
【氏名】菅原 修司
(72)【発明者】
【氏名】水村 諒介
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 芳晴
【審査官】清水 靖記
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-291914(JP,A)
【文献】実開平03-083857(JP,U)
【文献】特開昭62-289754(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0242481(US,A1)
【文献】特開2009-020063(JP,A)
【文献】特開2002-055132(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/00 - G01N 27/10
G01N 27/14 - G01N 27/24
G01R 27/00 - G01R 27/32
F22D 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
略円柱状の電極部であって、前記電極部の軸線方向に沿って相互に間隔をあけて複数の電極が設けられた電極部と、
前記電極部を囲むように設けられた外筒であって、前記外筒の内周面と前記電極部の外周面との間に間隔をあけて前記電極部との間に測定空間を形成するように配置され、前記軸線方向における前記電極部の先端部側の端部が開口しており、前記軸線方向における前記電極部の基端部側の端部よりに前記外筒の周方向に沿って相互に間隔をあけて複数の貫通孔が形成されている外筒と、
を有し、
前記軸線方向における前記先端部側から被検液に浸漬されることで、前記外筒の前記開口から前記測定空間に導入された被検液が前記貫通孔に向けて流され、前記外筒の前記先端部側に対して前記基端部側が上方に配置されて前記測定空間内の被検液の電気伝導率の測定に用いられる電気伝導率セルにおいて、
前記外筒は、前記軸線方向における少なくとも前記複数の電極のうち最も前記先端部側に配置された先端電極と対向する位置から最も前記基端部側に配置された基端電極と対向する位置までの領域に、前記軸線方向に沿って前記先端部側から前記基端部側に向かうにつれて内径が小さくなるようにテーパーが設けられた、前記軸線方向と略直交する断面が円形の内周面を有しており、
前記貫通孔は、前記軸線方向における前記基端部側の2つの隅部がそれぞれ略角形状を有し、前記軸線方向における前記先端部側の2つの隅部がそれぞれR形状を有するか又は前記軸線方向における前記先端部側に円弧形状の辺を有することを特徴とする電気伝導率セル。
【請求項2】
前記テーパーは、前記軸線方向において、前記先端部側の前記外筒の端部から前記貫通孔の前記先端部側の端部までの領域に設けられていることを特徴とする請求項1に記載の電気伝導率セル。
【請求項3】
前記テーパーは、0.1°以上、5°以下の角度で形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の電気伝導率セル。
【請求項4】
前記複数の電極の各電極と前記外筒の内周面との間の距離は、1mm以上、3mm以下であることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項5】
当該電気伝導率セルのセル定数に対して±3%以内のセル定数を有し、前記テーパーが設けられておらず前記先端電極と対向する位置から前記基端電極と対向する位置までの領域の内径が略同一である外筒を当該電気伝導率セルの前記外筒に取り替えて設けた電気伝導率セルを基準の電気伝導率セルとしたとき、前記軸線方向における前記先端電極と前記基端電極との間のある位置での前記外筒の内径が、前記基準の電気伝導率セルの前記外筒の前記内径と略同一であることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項6】
前記軸線方向における前記先端電極と前記基端電極との間の略中央位置での前記外筒の内径が、前記基準の電気伝導率セルの前記外筒の前記内径と略同一であることを特徴とする請求項5に記載の電気伝導率セル。
【請求項7】
前記電極部には、前記複数の電極として、前記軸線方向において略等間隔に3つの電極が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項8】
前記R形状の曲率半径は、少なくとも前記貫通孔の対向する2辺に内接する円の半径の12.5%以上、100%以下であることを特徴とする請求項1乃至7のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項9】
前記R形状の曲率半径は、1mm以上、4mm以下であることを特徴とする請求項1乃至8のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項10】
前記貫通孔を形成する縁部のうち、前記軸線方向における前記基端部側の一辺の縁部は、前記外筒の内周面側から外周面側に向かうにつれて前記貫通孔の開口が広がるようにテーパーが設けられていることを特徴とする請求項1乃至9のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項11】
前記軸線方向における、前記電極部と前記外筒との接合部に隣接し、少なくとも一部が前記貫通孔と対向する領域の前記電極部の外周面に、前記軸線方向に沿って前記先端部側から前記基端部側に向かうにつれて外径が大きくなるようにテーパーが設けられていることを特徴とする請求項1乃至10のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項12】
前記軸線方向において、前記基端部側の前記貫通孔の端部の位置は、前記電極部と前記外筒との接合部と略同じ位置、又は前記接合部に対して前記先端部とは反対側であることを特徴とする請求項1乃至11のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【請求項13】
前記軸線方向において、前記基端電極の前記基端部側の端部から、前記先端部側の前記貫通孔の端部までの距離は、0mm以上、2mm以下であることを特徴とする請求項1乃至12のいずれか一項に記載の電気伝導率セル。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体の電気伝導率を測定するための電気伝導率セルに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、河川水などの環境水、飲料水、産業などで使用される水溶液などの液体の電気伝導率を測定するために電気伝導率セルが用いられている(特許文献1)。図9は、従来の電気伝導率セル201の概略断面側面図である。電気伝導率セル201は、複数の電極203が設けられた略円柱状の電極部202と、電極部202を囲むように設けられた略円筒状の外筒205と、を有する。電極部202は、例えば略円柱状(又は円板状)の電極203と、電気絶縁体204と、が交互に繋げられて構成されている。外筒205は、電気絶縁体で形成され、電極部202の軸線方向(以下「電極軸線方向」ともいう。)における電極部202の先端部(以下「電極先端部」ともいう。)202a側の端部に開口部205cが設けられている。電気伝導率セル201を用いて電気伝導率を測定するには、電気伝導率セル201を被検液中に浸漬することで、電極部202と外筒205との間の略円筒状の空間(測定空間)Tに被検液を導入する。そして、電極部202の電極203を用いて測定空間T内の被検液に電流を流し、被検液の電気抵抗を測定することで、被検液の電気伝導率を測定する。電気伝導率セル201には、2極式、3極式、4極式、5極式などが知られているが、図9では3極式の例を示している。また、一般に、電気伝導率の測定には交流電流が用いられてインピーダンス(交流抵抗)が測定される。
【0003】
外筒205は、例えば電気伝導率セル201が被検液を収容した容器の壁面付近で用いられた場合に壁面の材料や壁面と電極203との間の距離などによって測定値が変動することなどを抑制するために設けられる。しかし、例えば電気伝導率セル201を被検液に浸漬する際などに、測定空間T内に気泡を巻き込んでしまうことがある。測定空間T内に気泡があると、例えば電極203と外筒205との間に気泡が挟まるなどして、測定空間T内の被検液のインピーダンスが本来よりも大きく(電気伝導率が本来よりも小さく)測定されてしまう。
【0004】
そこで、従来、外筒205には、測定空間T内の気泡を外筒205の外部へと排出するために、電極軸線方向における電極部202の基端部(以下「電極基端部」ともいう。)202bよりに、貫通孔(気泡抜き孔)206が設けられている。つまり、通常、電気伝導率セル201は、電極先端部202a側を下方、電極基端部202b側を上方に向けて被検液に浸漬されて用いられる。そのため、電気伝導率セル201を被検液に浸漬する際などに測定空間Tに入った気泡が上方へ移動し、上方に配置された貫通孔206を通して外筒205の外部に排出されることが企図されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平1-259249号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、従来の電気伝導率セル201の構成では、測定空間T内の気泡を十分に外筒205の外部に排出できないことがあった。
【0007】
外筒205の貫通孔206は、従来一般に、円形(真円や楕円)とされている。貫通孔206を通した気泡の排出(気泡抜き)をしやすくするために、単純に貫通孔206の大きさ(直径)を大きくすることが考えられる。しかし、貫通孔206の大きさを単純に大きくすると、気泡の排出はしやすくなるものの、測定空間T内の被検液のインピーダンスを正しく測定できなくなることがある。つまり、本来は図10(a)中の実線で示す電流による測定空間T内の被検液のインピーダンスが測定目的である。しかし、貫通孔206の大きさを単純に大きくすると、電極先端部202a側の外筒205の開口部205cと貫通孔206との間での、外筒205の外側の液体などを通る回路(図10(a)の破線)のインピーダンスが小さくなる。その結果、外筒205の外側のインピーダンスの影響(外来の影響)が大きくなって、測定空間T内の被検液のインピーダンスを正しく測定できなくなることがある。
【0008】
これに対して、次のような方法で、測定空間T内の被検液のインピーダンスに対する外筒205の外側の液体などを通る回路のインピーダンスを大きくし、外筒205の外側のインピーダンスの影響を低減することが考えられる。つまり、図10(b)に示すように最も電極先端部202a側の電極203よりもさらに電極先端部202a側に絶縁部を設けたり、図10(c)に示すように最も電極基端部202b側の電極203と貫通孔206との間の距離を大きくしたり、図10(d)に示すように電極先端部202a側の外筒205の長さを延長したりすることである。しかし、これらの方法で十分な効果を得ようとすると、電気伝導率セル201が大きくなるため、電気伝導率セル201の小型化を妨げる要因となる。
【0009】
また、上述のように、貫通孔206は、従来一般に円形とされ、外筒205の周方向に相互に間隔をあけて複数(例えば2~4個)設けられている。この貫通孔206は、電極基端部202b側、すなわち、上方に円弧形状の辺を有するため、隣接する貫通孔206の境界部分の特に上方に気泡が溜まりやすい(図5(d))。このように気泡が溜まると、更に気泡が溜まって電極203と外筒205との間に気泡が挟まったり、電極203と外筒205との間に気泡が挟まらない場合でも気泡の溜まり方が異なっていたりすることで、測定空間T内の被検液の本来のインピーダンスが測定されなくなることがある。
【0010】
したがって、本発明の目的は、外筒の貫通孔を通した外筒の内部から外部への気泡の排出がしやすい電気伝導率セルを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的は本発明に係る電気伝導率セルにて達成される。要約すれば、本発明は、略円柱状の電極部であって、前記電極部の軸線方向に沿って相互に間隔をあけて複数の電極が設けられた電極部と、前記電極部を囲むように設けられた外筒であって、前記外筒の内周面と前記電極部の外周面との間に間隔をあけて前記電極部との間に測定空間を形成するように配置され、前記軸線方向における前記電極部の先端部側の端部が開口しており、前記軸線方向における前記電極部の基端部側の端部よりに前記外筒の周方向に沿って相互に間隔をあけて複数の貫通孔が形成されている外筒と、を有し、前記軸線方向における前記先端部側から被検液に浸漬されることで、前記外筒の前記開口から前記測定空間に導入された被検液が前記貫通孔に向けて流され、前記外筒の前記先端部側に対して前記基端部側が上方に配置されて前記測定空間内の被検液の電気伝導率の測定に用いられる電気伝導率セルにおいて、前記外筒は、前記軸線方向における少なくとも前記複数の電極のうち最も前記先端部側に配置された先端電極と対向する位置から最も前記基端部側に配置された基端電極と対向する位置までの領域に、前記軸線方向に沿って前記先端部側から前記基端部側に向かうにつれて内径が小さくなるようにテーパーが設けられた、前記軸線方向と略直交する断面が円形の内周面を有しており、前記貫通孔は、前記軸線方向における前記基端部側の2つの隅部がそれぞれ略角形状を有し、前記軸線方向における前記先端部側の2つの隅部がそれぞれR形状を有するか又は前記軸線方向における前記先端部側に円弧形状の辺を有することを特徴とする電気伝導率セルである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、外筒の貫通孔を通した外筒の内部から外部への気泡の排出をしやすくすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】電気伝導率測定用プローブの断面図である。
図2】電気伝導率測定用プローブ及びセンサユニット(電気伝導率セル)の側面図である。
図3】電極部及び外筒の近傍の断面側面図である。
図4】外筒の内周面のテーパーの作用を説明するための模式図である。
図5】外筒の貫通孔の構成及び作用を説明するための模式図である。
図6】外筒の貫通孔の近傍及び電極部の根本の近傍の断面図である。
図7】外筒の貫通孔の配置を説明するための模式図である。
図8】外筒の内周面のテーパーの測定値に対する影響を説明するための比較例及び実施例の外筒の要部の模式的な断面側面図である。
図9】従来の電気伝導率セルの概略断面側面図である。
図10】従来の課題を説明するための模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る電気伝導率セルを図面に則して更に詳しく説明する。
【0015】
[実施例1]
1.電気伝導率測定用プローブの全体構成
図1は、本発明を適用した電気伝導率測定用プローブ(以下「ECプローブ」ともいう。)100の断面図である。また、図2(a)は、ECプローブ100の側面図であり、図2(b)は電気伝導率セルで構成された後述するセンサユニット1の側面図である。なお、図1は、図2(a)中のA-A線断面を示している。ここでは、上下は重力方向の上下であり、ECプローブ100は、通常、後述する電極先端部2a側を下方、電極基端部2b側を上方に向けて用いられるものとする。
【0016】
本実施例では、ECプローブ100は、電気伝導率セルで構成されたセンサユニット1と、測定ユニット110と、を有する。測定ユニット110は、センサユニット1から取得したアナログ信号をセンサユニット1の測定結果を示すデジタル信号に変換する測定回路111aを有している。本実施例では、測定ユニット110は、ケーブル120を介して計測装置本体(図示せず)に接続され、測定回路111aで変換したデジタル信号を計測装置本体に送信する。計測装置本体は、測定ユニット110から取得したデジタル信号を処理して測定結果の表示などを行う。また、本実施例では、計測装置本体に対してECプローブ100が着脱可能であると共に、測定ユニット110に対してセンサユニット1が着脱可能とされている。ECプローブ100と計測装置本体とによって電気伝導率計測装置が構成される。
【0017】
センサユニット1は、略円柱状の電極部2と、電極部2を囲むように設けられた略円筒状の外筒5と、を有する。電極部2には、電極部2の軸線方向(「電極軸線方向」)Vに沿って相互に間隔をあけて複数の電極3(3a、3b、3c)が設けられている。外筒5は、外筒5の内周面5aと電極部2の外周面2cとの間に間隔をあけて電極部2との間に略円筒状の空間(測定空間)Tを形成するように配置されている。また、外筒5は、電極軸線方向Vにおける電極部2の先端部(「電極先端部2a」)側の端部が開口している。すなわち、外筒5は、電極先端部2a側の端部に開口部5cを有する。さらに、外筒5は、電極軸線方向Vにおける電極部2の基端部(「電極基端部2b」)側の端部よりに、外筒5の周方向に沿って相互に間隔をあけて複数の貫通孔6が形成されている。本実施例では、センサユニット1は、3極式の電気伝導率セルで構成されている。
【0018】
更に説明すると、センサユニット1は、支持部材10及び電極棒11を備えたセンサ本体1Aと、外筒5と、を有して構成される。支持部材10は、略円筒状とされ、電極軸線方向Vの電極先端部2a側の端部に、他の部分よりも小径とされた支持部10aが設けられている。また、電極棒11は、略円柱状とされ、電極軸線方向Vの電極基端部2b側の端部に、他の部分よりも小径とされた接続部11aが設けられている。そして、支持部材10の支持部10aに形成された開口部に電極棒11の接続部11aが嵌合されて、センサ本体1Aが構成される。センサユニット1は、全体として略細長円柱状とされている。支持部材10の支持部10aと、電極棒11の接続部11a以外の部分の外径と、は略同一とされている。本実施例では、電極棒11と、支持部材10の支持部(外筒5との接合部7よりも電極先端部2a側の部分)10aと、によって、略円柱状の電極部2が構成されるものとする。
【0019】
電極棒11は、略円柱状(又は円板状)の電極3と、電気絶縁体で形成された略円筒状のセパレータ4と、が交互に繋げられて構成されている。3個の電極3のうち最も電極先端部2a側の第1電極3aは、円板状とされ、円形の端面が電極先端部2aに露出し、環状の周面が電極部2の外周面2cから露出するように形成されて、セパレータ4に取り付けられている。また、3個の電極のうち中央の第2電極3b、及び最も電極基端部2b側の第3電極3cは、それぞれ環状の周面が電極部2の外周面2cから露出するように形成されて、セパレータ4に固定されている。各電極3は、電極棒11の内部でリード線8に接続され、このリード線8は、支持部材10へと引き出され、支持部材10の内部を通って、支持部材10に設けられた回路基板12に接続されている。本実施例では、各電極3は、チタンで形成されている。ただし、これに限定されるものではなく、電気伝導率セルの電極として適した、典型的には導電性材料で形成されていればよく、例えばSUS(ステンレス鋼)、ハステロイ(ニッケル基合金の商品名)、白金、グラッシーカーボンなどであってもよい。また、本実施例では、セパレータ4は、PP(ポリプロピレン)で形成されている。ただし、これに限定されるものではなく、典型的に樹脂材料とされる電気絶縁性材料で形成されていればよい。
【0020】
外筒5は、電極基端部2b側の端部の内周面に設けられたネジ部が、支持部材10の外周面に設けられたネジ部に螺合されることで、センサ本体1Aに固定される。外筒5は電極部2と略同軸的に配置される。外筒5の構成、及び外筒5と電極部2との位置関係などについては後述して更に詳しく説明する。
【0021】
支持部材10の、電極軸線方向Vにおける電極棒11が取り付けられる側とは反対側の端部近傍には、回路基板12が設けられており、上述のようにこの回路基板12に電極棒11から引き出されたリード線8が接続されている。また、この回路基板12には、センサユニット側コネクタ13が設けられており、後述する測定ユニット110の回路基板111に設けられた測定ユニット側コネクタ112と接続可能とされている。本実施例では、支持部材10は、PP(ポリプロピレン)で形成されているが、これに限定されるものではなく、上記セパレータ4の場合と同様の電気絶縁性材料で形成されることが好ましい。
【0022】
測定ユニット110には、測定回路111aを備えた回路基板111が設けられている。また、この回路基板111には、測定ユニット側コネクタ112が設けられており、上述のセンサユニット1の回路基板12に設けられたセンサユニット側コネクタ13と接続可能とされている。また、測定ユニット110は、センサユニット1の電極軸線方向Vにおける電極先端部2a側とは反対側の端部が挿入されて嵌合される凹部113を有する。そして、センサユニット1が測定ユニット110の凹部113に挿入され、センサユニット側コネクタ13と測定ユニット側コネクタ112とが着脱可能に接続されることで、センサユニット1と測定ユニット110とが一体化されて、ECプローブ100が構成される。
【0023】
なお、本実施例では、支持部材10の電極軸線方向Vにおける電極棒11が取り付けられる側とは反対側の端部近傍の外周面と、測定ユニット110の凹部113の内周面と、の間に、封止部材としてのOリング14が配置されて、センサユニット1の内部が液密に保たれている。また、本実施例では、センサユニット1は、スライド移動させられて測定ユニット110の凹部113に嵌合される。そして、センサユニット1の外周を取り巻くように配置された固定部材としての袋ナット15が、測定ユニット110のセンサユニット1側の端部に螺合されることで、センサユニット1は測定ユニット110に対して固定されるようになっている。
【0024】
また、センサユニット1は、上記とは逆に測定ユニット110から取り外されて、交換することが可能とされている。また、測定ユニット110の回路基板111から引き出された配線は、ケーブル120としてまとめられて計測装置本体に接続される。本実施例では、測定ユニット110は、上記ケーブル120の端部に設けられたプローブ側コネクタ(図示せず)と、計測装置本体に設けられた本体側コネクタ(図示せず)と、によって、計測装置本体に対して着脱可能に接続される。
【0025】
ECプローブ100を用いて電気伝導率を測定するには、センサユニット1の電極先端部2a側を下方に向けて被検液中に浸漬することで、電極部2と外筒5との間の略円筒状の測定空間Tに被検液を導入する。そして、センサユニット1の電極3を用いて測定空間T内の被検液に交流電流を流し、被検液のインピーダンスを測定することで、被検液の電気伝導率を測定する。本実施例では、センサユニット1は、概略、第2電極3bと第1電極3aとの間、及び第2電極3bと第3電極3cとの間に交流電圧を印加して、測定空間T内の被検液に交流電流を流し、測定空間T内の被検液のインピーダンスを測定することで、測定空間T内の被検液の電気伝導率を測定する。
【0026】
2.外筒の構成、及び外筒と電極部との位置関係
次に、本実施例における外筒5について更に詳しく説明する。図3は、センサユニット(以下「電気伝導率セル」という。)1の電極部2及び外筒5の近傍を拡大して示す断面側面図である。
【0027】
電極部2には、上述のように、第1、第2、第3電極3a、3b、3cが設けられている。本実施例では、第1電極3aが、電極軸線方向Vにおいて複数の電極3のうち最も電極先端部2a側に配置された「先端電極」であり、第3電極3cが、最も電極基端部2b側に配置された「基端電極」であり、第2電極3bが、中央に配置された「中央電極」である。本実施例では、第1、第2、第3電極3a、3b、3cの電極軸線方向Vにおける幅Wは、略同一であり、3mmである。また、本実施例では、電極軸線方向Vにおける少なくとも電極先端部2aから貫通孔6に隣接する位置までの領域の電極部2の直径D1は、略同一であり、10mmである。また、本実施例では、第1、第2、第3電極3a、3b、3cの直径もこの直径D1と略同一であり、10mmである。また、本実施例では、第1、第2、第3電極3a、3b、3cは、電極軸線方向Vにおいて略等間隔に設けられている。なお、各電極3の位置は、電極軸線方向Vにおける各電極3の中央位置で代表するものとする。本実施例では、第1電極3aの位置と第2電極3bの位置との間の距離L1、第2電極3bの位置と第3電極3cの位置との間の距離L2は、それぞれ33mmである。
【0028】
外筒5は、電極部2を取り囲むように配置され、電極軸線方向Vにおける電極基端部2b側の端部が、支持部材10に螺合されて接合される。本実施例では、この外筒5と支持部材10との螺合による接合部が、電極部2と外筒5との接合部7である。本実施例では、この接合部7に隣接して、外筒5の周方向に相互に間隔をあけて複数の貫通孔6が設けられている。本実施例では、外筒5には、複数の貫通孔6として、外筒5の周方向に沿って略等間隔に4つの貫通孔6が設けられている。つまり、外筒5の周方向において互いに対向する位置に配置された2つの貫通孔6の組が2組設けられている。なお、貫通孔6の数は4個に限定されるものではなく、典型的には2~4個である。
【0029】
そして、外筒5の内周面5aは、電極軸線方向Vにおける少なくとも第1電極(先端電極)3aと対向する位置から第3電極(基端電極)3cと対向する位置までの領域に、電極軸線方向Vに沿って電極先端部2a側から電極基端部2b側に向かうにつれて内径が小さくなるようにテーパーが設けられている。上記領域は、より詳細には電極軸線方向Vにおける第1電極3aの電極先端部2a側の端部(下端)から、第3電極3cの電極基端部2b側の端部(上端)までの領域である。特に、本実施例では、外筒5のテーパーは、電極軸線方向Vにおいて、電極先端部2a側の外筒5の端部から、貫通孔6の電極先端部2a側の端部までの領域に設けられている。本実施例では、電極軸線方向Vにおける外筒5のテーパーが設けられた領域の距離L3は70mmである。なお、本実施例では、電極軸線方向Vにおける第1電極3aの電極先端部2a側の端部(すなわち、電極先端部2a)から外筒5の電極先端部2a側の端部までの距離L9は0.5mm程度である。
【0030】
外筒5のテーパーは、0.1°以上、5°以下の角度θで形成されていることが好ましい。なお、この角度θは、電極軸線方向Vに対してなす角度である。この角度θが0.1°より小さいと、気泡の排出をしやすくする効果を十分に得にくくなる。また、この角度θが5°より大きいと、測定値に対する外筒5の外側のインピーダンスの影響が大きくなる傾向がある。本実施例では、この角度θは0.5°である。外筒5にテーパーを設けると、第1電極3aと外筒5の内周面5aとの間の距離L4と、第2電極3bと外筒5の内周面5aとの間の距離L5と、第3電極3cと外筒5の内周面5aとの間の距離L6と、は異なる値となる(L4>L5>L6)。なお、各電極3と外筒5の内周面5aとの間の距離L4、L5、L6は、電極軸線方向Vにおける各電極3の中央位置における各電極3と外筒5の内周面5aとの間の距離で代表するものとする。各電極3と外筒5の内周面5aとの間の距離L4、L5、L6は、1mm以上、3mm以下であることが好ましい。この距離L4、L5、L6が1mmより小さいと、気泡を排出しにくくなる。また、この距離L4、L5、L6が3mmより大きいと、測定値の直線性が低下しやすくなることがある。本実施例では、この距離L、L5、Lは、それぞれ1.5mm、1.7mm、1.9mmである。なお、本実施例では、第1電極3aの位置での外筒5の内径D2は12.9mm、第2電極3bの位置での外筒5の内径D3は13.4mm、第3電極3cの位置での外筒5の内径D4は13.9mmである。また、本実施例では、外筒5は壁面の厚さが2.4mmで略一定とされており、内周面5aにテーパーが設けられた領域では、対応して外周面5bにも略同一角度θのテーパーが設けられている。
【0031】
なお、外筒5のテーパーは、典型的には直線状に形成された傾斜面であるが、例えば電極軸線方向Vにおける一部又は全部が、電極基端部2b側に向かうにつれて外筒5の内径が小さくなるように曲線上に形成されていてもよい。この場合、外筒5のテーパーの角度θは、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間の中央位置における曲線の接線が電極軸線方向Vとなす角度で代表することができる。
【0032】
このように、外筒5の内周面5aにテーパーを設けると、電極先端部2a側の電極部2と外筒5の内周面5aとの間の隙間よりも、電極基端部2b側の電極部2と外筒5の内周面5aとの間の隙間が狭くなる。そのため、この隙間が狭くなる電極基端部2b側、すなわち、上方において、電気伝導率セル1を被検液に浸漬する際に測定空間Tに流入する被検液の流速を大きくすることができる。つまり、流速をQ、断面積(電極部2と外筒5の内周面5aとの間)をA、流速をVとしたとき、次式、Q=A・Vが成り立つ。電気伝導率セル1を被検液に同様の条件で浸漬し、流量Qが実質的に変わらない場合、断面Aが小さくなれば流速Vは大きくなる。ここで、前述のように、隣接する貫通孔6の境界部分の特に上方などには気泡が溜まりやすい(図5(d))。これに対して、外筒5の内周面5aにテーパーを設けることで、電気伝導率セル1を被検液に浸漬する際に、気泡が溜まりやすい測定空間Tの上方に向かうにつれて被検液の流速が大きくなる。したがって、貫通孔6を必要以上に大きくしなくても(つまり、前述した電気伝導率の測定値に対する外筒5の外側のインピーダンスの影響が許容範囲を超えて大きくなることを抑制しつつ)、貫通孔6を通した気泡の排出のしやすさを向上させることができる(図4)。また、貫通孔6を必要以上に大きくしなくてよいため、外筒5の外側のインピーダンスの影響を低減するために図10(b)~(d)を参照して説明したような方法による対策が必要なくなり、電気伝導率セル1の小型化を図ることができる。
【0033】
ここで、従来一般に、外筒5の内径を一定に保ちやすいなどの理由から、切削加工により外筒5の製造を行っていた。本実施例では、金型を用いた成型により外筒5を製造した。この場合、外筒5の内周面5a、更に本実施例では外周面5bに設けられたテーパーは、成型品を金型から離型しやすくする抜き勾配としても働き、外形が一定に整った外筒5の製造がしやすくなる。また、外筒5を金型による成型で製造することは、切削加工により製造する場合に比べて生産性の向上を図りやすい。
【0034】
また、貫通孔6は、電極軸線方向Vにおける電極基端部2b側の2つの隅部がそれぞれ略角形状を有し、電極軸線方向Vにおける電極先端部2a側の2つの隅部がそれぞれR形状(円弧形状)を有するか(図5(a))又は電極軸線方向Vにおける電極先端部2a側に円弧形状の辺を有する(図5(b))形状とされる。本実施例では、上述のように、貫通孔6は、外筒5の周方向に沿って略等間隔に4つ設けられている。
【0035】
なお、略角形状とは、2辺が完全に直交する形状のみを意味するものではなく、製造上の理由などにより、90°に対して±5°程度の範囲の角度を有して交差する形状、あるいは十分に小さい曲率半径(典型的には0.5mm以下)の円弧形状とされている場合も含むものである。また、R形状、円弧形状とは、完全に円弧形状であることのみを意味するものではなく、製造上の理由などにより斯界にて一般に許容される程度に円弧形状からずれている場合も含むものである。
【0036】
更に説明すると、図5(a)は、本実施例における各貫通孔6を示す模式図である。本実施例では、4つの貫通孔6の形状は実質的に同一である。本実施例では、貫通孔6の、電極軸線方向Vにおける電極基端部2b側の辺(上辺)6a、及び電極先端部2a側の辺(下辺)6bは、それぞれ平面視において電極軸線方向Vと略直交する方向に延びる。そして、これら上辺6aと下辺6bとが、平面視において電極軸線方向Vと略平行に延びる2つの辺(縦辺)6cで連結されている。ただし、図5(b)に示すように、貫通孔6の電極軸線方向Vにおける電極先端部2a側の辺(下辺)6bを円弧形状の辺としてもよい。
【0037】
このように、貫通孔6を、従来の円形から、四角形と円形とを組み合わせた形状とすることで、貫通孔6を通した気泡の排出をしやすくして、測定空間Tの上方に気泡が溜まる可能性を低減させると共に、必要以上に貫通孔6を大きくすることで電気伝導率の測定値に対する外筒5の外側のインピーダンスの影響が大きくなることを抑制することができる。つまり、図5(d)に示すように、貫通孔6が従来の円形の場合は、隣接する貫通孔6の境界部分の特に上方に気泡がたまりやすい。これに対して、図5(c)に示すように、貫通孔6の上方の2か所の隅部を略角形状とすることで、特に気泡が溜まりやすい隣接する貫通孔6の境界部分の上方において貫通孔6の開口面積を大きくして(すなわち、隣接する貫通孔6の境界部分を小さくして)、気泡の排出をしやすくすることができる。一方、貫通孔6の下方の2か所の隅部をR形状とする(又は下方の辺を円弧形状とする)ことで、貫通孔6の電極3(第3電極3c)に近い側を必要以上に大きくしてしまうことで測定値に対する外筒5の外側のインピーダンスの影響が大きくなることを抑制することができる。
【0038】
本実施例では、貫通孔6の、平面視における電極軸線方向Vと略直交する方向の幅W1は8mmであり、平面視における電極軸線方向Vと略平行な方向の幅W2は8mmである。そして、本実施例では、上辺6aと縦辺6cとで形成される2つの隅部6dはそれぞれ略角形状とされている。貫通孔6は、これに限定されるものではないが、電極軸線方向Vと略直交する方向及び電極軸線方向Vの幅W1、W2が、それぞれ6mm以上、8mm以下であることが好ましい。この幅W1、W2が6mmより小さいと、気泡の排出がしにくくなる。また、この幅W1、W2が8mmより大きくなると、測定値に対する外筒5の外側のインピーダンスの影響が大きくなる傾向がある。なお、この幅W1、W2は、外筒5の内周面側の貫通孔6の開口部の幅で代表するものとする。また、換言すると、この幅W1、W2は、外筒5の円周長さに対して10%以上、15%以下であることが好ましい。なお、この場合の外筒5の円周長さは、電極軸線方向Vにおける貫通孔6の略中央における外筒の内周の周長で代表するものとする。また、貫通孔6の下辺6b側の2つの隅部6eのR形状の曲率半径は、少なくとも貫通孔6の対向する2辺に内接する円の半径の12.5%以上、100%以下であることが好ましい。本実施例では、上記対向する2辺とは、上辺6aと下辺6b、又は2つの縦辺6cである。このR形状の曲率半径が上記範囲より小さい場合には、上述した隣接する貫通孔6の境界部分の特に上方に溜まりやすい気泡の排出をしやすくしつつ、測定値に対する外筒5の外側のインピーダンスの影響を抑制する効果が得にくくなる。より具体的には、これに限定されるものではないが、このR形状の曲率半径は、1mm以上、4mm以下が好ましい。
【0039】
また、本実施例における電気伝導率セル1は、以下に示すような追加の特徴を有している。
【0040】
本実施例では、図6(a)に示すように、貫通孔6を形成する縁部のうち、電極軸線方向Vにおける電極基端部2b側の一辺(上辺)6aの縁部6fは、外筒5の内周面5a側から外周面5b側に向かうにつれて貫通孔6の開口が広がるようにテーパーが設けられている。このように貫通孔6の上辺6aの縁部6fにテーパーを設けることで、貫通孔6を通した気泡の排出のしやすさを更に向上させることができる。気泡の排出のしやすさを更に向上させる観点から、この貫通孔6の縁部のテーパーは、5°以上、45°以下の角度αで形成されていることが好ましい。なお、この角度αは、電極軸線方向Vと略直交する方向に対してなす角度である。本実施例では、この角度αは30°である。
【0041】
また、本実施例では、図6(b)に示すように、電極軸線方向Vにおける、電極部2と外筒5との接合部7に隣接し、少なくとも一部が貫通孔6と対向する領域(これを電極部2の「根本」ともいう。)9の電極部2の外周面2cに、電極軸線方向Vに沿って電極先端部2a側から電極基端部2b側に向かうにつれて外径が大きくなるようにテーパーが設けられている。このように電極部2の根本9にテーパーを設けることで、測定空間T内の気泡を貫通孔6に向けて導きやすくなり、貫通孔6を通した気泡の排出のしやすさを更に向上させることができる。気泡の排出のしやすさを更に向上させる観点から、この電極部2の根本9のテーパーは、5°以上、60°以下の角度βで形成されていることが好ましい。なお、この角度βは、電極軸線方向Vと略直交する方向に対してなす角度である。本実施例では、この角度βは45°である。
【0042】
また、電極軸線方向Vにおいて、電極基端部2b側の貫通孔6の端部(上端)の位置は、電極部2と外筒5との接合部7と略同じ位置、又はこの接合部7に対して電極先端部2aとは反対側であることが好ましい。つまり、図7に示す距離L7が0mm以上であることが好ましい。このような位置関係とすることで、貫通孔6より上方に気泡が溜まるデッドスペースが形成されないようにすることができる。本実施例では、図3に示すように、貫通孔6の上端の位置を、電極部2と外筒5との接合部7と略同じ位置とした。なお、貫通孔6の上端の位置は、外筒5の内周面側の貫通孔6の開口部における上端の位置で代表するものとする。
【0043】
また、図7に示すように、電極軸線方向Vにおいて、最も電極基端部2b側に配置された第3電極(基端電極)3cの電極基端部2b側の端部から、電極先端部2a側の貫通孔6の端部(下端)までの距離L8は、0mm以上、2mm以下(貫通孔6の端部(下端)の方が電極基端部2b側)であることが好ましい。このような位置関係とすることで、電気伝導率セル1の小型化を図ることができる。本実施例では、外筒5の内周面5aにテーパーを設け、更には貫通孔6の上方の隅部6dを略角形状、下方の隅部6eをR形状とすることで、貫通孔6を必要以上に大きくすることなく気泡の排出を良好に行うことができる。そのため、外筒5の外側のインピーダンスの影響による測定値の誤差を抑制しつつ、貫通孔6と電極3(第3電極3c)との間の距離を可及的に小さくすることができる。本実施例では、上記距離L8は0mmである。なお、貫通孔6の下端の位置は、外筒5の内周面側の貫通孔6の開口部における下端の位置で代表するものとする。
【0044】
3.セル定数に対する影響など
(外筒の内周面のテーパーの影響)
従来の電気伝導率セル1では、外筒5の内径の変化による測定値への影響を抑制するなどの観点から、外筒5の内径は電極軸線方向Vにおいて略一定とされていた。例えば、従来の電気伝導率セル1の外筒5に代えて本発明に従う外筒5を適用し、本発明に係る電気伝導率セル1を構成する場合、外筒5の違いにより測定値(セル定数)が大幅に変化することを避けることが望ましい。通常、個々の電気伝導率セル1のセル定数を測定して、このセル定数を用いた補正を行って測定値を求める。そのため、例えば、電気伝導率の測定可能領域の中領域では外筒5の内径の変化による測定値の誤差は問題とならない。しかし、外筒5の内周面5aにテーパーを設けたことにより大幅にセル定数が変化すると、電気伝導率の測定可能領域の下限・上限付近で、測定値の真値に対する誤差が大きくなることがある。
【0045】
これに対して、外筒5の内周面5aにテーパーを設ける場合に、電極軸線方向Vにおける最も電極先端部2a側に配置された先端電極3aと最も電極基端部2b側に配置された基端電極3cとの間のある位置での外筒5の内径が略同一であれば、テーパーの勾配が変化しても測定値(セル定数)は大幅に変化しないことがわかった。このとき、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間の略中央位置での外筒5の内径を略同一とすることがより好ましい。3極式の電気伝導率セル1の場合、典型的には、電極軸線方向Vにおける中央に配置された中央電極3bの位置での外筒5の内径を略同一とすればよい。つまり、上述のように従来の電気伝導率セル1の外筒5に代えて本発明に従う外筒5を適用する場合、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間、好ましくはその間の中央位置(典型的には中央電極3bの位置)での外筒5の内径を従来の電気伝導率セル1の外筒5の内径と略同一とすれば、測定値(セル定数)は大幅には変化しないことがわかった。
【0046】
これは、次のような理由によるものと考えられる。外筒5の内周面5aにテーパーを設ける場合に、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間、好ましくはその間の中央位置(典型的には中央電極3bの位置)を基準として、電極先端部2a側に向けて内径を大きくし、電極基端部2b側に向けて内径を小さくすると、外筒5の外側のインピーダンスの影響を低減することができ、また各極と外筒5の内周面5aと間の距離の違いの影響をキャンセルすることができる。つまり、例えば、3極式の電気伝導率セル1では、中央の電極(中央電極3b)と両端の電極(先端電極3a、基端電極3c)との間に電圧を印加してインピーダンスの測定を行っている。この場合に、外筒5の内周面5aにテーパーを設けると、各極と外筒5との間の隙間が変化するため、インピーダンスの測定に影響が出ることが考えられる。しかし、中央電極3bの位置での外筒5の内径を基準としてテーパーを設けることで、基端電極3cと外筒5の内周面5aとの間の距離が小さくなってインピーダンスが大きくなったとしても、先端電極3aと外筒5の内周面5aとの間の距離が大きくなってインピーダンスが小さくなることで、これらが相互にキャンセルし合い、テーパーの大きさによるインピーダンスの測定への影響が見かけ上無くなる。これにより、テーパーの大きさによる測定値(セル定数)の変化は抑制される。したがって、例えば上述のように従来の電気伝導率セル1の外筒5に代えて本発明に従う外筒5を適用する場合でも、中央電極3bの位置での外筒5の内径を従来の電気伝導率セル1の外筒5の内径と略同一とすることで、両電気伝導率セル1のセル定数が大幅に変化することはなく、典型的には略同一となる。その結果、電気伝導率の測定可能領域の下限・上限付近においても、従来の電気伝導率セル1と本発明に従う電気伝導率セル1とで測定値に許容範囲を超えた差が生じることはない。
【0047】
一方、例えば基端電極3cあるいは更に電極基端部2b側を基準として外筒5の内周面5aにテーパーを設けると、電極先端部2a側の外筒5の開口部5cの内径が大きくなり過ぎて、外筒5の外側のインピーダンスの影響を受けやすくなることがある。
【0048】
なお、電極間の抵抗をR、電極間の距離をL(m)、電極の面積をS(m)、電気伝導率をκ(S/m)とすると、次の関係が成り立つ。
R=L/S×1/κ
κ=L/S×1/R
上記式中のL/Sは電気伝導率セル1に固有の値でセル定数と呼ばれる。セル定数が大きければ大きいほど、同じ溶液でもインピーダンスの測定結果は大きくなる。電極間の距離L及び電極の面積Sが変わっていない場合に、セル定数L/Sが変われば、外筒5の外側のインピーダンスの影響を受けていることになる。そのため、所定の電気伝導率の被検液を用いてセル定数を測定する(あるいはセル定数を固定して所定の電気伝導率の被検液の電気伝導率を測定する)ことで、外筒5の外部のインピーダンスの影響の有無、程度を判断することができる。
【0049】
ここで、内周面5aのテーパーの設定が異なる外筒5を用いて、測定値に対する影響について調べた。ここでは、図8(a)、(b)、(c)にそれぞれ模式的に示す比較例1、比較例2、本実施例の外筒5について調べた。比較例1の外筒5は、外筒5の内周面5aにテーパーを設けなかったものである(θ=0°)。比較例2は、外筒5の内周面5aに、本実施例と同じ勾配のテーパーを、基端電極3cよりも更に電極基端部2b側の位置を基準として設けたものである(θ=0.5°)。本実施例の外筒5は、上述のように、外筒5の内周面5aに比較例2と同じ勾配のテーパーを、中央電極3bの位置を基準として設けたものである(θ=0.5°)。比較例1の外筒5では、内径は13.4mmの略一定であり、各電極3と外筒5の内周面5aとの間の距離は1.7mmであった。これに対して、比較例2の外筒5では、基端電極3cより更に電極基端部2b側の位置における電極部2と外筒5の内周面5aとの間の距離が1.7mmであった。また、本実施例の外筒5では、中央電極3bの位置での電極3bと外筒5の内周面5aとの間の距離が1.7mmであった。
【0050】
上記各例の外筒5を同じ電気伝導率セル(東亜ディーケーケー株式会社製、CT-27112B)1に装着し、セル定数として同じ値である250m-1を用いて被検液としての標準液の電気伝導率の測定を行った。標準液としては、25℃に温調したKCl水溶液(0.01mol/kg、0.1mol/kg、1mol/kg)を用いた。また、これら各標準液を用いて各例の電気伝導率セルを校正し、それぞれの標準液でのセル定数を求めた。
【0051】
なお、上述のように異なる構成の外筒5を用いた他は、比較例1、比較例2及び本実施例の電気伝導率セル1の構成は実質的に同じであり、同一の計測装置を用いて、実質的に同じ環境で測定を行った。また、いずれの測定も外筒5の内部には気泡が実質的に無い状態で行った。実験に用いた電気伝導率セル1の主要部(電極部2の電極の構成や配置など)は、前述の本実施例の電気伝導率セル1と同等のものである。
【0052】
結果を表1、表2に示す。表1(a)は、各例について電気伝導率の測定値と、各標準液の電気伝導率の理論値と、を示す。また、表1(b)は、表1(a)の結果に基づく、比較例1の電気伝導率の測定値に対する、比較例2及び本実施例の電気伝導率の測定値の差(相対値(%):比較例1の測定値を100%とした場合の比較例2及び本実施例の測定値の100分率)を示す。表2(a)は、各例の電気伝導率セルを各標準液で校正した場合のセル定数を示す。また、表2(b)は、表2(a)の結果に基づく、比較例1の電気伝導率セルのセル定数に対する、比較例2及び本実施例の電気伝導率セルのセル定数の差(相対値(%):比較例1のセル定数を100%とした場合の比較例2及び本実施例のセル定数の100分率)を示す。
【0053】
【表1】
【0054】
【表2】
【0055】
表1、表2からわかるように、本実施例では、外筒5の内周面5aにテーパーが設けられていない比較例1に対して測定値、セル定数の有意の差はみられなかった。一方、比較例2では、比較例1に対する測定値、セル定数の差が比較的大きかった。本発明者の検討によれば、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間のある位置を基準としてテーパー(θ=0.1°~5°)を設けることで、セル定数の差を±3%以内に抑制できることがわかった。特に、電極軸線方向Vにおいて先端電極3aと基端電極3cとの間の中央位置を基準としてテーパー(θ=0.1°~5°)を設けることで、セル定数の差を±1%以内程度まで抑制できることがわかった。
【0056】
換言すると、本実施例の電気伝導率セル1は、次のような構成を有する。つまり、当該電気伝導率セル1のセル定数に対して±3%以内のセル定数を有し、テーパーが設けられておらず先端電極3aと対向する位置から基端電極3cと対向する位置までの領域の内径が略同一である外筒を当該電気伝導率セル1の外筒5に取り替えて設けた電気伝導率セル1を基準の電気伝導率セル1とする。このとき、本実施例の電気伝導率セル1は、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間のある位置での外筒5の内径が、基準の電気伝導率セル1の外筒5の内径と略同一である。また、電極軸線方向Vにおける先端電極3aと基端電極3cとの間の略中央位置での外筒5の内径が、基準の電気伝導率セル1の外筒5の内径と略同一であることが好ましい。
【0057】
(貫通孔の形状の影響)
次に、貫通孔6の形状が異なる外筒5についても、測定値に対する影響について調べた。ここでは、比較例3、本実施例の外筒5について調べた。比較例3の外筒5では、本実施例の外筒5の貫通孔6に代えて、本実施例の外筒5の貫通孔6と実質的に同じ位置に、直径8mmの円形の貫通孔6が4つ設けられている。そして、比較例3、本実施例の外筒5を同じ電気伝導率セル(東亜ディーケーケー株式会社製、CT-27112B)1に装着し、セル定数として同じ値である250m-1を用いて被検液としての標準液の電気伝導率の測定を行った。標準液としては、25℃に温調したKCl水溶液(0.01mol/L(旧JIS標準液C)、0.1mol/L(旧JIS標準液B)、1mol/L(旧JIS標準液A))を用いた。また、これら各標準液を用いて各例の電気伝導率セルを校正し、それぞれの標準液でのセル定数を求めた。
【0058】
なお、上述のように異なる構成の外筒5を用いた他は、比較例3及び本実施例の電気伝導率セル1の構成は実質的に同じであり、同一の計測装置を用いて、実質的に同じ環境で測定を行った。また、いずれの測定も外筒5の内部には気泡が実質的に無い状態で行った。実験に用いた電気伝導率セル1の主要部(電極部2の電極の構成や配置など)は、前述の本実施例の電気伝導率セル1と同等のものである。
【0059】
結果を表3、表4に示す。表3(a)は、各例について電気伝導率の測定値と、各標準液の電気伝導率の理論値と、を示す。また、表3(b)は、表3(a)の結果に基づく、比較例3の電気伝導率の測定値に対する本実施例の電気伝導率の測定値の差(相対値(%))を示す。表4(a)は、各例の電気伝導率セルを各標準液で校正した場合のセル定数を示す。また、表4(b)は、表4(a)の結果に基づく、比較例3の電気伝導率セルのセル定数に対する本実施例の電気伝導率セルのセル定数の差(相対値(%))を示す。
【0060】
【表3】
【0061】
【表4】
【0062】
表3、表4からわかるように、いずれの標準液についても、比較例3の外筒5を用いた場合と本実施例の外筒5を用いた場合とで測定値、セル定数のずれは1%未満である。このように、外筒5の貫通孔6を従来の円形から本実施例の形状に変更したことによる電気伝導率の測定値に対する影響はないことがわかった。
【0063】
4.効果
本実施例の電気伝導率セル1を様々な条件で被検液に浸漬して確認したところ、従来の内径が略一定で円形の貫通孔6を備えた外筒5を有する電気伝導率セル1よりも気泡を排出しやすいことがわかった。
【0064】
以上説明したように、本実施例によれば、外筒5の内周面5aにテーパーを設けることで、電気伝導率セル1を被検液に浸漬する際に測定空間T内に気泡が入った場合でも、気泡が溜まりやすい測定空間Tの上方での被検液の流速が速くなるので、貫通孔6を通して気泡をスムーズに排出することができる。また、貫通孔6の上方の隅部6dを略角形状、下方の隅部6eをR形状(あるいは円弧形状の辺)とすることで、隣接する貫通孔6の境界部分の特に上方に気泡が溜まりやすくなることを抑制することができる。そして、これらが相乗的に作用して、貫通孔6を必要以上に大きくすることで外筒5の外側のインピーダンスが測定値に影響することを抑制しつつ、外筒5の貫通孔6を通した外筒5の内部から外部への気泡の排出をしやすくすることができる。更に、外筒5の内周面5aにテーパーを設けることにより、外筒5の射出成型が可能となり、外筒5の製造コストが1/2~1/3に低減する。
【0065】
[その他の実施例]
以上、本発明を具体的な実施例に即して説明したが、本発明は上述の実施例に限定されるものではない。
【0066】
上述の実施例では、電気伝導率セルは測定回路を備えた電気伝導率測定用プローブのセンサユニットとして構成されていたが、実質的に電気伝導率セルからなり、アナログ信号を計測装置本体に送り、計測装置本体が備えた測定回路によって電気伝導率が求められるものであってもよい。
【0067】
また、上述の実施例では電気伝導率セルは3極式のものであったが、2極式、4極式、5極式などのものであってもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 電気伝導率セル(センサユニット)
2 電極部
3 電極
5 外筒
100 電気伝導率測定用プローブ
110 測定ユニット
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10