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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】鋼管杭および鋼管杭の施工方法
(51)【国際特許分類】
   E02D 5/28 20060101AFI20230512BHJP
   E02D 7/22 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
E02D5/28
E02D7/22
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019076309
(22)【出願日】2019-04-12
(65)【公開番号】P2020172821
(43)【公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-12-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000637
【氏名又は名称】弁理士法人樹之下知的財産事務所
(72)【発明者】
【氏名】戸田 和秀
(72)【発明者】
【氏名】妙中 真治
(72)【発明者】
【氏名】石濱 吉郎
(72)【発明者】
【氏名】柳 悦孝
(72)【発明者】
【氏名】日下 裕貴
(72)【発明者】
【氏名】田邊 将一
【審査官】高橋 雅明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-299191(JP,A)
【文献】特開2009-249893(JP,A)
【文献】特開昭53-070507(JP,A)
【文献】特開平05-033572(JP,A)
【文献】特開2017-227022(JP,A)
【文献】実開昭53-040004(JP,U)
【文献】特開2000-154693(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E02D 5/28
E02D 7/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼管本体と、前記鋼管本体の端面に前記鋼管本体の周方向接線に対して角度をもって取り付けられる板状の掘削ビットとを備える鋼管杭であって、
前記掘削ビットが、前記鋼管本体の中心に視点を置いた場合に少なくとも部分的に重なる少なくとも1組の内側ビットと外側ビットとを含み、
前記内側ビットおよび前記外側ビットは、前記鋼管本体の管厚方向に前記鋼管本体を横断する、鋼管杭。
【請求項2】
前記内側ビットによる掘削領域は、前記外側ビットによる掘削領域と同じか、前記外側ビットによる掘削領域よりも大きい、請求項1に記載の鋼管杭。
【請求項3】
前記少なくとも1組の前記内側ビットおよび前記外側ビットは、平面配置において互いに平行である、請求項1または請求項2に記載の鋼管杭。
【請求項4】
前記掘削ビットが、前記鋼管本体の中心に視点を置いた場合に他のビットとは重なり合わないビットをさらに含む、請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項5】
前記内側ビットまたは前記外側ビットの少なくともいずれかの杭軸方向先端面に、前記鋼管本体の径方向で内側から外側に向かって突出高さが高くなる傾斜が形成される、請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項6】
前記内側ビットまたは前記外側ビットの少なくともいずれかが、前記鋼管本体の径方向で内側から外側に向かって厚くなるテーパー断面で形成される、請求項1から請求項5のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項7】
前記掘削ビットは、前記鋼管杭を先端側から見たときにC字状またはS字状になるように湾曲した板状である、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の鋼管杭。
【請求項8】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載された鋼管杭の施工方法であって、
前記鋼管杭の先端が所定の深度に到達するまで、前記掘削ビットが土砂を前記鋼管本体の外側に押し出す第1の回転方向に前記鋼管杭を回転させながら掘削する工程と、
前記鋼管杭の先端が打ち止め深さに到達するまで、前記掘削ビットが土砂を前記鋼管本
体の内側に取り込む第2の回転方向に前記鋼管杭を回転させながら掘削する工程と
を含む鋼管杭の施工方法。
【請求項9】
前記打ち止めの際に、前記鋼管杭の先端を支持層に到達させてから、前記鋼管杭を前記第2の回転方向に回転させる、請求項8に記載の鋼管杭の施工方法。
【請求項10】
前記打ち止めの際に、前記鋼管杭の先端が支持層に到達する直前から、前記鋼管杭を前記第2の回転方向に回転させながら掘削し、前記鋼管杭の先端が前記支持層に到達してから打ち止める、請求項8に記載の鋼管杭の施工方法。
【請求項11】
前記第1の回転方向に前記鋼管杭を回転させながら掘削する工程と、前記第2の回転方向に前記鋼管杭を回転させながら掘削する工程とが交互に実施される、請求項8から請求項10のいずれか1項に記載の鋼管杭の施工方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼管杭および鋼管杭の施工方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼管杭の先端に取り付ける掘削ビットは、地盤を掘削する従来の効果のみならず、杭の回転方向に応じて掘削した土の動きを制御し、管内土の閉塞を抑制または促進する効果が期待される。例えば、特許文献1には、掘削ビットの長手方向の中心軸線と鋼管杭の外周との交点における接線方向とが角度を有しており、この角度によって掘削ビットの刃先が鋼管杭内側に向かって設けられる技術が記載されている。これによって、例えば、杭先端が支持層に到達する前には土砂を杭の外側に押し出して管内土の閉塞を抑制することによって掘削性を向上させ、杭先端が支持層に到達した後は杭の回転方向を逆にすることによって土砂を杭の内側に取り込み、管内土の閉塞を促進することによって高い支持力を獲得することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第5053154号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、鋼管杭の先端を地盤に貫入させる際には、杭先端に取り付けられた掘削ビットに大きな土圧が作用する。また、地盤強度が高い支持層では大きな施工抵抗(回転トルクや鉛直圧入力)も掘削ビットに作用する。この結果、掘削ビットが変形することが想定される。それゆえ、例えば特許文献1に記載されたような掘削ビットの効果を最大化するためには、土圧や施工抵抗による変形に対抗して掘削ビットの機能を維持できる構造とすることが望ましい。
【0005】
そこで、本発明は、掘削時の変形に対抗して掘削ビットの機能を維持することが可能な、新規かつ改良された鋼管杭および鋼管杭の施工方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のある観点によれば、鋼管本体と、鋼管本体の端面に鋼管本体の周方向接線に対して角度をもって取り付けられる板状の掘削ビットとを備える鋼管杭において、掘削ビットが、鋼管本体の周方向について少なくとも部分的な重なりを有する少なくとも1組の内側ビットと外側ビットとを含む。
【0007】
上記の鋼管杭において、内側ビットによる掘削領域は、外側ビットによる掘削領域と同じか、外側ビットによる掘削領域よりも大きくてもよい。また、鋼管本体の周方向について互いに重なり合う内側ビットおよび外側ビットは、平面配置において互いに平行であってもよい。掘削ビットが、鋼管本体の周方向について他のビットとは重なり合わないビットをさらに含んでもよい。
【0008】
上記の鋼管杭において、内側ビットまたは外側ビットの少なくともいずれかの杭軸方向先端面に、鋼管本体の径方向で内側から外側に向かって突出高さが高くなる傾斜が形成されてもよい。内側ビットまたは外側ビットの少なくともいずれかが、鋼管本体の径方向で内側から外側に向かって厚くなるテーパー断面で形成されてもよい。また、掘削ビットは、鋼管杭を先端側から見たときにC字状またはS字状になるように湾曲した板状であってもよい。
【0009】
本発明の別の観点によれば、上記の鋼管杭の施工方法であって、鋼管杭の先端が所定の深度に到達するまで、掘削ビットが土砂を鋼管本体の外側に押し出す第1の回転方向に鋼管杭を回転させながら掘削する工程と、鋼管杭の先端が打ち止め深さに到達するまで、掘削ビットが土砂を鋼管本体の内側に取り込む第2の回転方向に鋼管杭を回転させながら掘削する工程とを含む鋼管杭の施工方法が提供される。
【0010】
上記の鋼管杭の施工方法において、打ち止めの際に、鋼管杭の先端を支持層に到達させてから、鋼管杭を第2の回転方向に回転させてもよい。あるいは、打ち止めの際に、鋼管杭の先端が支持層に到達する直前から、鋼管杭を第2の回転方向に回転させながら掘削し、鋼管杭の先端が支持層に到達してから打ち止めてもよい。また、第1の回転方向に鋼管杭を回転させながら掘削する工程と、第2の回転方向に鋼管杭を回転させながら掘削する工程とが交互に実施されてもよい。
【発明の効果】
【0011】
上記の構成によれば、内側ビットと外側ビットとが鋼管本体の周方向について重なりを有するように配置することによって、例えば土圧や施工抵抗が一方のビットに作用したときにも他方のビットがそれを支え、掘削ビットの変形を抑制することができる。従って、掘削時の変形に対抗して掘削ビットの機能を維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施形態に係る鋼管杭を側方および先端側から見た図である。
図2図1に示された鋼管杭における内側ビットと外側ビットとの関係について説明するための図である。
図3】本発明の実施形態に係る鋼管杭の他の例を示す図である。
図4】本発明の実施形態に係る鋼管杭の他の例を示す図である。
図5】本発明の実施形態に係る鋼管杭の他の例を示す図である。
図6】本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。
図7】本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。
図8】本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。
図9】本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。
図10】本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。なお、本明細書および図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0014】
図1は、本発明の一実施形態に係る鋼管杭を側方および先端側から見た図である。図1に示されるように、鋼管杭10は、鋼管本体11と、鋼管本体11の端面11Eに取り付けられる掘削ビット12とを含む。掘削ビット12は、内側ビット121および外側ビット122を含む。本実施形態において、内側ビット121および外側ビット122は、いずれも鋼管本体11の周方向接線に対してそれぞれ角度θ1,θ2(0<θ1,θ2<90°)をもって取り付けられている。ここで、角度θ1,θ2は、板状の内側ビット121および外側ビット122のそれぞれの板厚中心線が鋼管本体11の管厚中心線LC11に交わる位置において、それぞれの板厚中心線と管厚中心線LC11の接線LT11(鋼管本体11の周方向接線)とがなす角度である。以下では、角度θ1,θ2を内側ビット121および外側ビット122の取り付け角度ともいう。
【0015】
上記のように内側ビット121および外側ビット122がそれぞれ取り付け角度θ1,θ2で取り付けられていることによって、例えば鋼管杭10を用いた掘削時において杭先端が所定の深度に到達するまでは鋼管杭10を図1に示す反時計回り(CCW)に回転させながら掘削して土砂を鋼管本体11の外側に押し出し、管内土の閉塞を抑制することができる。また、杭先端が打ち止め深さに到達するまでは鋼管杭10を図1に示す時計回り(CW)に回転させながら掘削して土砂を鋼管本体11の内側に取り込み、管内土の閉塞を促進することによって高い支持力を獲得することができる。なお、掘削ビット12は、鋼管本体11の径方向で内側および外側の両方にエッジを有し、これによって上記のように鋼管本体11の回転方向を反転させて掘削することが可能になる。
【0016】
なお、鋼管本体11への掘削ビット12の取り付け方法は、例えば溶接であってもよいし、ねじ止めなどの機械的な接合手段によるものであってもよい。また、図1に示された例において鋼管本体11の端面11Eと掘削ビット12の上端面とは一致しているが、例えば端面11Eに形成された溝または切り込みに掘削ビット12を嵌合させた上で接合したり、掘削ビット12の上端面に形成された溝または切り込みに鋼管本体11の端面11Eを含む端部を嵌合させた上で接合したり、端面11Eおよび掘削ビット12の上端面の両方に溝または切り込みを形成してこれらの溝または切り込みを互いに嵌合させた上で接合したりすることが可能である。この場合、鋼管本体11の端面11Eと掘削ビット12の上端面とは必ずしも一致しない。
【0017】
図2は、図1に示された鋼管杭における内側ビットと外側ビットとの関係について説明するための図である。図2に示されるように、対をなす内側ビット121と外側ビット122は、鋼管本体11の周方向について少なくとも部分的な重なりを有する。つまり、鋼管本体11の中心Cに視点を置いた場合、対をなす内側ビット121と外側ビット122とは少なくとも部分的に重なっている。なお、図2に示された例では、内側ビット121の取り付け角度と外側ビット122の取り付け角度とが等しいが、例えば図1の例や、以下で説明する図3以降の例のように、内側ビット121と外側ビット122との間で取り付け角度は異なっていてもよい。
【0018】
上述のように、鋼管杭10の先端を地盤に貫入させる際には掘削ビット12に大きな土圧が作用し、また地盤強度が高い支持層では大きな施工抵抗も掘削ビット12に作用する。この結果、掘削ビット12が変形することが想定される。これに対して、内側ビット121と外側ビット122とが鋼管本体11の周方向について重なりを有するように配置することによって、例えば鋼管杭10の外側から土圧を受けた外側ビット122を内側ビット121で支え、また鋼管本体11の接線方向に施工抵抗を受けた内側ビット121を外側ビット122で支えることができる。このようにして、本実施形態では掘削ビット12の変形を抑制することができる。なお、内側ビット121および外側ビット122の一方が他方を支えるという場合、例えば変形した一方のビットが他方のビットに接触してもよいし、ビット同士が接触しなくても、間に挟まれた土砂を介してビットが支えられていてもよい。
【0019】
また、本実施形態では、鋼管杭10を図1に示す反時計回り(CCW)に回転させながら掘削する工程では主に外側ビット122が掘削および土砂の押し出しを受け持つため、杭先端が支持層に到達する前の掘削工程における内側ビット121の摩耗を最小化し、その後に鋼管杭10を図1に示す時計回り(CW)に回転させながら支持層を掘削する工程において内側ビット121による掘削および土砂の取り込みの機能を十分に発揮させることができる。このように、本実施形態では、掘削ビット12の変形や摩耗を抑制することによって、土圧や施工抵抗に対抗して掘削ビット12による管内土の閉塞の抑制または促進の機能を維持することができる。
【0020】
なお、図1に示された例では内側ビット121による掘削領域R1が外側ビット122による掘削領域R2よりも大きいが、掘削領域R1,R2の大きさは同じであってもよい。鋼管杭10を図1に示す時計回り(CW)に回転させながら掘削する工程における施工抵抗による外側ビット122の変形を抑制する観点からは、内側ビット121による掘削領域R1は外側ビット122による掘削領域R2と同じか、より大きいことが望ましい。
【0021】
また、図2に示された例では、内側ビット121および外側ビット122が、鋼管杭10の先端側から見たときに、鋼管本体11の内側および外側の両方に突出している。このように、他の図に示された例では掘削ビットが鋼管本体11の外側にのみ突出している場合であっても、変形例として掘削ビットが鋼管本体11の内側および外側の両方に突出するか、または掘削ビットが鋼管本体11の内側にのみ突出する構成が可能である。内側ビット121と外側ビット122との間で、掘削ビットが鋼管本体11から突出する方向が異なっていてもよい。
【0022】
図3から図5は、本発明の実施形態に係る鋼管杭の他の例を示す図である。図3から図5に示された例において、鋼管本体11の周方向について互いに重なり合う内側ビット121および外側ビット122は、平面配置において互いに平行である。この場合、内側ビット121の取り付け角度θ1は、外側ビット122の取り付け角度θ2よりも大きくなる(θ1>θ2)。内側ビット121と外側ビット122とを平面配置において互いに平行にすることによって、土圧によって変形しようとする外側ビット122を内側ビット121で効果的に支えることができる。また、内側ビット121と外側ビット122とが平面配置において平行であることによって、鋼管本体11への掘削ビット12の取り付けが容易になる。
【0023】
図3に示された例では、内側ビット121の長さD1と外側ビット122の長さD2とが等しい(D1=D2)。図4に示された例では、図3の例に対して、外側ビット122を鋼管本体11の外側に延伸することによって、内側ビット121および外側ビット122の掘削領域Rがほぼ一致している。このとき、内側ビット121の長さD1よりも、外側ビット122の長さD2の方が長い(D1<D2)。図5に示された例では、図4の例に対して、外側ビット122の鋼管本体11の内側にあたる部分を短縮し、内側ビット121の長さD1よりも外側ビット122の長さD2の方が短くなっている(D1>D2)。このように、内側ビット121と外側ビット122との長さや取り付け位置、重なりの大きさについては様々な構成が可能である。
【0024】
図6は、本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。図6に示された鋼管杭20は、鋼管本体11と掘削ビット22とを含む。掘削ビット22は、上記の図1に示された例と同様の内側ビット121および外側ビット122と、単独で取り付けられる、すなわち鋼管本体11の周方向について他のビットとは重なり合わないビット222とを含む。図6に示された例において、ビット222は、外側ビット122と同様の取り付け角度および長さで取り付けられている。このように、掘削ビット22は必ずしも内側ビット121および外側ビット122の組だけによって構成されなくてもよく、それ以外の、単独で取り付けられるビット222を含んでもよい。
【0025】
図7から図10は、本発明の実施形態に係る鋼管杭のさらに別の例を示す図である。図7に示された例において、鋼管杭30の掘削ビット32は、上記で図1などを参照して説明した例と同様に鋼管本体11の周方向接線に対して角度をもって取り付けられ、鋼管本体11の周方向について少なくとも部分的な重なりを有する内側ビット321および外側ビット322を含む。加えて、図示された例では、内側ビット321および外側ビット322の先端面321E,322E、すなわち鋼管本体11の端面11Eとは反対側の端面に、鋼管本体11の径方向で内側から外側に向かって突出高さが高くなる傾斜が形成されている。
【0026】
上記のように内側ビット321および外側ビット322の先端面321E,322Eに傾斜を形成した場合、傾斜によって形成された内側ビット321および外側ビット322の先端部に応力を集中させることによって効率的に掘削することができる。これによって、ビットに作用する土圧を低減できるため、結果としてビットの変形も抑制できる。図示された例では内側ビット321および外側ビット322の先端面321E,322Eの両方に傾斜が形成されているが、いずれか一方の先端面のみに傾斜が形成されてもよい。
【0027】
図8に示された例において、鋼管杭30の掘削ビット32は、上記で図1などを参照して説明した例と同様に鋼管本体11の周方向接線に対して角度をもって取り付けられ、鋼管本体11の周方向について少なくとも部分的な重なりを有する内側ビット321Aおよび外側ビット322を含む。加えて、図示された例では、内側ビット321Aが、鋼管本体11の径方向で内側から外側に向かって厚くなるテーパー断面で形成されている。具体的には、内側ビット321Aは鋼管本体11の径方向内側において厚さt、外側で厚さtであり、厚さtは厚さtよりも大きい(t<t)。
【0028】
上記のように内側ビット122Bをテーパー断面で形成した場合、テーパー断面によって厚くなった内側ビット321Aの先端部に応力を集中させることによって効率的に掘削することができる。これによって、ビットに作用する土圧を低減できるため、結果としてビットの変形も抑制できる。なお、図示された例では内側ビット321Aのみがテーパー断面で形成されているが、内側ビット321Aおよび外側ビット322の両方がテーパー断面で形成されてもよく、外側ビット322のみがテーパー断面で形成されてもよい。また、図8の例と図7の例とを組み合わせ、内側ビット321または外側ビット322の先端面に傾斜を形成するとともに、内側ビット321または外側ビット322をテーパー断面で形成してもよい。
【0029】
図9に示された例において、鋼管杭40の掘削ビット42は、鋼管杭40を先端側から見たときにC字状になるように湾曲した板状の内側ビット421および外側ビット422を含む。この場合、掘削ビット42の取り付け角度θは、掘削ビット42の湾曲した板厚中心線LC32が鋼管本体11の管厚中心線LC11に交わる位置において、板厚中心線LC32の接線LT32と管厚中心線LC11の接線LT11とがなす角度である。内側ビット421および外側ビット422のそれぞれの取り付け角度(図1に示された例における角度θ1,θ2)についても同様に定義することができる。図9の例では、掘削ビット42が湾曲していることによって、鋼管杭40が反時計回り(CCW)で回転するときには鋼管本体11および掘削ビット42から離れる向きの土砂の流れを生み出しやすく、また鋼管杭40が時計回り(CW)で回転するときには鋼管本体11の内側に向かう土砂の流れを生み出しやすくなる。土砂の流れがスムーズになることによって、鋼管杭40を用いた掘削がより円滑になる。
【0030】
図10に示された例において、鋼管杭50の掘削ビット52は、鋼管杭50を先端側から見たときにS字状になるように湾曲した板状の内側ビット521および外側ビット522を含む。この場合、掘削ビット52の取り付け角度θは、掘削ビット52の湾曲した板厚中心線LC32が鋼管本体11の管厚中心線LC11に交わる位置において、掘削ビット52の両端の板厚中心を結ぶ直線LE32と管厚中心線LC11の接線LT11とがなす角度である。内側ビット521および外側ビット522のそれぞれの取り付け角度(図1に示された例における角度θ1,θ2)についても同様に定義することができる。図10の例では、図9の例と同様の土砂の流れが生み出しやすくなるのに加えて、鋼管杭50が時計回り(CW)に回転するときに鋼管本体11の内側に取り込まれた土砂が掘削ビット52から離れる向きの土砂の流れを生み出しやすくなる。図9の例と同様に、土砂の流れがスムーズになることによって、鋼管杭50を用いた掘削がより円滑になる。
【0031】
(鋼管杭の施工方法)
上記で説明したような本発明の実施形態および変形例に係る鋼管杭を用いて、例えば以下のような施工方法が実施可能である。なお、以下では図1に示された例の鋼管杭10を用いた施工方法について説明するが、他の例に係る鋼管杭20,30,40,50でも同様の施工方法が実施可能である。
【0032】
まず、鋼管杭10の先端(掘削ビット12の先端、または鋼管本体11の端面11E)が所定の深度に到達するまで、掘削ビット12が土砂を鋼管本体11の外側に押し出す第1の回転方向(図1に示す反時計回り(CCW))に鋼管杭10を回転させながら掘削する工程が実施される。その後、鋼管杭10の先端が打ち止め深さに到達するまで、掘削ビット12が土砂を鋼管本体11の内側に取り込む第2の回転方向(図1に示す時計回り(CW))に鋼管杭10を回転させながら掘削する工程が実施される。ここで、所定の深度は、例えば打ち止め深さに対して鋼管本体11の直径の1倍~5倍程度の距離だけ上方である。これによって、鋼管杭10の打ち止め時においては、鋼管杭10の下端部を取り込んだ土砂で閉塞させて、高い支持力を得ることができる。
【0033】
なお、上記の所定の深度と、地盤中の支持層の深さとの関係は任意である。つまり、所定の深度は、支持層の深さよりも深くてもよい。この場合、施工方法では、打ち止めの際に、鋼管杭10の先端を支持層に到達させてから、鋼管杭10を第2の回転方向に回転させることになる。あるいは、所定の深度は、支持層の深さよりも浅くてもよい。この場合、施工方法では、打ち止めの際に、鋼管杭10の先端が支持層に到達する直前から、鋼管杭10を第2の回転方向に回転させながら掘削し、鋼管杭10の先端が支持層に到達してから打ち止めることになる。
【0034】
また、施工方法において、鋼管杭10を第1の回転方向に回転させながら掘削する工程と、鋼管杭10を第2の回転方向に回転させながら掘削する工程とは、交互に実施されてもよい。つまり、鋼管杭10の先端が所定の深度に到達する前であっても、鋼管杭10を第2の回転方向に回転させながら掘削することは可能である。具体的には、例えば鋼管杭10の根入れが順調ではないような場合に、鋼管杭10の回転方向を交互に切り替えながら根入れし、最終的には鋼管杭10を第2の回転方向に回転させて打ち止めることが考えられる。この場合、所定の深度は、鋼管杭10が最後に第1の回転方向に回転させられた深度であり、例えば打ち止め深さと同程度の深さでありうる。例えば上記のような場合において、鋼管杭10の回転方向だけではなく、鋼管杭10の掘削(先端の下降)および後退(先端の上昇)を交互に実施してもよい。
【0035】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範囲内において、各種の変形例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。
【符号の説明】
【0036】
10,20,30,40,50…鋼管杭、11…鋼管本体、11E…端面、12,22,32,42,52…掘削ビット、121,321,421,521…内側ビット、122,322,422,522…外側ビット、222…単独で取り付けられるビット。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10