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特許7277729析出物識別方法、析出物情報取得方法およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】析出物識別方法、析出物情報取得方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/2045 20190101AFI20230512BHJP
   G01N 23/2251 20180101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N33/2045
G01N23/2251
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2019083933
(22)【出願日】2019-04-25
(65)【公開番号】P2020042004
(43)【公開日】2020-03-19
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018168458
(32)【優先日】2018-09-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】吉田 晋士
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 邦明
(72)【発明者】
【氏名】岡村 拓哉
(72)【発明者】
【氏名】荒井 勇次
【審査官】大瀧 真理
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-020253(JP,A)
【文献】特開2014-181951(JP,A)
【文献】国際公開第2014/171062(WO,A1)
【文献】特開2004-317203(JP,A)
【文献】特開平10-274650(JP,A)
【文献】特開2017-110968(JP,A)
【文献】国際公開第2016/199922(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 - 33/2045
G01N 23/2251
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
析出物を含む試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報において、前記析出物を識別する析出物識別方法であって、
前記3次元粗さ情報から、高さが閾値以上の領域を抽出する工程と、
抽出した前記領域を析出物として識別する工程と、
を備え
前記閾値は、
前記3次元粗さ情報から取得された高さと抽出される領域の面積率との関係と、所定の方法で取得された析出物の体積率とから、決定される、析出物識別方法。
【請求項2】
前記所定の方法は熱力学平衡計算である、
請求項に記載の析出物識別方法。
【請求項3】
前記所定の方法は析出物の抽出残渣分析結果をさらに参照する、
請求項に記載の析出物識別方法。
【請求項4】
前記3次元粗さ情報は、
鏡面研磨された後、エッチングされた試料表面の3次元粗さを測定して得られる、
請求項1から請求項3までのいずれか一つに記載の析出物識別方法。
【請求項5】
前記3次元粗さ情報は、前記試料表面を視野領域毎に3次元粗さを測定して、前記視野領域毎に得られ、
前記閾値は前記視野領域毎に決定されている、
請求項1から請求項までのいずれか一つに記載の析出物識別方法。
【請求項6】
前記試料は鋼材である、
請求項1から請求項までのいずれか一つに記載の析出物識別方法。
【請求項7】
前記析出物はセメンタイトである、
請求項1から請求項までのいずれか一つに記載の析出物識別方法。
【請求項8】
請求項1から請求項までのいずれか一つに記載の析出物識別方法により抽出された前記領域から、前記識別する工程で識別された前記析出物の大きさ、および、個数の少なくとも一方の情報を取得する工程、
を備える、析出物情報取得方法。
【請求項9】
コンピュータに、析出物を含む試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報において、前記析出物を識別させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記3次元粗さ情報から、高さが閾値以上の領域を抽出するステップと、
(b)抽出した前記領域を析出物として識別するステップと、
(d)前記3次元粗さ情報と、所定の方法で取得された析出物の体積率とから、閾値を決定するステップと、
を実行させ
前記ステップ(a)では、前記ステップ(d)で決定された閾値が用いられる、プログラム。
【請求項10】
コンピュータに、析出物を含む試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報において、前記析出物の情報を取得させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記3次元粗さ情報から、高さが閾値以上の領域を抽出するステップと、
(b)抽出した前記領域を析出物として識別するステップと、
(c)抽出した前記領域から、識別された前記析出物の大きさ、および、個数の少なくとも一方の情報を取得するステップと、
(d)前記3次元粗さ情報と、所定の方法で取得された析出物の体積率とから、閾値を決定するステップと、
を実行させ
前記ステップ(a)では、前記ステップ(d)で決定された閾値が用いられる、プログラム。
【請求項11】
前記ステップ(d)では、前記3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係と、所定の方法で取得された析出物の体積率とから、閾値を決定する、
請求項9または請求項10に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、析出物識別方法、析出物情報取得方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、油井環境の苛酷化、例えば、深井戸または腐食環境などにより、サワー環境(湿潤硫化水素環境)での硫化物応力腐食割れの耐久性(耐サワー性)がある耐サワー油井管の需要が増加している。耐サワー油井管は、耐サワー性と高強度との両立が課題であるが、高強度化に際し、耐サワー性が低下することが知られている。これは転位による影響と考えられている。そして、転位の移動は、析出物(介在物)が障害となっていることが考えられる。このため、析出物の情報を正確に得ることが、重要となっている。
【0003】
金属中の介在物を検査する方法は、例えば、特許文献1に開示されている。特許文献1に記載の検査方法は、単波長レーザ光源を使用した光学顕微鏡を用いて、鏡面研磨した鋼の表面(断面)を観察している。そして、観察した濃淡画像における鋼と介在物との輝度差と、立体画像における介在物と疵または空孔との高低差とに基づいて、介在物を識別している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2007-046997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1では、立体画像における介在物と、鋼表面に含まれる疵または空孔との高低差から、介在物を識別しているが、鋼の表面の凹凸状態によって、識別結果が変わることがある。この場合、1平面における介在物の情報を正確に得られないことがある。その結果、鋼材の強度に影響する原因の一つである、介在物の粒子間距離を正確に測定できないことがある。そこで、より正確に1平面における介在物の情報を得ることが望まれる。
【0006】
本発明は、試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報を用いて、1平面において析出物を識別できる析出物識別方法、析出物情報取得方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、析出物を含む試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報において、前記析出物を識別する析出物識別方法であって、前記3次元粗さ情報から、高さが閾値以上の領域を抽出する工程と、抽出した前記領域を析出物として識別する工程と、を備える。
【0008】
本発明は、コンピュータに、析出物を含む試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報において、前記析出物を識別させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記3次元粗さ情報から、高さが閾値以上の領域を抽出するステップと、
(b)抽出した前記領域を析出物として識別するステップと、
を実行させる。
【0009】
本発明は、コンピュータに、析出物を含む試料表面の3次元粗さを測定して得た3次元粗さ情報において、前記析出物の情報を取得させるプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記3次元粗さ情報から、高さが閾値以上の領域を抽出するステップと、
(b)抽出した前記領域を析出物として識別するステップと、
(c)抽出した前記領域から、識別された前記析出物の大きさ、および、個数の少なくとも一方の情報を取得するステップと、
を実行させる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、3次元粗さ情報を用いることで、1平面において、析出物を識別することができる。その結果、1平面上の析出物の大きさ、または、個数などの情報を正確に取得することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、走査電子顕微鏡により試料の3次元粗さ情報を取得する方法を説明するための図である。
図2図2は、走査電子顕微鏡が接続されるコンピュータの構成を示すブロック図である。
図3図3は、制御部が実行する処理の手順を示すフローチャートである。
図4図4は、析出物の識別における閾値の重要性について説明するための図である。
図5図5は、閾値ZthがZth1に決定された場合に識別される析出物を、平面座標(x、y)で表した図である。
図6図6は、閾値ZthがZth2に決定された場合に識別される析出物を、平面座標(x、y)で表した図である。
図7図7は、3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係を示す図である。
図8図8は、3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係と、体積分率と、から、閾値を求める方法を説明するための図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下に説明する析出物識別方法は、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により、試料表面の3次元粗さ測定を実施して得られた3次元粗さ情報から、析出物を識別する方法である。
【0013】
走査電子顕微鏡は、試料表面に対して電子(一次電子)を入射し、一次電子により試料表面で励起され発生した電子(二次電子)を検出することで、試料表面の凹凸情報を反映した像を取得する装置である。3次元粗さ測定とは、走査電子顕微鏡から試料表面に入射した一次電子の入射方向と、試料表面とのなす角によって、二次電子の発生量が変化することを利用し、試料表面の凹凸を座標情報として取得する手法である。
【0014】
図1は、走査電子顕微鏡10により試料1の3次元粗さ情報を取得する方法を説明するための図である。図1のx軸およびy軸は、試料1の表面に平行な方向を示す。z軸は、試料1の表面の法線方向を示す。
【0015】
試料1は鋼材であって、例えば油井管である。試料1は、走査電子顕微鏡10による測定前において、その表面が表面研磨される。試料1は平行平板に研磨されることが好ましい。その後、エッチング処理が施される。エッチング処理は、例えば、ピクラール(ピクリン酸とエタノールとの混合液)に短時間(例えば1分)浸漬されることで行われる。このエッチング処理において、試料1を極力浅く(例えば、0.1~1μm)腐食させることが好ましい。
【0016】
試料1には析出物が存在している。試料1の表面を鏡面研磨し、エッチング処理を施すと、母材は減肉するが析出物は残るので、析出物を試料1の表面に現出させることができる。これにより、試料1の表面は凹凸状となる。
【0017】
走査電子顕微鏡10は、照射部11と、検出部12と、制御部13と、を備えている。
【0018】
照射部11は、試料1の表面に対し電子線を照射する。検出部12は、照射部11から照射された電子線により発生した二次電子を検出する。本実施形態の走査電子顕微鏡10は、4つの検出部12を備えている。照射部11は、試料1の表面における所定の領域に対して、電子線をマトリクス状に走査する。4つの検出部12は、電子線が走査された所定の領域内の各ポイントで発生した二次電子を同時に検出する。以下の説明で、試料1の表面において、照射部11により電子線が走査される所定の領域を、「視野領域」と言う。視野領域は、x-y軸方向への試料1の移動、または、電子線の偏向と、観察倍率(走査電子顕微鏡10が取得する像の倍率)とによって決まる。
【0019】
制御部13は、照射部11に電子線を照射させる制御を行う。また、制御部13は、4つの検出部12が検出した二次電子の電子量から、試料1の表面の凹凸形状を反映した3次元粗さ情報を生成する。
【0020】
試料1の表面に対して複数の視野領域が設定される。そして、走査電子顕微鏡10によって、各視野領域の3次元粗さが測定される。制御部13は、3次元粗さを測定した視野領域毎に、3次元粗さ情報を生成する。3次元粗さ情報は、1つの視野領域における平面座標(x、y)と、高さ(z)との情報を含む。ここで、3次元粗さ情報は、必ずしも試料1の表面全面に対して生成されなくてもよい。例えば、3次元粗さ情報は、複数の視野領域が任意に選択され、その選択された視野領域から生成されてもよい。また、3次元粗さ情報に対して、試料1の表面の傾きの影響を取り除くため、周知の方法により、ベースライン補正またはレベリング処理等を施してもよい。
【0021】
図2は、走査電子顕微鏡10が接続されるコンピュータ20の構成を示すブロック図である。走査電子顕微鏡10により生成された3次元粗さ情報は、コンピュータ20に出力される。そして、コンピュータ20は、3次元粗さ情報から、試料1の析出物を識別し、析出物の情報を取得する。析出物には、炭化物または窒化物などがあるが、鉄の炭化物であるセメンタイトは、例えば、走査電子顕微鏡10に付属するエネルギー分散型X線分析装置(図示せず)を用いた化学組成分析では、炭素の検出が難しいため、母相と区別できない場合がある。このため、以下に説明するコンピュータ20の機能により、3次元粗さ情報から、セメンタイトを識別する。なお、以下に説明するコンピュータ20の機能は、走査電子顕微鏡10が備えていてもよい。
【0022】
コンピュータ20は、例えばパーソナルコンピュータである。コンピュータ20は、制御部21と、記憶部22と、入力部23とを備える。
【0023】
入力部23には走査電子顕微鏡10が接続される。走査電子顕微鏡10により生成された3次元粗さ情報は、入力部23からコンピュータ20へ入力される。なお、入力部23は、キーボードおよびマウスなど、ユーザの操作を受け付ける手段を含む。走査電子顕微鏡10により生成された3次元粗さ情報は、ユーザが手動で入力してもよい。また、コンピュータ20と、走査電子顕微鏡10とは接続されていなくてもよい。例えば、走査電子顕微鏡10に付属のコンピュータから、3次元粗さ情報をUSBメモリ等のリムーバブルメディアに取り出し、スタンドアローンのコンピュータ20に移すようにしてもよい。
【0024】
記憶部22は、例えば不揮発性メモリである。記憶部22には、プログラムPが記憶されている。制御部21は図示しないCPUを有する。制御部21は、記憶部22に記憶されているプログラムPを実行することによって、後述する、抽出処理、識別処理および情報取得処理などを実行する。
【0025】
また、記憶部22には、走査電子顕微鏡10で生成された3次元粗さ情報が記憶される。上記したように、試料1の表面には複数の視野領域が設定される。3次元粗さ情報は視野領域毎に生成される。記憶部22には、一の試料1の表面における全視野領域、または、任意の視野領域に対して生成された、複数の3次元粗さ情報が記憶される。
【0026】
プログラムPは、制御部21のCPUに、抽出処理、識別処理および情報取得処理などを実行させるためのコンピュータプログラムである。プログラムPは、コンピュータが読み取り可能に、記憶媒体100に記憶されていてもよい。この場合、図示しない読み出し装置によって記憶媒体100から読み出されたプログラムPが、記憶部22に記憶される。
【0027】
記憶媒体100は、光ディスク、フレキシブルディスク、磁気ディスク、磁気光ディスク、または半導体メモリ等である。また、図示しない通信網に接続されている図示しない外部装置からプログラムPをダウンロードし、ダウンロードしたプログラムPを記憶部22に記憶してもよい。
【0028】
以下に、制御部21が実行する処理について説明する。図3は、制御部21が実行する処理の手順を示すフローチャートである。以下の処理は、記憶部22に記憶してあるプログラムPに従って、制御部21によって実行される。
【0029】
制御部21は、記憶部22に記憶される3次元粗さ情報を取得する(S1)。次に、制御部21は抽出処理を実行する(S2)。抽出処理は、ステップS1で取得した3次元粗さ情報から、高さが閾値Zth以上の領域を抽出する処理である。抽出処理で用いられる閾値Zthの決定方法は、後述する。抽出処理で抽出される領域とは、3次元粗さ情報の平面座標(x、y)である。抽出処理では、制御部21は、3次元粗さ情報から、高さ(z)が閾値Zth以上である平面座標(x、y)を抽出する。
【0030】
続いて、制御部21は識別処理を実行する(S3)。識別処理は、抽出処理で抽出した領域を析出物として識別する処理である。上記のように、抽出処理では、高さ(z)が閾値Zth以上の平面座標(x、y)が抽出される。識別処理では、制御部21は、視野領域において、抽出された平面座標(x、y)に対応する領域を、析出物が存在する領域として識別する。
【0031】
続いて、制御部21は情報取得処理を実行する(S4)。情報取得処理は、抽出処理で抽出された領域から、識別処理で識別された析出物の大きさ(面積)、および、個数の少なくとも一方の情報を取得する処理である。上記したように、抽出処理で抽出される領域は、平面座標(x、y)である。制御部21は、抽出された平面座標(x、y)から、連続する平面座標(x、y)を一つのグループとし、その一グループを、ひとつの析出物として識別する。そして、制御部21は識別した析出物の数を計数する。これにより、析出物の個数を計数することができる。
【0032】
観察倍率、および、視野領域の1平面を分割した領域の数により、一の平面座標(x、y)あたりの面積(1ピクセルあたりの面積)が決定される。視野領域の面積、および、分割するピクセル数は、対象とする析出物の大きさに応じて、適宜決定すればよい。観察倍率は、例えば1万倍に設定されて、12μm×9μmの視野領域が選択される。この視野領域が、例えば「600×450」ピクセルに分割されると、前記一の平面座標(x、y)あたりの面積は0.0004μmとなる。制御部21は、一の平面座標(x、y)あたりの面積に、析出物とした一つのグループに含まれる平面座標(x、y)の数を乗算することで、一つの析出物の面積を算出する。これにより、析出物の大きさ(面積)を算出することができる。
【0033】
なお、情報取得処理では、制御部21は、析出物の大きさのみを取得してもよいし、析出物の個数のみを取得してもよい。または、析出物の大きさと個数との両方を取得してもよい。また、析出物の面積から、析出物の円相当径を算出してもよい。
【0034】
制御部21は、記憶部22に記憶される全3次元粗さ情報について、抽出処理、識別処理および情報取得処理を実行したかを判定する(S5)。全3次元粗さ情報について各処理を実行した場合(S5:YES)、制御部21は、本処理を終了する。全3次元粗さ情報について各処理を実行していない場合(S5:NO)、制御部21は、ステップS1に処理を戻す。そして、制御部21は、記憶部22に記憶される他の3次元粗さ情報について、ステップS1~S4の処理を繰り返す。
【0035】
次に、抽出処理で用いられる閾値Zthの決定方法について説明する。
【0036】
析出物を精度よく識別するために、閾値Zthは適切な値に決定する必要がある。図4は、析出物の識別における閾値Zthの重要性について説明するための図である。図4は、3次元粗さ情報から得られる、平面座標(x)と高さ(z)との断面を示す。図4において、識別すべき析出物1Aを、斜線領域で示す。
【0037】
図4を用いて、閾値Zthが、Zth1、Zth2、Zth3それぞれに決定された場合に識別される析出物について、説明する。この例では、Zth1が閾値Zthの適切値であるとし、Zth2<Zth1<Zth3の関係とする。また、閾値ZthがZth1に決定された場合に識別された析出物の平面座標(x)の長さを、「R1」で表す。閾値ZthがZth2に決定された場合に識別された析出物の平面座標(x)の長さを、「R2(<R1)」で表す。
【0038】
また、識別される析出物を、平面座標(x、y)で表した図を、図5および図6に示す。図5は、閾値ZthがZth1に決定された場合に識別される析出物を、平面座標(x、y)で表した図である。図6は、閾値ZthがZth2に決定された場合に識別される析出物を、平面座標(x、y)で表した図である。図5および図6において、識別された析出物を斜線領域で示す。
【0039】
閾値ZthがZth1に決定されている場合、抽出される平面座標(x、y)からは、図4において閾値Zth1の線よりも上の領域が、析出物として識別される。この場合、識別される領域は、析出物1Aである斜線領域とほぼ一致するため、析出物を精度よく識別できる。
【0040】
閾値ZthがZth2に決定されている場合、抽出される平面座標(x、y)からは、図4において閾値Zth2の線よりも上の領域が析出物として識別される。この場合、母相も析出物として識別され、析出物1Aである斜線領域よりも大きい領域が析出物として識別される。この場合に識別される析出物の面積(図6の斜線領域)は、閾値ZthがZth1に決定されている場合の析出物の面積(図5の斜線領域)よりも大きい。
【0041】
閾値ZthがZth3に決定されている場合、抽出される平面座標(x、y)からは、図4において閾値Zth3の線よりも上の領域が、析出物として識別される。この場合において、エッチング処理における腐食前には存在していたが、腐食によって抜け落ちた、図4の破線で示す析出物1Bの存在が問題となる。つまり、仮にその位置に析出物1Bが存在していたとすると、本来、閾値Zth3の高さにおける高さ(z)方向に垂直な断面には、析出物1Bが観察されるが、本実施形態で得られる、高さ(z)が閾値Zth3のときの平面座標(x、y)には、その析出物1Bが含まれない。このため、高さ(z)が閾値Zth3のときの平面座標(x、y)からは析出物の情報を正確に抽出できず、識別される析出物の数または面積は過小評価される。この析出物の数または面積の過小評価が生じる確率は、閾値Zthが大きいほど高くなる。
【0042】
このように、閾値Zthが小さすぎると、識別される析出物の面積を過大に評価する場合がある。一方、閾値Zthが大きすぎると、識別される析出物の面積、個数または、その両方を過小に評価する場合がある。そこで、本実施形態では、閾値Zthを適切に決定するため、3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係と、所定の方法で取得された析出物の体積率とから、閾値Zthを決定している。ここで、面積率とは、視野領域の面積に対する、高さ(z)を閾値とした場合に識別される析出物の面積の比率である。
【0043】
まず、3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係について説明する。
【0044】
図7は、3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係を示す図である。図7に示すグラフは、3次元粗さ情報から得られる3次元像を、平面座標(x、y)の平面に平行に切断したときの試料1の断面の面積率と、高さとの関係を示す。
【0045】
図7に示すグラフの情報は、1つの3次元粗さ情報から生成される。すなわち、各視野領域それぞれについて、図7に相当するグラフの情報が生成される。試料1の表面は凹凸を有しているが、高さ(z)が「0」である場合には、図7に示すように、断面における面積率は100%である。すなわち、高さ(z)が「0」である平面座標(x、y)は、各視野領域において最も凹んだ位置を含む領域に対応する。そして、高さ(z)が高くなるにつれ、断面における面積率は小さくなる。
【0046】
この図7に示すグラフの情報は、走査電子顕微鏡10で生成されてもよいし、コンピュータ20で生成されてもよい。または、図7に示すグラフの情報は、走査電子顕微鏡10およびコンピュータ20以外の外部装置で生成され、コンピュータ20に入力されてもよい。
【0047】
次に、析出物の体積率について説明する。
【0048】
析出物の体積率は、所定の方法で取得される。本実施形態では、所定の方法は、熱力学平衡計算であって、析出物の抽出残渣分析結果をさらに参照する方法である。具体的には、まず、試料1の一部を試験片として切り出し、析出物の体積率を評価するために、抽出残渣分析を行う。抽出残渣分析では、例えば、10%アセチルアセトン-1%テトラメチルアンモニウムクロライド-メタノールの電解液を用いて、0.2μmのフィルタでろ過した残渣を酸分解した後に、ICP測定を行う。ただし、析出物の体積率を取得する所定の方法は上記の方法に限定されず、周知の熱力学計算ソフトにより析出物の体積率を得る方法など、他の方法であってもよい。
【0049】
抽出残渣分析結果を用いて、セメンタイトの体積分率Vθを算出する。体積分率Vθは、以下の式で算出される。
θ=(析出物中に溶けていた各合金元素のモル分率の和)×(1/3)×(Vmθ/V
【0050】
上記式の「各合金元素のモル分率」は、抽出残渣分析結果から得られる。抽出残渣分析を行うことで、析出物中に溶けていた各合金元素の量を取得することができる。取得結果から、「析出物中の各合金元素の量/電解した全体量」、により、モル分率が得られる。Vmθは、セメンタイトのモル体積[m/mol]である。Vは、系全体のモル体積[m/mol]である。VmθおよびVはいずれも、周知の熱力学計算ソフトにより得ることができる。
【0051】
次に、図7に示すグラフの情報と、上記式で求めた体積分率Vθとから、閾値を求める。図8は、3次元粗さ情報から取得された高さと面積率との関係と、体積分率Vθとから、閾値を求める方法を説明するための図である。
【0052】
制御部21は、体積分率Vθを面積率として、その面積率に整合する高さ(z)を、図8に示すように、高さと面積率との関係から取得する。制御部21は、取得された高さ(z)を、閾値Zthとして決定する。このように決定した閾値Zthを用いて、制御部21は、上記の抽出処理を実行する。
【0053】
閾値Zthは、視野領域毎に、高さと面積率との関係と、析出物の体積率とから決定している。このため、すべての視野領域に対して、同じ閾値を用いた場合と比べて、試料1の表面にエッチング処理を施す際の腐食深さによって、析出物の識別結果が影響されることを抑制できる。
【0054】
以上のように、本実施形態によれば、閾値Zthを適切に決定することで、3次元粗さ情報における1平面中の析出物の情報を正確に得ることができる。その結果、1平面上の析出物の大きさ、または、個数などの情報を正確に取得することができる。
【0055】
また、析出物の面積から析出物の円相当径を算出できるため、平均粒子間距離λを、以下の式により算出できる。以下の式のVは析出物の体積率、dは析出物の直径である。平均粒子間距離λから、試料1の強度などの考察が行える。
【数1】
【符号の説明】
【0056】
1 試料
10 走査電子顕微鏡
11 照射部
12 検出部
13 制御部
20 コンピュータ
21 制御部
22 記憶部
23 入力部
100 記憶媒体
P プログラム
図1
図2
図3
図4
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図6
図7
図8