(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】誤差算出装置、荷電粒子線装置、誤差算出方法およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G01N 23/20058 20180101AFI20230512BHJP
G01N 23/2055 20180101ALI20230512BHJP
H01J 37/20 20060101ALI20230512BHJP
H01J 37/22 20060101ALI20230512BHJP
H01J 37/244 20060101ALI20230512BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
G01N23/20058
G01N23/2055 310
H01J37/20 A
H01J37/22 502H
H01J37/244
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2019165463
(22)【出願日】2019-09-11
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002044
【氏名又は名称】弁理士法人ブライタス
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】森 孝茂
(72)【発明者】
【氏名】網野 岳文
(72)【発明者】
【氏名】谷山 明
(72)【発明者】
【氏名】丸山 直紀
(72)【発明者】
【氏名】横山 千恵
【審査官】越柴 洋哉
(56)【参考文献】
【文献】再公表特許第2019/082976(JP,A1)
【文献】再公表特許第2018/221636(JP,A1)
【文献】特開2019-027938(JP,A)
【文献】特開2017-167118(JP,A)
【文献】特表2017-504032(JP,A)
【文献】特開2014-192037(JP,A)
【文献】特開2006-194743(JP,A)
【文献】特開2001-085299(JP,A)
【文献】特開平07-066253(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0369760(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 23/00 - G01N 23/2276
H01J 37/00 - H01J 37/36
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出する装置であって、
前記表面の選択された位置における結晶の方位情報を取得する方位情報取得部と、
前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、前記結晶が有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得する強度情報取得部と、
前記結晶の方位情報と、前記菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の前記入射方向との関係に基づいて、前記結晶の方位情報の誤差を算出する算出部と、を備える、
誤差算出装置。
【請求項2】
前記算出部によって算出された前記誤差に基づいて、前記結晶の方位情報の補正を行う補正部をさらに備える、
請求項1に記載の誤差算出装置。
【請求項3】
前記荷電粒子線装置を駆動制御する駆動制御部と、前記荷電粒子線装置に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う測定指示部とをさらに備え、
前記駆動制御部は、前記試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、前記荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行うことで、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させ、
前記測定指示部は、
前記駆動制御部が前記所定間隔だけ前記入射方向
を変化さ
せるごとに、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う、
請求項1または請求項2に記載の誤差算出装置。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれかに記載の誤差算出装置を備えた、
荷電粒子線装置。
【請求項5】
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出する方法であって、
(a)前記表面の選択された位置における結晶の方位情報を取得するステップと、
(b)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、前記結晶が有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(c)前記結晶の方位情報と、前記菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の前記入射方向との関係に基づいて、前記結晶の方位情報の誤差を算出するステップと、を備える、
誤差算出方法。
【請求項6】
(d)前記(c)のステップにおいて算出された前記誤差に基づいて、前記結晶の方位情報の補正を行うステップをさらに備える、
請求項5に記載の誤差算出方法。
【請求項7】
(e)前記荷電粒子線装置を駆動制御するステップと、
(f)前記荷電粒子線装置に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行うステップと、をさらに備え、
前記(e)のステップにおいて、前記試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、前記荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行うことで、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させ、
前記(f)のステップにおいて、
前記(e)のステップで前記所定間隔だけ前記入射方向
を変化さ
せるごとに、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う、
請求項5または請求項6に記載の誤差算出方法。
【請求項8】
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、
コンピュータによって、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出するプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記表面の選択された位置における結晶の方位情報を取得するステップと、
(b)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、前記結晶が有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(c)前記結晶の方位情報と、前記菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の前記入射方向との関係に基づいて、前記結晶の方位情報の誤差を算出するステップと、を実行させる、
プログラム。
【請求項9】
(d)前記(c)のステップにおいて算出された前記誤差に基づいて、前記結晶の方位情報の補正を行うステップをさらに備える、
請求項8に記載のプログラム。
【請求項10】
(e)前記荷電粒子線装置を駆動制御するステップと、
(f)前記荷電粒子線装置に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行うステップと、をさらに備え、
前記(e)のステップにおいて、前記試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、前記荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行うことで、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させ、
前記(f)のステップにおいて、
前記(e)のステップで前記所定間隔だけ前記入射方向
を変化さ
せるごとに、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う、
請求項8または請求項9に記載のプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は誤差算出装置、それを備えた荷電粒子線装置、誤差算出方法およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
走査電子顕微鏡(SEM:Scanning Electron Microscope)は、加速された電子線を収束して電子線束として、試料表面上を周期的に走査しながら照射し、照射された試料の局所領域から発生する反射電子および/または二次電子等を検出して、それらの電気信号を材料組織像として変換することによって、材料の表面形態、結晶粒および表面近傍の転位などを観察する装置である。
【0003】
真空中で電子源より引き出された電子線は、直ちに1kV以下の低加速電圧から30kV程度の高加速電圧まで、観察目的に応じて異なるエネルギーで加速される。そして、加速された電子線は、コンデンサレンズおよび対物レンズ等の磁界コイルによって、ナノレベルの極微小径に集束されて電子線束となり、同時に偏向コイルによって偏向することで、試料表面上に収束された電子線束が走査される。また、最近では電子線を集束するに際して、電界コイルも組み合わせるような形式も用いられる。
【0004】
従来のSEMにおいては、分解能の制約から、二次電子像によって試料の表面形態を観察し、反射電子像によって組成情報を調べることが主要機能であった。しかしながら、近年、加速された電子線を、高輝度に維持したまま直径数nmという極微小径に集束させることが可能になり、非常に高分解能な反射電子像および二次電子像が得られるようになってきた。
【0005】
従来、格子欠陥の観察は透過電子顕微鏡(TEM:Transmission Electron Microscope)を用いるのが主流であった。しかし、前記のような高分解能SEMにおいても反射電子像を活用した電子チャネリングコントラストイメージング(ECCI)法を用いることによって、結晶材料の極表面(表面からの深さ約100nm程度)ではあるが、試料内部の格子欠陥(以下では、「内部欠陥」ともいう。)の情報を観察できるようになってきた(非特許文献1および2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2006-194743号公報
【文献】特開2016-139513号公報
【文献】特開2018-022592号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】日本電子News Vol.43,(2011)p.7-12
【文献】顕微鏡 Vol.48,No.3(2013)p.216-220
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところで、SEM-ECCI法によって結晶性材料を観察すると、結晶方位の違いにより観察像の明暗が大きく変化する。そして、特定の結晶方位において、観察像は最も暗くなる。このような条件は、電子チャネリング条件(以下では、単に「チャネリング条件」ともいう)と呼ばれる。上記のチャネリング条件は、試料に対する電子線の入射方向の調整によって満足するようになる。
【0009】
SEMにおいて入射電子線と所定の結晶面とのなす角が変化すると、反射電子強度が変化する。そして、入射電子線と所定の結晶面とのなす角が特定の条件を満足する際に、入射電子線が結晶奥深くまで侵入し反射しづらくなり、反射電子強度が最小となる。この条件がチャネリング条件である。
【0010】
また、同じ条件であっても、転位または積層欠陥等の格子欠陥があり結晶面が局所的に乱れている部分では、一部の電子線が反射することにより反射電子強度は高くなる。その結果、背景と格子欠陥とのコントラストが強調され、内部欠陥を識別して観察できるようになる。
【0011】
このような格子欠陥に起因するコントラストを観察するためには、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報(以下、単に「結晶の方位情報」ともいう。)を把握する必要がある。SEMには、結晶方位を解析するための電子後方散乱回折(EBSD:Electron Back Scatter Diffraction)装置が、付加的に搭載されていることが多く、これによりEBSDパターンを取得することが可能になる。
【0012】
背景に対して強いコントラストを持つ格子欠陥像を取得するためには、EBSDにより得られたEBSDパターンから解析された結晶方位を考慮して、チャネリング条件を満足するように試料を傾斜させ、反射電子像を観察することが有効である。
【0013】
ここで、EBSDパターンを取得するためには、試料をSEM内で70°程度まで大きく傾斜させる必要がある。SEMによって反射電子像を得るための反射電子検出器の幾何配置として、EBSD検出器の直下に配置する前方散乱配置と、電子銃直下に配置する後方散乱配置とがある。前方散乱配置では、試料をSEM内で70°程度まで大きく傾斜させた状態で反射電子像を得ることができるが、入射電子線の収差が大きいため高分解能像を得ることができない。
【0014】
一方、後方散乱配置では、内部欠陥を反映した高分解能像を得ることができるが、反射電子像の取得とEBSDによるEBSDパターンの取得が同時に行えないという問題がある。また、反射電子像とEBSDパターンとを交互に取得する場合も、そのたびに試料を大きく傾斜する必要が生じる。
【0015】
この際、試料台の傾斜精度、またはEBSD検出器のキャリブレーション等の問題により、試料表面とEBSD検出器との位置関係が適切な位置からずれ、取得される試料表面における結晶の方位情報に誤差が生じる場合がある。特に、格子欠陥に起因するコントラストは、わずかな傾斜角度の変化に対して敏感に変化する。そのため、方位情報の誤差は大きな問題となる。
【0016】
一般的に、上記の誤差を補正するために、結晶方位情報が既知の試料の測定を行い、その結果に基づき試料台の傾斜角度を調整する方法が用いられている(例えば、特許文献1を参照。)。
【0017】
しかし、EBSDによる測定時においては、試料台がすでに70°程度傾いており、これ以上の傾斜が困難である場合があるため、試料台の傾斜角度の調整による誤差の補正には限界がある。また、EBSD検出器についても、その位置または角度を変更することは容易でない。
【0018】
一方、後方散乱配置において反射電子像を撮影する際に結晶の方位情報の誤差を求めることが可能であれば、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に基づいて方位情報を計算によって補正することが容易となる。
【0019】
本発明は、SEM等の荷電粒子線装置において、結晶の方位情報の誤差を算出することを可能にするための誤差算出装置、それを備えた荷電粒子線装置、誤差算出方法およびプログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、上記の課題を解決するためになされたものである。
【0021】
本発明の一実施形態に係る誤差算出装置は、
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出する装置であって、
前記表面の選択された位置における結晶の方位情報を取得する方位情報取得部と、
前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、前記結晶が有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得する強度情報取得部と、
前記結晶の方位情報と、前記菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の前記入射方向との関係に基づいて、前記結晶の方位情報の誤差を算出する算出部と、を備えることを特徴とする。
【0022】
また、本発明の一実施形態に係る誤差算出方法は、
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出する方法であって、
(a)前記表面の選択された位置における結晶の方位情報を取得するステップと、
(b)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、前記結晶が有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(c)前記結晶の方位情報と、前記菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の前記入射方向との関係に基づいて、前記結晶の方位情報の誤差を算出するステップと、を備えることを特徴とする。
【0023】
また、本発明の一実施形態に係るプログラムは、
試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置に用いられ、前記荷電粒子線装置によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出するプログラムであって、
前記コンピュータに、
(a)前記表面の選択された位置における結晶の方位情報を取得するステップと、
(b)前記試料に対する前記荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、前記結晶が有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得するステップと、
(c)前記結晶の方位情報と、前記菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の前記入射方向との関係に基づいて、前記結晶の方位情報の誤差を算出するステップと、を実行させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、SEM等の荷電粒子線装置において、結晶の方位情報の誤差を算出することができる。その結果、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に基づいて方位情報を補正することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る誤差算出装置の概略構成を示す図である。
【
図3】菊池マップと実格子の模式図の対応を説明するための概念図である。
【
図4】電子線の入射方向と反射電子強度との関係を説明するための図である。
【
図5】本発明の一実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【
図6】本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【
図7】本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【
図8】本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【
図9】本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【
図10】本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【
図11】本発明の他の実施形態における誤差算出装置の構成を具体的に示す構成図である。
【
図12】試料台を傾斜させることで、試料に対する荷電粒子線の入射方向を所定角度傾斜させる方法を説明するための図である。
【
図13】荷電粒子線の試料表面における入射位置を固定した状態で、荷電粒子線を放出する位置を変化させることで、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変更する方法を説明するための図である。
【
図14】荷電粒子線の試料表面における入射位置を固定した状態で、試料を所定方向に移動させることで、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変更する方法を説明するための図である。
【
図16】本発明の一実施形態に係る誤差算出装置の動作を示すフロー図である。
【
図17】本発明の実施の形態における誤差算出装置を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の実施の形態に係る誤差算出装置、荷電粒子線装置、誤差算出方法およびプログラムについて、
図1~17を参照しながら説明する。
【0027】
[誤差算出装置の構成]
図1は、本発明の一実施形態に係る誤差算出装置を備えた荷電粒子線装置の概略構成を示す図である。本発明の一実施形態に係る誤差算出装置10は、試料の表面に荷電粒子線を入射させる荷電粒子線装置100に用いられ、荷電粒子線装置100によって得られる結晶の方位情報の誤差を算出する装置である。
【0028】
なお、本明細書において、「入射方向」とは、試料に対する荷電粒子線の入射方向を意味するものとする。荷電粒子線には、電子線等が含まれる。また、荷電粒子線装置100には、SEM等が含まれる。
【0029】
誤差算出装置10は、荷電粒子線装置100に直接組み込まれていてもよいし、荷電粒子線装置100に接続された汎用のコンピュータ等に搭載されていてもよい。さらに、誤差算出装置10は、荷電粒子線装置100とは接続されていない汎用のコンピュータ等に搭載されていてもよい。
【0030】
また、
図1に示すように、本発明の一実施形態に係る誤差算出装置10は、方位情報取得部1と、強度情報取得部2と、算出部3とを備える。
【0031】
方位情報取得部1は、試料表面の選択された位置(以下の説明において、「位置A」ともいう。)における結晶(以下の説明において、「結晶A」ともいう。)の方位情報を取得する。なお、結晶の方位情報とは、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報のことである。ここで、試料座標系とは、試料に固定された座標系であり、結晶座標系とは、結晶格子に固定された座標系である。
【0032】
結晶の方位情報は、誤差算出装置10を備えた荷電粒子線装置100により、EBSD法、透過EBSD法、電子チャネリングパターン(ECP:Electron Channeling Pattern)等を用いた点分析またはマッピング分析等を行うことによって取得することができる。また、結晶の方位情報には、試料座標系に対する結晶座標系の回転を表す方位情報を含む数値データ、および実測されたEBSDパターン、電子チャネリングパターンまたは電子回折図形の画像データが含まれる。
【0033】
上記の数値データには、例えば、結晶方位をロドリゲスベクトル等の回転ベクトルに変換したデータ、および、結晶方位を試料表面上の仮想的な直交座標系を基準としたオイラー角等で表される回転行列に変換したデータ等が含まれる。さらに、数値データへの変換は、方位情報取得部1が行ってもよいし、外部の装置が行ってもよい。なお、本発明において、「数値データ」は、数値の集合によって表わされるデータを意味するものとする。
【0034】
一方、実測されたEBSDパターン、電子チャネリングパターンまたは電子回折図形の画像データは、上述したEBSD、ECP、TEM等により撮像することができる。画像データは、試料表面の所定の領域において撮像された複数の画像データであってもよいし、位置Aにおいて撮像された1つの画像データであってもよい。また、画像データとしては、例えば、ビットマップ(BMP)形式、JPEG形式、GIF形式、PNG形式、TIFF形式等のデータが含まれる。
【0035】
また、強度情報取得部2は、試料に対する荷電粒子線の入射方向を変化させながら測定された、結晶Aが有する少なくとも2つの結晶面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度に関する情報を取得する。そして、算出部3は、結晶の方位情報と、菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の入射方向との関係に基づいて、結晶の方位情報の誤差を算出する。
【0036】
なお、反射電子強度に関する情報としては、例えば、反射電子強度の数値データ、反射電子像の画像データが含まれる。以下の説明において、反射電子強度に関する情報を単に「反射電子強度」ともいう。
【0037】
結晶の方位情報と、菊池バンドに対応する反射電子強度に関する情報が測定された際の入射方向との関係に基づいて、結晶の方位情報の誤差が算出されるメカニズムについて、詳しく説明する。
【0038】
図2は、結晶の方位情報を解析することで生成される結晶方位図の一例を示した図である。結晶方位図は、測定対象となる結晶、すなわち結晶Aの結晶座標系に対する、荷電粒子線の入射方向を表す図である。
【0039】
結晶方位図としては、指数付けされた菊池マップ(以降の説明において、単に「菊池マップ」ともいう。)、結晶面のステレオ投影図、実格子の模式図、計算された電子回折図形が挙げられる。
図2(a),2(b)は、菊池マップの一例を示す図であり、
図2(c),2(d)は、実格子の模式図の一例を示す図である。また、
図3は、菊池マップと実格子の模式図の対応を説明するための概念図である。
【0040】
図2(a),2(c),3(a)に示す状態では、結晶が有する[001]晶帯軸の方向と荷電粒子線CBの入射方向が平行となっている。なお、
図2(a),2(b)における荷電粒子線CBの入射方向は図中央の十字印で示されており、
図2(c),2(d)における荷電粒子線CBの入射方向は紙面垂直方向である。一方、
図3(b)に模式的に示されるように、結晶が荷電粒子線CBの入射方向に対して回転すると、菊池マップおよび実格子の模式図は、
図2(b),2(d)に示す状態に変化する。
【0041】
図2(a),2(b)に示すように、結晶Aが有する各結晶面に対応して2本ずつ菊池線が生成される。この2本の菊池線をまとめて菊池バンドと称する。ここでは、各結晶面の菊池線を各結晶面のブラッグの法則を満たす角度に描いている。
【0042】
図4は、電子線の入射方向と反射電子強度との関係を説明するための図である。電子線の入射方向を
図4(a)に示すBからCへと連続的に変化させながら反射電子強度を測定した場合に、
図4(b)に模式的に示すような結果が得られる。
図4(b)に示すように、反射電子強度は、入射方向が数度程度変化しただけでも急激に変化する。そして、菊池バンドの外側において、反射電子強度が極小値を示し、チャネリング条件を満足する一対の入射角度が存在することが分かる。
【0043】
すなわち、理論上、結晶の方位情報から求められる所定の菊池バンドに対応する結晶面に平行な方向と、チャネリング条件を満足する入射角度の中心となる入射方向は一致するはずである。しかしながら、取得された結晶の方位情報に誤差が含まれる場合には、この関係が成り立たなくなり、両者の間にずれが生じる。そのことを利用し、2つ以上の結晶面の菊池バンドについて、菊池バンドに対応する結晶面に平行な方向と、チャネリング条件を満足する入射角度の中心となる入射方向とを比較することで、結晶の方位情報の誤差を算出することが可能となる。
【0044】
図5は、本発明の一実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。例えば、
図5(a)に示すように、電子線の入射方向をDからEに連続的に変化させながら反射電子強度を測定した結果、電子線の入射方向がf
1~f
4に示す方向のそれぞれにおいてチャネリング条件を満足し、反射電子強度が極小値を有していたとする。この場合、f
1およびf
2における反射電子強度が(200)面の菊池バンドに対応し、f
3およびf
4における反射電子強度が(1-10)面の菊池バンドに対応する。
【0045】
(200)面および(1-10)面は、それぞれf
1およびf
2の中心(F
1-2)、ならびにf
3およびf
4の中心(F
3-4)を通るはずである。そのことから、
図5(b)において点線および一点鎖線で示すような、菊池マップを生成することができる。そして、得られた結晶の方位情報に基づいて生成された菊池マップと、F
1-2およびF
3-4を通るように生成された菊池マップとを比較することにより、結晶の方位情報の誤差を算出することができる。
【0046】
なお、上記の説明では理解のし易さの観点から菊池マップを用いて説明しているが、計算上は菊池マップを生成する必要はなく、結晶の方位情報と、(200)面および(1-10)面の菊池バンドに対応する反射電子強度が測定された際の入射方向であるf1~f4の方向に基づいて、結晶の方位情報の誤差を算出することが可能である。
【0047】
結晶の方位情報の誤差を算出する方法の一例を、
図5を用いて説明する。
図5の試料座標系の各座標軸周りの回転角度で表される空間において、菊池バンドに対応する結晶面は一次関数で表すことができる。現在の入射方向において、結晶の方位情報から
図5(a)の(200)面および(1-10)面のそれぞれの結晶面を一次関数で表す。
【0048】
続いて、
図5(a)に示すチャネリング条件を満たすf
1~f
4の座標を用いて、(200)の結晶面を表す一次関数が通るはずの座標F
1-2、および(1-10)の結晶面を表す一次関数が通るはずの座標F
3-4を計算する。
【0049】
誤差補正量(δx,δy)を(200)の結晶面を表す一次関数、および(1-10)の結晶面を表す一次関数に導入し、(200)面および(1-10)面のそれぞれの結晶面を表す一次関数を
図5(b)に示すように平行移動させる。平行移動後の(200)面を表す一次関数がF
1-2を通り、平行移動後の(1-10)面を表す一次関数がF
3-4を通るとして代入し、連立方程式を(δx,δy)について解く。なお、連立方程式は、解析解として求めてもよいし、数値解として求めてもよい。
【0050】
上記の実施形態においては、結晶方位図上において平行移動する方向にのみ、誤差が生じる場合を説明した。しかしながら、結晶方位図上において回転移動する方向に誤差が生じる場合も想定される。そのような場合には、例えば、以下に説明するような方法により誤差補正量を算出することが可能である。
【0051】
本発明の他の実施形態においては、2つの結晶面に対応する菊池バンドを横切るように反射電子強度の測定を2回行う。
図6および7は、本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。なお、
図6および7において、座標の原点に示される×印は、現在の電子線の入射方向を表している。
【0052】
例えば、
図6(a)に示すように、電子線の入射方向をG
1からH
1およびG
2からH
2に連続的に変化させながら反射電子強度を測定した結果、電子線の入射方向がi
1~i
8に示す方向のそれぞれにおいてチャネリング条件を満足し、反射電子強度が極小値を有していたとする。この場合、i
1、i
2、i
5およびi
6における反射電子強度が結晶面αの菊池バンドに対応し、i
3、i
4、i
7およびi
8における反射電子強度が結晶面βの菊池バンドに対応する。
【0053】
結晶面αは、i
1およびi
2の中心(I
1-2)、ならびにi
5およびi
6の中心(I
5-6)を通るはずであり、結晶面βは、i
3およびi
4の中心(I
3-4)、ならびにi
7およびi
8の中心(I
7-8)を通るはずである。そのことから、
図6(b)において点線および一点鎖線で示すような、菊池マップを生成することができる。そして、得られた結晶の方位情報に基づいて生成された菊池マップと、I
1-2およびI
5-6、ならびにI
3-4およびI
7-8を通るように生成された菊池マップとを比較することにより、結晶の方位情報の誤差を算出することができる。
【0054】
回転移動を考慮した場合における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法の一例を、
図7を用いて説明する。上述の方法と同様に、現在の入射方向において、結晶の方位情報から
図7(a)の結晶面αおよび結晶面βのそれぞれを一次関数で表す。加えて、
図7(a)に示すように、結晶面αの法線方向n
α,calcおよび結晶面βの法線方向n
β,calcを求める。なお、図中では法線ベクトルnの上には記号「→」を付しており、本明細書中においては当該記号を省略しているが、両者は同一である。
【0055】
続いて、チャネリング条件を満たすi
1~i
8の座標を用いて、
図7(a)に示すように、I
1-2およびI
5-6を通る面の法線方向n
α,exp、ならびにI
3-4およびI
7-8を通る面の法線方向n
β,expを計算する。そして、n
α,calcおよびn
α,expから結晶面αの回転量θ
αを求め、n
β,calcおよびn
β,expから結晶面βの回転量θ
βを求める。理想的には回転方向における補正量である回転量θは、θ=θ
α=θ
βとなるはずであるが、θ=(θ
α+θ
β)/2として算出してもよい。
【0056】
次に、
図7(b)に示すように、結晶面αおよび結晶面βのそれぞれの一次関数を、以上の手順により求めたθを用いて回転することで補正する。そして、上述と同じ手順により、誤差補正量(δx,δy)を回転後の結晶面αを表す一次関数、および回転後の結晶面βを表す一次関数に導入し、結晶面αおよび結晶面βのそれぞれを表す一次関数を
図7(b)に示すように平行移動させる。平行移動後の結晶面αを表す一次関数がI
1-2またはI
5-6を通り、平行移動後の結晶面βを表す一次関数がI
3-4またはI
7-8を通るとして代入し、連立方程式を(δx,δy)について解く。上記と同様に、連立方程式は、解析解として求めてもよいし、数値解として求めてもよい。
【0057】
以上の手順により、回転移動も考慮した誤差補正量(δx,δy,θ)が求まる。なお、以上の実施形態では、結晶面αおよび結晶面βに対応する菊池バンドの両方を横切るように反射電子強度の測定を2回行っている。しかしながら、上述のように、回転方向における補正量である回転量θは、θ=θα=θβとなるはずであるから、反射電子強度の測定を2回行うのは、結晶面αおよび結晶面βに対応する菊池バンドのいずれかのみであってもよい。
【0058】
例えば、
図8に示すように、結晶面αおよび結晶面βに対応する菊池バンドを横切るように電子線の入射方向をJ
1からK
1に連続的に変化させながら反射電子強度を測定し、さらに結晶面βに対応する菊池バンドのみを横切るように電子線の入射方向をJ
2からK
2に連続的に変化させながら反射電子強度を測定してもよい。これにより、チャネリング条件を満足し、反射電子強度が極小値となる電子線の入射方向l
1~l
6を求めることができる。
【0059】
また、
図9に示すように、結晶面αに対応する菊池バンドのみを横切るように電子線の入射方向をM
1からN
1に連続的に変化させながら反射電子強度を測定し、さらに結晶面βに対応する菊池バンドのみを横切るように電子線の入射方向をM
2からN
2およびM
3からN
3に連続的に変化させながら反射電子強度を測定してもよい。これにより、チャネリング条件を満足し、反射電子強度が極小値となる電子線の入射方向o
1~o
6を求めることができる。
【0060】
さらに、本発明の他の実施形態においては、3つの結晶面に対応する菊池バンドを横切るように反射電子強度の測定を行う。
図10は、本発明の他の実施形態における、結晶の方位情報の誤差を算出する方法を説明するための図である。
【0061】
例えば、
図10(a)に示すように、電子線の入射方向をPからQに連続的に変化させながら反射電子強度を測定した結果、電子線の入射方向がr
1~r
6に示す方向のそれぞれにおいてチャネリング条件を満足し、反射電子強度が極小値を有していたとする。この場合、r
1およびr
2における反射電子強度が結晶面αの菊池バンドに対応し、r
3およびr
4における反射電子強度が結晶面βの菊池バンドに対応し、r
5およびr
6における反射電子強度が結晶面γの菊池バンドに対応する。
【0062】
結晶面αは、r
1およびr
2の中心(R
1-2)を通るはずであり、結晶面βは、r
3およびr
4の中心(R
3-4)を通るはずであり、結晶面γは、r
5およびr
6の中心(R
5-6)を通るはずである。そのことから、
図10(b)において点線および一点鎖線で示すような、菊池マップを生成することができる。そして、得られた結晶の方位情報に基づいて生成された菊池マップと、R
1-2、R
3-4およびR
5-6を通るように生成された菊池マップとを比較することにより、結晶の方位情報の誤差を算出することができる。
【0063】
結晶の方位情報の誤差を算出する方法の一例を、
図10を用いて説明する。現在の入射方向において、結晶の方位情報から
図10(a)の結晶面α、結晶面βおよび結晶面γのそれぞれを一次関数で表す。続いて、
図10(a)に示すチャネリング条件を満たすr
1~r
6の座標を用いて、結晶面αを表す一次関数が通るはずの座標R
1-2、結晶面βを表す一次関数が通るはずの座標R
3-4および結晶面γを表す一次関数が通るはずの座標R
5-6を計算する。
【0064】
誤差補正量(δx,δy,θ)を、結晶面αを表す一次関数、結晶面βを表す一次関数および結晶面γを表す一次関数に導入し、結晶面α、結晶面βおよび結晶面γのそれぞれを表す一次関数を
図10(b)に示すように移動させる。移動後の結晶面αを表す一次関数がR
1-2を通り、移動後の結晶面βを表す一次関数がR
3-4を通り、移動後の結晶面γを表す一次関数がR
5-6を通るとして代入し、連立方程式を(δx,δy,θ)について解く。連立方程式は、数値解として求めてもよい。
【0065】
図11は、本発明の他の実施形態における誤差算出装置の構成を具体的に示す構成図である。
図11に示すように、本発明の他の実施形態に係る誤差算出装置10は、補正部4をさらに備えてもよい。
【0066】
補正部4は、算出部3によって算出された誤差に基づいて、結晶の方位情報の補正を行う。補正方法については特に制限はなく、例えば、結晶の方位情報がオイラー角等で表される回転行列である場合には、上記の回転行列に行列として求めた誤差を掛け合わせ、所定の軸周りに回転させることで補正することが可能となる。
【0067】
図11に示すように、本発明の他の実施形態に係る誤差算出装置10は、荷電粒子線装置100を駆動制御する駆動制御部5と、荷電粒子線装置100に対して、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う測定指示部6をさらに備えてもよい。
【0068】
駆動制御部5は、荷電粒子線装置100が備える試料台に対して、試料の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するか、荷電粒子線装置100に対して、荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するよう指示するかの少なくとも一方を行うことで、予め設定された所定の角度範囲で、予め設定された所定間隔ずつ前記入射方向を変化させる。
【0069】
具体的には、駆動制御部5は、例えば、
図5に示すような菊池マップを参照しながら入射方向が(200)面および(1-10)面の菊池バンドを横切るよう、DからEまでの角度範囲において、0.2°間隔で入射方向を変化させる。
図5に示す例では、2つの菊池バンドを横切る1つの線上で測定を行っているが、
図6に示すように、2つの菊池バンドを横切る2つの線上で測定を行ってもよい。また、
図10に示すように、3つの菊池バンドを横切る1つの線上で測定を行ってもよい。
【0070】
なお、試料台への指示は、荷電粒子線装置100が備える試料台駆動装置を介して行ってもよいし、外部の試料台駆動装置を介して行ってもよい。
【0071】
試料台が駆動制御部5からの指示に応じて試料の傾斜方向および傾斜量を変更することによって、試料に対する荷電粒子線の入射方向を制御する場合において、試料の傾斜方向および傾斜量を変更する方法については特に制限は設けない。例えば、
図12に示すように、試料台240を
図12(a)の状態から
図12(b)の状態へと傾斜させることで、試料Sに対する荷電粒子線CBの入射方向を所定角度傾斜させることができる。試料に対する荷電粒子線の入射方向の制御は、汎用的な荷電粒子線装置100に付属の試料台の駆動機構を適宜組み合わせることで行ってもよいし、特許文献2または特許文献3に開示される機構を備えた試料台を適用してもよい。
【0072】
また、荷電粒子線装置100が駆動制御部5からの指示に応じて荷電粒子線の入射方向を変更することによって、試料に対する荷電粒子線の入射方向を制御する場合において、荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更する方法についても特に制限は設けない。例えば、
図13に示す荷電粒子線と試料台との駆動機構のように、荷電粒子線CBの試料Sの表面における入射位置を固定した状態で、荷電粒子線CBを放出する位置を
図13(a)の状態から
図13(b)の状態へと変化させることで、荷電粒子線CBの傾斜方向および傾斜量を変更することができる。または、
図14に示すように、荷電粒子線CBの試料Sの表面における入射位置を固定した状態で、荷電粒子線装置100に付属の試料台240を
図14(a)の位置から
図14(b)の位置へと移動させることによっても、荷電粒子線CBの傾斜方向および傾斜量を変更することができる。
【0073】
そして、測定指示部6は、入射方向が所定間隔変化されるごとに、反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う。すなわち、上記の例では、DからEまでの角度範囲において、0.2°間隔で入射方向を変化させるごとに、それぞれ反射電子強度に関する情報を測定するよう指示を行う。
【0074】
誤差算出装置10は、駆動制御部5および測定指示部6を備えることにより、所定の角度範囲において、複数の反射電子強度に関する情報を自動で測定するよう制御することが可能となる。
【0075】
[試料台の構成]
本発明の一実施形態に係る試料台は、駆動制御部5からの指示に応じて試料の傾斜方向および傾斜量を変更することが可能な構成を有するものである。荷電粒子線装置に内蔵されている試料台でもよいし、外付けの試料台でもよい。また、荷電粒子線装置に内蔵されている試料台と外付けの試料台とを組み合わせてもよい。
【0076】
[荷電粒子線装置の構成]
本発明の一実施形態に係る荷電粒子線装置100は、誤差算出装置10および本体部20を備え、本体部20が駆動制御部5からの指示に応じて試料に対する荷電粒子線の傾斜方向および傾斜量を変更するとともに、測定指示部6からの指示に応じて反射電子強度に関する情報を測定することが可能な構成を有するものである。
【0077】
本発明の実施の形態に係る誤差算出装置を備えた荷電粒子線装置の構成について、さらに具体的に説明する。
【0078】
荷電粒子線装置100としてSEM200を用いる場合を例に説明する。
図15は、SEM200の一例を模式的に示した図である。
図15に示すように、SEM200は、誤差算出装置10、表示装置30、入力装置40および本体部210を備える。そして、本体部210は、電子線入射装置220、電子線制御装置230、試料台240、試料台駆動装置250、検出装置260および集束イオンビーム(FIB:Focused Ion Beam)入射装置270を備える。
【0079】
電子線入射装置220は、電子源より電子線を引き出し、加速しながら放出する電子銃221と、加速された電子線束を集束するコンデンサレンズ222と、集束された電子線束を試料上の微小領域に収束させる対物レンズ223と、それを含むポールピース224と、電子線束を試料上で走査するための偏向コイル225とから主に構成される。
【0080】
電子線制御装置230は、電子銃制御装置231と、集束レンズ系制御装置232と、対物レンズ系制御装置233と、偏向コイル制御装置235とを含む。なお、電子銃制御装置231は、電子銃221により放出される電子線の加速電圧等を制御する装置であり、集束レンズ系制御装置232は、コンデンサレンズ222により集束される電子線束の開き角等を制御する装置である。
【0081】
試料台240は、試料を支持するためのものであり、試料台駆動装置250により傾斜角度および仮想的な3次元座標上の位置を自在に変更することが可能である。また、検出装置260には、二次電子検出器261、反射電子検出器262および電子後方散乱回折(EBSD)検出器263が含まれる。
【0082】
FIB入射装置270は、試料に対してFIBを入射するための装置である。公知の装置を採用すればよいため、詳細な図示および構造の説明は省略する。
図15に示すように、SEM200の内部にFIB入射装置270を備える構成においては、荷電粒子線として、電子線入射装置220から入射される電子線およびFIB入射装置270から入射されるFIBが含まれる。一般的に、FIBの入射方向は、電子線の入射方向に対して、52°、54°または90°傾斜している。なお、SEM200は、FIB入射装置270を備えていなくてもよい。
【0083】
上記の構成においては、二次電子検出器261および反射電子検出器262により、荷電粒子線像が得られ、電子後方散乱回折検出器263によって、結晶の方位情報が得られる。特に、反射電子検出器262によって、反射電子強度に関する情報を測定することが可能である。
【0084】
[装置動作]
次に、本発明の一実施形態に係る誤差算出装置の動作について
図16を用いて説明する。
図16は、本発明の一実施形態に係る誤差算出装置の動作を示すフロー図である。以降に示す実施形態では、SEMを用いる場合を例に説明する。
【0085】
まず前提として、試料表面上でオペレータが選択した位置(以下、「位置S」という。)において、EBSD法を用いた分析を行う。なお、EBSD法を用いる場合には、試料を元の状態から約70°傾斜させた状態で分析を行う必要がある。分析後、試料の傾斜角度を元の状態に戻す。
【0086】
そして、方位情報取得部1は、電子後方散乱回折検出器263が検出した試料表面における結晶の方位情報を取得するとともに、試料表面上の仮想的な直交座標系を基準としたオイラー角に変換する(ステップA1)。続いて、オイラー角に変換された位置Sにおける方位情報に基づき、
図5に示すような菊池マップ(結晶方位図)を得る。
【0087】
その後、オペレータが、表示装置30に表示された菊池マップを観察しながら、測定をDからEまでの角度範囲において、0.2°間隔で行うよう設定すると、駆動制御部5は、SEM200が備える試料台240に対して、試料台駆動装置250を介して、DからEまでの角度範囲において、0.2°間隔で入射方向を変化させるよう指示を行う(ステップA2)。
【0088】
そして、測定指示部6は、SEM200が備える反射電子検出器262に対して、入射方向が0.2°間隔で変化されるごとに、反射電子強度を測定するよう指示を行う(ステップA3)。
【0089】
その後、強度情報取得部2は、ステップA2での指示により測定された反射電子強度の中から、極小値を有するものを選択することにより、(200)面および(1-10)面の菊池バンドにそれぞれ対応する反射電子強度を取得する(ステップA4)。
【0090】
そして、算出部3は、ステップA1によって取得された結晶の方位情報と、ステップA4によって取得された菊池バンドに対応する反射電子強度が測定された際の入射方向との関係に基づいて、結晶の方位情報の誤差を算出する(ステップA5)。続いて、補正部4は、ステップA5によって算出された誤差に基づいて、結晶の方位情報の補正を行う(ステップA6)。
【0091】
これにより、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に基づいて方位情報を補正することが可能になる。
【0092】
なお、上記の例では、結晶方位図上において平行移動する方向にのみ誤差(δx,δy)が生じることを前提としているため、
図5におけるDからEまでの角度範囲において反射電子強度の測定を行っている。一方、平行移動と回転移動との組み合わせによる誤差(δx,δy,θ)が生じる場合には、例えば、
図6におけるG
1からH
1までの角度範囲およびG
2からH
2までの角度範囲において反射電子強度の測定を行ってもよいし、
図10におけるPからQまでの角度範囲において反射電子強度の測定を行ってもよい。
【0093】
本発明の一実施形態に係るプログラムは、コンピュータに、
図16に示すステップA1~A6を実行させるプログラムであればよい。このプログラムをコンピュータにインストールし、実行することによって、本実施の形態における誤差算出装置10を実現することができる。この場合、コンピュータのプロセッサは、方位情報取得部1、強度情報取得部2、算出部3、補正部4、駆動制御部5および測定指示部6として機能し、処理を行う。
【0094】
また、本実施の形態におけるプログラムは、複数のコンピュータによって構築されたコンピュータシステムによって実行されてもよい。この場合は、例えば、各コンピュータが、それぞれ、方位情報取得部1、強度情報取得部2、算出部3、補正部4、駆動制御部5および測定指示部6のいずれかとして機能してもよい。
【0095】
ここで、上記の実施形態におけるプログラムを実行することによって、誤差算出装置10を実現するコンピュータについて
図17を用いて説明する。
図17は、本発明の実施形態における誤差算出装置10を実現するコンピュータの一例を示すブロック図である。
【0096】
図17に示すように、コンピュータ500は、CPU(Central Processing Unit)511と、メインメモリ512と、記憶装置513と、入力インターフェイス514と、表示コントローラ515と、データリーダ/ライタ516と、通信インターフェイス517とを備える。これらの各部は、バス521を介して、互いにデータ通信可能に接続される。なお、コンピュータ500は、CPU511に加えて、またはCPU511に代えて、GPU(Graphics Processing Unit)、またはFPGA(Field-Programmable Gate Array)を備えていてもよい。
【0097】
CPU511は、記憶装置513に格納された、本実施の形態におけるプログラム(コード)をメインメモリ512に展開し、これらを所定順序で実行することにより、各種の演算を実施する。メインメモリ512は、典型的には、DRAM(Dynamic Random Access Memory)等の揮発性の記憶装置である。また、本実施の形態におけるプログラムは、コンピュータ読み取り可能な記録媒体520に格納された状態で提供される。なお、本実施の形態におけるプログラムは、通信インターフェイス517を介して接続されたインターネット上で流通するものであってもよい。
【0098】
また、記憶装置513の具体例としては、ハードディスクドライブの他、フラッシュメモリ等の半導体記憶装置が挙げられる。入力インターフェイス514は、CPU511と、キーボードおよびマウスといった入力機器518との間のデータ伝送を仲介する。表示コントローラ515は、ディスプレイ装置519と接続され、ディスプレイ装置519での表示を制御する。
【0099】
データリーダ/ライタ516は、CPU511と記録媒体520との間のデータ伝送を仲介し、記録媒体520からのプログラムの読み出し、およびコンピュータ500における処理結果の記録媒体520への書き込みを実行する。通信インターフェイス517は、CPU511と、他のコンピュータとの間のデータ伝送を仲介する。
【0100】
また、記録媒体520の具体例としては、CF(Compact Flash(登録商標))およびSD(Secure Digital)等の汎用的な半導体記憶デバイス、フレキシブルディスク(Flexible Disk)等の磁気記録媒体、またはCD-ROM(Compact Disk Read Only Memory)などの光学記録媒体が挙げられる。
【0101】
なお、本実施の形態における誤差算出装置10は、プログラムがインストールされたコンピュータではなく、各部に対応したハードウェアを用いることによっても実現可能である。また、誤差算出装置10は、一部がプログラムで実現され、残りの部分がハードウェアで実現されていてもよい。さらに、誤差算出装置10は、クラウドサーバを用いて構成してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、SEM等の荷電粒子線装置において、結晶の方位情報の誤差を算出することができる。その結果、試料台の傾斜角度、またはEBSD検出器の位置もしくは角度を調整することなく、得られた誤差に基づいて方位情報を補正することが可能になる。
【符号の説明】
【0103】
1.方位情報取得部
2.強度情報取得部
3.算出部
4.補正部
5.駆動制御部
6.測定指示部
10.誤差算出装置
20.本体部
30.表示装置
40.入力装置
100.荷電粒子線装置
200.SEM
500.コンピュータ
CB.荷電粒子線