(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】グラビアロール及びそれを用いた塗装金属板の製造方法
(51)【国際特許分類】
B05C 1/02 20060101AFI20230512BHJP
B05D 1/28 20060101ALI20230512BHJP
B05D 7/14 20060101ALI20230512BHJP
B05D 3/00 20060101ALI20230512BHJP
B05D 5/06 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
B05C1/02 102
B05D1/28
B05D7/14 P
B05D3/00 D
B05D5/06 101Z
(21)【出願番号】P 2019166664
(22)【出願日】2019-09-12
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000523
【氏名又は名称】アクシス国際弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】中村 浩茂
(72)【発明者】
【氏名】田村 紀智
(72)【発明者】
【氏名】樋口 均
【審査官】青木 太一
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-286029(JP,A)
【文献】特開2005-144355(JP,A)
【文献】特開2000-033304(JP,A)
【文献】特表平11-506367(JP,A)
【文献】特開2010-227859(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00- 3/20
B05D 1/00- 7/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板の製造に用いるグラビアロールであって、
ロール本体と、
前記ロール本体の周面に設けられ、互いに仕切られた複数のセルを前記ロール本体の周面に形成する区画壁と
を備え、
前記セルは、前記ロール本体の軸方向と比較して前記ロール本体の周方向に長く延びる底面を有している、
グラビアロール。
【請求項2】
前記区画壁は、前記ロール本体の周方向に係る前記セルの両端に前記セルの角部を形成している、
請求項1記載のグラビアロール。
【請求項3】
前記セルの形状は六角形である、
請求項2記載のグラビアロール。
【請求項4】
互いに離間して前記区画壁の頂部から前記ロール本体の径方向外方に突出された複数の凸部
をさらに備えている、
請求項1から請求項3までのいずれか1項に記載のグラビアロール。
【請求項5】
前記区画壁には、前記区画壁が互いに交わる箇所に位置する交点部が含まれており、
前記凸部の頂部の幅は、前記区画壁の厚み方向に関して前記区画壁の厚み以下であって、前記区画壁の延在方向に関して前記交点部間の距離以内である、
請求項4記載のグラビアロール。
【請求項6】
前記凸部は、前記ロール本体の軸方向に対して傾斜して延在する直線に沿って配置されている、
請求項4又は請求項5に記載のグラビアロール。
【請求項7】
前記軸方向に対する前記直線の傾斜角度が0.1°以上かつ5°以下である、
請求項6記載のグラビアロール。
【請求項8】
前記区画壁には、前記区画壁が互いに交わる箇所に位置する交点部と、前記交点部間に位置する壁部とが含まれており、
前記凸部は、前記交点部に設けられている、
請求項4から請求項7までのいずれか1項に記載のグラビアロール。
【請求項9】
前記区画壁には、前記区画壁が互いに交わる箇所に位置する交点部と、前記交点部間に位置する壁部とが含まれており、
前記凸部は、前記壁部に設けられている、
請求項4から請求項8までのいずれか1項に記載のグラビアロール。
【請求項10】
請求項1から請求項9までのいずれか1項に記載のグラビアロールを備える塗装装置により金属板に塗装液を塗装する塗装工程と、
前記塗装工程の後に、前記金属板に塗装された前記塗装液を乾燥させる乾燥工程と
を含み、
前記グラビアロールの周面に付着した前記塗装液は、アプリケータロールを介して前記金属板に転写されるか又は前記金属板に直接転写され、
前記グラビアロールと前記アプリケータロール又は前記金属板との間の液分れ界面で発生した前記塗装液の凹凸が前記金属板上で平滑化される前に、前記金属板上の前記塗装液を乾燥させて、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板を得る、
塗装金属板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば塗料等の塗装液を周面の凹部に保持するグラビアロール及びそれを用いた塗装金属板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1には、インクを貯留するドクターチャンバーと、ドクターチャンバーから供給されたインクを保持するグラビアロールと、グラビアロールからインクが転写される印刷ロールとを備えた印刷装置が記載されている。グラビアロールの周面にはインクを保持するための凹部が加工されている。凹部の形状としては、格子型及びハニカム型等のセル形状、並びにグラビアロールの軸方向に沿って螺旋状に延びるように形成された斜線形状等がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2000-141609号公報
【文献】特開2018-130698号公報
【文献】特開2018-130696号公報
【文献】特開2004-290932号公報
【文献】特開2005-254095号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来、ドクターチャンバーを利用した塗装は、インクを対象にした多色刷り等に適用されている。一方、ドクターチャンバーを利用した塗装は、特許文献2及び特許文献3に開示されているようにプレコート用の塗装金属板の塗装方法としても適用が検討され始めている。プレコート用の塗料は、インクに比べ粘度が高いため適用するグラビアロールのセル形状に工夫がされている。
【0005】
プレコート金属板の製造に適用されているロールコーターによる塗装方法では、ロールの周方向(塗装方向)にスジ状模様のいわゆるローピング模様と呼ばれる模様を塗膜表面に発生させないように検討がなされている。特許文献4では、ピックアップロール、アプリケータロール及びライン速度を調整することでローピング模様を抑制する方法が開示されている。また、特許文献5では、ローピング模様を発生させないため、アプリケータロール上の塗料膜との接触材料として弾性変形の大きい樹脂フィルムを使用することが開示されている。
【0006】
従来のコーティング方法の主流であるロールコーターでは、ローピング模様がでないように塗装条件を設定して塗装を行っている。ドクターチャンバーコーターによる塗装においても基本的にはローピング模様の発生を抑制した塗装条件が設定される。
【0007】
一方、塗装金属板の用途によっては、この塗装方向であるライン方向に形成されたローピング模様の意匠性が好まれる場合がある。そのため、ドクターチャンバーによる塗装においても従来ロールコーターで形成されていたローピング模様と同様なローピング模様の形成を要求されることもあるし、新たにローピング模様が要求される場合もある。
【0008】
本発明は、上記のような課題を解決するためになされたものであり、その目的は、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板をより確実に得ることができるグラビアロール及びそれを用いた塗装金属板の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係るグラビアロールは、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板の製造に用いるグラビアロールであって、ロール本体と、ロール本体の周面に設けられ、互いに仕切られた複数のセルをロール本体の周面に形成する区画壁とを備え、セルは、ロール本体の軸方向と比較してロール本体の周方向に長く延びる底面を有している。
【0010】
本発明に係る塗装金属板の製造方法は、上記のグラビアロールを備える塗装装置により金属板に塗装液を塗装する塗装工程と、塗装工程の後に、金属板に塗装された塗装液を乾燥させる乾燥工程とを含み、グラビアロールの周面に付着した塗装液は、アプリケータロールを介して金属板に転写されるか又は金属板に直接転写され、グラビアロールとアプリケータロール又は金属板との間の液分れ界面で発生した塗装液の凹凸が金属板上で平滑化される前に、金属板上の塗装液を乾燥させて、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板を得る。
【発明の効果】
【0011】
本発明のグラビアロール及びそれを用いた塗装金属板の製造方法によれば、ロール本体の軸方向と比較してロール本体の周方向に長く延びる底面をセルが有しているので、より確実に塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本発明の実施の形態1に係るグラビアロールを含む塗装装置の構成を示す説明図である。
【
図3】
図2の区画壁を拡大して示す拡大斜視図である。
【
図5】レーザー彫刻により形成したセルを示す3D形状測定画像(第1例)である。
【
図6】レーザー彫刻により形成したセルを示す3D形状測定画像(第2例)である。
【
図7】レーザー彫刻により形成したセルを示す3D形状測定画像(第3例)である。
【
図8】
図2のグラビアロールの作用を説明するための説明図である。
【
図9】比較例に係るグラビアロールの作用を示す説明図である。
【
図10】本実施の形態の塗装金属板の製造方法を示すフローチャートである。
【
図11】本発明の実施の形態2に係るグラビアロールを示す正面図である。
【
図12】本発明の実施の形態3に係るグラビアロールを示す正面図である。
【
図13】本発明の実施の形態4に係るグラビアロールを示す正面図である。
【
図15】
図13のグラビアロールの第1変形例を示す説明図である。
【
図16】
図13のグラビアロールの第2変形例を示す説明図である。
【
図17】
図13のグラビアロールの第3変形例を示す説明図である。
【
図18】
図13のグラビアロールの第4変形例を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための形態について図面を参照して説明する。本発明は各実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。また、各実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施の形態に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態の構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【0014】
実施の形態1.
図1は、本発明の実施の形態1に係るグラビアロール3を含む塗装装置1の構成を示す説明図である。
図1に示す塗装装置1は、例えば鋼板等の金属板の表面に塗装液1aを塗装して、塗装金属板を製造するために用いられる装置である。塗装対象である金属板としては、鋼板ではなく、例えばアルミニウム板等の他の金属板を用いてもよい。塗装液1aとしては、例えばインク、塗料及び化成処理液等を挙げることができる。塗装液1aは、有機溶剤に溶解した樹脂に加えて、サブミクロンから数十ミクロンの顔料を含むことができる。塗装液1aの粘度(#4フォードカップ粘度)は、10s以上かつ300s以下、より詳細には60s以上かつ180s以下であり得る。
【0015】
塗装装置1は、ドクターチャンバー2及びグラビアロール3を有している。
【0016】
ドクターチャンバー2は、内部に塗装液1aが溜められる容器体である。ドクターチャンバー2には、チャンバー本体20、上流側ドクターブレード21及び下流側ドクターブレード22が含まれている。チャンバー本体20は、前部に開口を有する断面略C字状の部材である。上流側ドクターブレード21は、グラビアロール3の回転方向に係るチャンバー本体20の開口の上流側に配置された長手状部材である。同様に下流側ドクターブレード22は、グラビアロール3の回転方向に係るチャンバー本体20の開口の下流側に配置された長手状部材である。各ドクターブレード21、22は、グラビアロール3の回転方向に係る上流側及び下流側においてチャンバー本体20の開口を部分的に覆っている。
【0017】
グラビアロール3は、全体として金属製のロール体であり、上流側ドクターブレード21及び下流側ドクターブレード22の先端間に形成された開口部23を通してドクターチャンバー2の内部に臨むように配置されている。ドクターチャンバー2の周面にはドクターブレード21、22の先端が突き当てられている。グラビアロール3が回転駆動されることで、ドクターチャンバー2内の塗装液1aがグラビアロール3の周面に順次付着する。下流側ドクターブレード22は、ドクターチャンバー2の周面の塗装液1aを掻きとり、グラビアロール3の周面に付着する塗装液1aの付着量を調整する。グラビアロール3の周面に付着した塗装液1aが金属板に塗装される。グラビアロール3と金属板との間に他のロール(アプリケータロール)が介在されてもよいし、グラビアロール3から金属板に直接的に塗装液1aの塗装が行われてもよい。
【0018】
グラビアロール3の製造方法としては、以下の二つを挙げることができる。一つ目の方法は、金属ロール表面を平滑に研磨した後、所定の凹凸形状が形成された母型金型を押し付けて凹凸形状を転写する転造による方法である。凹凸表面にはハードクロムめっきを施す場合が一般的である。二つ目の方法は、まず金属部材の表面を平滑に研磨した後、その表面にセラミックスを溶射法で吹き付けて表面にセラミックス層を形成し、表面を研磨して平滑にする。続いて、レーザーアブレーションにより所定の凹凸パターンを彫刻する方法である。レーザー彫刻は転造に比べ、複雑な形状を彫刻できることが特徴である。レーザー種としては、CO2レーザーやYAGレーザー等がある。セラミックス種としては、酸化クロム、アルミナ、ジルコニア等がある。
【0019】
次に、
図2は
図1のグラビアロール3を示す正面図であり、
図3は
図2の区画壁31を拡大して示す拡大斜視図であり、
図4は
図2のセル32の断面図である。
図4において、(a)はロール本体30の周方向30bに沿うセル32の断面を示し、(b)はロール本体30の軸方向30aに沿うセル32の断面を示している。また、
図5~
図7は、レーザー彫刻により形成したセル32を示す3D形状測定画像(第1~第3例)である。なお、
図5~
図7には、実施の形態4にて説明する凸部34も表れている。
【0020】
図2及び
図3に示すように、グラビアロール3は、ロール本体30及び区画壁31を有している。
【0021】
ロール本体30は、グラビアロール3の径方向中央部分を構成する円柱状部分である。
【0022】
区画壁31は、ロール本体30の周面に立設された壁体であり、互いに仕切られた複数のセル32をロール本体30の周面に形成している。
図3に示しているように、区画壁31の高さは等しくされていることが好ましい。また、区画壁31はそれぞれの延在方向に一様の高さを有していることが好ましい。区画壁31のうち、区画壁31が互いに交わる箇所に位置しセル32の角部に隣接する部分を交点部31aと呼び、交点部31a間に位置する部分を壁部31bと呼ぶことがある。
【0023】
各セル32は、区画壁31によって囲まれた凹部である。各セル32は、互いに隣接して設けられている。各セル32には、グラビアロール3の回転に応じて塗装液1aが貯められる。
【0024】
本実施の形態の区画壁31は、ハニカム状のセル32を形成するように配設されている。ハニカム状のセル32は、六角形又は亀甲形のセル32と呼ぶこともできる。ここでいうセル32の形状とは、セル32の上部開口32a(
図4参照)の形状を指す。本実施の形態のセル32の形状は、正六角形とされている。各セル32の形状は、辺の長さが異なる六角形であってもよい。本実施の形態では、区画壁31が形成するハニカム状の模様は、軸方向30aに対して傾斜する直線35に沿って形成されている。
【0025】
上述のように、各セル32は転造又はレーザー彫刻により形成され得る。これらの方法、特にレーザー彫刻にて各セル32を形成した場合、各セル32の実際の形状は、
図2及び
図3のように整った六角形とならず、
図5~
図7に示すような崩れた形状(角が丸まり円形に近い形状)となる場合もある。本発明におけるハニカム状のセル32には、このような崩れた形状のセル32が並べられた構造も含まれる。
【0026】
本実施の形態の区画壁31は、ロール本体30の周方向30bに係るセル32の両端にセル32の角部32bを形成している。すなわち、周方向30bに進むにつれてセル32の上部開口32aが先細りとなるように区画壁31が配設されている。本実施の形態では、セル32の両端において、ロール本体30の周方向30bに対して約60°の傾斜角で区画壁31が延在されている。ロール本体30の周方向30bに対する区画壁31の傾斜角は、40°以上かつ80°以下であることが好ましく、50°以上かつ70°以下であることがさらに好ましい。
【0027】
セル32は、底面32cを有している。底面32cは、セル32の底に位置する面である。底面32cは、ロール本体30の周方向30bに沿って延在されるか、又はロール本体30の接平面と平行な面に沿って延在されることができる。
【0028】
本実施の形態では、底面32cの形状はセル32の上部開口32aの相似形とされている。底面32cの面積はセル32の上部開口32aの面積よりも小さい。また、底面32cの中心がセル32の上部開口の中心と一致するように底面32cが配置されている。
図4の(a)及び(b)に特に現れているように、底面32cの外縁は接続壁32dを介して区画壁31の下端に接続されている。しかしながら、底面32cの形状はセル32の上部開口32aと相似でない形状であってもよい。また、底面32cは、大きさも含めてセル32の上部開口32aと同一形状であってもよい。
【0029】
本実施の形態のセル32の底面32cは、ロール本体30の軸方向30aと比較してロール本体30の周方向30bに長く延びている。すなわち、
図4の(b)に示すロール本体30の軸方向30aに係る底面32cの長さLaxよりも、
図4の(a)に示すロール本体30の周方向30bに係る底面32cの長さLciが長くされている。底面32cが軸方向30aに長く延在されることの作用については後に詳しく説明する。周方向30bに係る底面32cの長さLciは、0.1mm以上であることが好ましく、0.2mm以上であることが更に好ましい。
【0030】
各セル32の容積は、例えば60ml/m2以上かつ80ml/m2以下とすることができる。グラビアロール3の線数は、セル容積に応じて任意に選択可能であり、低い値であれば塗装液の転写量が増し、高い値であれば塗装液の転写量が減少する。グラビアロール3の線数は40L/inch以上かつ80L/inchとすることができる。本実施の形態のグラビアロール3における線数は、直線35に沿うか又は直線35と平行な1インチの線分と交差する区画壁31の数をnとした場合、n-1の数と理解することができる。
【0031】
次に、
図8は、
図2のグラビアロール3の作用を説明するための説明図である。
図8において、(a)は
図2のグラビアロール3のセル32及びその底面32cを示す平面図であり、(b)は(a)のグラビアロール3によって形成される塗装液1aの凹凸を示す説明図である。
【0032】
上述のように、本実施の形態のセル32の底面32cは、軸方向30aと比較して周方向30bに長く延びている。
図8の(a)においてセル32の内部に描かれた長方形は、底面32cの延在幅を表している。
【0033】
グラビアロール3の周面に付着した塗装液1aは、アプリケータロールを介して金属板に転写されるか又は金属板に直接転写される。グラビアロール3からアプリケータロール又は金属板に塗装液1aが転写されるとき、アプリケータロール又は金属板上には、セル32に対応する部分に塗装液1aが厚くつき、区画壁31に対応する部分に塗装液1aが薄くつく。セル32に対応する部分には、セル32の凹形に対応する凸形の塗装液1aの集まりが形成される。以下、セル32に対応する部分を単にセル部分と呼ぶ。また、セル部分の塗装液1aの集まりを省略してセル塗装液と呼ぶ。
【0034】
図8の(b)においてハッチングを付した長方形は、アプリケータロール又は金属板上のセル塗装液の周方向30bに係る延在幅を示している。本実施の形態のグラビアロール3では、セル32の底面32cが周方向30bに長く延びているので、アプリケータロール又は金属板上のセル塗装液も周方向30bに長く延在される。また、実施の形態のグラビアロール3では、区画壁31がロール本体30の周方向30bに係るセル32の両端にセル32の角部32bを形成しているので、セル塗装液も周方向30bにより長く延在される。
【0035】
セル塗装液は、周囲の他のセル塗装液と集まり、
図8の(b)において黒塗りの四角形で示す複数条の凸条部33に成長しやすい。複数条の凸条部33は、塗装方向(グラビアロール3の周方向30b)に長く延在されるとともに、塗装方向に直交する方向に互いに離間して形成される。凸条部33間には、凸条部33よりも低い塗装液1aの膜が形成される。すなわち、本実施の形態のグラビアロール3を用いることにより、グラビアロール3とアプリケータロール又は金属板との間の液分れ界面に塗装液1aの凹凸を発生させることができる。
【0036】
次に、
図9は、比較例に係るグラビアロール3の作用を示す説明図である。
図9において、(a)は比較例に係るグラビアロール3のセル32及びその底面32cを示す平面図であり、(b)は(a)のグラビアロール3によって形成される塗装液1aの凹凸を示す説明図である。
【0037】
図9の(a)に示す比較例に係るグラビアロール3のセル32は、実施の形態のグラビアロール3のセル32と異なる向きで配設されている。すなわち、実施の形態のセル32は底面32cが周方向30bに長く延在する向きで配設されていたが、比較例に係るセル32は、底面32cが軸方向30aに長く延在する向きで配設されている。換言すると、比較例に係るセル32は、実施の形態のセル32に対して90°回転した向きで配設されている。
【0038】
図9の(b)においてハッチングを付した長方形は、比較例に係るセル32を有するグラビアロール3からアプリケータロール又は金属板に塗装液1aが転写されるとき、アプリケータロール又は金属板上のセル塗装液(セル32に対応する部分に形成されるセル部分の塗装液1aの集まり)の周方向30bに係る延在幅を示している。比較例に係るグラビアロール3では、周方向30bに係るセル32の底面32cの延在幅が短いので、アプリケータロール又は金属板上のセル塗装液も周方向30bに短くなる。また、比較例に係るグラビアロール3では、区画壁31が周方向30bに直交する方向に延在されているので、それぞれのセル塗装液が周方向30bに互いに分断されやすい。このため、セル塗装液は、
図8の(b)に示すような周方向30bに延びる凸条部33に成長することなく周囲に分散して平滑化されやすい。
【0039】
次に、
図10は、本実施の形態の塗装金属板の製造方法を示すフローチャートである。
図10に示すように、本実施の形態の塗装金属板の製造方法は、塗装工程(ステップS1)と乾燥工程(ステップS2)とを含んでいる。
【0040】
塗装工程(ステップS1)は、本実施の形態のグラビアロール3を備える塗装装置1により金属板に塗装液1aを塗装する工程である。塗装工程では、グラビアロール3が回転駆動されることで、ドクターチャンバー2内の塗装液1aがグラビアロール3の周面に順次付着される。グラビアロール3の周面に付着した塗装液1aは、アプリケータロールを介して金属板に転写されるか又は金属板に直接転写される。
図8を用いて説明したように、グラビアロール3の塗装液1aがアプリケータロール又は金属板に転写される際、グラビアロール3とアプリケータロール又は金属板との間の液分れ界面に塗装液1aの凹凸を発生させることができる。グラビアロール3の塗装液1aがアプリケータロールを介して金属板に転写される場合、アプリケータロール上の塗装液1aに凹凸が形成されている状態でその塗装液1aが金属板に転写される。
【0041】
乾燥工程(ステップS2)は、塗装工程の後に、金属板に塗装された塗装液を乾燥させる工程である。乾燥には、焼き付け又は焼成が含まれ得る。この乾燥工程では、グラビアロール3とアプリケータロール又は金属板との間の液分れ界面で発生した塗装液の凹凸が金属板上で平滑化される前に、金属板上の塗装液を乾燥させて、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板を得る。
【0042】
このようなグラビアロール3及びそれを用いた塗装金属板の製造方法によれば、ロール本体30の軸方向30aと比較してロール本体30の周方向30bに長く延びる底面32cをセル32が有しているので、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板をより確実に得ることができる。
【0043】
また、ロール本体30の周方向30bに係るセル32の両端にセル32の角部32bを区画壁が形成しているので、セル塗装液を周方向30bにより長く延在させることができ、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板をより確実に得ることができる。
【0044】
また、セル32の形状が六角形であるので、周方向30bに係るセル32の両端にセル32の角部32bをより確実に形成でき、塗装表面にローピング模様を有する塗装金属板をより確実に得ることができる。
【0045】
実施の形態2.
図11は、本発明の実施の形態2に係るグラビアロール3を示す正面図である。実施の形態1ではセル32の形状が六角形であるように説明したが、
図11に示すようにセル32の形状が菱形であってもよい。区画壁31は、ロール本体30の周方向30bに係るセル32の両端にセル32の角部32bを形成している。セル32の底面32cは、ロール本体30の軸方向30aと比較してロール本体30の周方向30bに長く延びている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0046】
このように、セル32の形状が菱形であってもよい。また、セル32の形状は、例えば八角形等、両端に角部32bを配置できるような他の多角形であってもよい。
【0047】
実施の形態3.
図12は、本発明の実施の形態3に係るグラビアロール3を示す正面図である。実施の形態1ではセル32の形状が六角形であるように説明したが、
図11に示すようにセル32の形状が長方形であってもよい。区画壁31は、ロール本体30の周方向30bに係るセル32の両端にセル32の直線部32eを形成している。すなわち、本実施の形態3では、周方向30bに係るセル32の両端に角部32bが形成されていない。セル32の底面32cは、ロール本体30の軸方向30aと比較してロール本体30の周方向30bに長く延びている。その他の構成は実施の形態1と同様である。
【0048】
このように、周方向30bに係るセル32の両端に角部32bが形成されていなくてもよい。
【0049】
実施の形態4.
図13は本発明の実施の形態4に係るグラビアロール3を示す正面図であり、
図14は
図13の区画壁31を拡大して示す拡大斜視図である。
図13及び
図14に示すように、本実施の形態4のグラビアロール3は、凸部34をさらに有している。
【0050】
凸部34は、互いに離間して区画壁31の頂部からロール本体30の径方向外方に突出された突状体である。本実施の形態の凸部34は、区画壁31の交点部31aから突出されている。より具体的には、本実施の形態の凸部34はすべての交点部31aから突出されている。凸部34の頂部は、グラビアロール3の径方向に係る最外面を構成している。
【0051】
凸部34の形状は任意である。
図14に示すように、凸部34は先細り状の形状を有していることがある。
図14では凸部34を円錐台によって表しているが、
図5~
図7に示すように、凸部34は複雑形状となることもある。凸部34の頂部が曲面によって構成されていてもよい。また、凸部34は、直方体等の区画壁31の延在方向に長く延びる形状であってもよい。2以上の数の凸部34が互いに接触していてもよい。
【0052】
各凸部34の頂部の幅34wは、区画壁31の厚み方向に関して区画壁31の厚み31w以下であって、区画壁31の延在方向に関して交点部31a間の距離以内であることが好ましい。各凸部34の頂部の幅34wは、下流側ドクターブレード22の先端とグラビアロール3の外面との間の接触が点接触とみなすことができる程度に小さくすることが好ましい。各凸部34の頂部の幅34wは、区画壁31の厚み方向及び延在方向のいずれにおいても例えば0.02mm以上かつ1.0mm以下とすることができる。
【0053】
図13に特に表されているように、凸部34は、ロール本体30の軸方向30aに対して傾斜して延在する直線35に沿って配置されることが好ましい。本実施の形態では、区画壁31が形成するハニカム状の模様を軸方向30aに対して傾斜させることにより、軸方向30aに対して傾斜する直線35に沿って凸部34(交点部31a)を位置させている。しかしながら、ハニカム状の模様を軸方向30aに対して傾斜させず、凸部34を交点部31aの位置からずらして配置することによって、軸方向30aに対して傾斜する直線35に沿って凸部34を位置させてもよい。
【0054】
ロール本体30の軸方向30aに対して傾斜して延在する直線35に沿って凸部34が配置されることで、グラビアロール3が回転されるとき軸方向30aに関してドクターブレード21、22の先端をいずれかの凸部34に当接させることができる。これによりドクターブレード21、22がバタついて塗料の掻きとりが不均一となることを防止できる。
【0055】
軸方向30aに対する直線35の傾斜角度は、0.1°以上かつ5°以下であることが好ましい。傾斜角度が0.1°未満だと、ドクターブレード21、22のバタつきを抑えにくくなる。傾斜角度が5°を越えるとローピング模様が生じる虞が大きくなる。傾斜角度は、0.15°以上かつ2°以下であることがさらに好ましい。
【0056】
次に、
図15は、
図13のグラビアロール3の第1変形例を示す説明図である。
図13では凸部34がすべての交点部31aから突出されている態様を示したが、
図15に示すように凸部34が一部の交点部31aから突出されていてもよい。
図13の態様に対して半分の数の凸部34が設けられている態様を
図15に示している。すなわち、
図15では、1つのセル32の周囲に位置する6つの交点部31aのうち、3つの交点部31aから凸部34が突出されている。
【0057】
次に、
図16は、
図13のグラビアロール3の第2変形例を示す説明図である。
図2では凸部34が交点部31aのみから突出されるように説明したが、
図16に示すように凸部34が壁部31bから突出されていてもよい。
図16では、すべての交点部31a及びすべての壁部31bから凸部34が突出されている態様を示している。また、
図16では、交点部31a間の中央に位置するように壁部31bから凸部34が突出されている態様を示している。しかしながら、一部の交点部31a及び一部の壁部31bから凸部34が突出されていなくてもよい。また、壁部31bから突出される凸部34は、交点部31a間の中央に位置されていなくてもよい。
【0058】
次に、
図17は、
図13のグラビアロール3の第3変形例を示す説明図である。
図13では凸部34が交点部31aのみから突出されるように説明したが、
図17に示すように凸部34が壁部31bのみから突出されていてもよい。
図17では、すべての壁部31bから凸部34が突出されている態様を示している。また、
図17では、交点部31a間の中央に位置するように壁部31bから凸部34が突出されている態様を示している。しかしながら、一部の壁部31bから凸部34が突出されていなくてもよい。また、凸部34は、交点部31a間の中央に位置されていなくてもよい。
【0059】
次に、
図18は、
図13のグラビアロール3の第4変形例を示す説明図である。
図17ではすべての壁部31bから凸部34が突出されている態様を示したが、
図18に示すように凸部34が一部の壁部31bから突出されていてもよい。
図17の態様に対しておおよそ半分の数の凸部34が設けられている態様を
図18に示している。すなわち、
図18では、2つのセル32に関して6つの凸部34が設けられている。
【0060】
凸部34の配置はランダムであってもよい。
【0061】
このようなグラビアロール3では、区画壁31の頂部から複数の凸部34が突出されているので、下流側ドクターブレード22によって塗装液1aが掻きとられるときに、凸部34の間を通して塗装液1aがグラビアロール3の外周面を移動することができる。特に塗装液1aは、例えば区画壁31の延在方向等の特定の方向に限定されず、任意の方向に移動し得る。このため、粘度が高い塗装液1aを用いる場合でも、十分な量の塗装液1aをより均一に各セル32に入れることができ、塗装外観不良が発生する虞を低減できる。一方で、区画壁31が複数のセル32を形成しているので、塗装液1aの移動を一定の範囲に抑えることができる。
【0062】
また、凸部34の頂部の幅34wが、区画壁31の厚み31w以下であって、交点部31a間の距離以内であるので、塗装液1aが凸部34の間を通してより円滑に移動でき、より確実に塗装外観不良が発生する虞を低減できる。
【0063】
さらに、凸部34は、ロール本体30の軸方向30aに対して傾斜して延在する直線35に沿って配置されているので、グラビアロール3が回転されるときロール本体30の軸方向30aに関してドクターブレード21、22の先端をいずれかの凸部34に当接させることができる。これにより、ドクターブレード21、22がバタついて塗料の掻きとりが不均一となることを防止できる。
【0064】
さらにまた、軸方向30aに対する直線35の傾斜角度が0.1°以上かつ5°以下であるので、ドクターブレード21、22のバタつきをより確実に抑えることができる。傾斜角度は、0.15°以上かつ2°以下であることがさらに好ましい。
【符号の説明】
【0065】
1 塗装装置
1a 塗装液
2 ドクターチャンバー
20 チャンバー本体
3グラビアロール
31 区画壁
31a 交点部
31b 壁部
32 セル
34 凸部