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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】キャスタブル耐火物の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/66 20060101AFI20230512BHJP
   F27D 1/10 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C04B35/66
F27D1/10
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019191403
(22)【出願日】2019-10-18
(65)【公開番号】P2021066620
(43)【公開日】2021-04-30
【審査請求日】2022-06-06
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【弁理士】
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【弁理士】
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100126848
【弁理士】
【氏名又は名称】本田 昭雄
(72)【発明者】
【氏名】松井 剛
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-224274(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2019/0062211(US,A1)
【文献】特開2004-307231(JP,A)
【文献】特開2012-091987(JP,A)
【文献】特開2019-137561(JP,A)
【文献】特開昭61-010079(JP,A)
【文献】特開平03-265572(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/66
F27D 1/10
JSTPlus/JSTChina/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤を含有するアルカリ性の有機繊維懸濁液を調製し、
アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材に、前記有機繊維懸濁液を加えて混練することを特徴とするキャスタブル耐火物の製造方法。
【請求項2】
前記耐火性素材に対する前記有機繊維の添加量は、前記耐火性素材100質量%に対して外掛けで0.01~0.50質量%であることを特徴とする請求項1に記載のキャスタブル耐火物の製造方法。
【請求項3】
前記有機繊維懸濁液は、pHが8以上13以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載のキャスタブル耐火物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製鐵用窯炉設備の内張り炉材に用いられるキャスタブル耐火物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャスタブル耐火物は、築炉現場においてはミキサーを用いて水と混練し、得られた混練物を築炉箇所に振動を付与させながら流し込み施工するだけで、製鐵用窯炉設備の内張り炉材を築炉することができる。それ故、築炉作業の効率化、並びに、省力化を図る上でキャスタブル耐火物は非常に重要な耐火物として位置付けられている。
【0003】
この様に、製鐵用窯炉設備の内張り炉材として築炉されたキャスタブル耐火物は水を含むために、使用する前にはガスバーナーやマイクロ波による加熱によりキャスタブル耐火物中の水を蒸発させ乾燥させる必要がある。
【0004】
しかし、急激な加熱乾燥が起こると、キャスタブル耐火物内部で発生する水蒸気の量が増大し、高騰した水蒸気の圧力が原因でキャスタブル耐火物が爆裂を生じることがある。最近では、低セメントキャスタブルに代表される緻密質キャスタブル耐火物の使用が普及するにつれて、この問題の重要度は一層増している状況下にある。
【0005】
水を含んだキャスタブル耐火物の加熱乾燥時の爆裂を解消するために、特許文献1ではキャスタブル耐火物に径1~100μm、長さ1~15mmの有機繊維を0.01~1.0質量%添加する方法が開示されている。有機繊維の作用は、耐火物に含まれる水が加熱乾燥により蒸発し拡散する過程で、有機繊維が溶融又は分解により融失することにより水蒸気の拡散経路を耐火物内部で3次元的に生成し、水蒸気の耐火物系外への拡散を容易にして耐火物内部で発生する水蒸気の圧力を低減することにある。
【0006】
特許文献2では、混練中にキャスタブル耐火物に添加された有機繊維の凝集を防止する技術が開示されている。また、特許文献3、4には、水を含んだキャスタブル耐火物の加熱乾燥過程中での水蒸気の拡散経路となる通気孔をより形成し易くするための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開昭61-10079号公報
【文献】特許第2849154号公報
【文献】特許第5676207号公報
【文献】特許第5676343号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1~4に記載の方法を用いることにより、水を含んだキャスタブル耐火物の加熱乾燥時の爆裂を解消することは可能となった。他方、特許文献1~4に記載の有機繊維を添加したキャスタブル耐火物の加熱乾燥後の組織を観察すると、長さが約300μm、幅が約20μmの巨大な通気孔が生成していることが確認できた。
この様な巨大な通気孔の生成は、キャスタブル耐火物の耐食性や引張強度を低下させるために、キャスタブル耐火物の耐用性を低下させる一因になる。
【0009】
従来技術の有機繊維を添加したキャスタブル耐火物の加熱乾燥後に観察される巨大な通気孔の生成を防止するには、繊維径が1μm未満の微細な有機繊維を使用することが有効である。
しかしながら、繊維径が1μm未満の有機繊維は微細であるために、凝集力が強いので混練中に容易に凝集するため、その機能が発揮できない課題がある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、繊維径が1μm未満の有機繊維を分散させたアルカリ性の水溶液をアルミナセメント、並びに、最大粒子径が30mm以下の耐火性粉粒体から構成される耐火性素材に加えて混練することにより、課題が解決することを知見し、本発明をなすにいたった。
【0011】
本発明の要旨とするところは、以下の通りである。
(1)繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤を含有するアルカリ性の有機繊維懸濁液を調製し、
アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材に、前記有機繊維懸濁液を加えて混練することを特徴とするキャスタブル耐火物の製造方法。
(2)前記耐火性素材に対する前記有機繊維の添加量は、前記耐火性素材100質量%に対して外掛けで0.01~0.50質量%であることを特徴とする(1)に記載のキャスタブル耐火物の製造方法。
(3)前記有機繊維懸濁液は、pHが8以上13以下であることを特徴とする(1)又は(2)に記載のキャスタブル耐火物の製造方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明により、キャスタブル耐火物を用い加熱乾燥過程での爆裂防止と緻密な施工体の作製ができ、製鐵用窯炉設備の寿命を延長させることができる結果、生産性が向上する。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明において、繊維径が1μm未満の有機繊維を使用する理由は、以下の2点である。
1点目は、耐火物に含まれる水が加熱乾燥により蒸発し拡散する過程で、前記有機繊維が溶融し消失することにより水蒸気の拡散経路を耐火物内部で3次元的に生成し、水蒸気の耐火物系外への拡散を容易にすることで耐火物内部に発生する水蒸気の圧力を低減することである。
2点目は、キャスタブル耐火物の加熱乾燥後に巨大な通気孔の生成を防止するためである。
【0014】
本発明に用いられる繊維径が1μm未満の有機繊維としては、繊維径が700nmのポリエステルナノファイバーや、繊維径が20nmのセルロースナノファイバー等を例示でき、これらの少なくとも一種を用いることができる。
【0015】
本発明において繊維径が1μm未満の有機繊維の添加量は、アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材100質量%に対し、外掛けで0.01~0.50質量%の範囲であることが好ましい。繊維径が1μm未満の有機繊維の添加量が0.01質量%未満では、加熱乾燥過程で生成される水蒸気の拡散経路となる通気孔の数が少ないために、水蒸気の耐火物系外への拡散が容易に進行せず、耐火物内部で発生する水蒸気の圧力が高騰し、爆裂するからである。繊維径が1μm未満の有機繊維の添加量が0.50質量%超では、加熱乾燥後に生成される通気孔の数が多くなり、気孔率が高くなるために、耐食性が低下するからである。
【0016】
本発明において、アルカリ性の有機繊維懸濁液を調製する方法は特に限定されない。例えば、繊維径が1μm未満の有機繊維をアルカリ性に調整した水溶液に分散することにより、或いは、前記有機繊維が分散された水溶液をアルカリ性に調整することにより、アルカリ性の有機繊維懸濁液を調製しても良い。また、水に前記有機繊維を分散しながら、有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤を投入し、更にpHがアルカリ性になるように前記有機繊維が分散された懸濁液を調製しても良い。
【0017】
繊維径が1μm未満の有機繊維を分散させた懸濁液をアルカリ性とするのは、アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材と混練する際に、有機繊維の凝集を防止するためである。前記懸濁液がアルカリ性であると、有機繊維の表面にはOH基が吸着し、有機繊維は見掛上マイナスに帯電した状態になる。
【0018】
耐火性素材との混練過程では、アルミナセメント粒子は水と接触することでマイナスに帯電するが、有機繊維はマイナスに帯電しているため、アルミナセメント粒子とは反発するために、アルミナセメント粒子との合体による凝集は防止できる。
【0019】
一方、繊維径が1μm未満の有機繊維を分散させた懸濁液が中性、乃至は酸性であると有機繊維は見掛上、無帯電乃至はプラスに帯電した状態になる。このような帯電状態にある有機繊維が、混練過程中にマイナスに帯電したアルミナセメント粒子と衝突すると、アルミナセメント粒子と合体し、凝集することになる。
【0020】
繊維径が1μm未満の有機繊維を分散させた懸濁液のpHの調整は、リン酸を溶解させた水溶液と水酸化ナトリウムを溶解させた2種類の水溶液を用い、両者の水溶液の混合比を変えた混合水溶液を前記懸濁液に添加することで行うことができる。
具体的にはリン酸を溶解させた水溶液と水酸化ナトリウムを溶解させた水溶液の混合比率を変えて、前記有機繊維懸濁液のpHを調整することができる。
【0021】
有機繊維と共存する分散剤や消泡剤によって、特定のpHに調整できない場合があるが、前記有機繊維懸濁液のpHを8以上にできれば、繊維径が1μm未満の有機繊維を十分分散させることができる。またpHが13以下であれば、Naが混入されても耐食性が低下することはない。
【0022】
アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材と混練する前記有機繊維懸濁液の溶媒に分散剤を溶解させる理由は以下の2点である。
1点目は、繊維径が1μm未満の有機繊維を溶媒中に均一に分散させるためである。2点目は、混練過程において耐火性粉粒体に含有される最大粒子径が10μm以下の粉体を均一に分散させるためである。尚、前記懸濁液の溶媒とは、繊維径が1μm未満の前記有機繊維を分散させる水溶液又は水である。
【0023】
前記有機繊維懸濁液の溶媒が予め分散剤を含有しない場合、例えば、アルミナセメント、並びに、最大粒子径が8mm以下の耐火性粉粒体に、水と分散剤を同時に添加し混練する場合には、分散剤が水に溶解し、溶解した分散剤が最大粒子径10μm以下の粉体表面に吸着し、前記粉体を分散させる作用を発揮する前に、前記粉体同士が衝突し、凝集するからである。
【0024】
分散剤には、アルカリ金属リン酸塩、ポリカルボン酸塩、ポリアクリル酸塩、アルキルスルホン酸塩、芳香族スルホン酸塩等が使用でき、これらの1種又は2種以上を用いることができる。分散剤の添加量は、アルミナセメント、並びに、最大粒子径が30mm以下の耐火性粉粒体から構成される耐火性素材100質量%に対し、外掛けで0.1~0.6質量%の範囲であることが好ましい。尚、分散剤は粉末状、液体状いずれのものも使用できる。
【0025】
アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材と混練する水に分散剤に加え、消泡剤を溶解させる理由は以下の通りである。
アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体に分散剤を溶解さえた水を添加し混練する過程では、混練物中に泡が発生する。この泡は、混練過程では消失することはないため、混練後に施工されたキャスタブル耐火物内部で空隙として残存することになる。キャスタブル耐火物内部に残存する空隙は、気孔率の増大を招く結果、耐食性を低下させることになる。以上のことから、消泡剤は、混練過程で発生する泡を消失させるために使用する。
【0026】
消泡剤には、アルコール類、脂肪酸エステル、アミン類、エーテル類、リン酸エステル類、シリコン類などが使用でき、これらの少なくとも一種を用いることができる。尚、消泡剤には、液体状、固体状、半固体状のものがあるが、いずれの状態のものでも使用可能である。消泡剤添加量は、アルミナセメント、並びに、最大粒子径が30mm以下の耐火性粉粒体から構成される耐火性素材100質量%に対し、外掛けで0.003~0.010質量%の範囲であることが好ましい。
【0027】
繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤が分散、溶解した水溶液の作製には、手動による撹拌のほか、撹拌子を回転させる回転型撹拌装置、容器が回転あるいは振動・搖動する装置などを用いるようにしても良く、また、ノズルから吐出させた前記水溶液を衝突させて、その衝突エネルギーで撹拌できるような装置を用いても良い。
【0028】
本発明に用いるアルミナセメントとしては、CaO・Alを含有するアルミナセメントが使用できる。アルミナセメントの配合割合は、アルミナセメント、並びに、最大粒子径が30mm以下の耐火性粉粒体から構成される耐火性素材100質量%に対し、内掛けで2~6質量%の範囲であることが好ましい。
【0029】
本発明の耐火性粉粒体の原料には、電融アルミナ、焼結アルミナ、電融マグネシア、焼結マグネシア、電融スピネル、焼結スピネル、ジルコニア、ジルコン、溶融シリカ、珪石、シャモット、長石、コーディエライト、ムライト、炭化ケイ素、黒鉛、シリカヒューム、チタニア、イットリア、ムライト、コーディエライト、SiC、Si、AlN、BC、BN、ZrB、カーボンからなるものを使用することができる。
【0030】
本発明に用いる耐火性素材において、粒径が10μm超30mm以下の耐火性粉粒体は、耐火性素材100質量%に対し、内掛けで80~95質量が好ましく、最大粒子径が10μm以下の耐火性粉粒体は、耐火性素材100質量%に対し、5~20質量%が好ましい。
【0031】
繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤が分散、溶解した水溶液をアルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材に加えて混練する際に使用するミキサーとしてはボルテックスミキサー、ターボミキサー、二軸ミキサー、並びに、高速ミキサー、ボールミルのいずれでも使用できる。
【0032】
その他、キャスタブル耐火物の添加物として知られる硬化調整剤、金属短繊維(例えばステンレス鋼ファイバー)、セラミックスファイバー、クロム鉱等を添加してもよい。
【0033】
本発明のキャスタブル耐火物の施工は、前記有機繊維懸濁液の溶媒が以上の前記耐火性素材全体に対して外掛けで4~6質量%になるように、前記耐火性素材に前記有機繊維懸濁液を添加し、ミキサーによる混練により得られた混練物を型枠に流し込み施工することで行うことができる。施工の際には充填性を向上させるため、型枠にバイブレータを取り付けるか、あるいは耐火物中に棒状バイブレータを挿入して加振する。
【実施例
【0034】
以下に本発明の実施例とその比較例を示す。
【0035】
[実施例1~4の製造]
実施例1~4において、繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤の水への分散、溶解はボールミルを用いて行った。本発明に用いた繊維径が1μm未満の有機繊維と各種添加材を水と混合した直後のpHは4~8であった。水溶液のpHの調整は、リン酸を溶解させた水溶液と水酸化ナトリウムを溶解させた2種類の水溶液を用い、両者の水溶液の混合比を変えた混合水溶液を前記の水に添加することで行った。水溶液のpHは市販のpHメーターで測定した。
【0036】
実施例3を例に具体的に述べる。耐火性素材1kgに対し、混練に使用した水溶液は40ccである。有機繊維1g、分散剤6g、消泡剤0.1g、並びに、濃度0.02mol/Lのリン酸8cc、濃度0.02mol/Lの水酸化ナトリウムを16.6cc、水15.4ccをボールミルに装填し、3時間混合することにより行った。
【0037】
実施例1~4は、混練時に耐火性素材に添加する水への有機繊維,分散剤,消泡剤の事前の分散・溶解を行った発明例である。実施例1~4は、アルミナセメント、並びに、耐火性粉粒体から構成される耐火性素材に、繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤を分散、溶解させアルカリ性に調整した水溶液を添加し、ボルテックスミキサーを用いて混練して製造した。
【0038】
有機繊維としては、テイジン社製のナノフロント(直径が700nm)とスギノマシン社製のビンフィス(直径が20nm)を使用した。また、耐火性素材としては、製鉄用窯炉設備の内張り炉材として使用される代表的な不定形耐火物に使用される原料を用いた。
【0039】
[比較例1~4の製造]
比較例1と比較例2は高炉大樋の内張り炉材、比較例3は溶鋼鍋の内張り炉材、比較例4はタンディッシュの内張り炉材である。
【0040】
表1-1及び表1-2に示されるように、比較例1及び5は実施例1の、比較例2は実施例2の、比較例3は実施例3の、比較例4は実施例4のそれぞれの原料配合に対応する。また、比較例1~4及び実施例1~5に用いられた耐火性粉粒体は、下記の通りである。
実施例1、比較例1及び比較例5の耐火性粉粒体:スピネル54質量%、アルミナ41質量%、シリカ2質量%、カーボン3質量%
実施例2と比較例2の耐火性粉粒体:アルミナ33質量%、SiC62質量%、シリカ1.5質量%、
カーボン3質量%、BC0.5質量%
実施例3と比較例3の耐火性粉粒体:アルミナ92質量%、マグネシア7質量%、シリカ1質量%
実施例4と比較例4の耐火性粉粒体:アルミナ67質量%、シャモット30質量%、シリカ3質量%
【0041】
但し、比較例1~4は、有機繊維、分散剤、消泡剤、アルミナセメントが配合された耐火性粉粒体に、水を添加しボルテックスミキサーを用いて全成分を一度に混練して製造した点で、実施例1~4に対して異なる。比較例5は、有機繊維、分散剤、消泡剤を分散、溶解させた水溶液を事前に準備し、耐火性素材に添加し、ボルテックスミキサーを用いて混練して製造した例であるが、水溶液のpHが酸性である点で、実施例1に対して異なる。
【0042】
表1-1には実施例1~4、表1-2には比較例1~5のキャスタブル耐火物の原料配合をそれぞれ示す。実施例1~4及び比較例1~5に用いられた分散剤は、ポリカルボン酸ナトリウム、消泡剤はシリコン、アルミナセメントはアルミナセメント(CaO・Al、12CaO・7Al、CaO・2Alの混合物)である。また、有機繊維として、比較例1、2、5にはポリプロピレン繊維、比較例3、4にはビニロン繊維が用いられた。
【0043】
表1-1及び表1-2において、「耐火性粉粒体の粒子径範囲」の項目の「8mm」~「10μm以下」の項目の「配合量(質量%)」の数値は、耐火性素材100質量%に対する内掛けの質量%を示す。また、表1-1及び表1-2において、「アルミナセメントの配合量(質量%)」の項目の数値は、耐火性素材100質量%に対する内掛けの質量%を示す。その他の項目(外掛けで耐火性素材に添加する水の量、有機繊維の添加量、分散剤の添加量、消泡剤の添加量)は、いずれも、耐火性素材100質量%に対する外掛けの質量%を示す。
【0044】
[実施例及び比較例の評価]
実施例1~4及び比較例1~5の評価は、300℃乾燥後の見掛気孔率、300℃乾燥後の通気率、爆裂性、並びに、耐食性の測定から行った。
【0045】
見掛気孔率と通気率の測定は以下の方法で行った。混練物をφ50mm×50mm高さの形状の枠に振動を付与させながら流し込み成形した。その後、室温で24h養生してから脱枠し、300℃で24時間乾燥させて測定用試料を作製した。見掛気孔率はJIS-R2205に準拠し,通気率はJIS-R-2115準拠して測定した。
【0046】
爆裂性の評価は以下の方法で行った。混練物をφ100mm×100mm高さの形状の枠に振動を付与させながら流し込み成形した。その後、室温で24h養生してから脱枠し、評価用試料を作製した。爆裂性は、予め800℃に加熱した電気炉に、試料を装入し30分保持した後に電気炉から取り出し、試料表面の亀裂の発生有無、並びに、試料の膨れの有無を目視観察で行うことにより評価した。試料に膨れがなく、かつ、試料表面に亀裂の発生が無いものを耐爆裂性に優れると判断した。
【0047】
耐食性は、侵食材として高炉スラグを用いた回転侵食炉法により評価した。耐食性の評価試料は、混練物を所定寸法の金枠に振動を付与させながら流し込み、室温で24時間養生した後に、110℃で24時間乾燥させ、大気中で1000℃×6時間焼成することにより作製した。
【0048】
回転侵食炉法は、回転侵食炉内に、前記評価試料を内張りし、評価試料の表面温度が1600℃に到達した時点で、炉内にスラグを投入し30分経過後に溶融したスラグを排出し、新たにスラグを投入するという操作を4回繰り返すことにより試験を行った。試験後に試料を切断し、切断面における最大侵食深さを測定することにより耐食性を評価した。耐食性は比較例1、比較例2、比較例3、及び比較例4の試料の最大侵食深さを各々100%の長さとして、耐火性素材が前記比較例と同じ組成で構成された実施例1、実施例2、実施例3、及び実施例4をそれぞれ相対評価した。数値が小さいほど、耐食性に優れることを意味する。
【0049】
実施例1~4及び比較例1~5に関し、前記見掛気孔率、前記通気率、前記爆裂性、並びに、前記耐食性の測定結果を表1-1及び表1-2に示す。
実施例1~4を比較例1~4に対して各々比較すると、実施例は比較例よりも300℃乾燥後の見掛気孔率が低く、耐食性に優れることに加え、耐爆裂性は比較例と同じく優れていることが確認できている。
【0050】
比較例5は、繊維径が1μm未満の有機繊維、分散剤、並びに、消泡剤を分散、溶解させ水溶液のpHが5と酸性であるため、混練過程中に有機繊維が凝集したために、見掛気孔率が高く、耐爆裂性に優れるも、耐食性に劣っている。
【0051】
【表1-1】
【0052】
【表1-2】
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明によれば、キャスタブル耐火物を用い加熱乾燥過程での爆裂が防止でき、かつ、緻密な組織を有する耐用性に極めて優れた製鐵用窯炉設備の内張り炉材を製造することができる結果、製鐵用窯炉設備の寿命を大幅に延長させることができる。