(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】ミズゴケを用いた植物栽培方法及び装置
(51)【国際特許分類】
A01G 24/28 20180101AFI20230512BHJP
A01G 22/30 20180101ALI20230512BHJP
A01G 31/00 20180101ALI20230512BHJP
【FI】
A01G24/28
A01G22/30
A01G31/00 601E
(21)【出願番号】P 2019208218
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-02-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000004123
【氏名又は名称】JFEエンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002963
【氏名又は名称】弁理士法人MTS国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 義裕
(72)【発明者】
【氏名】高須 展夫
【審査官】櫻井 健太
(56)【参考文献】
【文献】実開平03-043949(JP,U)
【文献】特開平05-003732(JP,A)
【文献】特開2008-295350(JP,A)
【文献】特開2015-073448(JP,A)
【文献】特開2000-209946(JP,A)
【文献】特開平08-331990(JP,A)
【文献】特開2007-159481(JP,A)
【文献】国際公開第2006/137544(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 9/00 - 9/08
A01G 9/28
A01G 22/30
A01G 24/00 - 31/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水又は水溶液を通さず水又は水溶液を貯めることのない架台を水平に配設し、
該架台上に潅水チューブを配設し、
該潅水チューブ上にミズゴケ含有率が50%以上の培地を配設し、
該ミズゴケ含有率が50%以上の培地上に栽培植物を配設して、
前記潅水チューブから前記栽培植物に潅水すると共に、
前記潅水チューブと前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地の間に透水性の布を介在させ、該布を利用して、潅水した水又は水溶液を滞留しないように排水することを特徴とする、ミズゴケを用いた植物栽培方法。
【請求項2】
前記布が防根透水用不織布であることを特徴とする請求項
1に記載のミズゴケを用いた植物栽培方法。
【請求項3】
前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地が、ミズゴケ以外の資材を含むことを特徴とする請求項1
又は2に記載のミズゴケを用いた植物栽培方法。
【請求項4】
水平に配設された、水又は水溶液を通さず水又は水溶液を貯めることのない架台と、
該架台上に配設された潅水チューブと、
該潅水チューブ上に配設されたミズゴケ含有率が50%以上の培地と、
該ミズゴケ含有率が50%以上の培地上に配設した栽培植物に、前記潅水チューブから潅水するための給液手段と、
潅水した水又は水溶液を滞留しないように排水する排水手段
である、前記潅水チューブと前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地の間に介在された透水性の布と、
を備えたことを特徴とする、ミズゴケを用いた植物栽培装置。
【請求項5】
前記布が防根透水用不織布であることを特徴とする請求項
4に記載のミズゴケを用いた植物栽培装置。
【請求項6】
前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地が、ミズゴケ以外の資材を含むことを特徴とする請求項
4又は5に記載のミズゴケを用いた植物栽培装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ミズゴケを用いた植物栽培方法及び装置に係り、特に、藻類や細菌類が繁殖しにくく、設備コストが安い、ミズゴケを用いた植物栽培方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミズゴケは保水性と通気性を兼ね備え、イオン交換能、pH調整能、抗菌作用を持っている。そのため植物の中には栽培用の培地としてミズゴケが適するものがある。ミズゴケを培地とした場合、植物へはミズゴケを介して水が供給されるため、通常の栽培方法では水分や肥料の管理が極めて困難な植物や、藻類や細菌類によって著しく生育が阻害される植物でもミズゴケを利用することで栽培が可能になる。特に、ラン科やモウセンゴケ科などの植物では水道水や河川水等の一般的な水を直接供給するよりも、ミズゴケと接触させて栽培し、ミズゴケを介して吸水させることで生育が促進される。
【0003】
特許文献1や2には水と植物を直接接触させず、水と接する乾燥ミズゴケを栽培基として生長ミズゴケを栽培し、生長ミズゴケと乾燥ミズゴケを培地として植物を栽培する方法が開示されている。即ち、特許文献1では、貯留した水にフロートを浮かべ、ミズゴケに吸水させている。又、特許文献2では、平置きや壁面用の栽培器にミズゴケを保持し、容器内に貯めた水にミズゴケの一部を浸して吸水させたり、斜面上に係止したミズゴケに斜面上方から水を流して吸水させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第4636455号公報
【文献】国際公開番号WO2006/137544号公報(
図6(2))
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、水を滞留させると藻類や細菌類が繁殖しやすく、水に肥料を添加すると、この問題は更に顕著になる。藻類や細菌類が繁茂するとミズゴケの吸水が妨げられるほか、藻類や細菌類がミズゴケ上まで遡上すると光や栄養塩をめぐる競争やアレロパシー物質により植物の生育を阻害する。
【0006】
そして、水を滞留させる方法、あるいは特許文献2の
図6(2)に示される例のように斜面上に水を流下させる方法においても、水位を形成させて水や養液をミズゴケに供給する方法では栽培設備を水位に耐えられるように堅固にする必要があり、大量の水や養液を使用し、それを循環させるためのポンプにも大きなものが必要とされるなどコストが高くなる等の問題点を有していた。
【0007】
更に、特許文献2の
図6(2)のように斜面上にミズゴケを配設した場合には、斜面の上下で水分量に差を生じ、生育の均一性を損なうという問題点を有していた。
【0008】
本発明は、前記従来の問題点を解消するべくなされたもので、藻類や細菌類が繁殖しにくく、設備コストの安い、ミズゴケを用いた植物栽培方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、水又は水溶液を通さず水又は水溶液を貯めることのない架台を水平に配設し、該架台上に潅水チューブを配設し、該潅水チューブ上にミズゴケ含有率が50%以上の培地を配設し、該ミズゴケ含有率が50%以上の培地上に栽培植物を配設して、前記潅水チューブから前記栽培植物に潅水すると共に、前記潅水チューブと前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地の間に透水性の布を介在させ、該布を利用して、潅水した水又は水溶液を滞留しないように排水することを特徴とする、ミズゴケを用いた植物栽培方法により、前記課題を解決したものである。
【0010】
本発明は、又、水平に配設された、水又は水溶液を通さず水又は水溶液を貯めることのない架台と、該架台上に配設された潅水チューブと、該潅水チューブ上に配設されたミズゴケ含有率が50%以上の培地と、該ミズゴケ含有率が50%以上の培地上に配設した栽培植物に、前記潅水チューブから潅水するための給液手段と、潅水した水又は水溶液を滞留しないように排水する排水手段である、前記潅水チューブと前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地の間に介在された透水性の布と、を備えたことを特徴とする、ミズゴケを用いた植物栽培装置により、同じく前記課題を解決したものである。
【0012】
ここで、前記布を防根透水用不織布とすることができる。
【0013】
又、前記ミズゴケ含有率が50%以上の培地は、ミズゴケ以外の資材を含むことができる。
【0014】
又、前記架台に排水用溝を形成することができる。
【0015】
又、前記布の端部を前記架台からオーバーハングさせて排水させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、水や養液を含む水溶液が貯留しないため藻類や細菌類が繁殖しにくく、藻類や細菌類の繁茂による植物の生育阻害を防ぐことができる。更に、底面からミズゴケが吸水できるだけの量の水や養液を含む水溶液を供給することで、排液を出さずに栽培を行うこともでき、水と肥料の使用量を節約でき、水位維持や排液処分に係る設備コストを大幅に低減できる。又、架台が水平に配設されるので、斜面の場合のように、斜面の上下で水分量に差を生じて、生育の均一性を損なうこともない。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の第1実施形態の全体構成を示す側面図
【
図2】同じく
図1のII-II線に沿う拡大横断面図
【
図3】同じく布を介在させた場合の作用を示す要部拡大横断面図
【
図4】同じく潅水パターンと湿り方の例を示すタイムチャート
【
図5】本発明の第2実施形態における排水方法を示す横断面図
【
図6】本発明の第3実施形態における排水方法を示す横断面図
【
図7】(A)本発明法と(B)従来法の培地水分変化を比較して示すタイムチャート
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施の形態について詳細に説明する。なお、本発明は以下の実施形態及び実施例に記載した内容により限定されるものではない。また、以下に記載した実施形態及び実施例における構成要件には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のもの、いわゆる均等の範囲のものが含まれる。更に、以下に記載した実施形態及び実施例で開示した構成要素は適宜組み合わせてもよいし、適宜選択して用いてもよい。
【0019】
本発明の第1実施形態に係る植物栽培装置は、
図1(側面図)及び
図2(横断面図)に全体構成を示す如く、水平に配設された、水又は水溶液を通さず水又は水溶液を貯めることのない架台10と、該架台10上に配設された潅水手段である潅水チューブ12と、該潅水チューブ12上に配設されたミズゴケ(例えば乾燥ミズゴケ)16と、該ミズゴケ16上に配設した栽培植物(例えばモウセンゴケ)18に、前記潅水チューブ12から潅水するための、給液手段である給液タンク20及び給液ポンプ22と、前記潅水チューブ12と前記ミズゴケ16の間に介在させた透水性の布(例えば不織布)14とを備えている。
【0020】
前記架台10としては、例えば断熱性能を有して安価な発泡スチロールを用いることができる。
【0021】
前記潅水チューブ12としては、潅水量に応じて、例えば一列又は複数列の孔を、長手方向に直線状、らせん状、又は、ジグザグ状に開けた、例えばポリエチレン製の多孔チューブを用いることができる。
【0022】
前記布14としては、例えばポリエステル製の長繊維不織布を用いることができる。この布14を用いることによって、ミズゴケ16全体を、より均等に湿らせることができる。すなわち、
図3に示す如く、潅水チューブ12から流れ出した水又は水溶液が矢印W1に示す如く、布14に吸収される。次いで、布14が矢印W2に示す如く水又は水溶液を素早くミズゴケ16の底面に広げる。次いで、ミズゴケ16が布14から水又は水溶液を吸収し、全体が湿潤になる。布14は、貯水量は小さいが、毛細管現象により吸水が早く、矢印W2で示した布14の中での水又は水溶液の移動が速い。これにより、水又は水溶液を吸う力が強く多くの水又は水溶液を保持できるが、水又は水溶液の移動が遅いというミズゴケ16の欠点を補うことができる。
【0023】
前記布14としては、織り目によって水又は水溶液の流れが偏る可能性がない不織布の方が望ましいが、不織布に限定されない。
【0024】
前記ミズゴケ16は、生きたミズゴケでも、乾燥させたミズゴケを再吸水させたミズゴケ資材でもよい。
【0025】
前記ミズゴケ16はミズゴケ100%が望ましいが、大部分がミズゴケであれば他の資材を混ぜた混合物(混合資材)であってもよい。
【0026】
他の資材の例としては、ピートモス、ヤシガラ、ロックウール、バーミキュライト、パーライト、土、砂、ポリマー樹脂などがある。又、他の資材の状態は繊維、チップなどのいずれでもよく、特に制約はない。
【0027】
前記ミズゴケ16は、ミズゴケによる植物栽培面までの吸水が妨げられない程度にミズゴケ含有率が高い必要があり、少なくともミズゴケ含有率が50%以上であることが望ましい。
【0028】
使用に際しては、架台10の上に潅水チューブ12を設置し、その上にミズゴケ16を敷き、ミズゴケ16に栽培植物18を植栽する。栽培植物18は根を含む植物体の一部をミズゴケ16中に埋没させ、葉の少なくとも一部はミズゴケ16上に露出させる。
【0029】
潅水時に架台10上に残った水又は水溶液は、架台10の側面又は末端から排水することができる。回収して再利用してもよい。
【0030】
前記給液タンク20に液体肥料を加えることもできる。
【0031】
前記布14として、防根透水用不織布を用いることによって、潅水チューブ12に栽培植物18の根が絡みついて潅水機能が損なわれるのを防ぐことができる。
【0032】
潅水手段は、第1実施形態の潅水チューブ12のほか、通水していないときは平らになるドリップチューブで、注水すると膨らむ軟質ドリップチューブや、通水しなくても膨らんでいる硬質ドリップチューブ、あるいは、孔を開けた金属製又は非金属性パイプなどを用いることができる。水又は養液を含む水溶液を供給できるものであれば限定されない。
【0033】
水又は養液を含む水溶液の供給方法は、連続でも間欠でも構わないが、間欠の方が供給する水又は養液を含む水溶液の量と頻度を植物の生育や環境条件の変化に応じて調節できるため望ましい。即ち、間欠の場合は、
図4に潅水パターンと湿り方の例を示す如く、(A)に示す少量多頻度としたり、(B)に示す少量小頻度としたり、(C)に示す多量多頻度としたり、(D)に示す多量小頻度とすることができ、制御性に優れている。
【0034】
なお、前記第1実施形態においては、架台10上に供給された潅水を架台10の側面又は末端から排水するようにしていたが、排水方法はこれに限定されず、
図5に示す第2実施形態のように、架台10の上面に例えば潅水チューブ12と平行に切込みを設けて排水用溝10Aとしたり、あるいは
図6に示す第3実施形態のように、布14の端部を架台10の端部からオーバーハングさせて、排水用オーバーハング部14Aとすることも可能である。
【0035】
この第3実施形態によれば、第2実施形態のように架台10を加工することなく、排水を促進することができる。
【0036】
いずれにしても、前記実施形態によれば、水や養液を含む水溶液が貯留しないため、藻類や細菌類が繁殖しにくく、藻類や細菌類の繁茂による植物の生育阻害を防ぐことができる。又、ミズゴケ16の底面からミズゴケ16が吸水できるだけの量の水や養液を含む水溶液を供給することで、余分な排液を出さずに栽培を行うことができ、水と肥料の総量を節約でき、更に水位保持や排液処分に係る設備コストを大幅に低減することができる。更に、ミズゴケ16の敷き方にノウハウが不要であり、作業の効率化を図ると共に、機械化も可能である。
【0037】
発明者が実験したところ、本発明の栽培方法は、
図7に示す如く、潅水時の湿りが大きく、日変化大であったが、潅水時の湿りは潅水量設定で小さくでき、日変化は潅水回数設定で小さくでき、潅水設定で濡れ程度の制御が可能であるので問題は無い。成長速度もフロート式に比べて大きな違いはないことが確認できた。
【0038】
なお、前記実施形態においては、栽培植物がモウセンゴケであり、ミズゴケが乾燥ミズゴケとされていたが、栽培植物やミズゴケの種類はこれに限定されない。
【符号の説明】
【0039】
10…架台
10A…排水用溝
12…潅水チューブ
14…布
14A…排水用オーバーハング部
16…ミズゴケ
18…栽培植物
20…給液タンク
22…給液ポンプ