(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】クランクシャフトの形状検査方法及び形状検査装置
(51)【国際特許分類】
G01B 11/24 20060101AFI20230512BHJP
【FI】
G01B11/24 A
(21)【出願番号】P 2019233489
(22)【出願日】2019-12-24
【審査請求日】2022-08-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001748
【氏名又は名称】弁理士法人まこと国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伊勢居 良仁
(72)【発明者】
【氏名】酒井 康輔
(72)【発明者】
【氏名】池田 真也
(72)【発明者】
【氏名】臼谷 祐輝
【審査官】仲野 一秀
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2016/194728(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/159626(WO,A1)
【文献】特開2007-212357(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01B 11/00-11/30
G06T 7/00-7/90
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
光学式の3次元形状測定装置によってクランクシャフトの表面形状を測定することで、前記クランクシャフト表面の3次元点群データを取得する第1ステップと、
前記第1ステップで取得した前記3次元点群データと、前記クランクシャフトの設計仕様に基づき予め用意された前記クランクシャフトの表面形状モデルとの距離が最小となるように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させて、前記表面形状モデルに重ね合わせる第2ステップと、
前記第2ステップで前記表面形状モデルに重ね合わせられた前記3次元点群データから、予め決められた加工基準部位の点群データである加工基準部位点群データを抽出し、前記抽出した加工基準部位点群データによって定まる加工基準の座標が、前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において予め決められた座標と合致するように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させる第3ステップと、
前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において、予め決められた前記クランクシャフトの加工部位の機械加工後の表面である推定加工面を生成する第4ステップと、
前記第3ステップで移動した後の前記3次元点群データから、前記加工部位の点群データである加工部位点群データを抽出し、前記抽出した加工部位点群データと、前記第4ステップで生成した前記推定加工面との距離を算出し、前記算出した距離に基づき前記クランクシャフトの加工代を判定する第5ステップと、
を含むクランクシャフトの形状検査方法。
【請求項2】
前記第4ステップにおいて、
前記加工部位は、前記クランクシャフトの軸部及びピンであり、
前記推定加工面は、円筒である、
請求項1に記載のクランクシャフトの形状検査方法。
【請求項3】
前記第3ステップにおいて、
前記加工基準部位は、前記クランクシャフトの2箇所の軸部、1箇所のピン及び隣り合う2箇所のカウンタウェイトであり、
前記加工基準は、前記2箇所の軸部それぞれの中心、前記1箇所のピンの中心及び前記2箇所のカウンタウェイトの対向する側面である、
請求項1又は2に記載のクランクシャフトの形状検査方法。
【請求項4】
前記第3ステップにおいて、
前記加工基準部位のうち、前記2箇所の軸部及び前記1箇所のピンについて、加工基準部位点群データとして、前記クランクシャフトを固定するための固定チャックが接触する部位の点群データを抽出する、
請求項3に記載のクランクシャフトの形状検査方法。
【請求項5】
前記第5ステップにおいて、前記加工部位点群データのうち、算出した前記推定加工面との距離が予め決められた最小必要加工代未満である点群データの割合を算出し、前記算出した点群データの割合が所定のしきい値以上の場合、前記クランクシャフトの加工代が不足していると判定する、
請求項1から4の何れかに記載のクランクシャフトの形状検査方法。
【請求項6】
請求項1から5の何れかに記載のクランクシャフトの形状検査方法を実行するためのクランクシャフトの形状検査装置であって、
クランクシャフトの回転中心軸周りに90°ピッチで配置され、前記クランクシャフトの回転中心軸に平行な方向に相対的に移動しながら前記クランクシャフトに対して光を投受光することで前記クランクシャフトの3次元形状を測定する4つの光学式の3次元形状測定装置と、
前記4つの3次元形状測定装置による測定結果が入力され、所定の演算を実行する演算装置と、を備え、
前記4つの3次元形状測定装置のうち、前記クランクシャフトの回転中心軸周りに隣り合う3次元形状測定装置は、光の投光方向が前記クランクシャフトの回転中心軸に直交する方向に対して互いに逆向きに傾斜しており、
前記演算装置には、前記クランクシャフトの設計仕様に基づき作成された前記クランクシャフトの表面形状モデルが予め記憶されており、
前記演算装置は、
前記4つの3次元形状測定装置による測定結果を合成することで、前記クランクシャフト表面の3次元点群データを生成する第1ステップと、
前記第1ステップで生成した前記3次元点群データと、前記記憶されたクランクシャフトの表面形状モデルとの距離が最小となるように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させて、前記表面形状モデルに重ね合わせる第2ステップと、
前記第2ステップで前記表面形状モデルに重ね合わせられた前記3次元点群データから、予め決められた加工基準部位の点群データである加工基準部位点群データを抽出し、前記抽出した加工基準部位点群データから定まる加工基準の座標が、前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において予め決められた座標と合致するように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させる第3ステップと、
前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において、予め決められた前記クランクシャフトの加工部位の機械加工後の表面である推定加工面を生成する第4ステップと、
前記第3ステップで移動した後の前記3次元点群データから、前記加工部位の点群データである加工部位点群データを抽出し、前記抽出した加工部位点群データと、前記第4ステップで生成した前記推定加工面との距離を算出し、前記算出した距離に基づき前記クランクシャフトの加工代を判定する第5ステップと、
を実行するクランクシャフトの形状検査装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のエンジン等に用いられるクランクシャフトの形状をその製造工程で検査する方法及び装置に関する。特に、本発明は、クランクシャフトの機械加工時の加工代を判定可能なクランクシャフトの形状検査方法及び形状検査装置に関する。
【背景技術】
【0002】
図1は、クランクシャフトの一例(直列4気筒エンジン用クランクシャフト)を模式的に示す図である。
図1(a)はクランクシャフトSの回転中心軸Lの方向から見た正面図であり、
図1(b)は回転中心軸Lに直交する方向から見た側面図である。
図1に示すように、クランクシャフトSは、クランクシャフトSの回転中心軸Lに設けられたフロントSAと、回転中心軸Lに設けられた複数のジャーナルSB(
図1に示す例では、第1ジャーナルSB1~第5ジャーナルSB5)と、回転中心軸Lに設けられた回転バランスを取るための複数のカウンタウェイトSC(
図1に示す例では、第1カウンタウェイトSC1~第8カウンタウェイトSC8)と、回転中心軸L周りの所定角度の位置に設けられたコネクティングロッド(図示せず)を取り付けるための複数のピンSD(
図1に示す例では、第1ピンSD1~第4ピンSD4)と、回転中心軸Lに設けられたフランジSEと、を備えている。ピンSDの断面形状は、回転中心軸Lから離間した位置を中心とする円形であり、エンジンの軸部に相当するクランクシャフトSの軸部であるフロントSA、ジャーナルSB及びフランジSEの断面形状は、クランクシャフトSの回転中心軸Lを中心とする円形である。カウンタウェイトSCの断面形状は、左右対称の複雑な形状である。
【0003】
図1に示すようなクランクシャフトSは、加熱した素材を上下の金型でプレスして型鍛造することにより、バリを含む鍛造品を成型した後、バリを除去し、ショットブラスト処理を施して製造される。これらの製造工程で製造されたクランクシャフトSは、自動車のエンジン等に組み込む際に、適切に組み込めるように切削による機械加工が施される。具体的には、クランクシャフトSの軸部(フロントSA、ジャーナルSB及びフランジSE)と、ピンSDは、円柱状に機械加工が施される。これら軸部及びピンSDには、機械加工できるように、数mm程度の加工代が設けられる。
【0004】
上記のように、クランクシャフトは形状が複雑であるため、鍛造する際に、素材寸法の変動、素材温度のムラ、鍛造操業の変動等により、金型の端部まで素材が充填されない欠肉と称される欠陥や、クランクシャフトの全長に亘る曲がりやねじれが発生することがある。また、クランクシャフトをハンドリングする際に搬送設備等と接触して凹み疵が生じることもある。さらには、クランクシャフトの加工部位である軸部及びピンに十分な加工代を有しないこともある。このため、クランクシャフトの製造工程では、機械加工を施す前に、クランクシャフトの実形状を基準形状と比較して検査し、合否を判定している。
【0005】
クランクシャフトの合否判定の基準としては、(a)クランクシャフトの曲がり及びねじれが所定の許容範囲内にあること、(b)カウンタウェイトに許容範囲を超えた欠肉や凹み疵が無いこと、(c)加工部位である軸部やピンに所定の加工代を有していること、が挙げられる。
上記(a)及び(b)は、クランクシャフトの最終製品としての寸法精度や重量バランスを達成するために必要な条件として設定されている。クランクシャフトの曲がりが大きい、又は、ねじれが大きくピンの設置位置が所定角度から大きくずれていると、後工程でどのような加工を施したとしても、クランクシャフトの最終製品としての寸法精度や重量バランスを達成することが困難になるからである。また、欠肉や凹み疵によってカウンタウェイトの形状が設計通りにはならずに重心がずれた場合にも、同様に、クランクシャフトの最終製品としての重量バランスを達成することが困難になるからである。
上記(c)は、機械加工を施すために必要な条件として設定されている。如何に重量バランスの取れたクランクシャフトであっても、十分な加工代が無ければ、機械加工後の寸法精度を達成し難い上に、表面性状の悪い鍛造表面が残存してしまい、エンジンの構成部品として使用することができないからである。
【0006】
具体的には、クランクシャフトの曲がりの合否は、クランクシャフトを機械加工時の座標系(
図1のXYZ座標系)に合わせ込んだときの軸部(フロント、ジャーナル及びフランジ)の回転中心軸からのずれ量を管理指標とし、この管理指標が公差以内(例えば、±1mm以内)であるか否かによって合否が判定される。また、クランクシャフトのねじれの合否は、ピンの分割角度を管理指標とし、この管理指標が規定以内(例えば、±1°)であるか否かによって合否が判定される。
また、カウンタウェイトの形状の合否は、
図1(a)に示すようなクランクシャフトの回転中心軸方向から見たカウンタウェイトの側面寸法(幅、高さ、外周径)を管理指標として判定される。この管理指標は、クランクシャフトの回転バランスを確保するために必要である。また、カウンタウェイトの形状の合否は、
図1(b)に示すようなクランクシャフトの回転中心軸に直交する方向から見たカウンタウェイトの長手方向位置も管理指標として判定される。この管理指標は、カウンタウェイトの厚み(回転軸方向に沿った寸法)や倒れを検出するために必要である。上記のカウンタウェイトの形状に関する管理指標には、それぞれ公差が決められている(例えば、±1mm、±2mm)。
さらに、軸部の形状の合否については、型鍛造の精度を把握可能な鍛造厚みや鍛造型ずれが、製造工程における管理指標として使用されている。
【0007】
従来のクランクシャフトを検査する方法は、ピン及びカウンタウェイトの基準形状に合致するように形成された各板ゲージを、クランクシャフトの検査するピン及びカウンタウェイトにそれぞれあてがい、各板ゲージとピン及びカウンタウェイトとの隙間をスケールで測定して、その隙間の寸法(形状誤差)が許容範囲内であれば、そのクランクシャフトを合格と判定するものであった。この方法は、ピン及びカウンタウェイトの基準形状に合致するように形成された板ゲージを用いて、オペレータの手作業によって行われるので、検査精度に個人差が生じるばかりでなく、検査に多大な時間を要するという問題を有していた。このため、自動で正確な検査を行うために、特許文献1~6に示すような種々のクランクシャフトの形状検査方法が提案されてきた。
しかしながら、従来の形状検査方法には、クランクシャフトの機械加工時の加工代を判定可能な方法が提案されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開昭59-184814号公報
【文献】特開平6-265334号公報
【文献】特開平10-62144号公報
【文献】特開2007-212357号公報
【文献】国際公開第2016/194728号
【文献】国際公開第2017/159626号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来技術の問題点を解決するためになされたものであり、クランクシャフトの機械加工時の加工代を判定可能なクランクシャフトの形状検査方法及び形状検査装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
前記課題を解決するため、本発明は、以下の第1~第5ステップを含むクランクシャフトの形状検査方法を提供する。
(1)第1ステップ:光学式の3次元形状測定装置によってクランクシャフトの表面形状を測定することで、前記クランクシャフト表面の3次元点群データを取得する。
(2)第2ステップ:前記第1ステップで取得した前記3次元点群データと、前記クランクシャフトの設計仕様に基づき予め用意された前記クランクシャフトの表面形状モデルとの距離が最小となるように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させて、前記表面形状モデルに重ね合わせる。
(3)第3ステップ:前記第2ステップで前記表面形状モデルに重ね合わせられた前記3次元点群データから、予め決められた加工基準部位の点群データである加工基準部位点群データを抽出し、前記抽出した加工基準部位点群データによって定まる加工基準の座標が、前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において予め決められた座標と合致するように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させる。
(4)第4ステップ:前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において、予め決められた前記クランクシャフトの加工部位の機械加工後の表面である推定加工面を生成する。
(5)第5ステップ:前記第3ステップで移動した後の前記3次元点群データから、前記加工部位の点群データである加工部位点群データを抽出し、前記抽出した加工部位点群データと、前記第4ステップで生成した前記推定加工面との距離を算出し、前記算出した距離に基づき前記クランクシャフトの加工代を判定する。
【0011】
本発明によれば、第1ステップを実行することにより、クランクシャフト表面の3次元点群データが取得される。
次いで、本発明によれば、第2ステップを実行することにより、3次元点群データが、例えば、設計仕様に基づく3次元CADデータを変換することにより三角メッシュ等で構成された表面形状モデルに重ね合わせられる。すなわち、3次元点群データと表面形状モデルとの距離が最小となるように、3次元点群データが平行移動及び回転移動する。なお、本発明における「クランクシャフトの表面形状モデルとの距離が最小となる」とは、3次元点群データを構成する各データ点と表面形状モデルとの距離の総和、又は、距離の二乗和の総和が最小となることを意味する。
次いで、本発明によれば、第3ステップを実行することにより、3次元点群データから、予め決められた加工基準部位(クランクシャフトの2箇所の軸部等)の点群データである加工基準部位点群データが抽出される。加工基準部位点群データの位置は、表面形状モデルから認識可能である一方、第2ステップで3次元点群データが表面形状モデルに重ね合わせられているため、3次元点群データにおける加工基準部位点群データの位置も認識可能である。このため、3次元点群データから加工基準部位点群データを抽出可能である。
そして、第3ステップを実行することにより、抽出した加工基準部位点群データによって定まる加工基準(クランクシャフトの2箇所の軸部それぞれの中心等)の座標が、クランクシャフトの機械加工時の座標系において予め決められた座標と合致するように、3次元点群データが平行移動及び回転移動する。これにより、クランクシャフトの機械加工時の座標系でクランクシャフトの3次元点群データが表される、換言すれば、クランクシャフトの機械加工時の状態を再現することが可能になる。
次いで、本発明によれば、第4ステップを実行することにより、クランクシャフトの機械加工時の座標系において、予め決められたクランクシャフトの加工部位(クランクシャフトの軸部等)の機械加工後の表面である推定加工面(例えば、円筒)が生成される。
最後に、本発明によれば、第5ステップを実行することにより、第3ステップで移動した後の3次元点群データから、加工部位の点群データである加工部位点群データを抽出する。加工部位点群データの位置は、機械加工時の座標系で認識可能である一方、第3ステップを実行することで3次元点群データがクランクシャフトの機械加工時の座標系で表されているため、3次元点群データにおける加工部位点群データの位置も認識可能である。このため、3次元点群データから加工部位点群データを抽出可能である。そして、本発明によれば、第5ステップを実行することにより、抽出した加工部位点群データ(点群データを構成する各データ点)と、第4ステップで生成した推定加工面との距離に基づきクランクシャフトの加工代を判定することが可能である。
【0012】
本発明における前記第4ステップにおいて、前記加工部位は、前記クランクシャフトの軸部(すなわち、フロント、ジャーナル及びフランジ)及びピンであり、前記推定加工面は、円筒であることが好ましい。
【0013】
前記第3ステップにおいては、前記加工基準部位は、前記クランクシャフトの2箇所の軸部、1箇所のピン及び隣り合う2箇所のカウンタウェイトであり、前記加工基準は、前記2箇所の軸部それぞれの中心、前記1箇所のピンの中心及び前記2箇所のカウンタウェイトの対向する側面(クランクシャフトの回転中心軸方向に対向する側面)であることが好ましい。
【0014】
前記第3ステップにおいては、前記加工基準部位のうち、前記2箇所の軸部及び前記1箇所のピンについて、加工基準部位点群データとして、前記クランクシャフトを固定するための固定チャックが接触する部位の点群データを抽出することが好ましい。
【0015】
前記第5ステップにおいては、前記加工部位点群データのうち、算出した前記推定加工面との距離が予め決められた最小必要加工代未満である点群データの割合を算出し、前記算出した点群データの割合が所定のしきい値以上の場合、前記クランクシャフトの加工代が不足していると判定することが好ましい。
【0016】
また、前記課題を解決するため、本発明は、前記何れかに記載のクランクシャフトの形状検査方法を実行するためのクランクシャフトの形状検査装置であって、特許文献6に記載の形状測定装置と同様の3次元形状計測装置を備えるクランクシャフトの形状検査装置としても提供される。
具体的には、前記課題を解決するため、本発明は、クランクシャフトの回転中心軸周りに90°ピッチで配置され、前記クランクシャフトの回転中心軸に平行な方向に相対的に移動しながら前記クランクシャフトに対して光を投受光することで前記クランクシャフトの3次元形状を測定する4つの光学式の3次元形状測定装置と、前記4つの3次元形状測定装置による測定結果が入力され、所定の演算を実行する演算装置と、を備え、前記4つの3次元形状測定装置のうち、前記クランクシャフトの回転中心軸周りに隣り合う3次元形状測定装置は、光の投光方向が前記クランクシャフトの回転中心軸に直交する方向に対して互いに逆向きに傾斜しており、前記演算装置には、前記クランクシャフトの設計仕様に基づき作成された前記クランクシャフトの表面形状モデルが予め記憶されており、前記演算装置は、以下の第1~第5ステップを実行するクランクシャフトの形状検査装置を提供する。
(1)第1ステップ:前記4つの3次元形状測定装置による測定結果を合成することで、前記クランクシャフト表面の3次元点群データを生成する。
(2)第2ステップ:前記第1ステップで生成した前記3次元点群データと、前記記憶されたクランクシャフトの表面形状モデルとの距離が最小となるように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させて、前記表面形状モデルに重ね合わせる。
(3)第3ステップ:前記第2ステップで前記表面形状モデルに重ね合わせられた前記3次元点群データから、予め決められた加工基準部位の点群データである加工基準部位点群データを抽出し、前記抽出した加工基準部位点群データから定まる加工基準の座標が、前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において予め決められた座標と合致するように、前記3次元点群データを平行移動及び回転移動させる。
(4)第4ステップ:前記クランクシャフトの機械加工時の座標系において、予め決められた前記クランクシャフトの加工部位の機械加工後の表面である推定加工面を生成する。
(5)第5ステップ:前記第3ステップで移動した後の前記3次元点群データから、前記加工部位の点群データである加工部位点群データを抽出し、前記抽出した加工部位点群データと、前記第4ステップで生成した前記推定加工面との距離を算出し、前記算出した距離に基づき前記クランクシャフトの加工代を判定する。
なお、「逆向きに傾斜」とは、一方がクランクシャフトのフロント側に傾斜しているとすれば、他方はクランクシャフトのフランジ側に傾斜していることを意味する。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、クランクシャフトの機械加工時の加工代を判定可能である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【
図1】クランクシャフトの一例(直列4気筒エンジン用クランクシャフト)を模式的に示す図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査装置の概略構成を示す図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査装置の概略構成を示す図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査装置の概略構成を示す図である。
【
図5】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査方法の第1ステップで取得される3次元点群データの一例を示す図である。
【
図6】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査方法の第3ステップを説明する説明図である。
【
図7】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査方法の第3ステップを説明する説明図である。
【
図8】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査方法の第3ステップを説明する説明図である。
【
図9】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査方法の第4ステップ及び第5ステップを説明する説明図である。
【
図10】本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査方法の第4ステップ及び第5ステップを説明する説明図である。
【
図11】
図2に示す演算装置が具備するモニタの表示例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、添付図面を適宜参照しつつ、本発明の一実施形態について説明する。
【0020】
図2~
図4は、本発明の一実施形態に係るクランクシャフトの形状検査装置(以下、単に「形状検査装置」という)の概略構成を示す図である。
図2は、クランクシャフトSの回転中心軸の方向(X軸方向)から見た正面透視図である。
図3(a)は、
図2の矢符Aに示す方向から見た側面図である。
図3(b)は、
図3(a)の部分的拡大側面図である。
図4は、
図2の矢符Bに示す方向から見た側面図である。なお、
図2~
図4において、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じていない場合のクランクシャフトSの回転中心軸Lに平行な方向をX軸方向、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する水平方向をY軸方向、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する鉛直方向をZ軸方向としている。また、
図3及び
図4では、演算装置2の図示を省略している。
図2~
図4に示すように、本実施形態に係る形状検査装置100は、光学式の3次元形状測定装置1と、演算装置2と、移動機構3と、支持装置4と、を備えている。
【0021】
3次元形状測定装置1は、クランクシャフトSに対して光を投受光することでクランクシャフトSの3次元形状を測定する装置である。具体的には、本実施形態の3次元形状測定装置1は、クランクシャフトSに向けてクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向に延びる線状のレーザ光を投光する投光手段11と、クランクシャフトSの表面で反射した光を受光して撮像する受光手段12とを具備し、線状のレーザ光の変形を解析する光切断法によってクランクシャフトSの3次元形状を測定する構成である。ただし、本発明の3次元形状測定装置としては、これに限るものではなく、縞パターンや格子パターンを投影して空間符号化法によってクランクシャフトSの3次元形状を測定する構成を採用することも可能である。
【0022】
本実施形態の3次元形状測定装置1は、仮にクランクシャフトSの回転中心軸の方向(X軸方向)に直交する面に対して角度βだけ傾斜した位置に配置し、クランクシャフトSまでの距離が400mmであるときに、クランクシャフトSの周方向の測定視野が180mmである。また、クランクシャフトSの周方向の測定分解能は0.3mmであり、測定周期が500HzのときのクランクシャフトSの径方向の測定分解能は約0.02mmである。このような3次元形状測定装置1としては、例えば、キーエンス社製の超高速インラインプロファイル測定器「LJ-V7300」を用いることができる。後述の移動機構3で3次元形状測定装置1をX軸方向に200mm/secで移動させた場合、X軸方向(クランクシャフトSの軸方向)の測定分解能が0.4mmで、クランクシャフトSの径方向の測定分解能が0.3mmで、クランクシャフトSの径方向の測定分解能が0.02mmであるクランクシャフトSの3次元形状を測定可能である。
【0023】
本実施形態の形状検査装置100は、3次元形状測定装置1として、クランクシャフトSの回転中心軸L周りに90°ピッチで配置された4つの3次元形状測定装置1a~1dを備えている。3次元形状測定装置1aは、投光手段11a及び受光手段12aを具備し、3次元形状測定装置1bは、投光手段11b及び受光手段12bを具備し、3次元形状測定装置1cは、投光手段11c及び受光手段12cを具備し、3次元形状測定装置1dは、投光手段11d及び受光手段12dを具備している。このように4つの3次元形状測定装置1a~1dを備えることで、クランクシャフトSを回転中心軸L周りに回転させなくても、クランクシャフトS全体の3次元形状を測定可能である。
【0024】
そして、4つの3次元形状測定装置1a~1dのうち、クランクシャフトSの回転中心軸L周りに隣り合う3次元形状測定装置は、光の投光方向がクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向に対して互いに逆向きに傾斜している。
例えば、
図3(b)に示すように、3次元形状測定装置1aの投光手段11aからの光の投光方向は、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向LV1に対してフランジSE側に角度βだけ傾斜しているのに対して、3次元形状測定装置1aに隣り合う3次元形状測定装置1bの投光手段11bからの光の投光方向は、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向LV2に対してフロントSA側に角度βだけ傾斜している。
図4を参照すれば分かるように、3次元形状測定装置1aに隣り合う3次元形状測定装置1dの投光手段11dからの光の投光方向は、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向に対してフロントSA側に傾斜(図示を省略するが角度βだけ傾斜)しており、3次元形状測定装置1b及び1dに隣り合う3次元形状測定装置1cの投光手段11cからの光の投光方向は、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向に対してフランジSE側に傾斜(図示を省略するが角度βだけ傾斜)している。
【0025】
本実施形態に係る3次元形状測定装置1のように、光の投光方向をクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向に対して傾斜させることで、カウンタウェイトSCの側面(クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向の側面)の形状を測定可能である。また、隣り合う3次元形状測定装置1の光の投光方向がクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向に対して互いに逆向きに傾斜しているため、カウンタウェイトSCの両側面(フロントSA側の側面及びフランジSE側の側面)の形状を測定可能である。角度βが5°の場合、カウンタウェイトSCの側面のY軸方向の測定ピッチは4.5mm(=0.4mm/tan5°)である。
【0026】
演算装置2は、3次元形状測定装置1による測定結果に対して所定の演算を実行する。具体的には、演算装置2は、4つの3次元形状測定装置1a~1dによる測定結果を合成することで、クランクシャフトS表面全体の3次元点群データを生成(取得)する。そして、後述する各種の演算を実行する。演算装置2は、例えば、上記の演算を実行するプログラムやアプリケーションがインストールされたコンピュータから構成される。具体的には、例えば、オープンソース系の「PCL(Point Cloud Library)」や、MVTec社製「HALCON」のような公知の点群処理ライブラリをコンピュータに実装することで、演算装置2を構成可能である。上記の点群処理ライブラリは、点群データに加えて、表面データ(円筒、平面、三角メッシュ等で構成されたデータ)を扱うことが可能であり、スムージングや間引き処理等の前処理、座標や距離等に基づく点群データの抽出、座標変換、マッチング処理、フィッティング処理、点群データの寸法測定、立体表面の生成など、点群データや表面データに関する種々の演算を実行可能である。
また、演算装置2には、クランクシャフトSの設計仕様に基づき作成されたクランクシャフトSの表面形状モデルが予め記憶されている。具体的には、演算装置2には、設計仕様に基づく3次元CADデータが入力され、演算装置2は、この入力されたCADデータを三角メッシュ等で構成された表面形状モデルに変換して記憶する。表面形状モデルはクランクシャフトSの品種毎に作成し記憶しておけばよいので、同じ品種のクランクシャフトSを連続して検査する場合には、検査毎に表面形状モデルを作成する必要はない。
【0027】
移動機構3は、3次元形状測定装置1をクランクシャフトSの回転中心軸Lに平行なX軸方向に相対的に移動させるものである。移動機構3としては、例えば、一軸ステージを用いることができる。移動機構3に用いる一軸ステージとしては、0.1mm以下の分解能で位置決め又は位置を把握できるものが好ましい。本実施形態では、4つの3次元形状測定装置1を独立して移動させるために、3次元形状測定装置1毎に移動機構3が設けられている。なお、本実施形態の移動機構3は、3次元形状測定装置1の方を移動させるものであるが、必ずしもこれに限るものではなく、クランクシャフトSの方をX軸方向に移動させる機構とすることも可能である。3次元形状測定装置1がX軸方向に相対的に移動しながら、クランクシャフトSに対して光を投受光することで、クランクシャフトS全体の3次元形状を測定可能である。
なお、4つの3次元形状測定装置1a~1dのX軸方向の測定位置が互いに近いと、各3次元形状測定装置1a~1dから投光される光が互いに干渉して誤測定が発生するおそれがある。このため、例えば、4つの各移動機構3は、各3次元形状測定装置1a~1dがX軸方向に200mm程度の間隔を隔てるように、各3次元形状測定装置1a~1dを移動させる。
【0028】
支持装置4は、基台41と、基台41の両端部からそれぞれZ軸方向に延在する一対の支持部42と、を具備する。一方の支持部42は、クランクシャフトSのフロントSAを支持し、他方の支持部42は、クランクシャフトSのフランジSEを支持する。支持部42の上端はV字状に形成されており、これにより、クランクシャフトSは、安定した姿勢で支持される。
【0029】
なお、本実施形態に係る形状検査装置100が備える3次元形状測定装置1、移動機構3及び支持装置4としては、それぞれ特許文献6に記載の形状検査装置、移動装置及び支持装置と同様の構成を採用可能であるため、ここではこれ以上の詳細な説明は省略する。
【0030】
以下、上記の構成を有する形状検査装置100を用いたクランクシャフトSの形状検査方法について説明する。
本実施形態に係る形状検査方法は、第1ステップ~第5ステップを含むことを特徴としている。以下、各ステップについて順次説明する。
【0031】
<第1ステップ>
第1ステップでは、3次元形状測定装置1によってクランクシャフトSの表面形状を測定することで、クランクシャフトS表面の3次元点群データを取得する。
具体的には、クランクシャフトSを支持装置4上に配置し、移動機構3で4つの3次元形状測定装置1a~1dをX軸方向にフロントSA側に移動させる。そして、移動機構3で4つの3次元形状測定装置1a~1dをX軸方向にフランジSE側に移動させながらクランクシャフトSに対して光を投受光することで、クランクシャフトSの3次元形状を測定する。この際、各3次元形状測定装置1a~1dから投光される光が互いに干渉して誤測定が発生しないように、例えば、各3次元形状測定装置1a~1dがX軸方向に200mm程度の間隔を隔てるように、各3次元形状測定装置1a~1dを移動させる。例えば、各3次元形状測定装置1a~1dを200mm/sで移動させる場合には、1secずつ遅らせて各3次元形状測定装置1a~1dを移動させる。クランクシャフトSの長さは3~6気筒のエンジン用であれば、最大700mm程度であるので、移動距離を800mmとしても、8sec以内でクランクシャフトSの全長に亘る3次元点群データを取得可能である。
【0032】
上記のようにして取得されたクランクシャフトSの全長に亘る3次元点群データは、イーサネット(登録商標)等を介して、演算装置2に入力され、記憶される。演算装置2は、4つの3次元形状測定装置1a~1dによる測定結果を合成することで、クランクシャフトS表面全体の3次元点群データを生成(取得)する。
図5は、第1ステップで取得される3次元点群データの一例を示す図である。なお、
図5には、4つの3次元形状測定装置1a~1dによる測定結果を合成するとき等に使用する位置合わせターゲットの3次元点群データも表示されているが、この位置合わせターゲットは特許文献6に記載のものと同様の機能を奏するため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0033】
<第2ステップ>
第2ステップでは、演算装置2が、第1ステップで取得した
図5に示すような3次元点群データと、クランクシャフトSの設計仕様に基づき予め用意されたクランクシャフトSの表面形状モデルとの距離が最小となるように、3次元点群データを平行移動及び回転移動させて、表面形状モデルに重ね合わせる。すなわち、演算装置2は、3次元点群データを構成する各データ点と表面形状モデルとの距離の総和、又は、距離の二乗和の総和が最小となるように、3次元点群データを平行移動及び回転移動させて、表面形状モデルに重ね合わせる。
【0034】
<第3ステップ>
第3ステップでは、演算装置2が、第2ステップで表面形状モデルに重ね合わせられた3次元点群データから、予め決められた加工基準部位の点群データである加工基準部位点群データを抽出し、前記抽出した加工基準部位点群データによって定まる加工基準の座標が、クランクシャフトSの機械加工時の座標系において予め決められた座標と合致するように、3次元点群データを平行移動及び回転移動させる。
【0035】
図6~
図8は、第3ステップを説明する説明図である。
図6(a)は、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じていない場合のクランクシャフトSの回転中心軸Lの方向から見た正面図であり、
図6(b)は、
図6(a)に対応するクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向から見た側面図である。
図7(a)は、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じている場合のクランクシャフトSの回転中心軸Lの方向から見た正面図であり、
図7(b)は、
図7(a)に対応するクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向から見た側面図である。
図8は、クランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向から見た3次元点群データの一例を示す図である。
図6~
図8に示すように、本実施形態では、加工基準部位は、クランクシャフトSの2箇所の軸部(具体的には、第1ジャーナルSB1及びフランジSE)、1箇所のピン(具体的には、第1ピンSD1)及び隣り合う2箇所のカウンタウェイト(具体的には、第4カウンタウェイトSC4及び第5カウンタウェイトSC5)に設定されている。また、加工基準は、2箇所の軸部(第1ジャーナルSB1及びフランジSE)それぞれの中心P
K0、P
K1、1箇所のピン(第1ピンSD1)の中心P
A及び2箇所のカウンタウェイト(第4カウンタウェイトSC4及び第5カウンタウェイトSC5)の対向する側面P
N0、P
N1に設定されている。
【0036】
具体的には、第3ステップにおいて、演算装置2は、加工基準部位であるクランクシャフトSの2箇所の軸部(第1ジャーナルSB1及びフランジSE)について、加工基準部位点群データとして、クランクシャフトSを固定するための固定チャック(具体的には、芯出しチャック、図示せず)が接触する部位の点群データBK0、BK1を抽出する。点群データBK0は、固定チャックの爪が接触する第1ジャーナルSB1の周方向4箇所の点群データであり、その位置は、3次元点群データに重ね合わせられた表面形状モデルから認識可能である。同様に、点群データBK1は、固定チャックの爪が接触するフランジSEの周方向4箇所の点群データであり、その位置は、3次元点群データに重ね合わせられた表面形状モデルから認識可能である。実際には、点群データBK0、BK1の範囲は、表面形状モデルから認識される位置の近傍も含むように、やや大きめに設定される。やや大きめに設定することで、後述のフィッティング処理における円筒の中心の算出精度を向上させることができる。
【0037】
そして、演算装置2は、抽出した4箇所の点群データBK0及び4箇所の点群データBK1に対して、それぞれ円筒をフィッティングさせるフィッティング処理を施し、フィッティングされた円筒の中心を算出して、この算出した中心を加工基準である2箇所の軸部(第1ジャーナルSB1及びフランジSE)それぞれの中心P
K0、P
K1とする。演算装置2は、加工基準P
K0、P
K1の座標が、クランクシャフトSの機械加工時の座標系(
図6~
図8のXYZ座標系)において予め決められた座標と合致するように、3次元点群データを平行移動及び回転移動させる。具体的には、クランクシャフトSの機械加工時の座標系における加工基準P
K0、P
K1の座標をそれぞれP
K0(x
k0,y
k0,z
k0)、P
K1(x
k1,y
k1,z
k1)とし、Y軸方向の平行移動量をy
Tとし、Y軸周りの回転角度をy
R[rad]とし、Z軸方向の平行移動量をz
Tとし、Z軸周りの回転角度をz
R[rad]とすると、演算装置2は、加工基準P
K0、P
K1がX軸上に位置するように、以下の式(1)~(4)に従って、3次元点群データを平行移動及び回転移動させる。
y
T=(x
K0・y
K1-y
K0・x
K1)/(x
K0-x
K1) ・・・(1)
z
T=(x
K0・z
K1-y
K0・x
K1)/(x
K0-x
K1) ・・・(2)
y
R=-180/π・tan
-1((z
K1-z
K0)/(x
K1-x
K0)) ・・・(3)
z
R=180/π・tan
-1((y
K1-y
K0)/(x
K1-x
K0)) ・・・(4)
【0038】
また、第3ステップにおいて、演算装置2は、加工基準部位であるクランクシャフトSの1箇所のピン(第1ピンSD1)について、加工基準部位点群データとして、クランクシャフトSを固定するための固定チャック(具体的には、位相クランプ、図示せず)が接触する部位の点群データBAを抽出する。点群データBAは、固定チャックの爪が接触する第1ピンSD1の周方向2箇所の点群データであり、その位置は、3次元点群データに重ね合わせられた表面形状モデルから認識可能である。実際には、点群データBAの範囲は、表面形状モデルから認識される位置の近傍も含むように、やや大きめに設定される。やや大きめに設定することで、第1ピンSD1の実際の角度や位置がずれることで、固定チャックの実際に接触する位置が設計位置からずれたとしても、精度良く第1ピンSD1の中心を算出することができる。
【0039】
そして、演算装置2は、抽出した2箇所の点群データBAの最大のZ軸座標と最小のZ軸座標との中間座標z
Aを算出して、加工基準である1箇所のピン(第1ピンSD1)の中心P
A(x
A,y
A,z
A)を求める。ここで、x
A,y
Aは、それぞれ、設計仕様で決められた第1ピンSD1の形状において、X軸方向の中心となるX軸座標と、Y軸方向の中心となるY軸座標である。演算装置2は、加工基準P
Aの座標が、クランクシャフトSの機械加工時の座標系(
図6~
図8のXYZ座標系)において予め決められた座標と合致するように、3次元点群データを回転移動させる。具体的には、クランクシャフトSの機械加工時の座標系における加工基準P
Aの座標をP
A(x
A,y
A,z
A)とし、X軸周りの回転角度をx
R[rad]とすると、演算装置2は、加工基準P
AがXY平面内に位置するように、以下の式(5)に従って、3次元点群データを回転移動させる。
x
R=180/π・tan
-1(z
A/y
A) ・・・(5)
【0040】
さらに、第3ステップにおいて、演算装置2は、加工基準部位であるクランクシャフトSの隣り合う2箇所のカウンタウェイト(第4カウンタウェイトSC4及び第5カウンタウェイトSC5)について、加工基準部位点群データとして、対向する側面の2箇所の点群データBN0、BN1を抽出する。点群データBN0、BN1の位置は、3次元点群データに重ね合わせられた表面形状モデルから認識可能である。実際には、点群データBN0、BN1の範囲は、表面形状モデルから認識される位置の近傍も含むように、やや大きめに設定される。やや大きめに設定することで、カウンタウェイトSCの長手方向位置がずれたとしても、この設定した範囲に入っていれば、長手方向位置を算出可能である。
【0041】
そして、演算装置2は、抽出した2箇所の点群データBN0、BN1のそれぞれについてX軸座標の平均値を算出して、この算出したX軸座標を有する点を加工基準である2箇所のカウンタウェイトの対向する側面P
N0、P
N1とする。演算装置2は、加工基準P
N0、P
N1の座標が、クランクシャフトSの機械加工時の座標系(
図6~
図8のXYZ座標系)において予め決められた座標と合致するように、3次元点群データを平行移動させる。具体的には、クランクシャフトSの機械加工時の座標系における加工基準P
N0、P
N1のX軸座標をそれぞれx
N0,x
N1とし、X軸方向の平行移動量をx
Tとすると、演算装置2は、加工基準P
N0、P
N1がYZ平面内に位置するように、以下の式(6)に従って、3次元点群データを平行移動させる。
x
T=-(x
N0+x
N1)/2 ・・・(6)
【0042】
図6に示すように、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じていない場合には、第3ステップを実行しても、3次元点群データは平行移動及び回転移動しない、又は移動量はわずかである。これに対して、
図7に示すように、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じている場合には、第3ステップを実行することで、
図7(a)のY軸近傍に示す破線(X軸方向から見て加工基準P
K0、P
Aを通る直線)がY軸に合致し、
図7(b)のX軸近傍に示す破線(Z軸方向から見て加工基準P
K0、P
K1を通るクランクシャフトSの回転中心軸L)がX軸に合致するように、3次元点群データが平行移動及び回転移動することになる。
以上に説明した第3ステップを実行することで、クランクシャフトSの機械加工時の座標系でクランクシャフトSの3次元点群データが表される、換言すれば、クランクシャフトSの機械加工時の状態を再現することが可能になる。
【0043】
<第4ステップ>
図9及び
図10は、第4ステップ及び第5ステップを説明する説明図である。
図9は、
図6に示すクランクシャフトSに対応する図である。すなわち、
図9(a)は、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じていない場合のクランクシャフトSの回転中心軸Lの方向から見た正面図であり、
図9(b)は、
図9(a)に対応するクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向から見た側面図である。
図10は、
図7に示すクランクシャフトSに対応する図である。すなわち、
図10(a)は、クランクシャフトSに曲がりやねじれが生じている場合のクランクシャフトSの回転中心軸Lの方向から見た正面図であり、
図10(b)は、
図10(a)に対応するクランクシャフトSの回転中心軸Lに直交する方向から見た側面図である。
第4ステップでは、演算装置2が、クランクシャフトSの機械加工時の座標系(
図9及び
図10のXYZ座標系)において、予め決められたクランクシャフトSの加工部位の機械加工後の表面である推定加工面を生成する。本実施形態では、加工部位として、クランクシャフトSの軸部であるフロントSA、ジャーナルSB及びフランジSEと、クランクシャフトSのピンSDが設定されている。また、推定加工面として円筒が設定されている。
図9(b)及び
図10(b)において、推定加工面は破線で示している。
【0044】
<第5ステップ>
第5ステップでは、演算装置2が、第3ステップで移動した後の3次元点群データ(
図9及び
図10において灰色で塗りつぶした領域)から、加工部位(フロントSA、ジャーナルSB、フランジSE及びピンSD)の点群データである加工部位点群データを抽出する。加工部位点群データの位置は、機械加工時の座標系で認識可能である一方、第3ステップを実行することで3次元点群データがクランクシャフトSの機械加工時の座標系で表されているため、3次元点群データにおける加工部位点群データの位置も認識可能である。
【0045】
次いで、第5ステップでは、演算装置2が、抽出した加工部位点群データと、第4ステップで生成した推定加工面(円筒)との距離を算出し、算出した距離に基づきクランクシャフトSの加工代を判定する。例えば、2mmの加工代を有するように設計されている場合、最小必要加工代を0.8mmにして、算出した距離のうち、この最小必要加工代未満の距離が存在する場合には、クランクシャフトSの加工代が不足していると判定することが考えられる。
図10に示す例では、フロントSAの加工部位点群データと、破線で示すフロントSAの推定加工面との距離が小さいため、加工代不足と判定されることになる。
また、加工部位点群データのうち、算出した推定加工面との距離が最小必要加工代未満である点群データの割合を算出し、算出した点群データの割合が所定のしきい値以上の場合、クランクシャフトSの加工代が不足していると判定してもよい。
下記の表1は、
図9及び
図10に示すクランクシャフトSについて、上記の割合を算出した結果の一例を示す。
図9に示す良品のクランクシャフトSの場合には、算出した推定加工面との距離Dが最小必要加工代0.8mm未満である点群データの割合が0.00%であるのに対し、
図10に示す不良品のクランクシャフトSの場合には、算出した推定加工面との距離Dが最小必要加工代0.8mm未満である点群データの割合が1.09%(=0.69%+0.40%)となる。したがい、例えば、しきい値を1%に設定すると、
図9に示す良品のクランクシャフトSの場合には、加工代が不足しておらず、
図10に示す不良品のクランクシャフトSの場合には、加工代が不足していると判定されることになる。
【表1】
【0046】
本実施形態の演算装置2はモニタを具備し、このモニタに第5ステップで抽出した加工部位点群データと算出した距離とが表示される。
図11は、演算装置2が具備するモニタの表示例を示す図である。
図11では、実際には、算出した距離の大小に応じて、加工部位点群データがカラーで色分け表示されており、フロントSAの加工部位点群データの一部が、距離が最小必要加工代0.8mm未満であることを示す赤色で表示されている。このような表示をオペレータが視認するだけで、加工代が不足しているか否かを容易に確認可能である。
【0047】
なお、本実施形態の第5ステップのように、抽出した加工部位点群データ(点群データを構成する各データ点)と、推定加工面(円筒)との距離を算出する構成によれば、例えば、抽出した加工部位点群データに円筒をフィッティングし、このフィッティングされた円筒と推定加工面との距離を算出する構成に比べて、クランクシャフトSの加工代を精度良く判定することができる。すなわち、
図9や
図10から分かるように、加工部位(例えば、ピン)の外縁は完全な円筒ではなく、凹状等に湾曲している場合があるため、加工部位点群データにフィッティングされた円筒と推定加工面との距離を算出する構成では、湾曲した加工部位の形状が精度良く加工代に反映されない。これに対し、本実施形態では、点群データを構成する各データ点と推定加工面との距離を算出するため、湾曲した加工部位の形状が精度良く加工代に反映されることになる。
【符号の説明】
【0048】
1、1a、1b、1c、1d・・・3次元形状測定装置
2・・・演算装置
3・・・移動機構
4・・・支持装置
100・・・形状検査装置
S・・・クランクシャフト