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特許7277794塗膜の形成方法及び塗料組成物の選定方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】塗膜の形成方法及び塗料組成物の選定方法
(51)【国際特許分類】
   B05D 7/24 20060101AFI20230512BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230512BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230512BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20230512BHJP
   B05D 7/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
B05D7/24 303A
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
B05D7/00 L
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020204277
(22)【出願日】2020-12-09
(65)【公開番号】P2022091437
(43)【公開日】2022-06-21
【審査請求日】2021-09-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000224123
【氏名又は名称】藤倉化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100126882
【弁理士】
【氏名又は名称】五十嵐 光永
(74)【代理人】
【識別番号】100160093
【弁理士】
【氏名又は名称】小室 敏雄
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【弁理士】
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】矢部 一也
(72)【発明者】
【氏名】渋谷 一
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-097415(JP,A)
【文献】特開平09-204277(JP,A)
【文献】特開昭54-033562(JP,A)
【文献】特開2015-167901(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 7/24
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 7/65
B05D 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
凹凸面を有する複数のブロック部が形成された表面を持つ建材の前記表面に、塗料組成物を塗装する工程を有し、
前記複数のブロック部は、レーザー変位計を用いて下記測定方法により測定される前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値が互いに異なり、
前記塗料組成物が、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、
前記フィラー(B)が、前記複数のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有する1種のフィラー(B1)のみからなり
前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%であることを特徴とする塗膜の形成方法。
前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値の測定方法:前記凹凸面から無作為に選択される10箇所について、1箇所当たりの測定距離を30mmとして表面形状を測定し、測定範囲内に存在する凸部の高さを平均する。前記凸部の高さは、高さの測定対象の凸部を凸部A、前記凸部Aの両隣の凸部を各々凸部B、凸部Cとし、前記凸部Aと前記凸部Bとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh1(μm)とし、前記凸部Aと前記凸部Cとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh2(μm)としたときに(h1+h2)/2により算出される。
【請求項2】
凹凸面を有する複数のブロック部が形成された表面を持つ建材の前記表面に塗装する塗料組成物を選定する方法であって、
前記複数のブロック部は、レーザー変位計を用いて下記測定方法により測定される前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値が互いに異なり、
前記塗料組成物として、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、前記フィラー(B)が、前記複数のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有する1種のフィラー(B1)のみからなり、前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%である塗料組成物を選定することを特徴とする塗料組成物の選定方法。
前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値の測定方法:前記凹凸面から無作為に選択される10箇所について、1箇所当たりの測定距離を30mmとして表面形状を測定し、測定範囲内に存在する凸部の高さを平均する。前記凸部の高さは、高さの測定対象の凸部を凸部A、前記凸部Aの両隣の凸部を各々凸部B、凸部Cとし、前記凸部Aと前記凸部Bとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh1(μm)とし、前記凸部Aと前記凸部Cとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh2(μm)としたときに(h1+h2)/2により算出される。
【請求項3】
並べて配置された、凹凸面を有する1以上のブロック部が形成された表面を持つ複数の建材の表面で構成され、複数の前記ブロック部が存在する塗装対象面に、塗料組成物を塗装する工程を有し、
前記複数のブロック部は、レーザー変位計を用いて下記測定方法により測定される前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値が互いに異なり、
前記塗料組成物が、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、
前記フィラー(B)が、前記複数のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有する1種のフィラー(B1)のみからなり
前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%であることを特徴とする塗膜の形成方法。
前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値の測定方法:前記凹凸面から無作為に選択される10箇所について、1箇所当たりの測定距離を30mmとして表面形状を測定し、測定範囲内に存在する凸部の高さを平均する。前記凸部の高さは、高さの測定対象の凸部を凸部A、前記凸部Aの両隣の凸部を各々凸部B、凸部Cとし、前記凸部Aと前記凸部Bとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh1(μm)とし、前記凸部Aと前記凸部Cとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh2(μm)としたときに(h1+h2)/2により算出される。
【請求項4】
並べて配置された、凹凸面を有する1以上のブロック部が形成された表面を持つ複数の建材の表面で構成され、複数の前記ブロック部が存在する塗装対象面に塗装する塗料組成物を選定する方法であって、
前記複数のブロック部は、レーザー変位計を用いて下記測定方法により測定される前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値が互いに異なり、
前記塗料組成物として、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、前記フィラー(B)が、前記複数のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有する1種のフィラー(B1)のみからなり、前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%である塗料組成物を選定することを特徴とする塗料組成物の選定方法。
前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値の測定方法:前記凹凸面から無作為に選択される10箇所について、1箇所当たりの測定距離を30mmとして表面形状を測定し、測定範囲内に存在する凸部の高さを平均する。前記凸部の高さは、高さの測定対象の凸部を凸部A、前記凸部Aの両隣の凸部を各々凸部B、凸部Cとし、前記凸部Aと前記凸部Bとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh1(μm)とし、前記凸部Aと前記凸部Cとの間の最も低い位置から前記凸部Aの頂点までの高さをh2(μm)としたときに(h1+h2)/2により算出される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、塗膜の形成方法及び塗料組成物の選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
建築物の壁面においては、複数の建材を並べて配置することがある。また、このように配置された複数の建材の表面に塗装を施すことがある。この場合、複数の建材が同じものであっても、複数の建材間の表面状態のわずかな差異、例えば表面粗さの差異によって、最終的な仕上げ面の外観(塗装外観)に差異が生じてしまうことがある。
複数のブロック部が形成された表面を持つ建材の表面に塗装を施す場合にも同様の問題があり、同一の建材上であっても、複数のブロック部の表面状態のわずかな差異によって、塗装外観に差異が生じてしまうことがある。
【0003】
一方、下地表面の凹凸等を補修して良好な表面性を確保するために、下地調整材を下地表面に塗工することがある。
特許文献1には、ポリマーセメントモルタルからなる下地調整材を下地表面に塗工して下塗り層を形成し、その上に、特定のビニル重合体及びポリイソシアネートを含む上塗り塗料を塗工して上塗り層を形成する方法が提案されている。この方法によれば、下塗り層と上塗り層との接着性を向上できるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2002-172361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、下地調整材から形成される下塗り層の表面にも凹凸が存在し、複数の下地それぞれの表面に下塗り層を形成した場合、各下塗り層の表面状態に差異が生じる。そのため、これらの下塗り層の上に特許文献1に記載の上塗り塗料を塗装すると、接着性は向上したとしても、塗装外観に差異が生じてしまう。
【0006】
本発明は、塗装対象である建材の表面状態にかかわらず均一な塗装外観を得ることができる塗膜の形成方法、及び建材の表面に、建材の表面状態にかかわらず均一な塗装外観を有する塗膜を形成できる塗料組成物を選定できる選定方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]凹凸面を有する複数のブロック部が形成された表面を持つ建材の前記表面に、塗料組成物を塗装する工程を有し、
前記塗料組成物が、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、
前記フィラー(B)が、前記複数のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含み、
前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%であることを特徴とする塗膜の形成方法。
[2]凹凸面を有する複数のブロック部が形成された表面を持つ建材の前記表面に塗装する塗料組成物を選定する方法であって、
前記塗料組成物として、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、前記フィラー(B)が、前記複数のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含み、前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%である塗料組成物を選定することを特徴とする塗料組成物の選定方法。
[3]並べて配置された、凹凸面を有する1以上のブロック部が形成された表面を持つ複数の建材の表面に、塗料組成物を塗装する工程を有し、
前記塗料組成物が、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、
前記フィラー(B)が、前記複数の建材の前記1以上のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含み、
前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%であることを特徴とする塗膜の形成方法。
[4]並べて配置された、凹凸面を有する1以上のブロック部が形成された表面を持つ複数の建材の表面に塗装する塗料組成物を選定する方法であって、
前記塗料組成物として、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、
前記フィラー(B)が、前記複数の建材の前記1以上のブロック部各々の前記凹凸面の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含み、前記樹脂(A)と前記フィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%である塗料組成物を選定することを特徴とする塗料組成物の選定方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、塗装対象である建材の表面状態にかかわらず均一な塗装外観を得ることができる塗膜の形成方法、及び建材の表面に、建材の表面状態にかかわらず均一な塗装外観を有する塗膜を形成できる塗料組成物を選定できる選定方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】第一実施形態に係る塗膜の形成方法を説明する模式断面図である。
図2】第二実施形態に係る塗膜の形成方法を説明する模式断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施形態について、添付の図面を参照して説明する。なお、図1~2における寸法比は、説明の便宜上、実際のものとは異なったものである。
【0011】
〔第一実施形態〕
(塗膜の形成方法)
本発明の第一実施形態に係る塗膜の形成方法は、図1に示すように、建材1の表面に、塗料組成物を塗装する工程(塗装工程)を有する。塗装工程により、建材1の表面に塗膜3が形成される。
塗装工程の後に、塗装工程で形成された塗膜3の上に上塗り塗料組成物を塗装する工程(上塗り工程)を有していてもよい。
【0012】
<建材>
建材1は、典型的には壁材である。
建材1の例としては、モルタル、窯業サイディング、ALC(軽量気泡コンクリート)、基材(窯業サイディング等)の表面にモルタルが積層された積層体等が挙げられる。
【0013】
建材1は、図1に示すように、複数のブロック部11が形成された表面を持つ。複数のブロック部11は、溝状の目地部13によって区画されている。
本実施形態では、複数のブロック部11はそれぞれ、建材1の表面の第1方向(図1中の奥行方向)に沿って延在している。
複数のブロック部11の配列方向(図1中の左右方向)において、隣り合うブロック部11間の距離、つまり目地部13の幅は、例えば1~5cm、好ましくは1~3cmである。
【0014】
複数のブロック部11はそれぞれ、凹凸面を有する。凹凸面は通常、複数の凸部(又は複数の凹部)を含む。凹凸面の凹凸の大きさの平均値(以下、「平均値n」とも記す。)は、例えば50~1000μmである。
【0015】
ここで、平均値nは、例えばレーザー変位計により測定される。具体的には、ブロック部11の凹凸面から無作為に選択される10箇所(1箇所当たりの測定距離:30mm)について表面形状を測定し、測定範囲内に存在する凸部の高さを平均した値である。
凸部の高さは、高さの測定対象の凸部を凸部A、その凸部Aの両隣の凸部を各々凸部B、凸部Cとし、凸部Aと凸部Bとの間の最も低い位置から凸部Aの頂点までの高さをh1(μm)とし、凸部Aと凸部Cとの間の最も低い位置から凸部Aの頂点までの高さをh2(μm)としたときに、(h1+h2)/2により算出される。
【0016】
複数のブロック部11は通常、平均値nが互いに異なる。
複数のブロック部11各々の平均値nのうち最大値と最小値との差(以下、「凹凸差」とも記す。)は、例えば10~500μmである。
例えば、図1中の3つのブロック部11各々の平均値nをn1、n2、n3としたときに、n1>n2>n3であれば、凹凸差はn1-n3となる。n2>n3>n1であれば、凹凸差はn2-n1となる。
【0017】
<塗料組成物>
塗料組成物は、樹脂(A)とフィラー(B)とを含む。
塗料組成物は、必要に応じて、液状媒体を含んでいてもよい。液状媒体は、水性媒体でも非水性媒体でもよいが、環境配慮の点から、水性媒体であることが好ましい。
塗料組成物は、必要に応じて、上記以外の他の成分を含んでいてもよい。
【0018】
樹脂(A)としては、塗料用樹脂として使用できるものであれば特に種類は問わない。塗料組成物が水系媒体を含む場合、水系媒体に分散可能な樹脂が好ましい。
樹脂(A)の例としては、ポリ酢酸ビニル、アクリル樹脂(例えばアクリルシリコーン樹脂、アクリルウレタン樹脂)、ポリスチレン、アクリロニトリル、ベオバ(分岐脂肪酸ビニルエステル)、天然ゴム、合成ゴム、及びこれらの共重合体(例えば、アクリル・スチレン共重合体)が挙げられる。これらの樹脂は1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0019】
フィラー(B)としては、塗料用フィラーとして使用できるものであれば特に種類は問わない。フィラー(B)の例としては、炭酸カルシウム、水酸化アルミニウム、酸化アルミニウム、マイカ、シリカ、カーボンブラック、酸化チタン、酸化鉄、タルク、セラミックビーズ、硫酸バリウム、珪砂、樹脂ビーズが挙げられる。これらのフィラーは1種を単独で用いてもよく2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0020】
フィラー(B)は、少なくとも、前記した凹凸差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含む。フィラー(B1)の粒径は、凹凸差の0.2~1.2倍が好ましい。
フィラー(B1)の粒径が前記上限値以下であれば、フィラー(B1)がブロック部11の凹凸面の凹部に入り込みやすく、塗膜の形成性に優れる。また、フィラー(B1)の粒径が前記範囲内であれば、ブロック部11の凹凸面の凹部に入り込んだフィラー(B1)によって複数のブロック部11各々の凹凸面間の表面状態の差異が目立ちにくくなり、塗装外観の均一性に優れる。
フィラー(B)の粒径は、レーザー回析式粒度分布測定器等により測定される。
【0021】
フィラー(B1)の粒径は、さらに、複数の建材各々の表面の凹凸の大きさの平均値のうち最小値以下であることが好ましく、前記最小値の0.7倍以下であることがより好ましい。粒径が前記最小値以下であれば、複数のブロック部11各々の凹凸面のうち平均値nが最も小さい凹凸面の凹部にもフィラー(B1)が充分に入り込むことができ、塗膜の形成性がより優れる。
【0022】
フィラー(B)全体の体積に対するフィラー(B1)の割合は、50体積%以上が好ましく、70体積%以上がより好ましく、100体積%であってもよい。
【0023】
樹脂(A)とフィラー(B)との合計体積に対するフィラー(B1)の割合(以下、「フィラー(B1)の体積分率」とも記す。)は、20~70体積%であり、30~60体積%が好ましい。フィラー(B1)の体積分率が20体積%以上であれば、複数のブロック部11各々の凹凸面間の表面状態の差異が目立ちにくく、塗装外観の均一性に優れる。フィラー(B1)の体積分率が70体積%以下であれば、塗装作業性に優れる。
樹脂(A)とフィラー(B)との合計体積に対する樹脂(A)の割合は、30~80体積%が好ましく、40~70体積%がより好ましい。
【0024】
樹脂(A)とフィラー(B)との合計の含有量は、特に限定されないが、塗料組成物の固形分100質量%に対し、80質量%以上が好ましく、90質量%以上がより好ましく、100質量%であってもよい。
塗料組成物の固形分は、塗料組成物から液状媒体を除いた残部である。
【0025】
水性媒体は、水のみの媒体、又は水に水と相溶性のある溶剤を加えた媒体である。水としては、イオン交換水、水道水等を使用できる。水と相溶性のある溶剤としては、エタノール、イソプロピルアルコール等のアルコール、エチレングリコール等が挙げられる。水性媒体における水の割合は50質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、90質量%以上であることがさらに好ましい。
非水性媒体は、水性媒体以外の媒体であり、種々の溶剤を用いることができる。
【0026】
塗料組成物が液状媒体を含む場合、液状媒体の含有量は、特に限定されないが、例えば塗料組成物の総質量に対して20~60質量%である。
【0027】
他の成分としては、公知の添加剤を使用でき、例えば、増粘剤、分散剤、消泡剤、防腐剤、レベリング剤、造膜助剤、カップリング剤等が挙げられる。
【0028】
塗料組成物は、既存の塗料組成物から選定したものを用いてもよく、公知の製造方法により製造したものを用いてもよい。
塗料組成物は、例えば、樹脂(A)と、フィラー(B1)を含むフィラー(B)と、必要に応じて液状媒体と、必要に応じて他の成分とを混合することにより製造できる。塗料組成物が液状媒体を含む場合、樹脂(A)等が予め液状媒体に溶解又は分散されていてもよい。
【0029】
<塗装工程>
塗料組成物の塗装方法に特に制限はなく、例えば、塗料組成物を複数の建材の表面に同時に又は連続的に塗布し、必要に応じて乾燥すればよい。
塗布方法としては、刷毛、こて、ローラー、スプレー、バフ、スタンプ等の公知の塗布方法が挙げられる。
塗料組成物の塗布量は、200~1000g/mが好ましく、200~600g/mがより好ましい。塗布量が前記下限値以上であれば、均一な外観が得られ易く、前記上限値以下であれば、乾燥の負荷が小さく、またタレが生じにくい。
乾燥は、液状媒体が除去できればよく、常温乾燥でも加熱乾燥でもよい。乾燥条件(乾燥温度、乾燥時間)は液状媒体の種類に応じて適宜選定できる。液状媒体が水性媒体の場合、乾燥温度は、例えば0~80℃である。乾燥時間は、乾燥温度によっても異なるが、例えば30分間~8時間である。
【0030】
上記のようにして塗料組成物を塗装することで、複数のブロック部11の表面状態にかかわらず、均一な塗装外観を得ることができる。
【0031】
<上塗り工程>
上塗り工程は、塗料組成物の代わりに上塗り塗料組成物を用いる以外は、塗装工程と同様である。
上塗り塗料組成物としては、特に制限はなく、公知の各種の塗料組成物を用いることができる。
【0032】
(塗料組成物の選定方法)
本実施形態に係る塗料組成物の選定方法は、凹凸面を有する複数のブロック部が形成された表面を持つ建材の前記表面に塗装する塗料組成物を選定する方法である。
本選定方法では、前記建材の表面に塗装する塗料組成物として、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、フィラー(B)が、複数のブロック部各々の凹凸面の凹凸の大きさの平均値nのうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含み、樹脂(A)とフィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%である塗料組成物を選定する。
本選定方法で選定される塗料組成物は、前記した塗膜の形成方法で用いられる塗料組成物と同様である。
本選定方法によれば、建材の表面に、複数のブロック部の表面状態にかかわらず均一な塗装外観を有する塗膜を形成できる塗料組成物を選定できる。
【0033】
〔第二実施形態〕
(塗膜の形成方法)
本発明の第二実施形態に係る塗膜の形成方法は、図2に示すように、並べて配置された複数の建材2の表面に、塗料組成物を塗装する工程(塗装工程)を有する。塗装工程により、複数の建材2の表面に塗膜3が形成される。
塗装工程の後に、塗装工程で形成された塗膜3の上に上塗り塗料組成物を塗装する工程(上塗り工程)を有していてもよい。
【0034】
<建材>
建材2は、典型的には壁材である。
建材2の例としては、モルタル、窯業サイディング、ALC(軽量気泡コンクリート)、基材(窯業サイディング等)の表面にモルタルが積層された積層体等が挙げられる。
【0035】
建材2は、図2に示すように、ブロック部21が形成された表面を持つ。したがって、塗装対象面には複数のブロック部21が存在する。
ブロック部21は、凹凸面を有する。凹凸面は通常、複数の凸部(又は複数の凹部)を含む。凹凸面の凹凸の大きさの平均値nは、例えば50~1000μmである。平均値nの測定方法は前記したとおりである。
【0036】
複数の建材2各々のブロック部21の間には、溝状の目地部5が形成されている。
複数の建材2の配列方向(図2中の左右方向)において、隣り合うブロック部21間の距離、つまり目地部5の幅は、例えば1~5cm、好ましくは1~3cmである。
【0037】
複数の建材2各々のブロック部21は通常、平均値nが互いに異なる。
複数の建材2各々のブロック部21各々の平均値nのうち最大値と最小値との差(凹凸差)は、例えば10~500μmである。
例えば、図2中の3つのブロック部21各々の平均値nをn1、n2、n3としたときに、n1>n2>n3であれば、凹凸差はn1-n3となる。n2>n3>n1であれば、凹凸差はn2-n1となる。
【0038】
<塗料組成物>
本実施形態で用いられる塗料組成物は、フィラー(B1)として、複数の建材2のブロック部21各々の平均値nのうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラーを用いる以外は、第一実施形態で用いられる塗料組成物と同様であり、好ましい態様も同様である。
【0039】
<塗装工程>
塗装工程は、第一実施形態における塗装工程と同様にして行うことができる。
【0040】
<上塗り工程>
上塗り工程は、第一実施形態における上塗り工程と同様にして行うことができる。
【0041】
(塗料組成物の選定方法)
本実施形態に係る塗料組成物の選定方法は、並べて配置された、各々表面に凹凸を有する複数の建材の表面に塗装する塗料組成物を選定する方法である。
本選定方法では、複数の建材の表面に塗装する塗料組成物として、樹脂(A)とフィラー(B)とを含み、フィラー(B)が、複数の建材各々の凹凸の大きさの平均値のうち最大値と最小値との差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラー(B1)を含み、樹脂(A)とフィラー(B)との合計体積に対する前記フィラー(B1)の割合が20~70体積%である塗料組成物を選定する。
本選定方法で選定される塗料組成物は、前記した塗膜の形成方法で用いられる塗料組成物と同様である。
本選定方法によれば、複数の建材の表面に、複数の建材の表面状態にかかわらず均一な塗装外観を有する塗膜を形成できる塗料組成物を選定できる。
【0042】
なお、上記実施形態における各構成及びそれらの組み合わせ等は一例であり、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内で、構成の付加、省略、置換、及びその他の変更が可能である。
例えば、第一実施形態では、建材1が有するブロック部11が3つである例を示したが、建材1が有するブロック部11は2つ以上であればよい。
第二実施形態において、複数の建材2それぞれが有するブロック部21の数は1つでも複数でもよい。例えば建材2として、第一実施形態における建材1が用いられてもよい。
【実施例
【0043】
以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。以下において「部」は「質量部」を示す。
【0044】
(使用材料)
塗料組成物に用いた材料を以下に示す。
樹脂エマルション:アクリル・スチレン系樹脂エマルション、大日本インキ化学工業社製、商品名「ボンコートEC-888」、樹脂分(不揮発分)50%。
アニオン性高分子分散剤:日本アクリル化学社製、商品名「オロタン731」、不揮発分25%。
炭酸カル#100:炭酸カルシウム、三共製粉社製。
炭酸カル一級:炭酸カルシウム、三共製粉社製。
SBX73:水酸化アルミニウム、日本軽金属社製。
SB93:水酸化アルミニウム、日本軽金属社製。
AA100:酸化アルミニウム、日本軽金属社製。
これらの材料のうちフィラーの粒径及び比重を表1に示す。
【0045】
【表1】
【0046】
(建材の作製)
砂を含んだモルタルを、30cm×30cmの平板状のスレート板の表面に塗布して、1つのブロック部を表面に有する建材B-1を作製した。建材B-1のモルタル塗布面(ブロック部表面)の凹凸の大きさの平均値は40μmであった。
砂の粒度が異なるモルタルを使用した以外は上記と同様にして、建材B-2~B-5を作製した。建材B-2~B-5のモルタル塗布面の凹凸の大きさの平均値はそれぞれ86μm、210μm、640μm、980μmであった。
【0047】
幅2cmの目地部で区画された2つのブロック部(長さ30cm×幅5cm)を表面に有する建材を2つ用意し、それぞれ建材B-6、B-7とした。建材B-6の2つのブロック部それぞれの表面の凹凸の大きさの平均値は50μm、230μmであった。建材B-7の2つのブロック部それぞれの表面の凹凸の大きさの平均値は92μm、610μmであった。
【0048】
(被塗物の作製)
建材B-1~B-5のうち、表2において○を付けた2種の建材を並べて配置して被塗物C-1~C-4とした。ブロック部間の距離(目地部の幅)は2cmとした。
建材B-6、B-7をそれぞれ被塗物C-5、C-6とした。
【0049】
【表2】
【0050】
(水系塗料組成物の調製)
表3の配合に従って各材料を混合し、ディゾルバーにて分散させて塗料組成物A-1~A-11を得た。表3中、各材料の配合量の単位は部である。
表4に、各塗料組成物に含まれるフィラーの粒径、樹脂とフィラーとの合計体積に対するフィラーの体積の割合(体積分率)を示す。
【0051】
【表3】
【0052】
(例1~66)
表4に示す組み合わせに従って、被塗物のモルタル塗布面に塗料組成物を、スプレーにより300g/m塗布し、乾燥して塗膜を形成した。これにより、被塗物と塗膜とが積層された試験体を得た。
表4に、塗料組成物に配合したフィラーの粒径及び体積分率、被塗物を構成する建材の表面の凹凸の大きさの平均値、それらの平均値の最大値と最小値との差(凹凸差)及び凹凸差の0.1~2.0倍の値を併記した。
例1~5、14~17、23~24、29、41~44、45~46、51~52、56、65~66は比較例であり、例6~13、18~22、25~28、30~40、47~50、53~55、57~64は実施例である。
【0053】
<塗装外観の均一性の評価>
作製した試験体の塗膜を目視で観察し、以下の基準で塗装外観の均一性を評価した。結果を表5に示す。
○:一方の建材側と他方の建材側との間で、塗膜の外観に差が無い。
△:外観にわずかな差を感じるが、同一の建材と言ってよいレベル。
×:外観に差があり同一の建材とは言えないレベル。
【0054】
<塗膜形成性の評価>
作製した試験体をダイヤモンドカッターにより切断し、断面をCCDマイクロスコープにより観察し、以下の基準で塗膜形成性を評価した。結果を表5に示す。
○:被塗物の表面の凹凸の凹部内まで塗料が入り込んでおり、被塗物の表面と塗膜との間に空隙が見られない。
△:被塗物の表面と塗膜との間に4個以下の空隙は見受けられるが使用に問題がない。
×:被塗物の表面と塗膜との間に5個以上の空隙が見受けられる。
【0055】
<塗装作業性>
試験体の作製における塗装作業性を以下の基準で評価した。結果を表5に示す。
○:塗料組成物を塗布しやすく、均一に塗布が可能。
△:塗料組成物を塗布しにくいが、均一に塗布することは可能。
×:塗料組成物を塗布しにくく、均一に塗布することが不可能。
【0056】
【表4】
【0057】
【表5】
【0058】
凹凸差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラーを20~70体積%の体積分率で含む塗料組成物を用いた例6~13、18~22、25~28、30~40、47~50、53~55、57~64は、塗装外観の均一性、塗装作業性に優れていた。特に、フィラーの粒径が、隣接配置した建材各々の凹凸の大きさの平均値のうち小さい方の値よりも小さい例8、11~12、13、20~22、27~28、32、35~36、39~40、46、50、55、58、62、64においては、塗膜形成性も良好であった。
一方、凹凸差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラーの体積分率が20体積%未満の塗料組成物を用いた例1~4は、塗装外観の均一性に劣っていた。
凹凸差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラーの代わりに、凹凸差の0.1倍未満又は2.0倍超の粒径を有するフィラーを含む塗料組成物を用いた例5、14~17、23~24、29、51~52、56は、塗装外観の均一性に劣っていた。
凹凸差の0.1~2.0倍の粒径を有するフィラーの体積分率が70体積%超の例41~44~46、65~66は、塗装作業性に劣っていた。
【符号の説明】
【0059】
1 建材
2 建材
3 塗膜
11 ブロック部
21 ブロック部
図1
図2