(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】フッ素樹脂膜形成用組成物
(51)【国際特許分類】
C08L 33/16 20060101AFI20230512BHJP
C08F 20/22 20060101ALI20230512BHJP
C09D 133/16 20060101ALI20230512BHJP
C09D 7/20 20180101ALI20230512BHJP
【FI】
C08L33/16
C08F20/22
C09D133/16
C09D7/20
(21)【出願番号】P 2020527393
(86)(22)【出願日】2019-06-13
(86)【国際出願番号】 JP2019023504
(87)【国際公開番号】W WO2020004062
(87)【国際公開日】2020-01-02
【審査請求日】2022-03-22
(31)【優先権主張番号】P 2018123499
(32)【優先日】2018-06-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002200
【氏名又は名称】セントラル硝子株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】弁理士法人WisePlus
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 佳子
(72)【発明者】
【氏名】服部 啓太
(72)【発明者】
【氏名】宮澤 覚
【審査官】中落 臣諭
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-038976(JP,A)
【文献】特開2015-038198(JP,A)
【文献】特開2016-204533(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L1/00-101/14
C08K3/00-13/08
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(1)で表される繰り返し単位を含み、フッ素含有率が30質量%以上であるフッ素樹脂を20質量%超40質量%以下と、
総炭素数が10以下であるカルボン酸エステル、総炭素数が10以下である鎖状または環状エーテル、総炭素数が10以下である芳香族炭化水素、及び総炭素数が10以下であるケトンからなる群より選ばれる1種以上の非フッ素溶剤を0.1質量%以上3.0質量%以下と、
フッ素含有率が30質量%以上であるフッ素溶剤と、を含有
し、
実質的に前記フッ素樹脂と前記非フッ素溶剤と前記フッ素溶剤とからなることを特徴とするフッ素樹脂膜形成用組成物。
【化24】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、該炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【請求項2】
前記非フッ素溶剤が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、トルエン、アセトン及び2-ブタノンからなる群より選ばれることを特徴とする請求項1に記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【請求項3】
前記フッ素溶剤が含フッ素炭化水素または含フッ素エーテルであることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【請求項4】
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式で表される繰り返し単位のいずれかであることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【化25】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である。Xは、それぞれ独立に、水素原子またはフッ素原子である。nは1~4の整数である。mは、それぞれ独立に、1~14の整数である。pは0または1の整数であり、qは0または1の整数である。但し、pが1のときqは0であり、pは0のときqは1である。)
【請求項5】
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式で表される繰り返し単位のいずれかであることを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【化26】
【請求項6】
式(2)で表される単量体を、前記フッ素溶剤及び前記非フッ素溶剤を含む溶液中で、開始剤により重合させる工程を含む請求項1~5のいずれかに記載のフッ素樹脂膜形成用組成物を製造する方法。
【化27】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、該炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【請求項7】
前記重合工程で得られる溶液をそのまま組成物の調製に用いる、請求項6に記載のフッ素樹脂膜形成用組成物を製造する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素樹脂膜形成用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
フッ素樹脂は、その表面自由エネルギーの低さから、撥水・撥油性に優れ、例えば、服飾等の布地を処理するための撥水撥油剤であったり、微細加工された半導体用の基板を保護するシーリング剤であったり、様々な用途において基材を保護するための膜として有用である。
【0003】
フッ素樹脂の中でも主鎖が(メタ)アクリレート構造を有するフッ素樹脂は、主鎖に隣接して極性基であるエステル結合を有しているために、該フッ素樹脂を塗布成膜して得られる膜は、柔軟性に富み、平坦でひび割れがないという特徴を持つ。また、該フッ素樹脂がフッ素化された炭化水素基を側鎖に有する場合、該フッ素樹脂はフッ素溶剤への溶解性に優れ、パターン形成用のマスクとして該フッ素樹脂による膜が使用されるときエッチング溶剤への耐性に優れる。
【0004】
一方、該フッ素樹脂を膜として形成するために必要な塗布工程では、液の広がりやすさや気泡の生じにくさなどの塗布容易性、工程に要する時間などの加工性・生産性、形成される膜表面が平坦であることなどの成膜性といった観点から、膜形成用組成物は流動性が高いこと、すなわち低粘度であることが望まれている。また該組成物は、流通過程や保管時に必要とする体積を小さくするという面などから、フッ素樹脂は高濃度であることが求められている。
【0005】
これまでにフッ素溶剤を用いた組成物がいくつか知られている。例えば、炭素数6のパーフルオロアルキル基を含む(メタ)アクリレートを主体とする重合物とフッ素溶剤とからなる組成物が、成膜性に優れ均一な塗膜を形成できる組成物として特許文献1に開示されている。また、フッ素系添加剤としてパーフルオロアルキル基を含む(メタ)アクリレート重合物と、フッ素溶剤と、さらにベンゾトリフルオライド類とを含む組成物が特許文献2に開示されている。また、(メタ)アクリレートを含むフッ素樹脂が有機半導体膜のパターン形成用マスク膜として有用であることが特許文献3に開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-007538号公報
【文献】特開2008-038108号公報
【文献】特開2015-038976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで知られている、主鎖に(メタ)アクリレート構造を有するフッ素樹脂とフッ素溶剤とからなる組成物は、高濃度では粘度が高くなりやすかった。例えば、特許文献1には、(メタ)アクリレート構造を有するフッ素樹脂を50質量%以上含む場合、「組成物の粘度が高すぎて取り扱いが極めて困難になる」との記載がある。このように、該フッ素樹脂を高濃度で含み均一相である膜形成用組成物の粘度を下げる従来の方法では、いまだ改善の余地があった。
【0008】
本発明では、フッ素樹脂の中でも、主鎖に(メタ)アクリレート構造を有するフッ素樹脂を含む膜形成用組成物であって、高濃度で均一相、かつ、低粘度である組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意検討を重ねた。その結果、式(1)で表される繰り返し単位を含み、フッ素含有率が30質量%以上であるフッ素樹脂と、フッ素含有率が30質量%以上であるフッ素溶剤と、を含む組成物に、特定の非フッ素溶剤を加えると、フッ素樹脂の濃度が20質量%超であっても均一相をなし、塗布等に耐える程度に粘度を十分に低下できることを見出した。
【化1】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【0010】
すなわち、本発明は、次の態様を含む。
【0011】
[態様1]
式(1)で表される繰り返し単位を含み、フッ素含有率が30質量%以上であるフッ素樹脂を20質量%超40質量%以下と、
総炭素数が10以下であるカルボン酸エステル、総炭素数が10以下である鎖状または環状エーテル、総炭素数が10以下である芳香族炭化水素、及び総炭素数が10以下であるケトンからなる群より選ばれる1種以上の非フッ素溶剤を0.1質量%以上3.0質量%以下と、
フッ素含有率が30質量%以上であるフッ素溶剤と、を含有することを特徴とするフッ素樹脂膜形成用組成物。
【化2】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、該炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【0012】
[態様2]
前記非フッ素溶剤が、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、トルエン、アセトン及び2-ブタノンからなる群より選ばれることを特徴とする態様1に記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【0013】
[態様3]
前記フッ素溶剤が含フッ素炭化水素または含フッ素エーテルであることを特徴とする態様1または態様2に記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【0014】
[態様4]
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式で表される繰り返し単位のいずれかであることを特徴とする態様1~3のいずれかに記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【化3】
(式中、R
1は、それぞれ独立に、水素原子またはメチル基である。Xは、それぞれ独立に、水素原子またはフッ素原子である。nは1~4の整数である。mは、それぞれ独立に、1~14の整数である。pは0または1の整数であり、qは0または1の整数である。但し、pが1のときqは0であり、pは0のときqは1である。)
【0015】
[態様5]
前記式(1)で表される繰り返し単位が、下記式で表される繰り返し単位のいずれかであることを特徴とする態様1~4のいずれかに記載のフッ素樹脂膜形成用組成物。
【化4】
【0016】
[態様6]
式(2)で表される単量体を、前記フッ素溶剤及び前記非フッ素溶剤を含む溶液中で、開始剤により重合させる工程を含む態様1~5のいずれかに記載のフッ素樹脂膜形成用組成物を製造する方法。
【化5】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【0017】
[態様7]
前記重合工程で得られる溶液をそのまま組成物の調製に用いる、態様6に記載のフッ素樹脂膜形成用組成物を製造する方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明の態様によれば、主鎖に(メタ)アクリレート構造を有するフッ素樹脂を含む膜形成用組成物において、該フッ素樹脂が高濃度であっても、相分離や白濁などを生じない均一相であり、かつ、低粘度である膜形成用組成物が提供されるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の実施例における膜形成用組成物の粘度と溶剤の添加量との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は本発明の実施形態の一例であり、これらの具体的内容に限定はされない。その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0021】
本明細書の「発明を実施するための形態」の欄において、「[」および「]」、「<」および「>」で表示する事項は、単なる記号であって、それ自体に意味を有しない。また、本明細書において、「~」とはその前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用される。
【0022】
本発明の実施形態に係るフッ素樹脂膜形成用組成物(以下、本明細書において「膜形成用組成物」と呼称することがある)は、非フッ素溶剤と、フッ素樹脂と、フッ素溶剤と、を含む。
【0023】
まず、非フッ素溶剤について説明する。
非フッ素溶剤は、フッ素樹脂とフッ素溶剤からなる溶液と相溶し均一相となる溶剤で、非フッ素溶剤を含有すると膜形成用組成物の粘度が低下する。
【0024】
非フッ素溶剤は、総炭素数が10以下であるカルボン酸エステル、総炭素数が10以下である鎖状または環状エーテル、総炭素数が10以下である芳香族炭化水素、及び総炭素数が10以下であるケトンからなる非フッ素溶剤の群より選ばれる1種以上であり、任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。
【0025】
具体的には、総炭素数が10以下であるカルボン酸エステルとして、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、酢酸イソブチル、酢酸ペンチル、酢酸イソペンチル、酢酸ヘキシル、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)、酢酸(2-メトキシエチル)、酢酸(3-メトキシブチル)、酢酸(2-ヒドロキシエチル)、ギ酸メチル、ギ酸エチル、ギ酸プロピル、ギ酸イソプロピル、ギ酸ブチル、ギ酸イソブチル、ギ酸ヘキシル、プロピオン酸メチル、プロピオン酸エチル、プロピオン酸プロピル、酪酸メチル、酪酸エチル、酪酸プロピル、イソ酪酸メチル、イソ酪酸エチル、イソ酪酸プロピル、吉草酸メチル、吉草酸エチル、イソ吉草酸メチル、イソ吉草酸エチル、ヘキサン酸メチル、ヘキサン酸エチル、ヘプタン酸メチル、オクタン酸メチル、ノナン酸メチル、グリコール酸メチル、グリコール酸エチル、乳酸メチル、乳酸エチル、乳酸プロピル、乳酸イソプロピル、乳酸ブチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、2-ヒドロキシイソ酪酸エチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、2-オキソ吉草酸メチル、2-オキソ吉草酸エチル、クロトン酸メチル、クロトン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、マロン酸ジメチルまたはマロン酸ジエチルなどを挙げることができる。
【0026】
総炭素数が10以下である鎖状エーテルまたは環状エーテルとして、ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、ジペンチルエーテル、ジイソペンチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサンまたは1,2-ジメトキシエタンなどを挙げることができる。
【0027】
総炭素数が10以下である芳香族炭化水素として、ベンゼン、トルエン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、クメンまたはジエチルベンゼンなどを例示することができる。
【0028】
総炭素数が10以下であるケトンとして、アセトンまたは2-ブタノンなどを例示することができる。
【0029】
中でも、膜形成用組成物の粘度を低下する効果より、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸(2-メトキシ-1-メチルエチル)、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、メチル-tert-ブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2-メチルテトラヒドロフラン、フラン、テトラヒドロピラン、1,3-ジオキサン、1,4-ジオキサン、1,2-ジメトキシエタン、トルエン、アセトン及び2-ブタノンが特に好ましい。
【0030】
非フッ素溶剤の含有量は、膜形成用組成物を100質量%として、0.1質量%以上3.0質量%以下である。非フッ素溶剤の含有量が3.0質量%以上となると、膜形成用組成物の引火点が低下し消防法の危険物における第四類引火性液体に該当する傾向がある。一方で、非フッ素溶剤の添加量が0.1質量%以下となると、膜形成用組成物の粘度を低下する効果が十分に発揮しにくくなる傾向がある。
【0031】
非フッ素溶剤は、フッ素樹脂を得る重合反応の前に重合溶媒として添加することもできるし、重合後の溶液(以降、本明細書において「重合液」と記載する。)に添加することもできる。重合液を精製して一度固体として得たフッ素樹脂を、フッ素溶剤に溶解し得られる溶液に対し、非フッ素溶剤を添加してもよい。非フッ素溶剤を重合反応の前に添加し、得られた重合液を精製せずそのまま膜形成用組成物として用いることは、特に好ましい実施形態の一つである。
【0032】
非フッ素溶剤の粘度としては、測定温度25℃において、5,000cP以下の溶剤を用いることができる。粘度が5,000cP以上の溶剤を用いると、膜形成用組成物の粘度を低下する効果が低くなる傾向があるため、粘度は5,000cP以下であることが好ましい。粘度測定は、市販の測定装置を用いて公知の方法で実施することができる。
【0033】
非フッ素溶剤の沸点は200℃以下であることが好ましく、より好ましくは150℃以下、特に好ましくは100℃以下である。
【0034】
非フッ素溶剤は、塗布による該フッ素樹脂を成膜後、沸点が低いため乾燥などにより容易に除去することが可能でありフッ素樹脂膜に残存しないことから、該フッ素樹脂が本来有する性質に対して悪影響を及ぼさない。
【0035】
次に、フッ素樹脂について説明する。
フッ素樹脂は、式(1)で表わされる繰り返し単位を含みフッ素含有率が30質量%以上である。
【化6】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、該炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【0036】
フッ素樹脂は、式(1)で表わされる繰り返し単位の1種単独でホモポリマーを形成しても良いし、2種以上が組み合わされて共重合体を形成しても構わない。共重合体を形成する場合、前記R1及びR2は繰り返し単位ごとに、独立に可変である。
【0037】
R2が直鎖状の炭化水素基であるとき、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基、ノニル基または炭素数10~14の直鎖状アルキル基の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されているものを例示することができる。
【0038】
R
2が直鎖状の炭化水素基である場合は、前記式(1)で表わされる繰り返し単位は下記式(3)で表わされる繰り返し単位であることが好ましい。
【化7】
(式中、R
1は、式(1)のR
1と同義である。Xは水素原子またはフッ素原子である。nは1~4の整数である。mは1~14の整数である。)
【0039】
式(3)で表わされる繰り返し単位において、単量体の合成の容易さから、nは1~2の整数で、mは2~6の整数であることがより好ましい。
【0040】
式(3)で表わされる繰り返し単位において、R
1、X、nおよびmは下表1~3に示す組み合わせが好ましく採用され、特に下表1で示されるNo.3~6、及び下表2で示されるNo.28~35は好ましい。
<式(3)で表される繰り返し単位の例>
【表1】
【表2】
【表3】
【0041】
R
2が分岐鎖状の炭化水素基である場合は、前記式(1)で表わされる繰り返し単位は下記式(4)で表わされる繰り返し単位であることが好ましい。
【化8】
(式中、R
1は、式(1)のR
1と同義である。Xは、それぞれ独立に、水素原子またはフッ素原子である。mは、それぞれ独立に、1~14の整数である。pは0または1の整数であり、qは0または1の整数である。但し、pが1のときqは0であり、pは0のときqは1である。)
【0042】
式(4)で表わされる繰り返し単位において、pが1のときqは0であり、具体的には下記式で表される繰り返し単位である。
【化9】
(式中、R
1、X及びmは、式(4)のR
1、X及びmと同義である。)
また、式(4)で表わされる繰り返し単位において、pが0のときqは1であり、具体的には下記式で表される繰り返し単位である。
【化10】
(式中、R
1、X及びmは、式(4)のR
1、X及びmと同義である。)
式(4)における前記m及び前記Xは、それぞれ同一であることが特に好ましい。
【0043】
式(4)で表わされる繰り返し単位は、例えば、下記に示す、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-オール(分子式:CF
3CH(OH)CF
3)、1,1,1,3,3,4,4,4-オクタフルオロブタン-2-オール(分子式:CF
3CH(OH)CF
2CF
3)、2-トリフルオロメチル-1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロプロパン-2-オール(分子式:(CF
3)
3COH)または2-トリフルオロメチル-1,1,1-トリフルオロプロパン-2-オール(分子式:(CF
3)
2(CH
3)COH)からそれぞれ誘導されるメタクリレートまたはアクリレートを例示することができ、好ましく用いることができる。
【化11】
【0044】
フッ素樹脂は、中でも格別に好ましいものとして、以下の構造が例示できる。
【化12】
【0045】
フッ素樹脂が共重合体である場合、前述の通り、上述の繰り返し単位に該当するものの異種同士が、共重合体を形成していてもよい。
【0046】
一方、フッ素樹脂のフッ素含有率を下記の範囲とする限り、それ以外の繰り返し単位が含まれて共重合体を形成していてもよい。そのような繰り返し単位の単量体の種類としては、特段の制限はないものの、スチレン化合物、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステルなどが挙げられる。これらは一種を単独で用いても良く、二種以上を用いても良い。中でもフッ素を含まない単量体が好ましく用いられる。
【0047】
フッ素樹脂のフッ素含有率は、フッ素樹脂の全質量に対して、30質量%以上である。フッ素含有率は65質量%以下であることが好ましい。フッ素含有率がこの範囲内であれば、フッ素溶剤に溶解し易い。
【0048】
フッ素樹脂がフッ素原子を含むことで、当該フッ素樹脂はフッ素系溶剤との親和性があり、またフッ素樹脂は主鎖に隣接して、極性基であるエステル結合を有しているために、フッ素樹脂を塗布成膜したフッ素樹脂膜は柔軟性に富み、平坦でひび割れのないフッ素樹脂膜を得ることができる。また、フッ素樹脂が側鎖にフッ素化された炭化水素基を有しているため、フッ素樹脂はフッ素系溶剤への溶解性に優れ、パターン形成用のマスクとしてフッ素樹脂による膜が使用されるときエッチング溶剤への耐性に優れる。
【0049】
フッ素樹脂の分子量は、質量平均分子量にて、好ましくは2,000以上、500,000以下、より好ましくは3,000以上、100,000以下である。分子量がこれより小さいと塗布により得られるフッ素樹脂膜の強度が低下する傾向にあり、分子量がこれより大きいとフッ素系溶剤への溶解性が不足し塗布によるフッ素樹脂膜の形成が困難になることがある。
【0050】
フッ素樹脂の分子量分散Mw/Mn(質量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除算したもの)は、好ましくは1以上、5以下、より好ましくは1以上、4以下である。分子量分散Mw/Mnがこれより大きいとフッ素系溶剤への溶解性が不足し塗布によるフッ素樹脂膜の形成が困難になることがある。
【0051】
フッ素樹脂の質量平均分子量Mwと分子量分散Mw/Mn(質量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除算したもの)は、高速ゲルパーミエーションクロマトグラフィ(以下、GPCということがある。東ソー株式会社製、形式HLC-8320GPC)を使用し、ALPHA-MカラムとALPHA-2500カラム(ともに東ソー株式会社製)を1本ずつ直列に繋ぎ、展開溶媒としてトリフルオロ酢酸ナトリウムを5mM溶解させたヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)を用い、検出器に屈折率差検出器を用いられる。
【0052】
フッ素樹脂の濃度は、フッ素樹脂膜形成用組成物100質量%に対して、フッ素樹脂が20質量%超40質量%以下である。残余は、前記非フッ素溶剤と後述するフッ素溶剤であり、微量の開始剤等の残渣及び分解物を含むこともある。フッ素樹脂の濃度が20質量%以下では、形成されるフッ素樹脂膜が薄くなり、基材を十分に保護できない傾向がある。フッ素樹脂の濃度が40質量%より多いと、非フッ素溶剤添加による、膜形成用組成物の粘度を低下させる効果が十分に発揮しない傾向があるため、均一に塗布成膜することが困難になる場合がある。
【0053】
フッ素樹脂の製造方法について説明する。
フッ素樹脂は、式(2)で表される単量体を、前記フッ素溶剤及び前記非フッ素溶剤を含む溶液中で、開始剤により重合させる工程によって製造することができる。
【化13】
(式中、R
1は、水素原子またはメチル基を表し、R
2は、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基を表し、炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されており、繰り返し単位中のフッ素含有率は30質量%以上である。)
【0054】
式(2)で表される単量体を1種単独で用いてフッ素樹脂を製造しても良いし、2種以上を用いて共重合体となるフッ素樹脂を製造しても良い。
【0055】
以下、式(2)で表される単量体の重合工程について説明する。本明細書において、重合工程とは、重合前の調製、及び重合反応開始から停止までを指し、得られたフッ素樹脂を精製する工程は含まないものとする。
【0056】
重合方法としては、一般的に使用される方法であれば特に制限されないが、ラジカル重合、イオン重合などが好ましく、場合により、配位アニオン重合、リビングアニオン重合、カチオン重合、開環メタセシス重合、ビニレン重合、ビニルアディションなどを使用することも可能である。それぞれの重合方法としては、周知の方法が適用できる。以下には、ラジカル重合による方法を説明するが、他の方法も周知の文献等により容易に重合することができる。
【0057】
ラジカル重合は、ラジカル重合開始剤あるいはラジカル開始源の存在下で、塊状重合、溶液重合、懸濁重合、又は乳化重合などの公知の重合方法により、回分式、半連続式、又は連続式のいずれかの操作で行えばよい。
【0058】
ラジカル重合開始剤としては特に限定されるものではないが、例としてアゾ系化合物、過酸化物系化合物、過硫酸化合物またはレドックス系化合物が挙げられ、特に、2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’-アゾビス(2-メチルプロピオネート)、tert-ブチルパーオキシピバレート、ジ-tert-ブチルパーオキシド、イソブチリルパーオキシド、ラウロイルパーオキサイド、スクシン酸パーオキシド、ジシンナミルパーオキシド、ジ-n-プロピルパーオキシジカーボネート、tert-ブチルパーオキシアリルモノカーボネート、過酸化ベンゾイル、過酸化水素、過硫酸アンモニウム等が好ましい。
【0059】
重合反応に用いる反応容器は特に限定されない。
【0060】
重合反応において、単量体と開始剤以外に重合溶媒を用いることが好ましい。重合溶媒としては、ラジカル重合を阻害しないものが好ましく、公知のフッ素系有機溶媒を用いることが好ましい。中でも、後述する「フッ素溶剤」を用いることが特に好ましい。重合溶媒は単独でもあるいは2種類以上を混合しても使用できる。また、メルカプタンのような分子量調整剤を併用してもよい。重合反応の反応温度はラジカル重合開始剤あるいはラジカル重合開始源により適宜変更され、通常は20~200℃が好ましく、特に30~140℃が好ましい。
【0061】
重合時間は、通常は0.1~48時間、好ましくは0.5~24時間であるが、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)や核磁気共鳴装置(NMR)などの分析機器を使用し、単量体が消費された時点を重合の終点とすることが好ましい。重合終了後は、重合液を室温以下に冷却することで反応を停止させることができる。
【0062】
重合反応系の全質量に対する、重合開始時の単量体濃度は、好ましくは1質量%以上、95質量%以下で、より好ましくは10質量%以上、80質量%以下である。この範囲より単量体の濃度が低いと重合反応の反応率が低下する傾向があり、この範囲より単量体の濃度が高いと重合液の粘度が高くなる傾向がある。
【0063】
前述の通り、非フッ素溶剤は、重合前の調製液に対してでも重合液に対してでも所定量添加することができ、フッ素樹脂膜形成用組成物を得ることができる。特に、重合溶媒として後述する「フッ素溶剤」を用い、非フッ素溶剤を重合前の調製液に添加し、得られた重合液を精製せずにフッ素樹脂膜形成用組成物として用いることが、本発明の特に好ましい実施形態の一つである。
【0064】
重合液において、フッ素樹脂の濃度が20質量%超40質量%以下の範囲にない場合、濃度調整を行ってもよい。重合液中のフッ素樹脂の濃度が40質量%を超える場合は、フッ素溶剤を添加することで、上記濃度の範囲に調整することができ、重合液中のフッ素樹脂の濃度が20質量%以下の場合は、フッ素溶剤を乾燥して上記濃度の範囲に調整することができる。フッ素溶剤を乾燥するときは減圧下での加熱留出などの方法が可能である。
【0065】
重合工程によって得られた重合液に対して、さらに精製する工程を行っても良い。精製工程としては、例えば、重合液から重合溶媒を除去してフッ素樹脂を単離後洗浄することなどが挙げられる。特に、重合溶媒が後述する「フッ素溶剤」以外である場合は、この方法をとることができる。重合液から重合溶媒を除去するには、再沈殿、ろ過、減圧下での加熱留出などの方法が可能であり、単離したフッ素樹脂を洗浄するためには、フッ素樹脂が溶解しない溶媒を用いてろ過時にかけ洗いを行う方法などが可能である。
【0066】
次に、フッ素溶剤について説明する。
フッ素溶剤は、フッ素樹脂を溶解する溶剤であり、フッ素含有率が30質量%以上である。フッ素溶剤は1種単独で用いてもよいし、2種以上を任意の組み合わせ、比率で混合して用いても良い。
【0067】
中でも、フッ素溶剤は含フッ素炭化水素または含フッ素エーテルであることが特に好ましい。
含フッ素炭化水素としては、オゾン破壊係数が低いものが好ましく、特に、炭素数3~15の、直鎖状、分岐鎖状または環状の炭化水素で、炭化水素中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換され、フッ素含有率が30質量%以上を有するものが、塗布しやすく好ましい。
【0068】
このような含フッ素炭化水素として具体的には、ブタン、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、シクロペンタンまたはシクロヘキサンの炭化水素中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換され、フッ素含有率が30質量%以上を有するものを例示することができる。具体的に示せば、例えば、CH
3CF
2CH
2CF
3、CF
3CHFCHFCF
2CF
3、CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3並びに下記式の含フッ素炭化水素を例示することができる。
【化14】
【0069】
含フッ素炭化水素の沸点は、200℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは180℃以下である。含フッ素炭化水素の沸点が200℃以下であると、膜形成用組成物を塗布形成したフッ素樹脂膜から、加熱により含フッ素炭化水素を蒸発除去しやすい。
【0070】
含フッ素炭化水素のうち、特に好ましい沸点を有する例として、以下を挙げることができる。
CF
3CHFCHFCF
2CF
3(三井・デュポンフロロケミカル株式会社製、バートレルXF、沸点55℃)、
下記式の含フッ素炭化水素(日本ゼオン株式会社製、ゼオローラH、沸点83℃)
【化15】
CF
3CF
2CF
2CF
2CF
2CH
2CH
2CH
3(旭硝子株式会社製、アサヒクリンAC-6000、沸点114℃)。
なお、バートレルは三井・デュポンフロロケミカル株式会社のフッ素系溶剤の商品名、ゼオローラは日本ゼオン株式会社のフッ素系溶剤(HFC類)およびアサヒクリンは旭硝子株式会社のフッ素系溶剤の商品名で市販されており、上記商品名は、各々商標登録されている。
【0071】
含フッ素エーテルとしては、オゾン破壊係数の低いものが好ましく、特に、式(a)で表される含フッ素エーテルを含む溶剤を用いることが好ましい。
R3-O-R4 (a)
(式中、R3とR4は、それぞれ独立に、炭素数1~15の直鎖状、炭素数3~15の分岐鎖状または炭素数3~15の環状の炭化水素基であり、化合物中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換され、フッ素含有率が30質量%以上である。)
【0072】
式(a)において、R3とR4で表される2つの置換基が同一でないものが前記フッ素樹脂の溶解性が高く好ましい。
【0073】
式(a)においてR3は、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ビニル基、アリル基またはメチルビニル基が好ましい。これら炭化水素基中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されている。
【0074】
式(a)においてR4は、具体的に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、secーブチル基、tertーブチル基、1-ペンチル基、2-ペンチル基、3-ペンチル基、1-ヘキシル基、2-ヘキシル基、3-ヘキシル基、1-ヘプチル基、2-ヘプチル基、3-ヘプチル基、1-オクチル基、2-オクチル基、3-オクチル基、1-ノニル基、2-ノニル基、1-デシル基、2-デシル基、ウンデシル基、ドデシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロペンチルメチル基またはシクロヘキシルメチル基の炭化水素中の任意の数の水素原子がフッ素原子で置換されたものを例示することができる。また、これら炭化水素基は不飽和結合を有していてもよい。
【0075】
好ましい含フッ素エーテルの例として、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-(2,2,2-トリフルオロエトキシ)プロパン、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-(2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロポキシ)プロパン、1,1,2,3,3,3-ヘキサフルオロ-1-(2,2,3,3-テトラフルオロプロポキシ)プロパンまたは2,2,3,3,3-ペンタフルオロ-1-(1,1,2,2-テトラフルオロエトキシ)プロパンを例示することができる。これら含フッ素エーテルの製造方法は、特開2002-201152公報に記載されている。
【0076】
含フッ素エーテルの沸点は、200℃以下であることが好ましく、さらに好ましくは180℃以下である。含フッ素エーテルの沸点が200℃以下であると、塗布形成したフッ素樹脂膜から、加熱により含フッ素エーテルを蒸発除去しやすい。
好ましい沸点を有する含フッ素エーテルとして、以下の化合物を例示することができる。
C
3F
7OCH
3、C
4F
9OCH
3、C
4F
9OC
2H
5
【化16】
【化17】
これらは、スリーエム社より、商品名、ノベック7000、ノベック7100、ノベック7200、ノベック7300、ノベック7500として市販されており入手可能であり、膜形成用組成物に好適に用いることができる。尚、ノベックは商標である。
好ましい沸点を有する、市販の含フッ素エーテルとしては、さらに三井デュポンフロロケミカル株式会社製、商品名オプテオンSF10を例示することができ、入手可能である。
【0077】
次に、フッ素樹脂膜形成用組成物について説明する。
【0078】
本実施形態において、膜形成用組成物は、均一相で低粘度であるという特徴を有する。膜形成用組成物の粘度は、測定温度25℃において、3,000cp以下であることが好ましく、2,000cp以下であることが特に好ましい。粘度測定は、市販の測定装置を用いて実施することができる。
【0079】
また、本実施形態において、膜形成用組成物は、前記フッ素樹脂を濃度20質量%超40質量%以下で含有し、前記非フッ素溶剤を0.1質量%以上3.0質量%以下の割合で含有し、前記フッ素溶剤を残余として含有する構成をとる。
【0080】
膜形成用組成物は、引火点を示さないことが本発明の好ましい態様の一つである。引火点を示さないと、消防法の危険物における第四類引火性液体に該当しないため、危険物倉庫等が完備された大規模工場・施設を必要とせず、危険物倉庫等の設備を持たない小規模工場・施設においても貯蔵場所として広く適用され得るものであるため、好ましい。引火点測定方法は、JIS K2265-4に準拠した条件に従い、クリーブランド開放法によって実施することができる。
【0081】
フッ素樹脂膜形成用組成物を製造する方法は、前述の「フッ素樹脂の製造方法」で挙げた内容を、再びここで挙げることができる。
【0082】
膜形成用組成物を用いて膜を形成する方法は、従来公知の塗布方法と同様の技法を適宜採用することができ、塗布する対象物によって好適な方法を選ぶことができる。例えば、スリットコーター、ダイコーター、グラビアコーター、ディップコーター、スピンコーター等の適当な塗布装置を使用することにより、本発明のフッ素樹脂を好ましく塗布することができる。また、浸漬塗布、スプレー塗布、ローラー塗布等の方法を行うこともできる。
【0083】
塗布した後得られるフッ素樹脂膜は、60~150℃で加熱することにより、前記フッ素溶剤および前記非フッ素溶剤を除去することができる。加熱は質量減少が確認されなくなるまで行うことが好ましい。加熱する際は、大気圧下でもよいし、加圧下でもよいし、減圧下でもよい。さらには、大気中で行ってもよいし、不活性雰囲気下で行ってもよいし、所定のガスをフローしながら行ってもよい。
【0084】
塗布する対象物は、微細加工された半導体用の基板であってもよいし、服飾等の布地であってもよい。ここで、形成されるフッ素樹脂膜は、塗布する対象物に全面に形成されてもよく、一部に形成されていてもよい。
【0085】
得られるフッ素樹脂膜の厚みは、用途によって好適な厚みを選ぶことができ、好ましくは1μm以上である。フッ素樹脂膜が、1μm以下の厚みになるとフッ素樹脂膜の機械的な強度が低下することがある。
【実施例】
【0086】
以下に実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例によって制限されるものではない。
【0087】
[フッ素樹脂の合成]
本発明の実施例では、特に記載のない限り以下の方法でフッ素樹脂の合成を行った。
【0088】
反応器として0.5Lガラス製四つ口フラスコを使用した。温度計、冷却管、撹拌子を取り付けた反応器に、所定量の(メタ)アクリレートモノマーと、重合溶媒としてフッ素溶剤、開始剤として2,2’-アゾビス(2-メチルブチロニトリル)(品名、V-59、和光純薬工業株式会社)を反応器内に量り取り、攪拌しつつ窒素により反応容器内を置換した。その後に、反応器を内温85℃に加熱し、10時間攪拌した。加熱終了後、内温30℃以下まで放冷し、フッ素樹脂溶液を得た。
使用したモノマーは、東京化成工業株式会社から入手した。
尚、フッ素溶剤として、3-エトキシ-1,1,1,2,3,4,4,5,5,6,6,6-ドデカフルオロ-2-トリフルオロメチル-ヘキサン(品名、Novec7500)、1,1,1,2,3,4,4,5,5,5-デカフルオロ-3-メトキシ-2-(トリフルオロメチル)ペンタン(品名、Novec7300)、またはメトキシパーフルオロヘプテン(品名、オプテオンSF10)を用いた。Novec7500およびNovec7300はスリーエム社の商品名、オプテオンSF10は三井・デュポンフロロケミカル株式会社の商品名であり、Novec7500、Novec7300およびオプテオンSF10は商標登録されている。
【0089】
得られたフッ素樹脂膜形成用組成物について、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)を測定し、質量平均分子量Mwと分子量分散Mw/Mn(質量平均分子量Mwを数平均分子量Mnで除算したもの)を算出した。また、モノマーおよびポリマーの面積値から、モノマーのポリマーへの重合転化率(ポリマーの面積値をモノマーおよびポリマーの面積値合計で除算したものに100を乗算したもの)を算出した。GPC装置は、東ソー株式会社製、機種名HLC-8320を用い、GPCカラムとして東ソー株式会社製カラム(品名、TSKgel SuperHM-H)を2本直列に繋ぎ、展開溶媒としてトリフルオロ酢酸ナトリウムを5mM溶解させたヘキサフルオロイソプロピルアルコール(HFIP)を用い、検出器に屈折率差検出器を用い測定した。
【0090】
[フッ素樹脂合成例1]
メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを60g(0.275mol)、Novec7500を210g、開始剤を0.372g(1.93mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、以下の式(5)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を264g得た(以下、フッ素樹脂溶液1と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは48,100、分子量分散Mw/Mnは3.01であった。
【化18】
【0091】
[フッ素樹脂合成例2]
メタクリル酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルを60g(0.300mol)、Novec7500を210g、開始剤を0.405g(2.11mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、以下の式(6)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を266g得た(以下、フッ素樹脂溶液2と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは49,600、分子量分散Mw/Mnは2.92であった。
【化19】
【0092】
[フッ素樹脂合成例3]
メタクリル酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルを60g(0.254mol)、Novec7500を210g、開始剤を0.343g(1.79mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、以下の式(7)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を265g得た(以下、フッ素樹脂溶液3と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは29,000、分子量分散Mw/Mnは3.53であった。
【化20】
【0093】
[フッ素樹脂合成例4]
アクリル酸1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロイソプロピルを60g(0.270mol、Novec7500を210g、開始剤を0.365g(1.90mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、以下の式(8)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を263g得た(以下、フッ素樹脂溶液4と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は97面積%であった。質量平均分子量Mwは81,300、分子量分散Mw/Mnは4.01であった。
【化21】
【0094】
[フッ素樹脂合成例5]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルを240g(0.722mol)、Novec7500を466g、開始剤を0.976 g(5.08mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法によりラジカル重合した。その結果、以下の式(9)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を696g得た(以下、フッ素樹脂溶液5と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は99面積%であった。質量平均分子量Mwは41,200、分子量分散Mw/Mnは3.85であった。
【化22】
【0095】
[フッ素樹脂合成例6]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルを240g(0.555mol)、Novec7500を466g、開始剤を0.750 g(3.90mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、以下の式(10)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を698g得た(以下、フッ素樹脂溶液6と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は99面積%であった。質量平均分子量Mwは35,900、分子量分散Mw/Mnは3.36であった。
【化23】
【0096】
[フッ素樹脂合成例7]
メタクリル酸2,2,3,3,3-ペンタフルオロプロピルを60g(0.275mol)、Novec7300を210g、開始剤を0.372g(1.93mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(5)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を263g得た(以下、フッ素樹脂溶液7と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは50,300、分子量分散Mw/Mnは2.88であった。
【0097】
[フッ素樹脂合成例8]
メタクリル酸2,2,3,3-テトラフルオロプロピルを120g(0.600mol)、オプテオンSF10を360g、開始剤を0.810g(4.21mmol)、反応器内に採取し、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(6)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を470g得た(以下、フッ素樹脂溶液8と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは53,600、分子量分散Mw/Mnは3.51であった。
【0098】
[フッ素樹脂合成例9]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルを120g(0.278mol)、オプテオンSF10を238g、開始剤を0.375g(1.95mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(10)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を350g得た(以下、フッ素樹脂溶液9と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは34,300、分子量分散Mw/Mnは3.12であった。
【0099】
[フッ素樹脂合成例10]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルを120g(0.278mol)、オプテオンSF10を195g、開始剤を0.375g(1.96mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(10)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を303g得た(以下、フッ素樹脂溶液No.10と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は97面積%であった。質量平均分子量Mwは40,500、分子量分散Mw/Mnは3.42であった。
【0100】
[フッ素樹脂合成例11]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルを240g(0.722mol)、Novec7300を466g、開始剤を0.976 g(5.08mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前述の式(9)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を693g得た(以下、フッ素樹脂溶液No.11と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は98面積%であった。質量平均分子量Mwは38,900、分子量分散Mw/Mnは3.55であった。
【0101】
[フッ素樹脂合成例12]
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルを240g(0.555mol)、Novec7300を466g、開始剤を0.750 g(3.90mmol)、反応器内に量り取り、上記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(10)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を699g得た(以下、フッ素樹脂溶液No.12と表記する)。フッ素樹脂への重合転化率は99面積%であった。質量平均分子量Mwは37,000、分子量分散Mw/Mnは3.23であった。
【0102】
合成例1~12(フッ素樹脂溶液1~12)で得られたフッ素樹脂、用いたフッ素溶剤(重合溶剤)、得られたフッ素樹脂への重合転化率、Мw、およびМw/Мnを表4にまとめた。
【表4】
【0103】
[相溶性評価]
得られたフッ素樹脂溶液に対する非フッ素溶剤の相溶性を評価した。
50mLのガラス製フラスコに、フッ素樹脂溶液 9.7gを量り取り、非フッ素溶剤0.3g(フッ素樹脂溶液の3.0質量%に相当)を加え、室温で5分間攪拌した。その後5分間静置した後、相溶性を目視にて確認した。相溶性は、得られた溶液が懸濁なく均一である場合は「均一相」、二相に分離してしまった場合は「相分離」と評価した。
非フッ素溶剤として、酢酸メチル(МeОAc)、酢酸エチル(EtOAc)、酢酸ブチル(BuOAc)、メチル-tert-ブチルエーテル(MTBE)、テトラヒドロフラン(THF)、トルエン、アセトン、メタノール(MeOH)、イソプロピルアルコール(IPA)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、クロロホルム、ジメチルスルホキシド(DMSO)、アセトニトリル(MeCN)を用い、フッ素樹脂溶液1~9に添加した評価結果を表5に示した。
【0104】
カルボン酸エステルであるMeOAcとEtOAcとBuOAc、鎖状または環状エーテルであるMTBEとTHF、芳香族炭化水素であるトルエン、及びケトンであるアセトンが、各フッ素樹脂溶液に対して、相溶性が良好であることがわかった。
【表5】
【0105】
[粘度評価]
前述の相溶性評価で、懸濁なく均一に相溶した非フッ素溶剤(МeОAc、EtOAc、MTBE、THF、トルエン)を、フッ素樹脂溶液に加えて室温で混合し、以下の膜形成用組成物を調製した。
【0106】
1)実施例1~12(膜形成用組成物1~14)の調製
50mLのガラス製フラスコに、フッ素樹脂溶液1を98.7g量り取り、MeOAcを1.3g(膜形成用組成物の1.3質量%に相当)を加え、室温で5分間混合して膜形成用組成物1を調製した。
フッ素樹脂溶液1をフッ素樹脂溶液2~12に、またMeOAcの添加量を表6に示すように、それぞれ変更した以外は、上記の膜形成用組成物1と同様の手順で膜形成用組成物2~14を調製した。
【0107】
2)実施例13~16(膜形成用組成物15~26)の調製
50mLのガラス製フラスコに、フッ素樹脂溶液6を99.4g量り取り、EtOAcを0.6g(膜形成用組成物の0.6質量%に相当)を加え、室温で5分間混合して膜形成用組成物15を調製した。
非フッ素溶剤の添加量を表6に示すよう変更し、非フッ素溶剤の種類をEtOAcからそれぞれMTBE、THF、トルエンに変えた以外は、上記の膜形成用組成物15と同様の手順で膜形成用組成物16~26を調製した。
【0108】
得られた各膜形成用組成物について、粘度を測定した。粘度は、コーンプレートを使用しレオメーターを用い、温度25℃で測定した。粘度計にはAnton Peer社製レオメーター(品名、Physica MCR-51)を使用した。
【0109】
3)実施例17(膜形成用組成物27)の調製
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8-トリデカフルオロオクチルを240g(0.555mol)、Novec7500を466g、開始剤を0.750 g(3.90mmol)、さらに重合溶媒の一部としてМeOAcを9.5g、反応器内に量り取り、前記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(10)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を710g得た。フッ素樹脂への重合転化率は99面積%であった。質量平均分子量Mwは48,800、分子量分散Mw/Mnは2.81であった。得られたフッ素樹脂溶液を精製することなくそのまま膜形成用組成物27(МeOAcの含有量は膜形成用組成物の1.3質量%に相当)として使用した。
【0110】
4)実施例18(膜形成用組成物28)の調製
メタクリル酸3,3,4,4,5,5,6,6,6-ノナフルオロヘキシルを240g(0.722mol)、Novec7300を466g、開始剤を0.976 g(5.08mmol)、さらに重合溶媒の一部としてМeOAcを9.5g、反応器内に量り取り、前記[フッ素樹脂の合成]に記載の方法により重合した。その結果、前記式(9)で表される繰り返し単位を含むフッ素樹脂溶液を712g得た。フッ素樹脂への重合転化率は99面積%であった。質量平均分子量Mwは37,300、分子量分散Mw/Mnは3.35であった。得られたフッ素樹脂溶液を精製することなくそのまま膜形成用組成物28(МeOAcの含有量は膜形成用組成物の1.3質量%)として使用した。
【0111】
また、比較例及び参考例として以下の膜形成用組成物を調製した。
【0112】
5)比較例1~4(膜形成用組成物29~32)
実施例1~18と同様の手順で、フッ素樹脂溶液6に、非フッ素溶剤としてMeOAc、MTBE、THF、トルエンを、表7に記載した所定量それぞれ加えて室温で混合し、膜形成用組成物29~32を調製した。相溶性は、目視にて確認し、溶液が懸濁なく均一である場合は「均一相」、二相に分離してしまった場合は「相分離」と評価した。
【0113】
6)参考例1~3(膜形成用組成物33~43)
実施例1~18と同様の手順で、フッ素樹脂溶液6に、フッ素溶剤としてNovec7500、Novec7300、オプテオンSF10を、表8に記載した所定量加えて室温で混合し、膜形成用組成物33~43を調製した。
【0114】
膜形成用組成物1~43の組成及び評価結果を表6~8にまとめた。また、膜形成用組成物の粘度と溶剤の添加量との関係性を
図1に記載した(実施例6、14、15および参考例1~3の粘度評価の結果)。
【表6】
【表7】
【表8】
【0115】
[引火点評価(参考例4~13)]
参考例として、得られた膜形成用組成物1~32について、引火点を測定した。引火点は、クリーブランド開放式引火点試験法を用い、JIS K2265-4に記載される方法に従い実施した。測定範囲は25℃~125℃(重合溶剤の沸点以下)とした。引火点が無い場合は「なし」、引火点が重合溶剤の沸点以下であった場合は「あり」として表9に記載した。
【表9】
【0116】
以上より、非フッ素溶剤を添加前であるフッ素樹脂溶液1~12の粘度は、4500cp以上と高粘性を示すが、実施例1~12では、酢酸メチルを膜形成用組成物の3.0質量%まで添加することにより、添加前と比較し粘度が約半分程度まで減少することが明らかとなった。また、実施例13~16では、酢酸メチル以外の非フッ素溶剤の添加により、それぞれ相分離することなく粘度の低下効果を示した。さらに、実施例17、18では、酢酸メチルを重合前に添加し、重合後得られたフッ素樹脂溶液を精製せずにそのまま用いた場合でも、粘度が低く均一相であることが示された。一方、参考例4~10では、これら膜形成用組成物は引火点がないことが明らかとなった。
【0117】
比較例1~4では、非フッ素溶剤を膜形成用組成物の3.0質量%を超えて添加した場合、非フッ素溶剤が相分離することが確認され均一な溶液を得ることができなかった。さらに、参考例11~13では、非フッ素溶剤を膜形成用組成物の3.0質量%を超えて添加した場合、引火点があることが示された。
【0118】
また、参考例1~3及び
図1では、非フッ素溶剤ではなくフッ素溶剤を膜形成用組成物に添加した場合、粘度の低下に対する効果は小さくなった。