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  • 特許-めっき鋼材 図1
  • 特許-めっき鋼材 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】めっき鋼材
(51)【国際特許分類】
   C23C 2/06 20060101AFI20230512BHJP
   C22C 18/00 20060101ALI20230512BHJP
   C22C 18/04 20060101ALI20230512BHJP
   C22C 38/06 20060101ALI20230512BHJP
   C23C 2/02 20060101ALI20230512BHJP
   C23C 2/12 20060101ALI20230512BHJP
   C23C 2/26 20060101ALI20230512BHJP
   C23C 2/28 20060101ALI20230512BHJP
   C23C 2/40 20060101ALI20230512BHJP
   C21D 1/76 20060101ALN20230512BHJP
   C21D 9/46 20060101ALN20230512BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230512BHJP
   C22C 38/04 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
C23C2/06
C22C18/00
C22C18/04
C22C38/06
C23C2/02
C23C2/12
C23C2/26
C23C2/28
C23C2/40
C21D1/76 E
C21D9/46 J
C22C38/00 301T
C22C38/04
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2021514215
(86)(22)【出願日】2020-04-16
(86)【国際出願番号】 JP2020016714
(87)【国際公開番号】W WO2020213680
(87)【国際公開日】2020-10-22
【審査請求日】2021-08-24
(31)【優先権主張番号】P 2019080289
(32)【優先日】2019-04-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【弁理士】
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【弁理士】
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】光延 卓哉
(72)【発明者】
【氏名】真木 純
(72)【発明者】
【氏名】竹林 浩史
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(72)【発明者】
【氏名】▲徳▼田 公平
【審査官】祢屋 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】特許第6443596(JP,B1)
【文献】特開2002-302749(JP,A)
【文献】国際公開第2018/169085(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/180852(WO,A1)
【文献】特開2010-070810(JP,A)
【文献】国際公開第2018/139620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 2/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼材と;
前記鋼材の表面に設けられためっき層と;
を備え、
前記めっき層は、質量%で、
Al:5.00~35.00%、
Mg:2.50~13.00%、
Fe:5.00~40.00%、
Si:0~2.00%、及び、
Ca:0~2.00%、を含有し、
残部がZn及び不純物からなり、
前記めっき層の断面において、Znを5%以上固溶したZn固溶FeAl相の面積分率が10~60%、MgZn相の面積分率が10~90%である
ことを特徴とする、めっき鋼材。
【請求項2】
前記めっき層が、質量%で、Al:10.00~30.00%を含有する
ことを特徴とする、請求項1に記載のめっき鋼材。
【請求項3】
前記めっき層が、質量%で、Mg:4.00~11.00%を含有する
ことを特徴とする、請求項1又は2に記載のめっき鋼材。
【請求項4】
前記めっき層が、質量%で、Ca:0.03~1.00%を含有する
ことを特徴とする、請求項1~3の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項5】
前記めっき層の前記断面において、前記Zn固溶FeAl相の面積分率が20~60%である
ことを特徴とする、請求項1~4の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項6】
前記めっき層の前記断面において、Znの固溶量が5%未満であるZn非固溶FeAl相の面積分率が10%以下である
ことを特徴とする、請求項1~5の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項7】
前記めっき層の前記断面において、主にAl相とZn相とから構成されるAl-Znデンドライトの面積分率が5%以下である
ことを特徴とする、請求項1~6の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項8】
前記めっき層の前記断面において、Zn/Al/MgZn三元共晶組織の面積分率が5%以下である
ことを特徴とする、請求項1~7の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項9】
前記めっき層の前記断面において、FeAl相の面積分率が10%以下である
ことを特徴とする、請求項1~8の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項10】
前記めっき層の前記断面において、塊状Zn相の面積分率が10%以下である
ことを特徴とする、請求項1~9の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【請求項11】
前記めっき層の前記断面において、MgSi相の面積分率が10%以下である
ことを特徴とする、請求項1~10の何れか1項に記載のめっき鋼材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、めっき鋼材に関する。
本願は、2019年04月19日に、日本に出願された特願2019-080289号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、建材分野を中心に溶融Zn-Al-Mgめっき鋼板の開発が進められている。
【0003】
特許文献1には、質量%で、Al:25~90%及びSn:0.01~10%を含有し、さらに、Mg、Ca及びSrからなる群より選択される一種以上を合計で0.01~10%含有しためっき層を有することを特徴とする溶融Al-Zn系めっき鋼板が開示されている。
【0004】
特許文献2には、めっき層最表面に占める〔Al/Zn/ZnMgの三元共晶組織〕の割合が60面積%以上である溶融Zn-Al-Mg合金めっき鋼板を基材とし、Ni,Co,Fe,Mnから選ばれた少なくとも一種を含み、Ni,Co,Feの合計付着量が0.05~5.0mg/mの範囲であり、Mnの付着量が0.05~30mg/mの範囲である析出層、平均粒径:0.5~5.0μmのリン酸塩結晶からなるリン酸塩皮膜、バルブメタルの酸化物又は水酸化物とバルブメタルのフッ化物が共存している化成皮膜でめっき層表面が覆われ、リン酸塩結晶は基部がめっき層に食い込んでめっき層から起立しており、化成皮膜はリン酸塩結晶の間で露出しためっき層又は析出層との界面に生成した界面反応層を介した有機樹脂皮膜であることを特徴とする化成処理鋼板が開示されている。
【0005】
特許文献3には、鋼材の表面に、質量%で、Mg:1~10%、Al:2~19%、Si:0.01~2%、及び、Fe:2~75%を含有し、残部がZn及び不可避的不純物よりなる亜鉛系合金めっき層を有することを特徴とする亜鉛系合金めっき鋼材が開示されている。
【0006】
しかしながら、特許文献1~3では、めっき鋼板の犠牲防食性、特にめっき鋼板上に化成処理被膜や電着塗膜(以下、塗膜と総称する場合がある)を形成し、塗膜下で腐食が進行した場合のめっき鋼板の犠牲防食性に関する検討が十分とは言えなかった。
以上の背景から、犠牲防食性(塗膜形成後の犠牲防食性)に優れるめっき鋼板の開発が希求されていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特開2015-214747号公報
【文献】日本国特許第4579715号公報
【文献】日本国特開2009-120947号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記事情に鑑みてなされたものであり、犠牲防食性に優れるめっき鋼材を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を採用する。
(1)本発明の一態様に係るめっき鋼材は、鋼材と、前記鋼材の表面に設けられためっき層と、を備え、前記めっき層は、質量%で、Al:5.00~35.00%、Mg:2.50~13.00%、Fe:5.00~40.00%、Si:0~2.00%、及び、Ca:0~2.00%、を含有し、残部がZn及び不純物からなり、前記めっき層の断面において、Znを5%以上固溶したZn固溶FeAl相の面積分率が10~60%、MgZn相の面積分率が10~90%である。
(2)(1)に記載のめっき鋼材は、前記めっき層が、質量%で、Al:10.00~30.00%を含有してもよい。
(3)(1)又は(2)に記載のめっき鋼材は、前記めっき層が、質量%で、Mg:4.00~11.00%を含有してもよい。
(4)(1)~(3)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層が、質量%で、Ca:0.03~1.00%を含有してもよい。
(5)(1)~(4)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記断面において、前記Zn固溶FeAl相の面積分率が20~60%であってもよい。
(6)(1)~(5)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記断面において、Znの固溶量が5%未満であるZn非固溶FeAl相の面積分率が10%以下であってもよい。
(7)(1)~(6)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記断面において、主にAl相とZn相とから構成されるAl-Znデンドライトの面積分率が5%以下であってもよい。
(8)(1)~(7)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記断面において、Zn/Al/MgZn三元共晶組織の面積分率が5%以下であってもよい。
(9)(1)~(8)の何れか1項に記載のめっき鋼板は、前記めっき層の前記断面において、FeAl相の面積分率が10%以下であってもよい。
(10)(1)~(9)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記断面において、塊状Zn相の面積分率が10%以下であってもよい。
(11)(1)~(10)の何れか1項に記載のめっき鋼材は、前記めっき層の前記断面において、MgSi相の面積分率が10%以下であってもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の上記態様によれば、犠牲防食性に優れるめっき鋼材を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本実施形態に係るめっき鋼材の断面組織を表すSEM画像である。
図2】従来技術に係るめっき鋼板の断面組織を表すSEM画像である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係るめっき鋼材(本実施形態に係るめっき鋼材)及びその好ましい製造方法について説明する。
【0013】
[めっき鋼材]
本実施形態に係るめっき鋼材は、鋼材と、前記鋼材の表面に設けられためっき層と、を備え、
前記めっき層は、質量%で、
Al:5.00~35.00%、
Mg:2.50~13.00%、
Fe:5.00~40.00%、
Si:0~2.00%、及び、
Ca:0~2.00%、を含有し、
残部がZn及び不純物からなり、
前記めっき層の断面において、Znを5%以上固溶したZn固溶FeAl相の面積分率が10~60%、MgZn相の面積分率が10~90%である。
【0014】
<鋼材>
めっき鋼材の下地となる鋼材の材質は、特に限定されない。一般鋼、Niプレめっき鋼、Alキルド鋼、一部の高合金鋼を用いることが可能である。また、鋼材の形状も特に限定されない。例えば鋼材は熱延鋼板、冷延鋼板などの鋼板である。以下、本実施形態では、鋼材が鋼板(本実施形態に係るめっき鋼板)である場合について説明する。
【0015】
<めっき層>
本実施形態に係るめっき鋼材は、鋼材の表面にめっき層を備える。
【0016】
(化学成分)
次に、めっき層が含む化学成分(化学組成)について説明する。以下の化学成分の説明において、特段の断りが無い限りは「%」は「質量%」を表すものとする。
【0017】
Al:5.00~35.00%
Alは、めっき層中にZn以外の他元素を含有させるために必要な元素である。本来、Znめっき層(Zn層)には、他元素が含有されづらく、例えば、Mgを高濃度に含有させることは難しい。しかしながら、めっき層(Zn系めっき層)に、Alが含有されることで、Mgを含むめっき層を製造することができる。
【0018】
Al濃度(Al含有量)が5.00%未満では、Mgの他、めっき層に性能を付与する合金元素の含有が難しくなる傾向がある。また、Alは密度が低いため、Znと比較して、質量基準の含有量に対して、多くの相量のAl相が形成する。しかし、Al濃度が5.00%未満では、めっき層の大半がZn相となる傾向がある。それにより、犠牲防食性が著しく低下することにもつながる。めっき層において、Zn相が第1相となることは犠牲防食性の観点からは好ましくない。
また、Al濃度が5.00%未満では、めっき層中に、塑性変形能の乏しいMgZn相が初晶となって粗大に成長しやすくなり、めっき層の加工性が著しく悪くなる傾向にある。
よって、Al濃度は、5.00%以上とする。好ましくは10.00%以上である。
【0019】
一方、Al濃度が増加すると、めっき層中に急速にAl相の割合が増え、犠牲防食性付与に必要なZn固溶FeAl相やMgZn相の割合が減るため好ましくない。そのため、Al濃度を35.00%以下とする。好ましくは30.00%以下である。
【0020】
Mg:2.50%~13.00%
Mgは、犠牲防食性を付与するために必要な元素である。Zn系のめっき層中にMgが添加されると、Mgは金属間化合物であるMgZnを形成する。めっき層の犠牲防食性を十分に向上させるために最低限必要なMg濃度は2.50%である。そのため、Mg濃度を2.50%以上とする。好ましくは3.00%以上である。また、耐赤錆性の観点からは、Mg濃度を4.00%以上とすることが好ましい。
一方、Mg濃度が13.00%超では、MgZn相が急速に相量を増し、めっき層の塑性変形能が失われ、加工性が劣化するため好ましくない。よって、Mg濃度は、13.00%以下とする。好ましくは11.00%以下である。
【0021】
Fe:5.00~40.00%
Fe濃度が5.00%未満では、Fe量が不十分であり、形成されるFeAl相が少なくなってしまうので好ましくない。また、Fe濃度が5.00%未満では、犠牲防食性の向上に寄与しないAl-Znデンドライトの面積分率が5%超となる場合があるため、好ましくない。そのため、Fe濃度を5.00%以上とする。好ましくは10.00%以上、より好ましくは15.00%以上とする。
Fe濃度が40.00%超では、本実施形態に係るめっき層で所望の金属組織が形成されない可能性が高く、Fe成分の増加に伴う電位の上昇が起こって、鋼材に対して適切な犠牲防食性を維持できず、腐食速度の増加を誘発する可能性があるため好ましくない。そのため、Fe濃度を40.00%以下とする。好ましくは30.00%以下、より好ましくは25.00%以下とする。
また、Fe濃度は、Al濃度に対し、Fe/Alが0.9~1.2となるようにすることが好ましい。Fe/Alを上記範囲とすることで、FeAl相が形成されやすくなる。
Fe/Alが0.9未満であると、FeAlを十分量生成させることが困難となり、主にAl相とZn相から構成されるデンドライトが過剰に生成する場合がある。また、Fe/Alが1.2超であると、Fe-Zn系金属間化合物相が形成されやすくなり、この場合もFeAl相が形成されにくくなる。
【0022】
Si:0~2.00%
Siは、鋼材とめっき層との密着性を向上させるのに有効な元素である。そのため、Siをめっき層に含有させてもよい。Siはめっき層に含有させなくてもよいので、Si濃度の下限値は0%である。Siによる密着性向上効果はめっき層中のSi濃度が0.03%以上で発現するので、Siをめっき層に含有させる場合にはSi濃度を0.03%以上とすることが好ましい。
一方、めっき層中のSi濃度が2.00%を超えても、Siによる密着性向上効果は飽和する。そのため、Siをめっき層中に含有させる場合であってもSi濃度は2.00%以下とする。Si濃度は、好ましくは1.00%以下である。
【0023】
Ca:0~2.00%
Caは、めっき鋼板の化成処理性を向上させるのに有効な元素である。そのため、めっき鋼板の化成処理層を向上させる目的でCaをめっき層に含有させてもよい。Caは犠牲防食性向上効果に乏しいので、Caをめっき層に含有させなくてもよい。そのため、Ca濃度の下限値は0%である。Caによる犠牲防食性向上効果はめっき層中のCa濃度が0.03%以上で発現するので、Ca濃度を0.03%以上とすることが好ましい。より好ましくは0.05%以上である。
一方、めっき層中のCa濃度が2.00%を超えても、Caによる犠牲防食性向上効果は飽和する。そのため、Caをめっき層中に含有させる場合であってもCa濃度は2.00%以下とする。Ca濃度は、好ましくは1.00%以下である。
【0024】
残部:Zn及び不純物
Al、Mg、Fe、Si、Caを除く残部は、Zn及び不純物である。ここで、不純物とはめっきの過程で不可避的に混入する元素を意味し、これら不純物は合計で3.00%程度含まれてもよい。つまり、めっき層における不純物の含有量を3.00%以下としてもよい。
不純物として含まれ得る元素とそれらの元素の濃度としては、例えば、Sb:0~0.50%、Pb:0~0.50%、Cu:0~1.00%、Sn:0~1.00%、Ti:0~1.00%、Sr:0~0.50%、Ni:0~1.00%、及びMn:0~1.00%などが挙げられる。これらの濃度を超過して不純物元素がめっき層に含まれると、所望の特性を得ることを阻害してしまう可能性があるため好ましくない。
【0025】
めっき層の化学成分は、次の方法により測定する。
まず、地鉄(鋼材)の腐食を抑制するインヒビターを含有した酸でめっき層を剥離溶解した酸液を得る。次に、得られた酸液をICP分析で測定することで、めっき層の化学組成を得ることができる。酸種は、めっき層を溶解できる酸であれば、特に制限はない。化学組成は、平均化学組成として測定される。
【0026】
(組織)
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層は、その断面(厚さ方向断面)において、Znが5%以上固溶したZn固溶FeAl相の面積分率が10~60%、MgZn相の面積分率が10~90%である。
【0027】
図1は、本実施形態に係るめっき鋼板20の組織を表すSEM画像である。図1に示すように、本実施形態に係るめっき鋼板20では、SEMを用いた断面観察により、鋼材5の表面にめっき層10が形成されており、めっき層10内には、Znが5%以上固溶したFeAl相11と、MgZn相12とが存在することが、観察される。
【0028】
図2は、従来技術に係るめっき鋼板100の組織を表すSEM画像である。図2に示す従来技術に係るめっき鋼板100は、従来技術に係る溶融Zn-Al-Mg系めっき鋼板であり、鋼材5に対して溶融Zn-Al-Mg系めっきを行うことにより、鋼材5の表面に溶融Zn-Al-Mg系めっき層130が形成されている。
図2に示すように、従来技術に係るめっき鋼板100の溶融Zn-Al-Mg系めっき層130では、合金化処理が行われていないので、Zn/Al/MgZn三元共晶組織131やAl-Znデンドライト133が大部分を占めており、FeAl相や、MgZn相は観察されない。
以下、本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層の組織について説明する。
【0029】
Znが5%以上固溶したFeAl相(以下、Zn固溶FeAl相と呼称する場合がある)の面積分率:10~60%
本実施形態に係るめっき鋼板では、後述するように溶融めっき工程後に合金化工程を行うことで、めっき層中にFeAl相が形成されており、このFeAl相にはZnが5%以上固溶している。
本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層がZn固溶FeAl相を10%以上有することにより、好適な犠牲防食性を得ることができる。そのため、めっき層中のZn固溶FeAl相の面積分率を10%以上とする。好ましくは20%以上である。
一方、めっき層中のZn固溶FeAl相の面積分率が60%超の場合には、犠牲防食性の向上効果が飽和するため好ましくない。そのため、Zn固溶FeAl相の面積分率を60%以下とし、好ましくは50%以下とする。
Zn固溶FeAl相は、犠牲防食性だけでなく、スポット溶接時の液体金属脆化割れ(LME)を好適に防ぐ(優れた耐LME性を得る)ためにも重要な組織である。
【0030】
FeAl相にZnが5%以上固溶していることにより、FeAl相の犠牲防食性が大きく向上するという効果がある。Znの固溶量が5%未満であるFeAl相(以下とし、Zn非固溶FeAl相と呼称する場合がある)は十分な犠牲防食性を有さないので、Zn非固溶FeAl相の面積分率は少ない方が好ましく、好ましくは10%以下である。
【0031】
MgZn相の面積分率:10~90%
好適な犠牲防食性を得るために、MgZn相の面積分率を10%以上とする。好ましくは20%以上である。
一方、MgZn相の面積分率が90%超であると、Zn固溶FeAl相の面積分率が低すぎてしまい、好適な犠牲防食性を得ることが困難となる。そのため、MgZn相の面積分率を90%以下とする。好ましくは80%以下である。
【0032】
残部の面積分率:20%以下
好適な犠牲防食性を得るため、Zn固溶FeAl相及びMgZn相以外の残部の組織の面積分率を20%以下とする。好ましくは15%以下、より好ましくは10%以下とする。
残部に含まれる組織としては、上述のZn非固溶FeAl相、後述するAl-Znデンドライト、Zn/Al/MgZn三元共晶組織、FeAl相、塊状Zn相、MgSi相などが挙げられる。残部に含まれるこれらの組織について各々以下に説明する。Zn非固溶FeAl相については上述の通りであるので、ここでの説明は割愛する。
【0033】
主にAl相とZn相とから構成されるデンドライト(Al-Znデンドライト)の面積分率:5%以下
めっき層を形成する際に、後述する溶融めっき工程後に浴温から冷却される過程において、まずAl初晶(初晶として晶出したα-(Zn,Al)相)が晶出し、デンドライト状に成長する(以下、Al-Znデンドライトと呼称する)。その後440℃~480℃の温度範囲に加熱して合金化処理を行うことにより、ほとんどのAl-Znデンドライトは別の組織に置換されるが、一部は合金化処理後も残存する。
Al-Znデンドライトは犠牲防食性や耐LME性に好ましい影響を与えないので、その面積分率はより低い方が好ましい。そのため、本実施形態に係るめっき鋼板のめっき層では、Al-Znデンドライトの面積分率を5%以下とすることが好ましい。より好ましくは3%以下とする。
「主に」とはデンドライトのうちAl相とZn相とが約91%以上含まれることを指し、Al相とZn相以外の残部としては5%以下のFe、3%以下のMg、1%以下の鋼成分元素(Ni、Mn)が含まれ得る。
【0034】
Zn/Al/MgZn三元共晶組織の面積分率:5%以下
Zn/Al/MgZn三元共晶組織とは、Zn-Al-Mg系共晶反応により、Al初晶部の外部に最終的に凝固したZn相、Al相、MgZn相から構成される、Zn層、Al層、MgZn層の層状の組織である。Zn/Al/MgZn三元共晶組織にも犠牲防食性の向上効果はあるが、FeAl相やMgZn相に比べるとその向上効果は劣る。そのため、Zn/Al/MgZn三元共晶組織の面積分率はより低い方が好ましい。そのため、本実施形態に係るめっき層では、Zn/Al/MgZn三元共晶組織の面積分率を5%以下とすることが好ましい。より好ましくは3%以下とする。
【0035】
FeAl相:10%以下
FeAl相は犠牲防食性に乏しいため、できるだけ少ない方が好ましい。そのため、FeAl相の面積分率を10%以下とすることが好ましい。より好ましくは5%以下とする。
【0036】
塊状Zn相:10%以下
塊状Zn相は、めっき層中のMg含有量が低い場合に形成することがある組織である。塊状Zn相が形成すると塗膜膨れ幅が大きくなる傾向にあるため、その面積分率は低い方がこのましく、10%以下が好ましい。塊状Zn相は、Zn/Al/MgZn三元共晶組織に含有されるZn相とは別個の相である。塊状Zn相はデンドライト形状を有し、断面組織上では円状として観察されることもある。
【0037】
MgSi相及びその他の金属間化合物相:それぞれ10%以下
MgSi相は、Si添加量が過剰な場合に形成される相であり、周囲の腐食を促進し、結果として耐赤錆性を低下させることがある。十分な耐赤錆性を確保するためには、その面積分率は10%以下に制限する必要がある。
また、その他の金属間化合物相も化成処理性に好ましい影響を及ぼさないので面積分率は10%以下が好ましく、より好ましくは5%以下である。その他の金属間化合物相としては、例えばCaZn11相、AlCaSi相、AlCaZn相などが挙げられる。
【0038】
本実施形態において「面積分率」とは、特に断りの無い限り、無作為に選択した5個以上の異なるサンプルについて、めっき層断面における所望の組織の面積分率を算出した場合のそれらの算術平均値を指す。この面積分率は、実体的には、めっき層中の体積分率を表している。
【0039】
<面積分率の測定方法>
めっき層における各組織の面積分率は以下の方法によって求める。
まず、測定対象となるめっき鋼板を25(C)×15(L)mmに切断し、樹脂に埋め込み、研磨する。その後、めっき層の断面SEM像ならびにEDSによる元素分布像を得る。めっき層の構成組織、すなわちZn固溶FeAl相、MgZn相、Zn非固溶FeAl相、(Al-Zn)デンドライト、Zn/Al/MgZn三元共晶組織、FeAl相、塊状Zn相、MgSi相、その他の金属間化合物相の面積分率は、めっき層の断面EDSマッピング像を異なる5サンプルから、各1視野で合計5視野(倍率1500倍:60μm×45μm/1視野)を撮影し、画像解析により各組織の面積分率を測定する。
【0040】
FeAl相におけるZnの固溶量はSEM-EDSやEPMAを用いて、FeAl相を構成する成分元素濃度を測定することで測定することができる。
【0041】
<特性>
本実施形態に係るめっき鋼板は、上述の特徴を有する鋼材及びめっき層を備えることで優れた犠牲防食性を有する。
また、本実施形態に係るめっき鋼板は、上述の特徴を有する鋼材及びめっき層を備えることで、優れた耐LME性を有する。
【0042】
[めっき鋼板の製造方法]
次に、本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法について説明する。以下、鋼材が鋼板である場合について説明する。
本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法は、少なくともAl、Mg、Znを含むめっき浴に母材鋼板を浸漬させて溶融めっきを施す溶融めっき工程と、前記溶融めっきを施した前記母材鋼板を480℃~580℃に1~15秒間加熱する合金化工程と、めっきを施した前記鋼材を15℃/秒以上の平均冷却速度で、室温まで冷却する冷却工程と、を有する。
【0043】
<溶融めっき工程>
溶融めっき工程では、少なくともAl、Mg、Znを含むめっき浴に母材鋼板を浸漬させて溶融めっきを施す。
【0044】
溶融めっき工程では、母材鋼板表面にめっき浴を付着させ、次いで、母材鋼板をめっき浴から引き上げて母材鋼板表面に付着した溶融金属を凝固させる所謂溶融めっき法により形成する。
【0045】
(めっき浴)
めっき浴の組成は、少なくともAl、Mg、Znを含んでいればよく、上述のめっき層の組成になるように原料を配合して溶解したものを用いればよい。
【0046】
めっき浴の温度は、380℃超600℃以下の範囲が好ましく、400~600℃の範囲であってもよい。
【0047】
めっき浴に浸漬させる前に、母材鋼板を還元性雰囲気中で加熱することにより、母材鋼板表面を還元処理することが好ましい。例えば、窒素と水素との混合雰囲気中で600℃以上、望ましくは750℃以上で30秒以上熱処理する。還元処理が終了した母材鋼板は、めっき浴の温度まで冷却した後、めっき浴に浸漬させる。浸漬時間は例えば1秒以上でよい。めっき浴に浸漬した母材鋼板を引き上げる際に、ガスワイピングによってめっきの付着量を調整する。付着量は、10~300g/mの範囲が好ましく、20~250g/mの範囲でもよい。
【0048】
<合金化工程>
本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法は、溶融めっきを施した母材鋼板を480℃~580℃に1~15秒間加熱する合金化工程を有する。
【0049】
合金化工程において、加熱温度(以下、合金化温度と呼称する)が480℃未満では合金化進行が遅く、かつ、めっき層に所望の組織が形成されないので好ましくない。そのため、合金化温度を480℃以上とする。
一方、合金化温度が580℃超では、合金化が短時間で過剰に進行してしまうことにより、合金化工程を好適に制御できないので好ましくない。また、合金化温度が580℃超では、FeがZnと耐赤錆性を低下させるFe-Zn系金属間化合物を形成するので、好ましくない。また、Fe-Zn系金属間化合物が形成されることで、犠牲防食性に関係するFe-Al相中に固溶するZnが減り、十分な面積分率のZn固溶FeAl相が形成されないので好ましくない。そのため、合金化温度を580℃以下とする。
【0050】
合金化工程における加熱時間(以下、合金化時間と呼称する)が1秒未満では、溶融めっきを施した母材鋼板を480℃~580℃の温度範囲に加熱した際に合金化の進行が不足するため好ましくない。そのため、合金化時間を1秒以上とする。
一方、合金化時間が15秒超では、合金化が著しく進行してしまうため好ましくない。そのため、合金化時間を15秒以下とする。
【0051】
合金化工程において、加熱手段は特に限定されないが、例えば、誘導加熱等の加熱手段が挙げられる。
【0052】
<冷却工程>
本実施形態に係るめっき鋼板の製造方法は、めっき浴からめっき鋼板を引き抜いた後、合金化熱処理を施す工程の後に、15℃/秒以上の平均冷却速度で100℃以下(例えば室温付近)まで冷却する工程を有することが好ましい。
【0053】
以上により、本実施形態に係るめっき鋼板を製造できる。
本実施形態に係るめっき鋼板は、優れた犠牲防食性を有する。また、本実施形態に係るめっき鋼板は、優れた耐LME性を有する。
【実施例
【0054】
「実施例1」
<母材鋼板>
めっきを施す母材鋼板としては、板厚1.6mmの冷延鋼板(0.2%C-1.5%Si-2.6%Mn)を用いた。
【0055】
【表1A】
【0056】
【表1B】
【0057】
<溶融めっき工程>
母材鋼板を100mm×200mmに切断した後、バッチ式の溶融めっき試験装置でめっきを施した。板温は母材鋼板中心部にスポット溶接した熱電対を用いて測定した。
めっき浴浸漬前、酸素濃度20ppm以下の炉内においてN-5%Hガス、露点0℃の雰囲気にて860℃で母材鋼板表面を加熱還元処理した。その後、Nガスで空冷して浸漬板温度が浴温+20℃に到達した後、表1A、表1Bに示す浴温のめっき浴に約3秒間浸漬した。
めっき浴浸漬後、引上速度100~500mm/秒で引上げた。引き抜き時、Nワイピングガスでめっき付着量を制御した。
【0058】
<合金化工程>
ワイピングガスでめっき付着量を制御した後、表1A、表1Bに示す合金化温度及び合金化時間の条件により、めっき鋼板に対して合金化工程を施した。合金化工程では、誘導加熱装置を用いた。
【0059】
<冷却工程>
表1A、表1Bに示す条件で、合金化工程後のめっき鋼板を冷却することにより、めっき鋼板を合金化温度から室温まで冷却した。
【0060】
上述の方法で、めっき層の組成を調べた。結果は、表1A、表1Bに示す通りであった。
【0061】
<組織観察>
めっき層の組織構成を調査するため、作製したサンプルを25(C)×15(L)mmに切断し、樹脂に埋め込み、研磨した後、めっき層の断面SEM像ならびにBDSによる元素分布像を得た。めっき層の構成組織、すなわちZn固溶FeAl相、MgZn相、Zn非固溶FeAl相、(Al-Zn)デンドライト、Zn/Al/MgZn三元共晶組織、FeAl相、塊状Zn相、MgSi相、その他の金属間化合物相の面積分率は、めっき層の断面EDSマッピング像を異なる5サンプルから、各1視野で合計5視野(倍率1500倍)を撮影し、画像解析から算出した。
各実施例及び比較例での各組織の面積分率を表2A、表2Bに記した。
【0062】
<犠牲防食性(地鉄防食性)>
各実施例及び比較例に対して、以下の方法で犠牲防食性(地鉄防食性)を評価した。
上述の方法で製造した各実施例及び比較例に係るめっき鋼板を50mm×100mmの大きさに切り出し、Znりん酸処理(SD5350システム:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)を施した。さらに、Znりん酸皮膜上に、焼き付け温度150℃、焼き付け時間20分の条件下で膜厚20μmの電着塗装(PN110パワーニックス(登録商標)グレー:日本ペイント・インダストリアルコーディング社製規格)を施した。
次に、製造した塗装めっき鋼板の地鉄に到達するようにクロスカット傷(40×√2 2本)を作製した。クロスカット傷を作製した塗装めっき鋼板を、JASO(M609-91)に従った複合サイクル腐食試験に供した。試験後の地鉄の侵食深さを、マイクロメータを用いて測定し、平均値を求めることで犠牲防食性を評価した。
上述のJASO(M609-91)のサイクル数が240サイクル時点において、クロスカット傷近傍5μmの領域における最大の地鉄侵食深さが0.1mm未満の場合は「AA」、0.1mm以上、0.4mm未満の場合は「A」、0.4mm以上~0.6mmの場合は「B」、0.6mm超の場合は「C」とした。
赤錆はクロスカット傷近傍5μmの領域においてJASO240サイクル時点で赤錆を生じない場合を「AA」、180サイクル時点で赤錆を生じていない場合を「A」、120サイクル未満~60サイクルで赤錆を生じた場合を「B」、60サイクル未満で赤錆を生じた場合を「C」とした。
【0063】
【表2A】
【0064】
【表2B】
【0065】
所定のめっき浴組成にて適切な冷却条件で作製した実施例では、所定の組織が得られることにより、好適な犠牲防食性を有していることが分かった。
一方、適正な合金化を施していない水準(比較例7、8、14~19、27)、Al、Mgが不足する水準(比較例1、2)では十分量のFeAl相を形成することができず、性能が劣位であった。特に合金化温度が高い比較例19では、Fe-Zn相がその他の金属間化合物として形成され、Zn固溶FeAl相が形成されなかった。その結果、犠牲防食性が特に低かった。また、Ca、Siが過剰に含有される水準(比較例25、26)では、めっき層中に耐食性を低下させるMgSi、CaZn11等の金属間化合物相が10%以上生成し、耐食性が劣位であった。Mg量が過剰である水準(比較例18)では、Zn固溶FeAl相が10%未満であり、かつ、MgZn相が90%超であったため、耐食性が劣位であった。Al量が過剰である水準(比較例32)では、Zn固溶FeAl相が60%超生成し、耐食性が劣位であった。
【0066】
「実施例2」
実施例2では、実施例1で用いたいくつかの実施例に対して耐LME性を調べた。つまり、実施例2で用いためっき鋼板の成分、組織、製造条件は表1A、表1Bに記載されている。
【0067】
<耐LME性>
実施例1で用いたいくつかの実施例に係るめっき鋼板を200×20mmの大きさに切り出し、引張速度5mm/min、チャック間距離112.5mmの熱間引張試験に供し、800℃における応力ひずみ曲線を測定した。得られた応力ひずみ曲線における最大応力に至るまでのひずみ量を測定した。
このひずみ量を、めっきを施していない鋼板サンプルと比して、80%以上の場合を「AA」、60%以下の場合を「A」とした。
各実施例の耐LME性の評価結果を表3に示した。各組織の面積分率の測定は、表2A、表2Bに記載しているので、表3には記載していない。
【0068】
【表3】
【0069】
表3に示したように、各実施例では耐LME性も好適であった。特に、Zn固溶FeAl相の面積分率が大きい例において、耐LME性が優れていた。
【符号の説明】
【0070】
20 めっき鋼材(めっき鋼板)
5 鋼材
10 めっき層
11 Znが5%以上固溶したFeAl相(Zn固溶FeAl相)
12 MgZn
100 めっき鋼板(従来鋼)
130 溶融Zn-Al-Mg系めっき層
131 Zn/Al/MgZn三元共晶組織
133 Al-Znデンドライト
図1
図2