(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】ホットスタンプ成形体
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230512BHJP
C22C 38/60 20060101ALI20230512BHJP
C23C 24/08 20060101ALI20230512BHJP
C21D 9/00 20060101ALI20230512BHJP
C21D 1/18 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C22C38/00 301Z
C22C38/00 301W
C22C38/00 301T
C22C38/60
C22C38/00 302A
C23C24/08 B
C21D9/00 A
C21D1/18 C
(21)【出願番号】P 2021521896
(86)(22)【出願日】2020-05-29
(86)【国際出願番号】 JP2020021443
(87)【国際公開番号】W WO2020241864
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-11-18
(31)【優先権主張番号】P 2019102299
(32)【優先日】2019-05-31
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100187702
【氏名又は名称】福地 律生
(74)【代理人】
【識別番号】100162204
【氏名又は名称】齋藤 学
(74)【代理人】
【識別番号】100195213
【氏名又は名称】木村 健治
(72)【発明者】
【氏名】小林 亜暢
(72)【発明者】
【氏名】高橋 武寛
(72)【発明者】
【氏名】河村 保明
【審査官】鈴木 葉子
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-503254(JP,A)
【文献】特開2005-113233(JP,A)
【文献】特開2014-014834(JP,A)
【文献】特開2015-104753(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0061410(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21D 1/02- 1/84
C21D 9/00- 9/44, 9/50
B21D 22/00-26/14
C23C 2/00- 2/40
C23C 24/00-30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼板と、前記鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層とを有し、前記めっき層が、前記めっき層の表面側に存在し、酸素濃度が10質量%以上であるZnO領域と、前記めっき層の鋼板側に存在し、酸素濃度が10質量%未満であるNi-Fe-Zn合金領域とからなり、前記ZnO領域において、Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度が5質量%以上30質量%以下である、ホットスタンプ成形体。
【請求項2】
前記Ni-Fe-Zn合金領域において、Zn、O、Mn及びSiの各濃度が、前記めっき層の表面側から鋼板側に向けて減少する、請求項1に記載のホットスタンプ成形体。
【請求項3】
前記Ni-Fe-Zn合金領域が、前記めっき層の表面側から順に、Fe濃度が60質量%未満である第1の領域と、Fe濃度が60質量%以上である第2の領域とからなり、前記第1の領域におけるZn/Ni質量比が2.0以上15.0以下の範囲であり、前記第2の領域における平均Zn/Ni質量比が0.5以上2.0以下である、請求項1又は2に記載のホットスタンプ成形体。
【請求項4】
前記第2の領域における平均Zn/Ni質量比が0.8以上1.2以下である、請求項3に記載のホットスタンプ成形体。
【請求項5】
前記ZnO領域の厚さが1.0μm以上5.0μm以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のホットスタンプ成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホットスタンプ成形体に関する。より具体的には、本発明は、改善した耐塗膜剥離性を有するホットスタンプ成形体に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用部材に使用される鋼板の成形には、ホットスタンプ法(熱間プレス法)が多く使用されている。ホットスタンプ法とは、鋼板をオーステナイト域の温度に加熱した状態でプレス成形し、成形と同時にプレス金型により焼入れ(冷却)を行う方法であり、強度及び寸法精度に優れる鋼板の成形方法の1つである。また、ホットスタンプに使用される鋼板において、鋼板表面にZn-Ni合金めっき層等のめっき層が設けられる場合がある(例えば特許文献1~3)。
【0003】
鋼板上にめっき層を有するめっき鋼板をホットスタンプすることで得られるホットスタンプ成形体(「熱間プレス部材」とも称される)において、特に自動車用部材に用いる場合に、耐食性を高める等の目的で、例えば化成処理を施してリン酸塩皮膜を形成した後に電着塗装を行うことで、ホットスタンプ成形体上に塗膜を形成することがある。したがって、このような塗膜形成後に塗膜が当該成形体から容易に剥離しないようにすることが重要である。
【0004】
ホットスタンプ成形体と塗膜との間の密着性を改善するために、ホットスタンプ成形体の最表層にZnO層を設けることが知られている。例えば、特許文献4及び5では、部材を構成する鋼板の表層にNi拡散領域が存在し、前記Ni拡散領域上に、順に、Zn-Ni合金の平衡状態図に存在するγ相に相当する金属間化合物層、及びZnO層を有し、かつ25℃±5℃の空気飽和した0.5MNaCl水溶液中で示す自然浸漬電位が標準水素電極基準で-600~-360mVである熱間プレス部材が記載されており、当該熱間プレス部材は、表層にZnO層を有することにより、化成処理皮膜に対して優れた塗膜密着性を有することが教示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2012-197505号公報
【文献】特開2016-29214号公報
【文献】特開2016-125101号公報
【文献】特開2011-246801号公報
【文献】特開2012-1816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4及び5に記載の熱間プレス部材は、最表層のZnO層の存在により、その表面に塗装される化成処理皮膜との塗膜密着性を確保しようとするものである。しかし、当該熱間プレス部材の最表層に存在するZnOは密度が疎であり、強度が比較的低いものであるため、たとえZnO層と塗膜との界面での剥離は抑えられたとしても、当該ZnO層自体から剥離又は破壊が生じるおそれがある。換言すると、塗膜が形成されたZnO層の一部が剥離又は破壊され、結果として塗膜が熱間プレス部材から剥離する(取り除かれる)おそれがある。よって、特許文献4及び5に記載の熱間プレス部材には、塗膜が熱間プレス部材から剥離することを防止すること、すなわち耐塗膜剥離性を向上することについて改善の余地がある。
【0007】
そこで、本発明は、新規な構成により、改善した耐塗膜剥離性を有するホットスタンプ成形体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記目的を達成するために、鋼板上に形成されるめっき層の表層にZnO領域を設けることでZnO層と塗膜の間の密着性を確保しつつ、当該ZnO領域が、酸素及び亜鉛だけでなく、亜鉛以外の元素も含むようにすることで、めっき層の表層のZnO領域の強度を向上させることが有効であることを見出した。ZnO領域の強度が向上すると、当該ZnO領域からの剥離又は破壊が十分に防止され、改善した耐塗膜剥離性を有するホットスタンプ成形体を得ることが可能となる。
【0009】
上記目的を達成する本発明は下記のとおりである。
(1)
鋼板と、前記鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層とを有し、前記めっき層が、前記めっき層の表面側に存在し、酸素濃度が10質量%以上であるZnO領域と、前記めっき層の鋼板側に存在し、酸素濃度が10質量%未満であるNi-Fe-Zn合金領域とからなり、前記ZnO領域において、Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度が5質量%以上30質量%以下である、ホットスタンプ成形体。
(2)
前記Ni-Fe-Zn合金領域において、Zn、O、Mn及びSiの各濃度が、前記めっき層の表面側から鋼板側に向けて減少する、(1)に記載のホットスタンプ成形体。
(3)
前記Ni-Fe-Zn合金領域が、前記めっき層の表面側から順に、Fe濃度が60質量%未満である第1の領域と、Fe濃度が60質量%以上である第2の領域とからなり、前記第1の領域におけるZn/Ni質量比が2.0以上15.0以下の範囲であり、前記第2の領域における平均Zn/Ni質量比が0.5以上2.0以下である、(1)又は(2)に記載のホットスタンプ成形体。
(4)
前記第2の領域における平均Zn/Ni質量比が0.8以上1.2以下である、(3)に記載のホットスタンプ成形体。
(5)
前記ZnO領域の厚さが1.0μm以上5.0μm以下である、(1)~(4)のいずれかに記載のホットスタンプ成形体。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、めっき層の表面側に存在するZnO領域の強度を向上させ、ZnO自体の剥離又は破壊を防止し、改善した耐塗膜剥離性を有するホットスタンプ成形体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
<ホットスタンプ成形体>
本発明に係るホットスタンプ成形体は、鋼板と、鋼板の少なくとも片面に形成されためっき層とを有する。好ましくは、めっき層は鋼板の両面に形成される。
【0012】
[鋼板]
本発明における鋼板の成分組成は、特に限定されず、ホットスタンプ後のホットスタンプ成形体の強度やホットスタンプ時の焼入れ性を考慮して決定すればよい。以下では、本発明における鋼板に含まれ得る元素について説明する。なお、成分組成についての各元素の含有量を表す「%」は特に断りがない限り質量%を意味する。
【0013】
好ましくは、本発明における鋼板は、質量%で、C:0.05%以上0.70%以下、Mn:0.5%以上11.0%以下、Si:0.05%以上2.50%以下、Al:0.001%以上1.500%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、N:0.010%以下、及びO:0.010%以下を含有することができる。
【0014】
(C:0.05%以上0.70%以下)
C(炭素)は、鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。自動車用部材には、例えば980MPa以上の高強度が求められる場合がある。強度を十分に確保するためには、C含有量を0.05%以上とすることが好ましい。一方、Cを過度に含有すると鋼板の加工性が低下する場合があるため、C含有量を0.70%以下とすることが好ましい。C含有量の下限は、好ましくは0.10%、より好ましくは0.12%、さらに好ましくは0.15%、最も好ましくは0.20%である。また、C含有量の上限は、好ましくは0.65%、より好ましくは0.60%、さらに好ましくは0.55%、最も好ましくは0.50%である。
【0015】
(Mn:0.5%以上11.0%以下)
Mn(マンガン)は、ホットスタンプの際の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。この効果を確実に得るためには、Mn含有量を0.5%以上とすることが好ましい。一方、Mnを過度に含有すると、Mnが偏析してホットスタンプ後の成形体の強度等が不均一になるおそれがあるため、Mn含有量を11.0%以下とすることが好ましい。Mn含有量の下限は、好ましくは1.0%、より好ましくは2.0%、さらに好ましくは2.5%、よりさらに好ましくは3.0%、最も好ましくは3.5%である。Mn含有量の上限は、好ましくは10.0%、より好ましくは9.5%、さらに好ましくは9.0%、よりさらに好ましくは8.5%、最も好ましくは8.0%である。
【0016】
(Si:0.05%以上2.50%以下)
Si(ケイ素)は、鋼板の強度を向上させるのに有効な元素である。強度を十分に確保するためには、Si含有量を0.05%以上とすることが好ましい。一方、Siを過度に含有すると、加工性が低下する場合があるため、Si含有量を2.50%以下とすることが好ましい。Si含有量の下限は、好ましくは0.10%、より好ましくは0.15%、さらに好ましくは0.20%、最も好ましくは0.30%である。Si含有量の上限は、好ましくは2.00%、より好ましくは1.80%、さらに好ましくは1.50%、最も好ましくは1.20%である。
【0017】
(Al:0.001%以上1.500%以下)
Al(アルミニウム)は、脱酸元素として作用する元素である。脱酸の効果を得るためには、Al含有量を0.001%以上とすることが好ましい。一方、Alを過剰に含有すると加工性が低下するおそれがあるため、Al含有量を1.500%以下とすることが好ましい。Al含有量の下限は、好ましくは0.010%、より好ましくは0.020%、さらに好ましくは0.050%、最も好ましくは0.100%である。Al含有量の上限は、好ましくは1.000%、より好ましくは0.800%、さらに好ましくは0.700%、最も好ましくは0.500%である。
【0018】
(P:0.100%以下)
(S:0.100%以下)
(N:0.010%以下)
(O:0.010%以下)
P(リン)、S(硫黄)、N(窒素)及び酸素(O)は不純物であり、少ない方が好ましいため、これらの元素の下限は特に限定されない。ただし、これらの元素の含有量を0.000%超又は0.001%以上としてもよい。一方、これらの元素を過剰に含有すると、靭性、延性及び/又は加工性が劣化するおそれがあるため、P及びSの上限を0.100%、N及びOの上限を0.010%とすることが好ましい。P及びSの上限は、好ましくは0.080%、より好ましくは0.050%である。N及びOの上限は、好ましくは0.008%、より好ましくは0.005%である。
【0019】
本発明における鋼板の基本成分組成は上記のとおりである。さらに、当該鋼板は、必要に応じて、残部のFeの一部に替えて以下の任意選択元素のうち少なくとも一種を含有してもよい。例えば、鋼板は、B:0%以上0.0040%を含有してもよい。また、鋼板は、Cr:0%以上2.00%以下を含有してもよい。また、鋼板は、Ti:0%以上0.300%以下、Nb:0%以上0.300%以下、V:0%以上0.300%以下、及びZr:0%以上0.300%以下からなる群より選択される少なくとも一種を含有してもよい。また、鋼板は、Mo:0%以上2.000%以下、Cu:0%以上2.000%以下、及びNi:0%以上2.000%以下からなる群より選択される少なくとも一種を含有してもよい。また、鋼板は、Sb:0%以上0.100%以下を含有してもよい。また、鋼板は、Ca:0%以上0.0100%以下、Mg:0%以上0.0100%以下、及びREM:0%以上0.1000%以下からなる群より選択される少なくとも一種を含有してもよい。以下、これらの任意選択元素について詳しく説明する。
【0020】
(B:0.0040%以下)
B(ホウ素)は、ホットスタンプの際の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。B含有量は0%であってもよいが、この効果を確実に得るためには、B含有量を0.0005%以上とすることが好ましい。一方、Bを過度に含有すると、鋼板の加工性が低下するおそれがあるため、B含有量を0.0040%以下とすることが好ましい。B含有量の下限は、好ましくは0.0008%、より好ましくは0.0010%、さらに好ましくは0.0015%である。また、B含有量の上限は、好ましくは0.0035%、より好ましくは0.0030%である。
【0021】
(Cr:0%以上2.00%以下)
Cr(クロム)は、ホットスタンプの際の焼入れ性を向上させるのに有効な元素である。Cr含有量は0%であってもよいが、この効果を確実に得るためには、Cr含有量は0.01%以上とすることが好ましい。Cr含有量は0.10%以上、0.50%以上又は0.70%以上であってもよい。一方、Crを過度に含有すると、鋼材の熱的安定性が低下する場合がある。したがって、Cr含有量は2.00%以下とすることが好ましい。Cr含有量は1.50%以下、1.20%以下又は1.00%以下であってもよい。
【0022】
(Ti:0%以上0.300%以下)
(Nb:0%以上0.300%以下)
(V:0%以上0.300%以下)
(Zr:0%以上0.300%以下)
Ti(チタン)、Nb(ニオブ)、V(バナジウム)及びZr(ジルコニウム)は金属組織の微細化を通じ、引張強さを向上させる元素である。これらの元素の含有量は0%であってもよいが、この効果を確実に得るためには、Ti、Nb、V及びZr含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.010%以上、0.020%以上又は0.030%以上であってもよい。一方、Ti、Nb、V及びZrを過度に含有すると、効果が飽和するとともに製造コストが上昇する。このため、Ti、Nb、V及びZr含有量は0.300%以下とすることが好ましく、0.150%以下、0.100%以下又は0.060%以下であってもよい。
【0023】
(Mo:0%以上2.000%以下)
(Cu:0%以上2.000%以下)
(Ni:0%以上2.000%以下)
Mo(モリブデン)、Cu(銅)及びNi(ニッケル)は、引張強さを高める作用を有する。これらの元素の含有量は0%であってもよいが、この効果を確実に得るためには、Mo、Cu及びNi含有量は0.001%以上とすることが好ましく、0.010%以上、0.050%以上又は0.100%以上であってもよい。一方、Mo、Cu及びNiを過度に含有すると、鋼材の熱的安定性が低下する場合がある。したがって、Mo、Cu及びNi含有量は2.000%以下とすることが好ましく、1.500%以下、1.000%以下又は0.800%以下であってもよい。
【0024】
(Sb:0%以上0.100%以下)
Sb(アンチモン)は、めっきの濡れ性や密着性を向上させるのに有効な元素である。Sb含有量は0%であってもよいが、この効果を確実に得るためには、Sb含有量は0.001%以上とすることが好ましい。Sb含有量は0.005%以上、0.010%以上又は0.020%以下であってもよい。一方、Sbを過度に含有すると、靭性の低下を引き起す場合がある。したがって、Sb含有量は0.100%以下とすることが好ましい。Sb含有量は0.080%以下、0.060%以下又は0.050%以下であってもよい。
【0025】
(Ca:0%以上0.0100%以下)
(Mg:0%以上0.0100%以下)
(REM:0%以上0.1000%以下)
Ca(カルシウム)、Mg(マグネシウム)及びREM(希土類金属)は、介在物の形状を調整することによりホットスタンプ後の靭性を向上させる元素である。これらの元素の含有量は0%であってもよいが、この効果を確実に得るためには、Ca、Mg及びREM含有量は0.0001%以上とすることが好ましく、0.0010%以上、0.0020%以上又は0.0040%以上であってもよい。一方、Ca、Mg及びREMを過度に含有すると、効果が飽和するとともに製造コストが上昇する。このため、Ca及びMg含有量は0.0100%以下とすることが好ましく、0.0080%以下、0.0060%以下又は0.0050%以下であってもよい。同様に、REM含有量は0.1000%以下とすることが好ましく、0.0800%以下、0.0500%以下0.0100%以下であってもよい。
【0026】
上記元素以外の残部は鉄及び不純物からなる。ここで「不純物」とは、母材鋼板を工業的に製造する際に、鉱石やスクラップ等のような原料を始めとして、製造工程の種々の要因によって混入する成分であって、本発明の実施形態に係る母材鋼板に対して意図的に添加した成分でないものを包含するものである。また、不純物とは、上で説明した成分以外の元素であって、当該元素特有の作用効果が本発明の実施形態に係るホットスタンプ成形体の特性に影響しないレベルで母材鋼板中に含まれる元素をも包含するものである。
【0027】
本発明における鋼板としては、特に限定されず、熱延鋼板、冷延鋼板などの一般的な鋼板を使用することができる。また、本発明における鋼板は、鋼板上に後述するZn-Niめっき層を形成しホットスタンプ処理を行うことができれば如何なる板厚であってよく、例えば、0.1~3.2mmであればよい。なお、本発明に係るホットスタンプ成形体を得るために、鋼板の表面粗さRaを1.0μm以上3.0μm以下にしておくことが好ましい。鋼板の表面粗さをこのような範囲にしておくと、鋼板と鋼板表面に形成されるZn-Niめっき層等のめっき層との接触面積が一定量確保され、ホットスタンプの際の鋼板からめっき層への鋼板成分の拡散が進行しやすくなる。一方、表面粗さが高すぎると、めっき層の表層のZnO領域が過剰に厚くなる(例えば、5.0μm超となる)おそれがある。
【0028】
[めっき層]
本発明におけるめっき層は、ZnO領域と、Ni-Fe-Zn合金領域とからなる。ZnO領域は、当該めっき層の表面側に存在し、酸素濃度が10質量%以上である領域をいう。めっき層の残りの領域がNi-Fe-Zn合金領域であり、すなわち、Ni-Fe-Zn合金領域は、当該めっき層の鋼板側に存在し、酸素濃度が10%未満である領域をいう。したがって、ZnO領域とNi-Fe-Zn合金領域とは接するように存在しており、この2つの領域でめっき層を構成する。本発明におけるめっき層においては、Oはホットスタンプ時にめっき層に取り込まれるものであるため、めっき層の表面側が最も酸素濃度が高く、鋼板側に進むにつれて酸素濃度が減少する。したがって、ホットスタンプ成形体の表面から酸素濃度が10質量%の位置までがZnO領域であり、めっき層の残りの部分がNi-Fe-Zn合金領域となる。
【0029】
本発明に係るホットスタンプ成形体のめっき層は、例えば、鋼板上にZn-Ni合金めっき層を形成した後に、酸素雰囲気(例えば、大気雰囲気又は酸素濃度25~30%の高濃度酸素雰囲気)下でホットスタンプすることで得ることができる。代替的に、例えば、鋼板上にZnめっき層及びNiめっき層を形成した後に、酸素雰囲気下でホットスタンプすることで得ることもできる。また、効率的にFe等の鋼板成分をめっき層に拡散させて本発明に係るホットスタンプ成形体を得るために、ホットスタンプの際にオーバーヒート処理するとよい。「オーバーヒート処理」とは、ホットスタンプの加熱温度(保持温度)に到達する直前に、当該ホットスタンプの加熱温度より高い温度(例えば+50℃程度)で短時間(例えば3~10秒間程度)の加熱処理を行うことをいう。オーバーヒート処理を行うことにより、鋼板成分をめっき層の表層に多く拡散させることができ、本発明に係るホットスタンプ成形体を確実に得ることが可能となる。したがって、本発明におけるめっき層に含まれ得る成分は、ホットスタンプ前のめっき層に含まれる元素(典型的にZn及びNi)の他に、鋼板に含まれる元素(例えば、Fe、Mn及びSiなど)、並びにホットスタンプ時に取り込まれるOであり、残部は不純物である。ここで、「不純物」とは、製造工程において不可避的に混入する元素だけでなく、本発明に係るホットスタンプ成形体の耐塗膜剥離性が阻害されない範囲で意図的に添加された元素も含む。
【0030】
本発明におけるめっき層中の各成分の濃度は、定量分析のグロー放電分析(GDS:Glow Discharge Spectroscopy)により測定される。めっき層の表面から深さ方向に定量的にGDS分析することで、各成分の板厚方向の濃度分布が定量的に特定される。したがって、GDSによりめっき層の酸素濃度分布を測定し酸素濃度が10質量%である位置を特定することで、ZnO領域とNi-Fe-Zn合金領域とを区別可能である。GDSの測定条件は、測定径4mmφ、Arガス圧力:600Pa、電力:35W、測定時間:100秒間で行えばよい。使用する装置は、堀場製作所のGD-profiler2とすればよい。
【0031】
本発明におけるめっき層の厚さは、例えば、片面あたり3.0μm以上20.0μm以下であればよい。また、めっき層においてZnO領域が占める厚さの割合は、特に限定されないが、塗膜との密着性及びホットスタンプ成形体の耐食性を確保する観点から、3%以上30%以下であると好ましく、5%以上20%以下であるとより好ましい。一方、めっき層においてNi-Fe-Zn領域が占める厚さの割合は、疵部耐食性を確保する観点から、70%以上97%以下であることが好ましく、80%以上95%以下であることが好ましい。めっき層の厚さは、例えば、定量分析GDSの元素分析からめっき層の領域を特定し、厚み換算することでも測定可能である。代替的に、本発明に係るホットスタンプ成形体の断面を電子顕微鏡で観察することで測定可能である。
【0032】
(ZnO領域)
本発明に係るホットスタンプ成形体において、めっき層は、当該めっき層の表面側に酸素濃度が10質量%以上であるZnO領域を有する。当該ZnO領域は、典型的に、ホットスタンプ前に形成されていためっき層中のZnと、ホットスタンプ時の雰囲気中のOとが結合する、すなわちZnが酸化されてZnOになることで形成される領域である。
【0033】
本発明におけるZnO領域において、Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度が5質量%以上30質量%以下である。Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度を上記範囲にすることで、ZnO領域の強度が向上し、ZnO自体の剥離又は破壊が抑制され、ホットスタンプ成形体の耐塗膜剥離性を十分に得ることができる。Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度が5質量%未満であると、ZnO領域が十分な強度が得られず耐塗膜剥離性が低下するおそれがあり、反対に、30質量%超であると、これらの元素、特にFeが過剰に表面に拡散し、ホットスタンプ成形体の表面部で腐食しやすくなり、耐塗膜剥離性及び/又は疵部耐食性が低下するおそれがある。本発明においては、ZnO領域におけるFe、Mn及びSiの合計の平均濃度が上記範囲であればよく、Fe、Mn及びSiのうち少なくとも1つを含めばよいが、好ましくはFe、Mn及びSiの全てが含まれる。より好ましくは、Fe:1質量%以上10質量%以下、Mn:1質量%以上10質量%以下、及びSi:1質量%以上10質量%以下含まれる。ZnO領域に含まれるFe、Mn及びSiは、鋼板起源のものである。より具体的には、鋼板中に含まれるこれらの元素がホットスタンプ時にめっき層のZnO領域まで拡散される。特に、比較的酸化しやすい鋼板中のMn及びSiは、酸素雰囲気条件下でホットスタンプを行うと、より顕著にめっき層中の表層側に拡散され得る。これらの元素の合計の平均濃度は、好ましくは7質量%以上、より好ましくは10質量%以上又は15質量%以上である。また、これらの元素の合計の平均濃度は、好ましくは28質量%以下、より好ましくは25質量%以下又は20質量%以下である。
【0034】
一般的に、ホットスタンプにより得られるホットスタンプ成形体の表面付近のZnOは密度が疎であり比較的低い強度を有するため、剥離又は破壊が起こりやすい状態にある。そうすると、ホットスタンプ成形体上に塗膜を形成してもZnO領域の一部が剥離し、結果として塗膜が剥離するおそれがあるため、十分な耐塗膜剥離性を担保できない可能性がある。「耐塗膜剥離性」とは、塗膜がホットスタンプ成形体から剥離しないことを意味し、塗膜とホットスタンプ成形体との界面から塗膜が剥離することと、ZnO領域の一部(めっき層の一部)が剥離することでその上の塗膜が剥離することとを含む。本発明のホットスタンプ成形体のように、当該ホットスタンプ成形体の表層のZnO領域において、亜鉛以外の元素:Fe、Mn及びSiが所定量含まれることで、当該ZnO領域の強度が向上する。ZnO領域が硬くなると、ZnO自体の剥離(破壊)が生じにくくなり、上記のような元素を含まないZnOのみの領域に比べて耐塗膜剥離性が改善される。
【0035】
「Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度」とは、定量分析GDSで特定した酸素濃度≧10%の領域(すなわちZnO領域)を等間隔に10個の区分に分け、各区分の中心位置のFe濃度、Mn濃度及びSi濃度をGDS結果から読み取り、各区分でこれらの元素の濃度の合計を求め、得られた10個のFe、Mn及びSiの合計の値を平均化することで求められる。
【0036】
当該ZnO領域は、典型的に、Ni濃度に比べてZn濃度が高い。例えば、当該ZnO領域におけるZn/Ni質量比が5.0以上である。「ZnO領域におけるZn/Ni質量比が5.0以上」とは、ZnO領域の全ての位置で、Zn/Niの質量比が5.0以上であることを意味し、本発明においては、ZnO領域を等間隔に10個の区分に分け、各区分の中心位置のZn濃度及びNi濃度をGDS結果から読み取り各区分のZn/Ni質量比を求め、得られた10個のZn/Ni質量比が全て5.0以上であるかどうかで判断することができる。ZnO領域におけるZn/Ni質量比は、5.5以上であると好ましく、6.0以上であるとより好ましく、7.0以上であるとさらに好ましい。当該領域の上限は、特に限定されないが、例えば、30.0、又は20.0であればよい。
【0037】
このようにホットスタンプ成形体のZnO領域でNiに比べてZnが多く存在するのは、酸素雰囲気でホットスタンプした際に、ホットスタンプ前のめっき層中のNi及びZnのうち、Niに比べて酸化しやすいZnがホットスタンプ雰囲気中のOで酸化されてZnOを形成するためである。Zn/Ni質量比が5.0以上であると、酸化物であるZnOがホットスタンプ成形体の表層に多く存在するため、ホットスタンプ成形体の表層部の耐食性が向上し、塗装とホットスタンプ成形体との密着性にも優れる。ZnO領域におけるZn/Ni質量比が5.0未満であると、表層でのZnOが十分に形成されていないため、表層部の耐食性や塗装密着性が不十分になるおそれがある。
【0038】
上述したように、ZnO領域におけるZn/Ni質量比は、Zn-Ni合金めっき層を有する鋼板を、例えば酸素雰囲気条件(大気条件又は酸素濃度25~30%の高濃度酸素雰囲気条件)下でホットスタンプすることで得ることができる。酸素雰囲気下でホットスタンプすると、酸化しやすいZnがめっき層の表層に拡散しやすくなり、酸素と結合してZnOを形成することでZnの占有容積が増加するため、結果としてZnO領域におけるZn濃度をNi濃度に比べて高くすることが可能となる。換言すると、ホットスタンプ時の雰囲気中の酸素により酸化されるためにめっき層中のZnが表層側に引き寄せられて、めっき層の表層側のZn濃度が高くなる。また、上述したように、鋼板成分がめっき層の表層に拡散するのを促進するために、ホットスタンプの際の加熱温度の到達直前に、ホットスタンプの加熱温度より高い温度で短時間オーバーヒート処理すると好ましい。
【0039】
本発明におけるZnO領域の厚さは、特に限定されないが、下限は、好ましくは1.0μm、より好ましくは1.2μm又は1.5μm、さらに好ましくは1.8μm又は2.0μmであり、一方、上限は、好ましくは5.0μm、より好ましくは4.8μm又は4.5μm、さらに好ましくは4.3μm又は4.0μmである。例えば、ZnO領域の厚さは、1.0μm以上5.0μm以下であると好ましく、2.0μm以上5.0μm以下であるとより好ましい。ZnO領域の厚さが1.0μm未満となると、ZnO領域の厚さが不十分となり、耐食性が低下するおそれがある。ZnOの領域の厚さが5.0μm超であると、ZnO領域が厚くなりすぎて、ZnO領域からの剥離又は破壊が生じる可能性が高くなる。
【0040】
本発明におけるZnO領域に含まれる各成分の濃度は、上述したように、定量分析GDSにより決定される。上述したGDS条件と同一の条件で、対象元素として少なくともZn、Ni、O、Fe、Si及びMnを指定して測定する。また、ZnO領域の厚さは、定量分析GDSにより酸素濃度≧10質量%の範囲を特定し、その深さを測定することで決定することができる。
【0041】
(Ni-Fe-Zn合金領域)
本発明に係るホットスタンプ成形体は、めっき層の鋼板側に、上述したZnO領域に接し、酸素濃度が10質量%未満であるNi-Fe-Zn合金領域を有する。好ましくは、当該合金領域には、Zn、Ni、O、Fe、Mn及びSiが存在する。当該Ni-Fe-Zn合金領域は、典型的に、ホットスタンプの加熱時に、鋼板中のFeがめっき層中に拡散することで、ホットスタンプ前のめっき層に含まれるZn及びNiと、鋼板中から拡散したFeとが合金化した領域である。また、鋼板中のMn及びSiもFeと同時にNi-Fe-Zn合金領域に拡散し、合金化する。
【0042】
本発明におけるNi-Fe-Zn合金領域では、Zn、O、Mn及びSiの各濃度がめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少していることが好ましい。換言すると、当該合金領域では、めっき層の表面側から鋼板側に向けてFe濃度が増加していることが好ましい。「Zn、O、Mn及びSiの各濃度がめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少」とは、Ni-Fe-Zn合金領域において、めっき層の表面側から鋼板側に向けてこれらの元素の濃度が単調に減少していることを意味し、すなわち、列挙したいずれの元素においても、任意の2つの位置でGDS等により濃度を測定した場合に、その2つの位置のうちめっき層の表面側に近い位置の方が、他方の位置に比べ濃度が高いことを意味する。なお、各元素の濃度が単調に減少していればよく、その直線性は問わない。このような濃度分布にすることで、めっき層の表面側のZnO領域に十分なFe、Mn及びSiを拡散させ耐塗膜剥離性及び疵部耐食性を担保しつつ、Ni-Fe-Zn合金領域において、ホットスタンプ前のめっき層のNi及びZnと、鋼板中のFeとが合金化することができる。したがって、Ni-Fe-Zn合金領域は、めっき層の表面側から順に、Fe濃度が60質量%未満である第1の領域と、Fe濃度が60質量%以上である第2の領域とからなっていてもよい。Ni-Fe-Zn合金領域における第1の領域と第2の領域の区別は、定量分析GDSによりFe濃度を測定することで行うことができる。
【0043】
Ni-Fe-Zn合金領域は、めっき層の鋼板側の領域であり、典型的に、ホットスタンプ時に、ホットスタンプ前のめっき層に含まれていたZnが鋼板中に拡散される。この拡散は、鋼板に近いほど顕著に発生する。そのため、当該合金領域において、Znの濃度はめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少する。また、Oは、典型的にホットスタンプ時の雰囲気中に含まれるものであるため、めっき層においてめっき層の表面側から鋼板側へ進むにつれて濃度が減少する。さらに、Mn及びSiは、ホットスタンプ前は鋼板中に存在する元素であるが、酸素雰囲気下でホットスタンプすることで、その酸化しやすさのため、Feに比べて優先してめっき層の表面側へ拡散し得る。よって、当該合金領域において、Mn及びSiの各濃度はめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少する。
【0044】
本発明において、Ni-Fe-Zn合金領域の第1の領域におけるZn/Ni質量比が2.0以上15.0以下の範囲であることが好ましい。より好ましくは、当該第1の領域において、めっき層の表面側から鋼板側に向けてZn/Ni質量比が2.0以上15.0以下の範囲で連続的に変化する。「第1の領域におけるZn/Ni質量比が2.0以上15.0以下の範囲である」とは、第1の領域の全ての位置で、Zn/Niの質量比が2.0以上15.0以下の範囲内にあることを意味し、本発明においては、第1の領域を等間隔に10個の区分に分け、各区分の中心位置のZn濃度及びNi濃度をGDS結果から読み取り各区分のZn/Ni質量比を求め、得られた10個のZn/Ni質量比が全て2.0以上15.0以下であるかどうかで判断することができる。第1の領域のZn/Ni質量比が上記範囲であると、当該領域で十分なZn量を確保でき、さらに他の領域でのZn量も十分な量にできる。そのため、ホットスタンプ成形体のめっき層に疵が付いた場合であっても、当該領域に存在するZnがZnOに酸化され酸化皮膜を形成する(「犠牲防食作用」と呼ばれる)ことで、当該疵部の腐食を抑制することができ、ホットスタンプ成形体の疵部耐食性を向上させることができる。第1の領域におけるZn/Ni質量比が2.0未満となると、Znの犠牲防食作用を十分に発揮できず、疵部耐食性が不十分になるおそれがある。一方、15.0超となると、他の領域のZnが不足し得るため、ホットスタンプ成形体全体の耐食性が不十分になるおそれがある。第1の領域におけるZn/Ni質量比の下限は、好ましくは2.5、より好ましくは3.0であり、上限は、好ましくは14.0、より好ましくは13.0、さらに好ましくは12.0である。
【0045】
本発明において、Ni-Fe-Zn合金領域の第2の領域における平均Zn/Ni質量比が0.5以上2.0以下であることが好ましい。上述したように、ホットスタンプ前に形成されていためっき層中のZnはホットスタンプ時にめっき層の表面側及び鋼板中に拡散するが、本発明に係るホットスタンプ成形体では、鋼板と接するNi-Fe-Zn合金領域の第2の領域でも所定量のZnが残存している。当該第2の領域に上記範囲でZnが残存していると、めっき層又は更に下地の鋼板に疵が付いた場合でも、Znの犠牲防食作用を発揮することができるため、疵部耐食性を向上させることができる。第2の領域における平均Zn/Ni質量比が0.5未満であると、Znの犠牲防食作用が十分に発揮されず、疵部耐食性が不十分になるおそれがある。一方、2.0超であると、めっき層の表層部に十分にZnが拡散していない又は第1の領域でZnが不足しているおそれがあり、ホットスタンプ成形体全体としての耐食性が不十分になるおそれがある。ホットスタンプ成形体全体としての不十分な耐食性に起因して、耐塗膜剥離性が幾分低下したり、疵部耐食性が低下したりする場合がある。第2の領域における平均Zn/Ni質量比は、好ましくは0.6以上、より好ましくは0.7以上、さらに好ましくは0.8以上である。また、第2の領域における平均Zn/Ni質量比は、好ましくは1.9以下又は1.8以下、より好ましくは1.7以下又は1.5以下、さらに好ましくは1.2以下である。したがって、最も好ましくは、第2の領域における平均Zn/Ni質量比は0.8以上1.2以下である。
【0046】
「第2の領域における平均Zn/Ni質量比」とは、Ni-Fe-Zn合金領域のFe濃度≧60%の領域(第2の領域)を等間隔に10個の区分に分け、各区分の中心位置のZn濃度及びNi濃度をGDS結果から読み取り各区分のZn/Ni質量比を求め、得られた10個のZn/Ni質量比を平均化することで求めることができる。
【0047】
Ni-Fe-Zn合金領域の厚さは、定量分析GDSにより酸素濃度<10質量%の範囲を特定し、その深さを測定することで決定することができる。また、同様に、Ni-Fe-Zn合金領域の第1の領域(Fe濃度<60質量%)及び第2の領域(Fe濃度≧60質量%)の厚さは、GDSにより得られるFe濃度から決定することができる。
【0048】
本発明の特定の実施形態によれば、ZnO領域の厚さ並びにNi-Fe-Zn合金領域における第1の領域及び第2の領域のZn/Ni質量比を適切に制御すること、例えばZnO領域の厚さを1.0μm以上5.0μm以下、第1の領域におけるZn/Ni質量比を2.0以上15.0以下、好ましくは2.5以上15.0以下、及び第2の領域における平均Zn/Ni質量比を0.5以上2.0以下に制御して、めっき層を最適化することで、ホットスタンプ成形体の耐塗膜剥離性をさらに改善して、より具体的には当該ホットスタンプ成形体の長期的な耐塗膜剥離性を達成することが可能となる。
【0049】
本発明に係るホットスタンプ成形体は、自動車用部材に好適に使用することができる。自動車用部材に使用する場合、当該ホットスタンプ成形体上に化成処理液(例えば、日本パーカライジング(株)社製PB-SX35)にて化成処理した後、これに電着塗料(例えば、日本ペイント(株)社製パワーニクス110)を塗装して120~250℃の温度で焼き付けることで塗膜を形成することできる。当該塗膜の膜厚は、例えば、5~30μmであればよい。
【0050】
<ホットスタンプ成形体の製造方法>
本発明に係るホットスタンプ成形体の製造方法の例を以下で説明する。本発明に係るホットスタンプ成形体は、鋼板の少なくとも片面、好ましくは両面に、例えば、電気めっきによりZn-Niめっき層を形成した後に、得られためっき鋼板を所定の条件でホットスタンプすることで得ることができる。Zn-Niめっき層の代わりに、Znめっき層及びNiめっき層を形成することも可能である。以下では、Zn-Niめっき層を形成する場合について説明する。
【0051】
(鋼板の製造)
本発明に係るホットスタンプ成形体を製造するのに使用される鋼板の製造方法は特に限定されない。例えば、溶鋼の成分組成を所望の範囲に調整し、熱間圧延し、巻取り、さらに冷間圧延を行うことで鋼板を得ることができる。本発明における鋼板の板厚は、例えば、0.1mm~3.2mmであればよい。本発明における鋼板は、上述したように、Fe等の鋼板成分をめっき層中に拡散させて本発明に係るホットスタンプ成形体を得るために、鋼板の表面粗さRaを1.0μm以上3.0μm以下にしておくことが好ましい。このような表面粗さを得る方法は特に限定されなく、当業者に公知の方法で行うことができる。
【0052】
使用する鋼板の成分組成は特に限定されないが、上述したように、質量%で、C:0.05%以上0.70%以下、Mn:0.5%以上11.0%以下、Si:0.05%以上2.50%以下、Al:0.001%以上1.500%以下、P:0.100%以下、S:0.100%以下、N:0.010%以下、O:0.010%以下及びB:0.0005%以上0.0040%以下を含有し、残部が鉄及び不純物からなることが好ましい。
【0053】
(めっき層の形成)
Zn-Niめっき層の形成方法は、特に限定されないが、電気めっきにより形成することが好ましい。また、このめっきの形成前にプレめっきとしてNiなどをめっきしてもよい。以下では、Zn-Niめっき層を電気めっきにより形成した場合を説明する。
【0054】
電気めっきで形成される鋼板上のZn-Niめっき層について、めっき付着量は、例えば、片面あたり25g/m2以上90g/m2以下であると好ましく、30g/m2以上50g/m2以下であるとより好ましい。めっき層のZn/Ni比は、例えば、3.0以上20.0以下であればよく、4.0以上10.0以下であると好ましい。Zn-Niめっき層の形成に用いる浴の組成は、例えば、硫酸ニッケル・6水和物:25~350g/L、硫酸亜鉛・7水和物:10~150g/L、及び硫酸ナトリウム:25~75g/Lであればよい。また、電流密度は、10~150A/dm2であればよい。浴組成と電流密度は、所望のめっき付着量及びZn/Ni比が得られるように適宜調整することができる。浴温及び浴pHは、めっき焼けが発生しないように適宜調整すればよく、例えば、それぞれ40~70℃及び1.0~3.0であればよい。形成されるZn-Niめっき層のめっき付着量及びZn/Ni比は、誘導結合プラズマ(ICP)発光分光分析により測定することができる。
【0055】
(ホットスタンプ処理)
次いで、Zn-Niめっき層を形成した鋼板にホットスタンプを行う。ホットスタンプの加熱温度は、鋼板をオーステナイト域の温度に加熱できればよく、例えば、800℃以上1000℃以下の範囲である。昇温速度は、2~10℃/秒であることが好ましく、3~5℃/秒であることがより好ましい。昇温速度が遅すぎると、Feが過度に表面に拡散し、最終的に得られるZnO領域におけるFe、Mn及びSiの合計の平均濃度が30質量%を超えるか及び/又はZnO領域が厚くなりすぎる場合がある。一方で、昇温速度が速すぎると、最終的に得られるめっき層の外観を劣化させ、製品として十分な品質を確保することができない場合がある。加熱後の保持時間は、0.5分間以上5.0分間以下で適宜設定することができる。より好ましくは1.0分間以上4.0分間以下、最も好ましくは2.0分間以上4.0分間以下である。保持時間が短すぎると所望量の拡散が起こらないおそれがあり、反対に長すぎると、ZnO領域が厚くなりすぎるおそれがある。加熱温度、昇温速度及び保持時間は、鋼板からめっき層への鋼板成分の拡散及びZnO領域の形成等に対して相互に関係している。このため、各パラメータの値を単に上記の範囲内に制御しただけでは、所望のめっき層の構成が得られない場合がある。例えば、昇温速度が比較的遅い場合やオーバーヒート処理を行う場合には、加熱後の保持時間は比較的短くてもよいが、昇温速度が比較的速い場合やオーバーヒート処理を行わない場合には、所望のめっき層の構成を得るためには、加熱後の保持時間は比較的長くする必要がある。加えて、加熱温度、昇温速度及び保持時間の具体的な値は、めっきの組成及び付着量、鋼板の板厚並びにオーバーヒート処理の有無などによっても影響を受ける。さらに、同じ加熱温度及び保持時間であっても、鋼板を加熱炉から取り出した直後に比較的高温のままホットスタンプを行うか又は所定の温度まで放冷した後にホットスタンプを行うかによっても、最終的に得られるめっき層の特徴は変化し得る。したがって、同じ加熱温度、昇温速度及び保持時間であっても、めっきの組成及び付着量、鋼板の板厚並びにオーバーヒート処理の有無、実際にホットスタンプを行う際の温度などに応じてめっき層の特徴が変化し得る。このため、加熱温度、昇温速度及び保持時間等の具体的な値は、めっきの組成及び付着量、鋼板の板厚並びにオーバーヒート処理の有無、実際にホットスタンプを行う際の温度などの条件を考慮して適切に選択することが好ましい。
【0056】
また、本発明に係るホットスタンプ成形体を得るために、このホットスタンプ処理の際、オーバーヒート処理を行うことができる。オーバーヒート処理により、Fe等の鋼板成分を効率的にめっき層中に拡散させることが可能となる。オーバーヒート処理温度とホットスタンプの加熱温度との差(以下、「超過温度」という)と、オーバーヒート時間(秒間)との積が150以上300以下であることが好ましい。また、超過温度は25℃以上150℃以下、オーバーヒート時間は3秒間以上であると好ましい。ホットスタンプ時の雰囲気は、10~30%の酸素雰囲気下で行うことが好ましく、例えば、大気雰囲気下又は酸素濃度25~30%の高濃度酸素雰囲気で行うことができる。酸素雰囲気のような高露点雰囲気でホットスタンプすることで、めっき層の表面側に、めっき層中のZn並びに鋼板中のFe、Si及びMn、特に酸化しやすいZn、Si及びMnを積極的に拡散させ、めっき層の表面側に所望の量の各元素を存在させることができる。そのため、上記条件により、特に酸素雰囲気下でオーバーヒート処理を含むホットスタンプ処理を行うことで、本発明におけるZnO領域及びNi-Fe-Zn合金領域が形成され、当該ZnO領域に所望の量でFe、Si及びMnが拡散される。また、加熱処理の後は、例えば10~100℃/秒の範囲の冷却速度で冷却(焼入れ)を行うことができる。
【0057】
ホットスタンプ前のめっき層の付着量及びZn/Ni比、並びに、ホットスタンプ条件(例えば、温度、昇温速度、保持時間、雰囲気中の酸素濃度、オーバーヒート処理条件等)を適宜調整することで、ZnO領域及びNi-Fe-Zn合金領域、より具体的には、ZnO領域並びにNi-Fe-Zn合金領域の第1の領域及び第2の領域を形成し、それぞれの領域の各元素の濃度及び厚さを調整することができる。
【実施例】
【0058】
本発明に係るホットスタンプ成形体について、以下で幾つかの例を挙げてより詳細に説明する。しかし、以下で説明される特定の例によって特許請求の範囲に記載された本発明の範囲が制限されることは意図されない。
【0059】
(めっき層の形成)
板厚1.4mmの冷延鋼板を以下のめっき浴組成を有するめっき浴に浸漬し、電気めっきにより当該冷延鋼板上の両面にZn-Niめっき層を形成した。めっき浴のpHは2.0とし、浴温を60℃で維持し、電流密度は30~50A/dm2とした。なお、使用した全ての鋼板は、質量%で、C:0.50%、Mn:3.0%、Si:0.50%、Al:0.100%、P:0.010%、S:0.020%、N:0.003%、O:0.003%、及びB:0.0010%を含有し、残部が鉄及び不純物であった。また、全ての鋼板は表面粗さRa=1.5μmであった。
めっき浴組成
・硫酸ニッケル・6水和物:25~250g/L(可変)
・硫酸亜鉛・7水和物:10~150g/L(可変)
・硫酸ナトリウム:50g/L(固定)
【0060】
Zn-Niめっき層において所望のめっき付着量及びZn/Ni比を得るために、めっき浴組成(硫酸ニッケル・6水和物及び硫酸亜鉛・7水和物の濃度)、電流密度及び通電時間を調整した。電気めっきにより得た鋼板上のZn-Ni合金めっき層におけるめっき付着量(g/m2)及びZn/Ni比をICPにより測定し、その測定結果を表1に示す。なお、めっき付着量は片面当たりの付着量を示す。
【0061】
(ホットスタンプ処理)
次いで、得られたZn-Niめっき鋼板を、表1に示す条件でホットスタンプを行った。より具体的には、ホットスタンプは、表1に示す温度及び時間による加熱保持直後に800℃を超える温度で行い、焼入れは冷却速度:30℃/秒で行った。試料No.3については、加熱時の雰囲気を、酸素濃度約5%の低酸素雰囲気(低露点雰囲気)とした。それ以外の試料については大気雰囲気下(酸素濃度約20%)でホットスタンプした。試料No.1~12、15及び17では炉加熱により加熱し、試料No.16では通電加熱により加熱した。試料No.16の昇温速度は30℃/秒であるが、本試料では900℃の目標温度に達する前に昇温速度を徐々に下げてオーバーヒートしないようにした。一方で、試料No.13及び14では、オーバーヒート処理を行った。当該オーバーヒート処理については、炉加熱と通電加熱を併用して実施した。まず炉加熱により加熱し、次いで900℃直前から通電加熱との併用により温度を950℃まで一気に上昇させ、950℃に到達後に通電加熱を終了し、炉加熱のみで保持して900℃に戻し(超過温度=50℃)、オーバーヒート時間は4秒とした。したがって、試料No.13及び14において、超過温度とオーバーヒート時間との積は200であった(当該値は、表1中では「オーバーヒート条件」と示した)。表1中の試料No.13及び14の昇温速度はオーバーヒート処理を行う前の昇温速度を示している。
【0062】
(めっき層の定量分析GDS)
ホットスタンプ後に得た各試料のめっき層に含まれる元素を堀場製作所のGD-profiler2を用いて、めっき層の深さ方向(厚み方向)に定量分析GDSにより測定した。GDSの測定条件は、測定径4mmφ、Arガス圧力:600Pa、電力:35W、測定時間:100秒間とし、測定対象元素は、Zn、Ni、Fe、Mn、Si及びOとした。具体的には、まず、各試料について、GDSにより酸素濃度が10質量%以上の領域と酸素濃度が10質量%未満の領域に分け、それぞれをZnO領域とNi-Fe-Zn合金領域とし、ZnO領域の厚さを決定した。また、Ni-Fe-Zn合金領域におけるZn、O、Mn及びSiの濃度分布から、これらの元素の濃度がめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少しているかを確認した。次いで、特定したZnO領域を等間隔に10個の区分に分け、各区分の中心位置のFe濃度、Mn濃度及びSi濃度をGDS結果から読み取り各区分でこれらの濃度の合計を求め、得られた10個のFe、Mn及びSiの合計濃度の値を平均化することで、各試料のFe、Mn及びSiの合計の平均濃度を決定した。次いで、得られたGDS結果から、Ni-Fe-Zn合金領域を、Fe濃度が60質量%未満である領域(第1の領域)と、Fe濃度が60質量%以上である領域(第2の領域)とに分けた。第1の領域におけるZn濃度及びNi濃度からZn/Ni質量比の最大値と最小値を求め、第1の領域におけるZn/Ni質量比の範囲を特定した。また、第2の領域を等間隔に10個の区分に分け、各区分の中心位置のZn濃度及びNi濃度を読み取りZn/Ni質量比を求め、得られた10個のZn/Ni質量比を平均化することで、第2の領域における平均Zn/Ni質量比を決定した。各試料のFe、Mn及びSiの合計の平均濃度、第1の領域におけるZn/Ni質量比、第2の領域における平均Zn/Ni質量比及びZnO領域の厚さを表2に示す。なお、表2中の「Ni-Fe-Zn合金領域のZn、O、Mn及びSiの濃度分布」については、これらの元素全てがNi-Fe-Zn合金領域においてめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少していた場合は「〇」、そうでない場合は「×」と示した。
【0063】
(耐塗膜剥離性の評価)
各試料から100mm×100mmの大きさの評価用サンプルを切り出し、当該サンプルを化成処理液(日本パーカライジング(株)社製PB-SX35)にて化成処理した後、これに電着塗料(日本ペイント(株)社製パワーニクス110)を膜厚が10μmとなるよう塗装して200℃で焼き付けた。その後、評価用サンプルの表面に1mm間隔で縦横に11本ずつ切込みを入れ、合計100個の碁盤目状の切込みに対して、粘着テープによる剥離テストを行い、耐塗膜剥離性を評価した。剥離した個数が20個未満であれば耐塗膜剥離性評価「◎」、20個以上30個未満であれば耐塗膜剥離性評価「〇」、30個以上であれば耐塗膜剥離性評価「×」とした。各試料の評価結果を表2に示す。
【0064】
(耐塗膜剥離二次密着性の評価)
長期的な耐塗膜剥離性を評価するため、以下の手順でホットスタンプ成形体の耐塗膜剥離二次密着性を評価した。まず、上述した化成処理及び電着塗料を施した評価用サンプルに、クロスカット疵を形成することなしに、JASO-CCT試験(M609-91)、塩水噴霧(5%NaCl、35℃):2時間、乾燥(60℃、20~30%RH):4時間、湿潤(50℃、95%RH):2時間を200サイクル実施した。次いで、200サイクル後の各評価用サンプルの表面に1mm間隔で縦横に11本ずつ切込みを入れ、合計100個の碁盤目状の切込みに対して、粘着テープによる剥離テストを行い、耐塗膜剥離二次密着性を評価した。剥離した個数が10個未満であれば耐塗膜剥離二次密着性評価「☆」、剥離した個数が10個以上30個未満であれば耐塗膜剥離二次密着性評価「◎」、30個以上50個未満であれば耐塗膜剥離二次密着性評価「〇」、50個以上であれば耐塗膜剥離二次密着性評価「×」とした。各試料の評価結果を表2に示す。
【0065】
(疵部耐食性の評価)
上述した化成処理及び電着塗料を施した評価用サンプルに、下地の鋼板まで到達する対角線長さ70mmのクロスカット疵を形成し、その後、JASO-CCT試験(M609-91)、塩水噴霧(5%NaCl、35℃):2時間、乾燥(60℃、20~30%RH):4時間、湿潤(50℃、95%RH):2時間を180サイクル実施し、疵部耐食性を評価した。180サイクル後の評価用サンプルにおいて、膨れ幅2mm以下であれば疵部耐食性評価「〇」、2mm超であれば疵部耐食性評価「×」とした。各試料の評価結果を表2に示す。
【0066】
【0067】
【0068】
耐塗膜剥離性の評価が◎又は〇の場合(耐塗膜剥離二次密着性の評価は含まない)を改善した耐塗膜剥離性を有するホットスタンプ成形体として評価した。
【0069】
試料No.1、2、4~10、12~14及び17は、ZnO領域において、Fe、Mn及びSiの合計の平均濃度が5質量%以上30質量%以下であったため、耐塗膜剥離性が良好であった。特に、ZnO領域の厚さが1.0μm以上5.0μm以下であり、第1の領域のZn/Ni質量比及び第2の領域の平均Zn/Ni質量比が所定の範囲内である試料No.1、2、4、5、7、9、13及び14は、より耐塗膜剥離性が良好であり、さらに耐塗膜剥離二次密着性も優れていた。
【0070】
また、試料No.1、2、4~10、13及び14は、Ni-Fe-Zn合金領域のZn、O、Mn及びSiの濃度がNi-Fe-Zn合金領域においてめっき層の表面側から鋼板側に向けて減少し、第1の領域のZn/Ni質量比が2.0以上15.0以下であり、第2の領域の平均Zn/Ni質量比が0.5以上2.0以下であったため、疵部耐食性が良好であった。
【0071】
試料No.3は、ZnO領域のFe、Mn及びSiの合計の平均濃度が5質量%未満であったため、ZnO領域が十分な強度が得られず耐塗膜剥離性が不十分となった。また、試料No.11は、ZnO領域のFe、Mn及びSiの合計の平均密度が30質量%超であったため、ホットスタンプ成形体の表層にFe等が多く腐食しやすくなり、結果として耐塗膜剥離性が不十分となった。
【0072】
試料No.15は昇温速度が遅すぎたために、Feが過度に表面に拡散し、ZnO領域のFe、Mn及びSiの合計の平均密度が30質量%を超えてしまい、結果として耐塗膜剥離性が不十分となった。試料No.16は昇温速度が速すぎたことに起因してめっき層の外観不良が生じ、製品として十分な品質が得られなかったため、当該試料についてはめっき層の分析及び特性評価は行わなかった。
【産業上の利用可能性】
【0073】
本発明によれば、めっき層の表面側に存在するZnO領域の強度を向上させ、ZnO自体の剥離又は破壊を防止し、改善した耐塗膜剥離性を有するホットスタンプ成形体を提供することができ、これにより、耐塗膜剥離性が高く耐食性に優れる自動車用部材を提供することができる。したがって、本発明は産業上の価値が極めて高い発明といえるものである。