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特許7277834アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法
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  • 特許-アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B23K 35/30 20060101AFI20230512BHJP
   B23K 26/322 20140101ALI20230512BHJP
   C22C 38/00 20060101ALN20230512BHJP
   C22C 38/58 20060101ALN20230512BHJP
   C22C 21/02 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
B23K35/30 320A
B23K26/322
C22C38/00 301T
C22C38/58
C22C21/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2021564066
(86)(22)【出願日】2020-12-11
(86)【国際出願番号】 JP2020046326
(87)【国際公開番号】W WO2021117878
(87)【国際公開日】2021-06-17
【審査請求日】2022-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2019223818
(32)【優先日】2019-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【弁理士】
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【弁理士】
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【弁理士】
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【弁理士】
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【弁理士】
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【弁理士】
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】石田 欽也
(72)【発明者】
【氏名】巽 雄二郎
(72)【発明者】
【氏名】富士本 博紀
(72)【発明者】
【氏名】泰山 正則
(72)【発明者】
【氏名】宮▲崎▼ 康信
【審査官】川口 由紀子
(56)【参考文献】
【文献】特表2022-521257(JP,A)
【文献】特表2018-534143(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/0306702(US,A1)
【文献】韓国公開特許第10-2015-0068696(KR,A)
【文献】特開2017-164760(JP,A)
【文献】特開2019-107697(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 35/30
C22C 38/00-38/60
C22C 21/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤであって、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、
C:0.08~0.20%、
Si:0.25%未満、
Mn:1.5~2.8%、
Mo:0.30~2.0%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.010%以下、
Cu:0.50%以下、
であり、残部が鉄および不純物からなり、
下記の(1)式を満たすように、Si、Mn、Mo、Alの含有量が設定される、
Mn+2.5Mo-6Si-3.5Al≧2.2・・・・(1)
アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項2】
さらに、前記鉄の一部に代えて、
Cr:1.5%以下、
Ni:3.0%以下、
B :0.010%以下、
Ti: 0.20%以下、
V : 0.50%以下、
Nb: 0.20%以下、
のうち1種または2種以上を含有する請求項1に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項3】
前記アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの直径が0.6mm~1.2mmである請求項1又は2に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ。
【請求項4】
板厚0.7mm~3.2mmのアルミニウムめっき鋼板を少なくとも1枚以上溶接し、かつ、前記アルミニウムめっき鋼板を請求項1から3のうちいずれか1項に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接する溶接継手の製造方法。
【請求項5】
レーザー溶接を用いて溶接する請求項4に記載の溶接継手の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ、及び溶接継手の製造方法に関する。本願は、2019年12月11日に、日本に出願された特願2019-223818号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
鋼板を成形する技術のひとつとして熱間プレス(以下、ホットスタンプと称する場合がある)が注目されている。ホットスタンプでは、鋼板を高温に加熱し、Ar変態温度以上の温度域でプレス成形している。さらに、ホットスタンプでは、プレス成形した鋼板を金型による抜熱で急速に冷却し、プレス圧が掛かった状態で成形と同時に変態を起こさせる。ホットスタンプは、高強度でかつ形状凍結性の優れた熱間プレス成形品(以下、「ホットスタンプ成形品」と称する場合がある。)を製造することができる技術である。
【0003】
少なくとも2枚の鋼板の端面を突合せて、レーザー溶接、プラズマ溶接等によって接合したテーラードブランクが、ホットスタンプ用鋼材として用いられている。目的に応じて、複数の鋼板を接合するため、テーラードブランクは、一つの部品の中で板厚および強度を自由に変化させることができる。そのため、テーラードブランクに対してホットスタンプすることで、板厚、強度等を自由に変化させた高強度の熱間プレス成形品を得ることができる。
【0004】
テーラードブランクをホットスタンプにより成形する場合、例えば800℃~1000℃の温度域に加熱される。そのため、めっき沸点が高いAl-Si等のアルミニウムめっきがなされたアルミニウムめっき鋼板がテーラードブランクに使用されることが多い。
【0005】
アルミニウムめっき鋼板を突合せ溶接したテーラードブランクにおいて、アルミニウムめっき層又は金属間化合物層の成分であるアルミニウムが溶接金属に混入する場合がある。アルミニウムはフェライト生成元素であるため、アルミニウムの混入によって、ホットスタンプ後の溶接金属の硬さが低下する。そのため、アルミニウムが溶接金属に混入した場合、溶接金属で破断が生じ、溶接継手の強度が低下するという課題がある。
【0006】
この課題に対し、特許文献1には、溶接金属に含有されるアルミニウムの平均濃度や溶接金属のAc点を制御したテーラードブランクが提案されている。また、特許文献2には、溶接金属に含有されるアルミニウムの平均濃度やホットスタンプ後の溶接金属の硬さと溶接金属の最も薄い部分の厚みの積が一定の関係を満足するように制御したテーラードブランクが提案されている。特許文献3には、アルミニウムをほぼ含有せず、オーステナイトの形成を促進する合金元素を少なくとも1種含有するフィラーワイヤを用いたテーラーメイド半完成板金製品の製造方法が開示されている。特許文献4には、母材鋼板よりも、オーステナイト生成元素を多く含んだフィラーワイヤを用いたテーラードブランクの製造方法が記載されている。しかしながら、溶接継手の強度を確保する観点では、十分ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】日本国特許第5316670号公報
【文献】日本国特許第5316664号公報
【文献】日本国特許第6430070号公報
【文献】日本国特許第5873934号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、アルミニウムめっき鋼板を溶接して形成された溶接金属には、これらの技術で得られる溶接金属の強度(硬さ)よりも更に高い強度(硬さ)が求められている。
本発明の課題は、アルミニウムめっき鋼板を溶接した際にアルミニウム(Al)が溶接金属に混入したとしても、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶接金属を形成可能なアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らが鋭意検討したところ、フェライト生成能を有するが、焼き入れ性が高いMoを含有し、かつ、フェライト生成能を有し、焼入れ性が低いSiの含有量を低減したソリッドワイヤを用いて、アルミニウムめっき鋼板の溶接をすることで、アルミニウムが溶接金属に混入したとしても高い硬さを有する溶接金属が形成できることを本発明者らは見出した。本発明の要旨は以下の通りである。
<1> 本発明の一態様に係るアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、
C:0.08~0.20%、
Si:0.25%未満、
Mn:1.5~2.8%、
Mo:0.30~2.0%、
P:0.050%以下、
S:0.030%以下、
Al:0.10%以下、
N:0.010%以下、
Cu:0.50%以下、
であり、残部が鉄および不純物からなり、
下記の(1)式を満たすように、Si、Mn、Mo、Alの含有量が設定される。
Mn+2.5Mo-6Si-3.5Al≧2.2・・・・(1)
<2> 上記<1>に記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、さらに、前記鉄の一部に代えて、
Cr:1.5%以下、
Ni:3.0%以下、
B :0.010%以下、
Ti:0.20%以下、
V: 0.50%以下、
Nb:0.20%以下、
のうち1種または2種以上を含有してもよい。
<3> 上記<1>又は<2>に記載の前記アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、直径が0.6mm~1.2mmであってもよい。
<4> 本発明の一態様に係る溶接継手の製造方法は、板厚0.7mm~3.2mmのアルミニウムめっき鋼板を少なくとも1枚以上溶接し、かつ、前記アルミニウムめっき鋼板を上記<1>~<3>のいずれか1つに記載のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接する。
<5> 上記<4>に記載の溶接継手の製造方法は、レーザー溶接を用いて溶接してもよい。
【発明の効果】
【0010】
本発明のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法によれば、アルミニウムめっき鋼板を溶接した際にアルミニウムが溶接金属に混入したとしても、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶接金属を形成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】ビッカース硬さ試験を説明するための溶接金属の断面の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本実施形態に係るアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法について説明する。
【0013】
<ソリッドワイヤ>
溶接金属の硬さを高くするためには、溶接金属中のフェライトの割合を減らし、マルテンサイトの割合を増やすことが有効である。フェライト生成元素であるアルミニウムが溶接金属に混入した場合でも、高いマルテンサイト比率を有する溶接金属を得るために本発明者らは、鋭意検討した結果、下記の知見を得た。
【0014】
(A)ソリッドワイヤのMo含有量を適正範囲に制御することで、溶接金属の焼入れ性が改善されるため、溶接金属中のマルテンサイトの割合が増加する。
(B)ソリッドワイヤのSi含有量を低減させることで、溶接金属中のフェライトの生成が抑制され、溶接金属中のフェライトの割合が低下する。
【0015】
本開示では、上述の知見に基づいて、アルミニウムめっき鋼板溶接用のソリッドワイヤの成分組成を決定した。本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、各成分の相乗効果により、本開示の目的とする効果が得られる。以下、成分組成について説明する。
【0016】
ソリッドワイヤは、所定の成分を有する鋼線、または表面にCuめっきが施された鋼線である。ワイヤ全質量とはCuめっきを含めたソリッドワイヤの全質量を意味する。また、本明細書において、ソリッドワイヤの化学成分をワイヤの全質量に対する割合である質量%で表すものとし、その質量%に関する記載を単に%と記載して説明する。本明細書中において、「~」を用いて表される数値範囲は、「~」の前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む範囲を意味する。そして、本明細書中において、成分(元素)の含有量について、例えば、C(炭素)の含有量の場合、「C量」と表記することがある。また、他の元素の含有量についても同様に表記することがある。
【0017】
本明細書において、「溶接金属(weld metal)」とは、溶接部の一部であって、溶接中に溶融凝固した金属を意味する。ここで「溶融凝固した金属」とは、溶融した母材鋼板と溶融したソリッドワイヤの両方を意味する。従って、溶接金属とは、鋼板母材とソリッドワイヤとが溶けて、混ざり合った金属を指す。
【0018】
本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、ワイヤ全質量に対する質量%で、化学組成の含有量が、C:0.08~0.20%、Si:0.50%未満、Mn:1.5~2.8%、Mo:0.30~2.0%、P:0.050%以下、S:0.030%以下、Al:0.10%以下、N:0.010%以下、Cu:0.50%以下、であり、残部が鉄および不純物からなる化学組成を有する。以下、各元素について説明する。
【0019】
(C:0.08~0.20%)
Cは、溶接金属の焼入れ性を高めるとともに、マルテンサイトの硬さを増加させる上で重要な元素である。C量が0.08%未満であると、焼入性が不足しマルテンサイトが生成し難くなる上、マルテンサイトの硬さが十分ではなくなる。そのため、C量は0.08以上とする。一方、Cが0.20%を超えた場合、C量が0.15質量%~0.30質量%の母材鋼板の溶接に用いた際に、母材鋼板に対し適切な溶接金属の硬さが得られなくなる場合がある。したがって、C量は0.20%以下とする。C量は0.09%以上、0.10%以上、又は0.11%以上であってもよい。また、C量は0.16%以下、又は0.15%以下であってもよい。
【0020】
(Si:0.50%未満)
通常のソリッドワイヤでは脱酸元素として、Siを積極的に添加している。しかし、Siは、フェライト生成元素であり、焼入れ性の向上効果が高くない。そのため、Siの含有量は低いことがよい。従って、Si量は0.50%未満とする。また、Si量は、好ましくは0.25%未満、より好ましくは0.20%以下、さらに好ましくは0.15%、よりさらに好ましくは0.10%以下である。
なお、Siがソリッドワイヤに含まれる必要はなく、Si含有量を0%、又は0%超、0.01%としてもよい。
【0021】
(Mn:1.5~2.8%)
Mnは、脱酸元素であるとともに、溶接金属の焼入れ性を高めるため、焼入れ後強度を安定して確保するために有効な元素である。Mn量が1.5%未満では、その効果が十分でない場合がある。従って、Mn量は1.5%以上、好ましくは1.7%以上とする。一方、Mn量が2.8%を超えると、その効果が飽和するばかりか、溶接金属の靱性や延性の低下を招く場合がある。したがって、Mn量は2.8%以下、好ましくは2.5%以下とする。
【0022】
(Mo:0.30~2.0%)
Moは、フェライト生成能がAlよりも低く、溶接金属の焼入れ性を高めるため、溶接金属中のマルテンサイトの割合を増加させるために有効な元素である。Mo量が0.30%未満では、その効果が十分でない場合がある。従って、Mo量は0.30%以上とする。Mo量は好ましくは0.40%以上である。一方、Mo量が2.0%を超えると、溶接金属中にフェライトが生成し、硬さが低くなる恐れがある。添加コストの増加を招く。したがって、Mo量は2.0%以下とする。Mo量は、好ましくは1.0%以下、さらに好ましくは0.60%以下である。
【0023】
(P:0.050%以下)
Pは、一般に鋼中に不純物として混入する元素であって、またソリッドワイヤ中にも不純物として含まれるのが通常である。ここでPは、溶接金属の高温割れを発生させる主要元素の一つであるから、できる限り抑制することが望ましい。P量が0.050%を越えれば、溶接金属の高温割れが顕著になるから、Pの上限は0.050%以下である。
なお、P量の下限は、特に制限されないため、0%超であるが、脱Pのコスト及び生産性の観点から、0.001%以上であってもよい。
【0024】
(S:0.030%以下)
Sも、Pと同様に一般に鋼中に不純物として混入する元素であって、また、ソリッドワイヤ中にも不純物として含まれるのが通常である。S量が0.030%を超えると、溶接金属に凝固割れが発生する。従って、S量は0.030%以下である。S量は、0.020%以下であってもよい。なお、S量の下限は、特に制限されないため、0%超である。コスト及び生産性の観点から、S量は0.001%以上であってもよい。
【0025】
(Al:0.10%以下)
Alは、フェライト生成元素である。Alの含有量が0.10%超である場合、溶接金属中のフェライトの割合が増加し、溶接金属の硬さが低下するおそれがある。従って、Al量は0.10%以下とする。Al量は0.070%以下、0.030%以下であってもよい。なお、Al量の下限は、特に制限されないため、0%超である。コスト及び生産性の観点から、Al量は0.001%以上であってもよい。
【0026】
(N:0.010%以下)
Nは、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにて不純物として含有される元素である。さらにNは、溶接金属中にて介在物を形成し、熱間プレス成形後の靱性を劣化させる元素である。したがって、N量は0.010%以下とする。好ましくはN量は0.008%以下、さらに好ましくは0.006%以下である。N量の下限は特に規定する必要はないが、コストの観点からは下限は0.0002%とすることが好ましい。
【0027】
(Cu:0.50%以下)
ソリッドワイヤには、ワイヤ送給性及び通電性を安定化するためにCuめっきが施されることがある。従って、Cuめっきを施した場合、ソリッドワイヤにはある程度の量のCuが含有される。一方、Cuの含有量が過剰となると、溶接割れが発生しやすくなるため、Cu量は0.50%以下である。なお、Cuは必須の元素ではないため、Cuを含有させない場合の下限は0%である。
【0028】
(Cr、Ni、B、Ti、V、Nb)
Cr、Ni、B、Ti、V、Nbは必須の元素ではないが、必要に応じて1種または2種以上を同時に含有してもよい。各元素を含有することにより得られる効果と上限値について説明する。なお、これらの元素を含有させない場合はこれらの元素の量は0%である。
【0029】
(Cr:1.5%以下)
Crは、溶接金属の焼入れ性を高めて溶接金属の硬さを向上させることに有用な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにCrが含有されていてもよい。ただし、Crはフェライト生成元素であるため、ソリッドワイヤ中にCrを1.5%超含有させると溶接金属中のマルテンサイトの割合が低下する。従って、Cr量は1.5%以下とするのがよい。上限は、1.0%としてもよい。
【0030】
(Ni:3.0%以下)
Niは、溶接金属の引張強度と靭性を向上させるために有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにNiが含有されていてもよい。ただし、ソリッドワイヤ中にNiを3.0%超含有させると、溶接割れが発生しやすくなる。従って、Ni量は3.0%以下とするのがよい。Ni量の上限は2.0%としてもよい。
【0031】
(B:0.010%以下)
Bは溶接金属の焼入れ性を向上するのに有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにBが含有されていてもよい。Bをソリッドワイヤ中に0.010%超含有させると、溶接金属の過度な高強度化によって靭性が低下し、溶接割れが発生しやすくなる。従って、B量は0.010%以下とするのが良い。上述のBの効果を得るためには、B量は0.0005%以上、好ましくは0.001%以上とするのがよい。
【0032】
(Ti:0.20%以下)
Tiは溶接金属のミクロ組織の微細化に有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにTiが含有されていてもよい。Tiをソリッドワイヤ中に0.20%超含有させると、溶接金属の靭性が低下し、溶接割れが発生しやすくなる。従って、Ti量は0.20%以下とするのが良い。上述のTiの効果を得るためには、Ti量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上とするのがよい。
【0033】
(V:0.50%以下)
Vは溶接金属のミクロ組織の微細化に有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにVが含有されていてもよい。Vをソリッドワイヤ中に0.50%超含有させると、溶接金属の靭性が低下し、溶接割れが発生しやすくなる。従って、V量は0.50%以下とするのが良い。上述のVの効果を得るためには、V量は0.05%以上、好ましくは0.10%以上とするのがよい。
【0034】
(Nb:0.20%以下)
Nbは溶接金属のミクロ組織の微細化に有効な元素である。そのため、アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤにNbが含有されていてもよい。Nbをソリッドワイヤ中に0.20%超含有させると、溶接金属の靭性が低下し、溶接割れが発生しやすくなる。従って、Nb量は0.20%以下とするのが良い。上述のNbの効果を得るためには、Nb量は0.01%以上、好ましくは0.05%以上とするのがよい。
【0035】
(Mn+2.5Mo-6Si-3.5Al≧2.2)
本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、下記の(1)式を満たすように、Si、Mn、Mo、Alの含有量を設定することが好ましい。下記(1)式を満足すれば、アルミニウムめっき鋼板の溶接をした際に、溶接金属中のマルテンサイトの割合を十分確保することができる。
Mn+2.5Mo-6Si-3.5Al≧2.2・・・・(1)
なお、上記効果は(1)式の値が大きいほど高く発揮されるため、(1)式は好ましくは2.4以上、より好ましくは2.6以上である。また、(1)式の上限は特に設けないが、各元素の含まれる範囲から8未満となる。
なお、Siがソリッドワイヤに含まれる必要はなく、Si含有量を0%、又は0%超、0.01%としてもよい。
【0036】
((Si+Mn/5)/(Ti+Al)≧4.0)
本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤは、下記の(2)式を満たすように、Si、Mn、Ti,Alの含有量を設定することが好ましい。Mn含有量が高く、TiやAlの含有量が低い場合に、下記(2)を満たすことができれば、溶接金属の焼入性及び良好な機械的特性の獲得と、溶接割れのような欠陥抑制の両立を図ることができる。
(Si+Mn/5)/(Ti+Al)≧4.0・・・・(2)
【0037】
(残部)
アルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。ここで、不純物とは、鉱石やスクラップ等の原材料に含まれる成分、または、製造の過程でアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤに混入する成分が例示される。不純物とは、意図的にアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤに含有させたものではない成分を意味する。
【0038】
(直径)
ソリッドワイヤの直径は、溶接性に影響を与える。ソリッドワイヤの直径が1.2mm超の場合、例えばレーザー溶接で溶接する際に、溶融池の大きさに対して直径が太すぎるためワイヤの溶融不足や溶融不安定が生じる可能性がある。その結果、溶融部にソリッドワイヤが完全に溶融しないまま供給されて不均質な溶接金属を生成したり、ソリッドワイヤが溶融部に刺さったまま取り残されたりしてしまうなど欠陥を生じてしまう場合がある。従って、ソリッドワイヤの直径は、1.2mm以下が好ましい。ソリッドワイヤの直径が0.6mm未満の場合、巻き癖などによりソリッドワイヤを所定の位置に供給することが困難になる傾向がある。また、ワイヤの製造コストも著しく増加する傾向がある。従って、ソリッドワイヤの直径は0.6mm以上が好ましい。好ましくは0.8mm以上とする。
【0039】
このようなソリッドワイヤは、通常の方法で製造できる。すなわち、所望の化学組成に調整した溶鋼を凝固させ、圧延により原線をつくり、縮径、焼鈍をして素線をつくる。さらに、素線を伸線していくことで、所望の直径のワイヤとする。
【0040】
<溶接継手の製造方法>
次に本開示の溶接継手の製造方法について説明する。溶接継手は、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いてアルミニウムめっき鋼板を溶接することで得られる。以下、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤと共に用いられるアルミニウムめっき鋼板について説明する。
【0041】
(アルミニウムめっき鋼板)
次に、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤと共に用いられるアルミニウムめっき鋼板について説明する。アルミニウムめっき鋼板は、母材鋼板の表面上に母材鋼板側から、金属間化合物層、アルミニウムめっき層がこの順で形成されている。本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤと共に用いられるアルミニウムめっき鋼板としては特に限定されないが、母材鋼板、アルミニウムめっき層、金属間化合物層について好適な範囲について以下に説明する。
【0042】
(アルミニウムめっき鋼板の板厚)
アルミニウムめっき鋼板の板厚は、0.7~3.2mmである。この範囲であれば、ホットスタンプ工程を経て溶接金属中にマルテンサイトが形成されやすいためである。アルミニウムめっき鋼板の板厚は、好ましくは、0.8mm以上、より好ましくは1.0mm以上である。また、アルミニウムめっき鋼板の板厚は、好ましくは、2.9mm以下、より好ましくは、2.6mm以下である。
【0043】
アルミニウムめっき鋼板は、その端部にアルミニウムめっき層及び金属間化合物層が除去されて母材鋼板が露出した露出部を有していてもよい。露出部が形成されている場合、溶接金属の疲労強度の低下が抑制されるため好ましい。露出部は、完全に鋼板が露出していなくて、アルミニウムめっき層と金属間化合物層が端部に少し残っていてもよい。端部にアルミニウムめっき層と金属間化合物層とが適度に残ることで、溶接金属の疲労強度と耐食性の両方を向上できる点で好ましい。端縁において、金属間化合物層のみを残して、その上のアルミニウムめっき層だけを除去してもよい。そうすると、溶接金属の耐食性の向上も期待できる。
なお、アルミニウムめっき鋼板の端縁は、アルミニウムめっき鋼板の端面と隣接する部位を意味する。アルミニウムめっき鋼板の端部は、アルミニウムめっき鋼板の周囲に位置している領域であって、最大の範囲で、アルミニウムめっき鋼板の端面から7mmまでの範囲の領域を意味する。アルミニウムめっき鋼板の端面は、アルミニウムめっき鋼板の表面のうち、厚み方向に直交する方向に向けて露出している面を意味する。
【0044】
アルミニウムめっき鋼板を打ち抜いて打ち抜き部材を得る際に、アルミニウムめっき鋼板の周囲に位置する端部のうち、アルミニウムめっき鋼板の端縁を含む領域では、シャー等の切断手段によってダレが発生する場合がある。ダレが発生したアルミニウムめっき鋼板の端部における金属間化合物層およびアルミニウムめっき層を、切削、研削等によって除去すると、ダレが発生している部分に金属間化合物層とアルミニウムめっき層とを残しながら、母材鋼板を露出させた露出部を形成することができる。ダレ部分に金属間化合物層とアルミニウムめっき層とがある場合、アルミニウムめっき鋼板を溶接する際に、ダレ部分のアルミニウムめっき層と金属間化合物層とが溶接金属中に取り込まれるため、溶接金属の塗装後耐食性が向上する。
【0045】
(母材鋼板)
アルミニウムめっき鋼板の母材鋼板は、熱間圧延工程、冷間圧延工程、焼鈍工程、めっき工程等を含む通常の方法により得られたものであればよく、特に限定されるものではない。母材鋼板は熱延鋼板または冷延鋼板のいずれでもよい。母材鋼板には、例えば、ホットスタンプ工程後に高い引張強度を有するように調製された鋼板を使用することがよい。具体的には、引張強度1000~2000MPaの鋼板が使用され得る。板厚は0.7mm~3.2mmである。例えば、自動車のBピラーの場合、衝突による変形を防止したい上部から中央部にかけては引張強度1500~2000MPa級の鋼板を用いて、エネルギーを吸収したい下部は引張強度1000MPa級~1500MPa級の鋼板を用いることなどが考えられる。また、鋼板の板厚は上部は1.4mm~2.6mm、下部は1.0mm~1.6mmなどが考えられる。ただし、これは一例であり、適用部品によってそれぞれの部位の強度や板厚は部品に必要な強度、剛性、エネルギー吸収量、変形挙動、破壊挙動等の性能を満足するような引張強度と板厚を適切に用いれば良い。
【0046】
母材鋼板の好ましい化学組成の一例としては、例えば、以下の化学組成が挙げられる。
なお、以下、成分(元素)の含有量を示す「%」は、「質量%」を意味する。
母材鋼板は、質量%で、C:0.15%~0.30%、Si:0%~1.00%、Mn:0.20%~3.00%、Al:0.005%~0.10%、P:0.03%以下、S:0.010%以下、N:0.010%以下、Ti:0%~0.20%、Nb:0%~0.20%、V:0%~0.50%、W:0%~1.0%、Cr:0%~1.0%、Mo:0%~1.0%、Cu:0%~1.0%、Ni:0%~1.0%、B:0%~0.0100%、Mg:0%~0.05%、Ca:0%~0.05%、REM:0%~0.05%、Sn:0%~0.5%、Bi:0%~0.05%、並びに残部:Feおよび不純物からなる化学組成を有する。
【0047】
(アルミニウムめっき層)
アルミニウムめっき層は、母材鋼板の両面に形成される。アルミニウムめっき層を形成する方法は、特に限定されるものではない。例えば、アルミニウムめっき層は、溶融めっき法(アルミニウムを主体として含む溶融金属浴中に母材鋼板を浸漬させ、アルミニウムめっき層を形成させる方法)により、母材鋼板の両面に形成してもよい。
【0048】
ここで、アルミニウムめっき層とは、アルミニウムを主体として含むめっき層であり、アルミニウムを50質量%以上含有していればよい。目的に応じて、アルミニウムめっき層はアルミニウム以外の元素(例えば、Siなど)を含んでいてもよく、製造の過程などで混入してしまう不純物を含んでいてもよい。アルミニウムめっき層は、具体的には、例えば、質量%で、Si(シリコン)を5%~12%含み、残部はアルミニウムおよび不純物からなる化学組成を有していてもよい。また、アルミニウムめっき層は質量%で、Si(シリコン)を5%~12%、Fe(鉄)を2%~4%を含み、残部はアルミニウムおよび不純物からなる化学組成を有していてもよい。
上記範囲でアルミニウムめっき層にSiを含有させると、加工性および耐食性の低下が抑制され得る。また、金属間化合物層の厚みを低減し得る。
【0049】
アルミニウムめっき層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば、平均厚みで8μm(マイクロメートル)以上であることがよく、10μm以上であることが好ましい。また、アルミニウムめっき層の厚みは、例えば、平均厚みで40μm以下であることがよく、30μm以下であることが好ましい。
【0050】
(金属間化合物層)
金属間化合物層は、母材鋼板上にアルミニウムめっきを設ける際に、母材鋼板とアルミニウムめっき層との間の境界に形成される層である。具体的には、金属間化合物層は、アルミニウムを主体として含む溶融金属浴中での母材鋼板の鉄(Fe)とアルミニウム(Al)を含む金属との反応によって形成される。金属間化合物層は、主にFeAl(x、yは1以上を表す)で表される化合物の複数種で形成されている。アルミニウムめっき層がSi(シリコン)を含む場合は、金属間化合物層はFeAlおよびFeAlSi(x、y、zは1以上を表す)で表される化合物の複数種で形成されている。
【0051】
金属間化合物層の厚みは、特に限定されるものではないが、例えば平均厚みで1μm以上であることがよく、3μm以上であることがより好ましい。また、金属間化合物層の厚みは、例えば平均厚みで10μm以下であることがよく、8μm以下であることが好ましい。なお、金属間化合物層の厚みは、金属間化合物層における平均厚みを表す。
なお、金属間化合物層の厚みは、アルミニウムを主体として含む溶融金属浴の温度と浸漬時間によって制御し得る。
【0052】
(アルミニウムめっき層と金属間化合物層の合計厚み)
アルミニウムめっき層と金属間化合物層の合計の厚みは、40μm以下がよく、より好ましくは、30μm以下である。この範囲であれば、ホットスタンプ後に高い硬さを有する溶融金属を形成しやすいため、好ましい。
【0053】
(母材鋼板、金属間化合物層、およびアルミニウムめっき層の平均厚み)
アルミニウムめっき鋼板の平均厚みは例えば、アルミニウムめっき鋼板の断面を電界放出型電子線マイクロアナライザ(Field Emission-Electron Probe MicroAnalyser:FE-EPMA)を用いて、アルミニウムめっき鋼板の表面から母材鋼板までを線分析し、アルミニウム濃度と鉄濃度を測定することで得られる。測定条件は、加速電圧15kV、ビーム径100nm程度、1点あたりの照射時間1000ms、測定ピッチ60nmである。測定距離は、アルミニウムめっき層、金属間化合物層の厚みが測定できるようにすればよく、例えば測定距離は、アルミニウムめっき鋼板の表面から母材鋼板までを厚み方向に30μm~80μm程度とする。
前述の化学組成を有する母材鋼板を例にして説明すると、アルミニウムめっき鋼板の断面のアルミニウム濃度の測定値として、アルミニウム(Al)濃度が0.06質量%以下である領域を母材鋼板、アルミニウム濃度が0.06質量%超である領域を金属間化合物層またはアルミニウムめっき層と判断する。また、金属間化合物層およびアルミニウムめっき層のうち、鉄(Fe)濃度が4質量%超である領域を金属間化合物層、鉄濃度が4質量%以下である領域をアルミニウムめっき層と判断する。
なお、母材鋼板と金属間化合物層との境界から金属間化合物層とアルミニウムめっき層との境界までの距離を金属間化合物層の厚みとする。また、金属間化合物層とアルミニウムめっき層との境界からアルミニウムめっき層が形成されたアルミニウムめっき鋼板の表面までの距離をアルミニウムめっき層の厚みとする。
【0054】
アルミニウムめっき層の厚み、及び金属間化合物層の厚みは、アルミニウムめっき鋼板の表面から母材鋼板の表面(母材鋼板および金属間化合物層の境界)までを電子線マイクロアナライザにより線分析し、例えば、次のようにして測定する。
アルミニウムめっき層の厚みは、前述の判断基準にしたがって、アルミニウムめっき層を有するアルミニウムめっき鋼板の表面から金属間化合物層までの厚みを、アルミニウムめっき鋼板の板幅を5等分した5箇所の位置で求め、求めた値の平均値をアルミニウムめっき層の厚みとする。
同様に、金属間化合物層の厚みを測定する場合、アルミニウムめっき鋼板の板幅を5等分した5箇所の位置で金属間化合物層の厚みを求め、求めた値を平均した値を金属間化合物層の厚みとする。
母材鋼板の厚みは、例えば、光学顕微鏡でスケールを用いて、アルミニウムめっき鋼板の板幅を5等分した5箇所の位置で母材鋼板の厚みを求め、求めた値を平均した値を母材鋼板の厚みとする。
【0055】
以上、アルミニウムめっき鋼板について説明したが、本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤと共に用いられるアルミニウムめっき鋼板は、これらに限定されるものではない。
【0056】
(溶接方法)
本開示の溶接継手の製造方法に用いられる溶接方法としては、アルミニウムめっき鋼板の溶け込み幅が小さく溶接金属中にアルミニウムの混入が少ない溶接方法が好ましい。そのような溶接方法としては、狭い領域を加熱できるレーザー溶接、プラズマ溶接、電子ビーム溶接などが挙げられる。特に本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤを用いて溶接する場合、レーザー溶接が好ましい。以下、レーザー溶接の条件について説明する。
【0057】
レーザー出力が3.0kW未満の場合、溶接部の溶け込み深さが浅くなる場合がある。従って、レーザー出力は3.0kW以上とするのがよい。レーザー出力が7.0kW超だと溶融金属の溶け落ちが起こる場合がある。従って、レーザー出力は7.0kW以下とするのがよい。
【0058】
レーザー溶接の速度が4.0m/min(メートル毎分)未満であると、ポロシティ(空洞)が生じる場合がある。従って、レーザー溶接の速度は4.0m/min以上とするのがよい。レーザー溶接の速度が7.0m/min超であると、融液が飛散するなどして溶接ビードの形状がいびつになる場合がある。従って、レーザー溶接の速度は7.0m/min以下とするのがよい。
【0059】
レーザー溶接の際に、シールドガスが溶融池及びその周囲に供給されてもよい。その際、アルゴン、窒素、ヘリウム、二酸化炭素、酸素又はこれらの混合物をシールドガスとして用いてもよい。
【0060】
アルミニウムめっき鋼板を溶接する際の本開示のアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤの供給量は、母材鋼板の組成、板厚、溶接条件に合わせて適宜調整することができる。すなわち、アンダーフィルの発生が無く、裏側への溶融金属の過大な膨出が無いように、フィラーワイヤの供給量を調整する。
【0061】
(溶接金属の硬さ)
本開示の溶接継手の製造方法を用いて製造した溶接継手は、溶接金属中のマルテンサイトの割合が高くなる。マルテンサイト硬さHは、下記式(3)から求められる。
=884C(1-0.3C)+294・・・・・(3)
ここで、Cは、溶接金属の平均C濃度を質量%で表したときの数値を示す。
本開示の溶接継手の溶接金属のホットスタンプ後の硬さは、鋼板のC量、ソリッドワイヤのC量及び溶接条件から推定される溶接金属のC量から推定されるマルテンサイト硬さHに対し、90%以上となる。
【0062】
以上、溶接継手の製造方法を説明したが、本発明の目的を損なわない範囲で適宜変更することができる。
【実施例
【0063】
以下、本発明の効果を実施例により具体的に説明する。
【0064】
アルミニウムめっき鋼板の母材鋼板の化学組成を表1に、ソリッドワイヤの化学組成を表2に示す。本発明の範囲外の数値には下線を付した。意図的に添加しない合金成分は表において空白とした。P、S、Nは意図的に添加した合金元素ではないが、成分分析値を記載した。Alは主に脱酸剤としての役割を担う元素であるが、フェライト生成元素であるため、分析値を記載した。なお、表2中のCu量は、Cuめっきを含めた値である。ソリッドワイヤは表2の化学成分を有する原料を融解させた後、鍛造、圧延、伸線、焼鈍し、表3に記載の最終直径まで伸線した後、表2に示す通りに、一部のソリッドワイヤの表面にCuめっきをして作製した。なお、表3中のJ21及びJ22は、アルミニウムめっき鋼板の端部上下面それぞれについて、板幅方向に中央側に向かって端縁から1.5mmまでの範囲のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を除去し、母材鋼板が露出している露出部を形成している。また、表3中のJ23、J24、J25及びJ26は、上面において、板幅方向に中央側に向かって端縁から0.5mmの位置から、端縁から1.5mmの位置までの範囲のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を除去し、母材鋼板が露出している露出部を形成し、下面において、幅方向に中央側に向かって端縁から1.5mmまでの範囲のアルミニウムめっき層及び金属間化合物層を除去し、母材鋼板が露出している露出部を形成している。表3中のJ23、J24、J25及びJ26のめっき層の厚みは、板幅方向に中央側に向かって端縁から0.5mmまでのアルミニウムめっき層及び金属間化合物層の平均厚みの合計を示す。また、表3中のJ27及びJ28は、幅方向に中央側に向かって端縁から1.5mmまでの範囲のアルミニウムめっき層をレーザーで除去し、金属間化合物層が露出している露出部を形成している。表3中のJ27及びJ28のめっき層の厚みは、レーザーでアルミニウムめっき層を除去した後の金属間化合物層の厚みを示す。
【0065】
【表1】
【0066】
【表2】
【0067】
次に、表3に示す鋼板A及び鋼板Bを用意し、鋼板A及び鋼板Bの端面を突合せて、表3に記載のソリッドワイヤを供給しながら、レーザー溶接により突合せ溶接を行い、溶接継手を作製した。なお、表3のめっき厚みはアルミニウムめっき層の平均厚み及び金属間化合物層の平均厚みの合計を示す。レーザー溶接は、レーザー出力3.0kW(キロワット)~7.0kW、溶接速度4.0m/min(メートル毎分)~7.0m/minの条件で貫通溶接するように調整した。ソリッドワイヤはアンダーフィルの発生が無く、裏側への溶融金属の過大な膨出が無いように、供給量を調整した。得られた溶接継手を950℃に加熱した炉で4分間加熱し、その後水冷した金型で成形、焼入れしてホットスタンプ成形品を作製した。
【0068】
(ビッカース硬さ試験)
得られた溶接継手に対し、JIS Z 2244(2009)に準拠しビッカース硬さを測定した。測定方法について以下に説明する。
得られた溶接継手を溶接線の半分の位置で、溶接線に対し垂直な方向に切断する。得られた断面において、溶接金属の幅中央を通り、アルミニウムめっき鋼板の厚み方向に平行な線を測定を行う測定線Fとする(図1の測定線F)。ここで、溶接金属200の幅中央とは、アルミニウムめっき鋼板の厚み方向に垂直な方向で、アルミニウムめっき鋼板100(鋼板A)側で溶接金属が最も狭くなる位置(最もアルミニウムめっき鋼板100(鋼板A)が溶接金属側に入り込んだ位置)とアルミニウムめっき鋼板110(鋼板B)側で溶接金属が最も狭くなる位置(最もアルミニウムめっき鋼板110(鋼板B)が溶接金属側に入り込んだ位置)との間の中心をいう。ビッカース硬さは測定線F上にある溶接金属200の中心D(図1の中心D)において、荷重0.5kgfで行う。さらに、測定線F上、且つ中心Dの上2点、下2点で測定し、それらの平均値を溶接金属の硬さとする。各測定後の圧痕の中心間の距離は、圧痕の対角線長さの3倍以上とする。なお、測定範囲は、測定線上の溶接金属の長さをLとしたときに、上下に1/4Lの範囲とする。
評価の基準とする溶接金属の硬さの推定値Hvは、アルミニウムめっき鋼板100(鋼板A)のC量、アルミニウムめっき鋼板110(鋼板B)のC量及びソリッドワイヤのC量と溶接条件とから導いた溶接金属の平均C濃度を用い下記式(4)から求めた。
Hv=884C(1-0.3C)+294・・・・・(4)
ここでHvは溶接金属の推定硬さ(単位:HV0.5)、Cは、溶接金属の平均C濃度を質量%で表したときの数値を示す。
測定して得られた溶接金属の硬さ(実測値)が、この計算された推定硬さに対して90%以上を合格とした。
【0069】
(引張試験)
得られた溶接継手を用い、JIS Z 2241(2011)に準拠して、溶接線が負荷方向に対して垂直に配置したJIS5号試験片を作製した。作製したJIS5号試験片を用い、JIS Z 2241(2011)に基づき引張試験を行った。引張試験速度は10mm/min一定とした。試験後の破断経路が鋼板A側であれば合格とし、破断経路が溶接金属の場合は不合格とした。
【0070】
これらの試験の結果を表3に示す。本発明の範囲外のワイヤNo.には下線を付した。
【0071】
【表3】
【0072】
表3に示すように、本発明例に係る継手No.J1~J10、J15~J24、J29~J36は、ソリッドワイヤの化学組成が適正であるため、硬さに優れた溶接金属を形成することができた。
【0073】
比較例に係る継手No.J11は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0074】
比較例に係る継手No.J12は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0075】
比較例に係る継手No.J13は、Si含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0076】
比較例に係る継手No.J14は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0077】
比較例に係る継手No.J25は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0078】
比較例に係る継手No.J26は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0079】
比較例に係る継手No.J27は、Si含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0080】
比較例に係る継手No.J28は、Mo含有量が適正範囲外であるため、溶接金属の硬さが基準を下回り、破断経路も溶接金属であった。
【0081】
本発明によれば、アルミニウムめっき鋼板を溶接した際にアルミニウムが溶接金属に混入したとしても、高い硬さを有する溶接金属を形成することができるアルミニウムめっき鋼板の溶接用ソリッドワイヤ及び溶接継手の製造方法を提供することができるため、産業上の利用可能性が高い。
【符号の説明】
【0082】
12 母材鋼板
14 アルミニウムめっき層
16 金属間化合物層
100 アルミニウムめっき鋼板
110 アルミニウムめっき鋼板
200 溶接金属
300 溶接継手
図1