(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】鋼板
(51)【国際特許分類】
C22C 38/00 20060101AFI20230512BHJP
C22C 38/58 20060101ALI20230512BHJP
C21D 9/46 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
C22C38/00 301W
C22C38/58
C21D9/46 T
C21D9/46 U
(21)【出願番号】P 2022508240
(86)(22)【出願日】2021-03-09
(86)【国際出願番号】 JP2021009279
(87)【国際公開番号】W WO2021187238
(87)【国際公開日】2021-09-23
【審査請求日】2022-08-29
(31)【優先権主張番号】P 2020049120
(32)【優先日】2020-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149548
【氏名又は名称】松沼 泰史
(74)【代理人】
【識別番号】100140774
【氏名又は名称】大浪 一徳
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(74)【代理人】
【識別番号】100217249
【氏名又は名称】堀田 耕一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100221279
【氏名又は名称】山口 健吾
(74)【代理人】
【識別番号】100207686
【氏名又は名称】飯田 恭宏
(74)【代理人】
【識別番号】100224812
【氏名又は名称】井口 翔太
(72)【発明者】
【氏名】吉田 充
(72)【発明者】
【氏名】谷口 俊介
(72)【発明者】
【氏名】林 宏太郎
(72)【発明者】
【氏名】首藤 洋志
【審査官】鈴木 毅
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2013/099206(WO,A1)
【文献】特開2013-133485(JP,A)
【文献】国際公開第2013/111556(WO,A1)
【文献】特開2013-124393(JP,A)
【文献】国際公開第2014/051005(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/022025(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00 - 38/60
C21D 8/00 - 8/04
C21D 9/46 - 9/48
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学組成が、質量%で、
C:0.050~0.250%、
Si:0.005~2.000%、
Mn:0.10~3.00%、
P:0.100%以下、
S:0.0100%以下、
sol.Al:0.001~1.00%、
Ti:0.150~0.400%、
N:0.0010~0.0100%、
Nb:0~0.100%、
V:0~1.000%、
Mo:0~1.000%、
Cu:0~1.00%、
Ni:0~1.00%、
Cr:0~2.00%、
W:0~1.000%、
B:0~0.0020%、
Ca:0~0.0100%、
Mg:0~0.0100%、
REM:0~0.0100%、
Bi:0~0.0200%、
を含有し、残部がFe及び不純物からなり、
下記(1)式で求められるEx.Cが0.020%以下であり、
表面から板厚の1/4深さの位置における金属組織が、面積分率で、フェライトを60%以上、MAを0~5%、パーライト及びセメンタイトを合計で0~5%含み、残部がベイナイトからなり、
前記金属組織において、
平均結晶粒径が10.0μm以下であり、
結晶粒の平均アスペクト比が0.30以上であり、
Mn濃度の標準偏差が0.60質量%以下であり、
前記フェライト中におけるBaker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物が、半整合状態で析出しており、
引張強度が980MPa以上である、
ことを特徴とする鋼板。
Ex.C=(%C)-12{(%Ti
*)/48+(%V)/51+(%Nb)/93+(%Mo)/96+(%W)/184} (1)式
ここで、前記(1)式中の「%Ti
*」は、以下の(2)式から求める。
%Ti
*=%Ti-48×{(%N)/14+(%S)/32} (2)式
前記(1)式、前記(2)式中の%C、%V、%Nb、%Mo、%W、%Ti、%N、%Sは、鋼板中の質量%でのC、V、Nb、Mo、W、Ti、N、Sの含有量である。
【請求項2】
前記化学組成が、質量%で、
Nb:0.001~0.100%、
V:0.005~1.000%、
Mo:0.001~1.000%、
Cu:0.02~1.00%、
Ni:0.02~1.00%、
Cr:0.02~2.00%、
W:0.02~1.000%、
B:0.0001~0.0020%、
Ca:0.0002~0.0100%、
Mg:0.0002~0.0100%、
REM:0.0002~0.0100%、および、
Bi:0.0001~0.0200%
からなる群から選択される1種または2種以上を含有する
ことを特徴とする請求項1に記載の鋼板。
【請求項3】
表面に、めっき層が形成されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼板。
【請求項4】
前記めっき層が、溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項3に記載の鋼板。
【請求項5】
前記溶融亜鉛めっき層が、合金化溶融亜鉛めっき層であることを特徴とする、請求項4に記載の鋼板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼板に関する。
本願は、2020年03月19日に、日本に出願された特願2020-049120号に基づき優先権を主張し、その内容をここに援用する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球環境保護の観点から、多くの分野において炭酸ガス排出量削減に取り組んでいる。自動車メーカーにおいても低燃費化を目的とした車体軽量化の技術開発が盛んに行われている。鋼板の板厚を薄くするなど、使用する鋼材の重量を軽くすれば、容易に車体を軽量化することができる。しかしながら、自動車の場合、乗員安全確保のために耐衝突特性の向上にも重点が置かれるので、安易な鋼材の使用重量の低減などによる車体軽量化は採用できず、車体軽量化は容易ではない。そこで、車体軽量化と耐衝突特性とを両立させるべく、高強度鋼板を用いて部材を薄肉化することが検討されている。一方で、自動車部品へ適用される鋼板は、部品形状に成形されるが、鋼板の強度が上昇すると、通常、成形性が劣化する。このため、自動車部品へ適用される鋼板に対しては、高い強度と優れた成形性とを兼備することが強く望まれている。具体的には、自動車の内板部材、構造部材、足廻り部材等に用いられる鋼板では、伸びフランジ加工(穴広げ加工)や曲げ加工が多用されるため、高強度でかつ、伸び、伸びフランジ性、及び曲げ加工性に優れることが求められる。
【0003】
例えば特許文献1に示されるように、優れた伸びを得られる鋼板として、軟質なフェライト相と硬質なマルテンサイト相との複合組織で構成されるDual Phase鋼板(以下DP鋼)が知られている。しかしながら、DP鋼板は伸びに優れる一方で、著しく硬度の異なるフェライト相とマルテンサイト相との界面からボイドが発生して割れが生じる場合があるので、伸びフランジ性や曲げ加工性に劣る場合があった。
【0004】
また、特許文献2には、スラブが凝固してから1300℃までの温度域の冷却速度を10~300℃/分とし、仕上げ圧延後は500℃以上700℃以下で巻き取ることにより得られる、鋼組織がフェライト単相からなり、引張強度が1180MPa以上である高強度熱延鋼板が提案されている。特許文献2には、この高強度熱延鋼板が曲げ加工性に優れると開示されている。しかしながら、特許文献2に記載の高強度熱延鋼板は、スラブをフェライト相が生成し始める900℃未満に冷却することなく再加熱し、熱間圧延に供されていることで製造される。そのため、凝固時に形成された偏析が十分に軽減されておらず、曲げ加工性が安定しない場合があるという課題があった。また、特許文献2において、伸びフランジ性は考慮されていない。
【0005】
特許文献3には、連続鋳造後5時間以内に熱間圧延を完了させることにより溶解度を超えるTiをγ中に固溶させ、550℃以上700℃以下の巻取り中にフェライト変態と共に微細なTiCを析出させることにより、フェライト面積分率が80%以上で980MPa以上の引張強度を有する鋼板を製造する方法、及びその製造方法によって得られる高強度熱延鋼板が提案されている。しかしながら、特許文献3においても粗大なTiCの析出を抑制するために、連続鋳造から熱間仕上げ圧延完了までをオーステナイト域で行うため、Mn偏析による曲げ加工性の低下が生じる場合があった。また、特許文献3においても、特許文献2と同様、伸びフランジ性は考慮されていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】日本国特開平6-128688号公報
【文献】日本国特開2014-194053号公報
【文献】日本国特開2014-208876号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上述した課題に鑑みてなされたものであり、高強度であり、且つ、伸び、伸びフランジ性、及び曲げ加工性に優れた鋼板を提供することを目的とする。ここで、本発明の鋼板は、表面にめっき層などの被覆を有する鋼板も含む。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、強度、伸び、伸びフランジ性及び曲げ加工性の全てが高い鋼板について検討した。その結果、化学組成及び製造条件の最適化により、鋼板の金属組織とMn偏析とを制御し、かつ、Ti系炭化物の析出形態を制御することにより、高強度であり、且つ、伸び、伸びフランジ性及び曲げ加工性に優れた鋼板を製造できることを知見した。
【0009】
本発明は、上記知見に基づいてなされたもので、その要旨は以下の通りである。
【0010】
[1]本発明の一態様に係る鋼板は、化学組成が、質量%で、C:0.050~0.250%、Si:0.005~2.000%、Mn:0.10~3.00%、P:0.100%以下、S:0.0100%以下、sol.Al:0.001~1.00%、Ti:0.150~0.400%、N:0.0010~0.0100%、Nb:0~0.100%、V:0~1.000%、Mo:0~1.000%、Cu:0~1.00%、Ni:0~1.00%、Cr:0~2.00%、W:0~1.000%、B:0~0.0020%、Ca:0~0.0100%、Mg:0~0.0100%、REM:0~0.0100%、Bi:0~0.0200%、を含有し、残部がFe及び不純物からなり、下記(1)式で求められるEx.Cが0.020%以下であり、表面から板厚の1/4深さの位置における金属組織が、面積分率で、フェライトを60%以上、MAを0~5%、パーライト及びセメンタイトを合計で0~5%含み、残部がベイナイトからなり、前記金属組織において、平均結晶粒径が10.0μm以下であり、結晶粒の平均アスペクト比が0.30以上であり、Mn濃度の標準偏差が0.60質量%以下であり、前記フェライト中におけるBaker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物が、半整合状態で析出しており、引張強度が980MPa以上である。
Ex.C=(%C)-12{(%Ti*)/48+(%V)/51+(%Nb)/93+(%Mo)/96+(%W)/184} (1)式
ここで、前記(1)式中の「%Ti*」は、以下の(2)式から求める。
%Ti*=%Ti-48×{(%N)/14+(%S)/32} (2)式
前記(1)式、前記(2)式中の%C、%V、%Nb、%Mo、%W、%Ti、%N、%Sは、鋼板中の質量%でのC、V、Nb、Mo、W、Ti、N、Sの含有量である。
[2][1]に記載の鋼板は、前記化学組成が、質量%で、Nb:0.001~0.100%、V:0.005~1.000%、Mo:0.001~1.000%、Cu:0.02~1.00%、Ni:0.02~1.00%、Cr:0.02~2.00%、W:0.02~1.000%、B:0.0001~0.0020%、Ca:0.0002~0.0100%、Mg:0.0002~0.0100%、REM:0.0002~0.0100%、および、Bi:0.0001~0.0200%からなる群から選択される1種または2種以上を含有してもよい。
[3][1]または[2]に記載の鋼板は、表面に、めっき層が形成されていてもよい。[4][3]に記載の鋼板は、前記めっき層が、溶融亜鉛めっき層であってもよい。
[5][4]に記載の鋼板は、前記溶融亜鉛めっき層が、合金化溶融亜鉛めっき層であってもよい。
【発明の効果】
【0011】
本発明の上記態様によれば、高強度であり、且つ、伸び、伸びフランジ性及び曲げ加工性に優れた鋼板を提供することができる。本発明の鋼板は、自動車用、家電用、機械構造用、建築用などの用途に用いられる素材として好適であり、特に、自動車の内板部材、構造部材、足廻り部材等の部品の素材として使用すれば、車体軽量化及び耐衝突特性の向上に寄与するだけでなく、部品形状に加工することが容易である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態に係る鋼板(本実施形態に係る鋼板)について以下に詳しく説明する。ただし、本発明は本実施形態に開示の構成のみに制限されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0013】
まず、本実施形態に係る鋼板の化学組成について説明する。
以下に記載する「~」を挟んで表示される数値限定範囲には、その両端の値が、下限値および上限値として範囲に含まれる。ただし、「未満」または「超」と示す数値は、その値が数値範囲に含まれない。以下の説明において、鋼板の化学組成に関する%はいずれも質量%である。
【0014】
<鋼板の化学組成>
(C:0.050~0.250%)
Cは、Ti等と結合して炭化物を生成させることで鋼の引張強度を高める元素である。C含有量が0.050%未満では980MPa以上の引張強度が得難くなる。したがって、C含有量は0.050%以上とする。好ましくは0.070%以上とする。
一方、C含有量が0.250%超では溶接性の低下が懸念される。したがって、C含有量は0.250%以下とする。C含有量は、好ましくは0.220%以下、より好ましくは0.200%以下、より一層好ましくは0.180%以下である。
【0015】
(Si:0.005~2.000%)
Siは、固溶強化によって、および焼入性を高めることによって、鋼の引張強度を高める作用を有する元素である。また、Siは、セメンタイトの析出を抑制する作用も有する元素である。Si含有量が0.005%未満では、上記作用を発揮させることが困難となる。したがって、Si含有量は0.005%以上とする。Si含有量は、好ましくは0.010%以上である。
一方、Si含有量が2.000%超では、熱間圧延工程における表面酸化により、鋼板の表面性状が著しく劣化する。したがって、Si含有量は2.000%以下とする。Si含有量は、好ましくは1.500%以下、より好ましくは1.300%以下である。
【0016】
(Mn:0.10~3.00%)
Mnは、固溶強化によって、および焼入性を高めることによって、鋼の引張強度を高める作用を有する元素である。Mn含有量が0.10%未満ではフェライト変態が過度に促進されてしまい、高温でフェライト変態と共にTi系炭化物が粗大に析出する。この場合、980MPa以上の鋼板の引張強度が得難くなる。したがって、Mn含有量は0.10%以上とする。Mn含有量は、好ましくは0.30%以上であり、より好ましくは0.50%以上である。
一方、Mn含有量が3.00%超では、フェライト変態及びベイナイト変態が遅延して、所望のフェライト面積分率が得られない。この場合、伸びが低下したり、MAが生成することによって伸びフランジ性や曲げ加工性が低下したりする。したがって、Mn含有量は3.00%以下とする。Mn含有量は、好ましくは2.50%以下、より好ましくは2.00%以下、より一層好ましくは1.50%以下である。
【0017】
(sol.Al:0.001~1.00%)
Alは、製鋼段階で脱酸により鋼を清浄化する作用を有する元素である。sol.Al含有量が0.001%未満では、上記作用を発揮させることが困難となる。したがって、sol.Al含有量は0.001%以上とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.01%以上、より好ましくは0.02%以上、さらに好ましくは0.03%以上である。
一方、sol.Al含有量を1.00%超としても、上記作用による効果が飽和するとともに、精錬コストが上昇する。したがって、sol.Al含有量は1.00%以下とする。sol.Al含有量は、好ましくは0.80%以下、より好ましくは0.60%以下である。sol.Alは酸可溶性Alを意味する。
【0018】
(Ti:0.150~0.400%)
Tiは、Cと結合してTi系炭化物を形成し、鋼板の引張強度の向上に寄与する元素である。また、Tiは、Ti窒化物を形成してスラブ再加熱時及び熱間圧延中のオーステナイトの粗大化を抑制して、金属組織を微細化する作用を有する元素である。Ti含有量が0.150%未満では析出強化量の不足により980MPa以上の引張強度が得難くなる。したがって、Ti含有量は0.150%以上とする。Ti含有量は、好ましくは0.170%以上であり、より好ましくは0.190%以上であり、より一層好ましくは0.210%以上である。
一方、Ti含有量が過剰になると、オーステナイト中に粗大なTi系炭化物が未固溶で残存することによって伸びや曲げ加工性が低下するとともに、強度に寄与するBaker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物が減少して強度が低下する。したがって、Ti含有量は0.400%以下とする。Ti含有量は、好ましくは0.380%以下であり、より好ましくは0.350%以下である。
【0019】
(N:0.0010~0.0100%)
Nは、Ti窒化物を形成することによって、スラブ再加熱時及び熱間圧延中のオーステナイトの粗大化を抑制して、金属組織を微細化する作用を有する元素である。N含有量が0.0010%未満では上記作用を発揮させることが困難となる。したがって、N含有量は0.0010%以上とする。N含有量は、好ましくは0.0015%以上、より好ましくは0.0020%以上である。
一方、N含有量が0.0100%超では、粗大なTi窒化物が形成され、鋼板の伸びフランジ性が劣化する。したがって、N含有量は0.0100%以下とする。N含有量は、好ましくは0.0060%以下、より好ましくは0.0050%以下である。
【0020】
(P:0.100%以下)
Pは、不純物として鋼中に含有される元素であり、鋼板の伸びフランジ性や曲げ加工性を低下させる作用を有する。そのため、P含有量は0.100%以下とする。P含有量は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.040%以下、より一層好ましくは0.020%以下である。Pは原料から不純物として混入するが、その下限を特に制限する必要はなく、曲げ加工性を確保する観点からはP含有量はより低い方が好ましい。ただし、P含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。製造コストの観点からは、P含有量は、好ましくは0.001%以上、より好ましくは0.005%以上である。
【0021】
(S:0.0100%以下)
Sは、不純物として含有される元素であり、鋼板の伸びフランジ性や曲げ加工性を低下させる作用を有する。そのため、S含有量は0.0100%以下とする。S含有量は、好ましくは0.0080%以下、より好ましくは0.0060%以下、より一層好ましくは0.0030%以下である。Sは原料から不純物として混入するが、その下限を特に制限する必要はなく、曲げ加工性を確保する観点からはS含有量はより低い方が好ましい。ただし、S含有量を過剰に低減すると、製造コストが増加する。製造コストの観点からは、S含有量は好ましくは0.0001%以上、より好ましくは0.0005%以上、より一層好ましくは、0.0010%以上である。
【0022】
本実施形態に係る鋼板の化学組成の残部は、Feおよび不純物からなる。本実施形態において、不純物とは、原料としての鉱石、スクラップ、または製造環境等から混入されるものであって、本実施形態に係る鋼板に悪影響を与えない範囲で許容されるものを意味する。
本実施形態に係る鋼板は、Feの一部に代え、以下の任意元素を含有してもよい。任意元素を含有させなくても本実施形態に係る鋼板はその課題を解決することができるので、任意元素の含有量の下限は0%である。
【0023】
(Nb:0~0.100%)
Nbは任意元素である。Nbは、鋼板の結晶粒径の粗大化を抑制するとともに、フェライト粒径を微細化することにより、またNbCとして析出して析出強化により、鋼板の引張強度を高める効果を有する元素である。これらの効果を得るには、Nb含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Nb含有量は、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上である。
一方、Nb含有量が0.100%を超えると、上記効果が飽和するとともに、仕上げ圧延時の圧延荷重の増加が懸念される。そのため、Nbを含有する場合、Nb含有量は、0.100%以下とする。Nb含有量は、好ましくは0.060%以下、より好ましくは0.030%以下である。
【0024】
(V:0~1.000%)
Vは任意元素である。Vは、鋼中に固溶して鋼板の引張強度を高めるとともに、炭化物や窒化物、炭窒化物等として鋼中に析出し、析出強化によっても鋼板の引張強度を向上させる効果を有する元素である。これらの効果を得るには、V含有量を0.005%以上とすることが好ましい。V含有量は、より好ましくは0.010%以上、更に好ましくは0.050%以上である。
一方、V含有量が1.000%を超えると炭化物が粗大化しやすくなり、曲げ加工性が低下する場合がある。そのため、Vを含有する場合、V含有量は1.000%以下とする。V含有量は、好ましくは0.800%以下、より好ましくは0.600%以下である。
【0025】
(Mo:0~1.000%)
Moは任意元素である。Moは、鋼の焼入れ性を高めるとともに、炭化物や炭窒化物を形成して鋼板を高強度化する効果を有する元素である。これらの効果を得るには、Mo含有量を0.001%以上とすることが好ましい。Mo含有量は、より好ましくは0.005%以上、さらに好ましくは0.010%以上、より一層好ましくは0.050%以上である。
一方、Mo含有量が1.000%を超えると、スラブなどの鋼素材の割れ感受性が高まる場合がある。そのため、Moを含有する場合、Mo含有量は1.000%以下とする。Mo含有量は、より好ましくは0.800%以下、さらに好ましくは0.600%以下である。
【0026】
(Cu:0~1.00%)
Cuは任意元素である。Cuは、鋼の靭性を改善する効果および引張強度を高める効果を有する元素である。これらの効果を得るには、Cu含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
一方、Cuを過剰に含有させると鋼板の溶接性が低下する場合がある。そのため、Cuを含有する場合、Cu含有量は1.00%以下とする。Cu含有量は、好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.30%以下である。
【0027】
(Ni:0~1.00%)
Niは任意元素である。Niは、鋼の靭性を改善する効果および引張強度を高める効果を有する元素である。これらの効果を得るには、Ni含有量を0.02%以上とすることが好ましい。
一方、Niを過剰に含有させると合金コストが嵩み、また、鋼板の溶接熱影響部の靭性が劣化する場合がある。そのため、Niを含有する場合、Ni含有量は1.00%以下とする。Ni含有量は好ましくは0.50%以下、より好ましくは0.30%以下である。
【0028】
(Cr:0~2.00%)
Crは任意元素である。Crは、鋼の焼入れ性を高めることにより、引張強度を高める効果を有する元素である。この効果を得るには、Cr含有量を0.02%以上とすることが好ましい。Cr含有量は、より好ましくは0.05%以上、さらに好ましくは0.10%以上である。
一方、Cr含有量が過剰になると、化成処理性が劣化する。そのため、Crを含有する場合、Cr含有量は、2.00%以下とする。Cr含有量は、好ましくは1.50%以下、より好ましくは1.00%以下、さらに好ましくは0.50%以下である。
【0029】
(W:0~1.000%)
Wは任意元素である。Wは、炭化物や炭窒化物を形成して引張強度を高める効果を有する元素である。この効果を得るには、W含有量を0.020%以上とすることが好ましい。
一方、Wを一定以上含有させても、上記作用の効果は飽和する上、合金コストが上昇する。そのため、Wを含有する場合、W含有量は1.000%以下とする。W含有量は、好ましくは0.800%以下である。
【0030】
(B:0~0.0020%)
Bは任意元素である。Bは、粒界強化や固溶強化により鋼板の引張強度を高める効果を有する元素である。この効果を得るには、B含有量を0.0001%以上とすることが好ましい。B含有量は、より好ましくは0.0002%以上である。
一方、0.0020%を超えてBを含有させても上記効果が飽和するだけでなく、合金コストが増加する。そのため、Bを含有する場合、B含有量は0.0020%以下とする。B含有量は、より好ましくは0.0015%以下である。
【0031】
(Ca:0~0.0100%)
Caは任意元素である。Caは溶鋼中に微細な酸化物を多数分散させ、鋼板の金属組織を微細化させる効果を有する元素である。また、Caは、溶鋼中のSを球状のCaSとして固定して、MnSなどの延伸介在物の生成を抑制することにより、鋼板の伸びフランジ性を向上させる効果を有する元素である。これらの効果を得るには、Ca含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。Ca含有量は、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上である。
一方、Ca含有量が0.0100%を超えると、鋼中のCaOの量が増加し、鋼板の靭性が劣化する場合がある。そのため、Caを含有する場合、Ca含有量は0.0100%以下とする。Ca含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
【0032】
(Mg:0~0.0100%)
Mgは任意元素である。MgはCaと同様に溶鋼中に酸化物や硫化物を形成して、粗大なMnSの形成を抑制するとともに、微細な酸化物を多数分散させ、鋼板の金属組織を微細化する効果を有する元素である。これらの効果を得るには、Mg含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。Mg含有量は、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上である。
一方、Mg含有量が0.0100%を超えると、鋼中の酸化物が増加し、鋼板の靭性が劣化する場合がある。そのため、Mgを含有する場合、Mg含有量は、0.0100%以下とする。Mg含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
【0033】
(REM:0~0.0100%)
REMは任意元素である。REMもCaと同様に、溶鋼中に酸化物や硫化物を形成して、粗大なMnSの形成を抑制するとともに、微細な酸化物を多数分散させ、鋼板の金属組織を微細化する効果を有する元素である。これらの効果を得る場合、REM含有量を0.0002%以上とすることが好ましい。REM含有量は、より好ましくは0.0005%以上、さらに好ましくは0.0010%以上である。
一方、REM含有量が0.0100%を超えると鋼中の酸化物が増加し、鋼板の靭性が劣化する場合がある。そのため、REMを含有する場合、REM含有量は0.0100%以下とする。REM含有量は、好ましくは0.0050%以下、より好ましくは0.0030%以下である。
ここで、REM(希土類)とは、Sc、Y及びランタノイドからなる合計17元素を指す。本実施形態では、REM含有量とはこれらの元素の合計含有量を指す。
【0034】
(Bi:0~0.0200%)
Biは、任意元素である。Biは、凝固組織を微細化して、鋼板の成形性を向上させる効果を有する元素である。この効果を得るには、Bi含有量は、0.0001%以上とすることが好ましい。Bi含有量は、より好ましくは0.0005%以上である。
一方、Bi含有量が0.0200%を超えると、上記効果が飽和するとともに合金コストが増加する。そのため、Biを含有する場合、Bi含有量は0.0200%以下とする。好ましくは0.0100%以下であり、より好ましくは0.0070%以下である。
【0035】
(Ex.C:0.020%以下)
Cは、Ti系炭化物として析出し、鋼板の高強度化に寄与する。しかしながら、Ti系炭化物として析出する量を超えてCが含有されていると、この過剰なCが、パーライトやセメンタイト、MAなどを生成させて、その結果、伸びフランジ性や曲げ加工性が低下する。
下記(1)式で求められるEx.Cは、Ti系炭化物として析出する量を超えたC含有量に相当する。本実施形態に係る鋼板では、このEx.Cを、0.020%以下とする。好ましくは0.018%以下であり、より好ましくは0.015%以下である。下限は特に限定しない。
Ex.C=(%C)-12{(%Ti*)/48+(%V)/51+(%Nb)/93+(%Mo)/96+(%W)/184} (1)式
ここで、(1)式中の「%Ti*」は、以下の(2)式から求める。
%Ti*=%Ti-48×{(%N)/14+(%S)/32} (2)式
(1)式、(2)式中の%C、%V、%Nb、%Mo、%W、%Ti、%N、%Sは、それぞれ、鋼板中の質量%でのC、V、Nb、Mo、W、Ti、N、Sの含有量である。
【0036】
次に、鋼板の金属組織について説明する。本実施形態に係る鋼板は、表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織が、フェライトを60%以上、MAを0~5%、パーライト及びセメンタイトを合計で0~5%含み、残部がベイナイトからなる。また、金属組織において、平均結晶粒径が10.0μm以下であり、結晶粒の平均アスペクト比が0.30以上であり、Mn濃度の標準偏差が0.60質量%以下である。また、フェライト中におけるBaker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物が、半整合状態で析出している。
ここで、鋼板の表面から板厚方向に板厚の1/4深さの位置(板厚をtとした場合に表面からt/4の位置)における金属組織を規定する理由は、この位置における金属組織が、鋼板の代表的な金属組織であるためである。
【0037】
(フェライトの面積分率:60%以上)
(MAの面積分率:0~5%)
(パーライト及びセメンタイトの合計面積分率:0~5%)
(残部:ベイナイト組織)
フェライトは、良好な伸びを得るために必要である。面積分率が60%未満では伸びが低下する。したがって、フェライトの面積分率は60%以上とする。フェライトの面積分率は、好ましくは70%以上であり、より好ましくは80%以上であり、100%(すなわち、フェライト単相)であってもよい。
金属組織は、フェライト以外に、少量のMAを含む場合があるが、面積分率が5%以下であれば許容される。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下である。また、パーライト及びセメンタイトが析出する場合があるが、合計の面積分率が5%以下であれば許容される。好ましくは4%以下、より好ましくは3%以下、最も好ましくは2%以下である。MAの面積分率が5%超であると、曲げ加工性及び穴広げ性が低下する。または、パーライト及びセメンタイトの面積分率が5%超であると、穴広げ性が低下する。
金属組織において、上記以外の残部はベイナイトからなる。ベイナイトはTi系炭化物で析出強化されたフェライトとの硬度差が小さい。そのため、MA(Martensite-Austenite constituents)、パーライト及びセメンタイトと比較して、穴広げ性を低下させる効果が小さい。したがって、残部組織はベイナイトとする。
【0038】
(平均結晶粒径:10.0μm以下)
平均結晶粒径が大きいと曲げ加工性が低下する。そのため、金属組織において、平均結晶粒径は10.0μm以下とする。好ましくは8.0μm以下である。平均結晶粒径は小さいほど好ましいので下限は特に限定されない。しかしながら、通常の熱間圧延では、平均結晶粒径が1.0μmを下回るような細粒化は技術的に困難である。そのため、平均結晶粒径は1.0μm以上としてもよい。
本実施形態において「平均結晶粒径」とは、結晶構造がbccのもの、すなわちフェライト、ベイナイト、マルテンサイト及びパーライトにおいて結晶方位差15°以上の粒界で囲まれ、かつ円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義した結晶粒径の平均値を意味し、残留オーステナイトの結晶粒径は平均結晶粒径に含めない。
【0039】
(結晶粒の平均アスペクト比:0.30以上)
本実施形態では、bcc結晶粒の平均アスペクト比が0.30以上である。アスペクト比とは結晶粒の短軸の長さを長軸の長さで除した値であり、0から1.00の値を取る。結晶粒の平均アスペクト比が小さいほど結晶粒が扁平であり、1.00に近いほど等軸粒であることを表す。結晶粒の平均アスペクト比が0.30未満では扁平な結晶粒が多く、材質の異方性が大きくなり伸びフランジ性及び曲げ加工性が低下する。そのため、残留オーステナイトを除く結晶粒の平均アスペクト比は0.30以上とする。結晶粒が等軸に近づくほど異方性が小さくなり、加工性に優れるため、残留オーステナイトを除く結晶粒の平均アスペクト比は1.00に近いほど良い。
【0040】
本実施形態において、平均結晶粒径、結晶粒の平均アスペクト比、及び金属組織の面積分率は、圧延方向及び板厚方向に平行な鋼板断面の、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織を、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡とEBSD検出器とで構成されたEBSD解析装置を用いて、走査電子顕微鏡(SEM)観察とEBSD(Electron Back Scattering DiffracTion:電子線後方散乱回折法)解析により求める。鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置を中心とする、圧延方向に200μm、板厚方向に100μmの領域を、0.2μm間隔でfccとbccとを区別して結晶方位情報を得る。EBSD解析装置の付属ソフトウェア(AMETEK社製「OIMAnalysis(登録商標)」)を用いて、結晶方位差が15°以上である結晶粒界を特定する。bccの平均結晶粒径は、結晶方位差15°以上である結晶粒界で囲まれ、円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義して、面積平均径を求める。
【0041】
15°以上の結晶方位差を有する結晶粒界は主に、フェライト粒界、マルテンサイト及びベイナイトのブロック境界である。JIS G 0552:2013に準じたフェライト粒径の測定方法では、結晶方位差が15°未満のフェライト粒についても粒径が算定されてしまう場合があり、さらに、マルテンサイトやベイナイトのブロックは算定されない。したがって、本実施形態における平均結晶粒径は、上述のようにEBSD解析により求めた値を採用する。EBSD解析では、同時に、各々の結晶粒の長軸の長さ及び短軸の長さも求められるため、本方法を採用することにより、bccの結晶粒の平均アスペクト比も求められる。
【0042】
フェライトの面積分率は、次のような方法で測定する。ここで、結晶方位差が5°以上の結晶粒界で囲まれ、かつ円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義する。その結晶粒内の、OIMAnalysisに装備されているGrain Average Misorientation解析により求められる値(GAM値)が0.6°以下である結晶粒の面積分率を算出する。このような方法により、フェライトの面積分率を得る。フェライトの面積分率を求める際に結晶方位差5°以上の境界を結晶粒界と定義する理由は、同一の旧オーステナイト粒から近いバリアントで生成した異なる金属組織が区別出来ない場合があるためである。
パーライトおよびセメンタイトの面積分率はナイタール腐食により現出した金属組織をSEM観察することで得る。MAの面積分率は、レペラ腐食により現出した組織を光学顕微鏡で観察することにより得る。面積分率は、画像解析により求めてもよく、点算法で求めてもよい。例えば、パーライト及びセメンタイトは、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置の領域において1000倍の倍率にて3視野以上(100μm×100μm/視野)観察し、格子間隔5μmの点算法で求めてよい。また、MAの面積分率は、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置の領域において500倍の倍率にて2視野以上(200μm×200μm/視野)観察し、格子間隔5μmの点算法で求めてよい。
【0043】
(Mn濃度の標準偏差:0.60質量%以下)
本実施形態に係る鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置における、Mn濃度の標準偏差は0.60質量%以下である。これにより、Mn偏析に伴う局所的な引張強度のバラツキが低減されて、良好な曲げ加工性を安定して得ることができる。Mn濃度の標準偏差の値は小さいほど望ましいが、製造プロセスの制約より、実質的な下限は0.10質量%である。
【0044】
Mn濃度の標準偏差は、鋼板の圧延方向及び板厚方向に平行な断面が観察面となるように試料を採取し、観察面を鏡面研磨した後に、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)で測定することにより得られる。測定条件は加速電圧を15kVとし、倍率を5000倍として試料の圧延方向に20μm及び試料の板厚方向に20μmの範囲の分布像を測定する。より具体的には、測定間隔を0.1μmとし、40000か所以上のMn濃度を測定する。次いで、全測定点から得られたMn濃度に基づいて標準偏差を算出することで、Mn濃度の標準偏差を得る。
【0045】
(Ti系炭化物)
本実施形態に係る鋼板では、フェライト中に、Tiを含有する炭化物(Ti系炭化物)が析出する。Tiは、フェライト中での炭化物の析出の駆動力が高い元素であり、含有量の制御および熱処理により炭化物の析出状態を制御することが容易となる。また、Ti系炭化物は、析出強化能も高い。ここで、Ti系炭化物は、Tiを含有するNaCl型の結晶構造を有する炭化物を指す。かかる炭化物がTiを含有していれば、その他の炭化物生成合金元素が少量含有されていても、上記の駆動力を大きく低下させることはないので、効果が得られる。本実施形態で規定される化学組成の範囲において、Ti系炭化物は、その他の炭化物生成合金元素、例えばMo、Nb、V、Cr、Wを含んでもよい。さらに、Ti系炭化物において、その炭素の一部が窒素に置換された炭窒化物であっても析出状態は変化しないので、効果が得られる。
【0046】
(フェライト中のTi系炭化物が半整合状態で析出)
フェライト中にBaker-Nuttingの方位関係を有して析出するTi系炭化物に対する、フェライトとの界面が半整合界面であるTi系炭化物の占める割合が50%以上である場合、鋼板の伸びフランジ性は安定して良好となる。本実施形態でいう「Ti系炭化物が半整合状態で析出している」状態は、このような場合を指す。Ti系炭化物が半整合析出ではない場合、穴広げ性が低下する。
Baker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物が半整合状態であるかどうかは、以下のように判断する。すなわち、表面から板厚の1/4深さ位置から作製した透過電子顕微鏡用薄膜試料において、走査透過電子顕微鏡法(倍率:910,000倍~5,100,000倍)で環状検出器の検出角を60mrad以上200mrad以下の間に設定する環状暗視野走査透過電子顕微鏡像を、電子ビームをフェライトの[001]方位から入射して撮影する。マトリックスのフェライトの(100)面を晶癖面とする板状の形態をなした粒子、およびフェライトの(010)面を晶癖面とする板状の形態をなした粒子をBaker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物として、フェライトの(100)面を晶癖面とする板状の形態をなした粒子の(100)面の晶癖面、またはフェライトの(010)面を晶癖面とする板状の形態をなした粒子の(010)面の晶癖面を挟むフェライトの{010}面とTi系炭化物の{01-1}面の結晶面の数が一致する場合は整合状態とし、結晶面の数が一致しない場合は半整合状態と判断する。20個以上のTi系炭化物を観察し、50%以上が半整合状態の場合に、観察した透過電子顕微鏡用薄膜試料を採取した鋼材のBaker-Nuttingの方位関係を有するTi系炭化物は半整合状態であると判断する。
【0047】
Ti系炭化物のサイズについて、一般的に、炭化物が大きくなればその個数密度は小さくなる傾向がある。本発明では、フェライト中にBaker-Nuttingの方位関係を有して析出するTi系炭化物の個数密度を確保する観点から、Ti系炭化物の厚さは1nm以上5nm以下であればよい。
【0048】
Ti系炭化物の厚さは、以下の方法により測定する。
鋼板の表面から板厚方向に1/4の深さ位置より透過電子顕微鏡用薄膜試料を作製して、走査透過電子顕微鏡(Scanning Transmission Electron Microscope、以下では「STEM」ともいう。)で観察する。フェライトの[001]方向に電子ビームを入射して撮影したSTEM像で観察されたフェライトの(100)面、(010)面に板面を形成したTi系炭化物において、フェライトの[100]、[010]方向に沿って測定したTi系炭化物の大きさのうち、小さい辺の長さを厚さとする。また、Ti系炭化物の厚さを評価する際には、像の中の析出物の見られない箇所にてフェライトの[100]方向、[010]方向にそれぞれ単位格子10個分の原子間距離が2.866nmとなるように、スケールの校正を行う。
【0049】
<機械特性>
(引張強度:980MPa以上)
本実施形態に係る鋼板は、金属組織、Ti系炭化物の析出形態およびMn偏析の制御により、高強度であり、且つ優れた伸び、伸びフランジ性及び曲げ加工性を有する。しかしながら、鋼板の引張強度が小さいと、車体軽量化や剛性向上などの効果が小さい。そのため、本実施形態に係る鋼板の引張強度(TS)は980MPa以上とする。好ましくは1080MPa以上である。上限は特に規定しないが、引張強度が高くなるに伴いプレス成形が困難となる。そのため、引張強度は1800MPa以下としてもよい。
本実施形態に係る鋼板では、成形性の点で、強度と伸びとのバランスの指標となるTS×Elが14000MPa・%以上であることを目標とし、強度と伸びフランジ性とのバランスの指標となるTS×λが50000MPa・%以上であることを目的とする。TS×Elは、15000MPa・%以上であることがより好ましい。TS×λは、55000MPa・%以上であることがより好ましく、60000MPa・%以上であることがさらに好ましく、65000MPa・%以上であることが一層好ましい。
【0050】
鋼板の引張強度及び伸びは、JIS Z 2241:2011に規定された5号試験片を用いて、引張強度と破断全伸び(El)とにより評価する。鋼板の伸びフランジ性は、JIS Z 2256:2010に規定された穴広げ率(λ)により評価する。
【0051】
<製造方法>
本実施形態に係る鋼板の製造条件の限定理由を説明する。
本発明者らは、本実施形態に係る鋼板が、以下のような加熱工程、熱間圧延工程、冷却工程及び巻取工程を含む製造方法によって得られることを確認している。
【0052】
[加熱工程]
まず、上述した化学組成を有するスラブまたは鋼片を加熱する。スラブまたは鋼片は、連続鋳造や鋳造・分塊圧延により得たものでよいが、それらに熱間加工または冷間加工を加えたものであってもよい。
【0053】
(加熱時の700~850℃の温度域の滞留時間:900秒以上)
熱間圧延に供するスラブまたは鋼片を加熱するときは、700~850℃の温度域に900秒以上滞留させる。700~850℃の温度域で生じるオーステナイト変態において、Mnがフェライトとオーステナイトとの間で分配される。そのため、滞留時間を長くしてその変態時間を長くすることによって、Mnがフェライト領域内を拡散することができる。これにより、スラブに偏在するMnミクロ偏析が解消され、Mn濃度の標準偏差が著しく小さくなる。
【0054】
(加熱温度:1280℃以上かつSRT(℃)以上)
熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の加熱温度は、1280℃以上かつ下記(3)式により表される温度SRT(℃)以上とする。加熱温度が1280℃未満では加熱時のMn拡散によるMn濃度の標準偏差低減が不十分となる場合が有る。また、SRT(℃)未満ではTi炭窒化物の溶体化が不十分となり、いずれの場合も鋼板の引張強度や曲げ加工性が低下する。したがって、熱間圧延に供するスラブまたは鋼片の温度は1280℃以上かつSRT(℃)以上とする。ここで、「スラブまたは鋼片の温度が1280℃以上かつSRT(℃)以上」とは、1280℃とSRT(℃)との高い方の温度よりも、スラブまたは鋼片の温度の方が高い、または1280℃とSRT(℃)との高い方の温度と、スラブまたは鋼片の温度が同じであることを意味する。
一方、加熱温度が1400℃超では、厚いスケールが生成して歩留まりが低下したり、加熱炉に著しい損傷を与えたりする場合がある。そのため、加熱温度は1400℃以下が好ましい。
SRT(℃)=1630+90×ln([C]×[Ti])…(3)
但し、上記(3)式中の[元素記号]は、各元素の質量%での含有量を示す。
【0055】
[熱間圧延工程]
熱間圧延工程では、加熱工程後のスラブまたは鋼片に、複数の圧延スタンドを用いて多パス熱間圧延を施して熱延鋼板とする。熱間圧延工程は、粗圧延と、粗圧延に続いて行われる仕上げ圧延とに分けられる。
多パス熱間圧延はレバースミルまたはタンデムミルを用いて行うことができるが、工業的生産性の観点からは、少なくとも最終の数段はタンデムミルを用いることが好ましい。
【0056】
(粗圧延開始から仕上げ圧延完了までの時間:600秒以下)
圧延によりTi系炭化物の析出が促進されて析出し始めるので、仕上げ圧延完了までの時間が長すぎると、オーステナイト中に粗大なTi系炭化物が多量に析出する。この場合、高強度化に寄与する、仕上げ圧延後にフェライト中に析出する微細なTi系炭化物が減少して、鋼板の引張強度が著しく減少すると共に、曲げ加工性が低下する。したがって、粗圧延開始から仕上げ圧延完了までの時間は600秒以内とする。好ましくは500秒以内、より好ましくは400秒以内、最も好ましくは320秒以内である。
通常、熱間圧延工程は、圧延機の仕様や製造するコイルの板厚と板幅及び所望の材質に応じて、圧下率及び圧延温度が制御されるが、粗圧延開始から仕上げ圧延終了までの時間を総合的に制御することはされてない。本発明者らは、粗圧延開始から仕上げ圧延完了までの時間が、Ti系炭化物の析出状態に影響することを新たに見出した。
【0057】
(850~1100℃の温度域の合計圧下率:90%以上)
850~1100℃の温度域の合計圧下率が90%以上となる熱間圧延を行うことにより、主に再結晶オーステナイトの微細化が図られるとともに、未再結晶オーステナイト内へのひずみエネルギーの蓄積が促進される。その結果、オーステナイトの再結晶が促進されるとともにMnの原子拡散が促進され、Mn濃度の標準偏差が小さくなる。したがって、熱間圧延において、850~1100℃の温度域の合計圧下率(累積圧下率)を90%以上とする。
850~1100℃の温度域の合計圧下率とは、この温度域の圧延における最初のパス前の入口板厚をt0とし、この温度域の圧延における最終パス後の出口板厚をt1としたとき、(t0-t1)/t0×100(%)で表すことができる。
【0058】
(仕上げ圧延完了温度FT(℃):TR(℃)以上1080℃以下)
FT(℃)が下記(4)式で表されるTR(℃)未満では、仕上げ圧延後の冷却前において著しく扁平なオーステナイトが形成されて、最終製品の鋼板において、圧延方向に伸長した金属組織となって、残留オーステナイトを除くbcc構造を有する結晶粒の平均アスペクト比が小さくなると共に塑性異方性が大きくなる。この場合、鋼板の伸び、伸びフランジ性及び/または曲げ加工性が低下する。したがって、FT(℃)はTR(℃)以上とする。
一方、FT(℃)が1080℃を超えると、組織が粗大化して、鋼板の曲げ加工性が低下する。したがって、FT(℃)は1080℃以下とする。FT(℃)は、好ましくは1060℃以下である。
仕上げ圧延中の温度は、鋼材の表面温度を指し、放射温度計等により測定することができる。
TR(℃)=805+385×[Ti]+584×[Nb] (4)
但し、上記(4)式中の[元素記号]は、各元素の質量%での含有量を示し、含有しない場合は0を代入する。
【0059】
[冷却工程]
本実施形態に係る鋼板の製造方法は、熱間圧延工程の次の工程として、熱延鋼板を、45℃/秒以上の平均冷却速度で、650~800℃の温度域まで、水で冷却する冷却工程を有する。また、本実施形態に係る鋼板の製造方法では、冷却工程を熱間圧延工程終了後(仕上げ圧延完了後)3.0秒以内に開始する。
【0060】
(仕上げ圧延完了後、水冷を開始するまでの時間:3.0秒以内)
仕上げ圧延完了後、水冷開始までの時間が3.0秒超では、細粒化したオーステナイト結晶粒の成長や、Ti等の炭窒化物の粗大析出により、引張強度や曲げ加工性が低下する。したがって、本実施形態に係る鋼板の製造方法では、仕上げ圧延完了後3.0秒以内に水冷を開始する。好ましくは2.0秒以内、より好ましくは1.5秒以内である。
【0061】
(仕上げ圧延完了後の水冷開始から650~800℃の水冷停止温度までの平均冷却速度:45℃/秒以上)
650~800℃の間の水冷停止温度までの平均冷却速度が45℃/秒未満では未変態オーステナイト中、または、変態したフェライト粒内に粗大なTi系炭化物が析出して、所望の強度が得難くなる。したがって、平均冷却速度は45℃/秒以上とする。好ましくは50℃/秒以上、より好ましくは55℃/秒以上である。上限は特に限定する必要はないが、設備コストの観点から300℃/秒以下であることが好ましい。平均冷却速度とは、熱間圧延完了後、水冷開始から水冷停止までの温度降下量を所要時間で除した値である。
【0062】
(650~800℃の温度域の滞留時間:5~50秒)
鋼板を、45℃/秒以上の平均冷却速度で、650~800℃まで冷却した後、当該温度域で滞留させる。650~800℃の滞留時間が短いと所望のフェライト面積分率が得難くなるため、滞留時間は5秒以上が必要である。滞留時間は、好ましくは7秒以上である。一方、滞留時間が長いとパーライトが生成して穴広げ性が低下する。そのため、この温度域で滞留時間は50秒以下とする。滞留時間は、好ましくは40秒以下である。
また、650~800℃で滞留する間に、フェライト変態が進むと共に半整合界面を有するTi系炭化物がフェライト中に析出して、引張強度と穴広げ性とに優れる鋼板が得られる。Ti系炭化物が800℃より高い温度で析出すると、粗大に析出して所望の個数密度が得られず所望の引張強度が得難くなる。一方、Ti系炭化物が650℃より低い温度で析出すると、整合界面を有するTi系炭化物が析出して穴広げ性が劣化する。
【0063】
(550~650℃の温度域の平均冷却速度:45℃/秒以上)
上記滞留の後、550~650℃の温度域の平均冷却速度が45℃/秒以上となるように550℃以下の温度(巻取温度)まで鋼板を冷却する。平均冷却速度が45℃/秒未満では冷却中に整合界面を有するTi系炭化物が析出して、穴広げ性が劣化する。平均冷却速度の上限は特に限定する必要はないが、設備コストの観点から300℃/秒以下であることが好ましい。
【0064】
[巻取工程]
(巻取温度:350℃以上550℃未満)
冷却工程後は、鋼板を、350℃以上550℃未満で巻き取る。巻取温度が350℃未満では未変態オーステナイトがマルテンサイトに変態して、穴広げ性や曲げ加工性が低下する。一方、巻取温度が550℃以上になると、巻取り後に整合界面を有するTi系炭化物の生成が起こり、穴広げ性が低下する。巻取温度は、好ましくは400℃以上500℃未満である。
【0065】
本実施形態では、巻取工程後に鋼板表面にめっきを施すことで、めっき層を有するめっき鋼板としてもよい。めっきを施す場合においても、本実施形態に係る鋼板の製造方法の条件を充足した上でめっきを施せば問題ない。めっきは電気めっきおよび溶融めっきのいずれでもよく、めっき種も特に制限はないが、一般的には亜鉛めっきと亜鉛合金めっきとを含む亜鉛系めっきである。めっき鋼板の例としては、電気亜鉛めっき鋼板、電気亜鉛-ニッケル合金めっき鋼板、溶融亜鉛めっき鋼板、合金化溶融亜鉛めっき鋼板、溶融亜鉛-アルミニウム合金めっき鋼板などが例示される。めっき付着量は一般的な量でよい。めっきを施す前に、プレめっきとしてNi等を表面につけても良い。
本実施形態に係る鋼板を製造する際にはまた、形状矯正を目的として公知の調質圧延を適宜施してもよい。
【0066】
本実施形態に係る鋼板の板厚は特に限定するものではないが、板厚が厚すぎる場合は、鋼板表層と内部とで生成される金属組織が著しく異なるため、8.0mm以下が好ましい。より好ましくは6.0mm以下である。一方、板厚が薄すぎると熱間圧延時の通板が困難となるため、一般的には1.0mm以上が好ましい。より好ましくは、1.2mm以上である。
【実施例】
【0067】
次に、実施例により本発明の一態様の効果を更に具体的に説明するが、実施例での条件は、本発明の実施可能性および効果を確認するために採用した一条件例であり、本発明はこの一条件例に限定されるものではない。本発明は、本発明の要旨を逸脱せず、本発明の目的を達成する限りにおいて、種々の条件を採用し得る。
【0068】
表1A及び表1Bに示す化学組成(単位質量%、残部はFe及び不純物)を有する板厚250mmの鋼素材を表2A、表2Bに示す条件で熱間圧延を施して、板厚を2.5~3.5mmの熱延鋼板とした。得られた熱延鋼板の一部は焼鈍温度700℃の溶融亜鉛めっき処理、さらには合金化処理を施し、溶融亜鉛めっき鋼板(GI)または合金化溶融亜鉛めっき鋼板(GA)とした。
【0069】
【0070】
【0071】
【0072】
【0073】
得られた鋼板(熱延鋼板、めっき鋼板)について、鋼板の表面から板厚の1/4深さの位置における金属組織を観察し、各組織の面積分率、bcc構造を有する結晶粒の平均結晶粒径及び平均アスペクト比、並びにMn濃度の標準偏差を求めた。
【0074】
鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織の面積分率、bcc構造を有する結晶粒の平均結晶粒径及び平均アスペクト比は、圧延方向及び板厚方向に平行な鋼板断面の、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置における金属組織を、サーマル電界放射型走査電子顕微鏡とEBSD検出器とで構成されたEBSD解析装置を用いて、走査電子顕微鏡(SEM)観察とEBSD(Electron Back Scattering DiffracTion:電子線後方散乱回折法)解析により求めた。
その際、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置を中心とする圧延方向に200μm、板厚方向に100μmの領域を0.2μm間隔でfccとbccとを区別して結晶方位情報を得た。EBSD解析装置の付属ソフトウェア(AMETEK社製「OIMAnalysis(登録商標)」)を用いて、結晶方位差が15°以上である結晶粒界を特定した。bccの平均結晶粒径は、結晶方位差15°以上である結晶粒界で囲まれ、bccと判別された円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義して、面積平均径を求めた。
【0075】
フェライトの面積分率は、次のような方法で測定した。
結晶方位差が5°以上の結晶粒界で囲まれ、かつbccと判別された円相当直径で0.3μm以上の領域を結晶粒と定義した。その結晶粒内の、OIMAnalysisに装備されているGrain Average Misorientation解析により求められる値(GAM値)が0.6°以下である結晶粒の面積分率を算出した。
【0076】
パーライト及びセメンタイトの面積分率は、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置の領域においてナイタール腐食により現出した金属組織を、SEMを用いて1000倍の倍率にて3視野観察し、格子間隔5μmの点算法で求めた。また、MAの面積分率は、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置の領域においてレペラ腐食により現出した組織を、光学顕微鏡を用いて500倍の倍率にて2視野観察し、格子間隔5μmの点算法で求めた。
表には示していないが、金属組織の残部はベイナイトであった。
【0077】
Mn濃度の標準偏差は、圧延方向及び板厚方向に平行な鋼板断面を鏡面研磨した後に、鋼板の表面から板厚の1/4深さ位置を電子プローブマイクロアナライザ(EPMA)で測定することにより得た。測定条件は加速電圧を15kVとし、倍率を5000倍として試料圧延方向に20μm及び試料板厚方向に20μmの範囲の分布像を測定した。より具体的には、測定間隔を0.1μmとし、40000か所以上のMn濃度を測定した。次いで、全測定点から得られたMn濃度に基づいて標準偏差を算出することで、Mn濃度の標準偏差を得た。
【0078】
得られた鋼板の機械特性を評価するため、引張強度TS(MPa)、破断全伸びEl(%)を、JIS Z 2241:2011に準拠して測定した。また、JIS Z 2256:2010に準拠して穴広げ率(λ)を測定した。
曲げ加工性は、曲げ半径を板厚の2倍とした90°V曲げ試験により評価した。
表3A、表3Bに金属組織、および機械特性の試験結果を示す。
【0079】
引張強度は、980MPa以上の場合を高強度であるとした。
伸びは、引張強度と破断全伸びの積(TS×El)が、14000MPa・%以上の場合を伸びに優れるとした。また、TS×λが50000MPa・%以上である場合を、伸びフランジ性に優れるとした。曲げ加工性は、3回の試験を行い、全ての試験片で曲げ試験時に割れが発生しなかったものを曲げ加工性に優れる(OK)とし、1つ以上の割れが発生したものを曲げ加工性が十分ではない(NG)とした。
【0080】
【0081】
【0082】
表3A、表3Bに示したように、本発明の要件を具備する発明例ではTS、TS×El及び曲げ加工性の全てに優れていた。一方、本発明の要件を少なくとも一つ以上具備しない比較例では、TS、TS×El及び曲げ加工性のうちの少なくとも一つが劣っていた。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、高強度であり、且つ、伸び、伸びフランジ性及び曲げ加工性に優れた鋼板を提供することができる。本発明の鋼板は、自動車用、家電用、機械構造用、建築用などの用途に用いられる素材として好適であり、特に、自動車の内板部材、構造部材、足廻り部材等の部品の素材として使用すれば、車体軽量化及び耐衝突特性の向上に寄与するだけでなく、部品形状に加工することが容易である。そのため、本発明の鋼板は、産業上の貢献が極めて顕著である。