(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】吸水性粒子およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C08B 11/12 20060101AFI20230512BHJP
A61L 15/28 20060101ALI20230512BHJP
A61L 15/60 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C08B11/12
A61L15/28 100
A61L15/60 100
(21)【出願番号】P 2017249696
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-12-22
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 平成29年7月1日発行のセルロース学会第24回年次大会講演要旨集第110頁にて発表 平成29年7月13日、14日のセルロース学会第24回年次大会にて発表
(73)【特許権者】
【識別番号】591202155
【氏名又は名称】熊本県
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158067
【氏名又は名称】江口 基
(74)【代理人】
【識別番号】100147854
【氏名又は名称】多賀 久直
(72)【発明者】
【氏名】城崎 智洋
(72)【発明者】
【氏名】永岡 昭二
(72)【発明者】
【氏名】堀川 真希
(72)【発明者】
【氏名】龍 直哉
(72)【発明者】
【氏名】伊原 博隆
(72)【発明者】
【氏名】高藤 誠
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-126979(JP,A)
【文献】特開2018-002879(JP,A)
【文献】城崎智洋,「セルロース由来の保湿性マイクロビーズ ”モイストセルロースII”の開発」,平成29年度九州・沖縄産業技術オープンイノベーションデー:つかもう!技術 つくろう!ネットワーク:予稿集,国立研究開発法人産業技術総合研究所九州センター 九州・沖縄産業技術オープンイノベーションデー事務局,2017年10月,29-30
【文献】城崎智洋,「脱石油系プラスチックビーズ、”モイストセルロースビーズ”の開発」,くまもと発 新技術説明会(国立研究開発法人科学技術推進機構 新技術説明会)2016年8月23日(火)13:00~15:55,プレゼン動画Youtube [online][video]、及び発表資料[online],2021年12月22日,新技術説明会URL:https//shingi.jst.go.jp/list/list_2016/2016_kumamoto-u.html,プレゼン動画URL:https://www.youtube.com/watch?v=IjWvOwtX-UM、発表資料URL:https://shingi.jst.go.jp/pdf/2016/2016_kumamoto-u_4.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08B
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多糖からなる球状の吸水性粒子であって
、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、
前記吸水性粒子の可視光の透過度が前記吸水性粒子とする前の原料粒子に対して1185%~5559%の間で上昇する範囲で、前記吸水性粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
式1に示す前記多糖がカルボキシ化された吸水性粒子の吸水量の上昇値と、前記カルボキシ基の総量との比の値が、以下の式2に示す関係にあり、
前記カルボキシ基の総量が、1.92mmol/g~2.55mmol/gの範囲にあると共に、吸水性粒子の湿潤状態での円形度が、0.75以上であり、
前記カルボキシ基の一部又は全部が、アルカリ金属又はアルカリ土類金属によって金属塩化されている
ことを特徴とする吸水性粒子。
【数1】
【数2】
吸水性粒子の吸水量(g/g)は、水に浸漬した後の吸水性粒子の重量から乾燥時の吸水性粒子の重量を減じた値を乾燥時の吸水性粒子の重量で除して算出される飽和吸水量である。カルボキシ化前の粒子の吸水量(g/g)は、カルボキシ基を導入して吸水性粒子とする前の原料粒子を水に浸漬した後の重量から乾燥時の原料粒子の重量を減じた値を、乾燥時の原料粒子の重量で除して算出される飽和吸水量である。
吸水性粒子および原料粒子の乾燥条件は、粒子に含まれる水をメタノールで置換した後に、24時間減圧乾燥している。また、吸水後の吸水性粒子および原料粒子の重量は、前記条件により乾燥した吸水性粒子を水に3時間浸漬して吸水させた後の重量を測定している。
カルボキシ基の総量(mmol/g)は、吸水性粒子を蒸留水に分散してpH2.5に調製した分散液を、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液で滴定して滴定曲線を作成し、変曲点間の滴下量から算出する。
円形度は、吸水性粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、吸水性粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。
可視光の透過度は、原料粒子または吸水性粒子を水に1wt%になるよう分散させた水分散液を用いて、以下の式5により算出する。
【数5】
【請求項2】
吸水性粒子において前記カルボキシ基を有する前記多糖が占める体積の割合と、前記カルボキシ基の総量との比の値が、以下の式4に示す関係にある請求項1記載の吸水性粒子。
吸水性粒子においてカルボキシ基を有する多糖が占める体積の割合(%)は、カルボキシ化前の原料粒子の結晶化度に対する、多糖がカルボキシ化された吸水性粒子の結晶化度の減少率から、以下の式3に示すように算出する。
【数3】
【数4】
【請求項3】
前記カルボキシ基を有する前記多糖は、吸水性粒子において占める体積の割合が37.3%以上である請求項1または2記載の吸水性粒子。
【請求項4】
ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体から選択した触媒と、多糖からなる球状粒子を、水系溶媒に分散した分散液を調製し、
前記分散液の物質量に対して、添加された酸化剤の物質量が、1分間で7.56mol%以下のモル百分率になる添加速度(7.56mol%/min以下)で、酸化剤を前記分散液に添加し、
前記酸化剤を添加した前記分散液のpHを8~12としたもとで、前記多糖の6位および還元末端にある炭素および水酸基を前記酸化剤で選択的に酸化することで、得られる吸水性粒子の可視光の透過度が吸水性粒子とする前の原料粒子に対して1185%~5559%の間で上昇する範囲で、吸水性粒子の表面から内側に亘ってカルボキシ化し、
多糖の6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する吸水性粒子を、カルボキシ基の総量が1.92mmol/g~2.55mmol/gの範囲で、かつ吸水性粒子の湿潤状態での円形度を0.75以上で形成する
ことを特徴とする吸水性粒子の製造方法。
カルボキシ基の総量(mmol/g)は、吸水性粒子を蒸留水に分散してpH2.5に調製した分散液を、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液で滴定して滴定曲線を作成し、変曲点間の滴下量から算出する。
円形度は、吸水性粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、吸水性粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。
可視光の透過度は、原料粒子または吸水性粒子を水に1wt%になるよう分散させた水分散液を用いて、以下の式5により算出する。
【数5】
【請求項5】
前記触媒として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカルを用い、
前記分散液に、前記酸化剤としての次亜塩素酸塩を、前記多糖1gに対して12mmol~15mmolの範囲になるように滴下し、前記多糖をカルボキシ化する請求項4記載の吸水性粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、吸水性粒子および吸水性粒子の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
化粧料または薬剤や、紙オムツまたは生理用品等の衛生用品や、土木、食品、農業等における産業用資材などに、吸水性を有する吸水性高分子素材が用いられている。このような吸水性高分子素材は、球形状のマイクロビーズの形態で形成されるものがある。
【0003】
石油由来の合成高分子素材からなるマイクロビーズとしては、ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子におけるカルボン酸エステルの一部を加水分解することによって、ポリ(メタ)アクリル酸エステル粒子の表面に、親水性の官能基であるカルボキシ基を導入したものが提案されている(特許文献1参照)。このように、マイクロビーズに親水性の官能基を導入し、分子鎖の中に水を抱え込ませることで、元のマイクロビーズよりも吸水性を改善することが行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近では、石油由来の合成高分子マイクロビーズは、魚への生物濃縮などの環境汚染へのリスクが高く、嫌われるようになっている。特に米国や欧州などの諸外国では、環境汚染へのリスクが高い石油由来の合成高分子マイクロビーズについて、河川や海洋への排出が法的に規制されているところもある。こうした背景から、石油由来の合成高分子マイクロビーズの代替として、天然由来の吸水性マイクロビーズが求められている。
【0006】
すなわち本発明は、従来の技術に係る前記問題に鑑み、これらを好適に解決するべく提案されたものであって、環境負荷が低い吸水性粒子および該吸水性粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明の吸水性粒子は、
多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
式1に示す前記多糖がカルボキシ化された吸水性粒子の吸水量の上昇値と、前記カルボキシ基の総量との比の値が、以下の式2に示す関係にあることを要旨とする。
【数1】
【数2】
本発明に係る吸水性粒子によれば、多糖の6位にあるカルボキシ基が多糖から脱離し難く、多糖で構成されているので、環境に対する影響が非常に小さい。また、吸水性粒子は、多糖の6位にカルボキシ基を有しているので、カルボキシ基が示す親水性により吸湿および吸水する。そして、吸水性粒子は、多糖の6位および還元末端のみにカルボキシ基を有しており、多糖の1位~5位がカルボキシ基ではないので、吸水性を調節し易く、適当な粒子形状とし易い。吸水性粒子は、粒子表面から内側に亘る範囲にカルボキシ基が存在しているので、粒子表面だけで吸水するのでなく、粒子内側まで水を取り込むように吸水する。従って、吸水性粒子は、同じ量のカルボキシ基であっても、粒子表面だけにカルボキシ基が存在しているものよりも吸水量が多く、吸水性に優れている。
【0008】
前記課題を克服し、所期の目的を達成するため、本発明の吸水性粒子の製造方法は、
ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体から選択した触媒と、多糖からなる球状粒子を、水系溶媒に分散した分散液を調製し、
酸化剤を、7.56mol%/min以下の速度で前記分散液に添加し、
前記多糖の6位および還元末端にある炭素および水酸基を前記酸化剤で選択的に酸化することで、粒子の表面から内側に亘る範囲をカルボキシ化して、該多糖の6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する球状粒子を得ることを要旨とする。
本発明に係る吸水性粒子の製造方法によれば、ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体を触媒として用いることで、多糖の6位にある炭素および水酸基のみを選択的に酸化して、多糖の6位のみにカルボキシ基を簡単に導入することができる。そして、酸化剤を添加する速度を適宜範囲にして、多糖の酸化を制御することで、得られる吸水性粒子について、表面から内側に亘る範囲にカルボキシ基を導入することができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る吸水性粒子によれば、多糖から構成されているので、環境負荷が低い。本発明に係る吸水性粒子の製造方法によれば、環境負荷が低い吸水性粒子を簡単に製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本開示に係る吸水性粒子の一例を示す模式図である。
【
図2】本開示に係る吸水性粒子の一例を示す化学式である。
【
図3】本開示に係る吸水性粒子の製造方法の一例を示す模式図である。
【
図4】本開示に係る吸水性粒子の製造方法の一例を示す模式図であり、多糖粒子の6位の炭素および水酸基が、吸水性粒子においてカルボキシ基に変換されていることを説明している。
【
図5】本開示に係る吸水性粒子の製造方法におけるカルボキシ化処理の一例を示す模式図である。
【
図6】実施例2、実施例6および参考例1の赤外吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【
図7】実施例6、参考例1および参考例3のX線回折図である。
【
図8】参考例1および実施例のカルボキシ基量と吸水量との関係を示すグラフ図である。
【
図9】実施例2の吸水性粒子を、乾燥状態および湿潤状態のそれぞれにおいて300倍で観察した光学顕微鏡写真である。
【
図10】実施例3の吸水性粒子を、乾燥状態および湿潤状態のそれぞれにおいて300倍で観察した光学顕微鏡写真である。
【
図11】実施例4の吸水性粒子を、乾燥状態および湿潤状態のそれぞれにおいて300倍で観察した光学顕微鏡写真である。
【
図12】実施例6の吸水性粒子を、乾燥状態および湿潤状態のそれぞれにおいて300倍で観察した光学顕微鏡写真である。
【
図13】参考例1の多糖粒子を、乾燥状態および湿潤状態のそれぞれにおいて300倍で観察した光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
(吸水性粒子の概要)
図1および
図2に示すように、本開示に係る吸水性粒子は、多糖からなる球状粒子であり、当該多糖の6位の炭素および水酸基(ヒドロキシル基)をカルボキシ基に変換した構造を有している。すなわち、吸水性粒子は、カルボキシ化多糖の誘導体であるともいえる。吸水性粒子は、6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖から構成され、6位以外の1位~5位がカルボキシ基に変換されていない。このように、吸水性粒子は、1位~6位の中で、6位だけにカルボキシ基があるように構成することで、吸水性粒子全体におけるカルボキシ基の量をコントロールし易く、好適な吸水性と好適な球形状とを両立させることができる。
【0012】
(多糖)
吸水性粒子をなす多糖としては、6位に水酸基を有する多糖の何れであってもよい。多糖としては、例えば、セルロース、アミロース、アミロペクチン、プルラン、キチン、キトサン、アルギン酸、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、グルコマンナン、カラギーナンなどが挙げられる。この中でも、比較的安価で汎用性に優れているセルロースが好ましく、カルボキシ化による粒子形状の悪化を抑えることができるII型構造のセルロースであることが特に好ましい。
【0013】
(吸水性粒子の粒径)
吸水性粒子は、用途等に応じて適宜の粒径を選択可能であるが、湿潤状態で平均粒子の直径(以下、平均粒径という。)が、0.2μm~1000μmの範囲であることが好ましく、より好ましくは3μm~300μmの範囲である。吸水性粒子は、平均粒径が前記範囲内にあることで、例えば化粧料等の皮膚に用いる製品に配合した際に洗い流し易くなると共に表皮吸収され難く、またきしみ感が生じ難く、適度な伸びや肌触りが得られる。なお、平均粒径が3μm~300μmの範囲にある吸水性粒子は、好適な球状を示し、容易に製造することができる。吸水性粒子の平均粒径は、吸水性粒子を吸水量以上の大過剰の水中に分散させて測定した値であって、フロー粒子像分析装置(商品名:FPIA-3000S シスメックス(株)製)を用いて、粒子を撮像して算出したものである。1μm以下のサイズの吸水性粒子は、粒子径測定装置(商品名:Zetasizer Nano ZX マルバーン製)を用いて動的光散乱法(DLS)によって測定したものである。吸水性粒子の平均粒径は、原料であるカルボキシ化前の多糖球状粒子(以下、原料粒子という。)の粒径に由来するので、湿潤状態での平均粒径が0.2μm~1000μmの範囲にあり、好ましくは3μm~300μmの範囲にある球形状の原料粒子を用いるとよい。
【0014】
(吸水性粒子のカルボキシ化範囲)
吸水性粒子は、粒子表面だけでなく内側も多糖における6位の炭素および水酸基がカルボキシ基に変換されて、粒子表面から内側に向けた範囲にカルボキシ化多糖が存在している。また、吸水性粒子は、粒子内側の中央部に、炭素および水酸基がカルボキシ基に変換されていない多糖が存在しており、粒子全体がカルボキシ化されている訳ではない。吸水性粒子は、6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖(以下、6位カルボキシ化多糖という。)が、表面だけでなく表面から内側にかけて存在していることで、カルボキシ基の親水性によって粒子内側まで水を取り込む。従って、本開示に係る吸水性粒子は、表面だけにカルボキシ基が存在している場合よりも多く吸水する。
【0015】
(カルボキシ化された多糖の割合(カルボキシ化体積))
吸水性粒子は、6位カルボキシ化多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って、該吸水性粒子の体積の7.6%以上存在していることが好ましい。吸水性粒子は、6位カルボキシ化多糖が、該吸水性粒子の体積の7.6%~72%の範囲で存在することが好ましく、10%~72%の範囲がより好ましく、更に好ましくは27.4%~72%の範囲である。吸水性粒子のカルボキシ化範囲は、カルボキシ化前の原料粒子の結晶化度に対する、多糖がカルボキシ化された吸水性粒子の結晶化度の減少率から、以下の式3に示すように算出することができる。
【数3】
【0016】
原料粒子は、多糖がカルボキシ化されることで結晶化度が下がり、元の結晶化度から低下した割合が、得られた吸水性粒子においての6位カルボキシ化多糖の割合であるとみなすことができる。このように、6位カルボキシ化多糖が粒子体積の7.6%以上存在していることで、重量の2倍程度の吸水性を示し、カルボキシ化多糖が粒子体積の10%以上存在していることで、実用性が高くなる。また、吸水性粒子において体積に占める6位カルボキシ化多糖の割合が27.4%以上となると、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示す。そして、吸水性粒子において体積に占める6位カルボキシ化多糖の割合が72%以下であると、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。
【0017】
(結晶化度)
前述した結晶化度は、例えば「繊維学会誌(Vol.46(1990)p324~329、磯貝明、臼田誠人)」に記載されているように、X線回折法により算出することができる。具体的には、以下の式による。
結晶化度=(I110-I110B)/I110
ここで、I110は、110のピーク強度を示し、I110Bは、ベースラインスロープの強度を示す。
【0018】
(結晶化度の範囲)
吸水性粒子は、結晶化度が0.28以下であることが好ましく、結晶化度が0.27以下であることがより好ましく、更に好ましくは0.09以上で0.22以下の範囲である。吸水性粒子は、結晶化度が0.28以下になるように6位カルボキシ化多糖が存在していることで、重量の2倍程度の吸水性を示す。また、吸水性粒子は、結晶化度が0.27以下になるように6位カルボキシ化多糖が存在していることで、吸水性がより向上し、実用性が高くなる。更に、吸水性粒子は、結晶化度が0.22以下になるように6位カルボキシ化多糖が存在していることで、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示す。そして、吸水性粒子は、結晶化度が0.09以上になるように6位カルボキシ化多糖が存在していることで、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。
【0019】
(結晶化度)
原料粒子としては、結晶化度が0.3以上であるような、比較的結晶化度が高いものを用いることが好ましい。吸水性粒子は、その結晶化度が元の原料粒子の結晶化度よりも7.6%以上小さくなっていることが好ましい。吸水性粒子は、その結晶化度が元の原料粒子の結晶化度よりも7.6%~72%の範囲で小さくなっていることが好ましく、10%~72%の範囲がより好ましく、更に好ましくは27.4%~72%の範囲である。このように、吸水性粒子は、原料粒子からの結晶化度の減少率を7.6%以上とすることで、重量の2倍程度の吸水性を示し、原料粒子からの結晶化度の減少率を10%以上とすることで、実用性が高くなる。また、吸水性粒子は、原料粒子からの結晶化度の減少率を27.4%以上とすると、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示す。そして、吸水性粒子は、原料粒子からの結晶化度の減少率が72%以下であると、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。
【0020】
(カルボキシ基の総量)
吸水性粒子は、カルボキシ基の総量(以下、カルボキシ基量という。)が、0.35mmol/g~2.55mmol/gの範囲にあるのが好ましく、0.69mmol/g~2.55mmol/gの範囲がより好ましく、更に好ましくは1.50mmol/g~2.55mmol/gの範囲である。カルボキシ基量は、吸水性粒子を蒸留水に分散して所定のpH(例えばpH2.5等の酸性領域)に調製した分散液を、水酸化ナトリウム水溶液等の塩基で滴定して滴定曲線を作成し、変曲点間の滴下量から算出している。吸水性粒子は、カルボキシ基量が0.35mmol/g以上であることで、重量の2倍程度の吸水性を示す。また、吸水性粒子は、カルボキシ基量が0.69mmol/g以上であることで、吸水性がより向上し、実用性が高くなる。更に、吸水性粒子は、カルボキシ基量が1.50mmol/g以上であることで、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示す。そして、吸水性粒子は、カルボキシ基量が2.55mmol/g以下であることで、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。
【0021】
(吸水量)
吸水性粒子は、カルボキシ基を有することで、原料粒子よりも吸水性が向上している。ここで、吸水性粒子は、カルボキシ基が粒子表面だけでなく粒子内側に亘って存在していることで、カルボキシ基の親水性により吸着した水を粒子内側まで取り込むから、良好な吸水性を示す。これに対して、カルボキシ基が粒子表面だけに存在していると、粒子表面しか水を取り込まないので、例えカルボキシ基が粒子表面に多く存在していても、吸水性を向上し難い。吸水性粒子は、吸水量が粒子の単位重量の1.9倍(1.9g/g)であることが好ましく、2.4倍(2.4g/g)以上であることがより好ましく、更に好ましくは10倍(10g/g)以上である。なお、吸水性粒子は、吸水量が粒子の単位重量の29.9倍(29.9g/g)以下であると、粒子がつぶれ難く、吸水性粒子を皮膚に使用する製品に配合した際に肌に対する感触改良効果がよくなるので好適である。
【0022】
吸水性粒子は、原料粒子の吸水量からの上昇度合が135%以上であることが好ましく、171%以上であることがより好ましく、更に好ましくは714%~2135%の範囲である。
吸水性粒子における原料粒子の吸水量からの上昇度合=[(吸水性粒子の吸水量)/(原料粒子の吸水量)]×100
吸水性粒子は、原料粒子の吸水量からの向上率が135%以上であることで、製造コストを勘案した最低限の実用性があるといえ、171%以上であることでより実用性が向上する。そして、吸水性粒子は、原料粒子の吸水量からの向上率が714%~2135%の範囲であることで、製造コスト、粒子の強度および用途などの観点から、実用性がより向上する。
【0023】
吸水量は、以下のように測定される。ここで、吸水量は、水に浸漬した後の吸水性粒子の重量から乾燥時の吸水性粒子の重量を減じた値を乾燥時の吸水性粒子の重量で除して算出される飽和吸水量である。
飽和吸水量=(「吸水後の吸水性粒子の重量」-「乾燥時の吸水性粒子の重量」)/「乾燥時の吸水性粒子の重量」
吸水性粒子の乾燥条件は、該吸水性粒子に含まれる水をメタノールで置換した後に、24時間減圧乾燥している。また、吸水後の吸水性粒子の重量は、前記条件により乾燥した吸水性粒子を水に3時間浸漬して吸水させた後の重量を測定している。
【0024】
(吸水性とカルボキシ基量の関係)
吸水性粒子は、式1に示す原料粒子からの吸水量の上昇値(多糖がカルボキシ化された吸水性粒子の吸水量の上昇値)と、カルボキシ基量(吸水性粒子に存在するカルボキシ基の総量)との比の値が、以下の式2に示す関係になることが望ましい。
【数1】
【数2】
【0025】
吸水性粒子において、原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値は、単位量当たりのカルボキシ基量が吸水量の上昇にどれだけ寄与しているかを示している。すなわち、原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値が大きくなる程、少ないカルボキシ基によって効率よく吸水できる吸水性粒子であるといえる。このように、本開示の吸水性粒子は、カルボキシ基の導入量が比較的少なくても、カルボキシ基が粒子表面に存在するものと比べて吸水量が多い。また、吸水性粒子は、カルボキシ基量が増加すると、原料粒子に由来する粒子形状が損なわれていくが、カルボキシ基量を抑えることができるので、適当な粒子形状とすることができる。
【0026】
原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値が、1.4以上であることで、吸水性粒子は自身の重量の2倍程度の吸水性を示す。原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値は、1.44以上であることがより好ましく、このような吸水性粒子は、吸水性がより向上し、実用性が高くなる。原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値は、5.73以上であることが更に好ましく、このような吸水性粒子は、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示す。そして、原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値は、11.5以下であることが好ましく、このような吸水性粒子は、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。吸水性粒子は、導入するカルボキシ基量が増えるにつれて、吸水性が向上していく傾向を示すが、粒子の表面だけでなく粒子内側までカルボキシ基が存在しなければ、前述した原料粒子からの吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値とはならない。換言すると、6位カルボキシ化多糖が表面から内側に向けた範囲にある吸水性粒子は、単位当たりのカルボキシ基量に対する吸水性を高くすることができる。
【0027】
(カルボキシ化体積の割合とカルボキシ基量との関係)
吸水性粒子は、粒子において6位カルボキシ化多糖が占めるカルボキシ化体積の割合(吸水性粒子においてカルボキシ基を有する多糖が占める体積の割合)と、カルボキシ基量(吸水性粒子に存在するカルボキシ基の総量)との比の値が、以下の式4に示す関係になることが好ましい。
【数4】
このように、吸水性粒子は、カルボキシ化体積の割合とカルボキシ基量との比の値が14以上であることが好ましく、当該比の値が5以下であるような場合、粒子表面しかカルボキシ化されていないと考えられる。
【0028】
(多糖の6位におけるカルボキシ基の存在率)
吸水性粒子は、多糖における6位の5.7%~50%にカルボキシ基を有することが好ましく、より好ましくは11%~42%の範囲で、更に好ましくは24%~42%の範囲である。そして、吸水性粒子は、多糖における6位の残りに水酸基を有している。すなわち、吸水性粒子は、多糖における6位の全てがカルボキシ基であるのではなく、6位の一部がカルボキシ基となっている。そして、吸水性粒子において、6位にあるカルボキシ基は、粒子表面から内側に向けた範囲に存在している。吸水性粒子は、多糖における6位に前記範囲でカルボキシ基があることで、好適な吸水性と好適な球形状とを両立させるように調整し易くなる。
【0029】
(カルボキシ基の金属塩化)
吸水性粒子は、水に不溶である。また、吸水性粒子は、多糖の6位の炭素および水酸基が部分的に酸化されて生成したカルボキシ基の一部または全てが、アルカリ金属によって金属塩化された構造を有していることが望ましい。アルカリ金属としては、水酸化物のアルカリ金属、アルカリ土類金属を用いることが好ましく、特に、水酸化ナトリウムによるナトリウム、水酸化カリウムによるカリウム、水酸化マグネシウムによるマグネシウム等がよい。
【0030】
(円形度)
前記吸水性粒子は、その形状が球形状であることが好ましく、球形状とすることで、該吸水性粒子の転がり性を向上できる。具体的には、吸水性粒子は、湿潤状態での円形度が0.75以上であるのが望ましい。円形度は、吸水性粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、吸水性粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。なお、円形度は、真円が「1」で、形状が複雑になるほど小さい値になる。吸水性粒子は、円形度が0.75未満になると、例えば化粧料として用いた場合に肌の表面での転がりが悪くなるので、所望の化粧料の伸びや肌触りが得られ難くなる不都合がある。
円形度=「吸水性粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長」/「吸水性粒子を撮像した画像の周囲長」
【0031】
(膨潤度)
吸水性粒子は、カルボキシ化された部分が水を含むので、膨潤度の値によって、粒子表面から内側に向けたどれくらいの範囲がカルボキシ化されているかをある程度推定することができる。吸水性粒子は、その膨潤度が原料粒子の膨潤度よりも109%以上向上するように粒子表面から内側に向けた範囲がカルボキシ化されていることが好ましく、114%以上向上することがより好ましく、1498%~3825%の範囲であることが更に好ましい。膨潤度が原料粒子よりも109%以上向上する吸水性粒子は、自身の重量の2倍程度の吸水性を示す。膨潤度が原料粒子よりも114%以上向上すると、吸水性粒子の吸水性がより向上し、実用性が高くなる。吸水性粒子は、膨潤度が原料粒子よりも1498%~3825%の範囲で向上すると、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示すと共に、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。なお、膨潤度は、以下の式のように算出している。
膨潤度=[(水浴中に24時間放置後の吸水性粒子の体積)/(乾燥時の吸水性粒子の体積)]×100
【0032】
(可視光の透過度)
吸水性粒子は、6位カルボキシ化多糖が粒子表面だけでなく粒子表面から内側に亘る範囲に存在していると、原料粒子よりも水分散液の可視光の透過度(以下、単に透過度という。)が上昇する。これに対して、6位カルボキシ化多糖が粒子表面だけにあると、カルボキシ化した多糖粒子であっても、原料粒子と透過度が同一またはほとんど変化しない。従って、吸水性粒子は、透過度によっても、6位カルボキシ化多糖が粒子表面から内側に亘って、どれくらいの範囲に存在しているかを推定することができる。すなわち、吸水性粒子は、透過度の値が原料粒子と比べて大きくなるほど、6位カルボキシ化多糖が粒子表面から内側に亘る広い範囲に存在しているといえる。
【0033】
吸水性粒子は、その透過度が原料粒子の透過度に対して108%以上になるように粒子表面から内側に向けた範囲がカルボキシ化されていることが好ましく、161%以上になることがより好ましく、926%~5559%の範囲であることが更に好ましい。透過度が原料粒子に対して108%以上である吸水性粒子は、自身の重量の2倍程度の吸水性を示す。透過度が原料粒子に対して161%以であると、吸水性粒子の吸水性がより向上し、実用性が高くなる。吸水性粒子は、透過度が原料粒子に対して926%~5559%の範囲であると、自身の重量の10倍以上吸水する高い吸水性を示すと共に、多糖を酸化してカルボキシ化しても原料粒子に由来する適当な粒子形状を保ち易くすることができる。なお、透過度は、原料粒子または吸水性粒子を水に1wt%になるよう分散させた水分散液を用いて、以下の式5により算出している。
【数5】
【0034】
(吸水性粒子の製造方法)
次に、本発明に係る吸水性粒子の製造方法について、
図3~
図5を参照して説明する。前述した吸水性粒子は、ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体を触媒として、原料粒子(多糖からなる球状粒子)の6位にある炭素および水酸基を酸化して、該多糖の6位および末端基のみをカルボキシ基に変換することで得ることができる(
図3~
図5)。吸水性粒子を製造するためには、出発原料として、原料粒子を用意する。また、触媒としてのニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体、酸化剤、ハロゲン化アルキル、アルカリ溶液を用意する。
【0035】
(原料粒子)
原料粒子として用いる多糖としては、セルロース、アミロース、アミロペクチン、プルラン、キチン、キトサン、アルギン酸、デキストリン、デキストラン、グリコーゲン、アガロース、ヒアルロン酸、グルコマンナン、カラギーナン等を挙げることができ、6位に水酸基を有する多糖の何れであってもよい。
【0036】
(原料粒子の粒径および形状)
吸水性粒子の粒径は、原料粒子の粒径に由来するので、得るべき吸水性粒子の粒径に合わせた粒径の原料粒子を用意する。前述した吸水性粒子の粒径の範囲に合わせて、湿潤状態での平均粒径が0.2μm~1000μmの範囲にあり、好ましくは3μm~300μmの範囲にある球形状の多糖粒子を用いるとよい。吸水性粒子の形状は、原料粒子の形状に由来するので、球形の原料粒子を用意する。多糖をカルボキシ化してカルボキシ基量が多くなるにつれて、原料粒子に由来する形状が崩れていくので、原料粒子としては、なるべく円形度が0.9以上あるような高いものを用いることが好ましい。
【0037】
(触媒)
前記触媒として用いられるニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体としては、酸化剤として使用可能なニトロキシラジカルを有する化合物であればよい。例えば、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル(TEMPO)、このTEMPOを適宜の官能基で修飾した誘導体である、4-アミノTEMPO、4-アセトアミドTEMPO、4-カルボキシTEMPO、4-ヒドロキシTEMPO、4-ホスホオキシTEMPO、4-オキシTEMPOなどが挙げられる。この中でも、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル(TEMPO)が、安価であるので好ましい。触媒の使用量は、多糖1gに対して、0.001g~0.15gの範囲が好ましく、より好ましくは0.005g~0.05gの範囲である。触媒の使用量が前記範囲であると、充分な酸化を生じさせることができると共に、酸化に関わらない触媒が減るのでコストを抑えて工業的に採用できる。
【0038】
(酸化剤)
本開示に係る製造方法に用いられる酸化剤としては、次亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸ナトリウム、次亜臭素酸ナトリウム、亜臭素酸ナトリウムなどの次亜塩素酸塩等が挙げられるが、この中でも次亜塩素酸ナトリウムを用いることが好ましい。酸化剤の添加量は、多糖1gに対して、2.0mmol~15mmolの範囲が好ましく、より好ましくは4.0mmol~15mmolの範囲で、更に好ましくは9.0mmol~15mmolの範囲である。酸化剤の添加量が、前記範囲であると、吸水性を発現するのに充分なカルボキシ基を多糖粒子に導入することができると共に、多糖の酸化が進み過ぎて、互いに反発するカルボキシ基の量が多くなることで、得られる吸水性粒子の形状が崩れることを抑えることができる。
【0039】
(酸化剤の添加速度)
酸化剤は、原料粒子や触媒などを分散した分散液に対して、7.56mol%/min以下の添加速度で添加することが好ましい。本開示に係る製造方法では、酸化剤を分散液に対して一度に加えるのではなく、前述した添加速度で時間をかけて、酸化剤を連続的に流下または間欠的に滴下することで分散液に添加する。このように、酸化剤を分散液に対して一度に多量に加えるのではなく、比較的ゆっくりと時間をかけて添加することで、6位カルボキシ化多糖が粒子表面から内側に向けた範囲に亘って存在するように、多糖を酸化することができる。また、酸化剤は、原料粒子や触媒などを分散した分散液に対して、0.17mol%/min以上の添加速度で添加することが好ましい。酸化剤を前記添加速度で分散液に添加することで、吸水性粒子の製造時間および得られる吸水性粒子の収率を、工業的に採用し得る水準とすることができる。
【0040】
酸化剤の添加量の調節により、得られる吸水性粒子における多糖の6位に導入するカルボキシ基量および6位全体に占めるカルボキシ基の割合を、ある程度調整することができる。しかし、酸化剤を分散液に一度に添加する、または複数回であっても1回当たりの酸化剤の添加量が多いと、分散液において局所的に酸化剤の濃度が高くなり過ぎてしまい、完全に溶解してしまう粒子とわずかにカルボキシ化された粒子が得られることになってしまう。前述したように、分散液に対して酸化剤を、前記範囲の添加速度で比較的ゆっくりと添加することで、粒子表面だけでなく、粒子表面から内側に亘ってカルボキシ基を導入することができ、酸化剤の添加量に対して、導入されるカルボキシ基量が多くなる。しかも、分散液に対して酸化剤を、前記範囲の添加速度で比較的ゆっくりと添加することで、酸化による原料粒子の形状変化を抑えることができ、好適な球形状で、かつカルボキシ基量の多い吸水性粒子を得ることができる。
【0041】
(補助剤)
補助剤として添加される前記ハロゲン化アルキルとしては、例えば、臭化アルカリ、塩化アルカリ、フッ化アルカリ、ヨウ化アルカリなどが挙げられるが、これらに限定されるものではない。ハロゲン化アルキルとしては、臭化ナトリウムを用いることが好ましい。ハロゲン化アルキルの使用量は、多糖1gに対して、0.01g~1.5gの範囲が好ましく、より好ましくは0.025g~0.5gの範囲である。ハロゲン化アルキルの使用量が前記範囲であると、酸化を生じ易くできると共に、酸化に関わらないハロゲン化アルキルが減るのでコストを抑えて工業的に採用できる。
【0042】
(アルカリ溶液)
前記アルカリ溶液としては、アルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物の水溶液を用いることが好ましく、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化マグネシウム等がよいが、これに限定されるものではない。
【0043】
(分散液の調製-原料粒子)
原料粒子は、反応溶媒となる蒸留水に対して0.1wt%~50wt%の範囲、好ましくは0.5wt%~20wt%の範囲で配合するとよい。反応溶媒に対する原料粒子の配合量が前記範囲であると、得られる吸水性粒子の収率を工業的に採用可能な水準とすることができると共に、分散液が高粘度になることを回避して、反応し易くすることができる。
【0044】
(酸化反応)
原料粒子を反応溶媒となる蒸留水に浸漬し、ハロゲン化アルキル等の補助剤、触媒、酸化剤を加えて、pHが8~12の範囲、好ましくは9~11の範囲になるようにアルカリ溶液を添加しながら、かき混ぜる。ここで、酸化剤は、前記添加速度の範囲で滴下等によりゆっくりと添加する。これにより、原料粒子の表面から内側に亘る範囲で多糖における6位の炭素および水酸基が酸化され、6位がカルボキシ基に変換されることで、粒子表面から内側に亘って6位カルボキシ化多糖が存在することになる。多糖粒子を浸漬してかき混ぜつつ酸化反応させる酸化反応時間は、1分~12時間が好ましく、より好ましくは1分~3時間である。酸化反応時間は、前記範囲にあると、酸化を充分に進行させることができると共に、多糖の糖鎖が短くなることを防止して、吸水性粒子を好適な粒子形状に保つことができる。
【0045】
(吸水性粒子の回収)
酸化反応を行った後に、吸水性粒子を含んだ水溶液を透析し、吸水性粒子以外の物質を除去する。なお、吸水性粒子の回収方法は透析に限定するものではなく、遠心分離やろ取等その他の方法も採用可能である。
【0046】
本開示に係る吸水性粒子は、多糖の6位にカルボキシ基を有する構造であるから、カルボキシ基が示す親水性によって、吸水性を有している。また、吸水性粒子は、多糖の1位~5位にカルボキシ基を有しておらず、多糖におけるカルボキシ基をもった一部だけが膨潤するので、水を過剰に吸収しない。すなわち、吸水性粒子は、適度な吸水性を有しているので、例えば化粧料等の皮膚に使用する製品に配合した際に、べたつき感を抑えてしっとり感を向上できる。しかも、吸水性粒子は、天然資源である多糖を主体としていることから環境汚染リスクを低くすることができる。また、吸水性粒子は、多糖の6位がカルボキシ基に変換されている構造を有していることから分解反応が起こり難く、安定性を高くすることができる。そして、吸水性粒子は、カルボアニオンの生成により電荷的反発が生じるので、製品を構成する組成物の分散安定性を向上することができる。
【0047】
吸水性粒子は、一部が湿潤するものの、原料の多糖粒子に由来する強度や粒子形状に由来する特性を維持しているので、皮膚に使用する製品に配合した際に、肌の上での転がり、肌触りが良好となる。このように、本開示に係る吸水性粒子は、皮膚に使用する製品に配合した際に、しっとり感とさらさら感とを両立させることができる。また、吸水性粒子は、球形状であることで、化粧料等の皮膚に使用する製品に用いた場合に、製品の伸びをより向上させることができる。
【0048】
吸水性粒子は、多糖における6位の全てがカルボキシ基に変換されているのではなく、6位の一部がカルボキシ基に変換され、6位の残りに水酸基を有している。従って、吸水性粒子は、多糖におけるカルボキシ基をもった一部だけが膨潤するので、水を過剰に吸収することを抑制でき、6位にあるカルボキシ基の量によって吸水性を簡単に調節可能である。しかも、カルボキシ基同士は静電的に反発するため、多糖に多くのカルボキシ基があると、糖鎖同士が反発して粒子形状を保つことが難しくなるが、カルボキシ基量の調節によって、適度な吸水性を有しつつ、球形状の適切な粒子形状とすることができる。特に、吸水性粒子は、粒子表面から内側に亘る範囲にカルボキシ基が存在して、粒子表面にあるカルボキシ基を少なくできるから、表面にあるカルボキシ基同士の反発を抑えることができる。従って、吸水性粒子は、全体としてカルボキシ基が多くなっても、原料粒子に由来する球形の粒子形状を保つことができる。
【0049】
吸水性粒子は、粒子表面から内側に亘る範囲に6位カルボキシ化多糖が存在しているので、粒子表面だけで吸水するのでなく、粒子内側まで水を取り込むように吸水する。従って、吸水性粒子は、同じ量のカルボキシ基であっても、粒子表面だけにカルボキシ基が存在しているものよりも吸水量が多く、吸水性に優れている。
【0050】
吸水性粒子は、多糖粒子の表面の、一部またはすべての多糖の6位のカルボキシ基が、アルカリ金属によって金属塩化された構造を有する構成とすることができ、水に不溶にすることができる。このように、吸水性粒子は、金属塩化された構造を有することで、pHの調整を行い易く、化粧料等の皮膚に使用する製品として、製品化が容易である。
【0051】
本開示に係る製造方法によれば、ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体を触媒として用いることで、多糖の6位にある炭素および水酸基のみを選択的に酸化して、多糖の6位のみにカルボキシ基を簡単に導入することができる。得られる吸水性粒子は、多糖の6位の炭素および水酸基が酸化によってカルボキシ基に変換されている構造を有していることから、カルボキシ基の分解反応が起こらず、安定性を高くすることができる。前記製造方法は、多糖からなる原料粒子を酸化してカルボキシ化しているが、原料粒子の粒子形状を保った状態で吸水性粒子を簡単に得ることができる。また、ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体と共に酸化剤として次亜塩素酸塩を用いることで、安価なコストで、吸水性粒子を得ることができる。
【0052】
本開示に係る製造方法によれば、分散液に対して酸化剤を、比較的ゆっくりと添加することで、粒子表面だけでなく、粒子表面から内側に亘ってカルボキシ基を導入することができ、酸化剤の添加量に対して、導入されるカルボキシ基量を多くすることができる。しかも、分散液に対して酸化剤を、比較的ゆっくりと添加することで、酸化による原料粒子の形状変化を抑えることができ、好適な球形状で、かつカルボキシ基量の多い吸水性粒子を得ることができる。
【0053】
このように、本開示に係る製造方法によれば、簡単な処理で、多糖の6位の炭素および水酸基を、球状を保つのに十分な水酸基を残した状態でカルボキシ基に変換することができ、カルボキシ基を有する吸水性粒子を簡単・確実に製造することができる。このようにして得られた吸水性粒子は、前述した好適な作用効果を示し、化粧品分野、洗浄剤分野、塗料分野、食品分野に利用できる。
【実施例】
【0054】
(原料粒子)
次に、実施例を挙げて以下に説明する。表1~4に示す条件で実施例および比較例を作成した。実施例および比較例は、何れも、参考例1のセルロース球状粒子(表のセルロース1)を原料粒子として用いて、カルボキシ化したものである。また、対比例は、参考例2のセルロース球状粒子(表のセルロース2)を原料粒子として用いて、カルボキシ化したものである。なお、参考例1および参考例2は、カルボキシ基が導入されていない。
図7に示す参考例3は、参考例2と同様のセルロースである。
・セルロース1:大東化成工業(株)製、商品名CELLULOBEADS D-50、平均粒径50μm、結晶化度0.303、吸水量1.4g/g
・セルロース2:JNC(株)製、商品名CPC06-m、平均粒径50μm~100μm、結晶化度0.33、吸水量7g/g
【0055】
【0056】
【0057】
【0058】
【0059】
(実施例1に係る吸水性粒子の製造)
まず、球形粒子であるセルロース1(参考例1)1.0gを100mLの蒸留水に分散させた分散液を調製する。次に、0.012gの2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル(TEMPO)、0.12gの臭化ナトリウムを添加する。また、次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度4.0%以上、食品添加物)を、0.17mol%/minの添加速度で分散液に滴下して、添加量が0.02mol/l(多糖1g当たり12mmol)になるように添加する。そして、0.4Mの水酸化ナトリウム水溶液を、スターラーで撹拌している分散液に滴下し、分散液をpHメーターでpH10~10.5を保つように調製し、スターラーで2時間かき混ぜてTEMPO酸化させた。そして、分散液にpH7になるまで塩酸を加えた後に、反応混合物をろ過し、ろ取物を水で洗浄した後、エタノールで置換し、48時間減圧乾燥することによって、セルロース粒子における6位の炭素および水酸基の一部がカルボキシ基になった構造を有する実施例1に係る吸水性粒子を得た。
【0060】
(実施例2~8および比較例1~5の吸水性粒子の製造)
実施例1と同様の方法により、表1~表4に示す条件で実施例2~8および比較例1~5の吸水性粒子を製造した。
【0061】
(対比例の吸水性粒子の製造)
まず、球形粒子であるセルロース2(参考例2)1gを、100mLの0.2mol/L酢酸緩衝溶液に分散させた分散液を調製する。次に、0.096gの4-アセトアミド-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカル(4-AcHN-TEMPO)を添加する。また、次亜塩素酸ナトリウム(有効塩素濃度4.0%以上、食品添加物)を、一度に分散液に添加して、添加量が0.019mol/l(多糖1g当たり1.9mmol)になるように添加する。そして、分散液をpH4.8に調製したもとで、酸化させることで、セルロース粒子における6位の炭素および水酸基の一部がカルボキシ基になった構造を有する対比例に係る吸水性粒子を得た。
【0062】
(赤外吸収スペクトル)
実施例2および6の吸水性粒子と参考例1のセルロース粒子とについて、赤外吸収スペクトルをフーリエ変換型赤外分光装置で測定した。なお、赤外分光装置としては、日本分光(株)製の製品名FT/IR-6300を用いた。その結果を
図6に示す。
図6に示すように、カルボキシ化処理を行った実施例2および6は、カルボキシ化処理を行っていない参考例1のセルロース粒子と比べて、1600cm
-1付近にカルボニル基に由来するシャープな吸収が現れ、多糖の炭素および水酸基がカルボキシ基に変換されたことが明らかである。
【0063】
(結晶化度)
実施例、参考例、比較例および対比例の吸水性粒子の結晶化度を調べた。結晶化度は、前述したように、X線回折のピーク強度比から算出している。カルボキシ化された吸水性粒子は、原料粒子よりも結晶化度が低下し、結晶化度の減少割合が該吸水性粒子において多糖がカルボキシ化されたカルボキシ化体積であるといえる。表1~表3に示すように、実施例の吸水性粒子は、カルボキシ基量に対するカルボキシ化体積が高く、粒子表面だけでなく、粒子表面から内側に向けた範囲に亘って6位カルボキシ化多糖が存在していることが判る。
【0064】
(カルボキシ基量)
実施例、比較例および対比例の吸水性粒子のカルボキシ基量を調べた。吸水性粒子のそれぞれについて、蒸留水に分散させ、pHを2.5に調整した後、0.1Mの水酸化ナトリウム水溶液で滴定し、滴定曲線を作成し、変曲点間の滴下量からカルボキシ基量を算出した。なお、測定装置は、平沼産業(株)のAUTO TITRATOR COM-1700に電導度測定用滴定ユニットE-1700を装着したものを用いて測定した。表1~表4の体積当たりのカルボキシ基量は、吸水性粒子の単位体積当たりのカルボキシ基の量(吸水性粒子の体積/カルボキシ基量)を表している。
【0065】
(膨潤度)
膨潤度(体積増加率)は、以下の方法で算出している。実施例等の試料0.3gを10mlのメスシリンダーに入れ、水5mlを加える。試料を水に浸積させるために、アスピレーターを用いて2時間脱気し、脱気後、30℃の水浴中で24時間放置する。24時間放置した後、試料の体積を測定し、以下の式で膨潤度を算出する。
膨潤度=(吸水させた試料の体積/吸水させる前の試料の体積)×100
【0066】
(可視光の透過度)
可視光の透過度は、原料粒子または吸水性粒子を水に1wt%になるよう分散させた水分散液を、紫外可視近赤外分光光度計(装置名:V-670、日本分光株式会社製)によって測定し、以下の式5により算出している。
【数5】
【0067】
(円形度)
表1~表4に示す円形度は、シスメックス(株)製のフロー式粒子像分析装置FPIA-3000Sを用いて、実施例等の粒子を撮像して算出したものである。なお、円形度は、粒子を撮像した画像の周囲長と同じ投影面積の真円の直径から算出した周囲長を、粒子を撮像した画像の周囲長で除した値である。表1~表3に示すように、カルボキシ基量が増大すると円形度は低下し、カルボキシ基量が2.55mmol/gより多くなると円形度が大幅に低下することが確認された。
【0068】
(吸水量)
吸水量は、前述したように、水に浸漬した後の吸水性粒子の重量から乾燥時の吸水性粒子の重量を減じた値を乾燥時の吸水性粒子の重量で除して算出している。より具体的には、吸水性粒子に含まれる水をメタノールで置換した後に、24時間減圧乾燥して、乾燥時の吸水性粒子を得ている。また、吸水後の吸水性粒子の重量は、前記条件により乾燥した吸水性粒子を水に3時間浸漬して吸水させて、飽和させた後の重量を測定している。
図8は、参考例1および実施例の吸水性粒子についてカルボキシ基量と吸水性との関係をプロットしたグラフ図である。なお、実施例の吸水性粒子は、酸化剤を0.17mol%/minの添加速度で添加した場合である。
図8に示すように、カルボキシ基量が多くなるにつれて、吸水量も多くなり、カルボキシ基量を制御して、吸水能力を簡単に調整できることは明らかである。
【0069】
(吸水量の上昇値とカルボキシ基量との関係)
表1~表3に示す吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値は、粒子に導入されたカルボキシ基によって、吸水性粒子が元の原料粒子からどれだけ効率よく吸水性が向上したかを示すものである。すなわち、当該比の値が大きくなるほど、少ないカルボキシ基量で効率よく吸水性が向上しているといえる。なお、吸水量の上昇値とカルボキシ基量との比の値は、前述したように算出している。
【0070】
(カルボキシ化体積とカルボキシ基量との関係)
表1~表3に示すカルボキシ化体積とカルボキシ基量との比の値は、吸水性粒子が元の原料粒子からどれだけ内側まで効率よくカルボキシ化されたかを示すものである。すなわち、当該比の値が大きくなるほど、少ないカルボキシ基量で効率よく粒子内側までカルボキシ化されているといえる。なお、カルボキシ化体積とカルボキシ基量との比の値は、前述したように算出している。
【0071】
(評価)
吸水性粒子は、円形度0.75以上で球形状を保っているとする。そして、前記円形度のもとで吸水量上昇値とカルボキシ基量との比の値が、1.4以上で1.44未満を「△」と評価し、前記円形度のもとで吸水量上昇値とカルボキシ基量との比の値が、1.44以上で5.73未満を「○」と評価する。また、前記円形度のもとで吸水量上昇値とカルボキシ基量との比の値が、5.73以上で11.18以下のときを「◎」と評価する。円形度が0.75未満または凝集物(測定不能)になってしまう場合は、「×」とし、円形度が0.75以上であっても、吸水量上昇値とカルボキシ基量との比の値が1.4未満のときは、「×」とする。
【0072】
(顕微鏡写真)
図9~
図13は、実施例2、3、4および6の吸水性粒子および参考例1のセルロース粒子を光学顕微鏡(製品名:KH-7700、株式会社ハイロックス製)により撮像した写真を示す。
図9~
図13に示すように、実施例2、3、4および6の吸水性粒子は、原料粒子(参考例1)に由来する球状の粒子形状を保っていることが判り、湿潤状態であっても、球状の粒子形状が保たれていることが判る。
【0073】
(カルボキシ化体積と吸水量の相関)
表1および表2に示すように、次亜塩素酸ナトリウムの添加量が増加するにつれて、カルボキシ基量が増加することが分かる。表2および表3において実施例4および5と対比例とが示すように、同様のカルボキシ基量であったとしても、実施例4および5のカルボキシ化体積は対比例よりも高く、実施例4および5は対比例よりも吸水量が高い。すなわち、実施例の吸水性粒子のように、6位カルボキシ化セルロースが粒子表面から内側に亘る範囲に存在していることで、吸水量が向上することが判る。そして、表1に示すように、カルボキシ化体積が7.6%以上になるように、カルボキシ基が粒子表面から内側に亘る範囲に存在していることで、自身の重量の2倍ほどの吸水量を示し、カルボキシ化体積が10%以上であると吸水量が向上し、実用性が増すことが判る。また、カルボキシ化体積が27.4%以上になるように、カルボキシ基が粒子表面から内側に亘る範囲に存在していることで、自身の10倍以上の吸水性を示すことが判る。
【0074】
(カルボキシ基量と粒子形状との関係)
実施例の吸水性粒子は、粒子内側にもカルボキシ基を存在させて、粒子表面にあるカルボキシ基を少なくできるから、表面にあるカルボキシ基同士の反発を抑えることができる。従って、表2の実施例8に示すように、カルボキシ基量が2.55mmol/gのように多くなっても、原料粒子に由来する球形の粒子形状を保つことができる。
【0075】
(酸化剤の添加速度)
表4に示すように、酸化剤の添加速度がカルボキシ化に与える影響を調べた。収率は、次のように算出している。なお、表4では、収率が50%未満を「×」と評価している。
収率={(乾燥後の吸水性粒子の重量)/(原料粒子の重量)}×100
【0076】
表4に示すように、原料粒子および触媒を分散した分散液に対して、酸化剤を7.56mol%/min以下の添加速度で添加することで、粒子の表面から内側に亘る範囲をカルボキシ化して、セルロースの6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する球状粒子を得ることができる。原料粒子および触媒を分散した分散液に対して、15mol%/minのような速い添加速度で酸化剤を添加することで、収率が著しく悪化することが判る(比較例3および比較例5)。また、原料粒子および触媒を分散した分散液に対して、0.05mol%/minのようなゆっくりな添加速度で酸化剤を添加しても、粒子の表面から内側に亘る範囲をカルボキシ化して、セルロースの6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する球状粒子を得ることができる。しかし、酸化剤の添加速度が余りにも遅いと、工業的な実用性に乏しくなり好ましくないので、0.05mol%/min以下を表4において評価「-」としている。
【0077】
本明細書には、以下の発明が開示されている。
【0078】
(発明A)
発明Aは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
式1に示す前記多糖がカルボキシ化された吸水性粒子の吸水量の上昇値と、前記カルボキシ基の総量との比の値が、以下の式2に示す関係にある、吸水性粒子である。
【数1】
【数2】
【0079】
(発明B)
発明Bは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
粒子において前記カルボキシ基を有する前記多糖が占める体積の割合と、前記カルボキシ基の総量との比の値が、以下の式4に示す関係にある、吸水性粒子である。
【数4】
【0080】
(発明C)
発明Cは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
結晶化度が0.09~0.28の範囲にあるII構造のセルロースである前記多糖で構成されている、吸水性粒子である。
【0081】
(発明D)
発明Dは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
粒子に対する前記カルボキシ基の総量が、0.35mmol/g~2.55mmol/gの範囲にある、吸水性粒子である。
【0082】
(発明E)
発明Eは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
前記カルボキシ基を有する前記多糖は、粒子において占める体積の割合が10%以上である、吸水性粒子である。
【0083】
(発明F)
発明Fは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
吸水性粒子の単位重量当たりの吸水量が、10g/g~30g/gの範囲にある、吸水性粒子である。
【0084】
(発明G)
発明Gは、多糖からなる球状粒子であり、
6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する多糖が、粒子の表面から内側に向けた範囲に亘って存在し、
円形度が0.75以上の球状である、吸水性粒子である。
【0085】
(発明H)
ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体から選択した触媒と、多糖からなる球状粒子を、水系溶媒に分散した分散液を調製し、
酸化剤を、7.56mol%/min以下の速度で前記分散液に添加し、
前記多糖の6位および還元末端にある炭素および水酸基を前記酸化剤で選択的に酸化することで、粒子の表面から内側に亘る範囲をカルボキシ化して、該多糖の6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する球状粒子を得る、吸水性粒子の製造方法である。
【0086】
(発明I)
ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体から選択した触媒と、多糖からなる球状粒子を、水系溶媒に分散した分散液を調製し、
酸化剤を前記分散液に添加し、
前記多糖の6位および還元末端にある炭素および水酸基を前記酸化剤で選択的に酸化することで、粒子の表面から内側に亘る範囲をカルボキシ化して、該多糖の6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する球状粒子を得る際に、
前記触媒として、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル フリーラジカルを用い、
pHを8~11の範囲に調製した前記分散液に、前記酸化剤としての次亜塩素酸塩を、前記多糖1gに対して2mmol~15mmolの範囲になるように滴下し、前記多糖をカルボキシ化する、吸水性粒子の製造方法である。
【0087】
(発明J)
ニトロキシラジカルまたはニトロキシラジカル誘導体から選択した触媒と、多糖からなる球状粒子を、水系溶媒に分散した分散液を調製し、
酸化剤を前記分散液に添加し、
前記多糖の6位および還元末端にある炭素および水酸基を前記酸化剤で選択的に酸化することで、粒子の表面から内側に亘る範囲をカルボキシ化して、該多糖の6位および還元末端のみにカルボキシ基を有する球状粒子を得る際に、
結晶化度が0.3以上であるII型構造のセルロースである前記多糖を、結晶化度が0.09~0.28の範囲になるようにカルボキシ化する、吸水性粒子の製造方法である。