IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人 鹿児島大学の特許一覧 ▶ 株式会社JUN建設の特許一覧

<>
  • 特許-コーヒー果実を丸ごと焙煎する方法 図1
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】コーヒー果実を丸ごと焙煎する方法
(51)【国際特許分類】
   A23F 5/04 20060101AFI20230512BHJP
   A23L 19/00 20160101ALI20230512BHJP
【FI】
A23F5/04
A23L19/00 A
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019108721
(22)【出願日】2019-06-11
(65)【公開番号】P2020198827
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-05-13
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(73)【特許権者】
【識別番号】519211340
【氏名又は名称】株式会社JUN建設
(74)【代理人】
【識別番号】110002572
【氏名又は名称】弁理士法人平木国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】加治屋 勝子
(72)【発明者】
【氏名】東 さつき
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-006094(JP,A)
【文献】特表2018-529378(JP,A)
【文献】特表2016-513964(JP,A)
【文献】特開2013-227418(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23F,A23L
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
焙煎温度90~180℃を持続し、且つ温度上昇と温度下降とを繰り返し段階的に焙煎温度を上昇させながら、コーヒー果実を焙煎に供することを含む、焙煎コーヒー果実の製造方法。
【請求項2】
焙煎が、遠赤外線焙煎、中近赤外線焙煎、熱風焙煎、及び直火焙煎から成る群より選択される、請求項1記載の方法。
【請求項3】
遠赤外線焙煎が、以下の工程1~14を含む、請求項2記載の方法。
工程1) 焙煎機窯内温度を常温から130℃まで5~8分かけて上昇させる工程;
工程2) 焙煎機窯内温度130℃でコーヒー果実を焙煎機窯内に投入し、焙煎機窯内温度を95℃まで1~3分かけて下降させる工程;
工程3) 焙煎機窯内温度を95℃から115℃まで5~10分かけて上昇させる工程;
工程4) 焙煎機窯内温度を115℃から110℃まで2~3分かけて下降させる工程;
工程5) 焙煎機窯内温度を110℃から130℃まで5~8分かけて上昇させる工程;
工程6) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで5~10分かけて下降させる工程;
工程7) 焙煎機窯内温度を90℃から130℃まで8~10分かけて上昇させる工程;
工程8) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで5~10分かけて下降させる工程;
工程9) 焙煎機窯内温度を90℃から135℃まで10~13分かけて上昇させる工程;
工程10) 焙煎機窯内温度を135℃から100℃まで5~10分かけて下降させる工程;
工程11) 焙煎機窯内温度を100℃から140℃まで10~13分かけて上昇させる工程;
工程12) 焙煎機窯内温度を140℃から130℃まで1~2分かけて下降させる工程;
工程13) 焙煎機窯内温度を130℃から180℃まで15~20分かけて上昇させる工程;
工程14) 焙煎機窯内温度180℃でコーヒー果実を焙煎機窯内から取り出し、コーヒー果実の温度を常温まで急冷させる工程。
【請求項4】
遠赤外線焙煎が、以下の工程1~14を含む、請求項3記載の方法。
工程1) 焙煎機窯内温度を常温から130℃まで6分かけて上昇させる工程;
工程2) 焙煎機窯内温度130℃でコーヒー果実を焙煎機窯内に投入し、焙煎機窯内温度を95℃まで2分かけて下降させる工程;
工程3) 焙煎機窯内温度を95℃から115℃まで6分かけて上昇させる工程;
工程4) 焙煎機窯内温度を115℃から110℃まで3分かけて下降させる工程;
工程5) 焙煎機窯内温度を110℃から130℃まで6分かけて上昇させる工程;
工程6) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで10分かけて下降させる工程;
工程7) 焙煎機窯内温度を90℃から130℃まで9分かけて上昇させる工程;
工程8) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで10分かけて下降させる工程;
工程9) 焙煎機窯内温度を90℃から135℃まで11分かけて上昇させる工程;
工程10) 焙煎機窯内温度を135℃から100℃まで10分かけて下降させる工程;
工程11) 焙煎機窯内温度を100℃から140℃まで10分かけて上昇させる工程;
工程12) 焙煎機窯内温度を140℃から130℃まで2分かけて下降させる工程;
工程13) 焙煎機窯内温度を130℃から180℃まで16分かけて上昇させる工程;
工程14) 焙煎機窯内温度180℃でコーヒー果実を焙煎機窯内から取り出し、コーヒー果実の温度を常温まで急冷させる工程。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばコーヒー果実を丸ごと焙煎する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
日本のコーヒー消費量は右肩上がりに増加しているが(1997年,36万トン; 2007年,43万トン;2017年,46万トン)、約40ヶ国以上からの輸入に頼っている。輸入される時は外皮や果肉を剥いだ残りの種子(生豆)のみで、廃棄率は約60~70%と高い。日本でも、少数の生産者が少量だけ生産して自己消費しているが、商業ベースで入手するのは困難な状況である。
【0003】
一方、本発明者等は、血管関連疾患の予防のため、血管機能を正常化する物質の探索を行っており、これまでに「トリゴネリン」を発見している(非特許文献1)。血管は、軟らかいゴムホースのように伸び縮みすることができ、管の中を血液が流れている。管は三層構造で、血液側から内膜、中膜、外膜で構成されており、一番内側にある内膜は、整列した血管内皮細胞から成っている。血管内皮細胞は、血管のバリアとして働いているだけではなく、様々な物質を作り出して血管の伸び縮みを調整したり、白血球などが血管に付着して血栓になるのを防いだりしている。特に、一酸化窒素(NO)は、血管を拡張することで血圧を下げたり、血小板凝集を抑えることで動脈硬化を防いだりする作用などがある。しかしながら、糖尿病、高血圧、コレステロール過多などの各種血管関連疾患や、加齢、喫煙などがきっかけとなり血管内皮細胞が傷害されると、NOの産生量が減ってしまう。そこで、この血管内皮細胞が作るNO産生を高め、血管機能改善に寄与する物質としてトリゴネリンを発見した。コーヒー中のトリゴネリンは、通常の焙煎過程で消失するが、トリゴネリンを失うことなく活用できれば、コーヒーを飲むことで血管関連疾患の予防が期待できる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0004】
【文献】Rei Kuroda, Kimiko Kazumura, Miki Ushikata, Yuji Minami, Katsuko Kajiya, Elucidating the improvement in vascular endothelial function from Sakurajima Daikon and its mechanism of action: a comparative study with Raphanus sativus. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 2018, 66, 8714-8721.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
コーヒーの木は苗を植え付けてから4~5年目から収穫できる。本出願人のコーヒー栽培では、年々収穫量も増え、2018年収穫(10年目)の収穫量は、果実として約300kg、脱穀した生豆では約100kgであった。本発明者等は、コーヒー果実の収穫を国内で生産できるという強みを活かし、通常廃棄している部分も含めた活用を考えた。しかしながら、果肉付きコーヒー果実の焙煎はノウハウが必要で、焙煎が強すぎると果皮・果肉部分が炭化して商品価値がなく、焙煎が弱すぎると種子まで火が通らず生焼けになるので苦いだけでまずいという問題があった。
【0006】
一方、コーヒー果実を丸ごと焙煎することにより、新しい味や香りのコーヒーを創出でき、産業廃棄物の低減、コーヒー豆の増産等、コーヒー業界の新しい取り組みの提案となる。また、世界に先駆けて超高齢社会に突入した日本において、健康長寿を妨げる大きな原因となる血管関連疾患の予防には高い関心が見込まれる。「食」による予防医療への期待も高まっている今、食生活の一端を担っているコーヒーを上手く活用して、健康長寿社会実現に貢献できると考えられる。
【0007】
本発明は、上述の実情に鑑み、コーヒー果実を丸ごと焙煎することにより、脱穀による廃棄部が生じることなく、血管関連疾患の予防に有用な焙煎コーヒー果実を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため鋭意研究を行った結果、コーヒー果実を丸ごと焙煎するにあたり、果皮・果肉部分が炭化しないように、且つ、種子まで火を通して生焼けにならないような独自の焙煎温度帯を見出し、またこのような焙煎温度帯で丸ごと焙煎したコーヒー果実は、血管関連疾患の予防に有用なトリゴネリンをほとんど失わないことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0009】
すなわち、本発明は、以下を包含する。
(1)焙煎温度90~180℃を持続し、且つ温度上昇と温度下降とを繰り返し段階的に焙煎温度を上昇させながら、コーヒー果実を焙煎に供することを含む、焙煎コーヒー果実の製造方法。
(2)焙煎が、遠赤外線焙煎、中近赤外線焙煎、熱風焙煎、及び直火焙煎から成る群より選択される、(1)記載の方法。
(3)遠赤外線焙煎が、以下の工程1~14を含む、(2)記載の方法。
工程1) 焙煎機窯内温度を常温から130℃まで5~8分かけて上昇させる工程;
工程2) 焙煎機窯内温度130℃でコーヒー果実を焙煎機窯内に投入し、焙煎機窯内温度を95℃まで1~3分かけて下降させる工程;
工程3) 焙煎機窯内温度を95℃から115℃まで5~10分かけて上昇させる工程;
工程4) 焙煎機窯内温度を115℃から110℃まで2~3分かけて下降させる工程;
工程5) 焙煎機窯内温度を110℃から130℃まで5~8分かけて上昇させる工程;
工程6) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで5~10分かけて下降させる工程;
工程7) 焙煎機窯内温度を90℃から130℃まで8~10分かけて上昇させる工程;
工程8) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで5~10分かけて下降させる工程;
工程9) 焙煎機窯内温度を90℃から135℃まで10~13分かけて上昇させる工程;
工程10) 焙煎機窯内温度を135℃から100℃まで5~10分かけて下降させる工程;
工程11) 焙煎機窯内温度を100℃から140℃まで10~13分かけて上昇させる工程;
工程12) 焙煎機窯内温度を140℃から130℃まで1~2分かけて下降させる工程;
工程13) 焙煎機窯内温度を130℃から180℃まで15~20分かけて上昇させる工程;
工程14) 焙煎機窯内温度180℃でコーヒー果実を焙煎機窯内から取り出し、コーヒー果実の温度を常温まで急冷させる工程。
(4)遠赤外線焙煎が、以下の工程1~14を含む、(3)記載の方法。
工程1) 焙煎機窯内温度を常温から130℃まで6分かけて上昇させる工程;
工程2) 焙煎機窯内温度130℃でコーヒー果実を焙煎機窯内に投入し、焙煎機窯内温度を95℃まで2分かけて下降させる工程;
工程3) 焙煎機窯内温度を95℃から115℃まで6分かけて上昇させる工程;
工程4) 焙煎機窯内温度を115℃から110℃まで3分かけて下降させる工程;
工程5) 焙煎機窯内温度を110℃から130℃まで6分かけて上昇させる工程;
工程6) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで10分かけて下降させる工程;
工程7) 焙煎機窯内温度を90℃から130℃まで9分かけて上昇させる工程;
工程8) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで10分かけて下降させる工程;
工程9) 焙煎機窯内温度を90℃から135℃まで11分かけて上昇させる工程;
工程10) 焙煎機窯内温度を135℃から100℃まで10分かけて下降させる工程;
工程11) 焙煎機窯内温度を100℃から140℃まで10分かけて上昇させる工程;
工程12) 焙煎機窯内温度を140℃から130℃まで2分かけて下降させる工程;
工程13) 焙煎機窯内温度を130℃から180℃まで16分かけて上昇させる工程;
工程14) 焙煎機窯内温度180℃でコーヒー果実を焙煎機窯内から取り出し、コーヒー果実の温度を常温まで急冷させる工程。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、収穫後のコーヒー果実をそのまま焙煎することにより、余計な加工工程がなく、様々な栄養素の損失も少なく、脱穀による廃棄部が生じないため、簡便に多量の焙煎コーヒー果実を提供することができる。
【0011】
また、本発明によれば、丸ごと焙煎したコーヒー果実は、血管関連疾患の予防に有用なトリゴネリンをほとんど失わないため、当該コーヒー果実から淹れたコーヒーは、多量のトリゴネリンを含有し、血管関連疾患の予防に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】実施例1において製造した焙煎コーヒー果実におけるトリゴネリンの分析結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明に係る焙煎コーヒー果実の製造方法は、焙煎温度90~180℃を持続し、且つ温度上昇と温度下降とを繰り返し段階的に焙煎温度を上昇させながら、コーヒー果実を焙煎に供することを含むものである。
【0014】
従来の焙煎コーヒー豆の製造方法では、コーヒー果実を収穫後、一次脱穀、乾燥、二次脱穀を経て生豆を回収し、焙煎する。この際、焙煎は180℃以上の高温で長時間処理する。このような一般的な生豆を焙煎する時間と温度管理では、コーヒー果実を丸ごと焙煎する場合、コーヒー果実の皮の部分が焦げてしまう。また、焙煎時間が短いと中心の生豆が生焼けで飲料に適さず、一方、一気に温度上昇すると皮の部分のみ焦げてしまう。本発明に係る焙煎コーヒー果実の製造方法では、焙煎温度と皮が焦げない温度を持続させるため、徐々に段階を経て温度上昇することで皮を焦がすことなく中身のコーヒー豆も焙煎することができる。
【0015】
また、コーヒー豆中のトリゴネリンは従来の焙煎過程では消失するが、本発明に係る焙煎コーヒー果実の製造方法では、丸ごと焙煎したコーヒー果実は、トリゴネリンをほとんど失わない。
【0016】
ここで、「コーヒー果実」とは、コーヒーの実を意味し、外皮、果肉及び生豆(種子)を含むものである。
【0017】
本発明に係る焙煎コーヒー果実の製造方法では、天日乾燥や機械乾燥により乾燥させたコーヒー果実を焙煎に供する。焙煎方式としては、例えば遠赤外線焙煎、中近赤外線焙煎、熱風焙煎、直火焙煎等の従来から知られているものが挙げられ、遠赤外線焙煎が特に好ましい。遠赤外線焙煎によれば、コーヒー果実の深部からの熱伝導で焙煎することができる。
【0018】
焙煎条件としては、焙煎温度90~180℃を持続し、且つ温度上昇(例えば、115~180℃までの温度上昇)と温度下降(例えば、90~130℃までの温度下降)とを繰り返し段階的に焙煎温度を上昇させながら、77~120分行う条件が挙げられる。
【0019】
具体的に、遠赤外線焙煎条件としては、一般的な遠赤外線焙煎機において、以下の工程1~14を順次行うものが挙げられる:
工程1) 焙煎機窯内温度を常温から130℃まで5~8分(好ましくは、6分)かけて上昇させる工程;
工程2) 焙煎機窯内温度130℃でコーヒー果実を焙煎機窯内に投入し、焙煎機窯内温度を95℃まで1~3分(好ましくは、2分)かけて下降させる工程;
工程3) 焙煎機窯内温度を95℃から115℃まで5~10分(好ましくは、6分)かけて上昇させる工程;
工程4) 焙煎機窯内温度を115℃から110℃まで2~3分(好ましくは、3分)かけて下降させる工程;
工程5) 焙煎機窯内温度を110℃から130℃まで5~8分(好ましくは、6分)かけて上昇させる工程;
工程6) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで5~10分(好ましくは、10分)かけて下降させる工程;
工程7) 焙煎機窯内温度を90℃から130℃まで8~10分(好ましくは、9分)かけて上昇させる工程;
工程8) 焙煎機窯内温度を130℃から90℃まで5~10分(好ましくは、10分)かけて下降させる工程;
工程9) 焙煎機窯内温度を90℃から135℃まで10~13分(好ましくは、11分)かけて上昇させる工程;
工程10) 焙煎機窯内温度を135℃から100℃まで5~10分(好ましくは、10分)かけて下降させる工程;
工程11) 焙煎機窯内温度を100℃から140℃まで10~13分(好ましくは、10分)かけて上昇させる工程;
工程12) 焙煎機窯内温度を140℃から130℃まで1~2分(好ましくは、2分)かけて下降させる工程;
工程13) 焙煎機窯内温度を130℃から180℃まで15~20分(好ましくは、16分)かけて上昇させる工程;
工程14) 焙煎機窯内温度180℃でコーヒー果実を焙煎機窯内から取り出し、冷却装置等で、コーヒー果実の温度を常温まで急冷させる工程。
【0020】
以上のようにして得られた焙煎コーヒー果実から、通常の焙煎されたコーヒー豆からのコーヒーの提供手順(挽き、フレンチプレス、ドリップ等)に従ってコーヒーを淹れることができる。フレンチプレスは、挽いたコーヒー豆をコーヒープレスに入れ、その上から熱湯を注いで蒸らした抽出方法であり、コーヒーオイルや雑味も含めたコーヒー本来の味を楽しめる。ドリップは、挽いたコーヒー豆を布や紙のフィルターの上に入れ、上から熱湯を注いで漉した抽出方法であり、雑味を遮断して、コーヒーの美味しいところを味わえる。
【実施例
【0021】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明の技術的範囲はこれら実施例に限定されるものではない。
【0022】
〔実施例1〕焙煎コーヒー果実の製造及び焙煎コーヒー果実におけるトリゴネリンの分析
1.材料及び方法
1-1.焙煎コーヒー果実の製造
以下の方法により焙煎コーヒー果実を製造した:
1) コーヒーの木は苗を植え付けてから4~5年目から収穫できる。鹿児島県沖永良部島産のコーヒー果実を収穫し、直接水を入れた水槽に投入して浮いたコーヒー果実を取り除いた。
2) 1)のコーヒー果実を、湿度が低く気温が10℃以下の冬季に天日乾燥するか、あるいは、機械乾燥した。
3) 乾燥したコーヒー果実を焙煎した。遠赤外線焙煎にて90~180℃を持続し、コーヒー果実の深部からの熱伝導で焙煎した。使用した焙煎機は、遠赤外線焙煎機1kg窯であった。
具体的な焙煎工程1~14を以下の表1に示す。
【0023】
焙煎機内ガス火において、「燃焼中」の場合は、示した焙煎機窯内温度から次の工程の焙煎機窯内温度まで上昇し、「消火」の場合は、示した焙煎機窯内温度から次の工程の焙煎機窯内温度まで下降した。
【0024】
工程1では焙煎機窯内温度を上げ、工程2ではコーヒー果実を投入した。工程3では、コーヒー果実の投入により窯内温度が下がった。工程4~13では、90~180℃を持続する為、バーナーの火を燃焼と消火を繰り返した。工程14では、焙煎機からコーヒー果実を取り出し、冷却装置で常温まで一気にコーヒー果実の温度を下げた。
【0025】
【表1】
【0026】
1-2.焙煎コーヒー果実におけるトリゴネリンの分析
第1-1節で製造した焙煎コーヒー果実におけるトリゴネリンの定量を、高速液体クロマトグラフィーを用いて行った。以下の2つの条件で分析可能であった。
【0027】
1) 条件1:シャープなピーク1本が出るが、特殊なカラム。
カラム:TOSOH ODS-100Z 5μm 4.6mmI.D.×50cm
ガードカラム:ODS 5μm 3.2mm×1.5cm
移動相:10mMリン酸、グラジエントなし
流速:0.7mL/min
カラム温度:40℃
検出:UV 265nm。
【0028】
2) 条件2:構造異性体があるため二山のピークが出る。
カラム:COSMOSIL 5C18-AR-300 5μm 4.6mmI.D.×25cm
ガードカラム:ODS 5μm 3.2mm×1.5cm
移動相:H2O (HCl, pH3.5)/MeOH=5:95
流速:1.0mL/min
検出:UV 267nm (フォトダイオードアレイにて吸光度確認)。
【0029】
2.結果及び考察
2-1.焙煎コーヒー果実におけるトリゴネリンの分析結果
第1-2節における焙煎コーヒー果実におけるトリゴネリンの分析の結果を図1に示す。
【0030】
図1に示すトリゴネリンの分析に使用したサンプルは、以下の通りである:
「コーヒー果実(沖永良部産)」:第1-1節で使用した鹿児島県沖永良部島産のコーヒー果実;
「乾燥果実(沖永良部産)」:第1-1節における工程2)乾燥後のコーヒー果実;
「外皮(沖永良部産)」:第1-1節で使用した鹿児島県沖永良部島産のコーヒー果実から剥皮した外皮;
「豆(沖永良部産)」:第1-1節で使用した鹿児島県沖永良部島産のコーヒー果実から外皮や果肉等を除去した生豆(種子);
「豆(通常焙煎)」:焙煎庫内を195℃に上昇させて豆(沖永良部産)を投入し、180℃で持続焙煎した豆;
「豆(丸ごと焙煎)」:第1-1節で製造した焙煎コーヒー果実;
「抽出液フレンチプレス(丸ごと焙煎)」:第1-1節で製造した焙煎コーヒー果実をフレンチプレス法で抽出したコーヒー。具体的には、焙煎コーヒー果実を挽いた粉10gを器具(フレンチプレスコーヒー)に入れ、お湯(90~95℃)120~150mlを注ぎ入れた。コーヒーの粉全体にお湯が行き渡るよう混ぜ、4~5分経ったら蓋を押し下げコーヒーの液体を注ぎ出した。フレンチプレス法の特徴として、コーヒー豆のオイル分も含めコーヒーの香り旨み成分を逃がすことなく抽出できる。コーヒー粉の微粒子も液体に混ざることが多い;
「抽出液ドリップ(丸ごと焙煎)」:第1-1節で製造した焙煎コーヒー果実をネルドリップ法で抽出したコーヒー。具体的には、布(ネル)の中に、焙煎コーヒー果実を挽いたコーヒー粉10gを入れ、お湯(90~95℃)120~150mlをゆっくり回し注ぎ入れた。ドリップ法としてペーパードリップ、ネルドリップ、金属フィルターといった3種類が日本で多く使われており、そのうち、ネルドリップは、布(ネル)のフィルターを使用したもので、ペーパーフィルターよりコーヒーオイルを抽出しやすく、金属フィルターより特徴として雑味や微粒子を抑えることができ、コーヒーオイル成分の旨み香りも抽出できる;
「モカ(輸入豆の抽出液)」:上記フレンチプレス法で抽出したモカコーヒー;
「コロンビア(輸入豆の抽出液)」:上記フレンチプレス法で抽出したコロンビアコーヒー;
「コロンビア深煎り(輸入豆の抽出液)」:上記フレンチプレス法で抽出したコロンビア深煎りコーヒー;
「スペシャルブレンド(輸入豆の抽出液)」:上記フレンチプレス法で抽出したスペシャルブレンドコーヒー。
【0031】
図1に示すように、コーヒー果実中にはトリゴネリン4μg/mg含まれており、通常焙煎では約1/3まで減少した(1.33μg/mg)。しかしながら、丸ごと焙煎豆では7%の消失のみであり、ほぼ丸ごと焙煎豆に残っていた(3.75μg/mg)。
【0032】
具体的に、図1に示す(1)~(8)のサンプルについての結果は、以下の通りであった:
(1) 乾燥により水分蒸発するため、重量当たりに換算するとトリゴネリン量は増加した;
(2) (1)を外皮と豆にわけると廃棄される外皮の方にもかなりトリゴネリンがあることがわかった;
(3) いわゆる一般的なコーヒー豆;
(4) (3)を一般的な焙煎方法で焙煎するとトリゴネリンが半分になった;
(5) (1)を丸ごと焙煎すると、トリゴネリン量を高濃度で残すことができた;
(6) (5)をフレンチプレス法で抽出した液(コーヒー)中にトリゴネリンを確認できた;
(7) (5)をドリップ法で抽出した液(コーヒー)中にトリゴネリンを確認できた;
(8) 輸入豆を抽出した液(コーヒー)。拡大図のように少ないながらも抽出されているが、量が少ないが故に同一グラフ上に表すと棒グラフが見えなくなった。
図1