(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】フルカラー無機ナノ粒子インクとその作製方法、及びシリコンナノ粒子の作製方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/037 20140101AFI20230512BHJP
C01B 33/023 20060101ALI20230512BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230512BHJP
B82Y 30/00 20110101ALI20230512BHJP
【FI】
C09D11/037
C01B33/023
B82Y40/00
B82Y30/00
(21)【出願番号】P 2019200333
(22)【出願日】2019-11-01
【審査請求日】2022-09-20
(31)【優先権主張番号】P 2019144078
(32)【優先日】2019-08-05
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504150450
【氏名又は名称】国立大学法人神戸大学
(74)【代理人】
【識別番号】110000822
【氏名又は名称】弁理士法人グローバル知財
(72)【発明者】
【氏名】杉本 泰
(72)【発明者】
【氏名】岡崎 拓真
(72)【発明者】
【氏名】藤井 稔
【審査官】井上 明子
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-032599(JP,A)
【文献】特開2016-212267(JP,A)
【文献】特開2019-065229(JP,A)
【文献】特表2015-510000(JP,A)
【文献】特開2015-129284(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0206548(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/00-11/54
C01B 33/023
B82Y 30/00-40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機ナノ結晶コロイド分散液であって、
無機ナノ結晶は、屈折率nが3以上の無機材料からなり、表面電位が正又は負の電位であり、粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λを前記屈折率nで除算した値をピークとして標準偏差が±15%以内である無機ナノ粒子インク。
【請求項2】
極性溶媒と、屈折率nが3以上の無機材料からなり前記溶媒中に分散して浮遊する表面電位が正又は負の電位を有する無機ナノ粒子、を備え、
粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λを前記屈折率nで除算した値をピークとして標準偏差が±15%以内である無機ナノ粒子インク。
【請求項3】
前記無機材料は、消光係数が0.5以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の無機ナノ粒子インク。
【請求項4】
前記無機ナノ粒子は、球体形状であり、粒径分布のピーク値が90~200nmの範囲内であることを特徴とする請求項1~3の何れかに記載の無機ナノ粒子インク。
【請求項5】
前記無機ナノ粒子は、前記無機材料の固溶限界濃度より高濃度にホウ素とリンが粒子表面にドーピングされ、表面電位が正又は負に帯電したことを特徴とする請求項1~4の何れかに記載の無機ナノ粒子インク。
【請求項6】
前記無機ナノ粒子は、前記インク色が可視光の色である場合には、GaAs,GaP,Si,InPから選択される無機材料からなることを特徴とする請求項1~5の何れかに記載の無機ナノ粒子インク。
【請求項7】
前記インク色が異なり、前記無機ナノ結晶の表面電位が同一極性である請求項1~6の何れかの無機ナノ粒子インクを、2種以上混合させたことを特徴とする無機ナノ粒子インク。
【請求項8】
前記粒径分布は、2以上のピークを有し、各々のピークの粒径分布の標準偏差が±15%以内でそれらの合成分布であることを特徴とする請求項1~6の何れかに記載の無機ナノ粒子インク。
【請求項9】
絶縁基板上、若しくは、絶縁体で表面が被覆された絶縁基板上に、屈折率nが3以上の無機ナノ結晶の無機材料と無機の不純物から成る薄膜を作製するステップと、
アニール処理して無機ナノ結晶を成長させると同時に、無機ナノ結晶の粒子表面に不純物をドーピングさせるステップと、
前記絶縁基板から酸を用いて無機ナノ結晶を取り出すステップと、
極性溶媒を置換して、無機ナノ結晶が分散した無機ナノ結晶コロイド分散液を調製するステップと、
無機ナノ結晶コロイド分散液における無機ナノ粒子の粒径を分離し、粒径がターゲットとするインク色に応じた波長λを無機ナノ粒子の屈折率nで除算した値となるように前記分散液中の粒径を揃えるステップ、
を備えた無機ナノ粒子インクの作製方法。
【請求項10】
前記無機ナノ結晶の粒子表面に不純物をドーピングさせるステップにおいて、
前記無機ナノ粒子の粒子表面に、前記無機材料の固溶限界濃度より高濃度にホウ素とリンをドーピングさせ、表面電位が正又は負に帯電させることを特徴とする請求項9に記載の無機ナノ粒子インクの作製方法。
【請求項11】
前記分散液中の粒径を揃えるステップは、密度勾配遠心分離法、又は、貧溶媒添加による粒径選別法を用いることを特徴とする請求項9に記載の無機ナノ粒子インクの作製方法。
【請求項12】
前記インク色が異なり、前記無機ナノ結晶の表面電位が同一極性である請求項1~6の何れかの無機ナノ粒子インクを、2種以上混合させるステップ、
又は、
請求項9~11の何れかの無機ナノ粒子インクの作製方法によって作製された無機ナノ粒子インクであって、前記インク色が異なり、前記無機ナノ結晶の表面電位が同一極性であるインクを、2種以上混合させるステップ、
を備えたことを特徴とする無機ナノ粒子インクの作製方法。
【請求項13】
請求項1~8の何れかの無機ナノ粒子インクを基板に塗布する場合において、
前記基板の表面を予め前記無機ナノ粒子の表面電位と逆極性に帯電させるステップと、
前記インクを用いて、前記基板の表面に塗布するステップ、
を備えたことを特徴とする無機ナノ粒子インクの塗布方法。
【請求項14】
前記基板の表面に塗布するステップにおいて、
先に塗布したインク色と異なる色の前記インクを更に上から塗布し、用いたインク色と異なる新たな色を前記基板の表面に形成するステップを備えたことを特徴とする請求項13に記載の無機ナノ粒子インクの塗布方法。
【請求項15】
請求項1又は2に記載の無機ナノ粒子インクにおける無機ナノ粒子として用いられる結晶性シリコンナノ粒子の作製方法であって、
一酸化ケイ素を単体シリコンの融点より高い温度条件下でアニーリングを施すステップと、
前記アニーリングにより得られた粒子をフッ化水素酸によりエッチングを施すステップ、を備えることを特徴とするシリコンナノ粒子の作製方法。
【請求項16】
前記アニーリングにおいて、
温度条件を制御することにより、前記シリコンナノ粒子の粒径制御を行うことを特徴とする請求項15に記載のシリコンナノ粒子の作製方法。
【請求項17】
前記シリコンナノ粒子の粒径制御は、粒径分布のピーク値が150~250nmの範囲内で行われることを特徴とする請求項15又は16に記載のシリコンナノ粒子の作製方法。
【請求項18】
前記シリコンナノ粒子は、電子顕微鏡像から得られる4π×(面積)/(周長の2乗)で定義される円形度が、平面内での公差域が径の5%だけ離れた二つの同心円の間の領域に存在することを特徴とする請求項15~17の何れかに記載のシリコンナノ粒子の作製方法。
【請求項19】
前記エッチングの後、極性溶媒でエッチング液を置換するステップと、
前記極性溶媒の分散液中で前記結晶性シリコンナノ粒子の粒径を揃えるステップと、
粒径が揃った前記分散液に透明性又は透光性樹脂を混練するステップと、
前記混練によって得られる流動体を成形するステップ、を更に備えることを特徴とする請求項15~18の何れかに記載のシリコンナノ粒子の作製方法。
【請求項20】
前記成形するステップは、ガラス基板又は樹脂基板に成膜するステップであることを特徴とする請求項19に記載のシリコンナノ粒子の作製方法。
【請求項21】
前記シリコンナノ粒子の粒径を揃えるステップは、密度勾配遠心分離法、又は、貧溶媒添加による粒径選別法を用いることを特徴とする請求項19に記載のシリコンナノ粒子の作製方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、無機ナノ結晶コロイド分散液を利用したフルカラー無機ナノ粒子インクとその作製方法、並びに、シリコンナノ粒子の作製方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、シリコン粒子やシリカ粒子の分散物を利用して、インクジェット印刷法に適するインクとして使用することが研究・開発されている(例えば特許文献1を参照)。印刷プロセスは、非常に迅速かつ効率よく、大きな面積を効果的に被覆することができるからである。
シリコン粒子の場合、プリント回路用途として、例えば、ドーピングされたシリコン粒子のインクを特定位置に印刷プロセスにより塗布し、シリコン粒子を基板上に堆積させた位置において焼結などにより回路構造を作製するプロセスにインクを用いる。また、シリカ粒子の場合、光学用途として、例えば、ディスプレイ要素に対する印刷プロセスや、蛍光体特性を安定化させるため、蛍光体粒子をシリカ粒子のインクで被覆させるといった印刷プロセスにインクを用いる。
【0003】
また近年、印刷法を利用した電子デバイスの製造が注目され、配線を塗布により形成できる銀ナノ粒子などを用いた導電性インクが研究・開発されている(例えば特許文献2を参照)。特許文献2に開示された銀ナノ粒子インクは、微細なプリント回路の配線を形成するためのインクジェット装置に適用すべく、銀ナノ粒子の分散安定性を向上させている。
【0004】
このように無機ナノ粒子を用いたインクは、プリント回路用途やディスプレイ用途に向けて、分散性などの特性改善が行われている一方で、高解像度のカラープリンティングを実現する技術として注目されている。これはシリコンナノ粒子を2次元に配列して、高解像度のカラープリンティングを実現したものである(非特許文献1を参照)。以前から金属ナノ構造体の光吸収を利用した構造色(周期的な構造体からの散乱光間の干渉によって出される色)が提案されていたが、金属の場合には損失が大きく色空間が狭く、高解像度で高彩度の実現が困難であった。非特許文献1には、シリコンナノ粒子を2次元周期配列した高解像度カラープリンティング技術によれば、シリコンナノ粒子の2次元アレイから生成される色は、相互作用なく、独立して1ピクセル毎に色判別可能であり、回折限界の解像度(光の回折限界に近い解像度)が得られることが報告されている。
【0005】
また、ナノ粒子の光学共鳴を利用した産業応用が研究されている。例えば、ステンドグラスやガラス工芸品の着色剤として、金や銀などの金属ナノ粒子が用いられているが、このような金属ナノ粒子の着色剤として作用する現象は、金属中の電子波の特異な性質である表面プラズモン共鳴によるものである。誘電率が負のナノ粒子はプラズモン共鳴を示すが、一方で、誘電率が正のナノ粒子はミー(Mie)共鳴を示すことが知られている。ミー共鳴とは、波長λ(nm)の光が物質(屈折率n)に入射した場合、物質中では実効波長λ/n(nm)となり、光の実効波長λ/n(nm)が粒子の直径に等しくなるときに定在波が形成され、最低次のミー共鳴、すなわち、電気的および磁気的双極子共鳴が光学領域に出現する現象である。
光学領域で大きな誘電率のシリコンは、波長より十分小さいナノ粒子でもミー共鳴を示すこと、シリコンナノ粒子の吸収断面積は狭帯域であるが、半径の異なるシリコンナノ粒子を用意することで広帯域の光吸収ができることが報告されている(非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-129284号公報
【文献】特開2015-166452号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】高原淳一ら,“誘電体メタサーフェス技術で超高解像度カラープリンティングを実現”,大阪大学プレスリリース,2018年1月15日
【文献】石井智ら,“ナノ粒子の光学共鳴を利用した太陽光の高効率吸収とその熱応用”,第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2016年応用物理学会
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
顔料や染料は、色素が可視光の特定の波長を吸収する性質を利用して発色するが、発色する色素分子はいずれ分解されて退色する。そのため、半永久的に変色・退色しない顔料が求められているのが実情である。色素を用いない構造色などの発色手法が注目されているが、単色性や高解像度を実現することは原理的に難しく、上述のとおり、最近になって2次元周期配列したシリコンナノ粒子によって高解像度が実現できたと報告されるものの、用途が限定されるといった問題がある。
また一方で、高い円形度を有する球体形状で、サイズが制御されたシリコンナノ粒子を作製することは決して容易ではなく、量産化に向けた新たな作製方法が要望されている。
【0009】
かかる状況に鑑みて、本発明は、半永久的に変色・退色せず、単色性が高く、高解像度を実現できるインク及びその作製方法を提供することを目的とする。また本発明は、サイズ制御が可能で上記インクに適した結晶性シリコンナノ粒子の作製方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、高屈折率誘電体ナノ粒子(100nm程度)はミー共鳴により、可視波長域で非常に大きな光散乱を示すため、従来とは異なる発色原理により、周期配列構造を用いない発色性ナノ構造体として利用できることに着眼し、結晶シリコンなどの高屈折率誘電体のナノ粒子のインク(分散溶液)形成に成功した。さらに、平均粒子径(90~300nm)を制御することにより、単一の粒子が可視域(青~赤色)ないし近赤外領域(800~1200nm)で強度が高い散乱光を発生させることに成功した。
【0011】
すなわち、本発明のフルカラー無機ナノ粒子インクは、無機ナノ結晶コロイド分散液であって、無機ナノ結晶は、屈折率nが3以上の無機材料からなり、表面電位が正又は負の電位であり、粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λを屈折率nで除算した値をピークとして標準偏差が±15%以内であることを特徴とする。
かかる構成のインクによれば、半永久的に変色・退色せず、単色性が高く、高解像度を実現できる。
ここで、粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λを屈折率nで除算した値(λ/n)は、ミー共鳴の理論そのものの解では無く、近似的に表したものであるが、屈折率と粒径の両方が、散乱波長λに寄与すること、そして、シリコン以外の屈折率が大きい無機材料にも適用することから、近似的に表したものである。
【0012】
シリコンは屈折率が4.32であり、例えば、粒径(直径)が約140nmのナノ粒子の場合には、600nmに最低次のミー共鳴による散乱を示すが、シリコンナノ粒子の粒径を変えることにより、共鳴が起きる波長を連続的に変えることができる。
ミー共鳴の波長幅と散乱強度は、屈折率に依存するため、明るく鮮明な色の実現には高い屈折率が不可欠である。シリコンの屈折率は4.32であり、無機化合物であるGaAsの屈折率は4.27、GaPの屈折率は3.6、InPの屈折率は3.0である。これらに特に限定されないが、屈折率nが3以上の無機材料のナノ結晶を用いて、本発明のインクが構成される。
【0013】
本発明の無機ナノ粒子インクは、他の観点によれば、極性溶媒と、屈折率nが3以上の無機材料からなり溶媒中に分散して浮遊する表面電位が正又は負の電位を有する無機ナノ粒子を備え、そして、粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λを屈折率nで除算した値をピークとして標準偏差が±15%以内であることを特徴とする。
ここで、極性溶媒は、分子内に極性部分を有する溶媒であり、例えば、水、メタノール、エタノールなどのアルコール、アセトン、DMSO、エチレングリコールなどである。
【0014】
本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、無機材料は、消光係数が0.5以下であることが好ましい。例えば、シリコンの消光係数は0.073であり、GaAsの消光係数は0.376、GaPの消光係数は0.006、InPの消光係数は0.5である。
【0015】
本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、無機ナノ粒子は、球体形状であり、粒径分布のピーク値が90~200nmの範囲内であることが好ましい。ミー共鳴による散乱光が、可視光域でピーク波長となるように、無機ナノ粒子の粒径分布は、そのピーク値が90~200nmの範囲内になるように制御される。
【0016】
本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、無機ナノ粒子は、無機材料の固溶限界濃度より高濃度にホウ素とリンが粒子表面にドーピングされ、表面電位が正又は負に帯電したものを利用することが好ましい。分散性をより向上できるからである。
【0017】
本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、無機ナノ粒子は、インク色が可視光の色である場合には、GaAs,GaP,Si,InPから選択される無機材料からなることが好ましい。また、インク色が可視光の色から、さらに近赤外まで考慮すると、ほとんどの半導体材料(例えば、GaN,SiC,Ge,SiGeなど)が本発明の条件を満たすようになる。
【0018】
上述の本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、インク色が異なり、無機ナノ結晶の表面電位が同一極性であるインクを、2種以上混合させたインクを用いることでもよい。
本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、粒径分布が、2以上のピークを有し、各々のピークの粒径分布の標準偏差が±15%以内でそれらの合成分布であることでもよい。色が異なる2種以上のインクを混合させたインクは、粒径分布が2以上のピークを有し、各々のピークの粒径分布の標準偏差が±15%以内であり、粒径分布が各々のピークの粒径分布の合成分布になっている。
【0019】
次に、本発明の無機ナノ粒子インクの作製方法について説明する。
本発明の無機ナノ粒子インクの作製方法は、下記のステップ1~5を備える。
ステップ1:絶縁基板上、若しくは、絶縁体で表面が被覆された絶縁基板上に、屈折率nが3以上の無機ナノ結晶の無機材料と無機の不純物から成る薄膜を作製する。
ステップ2:アニール処理して無機ナノ結晶を成長させると同時に、無機ナノ結晶の粒子表面に不純物をドーピングさせる。
ステップ3:絶縁基板から酸を用いて無機ナノ結晶を取り出す。
ステップ4:極性溶媒を置換して、無機ナノ結晶が分散した無機ナノ結晶コロイド分散液を調製する。
ステップ5:無機ナノ結晶コロイド分散液における無機ナノ粒子の粒径を分離し、粒径がターゲットとするインク色に応じた波長λを無機ナノ粒子の屈折率nで除算した値となるように分散液中の粒径を揃える。
【0020】
本発明の無機ナノ粒子インクの作製方法における無機ナノ結晶粒子表面に不純物をドーピングさせるステップにおいて、具体的には、無機ナノ粒子の粒子表面に、無機材料の固溶限界濃度より高濃度にホウ素とリンをドーピングさせ、表面電位が正又は負に帯電させる。
【0021】
本発明の無機ナノ粒子インクの作製方法における分散液中の粒径を揃えるステップは、具体的には、密度勾配遠心分離法、又は、貧溶媒添加による粒径選別法を用いる。密度勾配遠心分離法を用いる場合において、分散液を入れた遠心管は、水平面に横たわるようにして、高い粒径分解能で遠心分離するのがよい。水平面に横たわるようにし、横方向で遠心分離することで、遠心力の方向と遠心管の底に向かう長手方向が同じになり、沈降経路長が長くなることで、密度勾配遠心分離の分解能が向上できる。
【0022】
本発明の無機ナノ粒子インクにおいて、インク色が異なり、無機ナノ結晶の表面電位が同一極性であるインクを、2種以上混合させることにより、新たな色のインクを提供することができる。
また、本発明の無機ナノ粒子インクの作製方法によって作製された無機ナノ粒子インクで、インク色が異なり、無機ナノ結晶の表面電位が同一極性であるインクを、2種以上混合させることにより、新たな色のインクを提供することができる。
【0023】
次に、本発明の無機ナノ粒子インクの塗布方法について説明する。
本発明の無機ナノ粒子インクの塗布方法は、本発明のインクを基板に塗布する場合において、基板の表面を予め無機ナノ粒子の表面電位と逆極性に帯電させるステップと、本発明のインクを用いて、基板の表面に塗布するステップを備える。
【0024】
本発明の無機ナノ粒子インクの塗布方法における基板表面に塗布するステップにおいて、先に塗布したインク色と異なる色のインクを更に上から塗布し、用いたインク色と異なる新たな色を基板の表面に形成するステップを備える。
【0025】
次に、本発明のシリコンナノ粒子の作製方法について説明する。
本発明のシリコンナノ粒子の作製方法は、上記の本発明の無機ナノ粒子インクにおける無機ナノ粒子として用いられる結晶性シリコンナノ粒子の作製方法であって、一酸化ケイ素に対して単体シリコンの融点より高い温度条件下でアニーリングを施すステップと、アニーリングにより得られた粒子に対してフッ化水素酸によりエッチングを施すステップを備える。
上記方法によれば、高い円形度を有する球体形状で、ミー共鳴が発現できるサイズに制御された高分散性の結晶性シリコンナノ粒子を作製できる。また結晶性シリコンナノ粒子の粒径の増大化が可能でサイズ幅を拡げ、単一の粒子で近赤外領域(800~1200nm)まで強度が高い散乱光を発生させることができる。
【0026】
ここで、シリコンナノ粒子の原材料としては、市販されている一酸化ケイ素を用いる。一酸化ケイ素は、簡単に入手できることから、量産化に向けた原材料として適している。単体シリコンの融点は1414℃であるが、アニーリングは1414℃より高い温度条件下で施すことで、上記特性のシリコンナノ粒子を作製できる。アニーリングにより得られる粒子は、結晶性シリコンナノ粒子を含有する二酸化ケイ素の粒子である。この粒子をフッ化水素酸または過酸化水素水によりエッチングすることにより、二酸化ケイ素の部分だけがエッチングされ、粒子内に含有されていた結晶性シリコンナノ粒子を取り出すことができる。
【0027】
本発明のシリコンナノ粒子の作製方法におけるアニーリングにおいて、温度条件を制御することにより、結晶性シリコンナノ粒子の粒径制御を行うことができる。単体シリコンの融点より高い温度でアニーリングを施すと、その融点の超える前と後で、粒径の急激な増大が起こり、かつ、円形度が大幅に向上するといった形状変化が現れる。
【0028】
本発明のシリコンナノ粒子の作製方法において、結晶性シリコンナノ粒子の粒径制御は、具体的には、粒径分布のピーク値が150~250nmの範囲内で行われる。
作製された結晶性シリコンナノ粒子は、円形度が、平面内での公差域が径の0.05%だけ離れた二つの同心円の間の領域に存在し、真球に近い形状である。
【0029】
本発明のシリコンナノ粒子の作製方法は、更に、エッチングの後、極性溶媒でエッチング液を置換するステップと、極性溶媒の分散液中で結晶性シリコンナノ粒子の粒径を揃えるステップと、粒径が揃った分散液に透明性又は透光性樹脂を混練するステップと、混練によって得られる流動体を成形するステップを更に備える。透明性又は透光性樹脂は、PVP(Polyvinylpyrrolidone)、PMMA(Polymethyl methacrylate)、PS(polystyrene)、PET(Polyethyleneterephthalate)、ナイロン、PE(Polyethylene)、EVA(Ethylene Vinyl Acetate Copolymer)などを用いることができる。
ここで、成形するステップは、例えば、ガラス基板や透光性樹脂基板に成膜するステップである。また、結晶性シリコンナノ粒子の粒径を揃えるステップは、好ましくは、密度勾配遠心分離法、又は、貧溶媒添加による粒径選別法を用いることができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明のフルカラー無機ナノ粒子インク及びその作製方法によれば、化学的に安定な無機材料インク、且つ、退色が無く、大面積な印刷・塗布プロセスが利用できるといった効果がある。また、単一粒子が様々な色を生成するため、光の回折限界(1μm以下)に近い解像度でカラーピクセルを実現でき、通常のインクだけでなく、マイクロディスプレイへの応用も期待できる。また、本発明のシリコンナノ粒子の作製方法によれば、サイズ制御が可能で本発明のインクに適した結晶性シリコンナノ粒子を簡便に得られ、量産化が図れるといった効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【
図5】粒径の違いに伴う散乱光による色の違いの説明図
【
図7】異なる粒径を有するインクの混合インクの説明図
【
図8】異なる粒径を有する複数のインクを基板に塗布する方法の説明図
【
図9】実施例5のシリコンナノ粒子の作製方法の概念図
【
図10】実施例5のシリコンナノ粒子の作製方法の処理フロー図
【
図12】結晶性シリコンナノ粒子のSEM像及び拡大像
【
図13】アニール温度と消光スペクトルの関係を示すグラフ
【
図14】アニール温度と拡散反射スペクトルの関係を示すグラフ
【発明を実施するための最良の形態】
【0032】
以下、本発明の実施形態の一例を、図面を参照しながら詳細に説明していく。なお、本発明の範囲は、以下の実施例や図示例に限定されるものではなく、幾多の変更及び変形が可能である。
【実施例1】
【0033】
図1に無機ナノ粒子インクの作製フローを示す。無機ナノ粒子インクを作製する際には、先ずターゲットとするインク色を決定する(ステップS01)。インク色は、1色に限らず複数色でもよい。インク色は、粒径分布によって微妙に色合いが異なるが、ターゲットとするインク色と、使用する無機ナノ材料が決定すれば、ナノ粒子の粒径を近似式で求めることができる。屈折率nが3以上の無機材料を用いて、無機ナノ結晶を作製する(ステップS02)。無機ナノ結晶の溶媒中での分散性を高めるため、無機ナノ結晶の表面電位が正又は負の電位になるように、無機ナノ結晶に不純物をドーピングする(ステップS03)。不純物をドーピング後の無機ナノ結晶の表面電位は正又は負の電位となり、メタノールなどの極性溶媒中において無機ナノ結晶は良く分散する(ステップS04)。
そして、密度勾配遠心分離法や貧溶媒添加による粒径選別法を用いて、分散液中の無機ナノ結晶の粒径を揃える(ステップS05)。分散液中の無機ナノ結晶の粒径を揃え、粒径分布が、ターゲットとするインク色に応じた波長λを屈折率nから得られる値(λ/n)をピークとして標準偏差が±15%以内になるように分散液を調製する(ステップS06)。
【0034】
本発明の無機ナノ粒子インクの一実施形態として、屈折率が3以上の無機材料としてシリコンを用いて、シリコンナノ結晶(SiNC)のコロイド分散液を調製し、分散液中のシリコンナノ結晶の粒径分布が制御されたインクについて説明する。ターゲットとするインク色は、青色から緑色(波長λが400~600nmの範囲)とすると、シリコンの屈折率(n=4.32)から、概ね90~140nmの粒径のシリコンナノ結晶(SiNC)のコロイド分散液を調製し、分散液中の無機ナノ結晶の粒径をターゲットとするインク色の波長に基づいて揃える。
まず、シリコンナノ結晶(SiNC)コロイド溶液の調製について、
図2のフローを参照して説明する。ターゲットとするインク色を決定し(ステップS11)、シリコンナノ結晶コロイド分散液を調製する。
【0035】
(シリコンナノ結晶コロイド分散液の調製について)
シリコンナノ結晶(SiNC)コロイド溶液の調製は、まず高周波スパッタリング法(Radio Frequency Sputtering)を用いて、ボロンリンシリケートガラス(BPSG:Boron Phosphorus Silicate Glass)膜を作製し(ステップS12)、作製したBPSG膜に対して、窒素雰囲気で1500℃、30分間、アニール処理を施して、BPSG膜中にシリコンナノ結晶(SiNC)を成長させる(ステップS13)。
【0036】
BPSG膜を作製した時点で、既にBPSG膜中にボロンとリンが入っているが、BPSG膜のアニール処理中に、SiNCがBPSG膜中に形成される過程において、ボロンとリンがSiNCに同時に不純物としてドーピングされる。不純物ドーピング量の制御は、高周波スパッタリングの条件を変えて制御することが可能である。例えば、スパッタリングのターゲットとして、シリコン(Si)基板、リンシリケートガラス(PSG:Phosphosilicate glass)ターゲット及びタブレット状の三酸化ホウ素(B2O3)を配置して、同時にスパッタリングを行う際に、これらの材料の配置の仕方を調節し、ドーピング濃度を制御することが可能である。
【0037】
次に、BPSG膜をフッ化水素酸(HF)で除去し、ボロンとリンが同時にドーピングされたSiNCを取り出す(ステップS14)。その後、メタノールに溶媒を置換して、SiNCが個々に分散したSiNCコロイド溶液を調製する(ステップS15)。
以上述べたように、シリコン、酸素、リン、ホウ素からなる混合薄膜を形成し、高温熱処理することで、シリコンナノ粒子を固体薄膜中に成長させた後、ウェットエッチングによりシリコンナノ粒子を溶液中に取り出すことでインクの原料を作製する。
【0038】
(シリコンナノ結晶コロイド分散液の粒径分布について)
作製したインクの原料には、様々な粒径のシリコンナノ粒子が混在している。単色性が高いインクを得るためには、シリコンナノ粒子の粒径を揃える必要がある。ここでは、密度勾配遠心分離法によりコロイド溶液中のシリコンナノ粒子の粒径を、ターゲットとするインク色を散乱する粒径に揃える(ステップS16)。
粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λとSiの屈折率nから得られる値(λ/n)をピークとして標準偏差が±15%以内になるまで分散液を調製する(ステップS17)。
【0039】
密度勾配遠心分離法とは、遠心分離により物質を分離する手法である。
図3(2)に示すように、遠心管内の密度勾配溶液は、底部から上部に向かって溶液密度が低下するので、その中で試料を遠心分離すると、目的とする物質が所定の密度溶液のところで層を形成する。これを利用して目的とする物質を分取する。密度勾配溶液には、例えば、ショ糖(スクロース)溶液を用いることができる。
図3(1)に示すように、ショ糖を密度勾配溶液として用い、例えば、
図3(2)に示すように、5000rpmで、30分間、遠心をかける。遠心をかける際は、遠心管は、水平面に横たわるようにし、横方向で遠心分離するのがよい。横方向で遠心分離することにより、高い粒径分解能で層を形成できる。そして、
図3(3)に示すように、シリコンナノ粒子の粒径が揃った層を形成させる。
図3(3)の場合には、粒径が揃った4つの層が形成され、それぞれの層から溶液を抽出して単色性の高いインクを得る。
遠心管内の溶液を肉眼で見ると、溶液の色が底部から上部に向かってグラデーションができ、色が連続的に変化しているのが確認できる。
ターゲットとするインク色の散乱光に対応するシリコンナノ粒子の粒径が揃った層から分散液を取出し、ターゲットとするインク色のインクを得る。
【0040】
図4は、波長500nmをピークとして標準偏差が±15%のシリコンナノ粒子分散液(実施例1)と、標準偏差が±20%のシリコンナノ粒子分散液(比較例1)について、減光特性を比較したグラフである。
図4のグラフの横軸は波長、縦軸は減光(Extinction)を表す(但し、減光量はピーク値に基づいて正規化している)。
図3に示すとおり、標準偏差が±15%の実施例1の方が、標準偏差が±20%の比較例1よりも、500nm付近のピークがはっきりと現れており、より単色性が向上していることがわかる。実施例1のインク色は、より鮮明な青緑色である。
【0041】
図5は、粒径90nm~180nmの間で、標準偏差が±15%となる分布を有するように、粒径を揃えたシリコンナノ粒子が分散した水溶液1mLに、白色光を照射した際の散乱光による色の違いを示している。7つの試料のインクA~Gの色の違いは、塗りつぶし濃淡の違いで表している。
図5では、左側から青色、中央左が青緑色、中央右が緑色、右側へいくほど黄色の発色が確認された。また左から右側へ連続的に色が変化していることが確認された。密度勾配遠心分離法により、90nmから180nmといった広範囲の粒径制御が可能なこと、並びに、青色から黄色の発色が確認された。
【実施例2】
【0042】
本実施例では、上述の実施例1と同様、シリコンナノ粒子分散液を用いて8種類のインク色のインク(試料A~H)を作製し、それらの拡散反射スペクトルを測定した。試料A~Hのインクは、密度勾配遠心分離法により遠心をかけた後の遠心管内における分散液の色の異なる層から取り出したものであり、それぞれシリコンナノ粒子の粒径分布のピークが異なる層である。
拡散反射スペクトルの測定結果を
図6に示す。
図6(1)は、
図2に示す作製フローにおけるステップS13のアニール処理の温度が1500℃の試料A~Hを示している。一方、
図6(2)はアニール温度が1550℃の試料A~Hを示している。
図6(1)(2)を比較すると、1550℃の試料の方が、ピークが可視域(400~700nm)の長波長側に分布しており、予め粒径分布のピークが異なる試料からインクを作製すると、アニール温度を高めることで長波長化が可能であることが確認された。
【実施例3】
【0043】
異なる粒径を有する本発明のインクの混合インクについて、
図7を参照して説明する。
粒径が異なり色の異なる2種類のインクを混合させて、新たな色のインクを任意に作製することができる。
図7に示すように、粒径分布において粒径80nmにピークを有する第1のインクと、粒径140nmにピークを有する第2のインクを所定の割合で混合して得られる混合溶液は、インクジェット印刷技術において、一つのノズルで塗布できる。得られる混合溶液は、2つの粒径分布が重なり合い、それぞれのピークの粒径のナノ粒子によるミー共鳴による散乱光が干渉し、肉眼で見た場合、第1のインクのインク色や第2のインクのインク色とは異なる新たなインク色を認識することになる。
【実施例4】
【0044】
基板上に、複数色の本発明のインクを塗布する例について、
図8を参照して説明する。
シリコンナノ粒子のインクを基板に塗布する場合、基板の表面を予めシリコンナノ粒子の表面電位と逆極性に帯電させる。不純物のドーピングにより、シリコンナノ粒子の表面電位が負電位になっている場合には、基板の表面を正電位になるように予め帯電させる。
そして、シリコンナノ粒子のインクを基板に塗布する。塗布後、溶媒を蒸発させることで、シリコンナノ粒子が基板表面に付着する。保護膜が必要な場合には、保護膜を付けることでもよい。インクを基板に塗布する別の方法は、まず基板上で文字や図形を描く場合に、基板上の所定位置に、文字や図形の形のメッキを行って、その部分のみを帯電させ、その後、インクを基板上に流して、帯電した部分にのみインクを付着させ、最後に保護膜を付けることでもよい。
【0045】
また、
図8に示すように、インクジェット印刷技術で、3つのノズルからそれぞれ粒径が異なり色の異なるインクを出射して基板表面にインクを塗布する場合において、色の異なるインクは、それぞれ粒径分布のピーク波長が異なるものである。3つのインクを塗布すると、塗布面には3つの粒径分布が重なり合うことになる。すなわち、3つのピークを有する粒径分布となり、それぞれのピークの粒径のナノ粒子によるミー共鳴による散乱光が干渉し、肉眼で見た場合、3つのインクの各インク色とは異なる新たなインク色を認識することになる。
【実施例5】
【0046】
上述の実施例1では、高周波スパッタリング法を用いてBPSG膜を作製し、作製した膜に対して、窒素雰囲気で1500℃、30分間、アニール処理を施して、膜中に結晶性シリコンナノ粒子を作製したが、本実施例では、実施例1とは異なるアプローチで、結晶性シリコンナノ粒子を作製する。
図9は本実施例に示すシリコンナノ粒子の作製方法の概念図を示し、
図10は本作製方法の処理フロー図を示している。
まず、市販されている一酸化ケイ素5の粉末を原料として用い、一酸化ケイ素5の粉末を単体シリコンの融点(1414℃)より低い温度条件から融点より高い温度条件(1350~1600℃)まで窒素(N
2)雰囲気にて30分間アニール処理を行った(ステップS21)。アニール処理後に得られる粉末は、結晶性シリコンナノ粒子1を含有する二酸化ケイ素6の粒子である。
次に、アニール処理された粉末に対してフッ化水素酸(HF)を用いてエッチングを行った(ステップS22)。フッ化水素酸によりエッチングすることにより、二酸化ケイ素6の部分だけがエッチングされ、粒子内に含有されていた結晶性シリコンナノ粒子1を取り出すことができる。エッチングの後、極性溶媒としてメタノール7を用いて、メタノール7とエッチング液を置換した(ステップS23)。その後、超音波ホモジナイザーで攪拌し、メタノール7中で結晶性シリコンナノ粒子1を分散させ、分散液に対して密度勾配遠心分離法を用いて結晶性シリコンナノ粒子1の粒径を揃えた(ステップS24)。
以上の処理により、サイズが制御された結晶性シリコンナノ粒子1を作製することができた。作製された結晶性シリコンナノ粒子1は、高い円形度を有する球体形状で、ミー共鳴が発現できるサイズに制御されたものである。
【0047】
図11は、アニール処理の温度条件(1350~1600℃)の変化による結晶性シリコンナノ粒子の平均粒径の変化を示すグラフである。
図11(1)に示すグラフは、走査型および透過型電子顕微鏡(Electron Microscope:EM)を用いて実際の一次粒子の粒径を測定したものであり、
図11(2)に示すグラフは、DLS(動的光散乱法)を用いて溶液に分散した状態の粒径を測定したものである。
図11(1)(2)における1350℃と1400℃の対比において、EMで測定したものでは粒径は50nm以下であるが、DLSで測定したものでは粒径が大きくなっている。DLSは溶液に分散した状態の粒径を測定していることから、2次凝集が生じたことによるものと推察できる。一方で、単体シリコンの融点1425℃より高いアニール温度では、おおよそ両者が一致しているため、作製された結晶性シリコンナノ粒子が水やアルコール中で分散していることを示している。すなわち、単体シリコンの融点1425℃より高いアニール温度で作製された粒子は、分散性に優れていることが理解できる。
図11に示すように、アニール処理における温度条件1425~1600℃の範囲でコントロールすることにより、結晶性シリコンナノ粒子の平均粒径を150~250nmの範囲でコントロールできたことを確認した。単体シリコンの融点より高い温度でアニール処理を行うと、その融点の超える前と後で、粒径の急激な増大が起こっていることがわかった。
【0048】
また、
図12(1)には、1500℃のアニール温度で作製された結晶性シリコンナノ粒子のTEM像(a)とその拡大像(b)を示す。作製された結晶性シリコンナノ粒子の円形度(Circularity)は非常に高く、真球に近い球体形状であることがわかった。また、
図12(2)にSEMによるEDS(Energy Dispersive X-ray Spectrometer)元素マッピング分析の結果を示すが(
図12(2)において、(d)がSiのマッピング分析結果であり、(e)がOのマッピング分析結果である)、結晶性シリコンナノ粒子の表面が酸素原子で終端されていることが確認された。作製された結晶性シリコンナノ粒子は、表面が酸素原子で終端されていることにより、個々の粒子表面が負に帯電し、実施例1のようにボロンとリンをドーピングすること無く、粒子同士が反発して分散するのである。
【0049】
図11に示し既に説明したとおり、アニール処理温度を1425~1600℃の範囲でコントロールすることにより、結晶性シリコンナノ粒子の平均粒径を150~250nmの範囲でコントロールすることができた。
図13に示すように、アニール処理温度が1350~1600℃の違いによって、ピーク波長が異なり、アニール処理温度が1425~1600℃の範囲であれば、可視光域にピーク波長がある結晶性シリコンナノ粒子を作製できた。また、
図14に示すように、アニール温度の違う試料F1~F8について、強い光散乱を生じる散乱波長をコントロールできたことがわかる。
このように、本実施例の作製方法によって作製された結晶性シリコンナノ粒子は、高い円形度を有する球体形状で、ミー共鳴が発現できるサイズに制御されたものであり、粒径が増大し、近赤外領域まで強い散乱光を発生させるものであった。
【実施例6】
【0050】
本実施例では、本発明の無機ナノ粒子インクと高分子有機材料とを混練させてフィルム化する処理について説明する。無機ナノ粒子インクには、上述の実施例5で説明した作製方法で作製した結晶性シリコンナノ粒子をメタノールに分散させたものを用いた。アニール温度は、単体シリコンの融点より高い温度であれば特に限定されるものではないが、一例として1450℃でアニール処理した結晶性シリコンナノ粒子を用いた。密度勾配遠心法(3000rpm;20分間)により粒子サイズを揃え、その後、フッ化水素酸のエッチング液をメタノールに置換し、結晶性シリコンナノ粒子の分散液を用意した。用意した分散液80μLに、10重量%のPVP10μLを添加し、十分に混練させた後、シリカガラス基板に40μL(10μL×4回)滴下し乾燥させた。
図15は、上記フィルム化するための成膜処理フローを示している。ステップS31~S34は、上述のステップS21~S24と同一であるが、粒径が揃えた後、粒径が揃った分散液に透光性樹脂を混練し(ステップS35)、そして混練によって得られる流動体をガラス基板上に滴下し成膜した(ステップS36)。
【0051】
以上の工程を経て、
図16に示すように、結晶性シリコンナノ粒子1と高分子有機材料2としてPVPの複合化フィルムをガラス基板3上に作製した。なお、ガラス基板3上に成膜したフィルムの厚みは、用途に応じて調整可能であるが、概ね10~200μmである。
本実施例では、ガラス基板上に成膜したが、PET基板などのフレキシブル基板にも成膜可能である。また、成膜後にフィルムの剥離も可能である。さらに、高コントラストのために黒色系基板を用いることでも構わない。高分子有機材料としては、PVPの他、PMMA、PS、PET、ナイロン、PE、シリコン樹脂なども利用することができる。
【0052】
(その他の実施例)
(1)上述の実施例1~4では、無機ナノ粒子としてシリコンナノ粒子を用いたが、GaAs,GaP,InPなどの屈折率3以上の無機材料のナノ粒子を用いてもよい。GaAs,GaP,InPなどのナノ粒子の場合にも、不純物をドーピングして、ナノ粒子の表面電位を正又は負の電位にして溶液中の分散性を高める。そして、粒径分布がターゲットとするインク色に応じた波長λと、無機材料の屈折率nに基づく値(λ/n)をピークとして標準偏差が±15%以内の分散液をインクとして用いる。このインクによれば、半永久的に変色・退色せず、単色性に優れ、高解像度を実現できる。
【0053】
(2)上述の実施例1~4では、可視光域の発色のインクを説明したが、近赤外光域の発光のインクとすることも可能である。その場合、GaN,SiC,Ge,SiGeなどの屈折率3以上の無機材料のナノ粒子を用いて、不純物をドーピングし、ナノ粒子の表面電位を正又は負の電位にして溶液中の分散性を高め、粒径分布がターゲットとする近赤外光域の発光のインクに応じた波長λと、無機化合物材料の屈折率nに基づく値(λ/n)をピークとして標準偏差が±15%以内の分散液をインクとして用いる。
【産業上の利用可能性】
【0054】
本発明は、インクジェット印刷技術により多種多様な基材に発色が可能であるため、退色の無いフルカラーインク材料として利用できる可能性がある。
【0055】
1 結晶性シリコンナノ粒子
2 高分子有機材料
3 ガラス基板
5 一酸化ケイ素
6 二酸化ケイ素
7 メタノール