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特許7277926安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療)
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  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図1
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図2A
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図2B
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図2C
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図3
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図4
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図5
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図6A
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図6B
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図6C
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図7
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図8
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図9
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図10
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図11
  • 特許-安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療) 図12
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】安全を確保しながら転移性がんまで効果的に治療可能な、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを有する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療)
(51)【国際特許分類】
   C12N 7/01 20060101AFI20230512BHJP
   A61K 35/761 20150101ALI20230512BHJP
   A61K 35/768 20150101ALI20230512BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20230512BHJP
   A61P 37/04 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 15/19 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 15/27 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 15/86 20060101ALI20230512BHJP
   C12N 15/861 20060101ALI20230512BHJP
   A61K 38/19 20060101ALN20230512BHJP
【FI】
C12N7/01 ZNA
A61K35/761
A61K35/768
A61P35/00
A61P37/04
C12N15/19
C12N15/27
C12N15/86 Z
C12N15/861 Z
A61K38/19
【請求項の数】 12
(21)【出願番号】P 2019552379
(86)(22)【出願日】2018-11-08
(86)【国際出願番号】 JP2018041541
(87)【国際公開番号】W WO2019093435
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2021-10-20
(31)【優先権主張番号】P 2017215579
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2018050722
(32)【優先日】2018-03-19
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【弁理士】
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【弁理士】
【氏名又は名称】松任谷 優子
(72)【発明者】
【氏名】小戝 健一郎
(72)【発明者】
【氏名】伊地知 暢広
【審査官】山▲崎▼ 真奈
(56)【参考文献】
【文献】特表2016-522805(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0186178(US,A1)
【文献】特表2013-532977(JP,A)
【文献】国際公開第2012/043710(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/012536(WO,A1)
【文献】ZHU Mingzhu, et al.,Linked Tumor-Selective Virus Replication and Transgene Expression from E3-Containing Oncolytic Adenoviruses,J. Virol.,2005年,Vol.79, No.9,pp.5455-5465
【文献】BRISTOL J. Andrew, et al.,In Vitro and in Vivo Activities of an Oncolytic Adenoviral Vector Designed to Express GM-CSF,Mol. Ther.,2003年,Vol.7, No.6,pp.755-764
【文献】小戝健一郎,多因子増殖制御型アデノウイルスの開発と実用化の展望,実験医学,2016年,Vol.34, No.1,pp.19-25
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N
A61K
A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
E2Fプロモーター(E2Fp)の下流に機能的に連結された免疫誘導遺伝子を有し、かつ、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが、サバイビンプロモーターで置換されていることを特徴とする、腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項2】
前記免疫誘導遺伝子が、サイトカイン遺伝子である、請求項1に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項3】
前記サイトカイン遺伝子が、Activin A、ANGPTL5、BAFF、BD-2(β-Defensin-2)、BD-3(β-Defensin-3)、BDNF、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-7、BMP-10、CCL1、CCL2(MCP-1)、CCL3(MIP-1α)、CCL4(MIP-1β)、CCL5(RANTES)、CCL6、CCL7(MCP-3)、CCL8(MCP-2)、CCL9(MIP-1γ)、CCL11(Eotaxin-1)、CCL12(MCP-5)、CCL13(MCP-4)、CCL14、CCL15(MIP-1δ)、CCL16、CCL17(TARC)、CCL18(PARC)、CCL19(MIP-3β)、CCL20(MIP-3α)、CCL21(Exodus-2)、CCL22、CCL23、CCL24(Eotaxin-2)、CCL25(TECK)、CCL26(MIP-4α)、CCL27、CCL28、C40-Ligand(TRAP)、CD137(4-1BB)-Ligand、CNTF、CT-1、CX3CL1(Fractalkine)、CXCL1(GRO1)、CXCL2(MIP-2α、GRO2)、CXCL3(MIP-2β、GRO3)、CXCL4(PF4)、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12(SDF-1α)、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、DKK-1、DLL1、EGFs、EG-VEGF(Prokineticin 1)、FasL、FGF-1(acidic FGF)、FGF-2(basic FGF)、FGF-3、FGF-4(HGBF-4)、FGF-5、FGF-6、FGF-7(KGF、HBGF-7)、FGF-8、FGF-9 (HBGF-9)、FGF-10 (KGF-2)、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、FGF-16、FGF-17、FGF-18、FGF-19、FGF-20、FGF-21、FGF-22、FGF-23、Flt3-Ligand、Galectin-1、Galectin-3、G-CSF、GDF-11、GDNF、GM-CSF、HB-EGF、HGF、IFN-α2a、IFN-α2b、IFN-β1a、IFN-β1b、IFN-γ1b、IGF-1、IGF-2、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8(CXCL8)、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35、IL-36、IL-37、IL-38、LIF、M-CSF、MIF、NGF-β、Noggin、NT-3(NTF-3)、NT-4(NTF-4)、Oncostatin M、OPG(TNFRSF11B)、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、Pleiotrophin、Prolactin(Mammotropin)、RANKL、R-Spondin-1、R-Spondin-2、R-Spondin-3、SCF(c-kit Ligand)、SHH(C24II)、TGF-α、TGF-β1、TGF-β3、TNF-α、TNF-β、TPO(MDGF)、TRAIL、TSLP、VEGF、XCL1、及びXCL2からなる群から選択される1つのサイトカインの遺伝子である、請求項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項4】
前記サイトカイン遺伝子がGM-CSFである、請求項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項5】
アデノウイルスである、請求項1~のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項6】
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、請求項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項7】
少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1Aである、
請求項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項8】
更に、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に連結した、外来性プロモーターを含む発現カセットを包含する請求項1~7のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
【請求項9】
請求項1~8のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルスを含有するがん治療剤。
【請求項10】
非標的細胞への傷害が少ない、請求項9に記載のがん治療剤
【請求項11】
イトカインを発現する腫瘍溶解性ウイルスを腫瘍細胞へ投与することを含むがん治療方法において用いられ脾臓又は血清における前記サイトカインの量が、CAプロモーター又はRSVプロモーターの下流に機能的に連結された免疫誘導遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルスを投与した場合と比較して少ないことを特徴とする、請求項1~8いずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス、又は前記腫瘍溶解性ウイルスを含有するがん治療剤
【請求項12】
イトカインを発現する腫瘍溶解性ウイルスを腫瘍細胞へ投与することを含むがん治療方法において用いられ脾臓における前記サイトカインの消失が、CAプロモーター又はRSVプロモーターの下流に機能的に連結された免疫誘導遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルスを投与した場合と比較して早いことを特徴とする、請求項1~8のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス、又は前記腫瘍溶解性ウイルスを含有するがん治療剤
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免疫誘導遺伝子を搭載した腫瘍溶解性ウイルスを利用したがん治療、いわゆる腫瘍溶解性免疫治療の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
「がん細胞で特異的にウイルスが増殖し殺傷効果を示す遺伝子組換えウイルス」である腫瘍溶解性ウイルス(Oncolytic virus)に免疫誘導遺伝子を搭載した腫瘍溶解性免疫治療法(Oncolytic immunotherapy)は、2015年末に欧米でサイトカイン遺伝子を搭載した(Amgen社のT-Vec)がFirst-in-class(画期的医薬品)として医薬承認されたように、世界的には革新的がん治療薬の最有力候補として期待されている(非特許文献1~非特許文献3)。
【0003】
本発明者らは、遺伝子治療の黎明期である1990年代に、非増殖型ウイルスベクターによる免疫遺伝子の導入による、免疫遺伝子治療法を世界に先駆け開発している(非特許文献4~6)。その後、免疫遺伝子治療に関する多くの論文を発表しているように長年に渡り独自の研究開発を行ってきた。
【0004】
また一方、本発明者らは、これまで腫瘍溶解性ウイルスの一つである制限増殖型アデノウイルス(Conditionally replicating adenovirus)に関して、ウイルスの増殖制御部、治療遺伝子、ウイルス特性の3つの要素を改変した、多因子で高度にがん細胞特異的にウイルス増殖制御して安全性を確保し、また治療効果を増強できる治療遺伝子も導入できる、次世代の制限増殖型アデノウイルスとなる、「多因子増殖制御型アデノウイルスm-CRA(Conditionally replicating adenovirus regulated with multiple-tumor specific factors)の効率的作製法を開発した(非特許文献7、特許文献1)。アデノウイルスはゲノムサイズが30-40kbの中型のウイルスではあるとはいえ遺伝子組み換えは容易ではなく、非増殖型アデノウイルスとは異なり、制限増殖型アデノウイルスの効率的な標準化作製技術さえも存在しなかった。よって、複数箇所を高度に遺伝子組換えしたm-CRAの開発や、さらに複数の候補m-CRAを作製してスクリーニング的に比較実験する研究も難しかった。よって本発明者らはまずm-CRA技術を開発することにより、この技術により初めて多くの候補m-CRAを作製して探索的に検証し、競合技術となる腫瘍溶解性ウイルスを遥かに凌ぐ医薬性能を持つm-CRA医薬を開発してきた。まずm-CRAの基本骨格となる、ウイルス増殖制御部の腫瘍特異的プロモーターでとしては、本発明でも使用しているサバイビン遺伝子のプロモーターでウイルス増殖制御するサバイビン反応性m-CRA(Surv.m-CRA)、あるいはオーロラキナーゼ遺伝子のプロモーターでウイルス増殖制御するオーロラキナーゼ反応性m-CRA(特許文献2)を開発した。Surv.m-CRAは、これまで最良の競合技術(Tertプロモーターでウイルス増殖されるCRA;基本骨格が同種のものは臨床試験で良好な結果が出されているためこれまで最良の競合技術の一つ;非特許文献8)よりも安全性と治療効果の両面ですぐれる(非特許文献9)という競合技術への優位性、既存の治療技術(抗がん剤、放射線治療)が無効のがん幹細胞も有効に治療できる(非特許文献10)という従来技術への優位性を示した。「治療遺伝子を搭載していない」Surv.m-CRAをSurv.m-CRA-1と命名し、これは非臨床試験でも安全性は確認され、現在、発明者らによりヒトがん患者さんで医師主導治験を実施しており、ヒトでも良好な結果が確認されつつある。Surv.m-CRA-1はがん細胞内でのみ特異的に、高効率にウイルス増殖することで、増幅したウイルスタンパク質によりがん細胞を特異的(安全)かつ効果的に治療する、腫瘍溶解性ウイルス治療薬である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本国特許第4478775号
【文献】日本国特許第5963363号
【非特許文献】
【0006】
【文献】Bilsland, AEら(2016)F1000Research.;5:2105.
【文献】Liu BLら(2003)Gene Ther.;10(4):292-303.
【文献】Chen DSら(2013)Immunity.;39(1):1-10.
【文献】Chen SHら(1995)Proc Natl Acad Sci U S A.;92(7):2577-2581.
【文献】Chen SHら(1996)Cancer Res.;56(16):3758-3762.
【文献】Caruso Mら(1996)Proc Natl Acad Sci U S A.;93(21):11302-11306.
【文献】Nagano S,ら(2005)Gene Ther .12(18):1385-1393
【文献】Nemunaitis J,et al.Mol Ther. 2010 18:429-34
【文献】Kamizono J,et al.: Survivin-responsive conditionally replicating adenovirus exhibits cancer-specific and efficient viral replication. Cancer Res. 65(12): 5284-5291, 2005
【文献】Tanoue K, et al. J Trans Med .12:27.doi: 10.1186 / 1479-5876-12-27, 2014
【発明の概要】
【0007】
これまで、腫瘍溶解性免疫治療の分野においては、有効な治療効果を発揮する免疫誘導遺伝子の探索に焦点がある一方で、「『腫瘍においてのみ増殖する』という腫瘍溶解性ウイルスの特性から、特段の安全性の確保が必要なのではないか?」とは考えられていなかった。しかし、本発明者らは、腫瘍溶解性ウイルスはがん細胞内で「増殖」するため、腫瘍溶解性ウイルスに搭載される免疫誘導遺伝子もそれに相関して増幅され、その結果、従来の非増殖型ベクターでの(多くは一細胞に一遺伝子、あるいは例え一細胞あたり複数個の導入遺伝子でもその数自体は導入時から変化しない)遺伝子治療とは異なり、産生される免疫誘導因子が過剰となることによる安全性の問題に初めて着目した。すなわち、本発明者らは、腫瘍溶解性免疫治療剤の使用においては、増殖した腫瘍溶解性ウイルスに搭載された免疫誘導遺伝子から免疫誘導因子が過剰に産生されることにより安全性の点で憂慮されること、及びその解決策として腫瘍溶解性ウイルスに搭載する免疫誘導遺伝子には、このシステム特有の最適な遺伝子発現レベルが存在すること、より具体的には、腫瘍溶解性ウイルスに搭載する免疫誘導遺伝子には、最適の発現レベルを誘導・制御するプロモーターを選択する必要があることを見出した。
【0008】
本発明の動機となる問題点の発見は、本発明者の独自の専門的な知見と長年の経験より得られたものであり、本研究者の未公開のノウハウとして蓄えられてきたものである。すなわち、本発明は、長年蓄えてきた免疫遺伝子治療に関する独自の未公開の知見を元に、独自開発したSurv.m-CRA-1に、さらに独自開発のm-CRA作製技術で免疫関連遺伝子を搭載した候補Surv.m-CRA-2を複数作製して解析することで、本医薬(前述の問題点を克服した最適の腫瘍溶解性免疫治療剤)とその技術の発明に至ったものである。
【0009】
よって、本発明は、「腫瘍溶解性免疫治療剤(免疫誘導遺伝子を搭載した腫瘍溶解性ウイルス)において、副作用をなくし安全性を確保しながら、転移性がんにまで強力な治療効果を誘導するための、搭載する免疫誘導遺伝子の最適発現レベルを与える発現制御システムを見出す」というこれまでにない新規のコンセプトに基づき、高い安全性が確保されながら最適な治療効果を有する腫瘍溶解性免疫治療のウイルスを開発することを目的とする。
【0010】
本発明者らは、Surv.m-CRAへの免疫誘導遺伝子の組み込みを想定し、様々な強度のプロモーターと種々のサイトカイン遺伝子との組み合わせを網羅的に比較検討した。その結果、細胞周期特異的あるいは腫瘍特異的なE2Fのプロモーター(E2Fp)により発現制御する免疫誘導遺伝子を搭載した、新規Surv.m-CRA(以下、「本遺伝子組換えウイルス」ということがある)が、高い安全性を持って最適の治療効果を有する腫瘍溶解性免疫治療剤となることを見出した。つまりこれまでにもUbiquitousに強い転写活性を有すると示唆されていた、いわゆる恒常強活性プロモーターは複数報告されているが、そのそれぞれのプロモーターの詳細な特性の違い、特に発現レベルの詳細な違いまでは明確ではなく、特に腫瘍溶解性ウイルスに搭載する免疫誘導遺伝子の発現制御に用いる場合の種々の恒常強活性プロモーターの詳細な特性の解析はなされていなかった。今回の我々の検討により初めて、「その中の一つのCAプロモーター(サイトメガロウイウルス前初期遺伝子エンハンサーを付加した修正ニワトリベータアクチンプロモーター; a modified chicken beta-actin promoter with human cytomegalovirus immediate-early enhancer)は極めて強いプロモーター活性を持ち、また、恒常強活性プロモーターの中の一つのRSVプロモーター(Rous sarcoma virus long terminal repeat)は、CAプロモーターと比較するとその活性はかなり低いものの強度な活性を持つ。特に腫瘍溶解性ウイルスに搭載された遺伝子のがん細胞内でのコピー数は、ウイルス増殖に伴い著しく増幅される状況となる。腫瘍溶解性免疫治療のウイルスに搭載して、免疫誘導遺伝子を発現制御する目的の場合、「最適(中等度)」の転写活性プロモーターと位置付けることが適切」ということを見出した。つまり腫瘍溶解性ウイルスで免疫誘導遺伝子の発現を目的とする場合、極めて強力なプロモーター(CAプロモーターなど)及び強力なプロモーター(RSVプロモーター)での発現制御と比較して、E2Fプロモーターを使用すると、劇的に安全性を向上させることが可能である。がん抑制遺伝子産物pRBを主な標的遺伝子とする転写因子E2Fのプロモーター(E2Fp)は、細胞周期特異的あるいはがん特異的な発現制御を行う。これにより、がん細胞以外の正常細胞ではS期において一過性に、それも低レベルでしか発現せず、しかし一方でがん細胞では特異的に「最適(中等度)」の免疫誘導遺伝子の発現制御ががん細胞特異的に行われ、強力な治療効果を示しながら、劇的に安全性を向上させることが可能である。さらに驚くべきことには、免疫誘導遺伝子をE2Fプロモーターで発現制御する腫瘍溶解性ウイルス(腫瘍溶解性免疫治療剤)においては、劇的な安全性の向上だけでなく、免疫誘導遺伝子の治療効果をも増強して最大化できることを見出した。
【0011】
特に、本発明者らは、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSFが、ハムスター由来がん細胞に効率的に感染、増殖し、細胞内で高レベルのGM-CSF発現を誘導すること、及び、ハムスター同種移植担がんモデルにおいて致死性の副作用を引き起こすことなく、ウイルスを注入した原発巣のがんだけでなく、転移巣に対してまで強力な腫瘍抑制効果を示すことを見出した。この治療効果は、腫瘍溶解性ウイルスによる直接的な細胞死誘導に加え、がん細胞に特異的(安全)かつ強力な殺傷をもたらすことで種々のがん抗原を局所で創出することになるため、同時にその腫瘍局所で高濃度の免疫誘導因子を持続分泌させることで、細胞性免疫を中心とするがん特異的な全身性の抗腫瘍免疫を非常に効率よく誘導でき、それにより原発巣だけでなく転移巣のがんも全身性の抗腫瘍免疫誘導により殺傷できるものと推察される。これに符合して、本発明の実施例としてこれらのin vivo治療効果は、現在医師主導治験実施中のサイトカインを搭載していないSurv.m-CRA-1(ヒトでも標準治療が無効だった患者に治療効果が現在実証されつつある)に比べても、投与した腫瘍部に対しての腫瘍消失効果が有意に増加したみならず、局所治療による全身性の抗腫瘍免疫誘導による遠隔転移の劇的な阻止が達成できた(従来の治療技術では局所治療で全身の転移がんを治療することはできないため本治療剤は大きな差別化・優位性を持つ)ため、劇的な安全性の向上と革新的に強力ながん治療効果の点から、早期の臨床実用化が大きく期待できるものである。
【0012】
すなわち、本発明は、免疫誘導遺伝子と機能的に連結したE2Fプロモーター(E2Fp)を有する遺伝子組換えウイルスに関する。より好ましくは、本発明は、多因子制御の腫瘍特異的増殖型(腫瘍溶解性)ウイルスに関する。具体的には、本発明は以下の発明に関するものである:
(1) E2Fプロモーター(E2Fp)、又はこれと同等の活性を示すプロモーターの下流に機能的に連結された免疫誘導遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルス。
(2) 前記E2Fプロモーター(E2Fp)と同等の活性を示すプロモーターが、サバイビンプロモーター、AuroraキナーゼA遺伝子プロモーター、又はAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターである、(1)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(3) 前記プロモーターが、E2Fプロモーター(E2Fp)、又はサバイビンプロモーターである、(1)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(4) 前記プロモーターが、E2Fプロモーター(E2Fp)である、(1)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(5) 前記免疫誘導遺伝子が、サイトカイン遺伝子である、(1)~(4)のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(6) 前記サイトカイン遺伝子が、Activin A、ANGPTL5、BAFF、BD-2(β-Defensin-2)、BD-3(β-Defensin-3)、BDNF、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-7、BMP-10、CCL1、CCL2(MCP-1)、CCL3(MIP-1α)、CCL4(MIP-1β)、CCL5(RANTES)、CCL6、CCL7(MCP-3)、CCL8(MCP-2)、CCL9(MIP-1γ)、CCL11(Eotaxin-1)、CCL12(MCP-5)、CCL13(MCP-4)、CCL14、CCL15(MIP-1δ)、CCL16、CCL17(TARC)、CCL18(PARC)、CCL19(MIP-3β)、CCL20(MIP-3α)、CCL21(Exodus-2)、CCL22、CCL23、CCL24(Eotaxin-2)、CCL25(TECK)、CCL26(MIP-4α)、CCL27、CCL28、CO40-Ligand(TRAP)、CD137(4-1BB)-Ligand、CNTF、CT-1、CX3CL1(Fractalkine)、CXCL1(GRO1)、CXCL2(MIP-2α、GRO2)、CXCL3(MIP-2β、GRO3)、CXCL4(PF4)、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12(SDF-1α)、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、DKK-1、DLL1、EGFs、EG-VEGF(Prokineticin 1)、FasL、FGF-1(acidic FGF)、FGF-2(basic FGF)、FGF-3、FGF-4(HGBF-4)、FGF-5、FGF-6、FGF-7(KGF、HBGF-7)、FGF-8、FGF-9 (HBGF-9)、FGF-10 (KGF-2)、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、FGF-16、FGF-17、FGF-18、FGF-19、FGF-20、FGF-21、FGF-22、FGF-23、Flt3-Ligand、Galectin-1、Galectin-3、G-CSF、GDF-11、GDNF、GM-CSF、HB-EGF、HGF、IFN-α2a、IFN-α2b、IFN-β1a、IFN-β1b、IFN-γ1b、IGF-1、IGF-2、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8(CXCL8)、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35、IL-36、IL-37、IL-38、LIF、M-CSF、MIF、NGF-β、Noggin、NT-3(NTF-3)、NT-4(NTF-4)、Oncostatin M、OPG(TNFRSF11B)、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、Pleiotrophin、Prolactin(Mammotropin)、RANKL、R-Spondin-1、R-Spondin-2、R-Spondin-3、SCF(c-kit Ligand)、SHH(C24II)、TGF-α、TGF-β1、TGF-β3、TNF-α、TNF-β、TPO(MDGF)、TRAIL、TSLP、VEGF、XCL1、及びXCL2からなる群から選択される1つのサイトカインの遺伝子である、(5)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(7) 前記サイトカイン遺伝子がGM-CSFである、(6)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(8) 更に、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターで置換されていることを特徴とする、(1)~(7)のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(9) 前記臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、アルブミンプロモーター、α-フェトプロテインプロモーター、前立腺特異的抗原(PSA)プロモーター、ミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)プロモーター、ミエリン塩基性タンパク質(MB)プロモーター、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)プロモーター、及び神経特異的エノラーゼ(NSE)プロモーターから選択されるプロモーターである、(8)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(10) 前記がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、テロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーター、がん胎児性抗原(CEA)プロモーター、低酸素応答性領域(HRE)プロモーター、Grp78プロモーター、L-プラスチンプロモーター、ヘキソキナーゼIIプロモーター、サバイビンプロモーター、及びAuroraキナーゼプロモーターから選択されるプロモーターである、(8)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(11) 前記がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、サバイビンプロモーター、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子のプロモーター、又は、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターである、(10)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(12) 前記がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターが、サバイビンプロモーターである、(10)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(13) アデノウイルスである、(1)~(12)のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(14) 少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1A、E1AΔ24、E1B、およびE1BΔ55Kから選択される因子である、(13)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(15) 少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子が、E1Aである、(13)に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(16) 更に、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に連結した、外来性プロモーターを含む発現カセットを包含する(1)~(15)のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルス。
(17) (1)~(16)のいずれか1項に記載の腫瘍溶解性ウイルスを含有するがん治療剤。
【発明の効果】
【0013】
本発明のウイルスは、適切な強度のプロモーター活性を有するプロモーターを採用して免疫誘導遺伝子の発現を制御することにより、副作用を起こすことなく、高い抗がん効果を達成することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】アデノウイルスの増殖に必須の初期遺伝子であるE1Aの上流にSurvivin promoterを組み込んだSurv.m-CRA内に、E2Fプロモーター、RSVプロモーター、及びCAプロモーターの各プロモーターとmouse GM-CSF cDNAを連結した発現カセットを挿入したGM-CSF発現Surv.m-CRAの模式図である。
図2A】ハムスター由来のがん細胞(HaK)に対し、コントロールのAd.CMV-EGFP(E1領域を欠損させて代わりにCMVプロモーターでEGFPを発現する遺伝子構築を組込んだ「非」増殖型アデノウイルス)をMOI0.1~1000にて感染させ、48時間後のEGFPの発現を示す写真である。
図2B】ハムスター由来のがん細胞(HaP-T1)に対し、コントロールのAd.CMV-EGFP(E1領域を欠損させて代わりにCMVプロモーターでEGFPを発現する遺伝子構築を組込んだ「非」増殖型アデノウイルス)をMOI0.1~1000にて感染させ、48時間後のEGFPの発現を示す写真である。
図2C】ハムスター由来の正常細胞(BHK-21)に対し、コントロールのAd.CMV-EGFP(E1領域を欠損させて代わりにCMVプロモーターでEGFPを発現する遺伝子構築を組込んだ「非」増殖型アデノウイルス)をMOI0.1~1000にて感染させ、48時間後のEGFPの発現を示す写真である。
図3図2の各MOIに対するEGFPの発現を示すグラフである。縦軸はアデノウイルス感染効率(AGTE)を示し、横軸はウイルス感染時のMOI(multiplicity of infection)を示す。
図4】ハムスター由来のがん細胞(HaK及びHaP-T1)及び正常細胞(BHK-21)に対し、各プロモーター活性を調べるため、いずれも遺伝子導入だけ可能な「非」増殖型アデノウイルスベクターのAd.dE1.3 (コントロールとして発現する外来LacZ遺伝子を持たない)、Ad.E2Fp-LacZ(E2FプロモーターでLacZを発現)、Ad.RSVp-LacZ(RSVプロモーターでLacZを発現)、及びAd.Survp-LacZ(SurvivinプロモーターでLacZ遺伝子を発現)を感染・遺伝子導入して48時間後の、β-ガラクトシダーゼ活性を示すグラフである。縦軸はコントロールウイルスAd.dE1.3感染時に対する相対的β-ガラクトシダーゼ活性を示し、横軸は各ハムスター由来細胞を示す。
図5】ハムスター由来のがん細胞(HaK及びHaP-T1)及び正常細胞(BHK-21)に対し、Ad.dE1.3 (Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、およびSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFを感染させた48時間後のGM-CSFタンパク質の発現量を示すグラフである。図中では名称が長いため簡便に、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、およびSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSF、それぞれ発現遺伝子の名称、すなわちE2Fp-mGM-CSF、RSVp-mGM-CSF、CAp-mGM-CSFと表記している。
図6A】ハムスター由来のがん細胞(HaK)に対し、コントロールとして「非」増殖型アデノウイルスベクターのAd.dE1.3、ならびに各腫瘍溶解性ウイルスのSurv.m-CRA(治療遺伝子なし)、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFをMOI3(上図)又はMOI30(下図)で感染させた3日後及び5日後の細胞傷害性を示すグラフである。
図6B】ハムスター由来のがん細胞(HaP-T1)に対し、コントロールとして「非」増殖型アデノウイルスベクターのAd.dE1.3、ならびに各腫瘍溶解性ウイルスのSurv.m-CRA(治療遺伝子なし)、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFをMOI3(上図)又はMOI30(下図)で感染させた3日後及び5日後の細胞傷害性を示すグラフである。
図6C】ハムスター由来の正常細胞(BHK-21)に対し、コントロールとして「非」増殖型アデノウイルスベクターのAd.dE1.3、ならびに各腫瘍溶解性ウイルスのSurv.m-CRA(治療遺伝子なし)、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFをMOI3(上図)又はMOI30(下図)で感染させた3日後及び5日後の細胞傷害性を示すグラフである。
図7】1×10個のHaKを背側に皮下移植したメス5週齢のSyrianハムスターに、1×10PFUの各ウイルスを腫瘍内に単回投与した後の、腫瘍径の経時変化を示すグラフである。
図8】1×10個のHaKを背側に皮下移植したメス5週齢のSyrianハムスターに、1×10PFUの各ウイルスを腫瘍内に単回投与した後の、生存率の経時変化を示すグラフである。
図9】担がんハムスターモデルへのmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染後の組織内mGM-CSF発現量を示すグラフである。
図10】同所移植(Orthotopic)担がんハムスターモデルにおけるmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染後の生存曲線を示すグラフである。
図11】同所移植(Orthotopic)担がんハムスターモデルにおけるmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染後又は抗PD-1抗体投与後の生存曲線を示すグラフである。
図12】アデノウイルスの増殖に必須の初期遺伝子であるE1Aの上流にSurvivin promoterを組み込んだSurv.m-CRA内に、E2Fプロモーター、RSVプロモーター、及びCAプロモーターの各プロモーターとマウス又はヒトIL-2又はIL-15 cDNAを連結した発現カセットを挿入したIL-2又はIL-15発現Surv.m-CRA、及びの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本ウイルスは、腫瘍溶解性ウイルスに搭載された免疫誘導遺伝子が、E2Fプロモーター、又はこれと同等の活性を示すプロモーターの下流に機能的に連結されることにより、致死性の副作用を引き起こすことなく、強力な腫瘍抑制効果を示すことを特徴とする。
【0016】
「免疫誘導遺伝子」は、免疫を活性化する作用を有するタンパク質又はその機能性ペプチド断片をコードする遺伝子であれば特に限定されるものではなく、好ましくはサイトカイン遺伝子又はその機能性ペプチド断片であり、例えば、Activin A、ANGPTL5、BAFF、BD-2(β-Defensin-2)、BD-3(β-Defensin-3)、BDNF、BMP-2、BMP-4、BMP-6、BMP-7、BMP-10、CCL1、CCL2(MCP-1)、CCL3(MIP-1α)、CCL4(MIP-1β)、CCL5(RANTES)、CCL6、CCL7(MCP-3)、CCL8(MCP-2)、CCL9(MIP-1γ)、CCL11(Eotaxin-1)、CCL12(MCP-5)、CCL13(MCP-4)、CCL14、CCL15(MIP-1δ)、CCL16、CCL17(TARC)、CCL18(PARC)、CCL19(MIP-3β)、CCL20(MIP-3α)、CCL21(Exodus-2)、CCL22、CCL23、CCL24(Eotaxin-2)、CCL25(TECK)、CCL26(MIP-4α)、CCL27、CCL28、CO40-Ligand(TRAP)、CD137(4-1BB)-Ligand、CNTF、CT-1、CX3CL1(Fractalkine)、CXCL1(GRO1)、CXCL2(MIP-2α、GRO2)、CXCL3(MIP-2β、GRO3)、CXCL4(PF4)、CXCL5、CXCL6、CXCL7、CXCL9、CXCL10、CXCL11、CXCL12(SDF-1α)、CXCL13、CXCL14、CXCL15、CXCL16、CXCL17、DKK-1、DLL1、EGFs、EG-VEGF(Prokineticin 1)、FasL、FGF-1(acidic FGF)、FGF-2(basic FGF)、FGF-3、FGF-4(HGBF-4)、FGF-5、FGF-6、FGF-7(KGF、HBGF-7)、FGF-8、FGF-9 (HBGF-9)、FGF-10 (KGF-2)、FGF-11、FGF-12、FGF-13、FGF-14、FGF-16、FGF-17、FGF-18、FGF-19、FGF-20、FGF-21、FGF-22、FGF-23、Flt3-Ligand、Galectin-1、Galectin-3、G-CSF、GDF-11、GDNF、GM-CSF、HB-EGF、HGF、IFN-α2a、IFN-α2b、IFN-β1a、IFN-β1b、IFN-γ1b、IGF-1、IGF-2、IL-1α、IL-1β、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8(CXCL8)、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12、IL-13、IL-14、IL-15、IL-16、IL-17、IL-18、IL-19、IL-20、IL-21、IL-22、IL-23、IL-24、IL-25、IL-26、IL-27、IL-28、IL-29、IL-30、IL-31、IL-32、IL-33、IL-34、IL-35、IL-36、IL-37、IL-38、LIF、M-CSF、MIF、NGF-β、Noggin、NT-3(NTF-3)、NT-4(NTF-4)、Oncostatin M、OPG(TNFRSF11B)、PDGF-AA、PDGF-AB、PDGF-BB、Pleiotrophin、Prolactin(Mammotropin)、RANKL、R-Spondin-1、R-Spondin-2、R-Spondin-3、SCF(c-kit Ligand)、SHH(C24II)、TGF-α、TGF-β1、TGF-β3、TNF-α、TNF-β、TPO(MDGF)、TRAIL、TSLP、VEGF、XCL1、及びXCL2などが挙げられる。
【0017】
「E2Fプロモーター」は、代表的ながん抑制遺伝子産物pRBの主な標的であるE2F遺伝子のプロモーター領域である。例えば、E2Fプロモーターとして、配列番号2に記載の配列が挙げられる。E2Fプロモーターとしては、配列番号2に記載の配列の全長を有する必要はなく、本発明の目的を達成できる限り配列番号2の一部の配列からなっていてもよい。
【0018】
E2Fプロモーターと同等の活性を示すプロモーターとは、腫瘍細胞内において、E2Fプロモーターと同等のプロモーター活性を示すプロモーターであれば、特に制限されるものではなく、例えば、サバイビンプロモーター、AuroraキナーゼA遺伝子プロモーター、及びAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターなどが挙げられる。
【0019】
マウスおよびヒトのサバイビン遺伝子のプロモーターは単離されており、その配列情報は開示されている(例えば、Li,F.and Altieri,D.C.,Cancer Res.,59:3143-3151,1999;Li,F.and Altieri,D.C.,Biochem.J.,344:305-311,1999を参照)。本ウイルスに用いられるサバイビンプロモーターとしては、ヒトサバイビン遺伝子または他の哺乳動物(例えば、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)におけるそのオルソログ遺伝子のプロモーター、好ましくはヒトまたはマウス由来のサバイビン遺伝子のプロモーター、より好ましくはヒトサバイビン遺伝子のプロモーターである。
【0020】
サバイビンプロモーターのヌクレオチド配列長は、標的がん細胞特異的で、かつがん細胞に対して十分な治療活性を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、マウスサバイビン遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として-173~-19位のヌクレオチド配列(配列番号3に示されるヌクレオチド配列中1124~1278番目のヌクレオチド配列)、ヒトサバイビン遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として-173~-1位のヌクレオチド配列(配列番号4に示されるヌクレオチド配列中1296~1468番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましくは、本遺伝子組換えウイルスに用いられるサバイビンプロモーターは、配列番号3に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1124~1278番目のヌクレオチド配列、または配列番号4に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1296~1468番目のヌクレオチド配列を含む。サバイビンプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトサバイビン遺伝子プロモーターの場合、翻訳開始点を+1として約-6000~-1位のヌクレオチド配列であれば、目的の特異性および転写活性が得られうるが、好ましくはプロモーターの5’末端は-3000位より下流、より好ましくは-1500位より下流である。他の哺乳動物由来のサバイビンプロモーターを用いる場合も、種々の長さのプロモーターの下流にレポーター遺伝子を繋いだベクターを作製し、がん細胞に導入してレポーターの発現を指標にして該プロモーター活性を評価することにより、該プロモーターの好適な配列長の範囲を決定することができる。
【0021】
サバイビンプロモーターは、ヒトまたは他の哺乳動物(例、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)由来の細胞・組織から抽出したゲノムDNAより、公知のサバイビン遺伝子プロモーター配列(例えば、Li, F.and Altieri,D.C.,Cancer Res.,59:3143-3151,1999;Li,F.and Altieri,D.C.,Biochem.J.,344:305-311,1999を参照)からなる核酸をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の部分プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知のサバイビン遺伝子プロモーター配列を基に合成したプライマーを用いたPCRにより、サバイビンプロモーター部分配列を増幅、単離することもできる。サバイビンプロモーターのヌクレオチド配列が未知の哺乳動物については、該動物のサバイビンcDNA配列をクエリーとして該動物のゲノムDNAに対してBLAST検索を行うことにより、該動物のサバイビンプロモーター領域のヌクレオチド配列を入手することができる。また、サバイビンプロモーターは、公知のサバイビン遺伝子プロモーター配列(例えば、配列番号3または配列番号4に示されるヌクレオチド配列)を基に、そのヌクレオチド配列の全部または一部を含む核酸を、市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても得ることができる。
【0022】
ヒトのAuroraキナーゼAおよびAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターは既に報告されている(Tanaka,M.et al.,J.Biol.Chem.,277(12):10719-26,2002;Kimura,M.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,316:930-6,2004)。Auroraキナーゼプロモーターとしては、Auroraキナーゼファミリーに属する遺伝子由来のプロモーターであれば特に制限はないが、例えば、ショウジョウバエAurora-A、-Bおよび-C遺伝子の哺乳動物(例えば、ヒト、サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)オルソログが挙げられる。好ましくはヒトまたは他の哺乳動物由来のAuroraキナーゼA遺伝子またはAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターであり、より好ましくはヒトAuroraキナーゼA遺伝子またはヒトAuroraキナーゼB遺伝子のプロモーターである。
【0023】
Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列長は、標的疾患細胞(例えば、がん細胞)特異的で、かつ目的の疾患に対して十分な治療活性を発揮する程度に、下流に連結された遺伝子の転写を活性化し得る限り特に制限されない。例えば、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-124~+354位のヌクレオチド配列(配列番号6に示されるヌクレオチド配列;配列番号5に示されるヌクレオチド配列中1363~1840番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られる。本明細書において、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターとは、全長のヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターのみならず、配列番号6に示されるヌクレオチド配列を含むプロモーターをも包含する。ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-185~+361位のヌクレオチド配列(配列番号8に示されるヌクレオチド配列;配列番号7に示されるヌクレオチド配列中1595~2140番目のヌクレオチド配列)を含んでいれば、目的の特異性および転写活性が得られる。本明細書において、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターとは、全長のヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターのみならず、配列番号8に示されるヌクレオチド配列を含むプロモーターをも包含する。好ましくは、Auroraキナーゼプロモーターは、配列番号5に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1363~1840番目のヌクレオチド配列、または、配列番号7に示されるヌクレオチド配列中少なくとも1595~2140番目のヌクレオチド配列を含む。Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列長の上限も特に制限はないが、5’上流域の長さが大きくなりすぎると却ってプロモーターの転写活性や特異性に好ましくない影響を与える場合がある。例えば、ヒトAuroraキナーゼA遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-1486~+354位のヌクレオチド配列(配列番号5に示されるヌクレオチド配列)、ヒトAuroraキナーゼB遺伝子プロモーターの場合、転写開始点を+1として-1779~+361位のヌクレオチド配列(配列番号7に示されるヌクレオチド配列)であれば、目的の特異性および転写活性が得られうる。従って、好ましい一実施態様においては、本発明のベクターに用いられるヒトAuroraキナーゼプロモーターの5’末端の核酸は、配列番号5に示されるヌクレオチド配列中1~1363番目のヌクレオチドのいずれか1つのヌクレオチド、または配列番号7に示されるヌクレオチド配列中1~1595番目のヌクレオチドのいずれか1つのヌクレオチドである。他の哺乳動物由来のAuroraキナーゼプロモーターを用いる場合も、同様にして好ましい領域を選択することができる。
【0024】
Auroraキナーゼプロモーターは、ヒトまたは他の哺乳動物(例:サル、ウシ、ウマ、ブタ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ヤギ、ウサギ、マウス、ラット等)由来の細胞・組織から抽出したゲノムDNAより、公知のAuroraキナーゼ遺伝子プロモーター配列(例えば、Tanaka,M.et al.,J.Biol.Chem.,277(12):10719-26,2002;Kimura,M.et al.,Biochem.Biophys.Res.Commun.,316:930-6,2004参照)からなる核酸をプローブとして該プロモーター領域を含むゲノムDNAをクローニングし、DNA分解酵素、例えば、適当な制限酵素を用いて所望の部分プロモーター配列を含むDNA断片に切断、ゲル電気泳動で分離後、所望のバンドを回収してDNAを精製することにより調製することができる。あるいは、上記細胞の粗抽出液もしくはそこから単離したゲノムDNAを鋳型として、公知のAuroraキナーゼ遺伝子プロモーター配列を基に合成したプライマーを用いたPCRにより、Auroraキナーゼプロモーター部分配列を増幅、単離することもできる。Auroraキナーゼプロモーターのヌクレオチド配列が未知の哺乳動物については、該動物のAuroraキナーゼcDNA配列をクエリーとして該動物のゲノムDNAに対してBLAST検索を行うことにより、該動物のAuroraキナーゼプロモーター領域のヌクレオチド配列を入手することができる。
【0025】
免疫誘導遺伝子は、それを産生する細胞・組織から自体公知の方法によりcDNAとして単離し、E2Fプロモーター、又はこれと同等の活性を示すプロモーターの下流に機能的に連結することができる。このようなプロモーターの制御下にある免疫誘導遺伝子をコードする核酸を含む発現カセットは、好ましくは該核酸または遺伝子の下流に適当なポリアデニレーション配列を含む。免疫誘導遺伝子と機能的に連結したE2Fプロモーター、又はこれと同等の活性を示すプロモーターを含む遺伝子組換えウイルスは、後述の通り、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸が、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターの制御下に置かれていてもよい。また、免疫誘導遺伝子と機能的に連結したE2Fプロモーター、又はこれと同等の活性を示すプロモーターを含む遺伝子組換えウイルスは、ウイルスタンパク質に含まれる領域のうち、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、がん細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域が欠損した遺伝子組換えウイルスであってもよい。更に、免疫誘導遺伝子と機能的に連結したE2Fプロモーター、又はこれと同等の活性を示すプロモーターを含む遺伝子組換えウイルスは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸が、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターと機能的に連結しており、かつ、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、がん細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域が欠損した遺伝子組換えウイルスであってもよい。
【0026】
本明細書において「機能的に連結された」とは、プロモーターがその活性を発揮することにより下流の遺伝子の発現を可能とするようにプロモーターが結合されていることを意味する。
【0027】
一態様において、本発明の遺伝子組換えウイルスは、少なくとも1つのウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子をコードする核酸のプロモーターが、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターで置換されていることを特徴とする腫瘍溶解性ウイルス(Oncolytic virus)、言い換えれば、腫瘍特異的増殖型ウイルス(conditionally replicating virus;CRV)である。本遺伝子組換えウイルスは、当該プロモーター活性が高いがん細胞などの標的疾患細胞において特異的に(正常細胞よりも優位に)ウイルス増殖が促進され、それにより当該細胞特異的な細胞傷害活性を示すとともに、当該細胞特異的にウイルス遺伝子に組み込んだ他の遺伝子を発現する。即ち、本発明は、増殖することを特徴とするベクターに関する。さらに、本遺伝子組換えウイルスは、感染した標的細胞で特異的にウイルスの増殖を引き起こして同細胞を殺傷(溶解)するのみならず、さらに、溶解した細胞から放出された娘ウイルスが周辺のウイルス未感染の標的細胞に感染して当該細胞をも殺傷するステップを繰り返すことで、最終的には注入部位の原発巣内の多くの標的がん細胞に遺伝子組換えウイルスが導入され治療効果を得ることができる。さらに、がん細胞に特異的(安全)かつ強力な殺傷をもたらし腫瘍を縮小させ、さらに細胞死は種々のがん抗原を局所で創出することになるため、そこで同時に腫瘍局所で高濃度の免疫誘導因子を持続分泌させることで細胞性免疫を中心とするがん特異的な全身性の抗腫瘍免疫を非常に効率よく誘導できる。この誘導された抗腫瘍免疫により、原発巣の遺伝子未導入のがん細胞だけでなく、ウイルスが投与されていない遠隔転移巣のがん細胞まで、効果的に治療することができる。
【0028】
「ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子」とは、ウイルスの構造タンパク質などの、ウイルスが自己複製を行うために必須のタンパク質のいずれかをコードする遺伝子、またはウイルスがアッセンブリを行うために必須のタンパク質のいずれかをコードする遺伝子を意味する。ウイルスの複製またはアッセンブリに必須の因子は,用いるウイルス種によって異なるが、例えばアデノウイルスの場合、感染初期から転写が開始された後のウイルスタンパク質の転写制御に働く初期遺伝子(Early gene)であるE1A、E1B、E2およびE4、または後述のRb結合領域欠損型E1A(E1AΔ24)、p53結合領域欠損型E1B(E1BΔ55K)などが挙げられる。特にE1Aは、アデノウイルスの感染後最初に転写され、E1Aの発現がなければその後のウイルス複製が起こらないことから、がんなどの標的細胞特異的にウイルス増殖制御を行なう目的に非常に適している遺伝子である。また、ウイルスの複製に必須のその他の初期遺伝子を制御することでも同様の効果を得ることができる。更に、アデノウイルスの構造遺伝子をコードする後期遺伝子(Late gene)のL1、L2、L3、L4およびL5などは、感染後の細胞分裂が起こる後期に転写されて、ウイルス構造を構成するタンパク質であるが、これらの後期遺伝子の発現制御によってもがんなどの標的細胞特異的にウイルス増殖を制御できる。増殖制御型ウイルスは、ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする遺伝子の内因性プロモーターを臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターで置換することにより得ることができる。
【0029】
「臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター」(臓器特異的プロモーター)としては、例えば、肝臓などに特異的なアルブミンおよびα-フェトプロテインのプロモーター、前立腺に特異的な前立腺特異的抗原(PSA)のプロモーター、筋肉や脳など様々な臓器に特異的なミトコンドリア型クレアチンキナーゼ(MCK)のプロモーター、ならびに、脳などの神経系に特異的なミエリン塩基性タンパク質(MB)、グリア繊維酸性タンパク質(GFAP)および神経特異的エノラーゼ(NSE)のプロモーターなどを例示できる。
【0030】
「がん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーター」(がん細胞特異的プロモーター)としては、例えば、がん細胞でのみ特異的に発現するCEA(Carcinoembryonic antigen、がん胎児性抗原)プロモーター(Mol.Cell.Biol.,10(6),2738-2748,1990)、E2Fプロモーター(Neuman,E.et al.,Mol.Cell.Biol.,14(10),6607-6615,1994)、OC(オステオカルシン)プロモーター(Morrison,N.A.et al.,Science,246,1158-1161,1989)、悪性黒色腫、線維肉腫などに特異的なFLK-1プロモーター(Xie,B.et al.,Br.J.Cancer,81,1335-1343,1999)、肺がんなどに特異的なVEGFプロモーター(Koshikawa,N.et al.,Cancer Res.,60,2936-2941,2000)、小細胞肺がんなどに特異的なc-Mycプロモーター(Kumagai,T.et al.,Cancer Res.,354-358,1996)、肺がん、卵巣がんなどに特異的なSLPIプロモーター(Garver,R.I.et al.,Gene Ther.,1,46-50,1994)、前立腺がんに特異的なPSAプロモーター(Latham,J.P.et al.,Cancer Res.,60,334-342,2000)、悪性黒色腫などに特異的なTyrosinaseプロモーター(Vile,R.G.et al.,Cancer Res.,53,962-967,1993)、乳がんに特異的なAP-2プロモーター(Pandha,H.S.et al.,J. Clin.Oncol.,17,2180-2189,1999)、脳腫瘍をはじめ多くのがんに特異的なテロメラーゼ逆転写酵素(TERT)プロモーター(Takakura,M.et al.,Cancer Res.,59,551-557,1999)、ならびに、様々ながんに特異的な低酸素応答性領域(HRE)プロモーター、Grp78プロモーター、L-プラスチンプロモーター、ヘキソキナーゼIIプロモーター、およびサバイビンプロモーターなどを例示できる。
【0031】
また、本ベクターが有する各種プロモーターは、公知のプロモーター配列を基に、そのヌクレオチド配列の全部または一部を含む核酸を、市販のDNA/RNA自動合成装置を用いて化学合成することによっても得ることができる。
【0032】
ウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸の少なくとも1つが、臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターの制御下におかれていれば、ウイルスの増殖またはアッセンブリは当該プロモーターが活性化される環境下に限定されるので、他のウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質をコードする核酸は任意の外来性プロモーターの制御下に置かれてよい。例えば、外来性プロモーターとして、哺乳類において恒常的に発現し得るプロモーターを使用する場合、サイトメガロウイル(CMV)由来プロモーター(例:CMV前初期プロモーター)、ヒト免疫不全ウイルス(HIV)由来プロモーター(例:HIV LTR)、ラウス肉腫ウイルス(RSV)由来プロモーター(例:RSV LTR)、マウス乳がんウイルス(MMTV)由来プロモーター(例:MMTV LTR)、モロニーマウス白血病ウイルス(MoMLV)由来プロモーター(例:MoMLV LTR)、単純ヘルペスウイルス(HSV)由来プロモーター(例:HSVチミジンキナーゼ(TK)プロモーター)、SV40由来プロモーター(例:SV40初期プロモーター)、エプスタインバーウイルス(EBV)由来プロモーター、アデノ随伴ウイルス(AAV)由来プロモーター(例:AAV p5プロモーター)、アデノウイルス(AdV)由来プロモーター(Ad2またはAd5腫瘍後期プロモーター)など、ならびにβ-アクチン遺伝子プロモーター、PGK遺伝子プロモーター、トランスフェリン遺伝子プロモーター等の哺乳動物の構成タンパク質の遺伝子プロモーターなどの構成的プロモーターを用いることができる。
【0033】
あるいは、任意の外来性プロモーターとして、誘導性プロモーターを用いることもでき、このような誘導性プロモーターとしては、例えば、メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターなどを用いることができる。メタロチオネイン-1遺伝子プロモーターを用いた場合、金、亜鉛、カドミウム等の重金属、デキサメサゾン等のステロイド、アルキル化剤、キレート剤またはサイトカインなどの誘導物質を、所望の時期に標的疾患細胞の位置に局所投与することにより、任意の時期に標的疾患細胞特異的にウイルスタンパク質の発現を誘導することができる。
【0034】
あるいは、2以上のウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質の遺伝子を、同一又は異なる臓器特異的に発現が亢進している因子のプロモーター、又はがん細胞特異的に発現が亢進している因子のプロモーターの制御下におくこともできる。
【0035】
本遺伝子組換えウイルスは、ウイルスタンパク質に含まれる領域のうち、正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、がん細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域が欠損した遺伝子組換えウイルスであってもよい。例えば、正常細胞内でアデノウイルスが増殖するためには、細胞周期を回すためにRbやp53を不活性化することが必要であるが、がん細胞では既に細胞周期が回っている状態にあるため、がん細胞内でのアデノウイルスの増殖には、E1AのRb結合領域やE1Bのp53結合領域は必須ではない。よって、アデノウイルスの場合、E1A24KDaの領域を欠損させ(E1AΔ24)、E1B55KDaの領域を欠損させ(E1BΔ55K)、またはE1B19KDaの領域を欠損させる(E1BΔ19)ことにより、がん細胞では増殖するが、正常細胞では増殖しない、すなわち、がん細胞特異的なウイルスの増殖が可能になる。このタイプの遺伝子組換えウイルスの場合、ウイルスの複製に必要なタンパク質の遺伝子が、がん細胞特異的なプロモーターの制御下におかれていなくてもがん細胞特異的な増殖を起こすことができる。本発明の遺伝子組換えウイルスは、このようなウイルスの複製またはアッセンブリに必要なタンパク質の遺伝子が、組織特異的プロモーター又はがん細胞特異的プロモーターの制御下になく、かつ、正常細胞内におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、がん細胞内におけるウイルスの増殖には必要でない領域(例えば、E1A24KDa領域、E1B55KDa領域、およびE1B19KDa領域)の少なくとも1つが欠損した遺伝子組換えウイルスであってもよい。
【0036】
特に、このような正常細胞におけるウイルスの増殖に必要な細胞環境を誘導するのに必須であるが、がん細胞におけるウイルスの増殖には必要でない領域が欠損した遺伝子が、臓器特異的プロモーター又はがん細胞特異的プロモーターの下流に機能的に連結されている遺伝子組換えウイルスは、多因子制御型がん特異的増殖遺伝子組換えウイルス(conditionally replicating virus regulated with multiple factors;m-CRV)と呼ばれる(特開2005-046101号及び国際公開第2005/012536号)。好ましくは、本発明は、このような多因子制御型がん特異的増殖ウイルスである。
【0037】
本多因子制御型がん特異的増殖ウイルスは、以下のように作製することができる。例えば、組織特異的プロモーター又はがん特異的プロモーターと機能的に連結したE1A遺伝子(24KDa領域を欠損していてもよい)、および構成的プロモーター(CMVプロモーターなど)と機能的に連結したE1B遺伝子(19KDaまたは55KDa領域を欠損していてもよい)を含むプラスミドベクターP1;RSVプロモーター及びE2Fプロモーター、並びにこれらと同等の活性を示すプロモーターから選択されるいずれか1種類のプロモーターと機能的に連結された免疫誘導遺伝子を含むプラスミドベクターP2;ならびにE1領域を欠失するアデノウイルスゲノム(ファイバー遺伝子内に標的細胞特異的な変異を有していてもよい)を含むバックボーンプラスミドP3を用意し、これら3種のプラスミドを適宜組み合わせ、CreリコンビナーゼloxPシステムを用いてプラスミド融合させる。各プラスミドに搭載された薬剤耐性遺伝子とoriを利用して目的プラスミドの選択により、織特異的プロモーター又はがん特異的プロモーター-E1A発現カセット、構成的プロモーター-E1B発現カセット、およびRSVプロモーター及びE2Fプロモーター、並びにこれらと同等の活性を示すプロモーターから選択されるいずれか1種類のプロモーター-免疫誘導遺伝子発現カセットを搭載した、がん細胞特異的増殖型アデノウイルス(CRA)ベクタープラスミドを作製することができる。続いて、該ベクターを用いて、E1Aを相補する細胞株(例:293細胞)にトランスフェクションすることにより、CRAベクターを作製することができる。
【0038】
本遺伝子組換えウイルスは、宿主細胞で自律増幅するための複製起点や、形質転換細胞選択のための選択マーカー遺伝子(テトラサイクリン、アンピシリン、カナマイシン、ハイグロマイシン、ホスフィノスリシン等の薬剤に対する抵抗性を付与する遺伝子、栄養要求性変異を相補する遺伝子等)をさらに含有することもできる。
【0039】
本遺伝子組換えウイルスを治療用ベクターとして使用し得る疾患はがんである。本明細書における「がん」としては、例えば、腎細胞がん、線維肉腫、粘液肉腫、脂肪肉腫、軟骨肉腫、骨肉腫、脊索腫、血管肉腫、内皮肉腫、リンパ管肉腫、リンパ管内皮肉腫、滑膜腫、中皮腫、ユーイング腫瘍、平滑筋肉腫、横紋筋肉腫、結腸がん、膵がん、乳がん、卵巣がん、前立腺がん、扁平上皮がん、基底細胞がん、腺がん、汗腺がん、皮脂腺がん、乳頭状がん、乳頭状腺がん、嚢胞腺がん、髄様がん、気管支原生がん、肝臓がん、胆管がん、絨毛がん、精上皮腫、胎生期がん、ウィルムス腫瘍、子宮頚がん、精巣腫瘍、肺がん、小細胞肺がん、膀胱がん、上皮がん、神経膠腫、星状細胞腫、髄芽腫、頭蓋咽頭腫、上衣細胞腫、松果体腫、血管芽細胞腫、聴神経腫、乏突起膠腫、髄膜腫、黒色腫、神経芽細胞腫、網膜芽細胞腫、白血病、急性リンパ性白血病、急性骨髄性白血病、慢性白血病、真性赤血球増多症、リンパ腫、多発性骨髄腫などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
「腫瘍溶解性ウイルス」とは、感染した腫瘍細胞内において増殖し、当該感染細胞を溶解して娘ウイルスを細胞外に放出する遺伝子組換えウイルスを意味する。これにより、腫瘍溶解性ウイルスは、感染した腫瘍細胞を殺傷すると共に、周辺の未感染の腫瘍細胞に娘ウイルスが感染して同様に当該細胞を殺傷する。これを繰りかえすことにより、腫瘍細胞の殺傷効率が高いことが特徴である。腫瘍溶解性ウイルスは、通常は正常細胞においては細胞溶解を起こさない。このような腫瘍選択的な細胞溶解メカニズムとして様々な方法が既に本技術分野において知られている。腫瘍溶解性ウイルス用いられる遺伝子組換えウイルスとしては、例えば、アデノウイルス、レトロウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、単純ヘルペスウイルス、レンチウイルス、ワクシニアウイルス、ポックスウイルス、ポリオウイルス、シンドビスウイルス、及びセンダイウイルスを挙げることができる。アデノウイルスは、遺伝子導入効率が極めて高く、非分裂細胞にも導入可能であり、導入遺伝子の宿主染色体への組込みが極めて稀である等の利点を有する。
【0041】
一態様において、本遺伝子組換えウイルスは、細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸と機能的に連結した臓器特異的プロモーター又はがん特異的プロモーターを含んでいてもよい。細胞毒性因子をコードする核酸は、例えば、該核酸が転写(および翻訳)された場合に、直接的もしくは間接的に、細胞に対して死、もしくは少なくとも増殖阻害をもたらすタンパク質またはRNAをコードすることができる。治療因子は、該遺伝子が転写(および翻訳)された場合に、細胞毒性作用以外の作用によって直接的もしくは間接的に標的疾患に対して治療効果をもたらすタンパク質(もしくはRNA)をコードするものであってもよい。例えば、細胞毒性因子または治療因子としては、腫瘍サプレッサー遺伝子(p53、p21など)、サイトカイン遺伝子(GM-CSF、IL-2、IL-4、IFNなど)、アポトーシス誘導遺伝子(Fasなど)、イオンチャネル(ナトリウムチャネルなど)の構成タンパク質をコードする遺伝子、プロドラッグを毒物に変換することによって細胞を傷害しうるタンパク質の遺伝子(自殺遺伝子)(HSV-チミジンキナーゼ、シトシンデアミナーゼなど)、がん原因遺伝子に対するアンチセンス核酸(TGF-βに対するアンチセンス核酸、サバイビンに対するアンチセンス核酸など)、血管新生抑制遺伝子(血小板第IV因子、アンジオスタチン、エンドスタチン、可溶性VEGFレセプターなど)、がん抑制作用のあるmiRNA若しくはそのmimic、またはがん促進作用のあるmiRNAのアンチセンス核酸、アプタマー、リボザイム等が挙げられる。なお、既に述べたウイルスの増殖を制御するプロモーター及び/又は遺伝子を採用することにより、遺伝子組換えウイルスの増殖が十分に制御できる場合、すなわち、遺伝子組換えウイルスが正常細胞ではほとんど増殖せず、がん細胞では十分に増殖する場合、上述の細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸は、上述の任意の外来性プロモーターと機能的に連結していてもよい。
【0042】
細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸は、それを産生する細胞・組織から自体公知の方法によりcDNAとして単離することができ、Auroraキナーゼプロモーターの下流に機能的に連結することができる。Auroraキナーゼプロモーターの制御下にある細胞毒性因子または治療因子をコードする核酸を含む発現カセットは、好ましくは該核酸または遺伝子の下流に適当なポリアデニレーション配列を含む。
【0043】
治療対象である哺乳動物に応じて、それと同種のプロモーターを用いることが好ましいが、十分な感染効率と殺傷効果を与える程度のプロモーター活性を発揮し得る限り、異種プロモーターを用いてもよい。例えば、ヒト治療用ベクターとして、マウス遺伝子のプロモーターを用いることができる。
【0044】
本明細書において、がん細胞「特異的」であるとは、正常細胞で全く活性を示さない場合に限定されるものではなく、治療上許容される範囲で正常細胞においても遺伝子発現を駆動する場合も包含される。
【0045】
本遺伝子組換えウイルスは、標的がん細胞で特異的に増殖し、該細胞特異的に細胞傷害性を発揮させるとともに最適な発現レベルで免疫誘導遺伝子を発現させることができるので、必要に応じて薬理学的に許容し得る担体とともに混合して注射剤などの種々の製剤形態とした後に、よりサイトカイン依存性の副作用が軽減されたがんの治療薬として用いることができる。ここで薬理学的に許容し得る担体としては、製剤素材として慣用の各種有機あるいは無機担体物質が用いられ、固形製剤における賦形剤、滑沢剤、結合剤、崩壊剤;液状製剤における溶剤、溶解補助剤、懸濁化剤、等張化剤、緩衝剤、無痛化剤などとして配合される。また必要に応じて、防腐剤、抗酸化剤、着色剤、甘味剤などの製剤添加物を用いることもできる。
【0046】
一態様において、本発明は、本遺伝子組換えウイルスを腫瘍細胞へ投与することを含む、非標的細胞への傷害の少ないがんの治療方法に関する。本遺伝子組換えウイルスを用いたがんの治療方法においては、本遺伝子組換えウイルスにより導入された免疫誘導遺伝子から発現した免疫誘導タンパク質が、全身の副作用に直接関連する血清及び脾臓からは、速やかにクリアランスされる。そのため、過剰な免疫誘導遺伝子のタンパク質が全身を巡ることによる副作用の抑制に有利である。このように本遺伝子組換えウイルスにより導入された免疫誘導遺伝子から発現した免疫誘導タンパク質が短時間で消失するにもかかわらず、本遺伝子組換えウイルスは、CAなどの非常に活性の強いプロモーター制御下で大量の免疫誘導遺伝子発現をもたらす治療用ウイルスと比べても、体内(in vivo)では同等以上の腫瘍抑制(腫瘍細胞殺傷)効果を示す。驚くべきことに、さらに生存率の延長という最終的かつ最重要の治療効果の判定においては、本遺伝子組換えウイルスの方が, CAなどの非常に活性の強いプロモーター制御下で大量の免疫誘導遺伝子発現による大量の免疫誘導タンパク質がもたらす治療用ウイルスよりも、むしろ強力な治療効果をもたらす。すなわち、本遺伝子組み換えウイルスは、腫瘍内において短期的に、つまり抗腫瘍免疫を誘導するのに必要な期間のみ、高濃度の免疫誘導タンパク質の産生をもたらし、そのような一時的な腫瘍局所のみでの高濃度、つまり至適な期間の至適な量の免疫誘導タンパク質が、腫瘍に対する特異的な全身性の抗腫瘍免疫を効率よく誘導し、その結果として腫瘍細胞の細胞死を誘導することで腫瘍の増殖を十分に抑制する効果がある。このように、一時的な腫瘍局所のみでの高濃度、つまり至適な期間の至適な量の免疫誘導タンパク質が、極めて安全かつ、十分な腫瘍増殖抑制の治療効果と、腫瘍局所の治療で、全身性の特異的(安全)な抗腫瘍免疫が、効率的に誘導でき、治療していない部位の転移も完全に阻止・治療できること、さらには最終的な治療効果となる生存率の延長に極めて有効であることは本発明により初めて示された。よって、本遺伝子組み換えウイルスを患者に投与することを含むがん治療方法は、腫瘍以外の臓器又は組織における不要で副作用をもたらす免疫誘導タンパク質の量が少ないこと、かつ/又は、免疫誘導遺伝子の発現による最終産物の免疫誘導タンパク質が短期間に消失することにより、標的としない細胞(特には正常細胞)への毒性や傷害性が低く、腫瘍細胞特異的に傷害を与え又は殺傷する。一例として、本発明は、本遺伝子組換えウイルスを腫瘍細胞へ投与することを含む、免疫誘導遺伝子を発現する腫瘍溶解性ウイルスによるがん治療方法であって、免疫誘導タンパク質の副作用の誘導とその危険性が明確に示唆される代表的な器官・組織である脾臓又は血清における前記免疫誘導タンパク質の量が、CAプロモーター又はRSVプロモーターの下流に機能的に連結された免疫誘導遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルスを投与した場合と比較して短期間で少ない(至適な期間に至適な量が供給される)ことを特徴とする方法である。あるいは、別の表現において、本発明は、本遺伝子組換えウイルスを腫瘍細胞へ投与することを含む、免疫誘導遺伝子を発現する腫瘍溶解性ウイルスによるがん治療方法であって、前記免疫誘導遺伝子から発現したタンパク質の脾臓又は血清などの全身への不要な循環・供給が、RSVプロモーターの下流に機能的に連結された免疫誘導遺伝子を有する腫瘍溶解性ウイルスを投与した場合と比較して、劇的に量が少なくしかも短期間である(すなわち治療効果は減ずることなくむしろ増強して、しかも副作用の可能性が極めて低い)ことを特徴とする方法であってもよい。
【0047】
本遺伝子組換えウイルスを含有する疾患治療剤の投与は、治療対象動物自身の適切な細胞(あるいは治療対象動物と同種異形もしくは異種の動物における当該細胞)を体外に取り出し、培養してから導入を行って体内に戻す(あるいは移植する)ex vivo法と、投与対象の体内に直接ベクターを投与して導入を行うin vivo法のいずれかで行われるが、in vivo法で行うことが好ましい。また、in vivo法の場合、該製剤の投与は、例えば、注射、カテーテル、バルーンカテーテル、局所注入などにより行うことができる。また、投与箇所としては、血中、腫瘍内、腹腔内、及び筋肉内などが挙げられるが、好ましくは、腫瘍内に投与される。
【0048】
本遺伝子組換えウイルスを含有する疾患治療剤の投与量は、遺伝子組換えウイルスの種類、標的細胞におけるプロモーター活性、治療因子の種類、投与経路、病気の重篤度、投与対象となる動物種、投与対象の薬物受容性、体重、年齢等によって異なるが、例えば、遺伝子組換えウイルスとしてがん特異的増殖型アデノウイルスを用いる場合、従来のがん遺伝子治療の臨床試験において、ウイルス粒子(particle)で1×1010~1012particle/腫瘍を用いて安全性が確認されているため、同量が投与の目安となる(Molecular Therapy,18:429-434,2010)。実際に発明者は、Surv.m-CRA-1(治療遺伝子を搭載していない)の医師主導治験を1010~1012particle/腫瘍の量で現在実施中であるが、現在まで全例で治療効果と安全性が確認されている。
【実施例
【0049】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、本願全体を通して引用される全文献は参照によりそのまま本願に組み込まれる。また、本願は2017年11月8日に出願された日本国特許出願第2017-215579号、及び2018年3月19日に出願された同第2018-050722号からの優先権を主張する。本願が優先権を主張するこれらの日本国特許出願に記載の内容は全て参照によりそのまま本願に組み込まれる。
【0050】
(実施例1)GM-CSF発現Surv.m-CRAの構造
アデノウイルスの増殖に必須の初期遺伝子であるE1Aの上流にSurvivin promoterを組み込んだSurv.m-CRA内に、E2Fプロモーター、RSVプロモーター、及びCAプロモーターの各プロモーターとmouse GM-CSF cDNAを連結した発現カセットを挿入し、以下の3種のGM-CSF発現Surv.m-CRAを構築した(図1)。アデノウイルスの構築はNagano et al, Gene Therapy (2005) 12,1385-1393に記載の方法に基づいて行った。
【0051】
(1)P1+3プラスミドの作製
作製の第一段階として、増殖制御プラスミドP1とアデノウイルスバックボーンプラスミドP3(pAd.HM4,pAd.HM10;Mizuguchi and Kay,Hum.Gene Ther.1999)から制限酵素処理によりP1+3を作製した。
【0052】
アデノウイルスバックボーンプラスミドP3は、ヒトアデノウイルス5型ゲノムDNAが搭載されているが、ウイルス増殖に必要なE1遺伝子領域を欠損させている。このE1欠損領域に、増殖制御プラスミドP1(pHM5-Survpr-E1A-CMVpr-E1B19K)をI-Ceu I及びPI-Sce Iを利用して調製した約3kbの増殖制御カセット(Survpr-E1A-CMVpr-E1B19K)を挿入した。この増殖制御カセットは、がん特異的なSurvivinプロモーター及び恒常的CMVプロモーター下流にウイルス増殖因子であるE1A及びE1B遺伝子をそれぞれ連結した構造を有している。得られたP1+3プラスミドはそれぞれpAd.HM4-Survpr-E1A-CMVpr-E1B19K及びpAd.HM10-Survpr-E1A-CMVpr-E1B19Kと名付けた。
【0053】
(2)P2プラスミドの作製
作製の第二段階として、3種のプロモーター(CAプロモーター、E2Fプロモーター、及びRSVプロモーター)それぞれの下流に、治療遺伝子としてマウスのGM-CSF cDNAを連結した、治療遺伝子導入プラスミドP2を作製した。
(2)-1:pUni/CApr-mGM-CSF
作製順序として、まずLoxP配列とBGH poly A配列を持つプラスミドpUni/V5-HisC-tet(c)(以下、pUni)にCAプロモーターを挿入したのち、さらにその下流に治療遺伝子としてmGM-CSFのCording sequence(CDS)を挿入した。
【0054】
まず、ベクターとなるpUniをStu I (Blunt end)で切断し、セルフライゲーションを防ぐ為、脱リン酸化処理した。インサートとなるCAプロモーターは、pHM-CAGpr-mKate2の5’側にあるBgI II,3’側にあるBamH Iを切断し、後方にSma Iサイトを含んだCAプロモーター配列として切断し、切り出し後に平滑末端処理した。これらをライゲーションさせpUni/CAprを作製した。
【0055】
次にpUni/CAprのCAプロモーター下流に位置するSma I(Blunt end)を切断し、セルフライゲーションを防ぐ為、脱リン酸化処理した。一方、インサートとなるmGM-CSF CDSは、プラスミドpBluescript SKII+mGM-CSF(RDB01469;理化学研究所)の5’側のEcoR I、3’側のBamH Iをそれぞれ切断し、mGM-CSF CDSをそれぞれ切り出し平滑末端処理した。これらをそれぞれライゲーションし、pUni/CApr-mGM-CSFを作製した。
【0056】
(2)-2:pUni/E2Fpr-mGM-CSF
E2Fプロモーター配列を含むpABS4-E2Fp-GFPを鋳型とし、5’側にXho IとNco Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCCTCGAGCCATGGGGTACCATCCGGACAAAGCC-3’(配列番号10)、及び、3’側にAge I、Sal l及びSpe Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTACCGGTGTCGACACTAGTCGAGGGCTCGATCCCGCTCC-3’(配列番号11)を用いてPCRを行い、E2Fプロモーター配列を増幅した。その後、Xho I及びAge Iにて切断後、pUniのXho I及びAge Iサイトに挿入し、pUni/E2Fprを作製した。一方、pBluescript SKII+mGM-CSFを鋳型とし、5’側にAge Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCACCGGTAGGAGGATGTGGCTGCAGAATTTACT-3’(配列番号12)、及び、3’側にApa Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTGGGCCCTCATTTTTGGCCTGGTTTTT-3’(配列番号13)を用いてPCRを行い、mGM-CSF cDNA配列を増幅した。その後、Age I及びStu Iにて切断後、pUni/E2FprのAge I及びStu Iサイトに挿入し、pUni/E2Fpr-mGM-CSFを作製した。
【0057】
(2)-3:pUni/RSVpr-mGM-CSF
RSVプロモーター配列を含むpGEM-RSV-Sを鋳型とし、5’側にXho Iと Nco Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCCTCGAGCCATGGGCTTCGCGATGTACGGGCCA-3’(配列番号14)、及び、3’側にAge I、Sal l及びSpe Iサトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTACCGGTGTCGACACTAGTACACCAATGTGGTGAATGGT-3’(配列番号15)を用いてPCRを行い、RSVプロモーター配列を増幅した。その後、Xho I及びAge Iにて切断後、pUniのXho I及びAge Iサイトに挿入し、pUni/RSVprを作製した。一方、pBluescript SKII+mGM-CSFを鋳型とし、5’側にAge Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCACCGGTAGGAGGATGTGGCTGCAGAATTTACT-3’(配列番号12)、及び、3’側にApa Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GACGTGGGCCCTCATTTTTGGCCTGGTTTTT-3’(配列番号13)を用いてPCRを行い、mGM-CSF cDNA配列を増幅した。その後、Age I及びStu Iにて切断後、pUni/RSVprのAge I及びStu Iサイトに挿入し、pUni/RSVpr-mGM-CSFを作製した。
【0058】
(3)P1+2+3プラスミドの作製
最終段階として、前述で説明したP1+3プラスミドとP2プラスミドから、配列特異的組み換え酵素であるCreを用いた特定配列(LoxP)同士間での相同組み換えによってP1+2+3プラスミドを作製した。まず、P1+3プラスミド(pAd.HM4-Surv.m-CRA)とP2プラスミド(pUni/CApr-mGM-CSF)をそれぞれ1:0.3のモル比で、Cre/LoxP相同組み換えを行い、P1+2+3プラスミド(pAd.HM4-Surv.m-CRA/CApr-mGM-CSF)を作製した。同様に、P1+3プラスミド(pAd.HM10.Surv.m-CRA)とpUni/E2Fpr-mGM-CSFあるいはpUni/RSVpr-mGM-CSF)をそれぞれ1:0.3のモル比で、Cre/LoxP相同組み換えを行い、P1+2+3プラスミド(pAd.HM10-Surv.m-CRA/E2Fpr-mGM-CSF及びpAd.HM10-Surv.m-CRA/RSVpr-mGM-CSF)をそれぞれ作製した。
【0059】
(4)アデノウイルスの作製
プラスミドpAd.Surv.E1A-CMV.E1B19K、pAd.HM4-Surv.m-CRA/CApr-mGM-CSF、pAd.HM10-Surv.m-CRA/E2Fpr-mGM-CSF及びpAd.HM10-Surv.m-CRA/RSVpr-mGM-CSFをそれぞれ制限酵素Pac Iで切断したのち、アデノウイルス産生細胞であるHEK293細胞にトランスフェクション後、ウイルスプラークを単離し、シードウイルスとした。
【0060】
(5)アデノウイルスの増幅
各シードウイルスを24ウェルプレートに播種したHEK293細胞にインフェクションし、90%の細胞変性効果(cytopathic effect:CPE)が観察された時点で細胞及び培養液を回収した。これらウイルス感染細胞懸濁液を3回の凍結、融解操作を繰り返した後、10cmディッシュに播種したHEK293細胞にインフェクションした。このようなウイルス感染、回収の操作を徐々にスケールアップさせ、最終的に15cmディッシュ40枚分へと増幅し、これらの細胞及び培養液を回収し、凍結保存した。
【0061】
(6)アデノウイルスの精製
上記の回収細胞液から、各アデノウイルスを塩化セシウム密度勾配超遠心法により精製した。まず、35,000rpm、10℃、1時間の超遠心による1次精製を行い、ウイルスバンドを回収した。その後、35,000rpm、10℃、18時間の超遠心による2次精製を行い、ウイルスバンドを回収した。回収したウイルス液を、Econo-pac 10DG脱塩カラム(Bio-Rad Laboratories社)によりフラクショネーションを行い、精製アデノウイルス液を得た。その後、OD260によりウイルス粒子数を概算後、グリセロールを最終濃度10%となるよう加え、凍結保存した。
【0062】
(7)IL-2及びIL-15発現Surv.m-CRAの作製
(7-1)ヒトIL-2発現Surv.m-CRAの作製
まず、E2Fプロモーターの下流に、ヒトのIL-2 cDNAを連結した、治療遺伝子導入プラスミドP2(pUni/E2Fpr-hIL-2)を作製した。その際、pBluescript SKII+hIL-2を鋳型とし、5’側にAge Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCACCGGTGCCACAATGTACAGGATGCAACTCCT-3’(配列番号16)、及び、3’側にApa Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTGGGCCCTCAAGTCAGTGTTGAGATGA-3’(配列番号17)を用いてPCRを行い、hIL-2 cDNA配列を増幅した。その後、Age I及びStu Iにて切断後、pUni/E2FprのAge I及びStu Iサイトに挿入し、pUni/E2Fpr-hIL-2を作製した。その後、P1+2+3プラスミド(pAd.HM4-Surv.m-CRA/E2Fpr-hIL-2)を作製した。
【0063】
(7-2)マウスIL-2発現Surv.m-CRAの作製
まず、E2Fプロモーターの下流に、マウスのIL-2 cDNAを連結した、治療遺伝子導入プラスミドP2(pUni/E2Fpr-mIL-2)を作製した。その際、pBluescript SKII+mIL-2を鋳型とし、5’側にAge Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCACCGGTGCAGGCATGTACAGCATGCAGCTCGC-3’(配列番号18)、及び、3’側にApa Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTGGGCCCTTATTGAGGGCTTGTTGAGA-3’(配列番号19)を用いてPCRを行い、mIL-2 cDNA配列を増幅した。その後、Age I及びStu Iにて切断後、pUni/E2FprのAge I及びStu Iサイトに挿入し、pUni/E2Fpr-mIL-2を作製した。その後、P1+2+3プラスミド(pAd.HM4-Surv.m-CRA/E2Fpr-mIL-2)を作製した。
【0064】
(7-3)ヒトIL-15発現Surv.m-CRAの作製
まず、E2Fプロモーターの下流に、ヒトのIL-15 cDNAを連結した、治療遺伝子導入プラスミドP2(pUni/E2Fpr-hIL-15)を作製した。その際、hIL-15 cDNAを鋳型とし、5’側にAge Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCACCGGTTGAGTAATGAGAATTTCGAAACCACA-3’(配列番号20)、及び、3’側にApa Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTGGGCCCTCAAGAAGTGTTGATGAACA-3’(配列番号21)を用いてPCRを行い、hIL-15 cDNA配列を増幅した。その後、Age I及びStu Iにて切断後、pUni/E2FprのAge I及びStu Iサイトに挿入し、pUni/E2Fpr-hIL-15を作製した。その後、P1+2+3プラスミド(pAd.HM4-Surv.m-CRA/E2Fpr-hIL-15)を作製した。
【0065】
(7-4)マウスIL-15発現Surv.m-CRAの作製
まず、E2Fプロモーターの下流に、マウスのIL-15 cDNAを連結した、治療遺伝子導入プラスミドP2(pUni/E2Fpr-mIL-15)を作製した。その際、mIL-15 cDNAを鋳型とし、5’側にAge Iサイトを付加したセンスプライマー;5’-TCAGTCACCGGTTAAGTAATGAAAATTTTGAAACCATA-3’(配列番号22)、及び、3’側にApa Iサイトを付加したアンチセンスPrimer;5’-GGACGTGGGCCCTCAGGACGTGTTGATGAACA-3’(配列番号23)を用いてPCRを行い、mIL-15 cDNA配列を増幅した。その後、Age I及びStu Iにて切断後、pUni/E2FprのAge I及びStu Iサイトに挿入し、pUni/E2Fpr-mIL-15を作製した。その後、P1+2+3プラスミド(pAd.HM4-Surv.m-CRA/E2Fpr-mIL-15)を作製した。
【0066】
その後、アデノウイルスの作製・増幅・精製を同様に行った。最終的に、各アデノウイルス由来DNAを調製後、各特異的プライマーによるPCRを行い、特異的増幅を確認した。ウイルス力価が決定できたもののうち、Surv.m-CRA/E2Fpr-mL-2は1.5×1010PFU/mL、Surv.m-CRA/E2Fpr-hIL-15は2.8×1010PFU/mLであった。
【0067】
(実施例2)ハムスター由来細胞におけるアデノウイルスの感染効率
ハムスター由来のがん細胞(HaK及びHaP-T1)及び正常細胞(BHK-21)におけるアデノウイルスの感染効率を検討した。
Syrian hamster kidney tumor由来HaK細胞は、Saint Louis University School of MedicineのProf.M.Woldにご供与頂いた。培養は、10%Fetal Bovine Serum(FBS;Biowest)及び1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ナカライテスク)含有DMEM(Dulbecco’s Modified Eagle Medium;ナカライテスク)にて37℃、5%CO条件下で行った。Syrian hamster pancreatic tumor由来HaP-T1細胞は、理化学研究所BRC cell bankより購入した(RBRC-RCB0411)。培養は、10%FBS、1%non-essential amino acids(NEAA;SIGMA)、1mM Sodium Pyruvate(Thermo Fisher Scientific)、1%ペニシリン-ストレプトマイシン含有MEM(Minimum Essential Medium;SIGMA)にて37℃、5%CO条件下で行った。Syrian hamsterの新生児腎臓由来BHK-21細胞は国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所JCRB細胞バンクより購入した(JCRB9020)。培養は、10%FBS、1%NEAA、1%ペニシリン-ストレプトマイシン(ナカライテスク)含有MEMにて37℃、5%CO条件下で行った。
【0068】
前日に12well plateへ播種した各細胞を感染当日にカウントした結果、HaK:6.45×10cells/well、HaP-T1:6.75×10cells/well、BHK-21:6.75×10cells/wellであった。その後、恒常的かつ強力なCMV(サイトメガロウイルス)プロモーター制御下にEGFPを発現する非増殖型アデノウイルス(Ad.CMV-EGFP)をmultiplicity of infection(MOI)が0、0.1、0.3、1、3、10、30、100、300、1000条件にて1時間感染した(MOI0はウイルス非感染コントロール)。その後48時間培養し、蛍光顕微鏡下で図に示す倍率にて撮像した。その後、トリプシン/EDTA溶液にて細胞を乖離させ、フローサイトメーターSH800Z(Sony)によるフローサイトメトリー(FACS)解析を行い、各条件下でのEGFP陽性率(アデノウイルス感染効率)を検討した。
【0069】
その結果、MOI依存的なEGFP陽性率の上昇が観察された(図2及び図3)。MOI30におけるアデノウイルス感染効率(AGTE)は、HaK及びHaP-T1では95%以上、BHK-21においても70%以上であり、いずれの細胞においても効率的なアデノウイルス感染が示された。一方、MOI300以上では、いずれの細胞においても強い細胞傷害効果が観察された。
【0070】
(実施例3)ハムスター由来細胞におけるプロモーター活性
ハムスター由来のがん細胞(HaK及びHaP-T1)及び正常細胞(BHK-21)における、E2F、RSV及びSurvivinの各プロモーター活性を検討した。前日に6well plateへ播種した各細胞を感染当日にカウントした結果、HaK:1.29×10cells/well、HaP-T1:1.0×10cells/well、BHK-21:1.7×10cells/wellであった。その後、ウイルス増殖に重要な遺伝子E1及びE3を欠損させたAd.dE1.3(Control)、及び各プロモーター制御下にβ-ガラクトシダーゼ遺伝子(LacZ)を発現する、Ad.E2Fp-LacZ、Ad.RSVp-LacZ、及びAd.Survp-LacZをMOI30にて1時間感染させた後、48時間培養した。その後、Beta-Glo(登録商標)Assay System(Promega)を用いて、細胞溶解液中のβ-ガラクトシダーゼ活性を検討した。実験は各条件にて3wellずつ施行し、データは平均値±標準誤差で示した。
【0071】
結果を図4に示す。がん細胞(HaK細胞)においてはRSVプロモーター及びCMVプロモーターが強い活性を示す一方、E2Fプロモーターとサバイビンプロモーターは中程度の活性を示した。HaP-T1細胞では、サバイビンプロモーターとE2FプロモーターとRSVプロモーターで中程度の活性が認められた。一方、正常細胞ではSurivivnプロモーターはほぼ活性が見られなかった。その他のプロモーターも、がん細胞に比べて正常細胞では活性が低い傾向にあったが、E2Fプロモーターは、RSVプロモーターやCMVプロモーターよりも、正常細胞ではさらに低い活性を示した。このことから、E2Fプロモーターとサバイビンプロモーターは、異なる2種類の癌細胞において中程度のプロモーター活性を示し、正常細胞ではRSVプロモーター及びCMVプロモーターより非常に低い活性を示す、つまりがん細胞特異的(優位な)プロモーターの特性を示すことが明らかになった。
【0072】
(実施例4)mGM-CSF発現Surv.m-CRA感染ハムスター細胞におけるMouse GM-CSF発現
ハムスターGM‐CSFの遺伝子配列は確かなものが報告されていないため、マウスGM‐CSF(mGM-CSF)を用いた。各mGM-CSF発現Surv.m-CRAを感染させたハムスター由来のがん細胞(HaK及びHaP-T1)及び正常細胞(BHK-21)におけるmGM-CSFのタンパク質発現レベルをELISA(Enzyme-Linked ImmunoSorbent Assay)法にて検討した。前日に6well plateへ播種した各細胞を感染当日にカウントした結果、HaK:1.4×10cells/well、HaP-T1:1.47×10cells/well、BHK-21:2.2×10cells/wellであった。Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSFをそれぞれMOI1、10、100条件にて1時間感染後、48時間培養した。その後、培養上清を回収し、Mouse GM-CSF Quantikine ELISA Kit(R&D systems)にてmGM-CSFタンパク質の発現量を検討した。ELISA測定は各細胞上清につき2wellずつ施行し、データは平均値±標準誤差にて示した。各条件間の統計学的有意差についてはStudent’s t testにて検定した(*,P<0.05)。加えて、ヒトGM‐CSF(hGM-CSF)を発現する各Surv.m-CRA(Surv.m-CRA/E2Fp-hGM-CSF、Surv.h-CRA/RSVp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/CAp-hGM-CSF)についても同様に検討を行った。
【0073】
結果を図5に示す。いずれの細胞においてもMOI依存的なマウスGM-CSF発現上昇が観察された(図5A‐C)。プロモーター間の比較では、CAプロモーターが最も強力な発現誘導により、非常に高レベルのサイトカイン分泌を生じており、次にRSVプロモーターが強力に発現を誘導(それによる高レベルのサイトカインを分泌)した一方、E2Fは中等度のサイトカインの発現・分泌を誘導することが示された。細胞間では発現レベルに顕著な差は観察されなかった。また、ヒトGM‐CSFの発現についても同様の傾向が得られた(図5D)。これら(図4図5)の結果から、RSVおよびCMVプロモーターはユビキタス(細胞種を選ばず)かつ比較的強く活性化されること、及び、E2Fプロモーターは、がんではSurvivinプロモーターより若干低いあるいは同等でRSVあるいはCMVよりは低い活性、正常ではSurvivinほどではないがRSVあるいはCMVより低く、Survivinプロモーターよりは弱いながらもがん特異性が見られる、ということが示され、各プロモーターのハムスター細胞におけるプロモーターの特性、あるいは具体的にこれらの4つのプロモーターのがん細胞と正常細胞での「具体的」な相対的な活性レベルの違いとがん特異的活性の程度を初めて明らかにした。
【0074】
(実施例5)mGM-CSF発現Surv.m-CRA感染のハムスター細胞に対する細胞傷害効果
各mGM-CSF発現Surv.m-CRAを感染させたハムスター由来のがん細胞(HaK及びHaP-T1)及び正常細胞(BHK-21)に対する細胞傷害効果について、生細胞数測定にて検討した。前日に96well plateへ各細胞とも5×10cells/wellにて播種した。Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSFをMOI3及び30にて1時間感染後、培養を行った。感染後、3及び5日後の時点で生細胞数測定試薬SF(ナカライテスク)を用いたWST-8アッセイにより細胞傷害性を評価した。
【0075】
その結果、HaK及びHaP-T1においては、Surv.m-CRAとGM-CSF発現Surv.m-CRA3種はいずれもコントロールに比べ有意な細胞傷害効果が観察された(図6)。また、GM-CSF発現Surv.m-CRA3種はいずれもSurv.m-CRAと比較しても有意に高い細胞傷害効果が観察された。特に、CAプロモーターで強く、次いでRSVプロモーターが強く、E2FはCAよりも低かった。MOI3に比べ、MOI30でより強い傷害性が見られた。一方、BHK-21では、MOI30においてはmoderateな細胞傷害効果がmGM-CSF発現ウイルスにおいて見られたものの、MOI 3においてはいずれのウイルスにおいても有意な細胞傷害効果は見られなかった。つまり、Survivinプロモーターでウイルス増殖を制御するCRAである、基盤(骨格)となるSurv.m-CRAの、高度ながん特異化による安全性という良好な特性が示された。
【0076】
(実施例6)担がんハムスターモデルにおけるmGM-CSF発現Surv.m-CRAの腫瘍抑制効果
メス5週齢のSyrianハムスターに1×10個のHaKを背側に1カ所皮下移植した。その際、HaK細胞は50%マトリゲル中1×10cells/200μlとなるよう、Corning(登録商標)マトリゲル基底膜マトリックス(Corning)にて調製した。約33日後に、移植腫瘍の直径が6-10mmに達した段階で、Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFの各ウイルスをPBSにて1×10PFU/100μlに調整後、腫瘍内に単回注入し、継時的な腫瘍径の変化を評価した(図7)。Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFウイルス投与した各群の匹数は、それぞれ、n=12、9、11、11、及び12であった。腫瘍の大きさはデジタルノギスを使用し、週に2回測定した。腫瘍体積は、長軸(mm)×短軸(mm)×短軸(mm)×0.5(mm)にて算出した。データは平均値±標準誤差にて示し、各群間の統計学的有意差についてはStudent’s t testにて検定した(*,P<0.05 vs Ad.dE1.3;#,P<0.05 vs Surv.m-CRA)。
【0077】
その結果、治療した原発巣のがん細胞(結節)に対して、Surv.m-CRAとGM-CSF発現Surv.m-CRA3種はいずれもコントロール(Ad.dE1.3)と比較し、有意な(強力な)治療効果(腫瘍抑制効果)がみられた(図7)。また、GM-CSF発現Surv.m-CRA3種はいずれも、治療遺伝子を搭載していないSurv.m-CRAと比較した結果、治療効果(腫瘍抑制効果)のさらなる「増強」が有意にみられた。
【0078】
(実施例7)担がんハムスターモデルにおけるmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染後の生存曲線
上記各ウイルス単回注入によるHaK移植ハムスターの生存への影響をKaplan-Meier法による生存曲線解析により評価した。各群間の統計学的有意差についてはlog-rank testにて検定した。
【0079】
その結果、期間全体における有意な差はいずれのグループ間においても観察されなかった(図8)。しかしながら、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSF感染群においては、感染後10~20日の間に死亡例が出現した(図8)。これらの剖検の結果、肺の浮腫・水腫、脾臓の肥大、腎臓の暗調、肝臓の白斑などを認め、死因はサイトカインの過剰発現に伴う免疫系の異常による全身性の致死性副作用という結果が病理学的解析で確定した。これらの実験の結果から、GM-CSFの最適な発現レベルの必要性が改めて確認された。つまり従来、「強活性プロモーター」として漠然と捉えられていたCA,E2F,RSVなどのプロモーターにおいて、CAはE2Fよりも非常に強いプロモーター活性を持ち、特に腫瘍溶解性ウイルスに搭載する免疫誘導遺伝子の制御においては、CAプロモーターは致死性副作用をもたらす使用に適さないプロモーターであること、反対にE2Fプロモーターは中程度の発現を誘導するにもかかわらず、強力な治療効果を示しながらも高い安全性を担保する「最適(中等度)」プロモーターであることが、本実験で初めて明らかになった。つまり本実験で、「腫瘍溶解性ウイルスに搭載する免疫誘導遺伝子の制御における最適(中等度)プロモーターが存在する」という新概念の創出と、E2Fプロモーターで誘導される発現レベルがこのシステムで最適という具体的発明も創出された。
【0080】
(実施例8)mGM-CSF発現Surv.m-CRA治療後のハムスターに対するリチャレンジテスト
メス5週齢のSyrianハムスターに1×10個のHaKを背側に1カ所皮下移植した。その際、細胞は50%マトリゲル中に1×10cells/200μlとなるよう、Corning(登録商標)マトリゲル基底膜マトリックス(Corning)にて調製した。約28日後に、移植腫瘍の直径が6-10mmに達した段階で、Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFの各ウイルスをPBSにて1×10PFU/100μlに調整後、腫瘍内に単回注入した。Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFウイルス投与した各群の匹数は、それぞれ、n=4、5、4、3、及び3であった。ウイルス注入の14日後に、7.5×10個のHaK及びHaP-T1をそれぞれ50%マトリゲル中に7.5×10cells/200μlとなるよう調製後、背側に皮下移植し、その15日後に2次移植腫瘍の形成を評価した。
【0081】
結果を以下の表1に示す。GM-CSF発現Surv.m-CRA3種治療群では、HaKの再移植では腫瘍形成が認められず、一方HaP-T1移植では全例で腫瘍形成が認められた。コントロール(Ad.dE1.3)及びSurv.m-CRA治療群では、HaK、HaP-T1のいずれの2次移植においても全例で腫瘍形成が認められた。以上の結果から、mGM-CSF発現Surv.m-CRA治療群においては、E2Fプロモーターなどの中程度のプロモーターを用いた場合にも、CAなどの強力なプロモーターを用いた場合と同様にHaK(治療されたがん細胞)特異的な全身性の抗腫瘍免疫が誘導され、転移がん細胞を強力に阻止(治療)できることが明らかになった。
【0082】
【表1】
【0083】
(実施例9)担がんハムスターモデルへのmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染後の組織内mGM-CSF発現量の検討
メス5週齢のSyrianハムスターに1×10個のHaKを背側に1カ所皮下移植した。その際、細胞は50%マトリゲル中1×10cells/200μlとなるよう、Corning(登録商標)マトリゲル基底膜マトリックス(Corning)にて調製した。約42日後に、移植腫瘍の直径が6-10mmに達した段階で、Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFの各ウイルスをPBSにて1×10PFU/100μlに調整後、腫瘍内に単回注入した。その後2及び7日後に血清、腫瘍、脾臓を単離し、組織内mGM-CSF発現レベルをELISA法により検討した。ウイルス投与した各群の匹数は各Dayそれぞれ全てn=3であった。データは平均値±標準誤差にて示し、各群間の統計学的有意差についてはStudent’s t testにて検定した(*,P<0.05 vs Surv.m-CRA/E2Fpr-mGM-CSF;#,P<0.05 vs Surv.m-CRA/RSVpr-mGM-CSF)。
【0084】
その結果、GM-CSF発現Surv.m-CRA3種はいずれもコントロール(Ad.dE1.3)に比べ有意なmGM-CSF発現レベルが観察された(図9)。特に、CAプロモーターでのDay2におけるSerum内でのmGM-CSF発現量は他の2つのプロモーターと比較して1000倍以上の高値を示した。よってこの結果は、図8で観察されたSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSF感染群における初期の死亡例の原因がサイトカインの過剰発現による異常な病的レベルの全身性の免疫活性化によるものであることを、さらに明確に立証したものである。驚くべきことに、E2Fプロモーターは、血清、腫瘍、脾臓のいずれにおいても5日目には検出限界より低い量のGM-CSFしか存在しない程度の発現をもたらすにもかかわらず、上述の通り高い抗腫瘍活性、生存期間延長などの効果を発揮することが見出された。
【0085】
(実施例10)同所移植(Orthotopic)担がんハムスターモデルにおけるmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染後の生存曲線
1×10個のハムスター腎がん由来HaKをメス5週齢のSyrianハムスターの片側腎臓へ移植した。その際、細胞は50%マトリゲル中に1×10cells/200μlとなるよう、Corning(登録商標)マトリゲル基底膜マトリックス(Corning)にて調製した。約14日後に、Ad.dE1.3(Control)、Surv.m-CRA、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、及びSurv.m-CRA/CAp-mGM-CSFの各ウイルスをPBSにて1×10PFU/100μlに調整後、腫瘍を移植した側の腎臓内に単回注入した。その後、同所移植担がんハムスターモデルにおける上記各ウイルス単回注入による生存への影響をKaplan-Meier法による生存曲線解析により評価した。各群間の統計学的有意差についてはlog-rank testにて検定した。
【0086】
その結果、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSF群においては、皮下腫瘍モデルと同様、感染後5~10日の間(治療早期)にサイトカインの過剰発現に伴う全身性の病的(異常)免疫活性の副作用を原因とする死亡例が出現し、Ad.dE1.3(Control)及びSurv.m-CRA群と比較し、有意に生存率が短縮、つまり死亡率が上昇した。興味深いことに、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF及びSurv.m-CRA/RSVp-mGM-CSFを投与した群は、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSF群に対してのみならず、Ad.dE1.3(Control:非増殖型アデノルイス)及びSurv.m-CRA(治療遺伝子未搭載)群と比較しても、非常に著明で有意な生存延長を認めた。ただし、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF群とSurv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF群との間に有意な差は観察されなかった。特に注意すべきこととして、(単純で簡易な実験系で一般に用いられる)皮下腫瘍モデルでの腫瘍増大の抑制効果だけでは、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/RSVp-mGM-CSF、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSFの治療効果の差に有意差はない一方で、実際のヒトの臨床で最終的ながん治療薬の有用性を評価できる、病態を反映する同所性腫瘍モデルでの長期生存率の解析では、Surv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSF及びSurv.m-CRA/RSVp-mGM-CSFは非常に高い有効性を示し、Surv.m-CRA/CAp-mGM-CSFではむしろ悪い(致死性で危険)という結果が、本発明で初めて明らかになったことである。さらに、図9にも示される通り、RSVプロモーターはCAプロモーターよりは低い発現であるものの、5日目に脾臓で検出されるレベルのGM-CSFを発現させており、生存には表れていない副作用をもたらしている可能性がある。よって腫瘍溶解性ウイルスに免疫誘導遺伝子を搭載する場合、最適な発現レベルは安全性の劇的向上のみならず、さらに治療効果そのものも増強することは、本実験で初めて明らかになった。さらに、最適な発現レベルを達成できるプロモーターはE2Fプロモーター及びその発現レベルと同等の発現レベルをもたらすプロモーターであることも、初めて明らかになった。
【0087】
(実施例11)同所移植(Orthotopic)担がんハムスターモデルにおけるmGM-CSF発現Surv.m-CRA感染及び抗mouse PD-1抗体投与後の生存曲線比較
1×10個のハムスター腎がん由来HaKをメス5週齢のSyrianハムスターの片側腎臓へ移植した。その際、細胞は50%マトリゲル中に1×10cells/200μLとなるよう、Corning(登録商標)マトリゲル基底膜マトリックス(Corning)にて調製した。約14日後に、Ad.dE1.3(Control)、あるいはSurv.m-CRA/E2Fp-mGM-CSFの各ウイルスをPBSにて1×109PFU/100μLに調整後、腫瘍を移植した側の腎臓内に単回注入した。さらに、同日に500μgの抗mouse PD-1抗体、あるいはIsotype Control抗体をそれぞれ腹腔内投与した。この日をDay0とし、同量の同抗体をDay2、4、6、8にも同様に投与した。その後、生存への影響を同様に解析した。
【0088】
その結果、Surv.m-CRA/E2Fpr-mGM-CSF群(N=14)においては、Ad.dE1.3(Control)群(N=17)と比較し、有意に生存率が延長、つまり死亡率が低下した。さらに、抗mouse PD-1抗体投与群(N=17)と比較しても同等かそれ以上の生存率延長の傾向を示した。
【0089】
これらすべての実施例の結果をまとめると、本発明において、「腫瘍溶解性免疫治療剤(免疫誘導遺伝子を搭載した腫瘍溶解性ウイルス)においては、ウイルスと一緒に搭載された免疫誘導遺伝子も増幅するため、免疫誘導因子の最適な発現レベルを精密に制御することが、劇的な安全性の確保(致死性副作用の除去)、そして強力な治療効果の誘導の、両方の目的に必須である」、という概念自体が、初めて創出された。「安全性」の面でも本概念を明確に表したものはこれまでなかったのみならず、「劇的な治療効果の増強」という点ではさらに本概念を示唆したものは全くなく、むしろ漠然とした根拠のない定説(治療遺伝子は発現増強した方が治療効果自体は上昇する)を覆すものともいえる。また本発明において、安全性と治療効果の両面ともの、腫瘍溶解性ウイルスにおける免疫誘導遺伝子の「最適(中等度)」発現を誘導するプロモーターも具体的に明らかにし、従来の腫瘍溶解性免疫治療剤を安全性と治療効果の両面で凌ぐ性能を持つ画期的な癌治療薬を創出した。治療遺伝子を搭載していないSurv.m-CRAにおいても、これまでの発明者の医師主導治験において、非常に安全なだけでなく、これまで標準治療(これまでの癌治療薬や癌治療法)が無効だった難治性がんの全例で治療効果を認めている(ヒトの患者で実際に証明されつつある)ことから、本発明で創出された新たな腫瘍溶解性免疫治療剤とその方法は、さらに有望な革新的な癌治療薬となるものと期待される。
図1
図2A
図2B
図2C
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7
図8
図9
図10
図11
図12
【配列表】
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