(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-05-11
(45)【発行日】2023-05-19
(54)【発明の名称】粘弾性疎氷性表面
(51)【国際特許分類】
C09K 3/18 20060101AFI20230512BHJP
C09D 201/00 20060101ALI20230512BHJP
C09D 7/65 20180101ALI20230512BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20230512BHJP
C09D 175/04 20060101ALI20230512BHJP
C09D 109/00 20060101ALI20230512BHJP
B05D 5/00 20060101ALI20230512BHJP
【FI】
C09K3/18
C09D201/00
C09D7/65
C09D183/04
C09D175/04
C09D109/00
B05D5/00 G
(21)【出願番号】P 2020542048
(86)(22)【出願日】2018-10-15
(86)【国際出願番号】 US2018055793
(87)【国際公開番号】W WO2019079140
(87)【国際公開日】2019-04-25
【審査請求日】2021-10-07
(32)【優先日】2017-10-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】511248249
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ ヒューストン システム
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100156122
【氏名又は名称】佐藤 剛
(72)【発明者】
【氏名】ハディ・ガセミ
(72)【発明者】
【氏名】ペイマン・イラジザド
(72)【発明者】
【氏名】アブドゥラー・アル-バヤティ
【審査官】藤田 雅也
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-526958(JP,A)
【文献】特開平04-258675(JP,A)
【文献】特開2000-26844(JP,A)
【文献】特開昭62-252477(JP,A)
【文献】特表2015-531005(JP,A)
【文献】特表2003-507567(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第110804395(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2014/0020580(US,A1)
【文献】特開2012-36268(JP,A)
【文献】特開2006-182936(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05D 1/00- 7/26
C09K 3/18
C09D 1/00- 10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
防氷特性を有する表面
を持つ基材であって、
表面;および
前記表面に付着させた粘弾性疎氷性コーティング、ここに、前記粘弾性疎氷性コーティングは、エラストマーマトリクスと、前記エラストマーマトリクス中に分散したオルガノゲル粒子ビーズであり、前記オルガノゲル粒子ビーズは3次元架橋ゲルに取り込まれた非架橋液相
を含み、前記エラストマーマトリクスは硬化して、粘弾性疎氷性コーティングを形成し、前記粘弾性疎氷性コーティングが前記表面に防氷特性を付与する、
を含む、
基材。
【請求項2】
前記エラストマーマトリクスが、ポリウレタン、ポリイソプレン、シリコーンラバー、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の
基材。
【請求項3】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、オルガノゲル、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、またはそれらの組合せを含む、請求項1に記載の
基材。
【請求項4】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、1以上のシロキサン類、1以上のシリカ類、エチルベンゼン、およびそれらの組合せを含む、請求項1に記載の
基材。
【請求項5】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、ジメチルシロキサン、ジメチルビニル終端化シリカ、ジメチルビニル化シリカ、トリメチル化シリカ、テトラ(トリメトキシシロキシ)シラン、エチルベンゼン、ジメチルメチル水素シロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、およびそれらの組合せを含む、請求項1に記載の
基材。
【請求項6】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、体積比に基づ
き25%か
ら90%の濃度にて、前記エラストマーマトリクスに分散している、請求項1に記載の
基材。
【請求項7】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、直
径10nmか
ら100ミクロンである、請求項1に記載の
基材。
【請求項8】
防氷特性を有する表面を製造する方法であって、
未硬化のエラストマーマトリクス材料を調製し;
オルガノゲル粒子ビーズを調製し、ここに、前記オルガノゲル粒子ビーズは3次元架橋ゲルに取り込まれた非架橋液相を含み;
前記オルガノゲル粒子ビーズを界面活性剤中で破砕して、前記界面活性剤中で非凝集オルガノゲル粒子ビーズを形成し;
前記非凝集オルガノゲル粒子ビーズを前記未硬化エラストマーマトリクス材料と混合して、未硬化エラストマー混合物を形成し;
前記未硬化エラストマー混合物を表面に付着させ;ついで、
前記未硬化エラストマー混合物を硬化させて、前記表面上に粘弾性疎氷性コーティングを形成し、ここに、前記粘弾性疎氷性コーティングは前記表面に防氷特性を付与する、
ことを含む方法。
【請求項9】
前記エラストマーマトリクスが、ポリウレタン、ポリイソプレン、シリコーンラバー、またはそれらの組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、オルガノゲル、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン、またはそれらの組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、1以上のシロキサン類、1以上のシリカ類、エチルベンゼン、およびそれらの組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、ジメチルシロキサン、ジメチルビニル終端化シリカ、ジメチルビニル化シリカ、トリメチル化シリカ、テトラ(トリメトキシシロキシ)シラン、エチルベンゼン、ジメチルメチル水素シロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、およびそれらの組合せを含む、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、体積比に基づ
き25%か
ら90%の濃度にて、前記エラストマーマトリクスに分散している、請求項8に記載の方法。
【請求項14】
前記オルガノゲル粒子ビーズが、直
径10nmか
ら100ミクロンである、請求項8に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本願は、2017年10月16日に出願され、「ナノ-粘弾性防氷表面」と題され、その内容全体が出典明示して本明細書に組み込まれる、米国仮特許出願第62/572,708号に対する優先権を主張する。
【0002】
本開示は、疎氷性ならびに、柔軟性、耐久性および様々なアプリケーションに対して有用な防氷表面に関する。
【背景技術】
【0003】
防氷表面は、インフラストラクチャーおよびエネルギーシステムを含む広汎なシステムにおいて重要な役割を演じる。寒い気候において、および冬嵐事象の間、これらの表面の欠如は、電力システム(例えば、送電塔、送電所、および送電線)、輸送システム(例えば、航空産業および外洋航行船舶)およびエネルギーシステム(例えば、家庭内および大型発電所)において、破局的な故障につながる。Lawrence Berkeley Laboratoryによれば、氷嵐は、米国において、送電停止の10%を占める。財政損失は、年間3~5億ドルと概算される。財政損失に加えて、毎冬、米国では、約3億人が、氷嵐によって引き起こされる電力損失の被害を受けている。着氷は、ポールおよび塔の崩壊と、コンダクターの破裂とを引き起こすことがある。航空産業において、飛行機上の着氷は、抗力の上昇と、揚力の損失とをもたらし、大惨事になる可能性がある。冷却システムにおける着氷は、熱伝達率を著しく降下させ、これらのシステムの不十分な稼働をもたらす。
【0004】
疎氷性表面の主な長所は、低凝固温度、低氷付着 (ice accretion)速度および低凍着である。さらに、これらの表面の長期耐久性は、もうひとつの重大な因子である。複数の製品(例えば、超撥水性、ノンウェッティング、液体注入、かつ水和型表面)が、蓄氷を低減または防止するために開発されてきた。しかしながら、高凍着強度(~20~100kPa)および引き続く氷付着、低い長期機械的および環境的耐久性、ならびに高い生産コストが、それらの適用を制限する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示は、概略、疎氷性である表面に関する。特に、前記疎氷性表面は、噴霧可能性、柔軟性、耐久性およびそれらのアプリケーションに汎用性のあるナノ-粘弾性表面である。前記ナノ-粘弾性表面は、予期できない防氷特徴を有し、低コストであり、かつ、高せん断流れに対して抵抗性である。
【課題を解決するための手段】
【0006】
概略、本ナノ-粘弾性表面は、(1)シリコーン系オルガノゲル粒子ビーズを展開し、(2)前記粒子ビーズを界面活性剤と混合し、ついで、前記混合物を破砕して凝塊を低減し、(3)シリコーンエラストマーのような適当なタイプのエラストマーから、高せん断弾性率を有して、前記展開ゲルビーズの宿主として機能する、エラストマーマトリクスを別途調製し、ステップ(2)で調製した前記展開オルガノゲル粒子ビーズを、前記調製したエラストマーマトリクス内に取り込ませ、かつ、(5)最終混合物をいずれかの表面に塗布し、前記混合物を室温にて硬化させて最終ナノ-粘弾性疎氷性表面を得ること、によって調製し得る。
【発明の効果】
【0007】
前記ナノ-粘弾性防氷表面は、高せん断流れおよび高温および低温下で安定である。前記表面は、苛酷な野外アプリケーションに対して長期耐久性を有する強化された防氷特徴を実証する。ストレス局在化 (stress-localization)と呼ばれる新しい物理概念は、並外れた機械的、科学的かつ環境的耐久性を有する本疎氷性表面の効果に寄与する。ストレス局在化の概念は、これらの材料への凍着を一桁低減し、すでに研究されている表面修飾法よりもはるかに有効である。ストレス局在化は、体積現象であり、これらの材料の長期間稼働後でも有効性を維持する。さらに、前記疎氷性材料は、翼型の空気力学特徴に影響せず、航空宇宙アプリケーションに期待できる解法を提供する。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】
図1Aは、疎氷性コーティングされた材料からの氷脱離の概要を示す。
【
図1B】
図1Bは、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングの概要ダイアグラムを示す。
【
図1C】
図1Cは、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングの弾性率の表面マップを示す。
【
図1D】
図1Dは、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングにおける第II相座標での、亀裂の形成および氷の脱離の概要を示す。
【
図2】
図2は、本明細書に記載された好ましい具体例によって調製された、ナノ-粘弾性および防氷表面の概要を示す。
【
図3】
図3は、溶媒への浸漬前後のサンプルナノ-粘弾性表面の像を10mmのスケールバーとともに示す。
【
図4】
図4は、1000サイクルの摩耗試験前後のサンプルナノ-粘弾性表面の像を10mmのスケールバーとともに示す。
【
図5】
図5は、500時間のUV線暴露前後のサンプルナノ-粘弾性表面の像を10mmのスケールバーとともに示す。
【
図6】
図6は、-15℃で測定した種々のサンプルナノ-粘弾性表面についての凍着試験の結果を示す。
【
図7】
図7は、種々の表面温度でのサンプルナノ-粘弾性表面についての凍着試験の結果を示す。
【
図8】
図8は、17m/秒風力負荷前後のサンプルナノ-粘弾性表面に対する防氷プロセスの概要を示す。
【
図10A】
図10Aは、本明細書に記載の好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングと比較して最先端テクノロジーについての凍着値を示す。
【
図10B】
図10Bは、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングに関する種々の濃度の第II相ゲル粒子および種々の着氷/除氷サイクルについての凍着値を示す。
【
図10C】
図10Cは、調製され、その後、水および空気せん断に暴露されたときの、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングについての凍着値を示す。
【
図10D】
図10Dは、調製され、その後、化学的環境およびUVに暴露されたときの、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングについての凍着値を示す。
【
図11A】
図11Aは、摩耗後、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングと比較して最先端テクノロジーの厚さを示す。
【
図11B】
図11Bは、摩耗後、本明細書に記載された好ましい具体例によるストレス局在化疎氷性コーティングと比較して最先端テクノロジーの凍着を示す。
【
図12A】
図12Aは、本明細書に記載された好ましい具体例による疎氷性コーティングの空力特性を評価するための実験設定の概要を示す。
【
図12B】
図12Bは、代表的な疎氷性コーティングでコートされた翼および非コート翼との抗力係数を迎角の関数で示す。
【
図12C】
図12Cは、代表的な疎氷性コーティングでコートされた翼および非コート翼との揚力係数を迎角の関数で示す。
【
図12D】
図12Dは、代表的な疎氷性コーティングでコートされた翼型および非コート翼型との揚力/抗力の比を迎角の関数で示す。
【
図13A】
図13Aは、代表的な疎氷性コーティングにおける第II相座標上に見られた氷における亀裂発生を評価するための実験設定の概要を示す。
【
図13B】
図13Bは、代表的な疎氷性コーティングにおいて、第II相座標で形成された氷中の界面空洞の、光学顕微鏡および高速撮像で得られた像を示す。
【
図13C】
図13Cは、代表的な疎氷性コーティングにおける第II相粒子の濃度の関数で、ストレス局在化を示す。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示は、防氷表面、特に、ナノ-粘弾性特徴を有し、高度な柔軟性、耐久性、およびアプリケーションに汎用性のある防氷表面に関する。
【0010】
本疎氷性材料は、極度に低い凍着を示しつつ、長期の機械的、化学的かつ環境的耐久性を有する。前記疎氷性材料、ストレス局在化粘弾性材料は、氷-材料境界での弾性エネルギー局在化を利用して、境界をせん断する。最小限の負荷力で、境界に亀裂が形成され、局所ストレス場を生成する。このせん断ストレスが、境界で亀裂を進行させて、材料から氷を脱離する。この疎氷性材料は、滑らかなコーティングであり、翼型のような表面の空力特性に影響しない。
【0011】
一旦氷が表面に形成されると、氷と基材との間の相互作用は、ファン・デル・ワールス力、静電力または水素結合力に支配される。広範な表面が、凍着強度を低減することについて研究されている。それらの中でも、エラストマーが、最小の凍着を示し、並外れた疎氷性特性を達成する可能性を有している。
図1Aに示すように、エラストマーに結合した剛直な氷相を想定する。せん断力が氷-エラストマー平面に付与されれば、脱離することなく滑るだけであろう。しかしながら、力が、境界よりも高い平面で付与されれば、その氷は臨界ストレスにて脱離するであろう。剛直体とエラストマーとの境界での弾性不安定が破砕の原因であることが示されている。弾性不安定によって接触線から進展した指状は、境界での亀裂の伝播を助ける気泡の形態で伸びて、崩壊する。気泡形成の閾値はエラストマーのせん断弾性率に依存する。等方特性をもつ均一エラストマーに関して、境界での接着ストレス (σS)は、以下:
【0012】
【数1】
のように記述されることが分かる。この式は、GおよびW
aの値が小さい値のときに低い凍着が達成されることを示唆する。Gの値は、数桁に渡って調整できるが、最良でも(例えば、表面上にペルフルオロ化した基の導入)、W
aの値は一桁しか調整できないことを特筆する。硬エラストマー(G~ 1GPa)からゲル(G~ 1Pa)へと基材を調整することによって、低値の凍着が達成された。しかしながら、低値のGは、低い機械的耐久性の疎氷性コーティングにつながり、長期性能不良をもたらす。a、lおよびhの値は、実験機器および疎氷性材料の寸法によって定められる。凍着の測定において、これらの寸法の不一致は、同一基材上で凍着の散逸データをもたらす。例えば、PDMSに関する凍着の報告された値は、100~800 kPaの範囲で異なる。
【0013】
凍着を測定する標準方法は、以下の実施例2に記載する。上記の式において、等方性エラストマーが想定され、それはσSのGへの直接依存性をもたらした。しかしながら、一旦、本疎氷性表面におけるような、低せん断弾性率を持つ局所相を、
図1Bに示すように、氷-材料境界に導入すると、最小限の力で、氷は局所相から脱離し、局所亀裂を形成する。この局所亀裂は、その亀裂の周りに弾性ストレス場を誘発する。この誘発されたせん断ストレス場は、亀裂先端を開放し、境界で亀裂の伝播をもたらす。すなわち、局所相による誘発ストレス場は、亀裂成長および破砕につながる。議論した物理学の数式により、これらの表面上の凍着強度は、以下:
【0014】
【0015】
【数3】
およびG
mの値は、個々の第I相および第II相の特性、それらの体積フラクションならびにそれらの幾何学に依存する。この式の顕著な特徴はストレス局在化関数であり、それは、氷の材料への接着において重要な役割を演じ、その影響は、これまでに研究された他のパラメータ(すなわち、接着の仕事およびせん断弾性率)よりもはるかに有効である。この局所化関数は、エラストマーへの固体の接着を、以下で実証し、議論するように、一桁低減する。
【0016】
開発されたストレス局在化概念に基づき、疎氷性表面ストレス局在化粘弾性材料の新しい形態が開発された。その材料は、高せん断弾性率の第I相のマトリクスと、高度に分散した低せん断弾性率の第II相とを含む。これらの材料のひとつの具体例の開発の代表的な手順は、以下の実施例2で与えられる。第I相はシリコーンエラストマーであり、第II相はシリコーン系オルガノゲルである。この材料のマトリクスは長期機械的耐久性において主たる役割を演じるので、高せん断弾性率のエラストマーを選ぶことが大事である。好ましいシリコーンエラストマーは室温加硫 (RTV)され、ある種の機械特性を有する。均一材料を形成するため、マトリクスと分散相との適合性が重要である。かくして、2~20μmの寸法を持つシリコーン系オルガノゲル粒子が好ましい。エラストマーおよび分散相の他の組合せは、それらが均一材料を提供する限り、用いることができる。一旦、材料が開発されれば、その粘度は、溶媒で調節できる。ここでは、好ましい具体例において、ヘキサメチルジシロキサンを用いて、前記材料の粘度を低下させる。希釈形態において、前記材料に、刷毛塗りまたはスプレーして、均一コーティングを形成できる。塗布したら、前記材料は、24時間後には完全に硬化する。これらの材料の表面を走査型プローブ顕微鏡(SPM)(Bruker Multimedia 8 SPM)で調査して、表面上の第II相の分散を決定する。
図1Cは、両相の弾性率を示す。示されるように、第II相は、マトリクスのものよりもかなり小さな係数を有する。
図1Dは、最小力で、第II相の座標での亀裂形成を描写する。
【0017】
図2は、この開示の好ましい具体例により調製された粘弾性防氷表面の概要を示す。前記疎氷性表面は、エラストマーマトリクス(第I相ともいう)全体に分散したオルガノゲル粒子の相(第II相ともいう)を含む。前記エラストマーマトリクス中のオルガノゲル粒子の好ましい濃度は、体積比に基づき約1%から約99%であり、より好ましい濃度は約5%から約85%である。第II相粒子は、概略、前記エラストマーマトリクス全体に分散して、分離領域への粒子の蓄積を回避すべきである。
【0018】
前記粘弾性疎氷性表面は、宿主すなわちマトリクスとして機能する種々の異なるエラストマーを利用できる。ある種の具体例において、前記エラストマーは、適当な塩基および硬化剤を用いて調製した室温-加硫(RTV)シリコーンラバーであり得る。さらなる好ましいエラストマーは、ポリウレタン、ポリイソプレン、フルオロエラストマー等を含むことができる。選択されたエラストマーは、高せん断弾性率を有しているべきである。
【0019】
異なるタイプのゲルを第II相粒子ビーズとして用いて、前記エラストマーマトリクス内に統合することもできる。前記ゲルビーズは、オルガノゲル(炭化水素で作成したゲル)、ポリアクリルアミド、ポリジメチルシロキサン(PDMS)その他の適当な材料で作成することができる。前記ゲルビーズは、酪酸ブチル、プロピレングリコール、およびシリコーン (Si)油を含む、様々な異なる界面活性剤と混合し、ラバーやポリマーマトリクスに投入する前に破砕することができる。好ましい具体例において、前記オルガノゲル粒子は、固相(3次元架橋ゲルネットワーク)内に封じ込められた、調整液体有機相(前記ゲルマトリクス中の非架橋成分)を含む。特定の好ましい具体例において、前記オルガノゲル粒子は、シロキサン類、シリカ類、およびエチルベンゼンの組合せで作成される。さらなる好ましい具体例において、前記オルガノゲル粒子は、ジメチルシロキサン、ジメチルビニル終端化シリカ、ジメチルビニル化シリカ、トリメチル化シリカ、テトラ(トリメトキシシロキシ)シラン、エチルベンゼン、ジメチル、メチル水素シロキサン、およびテトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサンの組合せで作成される。さらなる好ましい具体例において、前記オルガノゲル粒子ビーズはポリジメチルシロキサン系である。前記エラストマーマトリクスに取り込まれた前記ゲルビーズは、好ましくは、直径で約10nmから約100ミクロンであり、より好ましくは直径で約2から約20ミクロンである。
【0020】
前記ナノ-粘弾性表面を異なる材料から発生させることは、製品の特性を変化させることを可能し、表面に対する所望の機能に基づき、所望の耐久性および凍着特性に調節することを可能にする。以下の表1は、ナノ-粘弾性表面の好ましい具体例を開発するために用いることができるいくつのタイプの材料を例示する。
【0021】
【0022】
前記ナノ-粘弾性防氷表面は、物理的および化学的に安定でありつつ、極度に低い凍着特性を維持する。好ましい具体例において、前記ナノ-粘弾性表面は、非硬化材料を基材表面にスプレーし、その材料が硬化して防氷表面を形成するようにして、着氷から保護する必要がある表面に塗布する。防氷表面の長期耐久性に対する重要な因子は、それらの表面に接着する能力であり、また、厳しい摩耗に耐える能力である。これらの因子は、野外作業に益々重要になる。ほとんどの現行の防氷テクノロジーは、この物理的安定性を長期間にわたって実証することはできない。前記現行ナノ-粘弾性表面が試験され、これらの条件において物理的安定性を有することが確認された。
【0023】
本防氷表面は高度耐久性疎氷性材料である。これらの材料は、ストレス局在化を利用して、氷-材料境界に亀裂を生じ、その結果、表面ストレス局在化上の凍着を最小限にして、前記材料から氷が脱離する、境界でのせん断力につなげる。開発された概念をエラストマー中に実装し、これらの材料の優れた疎氷性を最先端材料と比較して実証した。疎氷性材料のこれらの形態は、極度の空気および水せん断流れの下でも特徴の変化のない、優れた機械的、化学的かつ環境的耐久性を実証する。さらに、これらの疎氷性材料は、翼型の空気力学特徴を変更せず、それによって、航空宇宙アプリケーションに体して期待できる解法を提供する。表面修飾コーティングと比較して、これらの材料の疎氷性は、体積特性であり、性能劣化がないことが、機械的負荷の下、長期稼働で起こる。開発された概念であるストレス局在化は、機械特性に妥協なく、材料上の固体の接着を一桁低減する。開発された疎氷性材料を用いて、輸送システム(航空機、自動車および船舶)、エネルギーシステム、およびバイオ科学におけるどこにでもあるアプリケーションで、表面上のいかなる固体種(すなわち、氷、ガスハイドレート、ほこり、および、さらにはバイオ種)の接着を最小限にできた。
【実施例】
【0024】
実施例1
前記ナノ-粘弾性表面の特性を確認するために、上記表1においてSI3として識別される好ましい具体例について試験を行った。サンプルSI3は、ポリジメチルシロキサン(PDMS)ビーズ (SYLGARD(R) 184, The Dow Chemical Company)を調製し、次いで、前記PDMSビーズをシリコーン(Si)油界面活性剤中で混合し、前記ビーズがナノ-ミクロサイズ、すなわち、約10mmか約200ミクロンになるまで破砕することによって、作成した。シリコーンラバーのポリマーベースを別途調製し、前記破砕ビーズを前記シリコーンラバーベースに添加した。硬化前に、前記ポリマービーズ混合物の一部をガラス製の表面に、厚さ約400ミクロン、幅約25mmおよび長さ約70mmにて塗布し、次いで、30分間硬化してSI3サンプル表面を調製した。
【0025】
化学的安定性を試験するために、前記SI3サンプル表面を、溶媒、アルコール、アセトンまたはトルエンを含有する別々の容器に、室温にて一晩浸漬した。
図3は、一晩浸漬前後のサンプル製品を示す。化学薬品に一晩浸漬を完了した後、前記表面に変化は観察されなかった。かくして、サンプルSI3はこれらの材料に対して化学的に不活性であり、長期耐久性を実証した。
【0026】
摩耗試験は、リニアTABER
(R)摩耗試験機 (Taber Industries, New York, USA)を、細かい研磨具としてCS-10および中間の研磨具としてH-18と共に用いて、前記SI3サンプルの表面上に、2ニュートン力を直接負荷して、行った。調製したてのサンプルを吊り下げ、10000摩耗サイクルで試験した。
図4は、上記摩耗試験の実行前後のSI3サンプル表面を示す。前記表面の97ミクロンだけが除去され、それは、現行の最先端テクノロジーと比較してかなり少ない材料損失であり、それによって、物理的安定性および耐久性が証明された。
【0027】
これらの防氷表面の物理的耐久性をさらに評価するために、サンプルSI3をUV線硬化について試験した。前記サンプルを蛍光チャンバーに500時間入れて、UV線に完全に暴露した。
図5は、波長250~400nmおよびランプ電力40WのUV線チャンバー内で500時間経過前後のSI3サンプルを示す。UVチャンバーから前記サンプルを取り出した後、亀裂も材料劣化も見られなかった。前記サンプルを、次いで、前記UV線暴露後、2N力での摩耗試験を用いて、再調査した。前記製品から除去された材料の量は101ミクロンであり、繰り返すが、これは材料の極少量である。
【0028】
表1において識別されるサンプル表面の防氷特徴も研究した。サンプル表面は、概略、前記SI3サンプル表面の調製につき提供した上記詳細に従って、様々なゲルビーズ、界面活性剤、およびポリマーを用いて、同様のサイズのサンプル表面を提供した。前記サンプル表面上の凍着強度は、直接負荷せん断ストレスで測定した。この手法において、角セルを前記冷サンプル上に置いた。前記セルは、前記サンプル上での氷形成のため水で充填した。前記形成された氷は、測定前、前記表面上で1時間放置した。せん断力を、前記角氷に対して接線方向に負荷し、IMADA DS2-110 (Imada, Inc., Northbrook, Illinois)のようなデジタルフォースゲージを用いて測定して、前記氷を前記表面から取り除くために必要な脱離力を決定した。前記脱離力を前記氷-サンプル表面積で除して、凍着強度を算出する。
図6は、表1に示される種々のサンプル表面につき-15℃にて取得した凍着測定の結果を示す。サンプル表面SI3は、着氷/除氷サイクル数から独立して、-15℃にて4.5kPa±2の一貫した平均凍着を与えた。これは、防氷アプリケーションにつき、これらの表面の耐久性も実証した。サンプルSI3の防氷特性も摩耗試験後に再調査し、平均凍着は、依然として、-15℃にて、4.5kPa±2であることが分かった。
【0029】
サンプルSI3につき複数の凍着測定を行って、前記サンプルの性能を、上記方法を用いて、様々な温度で評価した。
図7は、様々な表面温度でのサンプルSI3の平均凍着測定を示す。極低温の-30℃でさえ、前記サンプル表面上の凍着強度は比較的低かった。
【0030】
表1で識別されるサンプル表面について、さらなる試験も行った。前記表面を調製してから数ヶ月後に、前記表面の質量変化を調べたが、なんら質量変化の徴候が見られなかった。前記サンプル表面を24時間以上100℃にて保存し、この熱処理後、質量その他の特徴に変化は見られなかった。前記サンプル表面を5時間以上、-30℃にて保存し、収縮効果を測定したが、結果は無視し得るものであった。氷滴を有する表面を渡る17m/秒の平均空気速を含むことによって、サンプルSI3に低凍着特性が実証された。
図8は、風の負荷前、そして、17m/秒にて風を負荷した後の氷滴を有するサンプル表面の概要を示す。
【0031】
実施例2
代表的なストレス局在化疎氷性材料が開発された。第I相、前記エラストマーは、RTV-1シリコーンラバーである。RTV-1シリコーンラバーは、以下の材料特性:破断時伸長 - 500%、硬度ショアA - 30、引張強度 - 8N/mm2、20℃における動粘度 - 300000mPa・s、水中23℃における密度 - 1.1g/cm3、および引裂強度 - 13.5N/mmを有していた。
【0032】
第II相、オルガノゲル粒子は、固相(3次元架橋ゲルネットワーク)内に封じ込められた、調整液体有機相(前記ゲルマトリクス中の非架橋成分)からなる。これらのオルガノゲルの展開のための手順は:10mLのベース(SYLGARD 184, Dow Corning - ジメチルシロキサン、ジメチルビニル終端化、ジメチルビニル化およびトリメチル化シリカ、テトラ(トリメトキシシロキシ)シラン、およびエチルベンゼン)を、1mLの硬化剤(SYLGARD 184, Dow Corning - ジメチル、メチル水素シロキサン、ジメチルシロキサン、ジメチルビニル終端化、ジメチルビニル化およびトリメチル化シリカ、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、およびエチルベンゼン)、と混合する。100mLの有機液体(すなわち、ポリジメチルシロキサン(PDMS)、またはシリコーン油)をこの混合物に添加する。前記溶液を、次いで、激しく混合して、均一溶液を得た。是塩基前駆体サンプルをペトリ皿内で、100℃にて4時間加熱した。最終生成物は非シネレシスオルガノゲルであった。オルガノゲルの非シネレシス特性は、ゲル化前後の前記成分およびシリコーン油と、PDMSとの混和性から来ている。概略、前記オルガノゲル粒子は、架橋ポリジメチルシロキサンネットワークと封じ込められたシリコーン油から成り立っている。
【0033】
一旦、第II相が展開されると、シリコーン油の存在下、十分間破砕して、ゲル粒子の凝集を回避した。前記溶液をろ過して、過剰な油を除去した。最終生成物は、2~20μmの範囲の寸法のゲル粒子の塊であった。前記粒子を、所定濃度、好ましくは、体積比に基づき約1~99%で、前記エラストマーと混合した。前記溶液を溶媒ヘキサメチルジシラキサンで希釈して、表面へスプレーするために粘度を下げた。
【0034】
種々の材料への凍着を調べる標準手順を開発し、利用した。標準プロトコルを、全ての測定に対して遵守した。実験の概要を
図9に示す。試験チャンバーを、目的温度まで、~2℃/分の速度で冷却した。冷却板の温度をプレートの上端の熱電対を用いてモニターした。4つの代表的なタイプの疎氷性材料は、前記材料中の第II相の体積比を調整することによって作成した。AI-10、AI-11、AI-12、およびAI-13は、それぞれ、第II相の67%、50%、33%、25%を占める。
【0035】
前記疎氷性サンプルを冷却板のうえに置いた。15mmかける15mmの寸法の角形アクリル製セルを、100μmの精度で、レーザーカッターを用いて作製した。セルの辺をシランでコーティングして、低表面エネルギーを達成し、疎氷性表面へのセルの接着を最小限にした。このステップは、凍着測定の誤差を最小限にする。セルを脱イオン化水で満たし、1時間凍結させた。アクリル柱に入った氷柱を前記試験サンプルに接着した。各氷柱を脱離させるのに必要な力は、力変換器 (Imada, model DS2-110)の0.8cm直径プローブを0.1mm/秒の一定速度で前記氷柱の側に推し進めることによって測定した。プローブ速度は、シリンジポンプを用いて制御した。プローブの中心を材料表面の1mm上方に配置した。測定された破断時最大力は、氷-基材境界の既知の断面積(2.25cm2)で除することによって凍着強度に変換した。実験全体を低湿窒素雰囲気中で実行して、サンプルおよび試験装置への霜生成を最小限にした。
【0036】
これら全てのサンプルへの温度-25℃での基材への凍着を
図10Aに示す。同じ実験プロトコルで、他の最先端疎氷性コーティングに対して凍着を測定し、それは
図10Aに含まれている。凍着(σS)の報告された値は、凍着のプロトコルにおける10回の測定の平均であった。全てのサンプルは同一の厚さ300+20CDを有していた。示すように、AI-10への凍着は他の最先端表面よりも一桁低い。この低凍着は、ストレス局在化で達成されると確信される。均一な厚さのコーティングへの凍着の評価のもうひとつの重要な測定基準は、ARF=σS(Al)/σS(疎氷性材料)で定義される凍着低減因子(ARF)である。この評価基準は、凍着を定義するための無次元数であり、測定設定の幾何と独立している。種々のサンプルについてのARF値は
図10Aに含まれ、AI-10は、凍着をアルミナ基材と比較して800倍も低減する。
【0037】
いくつかの最先端材料について、凍着は、これらの材料の特性(すなわち、表面特徴)が変化するので、着氷/除氷サイクル数に依存する。例えば、液体注入表面について、前記表面上の液体の枯渇は、循環凍着に悪影響を与える。開発されたストレス局在化疎氷性表面に関して、100着氷/除氷サイクルまでの凍着が定量された。これらの実験に関して、一度、氷柱が基材から脱離すれば、新たなセルをサンプル上に置き、氷形成の手順を繰り返した。氷柱形成の完了後、標準手順を遵守して凍着を測定した。同一サンプルにつき、これらの実験を一週間の間100回まで実行して、これらの疎氷性表面上の凍着を実証し、何も変化が観察されなかった。これらの実験はこれらの材料の種々のグレードに対して実行した。
図10Bに結果を示す。
【0038】
厳しい環境でのこれらの材料の凍着を評価するために、前記疎氷性コーティングを、それぞれ、レイノルド数2×10
4および3×10
4で水および空気の高せん断流れに1ヶ月間暴露した。これらの実験に関して、疎氷性材料は、スプレーでガラス基材にコートした。前記サンプルを放置して24時間硬化させた。前記サンプル上の凍着は、上記プロトコルにより測定した。次にコートしたガラス基材を、試験管に入れ、まず、レイノルド数20000の水のせん断流れに暴露した。前記サンプルを高せん断流れ下に1ヶ月間放置した。この期間後、前記サンプル上の凍着を測定した。同一サンプルを別の設定に移動し、レイノルド数30000の空気のせん断流れに1ヶ月間暴露した。前記サンプルの凍着をこの実験後に再測定した。凍着に何も変化は観察されなかった。
図10Cに結果を示す。
【0039】
種々の化学環境に暴露したサンプルを模倣するために、疎氷性サンプルをpH1~13の範囲の溶液に暴露、標準凍着プロトコルを用いて再測定した。
図10Dに結果を示す。環境においてUV線に暴露したサンプルの長期氷上背着を実証するために、サンプルをUVチャンバーに置き、4週間維持した。
図10Dに示されるように、UV暴露前後の凍着は不変であった。
【0040】
開発された疎氷性材料の機械的、化学的かつ環境的耐久性も調べた。前記疎氷性コーティングの機械的耐久性は、ASTM D4060に従ってTaber摩耗試験 (Taber Reciprocating Abraser, Model 5900)により調べた。これらの実験において、種々の荷重条件(すなわち、1、5、および10N)で様々なサンプルの材料除去を調べた。サンプルを確実にTaber機器内の水平プレートに置き、実験毎に1000摩耗サイクルをかけた。超撥水性表面およびSLIPSは全ての試験で落第した。AI-10(67%第II相濃度)は、10N摩耗試験で落第した。しかしながら、他のAIサンプルは、全ての荷重条件で合格した。摩耗試験の厚さ除去を
図11Aに示す。5N荷重下の摩耗試験で1000サイクル後、機械的荷重に暴露されたコーティングの疎氷性性能を再測定した。これらのサンプルと共に最先端疎氷性表面の凍着を
図11Bに示す。示す通り、凍着に顕著な変化は見られず、AIサンプルが最小の凍着を呈した。表面修飾材料(すなわち、超撥水性表面または水和型表面)と比較して、これらの材料のストレス局在化特性は体積的で、擦っても変化しなかった。この特徴は、これらのストレス局在化粘弾性表面上の低凍着の長期特性を保証する。機械的耐久性のもうひとつの測定基準として、前記疎氷性コーティングをサンドペーパーと鉄ヤスリで擦った。その特性には何も変化が測定されなかった。疎氷性特徴は体積特性であり、表面特性ではないので、前記コーティングは低い凍着を保った。
【0041】
アプリケーションに依存して、前記疎氷性コーティングは種々の化学環境に暴露されるであろう。AIコーティングの化学的安定性をpH1~13の範囲の溶液中で調べた。酸性溶液は種々のHClおよび水の濃度で調製された。塩基性溶液はTris 0.15mM NaCl(pH=8)および水酸化ナトリウム(pH=13)溶液であった。前記サンプルをこれらの溶液に48時間浸漬した。これらの化学環境に暴露した後でも、前記コーティングの堅牢性には何も変化がなかった。化学的安定性試験後のこれらのコーティングへの凍着に変化は何もないことが検出された。疎氷性コーティングの環境的耐久性を評価するために、前記サンプルをUV線効果につき試験した。前記疎氷性サンプルをUV線下500時間チャンバー内に置いた。亀裂も材料劣化も、材料の耐久性に対する変化も何も見られなかった。UV暴露後、前記疎氷性コーティングは、5Nの加重摩耗で再調査した。前記コーティングから除去された材料の量は、UV線前と同一に維持された。すなわち、前記コーティングの堅牢性は、UV線に影響されない。最後に、このコーティングの現場での修理可能性を実証するために、前記コーティングを鋭利な刃物で傷付けて、材料の一部を除去した。前記コーティングを、次いで、新たなコーティングをスプレーして修理した。新たにスプレーした疎氷性材料は、前記コーティングと一体化し、コーティングには視覚的変化は見られなかった。修理された表面はその堅牢性および疎水性特性を保った。
【0042】
航空宇宙アプリケーションにおいて、疎氷性コーティングは、翼型の空気力学特性(すなわち、抗力および揚力)に対して最小限の影響しか有してはいけない。これらの特徴を調査するために、NACA 6415翼型プロファイルに近い断面の翼を選んだ。実験設定は、2つの区分を含み、それらは小さな商業的に入手可能で、小さな発電機にトルクを発生させるタービンブレードとして用いられる翼タービン (ALEKO Vertical Wind Power Generator)から取り出された。2つの翼区分のうち、1つは一例の前記疎氷性コーティングでコートされ、もう一つはコートせずにおいた。いかなる実験も実行する前、揚力および抗力係数をXFOILおよび亜音速翼型を解析するために開発されたプログラムを用いて様々な迎角で評価した。XFOILは、レイノルド数90,000および音速0.09の粘稠流条件下でNACA 6415の2D翼型プロファイルを解析して、前記翼型の揚力および抗力特徴を計算した。マウンティングシステムをAutodesk Inventorを用いて設計し、NACA 6415断面および6軸ロードセルでの使用に特注された。マウンティングシステムは、翼型マウントおよび、ロードセルマウントの部分として、ひとつは風洞のベースに固定され、もうひとつはロードセルの底部に固定された2つの環状プレートから構成された。前記2つのロードセルプレートは、上部プレートが底部プレートの上部で、1°毎に360°の範囲を完全にカバーするように回転できるように設計された。この設計の特徴を用いて、ロードセルに取り付けた翼区分の迎角を変化させた。前記プレートは360穴を有するように設計されているので、前記プレートは前記試験システムを特定の迎角でピン留めできた。
【0043】
CAD描写を行った後、前記マウンティングシステムを、構造堅牢性を付与するために100インフィルでPLA(ポリ乳酸)フィラメントを用いて3Dプリントした。各翼区分を風洞内の6軸ロードセルに取り付け、次には、風洞のベースに取り付けた。前記6軸ロードセルは、前記ロードセルの表面に作用する力およびトルクを測定し、左手座標系を有していた。前記翼を断面が1.05m×1.65mである長方形試験セクションを持つ再循環風洞に置いた。前記翼は、XFOIL中で用いられた条件と合致するように、17m/秒の一定風速で試験し、それは、およそ50,000の翼弦レイノルド数に相当する。前記翼に作用する力およびトルクは、所与の迎角につきロードセルによって同時に測定した。前記力およびトルク測定を用いて、疎氷性コーティングの有無で、翼型につき2D抗力および揚力曲線を決定した。実験設定を
図12Aに示す。コート翼区分および非コート翼区分に対する揚力および抗力係数を、
図12Bおよび
図12Cにおける迎角に対してプロットした。さらに、揚力/効力の比率対迎角を
図12Dにプロットした。
【0044】
揚力および抗力の両方の係数についての実験データセットはエラーバーが付され、それらは前記ロードセルの分解能に基づき計算された。前記XFOILデータセットは、いかなる対応するエラーバーを有していない。これは計算値だからである。その結果、コート翼と非コート翼の揚力および効力は、様々な迎角に対して同様の傾向を示し、両翼の差は小さいことが分かった。実験的に分かった翼型の揚力および効力の大きさは、XFOIL計算結果とは異なる。XFOILは、有限翼の3D特徴のような、三次元効果を考慮しない2D計算ツールだからである。有限翼において、翼の下方からのより高い圧力空気が翼上方のより低い圧の方に移動しようとする。さらに、新しい実験データは、コーティングは翼の揚力および抗力特徴に影響しないことを示す。このことは、航空宇宙システムの除氷のためのいかなる受動的な代替物においても重要である。
【0045】
凍着に対するストレス局在化関数の役割を実証するために、実験手順を、材料-氷境界での亀裂核を調査する実験手順を設計した。疎氷性材料の形成が開発され、ガラス基材に適用された。前記コーティングは、PDMSマトリクスと、材料-氷境界での亀裂核を可視化するコントラストを付けるための黒色オルガノゲル粒子を含んだ。オルガノゲル粒子は、PDMSマトリクスにおける体積に対して5%濃度含まれていた。前記オルガノゲル粒子の寸法は、約100nmおよび20ミクロンの間であった。シラン化ガラスプリズム(15mm×15mm×25mm)を、疎氷性材料上に置いて、氷と前記コーティングとの相互作用を模倣した。前記ガラススライドを移動ステージにおき、その動きをモーター付きモーションコントローラーおよびコンピュータによって制御する。前記モーター付きステージは、前進速度変化が0.5μm/秒から5mm/秒のシリンジポンプであった。しっかりと保持されたビームロードセル (Imada, model DS2-110)を用いて、その力を測定した。力は、前記境界の上方1mmの距離に負荷した。前記疎氷性材料プリズムの境界は、
図13Aに示すようにして可視化する。光学顕微鏡とハイスピードカメラの連携システムにより、前記境界での亀裂核を調査した。これらの実験の間に観察された境界亀裂の顕微鏡写真を示す。示されるように、全ての境界亀裂は低せん断弾性率を有する第II相粒子の座標で形成された。すなわち、第II相粒子は、境界でのキャビテーションと亀裂開始の要因となった。亀裂座標に観察された周縁は、楕円形のキャビティーを示していた。発生した亀裂は、局所ストレス場を誘発し、保存弾性エネルギーは第I相のせん断弾性率およびこれらの亀裂の寸法に依存した。この保存弾性エネルギーは、亀裂先端のせん断力、亀裂進行、および前記材料からの氷の脱離をもたらす。
【0046】
前記ストレス局在化疎氷性材料の実施例用のストレス局在化関数の値を決定するために、前記材料の接着の仕事
【0047】
【数4】
の値、および前記材料のせん断弾性率G
mを決定した。仕事接着は、
【0048】
【数5】
で決定される。水の接触角を種々のサンプルについて決定し、接着の仕事はその結果決定された。前記実施例材料のせん断弾性率も、動的機械分析機(DMA)を用いて測定した。基材を以下の表2に示す。
【0049】
【0050】
表2の数字を用いて、前記ストレス局在化関数の値を決定し、
図13Cに示すようにプロットした。前記ストレス局在化関数は、予測される材料構造における第II相の濃度に依存する。このストレス局在化関数は、一桁まで、疎氷性材料上の表情接着を低減する。凍着の低減に対するストレス局在化関数の役割は、せん断弾性率の役割よりも数倍も高い。例えば、ンプルAI-10と純粋シリコーンエラストマーとを比較すると、せん断弾性率の差は約6倍であり、それは、凍着を~2.5倍の低減をもたらす。しかしながら、同一のサンプルにつき、ストレス局在化は、12倍を超えて凍着を低減する。前記ストレス局在化関数は、幾何学パラメータ(aおよびl)ならびに第II相の体積フラクションに依存する。高い値のa/lについて、正常力の役割が破折において優勢であり、ストレス局在化(すなわち、せん断力)の役割は小さい。しかしながら、低い値のa/lについて、破折はせん断力に支配され、ストレス局在化が優勢因子である。ストレス局在化の開発された物理は、エラストマーからのいかなる固体材料(氷、ほこり、および、さらにはバイオ種)の脱離に提供可能である。